フランドール1
1スレ目 >>166
フランへ
「君が証明した495年の孤独を、僕という小さな乱数で埋めてみせる。」
1スレ目 >>195
俺はどうしてこんな場所に来てしまったんだろう。
紅に染まる館、
人はもちろん、妖怪ですら近づかない魔の館に。
よく分からないけれど凄いような凄くないような門番と
全知の魔女と時を止める従者と
紅の盟主のいるこの館、
そして…
今が昼なのか夜なのかも分からない、空までもが真に紅く見える。
だが、俺はどうしてもここで誰かに会わなければいけない気がした。
門をくぐることすらできずに殺され、食べられるかもしれない。
けれど、それでも行かなければいけない、それが俺の運命だと感じた。
「ここは人間の来る場所ではない、命が惜しければいますぐ帰れ!」
有無を言わさぬ気迫ある声に俺の歩みが止まる。
あれはここの門番、確か名前は…
「中国?」
「だーーー、何で初対面の人間の男にまでそんないわれをされなければいけないんだぁぁぁぁ(泣
殺す、殺すわよ、普通の人間に遠慮はないんだからね!」
「あああ、ごめんなさい、悪口を言うつもりだったんじゃなくて、どうしてか分からないけど
頭に思い浮かんで、それで、えっと、俺は会わなきゃいけない人がいて、だから、えっと、
それが誰かも分からないんだけど、とにかく死にたくないぃぃ」
自分でもわけの分からない命乞い、けれど門番の殺気が突然消えた。
急にやる気をなくしたように、頭をかきながら言う。
「あーーー、もしかしてあんたあれかぁ、そっか、もうそんな時期ねぇ」
門番は振り返ると、紅魔館の扉を開けた。
「え、どうして…?」
「私、役立たずらしいしぃ…深く考えないで通りなさい…強く生きるのよ」
妙な同情口調で励まされた。
俺に霊感はないが、扉の奥から感じるこの重い感覚は、きっとこの館に満ちている魔、なのだろう。
けれど俺は行かなければいけない、その思いだけに突き動かされ俺は門をくぐった。
突然、目の前にナイフが現れた。
俺はただただ野生の感でナイフをよけるとその勢いで廊下に尻餅をついてしまった。
「普通の人間か、無様ね。ここへ何しに来たの? 自ら食べられに来たのかしら」
突然目の前に現れたメイド服の女性が俺ののど元にナイフをつきたてている。
この女性が時を止めるという従者なのだ、俺はそう直感したが、だからといって何もできない。
「答えなさい、何をしに来たの? 答えによっては…」
「俺を、殺すのか?」
「いいえ、殺しても食べずに捨てるのよ。お嬢様に得体の知れないものは出せないもの」
どうやら殺されるのは確定らしい。
「俺は、会いに来たんだ」
「誰に?」
「…分からない」
「“得体の知れない”言い訳ね」
冷たく無機質な死の宣告。
けれど従者のナイフは廊下の奥からの声に止められた。
「ナイフを収めてあげて」
「パチュリー様、どうして止めるのですか?」
「咲夜は初めて会うのね、でもいいの、その人は紅魔館の大切なお客様よ」
「パチュリー様がそういうのでしたら。…無礼をお許しください、お客様」
従者はナイフを収めると俺に形だけの礼をした、どうやらまだ納得はしていないらしい。
俺だって、どうなってるのかわからない。
俺は歓迎されているのか? しかし門番の態度も従者の態度もおかしい。
「咲夜、奥の部屋にこの人を通してあげて」
「奥の部屋ですか? ですがお嬢様は今紅白と一緒に外で…」
「いいえ咲夜、彼が用があるのはその先の部屋、
きっと、待ってるはずだから」
待っているはずだから。そう聞いて俺の心臓が跳ねた。
誰が? 分からない、けれど会いたい、待たせてはいけない。
俺は初めて訪れたはずの館の奥へ迷うことなく歩き始めた。
そして一番奥の扉に手を掛ける。
「あ、その部屋は…」
「だからあれでいいのよ咲夜、彼はあれでいいの。
それよりも、そうね、今回はひょっとするとお茶の準備が必要かも」
「は、はい。分かりました」
彼女は椅子に座ってつまらなさそうに髪をいじっていた。
顔を横に向けたまま視線だけこちらを向ける。
暗く輝く瞳に射抜かれて俺はすべてを理解した。
一瞬の後に、俺と彼女の距離がなくなり、俺は首をつかんで持ち上げられ
壁と天井の角に強く押し付けられた。
「人間が、私に、壊されに来たのね!」
小さな体にありえない力。俺は壁にめり込んでいく。
全身が悲鳴を上げるが、けれど僕は満ち足りた気持ちで笑顔を浮かべ、
楽しそうで寂しげな彼女の瞳をまっすぐ見つめて、言った。
「フラン、僕は“また”君に会いに来たんだ」
「え…」
彼女、
フランドール・スカーレットは突然指の力を緩めた。
俺はそのまま床に落とされる。
立ち上がろうとするがうまくできない、どうやら足の骨が折れたらしい。
半身だけ起こした俺は床に舞い降りてきた小さなフランの顔を真正面から見る形になった。
「どうして…結局また、壊されるのよ。あなた、死にたがりの狂人なのかしら」
「そりゃ、できれば死にたくはないけど…でもフランのために壊れられるなら、
僕は何度壊れてもいい」
「なにそれ? あなた人間でしょ? 命乞いしなさいよ、壊れたくないって抵抗してみなさいよ!」
フランは理解しがたいものを見た人間のように、おびえた表情をした。
俺はそんな彼女を抱き寄せた。
何の抵抗もなくあっさりと俺の胸に崩れ落ちてくるフラン。
「俺、お前のこと愛してるから、お前の望みが俺の望みだよ」
フランは少しの間、どうしていいか分からずにまったく動こうとしなかった。
俺が腕に力を込めると、フランは一度体をこわばらせてから、ゆっくり力を抜いた。
おずおずと小さい両手を俺の背中に回してぎゅっと握った。
ほんのひと時の安らぎが俺には永遠だった。
「愛…、望み…、幸せ? …違う、チガウ、遊びたい、壊したい…
あぁ、そっか、壊していいんだった…壊す、コワス、コワレロ、人間がぁぁぁ!」
男だったものはいくつかの塊になって散らばっていた。
フランドールは表情の読めない瞳で汚れた部屋を見ていた。
「少し、物足りない…」
彼女はそうつぶやくとその場に座り込んだ。
「フラン様、お茶が入りました。…あら、まぁこんなに汚して…」
咲夜は、だから言わんこっちゃない、といた表情でティーセットをテーブルに置き
紅に染まったフランの体を拭いてあげようとした。
「フラン様、お顔をこちらへ向けてください。フラン様?」
フランドールの顔を染めた紅は濡れて滲んで筋ができていた。
「咲夜、いらない、あっち行ってて」
「…はい」
紅魔館、別室レミリアの部屋。
外から帰ってきたレミリアにお茶を出しながら、
咲夜は今日の出来事をレミリアに尋ねていた。
「そう、あの男が来たのね。うん、私も会いたかったかな」
「あの男はいったい何者なのですか? ただの人間にしか見えませんでしたが」
「そうね、彼はただの人間よ、ほんの少し運命を弄られた…ね」
レミリアの瞳に灯りが揺らめいた。
「昔ね、もう数百年も前、ある男が少女に恋をした。身分違いの恋。
人間の吸血鬼への一方的な恋だわ。でも、吸血鬼の少女にとって、自分以外の生き物は
遊んで壊すものでしかなかった。だから彼は壊されることにした、一度っきりなんて嫌、
何度でも彼女のために…ね。彼の魂は何度生まれ変わっても彼女を愛し壊される運命を
自ら望んだのよ」
咲夜は言葉を詰まらせた。壮大でばかげた話だ。
それで、壊されるだけで振り向いてもらえなかったらそれで男は満足なのだろうか。
「フラン、どんな様子だった?
…そう、フランももしかしたらまんざらじゃないのかもしれないわね
最初の頃は、一瞬で壊されて、それだけだったもの、言葉を交わすことすらなかったんだから」
レミリアは楽しそうにフフと笑った。
「それならば、もしそうであるなら、何度でも壊されて会いにくるのではなくて、
決して壊れずに一緒にいる方法もあったでしょうに、どうして彼は…」
そこまで言って、咲夜は自分が馬鹿なことを言っていることに気がついた。
「咲夜、壊れないオモチャ、ではフランにとって何の価値もないのよ? わかるでしょう。
それとも、そうね、咲夜は私のために永遠を誓ってくれるのかしら?」
レミリアはいたずらっ子のような口調で咲夜に問いただした。
咲夜は笑顔で答えた。
「いいえ、お嬢様、私は一生死ぬ人間です。それまではずっと、お嬢様のそばにお仕えしますから」
end
1スレ目 >>348
強い憎しみは、深い愛に似ている。
―――かつて、そんな言葉を聞いた。
「っは…はぁ…はぁ…。このっ、贋作師…!!」
「おや、もうお終いですかな妹君?それでは、続きはまた次回のお楽しみということで…」
僕は肩で息をするフランドールへ慇懃無礼に一礼し、退出しようと背を向けた。
無機質な足音が一つ二つ。一瞬の静寂。その刹那、背に殺気が迫る。
振り向き、左手で弄んでいた機械―――本来ならば、音楽を再生する程度の能力しか持たないはずのコンピュータ―――の操作盤を一撫で。
それだけでその片手に収まる程度の機械から、膨大な魔力が流れ出した。
スターボウブレイク ロード スペルコンパイル マナリンク ラン
「偽弾、『星弓崩落』、ファイル呼び出し。呪文編纂、魔力接続、実行」
相殺し極彩と散る、夥しい数の弾幕。まぶしさに眼を狭め…その眼前に、『彼女』はいた。
―――眼くらましか!
手にはすでに紅い剣、禁忌の術によって形作られた『レーヴァティン』を携えている。
受けることなど敵うはずも無く。
「これで…終わりよ!!」
絶対の自信が込められた一閃を、しかし僕は逆に前へ…つまり彼女の後ろ側へ突っ込むことによって辛くもかわした。
…どこぞの巫女や魔法使いにも、同じことをされているだろうに。慢心がそれを忘れさせていたのか。
思わず僕は含み笑いをしながら呪文を詠唱し―――それを聞きつけたか、彼女は顔をその剣よりも紅く紅潮させ―――振り返ると同時に、最後のスペルを宣言、発動した。
レーヴァティン
「『焔もて害為す剣の魔杖』―――!!」
今度こそ。煙も出なくなった彼女を尻目に、僕は地下室から退出した。
「それでは、ごきげんよう」
「っ…!!今度会ったら…今度こそコナゴナにしてやるっ…!!」
***
「…終わったのね」
「おや司書さん。奇遇で」
階段を上がりきるなり僕を出迎えたのは…今や顔なじみとなった魔女、
パチュリー・ノーレッジ。
図書館からはあまり出歩かない彼女と、その外で会うのは珍しかった。
「…左腕。見せて」
「いやぁ、流石にごまかせませんか。はっはっは」
「いいから早く。人間の身で妹様の禁呪を複製するなんて…フィードバックだけで塩の柱になっても、おかしくないのよ」
彼女の声に苛立ちが滲む。観念し、左の袖を捲り上げた。
…二の腕が火傷、いや炭化している。フランドールのレーヴァティンに掠ったためだ。
それがために、最後のスペルは素の詠唱に頼らざるを得なかったわけで。
「…はい、これで一週間もすれば治るわ」
「一週間ですか。その間、妹君が暴れださないことを祈るとしましょう」
当然のように言う僕に、パチュリーさんは眉を顰めると、
「…あなた、いつまでここに通うつもりなの?」
「いつまででも。この命尽きるまで」
即答。予想通りの答えに、紫の魔女は大きくため息を吐いた。
「妹様に、愛だの恋だのが通じるとでも思ってるわけ?」
―――まぁ、見透かされているとは思ったが。
「通じるまで、通うまでですよ。幸い、貴女という優秀な薬師もいることですしね」
「…言っておくけど。その電算魔術の理論を諳んじれるようになったら、後は知らないわよ」
こっそり色目を使ってみたが、返ってくるのはいつもながらの冷ややかな視線だった。残念。
「かつて、お嬢様にも入れあげた貴族がいたけど―――最後には千本針の山に串刺し。あなたは、『そして誰もいなくなった』というくらい粉々かしら?」
幻想郷流のブラックジョーク。しかし僕には、もはや心地よかった。
「いずれは、そうなるでしょうね」
「あなたねぇ―――、」
動ぜず、素で返す僕に彼女は声を荒げる。が、僕はそれを遮り、
「しかし、最近はこうも思うのですよ。
フランドールさまの想いを独占できるのならば―――それが憎悪であっても構わない、と」
一瞬、パチュリーさんは呆けたように目を見開き…やがて心底呆れたため息を吐いた。
ややあって、一言。
「お似合いよ、あなた達…」
多くの呆れと、微かな祝福。それは…根拠はないが、僕の自惚れでは無いように思えた。
***
「やっと、来たわね…この一週間、地下で過ごした495年よりも長く感じたわ…。
もし今日来なかったら、幻想郷中を破壊してでも探し出そうと思ってたんだから―――」
「それほど待ち焦がれていただけるとは光栄ですな、悪魔の妹君」
言葉はそれだけ。フランドールは、今度こそ僕を粉と砕かんと、目に見えるほどの魔力を伴った詠唱を始める。
こちらは詠唱の必要などない。コンピュータの演算による高速詠唱は、人間のそれを遥かに凌ぐ―――妖怪の圧唱、化仏権化の神言さえも。
…或る意味では、この技術も人の矩を超えた『禁忌』と言えるかもしれない。
―――お似合いよ、あなた達。
ふと。パチュリーの台詞が頭を過ぎり、思わず苦笑がこぼれる。
それが気に障ったか、フランドールはますます怒りを濃くした。
「逃がさない。その苛つく笑みを…粉々にしてあげるんだから!!」
…逃げる?僕が?
そんなことは、あり得ない。絶対に。
命を、落とすことになったとしても。
「逃げませんよ。
おもい
弾に砕けて散るまで―――貴女の憎悪、受けきってみせます」
1スレ目 >>549
紅魔館の地下に続く階段を降りる。既に決心はしてあるから思い残すことは無いだろう。
……一応わかるように言っておくか。俺は紅魔館の雑用として働いている人間だ。
ことの始まりは数ヶ月前。式典の際にあの人を見てしまったのが始まりだった。
我らが主、レミリア様の横に並んで座る少女。あの時は彼女のことはぜんぜん知らなかった。
肩まである柔らかそうな金の髪、不思議な形の翼(?)。その姿につい心が奪われてしまった。
…そのあとにめったに無い粗相をしてメイド長に殺されかけたが。
そして、後々に情報を集め、ようやく彼女のことを知る事が出来た。
フランドール=スカーレット。……レミリア様の実妹と言われ、納得と後悔が頭の中で生まれた。
その後の情報が、なぜかあのときの姿とかけ離れていたのがわからなかったが。
曰く、「情緒不安定、…ぶっちゃけキ印?」
曰く、「あまりに危険なのでレミリア様でさえてこずっている。」
曰く、「たまに暴れてはパチュリー様に止められている。」
さすがに姉であるレミリア様に聞くのは身分をわきまえていないと思い、次点のパチュリー様に聞くことに。
すると、望んでいた以上の答えが返ってきた。
俺が見たときの彼女はパチュリー様特製の薬で腑抜けにした状態だったこと、
普段は紅魔館の地下牢にて過ごしてるということ、そして、彼女に食事を渡したメイドは帰ってこないということ。
ついでに、俺が彼女に一目ぼれしたことを言ってみると、突然倒れた。
あわてて介抱し、話を出来る状態まで持ち直させると、ずばり言われた。
「えっと、自分の命を顧みない馬鹿の頭を作り変える方法は…」
本気だよ、本気でページめくってるよこの魔女。
そんなことをやってるパチュリー様を説得し、ようやくここにたどり着けた。
すなわち、地下牢への扉。……ああ、なんてでかいんだろうか。
おまけに扉全体に呪文が、真ん中当たりにでっかく魔方陣が書かれている。ここまでするか普通。
とにかく。パチュリー様に教えてもらったとおりに結界を解除し、牢の中に入った。
大きな扉の奥にはまた扉。……確か、こっちが本来の扉で、さっきのが封印強化のための扉か。
そこをくぐると……まず最初に警告が来たのは嗅覚。明らかな異臭がする。動物の腐った臭いだ。
そして視覚。隅のほうに何かの塊が見える。……あのボロキレは紅魔館のメイド服に似ている。
「あれ?今日はいつもと違う」
声。まだ幼さの残る声が響く。……ああ、これが彼女の声か。
「まだおやつの時間じゃないよ。それとも、あなたは『おもちゃ』?」
上を見上げれば、彼女がいた。あの時とは違い、その顔に無邪気な笑いを浮かべて。
「いいえ、フランドール様。私はあなたに用がありましてこちらに現れたので」
「じゃあねぇ、何して遊ぶ?」
俺の話など聞いてないらしく、勝手におもちゃとして認定されたようだ。
「私が決めるわ。そうねぇ……『弾幕ごっこ』!」
つまりは、『問答無用で殺される』。
「いやあの、私の話を聞いっ!?」
既に『遊び』が始まったらしく、魔力弾の雨が降ってくる。
「あははははは!ほらほらちゃんと避けてねーっ!」
何とか弾幕を避ける俺に向かって笑いながら声援を送る。
……いっつも弾幕言語で語ってくれたメイド長に今は感謝すべきかな…?
ともあれ、しばらくは雨がやむことは無かった。
「すごいすごーい!いつものおもちゃだったらもう壊れてたのに、がんばってるー!」
そりゃ某グルーオン第2形態並みの弾幕やられりゃ壊れます。そう心でつぶやき、体の状態を確認する。
かなりグレイズしていたので服装は所々破れている。体の痛みは……少々。
今のような奴を長時間やられればきついだろう。
「よーし!次行くよ!禁弾…」
「お待ちくださいフランドール様!!」
ひたりと動きが止まる。……そういえば本来の目的を忘れてた。
「なあに?」
「……私はおもちゃではありません。あなたに用があるのですよ、フランドール様。」
ようやく話を聞いてくれそうな(遊びをさえぎられて不機嫌だが)彼女にさっきの続きを喋りだした。
「私はここの下働きの者。どうか私の話をお聞きください。」
とりあえず彼女を好きになったまでの経緯を話す。そして、こう言い放った。
「あまりにも馬鹿馬鹿しいとはお思いでしょうが、私はフランドール様を……愛したいのです。」
彼女は黙って聞いていた。
「それを伝えにこちらに……」
「……嘘。」
鋭い声が俺の頭に刺さる。
「……はい?」
「それは嘘。真っ赤な嘘。ここに来ればみんな恐怖でそういう。そういって、すぐに逃げようとする。」
声からにじみ出る感情が彼女の全身に染み渡っていく。……彼女は、怒っている。
「口だけの忠誠。言葉だけの愛情。でも心の奥底ではみんな私を怖がってる、嫌っている。……そんなのもう見飽きたわ!!」
怒りは魔力に変わり、魔力は弾に変わる。幾千幾万の弾が俺に襲い掛かる。
「私を愛する。そんなの嘘。私が好きだ。そんなの嘘。私の世界は嘘ばっかり!誰からも愛されない!」
俺はあわてて避けるが、もう避ける隙間も無いほどに弾が埋め尽くしていた。
「誰も私を愛さない!誰も私に気づかない!もうそんなのはいや!」
……ああ、これは……俺の冷静な部分が告げた。
「誰でもいいの!私の全てを見て!!私を愛してよぉ!!」
悲しみの雨。怒りの雨。届かない声。ただ自分の声だけが空ろに響く。これは彼女の『495年間』。
「あなたも私を嫌っているんでしょう!だからあなたなんか壊れちゃえ!」
壊れろ……か。
俺はもうとっくに壊れてる。
壊れてるから何も感じなかった。……それを呼び起こしたのは貴女。
壊れてるから他人を気にしなかった。……それを目覚めさせてくれたのは貴女。
壊れてるから……
「……っ!!?」
彼女は驚いている。当たり前だ。俺がもう弾を避けることをやめたからだ。
壊れているから、痛みも感じない。
俺はもともと外の世界で育ってきた。そこは…地獄だった。
その世界にいたせいで、俺は壊れた。感情を消した人形が、その世界で求められたから。
それでも何とか残った感情を振り絞り、この幻想郷へとたどり着いたのだ。
紅魔館で拾われ、レミリア様に食われるはずがいつの間にか仕えることに。
その時のことを「まったく感情が無いんじゃあ血がまずくなるわ。」とおっしゃっていた。
それからだんだん感情も回復はしていたが、最後の一つが欠けていた。
それを、彼女…フランドールが呼び起こしてくれたのである。
「……なんで?何で避けないの?」
もう左腕が吹き飛び、無くなっていた。
「あなた壊れてるのよ!?なんで泣き叫ばないの!?」
腹からは内臓も出てるだろう。
それでも、俺は彼女のところへ向かった。
「なんで!なんで!なんで心が壊れないの!?もう体が壊れてるじゃない!!」
彼女の前に立つ頃にはもう原形をとどめていなかった。
指が落ちたり、折れている手のひらを彼女の頬に当てる。
「っひ!?」
――俺が。
「それは…」
――お前を。
「貴女が……」
――愛してやる。
「好きだから……です……」
「……あ……ああ…」
「どうです?壊れない人間もいるんで…す……」
よ。と言い切る前に体が倒れた。……まあ、当たり前だろ。
いやぁ、ひさしぶりに無理をしたな。こりゃ死ぬだろうな。体中ボロボロ。直せそうも無い、か。
と考えてるときに、なぜか彼女の叫び声が聞こえた。そこで意識が消える。
やれやれ。まさかこんな馬鹿をやるとは。真っ黒い意識の中、そんなことを考えていた。
パチュリー様の言ったとおりになったな。「自分の命を顧みない馬鹿」…か。
………あれ?
今、俺って死んでるのか?生きてるのか?
そう考えた瞬間、光が見えた。
映っているのは紅魔館の天井。そして……
「ああ、そう言えばこれがあったな。…まったく、こんな愚か者に使わなくても…」
五つの結晶体で結ばれた魔法陣。……『賢者の石』だ。
全てを生み出す存在なら、人体練成も可能だろう。
「あなたが愚か者なら、今術をかけている私も、かける様に頼んだ妹様も愚か者ということになるわね。」
術者の愚痴が聞こえたが、首が動かせない。……声からして足元あたりだろう。
「ここは紅魔館の医務室よ。あなたが意識を失ってすぐに妹様が飛んできたのよ。パチュリー助けて、って。」
「って、いたんですねパチュリー様。」
「……どこかの
大妖精じゃないんだから。気づきなさいよ。」
…大妖精か。それは失礼と苦笑いする。
「ところで今は何やってるんですか?」
「『自分の命を顧みない馬鹿を直す方法』を探しているのよ。」
「勘弁してください。こんな自分が気に入ってるんですから。」
ドドドドドドドド……
「パチュリーっ!」
「……やっぱりフランドール様か…」
どかどか足音をさせるから誰かと思えば……
「……………っ!!よかったぁーっ!」
「え、ちょっとフランドール様抱きつかくぁwせdrftgyふじこlp;@:」
フランドールの抱きつきによって脳天へ直接電撃をぶち込んだかのような激痛が全身を襲う。
「妹様。彼はまだ回復していませんよ。まだついさっきのことですから。」
「あzsxdcfvgbhん……って、ついさっき!?」
だから全身が動かなかったのか。
「あ、ごめん。でもほんとによかったぁ。」
すぐに離れてくれたが、まだ全身が痛む。
「それにしても、あんな妹様を見たのは初めてですよ。初めて『この人間は壊したくない』って言ってましたからね。何がそうさせたんですか?」
「う。」
地味な一撃に悶えるフランドール。……多分わかってるな、パチュリー様。
「………た………から……」
「何でしょうか?もっとはっきりおっしゃってください。」
「初めて…本当に好きだって……言ってくれた…から…」
既に顔は真っ赤っか。こっちまで紅いのが移るくらいだ。……そりゃな。
「あれだけ食らって、それでも立っていて、好きだって言ったんでしょう。あなたも気障な真似をするわね。」
「ぐっ」
あれが気障か?普通の人間は命懸けてもできないって。
「………」
「パチュリーの意地悪…」
俺達が黙ってしまったので、つまらなそうに腰を上げた(気配が移動した)。
「まあ、二人で語りなさいな。それと妹様。彼は絶対安静ですからね。」
何を想像したんですかパチュリー様。
「あー。その……」
「…なに?」
「まだ、返事聞いてませんが……」
「……ぁうっ。」
この後もあー、うー、とうなり続け、しばし考え込む。
……パチュリー様との会話で半分わかってはいるが……っ!?
唇に感触。目の前にはフランドール。
「……これが、答えっ。」
そう言って、俺の愛する少女は恥ずかしそうに笑っていた………
*** *** ***
はい、プロポーズスレ初めてのM(仮名)です。
ああどうしても痛い表現になってしまったなぁ……
場の雰囲気を和ませるため、NG(というか小ネタ)でも読んでください。
NG-1
……ここまでするか普通。
パチュリー様に教えてもらった解呪の呪文を唱えるべく、大きく息を吸い込んだ。
「マァァァァァァァァルコム、ィエェェェェェェェックス!!!」
当然「ィエェェェックス」の時に腕でクロスするのを忘れずに。……なにやってんだあの魔女は。
って言うか、この呪文恥ずかしすぎるぞ。
NG-2
……「え、ちょっとフランドール様抱きつかくぁwせdrftgyふじこlp;@:…ぐふっ」
あまりにも強烈なフランブリーカーを食らい、一撃で昇天してしまう。
ざんねん!わたしのぼうけんは ここでおわってしまった!
最終更新:2010年06月03日 22:57