アリス15



新ろだ88


「はあ? ハロウィン? 仮装? とりっくおあとりーと? ここで? 好きにすればいいじゃない」
「悪いな霊夢。話が早くて助かる」
「分かってるとは思うけど、私は場所を提供するだけ。幹事はしないからね」
「俺がやるから問題ない。んじゃな。当日を楽しみに待っててくれ」
「はいはい。アリスによろしくねー」




 かくして例によって博麗神社にてハロウィンパーティー、またの名をコスプレ宴会が開かれる事になったのである。
 参加条件は唯一つ! 仮装する事!
 ハロウィン(笑)






「まあ、こんなもんだよな、うん」

 思い思いの格好で盛り上がる皆を眺めながら一人ごちる。
 だって仕方ないじゃない。仕方ないじゃない。幻想郷なんだもん。
 正直俺もハロウィンが具体的にどんな行事なのか詳しくは知らないんだよ。
 一応ちょっとは調べたけど、なんか宗教色全開でめんどくさそうだったので早々に匙を投げた。

 いつもと変わらないじゃねーかダラズ? いいんだよ! 結局皆楽しそうだから!

 ああ、ちなみに俺の服装だが所謂「外」の普段着である。
 衣類に関しては、人里で買ったりアリスに作ってもらってるからあんまりこれを人前で着る事は無いし、見せる事も無いから十分仮装の範囲内。…… ごめん、ちょっと無理があるって分かってる。
 アリスの仮装? 勿論俺が選んだ。中身は全力で趣味に走り、当日まで秘密にしたけど、奇をてらったつもりは一切無い。
 ネタに走ったらそりゃあもう酷い事になるのは目に見えてるからな!
 ……少しは喜んでくれるといいけどな。いや、流石に厳しいか。



 っとさてはて、肝心の他の方々の仮装内容だが……。




「愛と正義の美少女戦士、エターナルセーラー輝夜!」
「同じく美少女戦士、セーラー永琳」
「セ、セーラー鈴仙!」
「……セーラー妹紅」
「セーラーてゐ!」

「コウマレッド、レミリア!」
「コウマチャイナ、美鈴!」
「なんで私がこんな格好を……コウマパープル……パチュリー」
「(この衣装は流石に……)コ、コウマサキュバス、小悪魔!」
「(私だけいつもと同じメイド服……)コウマメイド、咲夜……」

 ああ、うん。大体皆こんな感じ。察してくれ。それにしても皆ノリノリだなおい。
 ちなみに永遠亭の方々は上から月、冥王星、水星、火星、土星のコスチュームだ。
 永琳さんは意外と似合ってた、とだけ言っておく。でも原作からしてあの年齢で美少女は流石に無理があると思う。
 紅魔館の面々はアル○イザー、ラーメ○マン、紫さん、モリ○ン、翡○のコスプレだ。統一性の欠片も無い。ついでに言うと、咲夜さんはなんか凄い残念そうだった。
 普段なら眼前を埋め尽くすツッコミどころ満載なその光景に突っ込み無双乱舞でもしていただろうが、
 生憎今の俺はコウマサキュバスこと、モリ○ンの格好をした小悪魔さんに釘付けなのだ。
 ちょっとコレはエロ、もとい似合いすぎだろ。
 集中する俺の桃色視線で恥ずかしそうにしながらも、お色気担当なのがちょっと嬉しそうでまたたまらんね!

「……こんな所にいたっ! ちょっと○○! これどういう事よ!」
「ん、どうしt……っ!」

 エロオヤジ全開で目の前の至宝にみっともなく鼻の下を伸ばす俺の意識を今世に引き戻したのは、憤懣やるせないといった声色のアリスのもの。
 何事かと振り返り、その姿を見た瞬間、俺に電撃が走った
 いや、電撃なんてチャチなモンじゃない。雷と言っていい。打たれて死ぬかと思った。それほどの衝撃だ。
 視界の一点に佇むのは未だかつて経験した事の無い圧倒的存在感
 その名も……セ ー ラ ー 服 ア リ ス !
 セーラー服と言っても、永遠亭の方々がしているようなコスプレ品ではない
 本物の女子高生が着用するそれである。
 全体の紺に白いラインとネクタイがあしらわれたそれは、非常にオーソドックスなタイプの冬用セーラー服だ
 スカートは下品にならない程度の短さで、かえってそれがアリスの細く白い足を引き立たせている。ソックスは当然白だ。
 人形のような可愛らしさを持つアリスに生活感バリバリの制服というギャップ!
 想像の段階で分かってはいた。きっと似合うだろうとは思っていたが、まさかここまでのダメージを俺に与えるとは……パーフェクトだ、ウォルター。

「おま……俺を殺す気か! その意気やよし! かかってこいやゴルァ!」
「何馬鹿な事言ってるのよ。いいからちょっとこっち来なさい!」

 言われるままに引き摺られる。
 視線の先、小悪魔さんが生温かい眼で俺達に手を振っていた。

「あぁ゛ー! メロン二玉ぁー!」
「うるさい馬鹿!」

 …………。

 結局神社の裏手まで引っ張り込まれてしまった。
 一体全体何が気に入らなくてこんなに怒っているのだろう。

「何よこの服! セーラーなんちゃらとかいうの見て逃げ出そうかと思ったわ!」

 その一言で察する。アレと同じと思ったのか。
 いやまあ確かにそれもアレもセーラー服だけどさ。

「ちょっと地味かもしれないけど、○○が選んでくれた服だからって少しでも喜んだ私が馬鹿みたいじゃない!」
「嬉しい事言ってくれるじゃないの。でもそれは永遠亭の人たちのとは別物。似てるけどな」


 ――俺、説明中。女子高生やセーラー○ーンの話を延々と真面目にするのは些か堪えました。


「で、どうよ。納得したか?」
「一応ね……で、結局この服はどこで調達してきたの? ちょっと腰が緩くて胸が窮屈なんだけど」
「知り合いに借りた。香霖堂にあったらよかったんだけど、生憎流れてなかったみたいでさ」

 何故かブルマとスク水はあったけどな。勿論買った。
 それらを着てるところを見たくないと言えば嘘になるが、流石にアレを着てこんな場所に出てもらいたくない。
 その姿を見ていいのは俺だけだ。またアリスに罵られそうだが。
 ……しかしそうか。腰が緩くて胸が窮屈か。これはいい事を聞いた。

「ふーん、こんな服を持ってる奴に興味はあるけど……まあいいわ。この服を私に選んだ理由は?」
「着て欲しかったんだ。きっと似合うと思ったから」
「……そう」
「うん、でもやっぱり選んで良かったな。凄く似合ってる。惚れ直した」

 真顔で宣言。
 一欠けらも嘘偽りの無い想い。断言出来る。
 お互いの格好も相まって、まるで「外」でのようなシチュエーション。
 少しだけ、ほんの少しだけ、言葉に感傷が篭っていたかもしれない。

「……ありがと」

 そんな俺の褒め言葉を受け、頬を赤く染めそっぽを向くアリス。
 珍しいな。これくらいはいつもなら「はいはいありがとう」とか言って平気で流してるんだが。
 女心と秋の空。今の彼女が何を考えているのか俺には皆目見当が付かない。さっきの女子高生の説明を受けて思う所でもあったのだろうか?
 ただ確かな事は。今ここにいつもの気丈なアリスはいない。一人の人形のような少女がいるばかりで。

 ――ざわり、と。

 慣れ親しみ懐古すら引き起こす向こうの服を、俺も、そして他でもないアリスという大事な女性が着ているからだろうか。
 それとも祭り(実際は宴会だが)の最中に神社の裏手で二人きり、というなんとも出来すぎたシチュエーションだからか。あるいはその両方か。
 情動に、その唇を奪いたくなる衝動に駆られる。その柔らかな唇を、自分の唾液で穢してしまいたくなる。
 いや、唇といわず全身を、この手で蹂躙したくなる。壊したくなる。ただ、自分の色で染め上げたくなる。
 嫌がる彼女を無理矢理組み伏せ、出来上がるまで嬲るのもまた一興ではないか。
 そして考えてもみろ。こんな所に俺を連れてきたアリスも少しはそうなる事を期待してるんじゃないか?

(……なーんてな)

 だがあくまで駆られるだけ。
 こんな欲望に狩られるのが初めてというわけでもない。
 これくらいの感情のコントロールは朝飯前だ。出来なきゃアリスとこんな関係になってない。

 本人が思っている以上にアリスは繊細な少女だ。
 こんな所で18歳未満お断りな展開になれば、腹を曲げる程度じゃ済まないだろう。
 俺本人としてもそんなのは望んじゃいない。やっぱりこういうのは合意の上で行うべきだろう? それが初めてじゃないにしてもさ。
 しかし恐るべし、これがセーラー服の魔力か。全く思春期真っ盛りじゃあるまいし……。まだまだ俺も若いなー。

 気持ちを切り替え、深呼吸する。ほら、たったこれだけであれほど自身を苛んでいた劣情は霧散してしまう。
 だから大丈夫。自分からアリスを悲しませるような事は、絶対に、しない。

 気付けばアリスがなんとも微妙な表情で此方を見つめていた。
 大方俺が何を考えていたか読んでいるのだろう。そしてその読みはきっと当たっている。
 閻魔様曰く、俺は考えてる事が顔に出やすいらしいし。

「ほんと○○って損な性格してるわよね。私はキスくらいなら別に構わないわよ?」
「折角のお言葉だけどな。今そんな格好のアリスにキスとかして万が一盛り上がったら色々と自制出来ない自信がある。
 それにこんな所でアグレッシブビーストモードになってるのを見られたらそれこそ俺の人生が終わるんだよ……」

 アリスにも嫌われたくないしな。とは言わない。いつも通りだし。
 言わなくても伝わってるだろうし。これもまたいつもの事。

「全く……。私を愛してくれてる、大事にしてくれてるのは分かってるしそれはそれで凄く嬉しいけど、
 いざという時にもそんなんじゃ流石の私も幻滅するかもしれないわよ? 気をつけてよね?」
「はいはいそうですね、ヘタレですいませんねえ。ちくしょう……」

 全面に呆れを押し出すアリスに俺は返す言葉もございません。
 でも今ここでキスの先に手を出したら出したで即俺を半殺しにするあげく、むこう一月は家に上げてくれない癖に! とは口が裂けても言えない。
 確かにアリスになら苛められてもいいが、本気で絶対零度の視線は流石の俺でも勘弁してほしい。




 さてさて、そんなこんなで今ここにさっきまでのちょっと重かったり甘かったりする空気は余韻程度しか無く、二人ともすっかり普段通りだ。

「あーあ、今回のデレタイムは一分にも満たなかったか。この前のは結構長かったのになあ」

 思わず笑いながら愚痴ってしまう。
 前ってのはアレだ。ほら、アリスが嫌な夢見た時の。

「ご不満?」
「いーえいーえ。滅相もございません。むしろこれくらいが俺達にはちょうどいいのさ。多分な」
「でしょうね、私もそう思うわ」

 微笑みながらもしっかりとドライなその言葉に、思わず苦笑。でも、それでいい。

「それにほら、世界一美味しい料理でも、一年中毎日食べてたらきっといつか――」

 飽きるだろ? と言おうと振り返ったその瞬間。

 ――ちゅっ。

 唇に、柔らかい、感触が。

「……まったく。女の方からさせるなんて情けない。この次はちゃんと○○の方からしなさいよ?」

 突然の出来事に思わず目を丸くする俺を見て溜飲を下げたのか、滅多に見せない悪戯な笑顔を浮かべたまま宴会に戻っていくアリス。
 ……ほら、な? こういうのがあるからいいんだよ。
 そう。四六時中ベタベタしてるのは性に合わない。お互いに気を使いすぎて、きっとすぐに疲れてしまう。
 だから。俺は、アリスは。こんな感じでちょうどいい。そう思うんだ。






 おしまい。








































~~以下、○○によるセーラー服入手の顛末。又の名を蛇足。閲覧注意~~




「こんちわ早苗さん。相変わらず元気そうで何より」
「はいこんにちわ、○○さん。お陰さまで。今日は一体どうしたんです?」

 何所からともなく俺、守矢神社に参上。まあ空からな訳だが。この神社立地条件悪すぎるんだよ……。
 飛べる理由? 無事にここまで来れる理由? アリスの実家から送られてきた素敵マジックアイテムのおかげです。

 さて、突然の客にも礼儀正しく挨拶してくれる早苗さん。ほんとよく出来た子だ。どこかの紅白に見習ってもらいたい。

「ちょっと早苗さんにお願いがあって来たんだ」
「お願い、ですか……?」
「そう。早苗さんにしか頼めないお願い」
「私にしか頼めないお願い!? お任せください○○さん! この東風谷早苗の力を以ってすれば、そこら辺の異変は即解決ですよ!」

 なんか今日の早苗さん、妙にテンション高いな……。
 ああ、ちなみに俺と彼女の関係であるが、同年代の友人、といった感じである。
 同じ「外」出身者故、共通の話題も少なくなく、年が近いという事もあり、彼女との気楽な会話は結構楽しい。

 勿論最初は向こうが現人神とかいう大層な人らしいんで、愚鈍な凡人らしく畏まってみたりした。
 でもよく考えたら俺の彼女は余裕で人間外なわけで、その母親は魔界神なわけで。
 そもそも魑魅魍魎が跋扈する幻想郷で現人神くらい可愛いもんだ。と即断。素で応対する事を決意。
 当の早苗さんはいきなり180度変わった俺の態度に俺に数瞬面食らったようだったが、何がお気に召したのかすぐに破顔していた。
 以来友達以上恋人未満といった感じの交友関係を築いていると思う。アリスはあまり快く思ってないっぽいが。

「じゃあお言葉に甘えて……」
「はい、どうぞ!」
「早苗さんさ、学校の制服ってこっちに持ってきてる?」
「学校の制服ですか? そりゃまあ、ありますけど。それがどうかしました?
 ……あ、えっと……い、幾ら○○さんのお願いでも、着ませんよ? こればっかりは色々と恥ずかしいですから」

 何か盛大に勘違いしてるな。俯きながらモジモジと指を合わせる早苗さん。
 アリスには無い天然成分。
 これはこれで中々萌える、ってそうじゃない。

「腋見える巫女服着てるのに?」
「うっ……これは、その、ほら、アレですよ。仕事着ですから! いやらしい目で見たりしちゃいけないんです!」

 俺のからかい混じりの指摘に今自分がどんな格好をしているのか思い出したらしく、真っ赤になってうろたえる。可愛いのう。
 しかし慣れとは恐ろしいものである。今や何の抵抗もなくこの格好をしているのだから。
 今の彼女がもし「外」でこの格好のまま外に出れば、所謂「その筋の人」としてドン引きされる事請け合いだろう。某所を除けば。
 ……脱線しすぎだな。これだから天然って奴は恐ろしい!

「もう、巫女服の事はどうでもいいじゃないですか! それで、私の制服がどうかしました?」
「貸してくれ」
「はい、いいですよ……ってはい?」
「だから貸してくれ。制服。早苗さんの。必要なんだ」
「…………」

 無言。空気が重い。
 何かこう、非常に重大なミスを冒したような予感が全身を走り抜ける。
 具体的に言うとフラグが全部立ってないのに選んではいけない選択肢を選んだ、みたいな?
 空の向こう、愛しのアリスが満面の笑顔で俺を罵った気がした。

「使うんですか? ……私の制服、使っちゃうんですか?」

 それまでのご機嫌から急転直下、ドンヨリと涙目になる早苗さん。
 その貌に浮かぶのは失望。まるで慕っていた男性の本性が目も当てられないものだと知った時のような。
 今、貴女の中で俺は一体どんな男と認識されているのでしょう。
 ていうか使うってなんだ使うって。いやいい、みなまで言うな。

「いやいや、勿論着るんだよ」
「……着る?」
「今度博麗神社でハロウィンパーティするだろ? その時に着るんだよ」

 アリスがな、と続けて言おうとしたその刹那

「ば、ばかああああああああああああ!」
 ――バチーン!
「ドゥブッハァ!」

 一閃。天狗も真っ青な瞬間速度を叩き出した平手が俺を襲った。
 ゴミ箱にブチ込まれた様な悲鳴をあげる俺を尻目に泣きながら遁走する早苗さん。泣きたいのは俺の方だ
 何これ。どう見ても変質者扱いです。本当にありがとうございました。それでもボクはやってない。
 しかし拙い。これは非常に拙い。このままでは男として何か大事なものを失ってしまう。……あ、早苗さん戻ってきた。

「……信じてた、奇人変人博覧会の幻想郷で、貴方だけは……って信じてたのに!!!
 まさか、まさか公衆の面前で女装プレイに走るような人だったなんて!」
「いや誤解だって。話せば分かるから」
「でも、悲しいですけど、これが現実なんですよね……。○○さん、今までありがとうございました。
 うぅっ……。本当に楽しかった日々を、早苗は一生忘れません……。私を普通の女の子としてみてくれた最初で最後の異性……。
 貴方と話している時だけ、私は自分の仕事を忘れる事が出来ました……っ。さよなら、私の初恋の人!」
「だから聞けよ! いや聞いてくださいお願いします!」

 虚ろな笑顔で悲劇のヒロイン早苗さんフルスロットル。色々と気になる単語が聞こえたがきっと気のせいだ。
 そんなチルノ以上に一杯一杯な彼女は、必死に弁解しようとする俺を完全スルーしながら大きめの紙袋を投げつけてきた。
 危険物かと中身を確認してみる。……なんだかんだ言いながら結局貸してくれるのな。

「どうぞ存分に使ってください! 返却は結構ですから!!!!」
「ああ、うん、ありがとう。でも頼むから話をk」
「いやです! 使い方なんか聞きたくありません! うわああああん! もう神様なんて信じない! 青い空のバカヤロー!!!!」

 大泣きしながら引っ込んでしまった。その速さまさしく風の如し。
 思わず嘆息する。完全に自分の世界に入ってしまっていた。この様子では暫くは話どころか顔も合わせてくれまい。
 まあいいや。会場で借りた服着たアリス見せて誤解解けば……。




 ――――。




 で、当日に至る。
 それまでに何があったのか、俺が会った時には完全に泥酔しきった彼女はセーラー服を着たアリスを見て

「なんで私より似合ってるんですか! しかも金髪とか! 整形までしちゃって!
 しかも凄く可愛いし! 死ねばいいのに! 死ねばいいのに!」
「ありえません! なんですかその乳は! パッド! パッドですか!」

 とかもう見ていられないどころか言葉にするのも憚られるほどにベロンベロングデングデンな状態でクダを巻いていて、
 その数分後にはメーターが振り切れたアリスと余りの惨状を見かねた霊夢に張り倒されていた。南無。

 あまりにも色々酷かったので後日尋ねてみたのだが、さも当然のようにセーラー服関連の記憶は失っていた。
 神様'sがどうにかしてくれたのだろう。……本当にありがとうございます!



~~終わっとけ。普段真面目な子が暴走するのって可愛いよね~~

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新ろだ177


 これは一体どういうことなんだろうね。分かる奴が居たらここに来て俺に説明しろ!
 始めから事細かく、いや細かくなくてもいいから分かるように教えてくれ。
 ここは俺の部屋、狭くて古いアパートながらも楽しい我が家だ!
 間違いない!長○秀和じゃないが間違いない!
 昨日は仕事の帰りに行きつけの焼き鳥屋で適当なのをいくつか見繕って、会社のボーリングコンペで当てたビール(発泡酒ではないぞ!)を一本空けて、そのまま布団に潜り込んだんだ!

 なのに、なのになんで。

 なんでアリスが、俺の5センチ隣で寝息を立ててるんだよ!


 唐突だが俺は、神隠しってやつにあったんだ。もう半年くらい前の話だけどな。
 趣味の廃線探索で、その筋では有名なとある廃トンネルに、わが相棒の姉色号と共に突入したのが運の尽き。
 勘違いされる前に注釈を入れさせてもらうが、姉色号ってのは俺のバイクのことだ。なんでそこはかとなく卑猥な名前がついてるかって?
ただバイクの名前をもじっただけさ。深い意味はないんだぜ。

 で、話を戻すとだな、トンネルを抜けたらそこは雪国…じゃなくて見知らぬ山の中。振り返ったら大口を開けているはずの坑口は綺麗さっぱりなくなって。
呆然自失となってたところを、このツンツン人形遣い、アリス・マーガトロイドに助けられたってわけさ。

 ん?そこはツンデレじゃないのかって?
 甘い、甘いぜ。お前さんは甘すぎる。そんなんじゃ血糖が高く出ちまうぜ?

 このドS魔女、俺にデレたことなんてこれっぽっちもありやがらねえんだ。そりゃあ俺はこいつにゃ助けてもらった恩があるし、こんなこと言えた義理じゃねえ。
けどな、事あるごとに俺を罵るわ、グリ…なんだっけか、とにかくあの百科事典みたいなので殴りかかるわ、仕舞いにゃ魔法だか弾幕だか
分からんが変なもん撃ってくるわで、おっかねえアルティメットなサディスティック魔法使いだったわけさ。

 一度事故でこいつの、その、む、胸触っちまった時なんか、はっきり俺は死を覚悟したね。おっと誤解の無い様に言っておくが、事故、事故だからな!
博麗神社の宴会の席でなぜか隣に座りやがったこいつと、いつもどうり素敵にどす黒いオーラをぶつけ合いながら酒を楽しんでいたときに、
誰かが俺の背中を思いっきり押しやがったんだ。未だに犯人が分からねえのが幻想郷に残してきた唯一の心残りだぜ。いつか犯人の目の前で
<ブレアーの午前6時>の瓶開けて、「坊や~よい子だ寝んねしな~」と口ずさみながら犯人の口の中に流し込んでやる!
素敵な夢だろ?最も、返り討ちにされるのがオチだろうけどな!夢見るだけならタダなんだからいいだろ。

 とにかくだ!その不幸な事故だっていうのに、こいつときたら……やべ、今思い出しても恐ろしい。ちょっとチビりそう。
平手だとか、踵落としだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

 まあ致命傷で済んだからよかったけどな!
 えーりん様々だったのもいい思い出だ。よくないけど。

 まあそんなこんなで、俺が迷い込んだ幻想郷っつー摩訶不思議な地獄の一丁目で、俺はこいつのいじめに日々耐えていたんだよ。俺が里に居を借りるようになっても、
こいつはわざわざ里まで来て、俺といがみ合うんだからな。なんだかんだで家に上がり込むし、茶の淹れ方にケチはつけるしで散々だったな。まあ茶菓子は持ってくるから、その辺
魔理沙よりはマシだったぜ。あいつは持ってくる気配さえ感じさせなかったしな。

 だが実際、アリスの方が旨い淹れ方するんだよな。ムキになって紅魔館まで行って調べたんだが、結局勝てなかったぜ畜生。しかもあの紫もやしとメイド長とロリ吸血鬼に
「そんな事でここに訪ねてくるなんてあなたが初めてよ」って笑われるし。笑われ損だったぜ畜生。
 そういえば、結局こいつに何かで勝ったこと、なーんにもなかったな。何か言われるたびに悔しくて、挑戦してはみるものの、なんつーか、認めるのも癪だが、俺が手伸ばしても
直前で掴み損ねるみたいな、一歩先を行ってたな。本当にこんなこと考えるのも癪だが。こんなこと考える度イライラするんだよなあ、自分でもおかしいと思うくらいに。

 そんなこんなでいっつも二人でいたせいか、博麗の腋巫女とか白黒魔女とか、「お熱いぜ」「仲良いわね」なんて意味不明なことを言ってたが、あいつらは何か思いっきり勘違いしてやがる。
現にそう言われるたびに「そんなんじゃない!誰がこいつなんかと!」って一字一句わずかな音ズレもなく二人で否定してたんだからな。
相容れない俺たちだったが、それだけは見解がピッタリ一致してたぞ、見事に。初めてアリスと分かり合えた瞬間だったね。

 おっと、思い出に浸っている場合じゃなかったな。
 とにかく今は、状況をきっちり把握…しなくてもいいか。そんなもんは必要ない。これは夢だ。睡眠中に脳が見る錯覚ってやつさ。そうに決まってる。
 こっち──幻想郷から見れば「外」になるが、こっちにアリスなんているわけないんだ。そう簡単に行き来できるもんじゃないらしいしな。それに恥ずかしい話だが、夢の中に
こいつが出てくるのは初めてじゃない。
 まったくどういう訳なのか考えたくも無いが、よく幻想郷に居たころの夢を見るんだ。あっちに居た頃はとにかく帰ることかアリスに勝つことしか考えてなかったし、向こうのメンツに
おもちゃにされて散々な目にあったことばっかりメモリーに記憶されてるのに、なぜなんだろうね。まあなんだかんだで、思い出は美化されやすいから、そんな感じの理由だろう。

 しかしこいつは、結構可愛い寝顔してるんだな。まあ黙ってればそれなりに可愛いんだ。黙ってればな!幻想郷にはそういう奴がばっかりだったな、今思い返すと。しかし実態はいろんな意味
でおっかねえ女ばかりだ。不興を買ったらその場で縊り殺しかねんぞあいつらは。今更ながら生きて帰ってこれた自分を褒めてやりたいぜ、マジで。こっちに住めばいいんじゃないとか能天気に
抜かした腋巫女とかスキマ妖怪なんかもいたが、丁重にお断りして正解だったよ。

 ──俺は迷い鳥さ。いずれ帰ることろに帰らなにゃならん。

 これがあの美少女二人、いやあスキマは少女というにはちとキツいか?二人の「お前は一生私達の玩具」的なオーラを纏った熱烈ラブコールをお断りしたときのセリフだ。カッコいいだろ?
惚れちまいそうだろ?だが俺はノンケだ。残念だったな。本当は「俺はお前らの玩具じゃねえんだ!」っていう熱いセリフも考えてたんだが、そんなこと言ってみろ。たちまち簀巻きにされて
口では言えないようなプレイ三昧だぜ。だから俺は、溢れる恐怖心を華麗な仮面の下に隠して渋くキメてみたのさ。

 そう、俺は怖かったんだ。
 酒の席で、とてつもない気配を俺にぶつけて、ビビる様を楽しんでいた妖怪達が。
 俺には理解できない力を持って、俺を翻弄するあいつらが。
 俺と全く違う次元に立って、否が応でも俺の矮小さを見せ付ける、彼女達が。

 ──ビビリって言うな。自分でも分かってるよ。

 そういや意外なことに、この目の前ですやすや眠る暴力魔女は、そうやって俺を弄んだことは一度もなかったな。むしろ宴会のときなんか、何回も助けられたことがあったぜ。
 しかし俺はだまされねえ。そうやって俺を助けるフリをして、妖怪達に何事か言われると、突然顔を赤くして俺に上海人形IED爆弾を投げつけてきやがるんだ。くそっ、なんて時代だ!

 帰るときもそうだった。他のメンツに「もう来ねえよ!ウワァァァァン!」なんて口にしたらヒギられるのは決定事項だったからな。霊夢とアリスにだけ、帰る時挨拶をしていったのさ。
結界は霊夢に開けて貰った。スキマ妖怪になんて頼んだら何されるか分かったもんじゃないしな。お前の野望は潰えたぜ紫!ふははははは!
 っと、話戻すか。
 あんなんでも一応、命の恩人だしな。数日後に帰る目処がついた、なんて挨拶したら、「あんたの顔見なくて清々できるわ」なんてのたまいやがって。それはこっちのセリフだ!なんて売り言葉に買い言葉で、
結局いつもどおりの大乱闘スマッシュブラザーズだったぜ。主に言葉の。

 そんなんだったから、俺は錯覚だと思うことにしたんだ。

 帰ると伝えたとき、あいつの声が震えていた事と、
 俺の心に浮かんだ、罪悪感みたいなもんを。
 それをずっと、ずっと考えないようにしてたのに──。

 なんで、なんで何回も夢に出てくるんだよ。頼むよ、もういいだろ俺。あいつらはあっちで、俺はこっちで元通りなんだよ。
 今まで通りの暮らしなんだよ。これが正しいんだよ。
 それなのに、いつもいつも、アリスの顔ばかり、幻想郷のことばかり夢見やがって。

 もう、やめてくれよ──

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新ろだ209


「メリークリスマス、○○」
「メリークリスマス、アリス」

キィン、と黄金色の液体が入ったグラスが綺麗な音を立てる。
今宵はクリスマス。本来、祝うべき対象のことなど忘れ、恋人と甘い一時を過ごす聖なる夜。

「ん……ふぅ、やっぱりお酒は静かに飲みたいわね」
「いつもは大体大騒ぎだしな。」
「全くよ、少しはムードってものを理解しなさいっての」
「でも、アリス、考えてもみろ。
 鬼とか天狗とかが、静かに酒飲んでたら、それこそ異変だぜ……」

二人して思い浮かべる。
萃香や文が何もしゃべらず、騒がず、ただ静かに酒を飲む。
○○は想像しきれずに、アリスは気持ち悪そうに顔をしかめる。

「……たしかに」
「ぷっ、あはははははは」
「うふふふ……」

どこからともなく、へくちっ、と聞こえた。



クリスマスに雪が降る。
世界が二人を閉じ込めるかのように。

「俺はやっぱりシャンパンは苦手だな」
「あら、おいしいのに」
「どうも外で飲んだ安物のせいで、悪い印象がな……」
「ふむ、○○」

渋そうな目で○○がグラスを眺めていると、アリスに名前を呼ばれる。
グラスから目を上げると、アリスの綺麗な口が見えた。
そのまま唇を奪われる。
アリスの口から移される液体は、辛いだけでなく、ほんのり甘い味がした。

「んー……んふ……ん……はぁ……これならどうかしら?」
「これはうまい……な、でもこれだと、酒じゃなくアリスに酔いそうだ」
「ふふ、それもいいかも、よ?」

いたずらっぽく笑う。
普段見せる愛らしい笑顔ではなく、艶やかな、色っぽい笑み。
その笑みに○○は、頬がさらに熱くなるのを感じた。

「ねえ○○、そっちに行ってもいいかしら?」
「ん、ああ。ってここかよ」

グラスとボトルを持って、横向きに○○の膝の上に座る。

「……嫌かしら?」
「……まさか」

照れるような、うれしいような、そんな○○の笑顔。
アリスもうれしそうに微笑み返す。

「さ、もう一杯」

再びシャンパンを口に含み、○○に口づける。
アリスが落ちないよう、背中に腕を回し、軽く抱きしめる。

「……ん……ん……ちゅ……んふ…………ぷは」
「ふぅ……こんなにおいしい酒は、なかなか飲めないな」
「何言ってるのよ、○○が望むなら好きなだけ……」
「それは最高だな……」

二度三度と口移しを繰り返す。
だんだんとボーっとしてくる感覚に、違和感を感じつつも受け入れる。

「ああ、なんか妙に暑くなってきた。上着脱ぐか……」
「もう酔っちゃった?」
「……アリスは余裕そうだな、なら今度は」

アリスからボトルを奪い取り、そのまま口に含む。
背中に回してる腕でアリスの腰を引き寄せ、口づける。

「え? あ、ん……んく……んく……ちゅ……はふ……んっ」

口の中の液体を移しきり、口を離す。
少し惚けたアリスに、○○はお返しだ、といたずらっぽい顔を見せる。

「ふふふ、どうだ?」
「これは、おいしいわね……」

互いに移しあい、飲ませあい、舌を絡ませ続けた。
それはボトルが空になるまで続けられた……



「はぁ……ふぅ……暑くなってきたわね……」

すっかり酔ってしまったのだろう。
なんの躊躇もなく、アリスも上着を脱ぎ捨てた。
酔ったのは、酒にか、○○にか、それとも……

「お、おいおい、こんなところで脱ぐなよ……」
「ふぅ……なによ、○○、見たくないって言うの?」
「……歯止めが利かなくなってもしらないぜ?」
「……大丈夫よ、私はすでに利かなくなってるから」
「……え?」

グラスを置き、両腕で○○の首を捕まえる。
向かい合うように向きを変え、そのまま密着するかのように、深い口づけをする。

「んむっ、ふ……ん……ん、はあっ! あ、アリス?」
「うふふふふ……、○○、今夜は寝かせないわよ」

アリスの指が、ゆっくりと○○のベルトへ向かっていった……


どこからか、連続したシャッター音が聞こえたような気がしたが、
もはや二人を止める要因には、なりえなかった。








「あいたたたた……昨日はそこまで飲んだつもりはなかったんだがなぁ……」
「あ、○○起きた? おはよう」
「なんとかな……おはよう」

頭を押さえつつ、起き上がる。二日酔いのようだ。
アリスは先に起きていた。

「昨日はやけに積極的だったな……クリスマスだったからか?」
「そうかもね、……嫌だった?」
「あれだけしておいて、いまさら嫌なんて言うはずないだろ?」
「……でも、女の子は言葉で確かめたいものなのよ」
「……そうか……愛してるよ、アリス」
「うん、私も愛してるわ、○○」

再び口づける。
昨日のような深いものでなく、触れるだけの軽いキス。
触れただけなのに、より深い何かを感じれた気がした。

「ふふ、○○~」

甘えるように擦り寄ってくるアリス。
胸元に招きいれ、アリスの髪を撫でる。

「アリスの髪は本当に綺麗だよな……ずっと撫でていたくなる」
「ん……きもちいい……」

撫で続けていると、ゆっくりとしたアリスの寝息が聞こえてくた。
アリスへの「酔い」はいつまでも覚めそうにないな、と自嘲し
○○もまた、ゆっくりと眠りへ落ちていった。

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最終更新:2010年05月19日 02:18