リグル4
新ろだ2-227
梅雨真っ盛りの幻想郷……の人里の一角にある、とある家から始まるちょっとした日常。
「う……リグル~じめじめする……」
「そりゃあ梅雨だからしかたがないわね」
「しかも蒸し暑い……」
「言うな……余計に暑くなるじゃないの」
「そう言ってもさぁ……暑いものは暑いんだよ~」
「私に言われても困るわよ。私だって暑いんだし、言った所で暑さがなくなるわけじゃないし」
さっきから僕のこの憂鬱な季節に対する愚痴を聞いて、いや聞き流しては同じくダレてるのは蛍の妖怪リグル。
僕ほどではないがうつ伏せになってはその特徴的な触角が垂れさがっている所を見るに相当堪えているらしい。
「てかさ、毎年リグルってば夏が来ると大喜びしてるじゃん。蟲の特権じゃないの?」
「暑いだけならいいけれど蒸し暑いのは嫌いなの!」
「さいですか……蒸す……蒸し蒸しする~」
「うるさ~い……少し黙れ~」
リグルの力ない猛抗議が耳に入っては頭を素通りし反対側へと抜ける。
春以来いつも元気なリグルがこんなにもへたばっているのも珍しい。
きっと厭なのは湿気の所為だけでなく、この雨の事もあるのだろう。
雲に覆われた空、屋根に地面に突き刺さるような雨音。
そしてなにより、アクティブなリグルにとって外に遊びに行けないというのはなかなかに辛いようだ。
「暑い……じめじめ……蒸す……蒸し蒸し……」
「あーもう煩いわね○○っ! ちょっと黙りなさいっ! てりゃっ」
「うぇ? おわっ!」
突如リグルが声を荒げたかと思うと、突然背中になにか質量をもったものがのしかかった。
服越しに伝わるちょっと湿ったブラウスの質感。そしてその先にある柔らかい肢体の感触。
肩に乗せられた丸く小さな顎、頭に押し当てられる二つの触角、首筋に拭きかけられる甘ったるい吐息。
今、僕は背後からリグルに抱きしめられたのだという事実を頭で認識するのに1秒とかからなかった。
「ふふん……どうかしら? 蒸し暑い中ぎゅぅぅっと抱きしめられた感想は?」
「あ……うん、蒸し蒸しするのは気にならなくなったけど……」
「けど?」
「これだと蟲蟲する……だね」
「ははは、こやつめっ!」
と、リグルに頭を軽くはたかれる。僕は何も悪いことしてないっ! してない……のに悪くない気分。
なにはともあれ、リグルにいかにも暑苦しいおっさ……もといお兄さんに抱きつく余力が残っていてよかった。
「んふ……大きな○○の背中~♪ えへへ~温かい~」
「おいおいさっきまで暑いって言ってたのに……そんなに強く抱きついて蒸し暑くないの?」
「そりゃあすごく蒸し暑いわね……でも……」
「でも?」
「でも大好きな○○にこうやって抱きつける嬉しさの方がずっと……強いんだよ?」
恥ずかしそうに僕の耳元で囁くリグル嬢。顔が見えないがきっと頬を薄らと紅く染めているのだろうなぁなんて考えつつ。
男の扱い方というものをよく心得ていらっしゃる、なんて思いつつ。
「○○こそ……私に抱きつかれて嫌じゃない? 本当に暑苦しくないの?」
と、今度は少し不安そうな、心配そうな声で後ろから尋ねるリグル。
何を今さら……僕の答えはとうにきまっているのだ。
「僕もリグルと同じ。大好きなリグルと一緒に居られる事の嬉しさの方が大きいんだなこれが」
不安そうなリグルを見ると僕の心も締め付けられる。少しでも安心させてあげたい。幸せなリグルを見ていたい。
そんな想いに動かされて僕はリグルに応え、そして両腕を背中に回して立ち上がる。
「ほらっ、僕はこんなにもリグルを愛してる」
「あっコラッ! 子供扱いするなーっ!」
「っと、悪い。その……僕に負ぶられるのは嫌だった?」
「負ぶられるのは嫌じゃないけど負ぶられて慰められるのは嫌」
「うん、ごめん。確かにちょっと子供扱いしすぎたね」
あわててリグルを背中からおろす。むくれながらも心なしかちょっぴり嬉しそうなリグルの表情がうかがえる。
やっぱり嬉しそうなリグルを見ると僕も嬉しい。自分でもわかるほどに僕は笑みをこぼした。
「むぅ……これでも私、あなたよりも随分と年上なんだからねっ!」
「ええ、だから申し訳なかったと」
「誠意を示すなら行動で!」
「……はい、それでは我が親愛なる蟲姫様……」
と、僕は仰々しく深々とお辞儀をし、その場に座り方膝を立て、
「失礼します」
と触角をピンとたててむくれるリグルの手のとり、白く細く柔らかいその手の甲に、そっと唇を落とす。
唇が触れた瞬間ピクッと震えるリグルの手。だがその後は特に抵抗する事もなく、
むしろ口づけを喜ぶかの如く指先の緊張は解れ脱力する。
そんな愛しい人の、可愛らしい御手にゆっくりと、時間をかけて唇に圧をかけ馴染ませる。
手の甲のやはり子供のような幼さ残しながらも何処か力強さを湛えたその形を唇に神経を集中して堪能するとともに、
僕の唇の感触を、温もりを、少しでも味わってもらえるようにゆっくりと、ゆるりと、やがて唇は離れる。
「どうか、ご容赦を」
「あ……ずるいよ○○……キスすれば許してもらえると思って……」
「許して……くれないのかな?」
「いやそういうわけじゃ……その質問もずるいっ! だってそんなことされたら……許さないわけにはいかないじゃない……」
そう微笑み、そして僕の頭に手を触れ髪の感触を確かめるように撫で始めるリグル。
うん、完全に機嫌を直してもらえた様でよかった。とリグルの表情一つでこんなにも気持ちが揺れ動くあたり
ぼくもまた、蟲姫様の魅力に当てられてしまったのだなぁとしみじみ想わされる。
さぁ、このアンニュイな気分を吹き飛ばしに行こう。彼女と共に。
「よしっ、散歩行こう散歩! こう家の中で干物ごっこしていても身体と精神衛生上よくないからな」
「え? 外……雨だよ?」
「なに、僕は梅雨に備えて二人で入れる大きな傘を買っておいたのだ」
押し入れから僕が取りだしたのは、僕の腰の高さまではあろうかという、大きな傘。
深緑色の傘。リグル色の傘。え? 同色だと目立たない? なに、保護色だ。
「それとも……リグルはこういうの嫌いか?」
「ううん! 私家の中よりも外の方が好きだし、それに○○と一緒に歩くのも好きだよ!」
「よっしゃきまり! そうときまればさっそく準備だな」
湿気の中を家じゅうゴロゴロしまくったおかげでヨレヨレの服は着替えて、梅雨降りしきる外へと飛び出す。
うむ、やはり屋外に出ると解放感があるというものだ。
「ねぇっ○○っ! 早くはやくっ!」
「はしゃぐ気持ちは分るがあまり傘から飛び出すと濡れるよ?」
「だってぇ……アンタが遅いんだもん」
「散歩というのは歩く物でしょうに……」
「むぅ……確かに……そうだね。アンタと一緒に梅雨の景色を眺めて歩くのも悪くないかも」
「そう言ってもらえると傘を買った事が報われるのです」
おとなしくなった蟲少女を傘の下に入れ歩き始める僕。
走り回る事が出来ないとは言ってもやっぱり外を歩くというのはリグルにとって嬉しい様で。
周りの蟲達の様子を確認しているのか、はたまた純粋な好奇心故に目新しいものはないかと目を走らせているのか。
そんな生き生きしたリグルを見るのが僕はとても好きだ。
見ていてとても癒されるし、またそういった場を提供できた事がとても嬉しい事のように僕は想った。
「ねぇねぇ○○」
「ん? なにかな?」
「これって……相合傘でデートだよねっ!」
「ぶほっ!!」
すっかり失念していた。そうか僕はてっきりリグルと肩を並べて歩けるだけで楽しく満たされた気分になれると思っていたが、
世間一般からすればこれは割とフォーマルなテンプレートだったんだな。うん、急に恥ずかしくなってきたぞ。
「もぅ……そんなに噴出さなくてもいいじゃないのよ」
「いやその……“でぇと”って言うなよぉ~……こっぱずかしいから意識しないようにしていたんだぜ?」
「何よ今さら、そんなに恥ずかしがる事ないじゃない……ほらこうやって……」
「あっ……」
傘を持つ僕の手の上から両手を重ねて、取っ手を僕の手をぎゅうと握るリグル。
細い指が僕の指と指と間に絡みつく様に滑り込む。温かいリグルの手のひらの感触。ドキっとする。
さらにリグルは僕の体に体を寄せて、頭をちょこんと肩に乗せきた。
体の片側側面に温もりを思える。首筋に触角があたる。触角が首筋をなぞる。背筋がぞくぞくくすぐったい、気持ちいい。
「○○の手、大きくて温かい……それに○○の体も……ねぇ○○?」
「な、なに?」
「どうしてそっぽを向くの? もっと私の事……見つめて欲しいよ……」
リグルのその一言にはっと、恥ずかしさを押し殺していた自分に気づく。
これではいけないと僕はなるべく意識しないようにリグルの方を向き直る。
上目使いで僕の顔を覗き込むリグルの表情が、純粋に僕の行動を不思議に想っているようにも、僕を弄んでいるようにも映った。
「あはっ、○○の顔真っ赤だ♪」
「リ、リグルだって真っ赤だぞ?」
「えっ、わ、私は別に恥ずかしくなんて……そう言われると急に恥ずかしくなってきたじゃないっ!」
「リグルが“でぇと”って言いだしたのが始まりなんだけどね」
「むぅ……お互い様かぁ……」
本当は全然リグルの顔は紅くなかったのだけれど僕が指摘してから急に意識し始めたみたいで、
いま、僕の目の前には茹で蛸みたいに顔を真っ赤に染めたリグルの姿がある。
そんな照れるリグルの姿を見るとなんか勝った気分。いやおあいこなんだけどさ。
「○○……」
「ん、どした?」
僕とリグル、二人見つめ合いながら足を進める。とても恥ずかしい。でも恥ずかしいのはお互いさま。だから恥ずかしくない。
「デートって……いいもんだよね」
「ああ……いいもんだな……思えばリグルと一緒に遊びに行った事はあったけれど
こうしてただなんとなく二人で歩くってのは初めてだね……もっといっぱいしてやりたかった」
「“してやりたかった”ってなにさ?」
と不思議そうに首をかしげるリグル。
「こういうものって正式に恋人になる前にするものなんじゃないのか?」
「そうなの? でもいいんじゃない? 別にこれからいっぱいデートしたって」
「そうか?」
「そうよ、だってこんなにも楽しいんだし」
そういって僕に微笑みかけるリグル。恥ずかしさを忘れて、僕もまた微笑み返す。
彼女はその言葉通り、本当に楽しそうな笑みを向けてくれる。
リグルが楽しいと僕も楽しい。リグルが幸せだと僕も幸せ。
「そうだね、こんなにも楽しいからそれもいっか」
気がつけば僕の心から恥ずかしさは消えていて、代わりに溢れんばかりの幸せが僕の心に満ちていった。
幸せ。リグルと一緒に居られる幸せ。リグルと一つの傘の下、寄り添って足を進める幸せ。
「あっ、見て○○っ! 紫陽花が綺麗に咲いてるよ」
「うん、本当だ、綺麗に咲いてる。やっぱり家に引きこもりっぱなしはよくないね」
「そうだね……それに○○と一緒だと、たとえ大雨が降っていても、じめじめ蒸し熱くても、
外の景色がこんなにも新しくて、きらきらして……えっと……うん、楽しい。とても楽しいよ」
リグルと何気ない日常の中で新しいを発見する幸せ。リグルが楽しんでくれる幸せ。
つくづくデートとは良いものだと僕は思う。
なんたってリグルと一緒に幸せになれるし、こんなにも多くの身近な所にある幸せを見つける事が出来たのだから。
そしてまた、こんなにもデートの良さを教えてくれたリグルにも感謝。幸せを見つけてくれたリグルに感謝。
さてさて一通り辺りを歩きまわり、再び自宅近くに戻ってきた。
このまま家に戻るのもいいけれど僕は……
「よっしゃ! リグル、締めに何か甘いものでも食べて行こうか?」
「甘いもの? うん、食べるっ! えへへ、歩きまわったらちょっと小腹がすいちゃったかな」
「うむうむ健康的で大層宜しい事です」
と、言ってリグルと一緒に茶屋に入る。
リグルは甘いものが大好きだ。蟲の妖怪だからかもしれない。
勿論僕も大好きだ。それこそ彼女に負けないくらい。
だから、リグルと一緒に甘いものを食べるととても幸せな気分になれる。
「えへへ……梅雨に入ってからずっと食べてなかったから……ふふっ」
「嬉しそうで何よりです……さ、お好きなものをどうぞ」
「○○は何食べるの?」
「ん、僕はこれにする」
と、そう言って僕が指をさしたのは白玉にたっぷり餡子が載った和風テイストなやつ。
洋風もいけるがやはり店構えが和風なら甘味も和風を選びたいものだ。
「じゃあ私もそれにする~」
「ん? 同じのでいいのか? 分けあいっこなんて事も出来るし、此処って洋風な甘味もあるんだよ?」
リグルの好みは洋風。横文字妖怪だからかもしれないし、虫と言えば蜜を吸うものを連想するからかもしれない。
「でも今日は……おそろいがいいの。ねっ!」
「うん、じゃあおそろいので頼むよ」
甘味をオーダーし、お品書きを読む必要のなくなった視線は再び正面へ。
二人掛けのテーブル、ともすれば僕とリグルは向かい合う形に。
そう、目の前には素敵な笑顔のリグル嬢が。
「ふふっ」
「どうしたの?」
「いや、こうやってアンタと真正面から向き合うのって今日初めてだな~って」
「ああ、そう言えば確かに。意外と僕たち同じ高さで見つめ合うって事ないよね」
「むぅ……それは暗に私がちっちゃいと?」
といって頬を膨らませるリグル。不味い、琴線に触れちゃったかな?
「いえいえ滅相もない、ただ僕はリグルが可愛いと思っただけで」
「その手には乗らないよ?」
「うぐぅ……」
「なんて、ね? 大丈夫、怒ってないよ……同じ視線なら……アンタを可愛がりたい邦題出来るし……ね」
「えっ?」
悪戯な笑みを浮かべて、リグルは白く細く整った形をした手を僕の顔に伸ばす。
「あっ……リグ…ル…」
リグルの人差し指が僕の顔にそっと触れる。まるで割れ物を扱うかのような、優しく微かな感触。
触れたまま動くことなく、ただ肌からリグルに触れられているという感触だけが温もりとして残る。
暫くするとリグルは指を少しずつ少しずつ僕の頬に押しつけていく。頬の弾力を楽しむように、徐々に、深く。
頬が温かい。ただ一本の細い指からどうしてこれ程の温もりを伝える事が出来るのだろうか。
ふと僕の意識が頬に触れる感触からリグルの表情に移る。
なにか珍しいものを発見したような、そう僕の肌の感触を僕の表情を覗き込んで観察するかのように。
好奇心と優越感を湛えた視線が僕の頬に注がれる。そんなにまじまじと凝視されると……その……照れる。
「○○のほっぺたもっとさわさわしてあげる」
そう言うとリグルは5本の指で、滑らせるように僕の顔のラインを撫で始める。
顔の輪郭を確かめるようにゆっくりと。肌の感触を楽しむように丹念に。
僅かに体を乗り出した、たどたどしい手つきとは裏腹に、その妖艶な目つきは僕の瞳をとらえて離さない。
リグルの手のひらが僕の頬に触れ、小指と薬指が顎の下に回される。いつの間にかリグルに見下ろされる形に。
薬指で顎を持ち上げて僕の視線を修正し、親指の腹で頬を撫で、
いつもの幼げでボーイッシュな風貌とはかけ離れた、色っぽい視線を僕の眼に注ぎ……。
「ちょっとっ! リグルっ!」
「なぁに? 照れてるの? ○○をこんなに出来るのめったにないんだから……
もっと楽しんでもいいでしょ?」
「いや僕としてもこういうのはやぶさかではないのだが……
そこのウェイターさんが何とも居づらそうに……」
「えっ? ……ぁ……んんっ……コホン……」
あわてて席に座り直し、軽く咳払いをするリグル。
途端に恥ずかしさが込み上げてきたのか、どんどん顔が紅く染まっていく。
苦笑いしながらも何事もなかったかのように甘味をテーブルに並べるウェイター。よく鍛えられてるな。
軽く会釈して謝っておく。(見た目)幼い少女がむさ苦しい兄ちゃんをあごクイするなんてさぞ奇妙な画に映った事だろう。
「あ……えっと……○…○……」
「……食べようか?」
「う……うんっ!」
リグルにもなんか悪い事した気分。甘味のパワーで気を取り直してくれたらと思う。
フォークを白玉に突き立てる前からすでに嬉々とした表情のリグル。よかった、心配はなさそうだ。
「ん、甘い♪」
「うん、甘くて美味しいね」
「やっぱり○○と一緒に食べる甘いものは格別ね」
「僕もだよリグル。ありがとう」
甘いものは人を幸せにする。リグルが幸せそうに甘味をつつく姿が僕はとても大好きだ。
その小さな口に大きく持った粒餡を頬張る様子も、健康的な桃色の唇で白玉をちゅるんと吸う仕草も、
いつも見ているはずの何気ない一つ一つの動作がとても映えて僕の眼に映る。
あぁ、つくづく想うに、今日は外に散歩……もとい“でぇと”ができて本当に良かった。
偶にはこんな日もいい。ちょぴり恥ずかしいけれど、でもリグルの色んな良さが見れて本当に良い一日だ。
と、しみじみと物想いに耽ってるうちに甘味はあっという間に進んでいき。
『ごちそうさまでした』
「あっという間になくなっちゃった、もっといっぱいあればいいのに」
空になった小皿をフォークで鳴らしながら残念そうにつぶやくリグル。
「でもこのくらいの量の方がありがたみがあるよね」
「そういうもんなの? 私はいっぱいあった方がいいな……」
「まぁまぁ……これでまた次のリグルとの“でぇと”の口実が出来たと考えれば」
「あ、そっか……うんっ! 約束、なんだからねっ!」
「期待してていいよ……ん、リグル……口元に餡子が付いてる」
「えっ?」
あわてて指で拭おうとするリグルの手を抑え、僕はリグルの顔に近付き……
「わっ! ちょ、ちょっと○○っ!?」
舌で一舐め。うん、甘い。あとリグルの肌柔らかい。白玉みたい。
少し恥ずかしいけれど、でもとても満ち足りたいい気分。
リグルもとても顔を真っ赤にしてるけれど、でもこれくらいの事は許されてもいい筈です。
なんたって“でぇと”だし、それにさっきはお互いさまとは言えめっさ恥ずかしい事されちゃったし、ね。
「あ……○…○っ……」
餡子が綺麗に取れた事を確認して、最後に僕はその白く、でもほんのりと紅く、そして柔らかいその頬に口づけした。
若々しい、しっとりとした、もちもちしたほっぺたに軽く唇を落とし、そして軽く吸う。
唇が頬に触れていたのは一秒にも満たない僅かな時間。
それでもリグルを赤面させるには十分過ぎたようで。
「はい、綺麗になったよ」
「うぅ……また私がキスされれば喜ぶと思って……」
「今日一日リグルのおかげでとてもたのしい一日になった、いやまだ半日残っているから“なりそう”……かな。
だから、僕にこんなにも素敵な一日をくれたリグルへのプレゼント……だよ」
「ば……馬鹿っ……その……キスしたければ、言ってくれればいつでもっ……」
「……したいの?」
「えっ!? う……うん、今度は……ちゃんと、してよ……」
そう言うと、顔を真っ赤にしながらも、僕の目をしっかりと見据えて、顔を近付けるリグル。
それに答えるように僕も顔をリグルに近付ける。
暫く見つめ合う。1秒2秒、3秒。口元にリグルの温かい吐息がかかる。仄かに甘いのはどうして?
「んっ……頂戴……」
目を瞑り、僅かに唇を僕の方に突き出すリグルに、僕もまた軽く目を瞑り顔を近付ける。
唇に降る注ぐ甘ったるい吐息を頼りに直進する。接近する。接近してくる。
「……んっ……ちゅ……」
僕の唇が何か柔らかいものに当たる。
柔らかいものの主は一瞬全身を震わせ、そしてすぐさま快感と多幸感に心酔して脱力した。
リグルの柔らかい唇。甘い、唇で触れているだけなのにとても甘い、甘い味がする。
意識的にか無意識的にか、リグルの唇はグイグイと僕の唇に押しつけられる。
キスする瞬間は恥ずかしくても、一度触れ合ってしまえばあとは愛を主張しあうだけ。
「ん……んむ……ちゅむ……」
唇を付けたまま、縦に開いてみたり、横にスライドさせてみたりしてお互いの唇をより楽しんでいく。
他のこの世の如何なる物を用いても味わうことのできない、リグルの唇のもっちりとした感触。
唇の神経に全ての意識を集中させて、リグルの唇から幸せを、愛を、酌み取ってゆく。
同時にリグルにもまた、唇でキスで伝えたい。僕はこんなにもリグルの事を愛してるって。
十分に、半日は忘れられぬほどにお互いの唇の感触を刻み、心を幸せで満たし合った後、僕とリグルの唇は離れた。
「ん……ふふっ……凄いね」
「うん、リグルの唇の感触、まだ残ってるよ」
「私も……まだ○○にキスされちゃってるみたいに唇が熱い……」
紅い顔を僕に向けて、すっかり蕩けきった眼で僕を見つめ、リグルは微笑む。
キスの力ですっかり力が抜けてしまったのか、チャームポイントの触角がぺたんと垂れる。
そんなリグルに僕は愛しさに突き動かされて頭を撫でようと手を伸ばす。
指が頭皮に触れると、再びとろんとしていた目を閉じ、気持ち良さそうに鼻音を鳴らす。
「んぅ……○○に頭を撫でられるの……気持ちいいよ……もっと……して欲しいよ」
目を瞑りながら猫なで声で話すリグル。ドキっとする。もっと撫でたくなってしまう。
触角がさらなるかいぐりを催促するかのように僕の手首に絡みつき、先端が手の甲をなぞりあげてゆく。
「ふぅん…ん…ふ…ん? ……やめ……ちゃうの?」
手を離すと、残念そうな声で、悲しそうな目で、僕に訴えかけるリグル。
その破壊力在りすぎな仕草に思わず再開したくなる……再開したくなるが、
「横をご覧ください」
「えっ? ……ぁ……ううん、コホン」
先程あれほどの迷惑かけたウエイターさんが食器を取り下げようとまだかまだかと横に待機。
いかつい兄ちゃんが(見た目)少女の頭をナデナデする画とか……誘拐犯とかに間違われたりしないだろうか。
ともかくもいい意味でも悪い意味でも成長しないな僕たち。
僕としてはこんな日があってもいいかななんて思うのだけれども、やっぱりリグルは気になる御様子で。
「気にするな、リグル……こういう事も皆思い出だ」
「違う……私はそうじゃなくて……」
「あ、違うの?」
「あんなに頭撫でられて気持ちがぽわぽわしてた所に急に止められちゃったら……
その……物足りなくて……」
「ああそっちね……それなら後でいくらでもしてあげるよ」
「や……約束だからねっ」
「さ、そろそろお会計のお時間だ」
会計を済ませて外に出る僕とリグル。
僕が再び傘を開き足を踏み出すとリグルがすり寄ってきた。
その華奢な体を腕で抱き寄せつつ僕は訊ねる。
「ん? どうしたの?」
「……約束……」
「ああそうだったね……うん、さっきは焦らしてごめんね」
待望にされた手のひらをリグルの小さな頭の上に置く。
瞬間その瞳は蕩けきり、脱力したのか甘えているのか僕に掛る重みが増した。
「これから……どうするの?」
僕の頭ナデナデになすがままに――なすがままなのは僕の方だったァ――されながら尋ねるリグル。
「そうだね……リグルと一緒に晩御飯作りたい」
「あ、いいねそれ! うん、○○といっしょに作る!」
「それじゃあ材料の買い足しに行かなくちゃ、リグルにも材料を選んでもらうね」
日が暮れる。しかし僕たちの楽しい一日はまだこれからも続きそうだ。
35スレ目 >>341
○○「クワガタ!」
チルノ「カブト最強!!」
リグル「どうしたのアレ」
みすちー「一番カッコイイ虫はなんだって話みたい」
○○「おうリグル!クワだよな!?」
チルノ「カブトだし!!!」
リグル「カマキリに決まってんだろ!!!」
みすちー「!?」
大ちゃん「じゃあ一番かわいい虫さんは?」
チルノ「ダンゴ最強!」
ルーミア「蛾」
みすちー「テントウ虫かな」
リグル「ホタルでしょー」
○○「リグル」
リグル「え!?」
○○「リグルかわいい」
リグル「…ぅ///」
最終更新:2021年04月25日 14:22