メルラン1



1スレ目 >>50


メルランへ
「たたかれたときは、いつでも俺がなぐさめてあげるよ」


1スレ目 >>585


出会いはとても普通だった。
幽霊となっている俺は音に誘われるままに、冥界をうろついていた。
妙なくらい、明るい音楽。
音楽を聴いているだけで、気分が高揚するなんて初めてだった。
その音を発している源に向かうと、一人の少女が、手を使わず
音楽を奏でていた。
手を使わず楽器を奏でるなんて、別段この幻想郷においては珍しい事じゃない。
むしろ、まだ可愛いほうだ。
『死に誘う』とか『時を操る』とか『あらゆるものを破壊する』なんて
風の噂で、そんな物騒な能力のことを聞いた。
恐らく、楽器を奏でる少女の能力は、手を使わず音楽を奏でる事なのだろう。
トランペットを手を使わず演奏する光景は端から見れば、不思議な光景だった。

音楽も陽気なノリで、聴いているだけで楽しい気分によって
おかしくなりそうだった。

彼女の音楽が終わる。それを見計らって彼女に話し掛ける。
「…いい演奏だった」
「あれ?」
話し掛けてから俺の存在に気付いたようだった。
それだけ熱中していたという事だろう。
「あなたは?」
「俺は…新しく冥界に来た霊だ」
もっとも、自分で死んだことに気付かなかった間抜けではあったけど。
霊になってからこんな演奏が聴けるとは思ってなかった。
「私は、騒霊のメルラン。メルラン=プリズムリバー」
「いつも、ここで演奏をしてるのか?」
「ううん、時々よ。いつもは大体、姉さんと妹と一緒に演奏してるの」
残念だ。いつもここで演奏しているなら、やってる時に聴きに来るのに。
「もし良かったら、今度墓地で演奏するの。良かったら聴きに来ない?」
願ってもないお誘いだった。
こんないい音楽が聴けるなら、俺は喜んでついて行くだろう。
ただし場所が墓地ということがある。
「俺、幽霊の類が苦手なんだよな…」
「あなたが幽霊じゃないの?」
考えてみればそうだった。なら、集まる霊は俺と同じようなものか。
それに成仏以外に、怖いものなんて、もう無い。



翌日、俺は夜中に騒霊ライブという物を見に行った。
音楽知識が無い俺には、はっきり言ってよく分からなかったが、
楽しんだ事は確かだ。
彼女――メルランが陽気な曲を奏でて、(見たことは無いが恐らく)姉が
陰気となる曲を弾き、(多分)妹さんがそれを組み合わせたような不思議な音を
演奏する。
夜中に騒がしくなるのは本当に騒霊の所為なのだろう。と
改めて実感した。
騒霊ライブが終わってから、俺はメルランに会いに行った。
「お疲れさん」
「あー、見に来てくれたんだ」
微妙にふわふわした笑顔で迎えてくれた。
「やっぱ、すごい演奏だったよ。どうしたらあんな綺麗な音が出るのか、さっぱりだ」
思ったとおりの感想を彼女に伝える。
彼女は嬉しそうに目を細める。
「姉さん、それ誰?」
メルランの妹さんが俺に向かって訊ねた。
「あぁ、俺はメルランのファンだ」
これは冗談じゃない。
何曲か聴いている内に、俺はどうやら彼女のファンになったようだ。
「ふーん…ふんふん」
妹さんは俺の方を、品定めをするように見た。
「まぁ、これなら大丈夫かな」
俺の姿を見終わったあとの、その台詞が気になった。
「それじゃ、もし良かったら、また見に来てね」
妹さんは軽くウィンクすると、星空を飛び始めた。


帰る先も冥界という同じ場所なので、俺はメルランと一緒に帰ることにした。
彼女の話す話題は音楽周りと一辺倒だが。
「羨ましいな」
「ん、何が?」
思わず呟いた俺の言葉に気付いたのか、メルランは振り向いた。
「俺にはそんなに夢中になれるものが無いからな」
「好きなことって、無いの?」
そう言われて考えてみる。
生前のことなんて覚えているわけが無いし、死後も何も来たばかりなのだから
自分が好きなことなんて、さっぱりと分からない。
「好きになるのに理由なんて要らないよ。自分が『これが好きだ』って言えれば良いんだから」
「…そっか」
なら、これから探すとしてみよう。
俺の好きになれる事を――
「昨日、あなたと会った場所でもう一度、演奏しようと思ってるんだけど、来る?」
「あぁ、喜んで行くよ」
「それじゃ、明日の朝、待ってるから」
いつの間にか雲の中を抜けて、冥界の門が見えてきた。
「じゃ、明日な」
「うん」
俺は彼女の背中が見えなくなるまでずっと見ていた。



幽霊となっての生活なんてあまり実感は無かった。
別に眠れないとか食べる必要が無いとかそういう訳でもなく、
腹が減る時は腹が減るし、満腹になったら眠くなる。
人間と変わる事のない生活だった。餓死する事も無さそうだし、
こういうところは気楽にやっていきそうだ。
メルランという、騒霊のおかげで少しは死んでからの目的も見え始めてきた。
『自分の好きなことを探す』という事。
「おはよう」
「あぁ、おはよう」
昨日と同じように俺は至って普通に話し掛けた。
彼女は別段、昨日と比べて変わった様子はないが、どことなく嬉しそうな顔で
俺を出迎えた。
「それじゃ、はじめましょーう!」
様々な管楽器が動き始める。
普通の人間なら恐怖する光景も、俺は幽霊となったことで特に恐怖は感じなくなっていた。
陽気で、奇妙で、不思議と心踊る音楽が流れ始める。
管楽器だけでこれだけの演奏が出来るのも驚きだが、これだけの楽器を操る
メルランも意外にすごい騒霊なのかもしれない。
目を閉じて、しばらくの間、陽気な音楽の海に入り浸っていた。
彼女の音楽は言うなれば、ビックリ箱のようだった。
驚きと、明るい奇妙さと、何が起きるか分からないという、悪戯をする子供のような
気分が、その音楽の中にはあった。
音楽だけでなく、メルランが心からその演奏を楽しんでいるという事も伝わってきた。

陽気な演奏が、やがて止まった。

「はい、お終い」
にこりと、笑うその演奏者に対して、俺は惜しみない拍手を送った。
「すごい演奏だった。出来ればずっと聴きたいくらいだ」
「楽しい気分にはなれた?」
「え?」
言われてみれば、彼女の音を聞いている間、ずっと俺は他の考え事なんて忘れていた。
あの演奏を聞いていて、不思議と心が高鳴るのが分かる。
音楽だけじゃなくて、恐らくそれは、演奏中の彼女に対して見惚れていたというのも
あるのだろうけど。
「ほら、初めて会ったときは結構仏頂面だったじゃない。
だから笑った方がいいんじゃないかと思って」
「そんなに仏頂面だったか、俺?」
俺の問いに彼女は頷いた。
頬に手をやってみると、今は大分解れている。
「ほら、笑えばあなたもハッピー」
彼女の白い指が伸びてきて、俺の頬を軽く引っ張り、『笑い』の形を作った。
そして、彼女の顔が思いのほか近くにあり、無いはずの心臓が高鳴った。

「それじゃ、またね」

あの後も、結局音楽に全てを費やして、彼女は別れを告げた。
その次の日から、俺は騒霊ライブを見に行くようになった。

もちろん、目的はメルランだ。
演奏している間も、ずっと、彼女の胸の高鳴る音楽と、彼女の方を見る。


そんなある日の事だ。俺はいつも通りに騒霊ライブを見に来ていた。
前に開かれた時は、道に迷って辿り着く事が出来なかったので
今度は少し楽しみに来ていた。
「ちょっといい?」
メルランの妹さん――リリカが俺に話し掛けてきた。
どことなく怒っているような、雰囲気を醸し出しており、今にも怒りそうな雰囲気だった。
「何で前のライブに来なかったの?」
真っ直ぐに俺の方を向いてその目で俺を射抜く。
事情は後にメルランに説明したはずだ。
『迷って辿り着けなかった』と。
「姉さんが待ってたの。あなたが来るまでね」
「なっ、メルランが?」
「ライブを始めてからも、ずっとあなたを探していたの。 …無理に音階を上げて
テンションを上げようとしていたけどね」
「…すまない」
「まぁ、別にそれはよくって、こっちが本題」
「本題?」
「姉さんは、普段のように音楽を奏でることが出来なかった。どうしてだと思う?」
そんな事をいきなり言われても、分かるわけがない。
普段、俺が見ている音楽が、そこになかったという事も知らなかった。
「姉さんの音楽は、幸福の音楽。自分が幸福じゃないのに、奏でられるわけがないの」
「…メルランに何かあったっていうのか?」
俺の言葉にリリカは呆れ気味に溜め息をつく。
そして、彼女は人を小馬鹿にしたような態度で見ていた。
「鈍いわねー。姉さんはあなたを待っていて、あなたが来なかった時に
そうなったのよ?ホントに分からないの?」
……。
本当は俺は気付いていたのかもしれない。
ただ、認めてしまうのが恐かっただけだ。
彼女が俺を好きだって事は…ないと思っていた。
これは、俺の片想いだとばかり思っていたんだ。
「あと五分位、もうすぐライブが始まるよ」
「…ありがとう」
俺はリリカに礼をいうと、ライブの会場まで走り出した。



今回の会場は向日葵畑だった。
何でも、向日葵畑の主に許可を貰って、ここで騒霊ライブを行う事を決定したらしい。
時間は昼間、妖怪はあまり動く事がない時間帯だ。
しかし、昼も夜も幽霊にはあまり関係のない話だ。
俺は即興で作られた控え室に辿り着いた。
「あら…?」
扉を開くと今度は姉の方に出会った。
普段なら、俺を見て見ぬ振りや、話し掛けることすらなかった彼女は
俺を見るなり、真剣な声で
「…メルランを、お願い」
そう言って、そのままふらふらと、どこかへ歩き出していった。
おそらく、最後の準備か何かだろう。
姉の方が言った台詞。
「…分かっている」
俺は呼吸を整えると、彼女が居るであろう控え室に入った。

彼女はボーっとしたまま、上を向いていた。
俺の存在には気付いていない。
その様子に見とれたのは言うまでもないが、俺は気取られないように
ゆっくりと背後に回った。
息をいっぱいに吸い込んで
「わっ!」
「っ!?」
思いっきり驚かせた。
思惑通り、相手も驚いてくれたようで何よりだ。
「あ、あー!」
「よ、随分と暗いな。今日は」
「うーん、でももう大丈夫だからー」
「…俺が来たから、か?」
はっきりと言った言葉、それに対してのメルランのリアクションは
身体を一瞬、驚かせるという割と分かりやすい行動だった。
「…絶好のライブ日和だな」
「うん。そうねえ」
気を取り直して、別の話題を振った。
彼女は相変わらず、上の空といった感じだったが。
「俺、今日はお前に言わないとならない事があるんだ」
「え、なーに?」
「…俺は、お前が好きだ」
言った。
言ってやった。
俺の語彙の少なさに呆れるだろうけど、こういうしかなかった。
他の言葉なんて考えられなかった。
ただ一言、それだけを言いたかった。

彼女はふわふわとした笑顔を見せて笑い、こう言った。
「返事はライブの後でね」
一瞬で、彼女の唇が俺に触れた。



1スレ目 >>902


「めるぽ!」
「ガッ!」

「めるぽ!めるぽ!めるぽ!」
「ガッ!ガッ!ガッ!」

「あんたたち楽しそうねぇ…」
「ねぇねぇ、私も姉さんにガッ!ってさせてよ」
「バカ言え。メルランにガッ!していいのは俺だけだ」
「め、めるぽぉ…」
「そこっ!照れるなガッ!」


そんなメルランから告白を受けたのは、しばらくしてからだった。


「………めるぽ」
「………………」

どう答えたものか。
ここはいつもどうりにガッ!してもいいんだが…。

「………めるぽ?」

瞳を濡らし、俺の答えを待つメルラン。
今日を境に俺たちは、きっと特別な関係になる。
そんな日に、いつも通りのガッ!ではいけない。
だから俺は………。

「め、めるぽっ!?」


    ガッ!、と抱きしめることにした




「めるぽっ!」

    ガッ!



 ◇


ついカッとなってやった。
めるぽならなんでもよかった。
今はめるぽしてる



1スレ目 >>954


「こんな時間に呼び出してどうしたの?」

夜明け前の岬に彼女はやって来た。眠たそうな目を擦る彼女に僕は言う。
「君に、真剣に聞いてもらいたいことがあるんだ。」
「…うん。」
頷いて彼女は僕を見る。僕は語り始める事にした。
「君と出会ってから色々あった…宴会、ライブ、花見…楽しかったよ。本当に。」
慧音先生に教えてもらったライブで僕は彼女と知り合った。その日からの思い出を語る。
黒い海が白み始める。今此処には僕の声と波の音しか音色は無い。
彼女は黙って僕を見つめていた。
「…それで気付いたんだ。僕の幸せは君なんだ、って。」
「…え?」
さあぁぁ、と風が彼女の髪を揺らす。
彼女はキョトンとして僕を見つめる。
「私が…あなたの、ハッピー?」
「そう。」
戸惑いながら聴き返す彼女に僕は微笑んで答える。
僕は岬の先端へ進み、振り返った。背後から差す日が彼女の目を細めさせる。
僕は何とか僕を見ようとする――そんな愛しい彼女に告げた。

「僕、○○は、…メルラン・プリズムリバーを愛しています。」

彼女は目を見開いて僕を見つめた。頬が次第に紅潮していく。
二人の沈黙が、波の音を増長させる。
暫くして彼女は一筋、涙を流して笑った。
「嬉しい……私も大好きだよ。これからも、ヨロシクね!」

幻想郷に朝が来る。
朝日を浴びている彼女の笑顔は太陽みたいに――いや、太陽よりも輝いていた。


短くても俺の想いは濃縮されてる…はずだ。
よし、岬からダイブしてくるぜノシ


2スレ目 >>423


「メルラン! これから毎晩俺を使って尺八の練習をしてくれ!」

躁全開の時を狙えば案外いけるかも知れない、という淡い期待


3スレ目 >>457


「メルラン……君と一緒にいられるなら…………
 楽しすぎて狂っちまいそうだぜ!」


4スレ目 >>429


「だから、何度言ったらわかるの?
ハイB♭からDまでグリッサント!
半拍休んで下のCから三連符でハイCまでスラーであがる!
勿論息継ぎ無し!」
「いや、ちょっとそれは無r」
「ごたごた言わない!
できるまでルナサ姉さんに頼んでご飯抜きよ!」
「うぇ~」
~10分後。既に疲れた俺。~
「私はちょっと屋敷に戻るけど、練習しとくのよ!」
「……(唇の疲労でうまく喋れないわけだが)」
「返事は?!」
「……ふぁい。」
……
やばい、眠くなってきた。
思えば昨日も空が白むまで練習させられ、我ながら今起きていられる体力に感心している。
あのひとの底無しの元気はどこから……

「寝ました。やっちゃってください。」
ん?
「はい~♪」
いつからか物影から覗いていたブンブン丸とリリカ。
どうやら俺が眠ったと思ってるらしい。
「えっと、これを取り替えればいいんだよね?」
「はい、間違いありません。」
メルランのトランペットに触っているらしい。
折角だから寝たふりをしておこうか。
「おきんなよ…ぜってーおきんなよ…」
あれ?リリカってこんな言葉遣いだったっけ?
「これをとって、さして……」
俺のトランペットもいじっているようだ。
「できたー♪ケケケ、やったぜ。せいぜいあの躁病めるぽにボコボコにされなこのムダ飯ぐらい!」
……リリカ、おまえはそんなやつだったのか?
そう思いつつ、横目でトランペットを見る。
一見なにも変わっていないようだが、よくみると……
マウスピースが入 れ 代 わ っ て る ?

そこにメルランが戻ってきた。
「こら!何してるのリリカ!」
「うぇ~」
リリカは飛び去ったようだ。
「もう、いたずらされる前でよかったわ……って○○!なに寝てるの!」

そこで俺ははっとしたんだ。
こういうときメルランは必ず耳元で大音量を……
「お き な さ い !」
ダメだ、それに口を付けてはいけない!

だが既に遅かった。
ぱあああぁぁぁんという音と共に鼓膜が震える。
間接キスキターーーーーーー(゚∀゚ζーーーーーーー!!

と、薄れ行く意識の中で考えたんだが、
彼女たしか手足を使わずに演奏できるんだっけ?
つまり口も付けないんじゃ……

遠くに俺を呼ぶメルランの声とリリカの舌打ちが聞こえたきがした……

ーーーーーーーーーーーーーー
暑くてやった。
今は後悔している。
とくにリリカファンのみんな、すまんかt(ベーゼンドルファー


6スレ目>>353


「ハッピー!うれピー!よろピくね~!」

メルランの黄色い声がやけに癪に障った。
俺はバイト先をクビになったばかりだというのにこいつはキャラキャラと煩い。
人前憚らず大きな口をあんなに開けて!
彼女の濡れた唇の間にほのかに輝く唾液の糸。有罪確定(ギルティ)!神速とは今の俺のことをゆうのだろう。
うるしゃい!こ、これでもハッピーなのか?ハッピーなのかよう!ビリビリビリーービビ
しかしメルランはその小さなふくらみを庇おうともせず、たおやかな繊手をそっとのばしてきた!

「…ハッピーだよ。ハッピーになろ。ね…?」

畜生!畜生!何でそんな顔できんだよ!俺は!俺うぐっ、ひぐ…ウヲヲヲ---------!!
滂沱の如く降りかかる涙と汗と唾液その他もろもろを拭いもせずに、白き奏者は微笑んでゐた。


                                                      つづ


10スレ目>>495


「ちくしょう、せっかく勇気をだして告白したのに」
そんな独り言をつぶやいて、俺は流れる涙をぬぐう。
今のでわかると思うが俺はふられちまった。これ以上ないくらいにな。
と、そこへノックの音が聞こえてきた。
「誰だか知らんがこんなときに来るなよ……」
俺は仕方なく玄関へと向かった。
「もうなんだよ、どちらさま?」
「名乗るほどの者じゃないけど、あなたに笑顔を届けに来たの」
そこには騒霊三姉妹の次女、メルランが立っていた。
「そんなの頼んじゃいない。悪いけど帰ってくれ」
「そんなこと言わずに入れてよ」
「いいから、帰ってくれ」
俺はドアを閉め、鍵をかけて中へ戻った。
「ねぇ、開けてよー!」
玄関からは鈍器でドアを殴るような音が聞こえてくる。
けど、今は正直放っといて欲しい。


しばらく時間がたったが、未だに音は鳴りやまない。
しびれを切らした俺は玄関へ行って怒鳴り付けた。
「いいかげんにしろ! はっきりいって迷惑なんだ! どっかへ行け!」
「うぅ、そんなこと言われたのは初めてかも。なんだか泣きたくなってきた」
「うるさい! 泣きたいのはこっちの方だよ!」
「う、うわーん」
彼女の盛大な泣き声が聞こえてくる。
は? 笑顔を届けに来たとかいって泣き出す? いったい何なんだよ!


「うっく、ひっく」
さらに時間がたったが、彼女はいまだに泣いている。
そんな彼女にドアごしに尋ねてみた。
「おい、今でも俺を笑わせるつもりかよ」
「当り前よ。笑わせないと帰れないわ」
本当によくやるな。でも、今では彼女を部屋に入れてもいいと思えるようになった。
だから俺は鍵を開け外へ出た。
「おい、もういいから。中に……」
だが、いつのまにか彼女はどこかへ行ってしまっていた。
「くそっ! 何だよ! 少しでも信じた俺がバカみたいじゃないか……」
そこへ窓が割れる音が聞こえた。
急いで部屋へ戻ると、トランペット片手に泣き顔の彼女が立っていた。
「あなたに笑顔を持って来たわ!」
そう言う彼女の顔はどこか誇らしげだ。
ただ、どうでもいいことだがそのトランペットで窓をぶち破ったのか?
そんなことを考える俺に彼女はいきなり小さな鏡を取り出して俺に突きつけてこう言ってきた。
「あなたの泣き顔笑えるよ♪」
「……、かもな」
彼女の言いようにはあきれてしまったが、確かに笑えた。

 -------------チラ裏---------------------------------------
「ひとつ言っておくぞ」
「何?」
「窓ガラスは弁償しろよ」
「め、めるぽーー!」
「ガッ」



11スレ目>>982


「メルラン、君の笑顔が大好きだ」


新ろだ630


 ふかふかのベッドの中。
 紆余曲折あって、メルランと相思相愛の仲となった俺は彼女のベッドで一人横になっていた。
 事の発端は、メルランが俺の家に半ば住み込むようになってしまったという事。
 少なくなってしまうだろう姉妹の時間を作ってはどうだろうか。
 という俺の一言で週に一度はこうして彼女達の家に泊まり込みで来ている。
 当初俺は留守番の予定だったのだが、メルランの我儘によって俺も一緒についていく事が決定。
 姉妹二人もその話に同意して今に至るというわけだ。
 尤も、お姉さんや妹さんがいる手前色々な制約はある。
 が、基本不自由なく過ごす事が出来る為に息苦しさは特段感じられなかった。

「まさか、三食おやつ付きが制約とは思わなかったけど」

 母親を手伝っているうちに料理にハマってしまった俺にとっては全然苦ではない事を要求してくるとは。
 あの二人も俺が料理を得意だと知っていてこうした条件を出してきたのだから、全く以って二人の気遣いには感謝しなければならないと思う。



 かちゃりとドアノブが動いた俺が俺の耳に届く。
 部屋主が帰ってきた事を耳で感じ取りながら、もそもそと彼女の為のスペースを作る。
 動いた際に布団から仄かなメルランの香りがした。
 一週間経っているとはいえ、長年愛用していた残り香は残っているらしい。煩悩退散。
 少し経てば、空けたスペースにメルランが俺と向かい合うように入り込んできた。
 にゅふふ、と何やら面白い笑みを浮かべ、暗闇で俺の姿を視界に捉えるとさらに口の端を釣り上げて俺に抱きついてくる。
 お返しとばかりに俺も彼女をひしと抱く。
 当然俺の身体に柔らかいものが押しつけられているのだが。

「……お前、下着は?」
「んー? 寝る時に邪魔だから取ってる」
「そうだったか?」
「そうよ」

 寝間着こそ着ているものの、やけに感触が伝わるなと思って聞いてみればなんとでもないというように返してきた。
 ちなみに下はどうかと聞いたら軽く頭を叩かれた。流石に上だけらしい。
 まあ、それでも十分に男の本能をくすぐられるには違いはないので。

「朝飯作んないといけないの、分かる?」
「うん、知ってる」
「……確信犯め」
「さて、なんのことやら」

 思わず漏れた悪態にメルランは楽しそうにとぼける。
 にまにまと笑うメルランと視線が合えば、二人してくすりと笑った。

「○○の身体あったかいー」
「ん、メルランもあったかい」
「えへへ」

 同調すると、メルランは顔を綻ばせながら俺の身体に顔を擦り寄せる。
 ……どうも彼女は男心をいじるのが上手だ。

「俺の身体味わってそんなに楽しいか?」
「うん、○○の匂いとか感じられて好きだよ」
「ごつごつとして筋肉質だから触り心地良くないだろ」
「女の子にとってはがっしりとした体格に心惹かれるの」
「そういうものなの?」
「そういうものなの」

 えへんと胸を張って得意気に女心を語るメルラン。
 それはそうとまた押しつけられるんだが、こいつ狙ってやってるんじゃないだろうな。
 なんて思うも、こちらとしては嬉しい限りなのでそのお礼とばかりにメルランの髪を梳いてやる。
 ふわふわとした髪はとても指通りが良くて、梳いてやる度に整髪剤の香りと彼女自身の香りが俺の元に届く。
 彼女もまた髪を梳かれて心地いいと思ってくれているのだろうか、目を細めながら俺の行為を享受している。

「○○も、大概だよね」
「何が?」
「こうやって髪を触ってくれたり抱きしめてくれる時の手つきが凄く優しいんだ」
「女の子の柔肌を乱暴に扱うなんて俺には無理な話だからな」
「む、女の子?」
「特にメルラン限定」
「よろしい」

 俺の返答に満足したのか背中にある手を動かしてよしよしと頭を撫でてくる。
 髪を梳きながらもう片方の手でこちらも柔らかい背中を摩るとまた彼女は表情を緩めた。

「ルナ姉やリリカの配慮に感謝しないとね」
「だな。お前の我儘を聞いてくれたんだから」
「えー。○○がここに来れたからじゃないのー?」
「俺は姉妹の時間を作って来いって言っただけでまさか自分まで当人だとは思ってなかったよ」
「○○のその心遣いは流石というか、嬉しいんだけどね」
「俺だって行けることなら行きたかったけど無理だと思ったからな。身を引いたの」
「でも、実際行けたじゃない。やっぱり、実行するにも何事も成し遂げようという意欲が大切ね」
「恐れ入りました」

 まあ、我儘を言ったのはメルランだが諦観し切っていた俺も悪いと言えば悪いに違いなかった。
 その点で言えば、我儘を言ってくれたメルランにも無茶を聞いて通してくれた二人にも感謝しないといけない事もまた確かなのだろう。

「メルランも、ありがとな」
「いや、まあ私もどうこうと言える立場じゃないんだけどね」
「となると一番お礼を言うべきはやっぱあの御二人さんだよな。破格の条件だったし」
「でも、何割かは○○のお菓子目当てよ。きっと」
「そこまで俺は自惚れられないけれど、そう思ってくれれば作り甲斐があるかな」
「そうよ。私を虜にしたんだもの」
「ライブの時の差し入れね。甘いもんは気分転換にもいいし、聴いてるこっちとしては何かお礼をしたかったんだよ」
「嘘、私とお近づきになりたかったのもあるでしょ」
「それも否定はしない」
「やっぱり」

 彼女達のライブを見て、トランペッターのメルランに一目惚れしてからどうやって話が出来るまでになるだろうか。
 そう考えた結果が自分の持ち味でもあったお菓子作りでの差し入れだった。
 最初の方は舞台にこっそりとメッセージカードを添えて送る程度だったのに、
 お菓子の入った籠を置くのがばれてからはライブ前の彼女達に直接渡せるまで親しくなっていた。

「○○のお菓子は彩りも華やかで凝ってるしね。毎回品を変えたり、食べた時の表情でどんな味が好みか探ったり」
「そりゃ、食べてもらう人には喜んで貰いたいからな。何よりも、惚れた女の子が美味しいと言ってくれる姿を見る時の嬉しさは格別」
「あ、はは。そこまでして私の事を想ってくれてたんだ。なんだか照れちゃうな」

 これだけの理由があればお菓子作りに精が入るのもなかなか道理だと思う。
 照れ隠しか、顔を隠すようにメルランは俺の身体に顔を埋めた。
 ふと何かに気付いたのだろうか、メルランは体の動きをはたと止めた。

「でも、さ。○○って本当体つき良いよね。お手伝いの関係?」
「ん、生活費を稼ぐ為に力仕事引き受けてるから多少は見栄えがいいのかな」
「それが、私達二人分の費用にしては随分ハードワークのような気がするんだけど。この前、様子見で見に行ったら相当ヘビーな仕事をやってたじゃない」
「……覗いてたのか」
「悪いとは思ったけど、ね。でも、私もライブで多少お布施を貰ったりするからそんなに頑張らなくてもと思って。私を頼ってもいいんだよ?」
「それもあるんだけどな。まあ、隠すつもりは無かったし、いずれ話すつもりはいたんだけどさ」
「なにを?」
「俺、お菓子の店でも作ろうかと思ってんだよ」

 俺の言った事に理解が追い付かないのか、メルランは顔を上げてぽかんとした表情で驚いたまままじまじと俺を見つめてきた。

「どうしても本格的に営業するとなるとそれなりに費用もかさむからさ。何とかなるべく自分だけで頑張ろうと思って」
「……そういうことなら言ってくれれば協力できたのに」

 拗ねてむくれるメルランの頭を今度は優しく撫でて、謝罪の念も込めて軽く額に口付けを落とす。

「ん、メルランを驚かせたくて。でも、店や機材なんかは家の物で代用出来るから粗方目処は立ってきたよ。それに、利点も多いし」
「利点って?」
「こういうお菓子の店は幻想郷にあまり無いから注目を浴びる」
「ふんふん」
「客足が伸びれば、ライブやる時の宣伝にもなるだろ。シークレットでやりたいなら話は別だけど」
「おお」
「そして彼女のメルランには毎月試作のスイーツは無料。勿論その他の商品の味見も無料ってことでどうでしょうか」
「……至れり尽くせり?」
「なかなかに良案だろ?」

 メルランは先程とは打って変わってぱあっと表情を明るくし、こくりと何度も頷いた。
 その顔に満足して不敵に笑えば、ずずいとメルランの顔が近付いて、気が付けば俺の額にでこぴんを一つ落とされていた。

「っ」
「でも、今度からはちゃんと私にも相談すること。驚かせようとしてくれるのは嬉しいけど、幸せを共有する方が嬉しいんだからね。分かった?」
「……そうだな、ごめんな」
「それじゃ、分かったお礼ってことで――」

 近すぎる距離がさらに縮まる。
 メルランとの間がゼロになるほんの前に、彼女の瞳が少しだけ色を変えたのが見えた気がした。

「…ふ………」

 お互いの距離がぴたりと重なると同時にどちらからともなく吐息が漏れた。
 これ以上近寄れないのにもっと近づきたくて抱きしめる力を強めると、彼女もまたそれに応えてくれた。

「私の為に喋らないでいてくれたんだよね。やっぱり○○がすき。だいすき」
「ああ、俺もメルランのことが――」

 二の句を告げないまま再び口付け合う。
 先程よりもより深く、より濃く、より長く。
 なんとなくそれがもどかしくて、メルランの身体を求めるように彼女の背中を掻くように身体を撫でる。
 絡まりあった舌が奏でる水音だけが耳の中に聞こえてきて、頭の中は次第にメルランだけで埋め尽くされるようだった。

「――はぁ……」

 唇を離すと、暗闇に映える銀色の橋と恍惚とした表情をした愛しいメルランの姿が見えた。
 理性の糸は今にも断ち切られそうだったが辛うじて繋がれてはいた。

「メルラン」
「……分かってる」

 こうして愛を確かめようとする時だけあの二人と交わした制約が煩わしく思える。
 情欲に溺れて眠ってしまえば、下手をすれば彼女達との約束を破るかもしれない。それだけは禁忌だった。
 三食付き、朝餉もきちんと作るというのはこうした行為の自制を暗喩しているのもだというのはなんとなく想像に難くなかった。
 あるいはルナサやリリカが俺たちの事を試しているのかも分からないし、からかうネタを探っているのかもしれない。
 おそらくはそのどちらもを多少なりとも孕んでいるのだとは思うけれども。 

「続きは明日、な」
「うん、期待してる。でも、もう少しだけ」
「……仕方ないな」

 逆に言えば一線を越えずに早く起きればお咎めは無いと解釈して。
 残念そうに哀しみながら、どこか期待をするどこまでも愛い彼女に俺はもう一度深く口付けを交わした。













「おはよう、メルラン」
「ふぁ……」

 結局あの後の口付け一つだけでどうにか色欲を抑えて朝を迎えた。
 カーテンの隙間から洩れる日差しは、未だ睡魔の残滓が燻る頭を覚醒へと導く。
 しかし、抱き締めあったまま眠りこけるのはお互いにお互いを欲していたのだろうかと、まだ靄がかかる頭の中でそんな事をふと思う。
 我ながら恥ずかしい考えに耽ってるのは寝起きの倦怠感のせいにしておこう。

「我慢は身体に毒だよね」
「だが我慢した分、楽しめる事は――」

 確か、と言おうとするとメルランは自らが使っていた枕を顔面に投げつけてきた。
 仄かな痛みと残り香の洗礼。

「むが」
「そういう恥ずかしい事は言わないっ」
「でも事実――」

 枕を払って、反論しようとすると今度は軽く唇を落とされる。

「それを言うなら……我慢は身体に毒。これもまた然り、よ」

 そう言うとメルランはぷいとそっぽを向いてしまう。
 ……少しいじめ過ぎてしまっただろうか。
 それならご機嫌を取る為にとびきり美味しい朝ご飯を食べさせないといけないな。
 思い当ったが吉日。善は急げ。
 頭が軽くなるにつれ湧き上がる空腹感を満たす為にも、メルランにお詫びのキスを一つ交わしてから彼女に食事の誘いを持ちかけようか。


新ろだ642


 テーブルに乗せられた色鮮やかな様々なプチケーキやお菓子の数々。
 それを見据える三人の少女の瞳はどこか輝いているようにも見える。

「○○っ○○っ。これ、全部タダで食べていいの?」

 甘い物には目が無いと言わんばかりにリリカが興奮を抑えられない様子で俺にくってかかる。
 メルランもルナサもリリカほど興奮はしていないものの、視線は目の前のお菓子に釘付け。
 分かり易い反応に思わず俺は苦笑する。

「試作品だからサイズは小さいけどな。一応商品化するラインナップ全部作ってみた」
「お腹を空かせて来てっていうのはこういう意味だったのね」
「私と○○だけで判断するのも時間が掛かっちゃうだろうから姉さんやリリカも連れて来たってわけよ」
「女の子の意見ってのは参考になるし。紅茶の茶葉もあるからそっちも味見してみてな。甘いもんがあるから紅茶は全体的に甘さ控えめだけど」

 沸かしたばかりの紅茶を目の前のカップに注ぐ。
 香りの良い紅茶の匂いが辺りを包むと、リリカが我慢出来ないとばかりに身を捩らせる。

「はいはい。そこの赤い子が限界みたいだからもう食べてもいいよ」
「やたー。はむっ」
「じゃあ、私はこっちのチョコレートケーキを貰おうかな」
「じゃあ私は……」
「ショートケーキだろ? さっきからちらちらと目が行ってるのがばれてるって」
「○○、ありがと」

 メルランの視線の先にあったケーキを一つ小皿に取って差し出す。
 ケーキを受け取ったメルランはふわりと微笑み、それを一口食べると顔を綻ばせた。
 その光景を見ていたルナサとリリカは目を丸くして俺達を見やる。

「……どうした?」
「いや、なんていうか、息ぴったりだなーって」
「そうね。ここまで気配り出来るのも凄いと思う」
「そりゃ、毎日見てるからな」
「見られてますから」
「……姉としての矜持が」
「はいはい、ごちそうさまー」

 そう言ってこの話は終わりとばかりにリリカは目の前のケーキを一口に食べる。

「むむ。冷たいけど、美味しいっ」
「ああ、オレンジのソルべとムースを混ぜてみた。これから暑くなるからいいかと思って」
「このチョコレートケーキも美味しい」
「流石ルナサ。ザッハトルテに目が行くとはお目が高い。杏のジャムが甘いからチョコはビターにしてみた」
「紅茶のジャムにもアプリコットがあるね」
「そ。杏仁豆腐もあるし、お菓子にとって杏はなかなか需要が高いんだよ」

 マカロンに手を伸ばしながらお菓子の簡単な解説や質問に答えていく。
 しばらくして、お菓子の数も減っていくと話題がいつの間にか色恋沙汰へと変わっていった。

「しっかしメル姉に彼氏だなんてねえ」
「本当。○○と初めて会った時なんか一言も喋らなかったのに」
「いや、それは私も一目惚れだったわけで……」
「あれ、それ俺も初めて聞いたんだけど?」
「うがー! 私の話はいいの! それより姉さんやリリカはどうなのよ」
「私達は全然」
「ほんとほんと。分けて欲しいくらいだよねー」
「あげないわよ?」
「もう奪われてます」
「……リリカ。軽率過ぎ。甘いのはもう要らないわ」
「……私は甘党だけど、流石にこれはねー」

 と、言いつつリリカはお菓子に手を伸ばすとはこれ如何に。
 ルナサは紅茶をぶくぶくと泡立てつつも、新しいジャムに手を伸ばす。
 ……言ってる事とやってる事が違うぞ。

「っとと、メルラン。顔、顔」
「え?」
「ほら、クリーム付いてる……うし、取れた」

 食べながら喋っている途中に付いたのだろうか。
 メルランの口元は先程のショートケーキの生クリームやらスポンジやらで汚れていた。
 生クリームなら特段直接手で取っても汚れはしないだろう、舐めれるし。
 とかそんな事を頭の片隅に思いつつメルランの口元を俺の手で拭ってやると、ケーキの欠片の主導権は俺に移った。
 さて、食べてしまおうか。と欠片を口に入れようとするとメルランが物欲しそうにケーキの残骸に視線を送っているのが見えた。
 思わず口を開けるのを憚ってしまう。
 ……ああ、そういうことか。
 ルナサとリリカは俺の行動が中途半端に止まった事に首を傾げている。
 その二人の視線を振り払うように口へ持っていこうとしたケーキの付いた指をメルランに差し出すと、メルランは満面の笑みで躊躇い無く俺の指ごと口に含んだ。

「……はむっ」
「……うあ」
「おー」

 メルランの突飛な行動に呆然としていたルナサは頭の中で妹の行動を理解すると熱に浮かされたように顔を赤く染め、リリカは思わずといったように驚く。
 最早クリームは無いだろうに、それでも一心不乱に指を舐め続けるメルランに俺は為す術も無くただ只管にメルランの行為を享受していた。

「ふ……んん…れろ………ぷはっ」

 メルランがようやくといったところで口から指を離すと彼女の唇と指先がほんの一瞬だけ繋がってすぐに消えた。
 俺の指がふやけるかというくらいまで堪能して満足したのだろうか。
 メルランはどこか熱っぽい瞳で俺を見つめてくる。

「えへへ。美味しかったよ」
「っ」

 お菓子を食べたからだろうか、或いは他の理由があるのか、口の中がやけに乾いているのに気付いた。
 ああ、駄目だ、それ反則。可愛過ぎる。
 俺は思わずテーブルから身を乗り出す。そしてメルランをそのまま引き寄せ――

「私達は蚊帳の外みたい」
「だねー」

 ――ようとしたところで聞こえてきた二人の声に瓦解しかけた理性が繋ぎ止められた。
 と同時に、徐々に冷静になってきたことで暴走しかけた自分を思い出してしまい、思わず顔を背ける。
 ……穴があったら入りたい気分だ。

「……見境無くなるところだった」
「いや、あれは無くなってた。間違い無く」
「私個人としては続きを期待したんだけどねー。姉さんがどんな風に愛されてるのか見たかったり?」
「……ねえ、何の話してるの?」

 メルランはきょとんとした表情で俺とルナサとリリカの顔を見比べている。
 ……あれだけの事をしておいて俺の理性を砕いた事も無自覚ですか、そうですか。

「……何でもない。さて、お菓子も粗方食べたしそろそろお開きにしようと思うんだけど」
「話を逸らした」
「はて、何のことやら」
「あ、それなら口直しにコーヒーが欲しいかも。勿論、ブラックでいいわー」
「右に同じく」
「はいはい。メルランは?」
「……ふぇ?」
「口直し。何かご希望でも?」
「あ、うん。じゃあ、私もそれで」
「了解」

 そうして表向きはコーヒーを淹れる為、実際には二人の生温いような視線から逃げる為に厨房へと足を運ぶ。
 ……そういえば、指がべとべとだな。
 唾液でぬめった指の感触をどうにかしたくて思わず口に含む。

「……あま」

 果たしてそれは彼女の食べたショートケーキの味か。それとも。
 とはいえ、流石にべたべたな手ではソーサーすら触れる事が出来ないのが事実。
 湧きあがる邪な考えを振り払うように頭を振り、俺はコーヒーを淹れる為にも名残惜しいような気持ちでまずは手を洗う事から始めた。


最終更新:2010年06月23日 22:45