リグル2
4スレ目 >>414-415
もう終わってるけど七夕ネタ便乗。
満天の曇り空、台無しな七夕の夜。
星製の大河はその姿を隠してしまっている。
そんな空の下、美しい小川の畔で俺はリグルの肩を抱きながら空を見上げていた。
リグルのとっておきの場所というだけに周りに人影はない、そのことに俺は少なからず感謝した。
他に人がいたとしたら恥ずかしがってこんなことをさせてくれなかっただろう。
考えながらも、腕の中の彼女を全神経を使って感じる。
密着した身体から伝わる温もりが少しこそばゆかった。
もしこの空が晴れていても、恐らく見向きもせずにこうしていただろう。
素晴らしく幸せな一時だった。
浮かれすぎた俺は、彦星よ羨ましかろうと一人でニヤニヤしてみたりする。
「ねぇ○○、なに笑ってるの?」
ふと、腕の中からリグルが囁く。
しまった、俺っていま凄く怪しいのではないだろうか?
「んや、綺麗だなって」
「曇ってるよ?」
「オマエが」
「――っ!」
誤魔化しながら言ってやると、リグルの顔が暗い中でもはっきり解るほどに赤く染まる。
こういう彼女の反応が堪らなく可愛くて、愛しい。
なんとなく肩を抱く手の力をを少し強めると、おずおずと身を預けてきた。
「……可愛い」
「急にへんなこと言わないでよ」
顔を赤らめたままコテンと、小さな頭を肩に預けてくる。
そんな彼女の小さな頭をそっと撫でながら笑った。
曇り空の七夕だったが良い夜だと、素直にそう思えた。
「残念だね」
「うん?」
「空、せっかく見に来たのにさ」
言いながら、眉を八の字にしてつまらなそうな顔をする。
此処に来たのは天の川を見るためだった。
俺としてはリグルを連れ出す口実に過ぎなかったのだが、彼女は楽しみにしていたようだ。
暫くの間、息苦しくない静かな沈黙が俺達を包んだ。
不意に、彼女の温もりがするりと腕の中から抜け落ちた。
不思議な喪失感に襲われて、焦りながらリグルを見上げた。
そこには素敵無敵な可愛い彼女の満面の笑みが浮かんでいた。
「○○、いいこと思いついたよ!」
「――はい?」
「天の川、見よう」
「曇ってるぞ」
突然の申し出におもわずきょとんとしてしまう。
そんな俺をクスクスと笑いながら、リグルはマントを翻して指をパチンと鳴らした。
間をおいて、少しずつ小さな羽音が辺りを包んでいく。
徐々に近づいてくるその音は小川の上流からゆっくりと進んでくるようだった。
「なんだ?」
「いいから、見てて」
クスクスと可愛く笑うリグルの顔を見てどうでも良くなる。
彼女がいいことだと言ったのだ、それはとても素晴らしいことに違いない。
故に、おれは何も言わずにその素敵なことを待つことにした。
「――来たよ」
それは小川を滑るようにやってきた。
天の川に勝るとも劣らない、膨大な数の光の流れ。
美しい川の奔流に、俺の目は釘付けになった。
「ほた……る?」
「そう!産卵期で上流に集まってたのを呼んだのよ」
儚い光を発しながらふわふわと漂う蛍の群れ。
それを映した小川は擬似的な天の川となった。
それは、綺麗という言葉だけでは足りない。尊いものに思えた。
「綺麗でしょ、この子達」
「あぁ……凄く綺麗だ」
「えへへ、ありがと」
眷属達への賞賛をまるで自分のことのように喜んで、リグルは笑みを深くした。
そんな表情にドキリとする。鼓動が早まって心臓が破れてしまいそうだった。
どうしてこの子は、こんなにも愛おしいのだろうか。
永遠に解けそうもない疑問が浮かぶ、感覚的に答えは得ていた。
事実として、俺はリグルを愛していた。
「ねぇ、○○は蟲達のこと好きかな」
「好きだ」
突然の問いに即答してやると、彼女は嬉しそうに“そっか”と呟いた。
「前は嫌いじゃなかった?」
「お前の仲間だから好きになった」
「わ、恥ずかしいこと言うね」
困ったように頬をかきながら顔を赤らめている。
お返しに、こちらからも問いかけることにした。
「リグルは人間好きか?」
「好きだよ」
――即答。
蟲達を気まぐれに殺してしまう人間を好きだと言ってくれる彼女に少しだけ驚いた。
「蟲の天敵の一つじゃないか?……まさか味が好きとかいうなよ」
「うん、でもね。○○が人間だから好きになった。それと、私は砂糖水の方が好きだな」
「……俺よりも?」
「ばか、貴方が好きだから好きになったのよ」
俺が好きだから人を襲わなくなった。そう解釈するのは自意識過剰かもしれない。
出会ったきっかけが砂糖水だったしなぁ……。
確かめる為に、相変わらず顔を真っ赤にして俯くリグルを優しく抱く。
「俺もお前が好きだ」
どちらともなく顔を近づけて、唇を合わせる。
永遠に離したくない、そう思いながらも酸素を求めて唇を離す。
相変わらず、リグルは恥ずかしそうに笑っていた。
何度やっても、彼女の方は慣れないようだ。
そう思いながらも、自分の顔が熱くなっているのに気がついた。
この気持ちに慣れというものは存在しないらしい。
「――あ、晴れた」
声を上げて空を仰ぐリグルに見習って目線を上へ向けた。
広がるのは地上の天の川に劣らぬ勝らぬ星の川。
呆けながら、二つの天の川を眺めていられる自分は他者より二倍得しているなと考えた。
加えて隣にははしゃぎながら俺の名前を呼ぶ愛しい存在。
これは、俺に幸せの量で勝る奴はいないなと、恥ずかしいことを思う。
もう一度、彼女をしっかりと抱きしめてキスをした。
永遠の愛を誓って。
6スレ目>>760-761
どのくらいこうしているのだろうか。
俺は今、山道を歩いている。
念願だった幻想郷への到達は、思ったより簡単だった。……ってか、散歩してたら目の前にスキマが。
ゆかりんありがとう、と心中で呟きながら――――それでも延々と歩き続けることに辟易しながら、道なき道を歩く。
当たり前のことだが、ここは虫が多い……。
ぷぅん、と耳障りな羽音を立てて近寄ってきた蚊を首筋に叩きつけながら、なおも里を目指そうと一歩踏み出して……
「ちょっとアンタ! 今私の同族殺したでしょ!?」
と、いきなり飛び蹴りを食らった。
「痛っ――たぁぁぁぁ!? ……ん、りぐるん? うわ、本物だ」
目の前にいるマントを羽織り、どことなく少年のような溌剌とした印象を受けるその少女は、正しく「闇に蠢く光の蟲」こと、
リグル・ナイトバグその人であった。
「ん? なんで私の――って、幻想郷縁起でも読んだのね? ……それならなおさら、私の目の前で虫を殺すなんていい度胸じゃないの」
殺意のこもった視線で、こちらを見つめてくる。……なんだか、下手なことを言った瞬間、殺されて虫の餌にされそうな……。
「い、いや、待て待て。こちらにも言い分はあるぞ! ほら、あれだ! 刺されたら痒いじゃないか!」
あ、やべ。
「……へぇ、子孫を残すために、あの子たちには血が必要だってのに、あんたはそんなに身勝手なこと言うんだ~」
そう言いながらこっちににじり寄ってくるリグル。ここからは見えないけれど、側にいるらしき蚊たちに「今たっぷり飲ませてあげるからね~♪」と微笑みかけている。
「吸わせてあげる」じゃなくて「飲ませてあげる」と言ってるあたり、本気で拙い。
「あ、ああ、子孫のために俺の血液を提供するのは別にいいんだ、うん。さっきのは単に『痒いのが嫌だなー』って言っただけでな、まあ、その」
そう俺が口走ると、リグルは何かを思案するかのように小首をかしげた。
……あ、その仕草可愛い。
そして、何か思いついたような顔をしたと思ったら、「えい!」と体当たりをされた。
仰向けに転ぶ俺。……と、リグルは勢いそのままに、馬乗りになってのしかかってきた。
「なるほど、痒いのが嫌なだけなら、こうすればいいのよね」
リグルはそう言うと、馬乗りの体勢からさらに体を倒してきた。近づく顔と顔。
それがさらに近づき、やがて交差して……首筋に鈍痛。
「ぐっ……」
「ほあ、うおあふぁいお(こら、動かないの)」
そのままの体勢で数秒、やっと俺は、リグルが何をしているのか気付いた。
「……吸血?」
「うん」
ちゅーちゅーと、まるで花の蜜を吸うかのように、俺の血液を奪っていくリグル。
……美味しいのだろうか、喉をこくこくと鳴らしながら味わっている。
「……まだ、か?」
「おうひょっほ(もうちょっと)」
どうやら、死に至るほどの量を奪われることはなさそうだった。
ひりひりした痛みと共に、リグルの吐息が首筋に感じられて、何だか背筋がゾクゾクする。
……やがて、最後にぺろりと傷口を舐めた後、リグルは口を離した。
「ごちそうさまでした♪」
そう朗らかに言うと、身軽な動きで俺から飛びのいた。
やっと体を開放された俺も、よっこいしょ、と難儀そうに立ち上がるが、貧血になるほど血液は奪われていないようだった。
「……お粗末さまでした」
「うんうん、ありがとう、助かったよ。 これでこの子達も助かりそう」
「後で分けてあげるからね~♪」と中空を見上げてリグルは言う。
「あ、そうだ、お礼に里までの道、教えてあげるね」
と、俺の手を引いて歩いていく。
その申し出は、素直にありがたく思う。リグルに出会った以上、ここは間違いなく幻想郷であるわけで、そうなると、道中で人食いの妖怪に遭遇する可能性もあるということだ。
目の前の小さな虫姫さまにエスコートされ、やがて俺は里の外れにたどり着くことが出来た。
「ありがとう、リグル。 助かったよ」
「いいのよ、さっきも言ったでしょ? これはお礼だって」
あれっぽっちの血液で安全に里までたどり着けるのなら、安いものだった。
だからだろうか、こんなことを口走っていた。
「……俺に出来ることなら、何でも協力するよ」
「え、いいの……?」
今度は唇に人差し指をあてるポーズで考え込むリグル。
言わずもがな、可愛い。
「正直に言うとね、もっと欲しかったところなのよ」
……一思いに吸い尽くされなかったのは、矮躯ゆえに貯蔵できる量が限られているからか。
「だから、さ……溜まったら、また私の所に来て♪」
そう、妖しく微笑むと、森の中へと飛び去っていってしまった。
残された俺は、しばらく里の方へと歩き出しもせず、呆然と森の方へ目を向けていた。
首筋には、心地よい痺れを残す、傷痕がある――――。
うpろだ343
「・・・・・・来たな」
この感じはあいつしかいない。
俺は近くに落ちていた手頃な石を持ち、気配を探る。
体中で警報が鳴り響く。これ以上接近されるとマズイ。
全神経を集中し気配のする方向距離角度を瞬時に計算し、自称強肩の豪腕が手に持っている得物を亜音速で放つ。
「そこっ!!!」
「いたっ!!!~~~~~~~何するんだよぅ」
完璧だ。
見事なストレートで放たれた小石は標的の頭部を撃ち抜いたようだった。
ぼすんと音を立て木から落ちてきたのは、触覚に黒マントのゴk
「違う!!」
「どうでもいいよ。どうせ同じ蟲だろ」
「どうでもよくないっ!!」
頬を膨らませ必死で訂正を求めてくるのは小粒な妖怪、リグル・ナイトバグだ。
「で、どうした? 朝蜘蛛なら SA・THU・GA・I したが」
「この外道!! 朝蜘蛛は縁起がいいんだぞ!えらいんだぞ!」
「へぇ」
「無関心!?」
全く朝から騒がしい奴。まぁ朝っぱらから森に出かける俺も変人か。
現在時刻午前⑨時過ぎ。
俺は寝起きに台所でカサカサと粘着性のある固有結界を張っていた八本足の生命体を抹殺した後、別段する事も無く暇だったので散歩をしていたところ、蟲の王リグルに見つかり現在に至った訳で。
しかも最近こういった妖怪に好かれていて困る。八目鰻屋の夜雀や宵闇の妖怪、氷精なんかもちょっかいを出してくる。何だろう・・・小物に好かれる程度の能力か。
「今日こそ君を更生させるよ!」
俺が一体何をした?
「五月蝿いな・・・前から言ってるじゃないか、それは無理だって」
「そんなことないよ。ほら、人間は慣れる生き物って言うし」
そう言いリグルは周りに虫を呼び始める。
ぶーんと蜂、ぱたぱたと蝶、がさがさと蜘蛛、もぞもぞと――――
「駆除『燻蒸式殺虫結界』」
俺はスペルを発動させる。周りに白い煙がたち込み、虫達が見る見るうちに元気を無くしていく。
「うわぁあ!!やめて~」
じゃあやるなよ。
スペルを中断させる。ちなみにこのスペルは人体への影響は限りなく零の安心設計。
何故かリグルに追われる回数が多いので独自に開発したこのスペルカードは大成功のようだ。
「なんで・・・」
蟲達が逃げ去った後、ボソッとリグルが何か呟いた。
「ん?」
「なんでそうやって、いつも私達を苛めるの?」
リグルが拳を握り締め、顔を俯かせる。
よく見ると目には大粒のなm
「単に虫嫌い」
「言い切った!!」
まだツッ込む余裕があるらしいな。
「それに・・・いつも○○は私に近づこうともしないし」
「単に蟲嫌い。 近づくと鳥肌が立つ。頭痛吐き気発熱寒気がおこる」
「増えた!!それに風邪じゃん」
「要約すると生理的に無理。辛うじて、人間の形してるお前だと半径2メートル外までは許容範囲だ」
「・・・・・・」
なんだ黙りこくって。 流石に言い過ぎたか?
動かなくなったリグルが一瞬心配になり○○はぴったり2メートル離れた位置から顔を覗き込もうとした。
が、
「うわぁああああああ!!○○の馬鹿ぁぁあああああ!!!!!!」
「うぉあ!!危ねぇ」
突然大粒の涙と大量の弾幕を撒き散らして、リグルは視界から消えた。
「・・・やっちまったな」
○○は弾幕によって荒地となった空間に取り残されてしまった。
* * *
「・・・何よ・・・何なのよ・・・」
○○の場所から結構離れた泉、ここは非常に澄んだ泉でリグルのお気に入りの場所だ。
そこでリグルは水面に移る自分の顔を眺めていた。
「何もあそこまでハッキリ言わなくてもいいじゃん・・・」
私は、善意で○○に虫を好きになって欲しくて頑張っているのに。
私は、虫だけど、妖怪だけど、○○と仲良くなりたいだけなのに・・・。
私は、少しでもいいから・・・○○と・・・・・・・・・
「・・・何考えてんだろ、私」
嫌いなものを押し付けたって、逆に嫌われちゃう。
私が馬鹿だったんだ。かえってキッパリ言ってくれて良かったかもしれない。
「あーあ。所詮片想いかぁ・・・」
とさっと仰向けに寝転がる。木漏れ日が差し込んで少しだけ気持ちよかった。
「お、いたいた」
突然、差し込んでいた木漏れ日が何者かによって遮られる。
逆光でよく解らないが、相手は箒に乗って飛んでいる。箒で飛びまわる白黒っぽい人間は一人しか思い当たらない。
「なんの用?」
「悪さをした妖怪を懲らしめに来たんだぜ」
箒から降り立った少女は、霧雨魔理沙だったのだが・・・
「悪さなんてしてなぶぷぅwww」
気怠く起き上がったリグルの視界に入ったのは、鼻先がピエロのように赤く腫れた普通の魔法使いの姿だった。
「・・・やっぱりお前が犯人だな」
魔理沙の声には異常な程の殺気が篭っている。
「ちょっ、私は何もやって無いよ!?」
「嘘つけ!!お前が私の家に蜂を嗾けたんだ!!そうだ、そうに違いない!!!」
なんという狭視野。同朋の仕業=私かこの女は。これは
チルノ並だ!
目の前の少女に色んな意味で危機感を感じつつ、リグルは後退る。
「恋する乙女を無残な姿に・・・・・・こんな顔じゃあ霊夢のとこに遊びに行けないじゃないか。
この罪は重いぜ!」
魔理沙は左手に魔力を、右手に構えた八卦炉にエネルギーを充填する。
膨大な魔力が空間を支配している中、リグルは思った。
今日は本当に、ツいてないなぁ・・・
* * *
遠くから轟音がする。どうやら弾幕勝負でもしているらしい。
上空へと視線をやると、大量の星が木々を蹂躙しているのが見えた。
だが見えるのは星だけ。その星の相手の弾幕は見えない。
「こりゃあ一方的だな」
恐らく星の方が相当な強さなのだろう。自分のいる場所まで衝撃が伝わってくる。
・・・・・・・・・。
気が付けば自分はその場に来ていた。何となく気になっただけ。
周辺の木々は薙ぎ倒され地面は焼け跡が幾つもあり、星の弾幕の強さを物語っていた。
そして○○は、黒白のエプロンドレスの少女と、あの蟲っ娘を見つけた。
あれは・・・確か
霧雨 魔理沙だったか。里で売っていた本に英雄として載っていた気がする。分かり易い格好だな。
それと・・・ボロボロじゃんあいつ。圧倒的にも程があるぞ。
リグルは相当痛めつけられたらしい。飛ぶ力も無いのか、フラフラと宙を飛んでいる。対する魔理沙はというと傷一つ無く、何やら喚きながら闘っているようだ。
英雄の妖怪退治ねぇ・・・。
そんな光景を見ていたら、何故か腹が立ってきた。
・・・・・・・・・・・・はぁ、俺も可笑しくなったか?
弾幕も張れない、魔法も使えない、身体能力は普通の人間○○は、戦闘によって開けた空間に踏み込んだ。
* * *
「あぐっ!!」
痛い・・・。
背中から木に叩きつけられ、全体に鈍痛が響きわたる。
「・・・どうした?
いつもの元気が無いな。もうギブアップなのか?」
魔理沙は木にもたれるリグルの正面に立つ。戦闘中に呼び出した使い魔は消えているが右手にはまだ八卦炉が握られている。
「・・・・・・」
なんだか元気が出ない。理不尽な理由で攻撃してきた魔理沙に対し怒りも沸かない。
先程のが余程精神に来ている。
「答えないならギブアップと取るぜ。じゃあ謝るんだ、ごめんなさいってな」
魔理沙が何を言っているのか解らない。聞いてないから当然か。
戦闘中もずっとだ。忘れようとしているのに頭からさっきの事が離れない。
好きな人に振られ、勝負にも負けるなんて最悪・・・・・・
そんな事を考えていると突然、
「おい、何か答えたらどうだ?」
「そうだぞこの野郎!!」
第三者の声が割り込んできた。
その声は朝自分を拒絶した声、ここに居るはずの無い声だった。
「やっと見つけた!! 今日と言う今日はもう許さねぇ!!!」
憤怒の形相でずんずんと距離を縮め、突然の第三者の介入に驚きっぱなしの魔理沙を通り過ぎ私の目の前にまで来た。
「なんで・・・?」
なんでここに来たの・・・私が嫌いな筈じゃない。それに言動が意味不明だ。
○○は自身の限界だと言っていた2メートルを過ぎ、木にもたれるリグルの眼前まで到達した。
するとリグルにだけ見えるよう顔をグイッと近づけ、一転して真面目な表情になる。
その表情にドキッとしたがよく見ると額には冷や汗が、露出している肌は鳥肌が立っている。
あ、やっぱり無理してるんだ・・・。
今にも倒れそうな顔色の○○は、リグルだけに聞こえる小さな声で呟いた。
「合図したら地面を攻撃しろ」
「え?」
「え?じゃねぇ!!!」
一瞬で表情が元に戻り、怒号とさらに拳骨が飛んできた。
「きゃあ!!」
「貴様散々人の家を荒らしときやがって・・・罪の意識ってのが無いのか!?
それに今度はこんな美少zぶぷぅwwwww」
さっとリグルと距離を取り魔理沙に向き直った○○は盛大に噴いた。
「・・・初見の人を笑うなんて酷いぜ」
「あ、すみませんw 確か、魔理沙さんでしたよね? 本で見ました。
兎に角、こんな可愛らしい英雄さんを見るも無残な姿に!! これは重罪だ!!」
「そ、そうだな」
魔理沙は突如現れた○○の雰囲気に圧倒されていた。現にちょっと引き気味だ。
「ではこれより、霧雨 魔理沙さんによる報復の時間とさせて頂きます」
「いや、仕返しなら十分したつもりで――――」
「生温い!!いいですか魔理沙さん、こいつのやった事は重罪です。数々の蟲を使役し私を狂気へと誘い、あまつさえ幻想の乙女達を襲撃するなんてこれは死罪だ!!そう、蟲を操るなんて能力あってはいけないんですよ。こんな凶悪な能力が存在するなんて私には考えられません!!この妖怪の手に掛れば貴女の家のあらゆる所から蟲を湧き出させカオスフィールドへ・・・嗚呼なんて恐ろしいぃぃぃ!!たかが妖怪されど妖怪。蟲達が反逆を起こす前に根源から断つのが最善策でしょう。それと話は逸れますが貴女強いんですねぇ。いやぁ惚れ惚れしましたよ。妖怪相手に一発も被弾せずに圧勝なんて流石です!できれば今度ゆっくりじっくり英雄伝でも聞きたいくらいだぁぁぁぁぁっ、それ貰ったぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!」
「へ?」
八卦炉が手から消失していた。魔理沙は○○の絶技な舌技で完全に気を抜いてしまっていた。
「さらにぃぃぃっ」
構え、照準、角度OK。システムオールグリーン。
「ん~~~~っファイア!!!!!」
振り抜かれた自称豪腕から放たれた八卦炉は亜音速で遥か遠くへと、森の何処へと消えた。
「ちょっ!? お前何して――――」
「今だ!!」
○○から合図が出た。
「え、うん!!」
リグルの体力は○○が稼いだ時間で僅かながら回復していた。
残った力を総動員して地面に弾幕を放つ。
「うわっ!?」
先の戦闘で剥き出しとなった地面から砂塵が巻き上げられ三人の視界を覆った。
「この・・・お前!!私の八卦炉何処にやっゲホッゲホ」
「知るか馬ぁ鹿!!この黒の悪魔!主婦の敵! そら、さっさと逃げる」
「きゃっ、うわわわわわわわ!!!」
私の腕が○○に引っ張られ、軽く背負われてしまった。
うわぁ、背中広い・・・。
夢にまで見たこの感覚、思い描いていたシチュエーションとはかけ離れていたが蟲の王様の薄い胸は高鳴っていた。
そして○○の顔は土色に変わり今にも死にそうだが、魔理沙の喚き声が聞こえない場所まで蟲の王様を運びきった。
「終点だ」
「あ・・・ありがと」
人里近くまでやって来た所で、○○はリグルを降ろした。
もう少し○○の背中に居たかったが、そうすれば彼は倒れてしまうだろう。今だって相当無理をしているはずだ。
「ふぅ・・・死ぬかと思った」
リグルを降ろした事で○○の顔色は少し良くなった。
寂しい反面、ほっとする。
「ねぇ」
「ん?」
私は背中で揺られている間、ずっと気になっていた事を聞く。
「どうして、私を助けたの? さっき蟲嫌いだって言ってたのに・・・」
「・・・お前が苛められてんの見たら、なんかムシャクシャした」
それって・・・
「勘違いするなよ。苛められてんのがお前だろうと誰であろうと助けるのが『筋』ってやつだ。
俺はその『筋』を通しただけだからな」
「私のこと、嫌いじゃない?」
「・・・・・・・・・人の形してるお前なら許容範囲。そう言ったろ」
間が空いたが、彼はそう答えてくれた。
「だが蟲は嫌いだ。絶対無理。お前なんか焼殺か氷殺されてしまえ」
「○○顔赤くなってるよ」
「は、走ったからだ!当然だろ!」
何時ものぶっきらぼうな返事ではなく、どこか歯切れが悪くなった○○の返事。
普段ツンケンなくせに受けだと弱いのか。意外意外。
私はそんな○○の一面を垣間見て、さらに彼への想いを強くした。
「おい、行くぞ」
急に○○は里へと歩き出した。
「え? 何処行くの?」
「さっき助けてやったろ。お礼に昼飯おごれ」
「ちょっ、今月ピンチなんだけど!」
「じゃあ体で払え」
「えっ・・・ま、○○がそう言うなら・・・・・・」
「やっぱ無し。蟲でまな板なんてこっちから願い下げだ」
「ひどっ!!それにまな板って、私だってちょっとはあるんだから!!」
「こっち寄んな蟲野郎!!」
「男でもないー!!」
人里へと続く道、何時もの○○とのやり取りの中、リグルは思った。
例え時間が掛っても、絶対貴方を蟲好きにしてあげるからね!!
おまけ( in 里の某定食屋)
リ「そういえば○○が助けてくれた時の芝居って何?」
○「ん、あれは俺の固有結界だ」
リ「固有結界?」
○「そう。我がソウルブラザーであり心の師である御方と比べれば、威力は足元にも及ばないがな。
そもそもこの技はある領域に達していないと発動すら困難なもので――――――――
~以後5時間延々と続きます~
・・・・・・・・・と言うわけだ」
リ「○○、もうお店閉まっちゃったよ」
うpろだ419・420
俺は、〇〇。とある村の一角で、科学者をやってる。
科学者と言えども大した発明品を作り出せるでもない、ただの修理屋として働いてる程度だ。
「最近は、ちょっとゴキ〇リが増えてきて困ってるのよぉ」
と言う話を小耳に聞いたので、とある自作の研究品を試すことにした。
その名も『ホイホイ四号』。
作り方は簡単、大きな箱の中央にエサを置いて、その周りが接着剤となってるモノだ。
しかし一号や二号とは違い、箱の大きさは大の大人が一人入れるほどに改良してある。
「それを家の裏に置いたらあら驚き、村中にいる大量のゴキ〇リが入ってると言う制法よ」
我ながら失敗続きが続いたので、これで終止符を打てると思いウキウキしてる。
はてさて、結果はどうなるのかな?
夜の十時、自分の成果を楽しみに『ホイホイ四号』のところに向かった。
結果から言えば、大失敗だった。
「ぼっ、僕は――Gなんかじゃない!!」
ええと……少年? 少女? どちらとも言える小柄な子どもが罠に掛かってるだけだった。
これで成功してたらこの子が凄いことになってたし、失敗でよかった。
「えぇと、これは人間のご飯じゃないから食べちゃいけないぞ。
下手したら腹壊すぞ?」
「なっ、なめないで。僕は、こう見えても蛍の妖怪なんだから!!」
頭から足元まで、じっくり眺めてみる。
「……どっから、どう見ても……ん?」
頭から、二本ほど突起が出てることに気付いた。
「どう? これで僕が妖怪であることが証明され「ちょっと失礼」
くぃ、っと突起を掴んでみた。
「ひゃぁ!?」
掴みながら、上、下、左右に動かしてみる。はずれない、本物のようだ。
「ふむ、はずれないな。本物らしい」
「あ、ぅう……解ったでしょ? はっ、放してよぉ」
しかし、頭にアロン〇ルファでくっ付けた可能性も考慮して、根元に触れてみた。
「あぅ――!!!」
根元を見るかぎり、自然に生えてきたらしい。
その他、数回に及ぶ検査の後、その子は頭を振りながら、こちらに言ってきた。
「はぁ、はぁ……わ、解ったんなら、放してよぉ!!」
顔が真っ赤なのは何故だろ? まぁ、いいか。
「しかし、これは自分から生えたのか……ってことは」
「これで、僕が蛍の妖怪だってことが証明されたでしょ?」
そんな事を言う蛍の妖怪様は、接着剤のせいで手足がからまって動けないようだ。
「……最近の妖怪は柔らかいイメージが半分で出来ているんだな」
「こう見えても、僕は虫を操る能力があるんだよ。
馬鹿な事を言ってても……いいのかな?」
はったりじゃないのは雰囲気は分かるが、 疑問が一つだけ。
「なんで、最初っから呼ばなかったんだ?」
「……えっと、だって、」
理由を話そうにも、言いにくそうだ。
妖怪らしくこちらの言い分を聞かずに襲い掛かればいいのに、律儀な奴だ。
そんな中、この場に合わない、ぐぅと言う音がした。この子のお腹から。
「あ、」
恥ずかしそうに顔を俯かせる、蛍の妖怪様。
腕が接着剤のせいでまともに動かないから、お腹を押さえられなくて困っているらしい。
やべぇ、こんなにときめいてるのに相手が男だったらどうしよう?
「要するに、だ。お腹減ったから、里に下りてきて何かを食べようとしてた訳だな?」
「――うん」
「それで、くだらない理由で人間に捕まったことを仲間に知られなかったと?」
「――うん」
本当に素直な妖怪だこと。
「俺の名は〇〇って言うんだが、人の料理くらいならば馳走できるが……いるか?」
「えっ、いいんですか!?」
そんな期待に満ちた目で見られたら、こちらとしても困るのだが。
「食べる前に、名を名乗れ。こちらも既に教えたんだぞ」
その名前で、男か女かを特定できる――!!
「あぁ、ごめん言い忘れてた。
僕の名前はリグル・ナイトバグ。よろしくね、〇〇」
やべぇ、本当に男か女かわかんねぇぞ、その名前……。
「んで、リグル。ご飯は人間のものでも食べれるのか?」
「ここで僕を馬鹿にするかのごとく、エスカルゴ出したら君の事食べちゃうけど」
うは、実はこの料理は命がけですか?
「じゃあ、食べやすいようにスープにするが、いいか?」
「うん」
今更ながら思うが……こんなに可愛い子が女の子なはずがない、よな。
「へぇ、〇〇って料理上手いんだ。以外だなぁ」
「以外は余計だ」
とか言いつつ、美味しそうに食べてもらうのは実は嬉しい。
スープを食べ終わったのか、満足気にこちらを向き、
「料理上手いけど、ずっと一人暮らししてるの? 科学者とか言うのも、変な仕事だし」
と、リグルはなんでもないかのように無邪気に聞いてきたが、俺は内心……胸が潰れるかと思った。
「スマン、ちょっとコーヒー入れてくる」
「えっ、〇〇?」
席を立ち、台所に向かう。コーヒーを二人分注ぎながら、言うのを躊躇った。
なんか、変な風に捉えられるのもアレだが――結局、正直に答えることにした。
「三年前に婚約者はいたんだがな――急に現れたスズメバチの大群に刺されて死んでしまった。お腹の子供と共に」
コーヒーを注ぐ音だけが、辺りを支配していた。
「……〇〇」
「だからと言って、そのスズメバチのことを恨んでるわけでもないんだ」
そう、自然の出来事を許容できなくて、何が人間か。
俺が許せないのは――その出来事を何も出来ずに見つめるしかなかった、自分である。
「香水を着けなければとか、黒い服を着なければとか、刺されたときの対処法とか知ってたら、あいつは死ななかったかもしれない」
だからこれ以上後悔しないためにも、知識を取り入れ、二度と俺らのような人間が出ないようにしている。
――それが、俺が『科学者』と名乗る理由だ。
そんな事を言いつつ、コーヒーと砂糖とシロップを渡す。
「『科学者』なんて名乗る物好きは俺くらいだし、馬鹿っぽいが、結構楽しいぜ?」
お、ちょっとこのコーヒー苦すぎたかなぁ、なんてリグルに注意してやろうと(甘党と勝手に判断)、振り向いた。
リグルの顔を見て、違う言葉が出てきた。
「おぃ、なんで涙ポロポロ流してる、蛍妖怪」
「だ、だって、家にムカデが出てきた程度で僕をつけ狙う奴もいたのに、世の中にはこんな人もいるんだなぁって思ったら」
あー、蛍の妖怪ってだけで、こいつ苦労してるんだなーとコーヒーを飲みながら思った。
「それは勝手な奴だな、いつかこらしめねば」
「えっと、変な装置から出るビームで山を根こそぎ吹き飛ばしたりするよ?」
「――それは勝手な奴だな、いつかそれはダメだと遠まわしに言ってやらねば」
「意見が小さくなってるよ、〇〇……」
その後、他愛ない話をしていたが、壁に掛かった時計で時間を確認したら、既に夜の十二時だった。
「と、もうそろそろ寝る時間だな」
実はもう少し話していたいが、明日、仕事が溜まってるのだ。
「そ、そっか。そうだよね」
明らかに残念そうに、顔を曇らせるリグルを見て、自然と言葉が出てきた。
「まぁ、暇だったら家に遊びに来い、またスープ程度は奢ってやる」
ピンっ、と頭の突起が立った。あれで感情表現できるって、すげぇな。
「いいのっ!?」
「また、うちの『ホイホイ四号』に引っかかってもらっちゃ困るからな」
「えっ、あ……あはは」
顔を背けるリグル……まさか、そんなフラグを狙ってないよな?
で、俺とリグルはドアの前で向き合う形になった。
「お土産に、砂糖とシロップまで貰っちゃって、すみません」
ペコリとお辞儀。どうしても、仲間の虫たちにあげたいらしい。本当に律儀な奴だ。
「後、又、ご馳走になりに着ますので。その時は、お土産ももって行きます」
「あぁ、そうしろそうしろ」
んじゃま、明日のためにも寝ますかと、布団に向かおうとし、
「ねぇ、〇〇。外見てよ」
と、腕を引っ張られて、ちょうどドアの外側で二人で仰向けに寝転ぶ形になり――
――満点の星空と、無数の蛍たちが舞っていた。
「……」
その光景に、言葉に出来なかった。
「僕から、ご飯のお返しだよ」
綺麗だよね、とリグルは呟くが、そんな言葉程度で表していいものではない気がする。
なんか、俺が見てていいのかと思ってしまうほど、美しい――。
「このまま、寝るか」
「そうだね」
二人で笑いながら星空を見ながら、まどろみに溺れた。
「ヘックシュ」
自分のくしゃみのせいで、起きてしまった。
おぉ、寒いところで寝るのは流石にマヅかったな。
「……あれ?」
いつの間にか、俺にマントがかけられてた。
このマントは、リグルんだよな?
「くそぅ、やられたか!!」
俺の仕事を取りやがって、いつか絶対に俺の上着をお前に掛けてやるからな。
そんな事を考えてながら、時計を確認。やべ、もうすぐで開店時間だ!!
「仕事仕事……グスッ」
うぉ、鼻づまりが酷いな。
一応、風邪薬飲んでおこうか。
しかし、風邪が治る気配も見せなかった。
「ねぇ、〇〇? あんた、顔色マヅいけど大丈夫なのかい?」
「大丈夫ですよ。ちょっと夜景が綺麗なんで、外で寝ただけです……ハックシュ」
「相変わらず知識あるくせに馬鹿なんだからねぇ……待ってな、ドリンク剤持ってきてあげるから。
後、今日の仕事は休んどきな。あんたが死んじゃ、私らも困ってしまう」
ご迷惑かけます、と礼を言っておいた。
「されど、研究とか以外にやることがない俺だったわけだ」
だから『ホイホイ五号』の製作に取り掛かってるが、何をどうするべきだろう?
――エサの強化か?
「リグルが引っかかるくらいだから、それは大丈夫だろう」
ふむふむとドリンク剤を摂取しながら考え、
「誰が、引っかかったって?」
後ろにリグルが腕を組んで立っていた。
むすっ、と不機嫌なご様子。
「ん? どっかの蛍の妖怪の話だが、リグルだなんて一言も言ってないぞ?」
「さっき言ってたの聞こえたんだけど?」
うは、バレてたようだ。クシュン。
「――あー、すまんな。と、それよりも七時に来るなんて、結構早いんだな」
「〇〇のために集会早く終わらせた……じゃなくて、顔赤いけど大丈夫なの〇〇?」
「軽い風邪だ、別段体に障る程度でもないし、『ホイホイ五号』の製作に取り掛かってる」
「その件だけど、ここの里のゴキ〇リは全て退去させたけど」
……あれ?
「虫を操る能力は、そこまで凄いのか?」
「〇〇は、僕を馬鹿にしてたの? 下位の妖怪でも、これくらいは出来るよ」
ため息をつかれた。いや、待てよ、だったら……
「今まで作った、『ホイホイ一~四号』の意味が無いのでは!?」
うぁー、八クシュン、結構時間かけちまったんだがなぁ。また違う機械をつくりゃいいか。
「いや、だって……『四号』がなかったら、〇〇に会えなかったし……」
「んぁ? あー、マヅいな鼻声になってきた。で、なんて言ったか聞こえなかったから、もう一回頼む」
「~~っ!! だから、風邪なのにそれを作ってても大丈夫なのって、僕は聞いたの!!」
何故、そんなに顔を赤くさせて怒るんだ?
「病は気からってな。『自分は病気にかかってる』って考えてたら、治るもんも治らんだろう?
要は『自分はいつもと変わらない』と考えて行動するんだ。そしたら、いつの間にか治ってる」
ふふん、と自分の意見に自信満々で……あれ、馬鹿な奴を見るような視線を向けられてるぞ、俺。
「病人は病人らしく、布団で――」
Yシャツを前から力いっぱい引っ張ったらしいが、あまりの体重差で動かないらしい。
「……」
「……いゃん、えっち。クシュン」
「……布団に入りなさい」
「ヤダ」
数秒間の睨み合いが、続いた。
そしてリグルから目をはずして、こう呟いた。
「解った。布団に入らないなら、退去させたゴキ〇リを一挙にここに集結させ
言い切る前に布団に飛び込んだ。
負けた気がしたが、本当にされるよりはましだ。
「それで、〇〇。夕ご飯は何食べたの?」
「いや、ドリンク剤で済ました」
「――それじゃ、体を壊しちゃうよ」
「いつものことだから気にするな」
と、スープを作ってあげなきゃなと思いついて、ベッドから出ようとした。
そんな俺の目にエプロンを付けたリグルが目に入った。
「ちょっ、待てリグル。お前、料理できるのか――!?」
「なんでそこまで驚くのさ?」
呆れたようにと言うより、不満げにこちらに振り向き、
「僕だって、嫁修行くらいはしてます。妖怪だからって、馬鹿にしないでよ……もぅ」
俺は愕然としながら、その言葉を聞いていた。
女の子――だったんだ、こんなに可愛いくせに……!!
「? 〇〇、なんでガッツポーズ取ってるの?」
「いや、俺は今になって世界の真理を全て知った気がしたんだ」
可愛い奴が全員女の子じゃないと言う保障はないんだ――!!
「……? まぁ、冷蔵庫見せてもらうよ」
と、出来上がった料理を見て、正直に思った。
絶対に、こいつは女の子だという確信が出来たんだぜ。風邪になって、本当に良かったんだぜ……。
「一人で盛り上がってる時にこれを言うのは、あれなんだけど味に自信ないよ?」
何も言わずに肉じゃがをパクり――ん、肉じゃがだと?
もしゃもしゃと、口で咀嚼しながら考える。ゴックン。
「美味いのだが、一言だけ。深い意味は無いよな?」
「なっ、無いよ!! もちろん、普通に食べて欲しかっただけだから」
こちらの誤解だったか、良かった良かった。
いや、深い意味で物言われたら、家の
「でも、この家のコンロって電気から熱を起こす物で助かったんだけど、電力はどっから供給するの?」
あぁ、やはり妖怪といえども蛍だからな、火は怖いのか。
「電力? そんなの簡単に作れるじゃないか」
「えっ、香林堂の人が簡単には作れないって――」
これがそんなに難しいかなと思いつつ、隣の部屋を開けた。
ネズミが一匹、回し車の上で上からぶら下がったチーズを追っかけてた。
「あの、〇〇?」
「一匹だけで家の電力を全て補ってくれるから、このシステムは画期的だよな」
「これは、どこのカンタ〇ロボ?」
「なんだ、それ?」
あまり興味がなさそうなので、部屋を閉めた。
「だったら、こちらからも質問」
「何?」
「リグルは火が怖いんだよな」
「――ま、まぁね」
「だったら、以前はどうやって嫁修行とかってやったんだ?」
「えっ、と……それは、内緒」
俺の予想では、蛍の発光部位が熱を持っているのかと思ったが、違うらしい。
電気による発光と比べて、かなりの効率がいいらしく熱はあまり持たないらしい。
――まじめにどうやって料理してるんだろう、こいつ。
熱が下がってきたかなぁと思い、質問してみた。
「そろそろ治ったから、布団から出てもいいか?」
「君はどっかの駄々っ子? 風邪引いたんなら寝てなさい」
と、頭にタオルをのせられた。
――過保護すぎる気がするが、いやではないな。
それにしても、さっきから思ってたのだがこいつは妖怪にしてくのは惜しいくらいお嫁さん気質だな。
「ゴホン……え、えっと、そろそろ帰ろうかな?」
時間は11時か、なんか寂しい気がするが、あちらにも事情があるのだろう。
「やはり、集会とかあるのか? マントは洗濯しといたから、外に行けばかかってる。
また、遊びに来いよ」
……あれ? なんか不安そうな顔をしてますが。
「呼び止めて、くれないんだ」
か細い声で、そんなことを言われたら――かなり困る。
最終更新:2010年05月25日 00:04