妖夢7
うpろだ277・284
2刀を持つ剣士が膝をついた俺の首筋に剣を突き付ける。
一対一の真剣勝負。
その末に、俺は完全に追い込まれてしまっていた。
「降参しますか?」
「降参だと……?」
「……」
「いいや、しないね。」
「……往生際が悪いですね」
「それよりどうした……あと一歩だよ?」
「……これ以上は無意味です。この状況からの逆転は絶対にありません」
甘い。
甘すぎる。
俺は、心の中で笑う。
「学習能力がないな……そうやって最後の詰めを誤り――――」
この位置からなら、直撃を喰らわせることができる。
本日の俺の切り札――――
「――――取り返しのつかぬ敗北を何度も何度も喫してきただろうに……」
ゆっくりと立ち上がり
そして
起爆スイッチ――――
「ファイア……」
「え?」
――――ON
カチッ…!
ド ン ッ ! ! ! ! !
「!!!???」
俺の胸から火柱が上がり、2刀流の剣士が爆風に吹っ飛ばされる。
「勝負あり……かな?」
完全に動かなくなった彼女を確認し、俺は安堵のため息をついた。
真剣勝負の幕が降りるとともに、観客から声があふれる。
「へぇ~……胸に指向性の爆薬を仕込むとは……奇策だな」
と、黒白の魔法使いが。
「やるじゃない…でも、勝負で汚したところはちゃんと掃除してね」
と、紅白の巫女が。
「あらあら、惜しかったわねぇ 妖夢」
と、白玉楼の亡霊姫が。
「○○さん……素敵です! 愛しています!!」
と、俺の脳内嫁が。
「ふふ、これは通称『ブレストファイアー』って言ってね。
昔、読んだ漫画の中に出てきた 死刑囚の技を参考にしたんだ。」
参考っていうか、そのまんまだけどな。
「ひ……卑怯です!! 何ですか、今の技は!! 」
お、起きた。
さすがに頑丈だねぇ。
「卑怯じゃないもーん」
「卑怯ですよ! あ、あなた スペルカードの宣言をしてないじゃ――――」
「あれスペカじゃなくて、ただの爆薬だし」
スペルカードを使う際には、それを宣言しなければいけないとかいうルールがある。
……が、爆薬はただの道具なので無問題。
「……ッ」
「これで俺の99勝0敗。もう100勝の大台もすぐそこだねぇ♪」
そう、俺は99にも及ぶ彼女との決闘を越えて不敗。
ただ一度の敗走もない。
俺の勝因はただ一つ。
彼女の性格がまっすぐなためカタにはめやすいってことだろう。
言うなれば、俺は妖夢の天敵とも言える。
「諦めなさい、妖夢。あなたの負けよ」
「くっ……」
「さぁて……今回の罰ゲームは何にしようかな~」
「ああ……また……」
妖夢が絶望の呻き声をあげた。
・
・
・
俺が白玉楼に来たのは2年前
外の世界から幻想郷に迷い込み、白玉楼に辿り着いた俺の前に妖夢が侵入者を撃退せんと立ちはだかり――――
まあ、その後起こったことはあまり思い出したくはないが
悪逆非道な策を弄して辛うじて彼女に勝利できてしまった。
その敗北がよっぽど悔しかったのか、それから俺と妖夢の勝負は始まったのである。
しかし、ただ勝負をするというだけでは俺のモチベーションがアレなので
勝者は敗者に1日だけの罰ゲームを与えることができるというルールを俺の意見により追加した。
なお、妖夢は罰ゲームルールの追加に同意してしまったことを
後に激しく後悔することになる。
今までの罰ゲームをあげるとするならば……
“膝枕で耳かき”とか、“一緒にに添い寝”とか
“妖夢の手料理を「は、はい…あー…ん……(////⊿//)」で食べさせてもらう”etc……
漢の夢が溢れかえるようなシチュエーションばかりだ。
……まあ、俺の言葉による羞恥責めにより真っ赤になってしまう妖夢に
毎回致命傷を負わされてもいるのだが。
たとえば、膝枕で耳かきしてもらったときは――――
「妖夢……」
「な、なんですか?」
「お前の膝、すごく気持ちいいな……」
「――――!?」
「ぬふふふふ……温かくって、柔らかくt」
「な…ななな、何を不埒なこと言ってるんですか――(////⊿//)――!!」
グ サ ッ !
「ウボァ―――!!」
――――てな感じで鼓膜を破られてしまった
だがあえて言おう。
我が羞恥責めに一切の悔いなし!!
・
・
・
そして、今回の罰ゲームは――――
「おおおおおおおおお!!」
「っ……そ、そんなまじまじと見ないでください!!
恥ずかしいじゃないですか!!」
―――― みょんと海水浴!!
「し、しかも、言うに事欠いてこんな恰好……」
そうそう、ただ彼女と海に行くだけじゃ罰ゲームとして面白くなかったので
彼女の羞恥心を煽るような水着を着せてみたかった。
その結果考え付いたのが、どこぞの8スレ目>>617がジャスティスと叫んでいた
ス ク ー ル 水 着 だ ! !
しかも、カラダのラインをモロに浮かび上がらせるためにわざと
サイズ少し小さめのものを用意してきたという周到さ!!
水着の胸の部分には『ようむ』と平仮名で書かれた名札付き!!
そして、オプションに白いスイミングキャップと万事において抜かり無し!!
あまりの極悪非道っぷりに自分で震えるぜ……
「いいじゃん、かわいいと思うけど」
「――――ッ!」
「それに、幼い身体にピチピチに喰い込んだスク水が、名前通り妖しい夢を あべしッ!!」
俺の羞恥責めに妖夢の峰打ち制裁発動。
「いてて……」
「もう……不潔です! 変態ですっ…!」
「ありがとう! 最高の褒め言葉だ!!」
親指を立てて白い歯を『キラーン☆』と光らせる俺。
「………」
うん、何も言わなくてもわかってる。
俺もう人としてダメかもしれない。
だ が そ れ で い い !
その時――――
「あら、あなたたちも来ていたのね」
「ん?」
声をかけられて振り返ると
白いトライアングルのビキニ水着とパレオをつけた咲夜
そして、紅いホルターネックのビキニ水着をつけた中国がそこにいた。
「おう、御二人さん! こんちは!」
「ふふ……デートですか~? お熱いですね~」
まあ、実際はただの罰ゲームだが、とりあえず肯定しておこう。
「ふふふ……そう、デートさ」
「な……ちょっ、○○さん!?」
「あら、違うのかしら?」
「え……ええと、あの……ち、違うって言いますか……その」
「違うんですか、妖夢さん?」
「う……ぅぅぅ~~……!」
「「ふふふふ……!」」
むぅ、よくわからんが 妖夢がピンチだ。
助けなければ。
ここで妖夢を助け出す方法は一つしかない
―――― 本能に従い、俺は空気を読まずに一言。
「それはともかくとして、素晴らしいな美鈴……やはり 王 者 の 貫 録 か!」
なお、水着姿の2人に会ってから 今までずっと、俺の視線は終始 中国の
特に 胸 と か 胸 と か 胸 に ロックオン状態だった。
「――――ッ!!」
「ゐってぇ!!」
正直、この発言により、王者への嫉妬を孕んだ『殺人ドール』と
恥じらいを孕んだ『極彩颱風』の 殺人フルコンボ くらいは覚悟していたが
その前に、妖夢の峰打ち制裁が俺の頭にクリーンヒットした。
ちなみにさっきの言葉責めの時の制裁よりも痛い。
「な、なにをするだァ――――ッ」
「馬鹿…っ!」
「は?」
何故かプンスカ怒っている妖夢。
いや、何故キミが怒るか?
さらになぜか、美鈴と咲夜は二人とも手を合わせて「御馳走様でした」のポーズしてるし。
「ってか、珍しいな……門番はともかく、メイド長は相当に忙しいだろうに」
「『ともかく』は余計ですよ! ……もうっ!
まあ、それはそれとして――――」
「それとして?」
「今日は、紅魔館の皆で海水浴に来てるんですよ」
「へー」
道理で、やけに女性ばっかりが多いと思った。
この人たち、全員 紅魔館のメイドさんか。
「あれ、でも……」
ふと気付いて、上空を見上げる。
空には相変わらず真っ赤に燃える太陽が「ウワ ―― ッハッハッハ!!」と笑っている。
いや、紅魔館の皆って……あんたらの主は――――
「ハーイ、○○」
噂をすればなんとやら
振り返ると いつの間にか――――
グラサンをかけ、真紅のワンピース水着を身に纏ったレミリア。
赤と白の水玉の 子供用のビキニ水着を纏ったフランドール。
そして、麦藁帽子と薄い紫のワンピース水着と薄手のプールサイドウェアを纏ったパチュリーがそこにいた。
しかも、ビーチチェア + テーブルの上のトロピカルジュース という豪華仕様。
そして、彼女たちの頭上には えらくでかい真っ黒な蝙蝠ビーチパラソルがさしてあり完全に日光を防いでいた。
……シュールだ
「ちょうどいいわ、貴方たち、咲夜たちとビーチバレーで勝負なさい」
「え?」
「少し退屈なのよ、熱い勝負で私を楽しませなさい」
「ビーチバレーか……」
面白そうだな……
「よし、乗った!」
かくして、ビーチバレー大会が勃発した。
(白玉楼スク水チーム)○○ & 妖夢 VS 咲夜さん & 中国(紅魔館メイド門番チーム)
「弱すぎるわね……」
咲夜さんがポツリと呟いた。
―――― 白玉楼スク水チーム 0 - 9 メイド門番チーム ――――
中国拳法 & 完璧なメイド の身体能力は相当なもので
俺たちはみるみるうちに追い込まれていった。
ちなみにルールはスペカ使用不可。
そして、10点先取したほうが勝ちなので、ぶっちゃけもう後がない。
「○○さん……」
不安げな視線を俺に向けてくる妖夢。
「やれやれ……それじゃ、そろそろ本気を出すかな……」
「そろそろ本気を出す? 面白い冗談ね」
「ふふっ! この状況から、逆転はあり得ませんよ!!」
「……どっかの誰かさんもそんなセリフ言ってたな」
「う……」
―――― サーブ権、 メイド門番チーム
「この一発で終わりにするわ――――!!」
そう言って咲夜さんがサーブを打とうとした瞬間――――
ハラリ……
と咲夜さんの胸を覆う白い水着が落ちた。
「さ、咲夜さん、胸の水着が!」
「え…きゃあっ!!」
ピピ――――!!
「な……こ、これは――――!?」
咲夜さんのサーブは明後日の方向に飛んで行ってしまったが
当の彼女は、それどころではなかった。
頬を真っ赤に染めて胸を両腕で隠す。
「おおおおおおお! ポロリ画像 脳内ダウンロォォ あじゃぱァ――!!」
本日3回目の妖夢の峰打ち制裁発動。
「ぐぅぅ……みょんによってアクセスが拒否されました……」
「……もうっ! 見ちゃダメですよ!!」
ちなみに咲夜さんの水着が外れたのは事故でなはない。
何を隠そう俺の仕業だ。
さっきこっそりスペカを使って、咲夜さんが着ている水着の背中のホックだけを破壊しておいたのさ。
鈴仙の旦那さんから聞いて必死に会得したスペルカードがまさかこんなところで役に立つとは
まさに、人間万事塞翁が馬。
……スペカ禁止だけど、まあ 正直バレてなかったからOKだろー。
さーて、流れは変わった――――よな?
「妖夢ー」
「な、なんですか?」
「次から、俺の指示通り動いてくれないか?」
「え?」
「考えがあるんだ……頼む」
―――― サーブ権、 白玉楼スク水チーム
俺のサーブを難なくレシーブする中国。
水着を白いワンピースのものに着替えた咲夜さんがスパイクを打つ瞬間――――
「妖夢! 俺のすぐ後ろに飛べ!」
叫ぶや否や、俺もすぐ前方に向かって走り出す。
『な――!?』
妖夢も咲夜さんや中国、そして観客も皆一様に驚いていた。
咲夜のスパイクは……ちょうど、俺の顔面があったところを通って
妖夢の飛んだ先にピンポイントで来たのだから。
妖夢がなんなくレシーブして浮いたボールを、俺は即座に相手のコートに叩き込む。
中国が必死でボールに食らいつこうとするが
ピピ――――ッ!!
―――― 白玉楼スク水チーム 1 - 9 紅魔館メイド門番チーム ――――
ボールには届かず、白玉楼スク水チーム1点目ゲット。
「さっき、俺に見られちまった復讐がてら、顔面にぶち当てに来ると思ったよ……むふふ」
そして――――
―――― 白玉楼スク水チーム 3 - 9 紅魔館メイド門番チーム ――――
「そんな……バカな……」
次第に次第に――――
―――― 白玉楼スク水チーム 5 - 9 紅魔館メイド門番チーム ――――
「……ッ! どうしてあと一点が入らないんですか!?」
メイドと門番に焦りの色が見え始めてきた――――
―――― 白玉楼スク水チーム 8 - 9 紅魔館メイド門番チーム ――――
「へぇ……やるじゃない。あの男、紅魔館に欲しいわね」
「レミィ?」
「お姉様?」
「ふふ♪」
ピピ―――ッ!!
―――― 白玉楼スク水チーム 9 - 9 紅魔館メイド門番チーム ――――
「す、すごいです! ○○さん!」
ただのいやらしい人じゃなかったんですね!!」
「存外、失礼だねキミも……」
妖夢の失礼なセリフをジト目で返す。
まあ、彼女との戦いではトリッキーな手段を使って勝つことが多いので
そう思われても仕方のないことかもしれないが……
「で、でも…どうしてボールが来る場所がわかるんですか?」
妖夢が小声で俺に訪ねてくる。
「んー……ヒ・ミ・ツ だよん」
「えー……いいじゃないですか、教えてくれても!」
「ははは、じゃあ 俺に決闘で勝ったら教えてあげるよ」
基本的に俺の戦法は、身体能力よりも戦略や戦術のほうに重きを置いている。
そのためには攻撃時の相手の動作や癖……そして心理状態を見切るのも重要なのだ。
ボールが来る場所が分かるのはそれによるところが大きい。
そして、その癖や心理状態から勝つための戦略を立てる。
実際、身体能力だけでは幻想郷の最下層付近にいる俺は
妖夢と渡り合うために毎日毎日必死に戦略や戦術を考えている。
そして、妖夢は身体能力だけなら幻想郷の中でも割と強いほうだ。
しかし、勝負における駆け引きとか戦略が足りない。
彼女がまだ未熟者扱いされるのはその辺に原因があるのだろう。
……若さゆえにそれは仕方のないことだが。
だが――――俺ならば、その弱点をカバーしてやれる。
そして、妖夢なら俺の弱点をカバーしてくれる。
要するに、互いに弱い部分を補い合うチームワークの勝利だ。
以上、閑話休題
「さぁて、あと一点! 勝つぞ、妖夢!」
「はい、○○さん!!」
メイドと門番も後がない。
必死に負けまいと喰い下がってくる。
その時――――
「きゃあっ!」
咲夜のスパイクをブロックした妖夢が空中で体勢を崩してしまった。
ヤバイ……このままじゃ、頭から地面に!!
紅魔館メイド門番チームのコートに落ちるボールをトスする中国の姿が見えたが
俺は、そんなものには目もくれず――――
「!! ……え?」
ボールは白玉楼スク水チームのコートに突き刺さり……
「大丈夫かー、妖夢?」
俺は妖夢の下敷きとなっていた。
「え…ええ……大丈―――痛ッ!!」
彼女の声に足を見ると――――
そこまでひどくはないが、左足の足首が赤く腫れあがっていた。
「……足を挫いたか?」
「は…はい……」
情けないなぁ……
体張って助けたってのに、それでも怪我させてしまうなんて……
「き、きゃあっ!!」
サーブ権が移っただけなのでまだ勝負は決まったわけではない。
たが、怪我をした妖夢をこれ以上戦わせるわけにはいかなかったので
俺は、妖夢を抱えあげて――――
「……すまないな、ちょっと これ以上は勝負できそうにないわ。決着はまた今度つけよう。
俺たちは、この辺で失礼するよ」
・
・
・
「……」
「不満そうな顔ね、咲夜?」
「はい……正直、納得がいきません」
勝負が中断になったというのに妙に楽しげなレミリアに――――
「ねぇ、レミィ」
パチュリーが声をかけた。
「なにかしら?」
「さっき、あの男を紅魔館に欲しいって言ってたけれど」
「ふふふ……紅魔館には執事――――軍師がいないから」
「え?」
白玉楼にはあの男がいる。
しかし、紅魔館には軍師に当たる人材がいない。
言うなれば執事。
強いて言えばメイドを統括する咲夜やがそれに当たるが
どうしても他の二人に比べて知略では劣る。
また、パチュリーもあの男以上の知識を持っているものの
彼女は戦略家ではなく……また、兵を纏めるタイプでもない。
どちらかと言えば研究者タイプと言えよう。
「あの男…やっぱり紅魔館に欲しいわね♪」
―――― ま、この私が少なからず あの男のことを気に入っているということもあるけれど
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うpろだ300
白玉楼への帰り道
私は○○さんに背負われていた。
「あ…あの……」
「ん?」
「ごめんなさい……私のせいで……」
私が怪我をしてしまったせいで、勝負は中断し――――
せっかく海に来たのに泳げもしなかった。
「いや、気にするなって……十分楽しかったよ。妖夢のかわいい姿が見れたしね……」
「――――ッ!?」
心臓の鼓動が瞬間的に跳ね上がる。
密着しているのに――――
い、今心臓がバクバク鳴ってるの……
き、気付かれてないよね……?
「…………」
私を背負って歩く○○には何の変化もない。
……良かった……気付かれてない……
ああ……
すごく広い背中……
それに温かい。
「あ…あの……」
「どうしたよ?」
「あなたの……100勝の望みは何なのですか?」
私は何を聞いているのだろう?
でも、これで98回目になる罰ゲームだけど
はじめはものすごく恥ずかしかったはずなのに
最近では、わずかに期待してしまっている自分がいる。
「妖夢に俺の恋人になってもらう……かな」
「――――え?」
う……そ……?
なんて言ったの?
恋人?
私が?
……あなたと?
今度こそ冗談抜きで心臓が止まった。
思わず、息をすることも忘れ――――
そして、一瞬の後、心臓がフルスロットルで
鼓動を再開させる。
さっき『妖夢のかわいい姿』と言われた時とは比較にならない。
お願い……私の鼓動――――
治まって
お願いだから――――
……こんなにドキドキしてたら……
今度こそ本当に気付かれて――――
「はは……なんてな」
「…………」
……え?
冗談めかした言われてしまった。
じ、じょうだん……?
激しい落胆とともに、急速に心臓の鼓動は収まっていく。
ヒドイ……
でも
それでも――――
・
・
・
布団の中で枕を胸に抱いて、白玉楼への帰り際に言われた言葉を思い出す。
『妖夢に俺の恋人になってもらう』
まだドキドキしている。
もう、丑三つ時だというのになかなか寝付けないでいた。
「……ずるいです」
頬が紅く染まる。
胸が激しく高鳴る。
「そんなこと言われたら
勝ちたくなくなってしまうじゃないですか……」
もっとあの人と一緒にいたい。
もっとあの人に笑いかけられていたい。
でも、私は……あの人に――――
「……勝ちたいな……」
勝ちたいと考えている自分もいる。
どうすればいいんだろう……?
そこまで考えた時
「そうだ……」
私は、ある事を思いついて
そして――――
「―――― よし!」
―――― ある決心をした。
・
・
・
「や……やった! 勝った! 勝ちました!!」
「………ば、バカな……」
「ふふっ……すぐに、あなたに追いついて見せますからね!!」
あの人との100回目の勝負。
私は……初めてあの人に勝つことができた。
ただひたすら自分の想いを込めた仕掛けた私の切り札『未来永劫斬』は
罠や策をモノともせずに――――
「ふふふ、おめでとう妖夢。
それで……罰ゲームはどうするのかしら?」
「げっ……!」
「ふふふ……」
私を今まで散々な目にあわせてきた報い。
いま、受けてもらいます!!
覚悟してくださいよ?
「……ええと……明日、何か予定はありますか?」
「い、いや……ないけど……」
「だったら……そ、その……私と一緒に…」
「う、うん……」
「もう一回……一緒に海に行ってください……」
「は?」
ふふふ……
これはほんの始まりです、○○さん!
100勝した暁には……
あなたは…わ、私のモノに……
「妖夢?」
私のモノに……な、なって……
私のモノに……
~~~~~~~!!
ボ ン ! !
「きゅぅ……」
「なにィ!? ちょ、妖夢大丈夫か オイ!?」
うう……
あの人を私のモノにすることを想像しただけでこんなになってしまうなんて
私、まだまだ修行が足りません……
次回予告
ミ ョ ン
初勝利から一気に99勝をあげる 妖夢。
念願の100勝を手にしようとする二人の前に
○○を我がモノにしようする永遠に紅い吸血鬼の手が迫る!!
……かもしれない
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うpろだ364
盆を過ぎ、ひとまずは落ち着いた白玉楼にて。
「何だか最近春めいてますね、幽々子様」
「あら? 妖夢は相変わらず鈍いのね」
「は? ま、まさか幽々子様また性懲りも無く……」
主従の二人は暢気に茶を飲んでいる。
その手元には『文々。新聞』と書かれた新聞が置かれている。
「あはは。夏真っ盛りなのにどこに春が落ちているのやら」
「幽々子には言われたくないですね……」
新聞には『幻想郷の閻魔、結婚―切欠は聞き違い―』と大きく書かれている。
「あら? 春はめでたいのだからいいじゃない」
「あまりに春一色では困ります」
見出しの横に『砂糖価格高騰―需要拡大の謎―』と書かれ、最近の幻想郷の砂糖の値上がりを記す記事が踊っている。
事実、幻想郷担当の閻魔である四季映姫の成婚以来何故か砂糖の値段がうなぎのぼりになっている。
「春はあけぼの、といったところかしらねぇ」
「はぁ?」
ここ最近幻想郷の菓子の甘さもまたうなぎのぼりに跳ね上がっている。
最近では砂糖一掴みも入れたクッキーやら、砂糖でスノースタイルにした飲み物が出回っている。
ある意味乙女には魅力的でありつつもまた過酷な世の中になっている。
「ようよう白く、というよりは桃色、いや桜色ね」
「幽々子様何をおっしゃられてるのか……」
「幽々子様ー、今日の分入荷しましたー!!」
「あら早速。いつも通りお願いします」
「了解です」
「妖夢、手伝ってあげなさいな」
「はい」
暢気なお茶会を切り上げ、妖夢はいつも通りに運ばれてきた食糧―ほとんどが幽々子の胃へと消えていくが―を台所へ運ぶのを手伝っていた。
最近になって幻想郷にやってきたらしい○○という者は、物の価値のあまり分かっていない香霖堂で目ぼしいものを安く買い上げ、
それを人間の里で相当高く(それでも適正価格と言える額だった辺り香霖堂店主の商才が伺われる)売りさばいて財を成し、
たまたま商人の出入りが少なかった白玉楼の御用商人とも言える立場になっていた。
「あ、いつもありがとうございます」
「いえいえ、いつもこんなに多いと大変でしょうし」
「お気になさらず。多いほど私の身も潤いますし」
「それにしてもこんなに沢山あるのに一日で無くなるのよね……」
「幽々子様はご健食でいらっしゃる」
「亡霊相手にそれは無いと思いますよ」
「それもそうですね」
○○は米一俵を抱え、妖夢は野菜の高く積まれた籠を抱きかかえている。
「いつも本当にありがとうございます。今まで村中を駆け回っていたのが○○様のお陰で大分手間が省けました」
「これだけの食糧を毎日掻き集めてたのはすごいね……」
「いつもこれだけという訳には行かず幽々子様のお腹を空かせてしまったこともありました」
「……、ま、まぁたまには小食の方がご健康にもいいと思いますよ……」
「そうですねぇ。ただどれだけ食べても全く見た目が変わらないのはある意味尊敬に値します」
「確かに。今流行りの菓子なんてクッキー一枚でも相当覚悟を決めないといけないらしいですからね」
「その点幽々子様は便利なものです」
いつも通りに二人は談笑し、重い荷物を台所へと運び込む。
「ありがとうございます。後は私がやっておきますので」
「いえいえ、いつも買って下さるのに力仕事を押し付ける訳にはいきませんて」
そう言う二人の手が米俵に添えられ、位置が重なってしまい手がたまたま重なり合った。
しばらく二人は動けなかったが、お互い気づくと慌てて手を引っ込め、そして二人で俵を運んだ。
「いつも本当にありがとうございます」
「いえいえ、また明日もよろしくお願いします」
「はい。ではまた」
食糧を運び終わった妖夢は後を料理担当の幽霊に任せ、再び元の縁側に戻った。
「あら妖夢、もう終わったの?」
「はい。最近○○も慣れたお陰かスムーズに終わりました」
そう言って二人はまたお茶をすする。
「ねぇ妖夢」
「はい」
「まだ分かってないとは思うけど……。自分の時間がそのまま当てはまるって考えたら駄目よ」
「はい?」
「まぁいいわ。こういうのもアリってことね」
暢気なお茶会はまだまだ続くようだ。
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最終更新:2010年05月23日 00:27