ミスティア5



うpろだ423


 前々から“狩り”と言うものをやって見たいと思っていた。
 猟師さんとかが持っている銃を一度実際に撃って見たかったのだ。
 でも俺は本物の銃なんて触った事もないし、そもそも幻想郷に銃と言うものは存在していない。
 したがって必然的に狩りは初心者でも簡単で、かつ出来るだけコストの掛からないものが好まれる。
 そこで俺はとりあえず簡単な罠(鳥もち)を仕掛けて朝を待つ事にした。
 で、朝・・・
「・・・・・・・・・」
「うう~~・・・」
 確かに獲物は掛かっていた。
 それも特上級の大物だ。
 だが・・・
「ううぅ・・・」
「・・・・・・食えるかな?」
「食べないでよ~~」
 掛かっていたのはあろう事か“夜雀”だったのだ。


 とりあえず夜雀ことミスティア・ローレライを縄で適当に縛り自宅に連行した、のだが・・・
「うぅ~~・・・」
 先程から恨みがましい視線が肌に痛い。
 しかし俺は構わずに思案に耽る事にした。
「さて、どうしようかね」
 幽々子さん曰く、夜雀は小骨が多いんだとか。
 だとすれば、どう調理するにせよしっかりと骨は取らなければいけない。
 う~ん、それ以上に夜雀のレシピってあっただろうか。
「に、逃がしてよ~~」
「えー、勿体無いからヤダ」
「いつも屋台で割安にしてあげてるんだから、今日は見逃してよ~」
 おいおい、普段人を平気で喰う様なヤツのセリフとは思えないな。
 微妙に涙目な所が可愛くて、許してやりたくなるが・・・
「なぁお前、いつか俺に言った事忘れてないよな?」
「へ?」
 鳥頭の彼女はどうやら忘れている様だが、俺は忘れてなどいない。
 初めて彼女の屋台に行った時に交わした約束を。
「『屋台では屋台の主人として、でもそれ以外の場所じゃ妖怪として接する』って、お前は俺に言ったよな?」
「そ、そんな昔の事覚えてないわよ・・・」
「・・・ほれ、これを見ろ」
「ふえ?」
 引出しから一枚の紙を取り出して、彼女の前で広げてみせる。
 そこに書かれているのは、あの時の取り決めと彼女の指で押された捺印だ。
「ああー! 確かこれはあの時の・・・」
「そーいう事だ。 ・・・・・・ところでみすちー、コイツをどう思う?」
「へ?」
 言いながら取り出したるは鋭利な凶器。
 幾つもの肉を切り裂き、血を味わった俺の相棒。
「ひいぃ~~!! す、すごく・・・・・・大きいよぉ~~」
「嬉しい事言ってくれるじゃないの」
「や、ダメ。 そんなのでやられたら死んじゃうよぉ~」
 それにしてもこのみすちーノリノリである。
 俺が願っていたリアクションで返してくれなんてありがたい。
「なぁに、大丈夫。 すぐにあっちに逝けるさ」
「止めてよ~! まだあっちには逝きたくないー!!」
「ふふふ、君みたいな悪い妖怪さんは退治しないといけないよなぁ・・・」
 ペチペチと、張りのある肌に相棒を当てる。
「せめてもの情け。 この牛刀君の刃でもって一瞬であの世に送ってあげよう」
 そう、相棒の名は「牛刀」と言う。
 まぁ要するに牛の肉を捌く様なデカイ包丁を想像してもらえば分かりやすいだろう。
 やり取りがいやらしいって?
 いやいや、お互いノリノリなだけですよ?
「酷いよ・・・そんな事する人じゃないって信じていたのに」
 元より冗談のつもりだったのだが、少々真顔で言い過ぎたか。
 ふいに、彼女が演技でも何でもなく顔を俯かせた。
 ごく一瞬だけ見えた彼女の顔が本気で悲しそうに見えて、俺の心はチクリと痛んだ。
「・・・・・・・・・」
「・・・ぐすっ」
 ・・・やれやれ、俺も甘いな。
 ジョークのつもりだけど、どうもこう言う表情をされると駄目だ。
 ブツッ
「え・・・?」
 俺は牛刀君を器用に扱って、みすちーを縛った縄を切った。
「・・・さて、朝食を作ろうかね」
 牛刀を背中に担いで、俺は台所へ向かう事にする。
 まだ食料に余裕はあっただろうか。
「い、良いの?」
 戸惑い気味な声が後ろから聞こえてきた。
「んー? 俺は夜雀なんて捕まえた覚えはないぜ?」
 振り返らずに呟いて、俺は飯を作るべく材料を確認する。
 うん、これなら何とか明日までは持ちそうだな。
「・・・・・・ありがとう」
 後ろから何か聞こえたような気がしたが、俺は聞いていないフリをする事にした。


 のんびりと霧の湖の湖畔を歩く。
 霧の湖は数少ない水場なので妖怪も多く出没する。
 しかし積極的に俺を襲う妖怪はあまりいない。
 どうもこの事は俺が八雲紫や西行寺幽々子、さらにはレミリア・スカーレットなどと繋がりがある事が関係しているらしい。
「感謝感激雨霰って感じだなぁ」
 今度何か贈り物とかでも持って行こうと思う。
 やっぱり感謝の念はしっかりと表さなければいけない。
「・・・ん?」
 さて何を贈ろうか、と考えていると僅かに冷気を感じた。
 季節的にそろそろ夏も終わりだから涼しくなってきてもおかしくは無いが、幾らなんでもこんなに急に温度は下がらないだろう。
 ははぁ、なるほど・・・
「惜しいな。 そこにいるんだろ、チルノ
「・・・・・・・・・」
 振り返ると誰もいない・・・訳ではなく、よく見ると近くの茂みに不自然に突き出た氷柱がある。
 俺は思わず苦笑してしまった。
「まさに頭隠して尻隠さず、だな」
 小さく呟いてから俺はゆっくりと足音を忍ばせてチルノの元へ近づく。
 そしてその距離があと十数mになった時俺は腹に力を貯めて、
「ぶるうぅぅぁぁぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!
 心の中に宿った若○の魂を爆発させた!
「ぎゃああああああああああ!!!???」
「ひゃあああああああああ!!!!??」
 すると何ともコミカルな様子で二匹ほど人外が飛び出した。
 ・・・あれ、二匹?
「い、いきなり何すんのよ!!!」
「だって、こうでもしないと出てこないだろ? それよりそっちの子は?」
 チルノの言葉を軽くいなして、見知らぬ子の方に目をやる。
 深緑色の短い髪に、黒いマントが特徴的な子だ。
 一見男の子か女の子か見分けがつかない。
「あ、○○は初めてだっけ? この子はね・・・」
「ちょっと、チルノ」
 チルノの言葉を遮る様にして緑色の子が言葉を発した。
 その視線には強い警戒が見える。
「こいつ人間でしょ? 何で仲良くしてるのよ」
「○○は人間だけど良いヤツよ。 おまけにすごく頭が良いから子分にして損は
無いわ!」
「・・・チルノの子分なの?」
「もちろん! だってあたい最強だもの!!」
 ・・・まぁ、物理的には勝てないのだけどね。
 でも俺は子分になるなんて言った覚えは無いぞ?
「・・・そっか。 なら大丈夫かな」
 ホッと息とつきながら緑の子が言った。
「私の名前はリグル・ナイトバグ。 蛍の妖怪よ」
「ああ・・・君があの有名な」
 Gもどきの妖怪、と言いかけて口を噤む。
 それを言ったらただではすまないと直感で感じ取ったからだ。
「俺の名前は○○。 ただの人間だ。 あと、一応言っておくけど俺はチルノの子分じゃないからな?」
 何はともあれ、自己紹介と一緒にチルノの子分説を否定しておく。
「ちょっ、何言っているのよ○○!! あんたはあたいの子分でしょ!!」
「あ、やっぱりそうなんだ」
 チルノは激怒しているが、どうやらリグルはすで分かっていたらしく苦笑を浮かべていた。
「親分が子分に勉強教えられていたら訳ねぇだろ」
「ふふん、でもあんた弾幕ごっこじゃあたいに勝てないじゃない!」
「俺は普通のか弱い一般人だ。 どこぞの巫女や魔砲使いと一緒にするな」
 ・・・実際時々本当にあいつ等人間なのか疑いたくなる。
 本気じゃなかったにしても、幻想郷最強クラスの連中を伸しているし。
「だからこそあたいが子分として守ってあげてるんじゃない! むしろ感謝して欲しいくらいよ」
 無い胸を張りながら、チルノが偉そうに踏ん反り返った。
 守る、と言う事はそれなりに大事に思ってくれているのだろうか。
 ならば、
「・・・そうか。 ありがとうな、チルノ」
 誠意を込めて感謝の意を伝える事にしよう。
 どんな些細な事であれ、相手の厚意に対して「ありがとう」を言える事は大切だよな。
「へ!? あ、わ、分かればいいのよ!」
 あれ、何か顔が赤くなったぞ。
 ・・・・・・まぁ、良いか。
「で、えーと・・・「リグルで良いよ」リグル達は何をしていたんだ?」
 するとリグルは少しだけ考えた後答えた。
「目的と言う目的は無い、かな」
「そうか」
 なるほど同類か、とか思っていると、
「そうだ○○! あんたもどうせする事無いんだろうから、一緒に遊ぼうよ!!」
 どうやら復旧したらしいチルノが元気に申し出てきた。
 しかし真実とは言え微妙にムカツク言い方だな。
「そうだな・・・」
 とは言っても実際事実なので断る理由が無い。
 何よりこれは彼女達との親交を深める良い機会だ。
「おし、じゃあ何して遊ぼうか」
「さすが○○! そう来なくっちゃね!!」
 心から嬉しそうにチルノが笑う。
 ふとリグルの方を見ると、彼女もどこか楽しそうに微笑んでいた。


 で、やっぱり俺は後悔する事になった。
 それは大蝦蟇の池に行った時の事だ。
「まず手始めに、蓮の池の大ガマを退治しに行くわよ!」
「え!? それは幾らなんでも危ないよ、チルノ!」
 とても正論なリグルの言葉。
 頼むからもう少し「いのちをたいせつに」してくれないか、チルノ・・・
「気合よ、気合! 気合があれば大ガマなんて怖くないわ!!」
 いや、君はどこかの格闘家ですか。
 ・・・ん?
 と言うか、もしかしてさっきから後ろにある“あれ”って。
「・・・・・・・・・・・・」
「何よ○○、テンション低いわよ?」
 いや、テンションが低いとかじゃなくてね。
 今分かったんだが、後ろに見える岩場らしきものって・・・
「ち、チルノ・・・後ろ、後ろー!!」
 俺の隣にいたリグルもどうやら気が付いたらしい。
「何よ」
 振り返ってチルノ“が”パーフェクトフリーズした。
 そりゃそうだよな。
 今から退治しに行くつもりの目標が目の前にいりゃ誰だって驚くよ。
「ゲコ」
「あ、あわわわ・・・」
 大ガマは見下す様に俺たちを見て一声鳴いた。
 見下す、と言っても態度ではなく図体の関係から必然的にそう見えるだけなのだが。
 ただし視線はしっかりとチルノに固定されている。
「やばいよ、チルノ!!」
「・・・だな。 おいチルノ、さっさと逃げるぞ!」
 しかしどうも意識が完全にガマの方に言っているらしく、彼女はただ呆然とその場に立ち尽くしたままだった。
「ゲロ!」
 すると大ガマは日頃の同族の恨みを晴らすべく、チルノに向かって長い舌を振るった。
ベチィン!!
「きゃあっ!!!」
 かなり痛そうな打音がして、チルノが吹き飛んだ。
 しかしその飛跡は丁度俺の直線状にあるので、
「ぐっ!」
 何とかなけなしの反射神経を使って、俺は飛んで来たチルノをキャッチした。
「おい、大丈夫か?」
「う・・・うん」
 意識はあるようだが、やはりダメージは大きかったらしい。
 この様子では飛べそうにないな・・・
「・・・よし、あとは俺に任せろ」
 チルノを近くに降ろしてから、大ガマとの距離を確認する。
 現在大ガマとの距離は目と鼻の先ほどしか無い。
 これではリグルに弾幕を張ってもらっても、こちらも危険だ。
 そもそも人語を解しているのなら、リグルに指示を出した途端に攻撃が来るかも知れない。
「どうする? この距離じゃやっぱり・・・」
「・・・逃げられんだろうな。 でも人間様にだって武器はあるんだぜ?」
 リグルの言葉に俺は笑みで返す。
 そしてリュックの中を弄って、俺が人間界から持ち込んだ『武器』を取り出した。
 同時に自前のジッポに火を点けて、『武器』を大ガマに向ける。
 スペカ名、題して・・・
「喰らえ! 小火符『LPG Fire』!!」
 実際はスプレーを使った簡易火炎放射だから、スペカでも何でも無いんだけどね。
ゴウッ!!
 だがこれが意外と大きな炎が生まれるのだ。
 一歩間違えばスプレー缶自体が爆発するので相当危険でもあるが。
 くれぐれも良い子の皆は真似しちゃダメだよ☆
「ゲコ!?」
 よし、大ガマが怯んだ!
「おいチルノ、しっかり捕まっとけよ!!」
「ふえあ!?」
 まだ少しぼんやりとしているチルノを抱きかかえて走り出す。
 抱えた腕に冷気が容赦無く染み込んでくるが、この際どうにでもなれだ。
「リグル! あまり派手やらなくて良いから、威嚇射撃で援護してくれ!」
「わ、分かった!!」
 あんまりボコると俺もガマの恨みを買う事になるので、その辺りは考慮しておく。
 どうやら火炎放射が思いの外威嚇になったのか、大ガマはそれ程しつこく俺達を追って来る事は無かった。
 斯くして、大ガマを退治計画は逆に俺達が痛い目を見るだけで終わったのだった。


 この後もかなり無茶な事をやらされた。
 例えば「マヨヒガを見つける」とか。
 紫さんに頼めばすんなりと行く事が出来るだろうが、歩いて行くとなると相当無理な話だ。
 その内諦めるだろう、とか思って付き合ったのだが、崖から落ちかけたり、妖怪に出くわしたりと軽く臨死体験をさせてもった。
 でもどの場面においても、最後に笑顔で笑うチルノやリグルを見ると「しょうがないな」の一言で許したくなるから不思議だ。
「ま、たまにはこんな日があっても悪くは無いな・・・」
頬が緩むのを自覚しながら、俺は小さく呟いた。
「ちょっと○○! 何モタモタしてんのよ!!」
「ん、ああ・・・すまん」
「もう、置いてくわよ?」
 と不機嫌な声で言うが、歩いて行くチルノの後姿は不機嫌には見えなかった。
 ともすればスキップでも始めそうだ。
「ご機嫌だね」
「・・・やっぱりそうなのか?」
 チルノの後をのんびりと追っていると、隣にやって来たリグルが苦笑した。
「うん。 チルノとは結構前から知り合いだけど、あそこまで機嫌が良さそうなのは久しぶりかも」
「へぇ、何か良い事でもあったのかね?」
「多分だけど・・・」
 しかしそこまで言ってリグルは口を噤んでしまった。
「ううん、何でも無い」
「うおーい、寸止めかよ」
 わざとこける様なポーズをしてみる。
 そう言えば今思うと、俺って結構寸止め喰らっているな。
「別に教えてあげても良いんだけど、それだとチルノが可哀相だもの」
「それもそうだな」
 女の子の心理作用とは微妙であり、俺たち野郎の神経とは比較できないものだ。
 だからこそ俺は「彼女いない暦=人生」の図式を成り立たせられるのだ!
「・・・ふ」
「ど、どうしたの? 急にどこか遠くを見る様な目をして」
「なぁに・・・ちょっくら、独り身の切なさを感じていただけさ・・・・・・」
「嘘!? 独り身なの!!?」
「お、おお・・・そうだとも」
 途端にリグルの顔がアップになったので、俺は少し背を反らせながら答えた。
「あの・・・失礼かも知れないけど彼女は」
「過去に一度たりとも作った事など無い!」
 開き直って胸を張ってやる。
「ふ、ふぅん・・・そうなの」
 ・・・おいおい、せめてツッコミくらい入れてくれよ。
 じゃないと、道化としても深く傷つくんですけど。
「・・・・・・そっか。 まだ脈はあるんだ」
「○○、パーフェクトフリーズ喰らいたい?」
「え・・・? うわ! 悪かったから、それはやめてくれ」
 唐突に目の前に飛んで来てスペルカードをチラつかせるチルノに、俺はヘコヘコと頭を下げる。
 リグルが何か言っていた様だけど、先程のチルノの声にかき消されて聴き取れなかった。
 ・・・何となく、また妙なフラグが立った様な気がした。


 夢中で駆け抜ければ時間とは意外と短く感じるものである。
 ふと気が付けば空には星が輝き、天蓋には夜の帳が下りておりていた。
「楽しかった~!」
「そりゃ、良かったな」
 満足気にチルノが声を上げるのに対し、俺は疲労感と共に溜息をついた。
「何よ、情けないわね」
「いや、俺人間ですから」
「人間にしたって体力無すぎよ」
「ぐ・・・痛い所を突く」
 確かに好んで身体を動かそうとしないので、体力にはあまり自信が無い。
 少し運動した方が良いかも知れないな。
「まぁまぁ。 でも今日は私から見ても結構ハードだったと思うよ?」
 そう言えば、入り口辺りまでとは言え妖怪の山に踏み込んだりしたのだ。
 他にも多くの危険な場所に行ったし、よく考えれば生きているのが不思議なくらいだ。
 今こうして無事に河原の畔に立っている事がとても幸せな事なんじゃないか。
「リグルがそう言うのならそうかも知れないわね」
 リグルが言えば信じるのかよ。
 扱いの差がヒデェな、おい。
「ったく・・・」
 いよいよ疲れが足にきて、俺はその場に腰を降ろした。
 柔らかい草の感触とそよぐ風の温度が心地良くて、俺はゆったりと目を閉じる。
 ああ、布団があればこのまま眠れそうだ。
リリリ・・・
 ん?
コロコロリー・・・  チリリリ・・・
 これは。
「ふふ・・・」
 小さな少女の笑い声。
 雅な音が四方八方から集まって聴こえてくる。
「一緒に歌おう」
 少女の声に応える様に、虫の歌声が徐々に大きくなっていく。
 それは壮大な演奏会。
 優しく、穏やかに、包み込む様に流れる自然の音楽。
 東洋に住まう者は大昔からこの儚くも美しい旋律に心奪われ、幾度と無く文章や音楽、絵画の中にその姿を描いてきた。
 それは時を経ても変わらず人々に愛されるものの中の代名詞と言えるのでは無いだろうか。
「わぁ・・・」
 チルノの惚けた声に目を開けた俺が見たのは、
「・・・こいつはすげぇ」
 辺り一面を覆いつくさんばかりの光の玉だった。
 間違いない、これは・・・
「蛍じゃないか」
 幻想的な蛍の光は、外の世界ではもう殆ど見る事は敵わない。
 認識が出来たとは言え、実際に本物を目の当たりにするのはこれが初めてだ。
「○○、頑張っていたから。 これはちょっとしたご褒美、だよ」
 無数の輝きの中心で歌うように言葉を紡ぐリグルは、それこそ蛍の光の様に穏やかに微笑んでいた。
「綺麗・・・」
「ああ・・・」
 俺とチルノはただ、目の前に広がる自然の芸術に言葉を失っていた。
 光と音の中心で、蛍の少女は何か歌を歌いながら楽しそうに踊っている。
「なぁ、チルノは何で蛍が光るか知っているか?」
「えーと・・・そう言えば何でだろ?」
「おいおい、マジかよ・・・」
「な、何よ!! じゃあ○○は知ってるって言うの!?」
「ああ、勿論。 ・・・蛍はな、『相手』を探しているんだ」
「『相手』? それって何の『相手』よ?」
「それは・・・・・・まぁ、リグルにでも聞いてくれ」
 何となく後ろめたくなって、純粋なチルノの瞳から目を逸らす。
 蛍はその輝きで異性を呼ぶ。
 つまり蛍の光は恋の光と表現する事も出来るのだ。
 ならば今目の前で蛍と踊る少女も、ここにはいない誰かに対して“恋”を歌っているのだろうか。


「と言う事があったのさ」
「って言われてもねぇ・・・」
 あの後、俺はみすちーが営む屋台で飲んでいた。
 無論、節度を守って飲んでいるので「アレ」が出る気配は無い。
「むぐむぐ・・・ぷはぁ。 おかわりぷりーず」
「もう、しょうがないわねー」
 運動した後にお腹が減るのは当然の事。
 特に激しい運動をした後ならなおの事である。
 目の前に出された八目鰻の蒲焼が発する芳しい匂いが、俺の食欲中枢を激しく刺激する。
「あむ・・・あぁぁ・・・ゥンまああ~いっ!!! この特製のタレが、八目鰻の柔らかい肉に程よく染み込んでいる! タレの甘みが肉を、肉の食感がタレを引き立てているぅ!! 例えるなら某STGのラストの演出とW.A.モーツァルトの『レクイエム』の関係っつーーー感じですよぉ~~~!!」
 アルコールによってテンションが無駄に上がっているので、八目鰻の蒲焼を口にした瞬間妙な電波を受信してしまった。
 みすちーもポカンとした表情のまま固まってしまっている。
「・・・ゲフンゲフン。 要はとても美味いと言う事だよ」
「そ、そうなの? でもそんな事言ってもお代は安くしないからね!」
「ええ~・・・残念だなぁ。 ところで今お代幾らぐらい?」
 ふとお代の事を思い出して、俺はみすちーに問う。
 すると彼女は徐に伝票を取り出してこちらに寄越した。
「あちゃ・・・結構食ったなぁ」
 決して財布の中身が無くなる様な金額では無いが、それでも日頃の収入が少ない俺にとってはかなりの打撃になる金額だ。
「・・・・・・あ~、みすちー「今日は割安無しだからね」・・・何でさ~~」
「さっき言ったでしょ。 それに・・・朝の事、忘れてないわよね~?」
 どうやら朝の寸劇の事を根に持たれているらしい。
 ふむ、これは困ったな。
 俺はとりあえず焼酎を呷り、良い案が浮かばないものかと考える事にした。
 しかし疲れた身体に度数の高い酒を入れてもまともな思考が出来るはず無い。
 次第に俺は意識がぼやけてくるのを感じた。
「なぁ、みすちー・・・本当にダメか?」
「そりゃ、こっちも商売だもん。 それにあんまりあんたばっかり割安にしていると他の客にも不公平だしー」
「・・・それもそうだなぁ」
 ここに来て睡魔まで襲ってきて、耐え切れなくなった俺はうな垂れた。
「・・・・・・・・・ねぇ○○。 朝の事反省してる?」
「・・・・・・ん? ああ、うん」
「・・・じゃあ今日は特別だからね?」
 そう言って、彼女は伝票に書かれた数字を書き換えた。
 寝ぼけ眼でそれを見ると、数字は半額近くまで減らされているではないか。
「あ、ありがとう、みすちー!」
 屋台に額を打ち付けるようにして感謝の意を示す。
「その代わり、今度鰻仕入れるのを手伝ってよね」
「勿論良いとも! そうだ、お礼にキスしてやろうか?」
「え?」
 酒のテンションも相俟って冗談とは言えトンでもない言葉が出てしまった。
 一瞬の間があってから「しまった」と思うが、所詮覆水盆に返らずである。
「・・・・・・・・・してよ」
 しかしそれ以上に驚いたのが、彼女のこの言葉だった。
 その声色に冗談の色はない。
「だったら・・・その、してよ」
 灯篭の色からでは無い赤色に頬が染まり、泳ぐ視線が彼女の内心を映していた。
 朝の件だけを見ると誤解をされそうなのでここで弁明しておくと、俺と彼女の付き合いは結構長い。
 なので、普段は今朝の様な殺伐とした風景は俺達の間には生じる事は無い。
 むしろ普段、俺達は逆に種を超えた“友情”の様な関係で繋がっている。
 でも、そもそも本来はそれすらもが異常なのに今この時、その感情は別の感情に置き換わろうとしている。
 それを理解した瞬間、俺は猛烈な動揺に襲われた。
「ば、馬鹿野郎。 貞操観念、貞操観念・・・」
 焦燥感のあまりに俺は意味の分からない事を口走りながら酒を呷った。
 少し多めに飲んだアルコールはすぐに酔いとなり、脳髄を痺れさせ不快感を忘れさせてくれる。
 程無くして睡魔が再び襲ってくる。
「・・・悪いな、みすちー」
 お代を置いて、俺はテーブルに突っ伏した。
 今は眠って何もかも忘れてしまいたい。
 そうして、明日はまた“いつもの日常”を楽しみたい。
「――――――」
 何か人の声が聞こえて、暖かなものが頭に置かれる。
 その感覚を最後に認識して、俺の意識は暗闇に堕ちて行った。


「・・・○○寝ちゃった?」
 彼の言葉は何に対しての謝罪だったのだろう。
 答えを知るはずの彼は、目の前で安らかに眠っている。
「しょうがないな~」
 私は苦笑いを浮かべて、○○の頬を撫でてみる。
 彼の体温が、掌を伝わって私に流れてくる様な気がした。
「・・・」
 かつての私なら、この温度は獲物の発する熱としてしか認識していなかっただろう。
 その“妖怪として正しい認識”を変えてしまったのが彼だった。
「好きだよ、○○」
 言葉にするだけで、胸の奥が甘く疼く。
 そして同時に不安になる。
 彼を他の人に取られたりはしないだろうか、と。
 自覚が無いようだが、彼は無意識に人を惹きつける。
 だから今の私の様になってしまった人はきっと他にも大勢いるはずだ。
「・・・ふぅ」
 それがとても切なくて、私は自然と歌を歌っていた。
 本来ならば思いつくままに歌を歌うはずなのに、今日はどうしてか彼が一度だけ歌って聴かせてくれた歌を歌っていた。

―こんなにも ああこんなにも せつない音で泣いてる鼓動が聞こえる―

 歌い終わって、彼を見やる。
「・・・すぅ・・・すぅ・・・」
 うん、今はこのままでも良いかな。
 でもいつか必ず想いを届けなくっちゃね。
 今度はとっておきのラヴソングを聴かせてあげよう。
 彼が起きている時に、二人きりで。


うpろだ464


ある日のことです。
夜雀に恋した男が、告白しようと決めました。
十六夜が天に昇る夜、男は夜雀の元へ向かいます。

人里を出で、森に向かうと真っ黒な球と出会いました。
常闇の妖怪、ルーミアです。
ルーミアは、あなたは食べられる人類?と聞いてきました。
男は、食べられる人類だが、とりあえず両腕で我慢してくれ、と言いました。
ルーミアはにっこり笑って了承し、オマケだよと、両肘から先を食べました。
男は手加減してくれた事に感謝しながら、ついでに夜雀の居場所を聞いておきました。
ルーミアはにこにこと、いつもの場所にいるよと答えました。
男はルーミアに礼を言うと右腕を振りながら別れました。

しばらく歩くと沢山の蟲と出くわしました。
蟲の王様、リグル・ナイトバグです。
リグルは、この子たちのご飯を探してんだけど、と言いました。
男は、両足くらいならいいよと言いました。
リグルは充分よ、と言いながら男の両膝から先をもって行きました。
地面にうつ伏せになった男は全部持っていかなかったリグルを遠慮深いやつだなと思いました。
リグルが別に遠慮したわけじゃないよ、と苦笑しながら言ったので、男もそうかそうか、と苦笑しつついました。
男はリグルに別れをつげ、リグルはホタルのイルミネーションで送り出してくれました。

ひじとひざを器用に動かしながら芋虫のように男が進んでいると、目の前に足が見えました。
見上げてみれば金髪に胡散臭い笑みのスキマ妖怪、八雲紫。
紫は男を見下ろしながら、夜食にいただきたいんだけどいいかしら、と言って来ました。
男は両目をつまみにあげますから後は簡便願えますか、と言いました。
紫はころころと笑いながら頷き、気づけば男は目が見えなくなっていました。
男はそれではお元気でと進み始め、紫は御機嫌ようと声をかけてくれました。

目が見えず、腕も足も男にはありませんが問題ありません。
男には耳が残っています。
男は耳に入ってくる、愛しい夜雀の歌声に導かれるように這い進みます。
ですがその歩みが止まります。
自然の神秘でしょうか、左右違う方向から歌声が聞こえて来るのです。
男は迷いました。
迷って、迷って、迷いぬきました。
そしたら声が聞こえました。
「まったく、何という罪深さ。あなたの悪行は筆舌にしがたい」
硬く、するどい、断罪の声。
それは幻想郷の閻魔、四季映姫のものでした。
「何時もなら説教をくれてやる所ですが、時間がありません。
 あなたの進むべき方向は左よ。
 そして夜雀に出会ったら、ちゃんと告白すること、それが今のあなたに出来る善行よ」
男はこんな自分を気にかけてくれるばかりか、しっかり進むべき方向を白黒つけてくれた閻魔をありがたく思いました。
男は、ありがとうございます、ありがとうございます、と繰り返しながら左へ向かい、
閻魔はそれを痛ましげに見送りました。

近づいてきます。
愛しい、大好きな夜雀の歌声が近づいてきます。
男は声を張り上げました。
「ミスティアァァ」
「○○?」
男の声に気づいたミスティアが飛んできます。
「○○、うそ、なんで」
ミスティアは男の姿を認めると言葉を失いました。
けれど男はそんな事におかまいなしです。
この時のために、この瞬間のためだけに男はここまで来たのです。
「ミスティア」
「○○、ダメだよ、しゃべっちゃ、ああ、もう、ええっと、どうしよう」
「ミスティア」
「ええっと、どこかに、どこかにすごい医者がいるのに、思い出せない、思い出せないよぅ」
「ミスティア」
「ああ、しゃべっちゃダメだって○○」
「ミスティア、好きだよ」
「な、ああ、わたし、私だって、あなたのこと好きなのにっ」
「こんな、一方的にっ」
「○○、○○、ねぇ、○○、ねぇ、しゃべってよっ」
「○○、ねぇ」

そうして、ミスティア・ローレライは歌いはじめました。
透明な涙をこぼしながら、恋人を抱きしめたまま、歌いました。


8スレ目 >>21


「今日は給料日でね・・・霊夢に飯奢ってやって・・・・そしたら家の支払い分が給料から引かれててさ」
「それは災難でしたねー」
此処は雀の屋台、雀といっても妖怪雀だが獲って喰われたりはしない
「だから今の俺にはこんな甘露煮を食べる金しかないわけだよ!あぁ、酒に酔えればどれだけ楽か」
「そうですねぇ」
先ほどから俺が愚痴を投げかけている彼女はミスティア・ローレライ(
「・・・さっきから生返事ばかりじゃ無いか、寂しくて泣いちゃうぞ」
「とりあえず周りを見て、私の忙しさを知ってください」
珍しく屋台はにぎわっており10人弱は客がいるようだ
切り株に座って甘露煮を食っているのは俺ぐらいなモンだ、皆楽しそうに酒に酔っている
「・・・八目鰻・・・蒲焼・・・大吟醸」
「あーもー五月蝿いですね!ブツブツ言ってないで手伝ってくださいよ」
「めどい、あーごめんなさいごめんなさい鳥目はもう懲りましたすいませんすいません」
「じゃあこれをあっちの長椅子のお客さんとこに持っていって」
「うぃ」

「はぁぁぁ疲れたましたー」
「ミスティア乙!」
「すいません手伝わせてしまって」
「謝るぐらいなら最初からもう鳥目はry」
「あまり物でよければ何か出しますよ?」
「すまんなー」
少しこげた蒲焼、ちょっと残った焼酎それと焼きおにぎり
「焼きおにぎりなんてあったか?」
「○○さんが前に食べたいって言ってたから・・・」
「おお!ミスティアが俺のためだけに作ってくれたおにぎり!」
「わざわざ口に出さないでください!」
照れて赤くなっているのか、酒のせいか、提燈のせいで赤く見えるのか
「そういえばお金ないって言う割にはしょっちゅう来ますよね」
「お前に会いに来てんだよ」
「へ?」
空気が凍るとはこの事か、○○は自分が言った事に少し後悔する

「え、その、それはどういう」
「ははは!冗談だよ、冗談!からかって悪かったな」
そう言って○○は席を立ちミスティアに背を向けようとした所で腕をつかまれた
「○○さん待ってください」
「ミスティア?」
「なんで私に優しくしてくれるんですか?何で私のところに来てくれるんですか?私はあなたを食べようとしたんですよ!?」
「そりゃ惚れちまったんだからしょうがないだろ?それに喰われかけたっても喰われてないんだから俺は気にしねぇ」
「○○さん・・・でも私」
「ああもう、鳥のくせにいつまでも昔のこと気にしてんじゃねぇよ!」
そう言って俺はミスティアの口を塞いだ
「んんっ!??」
ミスティアはこれといって抵抗はしなかった、だからそのまま強く、強く抱きしめた
ずっとこのままでいられればと願いながら


8スレ目 >>50・51


  居酒屋日誌

  ○月狐日

  営業場所を移動したので日誌を新しくした。
  向こうで事故って幻想郷に迷い込み何冊目になるだろうか。
  ここで独力で生きていく内にいつのまにか人間をやめていたので
  年月の流れを感じにくくなってしまった。
  まあ、人間だろうが妖怪だろうが俺は居酒屋をできるならなんでもいいんだが。
  そんなことをいまさら考えてしまうのは、今日も店に九尾の狐が来店したからなのかもしれない。
  向こうでもこの幻想郷でも九尾というのは妖怪でも強者の部類にはいる。
  その九尾を式にするスキマ妖怪も存在するのだが
  俺は昔話みたいに九尾の狐は恐ろしいものだと思ってた。

  そんな風に考えていた時期が俺にもありました。
  この狐なかなか愛嬌のあるお人で、初めて交わした会話は
  「なかなかうまいお稲荷さんだ!隠し味はなんだ?」
  である。
  自分の式の寿司を頬張る姿を見て鼻血出している姿をみたら恐ろしさとか
  どこかに吹っ飛んでしまった。
  今ではタメ口でお稲荷さん談義をする仲だ。
  今日の用事は酒が欲しいとのこと。
  なんでも新しい式を鍛えるために必要らしい、酔拳でもしこむつもりだろうか。
  そういえば前々から聞きたかったことだがなぜ九尾の狐は店にある「百合・ゲラー」ブロマイドを見ようとはしないのか。
  元いた世界では有名な超能力者なのだが、謎でしょうがない。

  ○月鬱日

  今日は屋台仲間のミスティアと一緒になった。
  同じ屋台なので同じ場所になる可能性はあるが、最近その頻度が上がっているような気がする。
  八目鰻の屋台と和食専門の屋台が並んでいるといろんな需要に答えられるので売り上げも
  倍増になるので喜ばしいことではあるが。
  そんな中一人の女性がミスティアの屋台に来た。
  酒とツマミを頼んだ彼女はカウンターの端で鬱全開で飲み始めたのだが
  鬱オーラに当てられたか他の客は次々帰ってしまった。
  彼女のオーラで商売あがったりの俺らがほとほと困っていると今度は一人の男が来店した。 
  このオーラに慣れているのかは知らないが、彼が来た瞬間鬱オーラが少し緩和されたのはありがたかったので
  邪魔にならないように奥に引っ込んだのだが、これがいけなかった。
  その後しばらくするとミスティアが顔を赤くして俺の屋台に入ってきた。
  何事かと聞くと
  「さっきのお客さん達・・・き、きすしながらお酒飲んでるよ~。」
  と涙目で訴えてきた。
  一応様子を見に行ったのだが・・・日誌には描写し辛いので割愛しておこう。
  とりあえず二人は泥酔していたのでお帰り願った。
  今朝の新聞にその二人のことが載っていたのでミスティアと苦笑していた。

  ○月@日

  出会いというものは本当にわからないものだ。
  今日は営業場所を白玉楼とよばれるお屋敷の近くに移したのだが、まずお客の多くが幽霊だということに驚いた。
  なかには俺と同じ時代を生きたものもいたので久しぶりに人間時代を思い出しながらついついお客と酒を酌み交わしてしまった。
  お昼をまわったころ、騒ぎを聞いたかこの屋敷の主人が来店した。
  お供に半霊の庭師と人間の料理人が付いてきたがその料理人には見覚えがあった。
  向こうも気づいたか2,3言葉を交わしたら確信。俺が人間のころ、まだ駆け出しの修行時代。
  俺とそいつは同じ所で包丁を学び腕を磨いた。
  才能はソイツのほうが有り俺より一年早く一人前になっちまった。
  俺は悔しくてガムシャラに修行したもんだ、懐かしいな。
  ソイツが行方不明になったのを知ったのは俺が晴れて一人前になり店を構えるときだった。
  神隠しと噂にもなったが75日終わるころには皆忘れちまった。
  俺は目標を失って放浪、そして事故に巻き込まれた。まあその経緯でここにいるんだが。
  久しぶりの再会に屋敷のお嬢も庭師もほっといて話し込んじまった。
  あとでお嬢様がふくれっ面したらしい。こんないい職場で働いているんだ、いい気味だ。

  予断だが昔からの癖はいまだ健在らしかった。
  白玉楼の厨房に案内されたときだ、屋台を同じ場所にしたミスティアが俺のことを聞いたらしく厨房まで来たんだが
  「夜雀が厨房に入るなど禁止ーーーーーーーーーー!!!!!!厨房はいつも清潔でなくてはならなーーーーーーい!!!!!11111」
  と怒鳴ってしまった。
  さすがにミスティアは同業者なので大丈夫と説得しようとしたのだが止まることもなく結果は二人して惨敗。
  あいかわらず厨房では無類の強さを誇っていた。
  クソッ、屋台ならあいつにも勝てるのだがなぁ、とミスティアに愚痴ったら笑われてしまった。

  ○月山田

  今日は珍しく一人での営業だった。
  ミスティアには鰻の仕入れで一緒にいけないと断りまでいれられたので、
  余計に何か寂しい気持ちがした一日だった気がする。
  昼過ぎに閻魔様が来店した。
  人間から妖怪になった俺は初めて閻魔様が来店したと聞いたときはは何か罰でも下るのか、と
  内心びくびくしていたが別にどうこうするつもりはないと言っていたのを覚えている。
  いつもは部下の死神といっしょにいるはずなんだが、と思考したがこっちもいつもと違い
  一人だったのでちょっとだけ仲間意識が芽生えていた。
  ただ、今日の閻魔様はかなり違っていた。
  いきなりうちの店の一番度数が高い日本酒を頼んで一気にあおりだして
  「う、ううっ…あの二人っ!別に、私だって好きで一人身やってるわけじゃないというのに…」
  と愚痴りだしてしまった。
  これはただ事ではないと思って話し相手になったんだが、なんのことはない
  部下に先を越されたらしい。
  その後も延々と
  「人の目の前でイチャついちゃってさ・・・」「私だって恋人はいるんです!でも同業者だからいつもは会えないだけなんです!」
  等々聞かされ続けた。
  それから閉店時刻まで飲み続けてふらふらになりながら帰っていった。
  願わくば閻魔様の恋人よ、とっととくっついてくれ頼むから。
  泥酔閻魔は精神的に疲れる。

  ○月雀日

  いつも通りミスティアと営業。
  最近はほぼ毎日いっしょにいる気がする。

  朝、目が覚めたら隣の屋台からいい匂いがする。
  ミスティアが
  「朝食を作ったから一緒に食べない?」
  と誘ってきた。ミスティアの飯はうまかった。

  昼、開店時間ちょっと前。
  仕込みの仕上げでミスティアが指を切った。
  焦っていたのかわたわたと指を振り回していたのですぐに指を舐めてやった。
  すぐに血は止まったのだがミスティアが今度は顔を真っ赤にして固まってしまった。
  はて、俺はなんか失敗でもしたのだろうか。

  夜、閉店間際。
  本日も売り上げ上々でそろそろ仕入れをしなければと思う。
  少し酒が余ったので俺とミスティアで飲むことにした。
  俺はあまり酒に酔わないタイプなのだがミスティアが酔いだして
  「○○さんはいつも鈍感です。なんで気づいてくれないんで・・・しょう・・・。」
  と俺のことで愚痴り出した。
  昔から周りから鈍い鈍いと言われるがまさかミスティアにまでいわれるとは思っていなかった。ちょっとショック。
  ミスティアは酒が回ったか熟睡していた。
  そのミスティアの頭を膝に乗っけて考え事。
  つまりミスティアは、俺の料理が食べたいとのことだな。
  と、さっきの愚痴られの答えを出してみた。ふむ、明日は俺が手料理を振舞ってやろう。
  これからもよろしくな、相棒。


8スレ目 >>145


♪恋心 君へ差し出した言葉
 今は答えいらないから ただとっていて
 ぼくを動かした君の魅力焼き付けて
 夢で終わらないように願い続けた町の中で

ミスティアー!今は借り物の歌でしか言えない俺だけど
いつか自分の言葉でちゃんと言うから、そのときには答えを聞かせてほしいー!


8スレ目 >>644


「フェッフェッフェフェイエー、フェフェフェイエー、エー、レブレッキン」
「相変わらずひどい歌ねー」
「こんばんわ、愛しい夜雀嬢」
「なんでいっつもここまで来て歌うのよ」
「里だと妙な歌歌うなって怒られて」
「だからって屋台の前で歌うのもどうなのよ、つばが飛ぶじゃない」
「ごみぇん、それよりみすちーに会いたくて」
「はいはい、わかったから早く手伝って」
「本当だってばー」
「わかったわかった」
「俺客扱いされてねー」

歌って本当にいいものですよね


最終更新:2011年03月27日 22:15