ミスティア8



新ろだ2-215


日が沈み、夜が来る。四方どこを見回しても木、木そして暗闇。そして時折聞こえる、何かの慟哭。
それは守るすべを持たぬ人間にとって死の象徴。闇の中の闇。一切の無。
ここ幻想郷の妖怪獣道に、不釣り合いな青年一人、ただひたすらに足を進める。
全く腕に覚えがないというわけでもないが、人間と同等以上の知性を持った妖怪にはまるで歯が立たない。
だから彼は足を進める。唯何も考えず、何も考えないでいられるから、足を進めることに集中する。

何かがいる、何かに見られている。考えたくない。気づきたくない。気づきたく……なかった。
だから青年は気づかない。気づかない……フリをする。辺りは暗闇。暗闇だから見えない。見えないなら……誰もいない。
何かに追われる。何かに後ろを付けられる。距離が狭まる。何かが徐々に青年との距離を詰めていく。
闇が迫る。横目で後ろを見る。目に映るは暗闇。だから何もいない。それでも闇は迫る。そこに闇がいる。闇が迫る。
再び前を向く。前を向いて足を進める。背後の気配と決別するために。
それでも背後の気配はなおも強く、青年を追い詰める。10歩、5歩、3歩、2歩、1歩……

捕らえられる。暗闇に抱かれ、足が止まる。青年を追い詰めた暗闇は両手を背後から回し青年の腹部に回す。
暗闇から伸びる腕はしかし、優しく温かく青年を抱きしめる。まるでその感触を確かめるように。温もりを確かめるように。
青年も一瞬体を強張らせるものの、すぐに脱力し、暗闇に身を心を任せ……

「ミスティア……」

と優しく、背後の暗闇の主――といっても単に青年が鳥目ゆえに視認できなかっただけだが――夜雀の怪ミスティア・ローレライ
その人に声をかける。

「ありゃ、抱きしめられただけで分かっちゃうんだ?」
「普通の妖怪だったら僕を捕らえてすぐに頭からガブリッ……だからな……」
「むぅーちょっと残念。もう少し驚いてくれると思ったのにー」

そう言って頬を膨らませつつも、どこか嬉しさを隠せない表情のミスティア。
そんな彼女をフォローするように青年は返す。

「いや内心驚きのあまり心臓が悲鳴を上げてるんだけどね……。てか驚かせないでよ」
「それはねぇ……誰かさんが危険を冒してまで夜の道を無防備に歩くからいけないんだよ?」
「その……ごめん。どうしてもミスティアに会いたくて」

と、平淡に青年は言う。それは他意の無い青年の素直な気持ちであり、決して目の前の夜雀少女を赤面させようという他意はない。
それでも、目の前の夜雀少女にはあまりにも攻撃力がありすぎたようで……あっという間にミスティアの頬は真っ赤に染まる。
しばらく口をパクパクさせて返す言葉を探す……もとい思考停止中だったがはっと我に返り口を開くミスティア

「えっ!? あっ……その……で、でもっ! それで道中で○○に死なれたりしたら……私が……迷惑……」

ミスティアは呟く……青年を咎めるように、憂いを秘めながら、しかしそれは同時に惚気でもあり、
したがって再び羞恥に頬を染め、そしてトーンダウン。

「本当にごめん。でも大丈夫。こう見えて逃げ脚としぶとさには自信がある」
「今こうして夜雀さんに捕まったか弱い人ネギが一人いるわけだけど……」
「……僕は、一度捕まってからが勝負なのです。それにミスティアになら望む所。僕から捕まりにいくよ」
「……バカね」

呆れるように、そしてやっぱりどこか嬉しそうにミスティアは吐き捨てる。

「馬鹿な僕は……嫌いか?」
「嫌いなわけ……ないじゃない……。それに馬鹿なのはお互い様よ。妖怪の私にゾッコンなあなたも。
 普通の人間さんを此処までダメにしてしまった私も。ふふっ……嫌いになれるわけないわね……」
「いや、僕は僕の意思でミスティアを愛してる。だから気にしないで、そんな些細な事」
「そう言ってもらえると……悪い気はしないわね……むしろ嬉しい……かな……
 私だって○○に負けないくらい○○の事が好きだし……それは私の素直な気持ち……だよ♪
 っと、話を流される所だったわ、と、に、か、く……私は○○が大好きだからこそ……心配してるの! 反省……してよね?」
「……善処……致します」
「むぅ……毎回毎回善処善処って……思えば私達が初めて会ったのもこんな感じだったわね」
「うっ……覚えていらっしゃるのですか……」
「そりゃあいくら私だってあなたとの慣れ始めぐらい覚えてるわよ」

青年――名を○○――とミスティアは屋台の常連と店主という関係であり、
そして今や恋人同士であり、そしてかつては命の恩人でもあった。
幻想郷に○○が来て間もないころ、妖怪に関する知識のない○○が真夜中に妖怪の現れる道に足を踏み入れ、
あわや妖怪に喰われようとする所を、屋台の為に通りかかったミスティアに助けられたのだ。
人を食らう妖怪たるミスティアとしては、別に他の何処の馬の骨とも知らぬ妖怪が赤の他人を食らおうと知った事ではなく、
肉食獣が草食獣を喰らい貪らんとする様をみて食物連鎖という大自然の厳しさを実感しつつも冷徹に達観する人の如く
ただ凛と通り過ぎればよい、いやいっそのこと折角の人ネギを横取りする事すら合理的ではあったのだが、
今にも屋台にて世の中の人間どもに鳥鍋反対を訴えかけ、ついで鳥目→八目鰻→金がっぽり商法を実行しようとする手前、
ここは命だけでも助けて信者を増やすのが得策だと夜雀少女は小さな頭で考えた。
結果思惑は当たり屋台の女将さんはリピーターと鳥鍋反対信者だけでなく、臨時皿洗いと恋仲まで作ることに成功したのだ。

「と、こう言うとなんだかまるで私が○○を利用したみたいね」
「いやいや本当にミスティアには感謝してる。事実、もしあの時助けられてなければ……僕は今ここにいないからね……」
「うー……嬉しいけど胸が痛むわ……と、とにかく、アンタは進歩がなさすぎ!
 もう少し……自分の事大切にしてよ……○○の為にも……私の……為にも……」
「う~ん……ミスティアにそう言われると断れないねぇ……」
「お人よしねホント……そんな○○が私は大好きなんだけれど……さ、行きましょ。屋台まで私に逢いに来てくれたんでしょ?」
「はい……女将さんの居る所なら何処にでも……」
「ふふっ、しゅっぱーつ!」

先程後ろから○○の背に襲いかかった時のまま、ミスティアは相変わらず○○の背に抱きつきながらも足を進めんとする。

「そ、その……そろそろ後ろから抱きしめるの……離してくれても……」
「こうしてぎゅぅぅって抱きしめていないと……
 自信過剰な○○君はすぐ私の手を離れて、そして妖怪に襲われちゃうんだから」
「そんなに僕は怖いもの知らずじゃないってば。それに僕はミスティアの傍を離れたりなんてしないから……疑ってる?」
「それに……一週間ぶりに逢ったんだもの……○○と出会ったの……
 これでも恋焦がれる気持ちは……自身顧みず妖怪獣道を突っ走っちゃう無鉄砲な誰かさんにも負けないつもりなんだよ?」
「ええ、それはもう全身からビンッビンに伝わるのです。しかし何と言うか、体裁……というか……決まりが悪いというか」

と、頬を指で掻きながら、バツが悪そうに不満を漏らす○○。

「あら、屈強な肉体の○○君は華奢な妖怪少女に抱かれるのをプライドが許さない……と?」
「いやとても嬉しいのだけど……恥ずかしい、色々と。男の意地……なんだろうけど……」
「ふふっ、しょうがないわね……うん! そんな男の子の顔、立ててあげなくちゃ……おいで……」

○○を解放すると、両手を拡げて○○を誘うミスティアに、それに答えるようにその細い体を抱きしめる○○。

「好き……大好きだ……ミスティア……」
「うん、私も○○の事が大好き。愛してるよ……○○っ!」

そう言って、照れる○○を強く抱きしめ返すミスティア。
その華奢な腕のどこにそんな力があるのか、意外と強い抱擁に○○は目の前に居る少女がやはり妖怪なんだなと改めて実感した。

「このまま抱きしめ合ったまま屋台に行ったら待っている人はどんな顔するのかな?」
「堪忍してくれ……恥ずかしすぎる」
「私に心配ばかりかけた罰だよっ!」
「うぅ……ミスティアさんが僕をいじめる……」
「ふふっ嘘だよ嘘。手、繋いで行こっか!」
「あ、うん……」

ミスティアが手を差し出し○○がたどたどしくそれを取る。
強く結ばれる手と手。大きな○○の手と、小さく細長いミスティアの手。指と指が絡まり合う。心と心が重なる。
暫く無言で二人は歩き続ける。○○の視界を木々が視界から通り去る。
人間を寄せ付けない夜の道の不気味な木々が茂みがしかし今の○○にはどうでもいいものに思えた。
大好きなミスティアに一週間ぶりに出会えたという嬉しさ、愛しさ。彼女が傍に居てくれるという心強さ。
そして先程から一向に鳴り収まる気配を見せない胸の高鳴り。○○はこれらの事で頭が胸がいっぱいで、背景など空気同然だった。

「出会ってから結構立つけど……やっぱりまだまだ初心だなぁ……」
「ん? なになにっ?」
「えっ!? いや、なんでもない……うん、なんでもない」

○○は心の中で言ったつもりだったが声に出ていたらしく、ミスティアに傍受されてしまう。

「もしかして……照れてる?」
「照れてない」
「本当に~?」
「本当です」
「ふぅ~ん……じゃあ確かめちゃう、えへへっ」
「っ!!?」

突然○○の胸に顔を埋め、そして耳を付けるミスティア。
休むことを知らない○○の鼓動がミスティアの耳へと伝わる。

「凄いね……○○の胸、すごくドキドキいってる。心地よい鼓動……そんなに恥ずかしかったの?」
「違う……それはさっきミスティアが驚かしたからだ」
「照れ屋さんなんだね、○○は……可愛い♪」
「うぅ、そう言ってまた僕をからかう……」
「はいはい、いじけないの~! ほら、もうすぐ屋台だよ? このままいったらお客さんの肴にされちゃうよっ」

前方に薄らと光が見える。光はは徐々に強く大きくなり、やがて屋台の形を映し出す。
明りの正体は家主の居ない屋台の提灯の明かりではなく、どうやらすでに幾人か集まっている人妖の炊いた焚き火であった。
こちらに気がついたのか、手を振る影もある。普通の魔法使いや氷精といった顔なじみの連中であった。

「みんな~♪ お待たせっ!」
「や、どうもです」

勢いよく人の集まりに飛び込んでいくミスティアと、必死に羞恥を隠しつつも愛想よく振る舞わんとする○○。
そしてそんな見事なまでに恋人してる二人に向けられるは料理への期待と二人の仲への冷やかし。
二人の恋仲はすでに周知の事であり、結局のところ○○がいくら足掻こうと酒のつまみとなる事は逃れられない事実なのである。

「それで○○。一週間ぶりに皿洗い……していくんだよねっ?」
「うん、そのつもりできた。少しでもミスティアが楽できたらいいな……」
「えへへ……後でいっぱい賄い飯のサービスしちゃうんだからぁっ」
「おう、うれしいね、がんばるよ」

その後は忙しくも楽しかった。やはり目の前でイチャつかれると酒も八目鰻も進むようで、
一週間ぶりの夫婦漫談? という事もあってかどんどん空き皿がジョッキが○○の流しの元へ回ってきた。
○○は食器を洗うその手を、休めることなく、丁寧に確実に洗い上げていく。
時たま休憩となると……

「はいっ、○○……あーん♪」
「……それ……どうしてもやらないとだめか?」
「……嫌……なの?」

箸で八目鰻の蒲焼の切れ端を箸に取り、○○の目と鼻の先にまで差し出すミスティア。
渋る○○に追い打ちをかけるように周囲の期待の眼差しは降り注ぎ、そしてミスティアも悲しそうに上目使いを決める。
そんな八方ふさがりの○○にとって最早選択肢は一つしかなく……

「いやその……人……みてる…し……っ……あーん」
「あーん♪ ふふっ、どう? 美味しい?」
「うん、美味しいよ。一週間もミスティアのご飯食べてないと体が細胞レベルで欲しがってる気がするね」
「あら、まだまだね。一日で禁断症状が出るくらいにならなくちゃ」
「ははは……それは嬉しいやら怖いやら……」
「ねねっ、今度は私に、ねっ、食べさせてよっ!」
「えっ!? う、うん」

○○は箸を構え、八目鰻を切り分け、そしてそれをミスティアの口元に運ぶ。
再び注がれる周囲の視線。○○の手が箸が羞恥で震える。それを楽しそうに嬉しそうに見つめるミスティア。

「はいミスティア……あーん」
「あーん♪ ん、ぱくりっ……うん、おいしい♪」

なんてラブ&コメディも展開しつつ、楽しい? 時間はどんどん過ぎ去ってゆく。
夜は次第に更けていき終業のお時間。客がみな消え去り、再び二人だけの時間。

「ご来店ありがとうございましたぁ♪ さっ片づけ片づけ……っと思ったけれど、
 ○○のおかげでする事無くなっちゃった。ありがとう○○」
「どういたしまして、女将さん」
「○○がいてくれると本当に助かるわぁ……料理に専念できるし、何より腕もはかどっちゃう!」
「そういわれると僕も嬉しいよ。こんな方法でしか恩を返せないからね」
「律儀ねぇ……今どう思ってるかは別としてあの時の私はただ○○を別の意味で食い物にしようとしていただけなのに」
「いやいやそんなことないって。それにミスティアに感謝することは命を助けられた事だけじゃない」
「えっ?」

まっすぐにミスティアを見つめる○○。ふいをくらったようにキョトンとするミスティア。
○○の眼差しは鋭く、しかし優しくミスティアの瞳に突き刺さり、そして言葉を紡ぎだす。

「こんなにも美味しい鰻を食べさせてくれて、こんなにも楽しい場を提供してくれて、
 おかげでこんなにも早くこの幻想郷に馴染む事が出来たし、困ったときに相談に乗ってくれる仲間が沢山できた。
 ミスティアと話しているととても楽しくて、ちょっぴりまだ恥ずかしいこともあるけれど、でも幸せになれる。
 僕だけじゃない、皆がミスティアに感謝してる。だから皆の分まで……恋人として、良き理解者として……」
 ……ありがとう、ミスティア」

暫くは○○の覇気ともとれるその言霊の勢いに呆気に取られたようなミスティアだが、
やがて時間がたつにつれ、○○の感謝の言葉の重みに気付き始め、徐々に頬が耳が赤く染まってゆく。

「う……うん、私……そんなに偉い? 人を鳥目にして……そして八目鰻で荒稼ぎしようとする私が……そんなに偉い?」
「あぁもちろんさ。美味しい鰻で、一杯の酒で、皆をほっこりさせてくれるミスティアは皆の……そして僕の誇りだ」
「へ…えへへ……○○にそう言ってもらえると……凄く嬉しくて……胸が熱くなって……
 その……上手く言えないけれど……こちらこそありがとう○○……」
「どういたしまして……さっ、それじゃあ僕もこのへんでお暇……」
「な~にいってるの? 私が送って行くわよ」
「えっ?」

帰ろうとする○○の手をギュッとつかむミスティア。

「あ……気にしなくていいんだよ? ミスティアもお疲れだろうし、迷惑はかけら」
「だーかーらっ! 帰り道で妖怪さんにもぐもぐされる方が迷惑だって言ってるじゃない!
 それに、私は迷惑なんかじゃないよ? ひと時でも長く、○○と一緒に居られるんだもの。
 迷惑……じゃない、幸せ……なんだよ?」
「あ……うん、ごめんミスティア。そうだね、一緒だと心強い……うん送って」
「まっかせなさいっ!」

屋台の明かりを消し、たたみ、そして後にする○○とミスティア。
妖怪に襲われる心配で一杯だった漆黒の夜道も、胸の鼓動による爆音に悩まされた逢瀬コースもそこにはなく、
ただただひたすらの幸せが○○の心から満ち溢れていた。
無言で夜道をただただ進んでゆく。言葉がない。が、その空気はとても優しく温かく穏やかだった。
幸せなひと時、胸の鼓動が共鳴する至福のひと時はすぐに過ぎ去り、○○の家の前に到着する。
里の外れにある小さな小屋。幻想郷にきて間もない○○に、暫くの仮住宅。

「今日は本当にありがとうミスティア。そして本当にお疲れ様」
「うん、久しぶりに張り切りすぎちゃったかな……とても幸せだけど、疲れちゃった」
「本当にお疲れ様……何か……御褒美をあげたいのだけれども何もなくてね……」
「ふふっ……御褒美なら……簡単に準備できるじゃない」
「えっ……あ、その、うん」

○○を妖しい視線で絡め取るミスティア。
その言葉だけでミスティアが何を要求しているのかを察した○○の胸が再び高鳴る。ドキドキ、バクバク、胸を締め付ける。

「うん、ミスティア……目、閉じて……」
「ん……これで……いい?」
「うん、目、ずっと瞑っていてね。御褒美……あげるね」

そう言って○○も目を閉じ、手探りでミスティアの背中を抱きしめ、伝う様に頭へ手を伸ばす。
ミスティアからも、○○の体へ背中へと手を伸ばし、抱き寄せるように抱きしめるように、徐々に接近していく。
接近する。お互いの吐息がよく聞こえてくる。もっと接近する。吐息が唇に触れる。さらに接近する。お互いの熱気を顔で感じる。
もっと接近する……

――ちゅ、

唇と唇が触れる。柔らかい感触。温かい感触。二人の優しさが愛が交わり、爆ぜる。
抱きしめる腕に力が入る。体と体が密着する。二人の胸の鼓動がお互いの胸を打ち、響き合い、共鳴する。
全身の力が抜ける。無防備な唇を無防備な体を無防備な心をお互い曝しあう。信頼しているから、愛し合っているから。
柔らかい唇にはどんどん力が込められ、形を変え、その豊かな弾力性で心地よさを相手に返す。

――ちゅむ……ん…ぷぁ……

数十秒とも一刻ともいえる短い様な長い様な、そんな時間が過ぎさり二人は唇を解放する。
解放してなお唇に残る柔らかい、優しい感触に暫くの間恍惚として、○○はゆっくりと目を開ける。

「ふふっ、やっと目を開けた♪」

○○の目に飛び込んできたのはいかにもしてやったりな表情の、ミスティアの顔。

「見て……たの?」
「うん、割と最初の方からね」
「閉じていてって言ったのに……」
「えへへ……ごめんね……○○がキスするときどんな顔してるのかなって……気になっちゃって……
 可愛かったよ、○○が必死になってキスしてる顔……とても可愛かった♪」
「あ……うん……その……どうも……」

羞恥に顔を伏せながらも○○は嬉しさを隠せない様子で、精一杯ミスティアに微笑みかける。
ミスティアもまた、精一杯の嬉しさを、愛しさを、幸せを表現するために○○を強く抱きしめ、その胸に顔を埋める。
最後に、とミスティアの頭を優しく撫で、そして離れようとする○○。

「そろそろ……行くね」
「えっ!? も……もうお別れなの?」
「うん……また明日も行くから……さ、離して……」

と言って抱擁する腕を解く様に促す、がミスティアは止める気配はなく……

「……だ…よ……」
「えっ?」
「……嫌だよっ! 離したく……ないよ……」
「ミ……ミスティア!?」

埋めた顔を持ち上げるミスティア。○○の眼に映ったのは、涙を流し、憤りとも哀しみとも取れぬ複雑な表情で
何かを訴えかける一人の夜雀の少女の姿だった。

「折角1週間ぶりに出会えたのに……もうお別れなんて……嫌だよ……離したくない……手放したくないよ……」
「ミスティア……大丈夫だ……もう一週間なんて待たせない。一週間はただ仕事が入ってただけだ。
 また明日から毎日通える。ミスティアと毎日会えるんだ」
「……怖いよ……○○を手放してしまったら……仕事中無理して怪我しただとか……私に逢う途中で妖怪に襲われたとかで……
 逢えなくなっちゃうんじゃないかって……手放したら最後なんじゃないかって私怖いよっ!」
「ミスティア……」
「もう一週間なんて……ううん、一日でも待ちたくないよ……ずっと一緒に居たい……ずっとお話していたいよ……」
「……僕もだよミスティア……この一週間僕は……心に穴が開いたみたいで……仕事の合間もミスティアの事ばかり考えていて」
「じゃあっ! ……○○……一緒に暮らそうよ……こんなにもお互いを想い合っていて……こんなにもお互いに愛し合っていて
 お互いがいないというだけで日常生活に支障が出るくらいに私達はお互いにダメにして……ダメにされちゃったのに……
 それなのに別々に暮らしているなんてヘンだよっ! ○○と……一緒に生活したいよ……」
「ミスティア……ダメなんだ……僕にはまだようやく安定した仕事を見つけたばかりで全然蓄えがないんだ。
 ミスティアには結構式を挙げさせてやる事も出来なければ満足に食べさせてやる自信もない。幸せにしてあげる自信がないんだ。
 そればかりか僕と一緒に居るとミスティアに迷惑がかかる。僕は自分を顧みない馬鹿だし、その上とても弱い。
 生活力は幻想郷に来る前から全然ないしこちらの世界にはやっと少し慣れたばかりだ。
 ミスティアと一緒になったらきっと僕はミスティアに頼りきりになって……
 今まで以上に僕はミスティアに迷惑をか『○○の馬鹿っ!!』 っ! ……」

夜の人里の一角にミスティアの声がこだまする。突然発せられた罵声に○○は口を止め、腰を引き立ちすくむ。
激昂した夜雀の少女のみが○○の目に映る。○○の見た事のない、否、幻想郷中の人妖が拝んだことのない、ミスティアの表情。
○○が今までに出会ったどの妖怪よりも恐ろしく荒々しいその覇気を目の当たりにして、
弁を続けることも、反論する事も、のけぞる事も唾を飲む事も出来ず、ただ無意識のうちに腰が竦み足が震え冷や汗が噴き出るのみ。

「さっきから『ミスティアに迷惑がかかる』 ってばかり言って……○○は私と一緒に居たいの!? 居たくないの!?」
「……っ……」
「さっき○○私に言ってくれた、私と話していると楽しいって、
 幸せだって、言ってくれた……それを聞いて私とても嬉しかったっ!
 なのにそれは嘘なのっ!? 本心で言ってくれたんじゃないのっ!?
 私は……私の事を気にしない○○の意見が聴きたいよ……○○の素直な気持ちが……心が聴きたいよ……」
「……ミスティア……」

返す言葉もなく、ただ呆然とミスティアの心の叫びを聞く○○に、さらに詰め寄るように、○○に語りかけるミスティア。

「私は……唯○○と一緒に居られればそれだけで幸せなんだよ……
 別に結婚式がどれだけ遅くなっても、それが幸せに出来ない理由になんてさせないからっ!
 ○○は唯と一緒に居られることが一番の喜びなんだよ……○○が私を養えないて言うなら私が○○まで養う、
 私を幸せにできないというなら私が○○まで幸せにする、誰にも文句は言わせないから……
 ……○○に迷惑をかけるなんて言わせないっ! だって迷惑なんかじゃないもん……
 大好きな○○と一緒に暮らせて、大好きな○○を幸せに出来るのは……他でもない幸せだもんっ!」
「……」
「○○は自分勝手だよ……自己中心的だよ……私に迷惑がかかるって言っていつもいつも私を頼ることを回避して、
 自分だけで全て背負って、それだのに私の事になると途端に無鉄砲に行動して、
 もしそれが私の事を想っての行動だって言うのならそんなのウソよっ! ○○はただ、自分の体裁を気にしているだけだよ……
 ○○はただ私の前でかっこつけたいだけだよ……私そんなのいらない。
 弱くたって情けなくたって力量がなくたって私そんなの気にしない。
 私はただ○○にもっと素直に、純粋に私を求めて欲しいよっ!」
「……ごめ…ん……」
「私はただ○○と隣り合ってお話できるだけで幸せ、○○とお話して素直な気持ちをぶつけ合うだけで幸せ。。
 ○○が私の作ったご飯を美味しい美味しいって食べてくれるだけでいい、そして時たまダメ出ししてくれたらそれだけで嬉しい。
 ○○が私の隣でお皿を洗ってくれるだけでいい、指でこするだけで音が鳴るようなピカピカのお皿を私が必要な時に常に傍に置いてくれるだけで私はとても助かる。
 ○○が優しく私の事を抱きしめてくれるだけでいい、私が抱きしめたいと思ったときに手の届く位置に居てくれれば私は幸せ。
 ○○が今日も一日お疲れ様って労ってくれればそれでいい。それで頭を撫でてくれたり、肩を揉んでくれたり、キスしてくれたりするのが私の明日への活力になるから。
 ○○がいつも傍に居てくれるだけで幸せ。○○が傍に居てくれれば私は幸せ。○○となら、どんなことだってできるし、どんなことだって楽しい」
「……ミス……ティア……」
「ねぇ○○……私を……○○にとっての幸せで居させて……いつもいつでもいつまでも……私に幸せそうな○○を見せてよ……
 ○○が私のおかげで幸せを感じてくれるのが私は一番幸せ……だからもっと頼ってほしい。もっと甘えて欲しい。
 もっと近くに、いつも触れるぐらいに近くに居て飾らない、隠さない、素直な、幸せな○○を見せて欲しいよ……」

ミスティアは言い終わると、再び○○の胸に顔を埋め、その涙で○○の服を濡らしてゆく。
やがてミスティアの咽び泣きが終わったのを見計らい、○○はそっとミスティアの顔を持ち上げる。

「ミスティア……離して……」
「○…○……」

○○はまるで何事もなかったかのように、そっとミスティアの肩に手をかけ、再び離れるように促す。
自分の想いが届かなかったと、失意の表情を見せるミスティアに、○○はあわてて続ける。

「大丈夫……僕はもうミスティアの元を離れない……ただちょっと……荷物をまとめる準備をさせてくれ……」
「えっ!?」
「こんな小さなボロ屋だからな、大したものはおいてないんだ。だからすぐ終わる。……手伝って……くれるかな?
 それから僕の新しい住居だね。いずれは二人の家を持ちたいなぁ。ははっ、お仕事頑張らなくちゃだな。
 だからそれまで、ミスティア。僕をミスティアの家に置いてくれるか? ミスティアの傍に置いてくれるか?
 今まで以上に……ミスティアを幸せにする役目を……果たさせてくれるか?
 今まで以上に幸せになった僕を……見つめていて……くれるか……?」
「○…○っ!」

肩を抱きミスティアの瞳をじっと奥まで覗き込む○○。それを見上げるミスティアの表情は明るく、喜びの涙が流れていた。

「ミスティアの言うとおりだ。僕は、ミスティアの傍に居られる事が幸せだ。ミスティアとお話しできるのが幸せだ。
 ミスティアの歌を傍で聞いてあげられる事が幸せだ。ミスティアの作ってくれた料理を食べられるのが幸せだ。
 ミスティアのお傍で、お皿洗いができるのが幸せだ。疲れたミスティアを傍で労う事が出来るのが幸せだ。
 ミスティアと一緒に手を組んで歩く事が出来るのが幸せだ。ミスティアとキスしたり抱きしめ合ったりするのが幸せだ。
 ミスティアが幸せそうな顔を僕に向けてくれるのが幸せだ。僕の手でミスティアが喜んでくれるのが幸せだ。
 今やっと気がついた。僕はこんなにも幸せだった。そしてもっともっと幸せになれる術があったんだ。
 そしてミスティアを、大好きなミスティアを幸せにする方法もこんなにも近くに……
 ミスティア……貴女は僕の幸せだ……そして僕は、ミスティアの幸せで在り続けたい……
 今までごめんミスティア。僕はミスティアの想いにずっと気付けなかったばかりか自分の気持ちにも嘘をついて来た。
 『恋人同士』『愛してる』なんて言っておきながら僕は自分の事だけを、自分の体裁だけを考えて自分を偽ってきた。
 ……一緒に暮らそう! 僕はずっとずっとミスティアに傍に居て欲しい。もうミスティアが傍に居てくれないとダメなんだ。
 やっと気づけた。いや、やっとミスティアの前に素直になれた。これが本当の僕だ。
 とても頼りなくて、力量もなくて、馬鹿でとても甘えん坊でどうしようもない奴だが、世界で一番貴女を愛している。
 もう……ダメなんだっ! ミスティアが居ないと僕はダメだ。ダメにされてしまった。僕の心はミスティアの物だ。
 だからミスティア。責任を取って一緒に居て欲しい。僕も、ミスティアをダメにした責任として一緒にいたい」
「うん……もうずっと一緒だからっ……もう絶対に離さない、逃がさないんだからっ!!」

再び○○の胸元へ顔を埋め、涙でその服を濡らす。違うのは怒りと哀しみの涙から、喜びと幸せの涙へと変わったという事。
感極まった妖怪の腕力という事で、見た目は少女といえどもやはりその力は普通の人間の手に負えるようなものではなく、
あわてて○○はバランスを取り、ミスティアの腕に手をかけてそれを制する。

「あ……こら強く抱きしめすぎっ……と、とりあえず荷物まとめるからな、離さない、はしばし勘弁してくれ……
 ……改めて今日から、僕たち真に恋人だ……愛してる、ミスティア……この世の誰よりも……」
「うん……私も……○○大好きだよ♪」

一刻後、背中に風呂敷を担いで肩を寄せ合う何とも奇妙な二人組が夜明けの妖怪獣道を遊歩していったとか。


Megalith 2010/10/23


前略。俺は今頭を抱えています。

「もう一回、言ってみ?聞き間違えたかもしれん」
「ん?○○の家に暫く泊めてって言ったの」

小首を傾げる桜色の少女に、俺はため息をつく他、なかった。










「・・・・・・うん、じゃあ整理してみようか」
「?」

更に小首を傾げて不思議そうにする目の前の少女。
普段、屋台で見せる女将然とした雰囲気はそこにはない。あぁもう可愛いなぁ。
・・・・・・ってそうじゃなく。

「何でミスティアはここに来たんだ?」
「えーと、屋台が壊れたから。直るまでここに居ようかと」
「いやいや妖夢。屋台じゃなくて自分の家は?」
「元々森に住んでたんだもん。家なんて作ってないよ」
「・・・・・・じゃあ野営すればいいじゃないか。お手の物だろ?」

何でそこで俺の家に転がり込むって選択肢が出てくるんだ・・・・・・。
再びため息をつく。

「いやぁ。屋根の下で過ごす快適さを覚えちゃったもので~♪」
「だから待て。そこで転がり込まれる方の気持ちも考えろ。っていうか屋台ってそんな快適だったか?」

ビシッと突っ込んでやる。うん、ここで甘い顔しちゃ駄目だ。
骨の髄までしゃぶり尽されかねない・・・・・・!

「藤原さんって、知ってるよね?」
「ん。あぁ、あの火の鳥の人」

この覚え方もまぁどうかと思うが。
たまにあの人もあの屋台に出没する。
ついでに焼き鳥持ってこられることにミスティアは毎回半泣きになるのもお約束だ。

「うん。あの人。焼き鳥はまぁ困るんだけど、やけにうちを気に入ってくれたらしくて、屋台を改造してくれたのよ」
「へぇ」
「水道電気ガス完備に仮眠室完備にお風呂完備の生活空間の場所をくっつけて」
「いやいやいや待て待て待て」

それ最早屋台じゃねーだろ!?
どーりで最近謎のスペースが奥にあるなぁと思ったよ・・・・・・。

「で?その便利な暮らしにすっかり慣れちゃったから今更外で生活する気にならないと」
「その通り~♪○○はやっぱり察しが良いねっ」
「・・・・・・じゃあ次だ。何でうちに来た。他にもっとあるだろ、博麗神社とか博麗神社とか博麗神社とか」

厄介人を押し付けるならあそこは中々便利だ。家主もぶっきらぼうだが、なんだかんだ甘いしな。
紅白巫女にこんなこと言うと怒られそうだが。

「○○の家が良いのよ~♪温もりある家~」
「いやだから何でだって」
「楽しそうだから」

言いやがったよ。しれっと言いやがったよ。
そんなに俺面白いキャラしてねーぞ。
いやまぁこういういたいけな少女に頼られるのは嬉しいけどさ男として。
残念ながら中身普通に妖怪だけど。

「・・・・・・」
「いいじゃない。美味しい料理、食べさすよ?あぁ、勿論○○には手出さないから。
 美味しそうだとは思うけど人はもう食べないように決めてるの」
「まぁ人食い妖怪の屋台なんざ誰も行こうとは思わないだろうからな」
「そういうこと~。で。駄目?」

・・・・・・正直ミスティアの料理と言うのはかなり魅力的だ。
最近特に腕を上げており、評判もうなぎ登りだと聞く。
かくいう俺もそれを目的として屋台に結構な頻度で通っているわけだし。

だが。もう1つ、問題がある。俺は男だ。そしてミスティアは女だ。
だから・・・・・・その、間違いも起こりうる可能性もあるわけで。

「・・・・・・いやな?男一人女一人、一緒に同居って問題があると思わないか?」
「ん~何で~?」
「いや、だから・・・・・・」
「構わないよ。○○にだったら何されても」

・・・・・・口ごもる俺に対しそんなことを満面の笑みで言われた。
いやいやいや、ミスティアさん?今なんて言いました?

「は?」
「いや、だから。○○にだったら何されてもいーよ。
 それに、あんまり酷いことはしないだろうし。ヘタレだし。
 そもそも襲われても怖くないし。弾幕的な意味で」

うふふ、なんて笑いながらそんなことを言う。
・・・・・・こいつは意味分かってて言ってるんだろうか。言ってるんだろうなぁ。
あの連中の酒に付き合ってくうちに大分性格も悪くなったように思う。

「ヘタレ言うな。っていうかそういうことを冗談でも言うもんじゃない」
「冗談じゃないよ?」

鈍いなぁ、とやれやれというポーズでため息をついてくれやがった。
・・・・・・冗談じゃないってどういうことだよ。

「だって私、○○のこと、好きだもん。それが理由。駄目?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

いやいやいや待て待て待て。この目の前の少女は今上目遣いで何言ってくれた?
俺のことが好き?冗談だろ?からかってるんだろ?
そもそも俺とミスティアの関係って屋台での客と店主の関係であってそれ以上じゃなくって・・・・・・。
何でそこでそんな言葉が出てくるようなことが?
あれ?もしかして俺、酒が入ったとき何かやらかしたか?思い出せ思い出せ。

「おーい、もしも~し?」
「・・・・・・はっ!いや、お前・・・・・・本気か?」
「本気じゃなかったらこんなこと言わないよ」

むぅ~、と膨れる。その頬は真紅に染まっていて・・・・・・。
成る程、どうやら本気らしい。まさかこうなるとはなぁ・・・・・・。
俺は頭をポリポリと掻きながら、どう答えるべきか、考えた。

「俺は、好きだ、とは言い切れんな」
「・・・・・・どうして?」

何処か怯えたような、不安そうな顔をされる。

「だってそうだろう。俺もお前も、所詮は屋台での相手しか知らない。
 それで好きだ、なんて簡単には言えない。・・・・・・だから」

そこで俺は言葉を一旦区切る。
・・・・・・そして息を吸って、落ち着いて次の言葉を続けた。

「こうして折角お前から言ってきたんだ。一緒に暮らそう。
 そして、お互いを良く知ろう。一緒に料理して、ご飯食べて、掃除もして。外に出て。
 そして近づいていって近づいていって・・・・・・。お互いの知らなかったことを、知っていって。
 そうすればきっとお互いに好きだ、って自信をもって言えると、思うから」

俺の偽りのない気持ちを、紡いでいく。

「だから、これからよろしくな、ミスティア」
「・・・・・・うんっ!」

その時見せた彼女の笑みは、とても晴れやかで。
俺の中で今でも強く、残っている。










「・・・・・・と、いったところだ。同居生活始めた切欠ってのは。それが2ヶ月前だな」
「おい、霊夢。お茶あるか。とびっきり渋いの。甘いのろけ聞かされて口の中が甘ったるいぜ」
「出がらしで良けりゃあるわよ」
「酷っ!?客人に対してそれは酷いだろ!?」

――博麗神社。
いつもながら参拝客の居ないこの神社には、霊夢と魔理沙と、俺とミスティアが居た。

ミスティアは耳たぶまで真っ赤にしている。あぁもう可愛いなぁ。

「屋台はもう直ってるのよね?なのにまだ同居してるの?」

霊夢はお茶を啜りながらそう聞いてきた。
それに対し、魔理沙は茶化すように言う。

「当然だろ?二人はもう式まで済ませた仲なんだ。夫婦なら一緒に暮らしていて当然、だろ?」
「・・・・・・まぁ、そういうこったな」

隣のミスティアの頭を撫でながらそう答える。
益々赤くなって林檎のようになっている。愛いやつだ。
――そう。俺らはもう、婚約している。

「色々あったんだがな。まぁ、なんだかんだ気が合ったというか、相性が良かったというか。
 一緒に暮らし始めたら後は早かったな。一月したらもうゴールだ」
「相性ねぇ。あっちの方か?」

にやにやと黒白はそんなことを言ってくる。
・・・・・・はしたないな。年頃の少女なのに。まぁ、憎めないが。

「そういう問題じゃねー。まぁ、お前も好きなやつが出来て、一緒に暮らしたら分かるさ」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ」

そう断言してやる。・・・・・・すると、今度は霊夢が口を挟んできた。
なんだかんだいってやっぱり気になるのだろう。
こちらも年頃の少女なことに、変わりはない。

「でも、何でミスティアはそんな唐突に○○のところに言って、告白して押しかけたのかしら」
「・・・・・・そこは本人にしか分からないなぁ」

そういって隣を向くと、恥ずかしさに耐え切れず俯いている彼女の姿がある。
羽もパタパタしている。可愛い。

「うぅっ・・・・・・もうやめない?この話・・・・・・」
「嫌だね。こういう他人の恋話ほど面白いものはないんだぜ」
「・・・・・・だ、そうだ。諦めろ。こいつらにロックオンされた時点でどうしようもない」
「・・・・・・うー。それじゃ、言うけど。屋台に来ていた○○に、一目惚れしちゃったのよ。
 誰にでも分け隔てなく喋っててさ、そして明るくて、気が利いて。
 時たま疲れてるときなんか気がついてくれて声をかけてくれたりして。優しくて。
 だから、どうにかして近づきたいなぁ、と思ってて。その矢先に屋台が壊れちゃって。
 これだ!って思って思いっきりアタックして。それで勢いで、つい・・・・・・」

モジモジと答えるミスティア。そこまで言い終えるとまた俯いてしまった。
・・・・・・いや、流石にこれは恥ずかしいな。俺も。

「成る程ね~。ベタ惚れじゃない。良かったわね、○○」
「・・・・・・今度はこっちが恥ずかしいな、全く」
「そんじゃ、この仲睦まじい二人を祝して宴会と行こうぜ!」

・・・・・・いや、何でそーなる。そもそも式を挙げたのは一ヶ月前でその時も散々騒いだろうに。
まぁ、騒ぎたいだけなんだろうなぁ、多分。

「・・・・・・別に良いけど、うちでやるんじゃないでしょうね?」
「勿論ここだが」
「・・・・・・はぁ。片付け、やりなさいよ?いつも大変なんだから」
「分かってる分かってる」

いつもながらのやり取り。あいつ絶対分かってないな・・・・・・。
今日も霊夢が一人、ため息をつきながら後片付けすることになるのだろうな。ご愁傷様だ。





これからも。こんな日々が続く。そしてきっと退屈しないだろう。
だって、俺には素敵な、可愛らしい歌姫が傍に居るんだから。





「ま、これからもよろしくな。ミスティア」
「うん。こちらこそ。○○」


いつまでも、幸せに。


最終更新:2011年01月15日 12:02