ルナサ2

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>>521

 朝。
 ここ幻想郷では普通の人間達が起き始め、夜行性の妖怪達と食べてもいい人類が眠りにつく時間帯。
 俺は最高に善良でこの世界の人間じゃマシな分類に入る人間なので、まだ布団の中で包まっていた。
「…………眠い。……寝てようかなぁ」
 起きて第一声がそれかとか言わないこと、眠いんだから仕方ないのだ。
 そんな事は兎も角、別にやることが無いので寝ていても良いが、そうも言っていられない。

 ドンドンドンドン!!
「こんにちわー、新聞とどけに参りましたー。
 起きてますかー? 起きてないなら勝手に入りますよー?」
 噂をすればなんとやら、ドアを叩く喧しい音と共にモーニングコールの来襲。
 モーニングコールと言うか、新聞配達コールというか。
 その辺において置けば良いものを、いちいち手渡しで渡してくるのだ。
 前に『新聞用郵便入れ』を作ってみたが、なにものかの攻撃にあって見るも無残な姿に変えられてしまった。
 無視すればいいと思われるが、コイツ相手ではそれは通用しない。
 マジで勝手に入ってくるからだ。
 寝坊したときなどに、勝手に入ってネタの物色をしているらしい。
 前に一回、俺の記事を書かれた事があったが、内容は見たくも無いものだった。
 この経験があるために、朝は早く起きなければという危機感が今を作っているのである。
 俺は布団に名残を惜しみながらも起きあがってドアの向こう側、つまりは外に声をかけた。
「どうせ勝手に入ってくるんだろ?」
「まあそうですけど」
 そう言って入ってきたのはある種の天敵、天狗の『射命丸 文』だ。
 見た目俺よりも下に見えるが、たぶん云千年くらい生きているので、知識とか力とか酒の強さとかは俺以上である。
 まぁ俺は人間、彼女は妖怪だからでもあるが。
 人を見かけで判断しちゃいかんよ。最近の若者はそれがわからんのです。
 天狗は人じゃないけどそこらへんは触れちゃいけない。
「たしかに」
「勝手に人の心読むな」
「じゃあ許可貰います」
「却下」
「早っ! 次からは教えてあげますから」
「俺の心ぐらい自分でわかるわ」
「じゃあやっぱり読ませてもらうしか……」
「いやいやいや、何でそうなるんだよ」
「面白そうだからです」
「……天狗には自制心というのは無いのかね」
「ありません!!」
「きっぱり言うな! それも自信たっぷりに!」
 そう言い合いながら新聞を貰う。
 文に新聞を届けてもらっているのはちゃんと理由がある。
 妖怪を倒す方法がない俺にとって、新聞は情報を集めるのにうってつけだ。
 情報を集めて妖怪を倒すとまではいかないが、せめて生き残ろうと考えて新聞を取ったのである。
 と、最初は考えていたのだが。
 当然と言えば当然か、妖怪の弱点なんて新聞には載っていなかった。
 あるのは嘘か真実か良くわからない記事のみ。
 只、内容はどちらにしても面白いものなので、今もこうやって取っているわけだ。
 人生何事も前向きが肝心。ここの住人は前向き過ぎるが。
「せめて、どこからどこまでが嘘なのか書いてあればいいんだがな……」
「実は私もですね、書いているうちにどこからどこまでが嘘かわからなくなったんですよ」
「嘘を書く自体新聞記者として駄目だと思うんだが」
「いやー、それほどでも」
「誉めてない誉めてない」
 俺は今後の新聞情勢と日本経済の危機を考えながらも貰った新聞に目を通す。
 なになに……。
 俺が見た記事はこんな見出しから始まっていた。
『魔女ついに逆襲!?』
 多少興味があったので、下のほうを見てみると、こんな内容が書かれていた。


+先日昼頃、魔女のP・K氏が魔法使いK氏に危害を加えたもよう。
 P・K氏は、日ごろからK氏から本の盗難に合っていたらしく、
 先日も本人の前で堂々と盗もうとしたところを見て、ついに堪忍袋の尾が切れてしまったらしい。
 それについてK氏に詳細を尋ねてみたところ「まさか本気で来るとは思わなかった」とのこと。
 さらにK氏は「あいつはなんかいつもと違っていた」と続けて答えていた。
 実際にP・K氏のところに行ってみると、いつもは紫色だが今回は赤い服に仮面と角らしきものをつけていた。
 さらに三日月の髪飾りと思われる物が、なぜか筒状の物に変わっていた事までわかった。
 もう少し情報を得るために助手をしている悪魔に聞いてみたが、何かを拒むようにただ首を振るだけだった。
 唯一喋った事が「本当に早くなるとは思わなかったんです……」だけだった。
 P・K氏は何かの実験の最中に誤作動があり、あのような格好になってしまったと思われるが、真偽は不明である。
 なお、当前の事だが図書館では本を盗んで良いというわけではない。
 その事に気をつけて、図書館を利用してほしい+


 ……相変わらず嘘か本当かわからない記事だな。
 特に、魔女はなんてありえそうでありえないな。いや、まさか服装まで変わるとは。
「あ、そうだ」
 と突然、文が思い出したように言ってきた。
「御届物があったんですよ。たしかここに……」
「おや、新聞のほかに郵便の仕事でも始めたのか?」
「違いますよ、頼まれたんです。 ……あ、あった。これです」
 俺の皮肉を軽く流した文はあるものを差し出してきた。
 差し出されたのを受け取って見てみると、適当に二つに折畳んである紙の表面に『○○へ』と書かれてあった。
 誰からと思いつつ裏を見てみるも、何も書いておらず届元は解らなかった。
「誰からだ?」
「中を見ればすぐわかりますよ」
「……中、見たのか?」
「安心してください、中は見てませんよ」
「見てたら文の人間性を問うところだが」
「私は人間じゃないですから」
「じゃあハイエナか」
「天狗です」
「そういえば今年は狗年だな」
「なんで突然そんな話が出てくるんですか」
「漢字で書くと天狗は天の狗だからな。天の狗っていうと、神の下僕か」
「家、吹き飛ばされたいんですか?」
「吹き飛ばしたら閻魔に裁かれるぞ」
「その程度の事、無問題です。それより、むしろそっちの人間性を聞いたらどうですか?」
「閻魔も人間じゃないからな。人間性なんて求めちゃイカンよ」
「じゃあ何なんですか」
「神だろ。いわゆるゴッド」
「あれは神じゃないでしょう。神なんて魔界の神だけでいいです」
「あんな神じゃ不充分だ。もう少し居てもいいと思うぞ」
 なんて会話をしてながらも開いてみると、中にはこんなのが書かれていた。


  今日の夜、神社で宴会やることになったが、
  勿論お前も来るよな? 否、来い。

  わかっているだろうとは思うが、
  もし来なかったら明日、家が無くなるぜ?
                霧雨 魔理沙より』

「また宴会か……」
 これで何回目だろう?
 俺がこの幻想郷に来てから、もう二桁を超すと思うのだが……。
 それよりも、気になる事が一つある。
「なんで、いつもいつも突然なんだ?」
 そう言いながら文のほうを向くと、なぜかお茶を飲んでいた。
 当たり前……ではないが、俺の。
「……何やってんだ?」
「いや、こんな朝の寒い中配達してきたんですから、これぐらいはと思いまして」
「せめて許可取れ、許可を」
「いいじゃないですか宴会。楽しいですし」
「話しを逸らすな」
「○○さんは宴会嫌いなんですか?」
 どうやらどう言っても無駄らしい、毎度毎度の事だがムカツク。
 俺は怒りをため息と共に吐き出して文の質問に答えた。
「……そういう訳じゃないけどさ、今日の夜に宴会で、その朝に届くって突然過ぎないか?
 普通は一週間とか。悪くても三日前に届くだろ?」
「私は五日前に届きましたよ」
 そこで一旦会話が止まり、しばらくの間御茶の啜る音だけが聞こえた。
 時折、外から鳥の囀りが聞こえて、なんとも趣のある感じだった。
 しかしその間、俺の脳内は疑問と疑問がぶつかり合い混沌と破滅の境界線を……。
 いやいやいやいや、なんでそんなおぞましい空間を作る必要がある。
 普通の自問自答だ。
 しかし結局わからないままなので、文に聞く事にした。
「……なんで俺は当日なんだ?」
「当日でも別に良かったからなんじゃないですか?」
 この天狗、即答しやがった。
 確かに毎回当日に呼ばれて来ているが、それは脅しが入ってるためなのだが……。
 魔理沙はやる時は本当にやる。
 一回宴会を休んだだけで家が無くなっちゃ堪らないから、仕方なく来ているのだ。
 ……っていうわけでもないが、少なくとも拒否権は無い。
 なんだ結局当日でもいいじゃないか。魔理沙の選択は間違っておりませんでした。
 それでも早く教えてくれる事に超した事は無いが。
 そう思い、未だにお茶を飲んでいやがる天狗に向かって話しかけた。
「文。お前今日魔理沙と会う可能性はあるか?」
「夜の宴会なら必ず会いますよ」
「それじゃ意味無い。……まぁ、宴会前に会ったのなら伝えてくれ。
 せめて三日前に手紙を届けろ、ってな」
「面倒なので会わないようにしておきますね」
「……新聞を取らなくても良いんだぞ」
「今ここで家とあなたを吹き飛ばしてもいいんですよ?」
「むぅ…………」
 文とは毎回こう言うやり取りをよくする。
 そして毎回このように負けるが。
 幻想郷に来てからの仲なので、ある程度相手のほうを知っているつもりだ。
 そう、今回のように
「して、文よ」
「なんですか?」
「それで記録更新か?」
「そうですよ」
 人の家で平然と十四杯もお茶を飲むことなど、当たり前。
 良い子も悪い子も少年も青年もその他の年代の人も真似しちゃいかん。


 @ @ @ @ @ @ @ @


 昼。
 まだ居ようとした文を場外にホームランし、俺は一足早く神社に向かっていた。
 妖怪に襲われないためが主な理由だが、神社の手伝いも要求されていたためである。
 別に断る理由も無いため、毎回やっているのだ。断る理由がほしい。
 俺は、あの長い長い石段をゆっくりと歩いていき神社に着いた。
 そこでは、神社の巫女『博麗 霊夢』がのんびりとお茶を飲んでいた。
 それを見た俺は毎回の事だが呆れた。
「おいおい……、掃除くらいしてろって。夜から宴会なんだろ……」
「良いじゃない別に。○○さんが掃除してくれるんだろうし」
「……まぁ、そうなんだけどさ」
 そう言いながら近くにあった箒を手に取る。
 そして手馴れた手つきで掃除をしていく。
 毎回毎回やっているので神社の掃除はお手のものだ。
 何故か巫女さんよりも上手いが、何故かは聞いちゃ駄目だ。死人が出るぞ。
「そうだ、いっその事神社に住んだら? 衣住は保証するわよ」
 後ろから見ていた霊夢がそう声をかけてきたので、俺はとりあえず掃除をしながら答えることにした。
 神社に住む、かぁ……妖怪からはとりあえず安全そうだが。
「食は?」
「時の運、ね。まぁ無かったら霖之助さんの所とかに行けばいいだけだけど」
「俺は犯罪をしてまで生きたくないんだが」
「犯罪って考えるからいけないのよ。生きるためって考えれば」
「それを聞くと自分で犯罪行為を認知済みのように聞こえるのだが」
「対策を取らない霖之助さんがいけないのよ」
「……本当に巫女なのk」
「ん? 何か言った?」
 そう言って霊夢は見た感じ普通の表情で聞いてきた(気配がした)。
 しかしながら、その気は殺気に満ち溢れそうになっていた。……拙い。
「いえなんでも別にははははは」
 危うく禁忌に触れそうになった。触れたら夢想封印だけじゃ済まないとおもう。
 そこが会話が途切れ、二人とも黙った。
 静寂。
 神社では、箒の掃く音と時折お茶を飲む音と鳥が鳴く声がなるだけ。
 そんな空間も、この神社なら簡単に崩れる事を俺は知っている。
「どけぇぇぇ! 今の私を止めるものは何も無いぜっ!!」
 物凄いスピードでこちらに向かってくる、箒に乗った自称普通の魔法使い『霧雨 魔理沙』だ。
 しかし、こちらから見ればどうみてもトラブルメーカーです。本当にありがとうございました。
 それはともかく、その魔理沙が俺に向かって突撃してくるのだ。
 勿論このような事は始めてだが、何度も似たものを経験した俺は素直に退く筈も無い。
 普通は退くかもしれないが、退いたら男じゃないので阻止することにした。
 俺は箒の持ち手を下にして上に上げ、足を肩幅開いて肩越しに向かってくる魔理沙を見た。
「さぁバッターは前の打席で文を場外にホームランを放った○○!
 この弾丸のような魔理沙も地平線の彼方へと飛ばすのか!?」
「甘い、甘すぎる! 茶柱を立てようとして前もって茶葉を入れておくぐらい甘いぜ!
 そのような箒、廃棄処理行きだっ!」
 そう言うと魔理沙はさらにスピードを上げて迫ってきた。
 それに合わせて俺も魔理沙側の方の足を軽く上げる。
 昔見た一本足打法だ。これ、最強。
 その後、意識を魔理沙へと集中させる。
 …………今だ!!
「もらったぁぁぁぁぁ!!」
 俺の全身全霊をかけた振りに魔理沙も避ける事ほどの反応は出来なかった。
 元から避ける気なんて無かったのかもしれないが、それはそれで。
「っ……!」
 かろうじて跨っている箒を縦にして、直撃は避けようとした。
 さらに魔理沙はその箒に魔力を流しこみ、箒の強度を極限まで上げた。
 うーん、用意周到。
 このままでは、俺の振った箒は魔理沙の魔力を流して硬くなった箒と衝突して文字通り廃棄処理行きに。
 しかもこれは霊夢のなので俺もついでに廃棄処理逝き。
 確かにこのままでは俺と箒は閻魔に裁かれ火に焼かれることだろう。
 だが、俺はその程度の事は予測済みだった。
「奥義―――」
 箒が魔理沙の箒に迫る。
 その衝突の瞬間。


「―――『イリュージョン ~hand power~』」


 ガキンッ!!
 乾いた衝突音。
 その真っ只中の俺と魔理沙は、寸分違わぬ場所で睨み合っていた。
 目の前に魔理沙の若干驚いた顔が見える。
 勿論箒と箒はそのまま真ん中でぶつかったまま。
「……お前、何時の間に」
「この前藍さんに教えてもらったものを、中国人らしき人の行動をヒントに改良したんだよ。そして……」
 そこで一旦区切る。すると魔理沙は驚きの声が疑問の声に変わった。
「そして……だと?」
「今の状況で魔理沙が勝てる可能性は、ゼロッ!!」
「!」
 その声と共に渾身の力で箒を振りきろうとする。
 そう、この状況は一人の男とか弱い(?)少女と同じ。
 つまり、
 魔理沙は押し返せない。
「これが気の極みだ!!」
 ホームランは無理だろう、そう思った俺は俺は箒の打つ方向を水平にかえ、そのまま振り切った。
 なかなかの速度だったので、そのまま後ろへと結構なスピードで吹き飛ばされる魔理沙。
「ちいっ!」
 だが、彼女が日ごろの弾幕ごっこで鍛えた反射力でさっと体制を整えた。
 流石黒白魔法使い、動きの速さなら誰にも負けないぜ。
「……まさか、この私が負けるとはな」
「俺はこの程度で勝ったとは思ってないが?」
「当たり前だぜ……戦いはこれからだ」
 しばらくの睨み合い。
 その睨み合いを止めたのは、俺。

 ではなく、魔理沙。

 でもなくて、一人の腋が卑怯な巫女だった。
「あんたら神社を壊す気かー!!!」



「はぁ、なんで幹事の私が神社の掃除なんかを……」
「幹事なら宴会場の掃除ぐらいしとけ」
「私は宴会場の事なんて知らないぜ」
「鬼だな」
「人間だぜ」
 結局霊夢に怒られた俺と魔理沙は、衝突時に出来た衝撃波で色々とボロボロになった神社の庭を掃除していた。
 ちなみに、あの勝負は乱入による引き分け。
 もとい勝者霊夢。やっぱり巫女は強かった。
「そういえば魔理沙はなんで来たんだ?」
「いや、なんとなく神社に一番乗りしたかった気分だったんだ」
 なんともくだらない理由である。
 そのせいで俺の仕事が増えてしまった。
 まぁ、あそこで退かなかった俺のせいでもあるが。
「そういえば霊夢はどこ行った?」
「奥からいつものテーブル持って来るらしい」
 いつものテーブルとは、Uの字で向かい合った奴と何時喧嘩が起きてもおかしくないテーブルのこと。
「ああ、家にそんなのがあるぜ」
「本当か? ってそれより、人の心を読むんじゃない」
 ではなくて、普通のちょっと足が長い卓袱台のようなものや、やや縦に長い机のことである。
 まぁ霊夢は腋でも出してなさいってこった。
 なんてわけのわからない事を考えながら箒を動かしていると、奥から霊夢の声がした。
「○○さーん。ちょっと手伝ってー」
「やっぱりか……」
 案の定、霊夢一人にはきつかった。
 何時もなら魔理沙か誰かと一緒に運ぶか俺に運ばせているかであったため、一人じゃ無理だろうと思っていた。
 俺は、やっぱりここの人達は変だな。と思いながら魔理沙を一人残して霊夢のほうへと向かっていった。



 霊夢からテーブル運びを頼まれ、逆に俺は霊夢に箒を渡した。
 そして全部運び終えた頃にはもう夕日が沈みかけている頃で、一足先に着いた従者達は料理室で大忙しの状態。
 別にやることが無いので俺は縁側でのんびりと空を見ていた。
「はぁ……」
「何ため息なんかついてるんだ? 幸せが逃げるぜ」
 後ろから声がしたので振り向いてみると、魔理沙がいた。
 まぁ口調でわかるが、念のため。
「勝手に出るもんだよ。で魔理沙、またお前はつまみ食いをしようとしたな?」
「うーん……、なんで解るんだ?」
 そりゃ誰でもわかる。魔理沙の服から微かに料理の匂いがしたからだ。
 それよりも、魔理沙の服が若干破けていたりしているのが一番の理由だ。
「まぁ、軽く食べようとしたんだよ。それでメイド長がナイフ投げてきたり、剣士が切ってきたり。
 狐がクナイ弾飛ばしてきたりしてきてな」
「誰だってそうだよ」
「そうとも限らないぜ」
 そう言うと魔理沙は俺の隣に腰掛けた。
 魔理沙の白い部分の服は夕日の光に反射して普段より白さを増して見えた。
 反対に、黒い部分はより一層濃くなって、いつもよりも色分かれした黒白になっていた。
「……なぁ魔理沙」
「ん?」
「なんで俺も呼んでるんだ?」
 この際、聞く事は聞いておこうと思った。
 だが、俺の予想に反して魔理沙は即答してきた。
「呼ぶのに理由が必要か?」
「……いや」
「呼びたいから呼んだ、別に理由はないぜ。
 ……しいて上げるなら、楽しみは一人で取っておいてもいいが皆で楽しんでもいいから……だな」
 なんとも魔理沙らしい理由だ。
「…………迷惑か?」
 と今度は、魔理沙は不安そうに聞いてきた。
「いや、結構楽しいぞ?」
「な、ならいいんだがな」
 そう言うと同時に魔理沙はそっぽを向いてしまった。
 不思議に思って顔を見ようとしても、どうしてか逸らされてしまう。
「○○さーん、手伝ってー」
 またまた奥から霊夢の声が聞こえた。
 毎回毎回こうなのだが、やっぱり大変だな。
「じゃ、手伝ってくる」
 そうそっぽを向く魔理沙に声をかけて俺は奥に向かった。
 立った時にちょっとだけ魔理沙の顔が見えた気がするが、夕日の赤い色で良くわからなかった。



 向かった先にあった料理の数は、山が出来るぐらい多いものだった。
 一体誰が食べるのかと聞くと、全員口をそろえて。
「「「「幽々子」」様」だな」
 と、言う事で処理は幽々子さんに任せっきり。
 なんとも無責任だが、なぜか反論が出来ない。なぜだろう。
 とりあえず俺は全部の料理を頑張って運ぶ事にした。
 運びながら、幽霊はどうやって消化するというのを考えてみたが、やっぱりわからない。
 ……当たり前か。
 最終的に、亡霊と幽霊は格が違う。という微妙な結論で終わった。


 @ @ @ @ @ @ @ @


 全て運び終えた頃にはもう宴会が始まりそうだった。
 な、なんだってー!!(AA略
 あちらこちらでどんちゃん騒ぎの前兆。
 これは拙いと誰かと呑もうとしても、人間2人からは、
「レミリアがこっち来いって五月蝿いのよ。○○さん、一回襲われかけたんでしょ?」
「あー、悪い。パチュリーとアリスから呼ばれていて……な?
 お前からの誘いは嬉しいが…………え、いや、な、なにも言ってないぜ?」
 して残りの1.5人からは、
「お誘いは嬉しいのですが……、前も言ったように幽々子様が人間を食べてみたいと言ってまして、
 危険性が伴うのでご一緒は無理です。それに……、あ、いや、なんでもないです。すみません」
「私を誘うという時点で、お嬢様に吸われる危険性があるわよ。
 もう一度言うけど、お嬢様のお気に召しても召さなくても餌か死ぬかどっちかになるの。
 しかも処理するのは私。只の人間を殺す事に抵抗が無いわけじゃないのよ」
 と言う感じで主人がヤバイので近づけない状況。
 かと言って他の妖怪とも呑めないので、仕方なく余った机で一人淋しく飲んでいた。
「そういえば、毎回誰かに誘われて呑んでたからなぁ……。これじゃあ宴会とも言えないのかも」
 それにしても、いつもは毎回誘ってくれた人間の方々から無理と言われたのは始めてだった。
 まぁそりゃ事情はあるものだし、強制なんて出来るもんじゃないがなんか変だった気がする。
 結局一人なのだが。
 宴会で一人自棄酒もあれかと思い、ゆっくりペースで周りの情景を眺めながら飲んでいた。
 そうそう、ある一部に特別Uの字テーブルを置いてみたところ。
 ものの見事に図書館に住んでいる魔女と、森の中の人形遣いが向かい合った。
 ああ、ありゃ喧嘩が起こるな。
 そう言えば魔女は赤くないな。やっぱりガセだったか。
 向こう側では鬼と天狗がどれだけ飲めるか勝負している。
 ……良く飲めるな。
 ある部分ではレミリアが霊夢に襲いかかってるし。
 ……あ、夢想封印された。
 まるで向こう側とこちら側では全く別の空間のようだ。
 独りぼっちの人間を外から見たらきっとこのような感じだろう。
 ……所詮、俺は外の人間だと言うことだろうか。
 やっぱりここに混じってはいけないのだろうか、そう思えてきた。
 ……縁側でお茶でも飲んでよう。
 そう思い、立ちあがろうとしたとき、
「あ、姉さん。ここ空いてるよ」
 現れたのは赤い服を着た人と白い服を着た人、そして黒い服を着た人。
 三人とも別々の楽器を持っていた。
 赤い人はキーボード。白い人はトランペット。黒い人はバイオリン。
 たしか、この三人はプリズムリバー三姉妹だった気がする。
 っていうか三人で似た服着たら三姉妹っぽいし、幻想郷に三姉妹は一組しか居ないし。
 それはともかく、どうやら三人は座る場所を探していたようだ。
「でも、先客がいるみたいだけど?」
「あ、別に使ってもらって良いよ。別の場所に行くし……」
 そう言って立ちあがろうとしたが、赤い服の人に止められた。
「まぁまぁ、別に動かなくてもいいじゃん? 四人分席があるし」
「それはそうだが……」
「宴会だしいいじゃん。たまには違う人と飲んでみようよ?」
 そう言われたら動けない。とりあえず座ることにした。
 三人は前に白い人、右に黒い人、左に赤い人が座った。
 その後、全員でとりあえず自己紹介をしておいた。
 言われてから思い出したが、この三姉妹は俗に言うちんどん屋だった。
 赤い人は三女の『リリカ・プリズムリバー』
 白い人は次女の『メルラン・プリズムリバー』
 最後に黒い人は、長女の『ルナサ・プリズムリバー』
 別に黒い人だから黒幕とかいうわけではない。黒幕は冬の妖怪だ。
 俺も元々三姉妹については良く知らなかったので、この情報は重要……でもない。
 最初は俺以外の三人がのんびり喋っていたが、その後俺も交えて喋る事になった。
 ちなみに、さん付けはくすぐったいので止めろとのこと。
「そういえば、○○さんはどこに住んでるの?」
「人里よりちょっと離れた場所……かな」
「へぇ~」
「で、なんでメルランは枝豆を食べずに豆だけ一箇所に集めてるんだ?」
「楽しいからよー」
「メルランはそういうの好きだから……」
「この前なんかプチプチ君を一つずつ潰してたし」
「そうなのか……。それで、これは食べていいのか?」
「駄目」
「いや、それじゃあ食べられないじゃないか」
「全部やったらいいけど」
 と、言うわけで俺は全部豆だけになるまで食べるのはお預けになってしまった。
 仕方が無いので健康に良いらしいスルメを食べていた。


 @ @ @ @ @ @ @ @


 宴会も中盤~終盤に差し掛かったと思われる頃。
「う~ん……」
「あらあら、リリカがダウンしちゃったわね」
 飲みすぎたのだろうかリリカが眠そうに机に突っ伏した。
 やっぱり三女はお酒に弱いのだろうか?
 しかしながら俺はリリカが酒を飲んでいるところは見ていないのだが……。
 こっそり飲んでいたのか?
「じゃあ私はリリカと先に帰るわ」
 そう言うとメルランは立ちあがった。
 ちなみに枝豆はもうすでに豆だけになった。
「それじゃあ私も……」
「いいわよ、たまには姉さんにも休憩は必要だし。ね?」
 つられてルナサも立ちあがろうとしたが、メルランに止められて渋々(?)座った。
「それじゃ姉さん、頑張って」
 そう言ってメルランはトランペット吹き鳴らして行った。
 いや、トランペット鳴らしながら行ってどうするんだ。
 背中には寝ているリリカがいると言うのに。
 嫌がらせか? 仕返しか?
「…………え~っと」
 二人が居なくなったこの状況、俺とルナサは一瞬だけ顔を見合わせた。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
 沈黙。
 元々喋っていたのはリリカとメルランであって、俺とルナサはそれに合わせて喋っていたのだ。
 話題を探そうとしても無く、黙るしかなかった。
 つまり今の状況、電源無しでテレビをつけようと言うようなもの。
 二人とも黙って豆だけの枝豆を食べていた。

「………………えっと」
 やがて、沈黙に耐えられなくなったのかはわからないがルナサが口をあけた。
「私達の、k「○○さ~ん、飲んでますか~?」「なっ! あ、文!?」
 突如見事に酔っ払った文が、後ろから抱き着いてきた。
 突然の事に前のルナサは膠着している。たぶん俺も。
 いや、感触がどうとかは別にいいわけで、よくないけど。
 そんなことはともかく、この酔っ払いはどうすればいいのか?
 そのまま一緒に騒いでも良いが、彼女は酒の強さが半端無いので下手すれば死んでしまう。
 諸刃の剣。素人にはお勧めできない。
 ちなみにこの文は宴会で(俺のところに)乱入率は、ダントツ1である。
 と、いきなり後ろからの気配と感触が消えた。
 これまた驚いて後ろを見るも、何も無くただ普通のどんちゃん騒ぎしか見えなかった。
 しいていつもと違う部分を言うと、酔いつぶれた人が誰もいないと言う事か。
 視線をルナサの方に向けると、やっぱり同様に驚いていた。
 そして、
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
 またまた沈黙。
 何か言おうとしたような気がしたが、向こうが言わなければわからないわけで。
 やっぱり二人とも豆だけの枝豆を食べていた。
「……………………えっと」
 やがて、タイミングを計れたのか沈黙耐えられなくなったのかルナサが口をあけた。
「わたs「二人とも~飲んでるか~」「ま、また!?」
 またまた突如見事に酔っ払った鬼、もとい『萃香』が俺とルナサの間になぜか芋焼酎を持って現れた。
「なんだ~? 二人とも元気無いz」
 ドガッ!!!
 凄まじい打撃音と共に俺の視界から萃香が消滅した。
 驚いて反射的にルナサの方を見てみると、丁度居合切り後の形で手にはバイオリンを持っていた。
 つまり、たぶん、おそらく、もしかしたら、可能性としては、ルナサが吹っ飛ばしたんだろう。バイオリンで。
 次に、吹っ飛んだ方向だと思われる方を見た。
 直線的に木々がなぎ倒されていた。
 萃香の吹き飛んだ痕だろう。
 まあそうだろう、俺は剣筋というかバイオリン筋なんて全然見えなかったのだから。
 それよりも俺には気になる事があった。
「……そのバイオリン。折れないのか?」
 あの速度でバイオリンを振れば普通に考えたら折れる。
 見た感じ木だし。
 そう思って、体制を戻していたルナサに聞いてみたところ、
「えっ?」
 彼女は素っ頓狂な声を出した。



 彼女はバイオリンのことになると良く話した。
 バイオリンは何年前から云々、そもそも弦楽器は云々。
 わかりやすく説明してくれるので、俺も聞いてきて楽しかった。
 それ以前に沈黙から解き放たれて嬉しかったと言えばそうだ。
 っていうかそちらメイン。
「それでね、…………ん?」
「? どうした?」
「なにかが……なんだろう?」
 そう言ってルナサは立ちあがった。
 そしてルナサから見て正面、俺から見て真後ろへと歩こうとして、
「きゃっ!」
 こけた。盛大にこけた。それはもう芸能人が負けを認めるほど見事なこけっぷり。
 ここで注意すべきはルナサの進行方向。
 進行方向は俺の後ろなので、倒れてくる方向はつまり、
「うおっ!」
 俺の方向です。
 突然の事なので受身すら取れずにそのまま倒れましたよ。
 勿論の事ながら、ルナサも一緒に。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
 本日三回目の沈黙。
 すぐ目の前には驚いていると言うか突然の事に訳のわからない状況と思われるルナサの顔が。
 偶然とはいえ、この形は『ルナサが俺を押し倒した』になる。
 上から下がっている金色の髪からは、微かにシャンプーかと思われるいい匂いがした。
 そのまま数秒か数十分か数時間かわからないが、二人とも硬直したままだった。
「…………え、あ、……ご、ごめん」
 やっとのことで我に返ったルナサは、真っ赤になって上からどいた。
「い、いやいいいいいよべ別に」
 とりあえず起きあがった俺だが。
 もしかしかしたら赤くなってるのかもしれない。
 なってるな、言葉カミカミだったし。
 誰も見ていないかなとちょっと辺りを見たところ、やっぱりどんちゃん騒いでいた。
 やっぱり、この時間帯は終盤なのに誰も酔いつぶれていない。
 皆、なにかあったのか?
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
 あの事もあってか、また沈黙。多分四回目。
 今度は何も食べる物が無いので、二人とも何もせずに下を向いて黙っていた。
 両者とも顔が真っ赤だと推測しておこう。
 そういえば、毎回宴会では酔いつぶれていたので、帰るときはどうするのだろう?
 やっぱりメルランのように勝手に居なくなっていいのだろうか?
 まあ、ここの住人は勝手気侭(←大変失礼)だしいいのだろう。
 沈黙続きで酔いが冷めてしまった。それ以外もあることにはあるが……。
 それに、元々あまり飲んでいなかったのもある。
「え、えーっと……。じゃあ俺、先に帰る……が?」
「えっ?」
 そういう声を出して『もう?』って顔でこっち見ないでくれ、とっても帰りづらいから。
 と言っても、俺はそろそろ帰りたいのである。
「そーだな、……一人じゃ不安だし途中まで一緒だと嬉しい、のだが」
「……そ、それなら私も一緒に行く、けど……」
 ビバ我が機転!
 まあ酔いが冷めたと言っても妖怪が怖くなくなるって言われるとそうでもないので、一人じゃ不安だった。
 あの破壊力なら大丈夫だろう。きっと。


 @ @ @ @ @ @ @ @


 月の明かりがあっても夜の森は大層怖い。
 魔法の森ほどじゃないにしても、根っこが縦横無尽に広がっていて足場は悪い。
 その上妖怪が良く出る。
 それでもこの道を通らなければならないわけ、いつもは昼に通っているのだが今回は夜だ。
 まさにレッスン先は黄泉である。
「……一寸先は闇?」
「そうそれ」
 そう言って俺は黙った。
 心を読まれたのはキニシナイけど、これが仕来りってもんですよ。
「毎回この道を通ってるの?」
 と、ルナサが周りを警戒しながらも聞いてきた。
「まあ。それでも毎回昼に通ってるからな。とりあえずは安全だ」
「…………大変?」
「そりゃ大変だな。……なんでそんなところに家構えたんだ俺は?」
 疑問に思っても仕方が無いので、時折来る冷たい風に体を震わせながらも歩いていた。
 ルナサの方を見てみると、寒そうにせずに普通に歩いていた。
「寒くないのか?」
「まあ、私達は騒霊だし……」
「騒霊?」
 騒霊なんて聞いた事は無い。半人半霊とか、全部亡霊とかしか。
「簡単に言うと、ポルターガイスト……かしら」
「ええっ! あの同じ姿をしていて、それを見た人は死んでしまうって言う……」
「それはドッペルゲンガー。お皿とか物が勝手に浮くのがポルターガイスト」
 呆れたのかはわからないが、微かに呆れたようだ。
「あ、そうか。どっちでもいいけど」
「驚かないの?」
 ルナサが驚きと不思議の半々の声で聞いてきた。
「慣れたからな。天狗とか、普通の魔法使いとか、吸血鬼とか亡霊とか毎日とは言わずも見てるから」
 俺はどこを見ても木か闇なので、月の明かりで微かに見えるルナサの方を見て言った。
「……そう」
 それっきり俺とルナサは黙って、木の葉の間から微かに見える月を眺めていた。



 途中までと言ったものの、そのまま成り行きで俺の家のまん前まで送ってもらった。
「あ、ここまででいいぞ。って言っても、家の目の前だけどな」
「…………ん」
 しかしなぜか、ルナサは去ろうとしなかった。
 良く見るとなにかを喋ろうとしているが、上手く言い出せないようだ。
 俺も今の状況で悩んでいた。
 確かに、これでプリズムリバー三姉妹とは知り合いと言う仲になったが、なんかこのままでは惜しい気がした。
 知り合いと言っても宴会の仲でしかないため、実際に会うのは少ないだろう。
「えーっと、その、なんだ」
 あーもう、ここでなぜ俺の機転が活躍しない!
 良く見ると、ルナサは俺の言葉は耳を貸さずにどうしようかなと考えているようだった。

 この状況のまままた数刻ばかり。
 もういい加減言ってしまおう。断られても良いか。
 でーもなぁ、断られると厳しくなるだろうな色々と。
 でも、ここで言わなくては……。
 よし言う。当たって砕けてバラバラになれ、だ。
 そう思うと俺は覚悟を決めた。
「えっとだな」                                                             「えっと、その」
 何かが聞こえた気がしたがもうどうでも良い。気持ちを伝えなければ気分が悪い。
「バイオリンの事もっと教えてくれないかな~って……」「バイオリンの事もっと教えてあげようって……」
 見事に同じ内容で同じタイミング。どうやら彼女も同じことを考えていたようだ。
 そこで俺も彼女も一瞬硬直した。
 両者共々内容が理解できたところで、
「「よろこんで」」
 またまた同じタイミングで答えた。


 @ @ @ @ @ @ @ @ @


「それで、その後どうなったんですか?」
「その後か? 両者共々普通に帰ったよ。以上終わり」
「なんだ……つまんないですねぇ」
 ここはプリズムリバー邸。見た感じ古ぼけた洋館の家である。
 見た感じじゃなくても古いのだが、なぜか崩れない不思議の館である。
 まあ見た目以上に広かったり、何時の間にか真っ直ぐ飛んでいなかったりする廊下とかよりはましだと思うぞ?
 そこのリビングだと思う部分で俺と文は話していた。
 内容はというと、俺とルナサの始めての出会いについてだった。
「それより文。お前、そのとき宴会に居て、さらに乱入してきたよな。覚えてないのか?」
「いやー、それがですね。スピリタスを一気飲みしてから記憶が吹き飛んでまして……」
「人間だったら死ぬぞ……、それ」
「私は人間じゃありませんから」
「じゃあハイエナか」
「天狗です」
「そう言えば今年は狗年だな」
「なんで前と同じ事を言ってるんですか」
「いやなに、なんとなくだ」
 そのまま続けても良かったが、なんとなく止めた。
「で、話しを変えますが。何時も人前に出るときはお二人ともいつも通りにしてますが、
 やっぱり家ではラブラブですか?」
「さぁ、どうだろうな」
「なんで答えないんですか」
 文はちょっとした憤りと興味の合わせ技の音量で聞いてきた。
「新聞記者はプライバシーの中まで突っ込んで良いのか?」
「……わかりましたよ」
 おお、前よりも利口になったじゃないか。
「では次です。告白したのはどっちですか? また、どのような場面でどのように?」
「告白したのはルナサの方からだが……それ以上は言わん」
「またですかぁ?」
 今度は呆れが入っていた。
「ルナサに聞いてみればどうだ?」
 正直、俺は答えたくなかった。
 理由は簡単。場面と状況がやばすぎたからである。
 ルナサは何を間違えたのか、バレンタインの日は好きな人を殴り殺す日と勘違いし、
 俺に対して『好きです』と言った直後、鬼神の如くバイオリンで殴りかかってきたのである。
 正直、死ぬかと思った。
 あの速度のバイオリンを避けたのは奇跡としか思わない。
 その後必死でルナサの間違いを修正し、なんとか今まで生きていけたのである。
 代償として森一つ程度、その付近の店他。
「……そうですね、あなたじゃ情報は少ししか得られそうになさそうですし……」
 そう言うと文は標的をルナサへと変更し、去っていった。
「ふぅ……、文の記者魂も相変わらずだな」
 それにしても時間の進み具合が半端じゃない。
 まるで出会った頃が昨日のようである。
 楽しい時間はあっという間に進んでいくものだ、こうしていても一秒一秒が着々と進んでいく。
 俺はのんびり紅茶を飲んでいた。
 ここに来るまで紅茶なんて飲んだことがなかったが、ここに来てから紅茶以外は殆ど飲まなくなってしまった。
「で、○○さんと家の中ではやっぱりラブラブなんですか?」
「……えっ?」
「ラブラブだよー。よほどの事が無いと離れないもんね。ルナ姉と○○」
 遠くから文の質問の声と、ルナサの驚きの声。そしてリリカの声が聞こえた。
 ちなみに、俺はリリカが居る事を知っていて無視をしていた。
「ちょ、ちょっとなんで勝手に言うの! それ以前になんで知ってるの!?」
「ほうほう二人っきりでやっとラブラブなんですね……」
「そうそう、入るに入れないって状況が何度あったか」
「本当、良い彼氏持ったわね姉さん」
「羨ましい限りだねー」
「い、いや……それほどでも……」
「それで、告白の場面と状況はどうなんですか!?」
 やれやれ、二人がからかって一人が質問か。
 あの様子じゃ多分真っ赤だろうな。
 影で見てても面白いと思うが、後で何言われるかわからないので助けることにした。
 そう思うと、俺は立ちあがって四人が居るところへと向かった。


 俺は楽しい日々は短いと思わない。
 思い出が俺の心に残るから。




 後日談だが、俺達の話が一面を飾って大量に売たらしい。
 見出しは『バカップル誕生』でこの件に対しリリカとメルランにからかられたのは言うまでも無い。
 新聞と同時に、マスタースパーク注意報が出たらしいがくわしくはわからない。








~~~END~~~






~バイオリンの裏~


 反省点、ルナサがルナサっぽくないってことですかね。
 花映と妖々じゃ口調も性格もちょっと違うように見えるので、難しいものです。
 実はこれ、バレンタイン直前まで忘れていて、あわてて最後にバレンタインネタを組み込んで完成しました。

 本当の所
 ル ナ サ に 押 し 倒 さ れ た か っ た 。
 これがメインです、これがやりたかった。

 それでは、最後に改造三つ下に書いて終わりにしたいと思います。
 では、また投稿する日まで~。


~ヴァイオリンの裏~







改造、1

「…………眠い。……寝てようかなぁ」
 別にやることが無いので寝ていても良いが、そうも言っていられない。


 ガシャーン! ドサッ!!
「ちわーす!! 三河屋でーす!」
「そこ、ガラス割って中に入るな! それに三河屋はそうやって入らん!」
「えー、前なんかでこういうのやってましたけど……」
「それは絶対に三河屋じゃない! サブちゃんはそんなことしない!」
「じゃあ主人のほうで……」
「若本!? ってそっちもやるわけない!!」






改造、2
 中にはこんなのが書かれていた。


 明日、家が無くなるぜ?
       霧雨 魔理沙より』

 いや、流石に横暴すぎ。





改造、3

 中にはこんなのが書かれていた。






      宴
 宴宴宴宴宴宴宴宴宴宴宴
 宴  宴   宴  宴
    宴宴宴宴宴
    宴   宴
    宴宴宴宴宴
      宴
 宴宴宴宴宴宴宴宴宴宴宴
    宴   宴
     宴宴宴宴        
   宴宴    宴
  

       霧雨 魔理沙より』

 絶対普通の魔法使いじゃないって……。

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最終更新:2010年05月30日 23:19