妖夢12
新ろだ50
魔理沙と△△が、大宮を出発した頃。
「さすが幽々子様だ。すっかり熟睡モードだな」
西行寺幽々子とその伴侶、◇◇を乗せた高速バスは一路名古屋へ向けて、東名高速自動車道をひた走る。
車内の明かりは落とされて、窓もカーテンで覆われており、足元を照らす非常灯だけがぼんやりと灯っていた。
周囲の客はすでに寝静まり、話し声も聞こえない。ただ寝息と低くうなるエンジンの音、ロードノイズだけが
響いている。
そんな周囲に漏れず、先程まで車窓を珍しそうに覗き込んでいたり、いろいろと談笑を交わしていた亡霊の
姫君も、わずかな寝息を立てて夢の中にいた。頭は完全に◇◇の肩に預けられ、4列シートタイプのそうとう
疲れる座席でありながら、幽々子の顔は安らかであった。
予定通りに行けば、バスはようやく街が動き出す早朝に着く。そのままどこかで朝食を取り、24時間営業の
健康ランドで汗と疲れを流し、午前中から食べ歩きの観光を始められるはずだ。そして夕方近くまで名古屋を
堪能したあと、普通列車を乗り継いで東海道線で西へ、ちょうど八雲一行を追いかける形になる。日程が合えば、
大阪近辺で紫達と飲み交わす算段も、あの後でつけた。
そうとうきつい日程だよなあ、とうんざりしそうになるが、隣で眠る最愛の人(というか亡霊)の楽しそうな
顔を思い出すと、力が湧いてくるから不思議なものだ。
ただ、困ったことが現在進行形でひとつある。
「幽々子様、いい加減離していただけないでしょうか…」
左腕を抱いて離そうともしない幽々子に、彼の精神は綻びを見せていた。暖かな体温と、豊かな感触が嫌でも
感じられ、鼻を擽るのは彼女が纏う桜の香り。
「一部に力が湧きすぎるのも、考え物だよなあ」
とりあえず、次のサービスエリア休憩の時までに、どうすれば起こさずにこの状況を切り抜けられるかを考える
ことが、◇◇の命題である。
さもなくばいろいろ漏れそうだ。
◇◇が幽々子様と、ある意味で拷問のようなひとときを過ごしているその時。
「ぜ、絶対、絶対覗かないでくださいね!」
「う、うん、絶対、絶対振り向かないから!」
こちらは修羅場であった。
全体的にきつい配色の部屋。大人4人は眠れそうなベッドの上で、◆◆はなぜか正座のまま、首までを真っ赤に染めて、
彼女、魂魄妖夢の声に背を向けていた。
「じ、じゃあ、行って、きます」
「う、うん、ご、ごゆっくり」
思いっきりぎこちない、何かを恥じている声も、真っ赤な顔も二人共通であった。それもそのはずである。
透明な仕切りの向こうで、白い素肌を仄かに赤く染めて、半人半霊の庭師が、シャワーを浴び始めたのだから。
それは思いっきり、彼の手違いのせいである。
最終の一本前の新幹線で、主たちより一足早く名古屋入りした彼らは、前泊のために予約したビジネスホテルにて、
衝撃の事実を知らされたのである。
「ご予約は、明日の予定になっておりますが…」
◆◆は、予約の日取りを取り違えていたのであった。だが多少慌てたものの、まだ若いとはいえ、もともとこちらの世界で
暮らしていた身。なら本日空きのある部屋に泊めて欲しいとフロントに頼んだその後、告げられた事実が彼を完膚なきまでに
粉々にした。
「申し訳ありません。本日満室でして…」
フロント係の若い青年も、近隣の同系列ホテルや、さらに競合チェーンのホテルにまで連絡をとってくれたものの、芳しい答えは
得られなかった。
泣きそうになって謝りながら、とぼとぼとホテルを出て行く◆◆を、必死に慰める妖夢が見つけたのは、派手な外観の宿であった。
「◆、◆◆さん!今日はここに泊まりましょう!ね!?空きって書いてますし!」
妖夢の声に顔を上げた◆◆は固まった。
なぜならそこは──
「よ、妖夢、ちょっと待って!」
「待ちません!私はここでいいですから!◆◆さんはさっきのこと気にしなくていいんです!」
真面目で実直な性格は、彼の制止を聞きいれることはなく。そんな彼女に気圧されて、半ば脅されながら部屋の鍵を受け取った
◆◆は、部屋のドアを開けて絶句した。
──ふ、風呂場丸見えじゃないか!
そう、二人が迷い込んだのは、現代風に訳せばブディックホテル、俗に言うラブホテルだった。その事実に固まっている彼を
不審に思った妖夢が、物珍しそうにあちこち見回るのやめて、この場所が一体どういう目的で存在しているかを聞き出した後に、
「つ、つ、つつつっつれ、つれこみ、っや、やど…」
妖夢の頭から、D51もかくやと思われる煙が昇って(画像はイメージです)、冒頭に戻るのである。つい先程までは気まずい空気
が流れ、ただ何をするわけでもなく、微妙な距離を開けて、二人ベッドに腰掛けて顔を染めているだけだったが、◆◆が無理矢理に
「そ、そうだ、妖夢シャワー浴びてきなよ!お、俺後ろ向いてるからさ!」と口を開いたあとで、
(な、何言ってるんだよ俺!こんなとこ、しかもガラス張りの風呂に入ってきたらなんて!)
と後悔していたのだが、意外にも妖夢が承諾したので、内心すごくホッとしている最中でもあった。
そんなことを露知らず、やはり恥ずかしいのか、後ろを気にしながらシャワーを肉付きの薄い裸体に当てている妖夢もまた、◆◆
並に心が乱れていた。
(ど、どうしよう…ま、まだ口付けしかしてないのに、こ、こんな連れ込み宿に◆◆さんと…)
弾幕勝負で霊夢や魔理沙とやりあったときも、ここまで緊張を迎えたことは無かった。現に気を抜けばへたり込んでしまいそうに
なるほど、足に力が入らない。
(で、でも…)
妖夢はこの場に二人でいることを、不思議と嫌だと思わなかった。それどころか、むしろ──
「いつかは、じゅ、純潔を、捧げるんですよね…」
それはとても、喜ばしいことにさえ思える。主である幽々子も、前に言っていた気がする。
──好きな殿方と、身も心も結ばれることは、とても幸せなことよ。破瓜の痛みさえも、甘露に感じられるくらいに、ね。
今なら、その言葉が分かる気が、する。
「◆、◆、さん」
二の腕を抱いて、流れる温水を浴びながら彼の名前を呼ぶたびに、体に暖かいものが広がって。
その奥で、自身を突き動かそうとする何かが燃えはじめたのを、妖夢は強く自覚した。
──二人がこの夜、ぎこちなくも大人の階段を登ったのは、また別の話である。
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新ろだ333
「…………はぁ」
「もう、妖夢ったら。愛しの彼がお使いに出てるからって、落ち込みすぎよ?」
「な、幽々子様、愛しのだなんて、そんな」
「あらあら、真っ赤になっちゃって。……少し気分転換になるでしょうし、納戸の整理をお願いするわ」
「はい、わかりました」
「―こっちの行李の中身は……あれ?」
「これは……ねんねこ半纏、ですね」
「…………………」
「……よしよし、泣かないの。お父さんはもうすぐ帰ってきますからね」
「○○お父さんは幽々子様のお使いに出ているのよ。お母さんと一緒に待っていましょうね……なーんて」
「………………よーむー」
「うひゃあ!?ゆ、幽々子様いつからそこに?」
「そうねー、妖夢が自分の半霊をおんぶして、ねんねこを羽織ったあたりからかしら」
「うわあああああああ」
「妖夢ったらかわいいわねー、○○が……こほん、○○お父さんが帰ってきたら教えてあげなくちゃ」
「ああああ、お願いだからやめてくださいー!」
「ただいま戻りました」
「……お、おかえりなさい○○さん」
「ただいま、妖夢。……何だか顔赤いよ、大丈夫か?」
「いや、なんでもないです!大丈夫ですから!」
「あら○○、おかえりなさい」
「あ、幽々子様、お土産に酒饅頭買ってきましたよ」
「あらあら、じゃあ3人でお茶にしましょうか。―そうそう、○○?」
「はい、なんでしょう」
「早く○○と妖夢の赤ちゃんができるといいわねー♪」
「ええっ!?い、いきなり何をおっしゃるんですか!?」
「わーっ!わーっ!」
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新ろだ380
「あのぅ、○○さん起きてませんよね?」
夜も深まり草木も眠った頃であろうか、彼女は障子の向こう側に変な問いを投げかけていた。
彼女の名前は魂魄妖夢。この屋敷の庭師を勤めている者だ。
障子の向こうからは返事が返って来なかった。この時間である当然であろうか。
「入りますよー…。」
音を立てないようにゆっくりと障子を開け部屋へと彼女は入っていった。
何故妖夢は彼の部屋へと入る事になったのか。
簡単に言えば部屋の中に恐怖を覚えたからだ。
眠りが浅かったのか、睡眠の途中で彼女は目が覚めてしまった。
もう一度寝付こうとしたが、一度起きてしまうとそれは中々難しい。
そうこうしている内にふと部屋にある闇が気になってきたのだ。
ひょっとするとあの闇に何か潜んでいるのではないか?
もしも潜んでいたならば襲われてしまうのではないか?
寝ようとする意思より恐怖が大きくなってしまい彼女は部屋を出てきたのだ。
部屋を出た後、どこで寝かしてもらおうかと彼女は考えた。
始めにここの主である幽々子の部屋に行く事を考えた。だが起きた後の説明で色々とからかわれてしまう。
そして次に出てきたのがこの屋敷で唯一の男性である○○であった。
彼ならば起きた後説明をしてもからかう事などはしないだろうと思ったのだ。
何よりもこれくらいでもしないと自分の気持ちが伝わらないとも思っていた。
部屋の中でやはり○○は寝ていた。規則的な呼吸が彼が深く眠っていることを伝えていた。
部屋から持ってきた枕を彼の隣に置くと妖夢は布団に潜り込んだ。
二人では少々狭いのだが、その分彼に密着出来る。
こうやって枕を並べて寝ていると何だか新婚の夫婦の初夜のようだ。
そう思うと一気に妖夢の顔が赤くなった。
顔を真っ赤にし恥ずかしがっていると、徐々に瞼が重くなっていくのを彼女は感じた。
そして眠る前に横で眠る想い人の耳元で一言呟いた。
「お休みなさい、○○さん」
新ろだ524
雲ひとつ無い正に青天と呼べる朝であった。普段なら最高の一日の始まりになるはずである。
が、こんな良い天気にも関わらず○○の気分は今一つであった。
しばらく涼しい日が続いてたにも関わらず、昨夜は久しぶりに熱帯夜であった。
寝苦しさから何度も目が覚めてしまい、寝ては起きの繰り返しで熟睡出来ずにいた。これが○○の気分を悪くさせたのだ。
「あの、どうかしましたか?顔色が優れないようですが」
気付けば自分の顔を心配そうに見つめる妖夢の姿があった。
「いや調子が悪いんじゃなくて、ほら昨日寝苦しかっただろ?それであんまり眠れてないんだ」
「そうでしたか…でしたら生地の薄い寝巻きを出しましょうか?幾分かはマシになると思います」
「頼むよ。それと朝早くで悪いけどお風呂沸かしてもらえないかな?寝汗かいちゃってベトベトで気持ちが悪い」
「分かりました。沸いたら係の霊を行かせますから、少し待っていてもらえますか?」
分かった、と妖夢に返すと○○は部屋へと戻っていった。
彼が布団の片付けを済ませると同時くらいであろうか、部屋の前に一人の霊がやって来た。
霊が来た、という事は風呂が沸いた証拠である。彼は着替えを持つと風呂場へと向かっていった。
沸きたての風呂というのは彼の陰鬱な気分を吹き飛ばすには十分であった。
湯船の中で彼は夢見心地に浸っていた。この中で眠れなかった分を取り戻すのも良いかもしれない。
うとうとと眠気が出ていよいよ寝てしまおうか、そう○○は思い始めた。
「失礼します…」
突然扉が開き、タオル一枚の姿で妖夢が風呂場へと入ってきた。
湯気で誰が入ってきたのか分からず目を凝らす○○であったが、それが妖夢だと分かると眠気など一瞬で吹き飛んでしまった。
「よよよよよ、妖夢!?何で入って来てるのかなぁ!?」
余りにも予期せぬ出来事に声が裏返って彼に似つかわしくない声になってしまっていた。
「いえ、○○さんのお背中を流そうかと思って。そういうのは嫌ですか…」
「嫌って訳じゃないけれども…でも俺なんかにしてくれて良いのかな」
「○○さんだからしてあげたい、という理由では駄目ですか」
予想し得なかった答えに彼は呆気に取られてしまった。
「そういう理由ならとても嬉しいよ妖夢」
「本当ですか…ではこちらへどうぞ」
促されるまま彼は湯船から出ると妖夢に背中を向けた。
湯気で顔は良く見えなかったが、彼女は喜色の色が浮かんでいるように見えた。
「男の人の背中はやっぱり大きいですね」
○○の背中を洗いながら、始めて見る男性の背中に妖夢は驚いていた。
「そんなに違うものなのかな?父親の背中流した事もあるけどそうは感じなかったな」
「普段幽々子様の背中しか流しませんから、こうも大きいと洗い甲斐があります」
「あはは、そう言ってくれると持って生まれた甲斐があるよ」
冗談を言いながら、風呂場での時間は流れていった。
「はい、これで綺麗になりました」
「あれ、もう終わったの?気持ち良かったからもう少しして貰いたいんだけど」
「これ以上洗うと背中の皮が剥けますよ」
「それは痛い上に困るから嫌だな」
「またお風呂に入る時に呼んでくださればいつでもお背中を流しますよ」
「ならその時まで楽しみに取って置くとするかな」
「私もそれを楽しみに待っています。それではまだする事が残っているので私はこれで」
そう言って妖夢が風呂場を後にするとまた○○は湯船の中に入った。するとどこかへ行っていた筈の眠気がまたやって来た。
夢の中でも彼女に背中を流してもらえないだろうか。そう思いながら彼は眠りの中へと落ちていった。
新ろだ2-075
「ん~、やっと終わったか」
せっかくの休日だっていうのに朝からバイト。
それを終えて家への道を歩く。
時間を見ると、もう五時を過ぎていた。
「やっべ、もうこんな時間か。急がないと飯が遅れちまう」
全く、料理ってのは時間がかかる。
簡単に早くやろうとすればできないこともないが、それは何か嫌だ。
そう思いながら走り出そうとした時、それが見えた。
「ん?あれは…」
銀にも白にも見える髪に、あまり大きいとはいえない身長。
そんな特徴を持つ人物は、俺の知る限り一人しかいない。
「妖夢…だよな、やっぱ」
近づいていくにつれてそれが間違っていないことが分かる。
だが、いつもとは違い、元気が無いように感じる。
それはそう、一言で言うなら、悩んでいるという言葉がしっくりくる。
「ま、とりあえず声かけてみるか」
俺で何か力になれることがあれば、手伝ってやることもできるだろう。
「おい、妖夢。どうしたんだ、こんな時間に?」
「みょん!?ま、〇〇さん!?驚かさないでください!」
…これは重傷かもしれない。
いつもの妖夢なら、この程度でこんな驚くことは無いんだが。
とりあえず、当たり障りのない言葉で返す。
「いや、こんな時間に妖夢がここにいることが珍しくて声を掛けただけなんだけど。お前なら気付くと思ったし」
「う…」
呻く妖夢。
いつもは、気配でわかりますと自分で言ってるから、反論ができないのだろう。
「ま、いいや。それよりどうしたんだ、こんな時間に?いつもなら剣の鍛錬とか言って家にいるだろ」
「えっと、実は師匠に怒られてしまいまして」
師匠?師匠っていうのは確か…妖忌さんだったか?
そう問うと、その通りです、という答えが返ってきた。
「で、怒られるって何をしたんだ?ああ、言いたくないなら言わなくてもいい」
「いえ、聞いてもらえるとありがたいです。実は……」
その後聞いた話を要約すると、つまりこういうことだった。
この頃鍛錬に身が入らない。
なにをやっても心ここにあらずのような感じで、師匠…妖忌さんに怒られ、少し気分転換でもしようと外に歩きに出ていた、ということらしい。
だが、問題はそこじゃない。
「で、その理由は何なんだ?お前がそうなるなんてよっぽどのことだろ?もしかして恋の悩みとかか?」
「は、はい…。端的に言ってしまえばそうなるのでしょうが…」
「は?マジで?」
「そ、そうです…」
恋の悩みねえ…。からかい半分で言ったのが正解だったとは。
それじゃあ、そんなの聞いても俺にはどうしようもなかったな。
その相手が俺だとしたら…なんて考えるだけ無駄か。
にしても、顔の赤さがすごい。
恋の悩みなんてのを他人…しかも男に聞かせてるんだから当然か。
そんな妖夢の事を見ていたかったのだが、俺の家に着いてしまった。
「じゃあ、俺の家ここだから。妖夢は可愛いんだから、告白すればたいがいの奴は大丈夫だと思うぞ」
「ま、待ってください!」
「…?何だ、妖夢」
「わ、私は、私が好きなのは、〇〇さんなんです。だから、そんな悲しそうな顔しないでください」
「…え?悲しそう?そんな顔してたか、俺」
「はい。今にも泣き出しそうな顔でした。私は、〇〇さんのそんな顔は見たくありません。だって、〇〇さんのことが好きだから!」
そう顔を真っ赤にして言ってくる妖夢。
…悲しそう、か。そんな顔をしていたつもりはなかったんだが。
だが、告白されたからには返事を返さなきゃならない。
無論、俺の答えは決まっている。
「ああ、俺も妖夢の事が好きだ」
「〇、〇、さん…!」
そう言って、抱きついてくる妖夢。
俺は多分、妖夢をいなくなるという気がしていたんだと思う。
最初に会ったのは偶然だった。
でもそこから、どんどん親しくなっていって、家族のような存在になっていった。
それは妖夢も同じだと、だから俺は妖夢の恋人になんてなれないと。
そう決めつけ、妖夢が恋をしていると言った時、また家族がいなくなるんじゃないかと…そう思った。
でも、今はそんなこと関係ない。
今の俺は妖夢の恋人なのだ。これから家族のような存在ではなく、本当の家族になっていけばいいのだから。
「ほら、妖夢。いつまでも泣いてないで、笑ってくれよ。俺も、妖夢が泣いてるところなんて見たくないから」
「〇〇さん…はい。これから、よろしくお願いします!」
大丈夫。辛いこともあるだろうけど、きっと頑張れる。
だって俺には、ずっとそばにいて、この最高の笑顔で元気をくれる人がいるのだから。
新ろだ2-246
桜舞う白玉楼の庭、二人の男が談笑を肴に酒を飲む
周りにはすでに空になった徳利がいくつも散乱していた
一人は老人、一人は青年
脇に木刀を持っていることを除けば、仲の良い老人と孫にしか見えない
妖忌「はっはっは、婿殿はなかなかの酒豪じゃのう」
〇〇「剣はともかく、この点にかけては義祖父様にも引けを取らないと自負しております」
妖忌「よう言うた、ならば限界まで付き合ってもらおうぞ」
〇〇「喜んで」
そこから少し離れた屋敷の縁側
男を見つめる少女も二人
幽々子「あの二人、ウマが合うみたいでよかったわね。私はてっきり出会いがしらに〇〇が斬られると思ったけど」
妖夢「怖いこと言わないでください。でも、祖父様が帰ってくるなんて何かあったんでしょうか?」
幽々子「ん~~ やっぱりコレのせいかしら」
その質問が来る事は分かっていた とばかりに取り出したのは一枚の新聞
【文文。新聞[号外] 白玉楼の剣士に熱愛報道!? 相手は外の世界の青年剣士か!? 出会いから入籍までの流れを追う】
妖夢「なんですか これ」
幽々子「そのまんまの意味じゃないの」
妖夢「……あの天狗は後で斬るとして、幽々子様は祖父様がこれを読んで来た とおっしゃるんですか?」
幽々子「ええ、しかも相当慌ててね。だってほら、妖忌の履物を見てごらんなさいな」
妖夢「?」
なるほど妙だ
右足には下駄、左足には草鞋を履いている
幽々子「きっと新聞を見て大慌てで家を出る。そしてここに偶然立ち寄ったような顔で〇〇を誘って観察する、そんなところかしら」
妖忌「ところで、婿殿の剣の腕はいかほどのものか?」
さも期待している、とでも言いたげな響きに、思わず苦笑いがもれる
〇〇「外で通っていた道場では一応目録(名許皆伝)をいただきました
しかし、私の剣術は妖夢の実戦剣法と違い、あくまで竹刀木刀の道場剣法にすぎません
真剣勝負の経験も無ければ、太刀を振るった事もないのです
ついでに言ってしまえば、未だに弾の一発も撃てなければ、数ミリの滑空もできません」
妖忌「ふむ。外ではすっかり剣は鳴りを潜めてしまったのか……」
〇〇「しかし、私はここで妖夢に出会い、剣の道の奥深さを改めて思い知らされました。彼女には本当に感謝しています」
妖忌「そうかそうか! あの妖夢に教えられたと申すか! 嬉しい事を言ってくれるのう」
少し強面の顔に満面の笑みが浮かぶ、本当に喜んでくれているようだ
〇〇「浅学の身ですので、妖夢の教えについていくのがやっとの有様ですが」
妖忌「なんのなんの、あやつもワシからすれば未熟者よ。剣の道はまだまだ続くのだ」
〇〇「身が引き締まる思いです。いずれは義祖父様にも一手ご指南いただきたく思っております」
妖忌「うむ、いずれな
……ところで、あちらのほうはどうなっておるのか?」
〇〇「は? あちらのほう と申されるのは……?」
妖忌「いや、のう……妖夢に伴侶ができたと聞いたときから、半ば諦めておったひ孫をいつ抱けるのか、と思うての」
〇〇「あー……」
すぱすぱと話し口が小切れよい義祖父様らしくもなく戸惑っていたが、なるほどこういうことか
〇〇「恥ずかしながら私はそういったことに関し、いたって不調法でしてまだ一度も……」
妖忌「何、女子を知らぬのか。ぬう……あやつもこういったことに関して耐性が低いだろうからのう」
〇〇「面目次第もありません」
妖忌「どれ、婿殿。ならば今宵、夜の村に出るとするか。いかに女子を悦ばせるかの実地訓練じゃ」
〇〇「それは抗いがたい魅力的な提案で…………あの、義祖父様……」
妖忌「なに、銭の事ならば心配するでない。ワシにも多少の貯えはあるでな」
〇〇「いえ、そうではなく……」
私の言葉を待たず、義祖父様の頭に妖夢の木刀が振り下ろされた
勘違いしている人も多いが、達人とて常に気を張っているわけではないのだ。
妖夢「だいたいですね、人の夫をそんなところに誘うなんて何を考えてるんですか!
たまに来たと思ったらやる事はそれですか! ガミガミガミ…………」
それから、義祖父様はコブをさすりながら妖夢にこってりと絞られている
しかし、なぜに私まで
妖忌(のう婿殿、おぬしこの娘のどこに惚れたのか?)
〇〇(こんなところも含め、全てです)
妖忌(……祖父冥利に尽きるわ)
妖夢「何話してるんですか!」
それは、さらにお説教が伸びるという意味の怒声
昼食だからと幽々子様がとりなしてくれなければ、夜まで続いていたかもしれない
昼食後
妖忌「で、だな。おぬしは婿殿のどこに惚れたのだ?」
妖夢「……なんですか、いきなり」
まだ怒りが解けていないようだ
妖夢「……別に、何でもありません。私の元で修行するようになったこの人が突然竹刀での試合を申し込んできました
もしも自分が勝ったら結婚してほしい って言って。そして負けた。それだけです」
幽々子「~~~~」
妖忌「お嬢?」
〇〇「幽々子様?」
突然幽々子様が机に突っ伏し、肩を震わせる
幽々子「そう、そうよね。あの日は〇〇が帰ってからずっと頬が緩みっぱなしで、豪勢な夕食をつくってくれたけど
別になんでもないわよね」
それだけ言うと、また耐え切れなくなったのか顔を伏せて、くっくっくと声にならない笑いを漏らし始めた
恐らく確証は無いが、私も笑っているのだろう
しかし、義祖父様だけはにこりともしなかった
妖忌「負けたのか」
妖夢「……」
妖忌「どうなんだ」
妖夢「……負けました」
妖忌「なぜだ」
妖夢「……あんな卑怯な手を使われては、どうしたって勝てません!」
〇〇「何度言えば分かる。あれは卑怯じゃない、技だ。騙し剣なのは否定せんが」
妖夢「試合中に後ろを向いたりしゃがみこむのが技ですか!」
〇〇「ああ、少なくとも私が学んだ流派ではな
次の一撃のために構えつつ、不意に後ろを向いて相手の剣気を殺ぎ、瞬転して一撃
顔を伏せ死んだようにしゃがみこみ、油断して近づいた相手の胸元を斜め下方から槍のように突く
一度きりしか使えないが、どちらも技だ」
妖夢「う……」
こう言うのもなんだが、騙し剣を技として教えるとは妙な流派だ、と門弟の私も思う
妖夢は聡明な女性だ。分かってくれているはず
しかし、どうしてもただの人間に負けた悔しさが先行してしまうのだろう
妖忌「そういうことだ。いかなる理由とて、負けは負けなのだ」
妖夢「……はい」
妖忌「しかし婿殿も、なぜ騙し剣で迎え撃ったのだ。遺恨が残ると思わなんだか?」
さすが義祖父様、とても痛いところを突いてこられる
〇〇「わかっていたのです。真っ直ぐな剣を使う妖夢は、間違いなく騙し剣のからめ手に乗ってくると」
妖夢「……」
〇〇「心は痛みました。しかし、剣におけるほぼ全ての点で劣る私が勝つには技に頼るしかなかったのです」
妖忌「……」
〇〇「もしも私が負ければ、妖夢は他の男のもとへ行ってしまう。それが、私にはどうしても耐えられなかった……!」
幽々子「(そんな話だったかしら……?)」
妖夢「……」
何も言わず、立ち上がった妖夢が僕の頭を胸元に抱きしめる
小さく よしよし という言葉が聞こえた
妖忌「……なるほど、仲むつまじいの」
幽々子「でしょ? ほとんど毎日この調子よ。妬けちゃって困るわ」
それからすぐ、義祖父様は帰っていった
幽々子様によると「安心したんじゃない?」との言だが、何をもって安心されたのか、私にも妖夢にも分からなかった
さて、それからの事も少し記しておこう
義祖父様はそれから数日おきに来られるようになり、私たちに稽古をつけてくれる
一度本気で試合を申し込んだが、十数秒で勝負がついてしまった
やはり、まだまだ研鑽が足りないと思い知らされてしまう
しかし、毎回来るたびに「ひ孫はまだかの?」と聞かれるのは少々恥ずかしい
そんな願いが天に通じたのか、先月妖夢の懐妊が分かるやいなや、天狗よりも早く記事を書き
号外かわら版と称して配ったそうだ
妖夢は真っ赤になって怒ったが、不遜な話だが私はそこまでする義祖父様が、可愛いと思ってしまった
名前の候補も今から考えておくらしい
父親業を取られてしまわないように私もしっかりせねば、と決意を新たにしたところで、筆を置く事にする
妖夢「〇〇さん、何書いてたんですか」
〇〇「義祖父様が帰ってきた日の回想録。何となく、書いておきたくなってな」
妖夢「そうですか。……〇〇さん、やっぱりあの試合は無効試合だと思うんですけど」
〇〇「諦めないなぁ、妖夢は……」
うpろだ0038
白玉楼縁側
「よ~む~ぅ?今日のおやつは何かしら~?」
「えぇっと今日は……あ」
「ま~さ~か~」
「申し訳ありません!この不祥事、腹を斬って何卒っ!」
「待て待て待て、お前ハラキリ好きだなおい」
「では……首を?」
「可愛い彼女の首無し姿なぞ見たくないわ!いいから刀しまえ刀」
「可愛い……と言われれば仕方がないですね!」
「……もう言ってやらねェぞ」
「はぅぅ……でも嬉しかったから良しと」
「できるとでも思っているのかしら~?準備できていない事を誤魔化せるとでも~?」
「その……申し訳ありません」
「心配しなくてもいいわ~今日のおやつは貰ったの~」
「誰か……と言うか一人しか該当者がいませんが」
「紫さんですか?」
「ぴ~んぽ~ん、じゃあ○○にはお裾分けしてあげるわ~」
「ありがとうございます」
「ジトーッ)それを日頃頑張っている私に」
「やらん」
「酷いです……こうなったらハラキリを!」
「勝手にしてろ」
「……(スッ」
懐から短刀が出てきた、ん?あれはまさか……
「幽々子様、さ、遠慮なく」
「スッ)じゃあいくわよ~」
あいつはどこまでかまってちゃんなんだ
「はぁ……ほれ、茶番してないでこっち来い。俺が悪かったよ」
「最初からそうしていれば、こっちは疲れるんですよ!」
「……反省はないのか?」
流石に頭に来る、ここ最近顔見せられなかったからって
えらく今日はかまってちゃんオーラが全開だ
「わ、私だって会えなくて寂しかったんですから少しくらいいいじゃないですか!」
「にしても度が過ぎてないか?」
「んぅ~!もういいです!勝手に幽々子様とお茶しててください!(ドタドタドタッ」
なんちゅう分かりやすさ……追いかけてくるとでも思っているのか
「あらら~ご立腹の様よ~?」
「いいんですよ、機嫌くらい放っておいたら治りますよ」
「放置プレイかしら~?」
「誰もそんな事言ってませんが……で、何貰ったんですか?」
「じゃじゃ~んこれよ~」
これは……薄い桃色の餅が濁った緑の葉っぱに包まれている
「桜餅ですか?」
「なんか安売りしてたから貰ってきたんですって~」
「それ盗むと同じなんじゃ……」
「気にしたら負けよ~?」
「は、はぁ……」
安売り=貰うの等式は成り立たんだろう普通
「はいこれ妖夢の分」
と言ってもう一個桜餅を手渡される
「仲直りしてきなさい、手遅れになる前に」
「手遅れって……俺が居なくなるみたいじゃないですか」
「私の能力忘れたの?私の気分次第なのよ?貴方の生死なんて」
急に声にゆとりがなくなる
「……どうして今なんですか?」
「後回しにしていたら取り返しがつかないことだってあるの」
「でも」
「即断即決、貴方も気分が悪いでしょう?」
「まぁそうですけど……」
「……あの子はね、貴方が来ないときだっていつもお茶とお菓子を三人分用意していたの」
「え?」
「その意図くらい分かるでしょう?」
「俺が来るのを待ち侘びていたと?」
「そう、貴方が初めて出来た恋人だからでしょうね。あの子はあの子なりに懸命なの」
「……」
「でも私には聞こうとしない、自分で答えを出そうとしている」
「……」
「だからああいうかまってちゃんになっちゃうのよ、付き合い方や距離が分からなくてね」
「それで……」
「自分を好きになってもらいたい一心なの、多少の事で怒らないであげて?」
「はぁ……俺はとんだ大悪党でしたね」
「そうね、でも気持ちが変わったでしょう?」
「バシッ)はい!きちんと謝ってきます!」
両頬を叩き自分を一括する
「ほっぺたが桜餅みたいね~」
「食べないでくださいよ?」
「もう今日は十分食べたから安心していいわ~」
「十分……まぁいいか、では!」
「今夜は留守にした方がいいかしら~?」
「……お気遣いありがたいです」
一礼して妖夢の元へ向かう
しかしあの幽々子様が十分……一体いくつお食べになったのだろう
~白玉楼応接間~
「よ~お~むっ!桜餅持ってきたぞ!」
「ひゃっ!吃驚するじゃないですか!」
「餡子がたっぷりの桜餅だぞ~」
「何故聞いてもいないのに中身を……」
「いや……お腹減ったような空気醸し出してたから」
「私そんなに食いしん坊じゃないです!」
「でも腹は減ってるんだろ?ほれ、お裾分けだ」
「え?……でも」
「いいんだよ、二つ貰ったんだから」
「じゃあ一緒に……は、鬱陶しいでしょうね」
「んじゃ一緒に食べるか」
妖夢の手をそっと握り縁側へ誘導する
「ど、どうしたんですか?」
「そのな……幽々子様に色々聞いてきたんだよ」
「えっ?」
「お前が誰にも頼らず一人で頑張っている事、自分なりに好感を持ってもらおうと努力している事」
「そ、そこまで頑張ってませんよ!」
「でも頑張ってるんだろう?俺はそれを踏み躙った」
「踏み躙るだなんてそんな……」
「もっと甘えていいよ、俺が許す」
「え……でも迷惑に……」
「ほら見ろ、俺が普段冷たいから俺の迷惑とか考えてる」
「でもあんまり私が干渉し過ぎても……」
「ギュッ)俺の言うことが聞けないってのか?」
優しく妖夢を抱き寄せる。慣れてないから緊張するけど、んな事言ってられない
「抱き寄せるなんて……ズルいです」
「卑怯上等!……もっと自分の気持ちに素直になっていいんだ」
「もう私に冷たくあったりしませんか?」
「あぁ、もっと大事にするつもりだ」
「私の我儘聞いてくれますか?」
「うーん……出来る範囲でなら努力するわ」
「ふふっ、言いましたね?」
「あ……よかろう、その挑戦受けて立とう」
「じゃあ……わたっ、私をその……お、おおお」
「お?」
「おにょめさんにしてくだしゃひぎぃ!」
「……盛大に噛んだな」
「ふぇぇ……ひはがいはいれすぅ……」
「舌が痛いか……ほれ見せてみ」
「へ?あ、はいいいれすyんぅっ!」
舌を入れてキスをしてみる……我ながらとんでもない賛成の仕方だ
これで今までの分がチャラになると思えんが……
「んぅ……ふぅ、これで痛みは引いたかな?」
「……しっ!ししししししし舌が!」
「あ~……言っとくがこっちもかなり恥ずかしいんだからな」
「恥ずかしいならしなきゃいいのに……」
「俺は妖夢の喜ぶ顔が見たかったんだよ!言わせんな恥ずかしい……」
「えへへ……」
「んだよ」
「これは将来を誓い合う、でいいんですよね?」
「はぁ……それ以外に何がある?」
少し瞳を潤ませながら満面の笑みで俺の方を向く
「……私を……大事にしてくださいね?」
「傷一つつかせやしないさ」
お互いを確かめ合うようにもう一度唇を交わす
「仲直りもしたことですしお茶にしましょう、あ・な・た?」
「いきなり呼び方を変更しやがった」
「そりゃあ今から呼ばないと……伴侶なんですよ?」
「へいへい……ん?桜餅は?」
「あ、あれ?この皿に置いておいたはずなのに……」
「あらら~?要らないんじゃなかったの~?」
間の抜けた声と共に姿を現したのは……
「 犯 人 発 見 」
「ゆ、幽々子様!」
「甘味は十分だろうと思って食べちゃったわよ~」
「桜餅はもう十分だってさっき……」
「別腹よ~」
「……まさに底無しの胃袋」
「そういえば無事仲直りできた様ね~甘々だったわ~」
「まさか……見てたんですか?」
「えぇっと~?『……私を……大事にしてくださいね?(ポッ』『傷一つつかせやしないさ(キリッ』」
「……ぬぅがああああああああああああ!!!」
「はぅぅぅ……(バタッ」
「若いっていいわね~うふふ~」
そんなある昼下がりの出来事
妖の夢 01(Megalith 2015/09/28)
「……此処は何処だ?」
目が覚めると、何処かの庭のような所に居た。
足りない頭で必死に考える。しかし、こんな所に来た事は無い。
何処か、「カレサンスイテイエン」の様な景色だ。砂に模様は無いけれど。
「綺麗だなぁ」
思わず、単純な感想を漏らす。
自分にまだこんな感情があるのかと、少し自虐的になった。
とりあえず、行動しよう。そう思い、歩き始めた。
「……でかっ」
暫く歩くと、家が見えてきた。否、家というよりは、お屋敷のようだ。
何処か、時代劇に出てきそうな雰囲気がする。時代劇見たことないが。
この家の主にいろいろ聞きたいが、勝手に家に上がるわけにはいかないので、家の外で待っていよう。
……30分後……
「…りまし…では…」
ん?話し声がしてきた。しかし、家の主にしては声が子供らしいというかなんというか。
ガラッ
「ああ言っておきますが幽々子様、買い物に行っている間に何か食べたりしないで……ん?」
出てきたのは、緑色の服を着ている、銀髪の少女。
思わず、その見た目に見とれてしまった。しかし、
「……誰ですか?」
急に体を叩いた殺気に正気に返る。そして、つい反射的にいつもの癖で、
「……え」
殺気を送り返してしまった。
緑色の少女は、一瞬たじろいだが、すぐに立て直して腰にある刀(いまあると気づいた)を抜こうとして……
「あら?どうしたの妖夢?」
思いっきりずっこけた。……すごく痛そう。喧嘩を買った(実際に買ったわけじゃ無いけど)僕が言う事じゃないかもだけど、ダイジョブかな。
「ゆ、幽々子様!今出てはなりません!変人がいますから!」
……不届き者とかならまだ分かるけど、変人は酷いなぁ……
でも何だろう、この和服の方は。あ、緑の少女の言葉遣いからして、この人が主かな?
「あらあら、妖夢?見た目だけで決めつけてはいけないわよ?」
遠回しに僕の見た目が悪いと言ってますよねそれ。
……平凡な顔だと思うんだけど
「いいえ!この人が私に殺気を!」
「その人が最初に食らいついたの?私はこの人はそんな人とは思えないけど。」
「ぐっっ……しかし!」
「じゃああなたは身の危険を感じてもほっておくのね?」
「……!」
おお、僕のイメージがさっき言ってたのと違うけど、うまく言いくるめた。
この人なら、話を聞いてくれそうだな……
「あの……すみません」
うわあ、緑の子の目線が痛いよ。
取りあえず、今は無視。
「ここは……何処なのでしょう?」
「ああ、分からないのも無理ないわね。あなたは見た感じ外の人間でしょうし……また紫の仕業かしら」
なんだかよく分からない用語が出てきたが、今は良いだろう。
「ここで説明するのも何だから、中に入りなさい」
おお、有り難い。
「幽々子様!いけません!」
なんか予想通り。
「あら、何故?」
「幽々子様の身に危険が!」
「あんな人間に私が遅れを取ると思って?」
「ぐっっ……」
おお、またもや。でも、なんか馬鹿にされた気がする。
「全く……じゃあ私の部屋に行きましょ。貴方、名前は?」
おお、そういえば名乗ってなかった。
「申し遅れました。僕の名は……」
「○○です」
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ここは、「白玉楼」という建物らしい。
また、和服の方は「西行寺 幽々子」と言い、緑の子は「魂魄 妖夢」と言うらしい。
そして、此処は「幻想郷」と言う所……らしい。
らしいばかりなのは、まだ完全に飲み込めていないからだ。
しかし、周りに青白い物体がふよふよしているのを見ると、信じなければいけないのだろう。
「……成る程、分かりました」
「理解が早くて助かるわ~」
「いえいえ、頭が追いついてないだけですよ」
しかし、話を聞いていて疑問に思ったところがある。
「……僕は、どうすれば良いのでしょう?」
話によると、「八雲 紫」と言う妖怪の仕業らしいが、その人(?)が来るまではどうしたら良いのだろうか。
これはある意味生死の問題なのだ。
「そうねえ……此処に住んじゃえば?」
あ、なんか予測できた。
「いけません!幽々子様!」
ほらね。
「何よ妖夢、さっきから~……恥ずかしいの?」
凄くにやにやしてますね幽々子様。
「ちちち違います!」
「妖夢もそういう年になったのね~」
「違いますって言ってるでしょう!?」
端から見ると女子会みたいだなぁ。
女子会の事よく知らないけど。
まあ、この言い争いが終わるまで待つか……
「はい、じゃあ貴方の部屋に案内するわね」
あ、終わったのかな?
「お願いします」
「……私はまだ納得してませんからね」
うーん、思いっきり嫌われたな。
……少し悲しいのはなんでだろう?ま、いいか。
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「……幽々子様」
「ん~何?」
「なぜあのような輩を家に?」
「納得いかない?」
いかない。いかないに決まってる。
会ってまだ数十分の相手を家に上げるどころか住まわせるなんて。
「そうねぇ、強いて言うなら……あなたが嬉しそうだからかしら?」
「んなっっ……」
嬉しい?嬉しいはずがない。
あんなよく分からない男と一緒にいて。
何か落ち着かなくなるだけだ。
それを幽々子様に伝えた。
「……もう少し恋愛経験させれば良かったかしら」
相変わらず幽々子様の言うことは分からない。
「……庭の掃除してきます。」
何か、逃げたくなった。あの人について、触れられたくなかった。
その気持ちが何なのか、分からないけど。
きっと、別のことをすれば忘れるだろう。
廊下に、幽々子だけが残った。
「……鈍いのは、お互い様ね」
そんな、二人の出会い。
初投稿です。至らぬ点があるかもですが、ご容赦ください。
妖の夢 02(Megalith 2015/10/02)
僕は昔から父一人に育てられてきた。母親の顔は知らない。
何時も優しい、だけど時々厳しい父だった。
そして、僕はそんな父に教えられてきたことがある。
「力ではどんなに負かされようが、心だけは決して逃げるな。屈するな」
そして、その言葉を、ずっと守り続けてきた。
喧嘩を売られたら、どんなに相手が強くても相手をした。
殴られても、蹴られても、屈しなかった。
周りの反応は冷たかった。
「弱い癖に、いい気になってんじゃねえよ」とか、
「世界一の負けず嫌い」とか。
しかし、僕はこの父から教えられてきて身についた性格を、誇りに持っている。
「……でもあんな少女にまで逆らっちまうとはなあ」
恥じらいを通り越して情けない。
言い訳すると、それだけあの少女の殺気が強かったのだ。僕が弱かったわけじゃない。……多分。
天国の父は、こんな息子を見て腹を抱えて笑ってるんだろうなあ。そういう父だし。
……ああ、そうか。大好きな父が死んでからか。色々なことが心から楽しめなくなったのは。
ショックで感情を失い、心も上の空で、ただ一つ、父が残した僕の性格を軸にして歩いていた。
……そんな時に、ここに迷い込んだんだ。
景色を久しぶりに綺麗と感じた。最近は感情も戻ってきた。それもこれも……
「…さん、○○さん!」
「あ、ああ、何?」
「……昼食です」
この、白玉楼の人たちのおかげだ。
本人たちは別に意識していないだろう。でも、やっぱり人の温もりは有り難い。
僕の凍った感情を、少しずつ溶かしてくれる。
少しずつ、楽しいと思えるようになった。
少しずつ、うれしいと思えるようになった。
……少しずつ、帰りたくないと思うようになった。
ずっとこの幸せの中に居たい。
外に帰っても、待ってくれる友人も父もいないから。
そして、僕は妖夢のことを……好きになったから。
感情が戻っていくごとに大きくなったこの気持ち。最初はそれが家族愛のようなものだと思っていた。
しかし、この一緒に居たいけども居たくない感情は、恋心としか思えなかった。
出来る事なら伝えたい。しかし、
「……○!○!さん!」
「んああ、ごめんごめん、少し考え事してて……」
「はあ、全く……」
見ての通り嫌われてる。
今回ほど自分の性格が憎かった事は無い。
……しかし、丁度良かったと思う。
この生活も、この恋心も、その名の通り「幻想」にして帰ればいいのだ。
それが、一番いい選択だと思う。
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……ああ、つい○○さんにそっけない態度をとってしまう。
全部あの白黒のせいだ。
香霖堂でたまたま魔理沙に会った。その時に日ごろの愚痴を言っただけなのに魔理沙ってば、
「……ふーん。そんなにそいつのことが好きなんだな」
そんなわけない。なんで幽々子様も魔理沙も、同じことを言うのだ。そう思って強く否定したら、
「じゃあ、私がもらっていこうかな。丁度弟子欲しいし」
って言った。
むしれくれてやりたいぐらいだ。そのぐらいめんどくさいのに、それなのに……
何故か、手放したくない。
暫く私は答えに悩んでた。すると魔理沙は、
「恋する乙女はすぐ分かるんだよ。なんたって私は恋の魔法使いだからな!」
そういって飛んで行った。
何時もならすぐ忘れる魔理沙のたわごとが、今回は頭から離れなかった。
……自分でもうすうす気づいていた。
ただ、認めたくなかっただけで。
私なんて人が恋なんかするわけないと思って。
でも、この一緒に居たいけども居たくない感情は、恋心としか思えなかった。
出来る事なら伝えたい。しかし、
「……さん、妖夢さん?」
「は、はい!?」
「えと……足、止まってますよ」
「あ、はいすみません」
○○さんの態度が、幽々子様に比べてよそよそしい。
しかし、自業自得だ。きっと私が○○さんに威嚇してしまったからだろう。
……でも、○○さんはいつか必ず帰る。ならば、○○さんのことも、○○さんへの恋心も、一時の「夢」だと思えばいい。
それが、一番いい選択だと思う。
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……あと何回、妖夢と食事ができるのだろう。
……あと何回、○○さんを呼びに行けるのだろう。
……あと何回、会話できるのだろう。
二人の間に、沈黙が続く。そして、そのまま食卓につく。
「幽々子様、連れてきました。」
「もう~遅いわよ」
幽々子は相変わらず明るい口調だ。
「すみませんでした」
「……なんか暗いわね。あ、そうだ。○○」
「?……はい」
「紫が見つかったわよ」
「「……!!」」
二人の時間が止まる。それを知らずか、幽々子は続ける。
「色々忙しいらしいから、一週間後、ここに来るわ」
……ああ、でも これでいいんだ。
両想いで片思いの二人。二人は、お互いが望んだ道を行く。
35スレ目 >>325
妖夢「よ、嫁入り前なのに、手を握るなんてハレンチですっ!!」
って手を握れないので○○の手をツンツンして手を握る練習とか言って赤くなる妖夢
最終更新:2021年04月25日 13:55