フランドール11
新ろだ2-232
明日は7月7日、七夕だ。
一昨日、俺の雇い主であり紅魔館の主である、
レミリア・スカーレットお嬢様がおやつの時間にたまたま訪れた鴉天狗の射命丸に七夕の話を聞き「紅魔館でも短冊を飾りましょう」と、言い出した。
話は大きくなり、外部にも声を掛けて、七夕パーティーをしよう!という話に。ちなみに、招待状は射命丸が配ってくれたそうな。
そういう事で、俺が竹林までいって大き目の笹を頂いてきた次第だ。
「ふぅ、やっとついた、結局夕方になっちゃったか。重すぎるんだよなぁ」
大人2人分くらいの長さの笹を積んだ荷車を、ガラガラと引きながらぼやく○○。
ゆっくりと紅魔館の門へと近づいていく。こちらえ気がついた門の美鈴が手を振って迎えてくれる。
「お帰りなさい、○○さん。わぁ、随分と立派なのをとってきましたね」
「折角だしね、ちょっとがんばってみました。喜んでもらえてよかったよ」
美鈴の笑顔で疲れが少し癒される。がんばった甲斐があるというものだ。
「さて、もう一がんばりだ。笹をテラスに飾ってくるよ」
「はい、がんばってくださいねー!」
笑顔で手を振って送り出してくれる美鈴に軽く手を振りかえしつつ紅魔館へと入っていく。
「あら、お帰りなさい○○」
後ろからメイド長の咲夜に声をかけられる。
「ただいま咲夜」
「お疲れ様、随分時間がかかったわね。疲れたでしょう」
「何、皆が喜んでくれるならこれくらい大したことはないさ」
咲夜は「そう……」とにこやかに言うと、一緒にテラスへ行き設営を手伝ってくれた。
「これでよしっと」
洋風のテラスに笹……。見栄えは微妙だが、これはこれで趣がある。という事にしておこう……。
「さて、あとは願い事を書いた短冊を飾るだけだな。咲夜はもう書いたのかい?」
「えぇ、一応ね。気になるの?」
意地の悪い笑みを浮かべる咲夜。
「いや、そんな野暮な事はいわないよ」
咲夜は「つまらないわね」などと言いながらレミリアお嬢様を起こしにいった。
さて、俺もフランドールお嬢様を起こしに行くとしよう。
地下へと続く階段を下りて行くと、大きく、重厚な扉が現れる。
コンコンコンコンとノックをして「入るぞー」と言いながら、室内に足を踏み入れる。
部屋の中はドッチボールができそうなほど広いのに、とても殺風景だ。本棚と机、そして部屋の中央に、大人2人が、大の字になって眠れそうな程大きいベットがあるだけである。
そんな大きなベッドの上で眠るのは、この館の主である、レミリア・スカーレットの妹であり、我が主にして、想い人の
フランドール・スカーレットである。
「フラン、もう夜だよ。そろそろおきる時間だ」
そう声をかけると「うみゅ……」という声とともにモゾモゾとうごいた後に、ゆっくりと目を開ける。
「おはよう、フラン」
「……おはよう、○○」
起き上がるフランを横目に、俺はポットからカップへと紅茶をそそぐ。室内を茶葉の柔らかな香りが満たす。
「ほら、寝覚めの一杯だ」
「ありがとう」
フランはカップを受け取り、香りを楽しんだ後にカップに口を付けた。
「うん、おいしいよ○○」
にっこりと笑うフランを見て、自分の頬も緩むのがわかった。
「そろそろお客様方がお見えになる時間だ。俺は会場の準備があるからもう行くよ」
「うん、私も着替えたらすぐにいくからね」
「あぁ、それじゃあまた後でな」
フランの頭をぽんぽんと撫でて、俺はドアへと向かう。
その時俺に手を振っていたフランが「っつ!」と息を呑んだ気配がした。
「どうした、フラン?」
振り返って尋ねるが、フランは「うぅん、なんでもないよ」と言うだけだった。
少し様子がおかしい気がしたが、俺は仕事をこなすために部屋を出ることにした。後でゆっくり話を聞くことにしよう。
さて、今回のパーティーは2回に分けられるらしい。今日は、参加者全員の短冊を飾る前夜祭で本番は明日なのだそうだ。
会場に行くと、咲夜と妖精メイド達が忙しそうに動き回っていた。
近くにいた咲夜を呼び止める。
「咲夜、何か手伝えることはあるか?」
「そうね、じゃあここはいいからお客様の対応をお願いするわ」
「諒解」
日が落ちて、あたりが暗くなると、参加者達が続々とやってくる。
今回のゲストの一部を紹介すると、
「よう○○!お邪魔するぜー!」
「こんばんは、お招きいただき感謝するわ」
「本日はお招きいただき……」
「よ~む~、早く~」
「わ、ちょっと、幽々子さま~……」
「食費が浮いて助かるわ」
「やぁ○○、土産に酒もってきたぞー」
「やっほー○○ー」
「こら、
チルノちゃん!こ、こんばんは○○さん」
「こんばんは、○○」
「わはー、おなかすいたー」
「こんばんは、お土産に八目鰻もってきましたよ!」
とまぁ、こんな具合にかなりの人数が集まった。
その後、レミリアお嬢様のカリスマ溢れる挨拶と共にパーティーは始まった。
開始後、のんびりとパーティーを楽しんでいたら、鬼に捕まって酒を思い切り飲まされた。隙を突いて這う這うの体で逃げ出してきたが、随分と酒が回っているようだ。少し外で休むとしよう。
ふらつく足を引きずりながらテラスへ出る。あぁ、風が気持ちいい。
と、そこで短冊を竹に結び付けているフランを見つけた。
「やぁ、フラン」
声を掛けると、フランはびくっとしてこちらへ振り返った」
「え?○○」
「おう、俺だぞ。フランはまだ短冊付けてなかったのか」
ほとんどの参加者達は、パーティーがはじまってすぐに、我先にと短冊を括り付けていた。
「う…うん、○○はもう付けたの?」
「いや、俺もまだでね。折角だ、一緒に付けようじゃないか」
「うん、いいけど……はずかしいな……」
フランは短冊を後ろに回してもじもじしている。そんなに恥ずかしい願い事なのか……。
「俺のも見せるんだからおあいこさ」
言いながら俺もポケットから短冊を出す。実は昨日のうちから書いておいたのだ。
「わかった、それじゃあ同時に願い事言おう。それならいいよ!」
むぅ、そう来るか……。
「恥ずかしいが……、いいだろう」
「よし、んじゃ同時だからね。せーの……」
「フランとずっと一緒に居られますように……」
「○○とずっと一緒に居られますように……」
言って俺達は顔を見合わせる。そして同時に「ぷっ」と噴出した。
「あははは!おんなじ願い事だった!」
「あははは、確かにこれは恥ずかしい!」
一頻り笑った後、俺達は隣同士で短冊を括り付けて、2人でパーティーへと戻ったのだった。
短冊を括り付けるフランがちょっと余所余所しい気がしたが、気のせいだろうか?
パーティーは深夜まで続き、一通り片付けが済む頃には、空が白み始めていた。
「っく~、疲れたー」
自室でつかれた体を伸ばす。先ほの汗を流すためにした水浴びで、最後の体力を使い果たしてしまったようだ。もう何もする気が起きない。
明かりを消してベットにダイブする。今日はよく眠れそうだ。
目を閉じて、眠りにつこうとした時、コンコンコンっと部屋がノックされる。
誰だろうか、と思いながらも「はぁーい」と歩いていき、扉を開ける。
果たして、そこに居たのはパジャマ姿のフランだった。
「まだ寝てなかったのか。どうしたんだい、フラン?」
「あのね○○、今日一緒に寝てもいい?」
顔を赤く染めながら、上目遣いでそんな事を言われて断れる男などいまい。
俺はフランを部屋に招きいれ、共にベットに入った。
使用人用のベットはシングルサイズであり、2人で使うには手狭である。必然2人は抱き合うように、寄り添うことになる。
フランは俺の胸にぐりぐりと顔を埋める。
「○○の音が聞こえる……」
「それで、一体どうしたんだ?」
フランの頭を撫でながら、優しく問いかける。
フランは顔を埋めたまま答えた。
「怖くなっちゃったの……」
「怖い?」
「最近は落ち着いてるんだけどね、時々手の中に無意識にモノの目を引き寄せていることがあるの」
ありとあらゆるものを破壊するフランの能力は、モノの目を手の中に移動させ、それを握りつぶすことでありとあらゆるものを破壊する。
「今日もね、○○がわたしの部屋から出るときにね、気がついたら○○の目が手の中にあって……」
「なるほど、あの時のあれはそういうことだったのか」
「もしもあの時に、手をきゅってしちゃったら私……○○を壊しちゃったかもしれないんだよ!」
フランは目に涙を流しながら訴える。
「嫌だよ、○○を壊したくなんかないよ! ずっと一緒に居たい! でも……、そうすると私はいつか○○をきっと壊してしまう! もしそうなったらわたしは、わたしは……」
そういってフランはまた俺の胸に顔を埋めてしまった。
「う、ひっく」としゃくり上げるフランの髪をやさしく撫でる、俺のために涙を流し、震えるフランがとても愛しかった。フランの恐怖を拭い去ってやりたい。しかし、ただの人間である自分にそんな能力などはない。だが、しかし……。
フランの右手をそっと手に取る。そしてその手にしっかりと指を絡ませた。
「……ヒック、……○○?」
「もしも、フランが壊したくないと思うモノがあるなら俺が守ってやる。モノの目を握り潰してしまうのが怖いなら、俺がフランの手をずっと握っててやる。だから安心して俺のそばにいろ。ずっと、ずっとお前のそばに居るから!」
「……○○、うん……うん!」
すでにフランの涙は止まっていた、そして疲れたのか、すぐに安からかな寝息を立て始めた。
右手はしっかりと繋いだまま、空いた手でフランを抱き寄せる。
今一度誓おう、俺は絶対にこの手に抱いた少女を守り続けると。掴んだこの手を話はしないと……。
「ずっと一緒にいるからな、おやすみ……」
そうして俺は、押し寄せる睡魔に身をゆだねたのだった……。
―同時刻―
「随分と盛況だったようね」
「そのようですね」
テラスに居るのは紅魔館の主レミリア・スカーレットと、その従者、十六夜 咲夜である。
テラスに飾られた竹には五行の五色から黒を抜いた、緑、赤、黄色、白の4色の短冊がいたるところに括り付けられている。
「おや……」
様々な願い事の短冊を一通り眺めていると隅に赤い短冊が2枚、寄り添うように括り付けてあるのを見つけた。
「ふらんとずっと一緒にいられますように」
「○○とずっと一緒にいられますように」
言うまでもなく、フランと○○の短冊である。
「まったく仲がいいことだ」
「ふふふ、本当ですね」
その時いたずらな一陣の風が吹き、かさかさと竹を揺らした。そのせいで2枚の短冊が裏返る。
「おやおや……」
「あらあら、焼けますね」
「まったく、咲夜寝る前にお茶が飲みたいわ」
「はい、砂糖は少なめですね」
2人がテラスをでていく。無人になったテラスで皆の願いをつけた笹が静かに揺れていた。
2枚の短冊の裏には、もう一つの願い事が書かれていた。
「大切な人をずっと壊さずにいられますように」
「大切な人をずっと守ることができますように」
―チラシの裏―
初投稿です。とうとう愛が脳内からあふれ出してしまった結果、気が付いたらこれを書き上げていた。
誤字やら何やらと至らない点は多々あると思いますが、一つぬるい目で見てやって下さい。
紙芝居屋と吸血鬼:前篇(Megalith 2010/10/24)
フラン「できたー!」
地下にそんな声が大きく響く
驚いて絵に塗っていた絵の具がはみ出ちまった。修正きくかな、これ
○○「どした? 何ができたんだ?」
フラン「ふっふっふー。また私のオリジナル作品ができたんだよ。絵も自分で書いた最高傑作の自信作!」
○○「お。それじゃあ読ませてくれ。俺の評価は辛口だぜ」
フラン「えっ。……明日ね」
○○「なんで?」
フラン「なんでも! ○○は明日を楽しみにしすぎて眠れないままここに来ればいいの!」
○○「はいはい、了解しましたよ」
フラン「時間だけど、明日の朝9時きっかりに家を出てここに来ること。わかった?」
○○「? なんかそれって意味が………」
フラン「うるさーい! 言われた時間に来るの! これは命令だからね!」
○○「??」
まあ理由は大体察しがついている
おおかた恥ずかしくなったか、はたまたちゃんと添削して修正箇所を直してから見せたいか、そんなところだろう
しかし俺と一緒にお話を考えたり書いたりする合間にオリジナル作品を作るとは、俺も負けていられんな
と、相棒の成長を喜ぶとともに、ライバル意識にも目覚めてきた俺であった
目覚まし「8:30デス。システム 起床モード 起動シマス
システム 起床モード 起動シマス システム 起床モード 起動シマス」
○○「消えろイレギュラー……俺は面倒が嫌いなんだ……」
クソやかましい目覚ましの頭を叩き黙らせる。俺の睡眠を邪魔する者はこうなるのだ、フハハハ
………ぐう
目覚まし「寝息確認。システム 真起床モード・改 起動シマス」
さすがだよ、にとり特製のこの目覚まし
起きないならたたき起こす機能が備わってるなんてな
バネ仕掛けで飛び上がって頭に突っ込んでくるなんて、その発想は無かったわ
おかげで頭部が一次損傷だ。今度にとりにキュウリと一緒にげんこつをあげよう
まあそのおかげでフランとの約束の時間に遅れなくてすむのは事実なんだが
ここから紅魔館まではそこそこ距離があるので、昼飯を二人分持って行くのが俺の日課になってる
フランもあのちっこい体でよく食べるから俺と同じ量を作るのだ
○○「いざ進めやキッチーン 目指すはーじゃーがー芋ー とくらぁ」
今日の昼飯はサンドイッチだ。べつにコロッケは作ってないぞ
間に合うとは言ってもあんまり時間もないし、簡単に作れるしな
そうして最後のをパンに挟んだとき、戸がやかましく何度も叩かれる音がした
??「○○ー ○○ー 起きてるー?」
○○「寝てるから御用の方はそのまま明日までお待ちください」
??「起きてるじゃないのよー! 戸を壊されたくなかったら早く開けなさーい!」
○○「はいはいはい」
ミシミシと相変わらず立て付けの悪い戸を開けると、案の定チルノがいた
○○「なんか用か? もうすぐ出かけるんだが」
チルノ「あたいだってこれからリグルと遊びに行くのよ。あたいはこれを届けに来ただけ」
○○「なに? この封筒」
チルノ「知らない。あたいは昨日紅魔館の門番に、今ぐらいの時間に○○にこれを渡してって頼まれただけだもん」
○○「ふーん。ありがとな。あ、このサンドイッチ持ってけ。弁当の残り物だが」
チルノ「……意外と気がきくのね。あんた、あたいの子分にしてあげてもいいわよ?」
○○「じょ、冗談じゃ…」
『むかしむかしあるところに ○○というせいねんがすんでおりました
このおとこは あいぼうのこうまかんのあるじのいもうとと おはなしをつくるしごとをしていました
そうして きょうも○○はあいぼうにあいに げんきにこうまかんにむかいます』
そう書かれた読み札と、一枚の紙芝居
チルノが持ってきた封筒の中に入っていたのはそれだけ
紙芝居の絵は笑顔の男が紅い屋敷に向かって歩いているところ
ってことはこの笑ってる男は○○、つまりは俺ってことか
しかし紙芝居と読み札を別にする作り方、このかわいらしい絵のタッチ、作ったのは俺の相棒に違いなかった
○○「フランの最高傑作って、これのことか?」
けれども一枚しか入ってないってのもよく分からん話だ
あと、何で主人公が○○なのよ
まあいいや、行って聞いてみれば分かるだろう
ひたすら山道を3時間ほどかけて歩くと、いつもの館が見えてくる
しかし紅魔館は見えても、飛べない俺は湖を大きく迂回するしかない
ここからならあと20分もすれば到着するだろう
彼女はこの湖に住んでいる大妖精、通称大ちゃん
面倒見のいい性格で、いまいちシャンとしないで彼女の世話になってる奴は多い
チルノとか、
ルーミアとか、ミスティアとか、俺とか
大妖精「これ、紅魔館からのお届け物ですよ」
○○「え、また封筒?」
大妖精「また?」
○○「いやいや、気にせんでくれ」
大妖精「? それじゃあ私、チルノちゃんたちと約束があるので行きますけど……」
○○「ああ、ありがとなー」
その場で封筒を開けてみる
『けれど こうまかんはたいへんなことになっていました
○○のあいぼうフランドールが こうまかんしてんのうにとらわれてしまったのです
なんでもこわすちからをもつフランドールが ものがたりをつくるなんて ゆるされることではなかったのでした
それをしった○○は あいぼうをたすけだすために こうまかんにけっしのかくごでいどむことにしたのです』
……すげえ展開になったもんだな
絵は牢屋に入れられて泣いてるフランと、その牢屋の外で笑ってる4人
え~と、美鈴さんにパチュリーさん、これは咲夜さんで……うわ、レミリアさんすげえ悪人面にされてる
○○「これって……とりあえず来いってことか?」
何がなんだか分からないが、ここで帰るのもなんだしな
なにより、フランの最高傑作である超展開がどうなるのか俺自身すげえ気になるし
紅魔館前、今日もいつものように美鈴さんが暇そうな顔で立っていた
つか今まで彼女が働いてるところをあんまり見たことが無い
もともと侵入者なんてものが少ないだけなんだろうけど
○○「美鈴さん、フランのことなんですけど……」
美鈴「……」
○○「あれ、美鈴さーん?」
美鈴「………」
いつもなら朗らかな笑顔で返してくれるのに、俺なんか怒らせるようなことしたか?
フランと二人で暴れて門半壊させたり、休憩時間にフランのお話作りに無理矢理参加させたり
24時間朗読会につき合わせたり、その間に魔理沙に突撃されて怒られるハメになったり
そのくらいしか思いつかないんだが
美鈴「…………」
無表情のまま差し出されたのは、やっぱり封筒
えーと、なになに………
紙芝居には敵役で無表情にされても、ずいぶんかわいらしく描かれている美鈴さんの絵
そんで読み札には
『はじめに○○をにおそいかかるのは もんばんのしてんのう ほんめいりん
かんじょうのないめいりんは いつもなにかにうえています
がんばれ! ○○』
あれ? 今回は封筒の中に封筒がもう一枚?
どれどれ………
美鈴「駄目ですっ!」
○○「え?」
美鈴「次に行く前に、ここを読んでください」
○○「あ、はい」
……たしかに、封筒の裏面に[一枚目を読んでから5分後に開けてね]と書いてあった
美鈴「わかりました?」
○○「あ、はい。しかし美鈴さん、感情がないはずなんじゃ?」
美鈴「ええ、そういう設定なんですよ。さっきもつい返事しそうになっちゃって」
○○「せ、設定?」
美鈴「ええ、妹様から今日一日はそういう設定でお願いと言われちゃって。あ、私から聞いたって内緒ですよ」
○○「は~。で、感情のない役になって何するんですか?」
美鈴「とりあえず、○○さんに襲い掛かれって言われました」
○○「美鈴さん、俺もまだまだ若い男ですよ。たしかに最近たまってますけど野外でというのは……」
美鈴「……拳は外すようにって言われましたけど、かする程度ならいいですよね」
そういうとまただんまりになった美鈴さんの拳が、俺のすぐ横の空間を切る
もちろん言葉通り、一発もあたってない。風圧で少し肌が切れているけど
俺は少しも動いていない。それでも大立ち回りをしているような風に見えそうなのは、美鈴さんの腕だろう
しかし、これがフランの最高傑作のお披露目ってわけか
こりゃまた、ずいぶんと派手な発表会になったもんだ
美鈴「クソッ イッパツモアタラナイナ」
言葉も無味乾燥
役立たずの門番なんてひどいことを言われてるけど、ずいぶん芸達者な人だなぁ。人じゃないけど
○○「…………」
美鈴「…………」
○○「……え?」
美鈴「………○○さん、五分経ちましたよ。封筒、封筒」
○○「あ、そっか」
ごそごそと中身を取り出す
え~と、なになに…………
『そのとき めいりんのおなかが ぐう~となりました
そのとたん めいりんはこしをおろし おそいかかるのをやめてしまいます
そこで○○は かばんにいれたおべんとうを めいりんにわけてあげました
すると かんじょうがないはずのめいりんが おおよろこびでごはんをたべはじめます
そうです めいりんはずっと ごはんにうえていたのでした』
絵は、門前でおにぎりを食べる俺と美鈴さんが書いてあった
美鈴「…………」
○○「……サンドイッチですけど、食べます?」
美鈴「いただきます!」
言い終わらないうちに俺のサンドイッチをパクつく
これは演技だというが、半ば本気でお腹が減ってたんじゃないだろうか
一日にコッペパンひとつしかもらってない、という噂は本当かもしれん
美鈴「おいしい! おいしいですよ○○さん!」
○○「こんなことなら、もうちょっと凝った弁当作ればよかったかな」
美鈴「いえいえ、ハムと卵なんてもう半年振りくらいなんですよ」
○○「…………そッスか」
明日にでも、もっときちんとしたお弁当を作ってこよう
そう心に強く誓う俺だった
フラン「あーあ、わたしも○○のお弁当食べたかったなー。咲夜、ちょっと受け取ってきてくれない?」
咲夜「申し訳ありません。私もこの後に出番がありますので、今出るわけには………」
フラン「ちぇー」
後編に続く
フランドールは愛せない(前)(Megalith 2010/11/01)
紅魔館の一室からふと外を眺める。時刻は深夜、雲ひとつ無く月明かりが館全体を照らしていた。
しかし月光は、いつもの整然とした蒼白ではなく、不気味なまでに赤く染まっている。
部屋はそのせいで、鮮血を塗りたくったように朱色となっていた。
赤い色は本能的に気持ちを昂ぶらせる効果があるという。図書館の魔女曰く『色彩効果』だとか。
確かに、いつも以上に○○は興奮していた。なぜかは自分でも解らない。
しかし実感はある。もうすぐ彼女に会えることが、とても楽しみなのだ。
目を閉じ、湧き上がる感情を落ち着かせていると、不意に部屋の戸を誰かが叩いた。
「失礼します」と仰々しく入ってきたのは、この
紅魔館のメイド、十六夜咲夜。
「時間か?」
「えぇ。参りましょう」
横を並んで歩く彼女を横目で見ると、少しばかり緊張の色が見て取れる。
無理も無い。俺は今から、この館の主レミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレットと一騎打ちをするのだから。
フランのことを知っているものからすれば、俺の行動はまさに狂気の沙汰だろう。
彼女の持つ能力は、姉であるレミリアに相当する。その狂気な性格から姉以上に危険な存在だ
レミリアがフランを地下に閉じ込めるのも頷ける。彼女はあまりにも危険。
そんな化物に、人間である俺が決闘を申し込んだのだ。まるで性質の悪いジョーク。
「……○○さん、本気なんですか?」
「今更後に引けるかよ。男ってのは、一度交わした約束は死んでも守り通すものさ」
「貴方は妹様の本気を見たことがないから、そう言えるのです……妹様が遊びを超えたら、それは……」
「毎度毎度ごちゃごちゃうるさいなお前は」
不機嫌そうな表情でこちらを睨みつける咲夜。だがそれも一瞬のことで、またいつもの顔に戻る。
心配してくれているのはありがたい。しかし、過度に立ち入られるとこちらが困る。
もう、決めたことだ。逃げる、臆す、恐れる、戸惑う、躊躇う。全てが許されない。
真正面から、アイツと向き合わなければ。あのキチガイの糞餓鬼に。
「あなたも妹様に負けず劣らず、狂ってらっしゃる」
「今更なんだ咲夜? 言うのが半年ほど遅い」
「そうでした。貴方はここに来たときから普通ではなかったですね」
「そもそも幻想郷にまともな頭の輩がいるのか?」
「それを言われては、私も回答に困りますね」
笑いながら、二人は二階から一階へ。そして玄関ホールへと足を運ぶ。
普段甲斐甲斐しく働き回っている妖精メイドも、今はその姿を見せないでいた。
万が一、フランが暴走を始めた際の被害を最小限にするために。
やけに静かな夜。ただ、胸の鼓動のみは耳鳴りのように頭に響く。
もう半年か。この屋敷に、フランドールに出会った日から。
豪華な入り口の戸が開かれる。館と門の間にある中庭。そこに彼女が佇んでいた。
金髪のショートヘアーに風変わりな羽をつけた吸血鬼の少女は、妖しくも純粋な笑みを向けた。
地獄というものがあるのならば、まさしくこの部屋がそうなのだろう。
一筋の光も許さない地下牢獄に、私は閉じ込められた。実の姉によって。
理由は自分でもわかっている。ふと暗闇の中、私は自分の手を見た。
この手は破壊しか生み出さない。万物を傷つけ、破壊し、滅ぼすことしかできない。
それでいて、自身を破壊することができないのだからお笑いものだ。
なんて不完全で、未熟で、忌々しい能力だろう。
私に与えられるもの。無機質な人形。暇つぶし用の生き物。
全てを壊した。何の躊躇もなく。一片の後悔もなく。
生き物を壊すとき、幾分か気が晴れるような気がした。
彼の命を握る瞬間、彼は私を認識してくれているから。
たとえその感情が恐怖だったとしても、誰からもその存在を認めてもらえない孤独に比べればマシだ。
そんなある日、いつものようにぬいぐるみで遊んでいると、部屋に他人の気配が感じ取れた。
唐突に、まるで初めからそこにいたかのように。その気配は人間のものだった。
私が知っている中で、最も貧弱で愉しみがいのない種族。
部屋に入ると奴らは騒がしく泣き叫び、命乞いをし、自らの不運を嘆く。その醜悪な姿に思わず反吐がでそうだ。
吸血鬼ゆえ暗闇でもその人間を監視することができた。外見は男、咲夜か美鈴ぐらいかもう少し年上の感じ。
男はしばらく部屋の中を見渡す。といっても、人間には何も見えないが。
そしておもむろにその場で胡坐をかくと、目を瞑りながら煙草を吹かし始めた。
妙な吸い方をする男で、火をつけて少し吸ったらその吸殻を遠くへ投げ捨てる。
少し吸っては捨て、吸っては捨ての繰り返し。明らかにいつもの人間とは違っていた。
あたりに煙草の煙が充満してくる。ここ数百年嗅いだことのない臭いに、思わず眉を顰めた。
これ以上、男の愚行を続けさせるわけには行かない。私は能力を使い、とっとと始末することに決めた。
座っている男の命。それに手をかけた瞬間だった。
男はカッと目を見開くと、真横へと転がり、落ちていたナイフを拾い構える。その鋭い眼光を私に向けながら。
その目は間違いなく私を見ている。吸血鬼でなければ目視できるはずがないのに。
ふと床で燻っている煙草の吸殻を見下ろす。この程度の光源で、やつは見ているというのか。
違う。明らかに。この男は。違う。私は感じたことの無い感情の流動に押し流されそうだ。
ナイフを突きつける目に、私は吸い込まれる感覚に襲われる。
敵対の意思を見せ付ける最弱の種族に、私は興味を抱いてならない。
「……貴方、誰?」
私の呼びかけに、男は返事を返さなかった。代わりに、持っていたナイフを的確に私へと放った。
音だけで私の位置を把握したか。この男、やはり只者ではない。
久々に湧き上がる闘争の香。それは他者と私が認識しあわなければ成り立たない。私の心は歓喜に包まれた。
飛んで来たナイフを避け、突っ込んで来る男を見据える。弾幕や能力は使わない。
すぐに死なれては困る。この快感を、もっと味わっていたい。
「フフフ……クックク……ハハハハ! アハハハハ!」
こみ上げる笑い声。振り下ろす右腕。男はまたも避ける。楽しい、すごく楽しい。
男がナイフを突き立てる。私はそれを避ける。楽しい。
男と攻防を続けているとき、私の心は躍っていた。
他者とこんなにも近く、こんなにも激しく係わったのは初めてのことだから。
結局この後、異変に気づいた咲夜にあの男は持っていかれて、私はまた退屈な地下牢に残された。
しかし、以前のように憂鬱な時間はない。あの戦闘の快感に酔いしれていた。
時たま男は私のいる地下牢に現れては、咲夜に連れ戻されていく。何がしたいのだか、さっぱりわからない男。
けど、単純に彼が私に会いに来てくれて、嬉しかった。
初投稿です。とても緊張してます。
とりあえずフランちゃんの婿は、彼女並に強くなければ駄目だという勝手な妄想が先走り
やたら現実味の無い戦闘狂が完成。
後半はいよいよフランちゃんと一騎打ちです。
フランドールは愛せない(後)(Megalith 2010/11/02)
中庭に佇む二匹の狂気。照らす月は朱に染まって、互いの顔を妖しく浮かび上がらせる。
一方が息を吸えば、一方が息を吐く。視線を交え、相手を見据えた。
言葉にしなくても、互いの心が通じ合える。二人は似た者同士だから。
フランが笑えば、○○も笑う。まるで合わせ鏡のような。
「フラン」
「何?」
「……好きだ」
「私もよ、○○」
二人の感情を解き放つには、十分すぎる言葉の羅列。
迸る殺気は中庭を駆け抜け、屋敷はおろか敷地全体を包み込んだ。
濃密な負の感情は、従者である咲夜の防衛本能にも火をつける。
ナイフを片手に主の前に姿を現す。その後ろ、レミリアは僅かばかり眉を顰めた。
二匹の鬼。その死闘の序章は、人智のそれを遥かに超えていた。
「いやぁー! ここまで書いておいて、ラストスパートどうしようかと迷ってしまいましてね。
このまま妹様を倒して伴侶として向かえてハッピーエンドか、俺が殺されて悲劇のバッドエンドか。
丸三日考えあぐねて、ここは500年の英知を授かろうと思い――」
「○○。私から警告よ。即刻この作品の執筆を止めなさい」
俺の書いた小説を机に置き、こめかみを抑えたレミリアが真剣な表情でそう忠告する。
「ど、どうしたんですか? 何か不適切な表現でも……」
「……あまりにストーリーが痛々しすぎて、こっちは眩暈の症状が起きてるのよ!」
「んなッ!? 痛々しいってどういう意味ですか!」
腹の底から大量のため息と倦怠感を吐き出したレミリアは、排出物でも見るような目で俺の小説を眺めた。
「まず作者が自分の本名を主人公にして小説書いてる時点で終わってるわ!
しかもこの主人公の設定、中二病すぎて目も当てられない! 私もよくここまで読めたものよ!
ヘタレでチキンハートな自称芸術家の三流芸人が、フランと同等の力を持つなんて片腹痛いわ!」
憤りと供に俺が手塩にかけて作り上げた息子を机に叩きつけるレミリア。ごめんよ、お父さんがしっかりしてないばかりに。
レミリアの的を射ている罵詈雑言に一切の反論が出来ない。改めて見ると、確かに痛々しい。
現実の俺は芸術活動をするために単身上京し、人々から忘れさられて幻想入りした哀れな芸術家(自称)
ナイフも使えないし煙草も吸えない。フランと一騎打ちなんてとてもとても。
出来ることと言えば、小説まがいなものを書いたり絵を描いたりする程度。その程度の能力しかない。
今は紅魔館の一室で居候の身。いずれ芸術家として独り立ちできるよう、修行の毎日である。
「レミリアお嬢様、紅茶を淹れました。宜しければ○○さんもどうぞ」
「あ、すいません咲夜さん。いただきます」
一通りレミリアの怒りが収まったころ、タイミングを見計らったかのようにメイド長の咲夜がやってきた。
紅茶に口をつけるレミリア。幼い容姿ではあるが、その動作一つ一つに気品が滲み出ている。
落ち着いた様子でまた俺の作品に眼を通す。冷たい視線なのは相変わらずだが。
「私には理解できないわ……物語とはいえ、何故貴方が力を欲したいかが」
「男には程度の差がありますけど『英雄願望』ってものが存在するんです。
他人より強くありたいと思うのは、本能的な欲求にすぎないんですよ」
「だからって、フラン並みに強くなってどうするのよ。二人で幻想郷乗っ取るつもり?」
彼女から手渡された小説を一瞥する。そこで動く俺は、何物にも屈しない強い男。
しかし現実の俺は、似ても似つかない駄目な男。
紅魔館にお世話になるにあたって、ある仕事を言い渡された。それはフランの遊び相手になること。
まさしく死刑宣告。地下牢への階段が、俺には地獄の底へ続いていると思った。
最初は本当に隅っこでビクビク震えながら時が過ぎるのを祈ってばかり。フランも興味なしとばかりに俺を無視していた。
彼女が俺に意識を向けたのは、退屈しのぎに俺が壁に描いた一つの絵だった。
彼女の横顔をそのままスケッチしたもの。表情は無いに等しかった。それを指差して「……私」とだけ呟いたのだ。
「それから俺の絵をじっと見るようになったり、即興で考えた話を聞いたり。少しずつですが、心開いてくれて。
今では二人で壁にお絵かきしたり、互いに話しを作って読み聞かせをしたり」
「それが、力となんの関係があるの?」
レミリアの問いに、少し俯いて答えた。
「まだ……フランが恐いんです」
「恐い……?」
「あの純粋な目が、いつ殺気篭って俺を見据えるか。あの華奢な腕が、いつ俺の体を引き裂くか。
太陽のような笑顔が、いつ狂気じみた笑みに変わるか……恐いんです。
後一歩、フランに近づくことができないんです。フランを、愛せないんです。
これは俺が弱いから……だから、この小説のように強くなれたらって。
そうしたら、フランとも真正面から付き合えるのかなって」
話を聞いていた二人の表情に、若干の影が見えた。
特にレミリアは先ほどのような威厳さの中に、僅かながら悲壮感を醸し出している。
すでに冷めたであろう紅茶に口をつけると、俺を見据えて口を開いた。
「○○、貴方に力は無いわ。芸術家としても、凡庸な才能でしかない。
でも貴方は、私たちにできないことが出来る唯一の人間。
あの子を真正面から向き合える人間なの。そのことに誇りを持ちなさい」
「……お嬢様、でも」
「……悔しいけど、この数百年の間あんなに楽しそうにフランは笑わなかった。
貴方に力はない。けれど、貴方の何かがフランを変えてくれたのよ!
……感謝と一緒に、少しだけ嫉妬するわ。あの子の姉として」
「お嬢様……」
「ほら、さっさと行きなさい。レディは待たせるものじゃないわよ」
俺の中で何かが吹っ切れた。冷えた紅茶を一気に飲み干すと、彼女たちに一礼していつもの場所へ向かう。
彼女の待つ部屋まで行く間、俺はあの小説を破っていた。
偽りのヒーローに憧れるのはもう止めよう。等身大の俺で、どこまでいけるか。
「フラン、入るよ?」
地下牢の戸をノックして中に入る。フランは宙に浮かびながら、天井に何かを描いていた。
天井一杯に、あれは男の顔のようだ。いつもの絵とは違う、かなり真剣に描いている。
ふと地下室を見回すと、最初の頃に比べてかなりにぎやかになっている。
壁や床には隙間無く何かの絵が描かれており、床の上にも画用紙やクレヨンが散乱している。
殺伐とした地下牢が一変、自由な創作活動の場へとその用途を変えていった。
「もう少し待ってて……よし、できた!」
「随分な力作だね。フラン画伯、この絵のタイトルは?」
「○○だよ。○○の似顔絵」
「え? これ俺だったんだ」
もう一度フランが描いた絵を拝見する。所々特徴を捉えてよく描けていると思う。
しかし欧米人のような高い鼻に切れ長の目など、少しばかり美化されているような。
「フラン、少し格好良く描きすぎじゃない?」
「ん? ○○はもっと格好いいよ。私じゃ描き表せないだけで」
何気に恥ずかしい台詞を投げかけると、フランは俺の横に下りてきた。
自分で描いた絵を見て、満足げな表情を浮かべるフランを、俺はじっと眺めていた。
純粋そうな横顔、綺麗な金髪、少し低い背丈。全てが愛おしく思える。
何も言わず、フランを後ろから抱きしめていた。
彼女の挙動が固くなっている。いきなりだったから緊張したのか。
フランの頭を胸に引き寄せる。より二人の体が密着するように。もっと強く。
「○○? 何か、いつもと違う……」
「嫌か?」
「ううん……嫌じゃない」
フランの体重を感じる。そのまま包み込むように、二人は床に腰を下ろした。
吸血鬼だけあってか、彼女の体温は低い。それでも昂ぶっている俺にとってはむしろ心地よいぐらいだ。
愛しい。フランドール・スカーレット。俺はまた、抱きしめる力を強めた。
不意に腕に滴る水滴。それと同時に、フランの咽び泣く声が聞こえてきた。
「フラン?」
「○○……私、私……恐い」
「恐い? ……何が恐いんだ?」
「うん……貴方を失うのが……私が自分の手で、貴方を失うことが……」
フランが向きを変え、俺の正面に座る。その目に大粒の涙を溜めて。
居た堪れない気持ちが俺を襲う。掌で涙を掬ってやると、フランはその手を掴んで自分の頬に当てた。
「貴方が優しくしてくれて、私はとても嬉しかった。けれどそれと同じくらい、不安にもなったの。
貴方がこの部屋を出て行くとき、もう一生来ないんじゃないかって……
そしてたまにこう思うときがあるの……貴方を殺しちゃえば、一緒にいられるって……」
「え……?」
「すぐに思いなおした! そして自分を責めた! 何も変わってない。貴方と出会った頃と何も変わっていない!
私の中には、抑えようの無い狂気が潜んでいる。お姉さまも恐れた悪魔が私の中にいるのよ。
その悪魔が! ……私の知らないところで、貴方を傷つけて、壊してしまうんじゃないかと思うと。
私……わた――!」
フランの言葉を遮るように、俺は彼女の唇を自分の唇で塞いだ。
ふっくらと柔らかい感触。口の中も、少しひんやりしていた。
彼女の頭を、体を、引き寄せる。もっと、もっと近くに。
「俺も、君に傷つけられることが……恐かった。
けど、もう決めた。君のことが好きなんだ。だから、君と真正面から向き合わなきゃ。
君の良い所も悪い所も、全部ひっくるめて、君が好きだ。フラン」
「あ……あぁ……!」
恐る恐る、俺の首にフランが腕を回した。そして抱きしめる。
傷つける恐怖、傷つけられる恐怖。互いに相手を思い、一歩が踏み出せなかった。
互いに相手を愛せなかった。
もどかしい時間が、二人の時間が、動き出す。
イチャイチャ感が前半で出せなかったため、後半に詰め込んでみた。
今になって「前半いらなくね?」と思うのは私だけではないと思う……
イチャ絵板 2009/01/20
「よっしゃ、いくぞ」
背中越しに、彼のくぐもった声が聞こえた。
その顔は被り物(ヘルメットっていうみたい)に隠れて
見えないけれど、きっと笑っているはず。
「…うん!」
だって私も、こんなに笑っているんだから。
最終更新:2011年06月16日 23:32