パチュリー17
Megalith 2012/02/28
――舞踏会をやるわ――
バカなんじゃないかと思う。
言い出したレミィも。
それを聞いてノリノリの紅魔館の皆も。
お誘いをかける女の子に囲まれてデレデレしてるあいつも。
……そんなあいつを見て、拗ねている私も。
「パチュリー様……いいんですか?」
「……」
いいわけない。
「とられちゃいますよ……?」
解ってる。そんな事。
こうやって、ウダウダしている間に。
あいつは、他に子と一緒に、幸せそうに笑っている。
そして、私の前から――いなくなるのか。
「……っ」
「パチュリー様……?」
そんな事は、ダメだ。
許さない。
座って、暢気に本を広げている暇は無い。
とられて――たまるか。
「ダメ」
「え?」
「ダメよ。他の奴にとられるなんて許さない。あいつは、○○は、私の――」
今宵の舞踏会は、穏やかに終わりそうには無かった。
*
ここ紅魔館の主様に、舞踏会をやる、そんな話を聞かされたのは今日の朝だった。
え?いつやるんですか?――なんて間抜け面で問い返したら
「今夜」
――だそうだ。
気まぐれ、なんだろう。
ついこの間も24時間耐久ドロケイin紅魔館なんてイベント企画しやがった。
ケードロが正しい表記だっていうのに。
……まあ、いずれにせよ、今に始まったことじゃない。
何だかんだと今までの気まぐれイベントは全て楽しかったし。
今回も楽しめば良い。
と思っていたのだが。
「○○さ~ん?」
赤毛のお姉さんの登場。胸はでかい。
「どこ見てるんですか」
「いやあ……」
嫌な予感しかしない。
妖精メイド達の舞踏会のお誘い――からかい半分なんだろう――を切り抜けて五分もしない内に
小悪魔に捕まった。
いや本当に、嫌な予感しかしない。
「あ、あの……また、パチュリー、怒ってた……?」
「ええ、ええ。まあ怒ってるって程でも無いですけどねえ。機嫌は悪かったですよ」
またか。
毎度毎度、何かある度にパチュリーの機嫌を損ねたり、怒らせたりしてしまっている。
原因は俺にあるらしい。
でも、何故俺が悪いのかがわからない。
聞いても教えてくれないし、考えてみても心当たりが無い。
パチュリーに謝りに行けば、早く気付けだの、鈍感などと怒られる。
全く謎である。
「まあいつもは、理由を聞く度に、うわあとか、それは無いわあ、とか思ったりしてましたけど」
「思ってたのか」
傷つくぞ。
「今回はいいでしょう。比較的、些細な事ですからね」
「でもなあ」
「だから」
「今夜の舞踏会、時間空けといてくださいね! パチュリー様が話があるらしいですよ」
「は?」
*
廊下の隅で見ていた。
そりゃあ、
小悪魔の胸は大きいし、あいつも男だからしょうがないんだろうけど。
イライラする。
でも、それだけ。
イライラするだけで何も出来ない。何も言わない。
勝手に私が機嫌を悪くして、黙ったままあいつに辛く当たる。
最低だと思う。
理由なんて正直に話せるはずが無い。
他の女の子と楽しくしているのを見て嫉妬した。
だから機嫌が悪いんです。
そんな事言えるはずが無い。
それだけじゃない。
たまに、可愛いって言われたり、優しくされても、同じ。
同じように、辛くあたったり。
本を投げたり。
無視したり。
……スペルカードを持ち出した事も有ったっけ。
思い出して泣きそうになった。
でも――好き。
どうしようも無く不器用で、臆病だけど。
これ以上は――もう沢山。
「パチュリー様、パチュリー様」
「やりましたよ。後は……パチュリー様次第です」
「……うん」
本当は私が言うべきだったんだろう。
私と踊って欲しい――そんな、簡単な一言を。
「ありがとう……」
「いえいえ、いいんですよ。いい加減、進展してくれなきゃつまらないですしね」
「うん……」
「ここまでしたんですから……って言っても殆ど私は何もしてないですけど……とにかく、そろそろどうにかしてくださいよ?」
「うん……頑張る」
ずっと何も出来なかった。臆病だった。
けど、それはお終い。
今夜、決着をつけてやる。
*
日が落ちた。
時刻は6時を過ぎた頃だった。
寒くない。
もう春が来る頃だろうか。
花粉は辛いし、眠くなる季節だ。
でも花見は楽しいし、春になれば満開の桜が見れる。
そんな他愛の無い思考は、控えめなノックに掻き消された。
「○○さーん? 準備できましたー?」
「ああ、うん。もう大丈夫だよ」
「失礼しまーす……って、わお」
「どうかな……?」
タキシードなんて着たこと無い。
スーツも似たような物だとは思うが、何というか、重みが違う。
「似合ってますねえ! これはパチュリー様もメロメロですよ!」
「はは……お世辞でも嬉しいよ」
「いやいやいや! はーそれにしてもこんな似合うとは思いませんでしたねえ。○○さん、ずば抜けた美形でもないのに。雰囲気ですかねぇ」
「いやあ、俺に聞かれてもねえ……」
褒めてくれるのは嬉しいけど。
「それで、話は変わりますけどね。今夜……パチュリー様を怒らせたら承知しませんよ?」
「うっ……手厳しいなあ……」
「当たり前ですよ。今度怒らせたら何度目になると思ってんですか。次が最後だと思ってくださいよ」
「むう。まあ、しょうがないか。……うん、頑張るよ」
「はいっ、頑張ってくださいね!」
そうだ、頑張らなきゃな。
……最後。
つまり、そういうことなんだろう。
「うん、やっぱ、謝った方がいいよな」
間。
「は?」
「今まで、怒らせてきて、今回が最後なんだろう? 多分、次しくじったら紅魔館追い出される的な」
「え……いや、○○さん、あの」
「みなまで言わずとも解る。任せろ」
「え、あの、任せられません……」
とにかく。
与えられた最後のチャンス。
殺さないようにしなければ。
「○○、そろそろ時間……って、あら、
小悪魔もいたの」
「お、咲夜さん」
「咲夜さん……」
音も無く現れたメイド長。
気配を殺して登場するのは俺の心臓に悪いですよ。
「どうしたの、○○は何か吹っ切れたような決意したような顔で。
小悪魔は、それ女の子がしていい表情じゃないわよ」
「ええ、その……かくかくしかじかで……」
「あー……まあ、なるようになるわよ……多分」
何か話しているようだが、何を話しているのかは解らない。
そんな事よりも、大切な事がある。
謝ろう。
怒らせたんだから。
――今にして思えば、バカな結論だったと思う。
怒らせたから、謝る。
そうする事が、一番楽だった。
*
俺が
小悪魔や咲夜さんに小言を言われている間に舞踏会の時間となった。
神社の宴会のような豪快さは無い。
優雅な賑やかさがあった。
よく解らないクラシックの様な音楽を流しながら、食事を楽しむ者、踊りを楽しむ者と様々だ。
……まあ、ほとんどが妖精メイドだが。
客人はいないらしく、紅魔館内の者だけだった。
……さて、どこにいるかな。
テーブルや椅子の間、メイドの壁を通り抜けながら、パチュリーを探す。
どっちを見てもメイドばかり。
たまに美鈴や
小悪魔。咲夜さんやフランちゃんがいる。
パチュリーは、いない。
「どこだよ……」
「ここよ」
「うおわぁっ!?」
背後からの突然の声。
振り返ってみると、パチュリーがいた。
「全く」
「気配を消すな、気配を……ん?」
こいつぁ……。
黒いドレスに身を包んだ少女。
いつもは無造作に垂らすだけの髪は、綺麗にセットされている。
化粧もしているが、濃いという印象は受けない。
薄く、本当に少しだけ。まあ、化粧なんて元から必要ないって言うのもあるのだろう。
胸元には花をモチーフにしたリボン。
鎖骨や微かに見える谷間が、艶かしい。
あ……パチュリーって着痩せするんだ……。
「何……じろじろ見て……」
「あ、いや、ごめん」
「……まあ、いいけど。あなたに見られるなら……まあ、悪くないわ」
最後はボソボソとして聞き取り難かった。
「それで、どうしたんだよ、そんな格好してさ。ガラじゃないだろうに」
「舞踏会だからよ。流石にいつもの格好っていうのもどうかと思って」
「なるほどなあ」
しかし、見ればみるほど。
ううむ、悩ましい。
「それで……その……」
「うん?」
俯きながら、パチュリーは何かを言おうとしている。
そんなパチュリーも可愛いなあ。
……。
って違う!
すっかり、当初の目的を忘れていた。
謝らなきゃいけない。
「パチュリー!」
「ん? どうしたの、いきなり大きな声を出して……」
「言わなきゃいけないことがあるんだ」
「ええっ……?」
「その……、俺……「待って!」謝らなきゃ……って、どうした……」
言葉の途中で区切られる。
一大決心した後だってのに。
「このパターン、嫌な予感しかしないわよ……。先に私から言わせて貰うわ。いいわね?」
「お、おお……」
人が殺せそうな勢いですごまれたら、首を縦にふるしかない。
「その、ね、今晩、私と踊って……い、いや、やっぱ何でもない!」
「え……どうしたんだよ……」
「そう、そうね。私もいきなりすぎたと思ったわ。うん。ちょっと食事にしない? 後、ワインとか飲んだり。お腹すいたでしょ? 喉乾いたでしょ?」
そう言われればそうだ。
お腹も空いたし、喉も渇いた。
「あ、ああ……」
「じゃ、じゃあ行きましょう、ね? あ、ほら、あのテーブルが空いてるわよ!」
そう言って、パチュリーは俺の手を取り、強引に歩き出す。
後ろから見た首元は真っ赤で、握った手は汗ばんでいた。
*
テーブルにつき、簡単な食事を摂る。
量は決して多いとは言えないが、どれも素材は極上だった。
ワインも、とりあえず、安いものではないのだろうなと想像できる。
「それでさあ、用事って何だよ?」
「う、うん……」
俯きながら、ワインを飲むばかりのパチュリー。
小悪魔の言っていた、パチュリーの用事。
はて。何か。
ワインを飲む度に、顔を上げ、何か決心したような表情にを浮かべる。
これほどの表情をするような話題なら大事な事だろうと思い、真剣にパチュリーの顔を見つめ返すと、途端に顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「……大丈夫か?」
「だ、大丈夫だから……ちょっと、待って、お願い……」
そうして、またワインを一口。
……酔わないだろうか。
「う、うん、よし」
「お?」
今度の表情は違って見える。
「そ、その、○○! わ、わ、私と、一緒に踊らない……?」
「へ?」
真っ赤なパチュリーの顔は、林檎のようだった。
*
ゆったりとした音楽。
格調高く、名のある音楽家が作り出したのだろうと容易に想像がつく。
そして俺は、拙い足捌きで、間抜けな踊りを見せていた。
「ほら、足はこっち」
「お、おお……」
「バカ。だから、こっちだって」
酒が回ったのか、饒舌である。
さっきの様な緊張した様子は無い。
それにしても。
「ダンスってのも、案外難しいな……」
「まあね。でも、いくら初心者でも、普通はもっとまともにやるわよ」
「まじか……」
「まあ、悲観すること無いわよ。私が教えてあげるし、それに教え子の出来が酷ければ酷いほど、教師は嬉しいものよ。教え甲斐があるわ。誇っていいわよ」
「嬉しくねえなあ……」
「嬉しがりなさい」
言いながら体を密着してくるパチュリー。
当たる。でかい。何がとは言わない。
「すけべ」
「ってえ!」
思いっきり足を踏まれた。
痛いぞ。
「全く……じゃあ、まず、足は右ね」
「っつつ……む……」
無様にならない様に、リードしてくれる。
何となく。
何となく悔しい。
「ほら、こっち」
「ああ、ん、あ、こっちか……」
「そう。上手ね」
機嫌良さそうだなあ。
酒が回ってテンション上がってるのかな。
「ふふふっ」
「……わーお」
「? どうかしたかしら?」
「いや、何か機嫌よさそうだなって……」
「機嫌? そう、そうね。機嫌、良いわよ」
「そ、そうか……」
「ふふっ」
「……」
本当に機嫌が良いんだな。
こんな風に笑うパチュリーも、殆ど見たこと無い。
というか、見たことが無い。
笑うときはもっとこう、
――……無様ね……(にやっ
温情も何も無い。氷そのもの。
だというのに。
「楽しいわね……うん、楽しい」
「……」
いや、本当に機嫌が良いらしいな。
「やっぱ、さ……」
「どうしたの?」
「そうやって笑ってる方が、可愛い」
思わず、口に出る。
その瞬間、パチュリーの体が、止まった。
「……な、ななななな、何をっ」
「いや、いつもあまり笑ったの見たこと無いからさあ。新鮮だし。後はやっぱ、うん、可愛いし」
「――っ!」
あ、やば。
いつもこのパターンだ。
可愛いと思って、うっかり可愛いと口にすると、何故かへそを曲げる。
酷い時は、俺がベッドの上で目覚めることになる。
もうちょっと短気を治して欲しいなあと思う。
しかし。
「……もう、ばか」
「……え?」
何も無かった。
何事も無かったように、ダンスを再開する。
「ど、どうしたよ。いつもは無視したり、ビンタしたり、スペルカード使ったりしてただろ? なのに今日はどうした!?」
「……いいの、今日は。……その、可愛いって言ってくれて……嬉しかったわ」
「――!!」
何事だ。
パチュリーが、素直だ……!
これが酒の力なのだろうか。
「さ、続きよ、続き。あなた、ただでさえ下手なんだから……って、あれ、あ、きゃっ」
「!? パチュリー!」
足を踏み出した瞬間、転んだ。
目立った怪我こそ無いが、転ぶ時に大きな音がした。
「ったたた……」
「大丈夫か?」
「う、うん……っ」
「どうした!? どこか痛いのか!?」
「ちょっと、足が……」
「足?」
「足がどうかしたのかしら?」
音を聞いたのか、咲夜さんがやって来た。
「これは……捻挫、かしらね。無理すのは良くないし……そうだ、○○。パチュリー様を、部屋まで送ってあげなさい」
「「えっ」」
これ以上無く、綺麗にシンクロした声だった。
――そうして、俺は、謝る機会を逸してしまった訳だが。
後になって思うと、ここで謝らなくて良かったのだと、感じられる――。
*
「ごめんなさい……」
「良いって、別に」
「……」
パチュリーを部屋まで運んで来た。
肩が触れるか触れないかの間を空けて、俺とパチュリーは、並んで、ベッドに腰を下ろした。
それきりだ。
それきり。
一言、二言で会話が終わる。
それきりだ。
「……ごめんなさい。私が、運動音痴で……つまらない思いをさせて……」
「……いや、そんなことはない」
「嘘、言わなくても良いわよ、別に……」
「嘘じゃないさ。楽しかったぜ。それに、パチュリーをおんぶしたりとかもさ、結構、役得だったよ」
「……ばか」
そんなのばっかりだった。
いたたまれない空気というわけではない。
何となく、暖かい。
「……ねえ」
パチュリーがしなだれかかって来る。
心地良い重さを肩に感じる。
鼻腔をくすぐる匂い。
あ……眩暈。
「……何だ?」
「今日は……何でだと思う?」
「え?」
「今日、どうして、あんなに素直だったと思う?」
「……いや、わからん」
ふふ、と。
笑ったのか。
「今日でね、決着、つけようと思ったの」
「決着? 何の」
「解らない? ここまでしても……まだ、解らないかしら?」
そう言って、パチュリーは俺の首に手を回す。
不意を突いた、強い、女の子の、匂い。
あ……また、眩暈。
「ぱ、パチュリー……?」
「ねぇ……」
ほぅ、と息を吐き出す、目の前の少女。
火照っているのか、密着する体はとても熱い。
あてられる。
熱を振り払うように、俺は声を出す。
「そ、そうだ! パチュリー! 俺、言わなきゃいけないことが」
何を?
しかし、俺の言っている事など聞こえなかったかのように、パチュリーは言葉を紡ぐ。
「ほんとうに……わからない……?」
「――っ」
解らない。
そう、解らない。
――いや。
「待ってくれって、俺、お前に」
お前に――何?
何を言う。
――謝るんだ。
何を? 何を謝るっていうんだ。
解らない。
でも、謝らなきゃ――それが、一番楽だから。
だっていうのに。
「ぁ……」
「パチュリー……」
抱き締めていた。
きつく、きつく、抱き締めていた。
細い腰、腕。似合わず大きな胸。
首筋には水滴がぽつり、ぽつり。
直視したらどうにかなりそうだった。
熱にあてられる。
何かを誤魔化すように、押し倒さなかった俺の理性は賞賛ものだと、阿呆な事を考えていた。
「あー……ごめん……」
「……ううん、いいの。嬉しい」
「いや、今までの事とか、さ。色々……」
「……そうね……でも、いいわ。許してあげる。特別よ」
「ははは……そうだな、ありがとう」
ねえ、と、パチュリーが一言。
「終わり? これだけ?」
「……いや」
終りじゃない。
――とっくに解ってた。自分の気持ちは。
相手の気持ちも、まあ、何となく。
ただ、確信が有ったわけじゃなくて、何となく。
絶対だって自信を持っていたわけじゃない。
拒絶される確率もゼロじゃなかった。
ゼロじゃない。
それが、怖かった。
変わることが、ぬるま湯を出ることが、怖かった。
だから、鈍感の振りをしていた。
臆病だったな、と思う。
バカだったんじゃないかとも思う。
でも、今は、違う。
流されているだけかもしれないけど。
今は、違う。
「終りじゃないさ、まだ」
密着させていた体を離し、パチュリーと俺の間に僅かに隙間を作る。
顔と顔。
自然と見つめあう形になった。
「その、な。改めて言うとなると恥ずかしいんだけどな……言った方が良い……?」
「当然よ。当たり前でしょ。それとも、ここまで来て逃げる気? 流石に次は命はないわよ」
ジト目で見るんじゃない。
物騒な事を言うんじゃない。
「あー……その、うん。パチュリー」
「はい」
「好きだ」
「私も、好きよ」
簡単な一言だ。
口にしてしまえば呆気ない。
それを口にするのに――どれほどの遠回りをしてきたのか。
「これで終りってのもあっさりしすぎてるわね……そうだ」
「ん?」
「キス……しない?」
「まだ、想いが通じ合って三分経ってないぞ」
「いいのよ。あなた、人間だし、すぐ死んじゃうでしょう。早め早めの行動よ」
「まあ、いいけどさ……」
パチュリーが目を瞑る。
良い匂いだなあ、とか。
顔小さいなあ、とか。
やっぱ可愛いなあ、とか。
そんな事ばかり考えていた。
「……むー。はやくして」
「あ、ああ、ごめん」
「全く……」
「ん、じゃあ、するよ」
「うん」
どちらとも無く顔を近づける。
微かに、唇の先と先が触れた。
そして。
*
――結婚式をやるわ――
バカなんじゃないか、と思う。
言い出したレミィも。
それを聞いてノリノリの紅魔館の皆も。
そんなノリノリな女の子に囲まれてデレデレしてるあいつも。
……そんなアイツを見て、拗ねている私も。
「パチュリー様……いいんですか?」
「……」
いいわけない。
「とられちゃいますよ……?」
「……それは、無い。あいつだし……」
「おやぁ、自信満々ですねえ! これが愛の力って奴ですかパチュリー様!」
「うるさいだまれ」
こうやって、ウダウダしている間に。
あいつは、他に子と一緒に、楽しそうに笑っている。
でも、私の前から――いなくなったりしない。
「それにしても、結婚式なんて、急すぎじゃないですかね。パチュリー様と○○さんが付き合いだして、まだ一ヶ月と少しでしょう?」
「私も、最初はそう思ったんだけどね……まあ、いいんじゃないかしら」
早め早めの行動。
告白直後のキスとか。
まあ、流石に結婚式は早すぎたような気もするが。
「お似合いですよ、パチュリー様」
「そうかしら?」
純白のドレス。
あの、舞踏会の時とは対照的な服だった。
「それにしても、○○さん、楽しそうですねえ。……とられちゃうんじゃないですかあ?」
「……」
そんな事は――無いと思う。
でも、万が一が。
「……っ」
「パチュリー様?」
とられて――たまるか。
「ダメ」
「え?」
「○○っ!」
声を大きくしながら、○○の元へ歩いていく。
何事かという様子の○○。
強引に手を取って、妖精メイドの包囲の中から引きずり出した。
……キャーキャーうるさいわね。
「パチュリー? どうしたんだよ」
「……他の奴にデレデレするなんて許さないわよ。あなたは、私の――」
今宵の結婚式は穏やかに終わりそうになかった。
おしまい
Megalith 2012/08/30
パチェ「むきゅっきゅきゅ、あー効くわー」
○○「このくらい一人でやりなよ。だいたい紅魔館の人に頼めばいいでしょ」
パチェ「駄目なのよ」
○○「咲夜さんなんか得意そうでしょ」
パチェ「咲夜はだめ。」
○○「どうして。」
パチェ「咲夜は体が柔らかすぎる。だから、加減が、むきゅ、わからない痛た!」
○○「強くしすぎた、このぐらいかな。小悪魔さんとか」
パチェ「あいつもだめ。なぜなら、私とは骨格部分以外の人体組成が違いすぎるの。」
○○「骨以外?」
パチェ「そう、あいつは胴体に対する下肢の比率がが平均水準より高いわ。
あと、大胸筋および大臀筋に付着する体脂肪分量がこれまた多い。
参考にならないのよ。」
○○「スタイルよくてバインバインってことね。」
パチェ「卑近な言い方ではそうなるわ。」
○○「それで僕?」
パチェ「そう。レミィや妹様では体長が違いすぎるわ。
美鈴にやってもらった時はいきなりナパームストレッチをかけられた。」
○○「プロレス技じゃないの。」
パチェ「キン肉族三大奥義くらい痛かったわ。あの子、できる。」
○○「わけわかんないです。」
パチェ「わたしはもっとわけわかんなかった。それであなたというわけよ。」
○○「パチェさんに似てひ弱のぺったんこであると。」
パチェ「短くて小さくってかむってるってとこは違うわね。」
○○「なんで知ってるの」
パチェ「……」
~~~~~~~
パチェ「これからの魔法使いはね、頭脳だけじゃだめなのよ。」
○○「はあ。」
パチェ「体をうまく使えば、知的活動も数段レベルアップするわ。体がほぐれれば頭も冴えてくるのよ。」
○○「うまく、使えてる?」
パチェ「今は、まだ、ちょっと」
○○「左手が左耳より右に行かないってどうなんだろ」
パチェ「誰にでも初めてはあるのよ」
○○「もう2カ月目だよ」
~~~~~~~
パチェ「これではラチがあかないわ。なにか一発逆転を。」
○○「ストレッチは地道に続けるものだよ。」
パチェ「できる人間の言うことよ、それは。」
○○「誰にでも初めてはあったんだってば。できる人間も地道に練習したからこそ…」
パチェ「うるさい!今いい方法を思いついたわ。」
○○「いやな予感」
パチェ「今まではわずかな力でやってもらってたのよ。」
○○「うん」
パチェ「倍の力だったら倍の効果のはずよ。」
○○「いやその」
パチェ「3倍だったら、3倍効果よね!」
○○「やめようよ。」
パチェ「試さないうちからやめるの?科学的態度にはほど遠いわ。」
○○「理性なき科学は暴力だよ」
パチェ「科学なき理性は無力よ!やってちょうだい!」
○○「いいの?」
パチェ「魔女に二言はない!」
○○「えいっ!」
パチェ「ぐわっ!ぎゃあーー!」
○○「すごい叫び声出た!えーと、ファンの人ごめんなさい。
それよりどうしよう、背骨がイワナの焼き魚みたいだ。」
パチェ「…やればできるじゃない。」
○○「生きてるーッ!」
パチェ「効いた実感あったわ。見た目どう?少しは柔らかくなった?」
○○「見た目?イワナの焼き魚。」
パチェ「バキバキじゃないの!!」
○○「最初からわかってよ!どんだけ身体感覚鈍いの!」
~~~~~~~
○○「だいたいね、道具使えばいいでしょうが。」
パチェ「むきゅ~」
○○「今は外界の健康ブームも過ぎ去って、こっちにたくさん道具も流れついてるんだから」
パチェ「むきゅきゅ~、そこ、もうちょっと右」
○○「何もこんな人力に頼らなくっても。それこそ精霊使うなり、専用の魔法生物作るなりね。」
パチェ「うふー。」
○○「お役に立てるのは嬉しいけど、僕がいないときとかどうすんの。」
パチェ「当然だわ。来てくれる時まで、コリをためこむのよ。」
○○「こまめにやんなきゃストレッチの意味がない。今やってるのはマッサージだけど。」
パチェ「あなたの考えはそこらへんが人間ね。浅はかだわ。」
○○「浅いかな。」
パチェ「浅すぎる。そのうち海難事故が起こるわ。それらの無生物には欠けているものがあるの、何かわかる?」
○○「?」
パチェ「シンキングタイム、10000000000ナノセコンド。」
○○「10秒ね。えーと、こうやって話相手になれるってこと?」
パチェ「おしい。チャンスもういっこ」
○○「えー?うーん、わかんない。どう考えても無生物の方が効率いいでしょ。疲れないし。」
パチェ「こまめに休んでいいわよ。先は長いんだから。」
○○「筋肉痛になりそう」
パチェ「体温よ。」
○○「え?」
パチェ「正解は体温。テンパラチャー、サーモグラフィー、ナイトビジョンゴーグル。わかる?」
○○「わかるけど…どういうこと?」
パチェ「疲労除去には人肌より少し高い温度が一番いいのよ。掌の熱量は背中より高い。特に男性は女性より体温が高いからちょうどいいわ。」
○○「それこそ」
パチェ「え?」
○○「それこそ人造生命体でいいじゃん。体温も思いのままで。遠赤外線とかマイナスイオンとか思いのままだろうし、マジノ線とか。」
パチェ「1936年。わかってないわね、あなたは。」
○○「わかってないのかな。」
パチェ「わからないこともわかっていないわ。心理的効果を忘れてるじゃない。」
○○「なにそれ。」
パチェ「なにそれとはなによ。」
○○「科学的じゃない。パチェらしくもない。」
パチェ「私も女性ということよ。」
○○「女性が科学的であっちゃいけないのか」
パチェ「あなた、フェミニズムに熱くなりすぎるわ。きっとマザコンね、さもなくば思春期だわ。」
○○「言いがかりだ、たぶん二次性徴期なんだろう」
パチェ「アダルトチルドレンを名乗るなんておこがましい。ともかくね、こうしてあなたの手に触れていると…ふわあ」
○○「僕も眠くなってきた。ふわあ。」
パチェ「なんだかね、脳波がベータのゆらぎからアルファーの領域に入って…ふう」
○○「眠そうだね。」
パチェ「愚問ね。ところで…」
○○「何だい?」
パチェ「……」
○○「パチェ?」
パチェ「じゅるっ。…寝てたわ。」
○○「もう寝る?」
パチェ「……」
○○「パチェ?」
パチェ「……」
○○「寝ちゃったか。しかし、疲れた。僕もストレッチしないとな。
でも幸せそうな寝顔だな。…おやすみ、パチュリー。」
パチェ「…行かないで。」
○○「え?」
パチェ「……」
○○「寝言か。」
パチェ「……ずびっ。はっ、寝てた…」
○○「…僕は帰るよ、お休み。」
パチェ「だめ。」
○○「だってそんな眠そうじゃん、まぶたほとんど閉じてるし。」
パチェ「さっき言いかけたことだけど…」
○○「いつ?」
パチェ「21行上。ところで、の次の言葉。」
○○「22行上だね。最後にそれ聞いてから行くよ。」
パチェ「あのね、○○、ちょっと耳を貸して。」
○○「うん、……わっ」
パチェ「……むきゅきゅ、つかまえた」
○○「これが言いたいことなの?ボディランゲージだったなんて」
パチェ「惜しいわね。『お返しの全身対全身全方位弱圧力加圧健康法よ』というセリフが来るの」
○○「つまり、人間抱き枕」
パチェ「まだ終わってないの、『お返しの全身対全身全方位弱圧力加圧健康法よ、来てくれてありがとう』が全文」
○○「どういたしまして」
パチェ「あったかい、いい匂い。ね、心理的効果てきめんでしょ」
○○「返す言葉もないね。」
パチェ「ふふふ。結婚してくれる?」
○○「唐突だね。」
パチェ「結婚と恋愛と掃除のチャンスは唐突にやってくるの。」
○○「パチェとなら、ニ十回はできるよ」
パチェ「『できる』なんてイヤ。…するの?しないの?」
○○「…」
パチェ「…魔女は、こわい?」
○○「……」
パチェ「……」
○○「……」
パチェ「……」
○○「……」
パチェ「……」
○○「…しよう。」
パチェ「……」
○○「結婚しよう、パチェ。ずっと、僕のそばにいてほしい!僕も君を守ってみせる!暖かい家庭を作ろう!
そのためにまず、何よりいまここで子どもを作ろう!」
パチェ「じゅるり」
○○「ん?」
パチェ「すぅ、すぅ」
○○「…………おやすみ。」
おわり
頭休めの骨休め
長編の 合間に短編 書いてみる
電波のままに 暇のまにまに
もやしもみしだきたい
Megalith 2012/09/21
普通の魔法使いが蔵書を持ち去る時以外は大図書館は静かなもので
紙の擦れる小さな音だけが広大な空間を彩っていた
パラパラとページをめくる手を止めて一息つく
紅茶を一口
次の本に手を伸ばし、少しばかり姿勢を正すと衣擦れと椅子が僅かにきしむ音が
不意に空気の流れがわずかに乱れたことに気付く
紙面に眼を落としたまま読み進める
煩くないのなら気にする必要も無い
焼き菓子の香りが飛び込んできたので視線を移すと
不揃いな物が小さな皿から今にも零れ落ちそうに山を作っていた
一番上の一口サイズのソレを手にとって頬張る
サクサクとした食感と共に甘さが口の中に広がってゆく
指に残った欠片を舐めとり紅茶で流し込むと自然とため息が出た
――合わないな
紅茶を入れた人と焼き菓子を作った人が違うのだから当然か
また一つ焼き菓子を手に取り口に運ぶ
紅茶にミルクを足して赤と白がゆっくり混ざり合う様にしばし見入ると自然と口が開いた
「皆にお土産を渡すのね」
「手ぶらで訪問するなと婆ちゃんが言ってたんで」
本にしおりを挟んで閉じて机の上を羽根箒で清める
きっとこの焼き菓子は喜ばれたのだろう
零れ落ち僅かに広がった欠片を一纏めにしてにして捨てる
「私よりも先にレミィに会いに行くのね」
――捨てたはずなのに、顔がこわばっている
「礼儀を欠く訳には参りません」
いつもは礼儀という物を渇望していたはずなのに
今になって疎ましく思うとは――
――疎ましいなら捨ててしまえ
「貴方、魔理沙の箒に乗ってきてるのよね」
「そりゃぁ空も飛べない一般人ですから。誰かに抱えて貰って来る訳にも行きませんし」
改めて確認するまでも無いことだ
彼の最初の訪問はいつもにぎやかな彼女と一緒だったのだから
長椅子にだらしなく体を投げ出して横になっている
慣れない飛行と家主のプレッシャーに晒されて参っているのはいつもの事
――思うままに振舞おう
好機と判断して仰向けに晒されてる腹に腰を下ろした
「重い」
なんと言われ様ともやめる気は無い
呼吸の都度上下する腹はすわり心地は良くないものの、気分はとても良い
ここで本を読んでみるのも楽しそうだ
「どいてくれ」
「嫌よ」
「苦しいんだが」
「喋れる余裕あるじゃない」
衣擦れの音と椅子の軋む音が耳に心地よい
「どうしたら勘弁してもらえるんだ?」
ほとほと困り果てたその表情に程よく征服感を満たされた
「そうね……
視線をわざと外して、焦らすように思案に耽るフリをする
――名前を呼んで頂戴」
全ての衣を脱ぎ捨てた
一人の女の名前を呼んで欲しい
なんか猫をイメージしたらこうなった
うpろだ0030
大図書館にて
トントンガチャ
「おう図書館の使い魔さんや」
不躾にドアを開け、叫ぶ
「は~い」
ふよふよと羽の生えた女の子が飛んでくる
「なんでしょう○○さん」
「
小悪魔、パチュリーは何処だ」
「ご主人様なら……先程お嬢様と一緒に人里へ出かけられたかと」
「よし、手伝え」
「え?えぇ~?」
~大図書館奥~
「成程、日頃のご主人様への態度が喧嘩以来素っ気無くなっているので今日を機に……ですか」
「あぁ、ハロウィンマジックでも起きやしないかなと思ってな
「で、喧嘩の内容と言うのは?」
「ん、えー……っとなぁ……」
痛い所を突かれた、まぁ普通に考えて触れるよな、うん
「こないだ服を持ってきたんだよ」
「着替えではなく普段着として、ですか?」
「あぁ、そしたら思い入れのある服を脱げるかーなんだの言われて」
「そこから口論に?」
「口論と言われれば何とも言えんが……ま、そんな感じ」
センスが問われるのでアリスさんや東風谷さんに見せ、OKを貰ったんだけどなぁ
「ひとつ伺いますけど、○○さんはその時自分が悪いと思いましたか?」
「いや、全然」
「……はぁ」
『やれやれこの人全然ダメだわ』風な動作と共に首を振って溜息をつく、と同時に勢いよく机を叩く
バァン
「○○さん!貴方には誠意が足りないんですよ!誠意が!」
「どした?
小悪魔」
真剣な表情で口を開く
「○○さん、貴方大図書館に来ていませんよね?喧嘩以来一切」
「なんか行きづらくてな……」
「じゃあ聞きますけど!この前の喧嘩はどっちが悪いんですか?」
「え、えぇと……」
言われてこの間のやりとりを思い出してみる
『おーいパチュリー、新しい服持ってきたぞー』
『……どんな服?』
気になっているようだが、読んでいる本から目を離さない
『香霖堂での掘り出し物で割と安価で買えてな』
ごそごそと手に持った紙袋から取り出し、パチュリーの目の前に置く
『真っ白なワンピース……』
本を置き、手に取ってじっくりと見ている
『どうだ?パチュリーなら似合うと思って買ってきたんだけど』
『ん~……これがあるからいい』
自分の着ているいつもの服を引っ張りながら言う
『こっちは着慣れて思い出もあるから。後そっちは露出が……』
『そか、じゃあこれは売っちゃうか』
言った瞬間パチュリーの表情は曇り、読書を再開する
『……好きにしなさい』
『何だよ、買ってこない方が良かったのか?』
急に不機嫌になったパチュリーを見て少し苛立つ
『……知らない』
『あぁそうかい、今後金輪際買って来ないから安心しな』
そして強い口調で図書館を後にした
「……思い返すと我ながら一方的だったな」
「ご主人様のあの態度はいつもの事です!勝手にご主人様の感情を決めつけないでください!」
「申し訳ない……」
「謝るのはご主人様にしてください!」
「は、はい」
「……とお説教はここまでにして」
小悪魔は語調を先程の強いものから優しいものへと変え、再び語り出す
「貴方と付き合い始めて日々新しい事で一杯なんです、ご主人様は」
「明日何をしようか、一緒に何ができるか、一つ一つ真剣に考えていらっしゃいます」
「でもこの前の喧嘩から貴方と出会う前のご主人様に戻ってしまいました」
「最近はただ本を読むだけの日々が続いています、恐らく内容は頭に入っていないはずです」
あの大人しい頃のパチュリーか……
「どうかご主人様を元気にしてあげて下さい。
小悪魔からのお願いです」
「……分かった。考え直すと、俺は自分が悪いのに謝りもせず逃げてただけだもんな」
それをイベントで解決しようとするのはズルい気がするけど
「ご主人様は繊細なんです、大事にしてあげて下さいね」
「あぁ!任せとけ!」
「気を取り直して、今日の作戦実行手伝ってもらっていいか?」
「勿論です!全力でお手伝いさせていただきます!」
言うや否やハロウィンパーティの装飾を開始する
~数時間後~
「さて……あとは」
「ご主人様の帰りを待つだけですね」
普段パチュリーが生活している周辺をハロウィン一色に飾った
「じゃあ後は言われたとおりに頼む、くれぐれも失敗の無い様にな?」
「使い魔を侮らないで下さい!お茶の子さいさいですよ!」
「……心配だから余計に気を遣ってるんだけど」
俺の心配を余所に上機嫌で予行演習を行う
小悪魔、頼むから失敗しないでくれよぉ……
「あ、それと○○さん」
「ん?」
「
小悪魔は種族上まだ未熟ですので……ね?」
「ね?じゃねぇよ!」
「頑張るぞー!」
飛び去って行った……失敗する気満々じゃないか?あれ
ギィ
「やっべ!」
予想より早く帰って来たので大急ぎで隠れる
「……はぁ」
着くなり溜息か……ん?他に足音?
「どう?人里でリフレッシュできた?」
「少し……ね」
「友人としてできる事はこれくらいだけど、気晴らしにならなかったようね」
「ううん、そんな事は無い。さっきより幾分かは楽になったわ」
「食事も摂らず書籍を読み耽っていたら体に悪いわよ?」
「分かってる」
「ま、大体原因は特定できてるけど」
「……でしょうね」
「○○って奴がこれ以上パチェを苦しめるなら、私は問答無用で」
「レミィ」
「……精々今日が良い所ね、今日現れなかったら咲夜に捕獲してもらうから」
「……」
館の主が友人心配して出てきちゃったよ……やべぇ命日はすぐそこだった
「「じゃ、また明日」」
足音が遠ざかり、ドアの開閉音とともに消えた
「○○……○○……」
しきりに名前を呟くパチュリー
「あーしたーがーめーにちだぞー……」
うん、今さっき知った驚愕の事実だ
「こー……ないとー……」
人間の死神がやって来るらしい
「言っても……来ないか」
自分の机に座るなり顔を伏せてしまう、今が好機と見た
パッ
「あら?停電かしら?」
合図をして
小悪魔に照明を落とさせる、その間に移動して……
「
小悪魔?居るかしら?電気のスイッチ見て来てくれない?」
パサパサパサ
ゴンッ
アイツ平気だって言った割にしっかり頭打ってんじゃねぇか!
「いたた~……はい、見てきますね」
パチッ
「ありがとう小悪……魔……」
「や、やはぁ」
パチュリーの真向かい、机の向こう側で声を裏返しつつ挨拶をする
「なっ、どっ、え?」
大体『なんで!どうして!ここに!?』だろうな
「その……えーっと……はぴはろい~ん」
ラッピングした薄紫色の袋を差し出す
「ど、どうもありがと……」
言いたい事を告げて帰る予定にしていたので矢継ぎ早に
「こ、この前の服とささやかなプレゼントだ受け取ってくれそれじゃばいばいっ」
言い終わるや否や脱兎の如く図書館の出口めがけ、だぁっしゅ
「こぁ~ん」
「なっ!?」
ズッサァァァァ
「まーだー謝ってーませんよねー?」
「す……すんません」
そこへパチュリーが駆け寄ってくる
「
小悪魔っ!何してるの!」
「自分……未熟ですから……グッバイ!」
矢の如く図書館の奥へ消えて行った
小悪魔、アイツ謀ったな……
「大丈夫だって、こんくらい」
「ダメよ、治療しないと。ここには色んなモノがあるんだから相乗効果で人体爆破もおかしくないの」
「そら……恐ろしいな」
「じっとしてて、痛くても少しは我慢すること」
右手を傷口にかざし何かしら唱え始める
「回復魔法か?」
「間違いじゃないけど、そんな高性能なものじゃないわ。ただの応急手当」
蒼い光が傷口を照らす。見つめるパチュリーは真剣そのものだ
「……こないだはごめんな」
「唐突ね」
表情を変えずに言葉を返す
「それで思ったんだけどさ、普段から可愛いって言うべきだったんだよな」
「……っはぁ!?」
「いやなんだ、普段から褒めてればお前ももっと積極的になれるのかなーと思ってさ」
「こっ、この間のはその……それよりも、よ!」
傷口から手を離すと、ポンと軽く叩かれる
「って!何すんだよ!」
「……遅いのよ……ばか」
「わりぃ、言い出せなかった」
「察するに、自分が悪いと思ってなかったから謝りに来ないんだろうとは思ってたけど?」
「ぐっ……」
「どうやら図星みたいね」
ふっと表情が和らぐパチュリー
「イベント任せで仲直りしようとしたんだがなかなか上手くいかないもんだな」
「今日何かあったかしら?」
「認識してる限りでは他人の家にお菓子を集りに行くイベントだったかと」
「あー……あったわねそんなの」
館内の飾りつけを見ながら思い出すように言うパチュリー
「で?
小悪魔と何か企んでたと」
「そこまでお見通しですかい……」
「女のカンは何でもお見通しなんだからね?」
「うっへぇ……」
パチュリーはいつもの元気を取り戻してくれた、よかったよかった
「で、ハロウィンらしいけど貴方仮装は?」
「……こ、これ」
持っていた布切れを差し出す
「ははぁーん、ミイラ男かしら?」
「ご名答。思った以上に早く帰って来たもんだから仮装できなかったんだよ……」
「買い物するような気分じゃなかったものだから早めに切り上げてきたのよ。レミィには悪いと思ってる」
「重ね重ね申し訳ない……」
深く頭を下げる
「迷惑かけた紅魔館の主にも謝っておきたいから今から行ってきていいか?」
「ねぇ……まだハロウィンって終わってないのよね?」
「ん?まだ日付代わってないだろうし……まさか」
「そのまさかよ、ま・さ・か」
「ミイラ男で謝罪とかふざけてるとしか……」
「あら、違うわよ?普通に謝ってきてここに呼んできてほしいの」
「?」
「とりあえず連れてきてくれる?」
「あぁ……」
ハロウィンと紅魔館の主と俺とパチュリー……何だ?
~謝罪後の大図書館~
「おーい、パチュリー」
「パチェー?何考えてるのー?」
二人して呼ぶが返事がない
「まさかまたアンタ何かしたんじゃないでしょうね」
吸血鬼に鋭い眼で睨まれる
「そんなわけないじゃないですか!謝って仲直りしましたって!」
「ふぅーん」
しかし目線は疑いっぱなしだ、とそこへ
「○○さーん、レミリアお嬢様ー。こちらへ来てくれませんかー?」
「おうい小悪魔さんや……その耳は一体」
「?」
なんでそんなこと聞くんですか?みたいな目で返された……
「似合ってるわよ、
小悪魔」
「ありがとうございます!さ、奥へ奥へ」
主の褒め言葉を受け取り奥へ急かす
「何なんでしょうね」
「さぁ、私はさっぱり」
本当に何も知らなそうなので特に追及もせず奥へと進んでいくと
「いらっしゃーい、○○、レミィ」
「……」
「綺麗よ、パチュリー」
絶句したそこには持ってきた服を着たパチュリーの姿が
「着てくれたのか……」
「前も今日も着ないとは言っていないけれど?」
「選んだ俺が言うのも何だけど、パチュリーの魅力が際立ってすっげぇ綺麗だよ」
「……面と向かって綺麗って言われると照れるわね」
肌理細やかな頬をほんのり染めながら言う
「それと……気に入ってくれたか?」
「次はデートの時にでも使わせてもらうわ、ありがとう」
そう言って微笑む……ん?次は?
「
小悪魔、日は沈んだかしら?」
「ばぁっちり!」
「じゃ、行きましょうか。トリックオアトリートしに」
「あらパチェ、良い考えじゃない」
「○○さんは仮装してくださいねー」
「……マージでミイラ男するんですか」
「「「もちろんです!」よ」じゃないの」
三人から揃って言われるこの……ねぇ
「着替えたら夜の街へ繰り出すぞー!」
この吸血鬼、ノリノリである。聞いてはいたがほんとイベント好きなんだなぁ
~ミイラ男誕生中~
「揃ったわね?まずは神社よー!」
館から出るなり勢いよく空を飛ぶ主、こちとら一人徒歩だってのに……
「○○、見える?」
横に居たパチュリーが心配そうに声をかけてくれた
「館内でふらついてたから心配で……」
「一応な、ただかなり暗くなってるし明かりが要るかも」
「そ、まぁ安心なさい」
スッと腕を組んでくるパチュリー
「今日までに話したい事……たくさんあったんだからね」
「了解、話に夢中になり過ぎて躓くなよ?」
「大丈夫よ、今は貴方が居るんだから……」
俺はパチュリーの肩を優しく抱いて神社へ向けて歩き出した
そんなハロウィンの夜
避難所>>769
〇〇「あれなんだっけ」
小悪魔「あれ?」
〇〇「あのなんかほら、なんだろう。あれあれ」
小悪魔「語彙」
〇〇「はちみつシステムみたいなやつ」
小悪魔「??????????」
パチェ「ハニカム構造?」
〇〇「それ!!」
小悪魔「!?!?!?!?!?」
〇〇「あれなんだっけ」
咲夜「あれって?」
〇〇「あのなんかほら、なんだろう。あれだよあれ。映画の錠剤のお菓子みたいな名前のやつ」
咲夜「ごめん何いってんの?」
パチェ「NETFLIX?」
〇〇「それ!!」
咲夜「もしかして錠剤のお菓子ってフリスクのこと言ってる??」
〇〇「あれなんだっけ」
美鈴「あれってなんです?」
〇〇「なんだっけほらなんだろうあのなんかほらほら、あれ。電王のOPの人」
美鈴「トリプルx?」
○○「そ…!」
○○「……それジャッキーチェンがでる映画じゃない?」
パチェ「仮面ライダー電王のオープニングはトリプルエーでジャッキーが出るのはスパルタンXでトリプルXはヴィン・ディーゼルが出る映画」
美鈴「ほえー」
○○「ほえー」
フラン「わかってなさそう」
◯◯「あれなんだっけあれあれの最近人里に」
パチェ「スターバックス?」
◯◯「そうそうそれそれそれであのなんだろう今しかでてない」
パチェ「クランチーアーモンドチョコレートフラペチーノ?」
◯◯「そうそうたぶんそれそれ。それなんだけど」
パチェ「あー…悪いけど外出中に冷たいもの食べるとお腹とか…」
◯◯「あぁ、うん。その、えーっと」
パチェ「外行くなら本買ってきてくれない?あとでLINE入れとくから」
◯◯「ん、はい…」
レミィ「ねぇ」
パチェ「うん?」
レミィ「いまのってさ」
パチェ「うん」
レミィ「いや…なんでもない」
パチェ「?」
レミィ(言いたいことわかるのかわかんないのかどっちなのかしら…)
最終更新:2024年08月25日 22:41