慧音4
うpろだ234
「慧音、調子はどうだ」
「まあまあだ。だいぶ楽になってきたぞ」
布団から返ってきた声は割と元気だ。一先ずは安堵する。
昨夜に慧音が突然出してしまった熱。念のために呼び寄せた永遠亭の薬師が言うには、
「働きすぎ、か。半分人間だから過労はあるんだな」
「恥ずかしい限りだ。こんなに心配もかけてしまって……」
慧音が視線を向けた先には、籠に入れられた花を始め、多くの見舞い品が置かれている。
昼間、慧音のピンチヒッターに寺子屋に行った帰りに子供たちから渡された物だ。
「皆直接見舞いに来たがってたぞ。お前に言われたとおり断っておいたが……」
「来てくれたばかりに移してしまったら申し訳ないからな。これで良かったのさ」
なんとも慧音らしい気遣いだ。そこがもどかしくもあるのだが。
「それだけ慕われているってことさ。そうでなければ心配されることもない」
「……そうだな。本当にありがたいことだ」
慧音は感慨深いように呟き、こちらに顔を向けて言う。
「お前も、心配してくれたんだろう?」
「……当たり前だろ」
そうでなかったら看病なんてしていない。
助けて貰ったり居候させてもらっている恩も勿論あるが、何より好きな女を心配しない奴など居るはずがない。
慧音が向けてくる笑顔に気恥ずかしくなって、思わず頭をかいた。
ここで一旦会話をやめ、さっきから続けていた台所での作業に戻る。
作っているのは料理スキルゼロの俺でも作れる、病気のときの定番だ。
……そういえば、こんな状況だからこそできる行為があったな。やってみる価値はあるか。
「ほれ、粥作ってやったぞ」
「ああすまない……何をやってるんだ」
掬った粥を吹いて冷ましていたら慧音に怪訝な顔をされた。そんなに怪しいもんかね。
どうやら俺の意図していることに気付いたらしく、
「……態々そんなことしなくてもいい。自分で食べられる」
「俺がしたいだけだから気にするな。ほれ、あーん」
気にせず粥を突きつけると、
「……あーん」
少し逡巡した後、それを口に含んだ。
慧音が飲み込むのを待ってから話しかける。
「意外だな。もうちょっと嫌がるもんかと思ってたんだが」
「……お前だからさせるんだ。妹紅にもさせんぞ、こんなこと」
「……それは俺に気があるのだと解釈してよろしいか」
「ば、馬鹿なことをいうな! そんな筈ないだろ……多分」
「多分ってなんだよ」
珍しくはっきりしない慧音の額を小突く。慧音は痛そうに額を押さえた。
曖昧に言われると変に希望を持ってしまうじゃないか。慧音みたいないい女が俺なんかに惚れる筈無いし。
「むぅ、それが病人に対してすることか?」
「悪い悪い。そら、続きだ」
「いや、後は自分で食べるから大丈夫だ」
「そうか? ならいいが」
せめてもう一回ぐらいは、という希望が頭を過ぎったがすぐに打ち消す。
病人に無理強いは良くないしな。一回やらせてもらっただけでも良しとしよう。
ゆっくりと粥を食べ終えた慧音は、食器をこちらに手渡すと軽い伸びをする。
「よし、この調子なら明日からまた寺子屋に行けそうだ」
おいおい、この半獣は。
「病み上がりで行く気か? 移したくなかったんじゃないのか」
「白沢を舐めないことだ。この程度の風邪ならば一晩で治る。永琳殿の薬もあるしな」
「いや、しかしな……」
確かに永琳さんの薬も効いているようで見た感じ元気そうに見えるが、それでも心配なものは心配だ。
そう思って頭を振ろうとすると、慧音のほうから、
「勿論体力は完全に戻ってないからな、そこでお前に手伝ってもらう」
「……本気ですか?」
「間違いなく本気だ。それともなにか不満でもあるのか?」
「不満というか……不安のほうだな。昼間行ってみて俺に教師の真似事が向かないことがよく判った」
遊び盛りの子供ばかりなので、皆騒がしかったり落ち着きが無かったりと席に着かせるのも大変だった。
あのわんぱくどもにいつも教えているというのだから、改めて慧音は凄いもんだと実感した。
「私のいるときだっていつも静かなわけではない。細かな話し声ぐらいは聞こえるさ。
子どもは元気が一番なわけで……と、それはともかく手伝ってくれるな?」
それに関しては実は異論ない。さっきはあんなこと言ったが、慧音の頼みという時点で断るつもりなどないのだから。
それでも一つだけ確認しなければならないことがある。
「別に構わんが……一応最終チェックな」
「チェック?」
ああ、と軽く答え、疑問符を浮かべたままの慧音に近づき、
額と額をくっつけた。
「なっ……!?」
慧音の顔が見る見るうちに赤くなる。これは……
「まだ熱あるじゃないか。これじゃ明日は無理……っと、うおぉっ!?
いきなり弾を飛ばすな! 鼻に掠ったじゃねえか!」
飛んできた弾を咄嗟に避けて文句を言うと、慧音のほうも言い返してきた。
「間近にまで顔を近づけるほうが有り得ないだろう!! 驚いたじゃないか!」
「なんだ、キスされるとでも思ったか? そいつは残念だったな! つーかさせてくれるんだったらむしろ喜んで!」
「寝ていろこの馬鹿者っ!!」
――ドスンッッ!!
慧音の神速の頭突きが土手っ腹に突き立った。
「かはっ……!」
その場に膝を折る。準備動作すら視認できない、まさしく神速の突きだった。
「ぐっ……病み上がりでも威力は変わってない、か……!」
「当然だ。明日は絶対に手伝ってもらうからな、覚悟しておけ」
「言われなくても……あ、やば……」
その場に立ち上がることもできず、そのまま俺の意識は闇の中へと落ちていった。
「やれやれ……」
急に静寂が戻った室内に声を漏らす。さっきまでの喧騒が嘘のようだ。
「お~い、○○起きろ」
地面に崩れ落ちたまま動かない○○に呼びかける。が、反応はない。
……本当に寝てしまったのか。自分でやったこととは言え、少々やりすぎた感がある。
朝になったら謝ろうかと思ったが、こいつがやった所業を思ったところでその考えは捨てた。お互い様というやつだ。
……思い出したらまた恥ずかしくなってきた。顔が赤くなっているのが自分でも判る。
「お前にだったら口付けぐらい……」
無意識に口から出た邪な考えに、頭をブンブンと振る。
落ち着け、人間の本質は理性なのだ。この程度の感情も制御できずにどうする。
自分が半分妖怪であることは置いといて、とりあえず深呼吸。……よし、落ち着いた。
落ち着いたところで早く寝よう。予想外に騒いだので疲れてしまった。
あ、でもその前に○○の奴をどうにかしないと……
「…………」
一つ妙なことを思いついてしまった。
頭に浮かんだそれを打ち消そうとするが、なかなか消えてくれない。
……実行するしかないということなのか。最近○○の影響を受けすぎている気がする。
とりあえず○○を私の布団に入れて、体勢を変えて……こんなものか。
「これで○○の腕枕ができた、と……」
少しでも卑猥な想像をした者は正直に挙手しろ。先生がなかったことにしてやるから。
男女が同じ布団で寝ることが卑猥なのだ、と言われたらそれまでなのだが。
ええい、私はいつもこいつの馬鹿に付き合っているんだ! これぐらいのことは許されてしかるべきだろう。
強引に己を納得させてから、灯りを消して布団に潜り込んだ。
暗くて見えないがすぐ近くに○○の気配を感じる。
それが判っていても自分からしたことだからだろうか、先程のように慌てたりはしない。
冷静になって考えると、こんなことを思いつくということは私はこいつに好意を持っているのだろうか。
「……うん、きっとそうだな」
認めよう。私はこの人間のことが好きだ。
声に出して言い切れるほどではないが、それでも確かにそう思っている。
では○○のほうは私のことをどう思っているんだろう?
「心配してくれたということと、好きだということは別物なわけだし……」
……不安だな。○○の気持ちが判らないというだけのことなのに。
勿論相手の気持ちを知ることなど、あのスキマ妖怪でもない限り不可能だとは理解している。
それだけ判っているというのに、自分の本当の気持ちを確認してみた途端にこの有様だ。
「長く生きてきたつもりだが……まだまだだな」
考えたところでどうにかなることでもないしな、そろそろ本当に寝よう。
だけど……その前に一つだけ願っておきたい。
お前がいつか、私の気持ちに答えてくれますように――――
うpろだ245
「ただいまっと」
と言いつつ俺はいつものように慧音の家のドアを開けた
「慧音いないのか?」
「……」
居間に行くと慧音がいた、返事をしてくれなかったみたいだ。
「慧音、ただいま」
「……お帰り」
やっと返ってきた答えなぜかものすごく不機嫌だった。
「なんか不機嫌だな、どうした?」
「さあな、朝起きていきなり
『昨日はすっげぇ雨だったから今行けば大物が釣れるかもしれない!』
などと言って寺子屋の手伝いもほっぽり出して釣竿持って飛び出してやつには
わからんだろう」
とすげえ不機嫌そうに言った
「思いっきり理由いってるじゃな……」
「……」
なんか反論しようとしたら物凄い空気が重くなった。
このままだとさすがにやばいので用意しておいた物を取り出した
「悪かったって、ちゃんと土産も持ってきたぞ」
ドンッ!と音を立てて土産をちゃぶ台の上に置いた。
「……コレが土産か?」
「そうだ」
「なぁ○○確認しておくが、お前は釣りに行ったんだよな?」
「そうだ」
「ならなんで、土産が酒なんだ?」
「ん?慧音は酒嫌いだっけ?」
「いやそんなことはないが、むしろ結構好きだが」
「なら問題ないじゃないか?俺は酒は飲めないから
全部飲んでくれていいぞ」
「そうか?ならもらっとくが……しかし本当にどうしたんだコレ?」
「ああ、最初に釣りに行って結構早いうちに大物が釣れたんだよ」
「そうなのか?それなら昼までに戻って来い、私はちゃんとお前の弁当も作ってたんだぞ」
「それはすまんかった、んでその魚をさ橙がほしがってさ、あげんたんだよ」
「ふむ、そのお礼にコレをもらったとかか?」
「いや藍さんはお礼にっていなりずしを分けてくれたんだ、そしたら
それを魔理沙に取られてかわりにキノコをもらって、そしたらそれを
うどんげが使うって言ったから渡して、かわりに人参もらってそれで…」
「ちょっと待て」
俺がここまで言ったときに慧音が遮った。
「何だ?」
「酒はいつ出てくるんだ?」
「まだ結構先だな」
「お前はわらしべ長者か……もういい結局コレは誰にもらったんだ?」
「霊夢だ、確か米と交換したんだ」
「人参が米になったのか……」
「いや人参はたけのこと交換してそれを……」
「だからもういい……」
「そうか?」
「お前が私をほったらかしてそこらじゅうウロウロしてたのはよく分かった」
やっぱりまだ不機嫌だった
「それはすまなかったって言ってるじゃないか、ほらお酒飲むだろ
今晩は付きやってやるから、俺は飲めないけど」
そう言って晩酌の用意をしてやると慧音は渋々杯を持った
「ホラホラ、イッパイノンデヨ、シャチョサーン」
「なんだそれは……っ!○○この酒かなり強くないか?」
「俺に酒のこと聞かれてもわからんぜ」
「そうだったな、しかしうまいがやはりかなり強いぞこれは」
「ホラホラ、ツマミモアルヨ、シャチョサン」
「そのしゃべり方はやめろ……」
という感じで何とか慧音の怒りをしずめることに成功したのだが
三時間後俺は後悔の渦の中にいた
「だからだな、お前はもっと後先を考えた行動をだな……」
「ああそうだな」
あれから三時間俺がもらってきた酒は予想以上に強く
慧音は完全に絡み酒モードになっていた。いつもならこんなことはないのだが
どうも酒が口当たりがよく飲みすぎてしまったらしい
「聞いているのか!○○」
「はいはい、聞いてるよ」
結果今の状態になったわけだ
「大体今日だって……」
この話も何度目かもう忘れた
「聞いてるのか!」
「はいはい」
もう俺も返事が適当になってきた
「私はちゃんとお前が来てもいいようにちゃんとお前の分も
弁当を作っておいたんだぞ」
「ああ、すまんかった」
「前からお前は私に対する思いやりが足りないんだ」
「ああわかったこれからは気をつけます」
「明日からはちゃんと思慮深く行動しろ!」
「はいはい」
「昼はちゃんと一緒に弁当を食べろ!」
「はいはい」
「明日からは手をつないで歩け!」
「はいはい……ん?」
なんか要求が変だった気が……
「たまにはぎゅーーってしろ!」
「は?」
「朝はおはようのキスだ!」
「ちょっと待てって!」
「夜は一緒に寝ろ!」
「いやだから、なんかおかしいって慧音…」
「うるさい!わかったか!」
「いやだから…」
「分かったら返事は!」
「だから…」
「返事は!」
だめだ聞いてくれない、とりあえずここは
「わかったから、とにかく落ち着けって」
とにかく落ち着かせるのが先決だ、俺がそう答えると
「そうか、分かったならいいんだ」
そういってうれしそうに笑った
「ああ、やっと落ち着いてくれたか……」
「わかったのならさっそく」
そう言ってこっちに飛び込んできた
「ちょっ!なんだ、どうした?」
「今日は一緒に寝る」
「はぁ!なにいってんだよ、慧音!」
「さっきわかったと言ったぞ、お前は」
「それはそうだけど」
「だから今日は一緒に寝る」
そう言って俺の首に腕を回したまま目を閉じた。
「マジかよ……」
そのまま俺が動けずにいると寝息が聞こえてきた
「本当に寝たよ…どうしたらいいんだよ」
俺はとにかくこのままだと風邪を引きかねないので
慧音をぶらさげたまま布団を敷いたのだが
どうしても慧音が首から外れずそのまま寝ることになったのだが
だが慧音の寝息が気になって寝るまでにすごく時間がかかった
翌朝、起きてみると慧音はいなくなっていた
台所に行ってみると慧音は朝食の用意をしていた
「おはよう」
「お、おはよう」
慧音は明らかに動揺していた
「なぁ慧音」
「な、何だ?」
「昨日の事覚えているのか?」
すると顔がすごい勢いで赤くなった
ああコレは覚えているんだな
「何のことダ?」
なんか声が裏返ってた
まあまた不機嫌なられても困るしな
「そうか、ならいいんだが」
深く突っ込むのはやめた
その後朝食を終えて寺子屋に行くことになった
今日は俺も手伝いについていく
「さ、慧音行こうぜ」
「あ、ああ」
まだ動揺したままだった、俺はそんなに慧音に手を差し出した
「……?」
「手をつないで行くんだろ?」
「なっ!」
「ほら、先生が遅刻したらシャレにならんだろ?」
そう言って慧音の手を握る
「ほら行くぞ」
「……ああ!」
慧音は俺の手をぎゅっと握り返してくれた
うpろだ265
夏も本格的になり物凄く暑い日が続くなか
幻想郷の恋人たちは夏の暑さにも負けずにそれぞれに自分たちの熱い愛を
確かめ合っていた。
「それはかまわんのだが、さすがにこうも日が高いうちからというのは……」
私は先ほど訪れた妹紅、阿求の家のことを思い出していた
「さすがにアレはな」
夏の暑さに浮かされたようにも思えたがアレらも愛の形なのだろうか?
「私にはあそこまではできないな」
しかしそんなふうに考える一方少しうらやましいような気もしていた。
彼らのように素直に恋人に接したい。
この前の一日遅れの七夕の日からそんな気持ちは強くなっていった。
『このまま幻想郷で慧音と楽しい日々がおくれますように』
彼はあの七夕の夜、こんな願いを短冊に書いた。
それは彼が自分とともに生きることを誓ってくれた証だった。
今でもそのことを考えると顔がにやけてしまう、
そして私は早くその溢れてくる感情の実感を得るために
○○の待つ家へと急いだ。
「ただいま、○○!」
私は勢いよく家の戸を開けるといつも彼がいる部屋へ向かった。
「ああ、おかえりぃー」
彼の声が聞こえてくる、私の歩みはさらには早くなり彼の部屋へと入った。
ああ、とりあえず○○にどうしようか、それこそ阿求のように思いっきり
○○に飛び込んでしまおうか、私はそんないつもは考えないようなことを考えていた。
私も結構夏の暑さに当てられていたのかもしれない。
しかしそんなことを考えて部屋に入った私の目に飛び込んできたのは
下着一枚で仁王立ちした○○だった。
この暑さですっかり忘れていたが私の恋人も結構アレだったのだ。
「いきなり思いっきり頭突きってのはあんまりだと思うんだよ」
オデコをさすりながら○○はそんなことを言うが、明らかに自業自得だった。
さっき仁王立ちした○○を見た時私はとりあえず○○に頭突きをかましてから
浴衣を羽織らせたのだ。
「お前が女性の前に下着一枚で現れるのが悪い」
「そうか?」
「そうだ、全く何を考えているんだか……」
「そんなに怒らなくてもいいと思うんだけどな、なんか慧音今日機嫌悪くないか?」
「悪くない!」
そういって○○の反論を遮った、なんとなくさっきまで一人浮かれていた自分が
恥ずかしくなってきたからだ。
「大体何してたんだ○○は?」
「ああ、ちょっと考え事してたんだよ」
「お前は考え事する時に下着一枚で仁王立ちするのか?」
「たまに……、つーか考え事してたら暑くてさ」
「で、何をそんなに熱心に考えてたんだ?」
どうせまたバカなことなのだろうとたかをくくっていたら
「……それはだな慧音」
予想に反して○○は急に真面目な顔にこっちをじっと見てきた。
「あ、ああ……」
私はかなり意表をつかれてしまった。
いつも思うがこれは卑怯だと思う、人をからかっていたと思ったら
不意に真面目になったりして、そのギャップは私の心を大きく揺さぶる。
しかしそんな私の心境など露知らず、○○はすっと立ち上がり
「俺は魔法使いになることにした!」
と高らかに宣言した。
やはり私は早まったのだろうか、そんな気持ちが私の心を満たしていった。
続きます
8スレ目 >>879-881 うpろだ278
この世界に来てからどれ位時間が経ったのか。
俺は傍らに置いた掌より少しだけ大きい手記を手に取った。
パラパラ、と乾いた音を立ててページを捲る。
「・・・大体一ヶ月か」
パタン、と音を立て手記を閉じ、空に浮かんでいる白い月を見やった。
「やあ、ここにいたのか」
「・・・ああ、慧音先生」
そう言って縁側にやって来た女性は、名を
上白沢 慧音 という。
元いた世界から突然ここにやって来て難儀していた俺をこの村まで案内してくれた恩人だ。
「お疲れ様です」
「労いありがとう」
彼女はこの村で寺小屋の講師をやっている。
毎日元気の有り余っている子供たち相手に長時間労働しているのだから、さぞ疲れる事だろう。
「少し待っていて下さい、今お茶を淹れてきますから」
「いや、それは悪いからいい」
言葉だけでは何だしせめてお茶ぐらいだそうと思って立った俺に、彼女は苦笑しながら言った。
「いえ、先生は恩人ですから」
「だが・・・」
「丁度、俺も喉が渇いていたんです」
まだ何か言いたそうな表情をしていたけど、このままでは埒が空かないので少々ゴリ押しで納得してもらう。
彼女はよく俺の家にやって来る。
理由は簡単、俺が「外の世界」について様々な事を話すからだ。
彼女は割りと外の世界について興味があるらしく、一度お礼とばかりに元の世界での話をして見た事がある。
それ以来こうして時折仕事が終わった後に俺の家に寄ってくれるようになったのだ。
それに、とあるきっかけで知ったのだが彼女はワーハクタクという半獣らしい。
初めてその姿を見た時、彼女は「気持ち悪いだろう?」と自嘲気味言っていたけど、角が生えて髪の色がいきなり変わったぐらいだったので「そんな事無い」と俺は答えた。
というかその程度の事なら、俺は彼女に出会う前までの生活でかなりスプラッタな光景を目の当たりにしてきたので、そこまで驚くほどのものでは無かった。
それから彼女には「歴史を作る能力」と「歴史を喰らう能力」があるのだと言う、そう言った能力的な関係か彼女は俺の居た世界の歴史の話が特に好きなようだった。
「お待たせしました」
淹れ立てのお茶を二つ、木製の盆に置いて縁側に向かう。
「すまないな」
苦笑気味そう言って先生はお茶を受け取ってくれた。
「いえいえ・・・さて、今日はどんな歴史について話しましょうか?」
「そうだな・・・ 以前聞いた君の國の歴史についてもう少し詳しく知りたいが、良いかな?」
「ええ、構いませんよ」
そう言って俺は語りだす。
もっとも俺は別に日本史や世界史の教授やら研究者ではないので、所詮その知識にも限界というものがある。
いずれ、いや多分数日中くらいには自分が知り得る全ての世界史は語り尽してしまうだろう。
そうなったらどうなるのだろう。
もう、彼女はここには来ないのだろうか・・・・・・
「なるほど・・・非常に興味深い。 君の國の文化形態は私達の世界の文化形態と共通点が多いようだな」
一時間と少しぐらいで本日の歴史語りは幕を閉じた。
彼女にとって歴史を知ることは本当に嬉しいことの様で、月明かりの元で微笑む先生は何となくいつもより生き生きしているような気がした。
ああ、もうすぐこうして彼女を喜ばせてやる事が出来なくなるのか。
そう思うと少しだけ物寂しいような気がした。
「? どうした、そんな顔をして」
どうやら心の内が表に出ていたようで、先生が声を掛けてくる。
「あ、いや・・・なんでもないです」
「いや、あるのだろう? 何せ、皆そう言って逃れようとするからな」
「・・・・・・敵いませんね」
おそらくは先生のことだから一度こぼしてしまったからには最後まで問い詰められそうだ。
本当に、心優しい人だと思う。
「どうした? 言ってみろ、私に出来る事なら力になろう」
先生は教え子を諭すように俺に言ってきた。
だから俺はそんな先生に逆らうことが出来ず、
「・・・・・・もう」
「もう?」
「もう、先生にお話できることはあまりないんです」
「え?」
言ってしまった。
「正確にはもう俺の知っている“外の”歴史はあまり無いんです」
「・・・・・・・・・・・・」
「先生は言いましたよね『自分の力は歴史を生み、喰らう事だ』って」
間を入れずに言葉を続ける。
「思ってたんです、先生がこうしてよく俺の家に来るのは俺が“外の”歴史について話せるからじゃないかって・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから俺が歴史について話せなくなったら、先生と話すような機会は少なくなるのかなって思って・・・」
この村の住人たちは異邦人である俺に対しても良くしてくれる。
それは嬉しいことだ。
でも、いつしか俺は欲を持ってしまっていた。
もっと彼女と関わりたい。
気が付かないうちに、俺は彼女との関わりを求めてしまっていた。
「・・・・・・・・・・・・」
俺の言葉を受けて、先生は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「ふ・・・ふふふ、ふふふふふ・・・・・・」
と思えば今度は急にさも可笑しいとばかりにクスクスと笑い始めた。
「あ、すいません・・・変な事を言いましたね」
「いや、違うよ」
まるで子供の駄々だ。
俺は自分の言った事の幼稚さに気が付いて急に恥ずかしくなり、慌ててお茶を口に含んでやり過ごそうとした。
先生は少しばかり笑いを収めるのに時間を掛けてから言った。
「いいか? 確かに私の力はお前の言うようなものだ、だが私は別にその能力ゆえにお前の語る“外の”歴史が聞きたかったんじゃないんだ」
「私はただ単にお前の語る事そのものに興味があったんだよ」
「・・・先生」
「別に歴史の話が尽きたならそれでもいい。 私にとってはお前が語る事自体が面白いのだからな。 それに・・・」
「それに?」
そこまで言って先生は一旦言葉を区切り、
「お前自身の語る事も、お前と言う人間が残した“歴史”とも言えなくはないか?」
花が開くような笑顔でそう言ってくれた。
「――――――」
言葉が出なかった。
それほどまでに、月光の中で微笑む先生の表情は美しかったのだ。
多分、今俺は大口を開けて大層間抜けな面をしているのだろう。
だが俺も男である以上、彼女の美しい笑顔に見惚れてもおかしくはないだろう。
「・・・はは、すまない。 少し気障な事を言ったな」
「いえ――」
バツが悪そうに頭を掻く先生に俺は返す。
「それならば語りましょう、俺と言う“歴史”を。 先生が満足するまで」
自分に出来るだけの最高の笑顔を作る。
でも内心「気持ち悪くないだろうか」などとビクビクしていたりするのだが。
「・・・ああ、よろしく頼むよ」
彼女もまた嬉しそうな表情で返してくれた。
「それから一つ提案があるのだが・・・」
「何でしょう?」
良かった良かった、とホッとしている俺に先生が声を掛けてきた。
「あの・・・な、その・・・お前は私の事を常に“先生”と呼ぶだろう?」
「ええ、そうですね」
「でも、ほらその、そろそろ私達の付き合いも長くなるだろう?」
「確かに一ヶ月は経ちましたからね」
妙にもじもじとしながら、らしくない様子で先生が言う。
「だからその、そろそろ名前で呼んでは、くれないか?」
身長差の影響で、必然的に先生は上目使いで俺に言葉を掛ける事になる。
正直、殺傷力が強すぎる。
直視し続けていると何だか邪な気持ちが湧き上がってきそうだった。
なので俺はなけなしの理性で衝動を押さえつけ、出来るだけ穏やかな表情で彼女のリクエストに答えることにした。
「じゃあ、その・・・慧音さん」
「○○・・・」
その時の慧音の笑顔は、俺が今まで見てきたどの笑顔をよりも美しく輝いて見えたような気がした。
ああ願わくば、この美しい人の笑顔をこれからも見つめていけますように。
うpろだ345
「せんせー!向こうに誰か倒れてるよー」
生徒が騒がしいと思ったら、人がたおれてるのか、そうかそうか・・・倒れてるッ!?
「おい君!大丈夫か!?」
急いできてみればなんかその・・・死体
「うっ・・・」
あ、違った、生きてました
「おい君!大丈夫か?」
…返事がない、ただの(ry
「うーん・・・しょうがない、家に運ぶか、よっ・・・っと」
おもい、流石に私も女だ、女だぞ?
「しょうがないな」
男の両足を持って、引きずっていくことにした
「ぐっ・・・此処は・・・」
「気がついたか、道端で垂れていたんだぞ、君は」
「痛っ・・・背中がひりひりする?」
それは私が引き摺ったせいだろう、申し訳ない
「・・・身体に異常はない、疲労が溜まっていたのだろう」
「せ、世話になったな、俺はもう行く」
「おい、もう少し休んで」
「これ以上迷惑はかけられない」
男の瞳、それは何か、訴えるような、悲しい目だった
障子を開け、コートを羽織り、男は
「ええい!待てと言ってるだろう!」
しょうがないので襟首掴んで布団に倒した
「な、なにを!?」
「どうやら君は外の人間のようだからな、色々教えてやる、どうやら訳有りのようだからな」
「・・・」
「私の名は慧音、ここで先生をやっているものだ」
男は観念したのか、布団の上に座って、此方を向いてくれた
男から聞いた話、男は殺人事件を起こし逃げ回っていた、逃亡中に森に入ったら迷ってしまってここに着いたと言う
私は此処が男のいた世界ではないので追われる心配はない、と言ったが半信半疑らしい
妖怪とかもまったく信じてないなぁ・・・困った
「おー慧音、食い倒れを拾ったって?」
「ああ妹紅、それを言うなら行き倒れだ・・・ああ、そうだ、イイコトを思いついた」
妹紅においでおいでした、訝しげに私のほうによって来た瞬間
青銅剣で、片腕を
ぶぉん!
「うわっ!??ななななにする!?」
「ちょっとこの男にお前の回復力を見せてやって欲しいだけなんだ・・・すぐ済むから♪」
ひゅん
「そんな錆びたので斬られたら破傷風になるだろっ!」
「安心しろ、綺麗に両断してやる」
ぶんぶん、ひゅん、がちゃん、ばきばき
このとき男は思った、こんな田舎の村でもキチガイはいるんだと
意やあれはキチガイと言うより、中二病?
しっかsびちゃ、ぼと・・・
「ぎゃぁぁぁぁ!!?」
いきなり面めがけて腕が飛んできた、腕が飛んできた、うでがとんで
「ほら、しっかり見ておきなさい」
さっき入ってきた女の腕が・・・あれ?今くっ付いた、ええええええ
「慧音、お前はお前で酷いな、非道いな」
「ああ、妹紅のせいで行き倒れ(仮)が気絶してしまったじゃ無いか」
「あんたのせいだ!」
「・・・あれ・・・よかった夢か」
そりゃそうだ、腕が簡単にくっ付いたりするはずが無いし、妖怪なんかいないし
「あ、目が覚めたか」
あ、さっきの帽子の女の人・・・
「はい、何か悪い夢を見てしまったようで」
「夢じゃ無いといっても信じないんだろうなぁ、仕方ないから友人を呼んでい置いた」
「おっす!」
気付かなかったが幼女がいる、変なカッコの幼女・・・あれ・・・角?いやきっとへんな帽子だ
「私の友人の萃香だ、彼女こそ正真正銘の妖怪、鬼だ!」
バーン!
「・・・えっと・・・どこら辺が?」
「ええっ!?この角が見えないのっ!?」
ああ、やっぱりミッ○ーマ○スの耳帽子みたいなもんだろ?
「ミッシングパープルパワー!」
幼女が幼女のままでかくなった、と言う夢を見た、と思いたい
「もういいや、諦め疲れた」
今にも死にそうな顔で、というか倒れてたときより顔色が悪いが
とりあえず、全てを信じることにしてみた、正直面倒になったといったほうがいい
自分の常識を信じるのが面倒になった、それだけだ、受け入れたわけじゃ無い
「さて、萃香も帰ったし・・・君は如何する?」
「俺は・・・」
ここに、この世界にいれば捕まる心配はない、どうせ帰っても死刑か終身刑か
「君が望むのなら、その・・・ここに住んでもかまわないぞ、放っておいて死なれても気分が悪い」
どうする、人殺しの俺を、泊めてくれるのか、ありがたい
久しぶりに、ヒトの優しさとかに触れた気がする、こんな人殺しを
「慧音さん、此処に住まわせてください、お願いします」
深く頭を下げた、餓鬼の頃のように、素直に頭を下げれた
「・・・ふふ、いいだろう君も悪い人間ではないようだし、私の仕事の手伝いにもなるだろうからな」
「俺は、ただの人殺しです、それでもいいんですか?」
男は、自分の罪を嘆いている、と言う感じではない、ただ受け入れられないのか、それとも
「目を見れば解る、君は堕ちてない・・・さて、色々と要り様だろうからな、買い物に行こう」
「は、はい・・・」
「なんだ、ぼさっとするな、行くぞ」
「は、はい!」
うむ、だいぶいい、返事だけは、な
「ああ、そういえば名前を聞いてなかった、うっかりしていたよ」
「俺は・・・○○って言います・・・○○で構いません」
「○○・・・そうか、○○か、いい名だな」
にこりと微笑む、彼女の笑顔に、優しい微笑みに、魅入ってしまった
「どうした?」
「い、いや、なんでもない、です」
「?・・・まぁいい、それじゃあ行こうか」
「はい」
彼女を追って、踏み出した
俺にとってこの一歩が、幻想郷に足を踏み入れた本当の瞬間だったのかもしれない
~おわり~
うpろだ367
「慧音先生、おはようございます」
「○○さん、おはよう・・・今日は暑いなぁ」
「ですね、昼前だというのに30℃はありますから」
照るつける真夏の日差し、セミすら死んでしまうのではないかというような暑さ
夜も熱が残って寝苦しい日が続いているという・・・氷菓子は儲かっているらしい
「・・・慧音先生・・・午後から何か用事は?」
「いや、特に無いが・・・?」
「ならちょっと涼みにでも行きませんか?」
「いやぁ、こんなところがあるとは!」
「涼しいでしょう?湿気があるので住めないですけど、休憩するにはもってこいですよ」
此処は滝の裏の洞窟、、真夏だというのに気温は全然上がらない、むしろ寒かったりする
ちょっと入ったところに岩を組んで砂利で隙間を埋めて、板張りにして
此処は俺の秘密のスポット、見つけて早半年、夏用に改造してきた甲斐があったぜ
「冬は入れなくなっちゃいますが・・・先生?」
「・・・」
「寝ちゃったのか・・・最近寝苦しかったからなぁ」
すやすやと、眠る慧音先生、滝の音は気にならないのか?
しょうがないので置いてあったジャケットをかぶせて、そっとしておいた
「ん・・・あれ?」
心地よい振動、なんだろうか、ああそうか寝ちゃったんだったな
せっかくいいところに案内してもらったというのに・・・失礼な事を
「あ、慧音先生、起きました」
あれ?何か声が近い
「え、え!?な」
ゆれると思ったのは、抱えられてるから
「全然起きないし、日も暮れてきたので・・・」
「だ、大丈夫だ、もうおろしてくれて」
「いやいや、せっかくですから家まで送りますよ、このまま」
お姫様抱っこで、人目の多い里を、歩くと、いうんですよ
「ちょ、ちょっとまってくれ!それはいくらなんでも恥ずかし過ぎる!」
「はっはっは」
慧音の叫びは虚しく、木霊するだけだった
里に入ってからは抵抗もせず、何となく
いぢめたくなってしまった
困ってる慧音先生は、恥ずかしがってる慧音先生は、すごく、少女だ(失礼
「着きましたよ先生」
「あ、ありがとう・・・は、恥ずかしかった」
夕方だったので人目が多かった、しかもみんな興味心身で
「それじゃあ俺は帰ります」
「あ、待ってくれ・・・その・・・茶でも入れよう」
なんだかなぁ、いぢめ過ぎたか?説教されるのか
そういえば人の嫌がることをするなと小一時間説教されたし、背が低いと莫迦にするなと怒られたし
背が高いからなんだと・・・あれは八つ当たり
靴を脱いであがろうと
慧音先生がバランスを、崩した
こけた、いやその前に俺がナイスキャッチ
手を引いて、何とか抱きとめた
「大丈夫で、す、か?」
何やってんだ俺!?ちゃっかり、いやうっかり、抱きしめちゃってない!?この体勢は、ちょっと
とくんとくん、俺の鼓動か、先生の鼓動か、判らない位近い
「あ、ああありがとう、その・・・もう・・・だいじょうぶだ、ぞ」
動くに動けない、いや固まっちまった俺
「たっだいまー慧音ー晩御飯な、に」
勢いよく妹紅参上、帰ってきて第一声が晩御飯に何って、小学生かお前は、ってそんなことじゃなくて
「も、妹紅!これはその、違うんだ、私「あ・・・えーと・・・邪魔したね、ごゆっくりどうぞっ」
やっぱりね、そうだろね、しんどいねぇ、未練だねぇ
やっとこさ動けた
互いに気まずい、妹紅を追っかけてもしょうもないし
「あ、あの・・・俺やっぱり、帰りますね」
とりあえず帰ろう、混乱状態はなにをやらかすか解らないからな
「あ、明日っ!明日も・・・あそこに行くのか?」
いきなり何を行ってるのかと思った、少し間をおいて洞窟の事だと理解する
「え、ええ、あしたも昼前ぐらいには・・・」
「その・・・明日もお邪魔して・・・いいかな?」
「ど、どうぞ!じゃあ明日・・・待ってますね」
足早に慧音の家を出た
あれ以上いたら緊張でのどから心臓がごぼちゃぁぁって出そうだ
「・・・でーと、なんてな、浮かれてんな」
足早に、スキップで、家まで帰った
明日をこれほど待ち遠しいと思ったのも、今日が初めてなのだろう
~蜜柑~
最終更新:2010年05月26日 06:23