アリス20
新ろだ2-184
ザアアア……と強く雨が大地に降り注ぐ。
目の前は滝とまではいかないまでも、相当な量の雨が降り注いでいる。
「はあ……これは止みそうにないわね」
何時もであればふわふわとした金髪も、今では少し濡れて頭に張り付いている。
彼女、
アリス・マーガトロイドはうんざりした様な表情で溜息をついた。
家屋の屋根先で雨宿りさせて貰っているのだが、
それでも少量の飛沫や地面から跳ね返る泥水が靴や服を容赦なく濡らしていく。
「あ~あ……傘持ってくればなあ……それに荷物さえ無ければ……」
ハンカチで顔にかかる雨水を拭うも、もう十分に湿ってしまったハンカチでは
拭っているんだか広げているんだか分からない状態だ。
更について居ない事に今日人里に出てきたのは、
人形達を作る材料や服の布を買いに来た為であり濡らす訳にもいかない。
自分が濡れるぐらいであれば飛んで帰る事も出来るが、
布や材料が濡れてしまうと痛む可能性もあり、
大事な彼女達を創るにはそうした些細な事も妥協したくは無かった。
溜息を吐くと幸せは逃げて行くと言うが、幸せな奴が溜息を吐くのだろうか?
そんな無駄な事でも考えて少しでも現実逃避しないとやってられない。
「~~♪」
そんな唯でも不機嫌な中、何処からか歌声が聞こえてくる。
上機嫌、と言うか少し高めの男性の歌声……いや、陽気と言って良いだろうか?
「オール・ハンドゥ・ガァンパレード! 未来の為に~……ん?」
こんな嫌になる雨の中、歌いながら歩いてきたのは紅魔館に居候している……
確か○○、だったと思う。
「やあ、確か人形遣いのマーガトロイドだったっけ?」
「そうね、こんにちは○○さん?」
「こんにちは」
のほほんとした笑顔で微笑む彼。
何と言うか……警戒心を解かれる笑顔と言うか……素直な笑顔だ。
向こうの世界では国を護る組織に居たと言うが、
そんな物よりそこらの寺子屋で先生をしている方が似合いそうな男だった。
「雨宿りかな?」
「それ以外に見えたら、芸術家か宗教家になる事をお勧めするわ」
成程、と苦笑する彼。
「……ふむ、そういえば」
「どうかしたの?」
ふと彼が真顔に戻り、何かを考え始める。
唐突だったので、私は何かあったのか聞いてみるが
「いや、我々は傘を差さない」
「……ハッ?」
突然と言えば突然過ぎる発言に目が点になる。
そうこうしている間にも、彼は何かを自己解釈し完結している。
「数か月でも離れていると、どうも忘れがちになるな……
やれやれ、戦友に申し訳が出来ないな……と、言う事で使うと良い」
ポイッ、と器用に私の肩に傘を投げる彼。
傘という障壁を失った彼に容赦なく雨が降り注ぎ、
のほほんとした顔に髪がへばりついてゆく。
「え、何やってるのよ!? 馬鹿じゃないの!?」
「ああ、私の着ている服は撥水性がある程度あるから平気だよ」
「そういう問題じゃない!!」
傘を差して歩いて来ておきながら、
何かを突然言い出したと思ったら私に投げてくる。
更には見当違いな事を言っている、一体何を考えているの!?
「それじゃあ、また」
「ちょっと! 話を聞きなさいよ!」
呼び止めようとするが、しっかりとした足取りで大雨の中を歩いて行ってしまう○○。
投げられた傘をどうする事も出来ず、
仕方なしにそれをありがたく使わせて貰う事にする。
……全く、何なのよ一体……まあ、明日にでも返せば良いかしら……
「こんにちは咲夜」
「こんにちは、本日はどの様な御用件で?」
後日○○が世話になっている紅魔館に出かけ、寝ている門番を無視して中に入る。
何時も通り、咲夜が居たので声をかけると軽く会釈してくる。
「○○は居るかしら?」
「ええ、居るには居ますが……その、体調不良ですわ」
……はい?
「昨日、傘を持って出かけた筈なのですが……
帰ってきましたらずぶぬれでして、現在風邪をひいておりますわ」
「…………」
「傘をどうしたか聞いても、どこかに忘れてきたとしか言わないのでして、
昨日は出かける時に雨が降っていましたから忘れる要素が無いと思うのですが……
あら? その傘は……」
「その大馬鹿の○○の部屋は何処?」
「……ええ、こちらですわ」
クスクスと笑う咲夜。
一言と言わず、二言三言は言ってやるつもりだ。
後に従者は回想する。
あの時のアリスは○○が気を使ってくれた事を知り、
嬉しそうでありながら怒った表情をしていたと。
何分間か、良くは分からないが怒声が響いた後アリスが部屋から出てくる。
「帰る!」
「お見送りしましょうか?」
「結構よ、それよりあの大馬鹿の面倒でも見てて」
怒って顔が赤いと思いたいのだが……どうしたのだろうか?
そう思いながら彼の部屋に入ると、苦笑した表情の彼。
「怒らせちゃったかな……元気になったら謝らないと」
「はあ……一体何を言ったのですか?」
「ん~……まあ、妖怪だろうが幽霊だろうが関係無いって言っただけ。
私はね、誰かを護る為にあの仕事に就いたんだ。 誰だろうと関係ない。
困っている人が居たら、手を差しのべたかったんだ……まあ、色々と不自由はあるけどさ。
おかしいかな?」
「幻想郷には少ないタイプだと思うわ」
「……そっか」
「でも、その考えは良いと思います。 後は……そうですね、
もう少し自身の後先を考えるべきですね」
彼が語るのはヒーローの様な夢かもしれない。
その言葉は、言いかえれば全てを手助けし護りたいという事。
……でも、自身はどうなんだろう?
彼の語る中に、○○自身の事は考えているのだろうか?
私の言葉を聞くと、また彼は苦笑する。
「今後は気を付けるよ」
「そうして下さい」
こんなに気の抜けた人が居る国防の組織ね……向こうは相当平和なのかしら?
そう結論を出した私だが、彼のもう一つの顔を知るのは……もう少し後になる。
Megalith 2011/04/24
私がアリスの人形劇に行くのを止めてから一月半が経とうとしていた。
あれからアリスの事は考えず、自分の好きな事をして過ごしていた。
そうして少し気分が軽くなったような気がする。
今日もまた、幻想郷の端っこに行って色んな物を漁る。
「おおー何が落っこちてるかと思ったら、ハチトラじゃんかよ
よくじいちゃんやばあちゃんがこれで演歌聴いてたっけな、懐かしいなあ
再生機器が無いのが惜しいところだな
しかしほんとに何でも落ちてるな、全部外の世界に持って帰りたいぜ」
古いものが好きな私にとってここはほぼ天国だ。
○○がガラクタ漁りをしているその一方アリスは
おかしい、何かがおかしいわ。
私が人形劇を始めてから一度も欠かさずに来てくれた彼が一ヶ月以上も来ないなんて。
私は彼を探して見ることにした。
まず彼がいつも利用しているらしい茶店を当たってみる。
「すいません。ちょっと人を探しているんですが」
「ん?誰かと思ったらいつも人形劇やってるお嬢ちゃんかい
一体誰を探してるんだい?」
「ええ、いつも私の人形劇に来ていた人で、いつも黒くつばの広い帽子と
黒のロングコートを身に着けている男性です」
「ああ、あの男か。そいつの事は良く知ってる。いったいあいつが何だってんだい?」
「彼、先月あたりから一度も人形劇に来ていなくて、彼に何かあったんじゃないかって気になって」
「そういえばここ最近あいつの様子がおかしかったな
ふさぎ込んでいる様子で外の世界に返る見たいな事を言ってたと思ったら突然ウキウキした様子で
外れの方に一人でガラクタを漁りに行くようになった。皆気でもふれたんじゃないかと心配している」
「!そうですか、ありがとうございました」
「なあに礼には及ばんさ。ところで、そいつの所に行くかい?」
「ええ」
「そうかい、気をつけて」
彼が?一人で?あんな危ないところに?
心配になった私は急いで彼を探し始めた。
ガラクタ漁りも一段落し、煙草に火をつける。大自然の中での一服は、また格別なものだ。
ふと空を見上げると、空に虹が架かっていた。
「虹か…今朝はあまり天気が良くなかったからな。丁度私が家を出る頃に雨が止んだんだったな
しかし、外の世界に居た頃はこんな風に落ち着いて余裕を持って虹を眺めることなんて出来やしなかった
外よりも此処の方が私には合うのかもしれんな」
空を飛び回り彼を探す。
いた、彼だ。木陰の辺りで煙草を吸っている。
どうやら無事らしい、よかった。
彼の近くに降り立ち、声を掛ける事にした。
「こんにちは」
ふと後ろから掛けられた声に私は驚いた。口から心臓が飛び出るかと思った。そして幻聴かと疑った。
だって、その声の主は……
恐る恐る後ろを振り返る。
振り返り、再び驚いた。幻聴などではなかったからだ。
そこにいたのは私が恋焦がれて止まない
アリス・マーガトロイドその人だったから……
「こ、こんにちは。貴女は確か、毎週里に人形劇をしに来ていた、
アリス・マーガトロイドさんでしたね
始めましてって言うのも何か変ですが、私の名前は○○です」
声が震える。普段は相手に自分の本心を見抜かれないように心がけて喋るようにしているのに。
「私の名前、覚えててくれてるんだ。ありがとう」
「そんな、ありがとうだなんて。里ではアリスさんは結構有名人なんですよ」
こうやってアリスと言葉を交わすのは初めてだ。何を喋っていいのかわからない。
いけない、呼吸も、心拍も乱れてくる。どうしたら、どうしたらいいんだ私は?
そうして言葉に迷っていた次の瞬間
「最近、○○さん人形劇に来てくれなかったの、ちょっと心配だったけど、元気そうで良かったわ」
な…バカな…アリスが、アリスがこの私を心配していただと?
予想外の事に益々動揺を隠せなくなる。
「何か、有ったんですか?もう私の人形劇には飽きちゃいましたか?」
「そ、そんなこと無いですよ。アリスさんの人形劇、とても凝った演出で見てて全く飽きませんよ
ただ、ここを見つけてからずっと時間を忘れて入り浸るようになってしまい、全然来れなかったんです
申し訳ありません」
なんとか急刃凌ぎのウソを取り繕う。ホントの事なんか、言えるわけない。
「ふ~ん、そうだったの……」
「ア、アリスさん…?」
アリスが私に寄りかかってくる。
「あのね、○○さんが人形劇に来てくれなくて、私寂しかったの…」
「い、一体何故?」
「だって○○さん、いつも私の人形劇を見てる時、まるで少年のように目を輝かせて
そして真剣に見ていてくれたから、私も人形劇をしてて楽しかったの
でも○○さんが来なくなってから貴方に会える楽しみも無くなって
とてもつまらなく感じて、人形劇をやめようと考えるようになったの…」
な…この私が人形劇でアリスに会えるのを楽しみにしていたように
アリスもまた、人形劇で私に会える事を楽しみにしていただと?
こうなってしまったら、勇気を出して真実を伝えるしかない。そうしないともう二度とチャンスは無い、そんな気がする。
他人どころか自分にすら平気で嘘をつく卑怯で臆病な私とは、今日でサヨナラだ。
「アリスさん、ごめんなさい、私、嘘をついていました
私も人形劇でアリスさんに会えるのがとても楽しみでした
でも、人形劇に行く度アリスさんの事が好きになって、その気持ちが日増しに大きくなって
それに耐え切れなくなって人形劇に行くのを止めてしまったんです…」
「○○さん…」
急にアリスが抱きついてくる。
「最初は、ただの観客の一人だと思っていたの…でも人形劇をやるたびいつも貴方がいて
それからだんだん貴方のことが気になっていって…貴方が来なくなって初めて気がついたの…
私、○○さんの事が好きなんだって…」
私もまたアリスを抱きしめる。
「アリスさん…貴方のことが、好きです」
「私も…○○さんのことが、好き」
そしてお互い唇を重ね合わせる
.
.
.
.
.
.
「○○、○○ったら、どうしたのよ?ぼーっとしてさ」
「ああすまないアリス、ちょっと昔の事を思い出してな」
「昔の事?」
「覚えているかい?私とアリスが恋人同士になれたあの日の事」
「ふふ、そんな事思い出してたの?忘れるわけ無いじゃない」
「あの頃から見たら、まるで夢のようだ。決して手が届かないと思っていた君が、こんなにも傍に居る」
「ふふ、夢かどうか、教えてあげるわ」
アリスの方からキスをして来る。
「どう?夢か現実か、わかったかしら?」
「ああ、アリスのおかげでちゃんとわかったよ。紛れも無くこれは現実なんだって」
「それはよかったわ」
「なあアリス、君に渡したい物があるんだ」
○○がポケットから小箱をとりだす
「さあ、あけて見てごらん」
「!!」
アリスが小箱を開けると中には純金にサファイアがあしらわれた指輪が入っていた
「金は君のその美しい髪を、サファイアは君の美しい瞳をイメージしたものだ
気に入ってくれたかな?」
「…嬉しい!嬉しいわ!!ありがとう○○」
アリスの左手薬指に指輪を嵌め、彼女手を強く握る
「アリス、結婚しよう」
「…!!」
嬉しさのあまり泣き出してしまうアリス
「おいおい何も泣く事無いだろう?」
「ぐすっ、だって、だって凄く嬉しいんだもの。大好きな貴方から、プロポーズされるなんて」
アリスの涙を人差し指で拭ってあげる
「アリス、私達、これからもずっと、いつまでも一緒だよ」
「ええ、ずっと、ずっと…」
二人は永遠の愛を誓い合った
きっと、困難や苦難の多い道のりかもしれないがどんなことでも絶対乗り切れる
なぜなら私にはアリスがいるのだから……
Megalith 2012/01/03
俺は去年からずっとアリスの人形劇のお手伝いをしていた
アリスに一目惚れしてとにかく頼み込み、その甲斐あってか舞台のセットや小道具といった物の製作を任せてもらえるようになった
そうして仕事仲間として一年ほど過ごし元旦を迎えアリスから突然、初詣に誘われた
「お待たせ、○○」
俺が考え事をしているうちにアリスが待ち合わせ場所に到着した
「……」
和服姿のアリスの美しさに思わず言葉を失う
「どうしたの?」
「い、いや、なんでもない。ちょっと眠気が残ってただけだ」
「ふふ、変な○○」
そして俺たちは博麗神社の境内に向かう
普段は誰も来ない場所なのにこの時期は出店もあるし参拝客も来ている
滅多に拝めないレアな光景である
「あー寒い寒い。アリス、あそこでお汁粉でも買って温まろうか?」
「そうね、丁度私もお腹が空いてたところだし」
お汁粉で体を温め、小腹を満たしたのでお守りや御神籤を売っている所へ向かう
だが頭の悪い俺はどうしてもアリスに聞きたい事があった
「ところでアリス、初詣に誘ってくれたのは嬉しいんだが一体どうして俺なんかを誘ってくれたんだい?」
「私としては、貴方と一緒に行きたかったの。私、貴方にとても感謝してるのよ
貴方が舞台のセットや小道具の製作を手伝うようになってくれたおかげで私の負担も軽くなったし
それにみんなからの評判も、良くなったのよ」
「ア、アリス、そんなに褒めないでくれ。照れるじゃないか
全く、お世辞を言ったって、何も出て来やせんぞ」
「お世辞なんかじゃないわ。それに仕事の面以外でも貴方に感謝したいことがあるの
私、貴方に会うまではずっと一人だったの。でも貴方に会えてから寂しくなくなって
それにいつも貴方は私の為に一生懸命で、私の事を第一に考えてくれて、こんな私の事を必要としてくれて……」
「アリス……」
不意に○○がアリスを抱きしめる
(そうだ、俺はこの美しくも儚いアリスが好きで、アリスの為に何かしてあげたくてこの一年頑張ってきたんだ)
「アリス、俺は君が好きなんだ、そして君の為に何かしてあげたくて、君に必要とされたくて、君と一緒に居たくて
君のお手伝いを頼んだんだ」
「○○、これからも、ずっと貴方と一緒がいい」
「喜んで、君と一緒に居るよ」
「ねえ○○、早速二人で御神籤ひきに行きましょう」
「ああそうだな」
俺とアリス、それぞれ一本ずつ御神籤をひく
「やったあ○○、私大吉ひいたわ」
「奇遇だなアリス、俺も大吉だ」
「きっと私達いい年になるわね」
「きっとじゃない、絶対だ」
東の空にはこれからの二人を祝うかのように初日の出が昇っていた
Megalith 2013/06/11
「せ、咳をする…母さん…風をまいてへばりついた犬の遠吠えが…」
○○の精神は崩壊していた。アリス邸の扉にもたれかかるのが精いっぱいだった。無理もない。
今日はアリスの誕生日だった。青年はそれを覚えていた。アリス邸のドアを開けた。結果、立ち直れぬ傷を負った。
アリスは誕生日プレゼントが届けられたと知るや、なぜか怒り出したのだ。
三日間考え抜いて選んだバースデープレゼントは左手で払われて、見事ゴミ箱につっこんだ。生ゴミ袋でなかったのは不幸中の幸いだろう。
彼の恋人、
アリス・マーガトロイドは○○に背を向けていた。出窓の地板に手を置き、外を見ている。
「もう来ないで!」と言ったきり振り返りもしない。
アリスは彼の恋人、だったはずだ。告白の言葉を彼女から3ヶ月前、確かに聞いた。
しかし、それから一度たりとも笑顔を見ていない。いつもいつも当たり散らしてはどなり散らすばかりだった。
ある時は人間関係のトラブルから平均5時間の愚痴を聞かされた。
またある時は人形作りでうまくいかないストレスから物を投げられた。今まで謝罪の言葉は無い。
手紙も電話も彼からアリスによこすのが常だった。返事は一回だけ返ってきた。
これでは彼氏になったのか、サンドバッグになったのかわからなかった。
温厚な○○は罵られるたび、相手の事情を慮って受け流してきた。しかし、今度の一件はさすがに応えた。
○○は目の焦点を合わせないまま、ドアノブに手をかけた。もう二度とは会わないだろう、と思ったその時だった。
足が不意に止められた。
見ると、上海人形が足にからみついている。目をぎゅっとつむって渾身の力で○○のくるぶしを抱きかかえていた。
「行カナイデ、○○」
「行ッテモラッチャ、コマルゼ○○」
気がつくと、背中に蓬莱人形もくっついていた。羽交い締め、のつもりらしい。しかし、これではただのおんぶだ。
「アリスハ、ズット○○ヲ待ッテタノ。○○ガ好キダカラ。ホントハプレゼントダッテ、チャント受ケ取ッテズットズットダイジニシタカッタ。○○ハコノヨデイチバン好キナ人ダカラ」
「え…?」
「あなたたち、何を言っているの!?」
振り返りざまに叫ぶアリス。明らかに狼狽していた。しかし、人形達は構わず言い続ける。
「アリスハ毎晩毎晩スゴカッタヨナ、ナア、シャンハイ。」
「ソウソウ、会ッタ日ノ夜ハ必ズ私達アイテニノロケバナシ。会エナカッタ日ハ私達アイテニ愚痴ヲコボシテ寂シサヲ紛ラワセテ。デモ○○ニ会ッテル時ハ○○ニワガママバッカリ言ッテ。
ドッチモアリスナノ。ドンナ時モアリスハ○○ニ会イタカッタノ。好キダカラ。受ケトメテクレル初メテノ人ダッタカラ。」
「じゃあ、どうしていつも…」
○○は疑問を口にした。好きなのなら、なぜいつもつらく当たるのか。
「アリスハ、○○ハ弱イアリスガキライ、ダト思ッタ。アリスダッテ、弱イアリスハ嫌イ。ダカラキット、弱イトコロヲ見セタラ嫌ワレルト思ッタ。好キナ人ノ重荷ニナリタクナクテ強気ヲ装ッテタ」
「黙りなさい!」
○○にしがみついていた人形が、ぎしりと軋んで動きを鈍らせた。人形にとって、術者の命令は絶対である。
「…今日ダッテ、私達人形ノ前デ朝ノ五時カラ嬉シイポーズノ練習シテタ。デモ、素直ニナレナカッタ。」
「…ココダケノハナシ、結婚シタラ○○ヲイロイロ着セカエテ楽シミタインダゼ。アリス謹製妄想ノートvol.36,154pニヨレバ胸元ハダケタ着流シ姿ナンカ…」
「やめてよ!」
人形たちが話している間、アリスは何度も停止命令を出していた。
それにも関わらず、人形は動き続けていた。術の効きが悪いことにアリス自身も驚いているようだ。
○○にはその理由がわかる気がした。
人形は相変わらず、○○を引きとめたまま話し続けた。
「オ願イ、モウ一人ニシナイデ。人形タチニ囲マレテルト人間ガ見エナクナル。寂シイ。
人形ノ中デモガイテモ誰ニモ気ヅイテモラエナイ、助ケテモモラエナイ。
痛ミハナイケレド、タダ、ソレダケ、楽ナダケ、楽シクモナイシ、胸ハ焦ガレモシナイ。不安ダケガ募ッテクル。」
一種の暴走状態だ、と○○は直感した。人形を操る「意識」が暴走しているのだ。
「ホントウハミンナノヨウニ、普通ニナリタイ。普通ノ人ハ人形ナンテ作ラナイ。ソノカワリ人間ノ友達ヲ作ル。
デモアリスニハ友達ガイナイ、人形ダケ。ダカラアリスハ普通ニナレナイ。普通ニナレナイカラ普通ノ友達ハマスマス作レナイ。
○○ハ普通ノ人ナノニソンナアリスガ好キト言ッテクレタ。○○、アリスノ初メテノトモダチ、ボーイフレンド。
○○ハアリスノ特別ナ人。デモ、○○ハ普通ノ人、アリスヲキット嫌イニナル。ダカラアリスハ○○ニ嫌ワレソウナ部分ヲ見セラレナイ。
弱イ心ハ一番ソノ人ラシイ心。デモ弱イ心ハ普通ノ人ガミンナ嫌ガル心、ダカラアリスハ素直ニナレナイ。
○○、アリスノ信ジルタダヒトリノ普通ノ人。アリスハワカッテホシイノニワカッテモライタクナイ、ワカリタイノニワカルノガコワイ。
愛シテホシイノニ愛サレタクナイ、愛シタイノニ、愛スルノガコワイ。オ願イ…」
そこまで言い終えると人形達はことりと動かなくなった。
アリスが魔力の糸を切り、むりやり機能を停止させたのだ。
顔を真っ赤にさせて、涙を拭おうともせずに、七色の人形遣いは肩を震わせていた。
思考が追い付いてこないのか、荒い息は声にならない声となっていた。
「…聞いたことがある。アリス、君の人形は自分の意思を持っていない。」
○○は床に落ちた蓬莱人形を抱え上げた。上海人形も一緒に拾いあげ、そのまま胸に抱く。
「すべて君が操っているだけなんだ。意識的に、あるいは無意識のうちに。」
まっすぐに見ると、アリスはわずかに視線を泳がせた。
「あんまり表に出さない無意識が強くなると、こうして人形に影響が出てしまうのかな。
そうなると意識的な命令も効きづらくなるんだろうね。」
「…おしまいだわ。」
涙の合間からアリスがつぶやいた。かすれ、つぶれてはいたが確かな本心の言葉だった。
「せいぜい離れていくがいいわ。私についてこれる人間なんていないんだもの。
どうせめんどくさくって、重たい女だって思ってるんでしょう。私なんていない方がいいって思ってるんでしょ!
これであなたともお別れ!せいせいするわ!」
アリスはいつの間にか笑っていた。自棄という言葉がそのまま当てはまる。
○○は目を伏せ静かに聞いていた。顔をあげると、静かに語りかけた。
「話をしよう、アリス。」
○○の声は冷静だった。アリスは何も言えなかった。
「話をしよう、どれだけ時間がかかっても、たとえ正解に行き着かなくても。
君のことを誤解してたみたいだ。君のことを冷たい人だと思ってた。
だけど、それは違ってた。こんなにも真剣に僕を想ってくれていた。」
○○はテーブルのそばまで歩くと、二体の人形を花瓶に立てかけるように座らせた。
「君が人形にかける誠実さはよくわかってる。人形たちの言葉は君の本心なんだろうね。
その、ありがとう。恥ずかしくってうまく言えないけど、君に好きになってもらえてよかったな…」
○○はきまり悪そうに髪をいじっていた。本心を述べる恥ずかしさに身が溶けてしまいそうだった。
アリスが素直になれないのもわかる気がした。
じりじりとした沈黙が二人の間に流れた。二人とも何かを言わなければならないのはわかっていた。
○○はアリスを見ていられなかった。人形の裾を直してやるふりをして、アリスに背を向けていた。突然、どしんとした衝撃が背中に走った。
「ばか」
アリスの声だった。吐息が背中に当たる感触があった。走りざまに抱きつかれたのだと遅れて気がついた。
「嫌ってくれてもよかったのに。」
「それは無理。」
「おかしいわ、あなた。」
「……」
「だから私と気が合うのかもね…」
○○は初めてアリスの口から本心を聞いた。そのなにげない言葉にひどく納得がいった。
通じ合える部分があるから、好きでいられるのだと思えた。
「離してくれないかな」
「いや」
「苦しいよ」
「苦しめてるの」
「…もしかして、甘えてるのかい。」
アリスは答えずに一層強く顔を押しつけた。背中に伝わる体温がひときわ高まった。わずかな湿り気が伝わってくるのは涙のせいだった。
「いいよ、好きにしたらいい」
背中にさらなる衝撃が加わった。シャツの背中で涙をふいているらしい。吐息の熱を感じると、○○の胸も高まった。
「離れない、ずっと離れない。どこまでも、君と一緒だ。」
独り言のように○○はつぶやくのだった。
「…トイウオハナシダッタノサ。」
空にきらきらお星様、みんなすやすや眠る頃。
段差を作り、屋根裏を桟敷席のように埋め尽くした人形達から喝采があがった。
人形たちは眠りを必要とせず、疲労もしない。有り余る時間をガールズ・トークで潰すのは当然のことと言えた。当然、話題は恋愛に流れる。
「オモシロカッタネー」
「アタシモカレシホシイナー」
「トウブンタカカッタワー」
興奮さめやらぬなか、人形達は口々に感想を交し合う。
「アタシソノツヅキシッテルー」
場の注目が一気に発言の主に集まった。視線を受けた人形は得意になって中央に進み出た。
「コレハサッキノツヅキノ話、モウ知ッテル人ハゴメンネ、知ラナイ人ニハトッテオキノ話…」
分厚い本の上にコップを伏せて作った演壇で新たな人形が話を始める。これまで話をしていた者はもう客席に移り、一息ついている。
新しい演者の話が終われば、また新たな話が始まるだろう。
人形達はこうして毎晩毎晩夜明けまでおしゃべりを続ける。それぞれ昼間に見聞きしたことをこうして話すのだ。
○○とアリスの生活は人形達のコイバナとして消費されるのだった。
今も一体の人形の話が、身もだえと赤面の渦を巻き起こそうとしていた。
人形達の夜はこうして更けてゆく。
アリスの家は今も昔も人形に囲まれたまま、人を寄せ付けない。
ただ昔と違うのは、その内側では人形遣いが幸福そのもので暮らしているということだ。
Alice in WonderRoom!!!(0)(うpろだ0050)
「今週、母がうちに来ます」
「は?」
同居人の
アリス・マーガトロイドが突然口にしたその言葉に手に持った雑誌を取り落とした。
「え、何?神綺さんうちに来るの?」
「たまには顔見たいって」
「何たる偶然。うちの父さんも今週来るって言ってた」
「考えうる限り最悪のパターンね」
自分とアリスは幼稚園の頃からの幼馴染だ。高校まで一緒で大学は県外だから違う・・・と思っていたらまさか同じ大学とは。
余りの事に二人で笑いながら部屋を探し、今のこのルームシェアと言う形に落ち着いている。
不動産屋のジト目の女性には嫌に生暖かい目で見られ、大家の緑眼の女性にはがっつり嫉妬の炎を燃やされた。
そして二人でどうにかこうにか生活してきた矢先のアクシデントである。
「アリス、念のために聞くけどルームシェアについては」
「話してあるわ」
「相手については」
「話してないわ」
「知ってた。俺もだし」
「どうするの?いくら母さんも知ってる○○とはいえ一緒に住んでるってばれたら・・・」
「うちも見知ったアリスとはいえルームシェアの相手と知れば」
「「何が起こるかわからない」」
二人して恐怖した。どうにか両親の来る日をこちらから指定してごまかさねば。
アリスは見た目こそ西洋人だが、実際はハーフである。父親がヨーロッパ圏の人で、母親は生粋の日本人。
人形のように整った顔立ちは大学でも人気で、密かにファンクラブが出来るくらいだ。
そんなアリスとルームシェアしてると知られてしまえば自分は大学の男子学生諸氏にぶっコロナされてしまうだろう。
親に知られるなど以ての外だ。最悪宇宙で考えるのをやめる覚悟をしなければならない。
その危ない綱渡り生活が今、音を立てて崩れようとしている。
「アリスの母さんはいつ来るって?」
「今週ってしか言ってなかったわ。そっちは」
「こっちもだよ。さっそく電話して・・・」
ピンポーン
「アリスちゃーん」「○○ー」
「「アイエエエエエエエエエ!!!」」
まさかの即日来訪に二人して正気を失った。そして無慈悲な合鍵による強制突入。
「アリスちゃん!ルームシェアの相手って○○君だったの!?」
「○○!お前アリスちゃんと一緒に住んでたのか!?」
「すいません父さん許してください!」
「悪気も変な気もないんです!ごめんなさい!」
最早腹をくくってその場に平身低頭。あいやこれまで・・・。
「すぐにお父さんに電話するわ」
「母さんに電話する」
もうダメだ。ちらとアリスを横目に見れば、泣きそうな目でこっちを見ている。さよならアリス、君との十数年間は楽しかったよ・・・。
「お父さん向こうの一番いい式場押さえるって!」
「母さんすぐに親戚かき集めるって言ってたぞ」
「・・・はい?」
何を言っているんだこの二人は。アリスもぽかんとした表情で二人を見ている。
「アリスちゃん○○君と十数年一緒で何時くっつくかなって○○君のご両親とずっと話してたけど、もうここまで進展してたのね!」
「見てるこっちはやきもきしてたが余計な世話だったな!うん!」
「まだ付き合ってすらいねーよ!!!」
「「・・・まだ?」」
しまった不覚。思わず本音が漏れてしまった。
「えと、いやその」
「あら○○。あんなにアツい夜を過ごしたのに付き合ってないと?」
おい何故ノッてきたんだアリスさん。その言葉に二人がさらに過敏に反応した。
「アリスちゃんそこ詳しく。結婚式のスピーチ文に使うから」
「寝室にカメラ設置していい?」
「いや誰かツッコめよ!」
「冗談よ。二割くらい」
「八割本気って何さそれ」
「言葉通りよ。私だって、貴方のこと好きじゃなきゃルームシェアなんてしないわよ」
「えっ」
思わずアリスに向き直る。こちらに笑顔を向けるアリスはとても魅力的だった。
「普段はバカで」
「ほぐぅ」
「お人好しで」
「ぐふぅ」
「おっちょこちょいで」
「がはっ」
「しょっちゅう貧乏くじ引いてるけど」
「やめてください死んでしまいます」
「そういうとこもひっくるめて、貴方のこと好きよ」
アリスの顔が近づいたかと思うと唇に柔らかい感触。一瞬幸せの余り意識を手放しかけたが
「だから私達、付き合いましょう」
「あ・・・ああ、勿論!」
「でも」
その笑顔を崩さぬまま、アリスはその場から立ち上がる。視線の先には歓喜の舞を舞う二人の阿呆。
「結婚は早いと思うわ。それにこういうものはじっくりと楽しみながら決める物よ?」
「激しく同意。如何するかな」
「強制排除」
「目標確認、任務開始!」
その後二人で踊る阿呆を退けたものの、その騒ぎを階下の新聞サークルの幽霊部員にばっちり聞きつけられてしまったのだ。
その結果、翌日の大学の掲示板に『大学のアイドル、意外なルームシェア相手!?』という見出しの新聞がでかでかと張り出されてしまったのである。
翌日から○○は暫く大学から傷塗れで家に帰るも、妙にうきうきして帰る姿が目撃されている。
家でアリスが懇切丁寧に傷の治療をしてくれてると他の男子学生が知り、もう少し傷塗れの時期が伸びたのは別の話。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~チラシの裏~
アリスと同居したいという大変健全な欲望から生まれた。全く後悔はしていない。
どうか石を投げないでほしい。痛いから。
全世界がアリスへの愛で満たされることを祈って
~チラシの裏終わり~
Alice in WonderRoom!!!(1)(うpろだ0051)
「1号の赤」
「はい」
「2号の白」
「はい」
「・・・・・・」
「次赤と白のV3?」
「3号なんて太すぎるわ」
ちくちく からから
金髪美少女の我が部屋の同居人は現在絶賛編み物中である。文明の利器であるミシンを使わず、棒針で。
こっちの方がやり慣れている、と言うのが彼女の弁だが
「・・・やっぱりミシンが欲しくなるわね。電動の最新のやつ」
「凄く高いから買うのは無理だね」
「分かってるわよ。期待しないでおくわ」
「その振りは今回は無理だよ・・・」
彼女の名は
アリス・マーガトロイド。最早知らなくてもいいところまで知っている幼馴染である。そして一応自分の彼女だ。
こんな美少女と何故同居しているのか。理由はいたってシンプル、ルームシェアしてるだけである。
「アリス」
「何?」
「そろそろ3時半」
「もうそんな時間?ちょっと待って、すぐきりをつけるから」
なにやらさっと棒針を弄ると、椅子からすぐ立ち上がった。それを見てこちらもコートを着る。
「○○、今日のターゲットは?」
「肉の今泉で豚肉3割引き、スーパーナガエで鮮魚類がタイムサービス4割引き、ドラッグメディスンでティッシュとトイレットペーパーがお一人様2つ限りで半額」
「スーパーナガエが最優先ね。私は肉の今泉に先に行くから、○○は魚介類を入手次第合流してドラッグメディスンに行くわよ」
「仰せのままにお嬢様」
「随分と庶民派なお嬢様ね」
「そういうお嬢様俺は好きだけど」
「リッチなお嬢様はお嫌い?」
「とんでもない」
アリスの家は案外お金持ちである。一度冗談半分にアリスの両親に土地下さいと言ったら、本気にされて権利書を渡されかけたことすらある。
その直後アリスがしばらく口をきいてくれなかったことは内緒だ。
「それじゃ行きましょ。早くしないと最近は日が暮れるのも早いし」
「鍵も良し・・・バッグは?」
「抜かり無しよ。そっちこそ財布は持ったのかしら」
「当たり前よう」
何枚か紙幣の入った財布を見せれば、アリスはこちらに微笑を向けた。この笑顔だけでご飯3杯行けそうである。
マンションの一室を出て下に降りれば、マンションの管理人が相も変わらずむっとした緑眼を向けてきた。
「また貴女達デート?妬ましいわね・・・」
「水橋さん、もう勘弁してください」
「貴女達が別れるまで勘弁しないわ」
「じゃあ一生そのままですね」
「ちょっ、アリス!?」
「折角だから帰りにデートでもしちゃいましょうか?」
「見せつけてくるわねますます妬ましい・・・」
アリスよりも少し濃い目の黄を帯びた金髪に、爛々と光る緑眼。誰が呼んだか『橋姫』の異名をとる水橋パルスィがマンションの掃除を行っていた。
この若さで彼女は何を間違えたのか、この『水橋ハイツ』の管理人である。
黙っていれば美人なのに、その嫉妬しやすさと皮肉の多さが原因なのだろうか。
「大きなお世話よ」
「何も俺言ってませんけど」
「どうせ黙っていれば美人なのに何で彼氏できないのかなんて考えてたんでしょ?」
何故分かった。と、横から何やら棘のある視線が飛んでくる。アリスが腕をひっつかんでこちらを睨み付けていた。
「早速他の女に乗り換えなんて随分と軽いのね」
「そんな訳あるか」
よろしい、とアリスはこちらの腕を引っ張って歩き出してしまった。
背後から燃え上がる緑色の炎に目を背けるようにして。
「それじゃあ魚の目利きはお願いね」
「それは構わんが、アリスは荷物は大丈夫か?」
「私を何だと思っているのよ」
そう言って細い指をパチン、と鳴らせばどこからか2体の人形が飛び出した。アリスと同じ金髪にリボンをあしらった、30センチほどの人形。
「そういえばそうだったな。杞憂だった」
「全く・・・。ま、帰りには荷物持ちお願いしちゃうから」
「はいはい」
そこでアリスと別れてスーパーへと突撃した。まずはタイムセール前に商品の確認。
- ブリの活きが大変よろしい。海老も悪くない。あの鯵は無しだ。臭いばかりで身も薄い。蟹の活きの良さも見逃せないが、如何せん値が張る。やめておこう。
大方の当たりをつけて他の足りない食材を漁っていると、聞きなれたチャイムの音が店内に鳴り響く。戦闘開始だ。
『どーも、スーパーナガエ店長の永江です。ただいまから鮮魚コーナーにて、タイムセール4割引きを行います。
ただし他のお客様に怪我を負わせたり、商品をダメにした方には即刻お引き取り願います』
嫌にやる気のない店内放送をゴングに、多くの人が鮮魚コーナーに群がった。
皆量も多く値段もぶっちぎりで安い鯵や刺身を奪い合う横で、狙いをつけていたブリと海老をやや多めに掻っ攫った。これでしばらく美味しいご飯にありつけるだろう。
『えー続きまして、ゲリラセールのお知らせです。これより精米済み白米がお一人様一つに限りどの袋も3割引き。どの袋も3割引きとなっております』
そしてこのスーパー最大の魅力、それはこのゲリラセールだ。こうやって普段買えないものが安くなるから、このスーパーはやめられねえ!
「ねえ・・・大丈夫?」
「だだだ大丈夫だ、ももももももモモーン・・・問題ない」
「一瞬意識飛んでたわよ?」
買い物終了後、背中に米30キロ、両手にティッシュとトイレットペーパーを2つずつ。その凄まじい荷物に最早体は限界寸前だった。
「後600m・・・ふふふ、楽勝だぜ・・・」
「幽霊になったりしないでよ?」
アリスは肉屋で買った豚肉とタダで貰った鶏ガラ、スーパーでの魚介類含む食品を人形と共に持っている。宙に浮く人形は荷物を持っていても、ブレる気配すらしない。
そろそろこの人形に違和感を感じる人もいると思うので、説明を入れておこう。
この世界には魔法という物がありふれている。勿論それに即する異能も、珍しいものではない。
アリスは人形を使う魔法使いだ。昔から人形を作っては俺を相手に人形劇をやっていた。その動きには一切ブレや迷いが無く、統率された美しさを感じる。
なんの能力を持たない普通の人間も勿論いるが、俺自身にはある意味最強の能力がある。そこを踏まえて、アリスは品の多いスーパーを俺に任せたのだ。
「でも流石『食材の鮮度を見抜く能力』の持ち主ね。どれもとっても美味しそう」
「魚から野菜まで、鮮度のある食材なら何でもおっけーね・・・ぐぬぬ」
「あら、随分と愉しそうなデートね」
その声に二人して背筋を震わせた。ぎぎぎ、とさび付いたオモチャの様な音を立ててそちらを振り向くと、予想通りの人物が立っていた。
「幽香、とうとう馬に蹴られる覚悟が出来たみたいね」
「あら心外ね。せっかく祝福の一つでもしてあげようと思ったのだけれど」
「あんたからまともな祝福が飛んできたことないじゃないっすか」
「地面に真っ赤な花を咲かせてあげるわ・・・」
「あっやべ」
彼女、風見幽香はこの辺りの町内会長にしてアリスの永遠の宿敵である。知る人ぞ知る花屋『ふらわーカザミ』の店主だが、俺の知る限り最強のドSである事も追記しておく。
そしてどうやら俺は彼女の怒りに触れてしまったらしい。妙に焦点の定まらない笑顔でこちらに近寄ってくるが
ガシッ
「店長?うちは何屋でしたか?」
「・・・花屋」
「でしたらこんなところで油なんて売ってないでさっさと結婚式用の花束作り続けますよ後幾つ残ってると思ってるんですか」
「止めて
エリーごめんゆるしてもうお花見たくな・・・ああああああ」
どうやら修羅場だったらしい。店員にして対幽香最終兵器である
エリーさんの手によって幽香は店舗内に引きずり戻されていった。
「・・・行こうか」
「ええ」
「ぐうううう疲れたー!」
「お疲れさま。コーヒー淹れてあげるから、お米とティッシュとトイレットペーパーだけ仕舞っておいて」
「それくらいなら」
残るエネルギーをフルに使って米を押し入れに押し込み、ティッシュたちも同じように押し入れに放り込む。リビングに戻ってくれば、アリスが丁度コーヒーを淹れ終わったところだった。
「あ、アリス。スーパーの買い物袋にシュークリーム入ってるから一緒に食べない?」
「良いわね。あそこのスーパーのスイーツ地味に美味しいのよ」
買い物袋からシュークリームを二つ取り出し、やや遅めのティータイムの始まりである。
こちらはコーヒーだがアリスは紅茶派だ。偶に茶葉を嬉々として買っている辺りかなり好きなのだろう。
「うんやっぱスーパーナガエのスイーツはこれに限るぜモグモグ」
「そんなに慌てて食べると・・・ほら、クリームついてる。じっとしてて」
向かいに座っていたアリスが席を立ち、こちらに寄ってくる。と、いきなり膝の上に座ってきた。勿論こちらに体を向けて。
「ちょっ、アリス!?」
「じっとしててって言わなかったかしら?」
そっとこちらにしなだれ、妖しい笑みを浮かべる。アリスの青い目が近づいたかと思うと、頬に一瞬しっとりとした感覚。舌でクリームを舐め取られたらしい。
「ふふ、御馳走様」
「・・・いやに攻勢だね?」
「甘えられるのはお嫌いかしら」
「こっちも御馳走様です」
お返しと言わんばかりにアリスを抱きしめる。顔を近づけると分かる良い香りに一瞬理性がブッ飛びそうになるが、気合と根性で押し付けた。
「あったかくて・・・気持ちいい・・・ずっとこうしてたい・・・・・・」
「それは困るなあ。晩御飯が作れないや」
そう言いながらも自分で手を放すのはやっぱり惜しくて。しばらくそうやっていると、規則的な何かが聞こえてくる。視線を落とせばアリスはすっかり夢の中だった。
「確かにずっとこうしてられるかもしれんが・・・」
流石に夕食の用意をしないと今夜余計な出費をする羽目になる。腕の中のアリスを抱え上げるとソファーに寝かせ、部屋から持ってきた毛布をかぶせると、今日買った食材を冷蔵庫に仕舞い込んでいく。
今から準備を始めれば、いつもの夕食の時間には間に合うだろう。その頃にはアリスも起きているはずだ。
「さて、今日は冷えるし何か温かい物でも作りますかね」
冷蔵庫の食材とにらみ合いをしながら、アリスが起きないように静かに夕食の用意をするのだった。
Alice in WonderRoom!!!(2)(うpろだ0052)
「明日映画見に行ってくる」
「突然どうしたの」
私の部屋の同居人にして恋人である○○が突然そんなこと言う物だから驚いた。
彼は基本的に行動は計画を立てて行う人物であり、突発的に何かをすることはあまりない。
どこぞの花屋には見習ってほしい姿勢である。
「いや、明日映画公開日だから。一番に見に行きたくて」
「私も行く」
えっ、と言う表情をされた。不満、よりも意外さを感じたような顔だ。
「意外?」
「だって『劇場版 幻想ライダーレイセンVS幻想ライダーヨリヒメ ~満月温泉大作戦~』だぞ?」
「正式名称を言わなくていいわ。どの映画見に行くかは知らなかったけど」
「アリスは特撮見ないからな・・・」
「貴方が選り好みしなさすぎなのよ」
彼は本当にいろんな種類の―――というか、映画自体がが好きだ。
気になった作品はいつの間にか見に行っているため、レビュアーとしてはかなり優秀で私も助かっている。
「どうせいつものショッピングモールでしょ?買い物もしたい気分なのよ」
「話が早くて助かる」
「・・・ま、そろそろ用意しないとね」
こっそりと彼に気付かれぬよう、自分に言い聞かせた。カレンダーに目をやればすでに12月も中旬が近く、年末最大のアレの準備にはちょうどいい時期である。
これのためにこっそり貯金もし、目星もつけてある。問題はどうやって買うかだけど・・・。
「どしたの、アリス」
「何でもないわ。ルームシェアと同棲の基準について考えていたのよ」
「確かにこれ最早同棲だね・・・まあ、俺の今後のためにもルームシェアでいてください」
「婚後は至って普通の事よ」
「まだ早いから!せめて二人とも就職してからにしよう!な!?」
「素直にイチャつき足りないっていえばいいのに」
「う、否定はしないが・・・」
こうして弄るとしどろもどろになる辺り、○○は可愛い。女の子の扱いは割と弁えてるくせに、妙なところで彼は奥手なのだ。
だから私が攻勢に出る。普通は逆かもしれないけど、彼との場合はこれでいい。
「でもショッピングモールまでは結構距離あるわね。バスで行くの?」
「ふっふっふ、実はいい物を手に入れたんだ」
「良いもの?」
「あの人の家のがらくたからお宝を発掘してな。そいつを修理してもらって、格安で譲って貰った」
「あの人って・・・森近さん?」
「ああ。アリス共々良客だから安くするって言ってた」
「残り二人に比べればねえ・・・」
不幸な知り合いについてはさておき。
件のショッピングモールは県下最大で、普段の商店街にはないものも多い。上手く行けば予想よりも良いものが手に入るはず・・・うん。
「じゃあ明日の八時には家を出るから準備はしておいてね」
「本当に朝一ので見に行くのね・・・」
そして翌日。
「これが良いもの?」
「ちょっとした足にいいと思わない?」
下の駐輪場に停められていたのは、真新しい自転車。これが転がっているって、森近さんの店は何を仕入れているのかしら。
「幾ら二人乗りが合法だからってこれは・・・」
「俺が漕いでアリスが後ろ。丁度いいでしょ」
乗って乗ってと急かされるままに後ろに乗り、腰に手を回す。彼に体を押し付けるような体勢になるが
「・・・ひょっとしてこれが狙い?」
「さーて何の事かな」
「首に手を回してあげましょうか?
「すいませんこれが狙いです」
「全くもう・・・」
どうしてそういう変な方向にスケベなのかしら。・・・これくらい別にいいけど。
自転車をこぎ始めればすぐに風を感じるようになった。
「自転車ならバスとあんまり時間も変わらないし、何よりお金もいらないからね」
「どう考えてもバスの方が早い気がするけど」
「バスじゃ通れない裏道があるのさ」
そう言って住宅街の裏道をすり抜けていく。十分もすればショッピングモールの裏手に出てきた。
「本当にあっという間ね・・・」
「で、本当に見るの?」
「今更よ。どうせなら新ジャンルを開拓するわ」
「アリス邦画殆ど見ないじゃん」
「それはまあ・・・そうだけど」
「まあ俺もそれ以上は言わないよ。気に入ってくれたらそれでいいさ」
ショッピングモール内の映画館に足を踏み入れ、チケットを二枚購入。
私は終始『パンデモニックプラネット』のポスターを眺めていたから、チケット購入は彼がやってくれた。・・・もちろん割り勘で。
「このアクション映画絶対面白いと思うけど」
「それシュールギャグのコメディ映画だよ。ポップコーンとか買う?」
「ジュースだけ買ってくるから、○○はそこで待ってて」
「はいはい」
売店に向かって、店員に注文を告げようとすると
「いらっしゃいませ・・・あ」
「あれ、妹紅じゃない」
「なんであんたがいるのよ・・・」
同じ大学に通う藤原妹紅がカウンターの向こうにいた。客商売は渋い顔をしながらするものじゃないと思うけど。
「例の彼氏と一緒?」
「そうよ。妹紅も彼氏くらい作ったら?」
「人呼んでバイト戦士(ソルジャー)妹紅さんに彼氏作る時間は無いわ」
「それもそうね。LLコーラ一つ」
「ちょっとは否定してよ・・・はい」
「ストロー二つ頂戴」
「堂々と目の前で惚気るな!」
「バイトの空腹は吹っ飛んだんじゃない?」
「胃もたれしそうよ。さっさと行って」
心底迷惑気にこちらを睨む妹紅を一瞥すると、彼の所に戻った。少し話し込み過ぎたみたい。
「お待たせ」
「遅かったな。何かあったの?」
「大学の同級生がいたのよ。それはともかく、入りましょう」
「それもそうだな。・・・コーラだけでいいの?しかもそんなに大きいやつ」
「ストローが二本あるでしょ?」
「映画館でまでイチャつくつもりかい!?」
「そうね、文字通り唾着けとくなら一本にすべきだったわ」
「いやだからさ・・・」
「もうすぐ始まるわよ?ど っ ち が お 好 み ?」
「・・・・・・二本で」
「あら残念」
もうちょっと押してきてもいいのに。ちょっとふざけすぎたかしら。
劇場内に入ればすぐに部屋は暗くなり、映画が始まった。
「ううっ・・・ぐすっ」
「そんなにボロボロ泣いたら化粧落ちるぞ。ほらハンカチ」
「ありがと・・・ぐずっ」
「そんなに良かった?確かに史上稀に見る名作だったけど」
「トヨヒメ博士が秘密を守るために設計図ごと溶鉱炉に沈んだシーンが・・・主人公が悲しまないように親指立てて・・・うううっ」
「ほらほら落ち着きなって。買い物行くから、泣き止まないと」
「・・・・・・ごめんなさい、大分取り乱したわ」
「いいさ。偶にはそういう時もある」
思った以上に面白かったというか、感動的で泣いてしまった。
化粧は・・・薄化粧だったからそこまで落ちてない。
「それで俺は今から買い物行くけど・・・どうする?」
「私ちょっと買いたいものがあるから、一人で行くわ」
「何買うのさ」
「上海」
「わかったごめん俺も買い物行ってくるから終わったらメールしてね!」
結局ゴリ押しで彼と別れて買い物することになってしまった。今度何か埋め合わせしておかないとね。
そして、あの買い物の日からしばらく。
街は既にクリスマス一色であり、時折雪も降っている。と言っても積もるほどではない、精々小学生がバカみたいに踊るだけだ。
「う~、寒い寒い」
バイトを終えて帰宅すると、アリスが夕食の用意をしていた。
現在大学は冬休み、そのためこうして昼間に駆り出されることもあるわけだ。
「○○おかえり。もうすぐご飯出来るわよ」
「じゃあ何か準備するよ」
「特にもうすることも無いから、荷物下ろして座ってていいわよ」
「そうか。じゃあそうしよう」
アリスは基本的に器用だ。炊事洗濯裁縫掃除と、家事は一通り俺以上にこなせる。
料理は昔は張り合っていた気もするが、いつの間にかアリスに随分と差をつけられてしまった。
「さーて今日の夕食は・・・随分と豪華だね」
「もう明日はクリスマス・イブよ。だから今日は我が家でパーティーね」
ローストチキンにパスタ、手作りと思われるピザとマリネサラダもあり、どれもとても美味しそうだ。
「じゃあこれも丁度いいかな」
部屋から持ってきた一本の瓶。英語のラベルが貼られたそれを机に乗せた。
「あらワイン?どうしたのこんなの」
「パーティー用に買ってきたんだ。まさかこんなに早く開けるとは思わなかったけど」
「良いわね、一緒に飲みましょう」
ワインオープナーでコルクを抜き、グラスに注ぐ。ガーネットの様な赤い液体がそれぞれのグラスに行き渡ったのを確認して
「それじゃあアリス、メリークリスマス」
「メリークリスマス、○○」
チン、とグラス同士を静かに鳴らしワインを呷った。渋さと甘みが同時に口の中を満たし、アルコールのせいか少し気分が良くなった。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
「さて、そろそろメインと行きますか」
机の上の料理が大体無くなったところで席を立ち、部屋から箱を持ってきた。
それを見てアリスも同じように紙袋を持ってくる。どちらも綺麗にラッピングされているものだ。
「これ、俺からアリスへのプレゼント」
「ありがとう。随分大きいけど・・・」
「開けてみてよ。きっと気に入るから」
がさがさと箱を開けるアリスを楽しげに見つめる。中から出てきたものを見て、アリスは言葉を失った。
「○○、これ・・・」
「アリスのブーツ、大分ボロボロだったから」
入っていたのは編み上げのロングブーツ。今までアリスが履いていたそれは大分傷塗れで、底も擦り切れ気味だったのだ。
「・・・・・・ホロリ」
「ど、どうした!?そんなに見た目気に入らなかったか!?」
「違うの・・・これ、ずっと欲しかったやつで・・・」
「そうなの!?」
「本当にありがとう、○○。大切にするわね」
「そう言って貰えるとありがたい」
「じゃあこれは私からクリスマスプレゼント」
「へー、アリスからのプレゼントは・・・」
パンッ!パパパパパパンッ!!!
「んなー!?」
袋に手を突っ込むなり袋の中から炸裂音がした。そのまま訳も分からぬまま後ろにひっくり返る。
「大成功!」
「これ以上ドッキリの成功パターンなんてねーよ!いったい何を・・・」
「今回プレゼントは二つあります」
「え、二つ?」
「まずはこれ」
隠し持っていたらしい綺麗にラッピングされた箱。それを開けると
「・・・帽子?」
「本当は手作りしたかったけど、ちょっと難しすぎたのよ。だから、私からまずはそれ」
中折れハットという奴だろうか。濃い緑のそれに銀色のリボンが巻かれており、中々お洒落だ。
「それでもう一つって?」
「これよ」
部屋のあちこちからアリスお手製の人形が飛び出し、アリスの周りでフォーメーションを組む。数体はCDプレイヤーの前に陣取っていた。
「昔、○○相手に人形劇やっていたこと、憶えてる?」
「勿論。お姫様のメルヘンなやつを沢山」
「良かったわ。それで、久々にやろうと思うの」
「お、アリス劇団再結成?これは期待できるなあ」
「何を言ってるの?今日は貴方が演じるのよ?」
「俺が!?じゃあ観客は誰さ」
「この子たちよ。演者は私と○○、二人だけの舞台(ミュージカル)なんて、素敵だと思わない?」
そう笑みを浮かべるアリス。そんな素敵な提案、受けないわけがない。
「仕方ないなあ・・・でも舞台は俺は苦手だから」
プレイヤーの横に並べてあるCDを一枚取り出し、アリスに向ける。
「Shall we dance?(ダンスパーティーと洒落込まないかい?)」
「喜んで」
そっと手を差し出せば、アリスも静かに手を取る。
家具はそのまま、風情も何もないけど、何にも代えがたい幸せなパーティーが再び幕をあげるのだった。
「ところであのドッキリには何の意味が?」
「○○の驚く顔が見たくて」
「・・・アリスそんなキャラだったっけ」
Alice in WonderRoom!!!(3)(うpろだ0053)
アリスには一つ、とても苦手な物がある。
「アリス、ちょっと出かけないか」
「どこに行くの?」
「内緒だ。まあ、アリスにとって損ではないよ」
「ふうん・・・?いいわ、準備するから待ってて」
暫し待ち、アリスを自転車の後ろに乗せて走り出す。
「どこに行くの?ほぼ手ぶらみたいだけど」
「行けば分かるさ」
ショッピングモールに向かう道を途中で折れ、細道を軽快に進む。
進めば進むほどにアリスの腕の力が強くなっている気がするが。
「ねえ、家に忘れ物したんだけど」
「何もいらないから大丈夫だ」
そのまま自転車で進み、目的地に到着。
その頃にはアリスはすっかり体から離れなくなっていた。
「帰りましょう。ええ、美味しいケーキのレシピを貰ったのよ」
「そうか。じゃあそのためにもここでの用事を済ませるとしよう」
とうとう耐えられなくなったのか、アリスが脱兎のごとく逃げようとするが
「待ちたまえ」
「お願い嫌絶対嫌よ手を放して!!」
「今日と言う今日こそ行こうか・・・」
距離的にはほぼ変わらず、ショッピングモールの反対側に位置するこの建物。
「大学から定期診断受けろって言われたのは何か月前だい?」
「・・・半年前です」
この町一番の大病院、『蓬莱病院』の前でアリスはひたすら泣き叫ぶのだった。
蓬莱病院の理事長はそれはそれは善人である。
患者のために全てを惜しまず、アリスと○○の通う大学が医学部と薬学部設立の際、提携の話を一番に受けた。
その真摯な姿勢からか県外からも患者が訪れ、今や国内屈指の病院となっていた。
その有名な病院の前で、ひたすらぐずる少女が一人。
「行きたくない離して帰らせて!」
「神綺さんからメール来たからな。今日という今日はアリスを病院に連れていくって約束もしたし」
「母さんのバカーッ!!!」
アリスは死ぬほど病院が嫌いである。それはもうどんな子供が歯医者に行ったとしても、このアリスより酷くぐずる子はいないだろう。
医者が嫌いなわけではないらしい。小学校の時の身体測定は普通に受けてたし。
ただ、病院となるとスイッチが入ったように嫌がるのがアリスなのだ。
前に理由を聞いたところ『怖い』の一点張り。雰囲気とか匂いとか、そういうもの全てが受け付けないらしい。
「ええい埒が明かないな・・・てゐさん!」
「ほいほいっと・・・○○じゃん。手の掛かるお守りに来たね?」
こちらの叫びに反応して軽快に現れたのは因幡てゐ。一つ上の先輩であり、医学部の学生。
見た目は小学生のようだが、中身は学年トップの成績を持つバケモノである。
顔が広く、○○も何度か世話になった。悪戯や嘘話が得意故、良くも悪くも関わりが多くなったのだ。
「やっと定期診断を受けさせに連れてきたよ」
「良かった。ヘタすりゃ師匠が直接出ることになるかと」
「それは間一髪だったよ・・・」
涙まで浮かべて嫌がるアリスをどうにか引っ張り、受付で診断を申し込む。
順番が回ってくれば、てゐが二人ばかり人手を連れてきてくれた。
「清蘭、鈴瑚。また世話になるよ」
「久し振りー!元気してた?」
「まーた面倒かけさせてくれるね・・・」
現れた二人は見知った同級生。二人とも薬学部で、こうして提携病院であるここでこうして実習を行っているのだ。
尤もこの三人には今日来ることを既に伝えており、アリスが凄まじい病院嫌いであることも熟知している。
だからこうやって手を貸しに来てくれたのだ。埋め合わせは洋菓子本舗『山紅葉』のケーキ奢りである。
「じゃあ早速師匠のところまで運ぶよ。鈴瑚宜しく」
「あいさい、先輩」
串に刺さった団子を三つ纏めて口に運び、むしゃむしゃと食べる。その後アリスを軽々と持ち上げた。
「いつ見てもよくわからないな、その『団子を口にするほど強くなる能力』っていうのは」
「美味しいもの食べるじゃん?元気湧くじゃん?それと一緒」
「あとてゐさんを先輩って読んでるのも中々違和感」
「学科こそ違えど教わる先生は一緒だからね。研究室もどうせ八意先生の所に行くし」
「お願い下ろしてー!どうせ運ばれるなら○○が良いーっ!」
「朝っぱらから見せつけてくれるねえ。産婦人科も受ける?」
「ふざけんなそのうさ耳引きちぎるぞ」
「おーこわ。とりあえず師匠の部屋までご案内ー」
てゐ、清蘭、鈴瑚の頭からは兎の耳が生えている。同じような耳を持つ人物はあと二人、一人は面識があるがもう一人は無い。
しかしそれ二人を含む、全員の先生が同じ人物と言うのもまた奇妙なものである。
暴れるアリスをお姫様抱っこで大人しくさせ、件の師匠の部屋へ。
コンコン 「失礼します」
「どうぞ」
部屋の中にいたのは、白衣の下に赤青ツートンのシャツを着た女性。
穏やかな笑顔の裏でちょっと人に言えない新薬の開発を続ける天才マッドドクターにして蓬莱病院院長、八意永琳である。
「妊娠検査をオプションで入れておくわね、格安で」
「その件はもう終わったんですけど」
「あらそう」
興味なさげにカルテを眺め、その場にそれを置くと
「それじゃあ検診を始めるわね。ウドンゲ」
「はい」
面識のある方のうさ耳持ち、鈴仙・優曇華院・イナバがカーテンの向こうから現れた。
永琳曰く、一番弟子らしいが妙にオッチョコチョイである。そして極度のあがり症。
今年医師免許を取ってこの病院に勤め始めたからか、そのあがり症に最近は拍車がかかっている。
「よしじゃあ俺はここまでだからアリス後は頑張って」
「え、嫌、待って」
ガシッ
「検診はあっちよ。ウドンゲ、あれを」
「この間のアレですね。はい」
プスッ
「あ・・・・・・」
何やら怪しい色のクスリを撃たれて、アリスはあっという間に大人しくなった。
「まーた怪しい薬を・・・」
「いつもの事さね。さ、暇だろうし私が暇潰しは付き合うよ」
「清蘭と鈴瑚はどうするんだ?」
「私達も実験が丁度区切り付いたから、暫くは暇なのよ」
「そーゆーこと。ま、お姫様の趣味で作った喫茶店があるから」
「・・・ちなみにそのお姫様は?」
「さーね?私も一挙一動把握してるわけではないし」
「私がどうかした?」
腰まで伸びた黒髪に、アリスすら上回る美貌。蓬莱病院理事長の娘、蓬莱山輝夜がニコニコと笑顔を向けて後ろに立っていた。
「げえっ!輝夜!」
そして俺の周りに蔓延る極めて厄介な同級生の一人である。
「あら、私を見てそんな反応をする殿方初めてですわ・・・」
よよよ、とわざとらしく泣き崩れる輝夜を余所目に逃げ出そうとするが
「貴方も逃げるの?夫婦そろって逃げるのが好きね」
華奢な見た目からは想像できない馬鹿力で肩を掴まれる。危うく肩が外れそうになった。
「ええい離せお前の難題はもうこりごりだ」
「今日は出さないわよ・・・ちょっとしたおしゃべりだから」
「本当だろうな?」
「本当よ。ついでにコーヒーの一杯くらいなら奢って・・・もとい、出してあげるわ」
「・・・まあいいか。コーヒー貰うよ」
「そっちにしか興味ないのね・・・」
その後しばらく、輝夜からアリスとの生活について根掘り葉掘り聞かれ、話していると院内放送でお呼び出し。
「お、じゃあ終わったから行ってくるか」
「また惚気話増やしときなさいよ」
「話すことは無いがな」
輝夜と軽口の応酬を経て、永琳のいる診察室へ。
「お疲れさま。概ね健康に問題なしね、食生活も安定してるみたい」
「それはありがたい。で、何でアリスはそんなに震えて・・・おぶう」
「・・・・・・・・・・・・」
抱き付いて離れない。それはもう、鯖折りもかくやのパワーだ。
このままでは本当に鯖折りされかねないので、少し頭をなでると力が弱まった。
「ずーっと前に来た時から暴れるから毎回あのクスリで大人しくさせてるのよねー」
「アリスを病院嫌いにしたのはあんたか!」
あのクスリがどんなものかは知らないが、それで毎度毎度強制的に大人しくさせられていたなら怖いところにもなる。
これ法律上大丈夫なのか、と問い質すと「ばれなきゃ大丈夫よ」と最低の返事が返ってきた。
「提出用の結果はこちらから大学に送っておくわ。もう帰って大丈夫よ」
そう言われるや否や、アリスはこちらに抱き付いたまま凄まじいスピードで病院を脱出するのであった。
「アリス」
「・・・・・・」
「アーリース」
「・・・・・・」
「いい加減機嫌直してくれよ・・・」
自転車で家に帰りながら、後ろの同乗者に声をかける。当然ながら反応は無し。
「何か埋め合わせするから、頼むから、ごめんってば」
「・・・ケーキ」
「え?」
「『山紅葉』のケーキ三つ」
「三つぅ!?・・・あーもう、分かったよ。好きにするがいいさ」
進路変更し、商店街の端へ。
今日もそこそこに客の多いその店に足を踏み入れると、アリスは人が変わったかのようにショーケースに張り付いた。
(憑き物が取れた様だな・・・)
「すいません、『旬のフルーツミニタルト』と『山紅葉ショートケーキ』と『BLACKモンブラン』一つずつ」
(しかも値段が高いトップ3かよ!とほほ・・・)
泣く泣くお代を支払うと紅葉の髪飾りの店員に
「彼女さん、逃がしちゃだめよ!」と言われてしまった。大きなお世話だ!と叫びたくなったのはどうにか堪える。
ケーキは籠に置き、ご機嫌のアリスを乗せて帰宅すると、アリスは早速紅茶を淹れ始めた。
どうせやることも無いしいいか、とこちらもコーヒーを淹れて一服の準備をする。
そしてアリスは箱からケーキを取り出すと何故か『反対側』にケーキを置いた。
フォークも持たず、こちらをニコニコと眺めている。
「アリス」
「何?」
「食べないの?」
「食べるわよ」
「じゃあどうして」
「分からない?」
自分の眼の前にケーキを置かない。フォークも置いていない。でも笑顔。まさか。
「食べさせろってことか」
「ご名答。でももう少し早く気付いてほしかったわ」
「薄々感じてはいたけどね。はい」
「ん。んん~、美味しい!」
「ようござんす。ほら」
「あむ。一口くらいなら、食べてもいいわよ?」
「じゃあ一口」
「ストップ」
「え?」
「フォーク貸して」
まさか、と思ったが逃げる気は起きなかった。あったのは諦めだけ。
「はいはい・・・んあ」
「はいあーん♪」
口にケーキを押し込まれ、むぐむぐと咀嚼する。それを見てアリスはさらに笑顔を綻ばせた。
「ふふふ・・・」
「どうしたんだよそんなにニヤニヤして」
「気付かない?」
「全く」
「そ。まあいいわ、今日の夕飯お願いね」
「はいはいっと・・・」
妙に上機嫌のアリスに疑問を抱きながら、夕食の用意に取り掛かる。
その後何度か、アリスからケーキを何度かねだられたり口に押し込まれるのだった。
Alice in WonderRoom!!!(4)(うpろだ0065)
「38.5度・・・完璧に風邪ね」
「旅行前に風邪をひいてすまん」
「いいのよ、今のうちにひいておけば当日は大丈夫」
風邪でダウンした自分の前で優しい笑みを浮かべる少女。
彼女の名は
アリス・マーガトロイド、この部屋の同居人にして自分の恋人である。
「今日安静にしておけば治るわよ。ま、看病は任せなさい」
「助かる・・・」
それじゃあ安静にね、とアリスは部屋を出て行く。布団でしばらくうとうとしていると、家のドアが派手に開く音がした。
『おーす!お邪魔するぜアリスー!』
『ちょっと静かにしてよ魔理沙・・・今寝たんだから』
『そういえばルームシェアだったな』
アリスの同級生にして面倒なやつ筆頭、霧雨魔理沙が来たらしい。よりによって今日来るとは・・・。
『はいどーもー!清く正しい射命丸でーす!』
お前もかブン屋。高校の同級生で新聞屋をやっている射命丸文まで来るとは。
『どうもこんにちわー!私もいます!』
勘弁してくれ東風谷の早苗さんよ。どうして今日に限ってこんなに来客が多いのか。
「頭痛い・・・寝るか」
どうか来客たちが騒がない事を祈って眠るとしよう。
「なんであんた達今日来るのよ・・・今日だけは帰って」
「連れないなー、私とアリスの仲じゃないか」
「あんたとそこまで仲良くなった気はないわ」
「そう言うなってー、美味い酒持ってきたからさー」
「何で今日うちで飲み会する気満々なのよ!」
「だってお前捕まえてても飯出るし」
ゴンッ 「あいたっ!何すんだ!」
あまりに言いたい放題な魔理沙に、遂にアリスの拳骨が炸裂した。既に二発目も準備完了である。
「・・・もしかして彼、風邪でも?」
「その通りよ」
「あちゃー・・・それじゃあ仕方ないですね。魔理沙さん、早苗さん、帰りましょう」
「すいませんアリスさん・・・」
「・・・いいのよ、分かってくれれば」
居座るつもり満々だった魔理沙を引きずりながら、文と早苗が部屋を出て行く。これで彼も、しばらくはのんびり出来るでしょう。
コンコン「・・・起きてる?」
「あ、ああ、何とか。魔理沙たちは帰ったのか?」
「文と早苗が話の分かる日で助かったわ」
「話の分からない日があるのか」
「赤い靴履いてたら止められないわ」
「成程」
しばらくして、アリスが水と洗面器を持って部屋に入ってきた。喉が渇いていたので丁度良い。
「タオルも大分温くなってるわね・・・お水も持ってきたけど」
「ありがとう、早速」
冷蔵庫にでも入れていたのか、やや強く冷えた水を一気に呷る。冷たい感触が喉を通っていき、心地よかった。
「もうちょっとお水あるけど」
「ありがたい。もう一杯だけ」
「汗かいてたからね。ちょっと待ってて」
程なくして、さっきよりもやや少なめに水の入ったコップを持ってアリスが戻ってきた。それも飲み干すと、布団に寝転がる。
「・・・また、眠くなってきたし寝るよ」
「分かったわ」
濡れタオルを額に乗せると、アリスはまた部屋を出て行った。
ピーンポーン
「・・・今度は誰かしら」
インターホンを取ると
『宅配便でーす』
「あ、はーい」
妙に聞き覚えのある気がするが誰だろうか。ドアを開けると
「・・・妹紅?」
「やっ。ハンコ頼むよ」
前に映画館であった妹紅が、ダンボールを抱えて立っていた。どうやら今日もバイトらしい。
「旦那は?」
「結婚はまだよ。はい」
「・・・『まだ』なんだ」
「帰ってもう!」
「ごめんって。んじゃ、お幸せにー」
けらけら笑いながら妹紅も帰って行った。
届いた荷物はアリスの実家からの仕送りである。
部屋に戻って中身を整理していると、またチャイムが鳴った。
「何?何で今日は来客が多いのかしら」
ドアを開けると、隣の部屋に住んでいる小野塚小町が何も言わずに入ってきた。
彼女は立派に社会人で公務員だが、あろうことか驚異のサボり魔である。
「・・・うちは避難所じゃないんですけど」
「三十分でいいから、匿って」
勝手知ったる様子で小町は部屋の奥へ。一分もしないうちにまたチャイムが鳴った。
「・・・どうも」
「こちらにうちの小町は来ていませんか?」
彼女の上司、四季映姫が笑顔で問う。面倒は御免なので、アリスは映姫を小町が隠れている押し入れの前に案内した。
「とっとと連れて帰ってください」
「何故裏切ったー!」
「〇〇が寝こんでるので早く帰ってください」
「それは失礼しました。〇〇さんには、お大事にと伝えておいてください」
基本的に話は通じるのだが、如何せん真面目が服を着て歩いているような人間が映姫だ。
スイッチが入ると梃子でも動かない。逆に小町は、怠惰の文字が服を着ているようである。
喚く小町を手刀で黙らせ、映姫はとっとと部屋を出て行った。
「今日は妙に多いわねえ・・・あ、お昼作らないと。風邪ひいてるし・・・なるべく軽いもの作ってあげましょう」
「具合はどう?」
「アリス・・・まあまあかな。さっきよりは大分マシ」
「ご飯食べれる?」
「タイミング最高。丁度お腹空いてた」
アリスが持ってきたのはうどんだった。早速丼と箸を受け取ろうとするが、何故か渡してくれない。
「・・・アリスさん?」
「さあ口を開けなさい。大丈夫よ、おでんじゃないから口に突っ込んだりはしないわ」
「いやあの」
「それともアツアツのまま食べる方がお好みだったかしら」
「・・・そういうボケは俺がもうちょっと元気な時に頼むよ」
「ごめんあそばせ」
とか言いつつも箸を渡してくれない。もう諦めるしかないようだ。
「んあ」
「素直で宜しい」
やたらニコニコしながらアリスはうどんを食べさせる。やや濃いめなのか、塩味が体に染み渡った。粗方食べてしまうと
「じゃあ私は隣にいるから、何かあったら呼んでね」
笑顔三割増しで部屋を出て行った。完治したらどう意趣返ししてやろうか考えたが、眠気に負けて倒れ込んだ。
結局その日は後は誰も来なかったようで、目が覚めたら真っ暗だった。ふらふらと部屋を出ると、アリスが夕食を作っている。
「もう起きて平気?」
「大分ね。もう普通にご飯も食べれそうだ」
「良かった」
と言いつつも、出てきたのは親子丼だった。
やっぱり若干遠慮しているのだろうかと思ったが、汁物や和え物も出てくる辺り、本当にその気だったのだろう。
二人でもむもむと親子丼を頬張っているとアリスが
「そういえば、体温測った?」
「いや、朝に測ったっきりかな」
「後で測っておきなさいよ。体は楽でも熱引いてないこと多いから」
「そうだな、そうしておこう」
特に面白い事もなく夕食を食べ終わり、体温もすっかり平熱、お風呂にも入っていよいよ寝ようという頃だった。
「今日一緒に寝てもいいかしら」
「死ぬ気か?いや死ぬのは冗談だけど」
「だって・・・ねえ?寂しいじゃない」
「どうしたアリス?今度は君が風邪をひいたのか?」
割と本気で心配したが、逆にアリスに怒られた。頬を思いっきり引っ張られる。
「・・・私は至って健康よ?そんなに一緒は嫌かしら?」
「ふぁいふふぃふぁふぇんふぁふぁふぃふぇ・・・」
「全く」
「あ痛っ」
一応病み上がりなのにあまりに容赦ない。
一応風邪感染のリスクについて尋ねてみたが『もしかかったら〇〇が看病してくれるでしょう?』と笑顔で言われて結局押し切られた。
「・・・こうして枕並べて寝るのも何年ぶりかなあ」
「小学校の時以来かしらねえ。うちの母さんと私が大ケンカして泊まりに来たっけ」
「うっわ懐かしいなあ。んで普通に客間で寝てたはずなのに朝になったら隣にいるからビックリだ」
「そんなこともあったわねえ・・・」
「・・・アリス?」
「すう・・・」
(もう寝ついたのか!)
思った以上に寝つきが早い。しかもちょっと揺すってみても、起きる気配はない。
こうして近くで見るとやっぱりかわいいしなんかいい匂いもするし肌とかもすべすべのもちっとしててもう色々と思考が暴走してきた。
思わず生唾を飲み込む。
(・・・据え膳は・・・手を出したなら)
『そこまでよ!』
思考にアリスの友人たる紫もやしが割り込んできた。結局何もせず寝ることにした。
翌日普通に自分より早くアリスは起きており、彼女の健康っぷりを思い知らされたのは別の話。
Megalith 2019/07/04
今日この日、一か八か勝負に出ようと思っている。幻想郷へ落っこちて、アリスに介抱される形で出会って早二年、彼女とは随分と仲良くなったつもりである。今日も彼女は魔法の森内部に住居を構え、日の当たるテーブルの上でせわしなく人形作りに勤しんでいる。一方で俺は本を両手に携えながら、チラチラそちらへ視線を送っているのである。この後のことを考えるだけで読書なんかに集中できるはずもない。偶然目が合って「ん?」と言われ、「いや」とだけ返す。「そう」、また彼女は人形作りに転換するのであった。
俺はアリスのことが好きだ。いつからだったか、気づいたら彼女の方に自然と目が行くようになり、最近では会話を交えるとき、平静さを保つのが難しく感じているほどである。俺という人間は恋愛には疎い。アリスは俺に対して好意を抱いているかどうかはわからない。俺でも手伝えること、例えば家事なんかは大抵引き受けているつもりだが、それでも今の衣・食・住は、すべて彼女のおかげで成り立っているわけで、ひょっとしたら煩わしく思われているかもしれない。
そして俺は今日この日、勝負に出よう、彼女にアイのコクハクをしようとしているのだ。これが落ち着いていられるはずがあるものか。
なにも無策なわけではない。同じ森に住む魔法使いの魔理沙にだっていろいろ手伝ってもらえる。いわゆる「ムード作り」。場所は無名の丘、告白の言葉はどうしようかと、いろいろ考え準備をしたものだ。かれこれ2か月も前から算段を立てていた。
それらの計画が全部無意味になるのがこわいんじゃない。本当に恐ろしいのはフられたとき。気まずくてここには居られないだろう。単純に居場所を失うのも辛いが、アリスが常にこうやって目の前にいる日常を失うこと。そうまでして彼女に告白する必要があるだろうか、馬鹿々々しすぎやしないか。昔の俺ならそう思っただろう。魔理沙の後押しがなければとても決意を固められなかった。無名の丘へ彼女を誘うのがあと半刻後。焦燥感とも恐怖感とも言える感情に押しつぶされそうなまま、俺は本から顔をあげて彼女に呼びかける。
「アリス」
名前を呼んだだけなのに声が上ずりそうになった。
「なに?」
「ちょっと一緒に出かけないか?最近屋内での作業ばっかで、たまには息抜きも必要だと思うんだが」
声が裏返らなかった自分を褒めてやりたい。
「……そうね。ありがと。珍しいわね。あなたからそんなこと言われるなんて」
アリスは物珍し気に、心なしか少しだけ嬉しそうに言う。彼女は作りかけの人形を作業台に置き、裁縫道具をしまって立ち上がった。
そして俺の方に向いて言った。
「……ねぇ」
「ん?」
「……私のこと、どう思う?」
脈絡のない、さらには意図もわからないその質問に俺は戸惑いを見せる。
「どうって……?」
「私って周りからどう思われてるのかなって」
「うーん、そうだな……。優しいとか、人柄良く思われてるんじゃないか?」
上手くオチをつけたつもりで自分の上着をとりに椅子から立ち上がった。
「いや、そういうことじゃなくて……」
彼女の意と違えてしまったようだ。まだまだ彼女の気持ちを察せないものだな……。
「…………そうじゃなくて、……私が、どんな風に見られてるのか」
アリスは椅子に体をこちらに向けて座ったまま、もじもじしながら言葉を選んでいるようだった。それだとさっきと同じ質問にしか思えないが…。
うーん、果たしてどう答えるべきか……。そこで俺は思わず口を滑らしてしまうのである。
「えーと、……可愛い?」
俺の馬鹿野郎。彼女の意図から外れないよう外れないよう、それだけを考えていたらうっかり(好きだってことがバレそうな)素直なことを言ってしまった。
「え!か、かわ……」
アリスの方は意表を突かれたように、顔を紅く染め上げる。
「あー、その、俺は世論を言っただけであって、……決してセクハラ発言ではございません」
「……」
「……」
「そ、そう」
俺はなんとかやり過ごせた気分で、日が沈まないうちにと思って出かけることを提案した。
「そろそろ出かけないと」
しかし彼女の無慈悲な追撃は続く。
「じゃあ、……あなたはどうなの?その、私のことかわ、か、かわいいって、思ってる?」
なんとなく悪い予感はしていた。というかそんな顔真っ赤にしてまで聞くことじゃないでしょうが……。「かわいい」を口にするときやたら声ちっちゃくなるのズルくない?そういうとこだよ、そういうところがかわいいんだよ!!
「……可愛いか可愛くないかで言えば可愛い」
「なによそれ……」
「あー、えーと、ハイ。yes。……そういうことです」
「……」
素直にかわいいと言えばよかった。
「だが突然どうしたんだ、そんな周りの目が気になるっていうことはなにかあったのか?君は大抵のことができるし、見た目だって、、素敵、、、かわいいし、それでいて努力を欠かさなもんだから、憂いを抱える必要はないと思うが」
「違うの。その……ううん、なんでもない」
「そうか。まあ抱え込みすぎるなよ。非力ながら俺にできることならなんだってするからさ」
「……うん、ありがと」
「そろそろ行こうか」
幻想郷の夜の空。俺はアリスに抱き上げられ、、、はせず、普段移動するときと同じように多数の人形に支えられながら空を浮遊している。アリスは俺より前方を、より少し高度を上げて飛行し、見えるか見えないかギリギリのところを飛ぶ。が、結局いつも見ることは叶わないまま目的地にたどり着くのである。なにが「見えない」のかは言わないが、とにかく見えないのである。決してやましいものではない。俺だって地上を見下ろすのが怖いから上を見るだけであって、見ようとしているわけではない。そして結果見えていないのだからなにも問題はないはずだ。
とまぁそんな話はさておいて、目的地は無名の丘。空には夕日が、下を見ればそれに照らされた魔法の森の樹々が映える。幻想郷の美しい景色には毎度ながら圧倒されるが、それ以上にこんな高い場所で吊り下げられているということに対する恐怖の方が強いのである。
「寒くなーい?」
前方から彼女が問う。いや、寒さよりかは高所恐怖症的な意味での怖さがある。まあ寒いことには寒いんだけど……。
「寒い」
「そう?だったら抱きしめてあげよっか?」
アリスはこちらに振り返って両腕を開き、ニヤニヤ笑いながら言ってくる。からかってるつもりなんだろうけど足がすくんでそれどころではないので本心を言ってみる。
「頼む」
「冗談よ」
「そうか、残念だ」
外にいるときの彼女はいつもこんな調子だ。家の中で人形を作っているときはもっと静かなのに。
夕日が少しずつ落ちていくのを見つめる。なぜだか先ほど家にいた時とは打って変わって落ち着いていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
彼が幻想郷に来て2年くらいだろうか。私は彼と一緒に空を飛んでいた。と言っても彼は能力を持たないただの人間なので、私が人形を使って引っ張っている形なのだが。珍しく彼に外出の誘いを受けたからか、気分が高揚するのを抑えられない。
『……可愛いか可愛くないかで言えば可愛い』
『だが突然どうしたんだ、そんな周りの目が気になるっていうことはなにかあったのか?君は大抵のことができるし、見た目だって、、素敵、、、かわいいし、それでいて努力を欠かさなもんだから、憂いを抱える必要はないと思うが』
さっき私に言ってくれた言葉を思い出す。自分のことをどう思ってくれているのか。後を振り向くと彼は少し体を震わせていた。
「寒くなーい?」
後ろにいる彼に問いかける。
「寒い」
「そう?だったら抱きしめてあげよっか?」
「頼む」
からかうつもりだったが、意外な返答が返ってきた。いや、今のが冗談であるとわかった上での返答なのかもしれないけど。
「冗談よ」
「そうか、残念だ」
あまり顔色を変えないあたり、はたして本当に残念だと思っているのだろうか。無意識的に冗談だと返してしまったが……本当は私のほうこそ彼に抱きつきたいのに。
彼に近づきたい。彼に触れたい。もっと彼のことを知りたい。思えば彼のことばかりを考えるようになったものだ。人形作りに夢中になってるフリして本当はひたすら彼のことを。もしかしたら私は彼のことが……。なんとも思っていない相手に「私のこと、どう思う?」なんて普通は聞かないかな。抱きつきたいなんて思わないかな。触れたい、近づきたい、もっと知りたいだなんて。
―――もし彼が私に「好きだ」って言ってくれたら。
どうしよう!!!
あぁもう仕方ないんだから!そんなに私のことが好きなら恋人でもなんでもなってあげるわよ!だいたいね、屋根の一つ下、男女二人が暮らしてるのを世間一般では恋人同士とか夫婦とかって言うの!つまり……私たちが恋人だなんて今更すぎやしないかしら?ううん、でもこれから改めて恋人同士。そうよね、だってあなた、私のこと好きなんだもんね。私も、あなたのことが……ふふふ、ふふふふふふ………。
「アリス」
「!、え、どうしたの」
急に彼に呼び戻されて体が跳ねてしまった。
「やたらとニヤニヤしてたから気になって……」
「なんでもないわっ!」
そんな表情に出ていたかしら……。
「というか、勝手に乙女の顔をジロジロ覗き込むんじゃない!」
「いや、悪かった。だけど、―――吊り下げられてる人間が言うことじゃない気もするけど―――いつもみたいに俺の前を飛べば良かったんじゃないか?……こんな肩並べるほどの至近距離にならなくても」
指摘されてはじめて気づいた。私は彼の左の肩がぶつかりそうなほどすぐ近くにいた。無意識に彼の身体を引き寄せていたようだ。いやこれは人形たちが勝手にやったことであって、私の意思は関係ない……はず。
「あ、ごめんっ!気づかなかった」
「別に俺は良いけど……。気づかなかったなんてアリスにしては珍しいな」
ははは、と笑う彼。表情は笑っているものの、その目は一つの決意を描いているように見えた。何故かはわからなかったけど。
「ねぇ」
「ん?」
「このままでも、いい?」
「……えーとそれはどうゆう」
「このまま隣に居てもらっても良いかって」
「……構わないけどなんでだ?」
「人形の研究に魔力を使いすぎちゃって、人形の精密なコントロールが難しいの。だから、あんまり……遠ざけすぎるとね」
嘘だ。研究くらいで私の魔力が枯渇するなんてありえないし、人一人運ぶだけでは大して魔力を消費するような羽目にはならないし。……彼のすぐ隣が心地よかったから。だから半ば無意識的に嘘を吐いてしまった。
「そうか」
彼はそれだけ言って俯いた、けど高いところが苦手なのかさっと真上に顔をあげる。私がすぐ近くにいるのが落ち着かないのか、世話しなく体を動かすのがおもしろい。
「そういえばいっつも見ようとしてるよね」
「何を?」
「私のパンツ」
「………」
彼は言葉を失う。
「否定しないってことはYESと捉えるけど?」
「……下を見ないようにしているだけであって」
小声でボソボソ呟くが、それ自体言い訳にしかならないということは彼にもわかっているようだった。
「『スケベスケベ!』って罵られたい?それとも顔赤らめて『……えっち』って言ってほしい?」
「いや、あの……すみません」
完全にへこたれてしまったので、これくらいにしておいてやろう。
「まぁいいわ。特別に許してあげる」
「……感謝であります」
日はいよいよ山の端に触れ、東の空には一番星、二番星が続々と駆け出している。彼と喋るのに夢中になって予定より遅れてしまったが構わない。私たちは目的地、無名の丘へ着陸した。なぜそんな場所を選んだ理由はわからないけど、まぁ危険な妖怪もそうはいないだろうし……。
私は彼を支えていた人形たちを回収し、本人は最初から目的地が定まっているかのように迷わず歩き始めた。鈴蘭の花は少しずつ姿を隠しており、梅雨が終われば影も形もなくなるだろう。私は彼について歩いていく。
「いよいよか……」
「え、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
なにか意味ありげな言葉を呟いたがなんだろうか。これから最終決戦を迎えるかのような顔つきで。
「ねえ」
「なんだ」
「これから何をしようっていうの?」
「散歩」
「それだけ?」
「……一応。他になにかやっておきたいことあったか?」
「特にないけど。というか無名の丘なんかで他になにかできることあるかしら」
「弾幕ごっこと空中浮遊。俺はどっちもできないけど」
「皮肉のつもりかしら」
「これから霧の湖にでも行って水遊びするか?」
「こんな時間に?冗談」
「冗談だよ。もはやデートでもなんでもない」
「デ、デッ!!」
デート!?まさかこの人、私とのお出かけは全部「デート」だったって言うの!?だとしたら私たち、とっくに「そういう関係」になってたの…?どうしよう、告白もされてないのにいつの間にか彼の中では私は「恋人」だったってこと?
「アリス」
彼が私の名前を呼ぶ。
「付いてきてくれ」
「あ、ごめん」
いつの間にか私は茫然と立ち止まっていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「どこか行く宛てがあるみたいね」
アリスは平静さを装いながらもどこか落ち着かない様子で言う。
「んーどうだろ」
「さっきまでは散歩するだけって言ってたのにね」
「目的地があったらそれはもう散歩じゃないのか?」
「さあ、デートかしら」
デートという単語を口にしたとき、少しだけ声が高くなるのを聞き逃さない。やはり彼女はさっきの俺の言葉を意識しているはずだ。
「散歩……ではなくなるかもな」
辺りは変わらず、ところどころに鈴蘭の花が咲いているのみである。空は紺色に覆われて、星はにわかに広がり出す。それは合図だ。俺が彼女に想いを告げる合図。告白ムード作り作戦の始まりである。
「この辺でいいかな」
俺は立ち止まって、丘に腰を下ろした。
「……何も見当たらないけど?」
「いやあ。正直、場所はどこでも良かった」
「あっそう」
「座りなよ」
俺の言葉に従って隣りに座った。
「アリス」
星の輝きが増し、互いの顔が良く見えるようになる。
「俺がこっちに、幻想郷に来てから2年経った。その……君には本当に世話になった」
「……お別れの挨拶の冒頭部分かしら?」
「君がどう答えるかによっては、そうなるかもな」
瞬間、この季節にしては涼しい風が鈴蘭を揺さぶる。
「聞くが、俺がいて迷惑か?」
「そんなこと、ないけど?」
「そうか、やっぱり君は優しいな」
「そうね、我ながら親切すぎやしないかと思ってるわ」
俺はアリスの方に体を向けた。
「アリス」
彼女の手をとる。
「えっ、なに!」
「俺は……君が、貴女のことが……」
アリスは目を見開いて、顔を紅く染め、こちらを覗き見る。
俺は勇気を振り絞って告げる。
「その……月が綺麗だな」
「え、……今日は新月だけど」
「違う!そういうことじゃなくて!」
やってしまった。もはや告白なんか恥でもない。
「俺は!あなたのことが好きです!!」
より一層、手を握る力を強くする。
「俺と付き合ってください!!!」
彼女の返事はない。聞こえるのは、ただ、夏の夜の風の音。
「………」
「……いいわよ」
「!」
「……あなたのことは嫌いじゃないし」
アリスの手は熱くなり、顔は紅くなり、目を合わせようとせずに視線を下にやる。
「そ、それじゃ」
「……」
「俺たち、今日から……」
「そういうことかしら?」
彼女は俯き、強がっているのか照れ隠しみたいな言葉ばかり言うのである。
「なぁ」
「……?」
「俺のこと、どう思う?」
「さっきの私が聞いた質問?」
彼女は手で服を弄る。
「……ガサツでヘタレで。たまにマジメで優しくて。あと、……やっぱりなんでも」
「そうか」
紺色の空を埋めんとする光の粒はさらに明るさを増す。魔理沙の魔法によるものだ。本当はアリスの意識を分散させるためだったけど、それより俺の度胸の後押しをしてくれた。
あれからしばらく経ち、俺は無意識的に彼女の手を握っていた。魔理沙の魔法は解けかかって、闇はだんだん普段通りの深夜帯の深さになる。
「そろそろ帰りましょ」
「ああ。あと、そうだ」
「ん?どうしたの」
「好きだ」
「……あっそ」
アリスの頬に紅みを帯びたのを俺は見逃さなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
どうしよう!どうしよう!どうしよう!ああああああああもうっ!!!
彼、私のこと、好き、好きだって!好きだって!!『付き合ってくれ』だって!!!
うふふ、うふ、うふふふふふふふ。
……あーあ、結局ギュッてしてくれなかったなぁ。………キス、したかったなぁ。「したい」って言えばしてくれるかしら…?
無理無理無理無理絶対無理!!!そんなの、無理無理無理!!!
はぁ……。これから彼の部屋にこっそり忍び込んで、ベッドにもぐりこんで、そして、そのまま……い、いや、駄目だ。そんなの、彼に気づかれたら、私、もう……。
いつかきっと彼の方からしてくれる……だろう。きっと。
にしてもビックリしたわ…彼ったら、いきなり手とるんだもの。彼と手をつなぐのはあれが初めてじゃないけど。その後は『月が綺麗』なんて言ったかと思えば……す、す、
『俺は!あなたのことが好きです!!』
『俺と付き合ってください!!!』
仕方ないわね~!私がいないとどうしようもないんでしょ、どーせ?私のこと、好きで好きでたまらないんでしょ?愛してるっていいなさいよ、あ・い・し・て・るって!!私もあなたのことを愛し……愛して…………ああああああああああああああああああああああああああああああああもうっ、もうっ!!!!!
……一旦落ち着こう。
あの時は本当にドキドキして、どうにかなっちゃうんじゃないかと思った。
これからも一緒に、ずっと。あ、でもその前に……結婚…………キャ~夫婦ですって!晴れて奥さん、私、あの人の奥さん!
式挙げて、子供、作っちゃって……ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!
そんなこんなで結局その夜は寝ることが出来なかった。
最終更新:2019年12月07日 14:37