紫2



2スレ目 >>139


 俺は○○。
 本来なら苗字から名乗るべきであると思うが、名乗ることは出来ない。
 何故って? 理由は簡単さ。
 今の俺には苗字なんて無いのさ。
 苗字が無いのを説明するには今の近況を話す必要がある。

 簡単に言うとだ。
 俺は八雲紫様の式をしていると言えば分かるか?
 姓が無いのは橙と同じで、八雲を名乗るにはまだまだ力不足なんだよな…
 式になってまだ1年程度だからな。現在修行中というわけさ。
 ただ主が紫様である為か、式としての能力は橙と同じかやや上ってとこだ。
 八雲の姓を名乗ると藍さんと同等とまでは行かないにしても相当力が増すそうだ。
 姓とはそれほどの力を持っているって霊夢が言ってた。

 そもそも俺がここ、幻想郷と呼ばれる場所に迷い込んだのは約1年前。
 右も左も分からない俺は妖怪の格好の獲物で、まぁ何と言うか…
 ぶっちゃけると、速攻で半殺しにされたわけだ。
 いや訂正だ。9割は死んでたので、9割殺しにされたと言っておこうか…
 後で聞いた話だけど、両腕と左足は既に喰われて無かったらしいぞ。HAHAHA
 そこを偶然通りかかった紫様に拾われ、俺を助ける為に式にしたって訳さ。
 つまり元人間の式ってことだ。今でも人間であるけどな。

 分かる? 分かんねぇ!? じゃあいいや…(投げやり)



「○○、掃除の方はどうだ?」

 おっと、藍さんだ。(主が同じなので、藍に対して様付けはしない)
 普段俺は藍さんと分担して仕事(家事)をしている。
 藍さんも橙と一緒にいられる時間が増えたので万々歳らしい。

「ピッカピカに磨き上げた。聖母マリアでもウn「アルティメットブディスト!」ひでぶ」
「それ以上言うんじゃないッ! 橙に悪影響が出るだろうがッ!」
「問題無い。ちゃんと橙が近くにいないことは気配で確認済みだ」

 まぁ確かに橙が「じっくりかわいがってやる! 泣いたり笑ったり出来なくしてやる!」とか
「クビ切り落としてクソ流し込むぞ! 」とか言い出したら、八雲家は完全に崩壊するだろうな…
 橙、どうか真っ直ぐに育っておくれ。

「まぁ、○○はその辺抜かり無いから大丈夫だとは思うんだが…」
「感謝の極み」

 やれやれといった感じでそう言った藍さんに俺はズパッと姿勢を正し答える。

「ところで何用でしょう? 掃除はあらかた終わってますが、買い物ですか?」
「おっと、忘れていたよ。そろそろ夕飯にするので、紫様を起こしてきてくれないか? 私は橙を呼びに行ってくるから」
「おや? もうそんな時間ですか…」

 居間の柱時計を見ると既に6時に近い時間になっていた。

 以前は藍さんが紫様を起こしていたのだが、全然起きない紫様にブチ切れた藍さんが翼くんもビックリなドライブシュートを繰り出し、
当の紫様は壁の突き抜け外の木にめり込ませたという偉業(?)があった。

 この場合藍さんが悪いと思うだろうが、

「あー、ありゃ死んだな…」(俺)
「ふん。苦しむ暇を与えぬも慈悲だ…」(藍)

 とまあ、藍さんとそんな会話をしていた俺も同罪かもしれぬ。

 それ以来、紫様を起こすのは俺の仕事(紫様に熱烈希望された)になったわけだ。
 そんなわけで藍さんと別れた俺は紫様の部屋へ向かう。
 家自体そんなに大きくないので、あっと言う間に部屋の前に着く。

「紫様、○○です。入りますよ?」

 取り敢えず一声掛ける。
 主である前にレディーの部屋だ。これくらいは当たり前だろ?
 すーっと音を立てることなく襖を開ける。

「すー すー」

 紫様は気持ち良さそうに寝ていた。
 綺麗だ。
 素直にそう思う。

 以前霊夢に『何故怪我も完治したのに未だ紫の式をしているのか』と聞かれたことがある。
 確かに怪我も完治し式の期間が短かった為、開放すれば今ならまだ元の人間に戻れるらしい。
 だけど俺はその選択肢を考えたこともない。
 理由は簡単、紫様が好きだからだ。
 愛していると言っても良いだろう。

 妖怪に半殺しにされ、生と死の境界から戻ってきた俺が最初に見たのが紫様の安堵の笑みだった。
 純粋に綺麗だと思わせるそんな笑みに俺は心引かれた。
 一目惚れって奴だな、うん。

 式であることを辞めるということは、紫様と一緒にいることはきっと出来ない。
 俺にとってそれだけはしたくない。
 例えこの気持ちが伝えることが出来なくとも、式であるということは紫様に必要とされている証拠だ。
 なら、俺はそれでいい。


「紫様、夕食の時間です。起きて下さい」

 枕元で正座し紫様を揺すって起こす。
 まぁ、当然の如くなかなか起きてはくれない。

「んー」
「ちょ、紫様!」

 寝惚けているのだろう、紫様は俺の腕を掴むと布団の中に引きずり込んだ。

「うにゅー」
「〆%&!!☆●бνqあwせdrftgyふじこ」

 更に紫様は俺の首に両腕を回し抱き寄せる。
 うはっ、紫様俺の脚に脚を絡めんで下さい。
 俺は完全に紫様の抱き枕と化している。
 しかも紫様は今寝巻きを着ている。つまり薄着…
 更に言えば、俺は紫様の胸に顔を埋める形になっているわけで…
 その時既に俺は完全にパニック状態になっていた。

ふわ…

 完全にパニックになっていた俺は甘い香りで我に返った。
 何故か急に落ち着きを取り戻した俺はその原因を理解した。
 紫様だ。
 こんな間近で紫様を見るのはこれが初めてだ。
 とても綺麗で女神のような優しさを持ち、それでいて少女のような無邪気さを持った人。
 甘い香りと彼女を愛しく想う気持ちが、俺の理性を序々に奪っていく…

「うがー、もう我慢できん!!!」

 理性がブチ切れた俺は何故かすんなり紫様の拘束(?)から抜け出し、その場で仁王立ちになる。
 そして懐からスペルカードを取り出す。

「スペル発動! 逝くぞ!!」



喪罪苦「百合・ゲラー -Hand Power-」



 説明しよう!!
 式神○○は理性がブチ切れGallerゲージが頂点に達することにより、通常の数百倍の弾幕モードである百合・ゲラーに変身することが可能なのだ!!
 (参考:前スレ>>62,ttp://seafox-web.hp.infoseek.co.jp/nikki /suppatenko.html)

「喪に服し、罪を認め、苦しむg「って、やめんかーーー!!!」あべし」

 服に手を掛けた瞬間、いきなり乱入してきた藍さんの後頭部への日向くんもビックリなネオ・タイガーショットにより
俺は壁を突き破り樹木を5,6本へし折りきりもみ回転ののち車田落ちをして止まった。

「あー、あれは死んだね…」(橙)
「ふん。苦しむ暇を与えぬも慈悲だ…(危ない、もう少しで橙におぞましいものを見せるところだった…)」(藍)

 そんなことがあったにも関わらず、紫様はまだ寝ていたそうな…

「くっ… 百合・ゲラーは終わらん。何度でも蘇るさっ!」
「まだ言うか」
「ぎゃふん」





 そんなこんなで夕飯を全員一緒に食す。
 八雲家の数少ない決まり事の中に『夕食は全員揃って取る』というのがある。
 ただ今日はいつもと違い、紫様の表情が冴えない。

(ま、まさか… 百合・ゲラーがいけなかったのか!?)

 俺のそんな思案を他所に、隣では橙が焼き魚を美味しそうに頬張っている。
 藍さんもそんな紫様に気が付いているのだろう、いつもより口数が少ない。

「…藍」
「はい。何でしょう、紫様?」
「10時位になったら霊夢のところへ出掛けるわ。藍も一緒に来なさい」

 俺は少し妙だと感じた。
 紫様が霊夢のところへ遊びに行くのは珍しいことではない。
 大抵はお酒を持参し一人で行くことが多く、藍さんが同行することはあまりないのだが…

「月の様子がおかしいわ。あなたたちも感じているでしょう?」

 確かにそうだ。
 俺は人間がベースの式だからそんなに強くは感じないのだが、逆に言えばそんな俺でも感じるということは紫様や藍さんはもっと強く感じているのだろう。
 藍さんも言いたいことが分かったのだろう、真剣な顔付きで答えた。

「分かりました。10時になったらお声を掛けますね」
「えーっ、私も行きたいー!」
「まぁまぁ、橙。今回は諦めよう。俺と二人でお留守番だ」

 月に異変を与えるような者。
 恐らくは妖怪の仕業だと思われるが、それだけの影響を与える妖怪なら相当強いはず。
 橙はまだ納得していないようだが、俺や橙では足手まといになるだろう。
 正直俺も一緒に行きたい。だが無理矢理その感情を押し殺すしか俺には方法が無い。
 紫様の俺を見る鋭い目がとても印象に残った…




 紫様はいつも食後に縁側でお茶を飲む。
 俺は一歩下がった場所に座り、紫様にお茶を入れる。
 静かにお茶を飲む紫様が俺に声を掛けた。

「ねぇ、○○。貴方はどうして肝心なところでいつも感情を殺すの?」
「そんなことは……」

 無いと言おうとしたところで紫様と目が合った。
 いつもの優しさに満ちた目ではなく、何かを見通すような鋭い目だった。
 俺はその瞬間、何も言えなくなってしまった。ただ搾り出すように否定の言葉を言うのがやっとだった。

「そう、じゃあ何故あの時自分も一緒に行くと言わなかったのかしら?」
「それは… そうする方が一番妥当であると考えたからです。仮に俺も一緒に行ったとしても足手まといにしかなりえませんし…」
「私は本音を言えと言ってるのよ。これは命令よ」

 式である俺は決してその命令から逃れることは出来ない。
 俺の意思とは無関係にその言葉を発してしまう。

「今の俺は紫様の護ることは出来ません。残念ながらそれは紛れも無い事実です。俺に出来るのは精々紫様の身の回りのお世話だけ。それでも俺は紫様を護りたい」
「何故そこまで私を護ることに執着するのかしら?」

 いけない。
 このままでは決して伝えてはいけない気持ちまで伝えてしまう。
 ヤメロヤメロ。ヤメテクレ
 俺は命令に屈しないよう足掻らう。
 だが、とうとう伝えてはいけない気持ちを発してしまった。

「俺は紫様を愛しているからです。だからこそ貴女を護りたいと思います。いかなる障害からも俺は貴女を護りたい」
「…そう。八雲の姓も名乗れない式が言うには100年は早いわね」

 …終わった。何もかも…
 聞こえてくるのは虫の音だけの痛すぎる沈黙。
 俺のアイデンティティそのものまで否定されてしまった。俺はこれからどうするべきなのだろう…
 そんな沈黙を藍さんが破った。

「紫様、そろそろ時間ですが…」
「…今行くわ」

 藍さんも雰囲気から何かを悟ったのだろう。
 敢えていつも通り、気が付いていないように声を掛けた。
 俺は玄関に向かう紫様の背中を見つめるだけで、何もすることが出来なかった。
 いや、する気力もなかったのかもしれない。

「ああ、そうそう。1つ忘れていたわ」

 紫様は何かを思い出したかのように俺に声を掛けた。
 俺はもう必要無いから消えろとでも言われるのだろうか…
 ははは、正直ここまで臆病だったとは今まで気が付かなかった。

「○○。貴方は今から八雲○○と名乗りなさい」
「っ! で、ですが、紫様は先ほど…」

 紫様は扇子で口元を隠したまま、俺の方に振り向いた。
 その目はいつもの優しい目をしていた。

「○○。私も貴方のことが好きよ。だから私を護れるように強くなりなさい。それじゃちょっと出掛けて来るわね、未来の旦那様。留守番よろしくね」

 いきなりのことで俺の思考回路は完全にオーバーヒートを起こし、気が付いた時にはそこに紫様の姿は無かった…


 俺はスキマ妖怪の式・八雲○○。俺の物語はまだ始まったばかりだ…




――――――――――――――――――――――――

上手くまとまってないな、これorz
しかもネタパクってるし…
前スレ>>62氏、無断でパクってごめんなさい。

取り敢えず、永夜抄直前の話って感じでお願いします。

――――――――――――――――――――――――

───────────────────────────────────────────────────────────

2スレ目 >>177-178



「がぁッ!」

またも刃は届かず、俺は背後の大木の幹に叩きつけられた。
目前には満身創痍の俺とは打って変わって、戦いを始めたときから毛ほどの傷どころか
指先ほどの汚れすらも身につけずに艶然と微笑む、一人の妖怪。

「まだ続けるの? 勇ましい殿方は好みだけれど、そろそろ面白みを欠いてきてよ?」
「く……ッ!」

駄目だ。
消耗し切った肉体は自信自身の体重を支えることすら忘却し、俺はついに地面に膝をつく。
杖のように地面に刀をついて体を支えようとするが

「その様子だと、もう終わりのようね」
「……」
「声を出す気力も残っていないのかしら?」
「……」

ふう、という大げさな嘆息が、うつむいた頭の上から聞こえた。
妖怪はゆっくりと、動くことすらままならない哀れな獲物に止めを刺すべく、歩み寄ってくる。
歩み寄ってくる。
歩み寄ってくる。

「もう何も出来ないのなら……死になさいな」

……間合い、だ。

「貴様がな」

最後の一歩を踏み出さんとしたその間に、俺は現存の体力と胆力とを全て注ぎ込んだ一閃を下段から跳ね上げた。
切っ先を背後に向けて伏せて置いた刀身を、地面と左手の間から引き抜くように抜き上げる、変則的な居合。
完全に間を合わせた、現状で可能な最大限の、そして恐らくは最後の一手。

斬った。

攻めの枕にすら入っていない妖怪の左腰から右肩口へと斬撃は抜け、その身体を袈裟に両断する。

そのはずの、

刃が、

無い。

驚愕に凍てつきながら、右手の先を見る。確かに柄を握っている。
その先に続くはずの、二尺三寸の刀身が、半ばから無い。
斬られたのではない。
折られたのでもない。
消されたのだ、という理解が雷霆となって俺の全身を撃ち、口元には引きつった笑いがこびりついている。

「……違う」

上ずった声で、そんな呟きが勝手に口から漏れ出た。
そう、違う。
この妖怪は、今まで相手にしてきたどんな妖怪とも違う。

「へぇ……やってくれるじゃない……」

違う……そう、こいつは並の妖怪ではない。
否、妖怪ですらない。
怪異そのものだ。
今度こそ全ての力を使い果たして地面に倒れこむ俺を睨めつける、その瞳。
蛇のように縦に割れた瞳孔と、七色にその彩を変える虹彩。
アレは、邪眼だ……。
妖怪がこちらに向けて腕を伸ばし、その指先が俺の顎を持ち上げる。
邪眼を、見上げる。
息がかかりそうなくらいの至近距離から、俺を捕らえる邪眼。
白磁に肌に映えて鮮やかな紅色の唇が、くッ、と釣り上がる。魔物の笑み。

「……くす、たまにこういうのが混じっているから、人間と遊ぶのは止められないわ……」

言いつつ、顎を持ち上げていた指先を頬に這わせる。
その感触に、全身が総毛立った。
こいつが、目の前の妖怪が、明らかに自分とは違うもので出来ていることを実感したからだ。
疲弊した肉体とは無関係に、体が動かない。
いつしか妖怪の両手が、俺の頬に添えられていた。

「見逃してあげるわ、名前も知らない人間。見逃してあげるから、その代わりに私を愉しませなさい」

何を、言っている?

「少しだけ気に入ったわ、貴方のこと。だから自分を鍛えなさい、鍛えて鍛えて……私の高みまで上ってきなさい」

笑みが深くなる。
粘性を持った魔物の笑みから視線を引き剥がそうとするが、できない。

「強い男には、その権利と義務があるわ。全てを贄にして、私に追い縋る権利と義務が……ね」

邪眼が、目の前にあった。
七色の邪眼に映る自分の顔が、一気に近づいて――

「……ッ!」

口付け、られた。
悪夢をそのまま経口摂取したかのように、全身が訳の分からない感覚に一瞬で冒された。
怖気を伴った甘さに、身体を内側から灼かれた。
おぞましいほどの熱と柔軟さとを持った舌と共に、何か、得体の知れないものが、流れ込んでくる。
流れ込んできて、俺を、違うものに、組替えていく。
そして、開放された。
全身が弛緩している。手足はもとより、口を開いて声を出すことすら出来ない。

「契約の、印よ」

そういって微笑む、妖怪の女。

「では、また逢いましょう、強い殿方。この次はもっと――」

女の姿が、足元から霞のように掻き消えていく。
胸の辺りまでが完全に消え、そして全身が消え去る寸前に、女の言葉が虚空に刻まれる。

「――愉しませてちょうだい」

そうして、何の痕跡も残さずに女は消えた。
後に残されたのは、哀れな敗残者ただ一人。
ぎり、と歯を食いしばる
悔しさではなく、憎しみでもない。

「くッ、……ははッ」

笑みが、こみ上げてきた。
何故かは、分からない。

「ははッ、くく、はははははッ」

何故か、たまらなく、愉快だ。
ああそうか、と、笑いを上げながら理解した。
理解が全身に染み渡るにつれ、なおも笑いを抑えられなくなっていく。
そう、俺は、俺は。

「待っていろ!待っていろ!唯の人間がお前を討ち果たすその時を待っていろ!」

魔物の笑みに、囚われたのだ。

───────────────────────────────────────────────────────────

2スレ目 >>185


俺はもう何年ここに通っているのだろう。
博麗神社の鳥居を潜りながら思う。
ここは俺にとってはたった一つの交差点だった、彼女に会うための……。
神社の目の前で俺は立ち止まる、すると今までの記憶が走馬灯のように巡った。
不吉だが……まぁ過ぎってもおかしくない状況ではあった。
「何を考えているのかしらね?」
心底理解できない、そう言いたげな口調で呼ばれた俺は後ろを振り返る。
「いつもと一緒だ」
俺の言葉に顔色一つ変えないで佇むのは幻想の境界、八雲紫だ。
整った顔つきに流れるようなブロンドの髪を帽子に入れている。
服のセンスも相変らずよくわからない、まぁ何を着たって似合うだろう。
「いいえ、いつもと一緒ではないわ」
紫の言葉に俺も顔色一つ変えずに受け流す。
確かにいつもなら日も置くし、場所ももっと人の少ない場所を選ぶ。
博麗神社を選んだのは今日が宴会の日だったからだ。
そしてこの約束を取り付けたのは半日前である。
いつもと一緒ではない、まさにその通りだった。
「まぁいいじゃないか」
俺は紫に歩み寄り数メートル程前で止まる。
俺の双眸は紫を見据えている、紫の双眸もまた俺を見据えていた。
「あなたと私の間にある果てしない実力の境界、今日もまた見せてあげるわ」
その瞬間、俺は腰の鞘から大剣を抜き放つ。
大剣は夕日の光で赤く染まっていた。
「今日こそはお前を越えてやるよ、紫!」


~人妖決闘中~


……これでも俺の実力は並みの人間、いや幻想郷の人間の域を大きく上回っている。
だがやはり八雲紫の実力は果てがない、スペックもさることながら戦略も幅広い。
それでもなんとか紫の服をぼろぼろにし、肩で呼吸をさせるところまでに至った。
俺のほうは剣は折れて全身血塗れかつ、ずたずたで死に掛けているが……。
「流石だな、紫」
余裕を繕った表情と合わせるとより薄っぺらい言葉に思えてくる。
実際の所は俺が不利なのは一目でわかる、そもそも有利に立てた事もなかったりする。
俺にできるのは腹を決めるしかなかった、次の一撃にかけるっと。
「こいつで決めてやる!」
鼓舞するように言うと俺は懐からスペルカードを取り出す。
スペルカードにはモチーフがある物も存在する。
だから俺もある技をモチーフにした切り札(Last Spell)を放った。
「ヘルアンドヘブン!!」
……ぱくりとか思った奴は正直にでてこい、全員光にしてやる。
「あら、ぱくりなのね」
ち……ちっくしょう!相変わらず人の痛い所を突っつくのが上手い奴だ。
なんとか心の中に止める、顔は苦虫を噛み潰したみたいだが……。
気を取り直して両の手を握り合わせると紫へと突っ込む。
「うおおおおお!!」
だが紫は四重の結界を張って止める、こうされたらどうしようもない。
いや、どうにかしなきゃいけない!
「俺は……負けられないんだ!」
紫は余裕の面持ちで応じる。
「何よ、そうやって今までどれだけ負けてきたと思っているのかしら?」
それでもだ、思っても息が詰まって声がでない。
俺は今までの記憶の中、最も印象に残っている場面を思い浮かべる。
ふと昔話をしていた時に浮かべたあの表情を。
悲しみを宿した顔をしたあの時を。
そして抱いていた気持ちのすべてをぶつける。
「俺はお前より強くならなきゃいけないんだ!」
余りの衝撃に体がばらばらになりそうになっても言う。
「お前が認めてくれるような男になるんだ!!」
……紫はただ黙って、結界を強めた。
ああ、まだ最後に言いたいことを言ってないのn―。


~少年療養中~


……俺は目を覚ます、体に痛みはない、それどころか服にも傷一つない。
別段、驚くことでもない、霊術やらなんやらで直すのは朝飯前と言う奴だ。
勿論、紫にとってだ、だからたまに治療してもらえなくて頭を下げる事もある。
そう考えれば冷たい土の上でほったらかしにされたのなんて可愛いものだと思うことにした。
「ほら、あなたも飲みましょう」
起きた俺に早速と言ったように晩酌を勧めてくる。
勘弁して欲しい、俺は下戸なんだよ。
まぁ言って聞く相手ではないが……。
「頭がぼけっとしてるから少し歩いてからにするよ」
そう言って立ち上がると俺はふらふらと歩き出す。
行く場所は既に決まっている、いつもならこんな言い訳は通用しない。
紫の霊術は完璧だ、故に頭がぼけっとすることはありえないからだ。
俺は神社の片隅へと歩き出す、その場所へと行くために……。



ここにだけは神社の中でも来たくなかった、今までも来たのは数える程しかない。
だが今は強く感じていた嫌なものはなかった、むしろ清清しく感じる。
俺が俺である場所、俺が俺でなくなった場所。
「やっぱりここにいたのね」
あの時と同じ、紫がいて……俺がいた。
目の前の墓に刻まれた名前、それは俺の名前。
「やっぱりわかるよな」
振り向いて紫と見合う形になる。
ここは俺が死んだ場所、そして俺が今の俺となった場所。
「あなたは勘違いをしてるわ、あなたに必要なのは―」
「紫」
言葉の途中、静かにと……けれども強く言う。
俺の真剣な表情を読み取ってくれたのか紫は言葉を飲み込む。
「……ごめん」
ややあってから俺は口を開く、俺はこの先のことを言わなきゃいけない。
それによって紫がどんな顔をするのだろうか……。
「あなた……」
紫の声、その顔は青ざめている。
予想はついていた、だが……まさかもう来るとは思わなかった。
俺の体の先、腕と足からどんどん消えているのだ。
存在が崩れているとでも言えばいいのだろうか、さっきみたいに血はでないし痛くもない。
あれよあれよと言う間に手と足が完全に無くなってる、空を飛んでなんとか元の身長差を保つ。
「……わかっていたの?」
「ああ、もっともわかったのは昨日だけどな」
だからこそ決闘もあんな急にやった、言いたい事もたくさん言った。
でもやはり急すぎた、かえって紫を混乱させて勘ぐらせただけだった。
それに……一番言いたい事は結局言いそびれた。
「まったく、酒でも呑みたい気分だよ」
自嘲的に言う、本当に何も旨くいかない、俺はなんて馬鹿なんだろうか……。
「あなたが自棄になってどうするのよ」
すると紫は少しだけ浮き上がって俺を見下ろす。
紫の顔が近づいて……俺の思考は停止する。
俺の口の中に酒が満ちる、どこからか、紫の口からだ。
なんとか俺が顔は真っ赤に、頭は真っ白になっているというのがわかった。
「あら? 女の子とキスをするのは始めてかしら?」
紫の言葉に我に返る、悔しいがその通りだった。
「まぁ……しょうがないわよね、あなた自身が決めたことなんだし」
「……ごめん」
そうとしか言えなかった、なぜなら俺は死んで妖怪化“するはずの存在”だった。
人間として生きることを選んだのはこの俺だ、これはそのツケだった。
不完全な俺は辛うじてその存在を維持していた、それも限界だった。
俺の体はもう半分以上消えている、消滅もまじかに迫っていた。
「大妖怪ってなんなのかしらね」
俺は黙っている……いや、もはや声も出せなくなっていたのだ。
「私は何もかもを思い通りにしてきたのに……肝心な時には何もできない!」
目が見えなくなる、紫が吐露する想いを俺はただ聞いていた。
「あなたを完全な人間にすることもできない! 一体なんなのよ……私って!」
もはや耳も聴こえなくなる、だが俺の体を紫が抱きしめてくれるのがわかった。
頬に暖かい物を感じる、これはなんだろうか……。
涙、そうか……紫は俺なんかのために泣いてくれたんだ。
ああ……やっぱり言ってお…………けばよかった……この……気持ち。
だい……す……き…………だよ…………ゆ……か…………。



この者は裁かないのですか?
いいえ、裁いて償える罪ではないのです。
半端な存在として生きてきたからですか?
いいえ、それよりも深い罪を犯してきてるわ。
それは恋する乙女を泣かせたこと、どんな地獄に落としても償えないわね。
ではどうしますか?
そうね、生きて想いを遂げる事、それがこの人間の積める……。



……変な夢を見ていた気がする。
俺は消えちまったはずじゃ……むぐっ。
口の中になんか湿ってざらざらした物が詰まってやがる。
やばい、苦しい、息ができねぇ。
「げほっげほっげほっ」
全身に力を込めると上半身が起きて口の中の物を吐き出す、土だ。
視界が戻ってくる、間違いない……アングルこそ違うがさっきと同じ場所。
俺の墓だ。
意味がわからない、消えたかと思えばまたここにいる。
……気づけば紫が見下ろしていた。
「あなた……なんで居るのよ?」
やばい、紫の顔はすんげぇ怒っていた、まさに鬼ばb―。


~少年惨劇中~


「……本当に何もわからないのね?」
「ああ、何にもわかんねぇし気づいたら墓からでてきたんだよ!」
顔は原型を止めてないぐらい酷いことになってる。
勘弁してくれ、俺は紫にこんな冗談をしかける度胸なんてない。
唐突に紫は顔を俯ける、その表情に俺は自分の目を疑った。
「本当に……本当に心配したんだから」
紫は涙を溜めて悲しそうな顔を向けて言う、今まで見たことのない顔に心底驚いた。
そして同時に俺の頭の中は罪悪感で一杯になっちまった。
……唐突にわかった、あの時紫が言おうとしていた事が。
紫が俺に何を求めていたのか。
それは想う事だ。
泣いてる時に慰めたり。
愚痴を吐きたい時に聞いたり。
嬉しい時に一緒には喜んだり。
そういう存在を求めていたのだと。
強くなる必要なんてまったくなかったのだと。
そして俺がなぜ人間であろうとしたのかも思い出した。
それは長い時を往く妖怪になればこの気持ちを薄れると思ったのに他ならなかった。
……実際は人間であってもいつの間にか忘れてしまっていた。
俺は本当に馬鹿だ……。
頬に暖かい物を感じる。
「まぁいいわ、もう宴会も始まるわよ」
紫の手だった、俺の顔についた土を払ってくれていた。
その表情にはもう暗いものはない。
そうか……今の紫は本音を顔に出してたんだ。
寂しかった。
怖かった。
辛かった。
そういう弱音という本音を俺にぶつけてきたのだ。
いつも余裕の微笑を浮かべた大妖怪としてではなく。
一人の少女として。
今も俺を励まそうとしてくれたのだ。
俺はそれに答えなきゃいけない、俺自身の想いで。
そんな事を考えながら立ち上がって土を払い落とす、顔はいつの間にか治っていた。
すると紫は俺の手を握ってくる。
そして紫は唐突に走りだした。
「わっ待てよ」
当然紫は待ちなどしない、だが俺はむしろその手に意識がいっててどうでもよかった。
紫の手は本当に暖かい、なんだか頭を渦巻いてた物がどうでもよくなっていくをの感じる。
構えることはない、ただあるがままの気持ちを言おうと思った。
紫に言えなかったあの言葉を……。
俺は黙って手を握り返す。
紫は立ち止まってくれた。
俺はこの手を絶対に離さない。
ただ一緒に泣いて笑っていたい。
妖怪と人間ではなく、一人の女と男として。
その気持ちをたった一言に紡いだ。
「……大好きだよ、紫」
返事はない、けれど紫は振り向いた。
その顔は今まで見た中でも最高に可愛くて美しかった。

───────────────────────────────────────────────────────────

2スレ目 >>232


砂糖と水を鍋に入れ、箸でかき混ぜながら煮詰める。
色がついたら、鍋を火から離し、油を塗ったアルミホイルの上に適量たらす。
仕上げに爪楊枝を端に設置し、冷ませば完成。
「出来た、完成だ!」
完成したものを皿に取り、ちゃぶ台の上に置く。
席についていた三人の視線が皿に注がれる。

「藍様、これなぁに?」
「悪いな橙、私にはちょっと分からないな。紫様、これは何ですか?」
「あらベッコウ飴じゃない、懐かしいわね」
それぞれが置かれたベッコウ飴に手を伸ばす。
三人の飴を食べる様子を見ながら、マヨヒガに来たときのことを思い出していた。




あれは確か一週間前だったな…

「こんなところに森なんて有ったか?」
買い物帰りに何も無いはずの土地に森が出現していた。
そして俺は、何も考えず好奇心から森に足を踏み入れた。
森を歩くこと10分、さぁ帰ろうかというときにそれは現れた。

「にくだ、にんげんのにくだ」
背後から聞こえた声に、カニバリズムかよ!最近は物騒な時代だからな…とか間抜けなことを考えながら、
声の主の方を向く。
「冗談でも…嘘だろ…」
そこにいたのは人間ではなく、妖怪辞典とか怪物大百科に載っていそうな存在だった。
細かいところまでは覚えていないが、大きく裂けた口と右手に持っていた大鉈が記憶に残っている。
「にくくわせろぉぉぉーーー」
怪物は叫びながら俺の首を狙い鉈を振ってきた。
「ヤバイッ!」
限界反応ギリギリでしゃがんで避ける事が出来た。

「どうする俺?落ち着け考えろ」
恐怖を押さえるため、自分に語り掛ける。
「勝ち目は無い、ならやる事は決まってる!」
土を握り、怪物の顔面に投げつける。
ひるんだのを確認し、全力で反転逃走する。
「足を使って、逃げるんだよォォォーーーッ!!」

「にくぅーーまてぇーー」
「待てと言われて待つ馬鹿がいるか!このド畜生が!!」
全力で走りながら、思いつく限りの罵声を浴びせる。
「ヤバイな、このままじゃ…」
怪物との距離が近づいてくるのが分かる、不幸なことに怪物の方が足が速かった。
「何この騒ぎは…ゆっくり眠れないじゃない」
突然、目の前の空間に歪みが発生し、金髪の女性が顔を出す。
「おいおい勘弁してくれよ…」
車は急には止まれない、そんな事を考えながら目の前の女性に頭をぶつける。

メメタァッ

頭をぶつけたはずなのに変な音がした。
打ち所が悪かったのか視界が真っ白になる。
「泣けるぜ……」
俺は死ぬんだな、このまま目を覚まさないんだろう……
遺言が『泣けるぜ……』で良いのだろうか、そんなくだらない事を考えながら、
鉈が振り下ろされるのを恐怖しながら待った。

「終わったから、起きなさい。」
幻聴が聞こえるよ、いよいよこの世とお別れか。
「いい加減起きなさい!」
「痛っ!」
何かで頭を叩かれる、目を開くと先ほど激突した女性が扇子を持って立っていた。
おそらく扇子で叩かれたのだろう、正直痛い…
「何をするんだ痛いじゃないか、いきなり人を叩くとは」
「それはこっちの台詞よ。いきなり人に頭突きをかましておいて、どういうつもりかしら?」
「そっちこそいきなり目の前に現れないでくれよ」
その後しばらく責任の擦り付けが行われた、時間だけが無駄に浪費される。
「はぁ、もういいわ。あなた見たところ外の人間ね。」
金髪の女性が折れる、外の人間とか訳の分からん事を言うが、良く見たら美人じゃないか。
「外の人間って?それより俺を追いかけていた、フレッシュミート大好きブッチャー君は?」
ブッチャーと聞いて女性は眉をしかめたが、俺を追いかけていた怪物だと分かると妖しい笑みを浮かべた。
「私の庭で悪戯するから、消えてもらったわ」
笑顔で消えてもらったと言う発言に背筋が冷たくなった。
「消えてもらったか…まぁともかく、助けてくれてありがとう」
俺から礼を言われるとは思ってもいなかったのだろう、女性は一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑顔に戻った。
「面白いわね、私を知らないからそんな事が言えるのかしら」
その後女性は、幻想郷について、自分について話してくれた。
話しがとても長かったのだけは覚えている、あと女性が妖怪だと聞いたときはとてもビックリした。

これが幻想郷で八雲紫とのファーストコンタクトだった。




「何を惚けているのかしら○○」
紫さんの声で現実に戻される、橙と藍さんは夜の散歩に出かけたようだ。
「いやちょっと、ここに来た時の事を思い出していて」
「ふふ、私も頭突きされるとは思ってもいなかったわ。ほら今日は先にお風呂に入りなさい」
「それじゃ、お言葉に甘えるとします」
「ごゆっくりどうぞ…」
紫さんの言葉の響きに嫌なものを感じたが、構わず風呂場へ向かう。




「傷ついたぁーーー♪制御コンピュータァーーー♪」
風呂につかりながら、歌を歌う。
「しかし何度入っても露天風呂は良いな、偉大なご先祖様に感謝しよう」
風呂を習慣化した顔も知らない誰かに感謝の言葉を送る。
「しかも満月か。……今宵の月は美しい」
あとは酒があれば完璧だなと思うが口には出さない。
「1杯いかがかしら?」
声とともに、横から盆に載せられた徳利とお猪口が差し出される、迷わずお猪口を手に取る。
「有りがたく頂くとします。紫さん」
「あら突っ込まないのかしら?」
透明な液体がお猪口に注がれる、液体を口に入れながら答える。
「美人の御酌で月を見ながら風呂に入る、突っ込むほど野暮じゃないですよ」
「美人だなんて言ってくれるわね。私も1杯頂こうかしら」
「それが良いですよ。今注ぎますから」
徳利を受け取り、紫さんから差し出されたお猪口に酒を注ぐ。
お猪口の中身を一息で飲み干し、俺のほうに突き出す。
「美味しいわね」
「月が綺麗ですから」
酒を注ぎながら答える、本当に月は美しかった。
「本当に良い月ね」
紫さんの横顔を眺める、少し頬が赤くなっていた。
「そうですね」
なんか良い雰囲気だな、このまま、時間が止まれば良いのにと心の底から思う。

「テンコテンコテンコテンコテンコテンコテンコテンコテンコテンコテンコテンコテンコテンコテンコテンコテンコォォォォォォォォーーーーーーー!!!!」

「………出ますか?」
「………出ましょうか」

こうして八雲家の一日は終わりを告げる。





彼は後日この時のことを一言で表した。
「泣けるぜ……」




 *****************
後書き
読んでいただき、誠に有難うございます。

私は露天風呂でゆかりんと一緒に月を眺め、酒を飲みたい!
そんな思いを書いてみました。
イチャ分が足りているか心配ですが、気にしない。
よーしパパ、次も頑張って書いちゃうぞー。

一応元ネタ書いときます。

①フレッシューミート大好きブッチャー君
ディ○ブロより、ドアを開けた瞬間「フレッシューミート」と叫びながら鉈を振り下ろしてくるナイスガイ。

②風呂場で歌っている歌
ボン○ーキングより、多分ボンバーマンの親戚だと思われる。

③メメタァッ
JO○O第一部より、蛙を虐待する際の効果音。

全てのビューティフルドリーマーへ送る

───────────────────────────────────────────────────────────
最終更新:2010年05月21日 06:24