レティ3
Megalith 2012/01/25
人里に、最近開店した店がある。
外来人の青年が慧音の許可を得て始めた店で、少し変わってはいるが、いわゆる茶処であった。
春夏秋冬、季節を代表する軽食や甘味を用意する店で、味はそれなり。
すごく旨い訳ではないが、気軽に立ち寄れる雰囲気が人気となりつつあっていた。
場所が里の入り口に近い事も相まって、人妖問わず訪れる、そんな一角になりつつある。
そんな、茶処にて。
「こんにちは! 清く正しい射命丸です!」
鴉天狗、射命丸文が店に入ると、店内には青年一人だけしか居なかった。
「ああ、いらっしゃい」
バーのマスターの様な出で立ちの青年。
店主である青年は、来店した友人に笑顔を向ける。
「今日はあの人はいらっしゃいますか?」
「いやぁ……」
文の問いに、店主は苦笑を返して頭をかいた。
「冬真っ直中だからねぇ。中々忙しいみたいだな」
「あやややや。それは残念です」
返答を予測していたのか、文は軽く肩をすくめて席に着いた。
「それでは、普通にケーキセットを頂きましょうか」
「はいよ、まいどー」
カウンターでカップと湯を温め、茶葉を準備する。
程なくして、文の席にトレーに乗せてミルクティーと苺のショートケーキを乗せてやってきた。
「はい、お待ち」
「どうもー」
ケーキを食べ始める文をそのままに、店主はカウンターの内部の準備にかかる。
そろそろ、忙しくなる時間帯だった。
「じゃあ、またー」
「ん」
今日最後の客を見送り、店主は一つ背伸びをした。
「……っんー」
「お疲れさま」
横手からかかった声に、店主は笑顔で向き直る。
「お帰り」
声をかけてきたのは、店主より少し背が低い位の女性であった。
青と白を基調とした冬装束で身を包み、銀色の柔らかそうな短髪が風に揺れていた。
「ただいま。毎日大変ね」
「そっちこそお疲れさん」
互いに微笑みを向け合い、店じまい中の茶処へと入って行く。
店主が風呂から上がったところに、冬の妖怪、
レティ・ホワイトロックは柔らかく声をかけてきた。
「そろそろ冬の大仕事はお仕舞いだから、また店の手伝いできるわね」
「おお、そりゃありがたいな」
軽く肩を回しながら、湯上がりの体にバスローブを羽織った。
「レティが居てくれたら、俺の負担が半分以下になるからな」
「あら。私でも役に立ててるのかしら」
「もちろん。お前が居なければ俺は今こうして居られないんだし」
店主の言葉で、レティはどこか遠くを見る様に視線を向けた。
「貴方にプロポーズされた時は、今でも鮮明に覚えてるわ」
「やめろ恥ずかしい」
自身も覚えているらしく憮然とする店主に、茶目っけの混じった笑みを見せる。
「俺は、何があってもお前を守る。たとえ俺の方が弱くても」
「お前の心は、俺が守ってやる」
吹っ切れたのか自分で続けた店主に、柔らかな笑みを返す。
そして、レティが椅子から立ち上がった。
「ねえ、今夜は」
「明日も仕事だぞ」
茶化す様に言う店主に笑みを向け、告げる。
「大丈夫よ。貴方が優しくしてくれれば」
「それは難しい注文だな」
妖艶に微笑むレティを抱き寄せ、唇を奪う。
「ん……」
深い口づけの後、そのままベッドに導かれる様に押し倒した。
「愛してるよ」
「ええ、私も」
それから暫くして。
「おはようございます! 清く正しい射命丸です!」
最近、朝一の常連となりつつある文が店内に入ってきた。
「あら、いらっしゃい」
アンミラ風の制服を着込んだレティが、文を席まで案内する。
「どーもー。冬のお仕事はお済みですか?」
「ええ。後は年末の大仕事まではお休みよ」
「それはそれはお疲れさまです。じゃあ、またウェイトレス生活ですね」
「ええ。慣れるとこれも楽しいものよ」
「これでまた、レティさん目当ての若い男性客が激増しますしねー」
文が楽しそうに言うと、店主が仏頂面で近寄って来た。
「注文は」
顔には、言葉よりはっきりと『レティは俺の嫁』と書かれている。
それに顔を見合わせ笑みを浮かべ合い、文が口を開いた。
「ケーキセットを……?」
ふと、文は店主を見上げた。
「……ん? どうした」
店主は不思議そうな文を見返し、疑問符を浮かべる。
「店主さん、疲れてますか」
「あ? あー……まあ」
どこかバツが悪そうに、店主の視線が泳ぐ。
泳いだ視線の先では、横に立つレティが微笑を浮かべている。
「……あぁ」
文は僅か頬を赤くしながら、苦笑を浮かべた。
「……そう言う事だ」
「……糖分は充分頂きましたので、今日はブラックコーヒーをおねがいします」
「あいよ」
注文を受け、カウンターに下がって行く店主とレティ。
寄り添う様に歩く後ろ姿を見遣り、文はカメラを構えた。
「甘味は店内に溢れてるんだし、辛い物も始めれば良いのにね」
ファインダーの中の二人は、幸せそうな笑みを交わしていた。
Megalith 2012/05/09
――宴会後にフルマラソンをし、盛大に色々ぶちまけた上で倒れ付した翌日の二日酔い+筋肉痛。
そんな風に例えたくなるような気怠さと、脱力感と、胸糞の悪さと、頭痛、全身を這い回る疼痛。
それらを抱えて、僕は目を覚ました。
「ぐ……ぅ……」
まともに声も出ない程にしんどいが、とりあえず目だけは開いてくれた。
それでもぼやける視界の中で目を凝らし、焦点を合わせる。
「……ぁ……?」
白と木の茶色を基調とした家具の数々。天井に見える河童謹製のシーリングファン。
僕の家ではない。だけど見覚えがある――ここは、確か。
――あそこに
チルノちゃんの氷を仕舞っておけば、一年中活動くらいは出来るのよ。
見覚えのある、部屋の大きさに対して不自然に大きい、木製の暗室の戸が見え、
それに付随して笑いながら言った彼女の言葉が脳裏を過ぎる。
(……レティ……の、部屋……?)
起き上がれないものかと踏ん張ってみるが、身体はまだ動かない。
平時に比べて全く力が入らないし、熱いのか寒いのかもよくわからない。
自身の尋常でない体調は何によるものなのか、原因を思い返す。
(僕は、一体――)
目を覚ます前の、ひどく曖昧な記憶を呼び覚まそうと、思考を巡らせる。
確か、彼女と"一緒に"なるべく、賢者に方法を聞きに行って。
泣きながら嫌だ、怖いと愚図る彼女を、一日かけて、説得して。
それから、それから――
(そう、だ。彼女の"力"を、僕は取り込んだんだった……?)
そういえば、彼女の。レティの姿が見えない。
ここにいないということは、出かけているのだろうか?
しかし、彼女は外には殆ど出られない筈。今は夏真っ盛りなのだから。
だとしたら、一体。
(馬鹿な。そんなこと、あるわけ)
嫌な予感にざわつく身体に鞭を打ち、再度身体に力を込める。
全身がまだ動くべきではないと悲鳴を上げるが、そんな事知ったことではない。
「――っ、はぁっ、はぁっ」
仰向けからうつ伏せになり、肘を立てる事で僅かに上体を浮かせる。
滝のように汗が流れ落ちるが、今はそれよりも大事な事がある。
「レ――ティ――」
君は、一体、何処に。
そこまで思考を巡らせ、僕はベッドから身を乗り出し
「――ッ、――ッ」
誰かの声が、聞こえる。
額に柔らかい感覚。誰かの手かな?
「――してッ!○――!」
僕の事を呼んでいる、のか?
そんなに悲痛な声で、どうしたのかな……僕はここに、いるのに。
「――私を置いて行かないで、○○ッ!」
彼女が壊れてしまうのではないかと思う程悲しみを滲ませた声に、意識を浮上させる。
重い瞼を渾身の力で開けて視界に映ったのは、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたレティと――
「……目を覚ましたみたいよ?」
何かの器具をいじくりまわしている永琳さんと、
「まったく……あまり女を泣かせるもんじゃないわよ」
呆れた顔に僅かに安堵の色を浮かべた紫さんが見えた。
「や、ぁ、レティ。それに永琳さん、紫さん、まで――」
一体どうしたんですか? と聞こうとした僕にレティが顔を埋めてきた。
「まだあまり無茶はしないで。ようやっと定着したばかりなんだから……
また彼女を悲しませたいのなら、話は別だけど」
「ええっと……ご迷惑を、おかけしました……?」
「まあ、そういうことね。半ば錯乱気味のその子を落ち着かせるのにだいぶ苦労したんだから」
しんどかったわー、と肩を叩く紫さん。
そんなおばさん臭い事を、と言葉には出さずに思っていると、
「そういう事やってると老けて見えるわね」
「なッ――」
しれっとカルテを書きながら永琳さんがのたまった。
言われた事に対して固まってしまった紫さんを尻目に、彼女は僕の脇に水差しと薬袋を置いた。
「とりあえず日に三度、それを服用する事。しなかったら多分今度こそ死ぬからね。
手持ちの道具だけじゃ詳しい事も断定出来ないから、落ち着いたらウチまでいらっしゃい。
それと――おめでとうと、ようこその言葉を貴方に送るわ」
そう言ってふわりと微笑む永琳さん。その言葉から察するに、僕はどうやら。
「有難う、ございます――それと、お世話になりました。これからもよろしくお願いします」
身体がレティの抱きつきによって殆ど動かせないので、首肯だけ返す。
満足気に頷いてまたカルテへと視線を落とした永琳さんから意識を外し、
なんとか動かせなくもなかった右手を未だ胸元で泣きじゃくるレティの頭に乗せ、軽く撫でる。
「ただいま、レティ。有難う、外は辛いだろうに、僕の為に動いてくれて」
「○○……」
ぐじゅ、と鼻水を啜り上げながら顔を上げるレティ。
白い肌に整った顔立ちが美しい彼女なのだけれど、今は目元を腫らし、涙でボロボロになってしまっていた。
そんな彼女も堪らなく愛しく、僕は頭に乗せていた掌をレティの頬へと移す。
「これで、いつまでも一緒にいられるね」
今の僕に精一杯出来る笑顔を浮かべてやる。
少しだけ驚いた顔をしたレティだったが、目元に涙を貯めたまま、素敵な笑顔を浮かべ頷いた。
「うん!」
――以降、冬が訪れ雪が降る頃になる度に、幻想郷では二人の仲睦まじい雪の精が飛んで回ったそうな。
一部の者からは、寒いんだか熱いんだか甘いんだかわかりゃしない、との言葉が漏れたそうだが、
それは話に書き起こす程でもないようなので、割愛する。
異種族での悲恋でなんて終わらせたくなかったんや…
うpろだ0028
夏のある日
「あつ……あつ……熱燗」
「?」
「あつぅ……あつぅ……厚塗り」
「どしたの?あつあつばっか言って」
「言霊と言うものがあってだなレティさんや」
「それと『あつ』は何か関係が?」
「今気温は?」
「かなり高いわね」
「それで感じる事は?」
「そりゃあt……あぁ」
ぽんと手を打って理解した素振りを見せる
「納得したか?」
「納得はしたけども、別にその位言っても良いと思うけど」
「言霊と言うものがあってだなレティさんや」
「繰り返してる繰り返してる、頭がついに熱暴走でも?」
「それくれぇ頭が回らんのだよ。何か無いかね良い案は」
遠くから聞こえる蝉の声が拍車をかけている
「良い案と言われてもねぇ、
チルノでも連れてくる?」
「あの氷精が素直でいい子ならなぁ……」
「素直でいい子じゃない?」
「全然全くこれっぽっちも思えん」
「ま、言うこと聞かせるのは難しいか」
「その通り、塩梅って言葉を知らんからな」
限度を知らないって辺りが妖精の怖い所だと思う
「んあああああああ!、扇風機が恋しいわぁ」
「風を起こす式神だっけ?」
「んーそうな、その認識は間違いじゃない」
「魔法の森にある何でも屋に売ってないの?それ」
「あの店主とはウマが合わん、よって却下」
「随分上からねぇ。で、他に案は?」
「ねぇな」
「あら随分あっさりと」
「お前って言う手もあるんだがな、それは甘えかなぁと」
「……そう言えばそうね」
「無意識に冷気操ってたのかお前……」
「本能って言うのよ多分」
「うむ、万策尽きたわ」
「なら私の出番?」
「いや、何かしら考えてみるつもりだ」
妙な男のプライドが騒いでいる
「なら霧の湖に行ってみない?」
「えぇとその家から出るのもしんどいんですが」
「はいはい文句言わないで行きましょ行きましょ」
抵抗は華麗に躱され徒歩で霧の湖へ
霧の湖
「まさか毒状態を実演する時が来るとはな」
「ただ炎天下の中歩いてきただけじゃない……」
「歩くたびに体力削られてんだよこっちは!」
「知らないわよそんなの……」
「まぁいい、涼めれば万事解決だ」
湖に着くとほとりで止まり、水面に向かって大声で呼ぶレティ
「わかさぎさーん、居るー?」
突如水面からバシャァと顔をのぞかせる『ワカサギサン』とやら、水中から現れる辺り人ではなさそうだ
「はいはいなんでしょう」
「例の場所今空いてるかしら」
「この時間帯だと流石に妖怪は来ませんね、がら空きです」
「じゃあ夕方まで貸切いいかしら?」
「どうぞ、ごゆっくり」
わかさぎという人魚は話した後すぐ水中に消えて行った
「え、何あの……魚?人魚?」
「湖の管理人のわかさぎさん。種族上は人魚ね」
「人魚まで居るんかここは……」
食べたら不死になれるかなとか言う話題を出したらここに氷像が出来るだろう
「さてと、ちょっと泳ぐから服脱いだ方がいいかも」
「……泳ぐ?湖横断でもして涼もうってか?」
目視できる限りでは対岸が見えない
「それもいいけど、疲れるのは嫌でしょ?」
「どのくらい泳ぐんだ?距離によって決めるからよ」
「えーっとね、二十間って話だったかなぁ」
一間が大体2㍍だった気がするから……約30㍍か
「辛っ!日頃運動してないのに何て仕打ちだ!」
「涼みたいんでしょ?じゃあ頑張る頑張る」
「へいへい」
入水するなりレティは飛んで行ってしまった
「おーい、待てよー」
幼い頃培った平泳ぎもどきで進んで行くと、木の生えていないほとりにレティは立っていた
「遅ーい」
「泳ぎもしなかった奴が何を言ってやがる……」
濡れた服が少し不快だが陸地に上り腰を下ろす
「泳ぐ事で少しは涼しくなったと思うんだけど、どうかな?」
「日陰に居る事もあるからか快適だな」
周りを見回すと木が天然の屋根になっており微かにしか日光が入ってこない
「こんな秘境があったとは知らんかったなぁ」
「
チルノに教えてもらったんだけどね、良い場所でしょ?」
「夏にはもってこいだな」
水に足を浸け、仰向けになる
「あー……これ最高だわ、昇天しかねん」
「……」
ふと横を見ると何やら言いたげなレティの顔があった
「どした、お前は暑くないから実感が無いのか?」
「紹介してこう言うのも何だけどね……」
少し恥ずかしそうにもじもじしながら言う
「ちょこっと嫉妬心が芽生えちゃったかなぁ……」
「何故に嫉妬心が芽生えるんだい?」
「貴方が頼ってくれないから……かな」
「そ……そうか」
突如襲い来る気まずい雰囲気
「……」
「……」
「な、なんか気温が上がってきた気がするなぁ。そう思わんかね?レティさんや」
そしてあまりにも不自然すぎるフォローを入れてしまった
「そうかしら?さっき快適だーとか言ってなかった?」
「さっきは、だ。今は少し気温が上がって暑くなってきたんだよ」
「はいはい、私は何をすればいいのかしら?」
勢いをつけて起き上がる
「ちょっと冷気を下さいな」
「毎度ありがとうございまーす」
微かな冷気を掻き集め、かなり冷えた空気がレティの両手で形成されていく
「ほぉ……塵も積もればって奴だな」
「で、これを……」
突如こちらを向き冷気を溜めたまま、背後へ
「ん?」
と思った時には時既に遅し
「それぇ!」
冷気の塊が近距離で飛んでくる
「……」
「どお?」
「お、恐ろしく冷えてますなぁ……」
夏場に冷凍庫をあけた瞬間の冷気が首から下を包む感じだ、しかも結構な時間
「ご満足?」
「かなぁり寒いんで……一緒に分け合いませんか?」
「それだと温くならない?」
意地悪そうな顔でレティが言う
「さっきの詫び、じゃあダメかね?」
「ん、ご一緒させてもらうわ」
嬉しそうに寄り添ってくる、が
「……おぶさる必要無いんじゃ」
「いーの、貴方も嬉しいんじゃない?」
「ま、まぁな」
背中に当たる柔らかな感触、すごく照れくさいのだが
「♪~♪~」
上機嫌で鼻歌まで歌っているのでどいてくれとは言えないのだった
「しっかし、わざわざ夏に出て来て大丈夫なのか?」
「冬の忘れ物筆頭としては暑いのは辛いんだけど……」
背中に当たっていた感触がやや強くなる
「恋人と長く、永く居たいから……かな?」
「はぁ……心配してんのにその返しはちっと卑怯じゃないんですかねぇ」
「心配ないよって言ってるの、無理したら貴方絶対怒るでしょ?」
「そりゃそうだろ!真夏の猛暑日に訪問する阿呆が居るかっ!」
「あれは自分でもちょっと反省してる……」
来るなり倒れられちゃこっちも怒るに怒れなかったけどさ!
「でもさ、あの時の口で悪態吐きまくってた割には凄く優しかったよね」
「行動と言動が不一致とでも言いたげだな」
「いいえ?優しかったなーって言いたいだけ」
レティの寂しげな表情からなんとなく彼女が望んでいる事が汲み取れた
「ほれ、戻れ」
さっきまで足を浸けていた所へ座るように促す
「……分かった」
レティは余程言う事が奇怪じゃない限り素直に従ってくれる、長年の信頼の賜物だろうか
「俺も最近レティと会えない日が増えたなってのは実感してた」
「……」
「いつでも居るのが当たり前で、そんな気持ちがあったから俺は寂しくなかったのかもな」
「……そっか」
俯いてしまうレティ、それを元気付けるかのように明るい声で言う
「でもよ、俺が寂しくなくてもお前は寂しかったのかもって思ってさ」
「それで?」
「どうせなら、一緒に住もうかなって」
「……本当に?」
振り向いたレティは驚きと不安が入り混じった何とも言えない表情だ
「長い事付きあってるし一緒になってもいいかなぁって勝手な判断だけど、レティが嫌なら無理にはす……」
泣いていた、ぽろぽろと大粒の涙が頬を伝い地面に落ちていく
「遅ぃ……よ……いっつも……」
レティに告白した時も言われた台詞だ。同じように、泣きながら
「うっ……ぇっう……」
「泣き止むまで待つか?」
「うぅん、大丈夫」
くしゃくしゃの顔で、こちらに両手を広げる
「りょーかいしやした、レティさんや」
胸にレティが顔を埋める。悲しい時や辛い時、彼女はこのポーズをして俺はそれを優しく抱き寄せるのが役目になっている
「……こっちの方が、いいから」
「そか、話続けても良くなったら言ってくれ」
「……分かった」
泣いている間は綺麗な白銀の髪をそっと撫で続けていた。暫くすると泣き止んだようで顔を上げた
「改めて言うぞ、一緒に住むか?」
「……当たり前でしょ」
つん、と人差し指で胸を押される。顔を下げた所を見ると照れているようだ
「ずぅっと、貴方と一緒になれたらなって思ってたの」
「なかなか言い出せなくて申し訳ねぇ」
「いいのよ。それに同居も嬉しいけどね……」
すっと顔を上げる
「離れてた距離も近づいたから、余計に嬉しいのよ?」
悩み事が晴れたすっきりとした表情で言う
「ん?同居ってのは物理的にゃあ近づくがそこまで無いんじゃ……」
「まだ分かってないの?鈍感ねぇ」
さっぱり分からないが喜んでいるので深く気にする事ではないだろう
「さぁってと、夕焼け見て帰るか」
やや朱色じみた空を見て提案してみる
「あら、もうそんな時間なの?」
「昼過ぎに家を出たからな、長いこと話してりゃ直ぐ夕方だ」
レティは体勢を変え、俺を座椅子の様にしてもたれかかる
「そだ、明日荷物纏めていくから家の掃除をしておくこと」
「……まーた随分早いっすね」
「抜き打ち検査はお好きかしら?」
「滅相もない」
家に来るなり機嫌が悪くなるようなことは避けなければ
「楽しみね、明日からが」
「そだな」
そんな夏のある日
35スレ目 >>349
冬が寒くって本当に良かった
レティの冷えた左手を僕の右ポッケに
おまねきするための
このうえないほどの理由になった
最終更新:2021年04月25日 14:35