咲夜1
1スレ目 >>38
「咲夜さん!オレを第二のメイド長にしてください!」
1スレ目 >>179
咲夜さんに
「あなたの微乳は最高です!!」
って言って告白
命の保障はできないけど('A`)
1スレ目 >>199-202
「失礼します」
そう言って俺は目の前の重厚な扉を開けた。
扉の向こうは真紅の部屋。
中央に置かれた豪奢な椅子の肘掛に頬杖をつき、薮睨みの視線で僕を縫い止めているのがこの館の、そして俺達使用人の主であるスカーレット御嬢様だ。
白磁よりも白い肌と、紅玉よりも紅い瞳。
すらりとした切れ長の眉は意志の強さを如実に表わしている。
眉を通り、整った目鼻立ちの下にある柔らかそうな唇から覗くのは、明らかに人外の種である証の牙。
外見の幼さからは想像もつかない強烈な威圧感と、魔性の者のみが持ち得る傾国の美貌。
俺如き脆弱な人間風情には、濫りに近付く事さえ許されない――――俺がそんな錯覚を覚えるのに、十二分にしてお釣りが来る程の魅力を、スカーレット御嬢様は備えていた。
「何をしているの。さっさと入りなさい」
不機嫌さを隠そうともしない声で、萎縮してしまった僕を呼びつける御嬢様。
視認出切るほどの不機嫌オーラを纏う御嬢様に近付くのは、はっきり言って泣きたくなるくらい怖い。
俺は、使用人魂で恐怖をねじ伏せ歩を進めた。
それと同時に、僕は何故御嬢様の御部屋に呼ばれたのか考えていた。
俺の仕事は基本的に雑用や外回りの警備ばかりで、御嬢様の身の回りのお世話に直接関わるような機会は無い。
仕事では大きな失敗もしていないし、呼びつけられる様な原因が思いつかない。
しかし、それでも俺は外勤組の中では格段に御嬢様と出会う人間らしい。
一日に三度は廊下で擦れ違ったり視線が合ったりすると仲間内で話したら、皆一様に驚いていた。
曰く、外勤は一週間に一度御嬢様をお目にかかれたら上出来、なのだそうだ。
もしかしたら、その辺りが今回呼ばれた原因なのかもしれない。
余りにも顔を合わせる回数が多いから、サボってるんじゃないかと思われてたりして。
内心で首を捻る俺に、御嬢様は言い放った。
「単刀直入に聞くわ。貴方、咲夜に何をしたの」
心臓が跳ね上がった。口から飛び出たかと思った。
十六夜咲夜さん。
ここ紅魔館の使用人と侍女の頂点に立ち、人知を超越した能力を持つ、文字通り完全で瀟洒なメイド長。
御嬢様が紅魔館の象徴であれば、咲夜さんは紅魔館の中枢と言ってもいい。
「……い、いえ。特にこれといって何かをしたという記憶はありませんが」
俺の短い人生の中でも最大の集中力と精神力を振り絞り、可能な限りの平静を装って俺は答えた。
誰よりも御嬢様に忠節を誓う咲夜さんだけど、まさか咲夜さんてばあんな事まで御嬢様に言うのか。
俺は一週間前の出来事を思い出していた。
今、俺が咲夜さんと聞いて思い出すのはそれしかない。
一週間前――――咲夜さんに告白して、思いっきりフラれた事を。
勿論、OKなんてもらえるとは思っていなかった。
ただ、咲夜さんに自分の想いを知ってもらえればと、それだけが望みの告白だった。
この気持ちは、好きというより、むしろ憧れに近いものだったのだろう。崇敬と言い換えてもいいかもしれない、そんな一方通行の想いだった。
それでも返答が『そう……それじゃ』だけでくるりと踵を返して去ってしまったのは流石に多少傷付きもしたけれど。
ダメでもせめてもう少しリアクションが欲しかった。
高望みだとか無謀だとか言いつつも撃沈した俺に同僚達が奢ってくれた酒は少ししょっぱい味がした。
兎に角、あれ以来咲夜さんとは全く顔を合わせていない。
むしろ避けられているような風潮さえある。本当にちらりとも姿を見ないのだ。
現に、今だって普段は御嬢様の御付である筈の咲夜さんなのに、どこにも姿が見当たらない。
気が滅入りそうになるが、これはどう考えても嫌われてしまったと見るのが妥当なんだろう。
…………やばい、また涙が出そうになってきた。耐えろ俺。
だけど、よくよく考えてみると何もしていないというのは間違いじゃないのだ。
咲夜さんからしてみれば、俺はどうでもいい人間なのだから。自分で言うのも悲しいが、告白なんてされようが関係ないのだし。
そんな俺の発言に、しかし御嬢様は苛立たしそうに席から立ち上がると目にも止まらぬ速さで俺の眼前へと移動し、
「てぃ」
「ぅぁ痛゛ぁっ!!?」
デコピンを頂戴してしまった。
あまりの痛さに頭が割れたかと思った。
「お゛お゛お゛お゛お゛……」
そのまま御嬢様の前である事も忘れもんどり打って転げまわる俺。
鼻息を荒げ腕を組みながら御嬢様が言う。
「この私に嘘とはいい度胸ね。貴方が咲夜に何かけしかけたのはお見通しなのよ!」
「ええっ!?」
「私の能力を知らないの? いいわ、特別に貴方にも見えるようにしてあげる」
ぱちん、と御嬢様が指打ちをすると、俺の視界が一瞬、真っ赤に染まり――――
気付くと、俺の腕といい首といい脚といい、身体中のありとあらゆる部分から、細長い糸が張り巡らされていた。
糸は部屋の壁をつきぬけ、思い思いの方角へと一直線に伸びている。
太さや色は様々で、緑、青、白、黄、紅、茶、黒、そして、
「……この糸だけ、やたら太っといですね。あの御嬢様、これは一体……?」
「俗に言う『運命の糸』って奴よ。貴方と周囲の人間のエニシを可視化したの」
成る程。これは確かに、運命を操る御嬢様にしか出来ない業だ。改めて御嬢様の力の一角を見せ付けられ、俺は感嘆した。
「視覚化ついでにちょっと手品を加えておいたわ。貴方、ちょっとその糸引っ張ってみなさい」
「え?はい」
俺は言われた通りに手首から出ている紅い糸、いやもう綱と言っていいようなそれを引いてみた。
部屋の窓際、紅色のカーテンの向こうに繋がっていた綱がぴんと張り、その次の瞬間。
「きゃっ!」
小さな悲鳴と共にカーテンの裏側から転げそうになって飛び出てきたのは、俺と同じく手首に綱を結わえた咲夜さんだった。
「あ……」
「う……」
何故そんな場所に隠れていたのか。
この糸の太さは何なのか。
そんな疑問を吹き飛ばして瞬時に蘇る一週間前の記憶。
赤熱化する頬が分かる。
対する咲夜さんはと言うと、一週間前と同じくあっという間に背を向けてこちらを見てもくれない。
呆然とする俺に、御嬢様が御不満ここに極まれリといった声で、とんでもない発言をしてくれた。
「この一週間、咲夜ったら酷かったんだから。掃除は手につかない、料理は失敗する、ぼーっとして私の言葉さえ聞き逃し、あまつさえこの咲夜が、咲夜がよ? まさか寝坊をするなんて思っても見なかったわ」
「おっ、御嬢様!」
その時、俺ははっきり見てしまったのだ。
反射的に振り返ってしまった咲夜さんの、あの氷のように澄んだ咲夜さんの綺麗な横顔が、真っ赤に染まってしまっているのを。
それって、つまり――――
「咲夜さん、俺の事を嫌って避けてたんじゃなくて……」
「…………から」
「え?」
「ど、どんな顔をして貴方と会えばいいのか分からなかったから……」
この時、俺は初めて知った。
人間、理解能力の限界値を超えると意識が飛ぶって事を。
薄暗くなっていく視界の中、俺は慌てて俺の方に駆け寄る咲夜さんの姿を見たような気がした。
1スレ目 >>848
湖の真ん中に位置する紅魔館――そこのある一室に俺は倒れていた。
無論、誰かに倒されたと言うわけではない。ここで働いて数ヶ月、俺の身体の
一時的な限界が訪れていたというだけだ。
「あのメイド長…人を散々こき使いやがって…」
何故かここで働く羽目になっており、俺は有給やら昼寝やら休日やら
そんな物が無いという、ある意味では地獄のような職場で働いている。
制服貸与と書かれていたが、それもよりにもよって始めはメイド服だったから
性質が悪い。今は執事用の服という物を着せられているが、当初はそれも埃を被っていた。
「…休日なしだからなぁ」
今日も警備やら図書整理の手伝いやら、タダ働きの割に合わない事をしないとならない。
そう、そのはずだったんだ。
「あら、今日はどうしたのかしら」
いつの間にか俺の部屋の中に、諸悪の根源が居た。
ベッドから起き上がらない俺を見て、メイド長――十六夜咲夜は不審そうな目で見ている。
「…誰かさんの忙しい予定のせいで、ちょいと身体を壊しただけですが?」
その言葉をたっぷりと皮肉をこめて返す。
「そう、それじゃあ」
起き上がって館内の警備に行きなさい、とでも言われるのかと思い言葉に耳を傾ける。
「今日は少し休んでいなさい」
……何ですと?
あの鬼のようなメイド長が休め?普通、メイド長が言う筈無いよな。
…もしかしたら夢かもしれない、いや、もしかしたらこのメイド長はニセモノか?
「何をそんなにじっと見てるのかしら?」
「…や、なんでもない」
この言う言葉に殺気を込めるやり方。間違いなく本物のメイド長だ。
「…ここで寝てなさい」
そう言って、メイド長は俺の部屋から出て行った。
「待たせたわね」
戻ってきたメイド長はいつものメイド長だった。
さっきとの唯一の違いは手にお盆と料理らしきものを持っていることくらいか。
「…で、何のつもりっすか?」
「せっかく人が厨房を借りて病人食を作ってきたんだけど、いらないのかしら?」
「………いりますよ。そりゃ」
館の中でもしかしたらこの人は最強かもしれない。
紅魔館の全てを統べるメイド長、十六夜咲夜。…なんか強そうだ。
「お嬢様にも言って許可貰ったからから、今日は休みなさい。この館のほとんど居ない男手なんだから」
「…りょーかい。で、その料理は食べられるんだろうな?」
嬉しい事は嬉しいんだが、万が一にも毒なんて盛られていたら、泣くに泣けない。
いやその前に亡くなってしまうこと確実だ、俺は妖怪じゃないんだから。
「…毒なんて盛ってないから安心しなさい」
「何で俺の考えてる事が!?」
「その間抜けな顔を見たら誰でも気付くわ」
そこまで分かりやすい顔してたのか…
メイド長からそのお盆ごと受け取り、レンゲを手に取る。
「見ての通り、お粥だけどね」
「病人食なら普通だろ?」
レンゲでまだ熱々の粥をすくい、すぐさま口に運ぶ。
作法とかなんてこの際関係ない。ただ我武者羅に食べ続ける。
「どうかしら?」
「…さすがメイド長だと思うぜ。普通に美味い」
「そう、なら良かった」
心の底からホッとしたように、メイド長は安堵の息を吐く。
…その表情を、妙に可愛く見えた自分がいた。
夜になった。
いつもは夜になっても図書整理が終わらずに篭っているはずなんだが、
今日は休めといわれて、ずっと横になっている。
昼間に門番や図書館の館長やら司書やらが来て、見舞いをしてくれたから
暇は潰れたが、今は何も無い。
「暇だ…」
と言った所で何が変わるわけでもない。それにしてもいつも俺を玩具にして遊んでいる
お嬢様が休みをくれた事が意外だった。メイド長が言ってくれたからか?
「入るわよ」
と言いながら既に入っているメイド長。
また粥を持ってきたらしい。飽きない味とは、ああいうものだろうな。
「…晩飯か?」
「えぇ、同じものになるけど、病人食だから仕方ないわよね」
「…ありがたく頂く」
俺がお椀を取ろうとすると、それをメイド長はお預けをするような形で持ち上げた。
その手はむなしく空を切って硬直する。
「もう少しくらい休みなさい。最初で最後の奉仕活動くらいはしてあげるから」
そう言って、レンゲで俺の代わりに粥をすくう。
「ほら、あーんして」
…そう来たか。
「…あんたは――」
「あら、恥ずかしいのかしら? 普段はもう少し素直なくせに」
「…分かったよ。 ったく、どういう神経してんだアンタは」
結局、俺の方が折れて口を開ける。素早く中にレンゲが入る。
正直言って、恥ずかしさのあまり味覚が麻痺したのか味は分からなかった。
「…あんた、いい嫁になれるぜ」
わざわざそっぽを向いて、ぶっきらぼうに言う。…無意味に恥ずかしいだけだが。
それにしても彼女――咲夜は子育てとか得意そうだ。それにあれくらい飯が美味ければ
申し分ない。
「そうね。あなたはお嫁に貰ってくれるかしら?」
「…はっ、あんたみたいな美人なら喜んで、だな」
まぁ、咲夜の事は嫌いじゃない…むしろ好きな部類に入る。
仕事に対して厳しいというか何というか、そこがネックだがそういうところも割と気に入っている。
「それじゃ、これにサインして」
と、一枚の紙を差し出した。
「…ってオイ! これ婚姻届だろうが!」
そんなものが幻想郷にもあることが驚きだ。
いや、もしかしてこういう隔離された場所だからこそあるのか?
「あんたの事は確かに好きだけどさ、もっと、こう…人を選んだらどうだ?」
「色々知っている人間を比べた上で、あなたに当たったのよ」
そりゃ嬉しい事で…。
と冗談で返せれば良かったんだが、咲夜の目は…本気だった。
結構長い時間、俺は黙っていた。今までの事を振り返りながら決断をしようとしていたのだ。
問題を先送りにするような事はしたくないし、答えは早く出すべきだから。
「…ま、あんたの事は嫌いじゃねえよ」
むしろ嫌いになんてなれるか。
「そう、なの」
「…安心しな。結婚しねえって言ってるわけじゃねえって」
「え?」
「アレだ。こう言うときは俺の方から言わせてもらった方が嬉しいんだけどな…」
まさか、先に言われるとは思ってなかったし
「あー…っと、メイド長…もとい、咲夜。あんたの事、結構好きだぜ?
俺にとっての嫌いじゃないと好きってのはイコールなんだ。だからさ、こき使われるのはヤだけど
俺は…あんたが好きだ」
「本…当?」
それだけ言い終わると、咲夜は口元を押さえて涙を流していた。
「…結婚、するか?」
「…えぇ」
俺は、彼女と共に永遠を誓う口付けをした。
1スレ目 >>951-953
「貴方、今まで相手した中で最低ね。試験を受けようと考えた事自体が間違いだわ」
…そうして彼は紅魔舘から暇を頂く事になった。要するにクビである。
きっかけは舘内の知らせで、『昇格試験の案内』という張り紙を見て目をとめたのが始まりだった。紅魔舘に就職し、メイド長の十六夜咲夜に一目惚れした彼は「試験監督‐十六夜咲夜」の項目に惹かれて即座に申し込んだ訳だが・・・。
結果は惨敗。いきなり戦闘力のテストをされて何も出来ずにダウン。余りの不甲斐無さにメイド長直々に解雇を言い渡される事となったのである。
里へ帰る途中、彼の中では変化が起こっていた。
自分の至らなさを恥じる心は他人への責任転嫁に。
一方的な憧れは一方的な憎しみへ。
メイド長の目に止まる事がなかった男は、里へ帰る事なくいずこかへ消えていった。
それから数年、紅魔舘に紅白や白黒以外の侵入者がいるという話が持ち上がる。
曰く、侵入者は投げナイフを得意とするらしい。
曰く、侵入者は門番に気付かれずに中へ入る事ができるらしい。
曰く、侵入者は一瞬で別の所へ移動できるらしい。
曰く、侵入者は毎月一度忍び込むらしい。
これだけの特徴を兼ね備えた人物を、紅魔舘では知らない者がいなかった。
しかしその人物はメイド長。侵入者を撃退する役目を持つ人である。
「咲夜。最近舘内に貴方のドッペルゲンガーが出没するって噂ね?」
深夜のティータイムに、レミリアが咲夜に半分からかい口調で話し掛ける。半分は真面目であることを察した咲夜は黙って頷いた。
「面白そうだけど、咲夜の問題みたいだしね。そうそう。・・・・私はもう寝るから、館の見回りをお願いね。今夜は「2人」が見回りするでしょうから、早く終わるでしょう」
そう言ってレミリアは寝室へと姿を消す。瀟洒な従者は主の意図をつかんだらしく、館内の見回りへと出かけて行った。
館内を一通り見回ったところで図書館へと向かう。しかしここにも異常はなかったため、残すは時計台のみとなった。扉を開けると柔らかな月光が降り注ぐ。
「そういえば、昨日は満月だったわね」
そう呟いた咲夜に、暗がりから声が帰ってくる。
「今夜は十六夜・・・と言うそうですね。満月の輝きには及ばないとされているが、充分に眩しく、そして美しい」
「それは月だけかしら?」
「いえいえ、どちらの十六夜も私には満月より輝いて見える」
「それは間違いね。満月より輝く月など存在しないわ」
言葉だけなら月下の語らい―――しかしその実は殺気の応酬である。
「眼鏡もかけているのですけどね。度が合わないのかな?」
「それは元から治すしかないわね。尤も、ここで倒されるから治しようがないけど」
「何、これで私には良いのですよ。治すにしてもこの後図書館でも行って調べます」
2人はどちらともなく距離をとりはじめ、ナイフを抜き合う。
「呆れるほど大した自信ね。なら――――」
「そのような瑣末な事より、今は――――」
「返り討ちにされるといいわ、黒き賊!」
「貴方を倒したいのですよ、瀟洒な従者!」
―――――そうして、十六夜の月の下、2つの影が交差した。
3本同時投擲からの接敵、離れる時の目くらましに投げた内1本のみ相手の急所を狙う、1本だけと思わせて同じ軌道で2本目を投げる・・・ナイフの応酬は互角だった。いや、その戦いは余りに・・・・・互角すぎたのである。
「どういうこと・・・?まるで鏡に映したようにナイフが飛んでくる。お嬢様の言っていた冗談もこれなら本気にしてしまうわね・・・ならこれを使わせてもらうわ」
――――幻世「ザ・ワールド」
世界が凍る。咲夜は今、時を止めた。紅魔舘メイド長の能力にして奥義である。
もちろん相手は微動だにしない。この世界で動けるのは咲夜を除いてはいないのだ。
「チェックメイトね、侵入者さん。中々面白い戦い方だったわ」
急所に向かって的確にナイフを投擲する。後は世界を開放すればお終いだ。自分と同じナイフ術には興味があったが、明日の予定を考えるとそれを詮索するのも手間に思えた。
「・・・なぜ?急所に当たって倒れないなんて、貴方人間?」
自分の必殺パターンを崩されてか、咲夜は苛立ちを隠さずに男に問い掛ける。その様を見て男は満足そうに、不敵な笑みを浮かべて答えた。
「いいえ?どこにでもいる無様で「最低」な人間ですよ。ただ、ちょっと誤魔化すのが上手いだけです。・・・・防護魔法ってご存知ですか?狙ってくるのが確実に急所なら、そこだけを集中して防護すれば致命傷にはなりませんしね」
「・・・・ご高説感謝するわ。お代は地獄への片道切符で支払わせていただきますね」
――――幻符「殺人ドール」
急所のみをガードしているなら無差別・乱反射のナイフに対応できる道理はない。全方位からの攻撃に、男は―――
「ありがとう。それでこそ貴方は十六夜咲夜だ」
と呟き、避ける動作も見せず。悔しそうな表情も浮かべず。ただ、微笑んで全てのナイフをその身に受けた。
「え・・・?ちょ、ちょっと!?」
余りのあっけなさに咲夜は男に近寄る。先ほどまで頭にあった明日の予定より、今はこの男の不可解さが気になって仕方がなかったからだ。
「・・・どうしました、そんな不思議な顔をなさって」
致命傷を負っていても男の態度は変わらない。その一貫した態度に腹が立ち、咲夜は男を怒鳴りつける。
「不思議な顔にもなるわよ!戦った相手にこんな事言うのも変だけど、あの攻撃は避けられたはずでしょう!?」
ヘイスト プロテクション
「ああ、さっきまでの私ならね。・・・速度増加も防護魔法も時間切れですし、そうでもしなければ貴方と戦う事すらできない。いつぞやの様に一瞬で倒されてしまう事でしょう」
「貴方は、あの時の・・!」
自分の事を思い出してくれたのか、男は嬉しそうに、しかし弱った声で話を続ける。
「ああ、今は貴方の瞳に私が映っている。私を見る事すら面倒に感じられたあの時に比べて、今はなんと幸せなのだろう。ドアを開けて私の声に反応する時など、体の震えが止まりませんでした」
複雑な表情で咲夜は男に話かける。
「馬鹿ね・・・そこまでして私に復讐したかったの?」
「・・・冗談を。私は貴方に一目惚れしてしまったのですよ。エゴですが、愛してると言ってもいい。そこまで慕う相手の瞳に映らない、まして仕える事もできないのなら、一瞬でも長く、私を意識し、見続けてもらうよう生きただけです」
「・・・・」
「憧れ、慕い続けた貴方の技を使いたかった。修行をしている時も、貴方に近づいていくようで楽しい日々でしたよ・・・最初は復讐のためだったのですけどね、『自分の技で死ぬがいい』って」
咲夜は何も答えない。自分のした事を後悔しているのか、男の行動に呆れているのか、自分でもわからないのである。
「さて、そろそろお迎えのようです・・・最後にもう一度顔を見せてくださいませんか」
咲夜が男を見直すと、不意に男は体を起こし―――咲夜に口づけをした。
「!?」
「―――――時よ止まれ、・・・貴方は美しい」
そこで男の時は止まった。
名も告げない、相手にとって1日にも満たない男の恋は報われたのだろうか?
咲夜は次の日、何事もなかったように仕事を進めている。
ただ、その日紅魔舘のメイド達は昼休みにこんな会話を交わしていた。
「侵入者が退治されたみたいですね。昨夜メイド長が夜の見回りの時に倒したそうです」
「あ、私丁度早番で起きてきた時にメイド長とすれ違いましたよ。私初めて見たんですが、倒した侵入者を抱えてました」
「・・・いつもは片付け、私たちにやらせるのに。『メイド服が汚れるでしょ?』って言ってましたしね」
「珍しい事もあるんですね・・・。綺麗好きで有名なのにどうしたんでしょう?・・・あ、そろそろ休み時間も終わりですね」
それきり、男の話題が出てくる事は無かった。ここでそんな話は日常である。侵入者をメイド長が退治した、ただそれだけの話。
―――――――紅魔舘は今日も、概ね平和だった。
最終更新:2010年05月15日 23:05