レミリア13



Megalith 2011/06/06(2011/03/03投下分の改訂版?)


 既に日が落ち、辺りが闇につつまれるなか月明かりだけが静かに外を照らす。
 月の周期が一周した本日は満月。いつより余計に輝いております。 

「今日はゆっくり自分の時間が楽しめるな」

 いつも何故か、こうした綺麗で素晴らしい夜に限って現れていた来訪者もとい邪魔者が来ることは無い。
 そいつは今頃盛大に行われているであろう博麗神社での宴会を楽しんでいるのだから。
 催しに本を読むという崇高な理由で参加しなかった俺は、自宅にこもり一人ランタンを付けいそいそと本を読むシチュエーション作りに勤しんでいた。

「べ、別に誘われなかった訳じゃないんだぞ。ほんとだぞ!」

 いい夜では静かに読書をするのが俺のジャスティス。 と 誰に聞かれたでもないが勝手に弁明をしておいた。
 あの面子の騒ぎに巻き込まれてはこんな雰囲気を堪能できないのは眼に見えているじゃないか。だから、俺は今回の宴会には参加しないとに決めていたのだ。
 ……とは言ったものの、実のところ気分にもよるのであしからず。騒ぎたい時だってあるさ漢の子だもの。

 さて、準備へと戻ろう。
 ただ本を読むだけであるが、雰囲気を得るためにもセッティングは重要なのだ。
 まず、月明かりが一番に差し込む窓側へ香霖堂で吟味し頂戴した木製の椅子と机を配置、そしてテーブルクロス。
 これは無理をいって裁縫の魔女に作っていただいたものだ。ん? 人形使いだったっけ? まぁその辺の疑問は横においておこう。
 シンプルながらも輝いを放つクロスを掛けられたテーブルはただ掛けただけなのに何処から見ても高級ホテルなどである机そのものに思える。
 準備はコレで終了。
 呆気無くできた絢爛な席へと着席し、淹れたての紅茶を優雅にたしなむ。するとどうだ。自然と流れてくるダバダーという脳内BGMと共にちょっとリッチな気分に浸れるのだ。

 おおっ、なんだか高揚してきたぞ。

「ふふふ、今の俺は違いが分かる男。そうだろ? ふははは」

 誰に尋ねるでもなくつぶやき高笑いを決め込むのもまたこの俺、違いがわかる男を演じるならでは。
 人格が変わるほどのテンションを素直に表すなら、High――――最高にハイって奴だ。

「ふふ、これぞ至福のひととき。堪らんな……」

 シチュエーションは整った。後は本を読むとしようか。
 勿論朝までコースで。そうして優雅に静に素晴らしい夜を過ごそうではないか――――

「ほんと脆いわねこの扉。前にも言ったじゃない。私のために修理しなさい、と」

 突如として大きな音を立て崩れる玄関の扉の方へ目を向けると、来訪者の少女、レミリア・スカーレットが呆れ顔で立っていた。
 その手に我が家のドアノブを持っている。

 ははーん、なるほどね、理解したぞ。 

 俺の一人静かに本を楽しむという行為を彼女の来訪により目前のドアのように脆くも壊れ去ってしまったのだということにな。

 ――――クソッ俺の優雅な夜、返せよちくしょう……。

「あと、○○は来客者へのおもてなしの心がなっていないんじゃないの?」

 などという、俺の渾身の思いもどこ吹く風。
 レミリアは手に持ったドアノブをその辺に捨て自らの家の敷居をまたぐよう自然に入ってきた。

「まったく、こうした突然の来訪者に対して咲夜なら――――」

 いきなりのイチャモンかよ。と嘆息しながら、彼女が置いていったカップへ紅茶を注ぎソーサーの上へ置いた。
 衝撃的来訪にも行動停止させない驚くほどの流れる動作は慣れた事だからこそ出来るもの。

 環境は否が応にでも人を変えてしまうのだ。

 まぁ、現世なら考えられない事が次々と起こるこの幻想郷だからイヤでも変わる。変わらないほうがおかしい断言しよう。
 この変化の良し悪しがどちらなのかは分かりかねるが、ここに順応できている証とした分にはそれはまぁいいことなんだろと思いたい。

「ん、ありがとう。なかなかいい香りね。味もまぁ、ギリギリで私の口に合っているわ。まぁ咲夜が淹れるのよりは遥かに下になるけど」

 淹れた紅茶への辛口評価に苦笑。
 味なんかよりも驚かずに手際よく茶を用意する俺を是非とも評価していただきたいのだけどねえ、ってそんな俺への心遣いはこのお嬢様には無理か。
 あとさ、お前のところの瀟灑な従者のあの人と比べないでもらえないかな。
 何故かって? 比べられちゃうと可哀想だろ? 誰がといわず俺が。
 勿論すごく惨めという意味で俺が。重要なことなので二度言いました。

「やれやれ、せっかくの来店早々に申し訳ないけどな。残念ながらタッチの差で店じまいしたものでね、それ飲んだら出ていって欲しいんだけど」
「ふーん。で、いつからこの小汚い部屋はお店になったのかしら?」
「……ただお帰りください、って意味で言ったんだけど。あと小汚いは余計だろ小汚いは」

 これでも頑張って掃除しているんだぞ。

「見たままを言ったまでよ」
「でしたら、ここのお部屋にいてはお嬢様のお洋服が汚れてしまいます故に、どうかお帰り下さいませ」
「なにその対応気持ち悪い……まぁ悔しかったら私の部屋位には綺麗にすることね」

 いやまったくもって悔しくはないし、そのしたり顔をやめろ。
 お前の部屋が素晴らしいほど綺麗なのは、あの優秀な従者の瀟灑さんがやってくれているわけでお前が威張ることじゃないだろ。
 それなのになんでそうも自分の事のように自慢できるんだよ? 溺愛してるのか? それならば彼女はさぞ幸せじゃないか。
 なんといったか、主従冥利に尽きるってやつだよなこれ。やったじゃん褒められてるよ。さすがだね瀟灑従者さん。

「はいはい、精進しますよこんちくしょう。しかしよくもまぁ、至福のひとときを邪魔しに来てまで今日は何の用なんだよ」
「邪魔だとはよく言ったわね。私自らこんなところに、こうして出向いてやったというのに」
「こんな小汚い所に何度となくブッ壊して来ているのは何処の吸血鬼様でしょうかね」
「何よそれ? もしかして、仕返しのつもりか」
「いや、本当のことで仕返しも何もないだろ。貴様は自分が壊したドアの数を覚えて」
「いない」
「さいですか」

 既におわかりただけただろう。
 何度も、といったのはその言葉通り、最初に綴った「綺麗な夜に現れる来訪者」とは今、目の前でふんぞり返っている彼女のこと。
 何故かはわからないが、いい夜の日には決まってドアをちぎっては投げちぎっては投げ、この小さな吸血鬼、紅魔館の主レミリア・スカーレットは乱入してくるのだ。

「……ったく」

 それでも俺は「来るな」とは言わない。 陰湿な自分としては静かな方が好きではあるものの、賑やかなのも嫌いじゃない。
 勿論、それは時と場合による。今日はそんな気分じゃないのは冒頭で言ったとおりなのであしからず。

「ん? 何よ人の顔なんかじっと見て」
「人じゃねえだろ」

 大体、なんでここの連中はアポ無しで人の家に上がりこんでくるの? 
 いちいちドアぶち壊してまで乱入してきてなんなの? いじめっ子なの? 勘弁していただきたいね。
 お前らの気まぐれ来訪で仕方なく壊されるドアの身にもなってもみろ。悲しくなってくるだろう。
 無残にも母体を壊されそこに転がっているドアノブを見てみろ。本当に、ほんっとうに、悲しくなってくるだろう。

「この悲しみがわかるか!?」
「知らないわよ」
「ですよね」

 いきなりの怒声にため息をつかれ変なモノを見るような目で見られた。
 ちょっとドアの気持ちが乗り移ってしまったんだ。すまんかった……って何に謝ってるんだ俺はさ。

「まぁ、扉の件は私だって軽く開けるように努力はしてるわ。それでも壊れるのだから仕方ないじゃない。脆いのが悪いのよ」

 確かに最初の来訪時は比喩無しに木っ端微塵に吹っ飛んでいた。あれは盛大にブッ壊れたよなほんと。
 それからはアレも段々と弱まっていって……なんと、そういう事だったのか。
 自分なりに治していってはいるんだな。ちょっと感動した、が、

「壊れている事実は変わらないわけで……」
「脆いのが悪いんでしょ。もっと強くすればいいじゃない」

 とは簡単に言いますがね。
 脆いのが悪い強くしろ、と言われたが実はドアは壊される度に毎回強度を上げている(つもり)。
 それなのにコレだぜコレ。まったく、ありえないぜ悪魔超人パワー。

「まぁいいや。それで、ドアで話が逸れたからもとに戻すけど、今日の来客理由はなんなのさ」
「特に無いわ」
「いやいやいや。それはないだろ。ハハーン、あれか? それは照れ隠しだな? 本当は凄くこの家に来たかったけど恥ずかしいから本当のこと……やだなーほんの冗談じゃないですかハハハハ」

 睨まれた。
 そんな怖い顔するなよチビるだろ。

「勘違いされては困るからいっておくけれど、ここに毎回寄るのは私の散歩のコースの途中にあるからよ。今日だって休憩程度に仕方なく無く寄っただけよ」

 仕方無しに我が家は毎回ブッ壊されてたのかよ。我ながら不憫すぎるな。

「ここは休憩所じゃねえぞ……」

 レミリアの言葉に突っ込みで応戦していてある所に気づく。

「ちょっと待て、今日は神社で宴会だろ?」

 本日、博麗神社では大宴会が開催されている筈。
 このレミリアはあの奇々怪々の面子の中でも一際目立つ一人だ。そんな奴が宴会をほっぽり出して単独行動なんて珍しいにもほどがあった。

「あぁ、それね。悪酔いしたから頭を冷やすために散歩をしていたの。さっきも言ったでしょう散歩の休憩に寄ったと」

 ため息をつきながらそう説明する。
 吸血鬼でも悪酔いをするということに正直、驚いた。今度阿求さんに教えてあげよう。

「後は咲夜達に任せてきたわ。そうそう、今日はフランも参加してるのよ。あの子本当に楽しそうで……一緒に連れてきてあげて正解だったわ」

 今頃魔理沙とじゃれあっているんじゃない、とケラケラ笑いながら言った。
 なんだ、ちゃんとお姉ちゃんしてあげれているじゃないか。

「いやいや。それなら尚更、俺の家なんかでだべっている暇無いだろ? 酔いが冷めているなら早く戻らないと」
「まだ冷めてないわ」
「嘘つけ。絶対今素面だろ」
「そんなことは無いわ。あ、酔ってるから目の前でしゃべっている人間の血がとても美味しそうに見えてきた」
「やめてっ!」

 レミリアはクスクスと笑いながら話を続ける。

「まぁ、宴会途中で私が他の場所へ一人出歩くのは珍しいことじゃない。それは〇〇もわかってるわよね」

 すまん、初めて聞いたわソレ。

「……毎回宴会であの巫女さん連中に御開きになるまで楽しそうに絡んで愚痴愚痴やってる人の言葉とは思えないぞ」
「いちいちウルサイわね馬鹿。ほんと空気が読めないのね馬鹿」
「今のところで読む空気がどこにあったんだよ」
「馬鹿なんだから考えるよりまず先に感じなさい」
「無理だっつうの」

 重要なことだから二度三度と言いましたってか。
 俺の言葉にバツが悪そうに顔をしかめ、悪態を付く。またその姿がおかしくてまた苦笑。

「まぁ、あの面子ならそうそう問題起きないだろうし、そういう事にしておいてやるよ」
「何よもう」
「さて、今更だけど一応歓迎してやるよレミリア。小汚い我が城へようこそ」
「本当に今更ね。でもその上から目線がやっぱり凄くムカツクわ」

 調子に乗りましたごめんなさい。 

「まぁ、いいわ。あ、そうそう。ちょうど〇〇の家に居ることだ聞いておきたいことがあるのよ」
「ん?」
「なんで宴会の誘いを断ったのかしら?」

 宴会を断ったことは霊夢から聞いたのだろか、それとも運命がなんちゃらなのか……どうでもいいな。うん。

「今日はそんな気分じゃなかったから」
「それだけ?」
「それだけ」

 簡潔なその答えに一体何が不服なのか、レミリアはテーブルに肘をつくとブスッとした顔で睨んできた。
 そういえば、この世界にきて初めて宴会の誘いを断ったのかもしれない。
 あの宴会では他の現世から迷い込んだ人たちとの交流も出来るのとタダ酒が飲めるという利点がある。
 それを断るのがおかしい、というのだろう。うん、一里ある。ただ香霖堂の店主は色々な理由を付けて何度も断っているようだけど。

「本当に今日はその気分じゃなかったから行かなかっただけだって」
「誘いを断ってまで家に引きこもってるくらいなら出ればよかったじゃない」
「ははは、ご冗談を。これが引き篭っているように見えるのか?」
「見えるわ」

 予定がないならそれはごもっともな意見だ。

「まぁ、気分以外に他の理由があるんだけどな」
「他?」
「今日はいつもよりも月が綺麗ないい夜にだろ。滅多に出会えないであろういい夜だから静かに読書をしたかっただけ」
「ふーん」
「レミリアも読むならご自由にどうぞ。どうせ今、手持ち無沙汰ってやつなんだろ」

 手にとった本に目を落としながら机の上にある他の本を手差す。 
 すると彼女はそうね、と返事をした。

「……これ、何よ。ほとんどが絵じゃないの」
「ん? あぁ、これは漫画。一応コレ紅魔館で借りたんだぜ?」
「ふーん。こんなのもあるのね」
「まぁ、外の世界の絵本みたいな奴だな。そして今読んでいる奴は俺が外の世界にいた頃にお世話になっていた作品であってだ、な……」

 そこまで説明をして 言葉を失った。

「……」
「へぇ、○○ってこんなのが好きなのね」

 何故、と聞かれれば、目の前に彼女が居たからと答えよう。
 本当に一瞬の出来事だった。
 これにはオレモビックリ。

「あーなんだ。レミリアさんは何処に座られているのですか?」
「椅子よ」

 椅子ですかそうですか。
 ただレミリアの言うソレは椅子ではなく俺の脚、詳しく言うと太ももなんですが。

「向かい側にも椅子があるのだからそっちに座ればいいじゃないか」
「嫌よ。ここがいいもの」

 しかし、彼女からの返答はとても簡潔なものだけで膝の上から動こうとはしない。
 一応、他に動いている所があるのだけどそれはレミリア自身の羽。ちょっとくすぐったい。

「は、羽がくすぐったいから向こうへ」
「嫌よ。ここがいいもの」

 なんだよ畜生。
 そんなにこの席がいいなら俺が移動するからせめて退いてくれ。両腕の間なんて場所は窮屈だろう。と促すも、

「嫌よ。ここがいいもの」

 すっぽりと収まった彼女から先と全く同じ回答が返された。
 壊れたファー○ーかよ。狂うまで撫で回してやろうか? あぁん?
 ……本当にもう訳がわからない、が、両腕の間に小さく収まる彼女の姿がなんだかおかしく、笑みが溢れる。

「な、何を笑っているの?」

 いいや、別に。

「あんな広い館に住んでいるのに狭いところが好きとはまた面白いな、と思っただけだよ」
「……うるさいわね。そんなことはどうでもいいから、さっさとページ捲りなさい」
「はいはい、わかりましたよお嬢様」
「わかればいいのよ。わかれば」

 ペラリとページを捲れば足の上に乗った少女は満足そうな返事を寄こす。
 閑散とした部屋にはページを捲る音静かに流れるとともに、二人だけの時間もゆっくりと流れていくのだった。


Megalith 2011/11/10


○○(以下、○)「食事の時間だぜお嬢様」
レミリア(以下、レ)「…また貴様か。咲夜はどうした」
○「代わりに行って来いって言われたもんでね。駄賃は不機嫌な顔と銀のナイフが五本だ」
レ「貴様の駄賃には丁度いいな」
○「危うく三途の渡し賃になるところだったがな」
レ「いい気味だ」
○「まぁいいからとりあえず喰ってくれ。さっさと片付けたいんだ」
レ「…料理どころか皿もフォークもスプーンもワイングラスも何もないのに?」
○「料理ならあるだろ。目の前に」 
レ「…嫌」
○「何も取って食えとはいわねぇよ。つーかそんなの俺だって御免だ」
レ「嫌。貴様はA型だろう。それもO型との混血。私はB型、それも純血が好きなんだ。絶対嫌」
○「俺だって嫌だけどよ、駄賃にナイフが飛んできたら行くしかねぇだろうがよ」
レ「なんだって貴様のような混血を呑まないといけないのだ!B型の血を持ってこい!」
○「そのB型純血の持ち主はナイフぶん投げた後に貧血で倒れちまったよ。誰かさんが血を抜きすぎるから」
レ「…全く貴様が来てから咲夜の完璧さが総崩れだ」
○「人に罪なすりつける暇があんならとっと喰えこのチビ」
レ「んなっ何がチビよ!まだ成長期なだけでそのうち大きくなるわよ!」
○「うるせぇ ならAだろうがOだろうが好き嫌いすんな。Bが肉ならAOは魚と野菜だ」
レ「何その理屈…訳わかんないわ…」
○「あ?なんだ?ノスフェラトウは偏食が許されるってか?」
レ「私のような貴族はそんな下賤な食べ物を口にしないから」
○「てぇことはアレか?栄養が偏りまくってェ、腹ばかり膨らんで手足はガリガリの餓鬼みたいなスタイルが良いってか?ァ?」
レ「えっ」
○「リンゴ体型の中年太りみたいな姿の吸血鬼がァ」
レ「うっ」
○「背格好はチビのままでェ」
レ「ぐっ」
○「お嬢様ァ?」
レ「うぅ…」
○「貴族ゥ?」
レ「…」
○「俺のヘソで茶を沸かすつもりかテメェー」
レ「…グスッ」
○「…すまん、ちょっと言い過ぎた」
レ「…腕を出しなさい」
○「あー痛くしないで下さいお願いしますマジで」
レ「そんな甘言がまかり通るとでも?」
○「ですよねー って痛ェ!あ、こら、爪を喰い込ませるのはやめろォ!」
レ「うっさい!いい年こいて子供苛める汚い大人はこうなればいいのよ!」
○「ストップ!ジャストモーメン!それ以上喰いこんだら貫通するってのぉぉおぉぉぉぁぁぁぁああああ……」
レ「大人しくしなさい。…ぺろ…」
○「痛ェ 痛ェ 痛ェ あー…せめてコップだけでも持ってくれば良かったな…」
レ「こんな風に舐められるのは嫌い?」
○「指と爪でちぎるように付けた傷口を、そんなえぐるように舐められたら誰だって嫌いになる──って痛ェっつってるだろ!」
レ「そう、ならコップは使わない。貴方のリアクション面白いし」
○「へーへーそうですか…ったく 鬼だの悪魔だの言っても事実にしかならねーから意味ねぇな」
レ「…れろっ…」
○( …この顔を可愛いと思うのも、魔性の起こす錯覚なのかなぁ )
レ「…んっ…ふはぁ」
○( たまに本気で怖くなる時があるのに、それでも俺はレミリアになら殺されても良いと思う… )
レ「…ふー。箸はないけど箸休み」
○「俺を失血死させる気かこのヴァンパイアは」
レ「そんなに脆い男じゃないでしょう。ゴキブリ並みのしぶとさの癖に」
○「あー…良いから早く喰ってくれ。腕の感覚無くなってきた」
レ( …本当、何なのかしらね、こいつ )
○「…やれやれ…」
レ( 意地悪されて本気で怒りたくなる時もあるのに、○○なら許してもいいって思えてくる… )
レ「…ん…ちゅ…くぷっ…ちろっ…  ふぅ…御馳走様」
○「お粗末さんでしたっと…。痛かったぁなぁホント…消毒液あったっけな」
レ「何度も言うけど、吸血鬼の唾液なら傷をふさいだり消毒したり出来るんだけど?」(ダレン・シャンとか参照)
○「うるせぇ 人間にそんなアブネーもん使うな」
レ「貴方も十分非人間でしょうに。寝て起きたら傷が治る時点で十分」
○「俺が人間だと思った時から人間だよ、俺は」
レ「つくづく変な理屈ね」
○「人間の空想から妖怪が生まれたんなら、妖怪の本質は人間に通じるだろ。だから人間で良い」
レ「はいはい。そしてその人間は吸血鬼の館で門番兼雑用係兼図書館学芸員兼執事見習いしている変人だったわね」
○「変人で結構」
レ「そう。なんにしても食事は終わりよ。食後の紅茶とケーキを持ってきなさい」
○「咲夜はぶっ倒れたってさっき言ったんだがな」
レ「ならもう貴方でいい。貴方の紅茶とケーキ私に食べさせて頂戴」
○「畏まりましたお嬢様。っと。期待すんなよ?」
レ「その下手な謙遜は聞き飽きた」
○「もうちょっと上手く褒めてくれたら本気だす」
レ「…私は貴方が淹れたダージリンが飲みたいの。そして貴方が作ったザッハトルテが食べたいわ」
○「…仔細承知いたしました、お嬢様。腕によりをかけてお作りいたします」

○「といいつつ実はもう作ってあったりして」
レ「おい○○貴様ァ!」
○「おーっといいのかァおぜうさまァ コイツ(ケーキ)が宙を舞って床に真っ逆さまになるぜェ」
レ「にア ころしてでもうばいとる E:グングニル」
○「えっ あっ うそうそごめん好きにしないで意地悪しないから許して後生や堪忍や」
レ「いい心がけだ 女性に対して甘いものを人質(物質/ものじち?)にするなど阿呆のやることだからな」
○「お前のネゴシエーションでスイーツ(笑)がヤバい」
レ「ブツクサ言ってないでさっさと寄こしないハリーハリーハリー」
○「おねだりするならもっと可愛らしくしろよ」
レ「じゃあ …ねぇ…○○の(ケーキ)…頂戴…?(はぁと」
○「おーけーおーけー100対0でお嬢様の勝ちです」
レ「やーいやーい顔真っ赤ー」
○「…可愛かったんだから、仕方ないだろ…///」
レ「…えっ」
○「ほら、ケーキだぞ、食えよ」
レ「ちょっとそこは"やーいやーい顔真っ赤ー"ってやり返すとこでしょ ねぇ」
○「俺が食っちまうぞ?」
レ「…嫌。欲しい。食べたい」
○「…はい」
レ「…!」
○「あ、お気に召さない?これは失敬…」
レ「…ん!」
○「!」
レ「んー…」
○「…」
レ「…相変わらず素晴らしい味だわ」
○「無駄に頑丈なこと以外の唯一の取り柄ですので」
レ「…お皿とフォークをよこしなさい」
○「え、ああ、はい」
レ「…はい」
○「…!」
レ「お気に召さない?」
○「…んぐ」
レ「…」
○「んん うめぇ さすが俺」
レ「じゃあ、はい。また私の番」
○「あいよ」
レ「んっ」
○「次は俺の番」
レ「そら」
○「あむっ」
レ「私の番」
○「ほい」
レ「はむっ」
○「俺の番」
レ「はい」
○「ぱく」
レ「私の番」
○「これで最後だな」
レ「あ、そうみたいね」
○「…ほら」
レ「…いただきます」
○「はい、お粗末さんでしt───」
レ「…ん!」
○「─────」
レ「─────」
○「お前今何を」
レ「ケーキを半分こ」
○「お前今何を」
レ「日ごろの仕返し」
○「…お前今何を」
レ「…キス」
○「………」
レ「………」
レ「…私の初めての、口付け」
○「初めてはここ一番に取っておけよ馬鹿かお前今の絶対ノリと勢いだったろ」
レ「貴方ならいいと思ったもの」
○「嘘付くな俺なんかに使っちまうなんてもったいないことを」
レ「何が?」
○「だから俺になんか」
レ「なんか?」
○「…」
レ「"なんか"で片づけられるような下賤な人間を召使に雇った覚えはない」
○「そう言う意味じゃない 気の迷いで召使にキスするなんて」
レ「貴様になら意地悪されても自然と許してやりたくなるのだ」
○「」
レ「貴方に可愛いって言われると胸がじんわりするのよ」
○「」
レ「…そう言う意識の果てにあるのはこういう結果でしょう?」
○「」
レ「……私を惚れさせた責任、取ってもらうわよ」
○「」
レ「…」
○「 う」
レ「…○○?」
○「ちょっとまって もうちょっとで人生初の嬉し泣きができそうなんだ」
レ「…まったく、貴方って人は」
○「だってそうしないと不公平だろ」
○「おまえ、今まで見たことないぐらい涙でいっぱいじゃないか」
レ「…」
○「ちくしょうずりィよ こんなことになるなら俺から先に言っておくんだった お前が愛らしすぎて殺されたって文句ないって」
レ「そう、なら殺さない。貴方みたいに意地悪だけど良い男、絶対に殺すもんですか」
○「くそっ神様はなんて意地悪なんだ 普段通り終わるはずの夕食でこんなことになるなんて思わなかったぞ」
レ「日ごろの行いが悪いからこうなるのよ 反省しなさい」
○「あーそれならもうちょっと運命の神様に媚売っとくんだったなぁ」
レ「私はこうなる運命だって最初からわかってたけどね」
○「それだけは絶対に嘘だってわかるぜ」
レ「ばれたか」
○「なぁ、本当に俺で良いのか?自分でも性格悪いなって思うときがあるぐらいなんだぜ?」
レ「これが惚れた弱みって奴よ。貴方こそいいの?私もちょっと我儘過ぎるかなって思うときがあるけど」
○「だからこそちょっと意地悪してからかいたくなって、…つまり可愛いから許す」
レ「あーもうっ!可愛いって言うなぁ!」
○「分かった、なら愛してるって言う」
レ「…本当に…意地悪なんだから…」
○「泣き笑いしながら言ったって笑えるだけだぜ」
レ「貴方の泣き顔もそれ以上に笑えるわよ」
○「はは…ならお互い疲れるまで笑おうか…」
レ「うん…いっぱい、いっぱい笑い合いましょう…」


なんか全力で書き殴ったら全力で迷走した おぜうさまかわいいよおぜうさま


Megalith 2011/11/19(Megalith 2011/11/10続き)


ttp://tohoproposal.toypark.in/megalith/?mode=read&key=1320851565&log=3 ←これの続きらしい

 「○○は、寝てる、か…」
 「…Zzz…」

 今、私は○○の部屋にいる。紅魔館の最上階にある私の部屋から一番遠い、紅魔館一階の倉庫がそれだ。
初め、三階の客間で生活していた○○は、紅魔館で執事見習いをすると言いだしたその日のうちに
倉庫へ移動し自分の部屋にしてしまった。客人から従者へ、ある意味格下げのような扱いになったことは認める。
だけど、私を含め、誰一人としてそこまで冷遇をする気などなかったのに。

 「…Zzz…」

 ○○はぐっすりと眠っている。いつも通り、憎たらしいほど幸せそうな顔で、ベッドのすぐ隣に立っている私のことを介することなく。
憎たらしい、はずだった。いつからだったか、私はこの顔を見ても取り立てて悪感情を抱くことも無くなった。
現在に至っては、何故だろう、微笑ましさすら感じる。これが、人を好きになるということなのだろうか。

 「○○…」

 この世に生を受けて五百有余年、既に『過ごす』時間は使い果たし、これから永きにわたる寿命の到来まで、
『潰す』時間に苦心することを予見していた矢先の恋心。○○と過ごす時間はこれからどれくらいあるのだろう。

 ( …こんなに質の悪いベッドで寝ているのね )

 起こさない程度に、○○の寝ているベッドの質感を確かめる。私がこのベッドで一晩寝ていたら、
体の節々が痛くなりそうな、不親切なもの。客間にあったものの方がまだマシ。
レミリアは外の世界から来た男を倉庫に閉じ込めて粗末なベッドで寝かせている、なんて、そんな風に新聞に書かれたら
皆が本気にするかもしれない。今まで気にしていなかったけど、明日にでも倉庫を改装して立派な個室にしてあげないといけない。
ベッドもこんな寝苦しいものじゃなくて、最低でもメイド妖精が使っているようなフカフカで高品質なものに取り換えなくては。

 ( …従者。従者、か… )

 従者、という言葉で思い出した。私と○○の関係はなんだろう。世間一般で言うところの恋人同士にあたるのだろうか、
従来通り、主と従者なのか。これからの関係はどうあるべきか。主と従者、恋人、男と女、夫と妻、知己ということもあるか。
 お互いに相手への好意を自覚して、打ち明けたのだから、表面上はまだしも、本質的には今まで通りの主と従者で居ることはできない。
今の私は○○についてもっと知らなければならないことが沢山ある。だが、しかし。

 ○○は外の世界で何をしていたのだろうか。
 ○○は外の世界で何を見てきたのだろうか。
 ○○は外の世界で何を置いてきたのだろうか。

 ○○は今でも外の世界に未練があるだろうか。
 ○○は今でも外の世界に残してきた物を取りかえしたいだろうか。
 ○○は今でも外の世界に帰りたいだろうか。

 ○○はいつまで私のそばに居てくれるだろうか。
 ○○はある日突然消えてなくなったりしないだろうか。
 ○○は本当に私のことを愛しているのだろうか。

 怖くて聞き出せないことも沢山ある。それを聞いた瞬間、○○という存在が幻のように消えてしまうような気がして。
 恥ずべきことだけども、私に対して友好的な存在とは紅魔館に居る者たちぐらいで、ひとたび外に出れば大抵私は嫌われているか、
眼中にないかのどちらかで。分け隔てなく接する霊夢に好意を抱いていたぐらい、マイナスから見ればゼロでもプラスに感じるという
諧謔的な状況に慣れ過ぎていた。
 吸血鬼とは最強の生命体であるがゆえに、妖怪の間でも忌み嫌われる種族。そんな吸血鬼の私を好きになる人が出来たなんて、
今この瞬間でさえ、何かの間違いなんじゃないかと思ってしまう…。

 「…っ!」

 不安が一杯になって、胸の奥から込み上げてくる。○○が私を愛しているのは私が無意識に魅了の魔眼を使ったせいだったとか、
今までの記憶は一夜の夢が見せた幻に過ぎなかったとか、普段なら馬鹿馬鹿しい妄想と判断することにまで真剣に考えてしまう。
 私は弱くなったのだろうか。いや、おそらく違う。今まで経験したことのない事態に直面して右往左往しているだけだ。
ならどうすればいい?この不安を打ち消す方法は?今目の前にいる○○が私を好いていることに不安を抱く状況で、
彼のそばにいるのは間違いか?
 何も、分からない。一人で急に不安がって、オロオロしているような自分が、情けなくてしょうがない。
此処にいても何も解決しない。○○が起きる前に出て行ってしまおう。

 「…主よ、どこへ行かれるのですか」

 そう、思って、背中を向けて、外に出ようとドアノブに手を掛けたら、私の声じゃない、後ろから、寝ているはずの○○の声が
はっきりと聞こえて、私は瞬間的に石造のように固まって、心臓が急に騒がしく脈を打って、そして、そして、私は、ぎこちない動作で、
振り返った。○○と目が合った。

 「あ、貴方、いつから起きて」
 「『○○、は、寝てるか…』よりずっと前から。というかさぁ、お前自分が吸血鬼ってことを忘れてないか?」
 「どういう意味よ」
 「お前が近付いてくる気配で目が覚めたんだよ。少しは影とか霧とか蝙蝠になるとかしてくれ」
 「…それは悪いことをしたわ。でも、なんで狸寝入りなんか」
 「何か頼みごとをするつもりだったら誤魔化そうと思っただけだ。そしたら俺の名前を呟いたと思いきやベッドを弄るわ、
  それが終わったら急に不安そうな息ついて部屋から出て行こうとするわ…アレか?俺の布団がクセーのか?」
 「…」

 ○○が実は起きていたこと、私の気配は眠気覚ましになること、私の不安を何も理解してないこと…一瞬のうちに三つも把握して、
いつものように軽口を飛ばす彼を見ていると、…不愉快になった。私は真剣に悩んでいたのに、コイツはどうして肝心な時に
空気が読めないんだ、と。

 「…何よ。あんたの体臭がそんなに臭かったら部屋に入る気も起きなかったでしょ。」
 「じゃあ何で俺の部屋にいるんだ。ガキは寝る時間だろ」
 「貴方の部屋に入る理由が必要なわけ?」
 「主が従者の部屋に意味もなく入ってくる…ああ、抜き打ちの内部調査かなんかか?わざわざ夜中にやるこたぁねぇだろ…」

どこまで空気読めないんだ。少しは私が相談しに来たってことを考慮しないのか。…それとも、○○はやっぱり、

 「…本当は私のことが嫌いなの?」

心の中だけで呟いたつもりの言葉が、私の口からこぼれ落ちていた。しまった、と思った瞬間、○○が飛び起きて、
私の前で跪き両肩を乱暴に掴んだ。

 「ちょっ…○○っ…!?」

なんとなく呆けるような表情だった○○が、今では修羅のように睨みつけてくる。あまり怒ることのない○○が、怒っている。

 「俺は面倒が嫌いなんだよ。寝ているところを起こされて俺は不機嫌なんだよ。お前は俺を怒らせるために来たのか?」
 「そんなつもりじゃ…」
 「ならどうして俺がお前のことを嫌いにならなくちゃいけないんだ!?お前が何考えてんのかさっぱり分かんねェよッ!!」
 「なっ…!」

瞬間的に罵られた反動で、頭の中がカッと熱くなって、浮かんだ言葉を思案する間もなく口から飛び出していく。

 「どうして分からないのよッ!馬鹿なの!?貴方が本当に私のことを好きなのか不安だったのよ!」

ああ

 「私は吸血鬼!幻想郷でも爪弾きにされる嫌われ者なの!紅魔館ならいざ知らず、外じゃ誰も私を好きになった奴なんていない!」

もう

 「そんな吸血鬼のところに現れた人間の雄が!どうして私のことを好きになるのッ!?何かの間違いなんじゃないかって思ったわッ!」

止まらない

 「あんたみたいなお調子者だったらこんなこと考えないでしょうけどッ!」

止められない

 「ずっとずっと疎まれ続けてきた私にはッ!私にはっ…!」

目の奥が熱い

 「誰かを愛することは出来てもっ…!誰かに愛される、なんてっ…簡単な、ことじゃ…ないっ……」

喉が苦しい 胸がしくしくする 肩が強張る 不安が溢れだして足が震える  涙で 前が 見えない…



 「…ちゃんと正直に話してくれただけ、よしとしようか。ほら、涙拭いてやる」

 ○○が私の体を少しだけ引き寄せて、指先で頬を拭った。こうしてみると、○○の手は綺麗で長い…。

 「どうせお前あれだろ?一人でウダウダ考えて袋小路にはまってヒステリー起こしたんだろ?」
 「…」

反論の余地はない。その上八つ当たりして泣きわめいて、まるで獣みたいだ。情けない。

 「それ自体を怒る気はねえよ。俺にだって良くあるから分かる。泣きたくなることもな。
  お前は、本当は俺がお前のこと嫌いなんじゃないかって思って、それであんなこと言ったわけだ。
  人に愛されることに慣れてなくて、それでいろんなことが不安になっちまって、ついカッとなっちまう気持ちも今なら分かる。」

○○が私の頭を撫でてくれた。長くて大きい掌全体で、私の髪を愛でるように、優しく…。

 「 さっきは突然何馬鹿なこと言ってんだって思ってつい怒鳴っちまったが…素直に言ってくれれば俺は邪険にはしないぜ?
  だから、早まるなよ。俺も紅魔館の従者だ。主の不安には親身になって相談する責務がある。
  俺みたいなのがどれだけ役に立つかは分からねぇが、それでもだ。」

○○が役立たずなんて嘘でも言えない。○○は意地悪なことをするけど、他の誰かでは出来ないことが、沢山あるんだから。

 「そして…何よりも、」

一拍間をおいて、○○の顔が近付いて───私と○○は、静かにキスをした。○○の手はわたしの背中に、私の手は、○○の首筋に。
数秒間そうしていて、また静かに離れる。

 「…愛するレミリアの為なら俺はなんだってやってやる」

ずるい。この男は本当にずるい。平然とこんなことを言えるなんて。こんなに真剣で馬鹿正直で熱い心を今まで隠していたなんて。

 「…ごめんなさい。私だって○○を愛してるのに、一人で不安になって疑ったりして…」

月並みな言葉しかないけれど、自己満足にしかならないけれど、ちゃんと口に出して言わなければならない。
私を愛してくれる男への謝罪と感謝を。

 「言うなよ。俺だって不安だったんだ。レミリアが俺のことを好きだって行ったのは単なる悪戯だったんじゃないか、とかな」

フォローしているつもりじゃないみたいだった。本当に、○○も不安だったんだろうか?だとしたら、私たちは本当に似た者同士だ。
そんな彼の為に、今の私が出来ることは、彼の不安を取り除いてあげること。

 「そんなわけない。言ってはならない嘘ぐらいは心得ているもの。」

 ちょっと不意打ち気味に、今度は私の方から口付けをした。一瞬だけ○○の体が強張ったような感覚が伝わってきたけど、
すぐにまた私の背に手を回して抱きしめてくる。嬉しくて、たまらなくて、少しだけ長くキスを続ける。
私が口を離した後の言葉は、とてもすんなりと滑り出てきた。

 「私のキスは嘘をつかないわ。今までも、これからも」

 頭の奥が霞がかったように惚けてくる快感に任せて、精一杯の笑顔を彼にプレゼントした。
○○の不安が、少しでも消えてなくなるように。 …って、思っている間に向こうからもう一度口付けされた。
ちょっと対抗心が芽生えたのでやり返す。…そうしたら舌を入れられたっ。やり返す。
 気付いたら結局いつも通りの競争に戻った。馬鹿らしくなって、しょうもなくて、そんなやりとりが楽しくて、落ち着いて、心安らぐ一瞬。

 「『疑ってみたり不安だったりそして最後にキスで〆るのさ』…ってな」

いつにも増してキザな言い回し。それが何よりも、私の中に残っていた不安の残滓を完全に洗い流していった…。




 次の日から私は、○○の部屋で寝ることにした。従者とか主とか関係なく、私がそうしたい。○○は、小言半分に私を優しく迎えてくれた。
○○はこれからも此処にいる。私も○○のそばに在る。一晩寝るごとに○○との心の距離が縮まっていくような感覚が恥ずかしくて、
嬉しくて、○○も、まんざらではなくて。

 「お邪魔するわ、執事見習い」
 「お休みなさいませ、お嬢様…ってな」

 今日も○○のベッドで一緒に寝る。○○が私の部屋に来る準備はしてあるのだけれど、○○は自分の立場を考えて遠慮してしまうか、
私の部屋に着く前に咲夜に見つかってしまって追い払われるかのどちらか。最初は辛抱強く待つつもりでいたけれど、
最近はもう我慢していても仕方ないと思い始めた。

 「ねぇ、○○。一つ良いかしら」
 「何だ?」
 「今日の寝物語は趣向を変えましょう。」
 「俺様の武勇伝に飽きたのか?」
 「フィクションとしては面白いんだけどね。…今日は、今日はね」

従者と主の逢瀬が赦されないのなら、私はこの関係を一歩進めることにした。

 「○○が外の世界で何をしていたのか、聞きたいかな」

 聞いてしまったら○○が居なくなるような気がしていた。きっとそれは、私が○○と結ばれる覚悟が足りなかったせいかもしれない。
今の私は、○○のことなら何でも知りたい。何も後悔しない。○○を誰かに渡したりなんかしない。
 私はもう、何も恐くない。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年12月04日 09:28