紫16
うpろだ1133
愛してるわ、結婚しましょう。
信じられないな。
なぜ?私はあなたをこんなに愛しているのに。
一言で言えば胡散臭い。
でもあなたはここに居る、帰る機会も逃げ出す機会も、私を殺す機会だって与えたというのに。
お前が好きだからな。
ではなぜ私を拒むの?
自分の心も信じられない。
あなた自身が考えてあなた自身が決める事も信じられないの?
お前が居るからな。
境界を操ったとでも言うのかしら?
可能性の話だ、もしかしたら吸血鬼に運命を弄られたのかも知れん、
ハクタクに過去を捏造されたのかも知れん、妖怪の賢者に心を操作されたのかも知れん。
そんなことないわ、私がそんな事させない。
だが保障はできまい、俺の心が俺のものであるという確証は無い。
では何故あなたは私の元に居てくれるのかしら。
お前が好きだからな。
矛盾しているわね。
人間なんてそんなもんだ。
焦れた私があなたを食べてしまうとしても応えてくれないのかしら。
そうしたいならそうすればいい。お前はそんな事しないと思っているし
そうされたなら俺の見込み違いだ、大人しく腹に収めてもらおう。
捻くれた人間ね。
常識が通用しない事は十二分に見せてもらったからな、何も信じるつもりはない。
無論、この世界自体が「事故か何かで植物状態になった俺の見てる夢」という説も捨てん。
襲っちゃおうかしら、性的な意味で。
好きにしろ、心まではくれてやらん。
まったく・・・どうして欲しいの?
現状維持で構わん、こうして土を弄る仕事を全うして家族と一緒にうまい飯を食えるだけで俺は満たされている。
あら、家族だとは思ってくれるのね
それすら偽装かも知れんがな
結局あなたは何も信じてないのね
信頼はしない、信用はしている。
あら、意外ね。
好きだからな、嘘でも作り物でも好意を持つ相手を無碍にできん。
それでも私の愛は受け取ってくれないのね。
好きだからな、嘘や作り物だったら俺は俺を許せない。
あなたを納得させるにはどうすればいいのかしら?
さてな・・・・・・俺もそれが知りたい所だ。
ねぇ○○。
なんだ紫。
愛してるわ。
ありがとう、俺もお前を愛している。
───────────────────────────────────────────────────────────
うpろだ1159
八雲家の縁側で紫の膝の上に乗っている○○
○「どうして、紫さまって晴れてるのに傘持ってるの?」
紫「聞きたい?」
○「うん」
紫「……本当に、聞きたいの?」
○「え、う、うん」
紫「もしかしたら後悔するかもしれないけど、本当に聞きたいの?」
○「え……じゃ、じゃあいいや……」
紫「あらそう。残念ねぇ、○○は私の事なんてどうでもいいのね……」
○「や、やっぱり聞く!」
紫「本当に後悔したいのね?」
○「ぁ、ぁぅぅ……」
困り果てている○○の頭を、紫の手が撫でる。
紫「冗談よ。ちょっとからかっただけ」
○「うぅ……」
紫「そうね、私が傘を持っている理由ね……」
○「…………」
紫「…………」
○「ゆ、ゆかりさま?」
紫「……考えた事無かったわ」
○「えぇ……」
紫「でも、一つだけ分かってる事はあるわ」
○「?」
紫「いつでも貴方をこの中に入れる為よ」
そう言っていつも持っている愛用の日傘を拡げる。
その傘が、二人を太陽の光から遮断する。
○「?」
紫「今はまだ分からなくて良いわ。その内分かってくるから、ね?」
紫が、後ろから○○の頬に口付けをした。
───────────────────────────────────────────────────────────
うpろだ1166
夜風の吹く平地にて。俺と紫は対峙していた。
「今夜も負けることになりそうね?」
「いやさ、絶対勝ってやる」
二言三言、軽くやり取りをした後に俺は後ろに下がって間合いを取った。
「それじゃあまず私から、かしら?」
紫が取り出したのはスペルカード。俺自身も身構えた。
「まずは軽く試運転、か」
俺の周りを飛んでいたオレンジ色の球体に頭の中で命令を下し、右手の先に固定する。
戦いは、始まった。
*** ***
何故、こんな事になったのか。始まりは一ヶ月前の事だった。
突然紫が俺の家に押しかけてきて、『私と決闘するんでしょう?』と無理矢理連れ出されてしまった。
どういう事かまったくわからないため紫に質問すると、帰ってきたのは弾幕の嵐。……二、三日寝込むほどの重傷を負ってしまった。
その後に、ちょうど買い物の最中で顔を合わせた紫の式神に話を聞くと……
数日前、宴会で俺は紫に決闘を申し込んでいたらしい。それも俺が勝つまで決闘は終わらない、との事。
宴会中の出来事……そう言われて俺は頭を抱えてしまった。俺はどうも酒に酔っている時の事は覚えていない性質らしく、前にも宴会後の朝に山の巫女が俺の隣で寝ていたというハプニングもあった。
まあ、アレは俺が山の巫女……東風谷を介抱していただけで、別に……そういうわけではなかったらしい。
式神に『悪いが決闘の約束を取り消して欲しいんだが』と頼んだ所、『構いませんが、……そんな事をしたら紫様に殺されますよ?』と帰ってきた。
誰が?と聞くと、『あなたがです。……それはもう楽しんでましたからね』と返ってきた。……なんのこっちゃ?
式神の話を要約すると、『俺は酔った勢いで紫に決闘を申し込み、なぜかは知らんがもうこちらから取り消しに出来ない』という事だ。
……ここからはもう必死になった。絶対に勝たなければ俺が死ぬ。いろんな意味で。
幸い、俺の記憶の中に敵の弾を消せる能力を持った武器があったので、それを再現する事にした。
その武器……フォースは今、俺の右手に固定されて避け切れなかった弾を吸収させている。
「本当に、あなたのそれは反則よね?……普通の弾幕ごっこじゃないから使用を認めているけど」
「まあね。こいつの元になった作品では『無敵の武器』とまで称される位だからな」
紫の言葉に返す余裕は無いが、何とか口にする事は出来た。
「さて。……『形状変化 「チェーン・フォース」』!反撃させてもらうぜ!」
オレンジ色の球体の周り、ちょうど中心から真横の線上に三本のコントロールロッドが生まれ、右手の手首にリストバンドが装着された。そこから伸びるチェーンはフォースに繋がっている。
「それっ!」
紫に向けてフォースシュートを行うが、当然ながら避けられてしまう。
「……あら、これで終わりかしら?」
「いや?まだ攻撃は続いてるぜ?」
右腕を動かし、フォースにこちらに戻るよう命令する。……背中からの攻撃なら当たるはず。
「後ろからなんて、紳士的ではないわねぇ」
しかし、避けられてしまった。……それでも俺は慌てずに、フォースを紫の方に動かす。
「もう、こんな単調な攻撃じゃあ妖精でも避けられる……」
「そう言うと思ったよ。……ただ、一つ忘れてないか?」
……何故数あるフォースから一番使いにくい、というかレーザーが一部役に立たないチェーン・フォースにしたか。それは……
「ええ、この鎖のことでしょう?」
気付かれた!?すぐにチェーンを引いて紫を締め付けようとしたが時すでに遅し。隙間を使って逃げられていた。
そう。このチェーンにも当たり判定がある。……フォースだけでなくチェーンでも相手を攻撃出来るのだ。
「……どこに行った?」
チェーンと一緒に戻ってきたフォースを右手に固定し、辺りを見回す。
紫の隙間という移動手段は非常に手ごわい。いつ、どこから出てくるかわからない。奴が神出鬼没たるのも隙間があるからこそ……
「……もう、言い当てられたぐらいで焦ってる様じゃあ失格よ?」
「っ!?『形状変化 「ミラーシールド・フォ……」
突然、耳元で紫の声が聞こえ、慌てて防御用のフォースを出そうとするが。
衝撃。……そして意識の暗転。
……どうやら、弾を撃たずに殴ってくれたようだ。
*** ***
……辺りが騒がしい。これは、宴会の風景?えっと、確か、俺は紫と決闘中にぶん殴られて……
『相変わらずひでぇな、この有様は』
俺の、声。……という事は、もう起こった出来事、なのか?
『あら、そう言うあなたも酷い顔よ?』
『言ってくれるな。宴は馬鹿騒ぎしてこそ宴だろ?』
隣にいるのは、紫。……なんで紫が俺の隣に?
『にしてもなぁ……最近俺には幸せってもんが抜けちまってんのかな……』
ふう、と俺はため息を付いて、紫に愚痴り始めた。
『この前の宴で、早苗ちゃん、だっけ?彼女が隣に寝ててさ。それで何をどう捉えたのか片方の神様は怒り狂って俺をボコボコにするしもう片方の神様は『子供はいつ生まれるの?』とか聞かれるし……』
『あれは結局、その子を介抱していただけだ、と本人が証明してたわよね』
『他にもな、大抵宴の後になんかしら不幸が舞い降りて来るんだよな……』
紫は何も言わない。……素面の状態で見てみると紫の顔にありありと『それは自業自得では?』と書かれていた。
『あ、そうだ。紫、お前らが住んでるマヨヒガって、そこの物を一つ持っていくと幸せになれるんだったよな?』
『ええ、それがどうしたの?』
『俺に一つくれ』
その言葉に、紫は少しの間呆けた後にクスクスと笑い出した。
『そんな事を言ってもねぇ……誰でもあの家に着いたら一つ持っていっていいのよ?』
『何だ、そんなに簡単なのか?……いや、簡単じゃないな。マヨヒガを探さなきゃならないし』
『確かに簡単ね。探すんじゃなくて迷えばいいだけですもの』
紫の台詞になんだ……と小さく呟いた後。俺はとんでもない事を言い出した。
『それじゃあつまらん。……そんなに簡単に幸せになるんなら、俺と紫で決闘でもして、俺が勝ったらその品をもらう、とかの方がいいな』
いやいやちょっと待て!そう俺に突っ込みを入れて、ようやくこの出来事が何なのかわかった。
これは、一ヶ月前に俺が紫に決闘を申し込んだ時の記憶だ。
『あなた、それは本気で言ってるの?』
『ああ、本気も本気。やっぱりそれくらいの苦労をしないと幸せを手に入れたって実感できないじゃん』
俺の馬鹿ー!何無責任な事言ってるんだー!そう心の中で叫ぶが届くわけが無く。
『……面白いわね。その決闘、受けて立ちましょう』
……なんでこんな事を頼んでしまったんだ。俺の頭の中に後悔の二文字が飛び交う。
……って、あれ?ふと疑問に思う事が一つ。この決闘、俺がこだわるならともかく、何で紫がこだわるんだ?
その答えを考える間もなく、俺は現実に引き戻された。身体は地に伏せている。殴られたか倒れたときに打った頭が痛い。
「まだ、やるのかしら?」
「……ああ、当然」
すぐに立ち上がり、フォースを構える。
それにしても、何故だろう。紫は何故この決闘にこだわるのだろうか……?
*** ***
数十分後、俺は地面に四度目のキスをした。
今度はもう体が持ち上がることが無い。肉体的に限界が近づいてきたのだろう。
「もう降参したらどうなの?あなたが死んだら元も子もないじゃないの」
確かにな。声が出せずに心の中で呟く。元はといえば俺の幸せのために始めた事だ。幸せを感じずに死ぬなんて……
「そうよ、あなたが死んでは意味が無い。だから……もう、やめましょう?」
言葉を紡いだ紫の顔は……もう、泣きそうだ。まるで、童女のような……
――じゃあさ、もし……俺が勝ったなら……――をくれ。
その泣き顔を見た瞬間、頭の中に響いた俺の声。
「……っは。は、ははは……ぁ」
まいったな。こんなタイミングで全部を思い出しちまうなんて……ついに、繋がらないと思っていた全部が繋がった。
俺が聞いたときのあのブチ切れようも、俺が決闘を断れない理由も。……今の、ガキみたいな泣き顔も。
だけどな、紫。……いや、だからこそ、か。だからこそ、負けるわけには、行かなくなったんだよ!
「――に、が――――のぉ、か……ぁ、だれ――――ら、なぁ、い――」
無意識のうちに、ある歌を口ずさんでいた。外にいたときに、好きだった歌を。
「た――ぇ、きずぅ、つ、いて――ぇもぉ……」
これを聞いていると、力が湧いてくる気がした。
「……ぃたみにた、ぁえて、たぁっ、ち、あっがれぇ――っ!」
だから、今も歌う。歌うしかないんだ。
「ねえ、まだ戦うの?もうあなたはボロボロなのよ?身体も心も疲れきってるのに……なんで立ち上がれるの?」
顔には出していないが、声が必死に俺を止めているように聞こえる。だけど……
「かぁーこーのしがらーみにぃ……はばまれたとしぃてもぉ……」
離れて落ちていたフォースを呼び戻す。その行動でついに諦めたのか、紫は俯いて止まった。
「わかったわ……そこまで戦いたいなら、最後の命を削り取ってあげる。覚悟なさい……」
「こぉどぉうがはしりだすぅ――ぁあついはぁととぉきぃはなぁ――ってぇ――!」
紫がスペルカードを出した。……彼女の唇が、ごめんなさい、と言う様に動いた気がした。
「『弾幕結界』」
宣言と共に、紫を中心にしてまさに弾の幕が生まれた。……しかし、俺はそれに怯むことなく。
「『オヤスミ、ケダモノ ~last dance~』」
スペルの宣言をした。手に持つフォースの輝きが増し、赤い光が混ざる。
「せなかあーわせのぉ、せかいぃー、からまわぁーりでもぉ――」
弾の雨の中を掻い潜って進む。ただひたすらに、紫のもとに。
「ぜぇーつぼうが、おしよーせてもぉ――」
反射した弾がこちらに向かってくる。が……
「たちむかえる、ひぃとりじゃなぁーい――!」
それを気にせず進み、足に被弾した。しかし痛みはもう感じない。……脳内麻薬が多量に出てしまっているのだろう。
「そらにちぃーったこぉころのぉ――さけびをぉ、むねにぃ――」
フォースの光が赤から白に変わった。すぐにフォースの固定を解除し、直接手で持つ。
「きぃーぼぉのみぃーちをつぅむいだ――」
右手の指先からボロボロになっていく感覚がわかるが、もう気にしない。後は……
「こぉーのそらへとぉ――」
紫に……
「あすへとぉ――」
限界まで……
「みらいへぇ――――」
近づいて……
「……と――――ぉ」
ただ、こいつを……
「っべぇ――――――――――――!!」
……ぶっ、放すッ!
最後に見えたのは、指先からボロボロと崩れていく右腕と、紫のちょっと驚いた、でもなんとなく嬉しそうな泣き顔だった。
*** ***
……ようやく思い出した、記憶の残滓。
『……面白いわね。その決闘、受けて立ちましょう』
いい暇つぶしが出来た、という風な顔で紫が言った。
『で、だ。ちょっと俺の要望を聞いちゃくれないか?』
『あら、幸せになれればそれでよかったんじゃないの?』
『まあ、そうなんだが……もらう側の俺が言うのもなんだが、ちょっとした注文だ。聞いてくれるか?』
その質問に、紫は少し悩んだ後に……
『まあ、仕方ないわね。で、どんな物がお望みなの?』
肯定の答えを出してくれた。よしきた、とばかりに俺はしゃべりだす。
『じゃあさ、もし……俺が勝ったなら……お前をくれ』
『あら、そんな物で……って、え?』
どうやら俺の言葉を理解できていなかったらしく、紫が呆けた顔をした。
『だから、俺が欲しいのは『八雲紫』だっての。つまりお前。英語だとユー。関西弁だと自分。わかったか?』
珍しく俺の台詞をゆっくりと反芻して、一分位かけてようやく意味を理解したのか、顔を真っ赤にして俺から離れた。
『え、え、え、ええええっ!?』
『……ちょっと待て。いろいろと突っ込みたい所があるがそれはさておき。……なんで逃げる?』
『ちょ、ちょっと待って!そ、そんないきなりそんなこと言われても私には心の準備というものが……』
……これがあの幻想郷一の妖怪、八雲の者か?なんともまあ、今の紫は見た目相応、もしくは見た目以下の少女に見える。
『別に、理にかなってると思うが?欲しい物は倒して奪え。それは世の理だろう?』
『で、でも……』
『おーい、さっきまで余裕綽々の大妖怪サマはどこへ行ったんだー?』
『あうぅ……もう、ばかぁ……』
*** ***
目を開けると、そこはどこかの屋敷の部屋。身体を起こそうとするが、ろくに動こうとしない。それどころか……
「……っ、いだだだだだだ!」
痛みが走る始末。……こりゃしばらく安静、かな?
「……お、目が覚めたか?」
先ほどの叫びを聞き、やってきたのは紫の式神。
「あ、藍さ、いててて……」
「今は動くな。肉体修復をしたせいでリハビリなどが必要な身体なんだからな、お前は」
「え、リハビリ?」
「ああ、紫様がお前を連れてきたんだが、その時には肉体の半分以上が消滅していて、魂も剥がれかけていたからな」
その事実を聞き、俺は少し恐怖した。……そこまで凄かったんだ、俺の体。
「って、紫は、あいつはどうした!?」
痛みをこらえて藍の方を向く。少なくとも、俺のスペルを直撃していたはず……
「それは……」
「自分で説明するからいいわ、藍」
藍の横から顔を出した子供がそう言って、俺が寝ている布団の近くまで寄ってきた。
「……あ、もしかして……お前、紫、か?」
「ええ、大正解。……ねえ、あなたが最後に撃ったスペル、あれはどういう物なの?」
子供、というか小さい紫に突然質問され、一瞬戸惑ったがすぐに答えを述べた。
「アレか?……俺の持ってたフォースの元になった作品の、『最後の一撃』を元に作ったんだ。すべての諸悪の根源を滅ぼす最後の一発。それがあのスペルなんだ」
「……やっぱりね。とりあえずそのスペルは使用禁止という事で」
「まあ、毎回毎回使えるわけじゃないしな、アレも」
あはははは、と軽く笑うと、紫がむっとした表情で俺に詰め寄った。
「違うわ。あのスペル自体が妖怪を簡単に殺せるからよ。……妖怪を殺せる物は、何も謂れのある武器だけじゃない。人間の強い『思い』も武器になるのよ」
「強い思い?」
「あなたの世界で有名な漫画の、あの槍もそう。一人の人間の妖怪に対する憎しみが昇華してどんな妖怪も一撃で屠れる様な強い武器になったんだから」
そう言われ、ああ、と俺は納得した。確かに、あの槍は家族を失った人間の憎しみによって生まれた。
「あなたの一発を受けて、私の体に風穴が開いたわ。……それだけならよかったけど、急に体の腐食が始まって大変だったんだから」
ちなみにこの身体は予備のものよ、とくるりと一回転しながら紫が言う。
「侵食を抑えて修復してはいるけど、いつになったら終わるやら。……あなたにはその責任も取ってもらわないと、ね」
「あ、ああ。そうだったな」
そうだ。俺は紫と約束をしていた。
「じゃあ、約束通りお前をもらうぜ、紫」
「ええ、喜んで身を捧げますわっ」
そう言いながら、紫は俺に飛びついて……あ。
直後、俺の絶叫が屋敷内に響いた。
───────────────────────────────────────────────────────────
新ろだ10
そろそろ紅葉が顔を見せ始める秋。
紅葉で着飾る山の麓にある一軒の真新しい家。
そこで生活する一人の男。名を○○と言う。
見た目は里に居る若者と変わらない。ただ、青年は退魔を生業としていたというだけ。
「もうすっかり秋だなぁ」
○○は縁側から夕日と紅葉のコントラストを眺める。
手元にはお茶が入った湯飲み。ホカホカと湯気を立てている。
湯飲みに手を伸ばそうとした瞬間、空間がパックリと割れ、にゅっと現れたのは八雲紫。
彼女も起きたばかりなのか少々眠たそうだった。
「おはよう。紫」
「おはようございます。何年ぶりかしら」
「さあ、俺にはわからないよ」
「私たちに時間は関係ないもの。貴方はまだ布を取らないのですね」
目覚めるたびに交わされるこの挨拶。何度交わされたのかも分からない。
この挨拶を交わすたびに紫は○○の目を覆う、出所不明のマジックアイテムについて触れる。
「変わったことはあった?」
○○は縁側に座布団を置き紫に手招きをする。いつの間にかお茶まで準備している。
「ええ、外の世界から二柱の神が引っ越してきましたわ。それから……」
「霊……の類かな」
「ええ、そうですわ。人では無くなったとはいえ退魔の者としての勘は鈍っていないようですわ」
「あはは、ありがとう。この勘があるから紫が来たらすぐに分かるよ」
「それは嬉しいことです」
「なあ、紫。俺さ、紫に出逢えて本当に良かったよ。目覚めて紫に逢う……」
「目覚めて紫に逢う。それだけでも俺は幸せだよ」
紫は○○の声色を真似て続きを言う。
「似てないよ」
コロコロと人懐っこい笑みを浮かべる○○
――今の紫をこの目で見たい
静寂が二人を包む。
「貴方の瞳が見たいですわ」
「俺さ……」
紫は○○の頬に両手をあて、○○の膝の上に移り対面で穏やかな笑みを浮かべる。
○○は湯気を立てる湯飲みを両手で持ち、自分の頬にある紫の手の上に自身の手を重ねる。
「怖いんだよ。この目がさ……」
呟くような独白。紫には筒抜けだろう。
「暖かい手……そう、私は貴方の瞳が忘れられませんわ。その瞳に何を写すのかしら」
「この瞳は……なんだろうね。俺にはわからないや。それより他人行儀な言葉遣いをやめてくれよ」
どの様な表情をし、どの様な髪型にしているか、紫に対する想いを馳せながら勤めて明るい声で言う○○。
「いいえ、そういう……」
左手は紫の腰にまわり、紫を抱き寄せる。右手は紫の頭を撫でる。
初めは啄ばむようなキス。唇を離せば見つめ合う。
今度は紫から。
お互いの唇を荒々しく貪り合い、唇を合わせる時間は重ねるごとに増える。
時間にして10分ほど。二人は再会を祝うように口付けを繰り返す。
「起きるのが遅れてごめんね。眠っている間、ずっと紫の夢を見ていたよ」
優しく、呟くように。
また二人の唇が重なり合う。
○○の両腕は紫を優しく包み込むように、慈しむように。
そして○○からキスをする。
「どんな夢かしら」
紫の機嫌が戻って○○は笑みを浮かべる
「俺と紫の子供が出来る夢。紫に似て可愛い娘だったよ。だから中々起きれなかったんだよ」
「そう……(こ、子供!欲しいけど!欲しいけど!!○○に似て優しい子になってくれれば(ry)」
言葉少なめに、子供の姿を幻視したのか紫は笑みを浮かべる。
「そろそろ風が冷えてきたから中に行こうか。外野が三人ほどいるようだしね」
繋がれた手は、恋人つなぎ。
「そうしましょう、○○(ふ、二人っきり……素数を数えて落ち着きましょう。1、3、5、7……)」
「やっと呼んでくれたね、○○って」
紫に笑顔を向ける。
当の○○は真っ赤な顔をした紫に○○は気付かない。
感じたのは体温が少し上がったかな、くらいのものだろう。
○○と繋いだ手に少し力が入った。
○○の家の傍の木から覗くのはブン屋の天狗に九尾の狐さんにその式。
式の式は目隠しされているのは言うまでも無い。
じゃあ、と呟く○○。隣に座った紫の手を引き家の中へ。
当然のように○○の膝の上に座る紫。
「紫、結婚してくれない?」
「ええ。○○とずっと一緒にいたいもの(……けけけけけけけけっこん?今結婚って言ったわよね)」
「ありがとう、紫。愛してる」
「わ、わ、私もよ。……て……」
「ん?なんだって?」
「あ、あ、愛してるわって言ったのよ、○○(言っちゃった……とうとう言っちゃったわ……)」
「ありがとう、紫。これ、受け取ってくれないかな」
笑みを浮かべる○○
お互いに顔を赤くしながらも、差し出すシンプルなシルバーのエンゲージリング。
婚約指輪を眺める紫を後ろから優しく抱き締める○○
「俺たちの境界は無くなったね」
「ええ、そうね」
そうして二人は再び唇を重ねる。
翌日の文文。の一面を飾ったのは『八雲紫氏婚約!』
八雲紫を知る幻想郷中の人妖が博麗神社に集まり二人の為だけに酒宴を開いたのはまた別の話。
fin
───────────────────────────────────────────────────────────
うpろだ1248
マヨヒガの邸宅から少し離れた森の中にある空き地、
そこに一人の青年がたっていた。
「……」
精神を集中させ、手から勢いよく弾幕を放つ。
ドガァ!!
弾幕は標的用に用意した岩を打ち抜いた。
間髪いれずにスペルカードを発動させる。
爆符「爆砕○穴」!
お気に入りのアニメキャラの技を意識して自作した自慢のスペルカードである。
岩は粉々に砕け散った。
「ちょっと休憩するか」
倒木に腰掛ける。
「ここに来てもう3ヶ月くらいか」
青年○○は趣味の山歩き中に幻想郷に迷い込んだ。
そして、妖怪に襲われている所を八雲紫に助けられたのだ。
現在は居候させてもらい、恩返しのために家事手伝いなどをしている。
「見事なものね~」
声がした方に顔を向ける。
そこにいたのは秘かに思いを寄せているあのお方……。
「紫さん……」
「ちょっとお話しない?」
紫は○○の隣に腰掛ける。
「あなたすごいわね~。この短期間でスペルカードまで使えるようになっちゃうなんて……
あの弾幕も勢いがあって素晴らしいわ」
紫さんは笑顔で俺に話しかけてくる。
「ありがとうございます」
○○は魔術の修行をしている。暇さえあればマヨヒガにある魔法関連の書籍を読み漁ったり、
この空き地で弾幕を放ったりしている。
「なんでそこまでがんばるの?」
「そ、それは……」
「あ、もしかして好きな子にアピールするため?」
紫さんは悪戯っぽい笑みを浮かべて問いかけてくる。
俺は図星を衝かれて心臓が跳ね上がった。
こうなったら正直に答えよう。
この方に嘘はつきたくない。
「紫さん……俺の話を聞いていただけませんか?」
しっかりと紫さんの目を見つめて、真剣な顔で話しかける。
「ええ……いいわよ」
紫さんも真面目な顔つきになり俺の顔を見つめる。
「あの方はとても力の強い妖怪です。でも俺はなにもないちっぽけな人間です。
だから、あの方は俺なんか見てくれないと思います。だから強くなりたいんです
強くなってあの方を振り向かせたいんです。そして、あの方のお傍に行きたいんです。
一緒にもっと近くでお喋りしたりお酒を飲みたい……。あの方を守りたい……。
一緒に戦いたい……」
3ヶ月間胸に秘めてきた思いを口に出す。
「……」
紫さんは表情一つ変えずに俺を見つめている。
はっきりと言うしかない!
「紫さんあなたのことが好きです!!妖怪から助けてもらったあの日からずっと……」
言い切ると俺は下を向いた。
こんな独りよがりな気持ちに答えてくれる筈がないな……。
でも伝えられただけで満ぞk
ふわっ……
突如、鼻に甘い香りを感じる。
俺は紫さんに抱きしめられていた。
「ゆ……紫さん!?」
心臓の鼓動が否応なしに高まってしまう。
ぎゅー
「紫さん苦しい!ギブギブ!!」
「あらあら、ごめんなさい」
熱い抱擁から開放された俺は紫さんの顔を見つめた。
紫さんの顔はほんのり赤かった。
「うれしくてつい……」
一瞬耳を疑った。
「そ……それってもしかしt」
紫さんは俺の唇に指先をあてて言葉を制した。
「あなたと一緒にお出かけしたり、お喋りしたり、晩酌したりするのがすごく楽しいのよ。
初めは只の人間としか思ってなかった。だけど、あなたと一緒にすごしている内に
あなたのことをもっと知りたい、近くに感じたいと思うようになっていたわ。
○○は人間、私は妖怪……相容れない存在……だけど自分の気持ちに嘘はつけないわ」
俺は嬉しすぎてどうにかなりそうだった。
「紫さん……」
「○○……大好きよ」
俺たちはお互いに口付けを交わし愛を誓った。
───────────────────────────────────────────────────────────
うpろだ1332
「戸締りよし、火も消したし大丈夫だろう」
一通り家の中を見回り鍵の確認をする。
マヨヒガに迷い込んで暫く経つが、この幻想郷にも慣れてきた。
そして今も八雲一家にお世話になっている。迷惑ではないかと思ったりもしたが、むしろ新しい家族が増えてうれしいと言われた。
何の力も持たない俺が出来ることといえば簡単な手伝い、戸締りの確認だ。
意外にもこの行為が藍さんに喜ばれた。いつも戸締り、火の始末は彼女が行っていたそうで俺が代わりにすることで早めに眠れるそうだ。
まぁ、そこまで苦労させてる主の方に問題があると思うのだが……
「くぁ……ねむ……」
あくびをかみ殺し布団に入って明かりを消す。
今日も一日おつかれさまでした。明日も良い日でありますように…………。
どたどたどたどたっ
……誰だ、夜中に廊下をドタバタ走るバカものは?
チルノ……がここに居る訳ないしな。
ぼんやりとしたまま考えを巡らせていると元凶が襖を叩きつけるように開けて俺に飛び掛ってきた。
「ぐっいぶに~~~~んぐ!!」
アベシッ!?
こ、こんなことするのは一人しかいないっ!
慌てて明かりを点けるとはたしてその元凶、八雲紫がそこにいた。
「い、いきなり何すんだっ! アンタはっ!!」
「む~、みんな眠っちゃってつまらないのよ~」
「橙は良い子ですし、藍さんは疲れているんだ。ゆっくり眠らせてあげましょうよ。
ってゆうか、つまらないからって人にフラングボディプレスするんですかあなたは」
「つ~ま~ら~な~い~」
聞いちゃいねぇ……。
「はいはい、わかりましたよ。付き合えばいいんでしょ、付き合えば」
「やったー○○話せるわー」
「じゃ、とりあえず何か飲むもの持ってきます」
「コップなんてまどろっこしいから一升瓶ごと持ってきなさい」
「いや、普通のお茶ですよ。こんな夜更けから酒盛りする気ありませんから」
「ぶ~。じゃあ戸棚の奥にある芋金つばとほうじ茶でお願い」
「わかりました」
台所に戻り、一旦消した火を起こしてお湯を沸かす。
そして戸棚を開けてお茶請けを探すと、たしかに金つばはあったが、藍さんの字で『とっておき。勝手に食べるな』と書かれていた。
……まぁ怒られるのは俺じゃないからいっか。
二人分金つばを切り分けて湯呑みにお茶を注いで部屋まで持っていく。
できれば幽々子さんのところに行ってくれればこのまま眠れるのになぁと淡い期待を胸に襖を開けた。
「紫さん、お茶がはいり……」
そこには俺の枕を抱きしめて涎を垂らして眠っているゆかりんがいた。
……まったくこの人は引っかき回すだけ引っかき回して勝手に終わらせるんだから困ったもんだ。
しかしそれでも許せるだけの何かを持っているんだよな、この人。
「う~ん、○○~」
「えっ、ちょっ!?」
俺は不意を突かれ枕の変わりに抱きしめられてしまった。
振りほどこうにも、がっちりと両手両足でホールドされて動けない。
こうなれば彼女自身を起こして解いてもらうしかない。
「ちょっと紫さん、起きてくださいっ……」
「ん~、いやぁ……」
「いやじゃなくて、って、えっ!?」
ごちゃごちゃとうるさい俺を黙らせるために紫さんは口づけをしてきた。
激しく、でも決して乱暴ではない舌使いにしだいに頭の中がボーッとしてきた。
俺が動きを止めたのがわかると口を離して、すりすりと匂いつけとするように胸に顔を埋めてまた眠ってしまった。
「はぁ……困った人だ……」
どうやら今日はこのまま眠るしかないようだ。
しかし、いい夢は見られそうだ。眠りに落ちる瞬間、彼女の寝言が聞こえたような気がした。
「ふふ、○○好きよ……」
───────────────────────────────────────────────────────────
うpろだ1428
「また寝ているのか?」
未だ雪の白さが残るマヨヒガの八雲家(仮)。
縁側に寝そべっていた俺の顔を覗き込んで、藍様がそう言った。
「冬眠の季節ですから」
「莫迦。もう小春日和を迎えているよ」
「そういえば暖かいですね、最近」
「だから雪も溶けてるだろう」
「暖かいから、眠くなります。おやすみなさい」
「起きろと言っているんだ」
頭を蹴られた。あまり怒らせても後が怖いので渋々起きることにする。上半身だけ。
「こんな真昼から寝ているのは、お前と紫様くらいだよ」
「紫様、本当に良く寝ますよね」
「その紫様のお世話をするのもお前の仕事だろ」
今度は背中を蹴られた。そういえば今日は、紫様の布団を取り換える日だった。
冬眠中は布団が無くても全然起きないらしいが、そこは気分の問題というやつで、
俺や藍様は定期的に紫様の布団を新しいもの(洗って干したもの)と取り換えている。
「あ、そうだ。服はどうしましょうか」
「お前がやってくれるの?」
「無理です」
「なら、やらなくていい。明日私がやっておく」
貴婦人の衣服を一つ一つ丁寧に脱がし、一糸纏わぬ姿にさせた後、
その体から発せられる香りに耐えながら、手拭いで光る汗を拭き取り……俺には無理。
とりあえず仕事をする為、寝ぼけ眼をごしごしと擦りつつだるい体を引きずって紫様の部屋へ向かう。
後ろで藍様の大きな溜息が聞こえた。
――――
紫様の部屋の前に立ち、外と内を隔てる障子をそっと開けると、我らがご主人の寝姿が拝見できた。
以前布団を取り換えた時と変わりなく、ゆっくりとお休みになっておられる。随分と美しい寝顔じゃないですか。
「失礼します、紫様……」
部屋に入らせていただき、音を立てない様に障子を閉める。
さて、あまり女性の寝室にいるのも失礼だし、手際良く準備をしないといけない。
まずは襖を開けて新しい布団を引っぱり出し、床に敷いて綺麗に整える。いい仕事してますね。
次に紫様を起こさない様に(と言ってもまず起きないが)、その御身体をおそるおそる抱き上げる。
「……よっ、と……相変わらず、軽い……」
誰も見てないから良いものの、お姫様抱っこで眠り姫を寝床から抱き上げるなんて、どこの王子様だと言いたくなる。
ぶっちゃけ、結構恥ずかしい。紫様の太腿が柔らかいとか考える余裕も無いくらいだ。
「紫様、本当に冬眠中の栄養、足りてるんですか……?」
あまりの軽さに尋ねてみるが、当然答えてくれるわけも無い。
幻想郷にその名を轟かす大妖怪だし、俺が心配する必要も無いのだろうけど。
「………………」
それにしても、無防備に寝てるこの人も凄い。寝てる間に誰かに狙われるとか考えないのだろうか。
俺も男だし、もしかしたら理性のタガが外れて、どうこうしてしまうかもしれない。紫様を支える手にぐっと力が入る。
「……いかん、いかん」
余計な事は考えないようにして、紫様を新しい寝床に降ろし、掛け布団を羽織らせる。
どんな葛藤が俺に生まれようと、俺にこの役回りを押し付けたのは他ならぬ紫様。
折角信頼して頂いているというのに、それを無碍にするような人間にはなりたくない。
早急に仕事に戻り、手早く使用済みの布団からシーツを剥ぎ取る。それを洗濯籠に入れた、その時。
「仕事熱心ね」
何かが、聞こえた。背後から。
この声……俺の耳がおかしくなっていなければ、俺のご主人のものだ。
冬の間一度たりと聞かなかった程度で、敬愛するご主人の声を忘れたりはしない。
しかし振り向いてみると、彼女は相変わらず目を閉じている。起きる気配も無い。もしかして寝言だろうか。
「嫌いじゃないわ」
突然、おめめをぱっちりと開ける紫様。起きてたよ、この人。
「おはようございます」
「ええ、おはよう」
とりあえず挨拶して場を繋ぐ。何故、この時期に起きているのだろうか。
普段は春、しかも半ばにならないと起きてこないというのに。
「……まだ、冬ですよ」
「そうみたいね。寒いもの」
肩まで布団に入り、ちょこんと顔だけ出して答える紫様。
「では、何故に」
「だって、独り言がうるさいんだもの」
「え……!?」
独り言がうるさい。俺がぶつくさ言っていた事で、紫様の眠りを妨げていたらしい。
本来なら今も熟睡している筈だった、という事を考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
俺の心を埋め尽くす罪悪感。
「というのは、冗談」
「……?」
「独り言なんて、全然聞いてないもの。今起きたところだし」
紫様、驚かさないで欲しいです。今まさに本気で土下座の準備をしていたところです。
「本当は、なんとなく起きちゃっただけなの。どうしてかは分からないけど」
「なんとなく、ですか……」
「眠りから覚める時にはよくある事よ。次の日の出来事が楽しみで、眠りが浅かったり」
小さい頃、遠足に行く前日は興奮して眠れなかったものだが、それのことだろうか。
「紫様も、何かを楽しみにしつつお眠りになられた?」
「うぅん……ああ、そういえば」
どうやら心当たりがあったらしい。
「贈り物」
「贈り、物?」
「貴方が、毎年くれるでしょう」
贈り物……あれだろうか。
俺は外の世界の風習を今でも多少なりと引きずっていて、
(外界で)何かしら行事がある時期には、毎年それに因んだ物を紫様達にプレゼントしている。
無論幻想郷の住人からすれば、奇異な行動にしか映らないだろうけど。
「でも、今年は無いみたいね」
紫様は、ちらっと周りを見回して、悲しげな顔をした。
藍様や橙と違い、紫様が冬眠の習慣をお持ちなのは周知の事実。
だから、クリスマスプレゼントやホワイトデーのお菓子といった冬に渡すようなものは、
春にお目覚めになる際に枕元にまとめて置いておくのが、ここ数年のお決まりとなっている。
「いえ、ありますよ。毎年、春になってからここに置かせていただくので」
「あ、やっぱりあるのね」
ころっと反転して、嬉しそうな表情の紫様。毎回プレゼントの中身は大したものではないが、
あれを楽しみにしてくれていたと言うのなら、俺も無い銭を叩いた甲斐があったと言うものだ。
「だけど……今年は更に、特別良い贈り物が待っていてくれたわ」
「……?」
紫様は、プレゼントの中身を知らない筈だ。それに今年に関しては、俺は他に何も用意していない。
今すぐに渡せそうな物と言えば、向こうの世界から持ってきたデジタル時計か携帯電話くらいなのだが。
「申し訳ないのですが、特別良い物なんて……」
「もう、何言ってるの? ここにあるじゃない」
次の瞬間、腕を紫様に引っ張られ、体ごと彼女の布団の上に倒れてしまう。
粗相してごめんなさい。食べないで下さい。でも温かいし、柔らかい。
「長い眠りから覚めた時、そこに好きな人がいる。私にとって、こんなに嬉しい贈り物は他に無いもの」
――――
「やれやれ、遅いと思ったら……」
「あ、藍様。これは……」
「いい、何となく分かるから」
藍様が呆れたように俺達を見ている。一つの布団に二人で抱き合って寝ている俺達を。
「蹴飛ばしても起きない紫様を起こすなんて、お前も大したヤツだな」
紫様は本当に寝ているのだが、藍様は紫様が一度起きたと分かったらしい。
何をもって見分けたのかは分からないが、流石に付き合いが長いだけある。俺も見習わなくては。
「って、蹴飛ばしてたんですか?」
「お前がここに来る前は、よくやってた」
「可哀想な紫様……」
「あれ、私が悪役なのか?」
付き合ってられん、といった様子の藍様。まあ無理もない。
「起きた以上、春まで寝られても困るわ」
「それは俺も困ります。抱き枕にされてるんで、俺が餓死してしまう」
「だから、晩御飯までは寝てていいぞ」
「今すぐ紫様を起こす、って選択肢は?」
「……そんな幸せそうな顔を見て、蹴飛ばす気になるものか」
藍様はくくっと笑うと、逃げる様に何処かへ行ってしまった。
このいかにもな空気に耐えられなくなったのだろうか。
確かに藍様の言う通り、紫様は幸せそうだ。しかし、俺はまだ紫様に返事をしていない。
今だって、一方的に好きだと言われて、そのまま成り行きで一緒に寝ているだけだ。
それなら、言うしか無いだろう。ずっと恋い焦がれていた女性に、好きです、って。
───────────────────────────────────────────────────────────
最終更新:2010年05月22日 10:28