てゐ6



新ろだ429


握り飯を振り回しつつ、迷いの竹林へと歩を進める。
本日の目的はただ一人、嘘を生業とする白兔因幡てゐに会う事だ。

しばしうろうろと歩くと、竹の間を縫って見慣れた長い耳がぴょこいらと顔を出した。
因幡──と、言おうとしたがそれは引っ掛け。里に薬でも売りに行くのか、鈴仙うどんげがそこにいた。

「あっ、○○さん…」
「…よぉ鈴仙、久しぶりだな」
「あれ?昨日会ったばかりですよね?」

はて、というふうに首を傾ぐうどんげ。

「いや、挨拶なんぞに意味はない。実は少し、この竹林に用があってな」
「はあ…師匠にですか?」
「いや違う。俺の目的は……鈴仙、お前に会いにきたんだ」

なっ…と、息を飲むような声が一瞬聞こえる。

「いやなに、昨日会ったばかりだが…まあ、鈴仙の顔なら毎日見ても飽きないからな」

ななななななな…という声も聞こえる。頬が朱色に染まってきた。

「…そうだ、今日会ったら伝えなきゃならない事があったんだ。……鈴仙、俺はお前が───「バカーーーーっ!」




セリフはこの場にいる二人のどちらとも違う声で遮られた。
ハッとして声のするほうを振り向く。そこには俺の最愛の白兎(笑)、因幡てゐが目に涙を浮かべて叫んでいた。




「バカっ、バカバカバカッ、○○のバカっ!私の気持ちも知らないで…バカバカバカバカバカーーーーッ!」
「て、てゐ!?ちょっと、それってまさか……」

慌てふためく鈴仙。
一瞬、俺は唇の端を吊り上げてニヤリと笑う。見様見真似の大袈裟な手振りで、俺はセリフを続けた。

「てゐ……分かってくれよ!俺は鈴仙の事が……本当に、好きなんだよ!」
「嘘つき!どうして気づかないのよ……どうして応えてくれないのよ!私の想いに!」
「俺だって…俺だって好きな人くらいいるさ!分かってくれよ…頼むから!」
「分かんないわよそんな事!そんな…そんな…うどんげのバカーーーッ!」
「ええっ!?わ、私っ!?」
「鈴仙…頼む…嫌なら嫌でいいんだ、ただ…答えを聞きたい!」
「○○さんっ!?え、えと、その………」
「はっきりしなさいよ、駄目兔!」
「わ、わた、私はその、えと、ええと………ああああああああどうしろって言うのよもーーーっ!」

俺とてゐの修羅場のど真ん中にいたうどんげは、やがて重圧に耐え切れなくなって光の彼方に飛んでいった。
彼女の描いた飛行機雲を消えるまで眺め、俺とてゐは顔を見合わせる。やがてどちらからともなく──。

「「だーいせーいこーう」」

ハイタッチ。

「いやあ、人妖問わず騙したけど、やっぱうどんげが一番騙し易いわ」
「根が真面目だからなあ。俺とお前で何億と騙したけど、今回も随分アッサリ引っ掛かったよなあ」

はははははと顔を見合わせて笑いあう俺ら。流石だよな俺ら。

ひときしり笑い終えた後、てゐは落ち着きを取り戻すようにこほんと咳払い。
手ごろな石の上に飛び乗り、打って変わって静かな口調で始めた。

「───それで、何の用?」
「用がなくちゃ来ちゃいかんのか?」
「困るわね。あんたに来られると私困る。何故って、私あんた嫌いだから」
「そりゃお互い様だ。てめえみたいなチビ兔、こっちだって大嫌いだね」

互いの間に無言の微笑が交わされる。いつの間にか、竹林は元の静けさを取り戻していた。

「四月一日だからな。お上公認で嘘がつける日だし、今日くらいはお前に真実を語ってやってもいいと思った」
「あら、愛の告白?やってみなさいな。その場で蹴り飛ばしてあげるから」
「図に乗るんじゃねえアホ兔。だーれがテメエなんぞ相手にするかい。お前に比べりゃまだ毛玉の方が可愛いね」
「のらくらのらくら五月蝿い事この上無いわね。言いたい事があるなら、さっさと言ったらどう?」

石の上に腰掛けたてゐは驚くほど穏やかな笑みを表情に浮かべていた。
こちらも同じように微笑み返したつもりだが、上手く笑えた自信が無い。彼女は俺の顔が可笑しかったのか、口元に手を当てくすくすと笑った。

「表情作るのは得意みたいね。まるで牛の笑いみたい」
「あーそうですか。お前の悪魔の微笑みに比べりゃちったあマシだと思うが?」

けらけらけらと笑いあう。俺は不意に石の上に足をかけ、てゐの横に腰掛けた。
自然と近づく体。照れ臭いのは彼女も一緒らしく、少しばかり頬を染めてけれど顔を背けようとはしなかった。

「てゐ……」
「○○……」

数秒、見詰め合う。
俺はてゐの首筋を持ち上げ、彼女の唇に自分のを素早く重ねて、そして離した。

「俺は、テメエの事が、世界で、誰よりも、一番大嫌いだ」
「私も、○○の事が、世界で、誰よりも、大っ嫌いよ」


竹林に、二人の笑い声が響いた。


新ろだ529


男:たぶん幻想郷住人

  そんな設定でおねがいします・・・



てゐ「おじさん、もしかして年増好みの・・・マザコン?」

 この少女との出会いはこんな感じだった。

○○「・・どうしてそう思うんだ?」

てゐ「だって結構わがままだよね?わがままはマザコンって相場が決まってるしー」

○○「・・俺はマザコンでもロリコンでもない。
   ちなみにまだ、おじさんでもないよ・・・」

てゐ「じゃあ兄さん。はい、手を出して」

○○「いい・・・一人で立てる」

 俺は3日前から風邪をこじらして寝込んでいた。
 そこにこの妙な少女が現れて薬を売りつけようとした。
 俺は…手持ちの銭がなかったという理由もあるが…うさんくささを感じて
 少女の薬を受け取る事を拒否した。
 そうすると少女は何を思ったのか、師匠ならすぐ治せるのだからついて来いという。
 初めは半信半疑だったが、たしかにいつまでも寝込んでいるわけにはいかない。
 俺はその師匠とやらに会いに行く事にした。

てゐ「ほらほら、足がふらふらだよ。
   これじゃ家から出る前に日が暮れるって」

○○「まだ昼だ・・ろ」

 立ち上がると床が沼のように沈み、視界が陽炎のように歪む。
 恐らく熱が出ているのかもしれないが、自分で額を触っても
 どれだけの熱が出ているのかがわからない。

てゐ「あー、もう見てられないっ!」

 そういうと少女は俺の腹部へまっすぐと拳を突きたてた。
 とたんに呼吸が苦しくなり、俺は布団の上に倒れこむ。

てゐ「マザコン野郎はそこでおとなしくしてな」



 気がつくと夕日が窓から差し込んできている。
 なんということだ。いくら病気で弱っていたからとはいえ、
 あんな小さな子供に気絶させられるなんて。
 俺は布団から起き上がると辺りを見回した。
 どうやらあの少女は帰ったようだ。
 ふと、枕元に見たこともない透明の壷に入った液体があることに気がついた。
 おそらくあの少女の言っていた薬なのだろう。うっかりと忘れていったのかもしれない。
 しかしこれは本当に薬なのだろうか。もしかするとその辺りの草汁を
 絞って入れただけのいたずら・・・そう、いたずらかもしれなかった。
 だが今はどちらでもかまわなかった。喉が渇きは限界まで来ており、
 とにかく喉を潤す事ができれば、その中身が何であれどうでもよかった。
 俺はその透明の壷に口をつけた。飲み下すのに骨が折れたが何とか喉を潤すことはできた。

てゐ「・・・おじさん、飲んだね?」

 もう少しで心臓が口から飛び出すところだった。
 あの少女だ。あの少女が入り口から俺を観察していた。
 そしてしばらく真顔で俺を見つめた後、急に顔中に笑みを浮かべ、
 桶を担いで部屋の中へ入ってきた。

てゐ「ここは川から遠くて嫌になるよ。・・はい、手ぬぐい出して」

○○「こ、この薬・・・」

てゐ「知ってるって。ほら手ぬぐい」

 めんどくさがるように手を伸ばしたかと思うと、俺の額にへばりついた手ぬぐいを
 引き剥がし、それを桶の水の中へざぶりと落とした。
 そしてそれを何度か水の中で泳がせ、きつく絞る。

てゐ「寝てくれないと手ぬぐいをおけないよ~」

 俺は言われるがままに布団に身を横たえた。

てゐ「はい、完了~」

 俺は言いづらい事をこの少女に伝えなければならなかった。
 すなわち銭がないこと。銭の代わりになる金品を持ち合わせていない事。

○○「・・あの、申し訳ないが。薬代は・・」

てゐ「うんうん、ないんだね?」

○○「いま・・家に銭がない。・・そう、その通りなんだ」

てゐ「いいよ、今度で」

○○「そうか・・いくらに・・なる?」

てゐ「そうだな、米俵20コ分くらいかな?」

 俺は絶句した。
 米俵20俵は、うちの畑から取れる年間量のざっと10倍だったからだ。

○○「・・わかった。ただしすぐに用意する事が出来ない。
   最低10年はかかる。それまで・・待ってほしい」

てゐ「うわぁ・・おじさん強情だね。
   頼み込んでくれれば、ゆるしてあげてもいいのに」

 それはわかっている。だが俺にも自尊心というものくらいはある。
 俺は黙って首を横に振った。

てゐ「・・そ、そうね、言う事を聞いてくれれば米一粒で手を打つけど」

 またもや俺は絶句した。
 この少女は何を言っているんだ?
 どこの世界に米20俵が米一粒に変化する売り物があるというのだろう。

てゐ「お姉ちゃん・・・」

○○「・・・ん?」

てゐ「お姉ちゃんって呼んでくれたら米一粒でいい・・・」

○○「今何・・」

てゐ「いいから、どっちにするの!?」

 どうやらこの少女は『お姉ちゃん』と呼ばれるだけで
 破滅の値段から破格の値段に下げると言うのだ。
 見れば少女は消え入りそうに体を丸め、水桶の中を不愉快そうに凝視している。

○○「・・・本当なのか?」

 喉がかすれて小さな声になってしまった為か、俺の声は少女には聞こえていないようだった。
 いや、実際は聞こえていたはずだ。だって少女は俺の枕元に座っているのだから。
 つまり少女は同じ事を二度も言う気がないのだろう。
 俺は咳払いをした後、意を決してできるだけ大きな声で言う事にした。

○○「お姉ちゃん」

てゐ「や、やぁ、照れるなー。
   よしよし、何か他に、ほしいものはあるの?」

○○「・・・いや、ないよお姉ちゃん」

てゐ「仕方ない、おかゆ位作ってやるかー!このマザコン野郎め~」

 そういうと少女は立ち上がり、炊事をする為か、そそくさと表に行ってしまった。
 俺は唖然としたままこの成り行きを見守るしかなかった。
 夕日はそろそろ沈み始め、あたりは鈴虫やらコオロギが小さな合唱をはじめていた。



てゐ「はい、おかゆ。気をつけて食べてよ。熱いからね」

 俺は無言で用意された箸を持つと、粥に手を伸ばした。
 少女も無言で粥が入った土鍋を持ち上げ、俺から遠ざける。

てゐ「いただきますは?」

 そういえば俺はずいぶん昔から一人暮らしが染み付いて、
 食事の前に『いただきます』だなんて言葉を言うことも忘れていた。
 なんということだろう。だが素直に恥を認めなければならない。

○○「いただきます」

 今度は丁寧に粥が入った土鍋にお辞儀をすると、再度箸を持ち直した。
 が、少女はなぜか土鍋を俺から遠ざけたままだ。

○○「・・・あの」

てゐ「なに?」

○○「どうして・・・」

 そのとき俺は思い違いをしていたことに気がついた。
 お辞儀は粥が入った土鍋にしても意味がなかったのだ。
 感謝は粥を作った人にこそするべきだった。

○○「お姉ちゃん、いただきます」

てゐ「よしよし。わかってるね」

 少女は土鍋を俺のそばに置いた。
 しかし少女はその上からがっちりと蓋を押さえつけている。
 このままでは開けて食べる事が出来ない。

○○「・・・あの」

てゐ「なに?自分で蓋も開けられないの!?
   ・・・仕方ないなー」

○○「・・いや、別に・・」

てゐ「はいどうぞ、召し上がれー」

 納得のいかないまま、箸を持ち上げ、粥に手を伸ばした。
 が、その時になって、ようやくおかしなことに気がついた。
 俺は今まさに粥を口にしようとしている。
 それなのに、何故、箸を持っているんだ?
 箸で掬える米の量なんてたかだか数粒程度じゃないのか?

○○「・・・あの、お姉ちゃん?」

てゐ「うんうん」

○○「これだと・・・食べられないというか・・」

てゐ「ああ!どこまで甘えんぼなんだよこのマザコン~
   しかたないねー・・」

 そういうと少女はあらかじめ用意していた匙…もちろん俺の家にあったもの…を
 懐から取り出し、粥を一掬い持ち上げて、息を吹きかけて見せた。

てゐ「さあ、口をあけてー」

 いくらなんでも、これはさすがに恥ずかしかった。
 なぜなら、というか何故もくそもない。これじゃまるで赤子の扱いだ。
 俺は強引に箸で粥を食おうと手を伸ばした。

てゐ「米俵・・・30コ・・・だっけ?」

 俺はその瞬間体が硬直した。固まった。30俵?ちがうだろう、20俵のはずだ。

○○「20・・・!」

 その瞬間、匙が俺の口の中へ勢いよく飛び込んできた。
 ガチリと前歯に当たるのもお構いなしだ。

てゐ「お姉ちゃんの言う事は聞かないとダメだよねー」

 少女はもう一度土鍋を掴むと、俺の死角になる背後へ置いてしまった。
 そしてくわえたままの匙を力強く引き抜くと、何事もなかったかのように
 もう粥を掬って見せた。

てゐ「はい、あーん」

 俺は負けてはいけないものに負けた。
 それは自尊心とかプライドとかそんな小さなものかもしれないけれど、
 絶対に折れてはいけないものを強引にへし折られてしまった。
 子供相手になにをしているんだ?今まで一人で生きてきたという不屈の心はどこへ捨ててしまったんだ?
 俺はこの少女にかまう事をやめた。
 米俵20俵?どうでもいい。その為に一生今日の事を思い出して身悶えるよりは
 10年かかろうと15年かかろうと借金を背負って誇り高く生きるほうがましだ。
 俺は布団からはいずりだすと、少女の背中に置かれた土鍋目指して手を伸ばした。

てゐ「ちょ、ちょっと、こっちにこないでよ、このマザコン!」

○○「俺はマザコンじゃない」

てゐ「じゃあロリコンだ、襲われるー」

○○「ば、ばかか、襲ってるんじゃない、ちがうよ」

てゐ「まさか・・お姉ちゃん・・って事はシスコン?」

○○「ちがうよ!」

 俺は少女の体の上から背中にあるはずの土鍋を手探りで探した。
 が、なにぶん熱い土鍋だ。無造作に掴むわけにはいかない。
 その為かすこし遠慮がちに背中の死角を探っているのだからなかなか見つからなかった。

てゐ「このエロエロ!マザロリコン!」

 その内、声に少しずつ涙が混じり始めた。
 俺は心臓が止まったと思った。そして少女の顔をおそるおそる見上げた。
 馬鹿だった。浅はかだった。大の大人が子供相手に何をしているのだろうか。
 この少女はおままごとのように姉を演じていただけだ。
 決して俺に悪意があったわけではない。今までの行動もそうだ。
 薬を与えたのは一体誰か?粥を作ったのは一体誰なのか?
 一時の怒りに身を任せ、恩を仇で返すほど俺は小さな人間なのか。

○○「・・・ごめんなさい」

 しかし少女は先ほどより大きな声で泣き始めてしまった。
 何の罪もないものが涙を流す。しかも俺のせいでだ。

○○「ごめんなさい、・・・あの・・お姉ちゃん」

 するとどうだろう。先ほどまで鼻まですすって泣いていたはずの少女は
 顔を上げてみると涙の一滴さえこぼしていず、満面の笑みをこちらに向けた。

てゐ「わかればいいのよ、さ、残さず食べてねー」

 俺は一体何が起きているのかわからなかった。
 確かに少女は泣いて・・・そうだ、泣いていたはずだ。だが泣いてなどいない。
 穴の開くほど少女の顔を見つめても・・・やはり泣いていた形跡など欠片もない。
 そして嬉々とした表情のまま、口を半開きにしてぼんやりとしている俺の口の中に
 粥が運ばれてくる。

てゐ「はい、よく噛んでー」

 俺は何も考えず粥を噛みしめた。

てゐ「はい、口あけてー」

 以後、土鍋の中から完全に粥がなくなってしまうまで、
 俺は何も考えず粥を噛んでは飲み、言われるがまま口を開いた。
 そして土鍋の奥に残った最後の一粒を少女はぺろりと口に入れると、
 にやにやといやらしい笑いを俺に向けた。

てゐ「これは報酬ね」

○○「あ・・」

てゐ「ごちそうさまでした」

○○「ごちそうさまでした・・・」

 脱力した体に疲労だけが残った。気がつくと体中汗をかいている。
 もう終わったのだ。なにもかも。
 この俺はこんな子供に馬鹿にされたのだ。
 そうして一生、今日という日を悔やみながら生きていくのだ。
 俺の人生は終わってしまった。こんな小さな少女に蹂躙されて粉々に・・・。

 そのとき、家の外から誰かを呼びかける声が聞こえた。
 そういえば先ほどから聞こえていた気もするが、
 自分の苦悩に夢中で気がつかなかったのかもしれない。

てゐ「やばっ・・くる」

 どんどん、と控えめに家の扉が叩かれた。
 こんな時間に誰だろう。だが今の俺は何もかもがどうでもよかった。
 誰でもいい。消えたらいい。

??「すみませーん、このお宅に小さな女の子が来ませんでしたかー?」

 小さな女の子?それならここにいる、小さな悪魔が。
 目線を移すと、屈辱を与えた少女は窓から逃げようとしている。
 何が起きているかはわからない。だが、これは俺にとって有利な状況だとわかった。
 俺はすぐさま布団を跳ね上げ、少女の足首を掴んだ。

てゐ「お願いお兄さん、ここは見逃してー」

○○「・・・お兄さん?」

てゐ「おねがい、じゃないと私・・・」

??「あのー、誰かいますかー?」

 やっぱりだ、あの外にいる声の主とこの少女は知り合いなのだ。
 そして恐らくだがこの少女の保護者か何かに違いない。

○○「少し待ってくれ、今開ける」

 俺が外に声をかけると、外の主は…どうやら女二人組のようだが…何かを話し合っているようだ。
 そしてその話し声が聞こえたとたん、目の前の少女はいてもたってもいられないらしく、
 掴まれた足首を何とかほどこうと、懸命にもがいている。

てゐ「ね、薬もあげたでしょ?だから・・・」

○○「そうだな、それは本当に感謝してるよ。
   あの薬のおかげで、もう体調もよくなっているし」

てゐ「そうだよね、じゃあ離してよ」

○○「いいだろう。そのかわり約束をしてくれないか」

てゐ「なんでもいいから、はやくー」

○○「今度、俺の家に・・・その、また来てくれよ」

てゐ「くっ、ロリマザコン」

○○「なんだと?」

てゐ「なんでもないよ~、それだけでいいの?」

○○「うん、それだけでいいよ」

 一瞬少女は抵抗をやめて考え込んだ。
 そして先ほど見せたいやらしい笑いを顔に浮かべてこう言った。

てゐ「一回だけなの?それとも何回も?」

○○「それはまかせるよ。ただ・・・」

 俺は少女の足首から手を離した。

○○「次はだまされない。今度は俺が勝つ」

てゐ「いいよ、その挑戦うける」

 というと、少女はするすると壁を登り、窓の外に消えていった。

 そのあと俺は外で待っていた二人…えらい美人だった…に、
 そんな少女は家に来ていないと説明し帰ってもらった。



 あれから丁度一週間が経とうとしている。
 今のところあいつと俺は引き分けだ。だから必ずやってくるに違いない。
 だが、あの約束自体だましていて、もう二度と現れない、という場合もありうる。
 いや、あの少女は挑戦を受けると言った。受ける側の人間が逃げたままということはないだろう。
 そうだな、家がどこにあるかはあの美人に聞いたのだから乗り込んだってかまわないはずだ。
 その時は完全に勝てるよう主導権を俺が握らないといけない。

 もうそろそろあの時のように陽が暮れかけている。
 俺は農具を手に持ち、小さな畑から収穫した野菜を手に帰路に着いた。
 その時だ。天が持ち上がり、地面は宙を舞った。
 世界はひっくり返り・・・とどのつまり俺は落とし穴に落ちた。
 なるほど、ずいぶんと古典的じゃないか。
 落とし穴なんて俺がガキのころ腐るほど掘っていたし、もちろん落とされてもいる。
 そんな余裕が俺を冷静にし、反撃のアイデアを生み出す結果になった。

てゐ「・・・マザコン野郎め。どうだ思い知ったか!」

 あの少女が穴の上から顔をのぞかせる。
 さて、薄目をあけてあいつの青ざめる顔でもゆっくり観察してみようか。

てゐ「え・・・うそ・・・。なんで?」

 きっとあいつは頭から血を流して動かないでいる俺を見て、びっくりしているのだろう。
 だが、この血は先ほど収穫したトマトで偽装しているだけだ。
 しかしこの暗い穴の中で赤い液体が血かどうか、はっきりとは判別できないはずだ。

てゐ「おい、ロリマザコン!・・・お兄さん?・・・お兄さん!」

 案の定、穴の中を必死に見つめている。
 意外と気づかれないものだが、早く気づいてくれないと息を止めているのも大変だ。
 俺の予想ではびっくりした少女はあの美人のうちどちらか一人、もしくは二人ともを呼びに
 家へ戻るはずだ。そうしたら俺は何食わぬ顔をしてここから出て、この穴を埋め、
 家でのんびりと待てば、その後の展開しだいでもう一度騙す事も可能になるだろう。

てゐ「やだ・・・そんな・・・わぁぁぁ」

 どういうわけか少女は穴の中に滑り込んできた。これでは俺の予定と違ってしまう。
 しかも近寄られたら血のからくりもばれる恐れがある。

てゐ「ほんの冗談だったのに・・・ね、起きてよう」

 だが、俺の心配とは裏腹に、少女は俺が死んだと思っているのか
 胸倉を掴んで強くゆすってみたり、…それが無意味だとわかると…
 俺の頬に往復ビンタをなんどもくらわせてきた。
 こんなに痛い思いをしては、騙しているとはいえない。これでは俺の利点がまるでない。
 仕方なく俺はにやにや笑いながら目を開く事にした。

○○「いやー、襲われるぅぅ。助けてぇぇ」

 その時気がついた。少女は泣いていたのだ。
 俺が死んだからとかではなく、恐らく殺人の恐怖からなのだろうか、
 俺を必死に凝視した目からあふれた出た涙は頬を伝い、涙のとおり道ができていた。

○○「俺の・・・勝ち」

 それだけ言うのがやっとだった。少しやりすぎてしまったのかもしれない。
 少女は濡れたままの顔を俺の胸板に押し付けると、ぽこぽことわき腹を殴りながら、

てゐ「このロリコン、シスコン、マザコン野郎!」

 と、何度も繰り返し、しばらくすると何故かすやすやと寝てしまった。
 その後、声をかけてみてもゆすってみても頬を強くつねってもパンツ脱がすと脅しても
 鼻の中にミミズを入れると言っても実はロリコンだいやマザコンだと言っても
 一生ここで二人で暮らそう実は殺人鬼なんだキスするぞワンワンニャーォと言っても、
 いっこうに起きる気配を見せない。俺は少女に抱きつかれたまま、ほとほと弱ってしまった。
 つまり俺は少女をおぶって穴から脱出しなければならなくなったということだ。
 そうしてもちろんの事だが、野菜や農具などは穴の中に置いていかなければならない。
 なんてことだ。俺の勝ちのはずが穴に落とされビンタされ、わき腹をなぐられ、
 痛い思いをしたのは俺だけだった。しかも最後に二人分の重量で穴から脱出しなければならない。

 俺は必死の思いでなんとか穴から抜け出した後、何故か眠ったままの少女をあぜ道に横たえさせ、
 農具と野菜を回収するためにもう一度落とし穴の中へ戻らねばならなくなった。
 その時を狙っていたのだろう。
 俺は後ろからものすごい勢いで突進してきた少女に、もう一度穴の中に落とされてしまった。
 先ほどもそうだったのだが、今度も体を強打して一瞬息が苦しくなった。
 穴の底でうめき声をあげている俺を、上から泣きはらした目の少女が仁王立ちでこういった。

てゐ「ばーか、今回はこれくらいで許してあげるけど、次は負けないから」

 そしてどこかへ走り去ってしまった。
 おれは苦笑いをしながら、次回はどんな手で来るのかと楽しい想像を膨らませ帰宅した。


てゐのきもち(新ろだ670)




てゐのきもち (白映 -White Vision-)



どうも。

永遠亭のアイドル、因幡てゐです。

最近、○○の彼女(自称)になれました。

……勿論、ウソですが。

ちくしょう。



さて、今日のお話は、私が好きな「○○の表情」について。

私と一緒に居るとき、いつも見せてくれる、楽しそうに笑う○○の顔。

イタズラをされて怒ってるけど、実はもう許してくれてる○○の顔。

幸運のお守りをプレゼントしたとき、嬉しそうに照れる○○の顔。



……でも。

今みたいに、暗く悲しい顔をして泣いてる○○は好きじゃない。

貴方にはいつも笑っていて欲しい。

「笑う門には福来たり」って言うじゃない。

○○が笑ってないと、私は○○に幸せを渡せない。

それだと私も幸せになれない。

だから……泣き止んで、○○。



ね、○○。

これからもずっとよろしくね?

そうでないと私、寂しくて悲しくて死んじゃうかも……ウサっ。

え、このウサはウソの意味じゃなくて!

その、ただの照れ隠し! そう、照れ隠しなんだから!

あ、やっと笑った~よかったっ。

○○も幸せ、私も幸せ、永遠亭のみんなも幸せ。

鈴仙だけ微妙にまだ不幸してるけど、最近は○○のお陰で幸せそう。

やっと幸運の素兎の面目躍如かな。

ん、眠いの?

ああ、泣き疲れちゃったのね。

いいよ、おいで。

お姉さんが優しくしてあげるから……。







 -おまけ?-

「あ、ウドンゲ。こんなところに居たのね」

「何ですか、師匠」

「さっき居間で、てゐとお茶で一服してたのだけれど。
 縁側の方から嗚咽が聞こえて来たのよ。
 覗いてみたら、○○が泣いていたわけなんだけど……貴女、何かした?」

「してません! いえ、それより何があったんですか!?
 ○○は大丈夫なんですか!?」

「一応、今はてゐに○○を落ち着かさせてはいるけど……うーん、大丈夫かしら」

縁側に来ると、○○はてゐに膝枕してもらっていた。

「ちょっと、てゐ! 私の○○に何で膝枕なんてしてるの」

「○○に膝枕してもいいのは、別に鈴仙だけじゃないでしょーよ。
 ……それより騒がないで、やっと寝かしつけたんだから」

○○の顔を覗き込むと、涙の跡があり、目元は腫れて赤くなってはいるものの、安心した様な寝顔だった。
泣き疲れて眠ってしまったのだろう。

「珍しいわね、てゐがお姉さんらしく振舞うなんて」

後から現れた師匠が呟く、確かに珍しい。

「辛そうにしてる子を見かけたら、甘えさせてあげるのも大事でしょ。
 ……あと、こう見えても、一応えーりんの次か次くらいに年長者なんだけど……私」

その後、三人で○○が泣いていた理由について話し合ったが答えは出ず。
後で本人に聞こう、という結論になった。
話し合いは○○の寝顔を愉しみながら、だったが。

縁側は少し寒いので、師匠が毛布を持って来てくれた。
今日はここで皆で寝るのも良いかもしれない。



新ろだ2-054


「てゐ、今日は一緒に寝てくれないか?」
「……見下げた変態ね。そんな直球に情事を求めてくるなんて」
「違う! そういう意味じゃなくて。あのー、なんだ、添い寝をしてくれないかなーと」
「それであわよくばソッチへ持って行こうと、ね」
 うししし、と笑うてゐ。いや、本当に俺はそういうことを望んでいるわけではなく、もふもふしながら寝られたら気持ちいいかなーと思っただけで。
「いやだから――」
「まあ、いいわ、しかたなく。本当にしかたなーく一緒に寝てあげる」
 え? ダメで元々と思っていたが、流石てゐさん気前いいですわ!
「まあ条件があるけれど?」
「ですよねー」
「しっぽ触っちゃ駄目だよ? もちろん耳も」
「どう……いうことだ……。てゐ、それが俺に対してどれほどの効力を発揮するか判って言っているのか?」
「もちろん! だって○○、いつもいつも後ろから抱きついてくるし、しっぽ撫でるし、耳もふもふするし。………………恥ずかしいのに」
 そのことを思い出したのか、少しだけ顔を赤らめて、パジャマの裾をぎゅっと下に引っ張る。
「あ、だからいっつも顔真っ赤にしてたのか」
「気付きなさいよバカ!」
 いやもちろん気付いていたのだけれど。
「だから今日は普通にして、ね?」
 そう言って、俺の腹の辺りに抱きついてくる。俺の眼下には白い柔らかそうな耳がある。
 耳を触りたい! しっぽも触りたい!
「だからダメだって」
 無意識に伸ばしてしまっていたらしい手をてゐが払いのける。
「だって……いつも○○がしてるのは、ペットを愛でてるみたいじゃない」
 ……ああ……なるほど、そういうことか。
「てゐ……」
「ん?」
「ごめんな」
「気付いてくれたのなら、別に」
「てゐ……愛してる」
「あ、あいっ!? え、えぇっ!? ちょ、ちょっとまっていきなりそんなこと」
 真っ赤な顔をした困惑顔のてゐを見て、笑顔が零れて、愛しさが溢れて。火照っているてゐの両頬を両手で捕まえて、そのままキスをする。
「んっ! んぅ、……ぁ、も、もう、いきなり、なんだから……」
「ごめん、しっぽも耳も触ったりしないから、今日は一緒に寝てくれ」
「ん」
 返事の言葉はなくとも、てゐは俺の手を引いて床まで導いてくれる。
「てゐ」
「なによ」
「俯いてないで、顔を上げてくれよ」
 恥ずかしいからなのか顔を上げてくれない。
「イヤよ」
 そう言って、布団へ潜りこんでいく。
「お、おいてゐ」
「ほ、ほら、添い寝」
 だから入ってきなさい、とくぐもった声が聞こえた。
「入るぞ」
 普段は冷たいはずの布団が、今はてゐが入っているから暖かい。
「……てゐ?」
 なにやらもぞもぞと動いている、ってうぉっ?
「いきなり腕を回してどうした?」
「だ、だから添い寝」
 ぐりぐりと顔や頭を胸やお腹へと押し付けてくる。これじゃあ、顔が見えない。
「あ、もしかして相当恥ずかしがってる、とか?」
「――――っ!」
 そう言うと、てゐの抱擁が一層強くなった。
「全く…………かわいいなあ、てゐは」
「…………ばか」
 少しだけ見えたてゐの顔は、今まで見たどれよりも、真っ赤に染まっていた。


Megalith 2011/12/06

夜、とても静かな夜。
永遠亭の縁側に、一人の老年の男が座って星空を眺めていた。
そんな彼に近づく少女がいた。
少女は断りを入れることも無く、黙って老人・・・○○の隣に腰掛けた。

「てゐか…」
「どうしたの、こんな所で」
「昔を思い出していた。ワシらが結婚した時からの事をな」
「結婚した時か…若かったね、あの頃の○○か。それにヒゲだけじゃなくて髪もあったわ」
「言うな。お前に習って健康に気を使ってはいてもワシは人間だ、流石に衰えもする」
「それでも、人間にしては上出来よ」
「…嫌いか? こんなジジイになったワシは?」
「ボケたの? 嫌いならさっさと永遠亭から蹴り出してるわよ」
「ふっ、それもそうだな」
「…逆、逆よ。私は好き。あなたの固いしわしわの手も、その長くて白いひげも。あなたが生きて積み重ねた物が全て…」
「物好きな兎だ」
「奇人変人の多い場所だからね…当てられたのよ」
「良い女房をもったよ、ワシは」
「今更よ…ふふっ」

てゐは○○に体を預ける。
○○は厳つい手でてゐの癖のある髪を撫でた。

「戻るか、体が冷えるとお腹の中の子に障る」
「そうね…それにしても、衰えない所もあるのね」
「兎の色欲がうつったのだろう」
「言う様になったわね、生意気よ」
「お前程でもない。それにしてもこれで何人目だったか」
「…忘れたわ、多すぎて。最初の子達が生まれたのって、いつだったかしら」
「八十年前だ。ワシらが一緒になって次の年に生まれたからな」
「だったかしら…あんた、お師匠様に変な薬盛られてるんじゃない? 健康に気を使ってるって言っても流石におかしいと思うんだけど」
「ありえるな、あの方は赤子を取り上げるのを楽しまれている節がある」
「はぁ…何やってんだか」

そう言うと、てゐは珍しく呆れた顔をして、眉間に指を当てる。

「よっ!」
「えっ!?」

てゐに珍しく隙が出来ているのを見つけると、○○は好機とばかりにてゐを抱き上げた。

「ちょっ、いきなり何するのよ!?」
「こういう所も衰えてはおらんよ」
「もう…」

口では不満を表してはいたが、てゐの表情には至福が浮かび上がっていた。
○○は大事にてゐを抱えながら、部屋へと戻った。




 ・ ・ ・



「そう言えば、鈴仙が婿を取ると言っていたな」
「そういえば言ってたわね。あんたと同じ人間だっけ、また騒がしくなるわ」
「部屋を増やさねばならんな」
「そういうのは鈴仙達にやらせればいいのよ」
「それもそうだな」



うpろだ0021



「今日もいい天気だなぁ…」
「そうねぇ…」

てゐと二人で竹林を歩きながら話す

「竹林を散歩ってのもなかなかいいアイデアだな」
「まぁ別にやる事も無いし…」
「でも最近物騒なんだろ?」
「えぇ、人食い妖怪が出てるらしいわね…たぶん」
「たぶんって…せめて八意先生に聞いてから出てこいよな」
「彼氏とのデートだ~って言ったら即答で了解を得たから良いのよ」
「…あの人人の恋愛見てて楽しいんだろうか…」
「さぁ?年増の感性は分からないわ」
「だな」

長い間生きてる人の感性はよく分からない…まぁ…

「…何も言わないの?」
「ん?何に対して?」
「私これでも千年は生きてるんだけど…」
「いいだろそのくらい」
「いや貴方に比べれば年齢や経験が随分多いのよ?だから別に年増って言っても…」
「…んな事かよ…呆れた」

此奴を好きになってからそんな事は考えなくなっていた。まぁ最初は考えたりしてたのは秘密だ

「そ、そんな事って貴方ね…女性にとって年齢と体重は聞いちゃいけない二大タブーなのよ?分かってる?」
「じゃあてゐは年増って言われたいのか?」
「そうじゃない…けど…」
「じゃあ別にいいじゃないか」
「…貴方には呆れるわ」
「はぁ?」
「いいえ、随分私思いなのねと思って」
「当たり前だろ?こんなに可愛い彼女を年増とか言う彼氏が居たら俺はそいつを殴り飛ばしてやりたいね」
「あ、改めて言われると照れるわね」
「お前が望むなら俺は何度でも愛を叫ぶぜ?」
「キザねぇ」

自分でも言った後後悔している

「男はカッコいい物に憧れる生き物なんだよ」
「貴方ほどカッコいい人も居ないけどね」
「あ、あぁ…そうだな」
「な…何よ」
「い、いや…少し驚いただけだ」
「それはどういう事かしら?」
「いやそんな満面の笑みを浮かべて質問されても」
「今なら落とし穴に落ちるだけで…ってきゃあああああ!」
「てゐの霊圧が消えたッ!?」
「…(じとーっ)」

一度やってみたかったりする、冗談は置いといて

「すいませんでした。ほれ、捕まって」
「ありがと…ッ!」
「ん?どうした?」
「足…挫いたみたい」
「あーあ…上がれるか?」
「うーん…無理ね」
「無理…か、どうするか…」
「鈴仙か師匠に薬を持って来るように頼んでくれる?」
「え?応援呼んでから出ようってのか?」
「?当たり前じゃない」
「……」

一つ思い当ってしまった、それは本当に些細な事だけど

「早くして?足が痛むのよ」
「ちょっとスペース空けろ」
「え?ちょ何する気?」
「下りて救出するんだよ」
「…何言ってるのよ、早く師匠か鈴仙の所行って呼んできて」
「嫌だね」
「なっ…何言ってるのよいきなり!」
「もしも・・・だ」
「?」
「もしも俺が助けに行ってる間にお前が…襲われたらどうするんだ」

我ながら何故今そういう事を思ってしまったのかは分からない
でも思い立ってしまった物は仕方ない

「…襲われるってあんたねェ…」
「てゐが妖怪に襲われて無残な姿で俺が出会った時には…」
「随分心配性ねェ、あんたも」
「あ…そうか…まだ付き合って1年にもなってないからそりゃ無理な相談だn(ぺしっ)…?」
「ほらほら、あんたの大切な嫁さんを家までエスコートしな」
「…ふぁい?嫁さん?」

いきなり不意を突かれるようなことを言われた

「何よ、自分から言っておいてその呆けた顔と返事は」
「お、俺なんかが旦那でいいのか?」
「はぁ…馬ー鹿、貴方以外考えてないわよ」
「…指輪買わなきゃな」
「気が早いっての」
「そうか?」
「報告しないとね」
「いや、全然金無いからな?」
「出来るだけ早くしなさいね」

人間は寿命が短い生き物なんだ。出来る事をやってあげておかないとな

「あぁ、生きてる内には絶対に」
「そうね…って縁起の悪いこと言わないでよ」
「了解でーす」
「ねぇ…ちゃんと私を幸せにしてから旅立ちなさいよ?(ギュッ)」
「当たり前だ、俺以外にお前を幸せにできる奴なんかいると思うか?」
「沢山いるかと」
「ノリが悪いな」
「これが素よ素」
「へいへい」

てゐとこれからもこんな日常を過ごしていけたらどんなにいいだろうか…
彼氏として頑張らないとな!

「はぁ…そういえば降りてから聞くのもなんだけど」
「ん?まだ心配事でもあるのか?」
「どうやって上がるのかしら?」
「あ…」
「はぁ…で?どうやって上るのかしら?」
「……れ!れいせえええん!やごころせんせええええええええええええ!」
「今度はもう少し考えてから物事は行いなさいな」
「誰か!助けて下さあああああああああああい!!」

※きちんとこの後妹紅が助けてくれました



うpろだ0042




あぁちくしょう──
このクソッタレの世界にいつも通り悪態を吐く
生まれた時から、全ては決まっていて変わらない
持つ者と持たざる者の境界は明確で、それは何が起ころうとも変わり様がない

力──金──容姿──

そのどれもが、自分には縁遠いもので
だからこそ──この掃溜めの様な毎日を過ごしている

親なんて片方は生まれた時から居なかったし、片方はちっさい頃におっ死んじまった
生きるためにあくせく奉公の日々を過ごそうとも、搾取される人生は希望も何もない

迷い続ける日々にもほとほと疲れてしまったが、それでも生きることを諦められない
どうしようもなく弱くて生き汚い人間──それが俺だった



「ちょいとそこのお兄さん、疲れてるみたいだけど大丈夫かい?」

いつも通りに疲れ切って、後は泥の様に眠るだけだった帰り道
そんな声を掛けられた

「あぁん? そりゃ働き疲れてるが……誰だアンタ」

愛想を振り撒く元気もなく、自然と口調が汚くなる
──まぁ、誰に対しても基本そうなんだが

自分と雇い主に好かれてればいいんだよ
それ以外の他人なんて、俺にとってはどうでもいい

「まぁまぁ、いいじゃないかそんな些細なことは。よければ──お兄さんの幸せを願わしてもらえないかな」

「幸せなんてもんは俺にはねーんだよ。疲れてるんだ、ほっとけ」

性質の悪い勧誘か
生憎と祈るなんて立派な考えは持ち合わせがない
祈るよりも悪態が先に出るぐらいなのだから

「そりゃ残念だねぇ、んじゃまた今度にするよ」

そう言ってその少女はひょうひょうとどこかへ行ってしまった

暇人も居るもんだねぇ
そうして特に気にせず、家路へと向かいなおした



「やぁ、そこのお兄さん。よければ幸せを願わしてもらえないかな?」

「……ストーカーかなんかかお前は」

次の日も同じ場所で同じ少女に同じ言葉を掛けられた
思わず溜息が零れる
もしかして嫌がらせなのか、そうなのか

「とんでもない、私は純粋にお兄さんの幸せを願いたいだけだよ」

「悪いが、無償の善意なんてもんを信じられる程人間が出来ちゃいねーんだよ。他を当たりな」

そうしてにやにや笑う少女を背に歩き出す
何をするよりも寝付かなければ
寝てしまえば休める
こんな掃溜めを見なくてすむ──

「幸せを願う相手は神様だけとは限らないんだけどね。それじゃ、またにしようか」

──うんざりする
放っておいてもらいたい
何も期待するものなどないのだ
全ては決まり切っていて
大逆転の目なんてものはあり得ない
幸せなど──願うだけ無駄なのだ

「お前もしつこいな、祈るものなんてねーんだよ。それに、見ず知らずの他人がなんで俺なんかに構うんだ」

イライラとしながら向き直る
この調子じゃ恐らくずっと付きまとわれるだろう
そんな疲れることはごめんだ

「祈る者は私だよ、お兄さんの幸せを願うことが私の使命だからね」

「電波かなんかか? お前」

明確に言葉に敵意を示したがその少女はどこ吹く風だ
幼いその外見からはまるで想像出来ない、その余裕な態度に苛つきが増す

「あはは、お兄さんからしたらそうかもね」

「──もう構うな、次は無視させてもらうからな」

平穏な日常を過ごしたいのだ
何も変わらない生活をしたいのだ
でないと──最後には、絶望しか残らない

「ふむ、んじゃ少しだけアドバイスだ。明日籤でも買ってみるといい。御利益をあげよう」

掛けられたその言葉に何も返さず
いつも通りの帰り道を進んだ



「──お前は一体、なんなんだ」

「嬉しいねぇ、お兄さんから話しかけてくれるなんて」

「茶化すな、おかしいだろうこれは」

そう言って、手の中の籤を示す
昨日言われた言葉が何故か頭に残り、適当に買った籤
そのどれもが、少ない額ながらも当たりの番号を記していた

「言っただろう? 私はお兄さんの幸せを願っているって。それはその結果なだけだよ」

「──妖怪か、お前」

その言葉に少女の笑みが色濃くなる
そうして何もなかった少女の頭上に、人間ではない証──長い耳が現れた

「ご明察、私は妖怪──といっても特に害のない、か弱い幸せウサギだよ」

逃げる算段を頭の中で冷静に考える
妖怪なんて性質の悪いものと相場が決まっているし、自分でか弱いなんて言う奴を信用出来るはずがない

「その幸せウサギさんが、なんで俺なんかに構うんだ」

「お兄さんが不幸そうだったからね。まぁ気紛れだから気にしないでいいよ」

「何の見返りもなくか? そんなの──信じられるわけがないだろう」

「確かに、与えるだけなんて怪しいもんだよねーあっはっは」

そう言って、面白そうに笑う
その人を小馬鹿にした態度に苛つきが増すが捕って食われては元も子もない

「理由はほんと気紛れだからなんだよね。生憎と……それ以外の理由なんてないよ」

「だったらこの当たり籤でもういいだろう。放っておいてくれないか」

「信じてはくれたけど警戒されちゃったかな……まぁ危害を加える気はないから安心して」

はい、そうですか──と信じられる程人の良い人間ではない
この言葉を信じられるとしたら……余程のお人好しだろう

「まぁいいや。落ち着いて話が出来るまでここで待ってるよ。またね?」

そうして手を振られる
気紛れか何か知らないが、どうやらすぐに捕って食われるということはないらしい

そうして走って逃げる
彼女から
この日常から
自分を取り巻く、何もかもから



何もかもいつも通り
波風立たず、何か特別なことが起こるわけでもない
そんな毎日
何かが変わるかもしれないなんて期待はしない
そんなものは望んでいない
例え疲れるだけの人生でも、それでも
──惨めに生き続けるだけだ

「こんばんわ──今夜は綺麗な満月よ?」

──そのはずなのに、なんでここに来ているのかなんて、俺自身判っちゃいない
──判りたくない

「ぴょんぴょんと跳ねたり餅搗いたりはしねーのかよ」

「そんな重労働はあそこに居る奴らに任せておけばいいのよ」

「随分と怠惰なことで」

「失礼ね。達観してる、って言ってもらいたいものだわ」

昨日根付いた警戒心はそのままに、軽口を交わす
聞きたいことはそんなことではないのだが物事はタイミングってもんが大事だ
急いては事を仕損じる──では泣くに泣けない

「それで──昨日の今日でわざわざ来てくれたんだから、何か話したいことでもあるのかしら?」

判っちゃいたが、コイツは大分老獪だ
恐らくは、俺なんかとは比べ物にならない時間を過ごしてきたんだろう
裏の裏まで見過ごされているような感覚を悟られないように、いつも通りの口調を意識して問い掛ける

「──お前は、俺に幸せをくれるのか」

──この掃溜めから、掬ってくれるのか──

誰かに弱音を吐くなんて、久々過ぎて思い出せない自分に笑えてくる
誰であろうと、噛み付いて生きてきた
だから今のこの世界の在り様は当然で──

「──残念、私に出来るのは切っ掛けを与える事だけよ」

安易に逃がしてくれるはずもなかった

「そっか……すまなかったな、邪魔した」

そうして踵を返そうとすると後ろから呼び止められる

「話は最後まで聞きなさいってーの。切っ掛けってものは様々なものよ、多くの人はそれに気付かない──気付けない」

「その先にあるものなんて結局同じなんだよ」

いくら切っ掛けがあろうと、変わり様があろうと
結局は更にその先に壁は現れる
その度に折れて、絶望して
だから──願うなんてことは無駄なのだ
幸せなんて、決して訪れはしないのだ

「根が深いのねぇお兄さんの卑屈さは」

「達観してるんだよ、このクソッタレの世界に」

人並みの幸せを……なんてもんは、不幸を知らない奴の台詞だ
知ってる奴は皆、こう願う

──死なないのが何よりもの幸せで、不幸なことなんだ──と

「──まぁお兄さんの考え方にうるさくどうこう言う気はないよ」

「そりゃ助かるな」

この微妙な距離感
それが怖がりながらも会話を続けている理由なのかもしれない
多分に干渉して来ず、その癖、突き放さないでこちらに語り掛けてくる
──力関係が決まってしまっている様で納得いかないが

「でも性分なんだよね。不幸な人を見ると放っておけない出来た性格だから」

「その裏で何企んでるか判ったもんじゃねーがな」

「こんな可愛いウサギさんに酷いんじゃない?」

「生憎と、誰にでも愛想を振り撒く奴は信用しないようにしてるんだ」

半分本当で、半分嘘だ
誰にでも信用なんてしやしない
誰であろうと、腹の中じゃ何を考えてるか判っちゃもんじゃない
それが人間って奴だ
その中でも特に、愛想を振り撒く八方美人は無条件で嫌うだけ

「ま、その考えは同意するけどね。無償の善意なんてものあるはずもないし」

「だろうな、お前の胡散臭さは隠せねーよ」

きっと、隠すつもりもないんだろうが
可愛らしさを盾に騙すなんて、やろうと思えばきっともっと上手くやるだろう

「なんでお兄さんにそこまで嫌われてるのか、理解に苦しむわねぇ」

こっちの腹の内なんて全て理解しているだろうに──顔には出さず毒づく
そんなこちらにはお構いなしでぷらぷらと腰掛けた足を揺らす彼女

「──それで、『切っ掛け』ってのは何なんだ」

助けてもらいたいわけじゃない
変化なんて求めてもいない
それでも聞いてしまうのは──俺が弱い人間だからなんだろう

強がっていても、餌をぶら下げられたら飛びついてしまう
孤高の強さなんてものはなく、強がってるだけ
そんなもの、とっくに理解していた
だから、これはただの暇潰しなんだ──と、自分に無理矢理理由付けをした

「あれ、ちょっとは興味を持ってもらえたのかな?」

「可愛らしいお宇佐様に助けてあげるなんて言われたら喜ぶもんだろう」

その先が例え奈落に続いてる落し穴だと、判っていても

「まぁいいや。でも余り過度な期待はしないでね? 私が出来ることなんて、たかが知れてるし」

「それでもちっぽけな人間は頼るしかないんだよ」

「うん、判った。それじゃ、この可愛らしい小うさぎ様が幸せを授けてあげましょう」

そうして、胡散臭い幸せうさぎとの付き合いが始まった



「何なんだこれは」

「見て判らないの? 結構教養ない?」

「確かにそんなもんは持ち合わせてねーけども。あれか、余計なもの削げ落としてから食うのか」


対して広くもない、むしろ狭いぐらいのあばら家の中は今は胡散臭い器具で溢れかえっていた
──寝るスペースぐらい残せよチクショウ

自動的に走り出すランニング用っぽい機械
縄跳び、重し付の短い棒、その他色々と雑多な品々……

「あれか、健全な精神は健全な肉体からとか言う奴か」

「健康は大事よ? じゃなきゃいざという時に何もできないじゃない」

「そんな時が来たら大人しくおっ死ぬよ」

「刹那的ねぇ。──そんな度胸もない癖に」

案の定、お見通しらしい
実際、命の危険が迫ったら生き汚く足掻くだろう
何もない癖に死ぬのだけは嫌な──人間なんだから

「まぁいいや、ほい」

そう言って紙を投げ付けられる
丸められたそれを開くと──

「死ねというんだな」

「そんな簡単には死なないから大丈夫よ。……多分」

コイツは小うさぎなんて可愛らしいもんじゃない
油断していると軽く首を撥ねられると、改めて認識し直した

「そうねぇ、何かしら別にご褒美があった方が身も入るわよね」

「餌が豪華だとやる気だすのは万物共通だろう」

「確かに。でもどれくらいのにするかってのは重要なのよ」

そりゃそうだ
ご褒美ったって、お菓子をくれる程度じゃやる気も出るわけがない
かと言って、世界をあげるとか言われても大きすぎて嘘だと判ってしまう

頑張れば達成出来るかもしれない事
そして頑張らなければいけないと思わせる事
そのさじ加減って奴は、働かせる上で結構大事なのだ

「んで、この憐れな奴にくれるご褒美ってのは何なんだ」

「がっつくわねぇ。でも、そうねぇ……」

「躾なんて習っちゃいねーからな」

「まず、お兄さんに幸せへの道を示してあげる」

それは最初に言われてたこと
直接幸せが舞い込むってわけじゃないだろうが、確かにコイツはそういった力があるのだろう

「もう一つは暫定的な物だけど、私がなんでお兄さんに構うのか教えてあげる──ってのはどうかしら?」

こちらが興味を持つだろうこと、そして知らなければいけなさそうなこと
その曖昧な境目を、的確に付いてきた

「……俺じゃなきゃいけない理由はないんじゃなかったのか?」

「やだなぁー、お兄さんもそんな言葉──真に受けてた訳じゃないでしょう?」

当然だ
無償の善意なんて存在しない
それは彼女自身が言っていたこと
必ず、何かしらの理由があるからこそ構うものなのだから
だからその裏側を知らなきゃいけない
好意だったら踏みにじり
悪意だったら──

「面白そうじゃねーか、ちょうど軽く運動もしたかったところだ」

「やる気を出してもらえて嬉しいよ、それじゃ──」

「「しばらくの間、よろしく」」

──必ず報復を

そうして、日々は変わりだしてしまった

──幸せになる為に
──幸せにするために

互いに化かし合いながらの探り合いが



「そういやお前はいつまでここに居るんだ?」

「んー、適当に……かな。貴方が幸せになるまではとりあえず見捨てないつもりだけど」

「物好きだねぇ、ほんとに」

「ただのお節介兼暇潰し程度のものよ」

「酷い言いぐさだねぇ、ほんとに」

ごろんと互いに寝転がりながら軽口を交わす
別に互いに何もするでもなく、ただ居心地の良さからだ

「んじゃ暇潰し程度にお前さんの話でも聞かせてもらいたいな」

「私? まぁお兄さんよりかは物知りなのは自覚してるけどね。面倒だなぁ……」

「別に言いたくなきゃいいさ、暇潰しだし」

「そうねぇ……んじゃ、お兄さんが知らなそうなことでも語ろうかしら」

そうして語られたのはこの時代ではない古い御伽噺
自然が確かな脅威を振るっていて、神と人が今よりももっと身近だった時
その時から、今と変わらずに誰彼かまわず悪戯に精を出していたらしい

「その悪戯癖は生来のもんなんだな」

「三つ子の魂百まで──ってね。そんなに簡単に変われるもんでもないのよ」

簡単には変わらない──変われない
捻じ曲がってしまったものはそのまま曲がって伸びていくしかない
そんなこと、自分自身で一番よく知ってるっての

「威張って言うものでもねーだろうに。まったく、お前の性格じゃどうせ失敗とかも経験したことないんだろうな、きっと」

コイツが何かしらに失敗するなんて想像も出来ない
認めるところは認めているのだ、口には出さないけれども

「──そんなこともないんだけどもね」

だから、その落ち込んだ声に少し驚いた

「なんだ、お前にもトラウマみたいなもんはあんのか」

「そりゃー私も長生きしてるからね。まぁ失敗談なんて話すもんでもないよ」

──このお話はこれでお終い
暗に含まれた口調にそれ以上を聞くことは出来なかった




「あと百回ー、がんばれー」

「はぁ、はぁ……そのやる気のない応援どうにか、ならんのか……」

「そんぐらいでバテてるようじゃねぇ……もやしっ子じゃしょうがないかな」

「毎日働くしかないから人並みレベルにはあるよコンチクショウ」

ここ最近の日課と化しているハードワーク
どうやらコイツは結構なスパルタらしく、手を抜くと即座に横やりを入れてくる
負けず嫌いな性格なのを手玉に取られてるのは自覚しているが俺も単純なものである

「はい、おつかれさまー」

「はぁ……はぁ……」

会話の間に無意識にノルマを終えていたらしい
倒れ込んで息を整えていると首筋にヒヤリとした感覚

「──冷たっ!?」

「あっはっはー、驚いた?」

「一回鍋にして喰っちまうぞ? コノヤロウ」

「てゐ様の優しさを無碍にするなんて小さい男ねぇ」

「そんな台詞はもっと身体に凹凸を増やしてから言いやがれ」

「──もうワンセット追加する?」

「わたくしめがわるかったですゴメンナサイ」

そうして額を床に擦り付ける
プライドなんて邪魔なもんは、ガキの時分にすでに置き捨ててきた
けらけらと笑うてゐに心の中での復讐を済ませながら、それなりに長くなったこの生活を思い返す

初めだけの気紛れかと思いきや、ずっと居座っているコイツにうちにそんな余裕はねぇと言った時
どこから用意したのか様々な器具で埋め尽くされた時
意外と生活の知恵はあるのか、手を抜くところは抜き、しっかりするところはしっかりしていることに驚いた時

なんだかんだと喧しく、それでいて──退屈とは程遠い日々だった

だから感じていたのは、きっと居心地の良さ
決して認めてなんてやらなかったけども

「しかし私が言うのもなんだけど……お兄さんも頑張るよね」

「いきなりなんだ、変なもんでも食ったのか」

突拍子もないのもいつものことだし、判るように話さないのもいつものことだ
コイツの言うことを一々気にしていたら、それこそ擦り減っちまう

「いや、特に意味もないことなのに頑張ってるなぁって。結構根は真面目さん?」

茶碗をぶん投げてやろうかと思ったが我慢出来た俺を褒めてやりたい、心底

「お前は何の意味もないことを、毎日させてやがったのか?」

「いやいや、そんなことはないよ。確かに意味はあるさ。でもお兄さんは──本心じゃこんな事しても無駄だって思っているでしょう?」

当たり前だ
こんなことを繰り返していたって、結局はただの自己満足程度で終わる話だ
確かに気持ちを切り替える『切っ掛け』にはなるんだろうが
俺が望むものは──そんなもんじゃない

「あぁ、思ってるさ。でも言われたことをするしかないだろう? 何も知らないクズなんだから」

「その素直さは良いねぇ、ひねくれてるけど」

「矛盾してやいないかい」

「なんとも判りやすい格好つけじゃないか、微笑ましいよ」

ほんと、煮ても焼いても食えやしねぇ
まぁこの会話を結構楽しんでるのも事実だけど

「んで、何か他にしなきゃいけないことがあんのか?」

「そうだねぇ……そろそろ聞いてみようか。
  ──今までの生活を全て捨てて、新たな生を得られるかもしれないのと変わりない人生──
  お兄さんだったら──どっちがいい?」

言われた意味を考える
今までのクソッタレの生活と、新しい生活どっちがいいかと言われたら──

「あぁ先に一つだけ。──新しい道はきっと辛く険しい物になるよ」

さすがに何もなく幸せだけなんて待ってないか
俺は……

「……それが今のお兄さんの答えなんだろうね、まぁ正解なんてないんだろうけど」

黙りこくってしまった俺に、てゐは予想していたのか言葉を告げる
俺は結局、臆病者なのだ
今が最悪だと判っているのに、そこから一歩を踏み出せない
変わろうとしない
それが俺という人間の──弱さだから

「……いきなりそんなこと言われても判らねぇよ」

力なく零す
本当は判っているのに、判らない振りをする
それが今まで生きてきた俺の生き方だった
それが──手遅れにしているのだと、判っているのに




「ねぇ、お兄さんはどんな仕事をしているの?」

「よくある奴隷生活だよ。必要最低限の保証はあるけどな」

その日もいつも通り俺が動いている横で、退屈そうに寝転がりながら聞いてくる
その態度にいつか寝首を掻いてやる、と心に決めて久しい
だらだらしていいのは俺だけなのである

「ふーん……それに満足──はしてないよね」

「当たり前だ。誰が好き好んで搾取される側に周るかっつーの」

それは本音
好き好んでこの立ち位置に居るわけではない
──それしか選べなかっただけだ

「それ以外の道を選ぼうとは思わないの?」

何度目か判らなくなるぐらいに繰り返された問答
きっとコイツは、何度でも『切っ掛け』ってやつを与えてくれてるんだろう
こんな優柔不断で臆病者な俺なんかに

「それ以外に出来ることなんてないからな」

一人きりで生きられる程強くもない
その癖誰かに頼れもしない
──生き汚いのだ

「自由をその手にしたくはないの?」

自由を得たとしてもそれは仮初だ
結局は、その先でより大きなものに縛られるだけだ

「それがあっても何の意味もないさ、それなら加護されてる方が楽だよ」

搾取されるとしても日々を虚しく生きることが出来る
死んでしまって何もないよりかは──マシだ

「逃げて生きていくことは出来ないの?」

ここから逃げた先にあるものなんて、たかが知れている
それになにより──

「逃げていく場所なんて宛もないからな。結局野垂れ死にだよ」

優しく包み込んでくれる存在なんて当の昔に無くしちまった

「──結局、幸せなんて求めてないの?」

──幸せ
その簡単で単純な言葉
でも俺には……

「世間一般の言う幸せってやつは俺とはズレてるんだよ、きっと。何が幸せかも──もう判んねぇよ」 

生きているだけで幸せなのか
例え死んでしまったとしても求めることが幸せなのか
俺には、判らなかった

「──……そっか」

それきり、黙りこくる
結局正解なんてものは、自分で出すしかないもんなんだろう
納得出来ていなきゃ、最後には後悔しか待っていない
それが判っているからこそ、てゐは何も言わないのだ

──貴方が幸せになる為に

そう言って喧しくちょっかいを出してくる小うさぎ
いつもは元気溢れるその彼女が、今は何も言わず黙っている
そのてゐの様子に、自分の情けなさに、苛つきだけが募っていった



「なぁ、話を聞いてくれないか」

「だいぶ飲んだみたいねぇ、暇だし別にいいわよ」

祝い事でもあったのか、俺ら奴隷の身分のまで珍しく振る舞ってくれた雇い主の酒を、ありがたく飲んだ日
珍しく飲んだ酒にだいぶ頭をやられているのは自覚している
だから、深く考えずにこんなことを聞いちまうんだろう

「お前の考える幸せってなんだ?」

俺では判らない
幸せなんてものは、願うものなのか叶えるものなのか
それとも降ってわいてくるものなのか
誰かに叶えてもらうものなのか、誰かに与えるものなのか
誰かと分かち合うものなのか
頼れる誰かも居ない俺では──判らないのだ

「──正直なところ、判らないのよね。私にも」

でも、てゐになら答えをもらえると思っていた
彼女なら、幸せを知っていると思っていた
だから、その答えに驚いた

「与える身分なのに、随分と曖昧なんだな、お宇佐様」

「私は誰かに幸せをあげる存在だからね。私自身の幸せなんて意識したことなかったのよ」

「──お前は、幸せじゃないのか?」

そのどこか他人事の様な口振りに思わず聞いていた
今まで、必要以上に踏み込まない様にしていたのに
──やはり随分と酒が回っているらしい

「別に幸せなんかじゃないわよ。自由気ままに生きているだけだし、健康の為に身体動かしてるだけだし」

「それなのに他の誰かの幸せを願ってるのか?」

「こないだの問答になっちゃうんだけどね。それ以外に出来ることなんてないし」

「自由じゃないのか?」

「確かに自由よ。誰に気にするでもなく生きているもの。でも、それがあっても何の意味もないのよね」

「逃げている、ってわけでもないよな」

「逃げ込む先がない、ってのじゃ一緒だけどね。私も今まで一人で生きてきたし」

「──それじゃあお前は、幸せに、なりたいとは思わないのか?」

一番聞きたかったことを聞く
幸せじゃないというのなら、その手に掴みたいのか
望みはしないのか

「──どうなんだろうね。判らないや」

返ってきたのは俺と同じ答え
きっと俺とは捉え方が違うんだろうけども、それでも同じ様に判らないのだ
何が幸せかなんて、きっとそれぞれ違うのだから

「──そっか、変なこと聞いて悪かったな」

明確な答えなんてもらえると思っていなかった
それでも、てゐなら
『切っ掛け』をくれると言ってくれた幸せうさぎなら、何かしらヒントをくれるんじゃないか
そんな淡い期待だった

「随分と素直に信じてくれるのね、いつもの嘘かもしれないわよ?」

「それならそれでお前らしいからいいよ」

何かしら企んで裏でほくそ笑む
それはとても彼女らしいし、思い浮かぶことすら容易だ
でも──掴めない遠くを見る様なその表情からは、そんな考えは読み取れなかった




「お兄さんはどんな風に生きてきたの?」

「聞くも涙、語るも涙な長いお話だ。めんどくせぇから言わねぇがな」

いつもの語らい
この会話をいつもと呼べるぐらいにはてゐとも長い付き合いになった
気紛れだと言っていたお宇佐様は未だに我が家から出ていく様子もない

「ふーん。まぁ特に興味もないんだけどね」

「聞いておいてそれかよ……」

「あはは、ウソウソ。まぁ言いたくないなら無理にとは言わないよ」

「楽しいもんでもないんだがなぁ……」

逆にどこかのお涙頂戴のお話を好きな奴らなんかじゃ面白がって井戸端会議に花を咲かせるかもしれない
いつだって、他人の不幸は蜜の味なのだから


母親なんて三つ数える頃には亡くなっちまったし
父親なんて顔すら憶えてねぇ
はした金で売られてからは、あくせくと働いて碌に青春なんてもんも送ってねぇ
気に入らないからと殴られ蹴られての毎日だしな

これはひねくれ曲がってもしょうがない、と自分で思う

「──と、まぁそんな感じだ。奴隷仲間じゃよくある話だよ」

結局は他の一般人よりもボーダーがだいぶ低いだけで、俺の周りじゃありふれた話だ
まだまともな精神を持っている分だけ、マシなんだろう
──狂えないだけ不幸なのかもしれないが

「ふーん、なるほどねぇ」

気のない返事をするてゐ
まぁコイツなら予想出来てた態度だけども

「な、面白くなる要素なんて微塵もなかったろ」

こちらも判り切っていたことなので適当に流そうとする
だから──

「──貴方は強いのね」

そんなことを言われるとは思ってもみなかった

「強い? それ以外に選べなかっただけだ」

きっと今の自分は、豆鉄砲でも喰らった様な顔してるんだろうなぁ……と纏まらない頭で考える
そう、強さなんかではないのだ
それしか、選ぶ道がなかっただけ
選択肢がない以上──それをこなしていくしかない

「それでも貴方は選び続けた。投げ出さず、弱音を吐きながら。例え地べたを這いずろうとも。それを強さだと──私は思うわ」

「──よしてくれ。逃げ続けただけの臆病者だよ。強さなんかじゃない」

誰にも抵抗せず、知ったかぶりだけで、違う道を知ろうともせず
ただ──強がってきただけ
それは、弱さだ

「きっと、誰も認めてくれなかったんでしょうね」

「認められるようなことはしていないからな。後ろ指を指されることしかしてねぇよ」

ただただ、必死で
ただただ、死にたくなくて
ズタボロになりながらそれでも生き急いできた
──それが俺だ

「なら私が言ってあげよう。──貴方は強いわ。誰が後ろ指を指そうと、嘲笑おうと──認めてあげる」

その言葉に、その彼女の雰囲気に、言葉が出ない

そんな立派なものではない
強くなんてあるはずがない
じゃなければ──

「──ちくしょう」

じゃなければ──流れるこの涙を止めるすべなんて、あるはずがないじゃないか

何が幸せかなんて判らない
不幸の真っ只中にいることは判る
何を望めばいいのかも判らない
望んで良い身分じゃないことは──判る

「──どうか、お宇佐様。──お聞きいただけましょうか」

「──聞こう」

自然と言葉が溢れる
何かに縋りたいのか
ただ聞いてほしいだけなのか
それすらも、判らずに

「母親も亡くなり父親の顔も知らずに、ただただ誰かの怒りに触れない様に生きる毎日なのです」

「ただ繰り返すだけなのです。この先には絶望しかないのです」

「辛いのです。苦痛でしか、この生はないのです」

「どうか、どうか──幸せへ続く道をお示し下さいませ」

自分の中の弱音、苦痛、絶望
それらを全て吐き出した

この掃溜めから掬ってもらいたくて
この絶望の世界から救ってもらいたくて

静かに聞いているだけだったてゐが口を開く
厳かに、確かな威厳を携えて

「──いつかの問いを再度問おう。──お前は、何故そうまでして生きるのか?」

──それ以外に出来ることなど在りませぬ身ゆえ

「──自由をその身にしたくはないのか?」

──今の弱い自分で、それがあって何の意味がありましょうか

「──逃げて生き行くことを知らないのか?」

──私には、逃げ行く場所も人もないのです

「──では、幸せを求めては居ないのか?」

──求めています、欲しがっているんです
──でも、何が幸せかすら……私にはもう判りません

いつかの繰り返し
違うのは本音かどうか
偽り様のない本音を、零した



何もない
どうすればいいかという答えも、どうしたいのかという思いも
だから頼るしかない
自分では判らない答えを、誰かに求める思いを

「──お兄さんに必要なのは……決意と希望、なんだろうね」

どこか疲れた様な表情をしながら言葉を零す
それは落胆なのか、憐憫なのか、嘲りなのか
それすら、判らない

「絶望と逃げ道しか用意していない俺には……そうなんだろうな」

「判った、ならば道を示そう──憐れな人の子を幸せに導く者として」

その言葉に顔を上げる
その指し示す先は希望か──絶望か

「戻るなら、右を見な。この暮らしに甘んじたいのなら、今までの生活が何一つ変わらずに待っているよ」

──指し示されたのは、今まで生きてきた里への道
何一つ変わらない絶望はあるが、生き抜くことは出来る掃溜めの先

「もし進みたいなら左を見な。辛くも苦しい道にはなるけれどもその先にもし希望が見えるのなら──また新しい生の形を知るだろう」

──指し示されたのは、里とは反対の方角
何も知らない道の先にかすかでもか細く希望があるかもしれない

判らないということは、決まっていないということ
だからこそ──どちらにでも転べるということ

その選択に俺は──




そうして一人、この場所に居る
隣で笑っていたウサギの姿も見なくなって久しい

──結局、俺は弱虫のままなのだ

一人きりの部屋で自嘲気味に笑う
誰に聞かれるでもなく、その渇いた声は虚しく響いた



強くなれるわけでもなく、誰かに手を指し延ばされても掴めない
そうして選んだ選択に胸を張れるわけもなく
目的も何もなく、ただ日々を生きるだけ
それを良しとした己の選択に、聞いたら誰もがきっと愚か者と笑うだろう
臆病者と罵るだろう

──その言葉に何も返せない
その通りなのだから

そうしてまた一人うろつく
ただ、欲しい物を求める子供の様に
ただ、生きる意味を無くした死人の様に

そうしてまたこの場所に来ていた
あの日掛けられた声をもう一度聞きたくて──

「ちょいとそこのお兄さん、疲れてるみたいだけども大丈夫かい?」

──そう、あの時もこんな風に声を掛けられたっけ……って

「久しぶりなのに無視とは酷いなぁ」

「お前……!! なんで!?」

驚きのあまり言葉が続かない
見限られたはずだった
もう出会うこともないはずだった
そんな彼女が──ここにいる

「なんでって……別に私は示しただけだよ。──そのどっちが幸せに続いてるかなんて言ってないしね」

けらけら笑うその姿に言葉が出ない
結局は詐欺にあったってことか──

「ほんと、最低だな、お前」

切れぎれに声に出す
何せ──

「ありゃ、怒っちゃったかな──って、わわっ!?──どうしたの?」

騙された怒りより
おちょくられた悔しさより

「──うるせぇ、しばらくこのままにさせてろ」

また逢えた嬉しさの方が勝ってしまっていたから

「まったく──良い男が情けないねぇ。でも──こんなのも、悪くない、かな」

情けなさなんて百も承知だ
虚勢ばかり張って生きてきた
それでも、今確かに感じている想い
これがきっと──幸せってやつなのかもしれない

気紛れな、幸せウサギを二度と手放さない様に
握り締めていた手を離さない様に
ずっと、そうしていた



「うーん……熱い抱擁もたまにはいいもんだねぇ」

「オバサン臭いぞ、それ」

「こんな愛らしい小うさぎになんて言い草なんだろうこの人は」

「いつ首を撥ねられるか判ったもんじゃないからな」

「そんなうさぎ居るもんなのかねぇ」

「どっかには居るさ、きっと」

「知ってる?──うさぎは寂しいと死んじゃうのよ?」

孤独に耐えられない
そんな話はどこかで聞いた覚えがあった
それは遠いいつかの記憶で──

「ずっとね、ずっと昔にね。まだ気ままに生きていた時、不注意で悪戯に失敗しちゃったの」

それは遠い昔の御伽噺
神話の時代の御伽噺

「身包みどころか皮まで剥がされちゃってね。それ以来海の生き物は苦手でね」

見たこともない大きな河の話
それはこの世界のどこかにきっとある──あったもので

「その時に、何も出来なかったただの兎だった私に──手を差し伸べてくれた人が居たの」

それを可哀想だと思ったのかは判らない
何も考えず、無意識で差し伸べていたかもしれない

「その暖かさは忘れられない、その人に受けた恩は絶対に返さなきゃいけないって決めたの」

それでも確かに、傷ついていた不幸な兎を助けたのだ
損得など考えずに、その身を掬いあげたのだ

「でも、やっぱり人の身だったからね。──碌に恩も返せないまま、その人は逝ってしまった」

ソイツは幸せになれたのか
その人生に意味はあったのか

「だから、それからずっと──私は一人だったし、人に幸せを与えてきた。
  あの人に与えられなかった分まで、誰かを幸せにさせてあげようと」

それは俺にはきっと判らない
話の中に感じている、この不思議なデジャブは気のせいだ
俺は俺で──他の誰かではないのだから

「そうして長い時を過ごしてきて、貴方を見つけたの」

巡り巡るものが例えあるのだとしても、それは決して同じものではない
少しずつ変わり続ける
ただ、少しだけ同じものを残しながら

「貴方は彼によく似ていた。だからかな──お節介を焼いちゃったのは」

「悪いが、俺は俺だよ。話の中のソイツとは似ても似つかない──悪人だ」

元が例え同じであったとしても過ごしてきた時間で簡単に変質する
それが、人なのだから

「あはは、そんなの判ってるよ。だから一度離れた。私がしたいことが何なのか、確かめる為に」

「……そのまま見限らなかったのはなんでだ?」

離れた幸せはそれでも手の届くところに戻ってきてくれた
それを離したくはない
それでも──まだ不安に思ってしまうのだ

「女の子の口からそれを言わせるかなー……。──貴方を気に入ったからよ。他の誰でもない、貴方自身を」

「なんでだ、俺なんか一山いくらのそこら辺に居る奴だろう」

「言ったでしょう? ──貴方は強い人。逃げずに立ち向かってきた人。
  誰が後ろ指を指そうとも──認めてあげるって」

それは彼女がいつか受けた優しさ
誰かに向けた無償の優しさ
自分に向けられたその優しさに、言葉が出ない

「でもね、気を付けてね? ──うさぎは気紛れだから、しっかり捕まえとかないと──またどこかに逃げちゃうかもよ?」

「──させねぇよ。例え逃げたとしても──今度はどこまででも追いかけて捕まえてやる」

幸せをただ待つのではなく、追い求めて手の中に捕まえる
何が幸せなのかを理解したのだ、決して今度は離さない

「でっきるかなぁ? 私は一筋縄ではいかないわよ?」

「大事なものを二度も手放す程人間出来ちゃいねぇんだよ、心配すんな」

いつかのその男に負けない様に
いつかの恩を返す為に
『切っ掛け』を忘れない様に

──貴女を幸せにするために──

手の中の温もりを確かめながら
静かにその決意を固めた
指し示られたその道を共に歩むことを決めながら

ただ、この先の道にある幸せを願った



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最終更新:2013年11月22日 23:30