幽々子3
3スレ目 >>659(うpろだ0004)
ねえ紫、水枕を湯たんぽにするにはどうすればいい?
火にかける?
それじゃあ火葬じゃないの。骨も残らないかも。
でもそうね、雀は小骨が多いからしっかり焼いて……
って、それじゃあ食べる所も残らないわね。
何の話だったかしら。
……そうそう。水枕を湯たんぽに変える話よね。
あらどうしたの妖夢。
水を抜いてお湯を入れればいい?
妖夢。それは確かに正解だけどね、私が求める答えはそうじゃないのよ。
水枕は水枕のまま、いかにして湯たんぽのような温もりを与えるのか。
焦点はそこなの。
やっぱりアレかしらね。
紫もそう思う?
まあ……彼がこっちに来るまで、たまにお願いするわね。
あら、どうしたの妖夢。
やっぱり話が見えない?
そうねぇ……少し解りやすく言いましょうか。
水枕は、温もりを受け取ることは出来ても、温もりを与えることは出来ないのよ。
霞む視界。
気怠い全身。
熱に浮かされた意識は、鮮明さを失い、端から焼かれていくよう。
身体の底から吐き出す吐息は、痛む喉をさらに焦がしていく。
「はぁ……」
思わず漏らす溜め息ですら、身体を痛め付ける原因になる。
それは酷い風邪だった。
幻想郷特有の病気かもしれないが、彼にとっては風邪以外の何物でもない。
狂いそうな高熱に、全身を苛む関節痛。
そして、熱を出しているにも関わらず、脳髄から背筋を降りていく悪寒。
それらが心身の抵抗力を奪い、彼を追い詰めていた。
「あらあら。酷い有様ねぇ」
声と共に、視界に入ってくる空の蒼。
彼に見える世界はまだぼやけていたものの、相手が誰か、おぼろげながら解っていた。
「ゆゆこさま……?」
「喋ると辛いでしょ。それに起き上がろうとしないの。病人は病人らしく寝てなさいな」
「……はい」
ふわふわと、ぼやける視界で動く姿。
その声が否定をしなかったから、肯定の印と彼は受け取った。
「ふふ。白玉楼に来る気なら、私が案内してあげようかしら」
――それは何処ぞの死神か。
そんなことを言われれば、その相手を疑う余地はない。
「もう……寛容な殿方は、これしきでそんな顔しないものよ?3割は冗談なのに」
「……狭量で構いません」
「あらあら、つれないわねぇ」
不意に、額に痺れるような冷気。思わず彼はぎゅっと目をつぶった。
「本当に、辛かったみたいね……」
ゆっくりと目を開くと、手ぬぐいを巻いた幽々子の手が、額にあてられていた。
幽霊は、直接触ると凍傷を起こすくらい冷たい。
それを配慮しての、手ぬぐい1枚。
「高すぎる熱は、身体を内側から蝕んでいくものよ。暖かいと、死体の腐敗も進むようにね」
「まだ生きてますよ」
「そうね。まだまだ新鮮だし……産地直送で」
「食材ですか……」
意識が冷えて、鮮明になっていく。
ようやく捉らえた彼女の表情は、何処か楽しそうで。
まるで、無邪気に何か悪戯を企んでいるような。
「あら。本当に食べちゃおうかしら」
「え……」
動く気配すら感じさせず、幽々子は身を屈める。
「……っ!?」
気付いた時には、彼の視界いっぱいに、目を閉じた幽々子が。
――どれだけそうしていたのだろうか。
変な緊張は時間の経過を忘れさせ、余計な思考を締め出していく。
「……ふふ。熱が上がっちゃったかしら?」
それが、途切れた。
離れた彼女は、してやったりと言わんばかりの、満面の笑顔。
額に当てられた手は、最初ほど冷たくはなかったものの、
彼が起き上がろうとするのを止めるのには充分だった。
「ゆ、幽々子様……っ!」
「ほらほら駄目よぉ。ちゃんと寝てないと~」
「……ってことがあったのよ~」
「惚気ね」
「惚気ですね」
友人と従者の息のあったツッコミにも、幽々子はふわふわした態度のまま取り合わない。
「つまり幽々子様は、○○さんに湯たんぽのような温もりを与えてあげたい、と」
「あら妖夢、よく解ったわね」
「そこまで聞かされれば、私だって解りますよ」
「やっぱり完全に死んでると不便かしら。気持ちはこんなに暖かいのに、触れ合ったら怪我させちゃうし」
西行妖は咲かなかったけど、幽々子の頭は常春じゃないのかしら。
友人の春っぷりに少々失礼なことを思いつつ、紫は境界操作の準備を始める。
「と、まあ。そういう訳なのよ。紫、アレお願いね」
「仕方ないわねぇ……閻魔に怒られても知らないわよ?」
紫はそれとなくたしなめるが、ふふりと笑った幽々子は人差し指を立てて解説する。
「愛し合う2人をそんな法で引き裂くなんて、それこそ罪よ。
それに恋することまで罪にしちゃったら、生物なんてみんないなくなっちゃうわ。
幽霊だって妖怪だって、恋愛は自由なのよ♪」
「……妖夢。長らく見てると思うけど、恋する乙女は止まらないって、こういうことよ」
「こんな幽々子様は初めて見ましたけど……解る気がします、何となく」
幼い従者も、この時ばかりは主の側にはつかない。
「もー……恋する気持ちは、いつまでも女を若く美しくするものよ」
人差し指を口元にあて、幽々子は微笑む。
彼とは触れえなかった、その唇に。
日が高く昇り、幻想郷中を暖かく照らす昼下がり。
普段より厚着をした彼は、竹箒を手に庭の掃除をしていた。
熱は気にならない程度に下がったが、寒気は僅かながら背筋に残っている。
日向での作業は、柔らかく身体を暖めてくれていた。
縁側には、茶の用意と薬の用意。
その薬のおかげかどうかは解らないが、崩していた体調はかなり持ち直した。
もちろん、ゆっくり眠れたことも要因の1つではある。
薬を持ち合わせていれば、彼は真っ先に飲んでいたのだが……持って来たのは、幽々子だった。
結論として、どちらにせよ幽々子に助けられたということである。
死を操る能力を持つ、亡霊に――
「…………」
彼は掃除の手を止め、目を閉じる。
彼が気付いたのは、僅かな異変。
いや、違和感程度のものだろう。だが、それがこの幻想郷では生と死の分かれ目になり得る。
風がそよぐ音も、日の暖かさも、土の匂いも、全てがいつも通り。
――だが、微かに違う何か。
それに気付いた瞬間、彼は反射的に身体を低くしていた。
それは死角からの気配。
察知されないように、早さを抑えた――どこまでも静かな踏み込み。
人の身ながらそれに気付き、反応出来たのは、彼の鍛練ゆえか。
その踏み込みの速度と同じ……
いや、それよりいささか早く彼の頭上を腕が通り過ぎ、彼の髪を掠める。
「あ、あら?」
「な……!?」
聞こえた声は、幻聴などでは有り得ない。
振り返れば、映る景色は桜舞う空。
意識で理解するよりも早く、身体は反射的に取るべき行動を選択し、実行に移していた。
弾かれたように立ち上がり、バランスを崩した彼女の身体を抱き留める。
背後からの不意打ちを凌いだ彼の報酬は、その彼の行動に驚き、腕の中で息を飲んだ彼女の様子だった。
「○○……」
「こんにちは、幽々子様」
普段から余裕のあるふわふわした様子で、滅多に緊張したり赤くならない彼女の、意外な側面。
それが彼には、とても嬉しかった。
「お、起きても……大丈夫なの?」
「はい。幽々子様のお陰です」
「そう……よかった」
嘘偽りのない、彼の真っすぐな気持ち。
腕の中の幽々子は、恥ずかしさをごまかすように彼に腕を回す。
抱かれて、彼もやっと気付いた。
霊は、直接触れば凍傷を引き起こす程に冷たい。
それは、幽々子とて例外ではない。彼は先日、身を持ってそれを理解している。
「幽々子様……?」
ならば、どうして。
どうしてこの腕の中は、こんなに温もりに溢れているのか――?
「貴方がくれた気持ちが、こんなにも暖かいから……私もこんなに暖かくなっちゃうのよ♪」
「……本当の所はどうなんですか?」
幽々子の様子は、すっかりいつもの調子に戻っていた。
あの妖夢が手を焼いている、気ままな冥界の姫君に。
彼女は甘えるように、身体に回した手に力を込める。
「……霊は冷たいから、こんな風に貴方と触れ合えないじゃない? だから、紫にちょっと頼んだのよ。
生と死の境界をちょっと弄って……ね」
「生と死の、境界――!?」
「一時的によ、そんなに驚かないの」
大したことじゃないのよ、と幽々子は笑うが、彼にとってはとんでもないことだった。
彼も紫との面識はある。
だが彼は、紫の能力を完全には理解していなかったのだ。
スキマと呼ばれる空間の裂け目を作り、そこを自由に行き来する。
認識としては、その程度だったのだ。
境界を操る能力が、まさかこれほどのものだったとは。
「そういう事だから、今日は目一杯イチャイチャするわよ~♪」
「幽々子様、その、イチャイチャって……」
「あら、○○は私じゃ不満かしら?」
「い、いえ、決してそんなことは……」
――虜になったのは、何時からだろう。
どれだけ求めても、向けてはもらえないと思っていたその笑顔に。
――惹かれていたのは、何時からだろう。
穏やかな、その眼差しに。
記憶を探っても、その起源は見付からない。
それなら、初めて見た時からなのだろう。
彼は以前、幽々子に尋ねてみた事がある。どうして、自分を好きになったのか。
それに対する彼女の返答は曖昧で、掴み所がなくて、実に彼女らしかったが、彼女も同じだったのかもしれない。
誰だって、一目惚れを避けられるものではないから。
「ふふ。今日はずっと一緒にいるわよ。……それこそ、床でもね♪」
「!?」
「……昨晩はお楽しみでしたね、幽々子様」
「あらあら、駄目よぉ妖夢。まだ子供なんだから、そんな言い方しちゃ」
翌朝の白玉楼。
朝帰りした幽々子に、妖夢の鋭い一言が。
「朝御飯も御馳走になっちゃったけど、やっぱりまだ足りないわ。妖夢、お願いね~」
「私の分も宜しくね」
それをあっさりと流すマイペースな主とその友人に、妖夢はこめかみを押さえていたが、やがて立ち上がり、厨房へ向かう。
「紫、ありがとう」
「どうしたのよ突然。幽々子らしくないじゃない」
礼を言う幽々子に、紫は目を丸くする。
親しき中にも礼儀あり、とは言うものの、これほど真摯で穏やかな彼女の目を、紫は見たことがなかった。
その視線は、春の木漏れ日の様に暖かく、幽々子自身が春の様。
「昨日1日、○○と一緒に生活出来て、とても楽しかったのよ。
もし、みんな一緒に暮らせたら、もっと楽しいんじゃ……って思うくらいに」
「相変わらず惚気てるわねぇ……本気なの?」
「心外ね。遊びだなんて言った覚えは1度もないわよ」
「幽々子様は、言っても忘れてるじゃないですか」
お盆を持って妖夢が戻って来る。
黙々と配膳を続けるその様子を、2人は茶を飲みながら、黙って見ていた。
「……ね、妖夢」
「何ですか?」
何気なく発せられた幽々子の次の質問は、流石の妖夢ですら動揺せざるを得なかった。
「お世話するなら、男の子と女の子、どっちがいいかしら?」
「みょっ!?」
「幽々子……産むの?」
「産めないわよ。契ってないもの~」
それからというもの、幽々子は随分と鉄砲玉になった。
彼の所に行く時は、大概1人で。
護衛のはずの妖夢は、白玉楼で留守番である。
そして楽しい月日はあっという間に過ぎ去り、数年後。
「幽々子様……今日もですか」
冬も近い秋の空。
落ち葉を集めていた妖夢は、玄関先で支度をしている幽々子を見付け、声をかけた。
丹念に櫛を通した髪を見れば、幽々子の意気込みも知れるというものだろう。
「そんな顔しないの妖夢。でも心配しないで。今日で、最後だから」
その答えに、妖夢は俯いて「そうですか……」とだけ答えた。
「焼き芋、お願いね。楽しみにしてるから」
「……はい」
幽々子の姿が消えてからも、妖夢はしばらく顔を上げることが出来なかった。
死とは、生者との別れでもあるが、死者との再開でもある。
彼は神でも妖怪でもなく、何の能力も持たないただの人間であったから、
時間にせよそれ以外にせよ、死に至る要因は多かった。
「○○、起きてるかしら?」
そしてまた、そんな彼が幽々子と惹かれあったからこそ、人としては早過ぎる死に至ることになったのかもしれない。
それでも――
「……すみません。茶の1杯もお出し出来なくて」
「いいわよ。楽にしてて」
ふわりと、幽々子は彼の枕元に移動する。
それはさながら、蝶の様に。
彼女が手を取ると、彼は小さく笑った。
「ずうっと前も、こんなことがあったわよね」
「そうですね……昨日ことみたいです」
彼にとって、幽々子と過ごした日々は夢のようで。
それは忘れることなど出来はしない、大切な思い出達。
それでも『あの時』と違うのは、幽々子の手の方が暖かいこと。
冷たい指を1本1本暖めるように、温もりが伝わっていく。
「……変な話ですよね。
死にかけてる俺が、命の暖かさを幽々子様から頂けるなんて」
それが例え、紫の境界操作によるものだったとしても。
今の自分が、相当熱を失っていることは知っている。
それは死期が近いことの、何よりの証明だ。
彼の心のどこかの、冷静な部分が見積を出していた。
もう後、四半刻も生きられないだろう、と。
「前にも言ったじゃないの。
貴方がくれた気持ちが暖かいから、私もこんなに暖かいのよ。
変な所なんて、1つとしてないじゃないの」
それは、いつか彼女が茶化した言葉。
ただ前とは違い、彼女の表情が無邪気な笑顔ではなく、穏やかな微笑みだったから。
「そう、ですね」
彼女なりの気遣いなのだろう。
彼はその手を握り返すことで、それに答えた。
とは言っても、死人も当然の彼である。握り返したとはいえ、子猫程の力もなかったに違いない。
それでも、幽々子には伝わっていた。彼の、精一杯の気持ちが。
「○○。死ぬのは……恐い?」
「……はい」
彼の答えは、生物にとって当然の答えだろう。
形ある物は何時か壊れ、生ある者は生まれ落ちた瞬間から死に向かっている。
蓬莱の薬は、その中でも例外に属するものだろう。
多くの死を見ながら生きていくというその代償は、決して少なくはないのだが。
――それでも、彼は死と向き合えた。
「俺は、果報者かもしれません。
こうして、幽々子様に看取って貰えるなら、何だか……安心してしまいますから」
「そう……よかった……」
無言のまま手を握りあい、どれほどそうしていただろうか。
彼の力も命の灯も、段々と弱まりつつあった。
「幽々子様と一緒に過ごせた日々は……俺の、宝物です」
「○○……?」
「ずっとずっと……からかわれてばっかりでしたけど、とても幸せでした。
こんな俺ですけど……幽々子様――愛してます。
俺がどこにいても、どうなっても……この気持ちは変わりません」
もう、視界が霞んで見えなかった。
握りあった手も、どこか作り物のような感覚しか残っていない。
ぽたり、ぽたりと顔に零れ落ちる熱い雫。
その源ですら、厚い霧に囲われたような視界では捉らえられなかった。
「○○……あの時の続き、してあげるわね」
「あのとき…………?」
思考すらままならない彼が、それについて考えようとした時。
「んっ……!?」
溢れそうな気持ちを凝縮した、強引な温もりが。
(ああ、そっか……)
彼は、静かに目を閉じる。
五感全てが死に絶えても、彼には僅かながら思考する時間が残っていた。
多くは考えられないものの、得り好みなどする必要はなかった。
彼の想いは、ただ1人のためだけにあったのだから。
(幽々子様……ありがとう、ございます――)
狂おしい程に、他の誰かを求める気持ち。
最初は……恋だったのかもしれないわ。
でも、この気持ちは。
心の底から沸き上がって来るこの気持ちは、きっと、恋なんかじゃなくて――
――愛と呼ぶのかもしれないわね。妖夢はそう思わない?
真っ白な世界を、ただ浮いていた。
上下すら解らず、ただ暖かな世界。
彼は死後のことはあまり知らなかったが、これがそうなのだろうか。
これまでのことは、ちゃんと覚えていた。忘れられるわけがない。
遠くで、誰かが話している。
内容は聞き取れないまでも、それが近付いて来ているのは解った。
「結局暑さ寒さというのは、自分より熱いか寒いかなのよ。
だから、氷……そうね、あの氷精にとっては、冬でも寒くないのよ。
逆に春なら解けちゃうかもね。
明日までの宿題にしましょうか。水枕でどうやってぬくぬくするか。
それじゃ、おやすみ~」
世界の白さが、薄れていく。白から黒へ。光から闇へ落ちていく。
暖かさはそのまま、暗く光は薄れていく。不思議と怖くはなかった。
開く眼があることに気付き、視界が戻った時、そこは知らない所だった。
五感が、戻っていた。間違いなく冷たくなり、死に絶えたはずの感覚が。
「…………あれ?」
畳の部屋に敷かれた布団から身体を起こし、辺りを見回す。
見慣れた彼の家ではなく、別な誰かの家であることに疑いの余地はない。
もちろん、自分の家より遥かに上質な場所であることにも。
「……幽々子様。何も説明してなかったんですか?」
「そういえばそうねぇ。でも、百聞は一見にしかり、よ」
背中から回される、柔らかい腕。
その感触を、『暖かさ』を、どうして忘れることが出来ようか。
「幽々子様……」
呆然とした彼の耳元で、幽々子ははっきりと囁いた。
「おはよう、○○。そしてようこそ、白玉楼へ」
白玉楼。そこは冥界に存在する、幽々子達が住まう場所。
また会えた安堵と、死んでしまった実感。しかし……。
「あの、幽々子様。俺、三途の川とか閻魔の裁きとか、受けた覚えが……」
彼とて、幻想郷の住人である。幽々子達から聞いて、死神も閻魔もいることを知っている。
「それは幽々子様が、直接白玉楼に貴方を連れて来たからですよ」
彼の疑問に答えたのは、戸の所で控えている妖夢だった。
何でも、それを見咎めた映姫が幽々子と揉め、少々トラブルになったらしいが。
「……すみま」
「『すみません、幽々子様』なんて言っちゃ駄目よ。
私がしたくてしたことだし、それが例え一時的とはいえ、誰かに渡すのも嫌だし」
彼は悪人ではない。まかり間違っても、地獄に落とされることはないだろう。
だが、冥界に来ることが出来ない可能性は僅かながらある。
それを知っていたのかいないのか、幽々子は強硬手段に出たのだった。
「妖夢、しばらくは警備を厳重にね。仕掛けてくるかもしれないし」
「……私に勤まるでしょうか」
「何弱気なこと言ってるの。冥界最強の盾、見せてもらうわよ♪」
物騒なことを言いながらも何故か楽しそうな幽々子に、彼は思わず吹き出した。
望んでいた暮らしは死後も続き、
時折、ささやかな事件が冥界にも舞い込んで来るけれど、
賑やかで、穏やかで、幸せな暮らしは終わりを見せることなく続いていく。
そんな、当たり前を
見慣れて、変わらなくて、平凡で、それでも全力で守りたいと思える日々が
願わくば、ずっとずっと続きますように。
3スレ目 >>927
触発されてちょっと変なのかいてみた。
続きがかけそうなそうでないようなそんな話。
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―――舞う
―――ただ、それは舞う
―――それは花弁
―――それは風
―――それは貴女
―――それに魅入られ
―――そして誘われ
―――私は貴女の虜になった
―――嗚呼、かくしてこの思いは
―――嗚呼、張裂けそうなこの気持ちは
―――果して、貴女に届くのだろうか
「―――妖夢、今の詩どう思う?」
一頻り詠った後、幽々子は傍らに座る私に聞く。
「念のために聞いておきますけど、これは幽々子様が作った詩ですか?」
「いいえ、違うわよ?」
何でそんなことを聞くのかしら?とでも言いたげな顔で返す。
その返答を聞いて、ふむ、と軽く思案した後言う。
だったら何を言っても大丈夫だろう、と。
そう思った私が甘かったのか。
「あまりに稚拙すぎてお話にならないかと。というかそれ以前に詩ですかこれ?」
―――瞬間、空気が一変。
それはもう、ビシィッとか言う擬音とともに。
さらには幽々子様。背後に怪しげなオーラがひしひしと。
っていうか既に殺気ですよこれ!?
「うふふふ、よ~うむ~。ちょっとこっちにいらっしゃい♪」
笑みを崩さぬままに手招きをしてくる。
しかし
「あの…ちょっと…幽々子様?顔が…笑ってないですよ?」
笑っているのに笑っていない。単純に怒っているのよりも幾倍か怖い。
「何を言っているの妖夢?私はいつでも何処でも今までもこれからも未来永劫過去永劫永遠に笑顔のままよ?」
私が寄ってこないので、自分からずずぃっと寄って来る。
「幽々子様?なんか言動がおかしいですよ?と、とにかく落ち着い―――」
それを避けるために私自身も下がったのだが、些か遅く、足を捕まれてしまった。
「つ~か~ま~え~たぁ~♪よ~うむぅ~、覚悟しなさいね~♪」
そのまま抵抗もかなわず、幽々子様に引きずられていく。
何処にこんな力があるのかって思案している場合じゃないような…
「さて、何をしてあげようか・し・ら♪」
そのまま組み伏せられて、身動きが取れない。
相変わらず顔が笑っていない。笑っているのに笑っていない。
よく見たら青筋が薄っすらと…私が一体何をしたと―――
「ちょっまっあっや。何処触って!幽々子様ああぁあ!いやあぁあああぁああぁあああ!」
妖夢の叫び声は、二百由旬の庭に余すことなく響き渡ったとか何とか。
その日の夜。
幽々子は床に着く前に一人思い耽る
―――あまりに稚拙すぎてお話にならないかと
そう、確かにその通りだ。
自分でもそう思う。
だと言うのに、私は指摘されて何を怒ったのだろう。
そもそも、アレは誰の詩だったか。
遠い昔、誰かが私に詠った詩だったような気もする。
それにあの詩は、まだ続きが―――
「―――あれ?幽々子様、まだ起きていたんですか?」
妖夢の声で思考を中断する。
「ええ。ちょっと考えことを、ね」
「幽々子様が考えこととはこれまためずらし…あーいえ、何でもないです」
相変わらず懲りない事だ。だからこそ苛めがいがあるのだけど。
今はそんな気分でもないし、また今度、ね。
「うふふ。もう寝るから、心配しないでいいわよ」
「へ?あ、そう、ですか。では、おやすみなさい」
「はい、おやすみ~」
拍子抜けした発言に返し、私も眠ることにした。
さて、あの詩の続きは何であったか。
思い耽ながら寝に付くも、また一興。
今夜は、まだ退屈しないですみそうだ。
4スレ目 >>161-162
161 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/19(月) 23:24:47 [ SaPdVOp6 ]
おれはあらあらとか言われながらゆゆこにいじめられたい
162 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/19(月) 23:49:19 [ ggpONHQU ]
>>161
(・∀・)人(・∀・)ナカーマ
4スレ目 >>556
「○○、ご飯まだ~?」
「さっき食べた所じゃないですか」
「さっきのは三時のおやつ、次のは五時の間食、その次は夕ご飯」
「胃袋が宇宙なんでしょうか」
そう言いつつも食事の準備は終わらせていた
俺が白玉楼で料理長を務め始めてもう1ヶ月、そろそろこの人外リズムにも慣れてきた頃だ
まぁ、人外だからこれも仕方ないことは仕方ないとも思える
「自家製素麺ですよ、今日の五時の間食は」
「打ちたては美味しいわね~」
運んできて3秒、早くも食べ始めている
「そんなに急いで食べると胃に悪いですし喉にも詰まりますよ」
「幽霊だから大丈夫よ~
あ、貴方も食べる~?」
「え?
良いんですか?珍しいこともある物ですね・・・」
幽霊は死なないから健康も何も無いのかもしれない、大丈夫なのかもしれない
「私だってそこまで宇宙って訳でもないのよ」
この主人が人に食べ物を譲るとは・・・明日はミサイルでも振ってくるんじゃないだろうか
とか思いつつ器を用意し食べ始める
縁側で夏に食べる素麺はなかなか自分でも風流な組み合わせだと思うし、味も良い
「貴方がここで働き始めてもう1ヶ月ぐらいになるのかしら」
「そうですね、こっちに迷い込んでからどうなることかと思いましたがどうにかお陰でどうにかやれてますよ」
「私も、貴方がここで働き始めて助かってるわよ~」
「一日にあれだけ食べると作るほうは大層大変だったでしょうねぇ・・・」
「本当、料理出来る人が少なかったから一日時々3食や4食になって困ってたのよ~」
…うん、やっぱり胃袋は宇宙だ
「しかしなんで料理人を雇わなかったんですか?
人里に行けば俺ぐらいの腕なら居るでしょうに」
「生きている者で私たちに普通に接してくれる人は余り居ないのよ・・・
まぁ、色んな理由でね」
「確かにここは生きてる人間はあんまり馴染めそうに無い場所ですからねぇ」
「貴方は、厭じゃなかったの?
人里はなれた冥界で働くこと」
「俺は・・・まぁこっちに来てから独りでしたし
こっち来てからはずっとここに居ましたからまぁ一人位生きてるのが居ても構わないですよね」
「私も貴方が居なくなったら困るわよ~」
「料理長として、か一人の人としてか・・・聞いてみても良さそうな物でしょうか?」
「一緒にご飯食べれるのここでは貴方と妖夢ぐらいなのよ~
一人で食べるより二人、それよりも三人のが楽しいわよ~」
結局どっちなのか分からない、って言うかどちらかと言うと脈無し臭い
「確かに大人数で食べるのは楽しいですが・・・」
「それじゃ」
館のお嬢様は微笑んで言った
「また今度、妖夢が出掛けてるときに誘うわね」
脈あるんだろうか、無いんだろうか
困惑しているといきなりこちらにもたれ掛かって来た
「・・・うわっ!?」
「どうしたの~?」
呆けた返事に緊張も緩む
「いえ・・・何でも」
「そう、それなわいいわ~
あ、夕ご飯作る時間には素麺食べ終わらないと
夕ご飯遅くなるのは困るわね~」
「そうですね・・・
まぁ、まだ時間ありますしお茶も淹れますからゆっくりしましょう」
脈があろうと無かろうと
俺は今の幸せを満喫する気分にさせてくれる、この亡霊の姫に惚れているようだ
もう暫く、夕ご飯までこの幸せを満喫することにして俺は茶と茶菓子を台所に取りに行った
5スレ目 >>115
幽々子に求婚カマしたら…
「あなたが私を(性的に)おなかいっぱいにしてくれるなら♪」
なんて言うから、俺は幽々子に一騎討ちを挑んだんだ。
無謀だった。そんなことは判っていた。
でも男として挑まずにはいられなかったんだ。判るだろう?
程なくして我が生命枯渇す。もうだめぽ…(´・ω・`)
俺は最後の力を振り絞って 小 覇 王 の 進 撃 !
(しらない人はラストワードスペルと思ってくれ↑)
…やはりダメだ。俺はここまでらしい…
俺は惚れた女すら満たせなんだ。…無念だ。
>>118、>>119、我が屍の後に続く兄弟達よ、後を頼む。
俺にできなかったことを…
幽々子を…幸せに…
……
…
5スレ目>>278
「7,4銀」
「く・・・5,2王」
「じゃあ6,3銀」
「6,3飛車で銀を頂きます。」
「6,3銀で飛車を貰うわね」
「むぅ・・・手がありません、投了です。」
「惜しかったわね○○~、今回は西洋菓子のレシピを教えてもらおうかしら。」
「幽々子様には適いませんな、しかし罰ゲームがそんなんでいいんですか?」
「あら、愛する者と一緒に作るお菓子は格別なのよ?」
「8割は幽々子様が食べちゃいますけどね、じゃおやつを作りに行きましょうか。」
5スレ目>>409(うpろだ>>55)
鉄砲玉。
それは、他の集団に単独特攻し、自らが返り討ちに遭うことで、自集団から攻勢に出ることの口実を作る役。
……のことでもあるが、あちらこちらに飛び回り、帰ってこない者のことでもある。
「よ~む~」
「はい、何でしょうか?」
「紫の所に行ってくるわねー」
「護衛と食事の支度は如何なさいましょうか?」
「いつも通りでいいわよ~」
「畏まりました。夕食の支度をしてお待ちしています」
そう。最近の亡霊姫の行動を表すならば、鉄砲玉に違いない。
春になり、ようやく目覚めた親友との仲を暖めているのだろう。
朝食後、護衛もつけずにマヨヒガへ足を運び、夕食の時間に帰ってくる生活は、
規則正しいと言えば規則正しいが、規則正しい鉄砲玉とは如何なものか。
ただ、彼女がマヨヒガで何を行っているのか、妖夢は知らない。
わざわざ聞く事ではないし、何をしているにせよ、従者が主君に口を出すべきではない。余程の事でない限りは。
「じゃ、行ってくるわね~」
規則正しい生活でも、それが丸ごと半日ずれていれば、互いの生活が交わる時間は極めて少なくなる。
そんな互いが生活のリズムを保ったまま会おうとすれば、どちらかの就寝前に押しかけるしかないだろう。
「もう~……寝不足はお肌に悪いのよ?」
「だったら、紫も一緒に早寝早起きしましょうよ。いいわよ~健康的で」
柔らかな金髪の間を、べっこう色の櫛がゆっくりと通り抜けていく。
布団から身体を起こして、本当に眠そうな様子で呟く紫であったが、
幽々子が髪をとかしていることに関しては満更でもないらしい。
「相変わらず綺麗ねぇ。
……いつもの、お願いしてもいい?」
「ん、気持ちいいから……もうちょっと続けて。やっぱり幽々子上手だし」
――言葉のない穏やかな時間は、それからおよそ四半刻。
「……もういいかしら?」
終わりは小さな囁きで。
「はぁ……幽々子を独占出来るのはここまでみたいね」
「ふふ、恋は若さを保つ心の秘薬よー」
ついで出たのはため息と、待ち切れずに零れる笑み。
『仕方ないわね』と呟いて、紫は布団から腕を出し、宙に指で一文字を描く。
その軌跡が空間の隙間と化すと、幽々子はそれに手を掛けて、観音開きに引き裂いた。
「もうちょっと丁寧に使ってね。変な所に飛んでっても、助けてあげないわよ」
「――でも、本当にそうなったら、紫は助けてくれるでしょう?」
「日頃の行い次第ね。私は閻魔なんかじゃないけど」
「なら大丈夫ね。閻魔じゃないなら」
幽々子がこじ開けた隙間の先は、人里離れた山の奥。
そこに佇む建物は、酷く見慣れたものだけど、何故だか何処か物足りない。
短くも急な石段と、大きく立派な緋色の鳥居。
掃き清められた境内に、落ち葉の類はまず皆無。
それだけだったらいつもの神社。
人妖揃って宴会開く、いつもの行きつけ博麗神社。
だけどもそこには誰もいない。
白黒魔法使いも、酔いどれ子鬼も、紅白巫女ですらいない、無人の神社。
何故なら――そこは、『向こう側』の博麗神社だからだ。
幻想郷の博麗神社と同じく、人里離れた山奥にあるのだが、そんな地理的条件から、誰かが来る事はほぼ皆無である。
無論、何事にも例外が存在するのが世の常なのだが。
「――来たわね」
落ち葉の一枚もない石段を上るその姿は、彼女が待ち望んでいた人物。
鳥居をくぐって境内を見渡すと、口癖のようにぽつりと一言。
「やっぱり変わってないか」
「霊夢が掃除してるもの。当然じゃない」
「幽々子、聞こえてないでしょ」
「いいじゃない。例え遠く離れても、心はいつもすぐそばに――」
「……まだ出会ってもいない相手と?」
布団の中から投げ掛けられるツッコミを背に受けて、彼女はここぞとばかりに素敵な笑顔で、
「だったら、会いに行かせて頂戴な♪」
とのたもうた。
「日頃の行い次第ね。たまにはちゃんと眠らせて欲しいのだけど」
「ふふ、寝ててもいいのよ~」
「私が寝てたら、ここぞとばかりにご飯食べてくじゃない」
「あらあら、あれでも腹八分よ?」
そんなやり取りのさなかでも、視線は隙間の向こうに向けられている。
紫から見えない所で笑顔を浮かべたまま、幽々子は楽しそうな声をあげた。
「紫、拗ねてるでしょ~」
「……拗ねてなんかないわよ」
「はいはい。そういうことにしておくわねー」
困った親友を持ったものね、と、眠気を残す頭で思いながら、家族を飢え死にさせないために、紫の眠れぬ昼は過ぎていった。
彼が博麗神社に訪れ、何をするかといえば、実は特に何をしている訳でもない。
強いていえば、その場所の独特な雰囲気を楽しんでいる、といった所か。
「あー……また落ち葉散らかってる。
――あの天狗の仕業ね、きっと」
幻想郷の神社で、ぼやいた霊夢が境内を掃けば、
そちらの彼の目には不自然な風が落ち葉を集め、その後焼き芋を作る辺りまで見えるだろう。
――言い換えるのなら、彼は住人なき幻想の日常を眺めているのだ。
緋色の鳥居にもたれ掛かって、その日常に触れる事なく、日が沈む辺りまで幻想を見詰めてる。
そんな変わり者を、紫が見付けないはずはなく……たまたま一緒にいた幽々子が、興味を持ってしまったのだった。
いや、興味を持っただけなら、まだよかったのかもしれない。
その日から、紫が安眠出来ない日々が始まったのだから。
そんな頭痛の種を抱えたある日、幽々子は何故か来なかった。
(――どうかしたのかしら)
寝不足で本当に頭痛がしそうだった紫は、ほんの少し疑問を持ったものの、
久方ぶりの安眠の誘惑には勝てず、(むしろ喜んで)ぐっすりと熟睡した。
「んん~~っ」
目が醒めればもう日暮れ。
昼と夜の境界の時間は、いつもの彼女の起床時間。
たっぷり寝たとばかりに、布団の中で伸びをしていたら、
「ふふ、もう夕方よ」
一日ぶりの、友人の声。
身体を起こして見てみれば、
「……随分と上手く化けたわねぇ」
「もぅ~、化けて出るのが幽霊の仕事なのよー」
落ち着いた、洋装の亡霊がそこにいた。
彼女を幽々子だと認識出来たのは、事前に一声あったのと、何より付き合いの長さがによる所が大きかった。
それくらい、今の幽々子の服装は、普段のそれとは掛け離れていたのだ。
淡い桜が舞うロングスカートに、抜けるようなスカイブルーのカーディガン。
彼女の象徴であったはずの頭巾はなく、普段あまり見られない豊かな髪が、春の桜を思わせる。
「ふふ、似合うかしら?
洋服ってあまり着慣れてないし、向こうの文化に馴染めばいいんだけど……」
「つまり、会いに行くのね」
裏を返せば『向こうに連れてって♪』ということだろう。
紫の確認に彼女は笑顔を返した。肯定だろう。
「向こうでは、着物ってあまり着る機会がないんでしょ?
普段の服で行ったら、びっくりされちゃうと思ったのよ」
「驚かせるのが亡霊の役目じゃないの?」
「それはお化けの役目よー」
人里離れた険しい山の中。
他には誰もいないような状況で、今の格好の幽々子と出会ったら、それはそれで驚くだろう。
明らかに山中を歩くような格好ではないからだ。
まあ、それは着物も同じだろう。
そんな些細なことはさておいて。
「それで紫、連れて行ってくれるかしら?」
笑顔の問いに対する答えは、あまりにも早い即答。
「駄目よ――――今のままじゃね」
ちょいちょい手招きする紫の手には、彼女愛用の櫛が。
「殿方との逢瀬に臨むなら、もう少しちゃんとなさいな。ただでさえふわふわしてるんだから」
「ん~……やっぱり、誰かにやってもらうのが一番かしらね」
ふわふわ波打つ桜の髪を、夜色の櫛が通っていく。
静かに目を閉じる幽々子と、優しく髪をとかしていく紫。
その二人の様子は、さながら親子のようにも見えて。
「――今日は優しいのね、紫」
「久しぶりにちゃんと眠れたし、それに珍しいものも見れたし……ね」
それでも、二人は大事な友達。
ずっと昔からの、大事な友達。
――同じ広さのはずなのに、空は見上げる場所によって狭くなる。
中には、星が見えない街だってあるのだ。
そんな当たり前の事は、少し離れてみないと実感することは難しい。
彼が石段に腰掛けて見上げる夜空には、怖いくらいに煌々と輝く月と、それに付き従うように瞬く星々が。
普段彼は日没前に山を降りていたのだが、その日は日が沈み、月が昇る頃になっても帰ろうとはしなかった。
理由は色々あった。
月明かりがあれば、山を降りるくらいは出来るだろうから。
星空があまりにも綺麗で、帰ってしまうのが勿体なかったから。
しかし、その夜の出来事を後から思い返すなれば、予感か何かがあったのかもしれない。
「――こんばんは」
声に気付いて彼が視線を落とせば、そこには月明かりの中でもはっきり見える、
そして――夜空に輝く月よりも――輝いて見える不思議な少女。
「あ……この神社の方ですか?」
「ふふ。違うけど、ここの巫女とちょっぴり縁はあるわね。
それより――」
蝶が目当ての花に止まるように、全く自然に彼女は彼の隣に腰掛ける。
「――ちょっと、お話しませんか?」
――まだ、名前も知らない貴方に、どうこの想いを伝えよう――
静かな秋の夜空の下。
幻想の境界線上で、二人は確かに出会った。
あとがき
ラストから3行目。
自分自身うろ覚えなこのネタを使いたかった。事の発端はそれだけです。
きっとマイナーすぎて誰も知らないだろうなあと思いつつ、洋装のゆゆ様を思い浮かべてみたり。
服装描写って難しいです。ああもうどうすればいいんだ。
最終更新:2010年05月31日 21:57