紫7



6スレ目 >>837


「ふわあ…」
(もそもそ…)
「う、もう3月…藍ったら、起こしに来てくれてもいいじゃない。」
今年も春がやってきたようだ。さて、そろそろ起きようかしら。
(のそのそ…)
いつもだったら、このままもう1年寝ていたいとか思っちゃうのだけど今年はちょっと違う。
今の私には、日々のゴロ寝と同じくらい楽しみなことがあるのだ。
そう、あれはもう半年も前の事だったかしら…


(少女回想中…)←まとめ、「紫2」の真ん中より少し下辺りの「~小劇~」より。
  ↑突っ込みたい部分あるかもしれないが黙って読んでくれると嬉しい。


彼は、なんとも変わった男だった。
どうやってこの迷い家までやってきたのか?
もしかしたらどこかに閉じ忘れたスキマがあったのかしら?
とにかく、ある日突然彼はやってきた。
そしてその日初めて会い、言葉など大して交わしてもいないのに
大真面目に、これ以上ない熱を込めて、私の事を好きだという。

あまりにも唐突で予想もできないその告白は
例えるならファイナルスパークをタメ無しで零距離照射されたかのようで
私の心は食らいボムを打つこともできずにこんがりと焼かれてしまったようだった。
あぁ、なんて不覚。この八雲紫、幾千幾万の弾をこの身にカスらせようとも
被弾を許す事なんて今まで生きてきた中でも数える程しかないというのに。
それをまさか、ぱっと見、何の「○○する程度の能力」もなさそうな人間に許すとは…

本当なら私が被弾を許すなんて悔しい事この上ないハズなのに
まんざらでもない気持ちになるのは身でなく心に被弾を許したせいかしら?
そう思うとやっぱりちょっと悔しいわ。
私は嬉しさ半分、悔しさ半分、それととっさの照れ隠しから
つい彼に意地悪を言ってしまった。それもとびきり絶望的な一言を。


 「そうねえ…あなたがボムも復帰無敵もなしに私の弾幕をかいくぐって
  私をさらってくれたら、貴方の物になっちゃおうかなあ♪」
 「ΣΣ(゚д゚lll)」


ああ、バカな私。何言ってるんだろ。
人間にそんな事できるわけないじゃない。
彼は博麗でもない、魔法使いでもない、蓬莱人でもない。
そして私は⑨でも夜雀でも蛍でも毛玉でもない。
私が言ったこの一言が、普通の人間である彼にしてみればどれほどの難題か。
多分月のお姫様が出した五つの難題にも勝る難題だと思う。
でも彼は…


 「紫様、なんですか、それ?」
 「ああ、これ?撃墜マーク。」
 「8個…愛されてますね…」


それから毎日、痛い目にあっても懲りることなくやってくる。
しかも毎日少しずつ、私の弾をよけ続ける時間が伸びているのだ。
コレはもしかしたらと期待してしまう。先は長いけど…


 「難しくしすぎたかなあ…(´・ω・`)」
 「ホントは攻略されたいんですね。」
 「よくわかってるのね。」
 「そりゃまあ、紫様あいつが来る時間帯は起きてますからね。」


なまじ彼が頑張るのもあって、今更言い出せないじゃない?
 「あれはただのイジワルで言ってみたのよ」なんて…
それに彼が頑張るなら、ソレはソレで夢見たくなるのよ。
少女なら誰しも、   (←相変わらずスルー推奨)
『私をその両腕で抱きしめてくれる殿方には、
 私を守ってくれるくらい強い男であって欲しいなあ』…って願うのは当然でしょ?


 「ねえ藍、ちょっとあいつを手伝ってあげてくれる?」
 「へいへい…でも紫様、あやつが気に入ったのでしたら、
  紫様があいつの心なり人妖なりの境界いじっちゃえば…」
 「それはダメよ。」
 「なぜです?」
 「それじゃあ私と彼の間には『主従』の関係が出来ちゃうじゃない。
  彼が自分の力だけで私を攻略してこそ、
  私と彼は恋する男と少女の関係を築けるのよ。キャッ(*ノノ)」
 「はあ、さいですか。(汗)」


私は藍に彼の特訓をするように命じた。
藍は私のパターンを熟知しているし、一部は近い形で再現できるものもある。
もしうまくいけば、私が冬眠から覚めたころには、
見違える進歩を遂げているかもしれない。


 (回想終了…)


と、言うわけで、私は期待に胸を弾ませならがら起きたのだった。
こんな気持ちで眠りから覚めるなんて、久しく記憶にないことだ。
もし彼が…本当に私を攻略できたら、なんて言おうかしら?
 『よく頑張ったわね』
   …う~ん、ありきたりすぎるからダメ。
 『おめでとう、ご褒美は私よ♪』
   これこれ、こういうの。でも、手加減したとか思われたら嫌だわ。
 『こら、どれだけ待ったと思ってるのよ。』
   うん、コレは私の素直な本音。
 『ちゃんと責任とってよね。』
   コレもいいわね。「何の責任」かあれこれ悩んでもらおうっと。

私が寝てたおよそ3ヶ月。
その間藍がみっちり鍛えててくれたのだ。
愛と欲を燃料に動く人間は、さぞかし見違える進歩を遂げているだろう。
あぁ、待ち遠しい、待ち遠しい。
幾年月をも生きた私だ。待ち遠しいなら寝てその時がくるのを待てばいい。
そう考えるのが常だったけど、今は彼の両腕に抱きしめてもらう
その日が来るのが待ち遠しくて仕方がない。
冬眠から覚めた今、1日だって待つのが辛い。
「むふふ…(じゅるり)」
そして今の私は、それを想像して笑みが漏れてしまっている。
こんな顔、絶対藍にも橙にも見せられない。
私はにやける表情を抑えて、平常心を取り戻してから寝室のふすまを開ける。
このふすまは、冬眠時に潜っている空間と通常の空間の境目でもある。
この部屋を出ればもうそこは、いつもの迷い家(我が家)…


(カラッ…)
「やあ、おはよう。それとも、あけましておめでとう、かな?」
「なっ…!?」
ふすまを開けてすぐの所に彼が立っているではないか。
(じゅうぅぅ…)
一瞬で顔が真っ赤になってしまうのが自分でも判る。
頭は茹ったようで思考がままならず、心臓は跳ねるように激しく脈うっている。
もしかしてずっと私が起きてくるのを待ち伏せしていたの?
いや、それよりももしかしてさっきの「むふふ」とか聞かれてた!?
「な、な…」
何でここに?それすらマトモに口に出来やしない。
私はスキマを使って霊夢の前や、幽々子の前に突然不意打ちのように登場する事はあるけど、
その逆、自分が不意打ちをされた事はない。
ひどい、これはひどい。そういえば初めて会ったときの告白もそうだった。
今はじめて判った。彼の能力はきっと「不意を突く程度の能力」に違いない。
「どうした?今日こそ起きるかなと、紫が起きるのを待っていたのに
 だんまりで出迎えとはつれないな…」
「そ、そんなんじゃないわよ、ただ…」
「ただ…何だ、熱でもあるのか?顔真っ赤だぞ?」
「だ、大丈夫。大丈夫だからっ!」
今しがた妄想にやける表情を抑えて取り戻した平常心は、もう粉みじんに吹き飛んでしまった。
それどころか、真っ白になった頭は平衡感覚すら失わせ…
(よろろ…ばふっ)
赤面を見られまいと後ろを振り向こうとするも、
足がもつれて私は彼の胸につんのめる様に倒れてしまう。
「きゃっ…」
「全然大丈夫じゃないだろ。あんな空間で一人で寝てるからだ。
 まってろよ、藍に布団の準備をしてもらおう。」
彼は私をひょいと「お姫様抱っこ」に抱え上げる。
どうやら、風邪で高い熱が出ていると誤解しているようだ。
だったら、このまま誤解していてもらおうかしら。

「(このまま風邪引いたふりしてたら、看病までしてくれちゃったりするかしら…)」
だって、あこがれのお姫様抱っこよ?
こんな王道的シチュエーションに巡り会えたら、以降のベタな展開も一通り味わいたいじゃない?
「(私が寝てる傍でずっと看病してくれたり…)」
「ところで紫。」
「(ゴハンのおかゆを『あ~んして』って、食べさせてくれたり…)」
「紫?」
「そ、そして汗で濡れた服を着替えさせようとして…そのまま勢いでっ!あぁ、ダメよそこまでは!」
「紫…(汗)」
「はっ!?な、なにかしら…?(ドキドキ…)」
しまった。ちょっとこの後の展開を妄想してぼんやりしたようだ。
えーと、私口に出してしゃべってなんかいないわよね?
「今の状態は…俺がノーボムで君を捕まえたって事にならないかな?」
「あ゛…」
や、やられたわ…GOOD ENDING No.2、
No.1条件は90日以内の正攻法攻略…って所かしら。
「そ、そうね…おめでとう、ご褒美に責任取ってよねっ!」
「何言ってんだ…?(汗)」


そのころ茶の間では…
「紫様起きたみたいですね。」
「うむ、そして○○は上手くやったみたいだな。めでたしめでたしだ。」
(ズズズ…)
藍と橙が、いまだにしまっていないコタツに入り、お茶をすすっている。
(橙の湯のみからは湯気が出てないからきっとすごくぬるいのだろう。)
ちなみにお茶菓子はガチガチに硬くなった正月のお餅の残りとにぼし。
「でも藍様怒られませんか?」
「何でだ?」
「紫様を起こしに行かなかったことと、○○の不意打ちを見逃したことと…」
「ああ、それは大丈夫だろう。紫様は○○に攻略されたいって、ハッキリ言ってたし
 それに私は『○○を手伝え』って言った命令に従っただけだからな。ああ、でも橙…」
「はい?」
「紫様の不意を突けって、私が言ったのは内緒な。
 ○○は、自分の力だけで紫様を攻略した…わかるな?」
「…はい♪」
どうやら今回の彼の不意打ち…考えたのは藍のようだ。
もしかしたら藍の方が毎日一緒に居た分、彼の不意を突く能力に早く気づいていたのかもしれない。
さすが私の式、あなたが居て本当に良かったわ…ありがとう、藍。
(↑神速突撃で自爆させた件はなかったことに。)


こうして私の想いはみんなのおかげで叶ったのだった。
藍や橙とは違う意味で、私を大事に想ってくれる人が傍にいるというのは
なんともむずがゆくて、そしてなんとも心地よいものだ。
とりあえず彼には残る一生、私に幸せという名のゴハンを食べさせて貰おう。
それが彼の責任。年中寝ても起きても、私が幸せに飢えることがないように…
もし浮気なんかしたら、本当に食べてやるんだから…

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7スレ目 >>109-110


  家でまったりしていると、
  いきなりスキマがひらいて、
  紫が背中にしなだれかかってきて、
  なにしてんだ。っと聞いたら
  「○○分の補給。一日できれちゃうから。」っといわれた。

  そのまま縁側で昼寝していたら藍が紫を迎えに来てた。



  そんな日がしばらく続き…その年の秋のことである。
  紫「貴方が居てくれたら、私はそれだけで(幸せで)お腹いっぱいなの♪」
  (ぎゅっ…)
  俺「(*´∀`)」
  紫「だから…一緒に冬眠しましょ♪」
                         アッー…

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7スレ目>>446>>449


「恋し 愛する事も、若さの秘訣だと思いませんか? 紫様」


449 :名前が無い程度の能力:2007/05/07(月) 22:34:32 ID:cKRr5DW.0
  >>446のセリフから幻視したのでちと書いてみる

  紫「あらそれなら私はずっと若いままね」
  ○「へえ、何でそう思うんですか?」
  紫「だって私は貴方に恋をしているんですもの」
  ○「奇遇ですね俺も紫様に恋をしてるんですよ
   こんな形になっちゃいましたけど好きですよ紫様」
  紫「それなら紫って呼んで……」
  ○「ええ、愛してますよ紫」
  紫「……ん…ふぅ」

  藍「…しばらく目を離したと思ったら何ですか?この状況」
  幽「新しいカップルの誕生ね~♪」
  橙「いいなー紫様ー!」
  藍「ちぇ!ちぇちぇちぇちぇちぇ橙!?」

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7スレ目>>565


紫「ZZZzzz…」
○「…紫、寝た?」
紫「…ZZZzzz…」
○「(寝たかな…)」
(もそ…)
俺は紫を起こさないように、そ~っと布団から出ようとするが…
(ぎゅっ!)
強く捕まれて阻止される。
紫「(じー…)」
○「う、寝てなかったの?」
紫は恨めしいジト目…にも見える寝ぼけまなこで俺を睨んで…
紫「…抱きマクラが布団を出ちゃダメ…」
…と、有無を言わさぬ一言。
○「はい…」
毎夜こんな調子。あぁ、自制心フル稼働で、今夜も寝不足…

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7スレ目>>685


「たとえ君にとって俺の一生が刹那の一時でも、共に歩んでいくことを許してくれるかい?」

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うpろだ244


恋に溺れた、たった1つ。それだけ。
「紫様…ゆかりさまぁ…」
虚ろな眼で上を見ながら彼はただ呟いている。

最近の話だ、幻想郷の外から青年が1人やってきた。何かしらの原因でこっちに迷い込んでしまい、彼は元の世界への帰還を望んだ。
だが、ある日を境に彼は元の世界へ帰ることを望まなくなった。かわりに彼は言った。
「俺、紫さんとお話がしたい。」
博例神社境内の宴会の日、いつもは家に引きこもっていた彼も宴会のあまりの喧しさに外に出てきた。その時、彼は紫を見て恋に落ちる。
そこから彼は苦しみ悩む。
元から篭りがち性格が拍車をかけ、延々と悩んだ。
お話がしたい、俺を見て欲しい。
たとえ妖怪であろうと構わない、愛されたい。
殺されてもいい、愛されたい。
変態的な愛はみるみる膨張し、自分の内の殻を突き破ったとき通常の精神は飛散した。
彼は裸足で神社を飛び出した。紫さんに愛されたい、その一心でそこらを駆けずり回った。
途中身体が動かなくなって気を失っているところを霊夢に保護、すぐに霊夢は破綻した精神の治療を鈴仙に頼んだが結果は失敗。
「精神が一部が欠落しては波長の合わせようがない。」
それでも何とかならないかと話し合ってるうちにも、彼は両手足を縛られた身体で床を這いながら外へ行こうとする。
「芋虫みたいね。」
紫の声がした。
スキマから現れる紫、そして歓喜に満ち溢れた顔で地を這い彼は紫の所へ向かう。
「○○、ですわね?」
「はい!はい!そうです!!」
「こんなに縄で縛られて…」
紫は彼を束縛する縄を解いた。
「私がもう一度縛り直してあげますわ。」
紫は更にきつく、がんじがらめと言った風に縄で彼を縛り直す。彼は涎を垂らして悦んだ。
「私に愛されたいそうで…
私の奴隷になる?」
「喜んで!」
「じゃあ、私の足を舐めなさい。」
「はっ…!」

彼は紫の奴隷になり、スキマの中に放り込まれた。
「○○。」
「はぁああ…!ゆかりさまぁ…!」
彼は呼ばれて犬のように紫に駆け寄った。
「ほら、まずは足よ。」
「はい!あし、あしぃ…」
片足を彼に舐めさせ、余ったもう片方の足で彼を踏む。
「本当に変態な犬ね。そんなに嬉しいの?ねえ、嬉しい?」
「はい、うれしいです…!」
「ふふ、今日はそんな変態にご褒美よ。
数週間穿きっぱなしの私の靴下よ、口を開けなさい!」
「ふあ…あ、が!?」
紫は彼の口の中に黒い靴下を突っ込む。
「嬉しいでしょう?変態の貴方は靴下が大好きだものね?」
「…!…!」
言葉が出せず、頭を動かす犬。
彼の願いは叶った。
愛される。たとえそれがどんな形であれ、彼は愛されていると思っている。
彼は幸せだった。

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うpろだ293


 幻想郷に来て1週間が経過しようとしていた。
 俺が居候をしているこの場所はマヨヒガと言い、何でも現実世界からの迷子たちがやって来る場所らしい。
「まぁ、俺もある意味では迷い子だよな」
 最近俺のいた世界では『神隠し』が流行っていた。
 その事についてぼんやりと思いを巡らせていた所、その『神隠し』の主犯と思しき人物・八雲紫が我が家に現れたのだ。
 そして彼女との会話の中で幻想郷に興味を抱いた俺は、進んで彼女の『神隠し』に遭った。
 これが事のあらましだ。
 好んで現実から逃れた辺りが、俺が別の意味で“迷い子”たる証明だろう。
「しかし・・・ なかなかどうして良い所だな、此処は」
 普通の人間にとって、幻想郷の日常や常識の中には受け入れがたいものもある。
「まぁ、初めて人の生頭蓋骨を見た時は驚いたけど・・・」
 人間であるから、と言う理由でお遣いに出されて、その道中に頭蓋骨が一個転がっていた事があった。
 流石にアレは驚いた。
 同時に“自分は幻想郷にいる”と言う実感を持たせてくれた。
「みんな、俺の事を心配してくれてるかな?」
 何も残さないで消えると本気で『神隠し』扱いされるので、一応テーブルの上に「ちょっと旅に出てきます」と書置きして休学届けを置いておいた。
「ま、俺如きが消えても悲しむ奴なんていないか」
 元より自分が変わった人間である事は理解しているつもりだ。
 もしかすると、心配するどころか内心喜ばれているかもしれない。
「・・・でもそれは少し寂しいな」
 可能性は否定できない。
「あら、私は悲しいわよ?」
 後ろからの声。
 この声の主こそが、俺を幻想郷へと誘った存在。
「貴女が消えてしまったらね」
 八雲紫。
 このマヨヒガに住まう大妖怪にして、幻想郷最強と名高い存在だ。
「はは、それは食料が消えるからでしょうかね?」
「もう、食べないと言ってるじゃない」
 この1週間で何度も繰り返された応対。
 もはやこれがジョークの域に達している辺り、俺も此処での生活に慣れてきていると言える。
「だって食べてしまったら・・・」
 しかし今回の彼女の反応は一味違った。
 相変わらず、底の見えない微笑を浮かべたままこちらにやって来る。
 ふいに、目の前が真っ暗になった。
「この感触も、匂いも、温もりも感じられなくなってしまうでしょう?」
 言葉と一緒に流れてくる甘い香り。
 魅惑的な罠の匂い。
 つまり俺は彼女に抱きつかれたのだ。
「うわぁ!!」
 女性に抱きつかれる、などと言う黄金経験の無い俺は、咄嗟に彼女の事を振り解いてしまった。
「あらあら、随分と初心なのね」
 特に気にする様な事もなく、見慣れた胡散臭い笑みを浮かべる紫さん。
「じょ、冗談にしてもタチが悪いですよ・・・」
 心臓が早鐘を打っている。
 ただでさえ暑かったのに、今度は別の意味で暑くなってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・冗談じゃないのに」
 彼女はポソリ、と何かを呟いた様だけどよく聴き取れなかった。
「はぁ・・・」
 溜め息を一つ、視線を外に戻す。
 夏の夕日は空を赤く染め上げて、もう一日が終わる事を告げている。
 鴉が数羽、定番の鳴き声を上げながら何処かへ飛んでいく。
 どこからだか分からないが、蝉の声も聞こえてくる。
「すっかり夏ね」
「ええ」
 気配が移動して、俺の横に腰を降ろした。
 案外近い場所に気配を感じて俺はドギマギとしてしまう。
「知ってる? 今日ここの近くの村でお祭りがあるのよ」
「そうなんですか?」
 何と幻想郷にも夏祭りは存在するらしい。
 いや、収穫祭とかがあるのだからあってもおかしくはないのかも知れないが。
「ええ、だから今夜一緒に行かない?」
「え?」
 突然のお誘い。
 そんな言葉が来るとは思っていなかった俺は、思わず素っ頓狂な声を出していた。
「だ・か・ら、今夜お祭りに一緒に行きましょう?」
 こちらを覗き込むようにして紫さんが繰り返す。
 一介の居候である俺に今後の予定なぞ入っていない。
 よって断る理由など無いので快諾する事にする。
「良いですね、ご一緒しましょうか」
「ふふ、そう来なくっちゃね!」
 朗らかに笑う彼女の姿にはいつもの妖艶な雰囲気は無く、どこにでもいそうな少女のそれと同じように見えた。
 何となく、釣られて俺も笑ってしまった。
「そうと決まれば浴衣を選ばなくちゃいけないわね・・・ ふふふ、楽しみにしていなさい♪」
 そこはかとなくスキップでも始めそうな軽やかな足取りで、彼女は自室へと向かっていった。
「・・・夏祭りか」
 呟きは、茜色に染まった空へと吸い込まれて溶けた。


 久しぶりに人間を見た気がする。
 いや、純然たる人間を見たのが久しぶりなのであって、人の形をしたものは毎日見ているのだが。
 マヨヒガから最寄りの村の近くに俺は立っていた。
 ちなみに自力でここまで来た訳ではない。
「九尾の狐も怯える訳だ」
 どう行けばいいのか、と問う俺に対して「簡単な方法があるわ」と彼女は答えた。
その声を最後に聞いて、俺は急激な浮遊感を味わった。
 要は「スキマ」に落とされた訳である。
 いきなりの事に驚く間も無く、一瞬だけ視界がブラックアウトしたと思ったらここに立っていたのだ。
 こうして俺は感じた事の無い猛烈な危機感と恐怖感を味わった。
「止めよう、思い出すのは・・・」
 頭を振って、恐怖体験プレイバックを止める。
 村の方を見やるともう祭りは始まっているのか、賑やかな人々の声と提燈の生み出す穏やかな明かりが目に入る。
「しかし祭りに行くなんて子供の時以来だ・・・」
 元よりインドア派である俺は、中学に上がる頃にはお祭りなど殆ど観に行かなくなった。
 単純に暑いのが嫌だった、と言うのが理由の大半を占めるのだけど。
「お待たせ」
 村の近くで待機し始めてから大体15分くらい経った頃、聞き慣れた声がした。
「いや、それほどm」
 振り返った先で声を失った。
「ふふ、どうかしら?」
 濃紺の布地には黄色い百合(これは虎百合だろうか)が咲き乱れており、帯の色は燃えるような緋色。
 いつもは降ろしている髪は結わえ上げられており、赤いヒールは黒漆の下駄になっている。
 総じて、
「物凄く・・・・・・綺麗です」
「ありがとう」
 浮かべた笑顔も、いつもにも増して美しく見えた。
「さ、参りましょう?」
 闇にも映える白い手が差し出される。
「あ・・・はい」
 おずおずと手を取る。
 村の方へと向かう最中会話は殆ど無かった。
 何か話そうとは思ったのだが、緊張してしまって声が出なかったのだ。
 程なくして、村の中へと俺たちは足を踏み入れた。
「・・・何だ、あんまり現実世界と変わらないんだな」
 祭りの会場に入って第一声はこれだった。
 幻想郷のお祭りと言うからには、どこか現実離れした光景が見られるのかと思っていたのだが、思いの外現実のお祭りと変わった所は無かった。
 ただ夜店で時折見たことの無いものがある辺りは、やはり幻想郷らしさを感じるが。
「へぇ・・・ 貴方の世界のお祭りもこんな感じなの?」
 扇子(今回は和風だ)を軽く扇ぎながら紫さんが言った。
「ガキの頃に行ったのが最後なんで、今もそうかは分かりませんがね」
「ふぅん・・・」
 俺の言葉に短く答えて、彼女は目を細めた。
 視線の先には大勢の人間。
「宴会とはまた違った趣があるものね」
 そう言えば、彼女は博麗神社で行われる宴会にもよく出席している妖怪だったはずだ。
 しかし今の言葉から察するに、人間のお祭りはあまり行った事が無いらしい。
「あまりお祭りには参加しないんですか?」
「あら、私が何者だったかお忘れになって?」
「あ・・・・・・」
 そうだ、彼女はこの幻想郷の中でも屈指の強さを誇る妖怪だ。
 ならばそんな存在に対して人間はどんな感情を抱くか。
 すなわち、恐怖。
「私の事を見ると大抵の人間は怯えるわ。 ・・・丁度初めて会った時の貴方の様にね」
 人は理解の及ばないものを怖れる。
 それが自身と相容れない存在であればなおの事。
「もっとも今は“認識の境界”を少々弄くっているから問題はないのだけれどもね」
 ここまで来てようやく俺は思い至った。
 彼女にとって本当は“人間のお祭り”など“孤独”を感じるだけのものに過ぎないのかもしれないと。
「何で・・・」
「ん?」
「どうして、お祭り行こうなんて言ったんですか」
 境界を使って無理矢理入り込まなければならないなんて悲しすぎるじゃないか。
 どんな上手に紛れ込む事が出来ても、そこに本当の彼女はいないのだから。
「一層、博麗の宴会の方が良かったんじゃないですか?」
 そんな俺の言葉に彼女は目を丸くした後、
「そんな事ないわよ」
 穏やかに笑った。
「でも境界を操作しないと貴女は・・・」
「その程度の事は気にしないわよ。 それよりもね・・・」
 そこで一旦言葉を区切り、
「私は貴方と共通の体験をしたかったのよ」
 頬を染めてそんな事を仰った。
「え? あ、いえ・・・その、光栄です・・・・・・」
 ある意味これは・・・
 いや、そうでなくても相当胸に来る言葉だ。
 顔が火照ってくるのがよく分かる。
 そこまでして俺なんかと同じ体験をしたいなんて・・・
「共通の体験をするだけならば、博麗神社の宴会でも構わないのだけど・・・」
 確かにその通りだ。
 体験の共有自体は、二人で同じ事をすれば良いのだから。
「吸血鬼のお嬢様とかに獲られちゃ嫌ですもの」
「あ、そう言えば・・・」
 博麗神社の宴会は人と妖怪が入り乱れた混沌空間であると聞く。
 ならば弾みで何が起きるか分からない。
「でも、貴女が睨みを利かせていれば問題無いのでは?」
「食べられる、と言う言葉には二つの意味がありますわ」
 それはないと思う。
 俺の言う事なんて紫さんでもなければただの狂人の戯言に過ぎないし。
 そもそもが、そういう事も彼女ならば防げるのではないだろうか?
 もしかしてこれは・・・
「・・・独占欲?」
 ポソリと呟いてみる。
「ふふ・・・ どうかしら?」
 対して彼女はただ恥ずかしそうにはにかむだけ。
「い、行きましょうか!」
「クス・・・ ええ、参りましょう」
 彼女の手を取って歩き出す。
 ただひたすら恥ずかしくて振り向けなかったが、後ろにいる彼女は何となく笑っているように思えた。


 色彩豊かな時間が過ぎ去って、俺と紫さんは土手に座っていた。
「楽しかったわね♪」
「そ、それは良かったです」
 人間としての“お祭りの楽しみ方”を伝えられたのなら幸いだ。
 しかし様々なハプニングがあったので俺は激しく疲労している。
 男としては嬉しいハプニングもあった様な気がするが、何があったかはご想像にお任せして省略する事にしよう。
「さてと・・・ そろそろ始まるかな?」
 夜空を見上げて呟く。
「ああ、そう言えばそろそろ刻限じゃないかしら」
 紫さんも分かっているから同じ様に空を見上げる。
 ちなみに今ここにいるのは俺たちだけではない。
 他の村人たちなども大勢この土手に腰掛けている。
 何故ならば、
ヒューン ドン
「始まりましたね」
ヒューン ドン ヒューン ドン ドドン
 夏祭りの恒例、花火大会があるからだ。
「綺麗ね」
 さしもの紫さんでもこれには感嘆を禁じえないようだ。
 花火、それは東洋が生んだ芸術。
 中空に描かれる鮮やかな炎の軌跡は、ある時は小さな輝きとなり散り、またある時は炸裂した後にさらに小さな閃光を放って消える。
 それはまさしく“一瞬の芸術”
 万物には必ず崩壊の瞬間がある。
 その逃れられない運命の中で精一杯輝くことの美しさを、この芸術は雄弁に語っていると思う。
「やっぱり花火は夏の風物詩ですね」
「そうね」
 お互いに空を見上げたまま話し合う。
ヒューン ドン ドドン ヒューン ドン
 花火の音があるのと、互いにその美しさに目を奪われている為に必然的に会話が少なくなる。
 ふいに、自分の肩に重みが掛かった。
「・・・・・・!」
 何事かと思って首を回すと、そこあったのは紫さんの顔。
 反射的に声を上げそうになったが、周囲に人が大勢いる事を思い出して何とか踏み止まった。
 艶やかな髪の毛からは、ほのかに甘い香りが漂ってくる。
「ねぇ・・・」
 言葉と共に、彼女の手が俺の手に絡められた。
「な、何ですか?」
 チキンな俺の声は情けなく上擦った。
 しかし気にする事無く彼女は続ける。
「花火は美しいわよね」
「ええ・・・」
「それはなぜかしら?」
「一瞬で消え去ってしまうから・・・?」
 先程自分が感じていた事をありのままに話す。
「そう、花火は一瞬で消え去ってしまう・・・ だからこそ人はそこに美しさを見出す」
 空を見上げたまま、どこか遠くを見るような目で彼女は言った。
「そしてその美学はこの世の殆どの物に当てはまるわ」
「そうでしょうね・・・」
 生命も物質も、時間も空間も、森羅万象はいずれ全て虚無へと回帰する時が来る。
 “始まり”があれば“終わり”もまたあるのだから。
「それは・・・ とても残酷な事だと思わない?」
 間近で見る彼女の瞳の中に、果てしない寂寥の念が見えたような気がした。
 彼女は妖怪。
 それもおよそ神霊の域に及ぶほどの大妖怪だ。
 永い時間を過ごす彼女にとって、この世の全てはある意味一瞬の事なのかもしれない。
 おそらく彼女が抱いた如何なる感情もまた同様に。
「・・・そうですね」
 確かに、変わり行く事は悲しいかもしれない。
「如何に深い想いも所詮は不確かでしかなく、光年の永さから考えれば全ては泡沫なのかもしれません」
 しかし・・・
「それでも良いのでは無いでしょうか」
「・・・なぜかしら?」
「もしも総てが輪廻の輪の中で廻っているのであれば、今俺がこうして紫さんと話しているという事もまた“必然”たるを得るからですよ」
 これから先の未来がどうであれ、現在と同じ状況がやがて来るのであれば現在感じている感情もまた同じようにして抱くのではないだろうか。
「簡単に言うと、今の状況は来世でもあるかもしれないって事です」
 久しぶりに自分の狂人ぶりを発揮してしまった。
 微妙に後悔の念に苛まれる。
「クス・・・ 貴方はつくづく面白い事を言うわね」
 しかし紫さんは俺の言わんとする事を理解してくれたのか小さく笑っていた。
「貴方みたいな人を見るのは本当に久しぶりだわ」
「はは、自称・変人ですからね」
 かつて友人にこの持論を話したら「意味が分からん」と言われたものだ。
「でも意外ね。 貴方運命論者だったの?」
「いえ、こういう事考えるのが好きなだけですよ」
 俺は思想家ではない。
 第一、自分の考えに同調する事を無理強いする様な真似は嫌いだ。
「あれ、花火終わったかな?」
 ふと、花火が炸裂する音が聴こえなくなったので周囲を見渡すと、先程まで大勢いた観客達はいつの間にかいなくなっていた。
「そうみたいね」
 どうやら知らない内にかなり時間が経過していたらしい。
気が付けば、土手には俺たちしか残っていなかった。
「・・・二人っきりね」
「・・・そうですね」
 異性と二人っきりという状況にも関わらず、不思議と心は平静を保っていた。
「もう少しだけ・・・ こうしていても良いかしら?」
 彼女の問いに笑顔で答えて空を見上げる。
 見上げた星空はどこまでも儚く、そして眩しく煌めいていた。
 肩に感じる重みに微かな幸せを感じながら、流れ行く時に身を任せる。
 虫たちの夜想曲が二人を優しく包んでいた。

  そんな或る夏の夜の出来事。

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最終更新:2011年02月26日 22:46