リグル3
うpろだ620
すこし薄暗い部屋の中。 あえて言うなら、自分の部屋だ。
中には気持ちの悪い虫から、これは虫なのか?と思えるほど美しい虫がケースの中で溢れかえっている。 これらはとあるお方のおかげで外の世界から持ち出すことに成功した。
その部屋の中に自分と、ふんわりした緑色の髪の少女がいた。
―ほら…綺麗だろ? これはオアシスアゲハという蝶で、お気に入りなんだ。
ひらひらと綺麗な緑色の羽を羽ばたかせる蝶を少女に見せた。
「わぁ~…すごく綺麗…」
ショーケースに納められた宝石を見つめるかのように、少女は黒い2本の触角をそわそわ動かしながら見とれる。
「…ねぇ○○。 私とその蝶…どっちが素敵?」 隣からもどかしげに訊いている。
―もちろん、リグル。 …君のほうさ。
そういいながら、少女―リグルの頭をやさしくなでた。
「ひゃぅっ…、あんまりなでないでよぉ」 リグルは顔を赤くして、抱きついた。
あぁ、どうして君は虫以外見る目の無かった自分をこんなにも魅力させるんだい?
こんなにも愛しいなんて―――
―――少女に出会ったのはおよそ3ヶ月前。
その時の自分は虫を事しか一切興味の無い、ダメ人間だった。
大学を考え始める高校生3年生なのに、成績は理科(生物)意外、もっぱらダメで、友達はおろか、全ての人との関わりを隔離していた。
別に人付き合いが苦手ではない。 しかし、虫に関する話をしてくれないのが嫌で堪らなかっただけである。
幼い時から虫を捕まえ、飼育するのが趣味で周りから畏敬と軽蔑の両方の意味を込めて「ファーブルの生まれ変わり」と呼ばれていた。
始業式が終わると同時に学校を抜け出した自分は虫取り網を片手に、山へ駆け出した。
その日から自分の人生はさらにずれ、外れて、変わり果てていった。
お気に入りの場所で虫の採取をしていると、今まで見た事も無い、瑠璃色の玉虫を見つけた。
その虫が森の中に逃げ込んだとき、自分の視界はその虫に釘付けになり、心は捕まえたいと言う気持ちで満たされてしまった。
網を振り回し、全力で追いかけた。 それをあざ笑うかのように逃げる玉虫。
そして、何かに躓いた瞬間、中に半回転し、地面に後頭部がぶつかり、それでも転がり、深い闇に落ちて―。
気がついたときは夜だった。
満月が照らし出し、周りは見た事も無い森の中を視界に映らせていた。
―…見た事も無いところだな。 ここは一体…?
とりあえず体を動かそうとしたが、全く動かない。 先ほどの後頭部直撃で体が麻痺したのだろうか?
いや、それは違った。 視点を体のほうに向けると、白い糸が惜しみなく体中に巻かれていた。
「あら、お目覚めのようね」
突然の少女の声を聞いた自分は、視点を前に戻した。
そこには緑色のショートヘアーの少女がいた。
いや、一目見たときは少年のように見えたが、よく見れば、僅かばかり胸があり、体つきに丸みが帯びてたのがわかったので、少女であることを知ることが出来た。
少女はうっすらと笑みを浮かべながら、唐突な死の宣告を告げられた。
「外の世界の人間であるあなたに悪いけれど、蟲達の養分になって、死んでもらうわ」
そういうなり、少女の周りには無数の黒い『蟲』が、その隣には大きな蜘蛛が現れた。 見た事も無い虫に思わず見とれてしまった。
…それにしても、あまりに唐突である。
しかし、これっと言った恐怖は無かった。 何が何だかもうわからない状態だったので、自分でも驚くくらい冷静に…いや、無感情になったのだ。
―そうか、それなら好きに。
淡々と諦めるような口調で返事をした。
すると、少女は不思議そうな表情を浮かべた。 予想外の返事だったのだろう。
「なぜ? なぜそんな事がいえるのよ」
―自分、虫の為に生きている人間だから、虫に殺されるのは本望さ。 まぁ、心残りといえば、あの玉虫が見れないってことかな…。
それきり、沈黙が続いた。
その沈黙がしばらく続いた後、突然糸が切れ、束縛から解放された。
―どうした、殺すのではなかったのか?
「…さっきのは無かったことにするわ。 その代わり、あなたの話を聞かせて頂戴」
目の前にいた少女は先ほどの嘲笑から、穏やかな笑顔に変わっていた。
最初は互いに自己紹介をし、ここはどこなのか、ここに来るときの経緯について、質問しあった後、虫に関する話を語り合った。
どうやら彼女はリグルと名の蟲を操る妖怪で、ここは幻想郷と呼ばれる異世界であるそうだ。
ムカデや蜘蛛と言ったすごい虫から、蛍と言ったかわいい虫を見せてくれたときには思わず感嘆してしまい、見とれてしまった。
それに負けじと自分もここでいう『外の世界』での虫を教えた。
その話に興味津々に聞いてくれるリグルがすごく嬉しかったのと同時に…別の感情が動き始めた。
語り合ううちにいつの間にか明け方になった。 これだけ長く会話をしたのは人生で初めてだろう。
その時、リグルが質問した。
「ねぇ、あの時…○○は死ぬの怖くなかったの?」
―全然、と言ったらうそかな。
「そっか、やっぱり怖かったんだね」
―あぁ、そうさ。 じゃ、逆に訊くが、どうして殺さなかった?
「…虫が好きな人がいたって言うのをしったからよ」 なんとなくわかってたが、敢えてきいてみた。 答えは予想通りであった。
「…そろそろ日が出てくるね。 私帰らなくちゃ。 楽しい話聞かせてくれてありがとう!」
リグルはにこっと笑って、別れを告げた。
…あっ、大事なことを忘れていた。 どうやってここで生きていこうか。
夜でリグルに会うまでは、サバイバル生活をすることは…幸いにも無かった。
たまたま出会った女性、確か…けーねだったか。
その人に人間の里と呼ばれるところに案内させてもらい、空家で住むことになった。
食料のほうは外で取れる魚と木の実を主に、時々けーねと呼ぶ女性から差し入れを頂いて、困ることは無かった。
衣類の方は・・・里の中で売られている服を数着、なけなしのお金で買った。(もともと日本の土地だったからなのか、現在の紙幣が使えた)
それからはここでずっと暮らすことになったときを考えて、アルバイトをすることにした。
ただ、心配なのは自宅の虫たちのことだ。 虫を捕まえて飼育することが趣味の自分にはすごく不安である。 皆無事だといいんだが…。
まぁ、いいか。
それからと言うものの、夜毎にリグルと会って話し合ううちに、虫の事よりも、彼女のほうに好意の対象が変わっていった。
彼女の話を聞くたび、彼女が帰るたび、心は彼女のことでいっぱいになって、また会いたいという気持ちが抑えきれなくなってしまうのだ。
これが恋という奴なんだろう。 何とか伝えてやりたい。
しかし、虫のことにしか興味の無かった自分にはとてもじゃ言えないだろう。 …いや、いつかは言っておかないといけない。
ここに住み込んで2ヵ月後、彼女に告白する決心をついた。
そして―――来るべき夜がやってきた。
いつもの様に彼女はやってきた。 うむ、いつものりグルだ。
そう確認した後、すこし大げさに息を吸って、告白の第一歩を踏んだ。
―リ、リグル。 今夜キミに言いたいことがあるんだ!
第一歩目はまずまずだったかもしれない。 予想通り、リグルは「な、何よ?」とすこし動揺している。 そこで第二歩目を踏み込む。
―最近、虫のこと…好きでなくなったんだ。
わざと、気を落としていう。
「えっ、えぇ…!? ○○、今日はどうしたの?」 突然のわけのわからない発言に困惑するリグル。
そしてとどめの三歩目。
―今は、虫のことよりも……リグル、お前のほうがずっとずっと、好きになったんだよ!!
初めてだす、大声。 一斉にリグルの周りにいた蛍が飛び散った。 その声にただ単に驚いたのか、「よく言った!」と賞賛の行動のどっちなのか、自分にはわからなかった。
このどきどき感はしばらく止まりそうも無い。
―長い沈黙が漂う。 実際はそれよりももっと長かったかもしれないし、あっという間だったかもしれない。
その間、リグルは顔を真っ赤にさせ、震えていた。 今にも泣き出しそうな表情である。
突然、その長い沈黙は終わった。 彼女から、抱きしめたことによって。
「…本当に、わ、私のことが好きなの? ここで冗談だよなんて、言わないよね…?」 上目遣いで問いかける彼女をみて、次の言葉がなかなか見つからなかった。
―ぁ、あぁ。 これでも自分、すごく勇気を振り絞って、言ったんだ。 それでも、嘘だと思う?
「ううん、そう思わない。 疑ってごめんね…そして、ありがとう…。 私もあなたが大好き」
リグルは涙をこぼし、より強く抱きしめ、かわいい顔を自分の鳩尾にうずめた。
少しして、お互いに微笑んだ後、半月をバックに長いキスをした。 その二人に祝福するかのように蛍が舞っていた。
しばらく抱きしめたあと、ふとリグルの頭をなでたくなったので、優しく頭をなでた。 いや、正確に言うと触角をなでたといったほうがいいか。
なでなでなでなで。
「ひゃぁっ!? あぅぅぅ…///」
驚いたことに、リグルは裏声を上げ、ぶるぶると震えだした。
―ご、ごめん! 触っちゃだめだったか?
「あんまり、触らないで欲しいな…だって、デリケートな部分なんだよ?」
…どうやら、この触角はただの飾りではないと言うのがわかった。
後ほどの話によると、この触角で空気中に漂う気、魔力、霊力をコントロールし、弾幕を放ったり、蟲たちを操っていると言うことだ。
―そうだったのか、それはすまなかった。
「いいよ。 けど、あんまり…触っちゃだめだよ」
リグルは再び真っ赤になって手で顔を隠してしまった。
今夜は珍しい一面が見れて内心大満足な自分だった。
―――それからというものの、結局は幻想郷で暮らすことにきめた。
外の世界に関しては今まで育ててきた虫たちがとある方の協力のおかげで部屋の中に存在している。
なので、もう一切帰りたいなんて思わなかった。
隣にいるリグルが愛しくてたまらない。
あの日から、リグルと一緒に人里で暮らすことにした。
案外周りからの反対はなく、けーねからいくつかの約束事(主に人に襲ってはいけないこととか)を守るだけであった。
そして、今でも幸せに暮らしている。
しかし、自分は人間ではなくなった。
愛しいリグルを守るため。
お世話になっている人里を守るため。
自分自身が強くなりたいため。
彼女に頼んで、自ら虫の妖怪になった。
そして、『虫を操る程度の能力』を得た。
FIN
おまけ
その一 作中に出てくるとあるお方はゆかりんです。
その二 ○○は後の武●●金のパp(リグルキック)
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8スレ目 >>282
「お~い。○○いる?」
「チッ……香霖堂め。掴ませやがったな」
「え? どうしたの?」
「この蚊取り線香ききやしないじゃないか」
「私は蛍だよ!」
「はぁ……で、なにようだリグル」
「里でお祭りやってるみたいなんだけど、一緒に行かない?」
「おいおいおい、勘弁してくれよ。折角いい気分で酔ってるんだぞ?
だってのに、何でわざわざ人ごみにくりださなきゃならないんだ。ここでこうしてるほうが楽しいに決まってる」
「うわぁ、おっさんくさい」
「…………なに?」
「そんなんだから年より老けて見えるとか言われるんじゃない?」
「いい度胸だ蟲っ娘。俺という全存在に賭けて祭りを楽しみぬいてやる」
「いや、別にそこまでしなくても」
「はっはっはっ、ついて来い、お前に俺がまだ若いってことを思い知らせてやる」
「いいけど……それって暗に自分が老けてるって認めてない?」
「…………」
「…………」
「いやいやいや、そんなことないぞ。そうともそんなことない」
「いいけどね。私は○○と出かけられたら、それでいいんだし」
「んなッ……」
「へへへ」
「は、恥ずかしいやつめ……まぁいい、おごってやるからついて来い」
「うん!」
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8スレ目 >>617
「ん~♪今日も暖かくて心地いいね」
「……リグル、その発言は敵を作るよ」
「そう? こんなに蟲たちも活発になって、心地いいじゃない」
そりゃ、蟲の天下な季節だけどさ。フツーの人間には厳しいよ。蒸し暑くて死にそうだ
「でも、〇〇の元気がないのもつまらない~。川辺あたりに遊びにいく?あそこなら涼しいと思うよ」
「ふっふっふ、そういわれると思ってな。実は外界の水着を用意してあるんだ。
リグルも着るかい?きっと似合うと思うよ」
スク水ジャスティス
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11スレ目>>169
森の中を虫たちと一緒に散歩していると見知らぬ子供に出会った。
彼の話を聞くに、どうやら外の世界から来たようだ。
「僕、これからどうなっちゃうの……?」
不安そうな彼のしぐさは、まるで小動物のようでとても可愛らしかった。
ぶっちゃけると私のツボに直撃した。
だから私は彼を助けてあげようと思った。
「大丈夫。私が里まで送っていってあげる。あとはたぶん巫女に頼めば帰れるよ」
「ホント? ホントに!?」
「うん。だから安心して」
「良かったぁ……」
私の言葉に彼は安心した様子を見せた。
「じゃ、日が沈まないうちに早く行こう」
彼の手をとって立ち上がる。
すると彼は満面の笑顔を浮かべながらこう言った。
「うん。ありがとう、リグルおにーちゃん」
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13スレ目>>379
「ふぁ~あ、今年もよく寝たぁ……ん?」
「よぅ、待ちくたびれたぜ」
「おはよう、いっぱい待たせちゃったね」
そういってリグルは俺の首に手を回してくる。
俺も一冬振りのリグルの感触を楽しみながら抱きしめた。
そこでリグルがふと気づいた様に聞いてきた
「そういえば去年わたしが冬眠するって言ってからどれくらい来てたの?」
「……お前が寝付いてから毎日だ」
「もぉ…恥ずかしいなぁ、暖かくなってからでいいって言ったじゃん」
「惚れた女に逢えないならせめて傍に付いててやりたいのが男ってもんだ」
「馬鹿……。エッチなことしてないでしょうね?」
「そういうサービスはこれからじゃないのか?」
「ホントに馬鹿なんだから……、ほら」
そうため息をつき、リグルは目を瞑って顔を寄せ、キスをせがんで来た。
俺も苦笑しながらそれに答える、そして今年も春が訪れたことを感じるのだった。
新ろだ523
ふと気配を感じて顔を上げればリグルがいた。
突然の来訪は嬉しいが、生憎今は仕事の最中。
作ってる蚊取り線香が、彼女によからぬ影響を与えかねない。
事情を話してお引き取り願おうと思ったが、
奥で待っているという返事とともに裏口に回っていった。
待たれているのに延々と仕事をする気にはならず、
半刻程度で作業を終わらせ、片付けを始める。
別に急ぎの物でもなし、人(ではないが)を待たせているのは落ち着かない。
神社の巫女曰く「損な性分」らしいが、まあ、そんなことはどうでもいい。
作業場にあった道具を片付けて、居住場へと向かう。
リグルは湯呑みを両手でもち、小さく喉を鳴らして水を飲んでいた。
ちゃぶ台に置かれた砂糖の壺を見るに、中身は砂糖水らしい。
……こいつ、砂糖は高級品なんだぞ。
「割りと簡単に手に入るって聞いたけど?」
余所と一緒にするな。こちとら連日の閑古鳥で真っ赤っかだ。
防虫関連の道具を売り続けて五十年。三代続く老舗。
と言えば聞こえはいいが、店が流行るのは虫の多い夏場のみ。
特に最近は、客がやって来るのは三日に一度。
冷やかしの虫姫を除けば、一週間に一度という、いつ潰れてもおかしくない店。
そんな所の店長をやってる身としては、生活品の浪費は出来るだけ避けたい。
「ふーん」
くぴ、と言った擬音がぴったりの仕草で砂糖水を口に含んで、
「だったら店閉めちゃえば」とさらりと言うリグル。
……馬鹿言え。
妖怪のお前ならともかく、人間様は食うために働かなくちゃいかん。
この店を閉めたら、おまんまの食い上げだ。
「別にわざわざこんなもの売らなくてもいいじゃない。
というより、もう誰も買わなくなるよ」
はあ?
「だって蟲たちに、人里に近づかないように言って聞かせたもん。
人里じゃなくても、食べ物はあるし」
え? ……てことは?
「もう人里で、害虫に悩まされる心配はほとんど無し。
つまり蚊取り線香も、殺虫剤も、もう必要なし」
……じゃあ、最近客がこないのは?
「そ、需要がないから」
……こ、この野郎!
「いいじゃない。仕事は他にたくさんあるんだし。例えば、畑仕事なんてどう?」
……はい?
「いい土は蚯蚓を使役すれば幾らでも作れるし、
畑を食い荒らす害虫なんて、わたしが絶対寄せ付けないし、
みずみずしい野菜や甘い果物なんかを育てて……」
あの~?
「あ、養蜂なんかもいいかも。わたしがいれば蜂に刺される心配も無し、
甘い蜂蜜を売れば、蟲の偉大さを知らしめることができるし……
いいね、決まり、養蜂にしよう。今からここは養蜂場」
……拒否権は?
「あると思う?」
……えと、あのだな、一応今まで続いた店だし愛着ってものがだな。
「どっちにしても、もうお客さんは来ないよ」
……うう
「このままむきになって続けるよりは、大人しく養蜂始めた方がいいと思うな」
……えと
「いいじゃない。それとも、そんなに嫌?」
……あーうー
「……もうっ、じれったいな!」
うわっ? いきなりなにすんだ?
「どうしてこんな風に誘ってるかくらい分かってよ、鈍感!」
それって……?
……
「……返事は?」
……よろしくお願いします
「えへへ~、こちらこそ。……さあ、準備にとりかからなきゃ。これから忙しくなるよ」
今からか? ずいぶん急だな
「思い立ったら何とかって言うでしょ。
明日までにその不愉快な道具、全部処分しておいてよ」
ものすごい速さで去っていくリグル。
どうやら虫姫の策略により、この店は潰されてしまったらしい。
虫をやっつけるはずの道具を扱う店が、虫に潰されちゃあ世話ないなと、思わず苦笑。
でもまあ、この先のことを考えると、悪くないかなと思いながら、商品の処分を始めることにした。
新ろだ746
「うむ。釣れないな。場所が悪いのか……」
いつものように釣り糸を日が昇るから垂らしているが、未だに収穫は0。
相変わらずの太公望っぷりだ……何も考えてないけどな。
「あ、○○。おはよう」
「おう、おはよう」
声がした方に顔を向けると、木陰から緑髪の少女が出てくる所だった。
「今日も釣り?」
ちょこちょこと俺の隣にきたかと思うと、ちょこんと腰を下ろした。
「うむ。相変わらずな」
時々こうして彼女は俺と駄弁りに来ることがある。
こののんびりとした時間が、俺は大好きだった。
「あはは……いっぱいいるはずなんだけどね、魚」
「それは俺へのあてつけだととってもいいのか、リグル」
ジト目で横を見ると、「えっ」という驚きの声と、予想外に慌てふためく姿。
「ご、ごめんね。そういうつもりで言ったんじゃないんだ」
本当に違うんだからね、と手を振りながら否定の意思を示す彼女がなんだか可笑しくて。
「……ぷっ」
思わず笑ってしまった。
いきなり笑い出した俺を不思議そうな顔で見つめる。
「ふふ、ごめんごめん。俺はリグルの事、信じてるよ」
「もう……うん、よかった」
何故か頬を薄く染め、微笑む。
やはり微動だにしない浮きの様子に辟易しつつ、
時々スポットを変えては投げ、変えては投げを繰り返す。
「そういえば大ちゃんとか
チルノんはどうしたんだ?」
「あの二人なら向こうで水かけっこして遊んでるよ」
指さされた方向に目を凝らしてみるが、今ひとつわからない。
眼鏡がなければ俺の視力は小数点第二位だからだ。
眼鏡をかけても第一位だけどな!
目を細めてなんとか見ようとしてみたが、
「ほら、あそこあそこ。ちょっと曲がってる木の左側で」
「うーん……俺にはちょっとわからないな」
うんごめん無理。
「そうかー……○○って目が悪かったんだっけ」
「うむ。眼鏡があっても人並みかそれ以下だ――ッ!?」
何気なく彼女の方を向いて。
今度こそ固まる。ちなみに向こうも。
何故かって?
そりゃお前、彼女いない歴=年齢のこの俺が。
妖怪とはいえど、この上を望むべくもない美少女とさ。
鼻と鼻がくっつかんばかりの至近距離なんだぜ?
朱く染まりつつある顔を眺めながら、嗚呼、気付くべきだったな、と後悔する。
対岸を指差しているあの腕は、異様に俺の近くから伸びていたんじゃなかったっけ、と。
そうこう考えているうちに彼女の顔は耳まで染まりきり、
瑞々しい唇が"きゃあ"を発声すべく変形しはじめたあたりで。
パキッ
乾いた枝の折れる音。
二人そろってそちらの方を見やると、向こうの二人組と遊びに来たのであろう、
夜雀の娘がいた。
ただし顔は赤い。
「あっ、あの……私何も見てませんからーっ!」
そう言うだけ言って、両手で顔を隠しながら走り去ってしまった。
顔をゆっくり戻す。
距離は先ほどよりも幾分か離れていたが、もう彼女に叫ぶ意思はないようだった。
ただし。
「ねぇ、○○」
ただそれだけの言葉と、真摯な瞳。
いくら経験不足だとは言え、それが何を示すかくらいは分かる。
「……俺で、いいのか?」
最後の確認を投げる。
「いい。ううん、○○じゃないと、嫌だな、私は」
そこまで言い切ると、彼女は目を閉じた。
蛍籠(新ろだ981)
蛍籠
・・・・・・・・・リグル。
「何、○○。起きたの?」
まだ、此処に居たんだな・・・・・・。
「当たり前じゃん、私は○○に捕まったんだもん」
何時の話をしている。
「○○の顔に、まだ皺一つ無かった頃」
・・・・・・遠い昔だ。
「そうだね、とても前の事。けどそれは人間の話、私達妖怪にはあまり関係無い年月よ」
そうだな。現に、お前はあの時のまま。今見ても男に見える。
「うるさいな」
悪かった。たたくな、たたくな。
「もう」
リグル、俺はどれほど寝ていた?
「三日ぐらいかな」
そうか。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ねえ、○○」
・・・・・・なんだ?
「何で、さ・・・・・・何であの時、私を捕まえたの?」
今それを聞くか。
「気になるもん」
言ったはずだ。蛍を追っていたら、お前が居た。蛍がどこに行ったか知るために捕まえたと。
「ウソ。あの時蛍なんて居なかったよ」
・・・・・・嘘言うな。
「私の能力知ってるくせに。あの日は、あの一帯虫は蟻一匹居なかったよ」
お前馬鹿だから、勘違いしてるんじゃないか?
「そんなことないよ、○○と初めてあった日だもん」
・・・・・・。
「ねえ、なんで?なんで私を・・・・・・」
言うな。
「・・・・・・・・・・・・」
俺は、俺は蛍を追っていたんだ。
「・・・・・・」
お前は居なかったと言うが、あの時俺は確かに、蛍を追っていた。淡い光を放ち、風のように舞って、暗闇の中を飛ぶ一匹の蛍が確かにいた。
「・・・・・・・・・」
そいつが、余りにも美しくって、余りにも愛らしくって、俺は小さな蛍籠をもって走っていた。その蛍を見失わないように、ひたすらに追った。
「竹の小さな、蛍籠。○○の手作りだったね」
・・・・・・俺は、その蛍を自分の物にしたかったんだ。俺の物にして、ずっと見ていたかった。愛したかった。
本当・・・に、愛おしかった。
「・・・・・・」
リグル、逆に聞く。お前はなぜ俺に捕まった?幻想郷の中でも、お前はそれなりに強い妖怪。俺程度の人間、勝手に殺して逃げれもしただろうに。
「さあ?気分的に捕まってあげたんじゃない?もう覚えてないよ」
それに、何故出ていかなかった。俺は此処に居る必要はないと言ったはずだ。
「別に?あたしは捕まった訳だし、出て行きたければそうしたさ。けど、ここは居心地が良い。此処にいると安心できるから」
安心?
「食事だってあるし、冬でも暖かい寝床。出る理由なんて無かったよ」
自由がないだろう。
「そうでもないよ。この小さな家でも、やることはイッパイあったし、イッパイ好きなことが出来た」
・・・・・・。
「裁縫、料理、家事洗濯。今まで、やらなかったような、女の子らしい事いっぱい出来たし。○○は嫌だったの?私が居たの」
・・・・・・嫌じゃ、なかったさ。
「ふーん、ならいいじゃん」
・・・・・・そうか。そうだな。
「そうだよ」
・・・・・・・・・なあ、リグル。
「ん?」
お前は、良い女だよ。
「何さ、今更気づいたの?」
ああ、今更だな。
「本当、今更だよ」
ああ、遅すぎたよ。
本当は、気が付いていたはずだったんだ。
「○○は何時も気が付くのが遅いね」
今までそれを、何度も言われてきたな。
「○○は鈍感だもん」
そうか。
「知ってる?○○って結構もててたんだよ。昔はチルノや
ルーミア達が○○の事、好きだって言ってたんだよ。たぶん今でもだけど」
初耳だ。
「聞かれなかったし。わざわざ言うこと無いもん」
そうか。
「・・・・・・ねえ○○」
リグル。
「・・・・・・何?」
俺は・・・・・・。
「・・・・・・○○?」
俺は・・・・・・蛍を、蛍を捕まえてた。
「え?」
その蛍は、全ての季節で光っていた。俺に笑顔をくれた。何よりも綺麗で、愛らしいその蛍は、何時までも綺麗なままだ。
その蛍は、今小さな蛍籠に入ってる。その蛍には、その蛍籠は小さすぎる。
・・・・・・だから、もう逃がそうと思う。
「○○」
その蛍は、俺一人の為に光ってるんじゃないんだよ。
「○○、やめて」
その蛍は、多くの人のために光って、何より、自分の為に光ってるんだ。だからもう、逃がしてあげるんだ。
「○○、やめて!!まだ籠は開けなくていい!!」
だから、だからリグル。一つだけ教えてほしい。
「○○!!」
蛍は、蛍は幸せだったか?
一つの、小さな蛍籠の蓋が開いた。
一匹の蛍は、最初は出ようとせず、籠の中を動かなかったが、しばらくして、蛍は動き出した。
名残惜しいように、籠の中をうろつき、またふと止まる。
蛍は、その場でボゥっと、淡く光りだした。
その光は悲しみが溢れ、ゆっくりとリズムを取りながら光っていた。
そして、蛍は飛び去って行った。光は尚絶えず、その籠に別れを告げるように。
籠に入れられた蛍は、幸せだったのだろうか。
それを知って居るのは、蛍だけだ。
最終更新:2010年08月06日 21:30