幽々子8



うpろだ1286


白玉楼――前のお茶菓子争奪戦から1週間が過ぎたある日。

「暑ぃ…」

ヤバい。溶ける。夜は涼しいんだけどなぁ…。まさにそんな時。

「ねぇ~○○~レミリアから面白いお誘い来たんだけど」
「ゆゆ様に?どんなん?」

その手紙にはこう書かれていた。

『最近夜も寝れやしないじゃない?夏らしく座興を考えてみたから一声かけてみようと思って。

 2日後の夜に博麗神社の近くの森でサバイバルゲームなんてどう?6対6で総当たりの水鉄砲大会。

 大会が終わった後はヤツメウナギでも食べてパーっと騒ぐのも悪くはないと思うんだけど?

 もちろん強制はしないから。都合がよかったらでいいし。ちなみにGRAZEはセーフよ。

 チーム名もできれば決めておいてくれると助かるわ。用件だけで悪いわね。

 P.S.進行役はあの烏天狗に任せてあるから。
                               byレミリア・スカーレット

「面白そうじゃん…ってか吸血鬼って水はダメなんじゃ…」
「細かいことは気にしないの。ヤツメウナギ食べたいし。妖夢は普通に許してくれたから後は…」
「ちょっとー?仲間外れは酷いんじゃない?」

ほい来た。もはや言うまでもない。

「紫?背後から脅かすのはやめてって言ってるでしょ。寿命が20年は縮んだじゃない」
「右に同じく」
「アンタ達はもう1回死んでるんだし寿命も何もないでしょうが」
「「妖怪に言われたくない」」
「うっ…」

声が珍しく重なった。多分今はシンクロ率が尋常じゃないかもしれない。

「でもまぁ人数揃ったかな。紫姐さんと橙と藍さんで」
「ヤツメウナギ!」
「藍!橙!おいで!2日後の夜は派手にやるから準備しときなさい」
「「イエッサー!」」

2日後。博麗神社付近の森。水鉄砲サバゲーの会場に足を運ぶが好戦的な空気が充満してるのは気のせいか?

「咲夜。フラン。パチェ。美鈴。こぁ。そろそろ開幕といこうじゃない」
「お嬢様…水はタブーなんじゃ…」
「背水の陣ですね!」
「あははは…早く来ないかなぁ…」
「はぁ…もう疲れたんだけど…レミィ?聞いてる?」
「何だか咬ませ犬になりそうな予感が…」

うわぁ。勝ち目薄そーだな。

「ヤツメウナギ!蒲焼き!串焼き!」
「幽々子…アンタはヤツメウナギしか考えてないわけね」
「とりあえず楼観剣と白楼剣持ってきたんですけど…」
「これは気が抜けないな。橙。しっかり頼むぞ」
「はい!藍様!」
「こりゃ勝てたら快挙だな…」

何だこの2名を除いてチームワークのなさは。特にゆゆ様は思考がカー○ィみたいになってるぞ?

「それじゃ…開始!確実に水が当たった人は離脱!」

射命丸の号令で開戦。蟷螂の斧ってこういう事か。白玉楼ソウルハンターズVS紅魔館ナハトエンペラーズが始まった。水鉄砲だが。


前半戦BGM:御柱の墓場~Grave of Being

「とは言っても向こうにはヤバいのが2人いるじゃない?」
「あのメイドと妹の方?まぁなんとかなるでしょ」
「紫様が弱気になるなんて珍しい…それと幽々子様はもう少し緊張感を持ってください」
「藍様がいれば大丈夫だと思います!」
「ちぇーん♪」
「だから策は準備してあるのだよ」

とりあえず策を説明してみる。後は実行に移すのみ。

森の東側――妖夢。
「隠れるよりも一騎打ちの方が合ってるのに…」

森の西側――藍さん&橙。
「橙…いけるな?」
「いつでも!」

後方支援――ゆゆ様&紫姐さん。
「えー?暇なんだけど」
「ウナギ食べたいんでしょ」

遊撃部隊――○○。
「ミッション開始ィ!」

森の東側はもはや戦闘状態らしい。

「図書館の司書さんですか…恨みはないですけど覚悟してもらいます!」
「やっぱり咬ませ犬!?」

ピチューン!

「敵将、魂魄妖夢が討ち取りました!」

小悪魔脱落。

遊撃って名目だしその辺をぶらつく。

「あ。獲物発見…心理戦で行くか!」

あの帽子…パチュリーか。こういう時の策も用意しておいてよかった。

「――――っ!誰!?」
「パチュリーじゃん。さっき魔理沙が探してたぞ?」
「嘘ぉ!?魔理沙ぁー!どこー!?」

もちろん嘘だ。これはやりすぎか?まぁいっか。勝てば官軍、負ければ賊軍だ。

「確か向こうに走ってったな」
「ありがと!」

水鉄砲放り投げて走ってったよ…。それから3分後。

「むきゅぅぅぅぅぅぅぅ…」
「お疲れ。計画通りだな」
「謀られた…!?私が!?あ…あれ?水鉄砲は?」
「これ?」
「あ…ぁ…魔理沙ぁ…助…け…」

ピチューン!

パチュリー脱落。

――その頃の霧雨邸――

「ぶぇっくし!あー…。この本パチュリーに返してなかったな…また今度でいーや」


さて…そろそろ紫姐さん達も動いてるはずだ。場所は変わって森の西側。

「美鈴!失敗したらナイフ投げるから覚悟して行きなさい!」
「は…はいぃっ!咲夜さんのナイフだけは喰らいたくないんで頑張ります!」

2対2の状況らしい。しかも同時に撃ってきてるし!

「あ…危ない藍しゃまぁぁぁぁぁ!」
「橙!?」

ピチューン!

「ごめんなさい…藍様ぁ…」
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

橙脱落。

「門番…お前がぁぁぁぁ!橙をよくもぉぉぉ!」
「ふぇ?私が何か――――ふぎゃぁ!?」

ピチューン!

中g…違った。美鈴脱落。

「橙…仇は討ったからな」
「私を忘れてもらっちゃ困るわね」
「なっ…メイド長!?うわぁぁ!?」

ピチューン!

藍さん脱落。

「状況を報告しまーす!小悪魔さん、パチュリーさん、橙ちゃん、藍さん、美鈴さん脱落でーす」

それぞれ一時撤退して作戦会議。それにしてもこの脱落者の多さは酷くないか?

「ウチの門番は何してんの…咲夜。帰ったらクロックコープスでも見舞ってあげなさい」
「はい。しかし美鈴は別としてもパチュリー様がこうも簡単に…」
「フランが遊びたいー!」

うわぁ。門番涙目だぞそれは。

「藍と橙が…!?この水鉄砲大会…レミリアに集中砲火ね」
「じゃあ妹の方は私に任せてもらっていい?」
「先陣は任せてください」
「んじゃ後は各個に撃破でおk?」

「休憩終わりまーす」

後半戦開始。


後半戦BGM:妖々跋扈

先陣は妖夢で左が紫姐さん。右でゆゆ様と共同戦線だ。

「じゃあ散開!」

先陣を切った妖夢が一番ヤバい人物と出くわしたらしい。

「ねぇ…遊んでよ…ね?禁忌『フォーオブアカインド』!」
「分身!?これじゃどれが本物かなんて…」
「「「「あははははは」」」」

スペカは…どうなんだろう。反則かな?かな?

「止まれ!止まれぇ!」
「当たらないよ?――――バイバイ」
「幽々子様…すみません…」

ピチューン!

妖夢脱落。

「妖夢さん脱落でーす」

咲夜さんとレミリアは分散してるはずだ。フランはゆゆ様の方向に猛ダッシュ。

「妖…夢!?――○○…私はここに残るから。ふふふ…さぁ…来なさい。西行寺幽々子が一緒に遊んであげる」

ゆゆ様怖ぇよ!それから数分後。レミリアを捕捉した。よりによって単体かよ。トラップの匂いが充満してるんだがどーするよコレ。

「奇襲で行こうかね」
「面白そうじゃない?スキマ妖怪の本領ね」

よし。ゲリラ戦開始だ。

「レミリア覚悟ォー!紫姐さんいけそう!?」
「いつでもどうぞ」
「う…うー!うー!助けてさくやぁぁぁぁぁぁぁ!」

だから水鉄砲落とすなって。とんでもないカリスマブレイクだ。これは「さく」で腕上げて「や」で下げればいいのか?次の瞬間。

「お嬢様ァ――――!!」

咲夜さん襲来。(使徒的な意味で)

「レミリアは頼む!」
「妖怪使いの荒いことで」

カリスマブレイク状態のレミリアだけあって咲夜さんが回りを気にしないで突っ走ってくるんだが。バーゲンセールに殺到するおばちゃんみたいな迫力だ。

「ほい。発射ー」
「はうっ…お嬢様ぁ…どうか…勝利…を――」

ピチューン!

咲夜さん脱落。

「咲夜さん脱落でーす」

これでリード。瀟洒じゃない…。

「さ…さくやぁ…」
「油断はよくないわねぇ…落ちた水鉄砲は貰ったから。藍と橙の仇は取らせてもらうわ」
「う…うー…!!」
「ファイアー(はぁと」

ピチューン!ピチューン!ピチューン!ピチューン!ピチューン!

レミリア脱落。

「レミリアさん脱落でーす」

うっわ…紫姐さん酷ぇな…。もうレミリアの残機は0だってのに未だに水鉄砲連射してるよ。これに過剰反応するヤツが1名。

「さくや…!?お姉様…!?ふぇぇぇぇ…」
「チャーンス☆ゆかりん参上ー」

いつの間にか紫姐さんいないし。ってことは…まさか…!?

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!咲夜とお姉様の仇ィ――――――!!!」
「仕留めてあげ…ぶっ!?ゲホっ…ちょ…気管支と鼻に水が…水…が…」

ピチューン!

紫姐さん脱落。

「紫さん脱落でーす」

おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!何してんだよスキマぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

「紫ぃー!!」
「え…!?嘘だッ!!」
「次ぃッ!!お前だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

猛ダッシュで戻っても間に合うか…!?

――その頃のゆゆ様VSフラン――

「フランちゃーん?飴玉あげるから仲直りしよ?」
「へ…?いいの…?」
「もちろん」
「ありがと…ゆゆ様」
「と見せかけて」
「ぶっ…!?」

ピチューン!

フラン脱落。

「フランちゃん脱落でーす」

ダッシュしなくてもなんとか勝てたみたいだ。ゆゆ様すげぇ!すーげぇ!何だいこのボムは!?

1時間後。みすちーが紅魔館に来た。ちなみにバーベキュー。

「幽々子…ちょっと食べすぎじゃなくて?」
「そうですよ…また太っても知りませんよ?」
「妖夢。後でゴーストバタフライかますから覚悟してね…あっちに美味しそうな鶏肉があるじゃない」
「まさか…捕食すんの!?」
「どうだー?橙?美味いだろ?」
「はい!藍様ぁー…これ今度作ってくれますか?」

一方の紅魔館組。

「あそこでカリスマブレイクなんか…!」
「頭脳戦で負けるなんて認めたくない…」
「出会い頭にアウトって…」
「この咲夜…一生の不覚です」
「ナイフ怖いナイフ怖いナイフ怖い…!!」
「楽しかったんだしいーじゃん」

暗っ!でもこの雰囲気をブレイクしたヤツが。

「まるまる⑨~っとチルノっと♪湖に降りたフェーアリー♪」

チルノ接近。しかしこの曲どっかで聴いたようなデジャヴが…。

「参上!氷の救世主♪もっと!ちゃんと!称えなさい!認めなさい!」

次の瞬間。

「「黙りなさーい!」」
「あべし!」

ピチューン!

スワローテイルバタフライ&光と闇の網目でチルノ墜落。あーぁ。一言で表すなら「ちょwwおまww」だ。

「むきー!混ぜてくれてもいーじゃんケチー!」
「ちょっといい?」

お。パチュリーが接近したぞ?

「何さ!?紫もやし!」
「ふーん?そういう事言うんだ?日符『ロイヤルフレア』…まだ終わらないから。火符『アグニシャイン』。トドメ…火&土符『ラーヴァクロムレク』」

チルノ…無茶しやがって…。

「アッ――――――――――――――――!!」

ピチューン!(2回目)

「これでよし…と」
「ナイス!パチェ!それでこそ私の親友!」

何気に酷いぞ?夜が明けるな。ってことは…。

「熱っ…ちょ…日光が…!目が!目がぁぁぁぁぁぁぁぁ!うー!うー!」
「お姉様ー!熱い!熱いよぉぉぉぉぉぉぉ!さくやぁー!」
「はい」

姉妹揃ってカリスマブレイク発動。咲夜さん苦労してるなぁ…。

「「「「「「じゃお疲れ様~」」」」」」

場所が変わって白玉楼。さっき妖夢がゆゆ様に呼ばれたらしい。

「じゃあ…華霊『ゴーストバタフライ』!」
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

あー…言ってたなぁ…。まさかホントにやるとは。

「今夜は結構涼しいかな」

その夜。

「お化け怖いから一緒に寝ていい…?」
「それをゆゆ様が言うと説得力ないんだよなぁ…ま、いっか」

それ以来3日間この状況が続いたのはまた別の話。


うpろだ1294


「あなたの夢想、具現化させてあげるわ。好きな札を選びなさい。」

流石夏の夜。
不思議な幻覚を見るもんだな。
目の前の裂け目から現れた、綺麗な女性か。が1,2、3…8枚。
8枚のカードを差し出してる。

俺は一度自分の頬を叩く。
ペチン
「何をやってるの?」

恐らく幻覚ではないそうだ。

そうと分かればまず聞きたいことがひとつ。
「えーっと。貴方こそ何を?」
俺はそう聞きながらカードを改めて眺める

箱(かな?)と人形
月と時計
霊に日本刀…か。
「そうねぇ…」
兎と月
烏と…犬?
蛇に蛙
「暇つぶしかしら?」
石に着物か

好きな札は…霊に刀のやつかな。
全体的な白さに目を惹かれた。

「こんな俺で暇をつぶせるのかい?」
「いえいえ。貴方の暇を潰すのよ」
「?」
彼女がそう言うと手の中に何か違和感を感じた。
はっと見てみると手にはカードが。

…何をやったのか分からないが、彼女は手にカードを持たせたと同時に
恐らく霊と思われるものがそこら辺を浮いている場所に俺を移動させたようだ。
顔を上げたら場所が変わってるなんて体験なかなか出来ないだろう。
なんて悠長な事を言ってる場合なのかこれは。
「な…何でここに侵入者が!!!切る!!!」
ズバッ   っと。
「あれ…切れない…」
「妖夢。夜に騒がしく…あら。人間?」
何がなんだか分からない。
霊に囲まれ、切られ(?)珍しがられ。

「幽々子様!また紫様に頼んで…」
「ち…違うわよぉ。今回は」
「今回はってなんですか!ってそんなことよりこの人は!」
「だから知らないってばぁ~そこの人助けて~」

俺か?俺なのか?

「あの、ちょっといいですか?」
「よくないです。侵入者でしょう?」
「いえいえ違います」
「じゃあ何者なんですか。答えれば切らなくとも済みますよ」
「俺は…何者なんだろう?」

はてここで素朴な疑問だ。
さぁ寝よう。と思ったときに美しい女性にわけの分からない土地に連れてこられた俺は
何者なんだろう。俺は俺だ。

「俺は俺です」

ズバッ
なぜ切ったし
「だから何で切れないの…」
「いいじゃないの妖夢。どうせ紫の仕業なんだし、悪い人ではないでしょう。」
「…幽々子様がそういうのなら」
「で、貴方は誰なの?」
「やっぱり正体が気になるんですね、幽々子様」
「名前くらい聞いとかないと。ねぇ?」
あ、俺に聞いたのか。
「俺は○○です。」
「○○さんですか。私は妖夢です。魂魄妖夢。妖夢とでも呼んでいただければ」
「じゃあ○○。私のお屋敷に入って頂戴」
「はぁ…」
「幽々子様は自己紹介とかしなくていいんですか?」
「さっきから妖夢が、幽々子様幽々子様言ってるから、名前くらいは分かってるんじゃない?」
「そうですねぇ。とりあえず○○さん。この方は西行寺幽々子様です。呼び方はお任せします。」
「じゃあゆゆ様がいいわ」
「何ですかそれ」
「この前来た人が「ゆゆ様」って呼んでくれて、それが気に入ったの」
「え、いつ人が来てたんですか?」
「この前よこの前」
「またそうやって人が来たのに・・・」
俺がものすごい置いてけぼりになっている…家に帰りたい…
「えーっと、ちょっといいですか?」
「何ですか?」
妖夢がゆゆ様、か。の説教をやめて答える。
「貴女方は俺をここに送った?人のことを知ってるんですか」
「…紫様ですよね?幽々子様」
「多分紫ねぇ。」
「○○。何かその~ここに来る前に、不思議なことが起きなかった?」
「どこから話せばいいのやら…とりあえず俺が寝ようと思ってるときに突然裂け目が」
「紫ね。」
「紫様ですね」
そこでもう答えが出ちゃうのか
「まぁとりあえず今更だけど、立ち話もなんだからあがっていきなさい」
そう彼女に声を掛けられ屋敷の中に向かう

「どうぞ」
妖夢が座布団を持ってきてここに座れと手を置く
そしてゆゆ様がお茶を持ってくる
「どうぞ」
「どうも」
「えーっと…幽々子さんでしたっけ?」
「ゆゆ様でいいわよ」
初対面であだ名というのもなんだが、本人が言っていい、というのを断ったら失礼だろう。
いや、さっきから心の中では使っていたが。
「…じゃあゆゆ様」
「素直で可愛いわねぇ彼方」
そう言って俺の頬に突然キスをする
あまりに突然のことで体が固まる
「幽々子様!何やってるんですか!」
ゆゆ様。何やってるんですか。
「いいじゃない。紫に教えてもらったスキンシップよ」
「はぁ…ちょっと今度紫様とお話してきます」
「で、何なの?○○」
その言葉で我に返る
「ッ!あ…あのですね、さっきのことなんですがネ!」
俺キモイ
「あぁもう恥ずかしがっちゃって」
今度は俺に抱きつくゆゆ様
なんかもう色々と頭が回らなくなってきた
「いいのよ。大丈夫。緊張しなくて」
「幽々子様、多分○○さんは緊張してそうなってるんじゃないと思いますが…」
「で、結局何なの○○?」
この人は誤魔化すのが上手いらしい
「はぁー。あ、アのですね、まずこれは誰の仕業なんですか?」
「紫。私の友人の仕業よ。きっと」
凄い友人をお持ちで。
「その…紫さんですか?が俺をここに送りつけた?と」
自分でも分けが分からない事を口走ってるのが分かる
「まぁ多分そうね。ちなみにその人から何か貰わなかった?」
ここで手にずっと握り締めていたカードの存在を思い出す
「あ!なんかカードを受け取りました。霊かな?と、刀の絵が描かれたカードを」
そう言って俺はカードを見せる
「やっぱり紫ね。私と紫でこのカードを一緒に作ったもん」
「また幽々子様はいつの間にそんなことを…」
「いいじゃない。こんなに可愛い人が結果としてここに来たんだから」
この人はどこかずれてるのかなぁ…
「ありがとうございます。で、これはどういった意味があるんですか?」
抱かれ疲れているが、回るようになった舌で必死に質問する
「この霊魂は私を指してその刀は妖夢を指すのよ」
「…はぁ。」
いまいちよく分からない
「刀はまぁさっき切られた?のでなんとなく分かりますが…」
彼女のどこが霊なんだ?てっきりここに付いた時のあれの事かと思っていたが。
「幽々子様は亡霊なんです。」
彼女が亡霊だって?もうなんでもありだな。少し慣れてきた。
「あと、刀の件はスイマセンでした。それより何で切れなかったのかわかんないんですけど」
不満そうに口を尖らせる。そんなに俺を切りたかったのか。
「いや、なんで切られなかったのかは俺にもわからない。ごめん」
「そのカードには…なんていうのかな。護符見たいなもんなのよ。紫の気まぐれ隙間ツアーで人が死なないようにするための」
「いえ、なんだかよく分からないんですが…」
本当によく分からない。護符がなんだらとか…あと抱きつかれてるこの状況もやっぱりよく分からない。
「○○さん。とりあえず私は結構外の世界に行くんですが、その経験からすると、今の状況は凄く非常識だと思うんです。
ですが事実なので受け止めてくださいね。今更ですが」
にこやかに彼女は言う。
すべてを受け入れろ。と。なんだか残酷な話だなぁ。

「あ、こんばんわ。紫様」
「あ、紫~お客さんよ~」
俺が振り向くとさっき(と言っても随分昔に感じるが)話していた女性が立っていた
そして俺の方に向かって歩いてきた
「どう?」
「…?」
「今どうなの?」
唐突過ぎる。
「何が「どう」なんですか?」
「今おかれている状況をどう思っているの?」
なんだか相変わらずよく分からない女性だ
「いえ、よく分かりません。正直」
「そろそろ帰りたいかしら?」
「私はここに居て欲しいわ」
「幽々子は無視していいから。どうなの?」
「あらひどい」

…俺はどうしたいんだろう。
正直このゆゆ様に抱きつかれてる状態から離れるのは惜しい。
でもあっちにやり残してることももちろん沢山あるし、帰りたくないといったら嘘となる。
寧ろ今は帰りたい気持ちのほうが大きい

「帰りたいのね?」
紫と呼ばれる女性に声をかけられる
この人は人の心を読めるのか?どっちにしても正直に言わないと
「え…えぇ。ここは惜しいですが帰れるのならば」
「妖夢」
「何でしょうか紫様」
「この人を送っていきなさい」
「え?私ですか?」
「いいじゃない。暇なんでしょ?」
「暇じゃあないですが紫様の頼みなら」
「え~?帰っちゃうの○○?」
更に強く抱きしめられる
「あ~。スイマセン。ゆゆ様。そういうことです」
「あの~。紫さん」
「ゆかりんでいいわよ」
「紫、それ、なによ」
「ふふふ。私の元に来たお客さんがそう呼んでくれたのよ。気に入っちゃって」
「変なの」
「幽々子も同じようなもんなんじゃないの?」
「ばれてたかぁ」
話を戻す
「…で、ゆかりんさん」
「さんはいらない」
「ゆかりん」
「はいなんでしょう」
「またここってこれるんですか?」
「どうかしらねぇ」
この人はまた曖昧に…
「カードを枕の下にでも置いて寝ればいい夢見れるわよ?」
そういうことなのかな?
「…そうですか。分かりました。なんか、この言葉でいいのか分かりませんが、色々と有難うございました。ゆゆ様にゆかりん」
「じゃあね。○○。また来てね。また今度ナデナデしてあげるわよ~」
そう言って俺の頬にまたキスをしてロックを解除する。最早、体温の感覚が懐かしくなってきた。
「○○。又来たいのならば、願いなさい」
そう言って俺の手の上にカードを乗っける
「…有難うございます」
彼女の言葉の本当の意味はよく分からないがつまり、そういうことなんだろう。
この世界もつまりそういうこと。ということで出来ていると俺は思った。

「じゃあ○○。目、瞑って」

グッと目を閉じ、開けると元の部屋に戻っていた。
手に握っていたはずのカードが、枕の下から少しはみ出ていた
俺は枕の下に丁寧に入れなおし、目を瞑った


新ろだ138


西行妖
かつてかの歌聖が心惹かれ、その下で人生に幕を降ろしたと言われる妖怪桜。
その後も数多くの人間を魅了し、数々の命があの桜の下で散っていったという。
周囲にも桜はあるのだが、中でも一際大きな存在感。
舞い散る花弁の一枚一枚から妖々な気を感じさせる。
それを見れば成る程、この下で死にたいというのも頷ける。
もっとも、俺にそんな気は無いので無縁な話だけれども。

「だめ」
「ぁた」

一人物思いにふける中、ぺちり、と軽く小さな音。
不意に頬を叩かれた。
非力なそれには全く痛みを感じないが、思わず声を上げてしまう。
意味も無く叩かれた箇所をさすり、そちらを向く。

「今、何か別のことを考えていたでしょう?」

そう言って子供のように頬を膨らませる女性。
桜色の髪に空色の着物。
西行寺幽々子、死霊を操る程度の能力を持つ俺の恋人さん。

「あぁ、ごめんごめん。桜があんまりにも綺麗だったから」
「もう、恋人が横にいるのにそれは無いと思うわ。私は桜以下って言いたいの?」
「まさか。むしろ桜が幽々子以下だ」
「良かった。危うく嫉妬するところだったわ」

お詫びに唇に接吻をする。次に頬に。そして額へ。
次は向こうから同じことを。ただし唇には深いものを。
最近では挨拶代わりにも使われるようになった行為。
その度に庭師や使用人たちが呆れたような顔をするのだが知った事ではない。
それに今は周りに誰も居ない。
強く互いを求め合い、やがてどちらからともなく着物に手をかけて――――

「御楽しみのところ、悪いけど」

パチン、と何かが強く閉じられる音。
見ればそこには一つの隙間。その奥に果てしなく広がる空間。
更によく見れば無数の手や目が存在しているが、精神衛生上深く見ない方が良さそうだ。
とにかく、突然の来客。
すきま妖怪の八雲紫がそこから顔を覗かせていた。
仕方が無いので俺と幽々子は渋々と離れ、乱れた着物を整える。
恥ずかしく無い程度に直すと、八雲紫に対して幽々子が不満気に口を開いた。

「何かしら、紫。お茶が冷めちゃうわ」
「残念だけど、そのお茶には始めから氷が入れてあるのよ」
「で、何のようだ?」

このままでは理解不能な会話になりそうなので、今の内に割って入る。
この前も、二人の会話が飛び過ぎていて俺も紫の式の狐さんもかなりの置いてけぼりを食らっていた。

「珍しいお菓子が手に入ったから持ってきたのだけれども。
あなたたち、まだ日が高いのにやろうとしているのだもの。
そうしたらいくら何でも止めに入るわよ」

全く、盛ったことね。
と言いつつ隙間の奥から取り出した一つの箱。
綺麗な薄桃色の紙に包まれている、四角い箱。
それを包んでいる赤く薄っぺらい紐を解き、蓋を開けると中からは見たことも無いものが。
黄色くて薄い円盤状のもの。

「これはなに?」
「クッキーよ。緑茶に合うかは解らないけど」
「ふーん……」

一つ摘み上げ、じっと見詰める。
固い感触で、細かい粉が指先に付く。

「あら、美味しい」
「でしょう」

幽々子は既に口に放り込んで咀嚼していた。
ざっくざっくと菓子にしては珍しい音が聞こえてくる。
意を決して俺も口に放り込む。
たちまち、口内にとても甘い味が広がった。
まず最初に固い物を噛み砕く感触がし、続いて口の中が粉だらけになった。
たまらず、お茶で甘味を喉に流し込む。

「甘い」
「お菓子だもの」
「異国のものなの?」
「さて、どうかしら」

扇子で口元を隠し、妖しげに笑う紫。
こういう時には何をしても無駄である。
菓子の詳細を問いただすのを諦め、「お前は食わないのか」と聞けば、
「さっき散々砂糖を吐かされたからいい」とのことである。
余計なことだ。それなら茶々を入れずに後日にしてくれれば良いものの。
幽々子の方を向けば、構わずに一つ二つと平らげている。
まぁ、彼女が喜んでいれば、それでいいか。
緑茶を啜り、溜息を一つ。


「こんな日常が、いつまでも続けばいいのに」


だれかの小さな呟きは、俺の耳には届かなかった。


新ろだ247


 一年がそろそろ終わろうとしている頃の白玉楼
 湯飲みを両手で包み込み、手焙り代わりにしながら炬燵に篭る。
 目の前には笊の上に詰まれた蜜柑の山。
 向かいにその山の一部を取り、皮を剥いては口へ運ぶゆゆ様

「ゆゆ様、食べ過ぎると手やら足やらが黄色くなりますよ」
「大丈夫よ。私、亡霊だもん」
「関係ありますか?まぁ適度にお願いしますね。食べすぎで、お腹を壊したりしたら大変ですから」
「私もそんなに馬鹿じゃないわよ」

 そう言って若干頬を膨らませた後、再び蜜柑をぱくつく。
 落ちてる皮の数を見る限り、相当食べているようだが

 そこに蜜柑を追加しに、妖夢が箱を持って来た。が、来るなりチラリと炬燵の上に転がっている蜜柑の皮の数を確認し
 僕と同じように「お腹壊しちゃいますよー」と突っ込みを入れる

 すると、ばつが悪そうに、む~と唸り、蜜柑を剥く手を止める。

「分かったわよ。もう今日は止めるわ。でも、あと一粒食べたいわ」
「そう言ってもう一個蜜柑食べる気でしょう」
「妖夢は厳しいわねぇ。そんなこと無いわよ。じゃあ、○○、こうしましょう。○○が蜜柑を剥いてそのうち一粒だけ取って、私に食べさせる」
「なんかそれ、僕が罪悪感に見舞われるんですが。ゆゆ様に一個しか蜜柑を食べさせられないなんて」
「○○さん。それが幽々子様の悪い作戦ですよ。○○さんのことだから、そう言って何個も食べさせちゃうって言うのを、幽々子様は読んでるんです」
「作戦だなんて人聞きが悪いわねぇ」

 そうこう言っている間に妖夢が蜜柑の皮をサササと剥き終える

「ハイ。幽々子様。約束の一粒です。残りは○○さん食べちゃってください」

 そう言って蜜柑を一粒ゆゆ様に渡し、残りを僕に渡す。

「では私は、今日はもう寝ますので。おやすみなさい。幽々子様と○○さんも、あんまり夜更かししてると白髪が増えますよ」
「はいはい、お休み」

 僕は笑いながら、妖夢と今年最後のおやすみを返す。
 よく言われる迷信を信じてるあたり、なんというか妖夢らしい。
 一方ゆゆ様は、不満そうな声で妖夢に眠りの挨拶を交わした。

 妖夢が床に就いた後、僕は手に残ってる蜜柑を一粒ずつ、もいでは口に運んで味を楽しんでいた。
 ふと気づき、ゆゆ様を見ると、妖夢から渡された一粒の蜜柑を、食べてしまったようだ。

「○○ぅ、蜜柑、美味しそうねぇ」

 そう言いながら向かい側に座っていたゆゆ様が、スススとさり気なく僕の左に座り込む
 これは、「蜜柑が欲しい」サインなんだろうが、負けずに黙々と蜜柑を食べる。

「あと一粒だけ頂戴よ~」

 隣に居るゆゆ様が更に僕との距離を詰めてくる。
 そして蜜柑を口に運ぶ手をじっと見つめる。

「ゆゆ様、食べにくいんですが…」 

 言うと同時くらいに、僕が右手に持っていた一粒の蜜柑を、身を乗り出して食べようとする。
 左半身に、何か柔らかなものが色々あたり、身を引く
 それに気づいてか、ゆゆ様はニヤリと笑い、頂戴よ~と言いながら僕に抱きつく

 そんな状況に耐えられるはずもなく、とうとう許してしまう。

「ちょ・・・ゆゆ様、分かりました。一粒ですよ。一粒」
「やったー!ありがと、○○!」

 右手にある一粒をゆゆ様の口元まで運ぶと、それを口に入れ、幸せそうに味わう。
 こんな幸せそうなゆゆ様を無視してこのまま食べることは出来ないな。
 と、いうか僕も甘いなぁ

「ゆゆ様、妖夢には内緒ですよ。残りもお食べになってください」

 そう言ってゆゆ様の手の上に残りの蜜柑を乗せる 

「いいの?」
「いいですよ。そんなに美味しそうに食べられたら、僕はもう食べられませんから」

「うーん。全部このまま食べるのは味が無いわねぇ・・・」
「?」

 数秒の時が流れ、僕が頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、何か思いついたかのように口を開く

「そうだ!半分個しましょうよ」
「いいんですか?」
「いいの、いいの。○○も食べて、私も食べられて、二人とも幸せね」

 ゆゆ様なりの遠慮か、気遣いか、半分個することに。
 蜜柑を一粒ずつに分け、数を数えてゆゆ様が一つ手に取る
 そのまま口に運ぶのかと思えば、そうでもないようで。

「○○、あ~ん」
「え、え!?」
「もう、ノリが悪い!」
「は!すいません!」
「じゃ、○○、もっかいあ~ん」
「あ~ん」


 一気に雰囲気もろもろが、甘くなると同時に、口の中にも甘味が広がる。

「美味しい?」
「何か不思議な事に、美味しく感じますね」

「私も食べたいな~」

 僕も蜜柑を一つ取り、美しき口元へ

「あ~ん」
「あ~ん。・・・あら、本当。凄く美味しく感じるわ。」

 そんな甘甘なやり取りを繰り返してると、いつの間にか蜜柑の残弾が無くなった。

「う~ん。なんだか物足りない気がしますね」
「そうねぇ。まぁ、今日はコレくらいで、ご馳走様」
「じゃあ、今日はこれくらいで・・・て、もう新年ですね」
「あら、本当」

 二人でイチャイチャしていると、時が早く流れるものだ。
 もう先ほどの蜜柑を食うか、食われるか(?)事件も去年の事になっていた。 
 なんというか、不思議な感じだ。

「じゃあ○○、なんか不思議な感じだけど、今年もよろしくね」
「なんだか、本当に不思議ですね、ゆゆ様。今年も、これからも、ずっとずっと、お願いします」
「ふふ。私からもずっとおねがいしたいわね」

 他愛の無い、愛あふれ、零れる会話。
 なんというか妖夢に見られたら呆れ顔をされそうだ

「ゆゆ様、そろそろ寝ましょうか」
「今日は一緒に寝ましょう?」
「お言葉に甘えさせていただきます」

 僕はゆゆ様を抱き上げ、二人で寝室へ。


「布団も二人で居ると暖かいわね」
「そうですね」

「ほら、これでもっと暖かい」

 そう言って僕を抱きしめ、目を瞑った

 ゆゆ様を優しく抱きしめ返す。
 目は瞑っているが、会話は続く

「○○、新年にあたって、今寝る前に何かすべきことはあるかしら?」
「もうこのまま寝ちゃっても問題無いんじゃないでしょうか。初詣なんかも、基本的に1月中ならいつ行っても問題は無いですし」
「そう言うことじゃなくて、こんなにも可愛いお嫁さんが此処に居るのに、いつもの寝る前の嗜みも無しなのかしら?」
「あ、忘れてました」

 言うのも恥ずかしい、お休みの「アレ」を、僕はゆゆ様の御口にすると、更にいつも通りに、ゆゆ様はお休みの「アレ」を返す。
 いつも通り。
 嗚呼、新年になってもいつも通りだ。


新ろだ444


『――春になりましたね。これだけ暖かいと冬が恋しいです。
 ところで、春と言えば桜の季節ですね。
 こっちでは桜が咲き乱れています。そちらはどうですか?』





始まりは一通の手紙だった。

その日、いつもの様にアパートの郵便受けを確認したんだ。
手紙なんて入ってるはずの無い寂しい郵便受け。
入ってるのはしつこい勧誘チラシや毎日の新聞紙だけ。

その中に、入っていたんだ。

一通だけ手紙が。

差出人は幻想郷在住の西行寺幽々子さん。
最初は安っぽい悪戯だと思ったよ。

だってそうだろう?
住所が幻想郷とか常識で考えればまずあり得ない。
どこかの暇な子供の仕業かと思ったよ。

けど、なんでだろうな。
その悪戯に付き合おうなんて考えが浮かんだのは。

その手紙に返事を出すことにしたんだ。

宛て先を幻想郷にして、ポストに投函!

はしなかったよ、流石に。
変な奴と思われたくないから。

だから、家の郵便受けに入れといたんだ。

そしたら、次の日に手紙が無くなっていた。
代わりに、幽々子さんとやらからの手紙が入っていた。

それからだよ。
幽々子さんと俺の文通が始まったのは。






『確かに、ここまで暖かいと冬が恋しいですね。
 ちなみに、桜はまだ咲いてません。蕾がいくつか見えるだけです。
 はやく花見がしたいですよ――』







思えば私は暇だったのだと思う。

楽しいけれど、特に代わり映えない毎日。
不謹慎だけど、そんな毎日に飽きていたのだ。
何か異変、とまではいかないけれど、刺激のある出来事が欲しい。

それが始まり。

暇を持て余した私は手紙を書くことにした。
外界の誰ともわからない人に宛てた手紙を。

書いた手紙は紫に頼んで渡してもらうことにした。

新たな刺激とはいえ、最初から返事なんて期待してなかった。
知らない相手からの手紙なんて驚くだろうし、ましてや返事なんて書く気になれないだろうから。

だから、返事が来た時は本当に驚いた。
返事が来たことよりも、相手の人が返事を出す気になれたことに。

相手は○○という人。
文面から推測するに、二十近くの男性だろう。

それからね。
私と○○さんの文通が始まったのは。






『――花見、いいですね。
 この季節になると私の周りではいつも宴会です。
 私自身騒がしいのは好きなので別にいいですけど。
 どうですか? 今度、逢う機会があったら一緒にお花見でも?」







馴染みの喫茶店、そこに居る馴染みの顔から出た言葉は、

「あんたさ、バカじゃないの?」

この上なくハッキリとした罵倒の言葉だった。

「バカとはなんだバカとは。この蓮根野郎」

自分から出たのもこの上なく頭の悪い言葉だった。

「バカはバカよ。そんな得体の知れない相手と文通してるなんてさ」
「そんなのは、俺の勝手だろう? 暇だったんだからしょうがないだろ」

事実かなり暇だった。
文通を始めた理由には暇つぶしって部分も大きいな。

「暇を持て余すなんて相当のバカね。そんなんだから彼女の一人もできないのよ」
「――! おいおいそりゃ関係ないですよねぇ? 蓮子さん?」
「関係大有りよ! この彼女居ない暦イコール年齢のバカ野郎!」
「そっくりそのまま返すぜ、この蓮根野郎!」

今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気。
そんな険悪ムードの中、三人目の、この場に居るもう一人の声が響く。

「ほら、喧嘩しないの。メリーも○○も挑発しちゃ駄目」

メリーは紅茶を啜りながら、俺達を仲介する。

「何言ってるのよメリー。こいつがバカなのがいけないのよ」
「なにおう!?」
「ほら、また喧嘩する。
 ○○は簡単に挑発に乗らない、メリーも○○と文通したいからって妬まないの」
「なっ!!」
「なんだ、お前俺と文通したかったのか。言ってくれれば良かったのに」

? 蓮子の奴、顔が真っ赤だぞ?

「あ、でも直筆は面倒だからメールにしてくれな」
「あ、あ、あ」
「あ?」
「バカァ!!」

残像が出現するほどの速さで、平手打ちをくらった。
蓮子は顔真っ赤にしてどこかに行ってしまった。

何故?

「なんなんだよ、もう」
「ふふ、まずはその朴念仁を直すことね」
「……?」

メリーも変なことを言い出して、わけがわからない。

「それより、もっと聞かせて頂戴な。その、幻想郷のことについて」
「あぁ、それなら――」

興味津々とばかりに身を乗り出すメリー。
色々と聞きたいことはあるけど、まあいいか。

そして、幻想郷のことを俺はメリーに話始めた。






『騒がしいのが好きなのは同じですよ。
 それにしても、花見ですか。逢う機会は無いですよね。
 でも一緒に花見はしてみたいと思います。
 そちらにも一度、行ってみたいです――』






宴会の席で、突然紫からこんな質問を受けた。

「あなた、なんで急に文通なんて始めたの?」
「ん~?」

なんで、か。

考えたことはあまり無い。
いや、理由がそもそも無かったのかもしれない。

手紙を書き始めた理由。

強いて挙げるなら、

「暇だったから、じゃ駄目かしら?」
「はぁ、あなたらしいというか、何というか」

呆れたように、いや実際呆れながら、紫は溜息をついた。

「それで、今度花見をしようと思うのだけど」
「? 花見ならしてるじゃない。明日も明後日もすると思うわよ?」
「そうじゃないのよ」
「? あ、まさか、あなた……」

そのまさか。

「○○と花見をしようと思うのだけど」
「あなた、本気?」
「本気よ?」

そう、本気だ。

「でも、どうするのよ? 彼は外界の人間でしょ?」
「簡単よ。迎えに行けばいいの」
「迎えにって……」

さすがの紫も呆れているようだ。

「そう、私が迎えに行くの。
 あなたの力を使えば簡単でしょ?」
「……まあ、できなくはないけど」
「ほら」
「……どうなっても知らないわよ?」

口ではそんなことを言っているが、目はノリノリなのがわかる。
暇なのは皆一緒なのかもしれない。

「大丈夫よ。あなたならなんとかしてくれるわよ。
 それに、断る気なんてないんでしょ?」
「ふふ、わかってるじゃない」

そんな、花見の宴会の席での一時。







『――こちらに来たいなら招待しますよ?
 というより、私もあなたと花見がしたいですし。
 もしあなたが大丈夫なら、三日後の今日にあなたの元へ迎えに行きます』








まいったな。
最初はガキの悪戯だと思っていたのに。
適当にやろうと思ったていたのに。

本当にまいったよ。

幻想郷なんてあるはず無いのにさ。

幽々子さんなんて架空の人物なのにさ。


この手紙の言葉に。

心躍らしている自分がいるなんて。


本当にまいったよ。




『いいんですか? それじゃあお願いしちゃいます。
 僕もあなたと花見がしたいですからね。
 ええと、三日後ですよね? 静かに待ってます――』





――三日後――。




「これを押すのかしら?」

扉の前についているおかしなボタンを押してみる。
すると、ピーンポーンと、音がした。



「来た、のかな?」

最低限の荷物を整え椅子に座っていた。
そうしているとインターホンの音がした。



「……緊張するわね」

扉の向こうから誰かが歩いてくる音がする。
今更ながらに、自分の服装を省みる。



「緊張するなあ……」

扉の向こうには誰がいるのだろうか。
今更ながらに、不自然がないか自分を省みる。


そして、扉は開く。

夜空の下で、桜は花を咲かせていた。






あとがき

長いなあ。

花見の季節ということで書いてみました。
後悔はしてませんよ?

イチャ分があんま無いorz


最終更新:2011年02月26日 21:43