咲夜13



うpろだ1430


門番に賄賂を渡し、一気に走り抜けるとそこは愛しの桃源郷。
大福2個とは、紅魔館の門も安いものだ。
妖精メイドと軽く挨拶を交わすと、目当てのその人が見えた。
「さっくやさーーーん!」
声をあげると、彼女が気づいてくれた。

「あら、いらっしゃい。」
「こんにちは咲夜さん。紅茶を――」
「ごめんなさい。いまちょっと忙しいの」
本当に忙しそうな表情で、笑えるほどの即答だった。

「それなら仕方ない。日を改めますか」
肩をすくめ、そういって踵を返すと、不意に声をかけられた。

「待って。せっかく来ていただいたお客様を手ぶらで帰らせては、紅魔館の名が廃ります。
 幸いもうすぐ終わりそうですし、そうね……図書館で待っていてくださる?」
「喜んでぇっ!!」
そんなことをにっこりと言われたら、これ以外の選択肢はない。
予想外の展開だ。今日は何かいいことがあるに違いない。








諸君、私は本が好きだ。漫画が好きだ。小説が好きだ。歴史本が好きだ。学術書……はあんまり好きじゃない。
魔理沙からこの図書館を聞いたときは心が躍って、体まで踊りだしそうだった。
そうだ、咲夜さんに始めて会ったのもあのときが最初だったな――


「何やってるの○○?ぼーっとして」
「あ、パチュリー様。」
図書館の主に声をかけられ、トんでいた意識が戻ってくる。
「いえ、ちょっと昔を思い出していて…」
「なにジジくさいこと言ってるのよ。私よりずっと幼いくせに」
そうだった。見た目にだまされがちだけど、この屋敷の人々は大半が年上なんだ。
備え付けの椅子に腰掛けると、小悪魔が紅茶をくれた。礼を言って喉を潤す。
「で?今日は何を借りるの?」
「あ、今日は借りません。咲夜さんのお仕事の終わりを待たせていただきます」
「あらそう?」
なんだか残念そうな顔をされた。
と思いきや、真剣な顔つきになっている。今日は表情の忙しい日のようだ。
「ねえ」
「ん、何ですか」
「あなたって、咲夜が好きなの?」
紅茶吹いた。
「……行儀が悪いわよ。」
「すみません……でも、いきなりなんですか」
「いきなりかしら?私は、切り出すのにずいぶん時間をかけたつもりよ」
心なし、不機嫌な顔をしている。
考えてみれば、そうかもしれない。半年、いや、もっとか。彼女に会ってから、俺は――
「返事が無いのが、一番失礼よ」
顔を上げる。どうやら、また呆けていたらしい。
「で、どうなの」
やたら真剣な表情でこちらを見つめてくる。これは――


「…パチュリー様。俺、実は――」


                       ――これは、答えないわけにはいかない類の話だ。


「実は、メイドさん萌えなんです」


「…………は?」
「ヘッドトレスとかエプロンドレスとか、そういうものになんかこう…リビドーを感じるんです」
「ちょ、いや…え?」
困惑している。まあそりゃあそうだろうな。
だけど、こうなりゃ意地だ。止めるわけにはいかない。
「この図書館に来て、彼女に会って……始めはもの珍しさで。
 だんだん、ヘッドトレスを見てると、綺麗な銀髪やかわいいみつあみに目が行って、
 エプロンドレスを見てると胸に目が行って、さすがにまずい、と顔を上げると目が合って……。
 そうこうしているうちに、もう目が離せなくなっちゃったんです」

パチュリー様は黙って聞いている。下を向いていて、表情は見えない。

「動機は不純ですけど、道理は純粋です。俺は……彼女が、十六夜咲夜が好きです」


俺が黙ってから、図書館はしばらく静かだった。
こんな空気は嫌いだった。昔からこんな空気になると、壊してしまおうと適当なことを話していた。
今は違う。これは、俺が壊していい空気じゃない。
パチュリー様が、何かを言おうとしているのが感じて取れた。

「あの子は……レミリアの大事なもの。貴方が適当な人なら、あの子はきっと壊れてしまうと思った。
 そうなればレミィはとても、とても傷つく。
 なんてこと。この私が杞憂なんてすると思わなかったわ」
「……」
びしっ、とでも擬音の付きそうな指を突きつけられた。
「合格点にしておいてあげる。頑張りなさい」
「……はい」
自然と、笑みが顔に浮かんだ。
「そろそろあの子の仕事も終わっているでしょう。いってらっしゃい」
返事をして椅子から立ち上がる。
「それと、今貸してる本に紅茶なんかかけないでよ?」
信用が無いのか。思わず苦笑が浮かんだ。
「本当なら、貸し出しなんかしてないのよ?貴方は特別。あの黒白から本を取り返してくれたんだから」
「大丈夫ですよ。――いってきます」
扉をぬけ、ロビーを目指す。



○○が図書館を出たら、私は一人になってしまった。
小悪魔には仕事を言いつけていたから、きっと奥のほうにいるのだろう。
「……はぁ」
彼が出て行った扉に額を寄せる。

『私は?』

それが聞けない私は、きっと長く生きすぎて臆病になってしまったのだろう。黒白がうらやましい。
「そうよ。貴方は……特別、なんだから」
ため息は、冷たい扉が吸い込んでくれた。
涙は、絨毯に染み込んでいった。





「あら丁度いい。これから呼びにいこうと思ったところよ。」
廊下を走っていると、妖精メイドに走るなと怒られた。
仕方ないので早歩きをしていると、曲がり角で咲夜さんに出くわした。これはなんだ。運命か。
「じゃあ、テラスにでも行きましょうか。」




春の二時過ぎの陽気は、人をやわらかくする何かがあると思う。
そんな優しい日差しの中で、好きな人と紅茶を嗜む。なんという幸福だろう。
これは俺が始めて紅魔館に来たときに、パチュリー様の『咲夜の紅茶はおいしいわよ』の一言から始まった。
それが本当においしくて。
たしかにおいしいけど、なんだか最近は手段と目的が入れ替わってる気もする。まあいいか。
「魔理沙に連れてこられたのよね、あなた」
いまの話題は、俺がここに初めて来たときの話だ。
「そんな拉致みたいな言い方……でも、そうです。面白い図書館があるからこないか?って。
 もともと本が好きでしたし、断る理由も無くて」
「そういえば、どうやってあいつから本を取り返したの?まさか力づくってわけじゃないでしょう?」
「それはですね、あの直前に宴会があったでしょう?」
ふんふん、と咲夜さんは話に食いついてくる。気にされてるって、いいなあ。
「酔っ払ってるうちに、こう持ちかけたんです。『なあ魔理沙、お前が持ってる本、貸してくれないか?』」
「……それ、やってることは一緒じゃない?」
あ、あきれた目してる。
「失礼な。正当な持ち主に返しただけですよ。」
「それもそうね。パチュリー様も助かってるし」
ああもう、ほんとうに咲夜さんは笑顔が似合う人だ。

     ああ、本当に幸せだ。いつまでもこうしていたい。
     けど、俺は今、この手でこの幸せを壊そうとしている。

「ところで、咲夜さん」

     一か無か。
     懸けてみるのも――悪くない

「今、好きな人とかいますか?」







なにを言われたのか、よくわからなかった。
好きな人?なにを言っているのだろう、この人は。
そんなこと、考えたことも無かった。

     本当に?

思い返してみる。いつの間にか、彼がいるのが日常になっていた。たった半年程度なのに。
あるいは、それだけ彼が大きな存在になっていたのかもしれない。
○○が来ない日は注意が散漫になっていた。
来ないと事前に聞かされたのに、時計を何度も確認したりした。

「私、は……」
言いよどむ。だって――



         ――こんなの、初めてなんですもの






「……わからない。」

期待した答えでも、最悪の想定でもなかった。ある意味、一番困る。
そして、それが顔に出てしまったらしい。

「そんな顔しないで。私だって、わからないことくらいあるわ。自分のことなんて、特に。
 教えて。あなたを見てるとどきどきするの。
 あなたが来ないと不安になるの。
 あなたがいると、安心するの。
 これは――好きってことなの?」

小さな机で助かった。
その答えを聞いた瞬間、机越しに抱きしめてしまっていたから。
「……紅茶、こぼれちゃうわ」
「拭けばいいさ」

背中に手が回ってきた。

「私、普通じゃないのよ?」
「普通の人間がじゃない、十六夜咲夜が好きなんだ。」

力を込める。あわせて、強く抱きしめられる。

「教えて。あなたは、私が好き?」
「好きだよ。世界中の誰よりも」

見詰め合えば、あとは一瞬だった。
二つが一つになるのに、時間なんて概念は無粋なだけ。

能力なんて使わなくても、時は止められた――









「これがあの人と私の馴れ初めよ」
老婆は二人の孫に語りかける。おしどり夫婦として評判だった私たちの話に興味を持ったらしい。
「それから!?それから!?」
少女は興味津々なのか、目を輝かせて続きを促す。
「おねぇちゃん、きっともうおばあちゃん疲れてるよ。ぼく達ももう寝よう?」
男の子は優しく姉を諭す。
少女は、しぶしぶといった風に、つかんでいた私の服を離し、おやすみなさいを告げた。

たくさん喧嘩をした。それ以上に愛し合った。
少し前にその旦那に先立たれてからも、子供たちのおかげで寂しいことだけは無かった。
孫の成長も見れた。思い残しなんて何も無い。

      ああ、○○。愛しい私のあなた。
      もうすぐ、そちらへ行きますわ。

瞳を閉じ、肘掛に手をやる。
その手は空を切り、力なく垂れ下がった。





冥界にうっとうしいカップルができた、と西行寺が八雲に愚痴をこぼすのは、また別のお話。

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うpろだ1489


「・・・ぅん」
新年早々、寝不足だ
今日が楽しみで眠りが浅かったか、子供じゃあるまいし
時間に遅れるといけない、そう思いベットから出ると、とても寒い
カーテンを開け、外を見た
「・・・ホワイトロックが頑張ってるわね」
これだけ積もっていれば寒いのは納得だ
着替えを済ませると、外出のために、少し用意をした


「咲夜さん明けましておめでとう御座います!」
部屋を出ると美鈴と出会った
「おめでとう、今日は冷えるわね」
「外は辛いですよ~。あ、そういえば○○さんがいらしてますよ」
ちょうど約束してたぐらいの時間か
「ありがと・・・行ってくるわね」
言ってらっしゃいという美鈴の声を背に受け、私は彼の元に向かった


「やぁ咲夜、明けましておめでとう」
「お、おめでとう御座います」
一昨日あったはずなのだが、少しの緊張
しかし、新しい年に出会う彼は、いつも通りで少し、安心した
「あ、○○さん、少ししゃがんでもらえますか?」
「ん?」
私は彼の髪についていた雪を払った
どうやら雪が降っているようで、溶けていないという事はまだ来たばかりと言う事か
待たせなくて良かった、なんて思ったり
「ありがとう・・・じゃあ行こうか」


「あら、珍しいものを見たわ」
思わずそんな台詞が口からこぼれた
「初詣なんて柄じゃないでしょうに・・・やっぱり男ができると違うわね」
「ち、ちがっ!?」
「ああ、違うの」
「いやちがわなくもないことも・・・・」
顔を赤くして何やらごにゃごにょ言ってるが、独り身としてはちょっと嫉妬しちゃうわね
「・・・まぁその幸せを分けると思ってお賽銭のほうよろしくね」
「お、霊夢、あけましておめでとう」
「ん、おめでと・・・ほら二人でなんか願掛けでもしてきなさい」
もうちょっとからかっていたかったが、今年は忙しいのだ、特に金銭面で重要な一日である
賽銭箱に向かう二人を見送りながら、小さなため息をついた

ちゃりん
がらんがらん
 ぱん ぱん

「何をお願いしました?」
彼が熱心に祈っていたようなので、気になってきいてみた
「今年も面白おかしく異変を眺めていられますように、ってね」
なるほど、彼らしいといえばそうか
彼は私はなにを?ときいてきたが、それは恥ずかしくていえない
食い下がる彼に、乙女の秘密です、と言ったのだがそれのほうが恥ずかしかった

お神酒を飲んで、お守りを買って、甘酒を飲んだ
おみくじも引いた
こんな普通の人間みたいな事をしている自分を、不思議に思う
少し前ならば考えられなかっただろう、隣が、暖かいなんて
「あの・・・○○さん・・・これどうぞ」
神社からの帰り道、彼にあるものを渡した
「?・・・おお、マフラーか」
袋から出して全体を繁々と見ている、私も改めて見てみる
どこか不出来なほうが編み出しか、最後のほうはだいぶ上手くなっているが・・・アンバランスだ
「ちょっと長いね、最後のほうはコツがつかめてきて思わず余分に編んだって感じかな」
完全にお見通しのようだ
この寒いのに体が熱くなる、もしかしたら湯気が出ているのではないだろうか
「○○、さんが首元が、さむそうだったから・・・」
「・・・ありがとうな、咲夜」
彼は首にいろんな感じで巻いて試行錯誤するが微妙な長さが残る
「・・・嗚呼、こりゃあ良いな」
何を思いついたのか私の隣に来ると、そのマフラーを私の首にも回した
「え?え?ふ、二人でするには短いです、よ?」
「ほら、こうやってくっつけば、ちょうど良いだろ?」
彼と私は、非常に密着した状態である
「ああ、歩きづらくないですか?」
「問題ない・・・この方があったかいじゃん」
心臓が2倍速ぐらいで鼓動しているようだ
どきどきと、彼と触れている場所をいしきしてしまう
「咲夜、どきどきしてるな」
そう言って笑うと、最後に俺もだよ、とつけたした
雪が積もった道を、二人でぎこちなく歩く
歩き辛いけど、暖かくて
この動き辛さも良いかもしれないと思った
だってその分長く、彼とこうしていられるのだから

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新ろだ47


―紅魔館


咲夜「お疲れ様○○。あとは私がやっておくから、そろそろ休みなさい」
○○「ああ、でも咲夜さんも休んだほうが・・」
咲夜「私は大丈夫よ、ずっとやってきてる事ですから。」
○○「じゃあ、甘えます。お疲れさまっす」

紅魔館で働くようになってから数ヶ月経つけど
咲夜さんっていつ休んでるんだろうか・・
夜中もお嬢様の相手だし、24時間働いてるんじゃ・・
要領が良く、無駄も無く、隙も無く、一度も疲れた顔すら見せない彼女。

○○「メイド長の鑑なんだろうな、憧れるなあ」

それでもやっぱり心配ではある。
無理してポーカーフェイスしているんじゃないかとね。


俺は与えてもらった部屋へ足を運ぶ。

○○「あー疲れたぁ、今日はもう早めに寝よう。」


俺は布団にもぐりこみ、死んだように眠りに付いた。


その時、なんの夢を見たかは覚えていなかったが
すごくいい匂いがして、そしてすごく居心地がいい。そんな夢を見た。


―早朝。

ガチャ

ドアの開く音で目が覚める。
入ってきたのは紅魔館の主、レミリアお嬢さんだった。

レ「あれ~?いないか~」

○○「・・ん。どうしたんすか、まだ朝早いっすよ」

レ「ああ寝てたの、ごめんごめん、ところで咲夜見なかった?」

○○「咲夜さん?いや、知らないけど・・」

レ「そっかー、いやね、昨日の晩からずっと居なかったのよね~
  今までこんな事なかったのに。」

○○「はぁ。確かに珍しいすね・・」

レ「なのよー。んでこっちに来てないかと思ったんだけど、
  まあ、邪魔したわね、それじゃ」

バタン

ていうか、こんな所に居るわけないのにな。
それだけレミリアお嬢さんも必死って事か・・

でも本当にどうしたんだろう、あの後、夕方くらいに別れて、その後姿を消したのかな。
まさか過労で嫌になって・・

ハハ、咲夜さんに限ってそんなわけないか。

まだ少し早いのでもう少しだけ横になろう・・ふぁ・・あぁぁ~。

俺はもう1度布団にもぐり横になった。

 ・・・・・・・・
 ・・・・・
 ・・・

寝返りをうつと鼻先に生温かい風が当たった。
目を開けると、そこには熟睡している咲夜さんの顔があった。

咲夜「すぅ・・すぅ・・」

○○「・・!!!!!?????」

ワケが分からなかった。
なんで俺のベッドに咲夜さんが・・?そしてこのゼロ距離!


○○「え・・ちょ・・咲夜さん!?何でここに・・!?」

咲夜「・・ん、なんか騒がしいわね・・」

目を覚ました咲夜さんと目が合う。
キョトンとした咲夜さんの目。普段みせた事のない表情。

そして次第に顔が赤くなっていく咲夜さん。

咲夜「えっ・・!? えぇぇぇーー!?なんでなんで!?」

○○「・・俺の台詞っすよ・・」

咲夜「って、なんで朝になってるの!?って何で○○が動いてるのよっ」

こんなに取り乱す咲夜さんは初めてみたかもしれない。
しかし何をわけのわからない事を言っているのやら・・

咲夜「・・こんな事って・・。・・・まさか・・あ、やっぱり・・」


○○「・・・もしかして・・・
    時間を止めたつもりで、ちゃんと発動してなかったとか・・?」


後ろ向きに座り込んだままの咲夜さんが、小さくコクっと頷いた。


○○「は・・はは、咲夜さんもそんなミスするんだ・・」

咲夜「う、うるさいわねっ、多分疲れてたから発動忘れたのよっ
    はぁ~、もうなんでこんな情けない所を・・しかも貴方に見られてしまうなんて・・
    あ”ぁ~~~もう最悪よーーーーー!!」

自分の頭を両手でくしゃくしゃ掻きながら悶える咲夜さん。
その姿がまた可愛かった。

○○「いいじゃないすか、俺は安心しましたよ。」

咲夜「どういうイミですか・・」
頭がボサボサになって言う咲夜さん

○○「咲夜さんもやっぱり人間だったんだな~って、
   人間らしいミスもすれば、人間らしく体力も限界があって」

咲夜「・・あなたずっと私を妖怪と思ってたのね・・失礼ねえ・・」

○○「あ、はは、そんな事ないすよ、・・あ、でもちょっと思ってたかも。」

咲夜「もう・・これ内緒よ・・?特に美鈴とかに知られたら何て言われるか・・
    はぁ・・私の完璧なメイド長が・・こんな所で崩れてしまうなんて・・」

○○「・・・・」

俺は苦笑した。


―そして

咲夜「お嬢様、申し訳ありませんでした。ただいま戻りました」
レ「おかえり咲夜、○○もおはよう」
○○「おはようございまっす」
レ「あ~、さっそくだけど最近この椅子がキシキシ言うから
  新しいのと取り替えて欲しいんだけど、あ、それとこのテーブルあちこち傷が・・あとは、」

咲夜さんに今までどこで何していたかレミリアさんに問われると思ったが・・
咲夜さんもそう思ってたのか、不思議そうな顔をしていた。



―昼休み。

○○「モグモグ、そういえば咲夜さん」
咲夜「ん?何かしら」

○○「寝る時は毎晩、俺の部屋で時間止めて寝てるんすか?
    いやぁ、なんで俺の部屋なのかなーと思って。」

咲夜「・・・・・」

そう聞くとみるみる咲夜さんの顔が赤くなっていったと思ったら

○○「咲夜・・さん・・?ってうお!」

ヒュン!

カッ!
  カッ!
    カッ!
      カッ!

○○「ひぃ!?」

咲夜さんが顔を真っ赤にしながらナイフを飛ばしてきた。
俺は慌てて逃げる

○○「うわぁああああ!ちょっと~~、えぇー俺何かマズイ事言ったかなぁー!?」


メイド妖精1「こら~、廊下走るとメイド長に怒られますよー?」
メイド妖精2「あ、あれ?今、メイド長も一緒に走っていったような・・」
メイド妖精3「えー、まさかぁ~」



今日も紅魔館は騒がしい。

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新ろだ54


 豪奢な調度がいたるところに置いてあるホテルのロビーで、○○は自分一人が浮いた存在のように感じていた。
 場違いもいいところじゃないかと……。
 紫主催の『神無月限定外界デート』に申し込んだところ咲夜がこの日じゃなくてはダメだと押しに押してきたため
 その日に決めたのはいいがまさかこんなホテルだったとは○○は思わなかった。
 ○○は分不相応な気がしてロビーの隅っこで俯き加減に固まっていた。

「○○、おまたせ」

 不意に咲夜の優しげな声が聞こえて、○○は顔をあげた。
 と、同時に口をぽかんと開けて、目の前の女性を食いいるように見つめる。
 そこには、ドレスアップした咲夜の姿があった。
 彼女は、一見素顔のようなナチュラルメイクを施し、瀟洒なドレスを身にまとっていた。
 細い鎖骨と片方の肩をおしげもなくさらけだしている。
 肩を覆った側の袖は大きく膨らみ、まるで中世の姫君のようだ。
 襟元は繊細なレースがいく重にも折り重なっており彼女の胸を優しく覆っていた。
 裾は長く、彼女の足元まで覆っている。ここにも襟元と同じ種類のレースが存分にあしらわれている。

「綺麗……です」

 不意に○○の口から正直な感想がもれでた。
 たちまち、咲夜の頬がバラ色に染まる。

「……あ、ありがとう」

 はにかみながら、咲夜は○○にそっと手を差し伸べた。
 ○○は己の心臓が高まるのを感じながら、そのほっそりとした小さな手を握りしめる。
 まるで骨がないように柔らかだった。

「さ、今夜は存分に楽しみましょう」

 特別な夜が今、始まろうとしていた。



「あ、あの、俺こんな豪華なところ来るの初めてなんですけど……」
「私だってそうよ」
「でも咲夜さん平気そうじゃないですか」
「いつもお嬢様の傍に付き添っているからこういう雰囲気に慣れているだけよ」

 緊張でがちがちになっている○○に普段と変わらない咲夜。
 二人は窓際の席に座っていた。
 大きな観覧車を中心に、色とりどりのネオンが煌めいているが、その光の瞬きを楽しむ余裕が○○にはいっさいなかった。

(うへぇ……テーブルマナーなんて俺知らないぞ)

 ずらりと目の前に並べられたカラトリーを不安そうに見つめる○○。
 そんな彼に笑いかけると、咲夜はささやいた。

「大丈夫よ。そんな緊張しなくても。食べ方やマナーなら私が教えてあげるから。せっかくの料理が美味しく感じられないのはつまらないじゃない?」

 シャンパングラスを手にすると、咲夜は○○に向かってその手を差し出した。
 ○○も慣れない手つきでグラスを手にして、彼女のグラスに近づける。
 澄んだ音を立ててグラス同士が軽く触れ合った。
 前菜が運ばれてきて、優雅な咲夜の仕草を見よう見まねで○○は必死にナイフとフォークを動かす。
 そんな様子を、咲夜は目を細めてうれしそうに眺めている。

「う……? ど、どうしたんですか? そ、そんなに見て……。どこか変ですか?」
「ねぇ、何で今日を選んだか分かる?」

 考えつくかぎりでは○○の頭には何も浮かばない。
 その様子から分かってないと察した咲夜は軽くため息をついて○○を睨んだ。

「あのね、今日はあなたと私が出会ってちょうど1年になるのよ」
「あ……!」
「……まぁ、今回は許すけど、次忘れたら承知しないわよ……?」

 咲夜は射るような視線を○○に向け微笑む。
 場所が場所ならナイフが飛んできただろう。
 ○○は絶対忘れないようにしようと肝に命じた。

 咲夜は、うっとりとした表情で夜景を眺めている。
 ネオンが彼女の群青の瞳に映ってゆらぐ。

「今日までいろいろあったわね……良いことも、悪いことも」
「悪いことって俺が間違えてお風呂に入ってきたことですか?」

 咲夜が○○の言葉に噴き出した。
 広い大浴場で誰が入っているかなどは解るはずもなく、みごとに中で鉢合わせしたのであった。
 思いっきり頭に桶をぶつけられたのは言わずもがな。

「まったく……そういうどうでもいいことは覚えているんだから」

 そう微笑むいつもの咲夜がそこにいた。

「ケンカもたくさんしたわね。でも、いつも○○から謝ってきてくれて。私、我が強くて自分から謝れなくて……
 あと、風邪引いたときも看病してくれたわね。初めてにしては悪くなかったわ……あの御粥。
 美鈴と一緒に薬草取りに行っただけなのにやきもち焼いて困らせたわね。
 それから……」

 次から次へと彼女の口からは、二人の思い出が紡ぎだされる。
 ○○もそのときのことを思い出しながら何度も何度もうなずく。
 どれ一つとして全てが一致する思い出などはない。受け取る人によって、思い出の細部はまるで変わってくるからだ。
 気がつけば○○の緊張は完全にほぐれていた。
 ただ、ひたすら夢中になって彼女と出会ってから今に至るまでの話に花を咲かせる。
 おいしい料理にワインを楽しみながら、二人は二人だけのまったりとした特別なひと時を過ごしたのだった。





 フルコースを堪能した二人は、今ホテルの最上階に来ていた。
 予約してあった部屋は、なんとスイートルームだった。
 今まで紅魔館で働いていた仕事の量から換算して紫から円に換金してもらったらしいのだが、まさかこれほどとまでは○○は思わなかった。
 広さはレミリアの部屋と同等くらいあるだろうか。
 天井は高く、えんじ色のじゅうたんはふかふか。凝った細工がいたるところにちりばめられているいかにも高そうな調度品がそこここに構えている。
 ホテルの部屋を予約している。その意味するところは一つしかないだろう。
 ○○ははるか彼方に広がる夜景を見つめながら、体を硬直していた。

「シャワー終わったわ。○○も浴びる?」

 咲夜の涼やかな声がする。窓ガラスは夜景を存分に楽しめるよう、全面ガラス張りになっているため、咲夜の全身も映っている。
 ガウンを羽織った彼女が○○にゆっくりと近づいてきた。
 不意にふわりと彼女の両手が○○に差しのべられた。
 咲夜はそのまま背中から手をまわすと、彼をそっと抱きしめた。
 咲夜の濡れた髪としなやかな手と、密着した乳房を背中に感じて更に体を硬くする。

「ふふっ、そんなに緊張しなくても」
「あぅあぅ……。今日の咲夜さん大胆ですね……」
「んー? 酔っているからかしら?」

 咲夜が○○の耳もとで熱い吐息まじりの声でささやいた。
 ○○はぞくりとして首をすくめる。
 咲夜のつややかな声が耳から侵入して、彼の体全体へとひろがっていく。

「○○、抱いて……」
「はははは、はいぃっ!?」

 咲夜がつぶやいた言葉に○○は絶句した。あまりにもストレートな愛情表現だったからだ。
 ○○は窓ガラスに映る咲夜の姿を食い入るように見つめる。
 その目をまっすぐに見つめ返してくる咲夜の目は熱っぽく大きく潤んでいる。

「私、○○のこと、好きなのかもしれない。こういうこと初めてだからよくわからない……。
 けどあなたはもう私の中で欠かせない存在なの……好きって言葉じゃ足りないくらい……そうね、たぶん愛しているって言った方がいいかしら……」

 かすかに震えているのだろう。肩が小刻みに揺れている。
 初めての告白に咲夜も緊張しているのだろう。
 ○○は振り返ると咲夜の細く、火照った体を力いっぱい抱きしめた。

「ずるいですよ……。俺だって咲夜さんのこと好きで好きで堪らないのに……そんな告白の後じゃ何言っても陳腐にしか聞こえないじゃないですか」
「そんなの気にしないわ……。あなたの言葉で私に伝えてくれればいいの」
「……好きです。大好きです。あなたのこと、好きすぎて狂ってしまいそうなくらい……」
「ああ……うれしい。好きよ○○。大好き……」

 頬を真っ赤に染めた咲夜が胸の中で幸せな表情を浮かべる。
 ○○は彼女の顔を上に向かせて、唇を寄せた。
 柔らかな互いの唇を感じながら、二人は情熱的に舌を絡めていく。
 唾液が絡み合い、舌は生き物のように口内をまさぐる。

「んっ……ふぁっ……んぅっ!」

 吐息まじりの喘ぎ声が咲夜の口からもれでる。
 ○○は彼女の下唇を軽く甘噛みしながら、ガウンのベルトに手をかけた。
 緩く結んであるだけのベルトは、すんなりと床に落ち、同時に咲夜の前衣が大きくはだけた。
 純白のブラジャーやショーツに派手な装飾はない。それが咲夜の美しさに拍車をかけている。
 すらりと伸びた脚は黒のガーターベルトとストッキングをまとっている。
 白黒のコントラストが妖艶で、なおかつ清らかさをけして損なわない品のある最高のデザインの下着を身につけた咲夜はひどく魅惑的だった。

「さぁ、これから先は私の時間は○○のもの……。好きなように私をあなた色に染め上げて……」

 ○○がゆっくりと咲夜をベットに横たえたところでプツリと映像が途切れた――





「はいざんねん!! ここから先はそこまでよ! になるので映像はおしまいでーす」
「えーーーー!!!!」

 宴会で各々のデートシーンが流され、他のカップルもそうだが自分たちの番になって紫はこんなところまで見ていたのかと改めて彼女のデバガメ癖に気がついた。
 酔いまくった酔っ払いどもの大ブーイングの中、○○は俯いて震えている咲夜に声をかけた。

「だ、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。ちょっとあの妖怪を黙らせてくるから」

 ゆらりと立ち上がった咲夜を慌てて羽交い絞めにする。

「さ、咲夜さん! 落ち着いてください!!」
「は、離して○○! あの紫ババア一回痛い目みせてやらないと気が済まないのよー!!」

 暴れる咲夜を止めるため○○は彼女の弱点を攻撃した。
 ふぅっ、と耳に息を吹きかけささやく。この間のデートで見つけた咲夜の弱いところだ。
 びくびくっと身体を震わせポロリとナイフが手から落ちる。

「ダメですよ。あんまり暴れちゃ」
「いやぁん、でも○○これじゃオチがつかないわ……」
「もうこの状態で十分落ちてますよ」

 あむあむと耳を甘噛みされるたびに猫撫で声をあげ、身をくねらせる。

「ああん、そういう強引なところもすきすきぃ。もっと噛んでぇ」

 完全に別世界に行ってしまった二人の空気にやられ、早々と宴会はお開きになりみんな自分のうちでイチャイチャはじめたそうだ。

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最終更新:2010年05月16日 00:39