レミリア4
6スレ目>>199
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「なあ慧音。明日辺りじゃなかったっけ? ほら、彼」
「ん? ……あぁ、そうか。もうそんなに経つのか。早いものだな」
――んじゃ、よろしくお願いします。
――なんでそこまでする必要がある?
――恥ずかしいんですよ、俺が。
「――扉?」
見回りと掃除を兼ねた仕事中、私は此処に来てから一度も見た事のない扉を発見した。
完全で瀟洒なメイド長である私が把握していない部屋など無い筈なのだが……。
随分放置されてきたのか、相当にボロい。なんとなく気になり、おもむろに扉を開ける。
――ガチャリ。
さび付いている筈の扉は、いとも簡単に開いた。
そして、中に入り、何があるのか確かめようとしたのだが、
「……え?」
――その瞬間、世界が、空気が、変わった。
たった今まで日が出ていたのにこの部屋は夜。月が部屋を照らし出す。
知らない部屋、知らない匂い、知らない感覚。
知らないけれど、私はこの感覚を識っている。
ここは紅魔館であって紅魔館じゃない。
時間を操作できる私だから判る。ここだけ時の流れから取り残されたかのような感覚。
本来色を持たない筈の大気はセピア色に染まり、私は外界から断絶される。
ここはさながら壊れて止まった時計の中。紅魔館の中にありながら、紅魔館からその存在を忘れ去られた場所。
警戒する私の前には、知らない男性。
……誰かしら。この部屋の住人?
――誰が見てるかは知りませんが、お久しぶりです。もしくは初めまして?
その場合はさっさと回れ右してください。面白いもんでもないんで。
その言葉で即座に理解する。
この部屋と彼は私と同じ時間軸に存在していない、という事を。
――そこにレミリアは……いないよな? もしいたら今すぐ出てけ。
つーか今更お前に話す事は無い。お前に話すべき事は全部昨日話した。
――コホン。見苦しい所をお見せしました。えー、知ってる人は殆どいないでしょうが、なんでも俺はあと1~2日の命だそうです。この映像撮ってる時から。
つまり、名も知らぬアナタがコレを見てる時には、俺はとっくにお陀仏してます。
――出来れば、皆に直接会って言えればれば良かったんですが、諸々の事情と時間の都合によりそれは無理なんで、この映像を此処の住人への遺言? みたいな形で残します。
――ちなみに、あんまり早く出しても俺が恥ずかしいんで、俺が死んだ後、とある人に50年ほどこの部屋を隠してもらう予定です。
とりあえず ここに住んでる魔女とか妖怪の皆なら、50年くらい大したことない時間だろうし。あ、死人が恥ずかしがるなとか言わないで下さい。男心は複雑なのです。
――でももし、コレを見てるのが俺のことを知らない人だったり、紅魔館の住人じゃなかったら……もう一度いいます。今すぐこの部屋から回れ右して、この部屋に入ってからの一切の記憶を消去してください。
その際、紅魔館の住人にはこの部屋の存在については何も言わないで下さい。もう一度いいますが、男心は複雑なのです。
――いいですか? ……んじゃ、始めますね。
少しの間を置いて、彼は訥々と語り始めた。
――結果を言えば、ほんの少しの好奇心を持って聞いていたソレを、私は心から後悔する事になるのだが。
――まず死因ですが、寿命です。この前の満月の日、妹様がちょーっと興奮しすぎちゃって、大変な事になりましたね?
その時、ちょいとピンチに陥ってたレミリアを庇ったら下半身と右腕を吹っ飛ばされました(笑)。
死ぬほど痛かったです。死にましたが(笑)。やっぱ人間慣れない荒事はするもんじゃないですね。レミリアは無事だったんでよかったですが。
どうやら当時の彼はその場で死んだらしい。じゃあ彼は今、幽霊なのかしら?
それにしても妹様の前に立つとか、命知らずにも程があるわね。むしろアホだわ。
でも、彼は「後二日の命」と言った。矛盾してるわね。
――すぐさまパチュリーさんが回復に当たったしたらしいのですが、当然間に合わず、俺は9割9分死んだそうです。
ソレを聞いたとき、俺は妹様の圧倒的な破壊の力の中にほんの少しの優しさを感じました(笑)。
なるほど、蘇生したのね。妹様の直撃を食らって蘇生する、ってだけでも人間にしては随分頑丈みたいだけど……。
――殆ど死んでた俺は詳しい事は知りませんが、それでも色々頑張ってくれたみたいで、俺は今ここにいます。
が、これから先の命の殆どを使っての蘇生だったんで、その分の寿命を持っていかれた。と言う顛末です。
流石人間。妖怪とは寿命も身体の作りも違います(笑)。
まあ、そんなものよね。所詮人間だし。
――さて、本題ですが、俺が紅魔館で過ごした日々は、二十台の半分にも満たない俺の人生でしたが、その中で一番楽しく、充実した時間でした。
――そんなわけで、俺がここでお世話になった方々に、一言ずつ言っていきたいと思います。
――まず美鈴。いつもお仕事お疲れ様。カレーパンを渡した時、君に泣いて喜ばれたのは俺と君だけの秘密です(笑)。
――次、パチュリーさん。偶には外に出ましょう。この前帽子に茸が生えてましたよ。
――
小悪魔こと、こぁ。悪戯は程ほどに。立派なレディーになる事をお兄さんは祈ってます。
――メイド隊の皆さん。あんまり長い間じゃなかったけど、俺みたいな若輩者に付いてきてくれてありがとう。
――最後に、妹様。……なにとぞレミリアと仲良くしてやってください。ああ見えて意外と寂しがりやなんで。
――皆さん、俺は今、本当に幸せです。本当にありがとうございました。……そして、さよならです。
……なーんて言うと、ちょっとカッコイイ感じがしませんか? ……それじゃ、本当に、さようなら。
どうやらこれでお終いらしい。大して面白いものでもなかったわね。本人も言ってたけど。
しかし、お嬢様を呼び捨てにしたり、何様なのかしらね。ここにいたら即ハリネズミにする所だわ。今度冥界にでも行こうかしら。
……それにしても映像、終わんないわね。
目線を外して、やれやれと溜息をつく彼の姿。まだ映写機が動いてるのに気付いてないのかしら?
――はあぃ○○。
――幽香か。空気読んで待っててくれたのはありがたいけど、とりあえず窓から入ってくんな。……って、このやりとりも、もう最後か。
これって……あの花の妖怪?
なんで彼女が紅魔館に侵入してるのかしら。それも普通に窓から。いや、窓からは普通じゃないけど。
――で、どうした? 風の噂でも聞いたのか? それとも天狗か?
――そんな所よ。……でもほんと残念。貴方と遊ぶのは楽しかったんだけど。……この際吸血鬼にでもなったら?
とりあえず死なないわよ。日光とかは駄目になるだろうけど。
――吸血鬼、ね。
――嫌なの? やっぱり人間として死にたいとか?
――いやさ、今の遺言には入れてないけど、実は俺ってとっくに吸血鬼らしいよ?
蘇生の時、人間の命じゃ全然足りなくて、レミリアが俺を眷族にしたらしい。それでもこの有様さ。げに恐ろしきは妹様の破壊の力。ってね。
なにがおかしいのか、からからと笑う。
それにしても、お嬢様が眷属に? 彼、よっぽどのお気に入りだったのかしら。
あら? でも、もしそうなら……?
――……眷属になったんなら、主が死ななきゃ大丈夫なんじゃないの?
――そうなんだけど、俺の場合肉体じゃなくて、魂が死ぬんだってさ。パチュリーさんが言ってた。
――…………。
「…………」
私の疑問と同様の質問をする彼女に、彼はとんでもない事を言ってのけた。
魂の死。それは消滅。何も無い。行き着く先は本当の闇。
冥界に行く事も無く、閻魔に裁かれる事も無い。
それは、とてもとても恐ろしい事。勿論その事も彼女も知っているのだろう。
彼は……怖くなかったのだろうか?
――ふうっ。……あーあ、死にたくねえなー。
――っ!
「――っ!」
私の思考を読んだかのような一言に、思わず息を呑んでしまう。そんな事、ある筈が無いのに。
不意に、天井を見上げ、苦笑しながら、諦め気味にそう呟いた名も知らぬ彼。
飾り気も何も無い、思った事をそのまま口に出したのであろうその言葉は、これ以上無い諦観に溢れていた。
本当に、死にたくはないけれど。もう、彼は知っていたのだ。もう自分がどうにもならない事を。
――あー、なんつーか、悪い。誰かがいると、どうも弱音を聞いてほしくなる。
――…………っ。
――どした? ……なんだおい。お前泣いてんのか? 自称最強の妖怪がたかが人間一人のために泣いてんのか?
――当たり前、でしょ……。たった一人の……大切な、……友達、……なんだから。
――……そっか。さんきゅ。ま、皆と仲良くしろよ。無理っぽそうだけどな。
――ぶつっ。
そこで映像は途切れた。
私の目の前にはボロボロの部屋。
映像の部屋の面影は、ほんの一欠片も無い。
心に一つだけ抱き、私はその部屋を後にした……。
――――。
「お嬢様」
「何? 珍しく険しい顔して」
時間は巡り、今は夜。
私が部屋に付く頃には既にお嬢様は起きていた。
「お聞きしたい事があります」
「珍しい事もあるものね。……まあいいわ。今日は特別な日だし、なんでも答えてあげる」
「今日、とある部屋を見つけました」
「へえ?」
クツクツと面白そうに笑う。
お嬢様の事だ。大方私が何を言いたいのかも知っているのだろう。
ならばこれ以上無駄な前振りも必要ない。
「率直に聞きます。一体彼は何者なのですか?」
お嬢様が笑うのを止める。
その澄んだ瞳に移る感情は、私には読み取れない。
「……以前の執事長よ」
「執事長?」
予想外だった。
てっきり客かなにかと思っていたのだが……。
「そして、私が唯一大切にしたい、と心から思った人間でもある」
「……!?」
「ふふっ。やっぱり驚いたわね……。ほら」
私の驚きっぷりが予想通りだったのか、嬉しそうに何かの紙を投げて寄こすお嬢様。
音も無く私の目の前に落ちたそれを拾う。
「……」
それは、一枚の写真だった。
場所は……紅魔館のどこかだろう。
中心には満面の笑みを浮かべる例の彼と、赤い顔で膨れっ面をした、ウェディングドレスを着たお嬢様。お姫様だっこで抱きかかえられている。
横には手作りの粗末なブーケを持った、今とは違う幼い小悪魔と思わしき誰か。
その反対には美鈴と、彼女の頭の上に乗った妹様と、相変わらず本を読んでいるパチュリー様。
そして周囲には私の知らないメイド隊。
……考えるまでも無い。昔の紅魔館の集合写真だ。
「……これは?」
「昔、小悪魔にせがまれてやった結婚式ごっこよ。まま事みたいなものだったけど、楽しかったわ。彼も、私も、皆も」
「……」
「……あの数年間は幸せだったわ。本当に」
そう月を見ながら微笑むお嬢様の手には、何時の間にかワインボトルと二つのグラス。
「咲夜。少し飲むわ。付き合いなさい」
「……かしこまりました」
私はそれ以上何も聞く事は無かった。聞きたい事はとうに聞いてしまったのだから。
因みに、そのワイン、普段私やお譲様が飲むモノと比べるととてもではないがいいものではなかった。
お嬢様曰く、今の幻想郷では滅多に手に入らない貴重品で、彼が事のほか好んだのだと言う……。
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――50年だ。それ以上は待てない。
――それで十分。あ、お前は偶に来てくれてもいいぞ? ただしあの酒が手に入った時だけな。
あの数日後、私は突然お嬢様に呼び出された。
「咲夜。出るわよ」
「……今日はどちらへ?」
「内緒、よ」
疑問を投げかける私にそう妖しく笑う。
その笑みが激しく気になるが、まあお嬢様の気紛れは今に始まった事でもないので何も言わない。
主の意向にそぐわないメイドなど、完全で瀟洒な従者の名が泣くというものだ。
とりあえず今日は晴れ。日傘を用意しなくては。
「……遅い」
「まあまあ」
門に差し掛かった私達を待っていたのは二つの影。
いつもは図書館に篭りっきりのパチュリー様と小悪魔だった。小悪魔はともかく、珍しい事もあるものだ。
そして何時の間にか、門の周りには知らない妖怪達が十数匹。……いや、私はその顔ぶれを知っている?
「小悪魔、フランは?」
「妹様は……どうしても行けないと」
「……そう」
残念そうに深い溜息をつくお嬢様。
今日出かける所には妹様も関係があるのだろうか?
「じゃ、美鈴。行ってくるわ。後よろしく」
「行ってらっしゃいませ」
珍しくお嬢様が門番に声をかける。私の知る限り、これが初めてじゃないだろうか?
その時の門番は、いつものヘタレている彼女と違う、これもやはり私が初めて見る、真面目な表情をしていた。
そして何時の間にか、あんなにいた妖怪達はいなくなっていた。
――――。
四人は行ってしまった。
私も一緒に行きたくはなかったと言えば嘘になる。
だけど、私には私の仕事がある。そう易々とここを動くわけにはいかない。
「よしよし。行ったな……」
「……」
やっぱり来た。白黒だ。
大方皆が出て行くのを見計らっていたのだろう。
私も随分と舐められたものだ。……いつもの事だし、仕方ないと言えば仕方ないが。
「よう中国。今日も通してもらうぜ」
「……他の日ならいざ知らず、今日は、今日だけは、何があってもここを通すワケにはいかないんですよねー。咲夜さんも行っちゃいましたし」
「はっ! 冗談。こんなチャンスを逃すほど私は人が良くないんでね。そっちの都合なんか知ったこっちゃない」
勿論そんな事は判っている。そんな事で引き返してくれるなら苦労はしない。
そして、彼女を打ち倒す事がそう簡単でない事も。
しかし、今日、お嬢様は私に後の全てを任せた。
ならば、私は持てる全力を超えてでも、お嬢様の信頼に応えなくてはならない――!
「それくらい、こっちも承知の上。だから……」
――スッ。
「んなっ!?」
私が腕を上げるのと同時に、音も無く魔理沙を囲む私の昔の同僚達。
皆、最後に会った時から何も変わっていない。
今日この日、誰一人欠ける事無く集まってきた事を、私は心から喜ばしく思う。
――彼は、弱かった。今の紅魔館を束ねる咲夜さんや目の前の白黒、紅白と比べると、彼女達が同じ人間なのか、と疑わしい程に。
――だから、彼は自身を中心に私達の力を連携によって最大限に発揮し、生かす術を実践した。
――結果は上々。あの妹様を相手にしてもお嬢様とパチュリー様が到着するまでの数分は持ちこたえられる、という驚異的なものだった。
――そしてその日から、妹様相手に死者は出なくなった。
――仕事仲間が誰一人欠ける事の無くなった、という事実に、彼は心から喜んだ。私達も、また同様に。
――幾度となく繰り返した戦いの果てに手に入れたもの。それは、仲間という名の掛け替えの無い力であり、信頼という絆だった。
「いつも通り頭数揃えて、私に勝てると思ってるのか?」
「いつも通りの、面子なら、無理、でしょうね……」
(こいつ、泣いてる……?)
懐かしく、心地いい空気。
思わず溢れた涙に視界が滲む。
そしてそれに呼応するかのごとく、退屈な日常に色褪せた筈の私の魂が、本来の色を取り戻す。
本来その中心にあるべき彼はもういないけれど。決してあの時には戻れないけど。
彼からもらった仲間への信頼を胸に。力を拳に、弾幕に。私は、皆は、ただ込める。
楽しかった思い出の日々の体現に囲まれて、私はあの時の私に還っていく。
今日の敗北は絶対に許されないのだ。そう。大事な人々の信頼と、私自身の誇りにかけて。
皆と目を合わせる。覚悟と準備は万端。さあ、始めよう。
「……私は紅魔館が門番、紅美鈴!」
「あーあー、派手に口上なんか垂れちゃって」
「美鈴、慣れない事はするもんじゃないわよー」
……茶化された。にも係わらず、それが心地いいと感じる自分がいる。
彼女達とは、彼を喪って以来会っていないのだから。
もし、彼女達が残っていたら……いや、詮無きことか。
「んじゃ、久々にお仕事と行きますか?」
「狼藉者を追い返す、素敵で野蛮なお仕事をねっ――!」
――――。
紅魔館から飛ぶ事十数分。
到着したのは小高い丘。そこにあるのは粗末な石が只一つ。
そしてその前には……。
「向日葵?」
「……アイツも来てた? いや、来てるのか」
墓前に咲いた一輪の向日葵を見、感情を込めずに呟くお嬢様。
探ってみれば周囲には一つの気配。あの花の妖怪だ。
彼女ほどの猛者、とうに私達に気付いているだろうに、その場から動こうともしない。
「お嬢様。どうします?」
「どうもしないわ。彼女は彼の一番の友人なんだから。彼女は私の知らない彼を知っている。ふふっ……少し妬けるわね」
――当たり前、でしょ……。たった一人の……大切な、……友達、……なんだから。
――……そっか。さんきゅ。ま、皆と仲良くしろよ。無理っぽそうだけどな。
「……」
私はここにきてようやく合点がいった。
この前の彼だ。私が生まれるずっと前に私のポジションにいたという、お嬢様の恋人。
ということは、ここは彼の――。
「やっと気付いたわね、咲夜」
「レミィ。この子、彼の事知ってるの?」
「ええ。最近まで消失してた彼の部屋を見つけたのが咲夜よ」
「……そう。なら話は早いわね。今日は彼がこの世に生を受けた日であり」
「ここは50年前の今日、彼が私を置いて消えて逝った場所」
謳うように言葉を紡ぎながら、お嬢様はあのワインを石にかける。
私の横からは小悪魔の嗚咽。
あーあ、可愛い顔が涙でグチョグチョじゃない。
――捧げしワインには去りし彼への慕情を。
――かける言葉には万感の思いを。
「……誕生日、おめでとう」
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――夢を見ている。
――懐かしくて、楽しくて、そして……切ない夢。
さて、今日は此処ね。
湖の畔にある館、人呼んで「紅魔館」。
当主が吸血鬼だかなんだか知らないが、とりあえず気に入らないので虐めに来たのだ。
(誰だか知らないけど門番はザルね。裏からだと余裕じゃない。まあ私なら表でも余裕だけど)
とかそんなどうでもいい事を考えていたら、裏玄関から誰かの声が聞こえてきた。
「……! ……!」
なにやら怒鳴っている。
甲高い声が耳にうるさい事この上ない。
(先客かしら?)
慌てて木の上に身を潜める。
って、何で私が隠れる必要があるのよ。今更出て行くつもりも無いけど。
覗く先に映るのは、一匹の氷精と、一人の人間。
「今日こそアタイはアンタ達に勝ってみせるわ!」
「お嬢様は只今お休みの時間ですが」
「だーかーらー! アンタ達だって言ってるでしょ!?」
そう言えば今は昼。確かに吸血鬼の時間ではない。
そんな事を忘れるとは、私も遂にヤキが回ったのだろうか?
「何がなんでも戦うと?」
「勿論! 今日こそギャフンと言わせてやるわ!」
「どうしても?」
「どうしても!」
ヘラヘラと張り付いた愛想笑いを浮かべる男。
……そのすました顔、気に入らないわね。瞳に感情が無い分、余計に。
「では、ご要望にお応えして、僭越ながら私達がお相手仕ります……皆! 仕事の時間だ!」
――パチン。
音高く指を鳴らす。それと同時に、何処からともなく十数の影が彼の周囲に現れる。
……少しは出来るみたいね。勿論私には遠く及ばないけど。
そして気が付けば、その内の一人、赤い、そして長い髪をしたチャイナメイド(?)が氷精を睨んでいる。
他のとは明らかに違うあの服を見るに、彼女がリーダーなのかしら。で、皆の代表として何か言う、と?
それにしても彼女、胸……大きいわね。
――その時の私は、どんな青臭い罵声(例えば、この屋敷とお嬢様は私達が護る、とかそんなの)を浴びせるのかと楽しみにしていたのだが、
そのメイド(後に彼女が門番だと知る)の口から出てきた言葉は、そんな私の予想の遥か斜め上を行くものだった。
――ぷっ。
「あは、あはははははは! ねえちょっと聞いた? “皆! 仕事の時間だ!”だって! しかも指パッチン! お、お腹いたい!! 死ぬ、これはいろんな意味で死ぬ!!」
「聞いた聞いた! そ、それにしても、隊長の言葉遣い違和感ありすぎ! 聞いてて鳥肌が立っちゃった!」
場は一瞬で爆笑に包まれた。緊張感も何も無い。
きっと今の私は、実に形容しがたい表情をしている事だろう。
しかし、隊長? 彼が? この中で一番弱いであろう、人間の彼が隊長?
「うおい! 折角人がかっこよくキメたっつーのに、お前らのせいで台無しじゃねーか!」
「今更かっこいいもないでしょうに。隊長はむしろヘタレキャラで行きましょうよ。"や、やるのか!?"とか"俺のメイド部隊が全滅だと!?"みたいな」
「ま、私達は隊長のモノじゃありませんがねー」
……なんだろう、これは。
まさか、私ともあろうものが来る場所を間違えたのだろうか?
「ちょっとアンタ達! アタイをバカにしてるの!?」
「おっと、毎度の事ながら悪いね。どうにも緊張感が無くって」
なーんて軽く現実逃避を始めていたら、氷精が癇癪を起こした。気持ちは判らないでもない。
そして、そんな彼女に苦笑交じりに向き直る彼は、本当に、普通の、人間だった。
「……へぇ」
――弾幕ごっこが、始まった。
――彼はひたすらメイド達に指示を出し、自身は決して弾幕は張らない。寧ろ張れないというべきだろうか?
――そして、一際目を引くのは、彼女達メイドのやる気のあるのか無いのか判らない態度だった。
「隊長! 残業手当として今日も夜雀の屋台で奢りヨロシク!」
「あ、じゃあ私は香霖堂で!」
「こっ、の極道メイド共が! 俺の財政状況を知らんわけでもあるまい! 赤字も赤字、まっかっかだぞ! つーかまだ通常勤務だ!」
「またまたぁ! そんなつれない事言っちゃって! でもお優しい○○は結局奢ってくれるんでしょ? だから、好、き、で、す、よ!」
――ちゅっ
そんな事を言いながら、あの最初のチャイナが弾幕をギリギリで避けながら彼に投げキッス。
余裕綽々にも程がある。……あ、氷が頭に当たった。きっと彼女はヘタレね。間違いない。
「あははっ! 美鈴、隊長誘惑してるとお嬢様に怒られちゃうわよ? “いい度胸だ。気に入った! 中国、地下室で妹をFU○Kしてきていいぞ!” とか言われて」
「うっわ、それはイヤ。絶対死ぬ(笑)」
中国……なるほど。言いえて妙ね。
てかメイドがFU○Kとか言うの止めなさいよ。イメージってもんがあるでしょうが、イメージってもんが。
「ば、ばかにすんなー!」
あ、氷精がキレた。
まあ、殆どシカトに近い扱いだったしね。怒りもするか。
――にやり。
「隙あり! ぽちっとな」
そこに彼が嫌な笑みを浮かべ、屋敷のブロックの一つを押す。
だが、その発動音声はボタンの場合だと私は声を大にして言いたい。隠れている手前言わないが。
――ガンッ!!
「ジェロニモッ!?」
超高速で氷精の頭に直撃したのは、かなり大きめの金ダライ。
……ていうかここ、屋外よね。今のどこから降ってきたのかしら?
視線を戻す。氷精はと言えば、あの一撃に見事にKOされていた。まあ、相当な速度だったし無理もないか。
「さーて、今日も完勝、
大妖精さん呼ぶか……」
「ちょっと! アタイは……! まだ、負けてないわよ!」
「今日はお終い、また今度な。次はお前がすっごく強くなった時に相手してやるよ。主に美鈴とコイツらが」
「ちょ! 隊長! 次こそは自分だけでやってくださいよ! 門番の美鈴はともかく、私達は仕事があるんですからね!」
「無茶言うな! 俺が出来る事はメイド隊という名のファンネルの操作だけだ! それに仕事があるのは俺だって同じだっつーの!」
「またこの人はワケのわかんない事を!」
意味の無い会話を交わし、笑い合っている。
彼自身にはなんの力もないくせに、彼女達妖怪から慕われていることがよく判る。
……うん。面白い。少し興味が沸いた。
後で彼の部屋に遊びに行ってみよう。ついでに死なない程度に虐めに……。
――――。
「……寝ちゃってた、か」
起きるのと同時に伸びをし、目を擦る。
時刻は夕方になろうかという所だろうか。
例の吸血鬼とそのご一行さまは、数分間墓に話しかけたりした後、帰っていった。
で、その後つい日差しが気持ちよくって寝てしまったという所だろう。どうせ風邪なんか引かないので問題ないが。
「ちょっと、聞いてんの? アタイ、ちゃーんと覚えてたわよ? 最後に会った時、強くなったらまた来いって言ったでしょ?」
「……」
そして丁度そこに新たな声と気配。今度は……あの氷精、と大妖精とかいう奴?
そういや、夢の中でもそんな事言ってたわね。
結局あれから、彼は死ぬまで毎回同じ事言ってたみたいだけど。
「アタイ、すっごく強くなったんだから! この前なんて、閻魔にだって勝ったのよ! もう最強よね!」
「でね、死神と閻魔にアンタの事聞いたの。でも、二人とも、そんな人間は知らないって。あの世には来てないって……っ!」
「
チルノちゃん……」
「っ……! 勝ち逃げ、なんて……、絶対許さないんだから……!」
「チルノちゃん! ……って行っちゃった。じゃあ、○○さん。また、来年も来ますね」
氷精は凄い速度で飛んでいってしまった。そしてすぐさまそれを追いかける大妖精。
それにしても今の言葉を聞くに毎年来てるとか? 律儀ねぇ。
近くに花畑がある関係で、此処には結構な頻度で来てるけど、今初めて知ったわ。
――胸に抱きし想いに気付けども、貴方は当に消えてしまい。
――ただ一つの逢瀬が叶いしその場所は、遥か遠き夢の中。
「……なんてね」
感傷に浸るなど私らしくないが、たまにはこういう日があってもいいだろう。
なにせ今日は、この私の友達の誕生日なのだから……。
――了。
「ちょっと、あんた達……ナマってんじゃないの……? ズタボロじゃない……」
「そういう美鈴だって……体力落ちたんじゃない……? とっくの昔に引退した私たちはともかく、アンタは現役でしょうが……」
「うるっさいわね……門番ってキツイのよ……。一日一食に減ったし……。しかも昔と違って今はサボるとナイフ飛んでくるし……」
「まったく……隊長が今のアンタ見たら、きっと泣いて指差して笑うわよ……?
“赤貧の俺から散々集った罰だ! ざまーみろばーか!”とか“俺のありがたみが判ったか!”とか大人気無い事言って……」
「あぁ……それ、凄くわかる……。ありがたみも……」
――(今度こそ本当に)了。
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6スレ目>>583
「ふう……。やっと着いた」
俺は目的地に着いたので、そう呟いた。
「……何時見ても大きい屋敷だな」
目的の場所――紅魔館――を見てそう言ってしまう。
「しかし、何で俺なんかを指名したんだろう?」
俺はそう思いながら館に入っていった。
「じゃあ○○、付いて来て」
咲夜さんに部屋まで案内してもらう事になった。
目的の場所まで歩きながら俺は、ポケットに入れておいたブツを見る。
そして思う
こんな物持ってきて良かったんだろうか?
と。
そう思っていると部屋が見えてきた。
場所は変わって屋敷の一室。
「ところで、なんで俺なんかを呼んだんだ? 他にも友人は居るだろうに」
「ん? 理由か? 今日は知り合いは皆用事が有るらしいからな、一人暇なお前に相手をしてもらおうと思ってな」
俺が理由を聞くと、かなり自分勝手な事を言ってくれた。
「有り難いと言えば有り難いが、おまえ何か俺を馬鹿にしてないか」
その答えに幾分か呆れながら俺は言う。
「うん? そんな事あるはず無いだろう?」
俺がそう言うとレミリアは、さも可笑しそうに言う。
……ぜってー面白がってやがる。
この際アレを渡さんでおこうか。
本気でそう思ってしまった。
「じゃあここで。ところでパチュリーさん達も居ないのか?」
俺は一手打ちながら言う。
彼女が皆いないと言ったので、あの人もどこかに行く事が有るのかな? と思ってしまったからだ。
「むう、ここだな。ああ、パチェは魔法使い同士で語り合うらしい。今日に限っては咲夜しか居ないぞ」
レミリアも一手打ちながら答えてくれる
「……。あの人が何処かに行くとはめずらしいねぇ」
まず……。
次の手が思いつかないので少し話を振って時間稼ぎする事にした。
「確かにそうだな、って○○その手には乗らんからな」
しかし彼女は、俺の思惑に勘付き釘を刺してくる。
だが俺は次の手をもう考えている。
「ち、流石にこんな手には乗らないか……」
しかし俺は、自分の思いとは反対の事を言う。
「……まあいい。さっさと打て」
そんな俺をレミリアは疑っているのか、なにやら考えながらも先を促す。
「じゃあこのナイトをここに。しかしここはクリスマスを祝わないのか?」
そう言い、一手打つ。
「……阿呆か貴様は。吸血鬼が、悪魔がキリストの誕生日を祝う訳無かろう」
レミリアはそう言い返しながら、一手打つ。
まあ当たり前の返事だなと俺は思う。
「確かにそうだな。しかし如何でもいい事なんだが、貴様と言うのは普通男からしか言わんぞ」
一つ穴があったのでそこを指摘してやる。
「そうだったか?」
するとレミリアは、一瞬キョトンとした顔になった。
この時の顔は、見た目の年齢に相応しい無邪気なものだ。
中々レアなものが見れたな。
俺がそんな事を思っていると、彼女はそう聞き返してくる。
「ああ、そうだった筈だぞ」
そして俺はそう言ってやった。
「……チェックメイトだ。」
俺は何とかそう告げた。
数十手にも及ぶ勝負の決着がやっと付いた。
「く、これで通算56戦23勝31敗2分けか……」
レミリアは悔しそうにそう言う。
「ん……。そうだな今回は何とか勝てたな」
俺は、咲夜さんに持ってきて貰ったワインを少し口に含みながら言った。
「ん、ん……。ふう、次は負かしてやるからな」
彼女も俺と同じように呑みながら言う。
「ああ、楽しみにしているよ」
そして俺は、少し機嫌よく言った。
「と、そうだ咲夜さん、これ受け取って貰えますか?」
そう言いながら俺は、ポケットから綺麗に包装された小さな箱を一つ取り出し咲夜さんに手渡した。
「私に?」
すると驚いたように聞いてくる。
「はい。何時もお世話になっていますからね」
この人には、よくお世話になっているのでそう言う。
「あ、でもそんな良いものでは無く、ただのペンダントですし……」
「……いいのよ値段なんて。とっても嬉しいわ。ありがとう○○」
俺がそう言うと、咲夜さんは少し微笑んで受け取ってくれた。
「○○、私には何も無いのか?」
するとレミリアが、期待に満ちた目で聞いてくる
俺はやっぱりな、と思う。
咲夜さんに渡せばそう聞いてくると思ってた。
ここで普通に渡しても良いが、どうせなら少しいじめてみようか。
そして俺は実行した。
「ん~。悪魔はクリスマスは祝わないのでは無かったのか?」
俺はレミリアを苛めるように言う。
「た、確かにそう言ったが、一応私もお前の面倒を見てやったりしているぞ」
レミリアは、なんとかそう言い返してくる。
「確かにそうだが、俺はお前の暇つぶしとやらに付き合って色々苦労もしているぞ」
だからそう言い返してやる。
「む……。……そうだなお前には迷惑も掛けてきたしな、私は諦めるか」
すると、レミリアは少しだけ悲しそうに言った。
「じゃあ、そろそろ俺は帰るな」
時間もだいぶ遅くなってきたので、そろそろ帰ることにする。
「……ああ○○、気をつけて帰るんだぞ」
レミリアはまだ悲しそうにしている。
そんなレミリアを一瞥して俺は部屋を出た。
「ちょっと待ちなさい○○」
しばらく歩いていると、咲夜さんが追いかけてきた。
実はここまで予想道理の展開である。
そう思いながら俺は言う。
「咲夜さん? どうかしましたか?」
すると咲夜さんは俺に聞いてくる
「本当にお嬢様には何も無いの?」
と。
だから俺は言った。
「いいえ、ちゃんとありますよ」
すると今度は、別の事を聞いてくる
「なら、なんで渡さないのかしら?」
彼女の質問は尤もなので、俺は理由を言った。
「これがクリスマスプレゼントだからですよ。これって、眠りから覚めた時に有った方が良いと思わないですか?」
俺がそう言うと彼女も理解したようだ。
「つまり、これをレミリアが寝た後に枕元に置いて欲しいんですよ」
そして俺は包装された小さな箱と一枚のカードを手渡す。
「解ったわ。本当なら貴方が置くべきだけど、貴方じゃ気付かれちゃうからね」
そして咲夜さんはレミリアへのプレゼントを預かってくれた。
「じゃあ、頼みましたよ」
俺は最後の確認にそう言う。
「ええ解っているわ」
彼女は心強い返事をしてくれた。
「では良いクリスマスを」
そして俺はそう告げて歩き出す。
「貴方もね」
彼女も俺にそう言い、送り出してくれた。
今年のクリスマスは、彼女達にとって最高の日でありますように。
俺はそう思いながら帰路に着くのだった。
あとがき
レミリアを格好良く書きたかった。
しかし俺にはこれが限界だった。
まぁ、そんな事は置いておき、最後に一言。
皆さんよきクリスマスを――
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7スレ目>>170
「・・・・ねえ○○」
「ん?どうした?レミリアいつになくしおらしいじゃないか
さすがのお前も始めての出産に緊張してるのか?」
「・・・・・・・・・」
(図星かよ・・・まあそれもそうか、初めてだったわけだし・・・
そうなると子どもを生むのも初めてになるよな)
「あーすまん、俺が軽率だった、そりゃ不安にもなるよな
でも安心しろ俺が付いてるしなにより紅魔館の皆がいるじゃないか」
「・・・ええ、そうねそれにこのおなかにいる子は○○と私の子ども
その事を思うだけで私はこの500年生きててよかったって思うのよ」
「そ、そうかありがとな」
「それはこっちのセリフよ、○○と会えて本当に良かった」
「絶対に幸せにするからなお前もおなかの子も」
「ふふふふ、頑張ってね お と う さ ん」
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7スレ目>>518>>541
コンコン
「んー?どうぞー開いてるよー」
「お邪魔するわね○○」
「ん?どうしたよレミリア」
ある日の夕方何もせずに夕飯までごろごろしていた俺の所にレミリアが咲夜さんを連れずにやって来た
「あら、恋人の家に来るのに理由なんて要るのかしら?」
「そりゃそうだな、まあどこか適当に座ってくれ、今お茶入れるから
咲夜さんほどじゃないけど」
「期待しないで待ってるわ」
カチャ
「ほい、お待たせ」
「ありがとう、それにしてもどうしたのこの葉、結構いいものじゃない」
「ん?ああ、アリスがなんかやるって言ってんで貰った」
「……そう」
そう言うとレミリアは突然黙り込んでしまった
そこまでまずかったんだろうかこの紅茶
と、そうおもったその瞬間
がしっ
レミリアは俺の首を掴んで壁にたたきつけた
どがっ!
「ぐぅ!?レミ、リ…ア何を?」
ぎりぎり
「……やっぱり駄目ね、貴方の口から他の女の名前が出るだけで私はこんなにも嫉妬してしまう
だから、今日この場であなたを私の眷属にするわ」
そう言ってレミリアはおれの首筋に牙を付き立てた
ぷつっ
レミリアに血を吸われ自分の体が人ならざるものに変質していくのが分かる
「ごめんね○○、ごめんね、それでも私は貴方の事が好きなの」
「気に……する、な」
泣きながら俺に謝罪するレミリアを見ながら俺はそんな言葉しか言えずに意識を手放した
勝手に↑の続きなんぞを書いてみた。
「・・・○○、目が覚めた?」
彼に出来る限り微笑みながら私は問いかけた。
「ああ、まだ体がちょっとだるいけど・・・問題ないよ。」
「そう、良かった。」
しばしの沈黙。
「・・・・・・俺は、もう人間じゃないんだよな。」
「・・・・・・」
「俺はレミリアと同じ吸血鬼になったんだよな。」
「ええ。」
私の返事に彼は苦笑いを浮かべた。
そして彼はまた真剣な顔つきに戻るとこう言った。
「レミリアは、後悔してないのか?」
「えっ?」
「レミリアはこれから俺と長い年月を過ごすことになる。
本当に俺を選んで後悔はしてないのか?」
彼は何を言っているのだろう。
何故彼は私が吸血をしたことを責めないのだろうか。
「あなたは私に血を吸われたことについて何も思わないの?」
「思うって・・・ああ、血を座れるのはちょっと痛かったよ。
出来れば次からは勘弁してほしいな。」
「そうじゃないっ!!」
私は思いっきり立ち上がり叫んだ。
「なんであなたは私を責めないの!?なんであなたは恐れを感じていないの!?
なんであなたは・・・!」
私の心配をしているの・・・?
「レミリア・・・。」
「私はあなたの了承も得ずに勝手に血を吸った。勝手にあなたを自分の物にした。
しかもただの嫉妬で!あなたが他の女の名前を出しただけで!!」
「私は・・・、私は自分一人の意思であなたの運命を変えてしまった。
500年生きていても、結局見た目と同じ、幼稚な考えしか持てない最悪な女・・・いえ、子供よ。」
再び沈黙が流れた。
彼は何も言わず、私を見ている。
「・・・そうだな、俺はレミリアを許すわけにはいかない。」
「・・・・・・。」
「レミリアが悪い、って思ってるなら一つだけ俺の願いを聞いてくれ。」
「・・・何?」
「お前の命が尽きるまでずっと隣にいさせてくれ。この願いを聞いてくれるなら俺はお前を許す。」
そう言って彼は優しい笑みを浮かべた。
私は思わず彼の胸に飛び込んだ。
「私からも・・・、私からもお願い。ずっと私の隣にいて。」
「ああ、わかった。」
そう言って彼は私を抱きしめた。
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最終更新:2010年05月23日 01:33