紫5



6スレ目>>564


クリスマス前夜…もちろん紫は冬眠の真っ最中だ。
「(あぁ…今年も寂しい夜を過ごすのか…)」
毎年、今年こそ一緒にクリスマスの夜を過ごそうと約束はするのだが、
哀しきかな、紫は毎年クリスマスの数週間前には眠気に負けて冬眠に入ってしまう。
春まで会えないのか、いっそこの手で春を集めようか…などと、そんなことを考えてしまう。
そんな夜のことだ…
(どんどんっ!)
我が家の扉が叩かれる。こんな夜にだれだろう?
一瞬紫かなと期待が頭をよぎるもそれはない。
彼女ならスキマで何の前触れもなく背後に現れて目隠しして「だーれだ」、とか、
やはり何の前触れもなく現れていつの間にか勝手に人の部屋でくつろいでいるとか、
そんな調子で現れる。
そういえばいつだったか布団を猫に乗っ取られたからここで寝るとか
とんでもない理由で布団を占拠されたことがあったな…
(どんどんどんっ!)
「はいはい、どちらさまで?」
(ガチャ…)
扉を開けるとそこには…
「ガチガチガチガチ…ぃょぅ…」
雪をこんもりと頭に積もらせた藍がいた…歯をガチガチ言わせて、すこぶる寒そうだ。
「藍…こんな雪の夜にどうして…」
「お、お…お前が来ないから…と、とにかく入るぞ…(ガクブル…)」
「あ、ああ…」

俺は藍を家に入れるとタオルを…
(ブルブルブルブル…)←犬猫そのた小動物が水に塗れた時にやるアレ。
(びちびちびちっ!) ←飛び散る雪&水滴
「(#・ω・)」
…手渡そうとおもったが必要なさそうなのでやめた。
「ま、まあ上がるといい。」
「ああ。おじゃまするぞ。」
(ぺたぺたぺた…)  ←肉球型のあしあと
「(#・ω・)」
しかし、自分のためにも藍そのタオルで拭いてやることにした。

「で、どうしたんだ、こんな夜に?」
「うむ。」
(スボッ!)
藍はコタツに勢いよく滑り込んで言う。
「おまえ、なんで来ない?」
「なんでって…紫は寝てるじゃないか。」
「それでもじっとしていられなくて、ひとめだけでも会いたくて、
 都合のいい奇跡や展開を期待して愛する人の下にくる…
 それが男側の役目じゃないのか?」
なんかものすごい無茶苦茶なことを言われている気がする…。
「何を言ってるんだお前は?(汗)」
「…紫様は寝てはいるが…お前が来るのを待ってるんだぞ…」
(ズズズ…)
藍は俺が食べようと思って作っていた赤いきつねのつゆをすすりながら、
思いもよらない事を言う。
…いや、本当はどこかでそうあってほしいと期待していたことを言う。
「そ、それは本当か!?」
「本当だ…。お前は知らないだろうが紫様はお前が来るだろうからって、
 プレゼントを受け取るための靴下を枕元において冬眠しているんだ。
 クリスマスの夜に、おきて一緒に過ごす事はできなくても、
 お前が来るのは拒んでいない。むしろ楽しみにしているんだ。」
(ズズズ…はぐはぐ…)
「……」
言葉が出なかった。(そしておあげまで消えた…)
「去年冬眠から覚めたとき、紫様はプレゼントが無くて寂しそうだったっ!
 プレゼントが無いからじゃない、お前が来なかったことを知ったからだ!
 春に目が覚めた紫様は、寂しそうだった…式としてあんな辛いことは無い。
 今年もそれをやったら、私はお前を許さないからな!」
(ズズ…ごくごくごく…ばきっ!)
藍はあかいきつねを麺だけのこして空にすると、
怒りに顕に、割り箸を片手でへし折った。

「こうしては居れぬ!」
「来るな、○○?」
「もちろんだ!(起きて無くたっていいじゃないか…
 紫が待っているなら、それだけで行く理由には十分じゃないか…!)」
俺は出かける支度をし、紫が喜ぶかなとおもって密かに用意したプレゼント(※選択肢から1つ)
 (※ 1.箱買いしたあかいきつね
    2.またたび
   っ3.かわいい傘  )
を持って、藍の案内のもとマヨヒガに赴くのであった。

…はて?何か大事な事を忘れてないか、俺…?(汗

 っ 防毒マスク(BADEND回避に必須)


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6スレ目>>764


「貴方の私に対する気持ち。そろそろハッキリしてもらうわよ。」
「い、いきなりだな(汗」
「貴方は私の何?そして、何になりたい?
 私は妖怪、貴方は人間。
 その違いを乗り越えて、貴方は私の何になるの?
 奴隷?式?友達? それとも恋人?夫? もしかして…ご主人様?」
「紫、俺は…」
正直、俺としては紫の傍にいれるならどんな立場でもかまわないと思っていた。
それこそ奴隷となって、その靴下履いた足で踏まれるのだとしても。

「と…その返事ちょっとまって。」
「ん?」
「とりあえず私の気持ちを先に伝えておくわ。」
(がさごそ…)
「はい。」
そういって紫は俺にハート型の包みの何かを渡す。
「これは!?」
どうみてもチョコです。本当にry
「ふふ…『奴隷でもいい』って思ってそうなんだもの。
 でも私は、そのお菓子が意味するあたりだってOKって思ってるのよ?」
つまり紫の引いたラインは『恋人』だってオッケー、ということ。
義理チョコだって『友達』オッケーだ!
「ッー!」
どうやら俺は、チョコひとつで紫に心の境界までいじくられたようだ。
紫はニコニコというよりは、ニヤニヤという感じの笑みを浮かべている。
「欲が出てきたでしょ?w」
「お か げ さ ま で ね 。」
ずるいなあ、この人は。
しかしおかげで、自分の正直な気持ちで紫に告白できそうだ。
「さぁ、貴方の正直な気持ちを教えて。今度こそ、ね。」
「ああ。紫、俺は君の…」

1.毎夜の晩ご飯となりたい。
2.恋人となりたい。
3.ご主人様に…

とりあえずここで右クリック&セーブです。
選択肢と以後の展開は皆様の脳内でよろしくお願いします。

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6スレ目>>778


 朝、目が覚めると何やら布団以外のぬくもりがあった。
 なんというか、こう、まとわりついてくるような、それでも安心できる暖かさというか……

「またか……」

 そんな呟きをこぼしながら動きづらい中体の向きを変える。

「すー……」

 目の前にあるのはなんとも安らかな寝顔。きめ細かい綺麗な金の髪に、尋常とは思えないほど整った美顔。

 八雲紫。ここマヨヒガの、そして八雲家の大主にして幻想郷最強と謳われる大妖怪。"境界を操る程度の能力"を保有し、人間界と幻想郷を行き来できる唯一の人物。
 まぁその実態は趣味が寝ることの寝坊助なんだけど。

 ―――んで、俺はそんな大妖怪の「息子」という位置に当たる。

 だが先に断っておく。俺は、人間だ。何の交じりッ気もない正真正銘根っからの人間だ。まぁ早い話、俺は拾われ子なわけだ。
 話によると、俺は生まれてまもなく外の博麗神社に捨てられていたらしい。
 博麗神社。そこは幻想郷と人間界を別つ博麗大結界のお膝元であり、代々幻想郷の管理者である博麗一族の本拠だ。そして、『こちら』と『あちら』に唯一どちらにも存在している所だ。
 こちらの博麗神社は博麗の巫女が管理し、夜な夜な文字通り人妖入り混じった大宴会が開かれているのに対し、あちらの博麗神社は、管理者はなく、完全に廃れているらしい。
 そして俺は、その神社の境内に捨てられており、それをたまたま覗いた紫が発見。そのままこちらに連れてきたんだそうだ。
 八雲紫は神隠しの主犯。面白半分、または「食料」として、たまに外の世界の人間をこちらにつれて来るんだとか。
 妖怪の主食は人肉。その例に漏れず、紫もまた人を食とする。
 まぁたまに生き残る人間もいるようだが、そういった人間はなんとか向こうの世界に戻ることが多いらしい。
 ほんで、なんでそんな俺が食われもせず紫の子供として育てられたのか。

「なんとなく♪」

 そんな答えが返ってきた記憶がある。はぐらかしか本気か。できればはぐらかしでありたい。なんとなくで生かされたとかマジ凹むから。
 ちなみに、大抵こういった捨て子拾い子的話は子供には黙っておくことだが、紫は俺が物心ついたころには速攻で話した。まぁ人妖種族が違うのだ。隠していてもすぐにばれる。
 俺は成長し、向こうは変わらない。寿命の違いは成長の違いだ。
 ただ、俺は重大発言を聞いても別段驚かなかった。
 まぁ気づいていたんだと思う。髪の色の違いとか、ぜんぜん似てないとかとは別に、八雲と俺は違うんだって。むしろそれを聞いて、そーなのかー、程度の反応しかしなかったと思う。幼少時代のことゆえ記憶は曖昧だが。
 ……それ以降紫がより一層俺をかいぐりしだした記憶は鮮明です。今思い出すとめっさ恥ずかしいなおい。

「っと、こんな時間か……」

 解説よろしく回想していると、結構な時間をぼーっとしていたことに気づき、すぐさまザ・ユカリンホールドからの脱出を試みる。
 なんつーか、紫はどうも俺を抱き枕にする傾向がある。子供のころは正しく親にじゃれつく子供として喜んで抱かれていたが、成長は心もするもんで、俺の中に羞恥が芽生え始めると段々逃げるようになった。
 それを楽しんでか否か、更に俺を抱き枕にしたがる紫。弁明しておくが、俺と紫の部屋は別々だ。だというのに今は同じ布団。恐らく俺を移動させたか、自分から来たか。まぁ恐らく後者だろう。見た目俺の部屋だし、ここ。
 ユカリンホールドから逃げるときはできるだけ紫の体は見ない。これ必須。
 紫ははっきり言って、滅茶苦茶美人だ。マザコンとかではなく純粋にそう言える。そんじょそこらのモデルなんぞ裸足で逃げ出して奈落の底へ紐なしバンジーするだろうて。ところで紐なしバンジーってなんだ。
 兎も角、そんな紫が寝巻きで、おまけに厚いのかちょっと……どころではないほど着崩している姿とか、健全な青少年となってしまった俺には目に毒すぎる。豊満な胸の谷間とか、のぞいてる腹部とか。昔から見ている俺だから耐えられるのであって、
 他の男がこれを見たら恐らく10秒も理性が持つまい。まぁ理性飛んだらそのまま紫's胃袋へスロットイン間違いなしだが、他の男に見せるつもりは俺がもうとうない。
 ……いかん、やっぱ結構マザコンってるかもしんない。
 そんなこんなでミッションクリアー。ダミーとして枕を抱かせて完璧。恐らく昼過ぎまで寝ているであろう母を置いて俺は部屋を出た。

 日本屋敷である板張りの廊下を進み、台所へ。コトコトという音といい匂いが漂ってくる。

「ん? あぁ、起きたか。おはよう」

「おはよう藍姉」

 音と匂いの元凶である藍姉からの挨拶を返す。

 八雲藍。八雲紫の式であり、九尾の妖狐の大妖怪だ。
 彼の国で名をとどろかせた彼女が、今では若奥様よろしく家事に追われていると知ったら、どれだけの歴史学者が失神するだろうなぁ。なんて自分でもよくわからない想像をしながら自分専用のエプロンを着用して藍姉の隣に立つ。
 朝起きたら藍姉と一緒に朝食を作るのがまず最初の日課だ。
 紫は睡眠時間10時間を越える。それは俺がおきている間も例外ではない。
 となると、自然幼いころの俺の相手をしてくれるのは藍姉のみということになり、色々教わったのだ。というか、最初に俺が手伝いたいって言ったのが最初だったかな?

「今日は何つくんの?」

「あぁ、魔理沙が余りもののキノコ持ってきたからな。キノコを使おうかと」

 そりゃまた珍しい。魔理沙といえばギブアンドテイク精神がなくテイクオンリーな奴だと思っていたが、たまにはギブするらしい。

「見返りは?」

「宴会時の酒だ」

 やはり魔理沙は魔理沙だった。
 そんな他愛のない会話を進めながら二人で調理を進め、3人分の料理が出来上がった。
 言っておくが、俺、藍姉、紫の分ではない。

「おはよーございまーすっ」

 丁度台所から居間へ料理を運び終えると、狙ったかのように扉が開いて元気な声が響いた。

「橙、おはよう。ご飯できてるぞ」

「はーいっ」

 藍姉の言葉に橙が自分の定位置に座った。
 橙。尻尾が二本ある黒猫の猫又であり、藍姉の式だ。そして俺の妹分に当たる。理由は簡単、俺のほうが先に八雲一家にいたからだ。
橙は未だ八雲の名を掲げられない。何でももう100年ほどは生きないと駄目だとか。……俺にゃ無理な話だな。

「「「いただきます」」」

 人狐猫の声が重なり、いつもの日常は始まった。






 俺は大体藍姉と分割して家事をして午前中を過ごす。というか最近では7割がたを俺がやり、残りは藍姉がやる。藍姉は家事以外にも紫がさぼっている仕事を変わりにやっているので、この方が効率がいいのだ。
 んで、早めに家事を終えると、橙と遊ぶ。

「む~………」

 盤を挟んで座る橙が可愛らしい眉根を寄せて唸る。
 盤面は数十個の四角い枠に別けられ、その中を表裏が黒と白の石で埋められている。
 何でも、オセロとかいう元は外の世界の娯楽道具らしい。今日はこれで遊んでいるわけだ。
 俺が黒で、橙が白。先ほどまでは橙が優勢だったのに対し、今では俺が優勢なため、必死に勝ち目を探っているのだろう。
 だが橙は気づかない。最初からバンバン飛ばすより、後から攻めたほうが勝てやすいのだ、このゲームは。

「それじゃぁ、ここ!」

 コト、と白を上にして石を置く。秩序良く並んだ盤面で、対面に置かれた白と今おいた白で黒を挟む形にする。そうすると黒石をひっくり返し白石、自分のものにできるだ。
 今ひっくり返せる場所で一番多く返せる場所を選んだのだろうが、浅はかだのぉ。

「んじゃ、ここで」

「あぁーーーー!?」

 4隅の角の内、3個目の角に俺が黒石を置くと橙が絶叫を上げた。角を取れれば自然勝率は上がる。この位置は絶対挟めない位置で、相手に取られない。そして3方向に対して有利に相手を挟むことができるからだ。
 4個ある内の3個を俺が取った。1個橙に取られたが支障はあるまい。おまけに今置いた石でそこそこ白石を変えることができた。もう完全に俺の勝利は不動のものになっただろう。

「ふっふっふ、さーてどうする橙ー?」

「ぁぅー、○○強すぎー!」

 ふはははは、と高笑いをすると橙が叫んだ。けけけ、負け惜しめ負け惜しめ。

「もーっ、弾幕ごっこでも勝てないしオセロでも勝てないし……」

「でもお前、足速いじゃん」

 拗ね始めた橙をなだめるために即座にフォローする。橙は流石は猫というか、足はそこそこ速い。飛行速度では鴉天狗や魔理沙の黒白コンビには負けるが。どっちもそんなに早くない俺から見れば羨ましい限りである。

「あら、面白いことしてるわね」

「うおっ!?」

 急激に体に重みがかかったかと思いきや、俺の真横からぬっと顔が現れ驚いてしまった。

「あ、紫様。おはようございます」

「ん、おはよう橙、○○」

 いつの間に起きたのか、紫……お袋が俺の後ろから抱きついた状態で橙に笑って返す。全く気配もなにもなかったから、恐らくスキマを使ってきたんだろう。

「……おはよう」

 つい今の驚き分むくれ気味で返してしまった。なんとも子供っぽいな俺。

「あら、何拗ねてるの~?」

「……あのなぁおふくr「お母さん」……」

 反論しようとした俺の言葉を遮るお袋……もとい『お母さん』。どうもお袋、と呼ばれるのは嫌らしい。思春期な俺のちょびっとした反抗期は、この笑顔の前で消されるのだ。
 綺麗で怖い。いっつあゆかりんすまいる。

「……母さん」

「ママでもいいわよ?」

「勘弁してつかぁさい」

「残念~」

 最大の譲歩を更に踏み込んでくる母親に素直に頭を下げると、そらもう心底残念そうな顔をする母さん。できればこう呼びたくないのだ。前に宴会時にこう呼んだら、周りの奴らに爆笑されたのは苦い思い出だ。……直後全員スキマに落とされた時の地獄絵図は一生忘れられそうにない。

「さて……橙、まかせなさい。仇は取ってあげるわ」

「ほんと!?」

「げっ」

 母さんの言葉に目を輝かせる橙と反射的にそんな言葉が出た俺。なんとも両極端な反応だ。

「ふふ、手加減はいらないみたいねぇ」

 しまった、失言だった!
 うふふふふふとか笑うゆあきんマジで怖いって。眼が笑ってネェ。
 気圧負けして仕方なく勝負することに。色は俺が黒で紫が白。ちなみになんでこっちでは紫と呼んでいるかというと、一重に恥ずかしいだけだ。
 じゃんけんの結果俺が先行。最初はどうしようもないので適当において、一個だけ白を黒にひっくり返す。

「あ、そうそう。これ罰ゲームつけるわよ」

「ちょっと待たんかいっ!?」

 始まってから宣言される追加ルール。ついちゃぶ台返しが如く盤をひっくり返すところだったぜ。

「ちなみに今やめたら問答無用で私の不戦勝ね♪」

 なにその理不尽。あーもう、♪とかつけて綺麗で可愛いな畜生母親めぇ!!

「……内容は」

「負けたほうが勝ったほうの言うことを一つだけ聞く、でどう?」

 まぁ、妥当かつよくある罰ゲームだ。今やめれば負けだし、やるしかねぇだろてやんでぇぃ。

「くそ……分かった、分かりました。その勝負真正面から受けて立つ! イカサマなしでこいやぁ!」

「ふふ、元よりそのつもりよ。本気で行くわよ?」

「もち。行くぞスキマ、戦略の補充は十分か―――!?」

 余裕の紫にやけくそな俺。今ここに、過去未来二度と起こり得ないマヨヒガオセロ一次戦争の幕が開く―――!!

「全面埋め尽くしー♪」

「んなアホな!!?」

「紫様すごーい!」

 10分後、幕は下りた。てか、勝てる気がしねぇってマジで。




「くすくす……ふふふふふ♪」

 俺の背中から心底嬉しそうかつ楽しそうな笑い声が聞こえる。決して俺の背中に口ができたわけではなく、俺の背中にひっついているお方が笑っているだけだ。
 俺に架せられた罰ゲームは、「これからもう一眠りするから抱き枕になること」だった。
 常日頃から俺は抱き枕にされているのだが、今回は事情が違う。
 いつもは俺が寝ている時にされていて、起きてから気づく。ですぐさま抜け出すのがセオリーだ。
 だが今回は違う。これは罰ゲームだ。
 今は昼。健康的な生活を送る俺は未だ眠気はない。よって、紫が満足いくまでこのままの状態を意識しなければならないのだ。
 抱き枕というくらいだ。紫は俺の背後から前へと腕を回し、がっちりホールド。完全な密着状態となる。必然、俺の背中には二つのやぁらかい物が押し付けられるわけで……
 なんという生殺し、恐ろしいぜゆかりん……!!(性的な意味で)

「○○も大きくなったわよねぇ……」

 笑いは隠さず、そんな呟きを漏らす紫。一瞬こう、生理現象が働いてしまったアレのことがばれたかと思いビクッとしたが、そうではなく体格のことらしい。アレって何?とか聞いた奴スペルぶちこむから手ぇ挙げろ。

「そ、そりゃぁ、人間そのままじゃいないだろ」

「そう、人間は成長する。私たちと違ってね……」

 キュッと、少しだけ抱擁に力が込められた気がした。

 ……これはあの、八雲紫なんだろうか? 今まで感じたことのない母の雰囲気に、少し動揺してしまった。

「私たちは何も変わらないまま、貴方は成長し、年老い、死を迎える。当然のこと。……そう、初めから分かりきっている事……」

「……何で、俺なんか育てたんだ?」

 いつもと違う紫に、昔聞いたことをまた聞いた。
 直後、わき腹に軽い痛み。

「いででででっ!」

「こら、自分のことをなんか、なんて言うもんじゃないわ」

 わき腹をつねりながら紫は軽く怒り顔。一瞬戻った雰囲気に、痛みを感じながら安堵した。

「―――昔、私はなんて答えたかしら」

「なんとなく」

「そうね。なんとなく」

 え? マジでなんとなく育てられてたの俺? あいむしょーっく。決してターイムショックではない。

「ほんと、始めはなんとなくだったのよ。外で貴方を見つけて、いつもみたいになんとなく連れてきて……でも、一つだけいつもと違ったの」

「……何が?」

「大抵、私が抱き上げたら泣くわ。やっぱり分かるんでしょうね、子供は敏感だから。私の妖力を感じて、本能が恐怖して。別段何も感じなかったけどね。いつものことだし」

 笑いながら言う紫。元々実態が掴めない人だ、それが真意かどうかは俺には分からない。長い間過ごしても、この人のことは分からないことが多い。

「でもね……貴方は笑ったのよ。嬉しそうに。それでかしらね、なんとなく、育てたらどんな風になるんだろうって思って」

 あー……確かにあんまり怖いとかいう感覚は今まで持ったことはないと思う。紫然り他の妖怪然り。多分動じないとか、物怖じないとかじゃなくて、鈍いだけなんだろうな、そういったのに。おかげでとある花妖怪に大層いじめられるようになりましたが。

「そしたらもう可愛くて可愛くて。ほんと見てて飽きなかったわぁ、ずーっと私にべったりで♪」

 なんか唐突に恍惚そうな声に変わる紫。この辺の切替の異常なまでの早さが我が母君らしいっちゅーかなんっちゅーか。まぁ昔はほんと、べったりだった気がする。一度スキマで寝るって言った紫に黙ってスキマとおったら、3日くらい彷徨ったっけな……あれ以来スキマは俺の中で最大のトラウマだ。周りの目とか目とか目とか触手とか……いかん、鳥肌立ってきた。

「藍に聞いたけど、冬の間は寂しそうだったんですって?」

「ハハハ、マサカソンナハンズハ」

 紫は冬になると冬眠する。熊かと思ったね最初。
 当然起きるまで紫はいなくなる。スキマ内で寝るのだから。昔紫にベッタリだった俺は確かに寂しがった記憶はある。おかげでそこそこ早く親離れはできただろうが。
 しかし、藍姉喋ったのか……あれだけ言うなって言っておいたのに……今度きつねそばを作ったとき藍姉だけ普通の蕎麦にしてやろう。きつねうどんでも可。

「私は、寂しかったわよ?」

「え……?」

 また腕に力が入る。こつんと、肩のあたりに何かが当たる。恐らく、紫の額。

「あんまり見ないんだけどね、冬眠してる間中はほとんど夢を見るの。どれも貴方の夢。成長するたびに夢の中の貴方も代わって……本当に会いたくてしょうがなくなるの」

 苦笑を浮かべるように言う紫。だからまぁ、小さいころ春になって紫が起きると、毎回感動の再会シーンを勃発してしまっていたわけだが。俺が慣れてきて最初に「あ、おはよう」だけで済ましたときの紫の顔はちょっと忘れられそうにない。……その年の春は一番紫が拗ねてたなぁ。

「今もそうよ?」

「……マジ?」

「えぇ、大マジ」

 今もて、俺もいい年齢だし、紫が冬眠しても昔ほど寂しいという感覚はなくなった。紫だって慣れただろうに……

「……親バカめ」

「それを言ったら○○はマザコンじゃない?」

「ぐさっ」

 き、効いたぜ今のボディ……完全に否定できないのがひじょーに辛い。しかもその本人から言われるってのはきついな。

「くすくす♪ ……ねぇ、○○」

「……なんでぃすか……?」

 ちょっとばっかり傷ついた俺の心は口を伝ってオンディル語っぽくなってしまった。

「ちょっとこっち向いて」

「……いやあのお母様それはちょっとやばいんじゃ「向きなさい」……あい」

 俺の反論を遮って問答無用で寝返りを打たせる母上様。そりゃ軽くでも殺気だされたら向くしかないって。俺、弱い。紫、強い。あーゆーおーけー?
 もぞもぞと動いて向きを180度転換。……目の前には、いつも見てきた母の顔。
 言葉では言い表せないほど美しく、そして、可憐。正しく人には出せない妖艶さを纏って、紫は口を開いた。

「私のこと好きかしら?」

「―――っっ!!?」

 いきなりの爆弾発言的問いに、何の心の準備もできていなかった俺は固まった。多分顔は真っ赤なんじゃないだろうか。熱いし。

「……まぁ、好きだよ」

 何とか心を沈め、顔に溜まった血を下げながら平静を装って答える。

「……それは、家族として?」

「そりゃそうだr」

「私も好きよ。家族として、……男としても」

「は? なにそ―――ッ!!」

 俺の疑問は最後まで口から出ることはなかった。
 母の……紫の唇が、俺の口を、ふさいだから。
 俺の体に回していた手をいつの間にか俺の両頬を挟むように持ってきて、離れられないようにしている。
 そんなことをしなくても、俺は離れられなかった。
 動かなかった。……いや、違う。「動きたくなかった」。
 数秒か数分か、はたまた数刻か。時間の感覚が掴めなくなる様な瞬間。紫はゆっくりと、俺の口から離れた。

「………………」

「………………」

 呆然とする俺と、頬を赤く染めて笑う紫。互いの瞳には互いが映る。

「……あの、さ……本気?」

「本気も本気よ。もう、ここまでしてそんなこと聞かなくてもいいじゃない」

 俺の問いに笑ったまま答える。いや、俺の反応が正常だと思う。本当はもっと取り乱したいところだけど……なんだろ、色々心が混ざってる。

「○○……貴方は、私が、好き?」

 再度確かめるように聞いてくる紫。

 ―――そんなの、今言ったじゃん。

「……好きだよ。『紫』」

「ん―――」

 もう一度、今度は俺が紫を逃がさないようにしてから、口を塞いだ。


 それから、夕飯の支度のためにと起こしに来た藍姉に起こされるまで、互いを抱き合って仲良く寝てたんだとか。……ちゃんと服は着てたぞ?


「○○ー、また一緒に寝ましょー」

「だが断る」

「えー」

「だー! のっかってくんな!」

 夜はこう毎日大変になった。……性的な意味ではなく、精神的な意味で。

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最終更新:2010年05月21日 06:58