橙1



1スレ目 >>75


「あ~あ、どこかに可愛い被写体がいないかな」
カメラを片手にさまよう俺は、幻想郷に迷い込んだごく一般的な男の子。
強いて違うところを挙げるとすれば、猫にとても興味があるってことかな。
名前は○○○○。
そんなわけで、今日もマヨヒガの近くにやってきたのだが……

ふと見ると、向こうから一人の小さな女の子が歩いてくる。

 ウホッ!いい子猫!!

誤解のないように言っておくけれど、俺は幼女にはちっとも興味が無い。興味があるのはあくまでも猫、それもふかふかの子猫なのだ。
多少人間っぽい格好だけれども、幻想郷だから仕方がないか。
さっそくしゃがんでから声をかけてみた。

「ねえ、そこの可愛いお嬢ちゃん。猫缶あげるからお兄さんについていかない?」

すると、その子はきょとんとして言うじゃないか。

「えーとね、藍様が知らない人についていっちゃいけないって言ったんだ。だからついていけないよ」

誰だそんなことを教えたやつは。僕が内心舌打ちをしていると

「ほう、私の可愛い橙をたぶらかすとはいい度胸だ。この人間風情が」

その声の冷たさ。背筋が凍るとはこのことだろう。
振り返る暇もなく、俺は背中にすさまじい衝撃を感じながら宙を舞っていた。
かすかに視界の端に、狐のような人間がいたような気がしたけれども、確かめることもできず俺は頭から湖に墜落していった。
まるで犬神家の一族のような俺。

BAD ENDING

 香霖道場へ行きますか
 →はい
  いいえ


1スレ目 >>169


縁側に座り、何とはなしに月を見上げてみる
この家に辿り着いてどれくらい経ったのだろう?
数週間か、はたまた数ヶ月か
明日になれば我が家に帰れる…
待ち望んでいた事のはずなのに、何故か僕の心は今日の夜空と反対に何故か曇っていた

―いつもの登山、慣れが生んだ油断だったのか
それとも『何か』に誘われたか
どこで道を間違えたのか、気が付けば辺りは昼なお暗き鬱蒼とした森林
帰り道もわからなければ、現在の場所の把握も出来ていない
いわゆる「遭難」というやつだ
それからどこをどう進んだのか記憶に無いが、僕は何時の間にかその家の前に倒れこんでいた―

「隣、座っていい?」
物思いに耽っていると、後ろから不意に可愛らしい声が掛かる
「あれ… まだ寝てなかったの?」
返事を聞く前に、その女の子-橙-は僕の隣に腰を下ろした
この家の前に倒れこんでいた僕は彼女に介抱を受け、そのままここでご厄介になっている

橙の主の藍さんの話によると、ここは僕達の住んでいた世界とは微妙に異なる空間に存在しているそうだ
あまりに突拍子もない話だったが、事実この場所自体が僕が迷った山中とはかけ離れた景色だし、
それに現実に目の前に猫耳少女や狐少女がいては信じざるを得まい
どうやらこの世界では人間・妖怪問わず男が珍しいらしく、
人間を、それも男を初めて見る橙は物珍しさからかよく僕に懐いてくれた
猫の耳や尻尾が生えているとはいえ、見た目は可憐な少女だ
可愛い女の子に懐かれて悪い気がするはずもない
…日々仲良くなっていく僕等を見る藍さんの視線が凄まじく怖かった気がするのはきっと気のせいだろう

「うん… 明日には帰っちゃうんでしょ?
 だったらもっとおはなししておこうと思って」
「そっか」
「…嫌だった?」
上目遣いで不安げな問いかけ
この視線を拒める男がいれば是非お目にかかりたい
「まさか!
 うし、それじゃ今日は一晩中橙に付き合おうか!」
「うん!」

僕の事や僕の世界の事
僕にとっては何でもない話を、橙はいつものように眼を輝かせて聞いている
いつも通りの他愛のない話
…一つ違うのは、もう今夜が最後だという事

どれくらい話込んだのだろうか?
月はもう山の端に差しかかろうとしていた
最初の頃はにこにこと聞いていた橙が、時が経つにつれ口数が少なくなっていく

「そろそろ眠くなってきた?」
「そ、そんなことないよ」
「じゃあ、話面白くなかった?」
「そうじゃ… ないけど…」

それきり黙ってしまう橙
悲しそうな表情で俯く彼女に何と声をかければいいのか
しばらくの沈黙の後、ふと橙が話だした

「あの… ね…
 おはなしは楽しいの
 けど…」
「けど?」
「明日いなくなっちゃうって考えたら…
 何だか… 悲しくなってきて…」
「橙…」
「え、えへへっ! 
 ごめんね、何か暗くなっちゃ… きゃ…ッ」

僕を気遣い、精一杯笑おうとする橙
そんな彼女がたまらなく愛しく、僕はその小柄な体を抱き寄せた

「嫌なら、振りほどいて」

橙は顔を真っ赤にして俯いたまま、僕の腕の中で少しもがいた
いくら見た目は少女とはいえ、彼女ならこの程度簡単に振りほどけるだろう
それを肯定のサインと受け取った僕は、彼女の頬に手を添えそのまま口付ける

「んっ… っ… はぁっ…」
「橙…」

何故自分の世界に帰れるのに嬉しくなかったのか
気付いてみれば答えは簡単だ
僕は… この少女を愛している
人も、妖も関係ない 

「今の… なに…?」
「へっ?」
「口と口… くっつけるの…」

考えてみれば当然か
男と接したのが初めてなわけだし、あの過保護な藍さんがそういう知識を橙に与えるとも思えない

「今のは… 人間が好きな相手にすることだよ」
「…あたしのこと、好きなの?」
「う、うん…
 ごめん… 嫌だった?」
橙の赤かった顔が更に真っ赤になる
「い、嫌じゃなかったけど…
 なんだか… 胸の辺りがどきどきしてるの…」
「俺も…」

お互い暫く見つめあったあと、橙が僕の胸に顔を埋めて呟く
「あ、あのね…
 あたしも、好きだよ…」
普段の明るい元気な声とは全く違う恥ずかしそうなか細い声
その普段とのギャップに狂わされた僕は、少し橙を困らせたくて意地悪な質問をしてみる
「藍さんとは… どっちが好き?」
「えっ…?」
「僕と… 藍さん」
「そんなの…」
「決めれない?」
困惑気味の橙、さすがにいじめすぎたかな?
「上手く言えないけど… 違うの」
「違う?」
「藍さまへの『好き』と、○○への『好き』は違う『好き』っていうか…」
「…」
「○○の『好き』は、どきどきする『好き』」
まずい、可愛すぎておかしくなりそう…
それからは、互いに何を話すでもなく夜空を見上げて過ごした

翌朝目覚めると天気は快晴、雲一つない青空
どうやら二人してそのまま縁側で寝てしまったらしく、橙が隣で可愛い寝息を立てている
昨夜と打って変わって、僕の今日の心はこの空と同じく晴れやかだ
ひょっとしたら、今日を逃すと僕はもう自分の世界には戻れないかもしれない
家族や友人を捨てることになるかもしれない
だけど、僕は橙のいるこの世界に残ろう
すやすやとよく眠っている彼女の髪を撫でながら、僕はそう誓った


…さて、まずは藍さんに何と言おう…

happy end ?


2スレ目 >>29


「橙!俺のひざの上の同居人(パートナー)になってくれ!」


2スレ目>>90


夕日が沈んでいく…
僕は掃除の手を止め、その沈んでいく夕日を眺めていた…
…やっぱり、マヨヒガで見る夕日は綺麗だな…
いつかは…いつかは好きな人と…この夕日を…二人で眺めたいな…
…フッ、柄にも無くクサいことを言ってしまったな…

「おい○○、掃除の手が止まってるぞ」
「ん、ああすみません。藍さん。」

僕は数日前にこのマヨヒガに迷い込んでしまったところをこの、八雲藍さんに介抱してもらった。
当初はすぐにでも実家に帰るつもりだったが…僕自身、ここが気に入ってしまい、ここで丁稚奉公をして暮らすことにした。
そして今は庭の掃除中というわけなのである。
隣で一緒に掃除をしている藍さんといつも寝てばかりいるここの主人、八雲紫さん、そして…

「藍様~♪○○さ~ん♪」
「ん?ああ、橙(チェン)か。どうしたんだい?」
「掃除手伝いますよ~♪」

…この橙と住んでいる。
しかし橙、ナイスタイミングだな…どう考えてもこのままじゃ夜になってしま…

「うん、ありがとう。だけどもう少しで終わるから大丈夫だ」

…藍さん…やっぱり拒否したか…

「えー、でも私は遊んでばかりで家事を二人にまかせっきりだから何か手伝うことは無いかなって…」
「いいんだ、橙はまだこんな事やらなくても。ここには○○というすばらしい雑用がいるじゃないか」

…何気に酷い事言われたな…

「でも、最近○○さんに仕事を押し付けすぎですよ。家事の約7割を押し付けているじゃないですか」
「正確に言うなら8割3分7厘だがな。いいんだよ、○○はここへ仕事に来ているんだから」

…ってそんなに僕に押し付けてたのかよ…最近仕事が増えたなと思ったら。

「でもー、これじゃあ○○さんと遊べないですよー」
「遊びの相手なら私がいくらでもやってやるから、○○とは遊ぶんじゃない」
「えー、でも」
「でもじゃない、ったく…こいつと遊ばせるとロクなことを橙に吹き込みかねない」

おいおい…僕は橙にたいしてなんかやったっけ?
少なくとも人間界のギャグを教えただけだが…

「いいかい橙、また前みたいに『ねっこひーろしー』とか『武勇伝、武勇伝、武勇デンデンデデンデン』とかいう変なことを口にしたらご飯抜きだからね」
「えー!楽しいのにー!」
「橙…私は橙にはもう少しおしとやかにして欲しいんだよ…」
「ぶーっ…」

…うわぁ、藍さんこっち睨んでるよ…
そうか、あの時何故藍さんが僕に弾幕を展開してきたのかようやく謎が解け…

「○○っ!また手が止まってるぞ!罰としてここからはお前一人でやれ!それから向こうの木の下も追加だ!」
「げっ!そんな無茶な…」
「サボっているお前が悪いんだ。出来るまで家に入れないからな!」
「トホホ…」

それから時間は過ぎ…
草木も眠る丑三つ時にようやく僕は仕事を終わらせた。
う…まずい…腹が減って目が霞む…
でもまあ、家に入れるからいいか…
さてと、戸を開け…(ガチャガチャ
……
藍さん…確信犯だろ…
くそー…今夜は野宿かよ…
とりあえず…屋根に上ってと…ここで寝るか…
疲れていたからかも知れないが僕は屋根の上に寝転がると、そのまま眠ってしまった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次の朝

うーん…朝の日差しがまぶしいぜ…
時間は…こっちの感覚で5時ぐらいかな?
やっぱり屋根の上っていうどう考えても寝るには適していないところだからあまり眠れなかったな…
さてと、いつまでも寝てられないな。起きて…って何だこの違和感は?
なんか背中にくっついてる様な…って橙!なんでここで寝てるんだ!
…とりあえず起こそう…

「うみゅ~…○○さんオハヨ~」
「ああ、お早う。で、聞きたいんだが何故ここで寝ているんだ?」
「えーっとね…○○さんが帰ってこなかったからもしやと思って屋根に上ってみた」
「で、案の定僕を見つけて…何故そこで君も一緒に寝るんだい?」
「…○○さんが寒いと思ったから…と、朝早く起きて…○○さんと…話をしたかったから…」
「…まぁ、藍さんが起きて来るのが7時ごろだからね。話をするには最適だな」
「ねぇねぇ○○さん!また人間界のギャグを教えてよ!」
「ん、いいよ」

そうして2時間ほど、僕らは屋根の上で語り合った。
とりあえず今回橙に教えたネタはまた彼女が藍さんの前でやってくれるだろう

「藍様見て見て~♪藍様…厳しすぎですから!残念!」
「…○○ッ!」

まぁ、その後にプリンセス天狐が降臨したのは言うまでもない…



書き終わり…ってプロポーズしてねぇ…
74さん…微妙でスマソ…


2スレ目 >>209


俺が幻想郷に迷い込んではや三ヶ月。生活も安定してきてだいぶ慣れ始めてきた。
そして、いつも通り俺は森を歩く。散歩兼暇つぶし兼色々だ。

「あぁ~、三種の神器は中途半端~。ありゃ、性質が違う~」

自分でも訳の解らない歌を口ずさみながら森を歩く。三ヶ月もすると妖怪もそう簡単には襲ってこない。

と、目の前に閃光が見えた。
慌てて向かってみる。そこには

「ここってこんなに強い妖怪いたの?それとも私が弱いだけ?」

余裕なのかそうじゃないのか解らない口調と共に二匹の妖怪。
片方は普通に良く見る、妖怪。もう片方は、初めて見る、二本の尻尾を持った黒猫。
この世界でまともに言葉を喋れる妖怪はたいてい強いのだが、この猫はまだ未熟なようだ。
仕方がない、助けてやるか。そう思い、懐から一枚のスペルカードを取り出し、黒猫と妖怪の間に入り、宣言する。

「『8分休符「⑨の悲劇」』!!」

突如俺の周りから現れた、九本の巨大なツララ。その後、目の前の妖怪に突っ込む。

「グギャアアアアアアア」

ツララが刺さり、叫び声をあげた妖怪。もちろん刺さって終わりではない。
刺さったツララは奥深くまで刺さり、破裂する。

「グギャッ!!」

叫び声も途中で止まり、ツララは妖怪ごと破裂した。
う~ん、⑨強し。まぁ、弾幕ごっこじゃ反則だから威力は弱まるけど。


さて、あの黒猫はどこかな。
後ろを振り向くと、黒猫は微妙に縮こまっていた。

「大丈夫か?」

一応声をかけてみるが、返事はない。

「お~い?」

今度は触ろうとしてみるが、恐ろしいスピードで後ろに下がった。

「何でまた逃げるんだよ」
「ら」
「ら?」
「ら、藍様が、知らない、人と、かかわっちゃいけない、って・・・」

ほぉ、こいつの主人そんなことを。結構しっかりしているな。それとも、こいつを可愛がっているだけなのか。

「そうか、それじゃあな」

せめてお礼の一つでも欲しかったな。そう思いながら散歩の続きを開始する。


森を歩く、それはいつもと変わらない行動。後ろから気配がついてきていることを除けば。
思わず振り向く。と、後ろには誰もいなかった。その代わり気配が一つ、視界の右端の木辺りから。

歩く、そして後ろを見る。歩く、後ろを見る。歩かずに後ろを見る。

…なんだか、だるまさんが転んだみたいだな。少しずつ相手の気配が近づいてきた。

「だるまさんが、転んだ」

思わず声に出る。それに相手も乗ってきたようで、なんだか面白い。

「だ~るまさ~ん~が、転ん~だ!」

少しテンポを変える。ああ、相手が焦ってる。面白いなぁ、こんな遊び何年ぶりだろ。

「だ~るまさんg」
「タッチ!」
「うぉぁっ!!」

来るとは思っていなかった。それと、結構な強さで叩かれたため俺は目の前に倒れる。

「あはは~。倒れた!」

黒猫がこちらを見下ろして笑っていた。くそぅ、今からラストワードぶち込んでやろうか。
なんて沸点を超えそうな頭を何とか抑え、立ち上がる。

「で、知らない人とかかわっちゃいけないんじゃなかったのか?」
「でも、お礼も言ってなかったし。それに、今ので良い人とわかったから」

単純だなぁ。まぁ、こういう性格もいいか。

「そうか、俺は○○だ。お前は?」
「橙。八雲橙」

八雲?そんな苗字なんてあったのか?それ以前に、妖怪が苗字を名乗るなんてな。

「じゃあ橙。今お前は暇か?」
「う~ん、やる事は無いから暇でいいのかな?」
「そういうのを暇というんだ」

普通は知ってるはずなんだがなぁ。思わず苦笑してしまう。

「よし、じゃあ俺と遊ぶか?」
「わーい。遊ぼ!」

うん、子供は元気が一番だ。まぁこいつが何年生きているかもわからんがな。

その後、橙と鬼ごっこやかくれんぼなどをして楽しんだ。元々やる事が無かった俺も、童心に返り遊んだ。
その内容とは言うと。


「あはは~。待て待て~」
「うぉあ!ちょ、回転しながら突っ込むな!」

「どこだぁ~。・・・ムッ!そこだぁぁぁ!」
「う~、何でそう簡単に見つかるのぉ?」
「フフフ、私には気というものが見えるのだよ、君」
「じゃあ中国だ~、あははは」
「ちゅ、中国ってなんだよ!?そんな奴この幻想郷にいたか?」


…などなど、中々楽しかった。

「あー。疲れた、久しぶりだなこういうの」

広い日が照っているところで二人は寝そべっている。

「でもあれは酷いよー。気が見えるって、それじゃあ勝負にならないじゃん」
「じゃあお前のあの回転しながら突っ込むのはどうなんだ。正直、恐ろしく怖いのだが」
「まだ勝負になるから大丈夫」

そう言って橙は笑った。

「くそっ!かわいいなこのやろー!」

なんかムカついたので俺は橙の頭をグリグリと乱暴に撫でる。

「や、やめてっ!せめてもう少しゆっくり」

ゆっくりと言われたので猫を撫でるようにゆったりと撫でる。そういえば橙は猫だった。
撫でていると、最初は嫌がっていた橙だが、次第に普通に撫でられるだけになった。

「さて、そろそろ帰るかな。鴉が鳴いたら逃げろってね」

あたりはもうすでに夕方、そろそろ妖怪が活動を始める時間だ。
ついでに鴉も鳴き始めている。早く逃げないと音速のマスコミが襲ってくる。
俺は橙の頭をポンポンと叩いて。

「俺は毎日ここらへんを散歩している、暇だったら探してみろ。じゃあな」

橙と別れた俺は夕食について考えていた。


――――翌日

今日も俺は森を歩く。理由は、特には無い。あるとすれば散歩兼暇つぶしだ。
普段ならだが、今回は別の理由もかねてある。

「覚悟覚悟ぉぉぉぉー!!」

背後から叫び声と共に回転してくる謎の物体。まぁ、おおよそ橙だろうとは思うが、こんな登場の仕方は無いと思う。
仕方ないから撃退してやるか。威力は最弱で。

「『16分休符「Gは貴女なのか?」』!!」

突如俺の周りから現れた小さな黒い物体の群れ。その群れが橙へと向かう。
その群れは橙へと絡みつき、動きを封じる。

「わ、ちょっと!これ何とかして~。黒い悪魔みたいで怖い~」

当たり前だ、それを題材にして作ったんだから。とりあえずは堪忍したらしいので黒い群れを戻す。
元々これは戦闘用じゃないからなぁ。こういうときぐらいにしか使えない。

「うわぁビックリした。お願いだからもう使わないで」
「だが断る。まぁ、お前の前では使わないとは思うがな」

自分でも気味が悪いし、と言いかけた言葉を飲み込む。使わなければ別に良いだけだ。

「それじゃあ今日は何して遊ぶの?」
「そうだな・・・、おはじきとか」
「えー、それつまんない~」

俺の提案をあっさり否定した。うぅ、せっかく持ってきたのに・・・。

「じゃあ橙は何がやりたいんだ?」
「鬼ごっこ!」
「普通の鬼ごっこじゃ面白くもないな・・・。そうだ、隠れ鬼って知ってるか?」
「かくれおに?」

なんと橙は隠れ鬼を知らないという。これは説明しがいがあるというものだ。

「簡単に言うとかくれんぼ+鬼ごっこみたいなもんだ」
「んー?よく解らない」
「つまり、かくれんぼはかくれて、見つけられたら交代だろ?鬼ごっこはかくれずに逃げる、タッチされたら交代だ。
 あとはこれを足すんだ」
「解った!つまり、逃げて、見つけられたら交代ってこと!」

逆だ、そんなのゲームでもなんでもない。只のいたちごっこにしかならん。

「その逆だ。隠れて、見つけられたら逃げる、そしてタッチされたら交代」
「解った!じゃあ○○が鬼!」
「あ、待てって、・・・やっぱり早いな」

~~~少女隠れ鬼中~~~

結果はというと、見つけるのは俺のほうがうまいのだが、足の速さで言うと圧倒的に橙のほうが早く
俺が見つけても即効で逃げられるという事になり、俺がほとんど鬼をやるという結果になった。
で、初めて隠れ鬼をやった橙の感想はというと

「う~ん。分けてやった方が楽しいかな?」

だった。あかずきんや、それはお前が早すぎるからだよ。前の世界では十分通用したのに・・・。

「ちと早いが、やる事があるせいで帰らなければいかん」
「えー。もう少し遊びたいのに・・・」
「藍様とやらに遊んでもらえば良いじゃないか」
「藍様は家の掃除とかで大忙しなの」

大変だなぁ。もう少し遊んでやれ、藍とやらよ。

「へくしゅん!!あー、風邪でも引いたか?参ったな、風邪を引いたらどんな目に合わされるか・・・」

その後、橙の必殺上目づかいに負けてしまった俺は夕方までずっと遊ぶことになった。



――――時は流れて数週間後


今日も俺は森へ行く。もうすでに日課になってしまったことだ。
理由はもう明確となっている。橙に会いに行くためだ。

「覚悟覚悟覚悟~~~~!!」

これもいつも通り、叫び声と共に突っ込んでくる、橙。
某ガンダムファイターの様に、首から上だけが回らないという神業をしてこないだけマシだと最近思ってきた。
最初はスペカを使ってはいたが、最近は素手でつかむようになってきた。

――ガシッ!

「うー、耳はやめて~」
「だったらまずは突っ込むのを止めるんだな」

これもいつもと変わらない毎日。だが、今日はすこし違っていた。

「今日は何して遊ぶ~?」
「そうだな・・・。ムッ」

突如とてつもない殺気があたりに立ち込めた。橙の方を見てみると、この殺気のせいで縮こまっているようだ。

――ドスン

大地を揺るがすような歩き。その音の方向を見ると、目の前に巨大な何かが見えた。

「見ツケタゾ・・・黒イ、猫!」

低い地鳴りのような声。上を見ると、顔らしきものが見えた。
そして、橙の事を言っているらしい。この妖怪・・・たしか、オーガだったか。

「橙、後ろに下がるか逃げろ。こいつは、俺が片付けておく」
「・・・で、でも」
「いいから、早くしろ。死にたくなければな」

そう言われて橙は後ろへと下がり、木の陰に身を潜める。
…さて、橙が逃げないようだし、死ぬわけにはいかないな。

「逃げてくれないかなぁ・・・?なんて通じるわけないか」

思わず苦笑いが出る。相手は妖怪なのだ、しかも低脳の。
ならば、選択肢は一つしか残されていない。

――ブオンッ

突如振り下ろされた棍棒に俺は反射的に転がり避ける。
あぶねぇ、当たったら死んだな。

「さて、こちらも反撃と行きますか!」

そう言って懐から一枚のスペルカードを取り出し、宣言する。

「4分休符『人好きな半獣の慈悲』!!」

俺の周りから出てくるクナイ弾の輪。その輪がオーガへと迫る。

と、オーガの体に当たったと思ったクナイ弾が弾かれた。

「んなっ!硬すぎるって!」

大きさも関係してあるのか、クナイ弾は無残にも弾かれて消滅した。
俺が呆然としている間にもオーガは棍棒を振り下ろす。





――ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!

「駄目駄目、そんな単純な攻撃じゃ当たりっこないって!!」

余裕をかましていってみるも、実際はあまり有利な状況ではない。
何故ならこちらには攻撃手段が無いのだ。柔な攻撃じゃ弾かれるだけ、やるだけ無駄な事になる。

「やっぱり、これしかないのかなぁ。これ以外は効きそうにもないし」

これだけは使いたくなかったんだけどなぁ。そう呟き、一枚のスペルカードを取り出し、立ち止まる。

「○○!何でとまるのよ!」
「これで終わるからだ」

俺は静かに答える。
そして、オーガの振り下ろした棍棒がこちらに迫ってくる。

「協奏曲『それでも巫女は空を飛ぶ』!!!」

振り下ろした棍棒が、途中で止まる。
その後、カードから虹色の光弾が出現し、オーガへと向かう。
ガードもできないオーガにぶつかり、その体を抉ってゆく。
そして、叫び声も上げる事ができずに、オーガは消滅した。


「ふぅ。疲れた」

オーガを倒した俺は力が抜けてその場に座り込む。橙はと言うと・・・居なくなっていた。大方逃げたのだろう。
さて、どうしようかと思ったときに背後から殺気を感じた。

「お前か・・・橙を誑かしたのは」

思わず振り返る。そこに居たのは、九尾の狐だった。その声は怒りに満ちており、殺気と合わさって声の低さを上げていた。

「誑かしたなんて、ひどいことを言う」

何とか立ち上がって俺は答える。

「認めたな、お前が、橙を誑かしたということは」
「そういうお前は誰だ?」
「私は藍だ。さて、覚悟は良いか?」

コイツか、橙の主は。さて、この状況どうやって逃れよう?

「安心しろ、一撃で終わらせてやる」

殺気が俺の喉へと集まった。俺は反射的にしゃがんでいた。
刹那、俺の首があったところに恐ろしいスピードで腕が振られた。
命があることに感謝しながら俺は後ろへと下がる。

「ほう、よく避けたな」
「そりゃどうも」

そう言いながらも藍から放たれる殺気に耐える。
こりゃ、短期決戦で行かないとな・・・。そう思い、一枚のスペルカードを取り出す。

「さぁ、ダンスの始まりだ!前奏曲『天才医師の苦難』!!」
「くっ!?」
「まだまだぁ!交響曲『気楽な三途の川の案内人』!!」
「!し、しまった!」
「終わりだ!」

そう最後の宣言をしようと動いたところで、ふと橙のことを思い出す。
藍が死んだら、橙は悲しむな。
      • でも、生きるためだ、許せよ橙!

「終演『そして魔法使いは光を超える』!!!」





「ハァ、ハァ・・・。お、終わったか?」

俺の高位スペルカードを三発ぶち込んだんだ、これで死ななきゃ諦める。
そろそろ土煙が晴れる。

「・・・なっ!い、いないだと!?」

ありえない、三発当たったとしても消滅までは行かないはずだ。
と、すれば・・・。そこまで考えて背後から殺気を感じた。

「私にスペルカードを使わせるとはな・・・。だが、これで終わりだ」

視界一杯ににクナイ弾が広がる。いや、目の前だけではない、俺の体の回り全体に。
しかし、避けようと思えば避けられる弾幕だった。
だが、俺は動かない。この時点で負けが決まったと解っていたからだ。

「なっ!貴様、諦めたのか?」

思わず藍が声を上げる。そして、クナイが全身に刺さる。
あまりの痛みに俺はその場に崩れ落ちた。そのまま意識が遠のいてゆく。




ああ、全身が痛い。俺は、死んだんじゃなかったのか?

「ふん、生きていたか。しぶとい奴め」
「なんで、殺さなかった?」
「それはこちらが聞きたい。あの時、お前は一瞬使うのを躊躇っただろ」

図星だった。隠していても仕方がないので頷く。

「橙が悲しむと思ってな」
「その言葉も、この状況で聞けば、命乞いにしか聞こえんな」
「別に聞こえなくていいさ、そのために言ったわけじゃないからな」



「お前とは、一度全力で戦ってみたかったな」
「やっぱし、お見通しか」

思わず苦笑がもれる。

「ああ、なぜ使わなかったのかは知らんがな。
 さて、戦った相手としてのせめてへの慈悲だ、この一撃で終わらせてやるよ」

そう言って藍は構える。ここで死ぬのか。そう思ったがあんまり恐怖感は無かった。

「藍様ぁぁぁ!!Please stop killing him!!」

突然の英語に藍も俺もぶっ飛んだ。その後ハクタクのところまで行って無かったことにしてもらったが。
その途中「貴様橙に何を教えたぁぁぁ!!」「知るか!俺は教えてはいない!!」と口論していたのは内緒だ。

その後元の場所に戻ってやり直す。走ったせいで少しばかし死にそうになっていた。

「・・・今のはなんだったんだろうな」
「たぶん、電波が入ったと思われる」
「まぁいい、さっさと終わらせるぞ」

そう言って藍は構える。ここで死ぬのか。そう思ったがあんまり恐怖感は無かった。
むしろ、橙の状態のほうが気になった。あれははっちゃけすぎだ

「藍様ぁぁぁぁ!やめてくださいっ!」
「ちぇ、橙。何故だ!?何故故にこの人間を庇う!」

橙が俺と藍の間に入る。今回はちゃんとした言葉だったので安心した。

「だ、だって・・・この人は大丈夫です!」
「大丈夫だと言いきれるのか!?」
「言い切れます!」
「・・・何故だ」
「この人と話していれば解ります。この人は、そのようなことをする人ではないと」
「言葉など誰でも変えられる、その理由では私をとめる事はできん」
「・・・しかし」
「どけ、橙」
「退きません。たとえ、藍様だとしても、この人を殺めることは、絶対に」
「私と戦ってでもか?」
「戦ってでも」

しばらくの睨み合い。沈黙が辺りを支配した。
やがて藍が観念したらしく。

「・・・解ったよ。おい、人間。橙に感謝するんだな」
「ありがとうございます」
「それと、橙。そこまで大事なんだな、私に対する口調が変わるほど」
「えっ?」

そう言われて橙は口を押さえる。どうやら、気付いていなかったようだ。

「それではな、人間。・・・また戦うか、貴様は素質がある。
 せめて、橙を助けられるくらいまでには強くなってもらわんと」
「この体じゃ、いつ戦えるか解らんがな」

その言葉に藍は微笑すると、振り向いて帰っていった。


「橙、助けてくれてありがとうな」
「・・・○○、あなたについでで言わなきゃいけないことがあるかも」

やっぱし口調が違うな。どこかが変だ。

「たぶん、私はあなたが好きだと思う。
 好きっていう感情はよく解らないけど、ずっと一緒に居てほしいっていう感情が好きっていう感情なんだと思う。」
「・・・そうか」
「お答えは?」
「・・・俺も、その感情からだとお前が好きだ。ずっと一人だった俺に、お前は一人でいる以外の楽しみを教えてくれた。
 これが失われるのは・・・耐え難いな」

そう言って二人は笑う。



――――そして数日後

今日も森を歩く。もう理由は決まっている。橙に会うために。
どうせならマヨヒガに来ればいいのに、と言われたが、
なんとなくここが気に入っていたので、相変わらずここで会う事になっていた。

「今日は何して遊ぶ~?」
「そうだな、どうしようか?」

こんな風に遊びについて練るのも楽しいものだ。

「あ、その前に。○○、ちょっと目を瞑って」
「ん。こうか?」

瞑った後、頬に何かが触れた。それがキスだと気付くのに二分ほど要したが。

「なんとなく、ね」

そう言って橙は微笑む。

「なんとなく、か」

そう言って俺も微笑えんだ。

日が照りつける森の中、二人は今日も何かを考える。





ここは冥界、白玉楼

「おお~、これはいいわね。でも、どうせなら唇にすればよかったのに」
「本当ね、そうすればもう少し促進したと思うのに」

そこに二人の少女?が笑って一部始終を見ていた。

「で、話は変わるけどさ。紫」
「何?幽々子」
「藍って・・・あんなだったっけ?」

「うぅ~、橙~私の何がいけなかったんだ~」
「ちょ、ちょっと藍さん。落ち着いて・・・」

「・・・もう少しマシだと思ってたんだけど。ここまで駄目になるとはね」

紫が額を押さえて言った。

そんななか、幽々子だけがスキマから見える二人を見ていた。

「ああ、甘いものはお茶に合うわね~」

そんな平和な一日。


―――――――END―――――――


~あとがき~

ハイ皆さん、朝ならおはようございます。昼ならこんにちは。夜ならこんばんわ。
リクエスト物第三作目ですが、今回はちょっと橙だったんで、厳しかったです。
それでも、いいものになったかな?とは自分の見かた。言い悪いは皆さんが決めるものです、関係ないですが。
さて、話すことがなくなってしまいましたな・・・。
ああ、忘れてた。スペカ名ですが、見たまんまです。はい。
~符とかが思いつかなくて、思いついたのが休符だったんですよ。
あとは序曲とか色々ぶっこんで作ったわけです、はい。
もう話すことがないな・・・じゃあ、ここらで次回予告と行きますか。
次回は!甘い甘~いフランです。が、しかし、私の頭の中では毎度毎度のシリアス物です。
せめて少しはと思い、最初に甘めにするつもりですが。ああ、ここで内容を喋ってしまおうか・・・?
駄目だ駄目だ、こんなところで喋ったら書く意味が無いではないか。

では、また会うことがあったなら。



2スレ目 >>319


1日目
自宅付近の空き地で黒猫を保護。メス、推定3歳程度。
瞳孔反射あり、CRT遅延、股動脈触知困難、呼吸・心拍・脈拍増加。脱水も見られる。
目立った外傷は無し。ただし裂傷多数。肩甲骨、左大腿骨、右尺骨、左第12・13肋骨、右第8肋骨骨折。
プレショック状態。
大至急病院へ搬送し緊急手術。
腹腔内出血あり。脾臓破裂が原因と思われる。幸いにも他の臓器は損傷無し。
骨折箇所を創内固定により整復、及び脾臓摘出。輸血血液は適合。
術後フェンタニル微量点滴によりペインコントロール。脱水補正のため乳酸加リンゲルの点滴は持続。

なお、奇形と思われるが、尾が2本あり。
これによる虐めが原因と思われる。

2日目
容態の急変無し。
様子を見つつフェンタニルを減量。
驚いたことに意識が回復。食欲を示す。
好みに合わないらしくしばらく渋るが、やがて食べ出す。脱水もだいぶ回復した模様。
半分ほど残し眠る。この時点でフェンタニル点滴は停止。ただしパッチを使用。

3日目
安定。痛みもあまり無い模様。
食餌は完食。ケージ内を動き回る。
点滴を停止。経口的に水分補給。

便宜的に「クロ」と呼称。首輪も付けておく。

4日目
安定。
あまりに激しく動くためX線撮影。骨再生著しく、ほぼ回復。念のため何日か様子を見る。
食欲、排泄正常。
抜糸。

5日目
下痢あり。
念のため試料採取し、培養。
他特になし。

6日目
便正常。
細菌叢も異常なし。
X線撮影。骨、完全に癒合。鎮静、局所麻酔、大腿骨の髄内釘除去。
覚醒後歩行正常。
以後ケージから出し、自宅にて療養。

回復が異様に早いのが気になるが、予後が悪いよりは好ましい。

7日目
食欲旺盛。
特になし。

8日目
特になし。

9日目
特になし。

関係ないが朝起きたら食材がかなり減っていた。泥棒の侵入した様子は無い。

10日目
下痢、ヘモグロビン尿、貧血。
RBCにハインツ小体あり。タマネギ中毒と推定。タマネギの盗み食いだろう。
点滴。タマネギを手の出せない場所へ隔離。

タマネギの一部に人間が齧ったような痕跡あり。大きさからして子供のようだが……。
なお今日も食材の消耗があり。クロの仕業か? それにしては多すぎる。

11日目
まだ軽い貧血があるが快方へ向かう。やはりタマネギ中毒だったようだ。
後遺症も残っておらず、予後は良好。
毛もだいぶ生え揃ってきて見栄えもよくなってきた。そろそろ飼い手を捜すか。

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「ふぅ」
 吐き出し、椅子の背もたれに身を預ける。
「あ、こら。乗るなってば」
 件の黒猫、クロ(暫定)。我ながら安直だとは思う。
 今日誌をつけていたPCに無意味な文字列が追加される。こっちの言葉が解るのか、言えば退くが、乗るのを止めようとはしない。
「やめろってば」
 珍しく居座ったので抱き上げる。顔を覗くが……。
「やっぱりこいつ美人だな。貰い手が見つかるといいけど……この尻尾か」
 2本の尻尾。奇形にありがちな半端な発生ではなく、骨、筋、神経までちゃんとあるらしい。
 触ってて引っ掻かれたから間違いない。
 しかし困ったもので、奇形と言うだけで嫌がる人というのは多い。
 まあいざとなったら自分で飼うが。
「さて、と……クロ、寝るぞー」
 呼ぶと来る。
 この寒い季節には猫の温もりはとてもありがたい。
 そんなことを思いつつ眠りに落ちた。

 その日、夢に見知らぬ少女が現れた。
 猫耳を生やした少女。そういう趣味はないんだがなぁ。

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12日目
貧血は回復。やはり回復力が大きい。
他は特になし。

飼い主募集のための写真を撮る。
撮ってわかったが、まだ毛が短すぎ見栄えが悪い。もう何日か見よう。

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 変わらぬ日常。
 一日の診療を終え、帰るとクロが出迎えてくる。
 食事の支度をしていると足元をうろつき、食べていると隙あらば盗ろうと狙われる。
 日誌を書いては邪魔をされ、寝る時は布団に潜り込む。
「……やっぱり、うちの子になるか?」
 理解するはずは無いが、何か嬉しそうな、でも悲しそうな顔をした気がした。

 また、少女を夢に見た。
 台所に立つ少女の後姿。その腰には2本の尻尾が揺れていた。

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13日目
特になし。

撮影は……まだ早いか。

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 変わらぬ日常。
 目覚めると食料が減っていると言うのはもうよくあることになっていた。
 クロに挨拶をし、病院へ行く。
 診療を終え帰宅する。
 クロは何故か俺を避けているようだった。

 少女の夢。
 今日も少女は台所に立つ。
 今更気付いたが、料理をしているようだ。
 完成したらしく器に盛り付け、網をかける。
 何かを書き残しこちらに来る。
 少女の唇が俺の頬に触れる。
 そして少女はどこかへ消えてしまった。

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14日目
失踪。

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「うー寒い寒い。クロー、クロー?」
 目覚めるとクロはいなかった。
 戸締りはしておいたはずなのにドアの鍵が開いていた。
 台所を見ると朝食が用意されている。自分で作った覚えは無い。
 そして書置きが一つ。
   『ありがとうございました クロ
     でも、私は橙って言います』
「は?」
 状況が把握できない。いや、把握できるが信じがたい。最近の夢は夢じゃなかった?
 クロがあの少女? 確かに似た印象はあったが……。
「あ、時間ヤバイ!」
 慌ててあったものを食べる。……不味くなかった。

 変わらぬ日常
 一日の診療を終え、誰もいない自宅へ帰る。
 食事の仕度は、朝のものが残っていたので簡単だった。魚が中心、薄味。猫じゃあるまいし……。
 スムーズに日誌を書き終え、就寝。一人の布団は少し寒かった。
「クロ……いや、だいだい? それともとうって読むのかな……」
 ほんの2週間程度、共に生活したのは1週間しかない。それでも、あの子は俺の中で大きな部分を占めていたようだ。

 少女の夢は見なかった。

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 幻想郷へ、マヨヒガへ帰る。
 藍さまが慌てて出てくる。目の下にはクマ。心配させてしまったらしい。
 色々聞かれた。
 そりゃあ髪が突然短くなってたり、体中傷だらけだったり、しかも腕とかお腹とか、こんな大きな傷跡があったら驚くかな。
 心配されて、怒られて、安心されて。
 そこで私が手首にしているものに気が付いた。

「橙、それは……クロ? 首輪?! まさか誰かに捕まって……!」

 慌てて説明する。
 外に行ったこと。虐められたこと。助けてもらったこと。優しくしてもらったこと。
 複雑そうな顔をしていたけど、わかってもらえたらしい。
 取り上げられそうになったけどそればっかりはさせない。これは私の物。あの人の思い出。
 完全な反抗に藍さまは驚いてた。
 なんか嬉しそうな、寂しそうな、困ったような、そんな顔をしていた。


>>130


俺の膝の上で猫が眠っている。
もちろん名前は橙
非常に愛らしく眠っている。
頭をなでなでしながらつぶやく。

…ごめんよキャリィ。東方にはまったせいで橙って名前になっちまって。
橙かわえぇ(*´Д`*)


最終更新:2010年05月30日 22:35