アリス17
新ろだ587
「ロミオとジュリエット?」
「そ、ロミオとジュリエット」
珍しく訪ねてきたアリスの第一声がそれだった。
曰く、今度寺子屋で人形劇をする事になったので、協力しろとのこと。
「なんでそんなに面倒なことを?」
「……さあ、なんでかしらね。
以前の私ならお断りしてたでしょうけど、今回はなんとなく気が向いたみたい」
「ずいぶん他人事だな」
「全くね。最近の私は私じゃないみたいな気がするわ」
「なんだよそれ?」
「さあ、自分の胸にでも聞いてみたら?」
「は?」
「ま、新しい魔術の実験って建前もあるんだけど」
「???」
なんだかよく分からないが、人形劇なら、確かにアリスは適任だろう。
やるというからには手伝うことになる。
拒否権が無いことを分からないほど浅い付き合いでもない。
「分かった、手伝う。何すればいいんだ?」
「……そうね。先に報酬の話をしましょう。
頼みを聞いてくれたなら、私を抱く権利をあげるわ」
「は?」
「……何度も言わせないで。私を抱く代わりに、頼みを聞いて欲しいの」
顔を逸らしながら早口で言うアリス。
「……その、……いいのか?」
「なんなら先払いでもいいわ。イエスなの、ノーなの?」
返答に困っていると、ずいと詰め寄ってきて、そのまま俺の胸におさまる。
「五秒このままなら、イエスととるわ」
言いながら頬をを押し付けるようにうずめた。
思わず生唾を飲み込む。
「……イエスね?」
上目遣いで見上げてくるアリス抗う術などなく。
「……いいんだな?」
「くどいわ。……さっさと済ませちゃって」
おそるおそるアリスの背に腕を回す。
細くたおやかな身体を抱き締めると、柔らかな感触と甘い香りが頭を支配した。
引き込まれるように自分の身を傾けていく。
「……そこまでよ」
が、倒れこむ前に抵抗された。
「え?」
「あなたは文字通り私を抱いた。
……契約成立ね?」
……やられた。
と思うまもなく逆に押し倒され、手足を抑えられてしまう。
艶然と微笑むアリスの腕がゆっくりと首筋に伸びた。
「それで、頼みなんだけど……
あなたの声を貰いたいの」
「……どういう、」
意味だ? まで続けられなかった。
アリスの目がぎらぎらと凄絶に光っていたからだ。
「人魚姫は人間になる代償に、魔女に声を差し出した。
あなたは私を抱いた代償に、魔女に声を差し出すの」
「……冗談、だよな?」
口の端を歪めるアリス。
それは魔女の笑みだった。
人の命を弄ぶ、強大な力を持った魔女の笑みだった。
「大丈夫よ、痛みなんてないわ。ただ喋れなくなるだけよ」
アリスの指先が喉笛を擽るように撫でる。
その手が徐々に広がっていき、ついには喉を掴むように軽く握られた。
恐怖で身体が動かない。やはりこの少女は魔女。
「魔の付く種族との契約には気を付けることね」
最後に無邪気な笑顔を浮かべ、アリスはその手に力を込める。
「だから悪かったわよ」
「ふざけんな、本気で怖かったんだからな!」
数分後、声を失わずに済んだ俺の開口一番。
早い話がからかわれたのだ。
「ちょっとしたおふざけじゃない」
「ちょっとしたってレベルじゃないだろうが!」
冗談だと言われぽかんとする顔を笑われた悔しさも込めて、強く言ってやる。
「それは、……その、ごめんなさい。
あなただったら笑って許してもらえると思って。
そうよね、あなたの優しさに甘えすぎちゃったわ」
途端に項垂れて弱々しい謝罪。
……ここで上目遣いは卑怯だ
「あ、いや、こっちもムキになって悪かった」
「じゃあ、これでチャラ。おーけー?」
しおらしさを一瞬で消し去り、してやったり顔で笑うアリス。
くそっ、これだから女ってやつは……
「……分かった」
「じゃあ改めて、あなたの声を少し分けて欲しいの」
「……いや意味が分からないから」
「だから、人形劇のために男役の声をやってほしいのよ」
言いながら、一冊の本といくつかの人形を出すアリス。
「セリフのひとつひとつを人形に定着させて、言わせるわけ。
てーぷれこーだー? だったかしら? あんな感じ」
「……幻想入りしてたのか?」
「機械自体じゃなくて、それそのものが幻想入りしたんじゃないかしら?
台本も古い原文を私が訳したものだし」
「……さいで」
「まあどうでもいいでしょ。
ここに有ることは変わらないんだから」
いいながら台本を押し付けられる。
「今日はこれ読んどいて。明日から始めるからちゃんと世界観つかんどいてよ」
「すぐはじめるんじゃないのか?」
「やるからにはそれだけの質にしないと。
ちゃんと演技もしてよ」
「……マジか」
「マジ」
「ちなみに期限は?」
「一ヶ月」
いきなり声優の真似事をしろと?
それもたった一ヶ月で?
「ある程度修正はきくし、なんとかなるわ」
「なるのか、コレ」
「するの」
「……はい」
と、言うわけで、なし崩しに人形劇団のデスマーチが始まった。
今からおおよそ四百年前。
外の世界のさらに向こうの都、ヴェローナ。
この街には由緒正しい貴族の家が二つあった。
キャピュレット家とモンタギュー家である。
規模も力関係もおおよそ同じ。
上下関係もなく、友好度は最悪。
お互いの家の使用人同士でさえ、会えば殺しあいの決闘に発展しかける始末。
そんな台風の目の少し外れ、モンタギュー家の一人息子、ロミオは悩んでいた。
どれだけ求めても応えてくれない、片恋相手のキャロラインのことで。
「……いきなり知らない名前が出たな」
「始終名前以外出てこないのよね」
「てか、ジュリエットじゃないのな」
「ジュリエットが出るのはもう少し先よ。続けて」
「了解」
そんなふさぎこんだロミオを不憫に思った親友のマキューシオは、
ロミオを舞踏会へと連れ出す。
しぶしぶながらも、ひかれるままに参加するロミオ。
会場はキャピュレット家。
そこで彼は出会う。
一人の美しい少女に。
完璧な一目惚れ。片恋の相手のことなど一瞬で忘れた。
そしてそれは少女、ジュリエットも同じだった。
「敵陣にのこのこ向かうってどうよ?」
「一応は紳士淑女の交流の場。
荒事はご法度よ」
「そーなのかー
……しかし、意外にダメ男だなロミオ」
「あら、よくある話じゃない?
もしかして同じ経験があったとか?」
「……ノーコメントで」
からかうような視線に居心地悪く答える。
いや、ノーコメントですよ。
勘弁してください、マジに。
「ともあれその後は有名なシーンね。
バルコニーでお互いの愛を誓い合うところ」
「『どうしてあなたはロミオなの?』ってあれか」
「そう。これは知ってる人も多いんじゃないかしら?
見せ場なんだから気合い入れてよね」
「……善処します」
お互いの愛を誓いあったとはいえ、二人には大きな障害があった。
家同士の不仲である。
両親に相談など出来るはずもなく、
ロミオは以前より世話になっていたロレンス神父の教会を訪ねた。
話を聞いたロレンス神父はロミオの移り気に呆れながらも、
この二人が結ばれれば、両家の対立が無くなるかもしれないと、
教会で式を挙げることを許す。
しかし、一方でジュリエットの両親は、すでに娘の婚約者候補を選び出していた。
不穏な動きの中、無事に式を挙げ一応は夫婦となれたロミオとジュリエット。
だが、混乱を避けるためいきなりおおっぴらには出来ない。
形だけの結婚。ほんのわずかの会瀬。
それでも二人は幸せだった。
「と言うか、ジュリエットって13歳なんだな。
……犯罪じゃん」
「あなたがそれを言うかしら?」
「……どういう意味だ」
「私のこと、嫌い?」
「……あ~、嫌いじゃないが」
「ほら、犯罪者」
「ち、違う!」
くすくすと可笑しそうに笑うアリス。
畜生、やっぱり勝てない。
しかし、二人の幸せは儚くも潰えることになる。
ある日、親友のマキューシオと街を歩いていたロミオの目の前に現れたのは、
ジュリエットの伯父に当たる男、ティボルト。
喧嘩騒ぎの中には必ず彼がいると言うほど、
血の気の多い、好戦的な人物である。
案の定、宿敵ロミオを見つけた彼は、喧嘩を吹っ掛けた。
しかし、ジュリエットと夫婦になったロミオにとって、ティボルトは身内同然。
争うことは出来ない。
やんわりとやりあう気はないと告げる。
馬鹿にされたと逆上するティボルト。
必死に争いを避けようとするロミオ。
ティボルトに食って掛かりながら、弱腰のロミオを問い詰めるマキューシオ。
真っ先に動いたのはティボルトだった。
完全に頭に血が昇ったティボルトが、腰に挿したサーベルを振るう。
その凶刃の餌食になったのは、親友であるマキューシオ。
親友を目の前で殺された怒りに我を忘れたロミオは、ティボルトを殺してしまう。
「なんという不幸の連鎖」
「不幸があるからこその悲劇だもの」
「だけど、もう少し冷静になるべきじゃなかったか?」
「事情を話せないのに?」
「……えっと」
「少なくともわたしは、目の前で仲間やあなたが殺されたら、冷静でいられないわ。
殺した相手を憎むでしょうね。許せないでしょうね」
「……それはそうなんだけど」
「物語の主人公たちは、筋書き通りにしか動けないわ。
そこから何を学ぶかはあなた次第よ」
「それもそうか」
ロミオに待っていたのは、ヴェローナからの追放処分だった。
死刑よりはましなものの、重い処罰に代わりはない。
それは故郷を失うということ。
最愛の女性、ジュリエットと二度と会えないということ。
絶望するロミオ。
そんな彼に救いの手を差しのべたのは神父ロレンス。
「今は甘んじて追放を受け、別の町で暮らしなさい。
事情が明らかになれば、またジュリエットにあえるから」
その言葉を信じ、ロミオはヴェローナを去る。
しかし悲劇は終わらない。
ロミオの追放と、ティボルトの訃報にふさぎこむジュリエット。
その様子を心配した両親は
婚約者候補のパリスとジュリエットを結婚させることを一方的に決めてしまう。
拒否するジュリエットだが、受けなければ勘当と言われ、深く嘆くジュリエット。
そんな彼女に再び助け船を出すロレンス神父。
相談に来たジュリエットに一粒の薬を渡す。
曰く、飲むと仮死状態になる薬。
「死を装い、パリスとの式をやり過ごし、その後に事情を開かそう。
そして、今度こそロミオと幸せに暮らしなさい」
結婚式前夜、恐怖に押し潰されそうになりながらも、
幸福な未来を信じジュリエットはその薬を飲み下した。
「ロレンス神父って、なんてえーりん?」
「ああ、確かにあそこの薬師っぽいかもね。意外と面倒見良さそうなところとか」
「……突っ込みは不粋と」
「そういうこと」
「しかし、うまくやれればハッピーエンドだったのにな」
「そうね、今度はアレンジしてハッピーエンドにしてみようかしら?」
「またやるのか?」
「……もしやるなら、手伝ってくれるわよね?」
「それは?」
「どう?」
多少強引だが、悪くはない話だ。
実際楽しいし、本人は知るよしもないだろうが、アリスと一緒の時間が増えるのは嬉しい。
悩んだのは一瞬、答えるのも一瞬。
「……頼り無い助手かもしれないけど、機会があればよろしく」
「こちらこそ。
……よかった、断られたらどうしようかと思ったわ」
「ん、なんか言ったか?」
「い、いえ何も。とにかく今はこっち。
休憩終わり。続けるわよ」
「はいよ」
良くない噂は伝わるのが早いと言うが
その日の夕方にはロミオの元にジュリエットの訃報が届いた。
聞くなり仮宿を飛び出すロミオ。
行き先は墓場。
事情を書いたロレンスの手紙も行き違いとなり
運命の歯車を止めることは出来なかった。
ジュリエットを失った今、自分には何もない。
深く深く絶望したロミオは道中に毒薬を買い、見咎められたパリスを殺し、ジュリエットの墓前に立つ。
棺桶に納められたジュリエットは、未だに生前の美しい姿のまま。
その唇にキスを落とし、毒薬をあおるロミオ。
そして、ジュリエットの目の前で倒れた。
目を覚ましロミオの姿を見たジュリエットもまた絶望する。
しばらく泣いた後、意を決したようにロミオの短剣に手を伸ばすジュリエット。
自らの心臓を刺し貫き、ジュリエットも命を断った。
それから、この町に二体の像が建てられた。
一つはモンタギュー家の息子のもの。
もう一つはキャピュレット家の娘のもの。
お互いの家の協力により建てられたこの二つの像は。
両家の和解の印として
悲しい運命にありながらも激しい恋を全うした二人の証として、ヴェローナの町に今も在り続けている。
そして幕は降りた。
寺子屋の中はしばらく水を打ったように静かだったが、一人の嗚咽を皮切りにして、泣き声に支配された。
初舞台としては大成功と言えるだろう。
というか、俺自身もかなり涙目で、
やりとげた顔でこちらに向かってきたアリスに呆れられてしまった。
「話を知ってる上、さんざん出演したくせによく泣けるわね」
「いやいやアリス、臨場感と言う言葉があってだな」
「これから劇やる度にそんな反応をするつもり?」
「そう言うなよ。完成品を見たのは今日が初めてなんだから」
「まあいいわ。あなたも楽しんでくれたなら、私としても大成功」
満面の笑みを浮かべるアリス。
こんなアリスの表情も初めてだ。
これから人形劇を一緒にやっていけば、また見られるだろうか?
だとしたら、是非また一緒にやりたい。
「……というわけで、この話から学ぶことはたくさんあるだろうが
例え相容れぬ存在でも、一つになれる可能性があるということを、一番に言っておきたい
ちょうど人間と妖怪の関係のようにだ。
そして、それらが気兼ねなく愛し合える世界をつくること。
これがこの先の私たちの課題だろう」
少し落ち着いたのか、慧音さんが熱弁を振るっている。
「現にここに人間と魔法使いのカップルがいるわけだ。
困難もあるだろうが、二人には末永く幸福な時を過ごしてもらいたい。私はそう思う」
「ちょっと、慧音!」
「なんだアリス、違うのか?
てっきりそんな関係なのかと」
「ななな、何を言ってるのよ。
私たちはそういう関係じゃなくて」
おー、アリスが慌てるとは珍しい。
なるほど、アリスは不意打ちに弱いのか。
……ふむ
「そうですよ、慧音さん。
残念ながら俺たちはカップルじゃありません」
「……○○」
おいおい、自分で否定しといて、そんな寂しそうな顔するなよ。
「パートナーです」
「そ、そうよ。私たちはただのパートナーなんだか……えええ!?」
納得した様子で頷く慧音さん。
さらに慌てふためくアリス。
……してやったり。ちょっと気分いいなこれ。
「ちょっと○○!」
「なるほどな。素晴らしい関係だ。
いいか、こういう人間と妖怪の関係が、今後さらに増えるかもしれない。
それは決して悪いことではないんだ。
ほんの少しの知識と広い心、それで彼らを見てやればいい」
「勝手に纏めないでよ!
私たちはまだそんなんじゃなくて……」
「ほらアリス、帰るぞ」
暴れるアリスを担ぎ上げて寺子屋を後にする。
「な、ちょっと○○!離しなさいよ!」
去り際に向けられた視線は、とても暖かかった。
「だから悪かったって」
「冗談じゃないわよ! 絶対噂になっちゃうじゃない」
ぷんすかといった擬音がぴったりな感じで怒っているアリス。
寺子屋を離れ、肩から降ろしたと思ったら、ずっとこんな感じだ。……これはやり返すチャンスかもしれん。
「……だめなのか?」
「え、あ、いえ、そういうわけじゃなくてね」
少し沈んだ調子で言ってやれば、案の定慌て出すアリス。
……しめしめ
「……悪い、調子に乗りすぎたか」
「そ、そんなことないわよ。ちょっといきなりでびっくりしただけで……」
「……じゃあこれでチャラだな。おーけー?」
あっさりと言い返してやれば、一瞬呆けたあとに悔しがるアリス。
「……覚えてなさいよ」
「ふっふっふ、もう忘れたね」
お互いに笑いあい、なんとなしに降りる沈黙。
二人分の靴の音だけが聞こえる。
「……○○は」
その沈黙を破りアリスがぽつりと呟いた。
「ん?」
「突然いなくなったりしないわよね」
「なんだよ、急に?」
「だって、わたしと○○は種族だって寿命だって、住んでた場所だって違う。
……だから」
俯いたまま、寂しげに話すアリス。
ロミオとジュリエット。
お互いの埋められない隔たり。
当人には及ばない運命。
なるほど、言いたいことは分かった。
……だけどな
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって!」
「俺たちとあの二人には大きな違いがある。
ロレンス神父みたいな味方が沢山いるじゃないか」
あの二人の悲劇の一因に、「ふたりぼっち」だったというのがあると俺は思う。
「種族の違い? 里の守護者が認めてくれた。
寿命の違い? 薬師や魔女、冥界や地獄にだって知り合いがいる。
住む場所の違い? 博麗の巫女を連れて魔界に直談判に行ってやるさ。
立ち向かうときは二人だけじゃない」
「○○……」
「それに、『恋の翼はどんな障害も飛び越える』んだろ?
……だから、大丈夫」
いつの間にか上げられた顔は、驚きから笑顔へ。
そしてその笑みが意地の悪いものへと変わっていき……
「……ふーん、恋ねえ?」
「……え?」
「わたしは劇のパートナーが突然いなくなると困るからああいうことを言ったんだけど……
そう、○○はわたしのことが好きだったの?」
思わぬ不意打ち。
本心の暴露と恥ずかしい演説に赤面する。
「ちょっ、おま、汚いぞ!」
「あら、勝手に語りだしたのは○○じゃない。
……どう返事したものかしらねえ」
くそう、純情な男心を弄びやがって、この魔女、七色、人形師。
等と心の中で悪態を吐いていると、急に顔を寄せてきた。
すぐ目の前にアリスの顔がある。お互いの呼吸さえ感じ取れる距離。
しばらく見とれていると、不意にアリスが目を閉じた。
そして、二人の距離がゼロになる。
唇から伝わる柔らかな温もり。
「……あの」
「……魔のつく種族との会話には気を付けることね。
契約よ。この先ずっと一緒にいてもらうから」
頬を赤く染めながら強気な笑いでこちらを見るアリス。
照れ隠しが見え見えで、それ故に可愛い。
「望むところだ」
答えは決まってる。
パートナーとしてアリスと一緒に物語を創っていく。
この先のずっと一緒に。
「さて、これから忙しくなるわよ。
もう次の脚本は決まってるんだから」
「おいおい、少しくらいゆっくり……」
「魔女との契約は絶対服従が基本なの。拒否権なんかないんだから」
参った、こりゃもう勝てそうにないな。
「了解」
先を行くアリスを追いかけて、俺は駆け出した。
新ろだ607
日差しが差し込んでいる。
朝になったのだろうか……
あの日以来カーテンなんて触りもしてない。
それどころかほとんど何もしていない……
ただ起きて、ぼーっとして、いつの間にか寝て……
日にちの感覚も忘れた。
天気なんてどうでもいい。
全てモノクロ。
あの日から……
○○が死んでしまった日から……
私も死んでしまった。
○○……
私の愛しい人……
もう……
もう二度と会えない。
夢くらいでしか……
夢だとしても所詮は虚構……
それでも……
―――――――――――――――――――――――――――――
とある日の朝。二人の物語は○○が道に迷ってアリス亭を見つけ、道を尋ねた時から始まった。冷たくもある
が交友的なアリス。ふざけてはいるが筋は貫き通す○○。付き合いを重ねる内に二人は惹かれ合い、恋仲とな
った。
節度は弁えてるつもりであったが、周囲からはバカップルと持て囃されていた。霊夢や魔理沙からは笑いなが
ら皮肉交じりに宴会来んなと言われたりした。紫の能力で出歯亀ウォッチングなどしょっちゅうだった。
皆から祝福されていた。幸せだった。
○○が原因不明の病に侵されるまでは。
『月の頭脳』八意永琳でも進行を遅らせることしかできず、『妖怪の賢者』八雲紫でも原因に干渉できず、『
知識と日陰の少女』パチュリー・ノーリッジでも前例のない病気だということくらいしか分らなかった。
ありとあらゆる手段で試したが、結局のところアリスを残して○○はこの世を去った。
流した涙は枯れるほど。願った数は無限の彼方。受け入れられず、夢だと思い、後を追おうとしたのは星の数
ほど。
親を見失った子どものような。道を失った旅人のような。絶望に打ちひしがれた者のような。
直視に絶えず、心は痛み、それでも比較にならぬ感情のアリスに対して皆はどうしていいか分からずにいた。
それでもアリスは感謝はしても恨みはしなかった。無理して笑って、安心させようとした。
そうして、アリスは誰とも交流しないようになった。
そんな中、今日は一人――霧雨魔理沙がいつになく真剣な顔つきでアリスの前に現れた。
「よぉ、アリス。悪いがお前には行くべきところがあるんだ」
「………………」
「嫌なのは分かるが、絶対にお前は行かなけりゃならないところだ。無理矢理でも連れていく」
「………………そう……………………」
(まるで魂の抜け落ちた人形だな……)
あながち間違いではない比喩であった。ボロボロに朽ちた人形……今のアリスを表現するならかなり適切な言
葉であった。無論考えた魔理沙は、この皮肉に対してまったく笑えなかったが。
当然飛ぶ気力もない。魔理沙愛用の箒の後ろに乗せて行くしかない。もちろん捕まる力も出らず座るだけ。い
つもの彼女からは考え付かないほどのゆっくりしたスピードで目的地を目指していた。
「………………ここは」
「ついたぜ。ほら……」
場所は墓地。普通の墓石ではあるがお供え物や掃除などがきちんとされている。
名は○○。
没年は――――――
「今日で○○が死んでから一回忌だ……」
去年の今日。
○○が死んで丸一年たったのだ。
「○…………○………………」
「ちゃんと祈ってやれ……アリスがしなきゃ○○も浮かばれやしないだろ」
「うぅっ―ーーーーーーーーーーー」
響く。声にならない少女の叫びが。
流れる。とうに枯れたと思っていた涙が。
思う。すでに亡き者のことを。
願う……これが……夢であることを……
泣き疲れたアリスは死んだような眠りに落ちた。まともに寝てない彼女の体力は限界をとうに超していた。こ
んなところで寝かせる訳にもいかず、行き同様帰りも魔理沙の安全運転でアリスを家に運んでベットに寝かせ
たのだった。
本来なら食事を取る必要もないが、頼らざる部分もあるのが完全ではない魔法使いの事情である。あれからか
なり痩せたアリスを見て、定期的に食事をさせるべきだと考えてその場を後にした魔理沙であった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「アリスー朝だー起きろー」
一瞬だけ歓喜が湧き、すぐにそれは夢の幻と判断する。もう幾度となく見ている夢。幸せだったあのころの夢。
だからせめてもの慰めとして……アリスは夢に身を委ねる。
「起きてるわよ」
「なら起き上れっての。起きても寝転んでじゃ意味ないじゃん」
起き上がろうとしたが、不思議と力が入らずに苦戦していると、
「んー体調悪いみたいだな……やっぱ寝ときな」
察した○○が寝かせてくれた。
「顔色悪いみたいだな……何か食う物…………無しですかい……」
「あら、何もないかしら?」
「ああ。ちょっくら何か買ってくるぜ」
あり得ない虚構。所詮は現の狭間。夢の産物。それでも、
「期待しないでまってるわ」
少しの皮肉と大きな虚しさで、それでも微笑んで返事した。
そうして、また眼を瞑る。夢を終わらせるために……
いい加減、一歩を踏み出すべきであると、頭の片隅で思いながら。
そうして起きてみると人の気配と物音がする。何か切ってるような音。微かに聞こえる鼻歌は……
「○○………………」
あり得ないと……そう思いつつもポツリと呟いた。すると、
「おぉ、起きた?てか起きてて大丈夫かよ」
返事が……確かに……○○の声で………………
そこには死んだはずの青年が、彼女が愛して止まない人が、何一つ変わらぬ姿で居た。確かに居る。
「○○!本当に○○なの!?」
「あぁ…………」
「幻覚じゃないわよね!?夢じゃないわよね!?」
「あぁ…………」
「○○!あぁ信じられない!何であn(ry」
死んだはずの青年は、
確かな実感をアリスに湧かせるため、
眠った姫を起こすため、
優しく包むような口づけを交わした。
甘く蕩けるような口づけを交わした。
深く貪るように、蛇が絡み合うように、嫌らしい水音を立てて、
最早キスでは飽き足らず、その場で――――――――
「うわー…………凄まじいわね……」
「コレは…………アレだな……」
「見てて噴火しそうよ……主に恥ずかしさで……」
場は博麗神社。
「せめてベットですればいいのに……」
「そこまで頭回ってないわよきっと……」
紫の『ステキスキマウォッチング(ハート)』により絶賛生中継である。
(ボンッ!パラパラ……)
「メーター振り切って壊れたか……まぁ僕のは旧式だし仕方ないか……そっちは?」
(ボンッ!)
「今壊れましたわ。最終的に十万くらいで。河童さんは如何かしら?」
(ピピピピピ―――――ピー!)
「糖分力35万6900……驚異的な数値ですね……む!まだ上がりm(ボンッ!パラパラ……)測定不可能
ですね……かなり激しいです……」
某大人気格闘漫画のマネしている者らや、
「ぎゃーーーーーーーーーーー!!!!灰じゃなくて砂糖になるーーーーーーーーーーー!!!!!」
「お嬢様!!お気を確かに!!早く眼を閉じて血を!!」
あんまりのアレに自身が糖類になりかけてる者や、
「む……………………り……………………」
「にゃーーーー!!!さとり様が倒れたーーーーー!!!」
「これは……糖尿病の一歩手前!心を読んでしまったが故に倍増された糖度でこうなったというの!?」
急性すぎる病気になる者さえいた。
そんな騒がしい境内で、端のほうに二人が腰を下ろして話していた。
「彼は私が管理すへきなのかしら?」
「恐らく必要ないでしょう。冥界では色々と問題が多いでしょうし」
「そうね……考えたくもないわ……」
「しかし……前代未聞よ……ここまでの強い『未練』は」
「えぇ……十王をここまで悩ませた挙句、現世に霊として送還させるなんて」
○○が居る理由。それは『未練』。それもとてもじゃないが手に負えないくらいの。
「あんなもん裁いて地獄に送ったところで地獄が崩壊します」
「かと言って成仏なんてとても無理」
「だからこれが正しいんだと思いますよ。私個人の意見ですが」
「あらあら。それが閻魔のセリフかしら?」
「だから個人的なものですよ。それにこれで丸く治まったのですから」
判決は現世送り。それも実態付きでの。
そうまでしないといけないような特別中の特別処置が引かれたのだ。
「そこまで愛して貰えるのなら、女冥利に尽きるわ」
「正直羨ましいものです……」
かくして、止まっていた歯車はまた噛み合った。動き始めた運命は二人の男女をどう導くのか。それは誰にも
わからないこと。唯一分かるのは、
二人は幸せだということ
END
新ろだ648(新ろだ609○○視点)
「ちっ…………」
素っ気ない大地。
そんな中で妙に彼の舌打ちが響いた。
彼岸。
死者が死神によって地獄へ送られるところ。
一応生者もくることができるが
専ら死者だけである。
彼も例外ではなく
閻魔に裁かれる予定の死者である。
彼の名は○○
原因不明の病で
永遠に別れてしまった
不幸な者
―――――――――――――――――――――――――――――
「っ!?」
死神、小野塚小町は息を呑んだ。それは○○が来たことの驚きではなく、彼の放つ禍々しさに。そもそも死ん
だ人間がここに来る場合霊魂という、大半の人が想像するあんな形である。それをこの男は完全な人型で……
その上のこのオーラ……これではまるで……
「悪霊…………」
知らず知らずに小町はそう呟いた。蚊の鳴くような小さな声で、○○もまだ遠くに居るため誰にも聞こえなか
ったが。
「よう」
「……………………死んだのかい?」
「まぁな……」
声をかけられた瞬間に猛烈な吐き気に襲われたがなんとか耐えた。この尋常じゃない禍々しさ……それでいて
ちゃんとした自我がある。
(ありえない…………)
普通なら悪意に押し潰されて暴走し、姿形も化け物になり果てるくらいのレベルである。それをさも平然とし
ているこの男…………何がここまで……
「まぁいいや。とっとと閻魔様に会わなきゃいかんだろ」
「……そうだね。さぁ、渡し賃を頂こうか」
考えてもしょうがない。そう考えて気持ちを仕事に切り替える。自我があるならあるうちに渡したほうが得策
だろう。何時まであるか分かったものではないのだから。
「金…………あー、三文だっけ?六文だっけ?」
「こっちでは生前に他人が自分の為に使ってくれた金額分だけ川幅を縮めてるんだ」
「へー……で、どこにあるの?」
「ポケット探ってみなよ」
小町に言われたとおり○○はポケットに手を突っ込んだ。すると……
「ん……おぉ」
手に掴み切れないほどの小銭やら札やらが出てきた。
「んー……こんなに使ってくれてたのか……」
「頼られてたんだねぇ」
「まぁ……借りとかは大抵飯おごらせてたがな」
ポケットにあるだけの金を渡して船に乗り込んだ。
「んじゃ、あたいのタイタニック号で送って行ってやるよ」
「…………沈むのか?」
「沈んでたまるかい!」
縁起でもない名前にとりあえず突っ込む。こんなところで沈んだら洒落になりやしないのだから。まぁ、沈ん
だことがあったら小町はここにいない訳だが。
「それもそうだな……まぁいい。頼んだ」
「あいよ」
正直に言えば胃の中の物をリバースしそうであった。そんな醜態を晒さずにいるのは船頭としてのプライドで
あった。とはいえ何事も慣れるもので、既にある程度までは納まった。
(それだけ……コイツにとって…………)
彼にとって……死んだこと自体よりも、死によって別れた者のほうが未練であるのだろう。何か思いつめたよ
うな憂いを秘めた表情がそれを物語っている。
(どうしたもんか……)
ここまでの相手だと緊急事態として映姫に報告すべきであろう。周りの霊が中てられて不味いことになりかね
ない。そうなれば後の処置はお偉いさんどもの仕事であるため小町には関係がなくなる。
○○がどうなるかは気になるが……おそらく……
「おっ、ついたよ」
「ん?もうなのか」
「日頃の行いが良かったんだろ。待ってな。直ぐに呼んでくるから」
そう言って駆け出す小町を○○は軽く頷いて見送った。
―――――――――――――――――――――――――――――
「映姫様!!緊急事態です!!」
「……大体のことは把握しています……彼をここに」
「……分かりました」
深く溜息を吐き出して映姫は目を瞑った。ここまで凄まじいのは初めてであったし、このような処置も空前絶
後であろう恐らくコレが最初で最後である。
「やれやれですよ……」
二度目なんて二度と体験したくない、というのが本音であるが。
「映姫様、連れてきました」
「失礼しますぜ」
人里で会ったり、宴会で騒いだしもした。少なくとも知らぬ仲ではない。しかし……
「御苦労さま。下がっていいですよ。……さて、○○」
「はい」
「正直……どうですか?」
「……自覚はある。腹の底でヤバいくらいにドス黒い感情がある」
小町が下がったのを確認して、映姫は○○に問いかける。そしてその問に正直に答えた○○。自らの中に渦巻
くとんでもない負の感情についてを。
「無理もない……一番古株の閻魔でさえこのようなケースはかろうじで記憶にある程度ですから。しかし貴方
が死んだことには変わりはない。正当な裁きを受けるのが世の理です」
「そりゃそうだ。この後に及んで生き返させろなんざほざくつもりはないよ」
死因はどうあれ、いずれは訪れる『死』という絶対の概念。遅かれ早かれ来ることは分かっていたし、覚悟は
していた。いきなり過ぎた感もあるが……しかたのないことではある。
ただ…………
「未練…………だな。まぁ、そいつを浄化するためにココがある訳だが」
「……………………ハァ」
深い深いため息をつく映姫。まるで『やってらんねー』みたいな感情がありありと露呈している。
「えぇ……そうです。それが普通のこと。絶対の『理』です……が」
そうやって一旦止めてため息を吐く。
「結論から申し上げます。○○。貴方を『現世送り』に処します」
「……………………………………ハァ!!!!!?????」
『コイツは一体何をほざいてやがるんだ?』って感じのリアクション。完全に死んだ人間を元いた世界に戻す
なんて閻魔のすることではない。
「異例も異例…………地獄ができて以来の超異例です。おそらく最初で最後でしょう」
「むしろ最初があっちゃ不味いでしょうが……ここのあり方的に考えて……まぁ、生き返らせてくれるってな
ら願ったり叶ったりだけどさ……で、理由は?」
「……貴方の『未練』です。通常ではありえないほどの……ね。十王が匙を投げた結果がコレです。『こんな
もん裁けるか』って。『裁けたとしても地獄がひっくり返るっての』だそうです。まぁ、このような処置も十
分ひっくり返ってますが」
幾分投げやりな態度でことのあらましを語る映姫。それを○○は『何を言っているんだお前は(AA略)』と
いう感じの顔で見ていた。
「つまり…………」
「簡単に言えば西行寺幽々子みたいなものだと思って頂いて結構です。体温は通常の人間と大差ないというか
なりの親切設定です」
「・・・。それは……『もう二度とここにくるな』ってことですかい?」
「察しがいいのは美徳の一つですね。こんなことがなければ長生きできたでしょう」
笑いながら映姫が話すが、目がまったく笑っていない。かなりキテいるようだ。
「んで…………これからどうすればいいんですかい?」
「準備が整い次第現世に送ります。その間は罪の清算をしてもらいますが」
その返事を聞いた瞬間、○○の意識は闇へと落ちて行った。
―――――――――――――――――――――――――――――
眼を開けると朝日の眩しさと見覚えの森の風景が広がっていた。同時に罪の清算についてや、現世送りについ
ての説明の光景が頭の中で駆け抜けていった。
「……本当に戻ってきたんだな…………」
実感はあるが、不思議な感覚がある。まるで夢でも見ていたような、それでいて夢の中のような……
「そんなことはどうでもいいか」
そう切り替え、足取り軽く歩き出す。そうして一分も経たない内にとある家が見えてきた。
「アリス…………」
最愛の女性。最大の未練。最高の事態。
普段と同じようなノリで。
いつもと変わらぬ態度で。
故に実感を湧かせるだろう。
「いきなり『地獄の底から這い上がってきたぜ!』なんてどう考えても厨二だよな……」
そう小声で呟いて彼らが愛の巣へ静かに入場した。
「アリスー朝だー起きろー」
目に入ったアリス・マーガトロイドはかなり痩せ細っていた。おそらくろくに寝てないし、食事もしてないの
だろう。
「起きてるわよ」
「なら起き上れっての。起きても寝転んでじゃ意味ないじゃん」
そうは言っているが無理であろうと○○は考える。無駄な負担が掛かる前に、
「んー体調悪いみたいだな……やっぱ寝ときな」
と言って、アリスを寝かせる。
「顔色悪いみたいだな……何か食う物…………無しですかい……」
「あら、何もないかしら?」
「ああ。ちょっくら何か買ってくるぜ」
自分の遺品などは片付けられていないのならば、財布の置き場所も変わっていない。
「期待しないでまってるわ」
酷く虚ろな声のアリス。まぁ、おそらく自分の幻覚なんて何千、何億と見ていたのだろう。
(まぁ、今の自分もある意味では幻覚な訳だが)
と、思った○○。
少しの皮肉と大きな実感で、されど真面目な顔で頷いた。
そうして、外へ歩き出す。材料を買うために。
とりあえず、病人食だよなと、頭の片隅で思いながら。
とりあえず買ってきた米や調味料でお粥を作っていた。すると、人が起きる気配と、
「○○………………」
という、ポツリとしたアリスの小声が聞こえた。
「おぉ、起きた?てか起きてて大丈夫かよ」
それでもなお、普段と何一つ変わらない態度で接する。
己の死で別れたはずの少女が、彼の愛して止まない人が、確かに……居る。
「○○!本当に○○なの!?」
「あぁ…………」
「幻覚じゃないわよね!?夢じゃないわよね!?」
「あぁ…………」
「○○!あぁ信じられない!何であn(ry」
死んだはずの青年は、
確かな実感をアリスに湧かせるため、
眠った姫を起こすため、
優しく包むような口づけを交わした。
甘く蕩けるような口づけを交わした。
深く貪るように、蛇が絡み合うように、嫌らしい水音を立てて、
最早キスでは飽き足らず、その場で――――――――
~以下性的な文章は省略されました~
「まぁ……なんだ」
「うん……そうね」
互いに実感が湧いて、冷静になったところでよーーーく考えてみると……
「「絶対見られてた」」
見るまでもなく顔は真っ赤であろう。
「キスじゃなくて、抱きしめたほうがよかったかも分らんね」
「どっちにしても発展してたでしょうけどね……」
「あー……否定できない」
やっちゃった感満載ではあったが、何処かスッキリした表情で、自然と見つめ合った。
「いいさ。このことについてからかわれたら」
「そうね。見せつけてやりましょうよ」
笑い合える。見つめ合える。二人でいられる。
それがどれだけ楽しいか、
それがどれだけ幸せか、
それがどれだけ素晴らしいか。
「愛しい貴女といつまでも」
「愛しい貴方とどこまでも」
かくして、幻想郷最高で最狂のバカップルが誕生した。幸ある第二の門出の祝いは、ステキスキマウォッチン
グ(ハート)の被害者達の後悔と断末魔のファンファーレによって、幕を開けたのだった。
END
最終更新:2010年06月23日 22:41