妖夢3



(レス番等不明)


――― 一人前とは何か?

――― 半人前とは何か?

――― 何が何を決めるのか?









「まったく…、幽々子様も今更大掃除なんて…」
幻想郷、そこの上のまた上の霊界で妖夢は一人愚痴をこぼしていた。
そう言うのも今は正月もすでに終わったとき、やっと宴会から逃げられた時期だったのだ。
「……しかも、自分でやらないし…」
なんて言いながらも着々を倉庫の物を整理しながら片付けていく。
と、
「あれ…? この刀…見覚えが…。う~ん、何だっけ…」
見つけたのは古ぼけた、妖夢の身長に届くか届かないかの刀だった。
そして何故か柄が一部切られていた。
考える事、数分。
「………あ」

―――――これは、昔々、妖夢におこった、とても大切な、恋のお話。






<スキマは今回出ません>





――ズガンッ!
「くっ…」
弾き飛ばされて地面に叩き付けられる。
これで何回倒されただろう…。
「まだまだだな、妖夢。単純すぎる」
そう言って目の前に現れたのは、私ぐらいの大きな刀を持った○○さん。
本来霊界には人間は来れないのだが、ひょんなことからここに来て私の稽古相手をしてくれている。
「二本あるんだから、攻撃方法は様々あるぞ」
この人、腕は確かなんだけど……、性格が…。
「さてと…。今日はこれぐらいにしておくか」
「いえ、まだやります」
「無理だな」
「なんでですか?」
そう聞き返したそのとき。
「妖夢~、ご飯まだ~?」
遠くから聞こえたのは幽々子様の声。
「ほら」
その声を聞いて勝ち誇ったように見てくる○○さん。
……なんかむかつく。
「そうですね!」
そう言ってからご飯の準備をするために歩いていく。
「あー、それと茶、頼むわ」
あんにゃろう、幽々子様が大食いと言う事を知っていてそう言う事をいってくる…。
「それぐらい自分で用意してください!」
「お? ついに反抗期か?」
「違います!」
あー、もう。ああ言えばこう言う…。


「はい、お茶です」
そう言いながらお茶を置く。
「ん」
そう言って茶を飲む○○さん。
…この人、好物が日本茶らしい。
「やっぱり、妖夢が淹れた茶は美味いなー」
「え? そ、そんな事言っても何も出てきませんよ!?」
少し赤面した事は言いたくはない。
「元々期待すらしてないから、安心しとけ」
私の言葉をさらっとかわしながらも攻撃してきやがる○○さん。
「……後ろから切るのはありなのか?」
「立派な戦略だな。武士道には反するがな」
こんにゃろう、絶対に来ないと思って言ってるなこいつ。
「…でも、○○さんは凄いですね」
「ん? なんでだ?」
「一人前で、剣の腕が凄くて…。私なんてまだまだ半人前です」
「何言ってんだ? 妖夢は半人前じゃないぞ?」
思わぬ一言に耳を疑う。
「…私が半人前じゃない?」
「妖夢はな……」
ここで一旦区切る○○さん。なんですか、気になりますよ。
「……0.25人前だよ」
…はい?
「れ、れぇてんにぃごぉ人前?」
「半分人間で半人前だから四分の一人前だ。つまり0.25人前だ!」
「なっ……」
少し期待をしてしまった自分がなんかむかつく。
「あっははははは!」
「ぜ、絶対に! あなたより強くなりますからね!!」
「おお、頑張れ。何百年たつかわからんがな! ははははは!」
この人と言い合いで勝ったためしがない…。


<今回、黒白も紅白もでません>



夜。私は今、脱衣所にいます。
「まったく…、あの人はいつもいつも…」
その後の稽古でも一度も勝てなくて…って、当たり前か。
「剣の腕は確かなんだよねえ……」
そう言いながらお風呂に入る準備を進める。
「……あの性格が…」
そしてお風呂のドアを空ける。
――――カラカラカラ
「おぅ」
――――ピシャッ!!
えぇぇぇぇ!? ○○さん!?
「な、なんであなたがそこにいるんですかっ!!」
「なんでってな、風呂に入っているからいるんだよ」
「そ、それはそうですけど!」
あー、言葉が見つからない。それ以前に動転しすぎて!
「っていうか、そこにいると変わらんぞ」
たしかに、ここにいたら○○さんが出るときに会うことになってしまう。
「入れ。また着替えるの面倒だろ」
「し、しかし…」
「知らん仲じゃないだろ?」
「わ、わかりました…。失礼します…」
――――カラカラカラ
そのとき○○さんは湯船に使ってのんびり日本茶を…。
「えぇぇぇぇ! ○○さん、なんでお茶持ってきてるんですか!」
「ん? あー、飲みたかったからな」
「いやしかし! 普通持ってくるのはお酒ですよ!」
この人は…、いくら好きだからってお風呂の中にまで持ってくるのか。
「そういう単純な考えだから妖夢はいつまでも0.25人前なんだよ」
「関係ありません!」
そう言いながらも湯船に入る。もちろん距離をとって。
しばらく二人とも何も喋らなかった。その中にお茶を啜る音だけが鳴る。
「…」
「…」
ズズズズズ…
「なあ、妖夢」
やがて、沈黙に耐えられなくなったのかお茶が無くなったのか、○○さんが話しかけてきた。
「なんですか?」
「剣ってのはな、心と同じなんだよ」
突然剣の話になったので少し驚く。
「…?」
「心が迷えば剣も迷う。怒れば直線的になったりもする」
「…はぁ」
「そうなるとな、妖夢が持っている白楼剣は良いんだ。迷いが無くなるからな」
「…そうですか」
この人、剣の話になると結構真面目になる。
「何時も平常心…とは言えないがな、戦いのときは平常心が一番だ」
「…大丈夫です」
「お、そうだったのか? いつも直線的、単純明解だからてっきり怒ってr「違います!!」
…わけではなかった。


<今回、騒霊三姉妹もでません>



―――そして月日が流れて。 おーみそかーなんだ。 そーなのかー。
「妖夢、○○、今日は大掃除するわよー」
「幽々子様、それは普通大晦日前にやるものです…」
「んー、まあいいじゃないか」
今日は大晦日、今月に入って大掃除は何時やるのかと思っていたが…今日になった。
「それじゃあ、妖夢は倉庫の方。○○は部屋のほうをお願いね」
「わかりました」「ん」
「それで私は…、ここでお茶を飲んd」「「駄目です」」
「二人して言わなくても良いじゃない…うぅ」
そう言いながら泣きまねをする幽々子様、この光景は何度見たことか。
「……はぁ」
…先が思いやられる。


「うわ、何これ」
倉庫に入ってみて一言目がこれである。
そこら中に埃が溜まっていて、物もグラグラですぐに落ちそうな状況である。
「…やるっきゃない」
こうして私と倉庫の戦いが始まった。


「……ふぅ、やっと終わった」
開始からおよそ二時間前後、やっとこさピカピカになり、物もしっかりと整頓された。
「おー、綺麗だな、こりゃー」
と、いきなり入ってきた○○さんが感想を漏らした。
「ええ、そうでしょう。…って、サボっちゃいけませんよ!」
「大丈夫だ、妖夢が何時も掃除してくれたおかげでこっちは少しの労働で終わった」
……神様、非情すぎます。
――――ドサドサッ!
「え? あ!なにやってんですか!」
なぜか○○さんがせっかく私が整理したところを散かしたのだ。
「ここはな、こうやって…」
そう言って自分で散かしたところを形を変えて直していく。
「それでこうやると…。ほら、こんなに隙間が出来た」
なんと場所は変わらないのにさっきより少し物が置けるスペースが出来たのだ。
「す、凄い…」
「…妖夢、お前は掃除も半人前なのか?」
「う…」
あれを見せられてしまっては反論も出来ない。私は只俯くだけだった。
「ん、まあ、これからだろ」
「…へ?」
初めて慰めに似た言葉を聞いたので、思わず目が点になってしまった。
「それよりも、あとこことここが…」
――――ドサドサッ
またまた私が整理したところを散かす、と言うよりは外に出した。
そしてまた自分で整理してスペースを空ける
「あと、こことここと…」
――――ドサドサッ
……私はそこまで下手なのか?


大掃除が終わった頃にはもう日が沈みかけていた頃だった。
「あー、終わったわね」
「幽々子様やってなかったのでは…?」
「失礼ね、ちゃんとやったわよ」
「さいで」
三人ともお茶を飲みながらゆったり話をしている。
「…あと何時間かしら?」
「さぁ?」
「ここに除夜の鐘なんて無さそうだし」
「あ、そう言えば幽々子様。今年は宴会しないんですか?」
「ええ、今年は少しゆっくりして…」
そんな言葉を幽日々子様の口から聞けるなんて…。
「三人で飲むわよ!!」
訂正、やっぱり大晦日にゆっくりなんて言葉は幽々子様は絶対言いません。
「はい…」
「ん」ズズズズズ…
この人は…。興味が有るのか無いのか全然わからない…。


――――三人での宴準備中…

「ねぇ、○○」
「ん?」
「これ」
そう言って取り出したのは伝説の水道水(酒の銘柄)である。
「それを?」
「これを、こうするの」
妖夢の杯(お酒はあまり飲まないで甘酒)に注ぎ込んだ。
「…今更だが…。妖夢は、大変だな」


――――結果

「○○さ~ん、飲んでますかぁ~?」
「…お前は飲みすぎだ」
べろべろに酔った妖夢の出来あがり。
それを見た二人の反応はというと、
「あら、これは面白いわね」
「…ストレス溜まってんだろうな」
一人面白がり、一人同情。
ちなみに片手に水道水、もう一方に杯と酔っ払い親父の格好である。
「飲みすぎじゃないれすよ~」
「……っていうか絡み酒だな」
そして現在○○に絡み中。
またまたちなみに、普段は絶対に見せない酔っ払いの顔で○○に枝垂れかかるようにして飲んでる。
「私のお酒が飲めないんですかぁ~!?」
そう言って○○を睨みつける。が、酔っ払って緩んでるのか、全然迫力が無い。
「お前の酒じゃないだろ」
「そんな事は関係無いですよぉ~」
そんな事お構いなしに飲みつづける。
「………この妖夢は苦手だ…」
「あら、あなたとあろうものがお手上げ?」
「相手してみれば嫌でもわかる」
「ちょっと~、何話しているんですか~?」
「い、いや…」
酔っ払い妖夢強し。

―――数分後(○○達には数時間と感じた)

「ふみゅ~」
「お、おい妖夢? …って、寝たのか」
「御疲れ様」
「あー、どうも」
そう言った後、妖夢の安心した寝顔を見て、頭をなでながら。
「しかし・・・、酷使し過ぎじゃないか?」
「大丈夫よ。たぶんね」
「…そうかな」
「それより、あなた…本当に良いの?」
「ん? ああ、良いさ」
「別に、違う日でもいいと思うんだけど…」
「逃げ道を与えたら、その分弱くなるから…な」
「大変ね」
「たぶん、二百由旬(たしか1200キロ)を掃除するよりは簡単だと思うがね」
「……それだけなら、ね」
「……確かに」
「それじゃ、飲みましょ?」
「ああ、ちょっと待ってくれ。妖夢を布団に寝かせておかないと…」
そう言って妖夢を背負ってたちあがる。
「面倒見、いいわね」
「……普通、だな」
その顔には酔っ払いと違う赤らみがあった。


<夢の中>


…あれ、ここは? 
っていうか目の前に顔つきの鉄の塊が…? 名づけるとしても、人面……なんだろ?
『僕、○ーマス!!』
うわぁぁぁぁぁぁ! じ、人面鉄塊がしゃ、喋った!?
『機関車、○ーマス(森○レオ』
どこからか、声が!! 何これ!?
『“みょん、切れる” という、お話(やっぱり森○レオ』
みょん!? なんですかそれ!
『このお話の出演は(悲しいけど森○レオ』
終わった!? 私一言しか喋ってないですよ!
『○ーマス。そして魂魄妖夢(くどいが森○レオ』
なぜ私が!! ってういかお話じゃありません!
『僕、○ーマス!!』
ゆ、夢だ。これは夢です!!


<悪夢です>


「うわっ!! ……あ、本当に夢だった」
それにしても、何だったんだろうあの夢は…。
「え~っと、私、何時から寝てたんだっけ…? って、今日は正月! …あれが初夢!?」
あの初夢は悪夢だ、今日は悪い事が起こりそうです…。
「とりあえず、朝食の用意を…」
そう言って台所に向かう。


「あら、おはよう」
「ゆ、幽々子様!? なぜそのような事を!?」
なぜか台所で幽々子様が朝食の準備をしていたのだ。
「あら、偶には楽をさせたいって言う私の優しさよ」
「は、はぁ…」
「あ、そうそう。○○からの伝言」
○○さんから? っていうか、幽々子様に伝言をさせるなんて…。
「今日の、稽古は…夜だけよ。しかも子の刻(11時)に、らしいわ」
「そうですか?」
子の刻に? …○○さんは何を考えているんだろう?
「それより、昨日の事覚えてる?」
「昨日の事、ですか? …え~っと」
…駄目だ。あの鋼鉄の人間しか頭に出てこない…。
「あらあら、重症ね」
「???」
「さて、私は朝食の用意があるから妖夢は休んでなさいな」
「……はい。……?」
小首を傾げながらも、暇なので庭へと向かう。


「おう、残念だがここにも仕事は無いぞ」
庭には来てみたものの、○○さんに仕事を取られていた。
「…なんで二人とも私の仕事を無くそうとしてるんですか?」
「俺は気分でやってるだけだ、やりたきゃやりゃ良いが?」
…でも、向こうがやってくれるなら良いか。
「あ、そうそう。聞いただろうが、今日は子の刻にやるぞ」
「なんで子の刻にやるんですか?」
「……正月だから、だな」
「?」
やっぱりわからなく、小首を傾げる。
「ほらほら、俺が居なくても稽古は出来るだろ?」
「そりゃ、そうですけど…」
「ま、夜までのんびりしてるんだな」
そう言った後、○○さんは一人で黙々と掃除をはじめた。
…そういえば、一人でも稽古できましたね。




<シリアスぶっ飛ばし注意報>



――――そして、夜


いつもと同じ場所に来てみると、普段は私よりも遅く来るはずの○○さんが居た。
「…来たか」
「来ました」
「……妖夢、今日は稽古じゃねえ」
「?」
「これが出来ればお前は一人前だ」
「え? そうなんですか?」
「……それはな、………殺し合いだ」
○○さんの口から出た衝撃の一言。
「なっ、何を言っているんですか!?」
「お前と俺で、生死を賭けた真剣勝負だ」
「な、なぜそんな事をしなければ!」
「……なら、逃げるか? 逃げて、俺に殺されるか? 何もせずに、死ぬか?」
「…………!」
「いいか、これはお前が死ぬか一人前になるかの戦いだ。お前は、一人前になりたいんだろ」
「しかし、そこまでしないと一人前にならないんですか!?」
「…殺し合いにまでしないとお前は本気の本気が出せそうに無いからな」
「…しかし!」
「くどいぞ、妖夢。殺し合いの中にだって色々ある」
「………」
「時間が惜しい、始めるぞ」
そう言うと、○○さんは私ほどにもある刀を取り出した。
(…殺し合いの中にだって、色々ある…か)
私も、楼観剣と白楼剣を取り出して構える。
「行きます!」
「…ああ」

最初に仕掛けたのは妖夢だった。
素早く懐に入り、左からの切り上げ。それを○○は下がって避けた。
妖夢は切り上げに使った力をそのまま利用し、回転して真横に切った。
○○は剣を縦に斬撃を受け止める。
――――ガキンッ!!
鉄と鉄がぶつかる音。その音が鳴り終わる前に妖夢は下がっていた。
この間わずか、数秒。

「…まだまだだな」
次に仕掛けたのは○○。
妖夢の間合いに入らないようにしながらも刀を素早く振ってきた。
それを妖夢はギリギリで避ける。
と、○○が放った下の斬撃を妖夢は大きなジャンプで避けてしまった。
「! しまった!」
「言った筈だ! 飛ぶときは隙を作らないようにしろとな!」
○○は下にある刀を両手で持ち、空中の妖夢に向かって切り上げる。
「くっ!」
妖夢はこれを二本の刀でガードするが、そのまま切り上げられて両方の剣は思いっきり上に上げられてしまった。
(拙い!この状況では必ず斬撃が…!元に戻す時間すらない!)
○○は軸足を使い回転し、そのまま斬撃を――――
――――ザシャァッ!!
せずに後ろに下がった。
(!?)
その行動に妖夢は困惑したが、そのまま○○に向かって直進で走ってきた。
それを見て○○は真横に刀を切った。
(しゃがんでいれば蹴る。…飛ぶ、はずは無い。)
そう○○は読んでいた。
――――ブオンッ!
やはりしゃがんだか、そう○○は思っていたが、妖夢は違うところにいた。
(なっ!)
妖夢は―――
(刀に乗るだと!?)
そのままのスピードで刀に乗り、○○に向かって走っていた。
そして、○○の胸辺りに足を乗せ、剣を刀の柄に当てて、
「はあぁぁぁぁ!!」
剣を思いっきり横に振り、○○の手から刀が離れた。
そして胸の上で思いっきり飛びあがった。
――――ドサッ
「ちっ!」
飛びあがった妖夢は二つの剣を逆手に持ち替え、○○の喉元目掛けて―――
「やあぁぁぁぁ!!」

――――ザシュッ!

――刺さず、喉ギリギリ所の地面に刺したのだ。




…負けたか。しかし、まさか剣の上に乗られるとは思っていなかったな。
「妖夢、強くなったな」
「……な…で」
妖夢が何かを言った気がしたが、良く聞こえなかった。
「?」
「…なんで。……なんで、あの時切らなかったんですか!!」
良く見ると、叫んでいた妖夢は涙を流していた。
「妖夢、そういえばお前は俺の事を一人前、一人前って言ってたな」
「質問に答えてください!!」
「………わかった。…それはな、妖夢。お前が好きだからだよ」
「なっ…」
「俺はな、半人前なんだよ」
「半人前じゃありません!! 立派な、一人前じゃないですか!!」
「…妖夢、なぜ一人前だと思える?」
「そ、それは剣術が凄く上手いですし…」
しどろもどろになりながらも答えてきた。…が、
「妖夢、お前は一人前について何か勘違いをしている」
「え…?」
「……一人前ってのはな、剣の腕なんて二の次なんだよ」
「どういう……ことですか…?」
「一人前の条件はな――――――
             ―――――たとえ、大切な人でもぶった切れる人のことを指すんだよ」
「……え」
…やはり、驚いたか。無理も無い。
「つまり、どんな大切な人でも、どんなに好きな人でも、戦いには余計な感情なんだよ、それは。
 敵になれば、まったく関係なく切れる人のことを指すんだよ、一人前ってのは」
「待ってください! なんで、それを知ってるんですか…?」
「……昔な、俺もそう考えてた。一人前ってのは強い人のことを指すってな。
 …だが、そんな考えは一気に覆されたよ。………ある日。俺の同じ剣道場に通っていた奴がな…」
ここで一旦区切る。
「…その人が、何をしたんですか?」
「俺が住んでいた村の人間を、全員切り殺した」
「!!」
「俺は理由を聞いたさもちろん。そしたら奴は『俺は一人前だからな!』って言ってきたんだよ。そして、俺にも切りかかってきた。
 ………俺は、とっさに奴の刀を奪って切り殺したよ」
「…………そ、そんなの、人間じゃ…ない」
「ああ、そうだ! 人間じゃねえ! だから俺は、一生半人前という道を選んだんだよ!!」
「そう、だったんですか…」
「…そうだよ。………妖夢」
「…なんですか?」
「俺を、―――殺せ」
「な、なぜですか!」
「お前は、一人前になりたいんだろ?」
「なりたく…なんか、…ありません! そんな、そんな一人前になんか、絶対に!! だから、あなたを、殺しません!!」
「……だが、無理…だ」
「なんで!!」
「お前も知っている通り、俺は只の人間だ。そんな只の人間が冥界に居て良いと思うか?」
「……普通は、思いません」
「そうだろ。…それでな、あの桜に、生命力奪われてんだ」
そう言って、一番でっかい桜を指す。
「さ、桜に…?」
「そう、でも幽々子にあの桜を止めてもらってたんだが…どうやらその封印が効かなくなってきたらしい」
「でも、また封印しなおせば…!!」
「無理だ、封印を解いた瞬間に桜に一気に生命力を奪われて終わりだよ。そうしたら、俺はあの桜の一部になってしまうのさ」
「な…!」
「だから、妖夢。殺せ」
「変わらないじゃないですか!!私が殺しても、桜に殺されても!」
「良く考えろ。桜に殺されたら未来もへったくれも無いがな、人に殺されれば、転生の可能性があるだろ」
「あ…」
「わかったか? ……妖夢、俺がお前に殺されたら。その刀持っておいてくれ、また来るからな。
 早くしろ、時間が無い」
「…しかし、私にはあなたは…殺せません。…でも、また会えると、なると…」
「妖夢!! 何を迷ってんだ! …その白楼剣は、…迷いを断ち切る刀なんだろうが!!」
「!!」




――――ズパッ!!




「…あ、ああ……」
時間が無い、もしかしたらまた会えるかもしれないとは、わかっていた。
しかし、 『自分の好きな人を躊躇無く、迷い無く殺してしまった事』 が妖夢は許せなかった。
「あああああああぁぁぁぁぁ! 私が、私がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
 ああああああぁぁぁぁぁっ!!! あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
妖夢は胸の苦しみに耐えながら叫び、泣きつづけた。
○○との様々な思い出がよみがえる。
(0.25人前だ! あははははは! なっ…!)
(なんであなたがそこにいるんですか! なんでってな、風呂に入っているからいるんだよ)
(あ!なにやってんですか! ここはな、こうやって…)
一つ一つの思い出が胸の苦しみを強くし、心を傷つけた。
それでも、妖夢は叫びつづける。
その叫びは、二百由旬もある庭だけでなく、冥界全体に響き渡った。

そして、どのくらいたったのだろう。叫び、泣き疲れた妖夢はその場に倒れた。

――――○○の死体は無く、その場には、妖夢と、二本の剣と大きな刀が残されていた。


<『僕、○ーマス!』>



「…私は?」
目がさめて一番最初に視界に入ってきたのは、天井だった。
「あ、目がさめたかしら?」
「幽々子様…、私は…」
「何も言わなくて良いわ、全部、知ってるから…」
「そう、ですか…」
「彼が死んだことは、残念だわ。…でもね、妖夢。○○は、何も残さずに死んだわけじゃないわよね?」
「…ええ、私に、大事な事を、残して…死にました」
「ならば、その事を忘れずにするのが、あなたの勤め。違う?」
「いえ、その通りです…」
「…○○の剣は、しまっておいたわ。…また会えるかもしれないからね」
「…………」
「さてと、あなたは休んでなさい」
「…はい」
そう言って幽々子様は出ていった。
「………あなたが言った事は、絶対に忘れません」




<心にも無いことを・・・>



「そういえば…そんな事があったっけ。なんで、私忘れてたんだろう…こんな大切な事……」
鞘に収まったとても大きい剣を見ながら妖夢は静かに泣いていた。
「………あなたの言っていた事は、もう、忘れません」
そう言って涙を拭いて出ようとしたときに、
――――ドサドサッ!
(あー、こことここと…)
「え!?」
それは意地悪ながらも不必要な事はしなかった、紛れも無い○○の声だった。
――――ドサドサッ!
(駄目だな、妖夢は。掃除は半人前じゃだめだぞ)
その声に妖夢は、涙を拭かず、怒りの表情に喜びの色を添えて。


○○との思い出の刀を






「やりすぎですっ!!!」







思いっきり蹴飛ばした。




End


~~~~あそ(び)がき~~~~

どーも、最近寒いですね。
さて、世間話は置いといて。捨てて。焼いて。炭にして(ry

今回は妖夢のお話でしたが…、皆様どうでしたでしょうか?
今回もシリアスが全快です。たぶん前回よりも。
なんで他の人は甘いの書いているのに貴様だけなんでシリアスなんだー! 
って思っていらっしゃる方、ご尤もです。
だがしかし、自分が考えるイチャスレとは、チョコみたいなものなのです。
基本的に甘いですね、様々な人が甘いのを作ってくれておりますから。
ですが、その中にちょっとした苦味を入れてみては、どうでしょうか? そうなると味がより一層、引き立つと思うのです。
だから、自分はシリアスなSSを書きます。しんみりさせます。そしてその後に他の人の作品を見て、萌えて、笑ってください。
………あとがきまで真面目に書いてどーすんだ…。


さて、真面目を抜けてっと。

実は、妖夢もフランドールも続きを考えております。
二つを繋げて、ハッピーなエンドにしつつ、少しカオス(混沌)風味? なんじゃそりゃ。
ついでにフランと○○の出会いとか、風邪引いたときの○○と慌てるフランとか、考えてます。

…投稿していいか、正直迷ってます。できれば意見を聞かせてくれると…。

…あかん、これも真面目や…。





さて、今回も改造シーンを…。


改造、1

飛びあがった妖夢は二つの剣を逆手に持ち替え、○○の喉元目掛けて―――
「やあぁぁぁぁ!!」

――――ザシュッ!

「グハッ!!」
「私の勝ちです!! これで一人前ですね!」
「………そうだな」



改造、2

「彼が死んだことは、残念だわ。…でもね、妖夢。○○は、何も残さずに死んだわけじゃないわよね?」
「いえ、何も残してません」
「…本当?」
「ええ」
「え、えーっと…、犬死?」
「誰が犬よ」
「…そこのメイド、帰りなさい」


さて最後、森○レオさんにしめてもらいましょう!!(何

『このお話の出演は。○○、幽々子、○ーマス、森○レオ、咲夜。
 そして、妖夢。 でした』

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3スレ目 >>595(うpろだ0001)


 如月 某日

 白玉楼に新たな住人、○○を迎え入れる。
 話を聞く限り、幻想郷の外の世界から冥界に迷い込んで、そこを妖夢に発見されたみたい。
 妖夢が○○を連れて来た時は、上手くやったわねって言いそうになったけど……
 そういう仲じゃなかったのが、少し残念ね。
 ○○は生きた人間だから、冥界のみんなが少し騒がしい。いずれは慣れると思うけど……。


 如月 某日

 冥界も落ち着きを取り戻し、今日も私は書をしたためる。
 日記って、毎日つけるものなのかしら?書きたい時に書けばいいじゃない。
 ○○が冥界に迷い込んだ原因、私なりに考えてはみたものの、やっぱり紫が何かしたのかしら。
 ……ううん。きっと寝返りでもうったのよね。
 解ることだけ○○に伝えたら、素直に受け入れてくれた。意外と順応性あるのね。
 春になれば起きるから、○○にはその時まで我慢して貰いましょう。


 如月 某日

『世話になるばかりでは悪いから』
 と、○○に何か手伝えないかと聞かれた。
 雑事は全て妖夢が片付けてくれるから、将棋の相手でもしてもらおう……そう考えていた矢先に、
『では家事の手伝いをお願いします』
 そう言われて、妖夢に連れていかれてしまった。
 ……取り残されたのはちょっと寂しいけど、晩御飯は期待出来るわよね?


 弥生 某日

 暖かくなって来たから、今日は外で妖夢と剣の稽古。
 雪ももうすぐなくなるから、そうなったら庭師の仕事も再会ね、妖夢。
 私に打ち込んでくる剣閃を見つつ、そんなことを思う。
 やっぱり、以前にも増して速く、鋭い。私だって、受けるのだけで精一杯。
 私達を離れた所から見ていた○○は、相当驚いていた。
 妖夢が庭師というのは伝えていたはずだけど……外の庭師は、剣は使わないのかしら?


 弥生 某日

 普段なら絶対に寝ている深夜に目が覚めた。
 遠くから玉砂利を踏む音と、何かの風切り音。
 狼藉者なら、妖夢が切り捨てるはずだけど……。
 愛用の槍を手に、そろそろと庭の方を見渡す。
 ――結局、音の主は木刀で素振りをしていた○○だった。
 話を聞くと、私の稽古を見てから、毎晩こうして訓練しているとのこと。
 気持ちは何となく解るけど、とりあえず夜は止めて~。


 弥生 某日

 私の稽古の相手に、○○を指名する。
 二人とも驚いていたけど、これもちゃんとした睡眠のため。
 加えて、妖夢の庭師の仕事の手伝いも行ってもらう。
 見て習うなら、近くで見る方が勉強になるわよね。
 ……でも、最近妖夢の様子が少し変なのが、ちょっと気になるのよね。
 もしかして……風邪かしら?


 弥生 某日

 ○○が私に助けを求めて来た。
 妖夢が妖忌みたいに、とても厳しく指導でもしたのかしら?
 ……と思っていたら、実は全く逆みたい。
 妖夢に指示を仰ごうとすると、自慢の駿足で逃げられてしまうのだとか。
 仕方が無いから、彼には私のおやつでも作って貰うことに。
 そのうち、個別に妖夢に話を聞いてみることにしましょうか。
 そんな意地悪する子じゃないのに……どうしちゃったのかしら?


 弥生 某日

 妖夢に先日の件について、それとなく尋ねてみる。
 もちろん、逃げられたら私も追い付けないから、逃げられないように罠は張っておいたけどね。
 でもいざ捕まえたら、意外と素直に話を聞いてくれたのには、何か拍子抜けしちゃったかしら。
 でも、妖夢自身、どうしてそうしたかが解らなかったみたい。
 じゃあ○○が嫌い?って聞いたら、真っ青になって首を振ったのには驚いたけど。
 いやいや妖夢。若いっていいわねぇ。
 ……私もまだぴちぴちだけどね。妖夢はどちらかというと幼い、かしら?


 弥生 某日

 二人の仕事の休憩時間。
 それとなく屋敷を回ってみたら、縁側で二人の姿を見付けた。
 肩を寄せ合って、一緒に日だまりの中で眠っている姿を見ていたら、自然と笑みがこぼれてきた。
 おしどりみたいに仲が……って、違うわね。おしどりの雄は浮気者だから。
 庭の桜の木々は、ぽつぽつと蕾を付け始めている。
 ……西行妖は、去年のことが祟ったのか、蕾を付ける気配すらない。
 桜は、枯れる直前に最期の力で、盛大に花を咲かせるっていうけど……。


 卯月 某日

 桜も咲いて、今日は庭でお花見。
 ……って、ねえ妖夢?何でそんな疲れた顔してるのよ。
 え、桜餅が見たくない?
 いやいや、いつもお花見にはこれくらい必要よ。弱音なんて吐いちゃ駄目でしょ?
 なおも唸る妖夢に甘酒を呑ませたら、すぐに泥酔して寝込んでしまった。鍛え方がまだまだ足りないわねぇ。
 結局、お花見は○○と二人ですることに。○○は、妖夢よりは呑めるみたいね。
 酔って来た所で、それとなく妖夢について聞いてみた。
 ……いやいや、○○。そういうことはちゃんと妖夢に直接伝えてあげなさいな。
 もう……妬けちゃうわねぇ……。


 卯月 某日

 もうすぐ紫も来ることだし、呼び出して二人の気持ちを確認する。
 ……そういえば妖夢には、紫が起きたら○○が帰れること、言ってなかったのよね。
 話の最中、ずっと泣きそうになってたけと……○○が帰らないって言ったら、我慢出来ずに泣き出してしまった。
 ○○……こんな頼りない子だけど、大事にしてあげてね? 


 卯月 某日

 紫がようやく起きたみたい。まだちょっと寝ぼけまなこだけど、家族総出で遊びに来てくれた。
 そういう訳で、今日もお花見。
 今日は妖夢は一滴も呑まないで、ずっと○○の側で大人しくしていた。
 紫がそんな妖夢をからかっていたけど、しっかり○○が守っていた。
 紫と対峙出来る人妖なんて、そういないのに……恐いもの知らずかしら?
 それとも……ふふ、愛の力かしら?
 最後には、○○が紫に飲まされて、ぐったりしていたけどね。


 卯月 某日

 紫も起きたことだし、久しぶりにマヨヒガへ遊びに行く。
 妖夢が『お供しましょうか?』って聞いて来たけど、それじゃあ何のために私が行くのか解らないじゃないの。
 何人たりとも通しませんからって、意気込んで留守番を引き受けてくれたから、私が帰るのも大変そうね。
 ……あら?そういえば泊まるって言ったかしら?


 皐月 某日

 何局目か解らないくらい牌を打っていた所で、紫の式が部屋に入って来た。
 どうやら、玄関先に妖夢達が来ているらしいわね。
 まあ、ニ週近く帰ってなければ、心配もされちゃうけど……。
 でも私もまだ遊び足りないから、最後に○○も交えてサンマで半荘打つことに。妖夢は打てないからね。
 最初は渋ってたけど……勝ったら妖夢をあげるわ、って言ったら、いきなり目付きが変わってた。
 ふふ、愛されてるわねぇ。
 ○○は結構善戦していたけど、最後に紫の国士無双が○○に直撃。
 楽しかったけど……紫。スキマ使って、私の牌持って行ったわね?


 皐月 某日

 しばらく家を空けていた間に、庭の桜は散ってしまっていた。
 もうほとんど葉桜だけど、例外が1本だけ。もちろん西行妖。
 西行妖は相変わらず葉すらも付けず、それがちょっと寂しい。
 夜になって、○○に顔色が悪いんじゃないかって言われたけど……幽霊だもの、当然じゃない。


 皐月 某日

 日光を過度に遮らない西行妖の下は、最近の私のお昼寝場所になりつつある。
 暖かくていい所だけど……今日は不思議な夢を見たのよ。
 目の前に妖忌が立っていて、妖忌は私が見えていないみたいで、ただただ上を見上げていた。
 私が振り返って見上げると、そこには大きく枝を広げて咲き誇る、大きな桜の巨木。
 ……きっとこれが、妖忌が見た満開の西行妖なのね。
 その日の晩は、妖夢と○○に、揃って顔色が悪いのではないかと言われた。
 もぅ……心配無用よ。根拠はないけど。


 皐月 某日

 毎日ご飯は美味しいけど、今日は5合しか食べられなかった。
 例によって、また2人に心配される。今日は事が事だけに尚更ね。
 心配されてばかりのも何だから、不意を突いて2人に抱き着いてみる。
 ふふ、やっぱり2人とも子供ね。それに暖かいし。
 また近いうちに、紫に会いに行こうかしら。


 水無月 某日

 最近、ちょっと西行妖が気にかかる。
 お昼寝する度に、見たこともない、それでも懐かしい夢を見る。
 夜に床で寝る時は、ぐっすり寝れるのに……。
 そういえば、さっき寝間着姿で歩いていく妖夢を見たけど……厠かしら?
 それとも……ふふ、頑張ってね、妖夢。


 水無月 某日

 今日は○○が庭師の仕事を代わっている。
 理由は……まあ、言うまでもないわね。
 遠目に見ていて思ったのは、あまり厳しくないけど、何だか昔の妖忌みたい。
 きっと40年くらい修練すれば、今の妖夢と同じくらいにはなれるかも。
 今はまだ危ないから、西行妖には近付かないように言ったけど……危なくないかもしれないわね。


 水無月 某日

 梅雨も近く、今日は雨。
 何だか気になったので、西行妖を見に行った。
 葉も付けず雨に濡れて、ただ佇んでいるだけの西行妖が、何だか淋しそうだった。
 ……最近、何だかずっと西行妖が気になって仕方がない。
 そういえば、この根本に封印されてるのは誰だったのかしら。これも未練かしらね。


 水無月 某日

 先日の雨のせいか、ちょっと風邪気味。
 庭師の仕事は○○に任せて、妖夢が付きっきりで看病してくれた。
 お粥は美味しいけど、やっぱり前に比べて食が細くなったかも。
 今までの件もあるし、妖夢に一層心配されてるわね。
 ……近いうちに、紫に会って聞かなきゃいけないわね。


 文月 某日

 昨年読んでいた、西行妖に関する書をようやく見付けたので、この日記と一緒にマヨヒガへ持って行く。
 2人に『紫の所へ行ってくるわ』って言ったら、いつ戻るか尋ねられた。
 前みたいに長居はしないし、長くても2日3日で戻るつもりよ。
 ……戻れたらね。


 文月 某日

 4日ぶりに白玉楼に戻る。
 私の帰りを待ってそわそわしている妖夢を遠くから眺めていたら、あっさり見つかってしまった。
 あまり時間もないことだし、マヨヒガでの出来事をここに残しておくわね。
 結論から言うと、大体私の考えが会っていたの。
 だから、これからそれを記して時間を無駄にしたくないから、真相は紫に聞いて頂戴ね。


「あ、○○。調度いい所に」
「幽々子様、俺に何か……?」
 庭師の仕事を終えて、戻って来た玄関先で、彼は幽々子に呼び止められた。
 始めて会った頃よりも肌は白く、どこか痩せたようにも見える幽々子は、手に一冊の本を抱えていた。
 彼女の服と同じ、空色の表紙。その厚さは鈍器にもなりかねない。
「明日になったら、これを妖夢に渡してくれないかしら?」
「別に構いませんが……何処かに出掛けられるんですか?」
 受け取ったその本は、見掛けに反して軽かった。
「……そうね、これからちょっと遠出するのよ。だから、貴方から妖夢に渡して頂戴」
「病み上がりなんですから、無理はなさらないで下さい」
「ふふ。大丈夫よ、途中までは紫も一緒だから」
 玄関を出た所で、幽々子は振り返る。
「それじゃ○○、妖夢をよろしく頼むわね」
「え、幽々子様……?」
 彼がまばたきした一瞬、幽々子の姿はそこにはなかった。
 慌ててその姿を捜し、彼は玄関先へ飛び出す。

 ――彼が見つけられたのは、季節外れの桜吹雪と、その風に乗って飛び去る蝶だけだった。


 文月 某日

 こんな形になってしまったけど、この日記からあなたたち2人へ、最後になるかもしれないお願いをするわね。

 2人とも末永く、幸せに暮らして頂戴ね。

 白玉楼を護っててくれたら、もっと嬉しいけど……やっぱりそれは贅沢かしら。
 それに、2人の晴れ姿が見れなかったのが残念だけど、代わりに紫に見てもらおうかしらね。
 それじゃあ、輪廻の先で縁があったら、また一緒にお花見でもしましょうね。

                           西行寺 幽々子より



 幾多の季節を越え、今年も冥界に春がやって来る。
 白玉楼の桜は、毎年変わらず見事な花を咲かせていたが、その庭には一箇所だけ花が咲かない場所があった。
「…………」
 月明かりに花が映える宵。
 妖夢は、草木の生えないその一角で、地面をじっと見詰めていた。
 ここは、かつて西行妖があった場所である。
 幽々子がいなくなってから間もなく、西行妖も冥界から姿を消した。
 冥界に存在する全ての霊は、いずれ転生するためにここを去っていく。
 西行妖は寿命を迎えて。
 幽々子は、西行妖の封印が必要なくなったため。
「やっぱり、ここにいたんだ」
 声に振り返ると、そこには太刀を腰に下げた○○が立っていた。
「○○さん……すみません」
「いや、こっちが勝手に探してただけだから。
 ……大丈夫?」
 俯いて、妖夢は首を振る。
「春が来る度に、帰って来そうな気がするんです。
 でも、こうして待っていても幽々子様は……」
「きっと、帰って来るよ」
 桜が散るように去って行った彼女は、桜が咲くように帰ってくるのだろう。
 彼はそう信じ、彼女の言葉を守り続ける。
 大切な従者を、任されたのだから。

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3スレ目 >>656


白玉楼に一人の男が門をくぐる。
「よ」
「……ああ、貴方ですか」
人の癖に存在感が薄く、まるで幽霊のようだといわれるせいか制限時間付きながらも幽明結界を越えることができた。
だからこうしてたまに白玉楼のメンバーに会いに行く。

「そうそう、今日は土産付きだ」
「この前みたくザ・ソースとか持ってきてませんよね?」
「いや、アレはやりすぎた。すまなかったな」
毎度の庭師との会話。そして持っていたビニール袋を……

「『桜のジェラート』だッ!!」

両手で掴み、いったん高く飛んでから落下しつつ庭師に渡す。
「……はあ…………」
「URYYYYYYYYYYYYY!!!」
「その辺にしてください」
人が必死にDIO立ちしてるのにただ白楼剣の峰でぶったたかれる。
「いや痛いよ妖夢妖夢痛いよ」

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最終更新:2010年05月22日 23:58