鈴仙1



1スレ目 >>55


「大勢の仲間を見捨てて逃げ出した私に幸せになる資格なんてあるわけない!!」
 夜の竹林に響き渡る声。普段の鈴仙からは考えられない迫力だった。
 アポロ13の到達を発端とする月の探索により、月の兎は幻想となった。この間永遠亭を襲撃してきた賊は、つまり、幻想郷に迷い込んだ月の民だったのだろう。
 彼らが現れたことによって、長年の間鈴仙の心の中に閉じ込められていた罪悪感が蘇り、重い枷となって鈴仙を縛り付ける。
 そうしてそれは、単純な拒絶となって俺の前に立ちはだかった。
「どんな過去を歩んできても、それが幸せになれない理由になんてなるわけないだろっ……」
 体は自然と動いていた。両の腕を鈴仙の背に回して、強く抱きしめた。
 驚いて一瞬体を硬くするが、それ以上の抵抗はない。
 俺は自分の決意を固め、揺るぎない物にするために、続けた。
「お前にどんな過去があっても関係ない。それがお前を苦しめるというなら、俺が全部取り除くから」
「……私は卑怯な女なんだよ? 私と一緒にいたら、貴方まで不幸になる」
 鈴仙の声は既に涙交じりだった。
「それでも構わない。お前といられるなら、月だって敵に回してやる」
 小さな嗚咽と、笹が擦れる音だけが静かな竹林にいつまでも響いていた。



最初の台詞が何を言っているのか意味が解らんと言うやつは永夜抄のおまけ.txtを読んでくれ。



今回のNG
「それでも構わない。お前といられるなら、月の頭脳だって敵に回してやる」
 ピチューン


1スレ目 >>57


うどんげ、月兎してもいいかな?


1スレ目 >>64


俺「さあ、鈴仙。ちゃんと俺の目を見て言ってくれ。俺を好きだと」
優曇華「う……あう……そ、その……」

 (少女幻視中…)

俺「ぐぁぁぁぁあぁぁっっ!目が!目がぁあぁぁぁあああっ!」

BAD ENDING(ありきたり)


1スレ目  >>119>>121>>126>>128>>130>>133>>150>>153


「…全く、永琳さんも無茶な事言うよ…」
永琳さんに薬学を教えてもらう事になり、僕は材料を集めに山奥まで来ていた。
「まだ着かないの、その場所に?」
「…飛べれば早いんだけどね」
隣を歩いている少女――鈴仙・優曇華院・イナバもその手伝いとして着いて来て貰った。
この山って飛ぶことが出来れば、それほどの距離にはならないんだろうけど、
飛べない僕には難所でしかない。
「そう言えば優曇華も飛べるんでしょ? だったら先に行ったら?」
「ダメ、師匠にちゃんとあなたを連れて帰るように言ったから、一緒に行くの」
そう言って、一応僕にペースを合わせてくれるのは嬉しいんだけど
やっぱり、効率とか考えれば飛んでいってもらうのが早いんだけどな…
「てゐみたく飛べるんだから、先に行ってとってきたほうが早いよ」
「…だめ」
それでも譲らない優曇華。
「…だから、優曇華」
「鈴仙」
突然、自分の名前をハッキリと言う優曇華。
「あなたって、私以外の人にはちゃんと名前で呼ぶよね。 てゐ、永琳師匠、輝夜さま
…でも私だけ、名前で呼ばれてない」
「いや、それは…みんなそう呼んでるから――」
「鈴仙!」
…どうやら、僕が名前で呼ぶまでこの口論は続きそうだ。
「だから、優曇華?」
「鈴仙!」
「…うど――」
「鈴仙!」
目が赤い、いや…いつもの事だけど、この表情は…泣きそうだ。
やっぱり、そう呼ぶしかないのか…
「…鈴仙」
「…何?」
「…行こうか、日が暮れちゃうよ」
「…うん」
既に妖怪とかが出そうな時間の空だった。

「…これで、一応揃ったのかな?」
僕にとっては見知らぬ草花とかばっかりだ。
でも、鈴仙のおかげもあってか、永琳さんの指示した材料は、全部集まった。
「ねえ」
「…うん?何、鈴仙?」
集めた物をまとめながら僕は彼女の方を向く。
既に日の暮れているこの場所は、暗いながらも月の光で鈴仙の姿を映していた。
「私が、月から逃げてきたって言ったよね?」
「…それは、一応聞いたけどさ」
鈴仙の重い過去のお話だ。
この話は、彼女の口からではなく、永琳さんの口から聞いた事だが。
「私は、今でもちょっとだけ後悔してるの」
「そりゃ、そうだろうね」
きっと家族とかも居ただろうし、友達だって居たはずだ。
それを置いて逃げてきたら、僕ならきっと耐えられない。
「でも、嬉しい事もあったんだ」
「うん、永琳さんやてゐ、輝夜さまに会えたからだろう?」
「それもあるけど…」
そこで一瞬、息を吸う。そして、僕の方を真っ直ぐに向き
「あなたに、会えたから」
笑顔でそう言った。
それに対して僕はどう返すべきなのか、頭が真っ白になりながら考えた。
「…ぼ、僕も…鈴仙と、会えて…嬉しい、よ?」
「――さ、帰りましょう? 師匠も心配してるだろうし」
そう言って顔を真っ赤にしながら、背を向ける。
「鈴仙!」
ビクッと、一瞬彼女の体が硬直する。
「…僕は、鈴仙の事が好きだから」
「――!」
暗がりでも照らす光が、彼女が震えているということが分かった。
「…返事は、いらないけど」
「…――」
「え?」
蚊の鳴くような声で、何かを呟いた。
「私も、あなたが好き…大好き…!」
「うん…」
僕達は月の照らす中で、抱き合い…その後、山を後にした。

「とりあえず、ちゃんと材料は集めてきたみたいだけど…二人とも随分と遅かったわね」
永遠亭に辿り着いて早々に永琳さんに言われた言葉がそれだった。
「…探すのに手間取りまして」
とっさに口に出た言葉は、きっと通じはしないんだろう。何せでっち上げなのだから。
あからさまなため息をつきながらきつい目をして
「…何のためにウドンゲを付いていかせたと思ってるの?」と永琳さんは言う
そりゃ、材料を探す為だけど…
「そうでした、師匠。 それで一体何を作るつもりなんですか?」
鈴仙の言葉で僕も思い出した。
確かにそれを聞いてない。
初心者にとって本当に初歩の初歩とは聞いていたけど…それが何なのかは分からない。
「あぁ、言ってなかったわね」と
永琳さんは言葉を切り…少し考えるようなふりをして、やがてこう言った。

「…秘密よ」

教えてはまずい事なのか、いやそれとも面白そうだから、ただ黙っているのか…
目が笑っている事から考えると、やっぱり後者なんだろうなぁ…
「さぁ早速、薬の製作に入りましょう。ウドンゲ、あなたはちょっと出て行きなさい」
その永琳さんの言葉に驚いたのか
「え、私も手伝いますよ?」
と、鈴仙は言った。
「ダメよ。これは彼の修行だから、でも、そうね…。 後でその薬の実験台になってもらおうかしら」
「え…」
実験台――そのあからさまな単語に鈴仙は一瞬で後ずさる。
そりゃ、誰だって実験台になんてなりたくないって…
「大丈夫よ。風邪薬みたいな物だから」
それは結局の所、風邪を引いた人じゃないの無意味なのでは?
「…そ、それじゃ、頑張ってね」
鈴仙はそう言いながら、さっさと部屋を出て行った。
残された永琳さんと僕の間に沈黙が包み込む。
「…まずは、調合の分量から言っておくわ。 これを間違えると薬は毒になるの
薬も度が過ぎれば毒とはよく言ったものね。大体、このくらいの分量ね」
「はい、えっと…こっちの分量はこれくらいでしょうか?」
「もうちょっと少な目ね。 分量をミスしたら、それだけあの子が苦しむわよ?」
「脅さないで下さいよ…」
いや、これはもう脅しじゃないけど
「脅しじゃないわよ?あなたがミスしなければいい話だから」
それもそうか。薬学を志す身として、ちゃんと最初の作業くらいは成功させないと!
僕は目の前の作業に取り掛かった。端で笑っている永琳さんの様子も気になるけど…

「…ふぅ」
外に出てから、私はゆっくりと溜め息をついた。
何を作っているのか気になる一方で、彼が大丈夫かという不安に襲われている。
「大丈夫…だよね」
いくら師匠でも、そんな事をするはずはないし…多分、大丈夫………のはず

くいくい

そんな考えが浮かんだ途端に私の服の袖が引っ張られた。
その方を向くと、二匹の妖怪兎が私の方を見ていた。
「えっと、どうかしたの?」
見下ろすような形をやめて視線を合わせて、その様子を見る
「れーせん…」
と一度私を指差して自らを指差す。
「――」
そしてもう一匹が、今、部屋の中に居るであろう人物の名前を舌っ足らずに言い
その指を自分に指す
「う~」
と急に二人の妖怪兎が抱き合うような形になる。
「れーせん、だいすき」
「わたしも、すき」
…ボッといきなり顔が熱くなったような気がした。
いや、気がしたじゃない。現に熱くなっている。
「あ、あ、あ、あ…あなたたち…見てたの!?」
「う!」
首を縦に振る…という事は肯定の証らしい。
しかしあんな山奥に偶然に行くなんて事は考えられない。
つまり、誰かに頼まれていったという事だろう。
「…怒らないから正直に言ってみて。誰に頼まれたのかな?」
そう言って私は敢えて立ち上がった。
別に威圧するわけでもない。自然な行動だ。私は怒ってないし。立って見下ろす形に
なるのは普通の事だ。うん、間違いない。
「てゐ!」
「てゐ!う~」
「そう…てゐなのね…」
自分でも頬が緩んでいる気がする。
自分でも不思議に落ち着いている。あまりにも怒りが過ぎてしまうと、
その頭は急速に冷却されて逆に落ち着くという事を、師匠の文献で見た気がする。
いや、そんな事は…どうでもいい。
「あの子ったら…少しお仕置きが必要みたいね…。ふふ、うふふふふ」

鈴仙…実験台なんて大丈夫なのかな?
この薬、毒薬って事はないだろうけど…やっぱり飲ませる身としては
心配だ。
「ほら手が止まってるわよ」
「は、はい」
当の本人は全く教える気配すらないし…
「永琳さん…」
「何の薬を作っているかなんて質問は三十二回目だから却下するわよ」
「………」
バレてるよ。
「毒薬なんて作る気ないから安心しなさい。誰が好き好んで鈴仙を殺すもんですか」
それも、そうか。
「…そう、ですね」
家族同然なんだから、苦しめるような真似はするはずがないんだ…
…僕が変な事をしない限りは。
「それじゃ次の作業ね」
そう言った時だった。

ガシャァァァン

と、大きな何かガラスのような物が割れる音がした。もっともこの永遠亭にガラスなんて
ないはずだから、きっと何かが暴れる音なんだろう。
「…何でしょうね?」
「さぁ?」
そう言いながらも含み笑いをする永琳さん。
…やっぱり見当はついてるって事かな。
「これで最後だから、やり方は紙に書いておくわ」
そう言って簡易なメモを残して、永琳さんは部屋から出て行った。
きっと、原因を調べに行くのだろう。絶対見当はついてるはずだろうけど…

「それで、出来たのね?」
「はい、出来ました」
僕の手元には確かに薬がある。
結局何の薬かは教えてもらってないけど。
「あの、本当に鈴仙に飲ませるんですか」
「そうじゃなきゃ、薬の成果が試せないでしょう?」
…風邪薬みたいなもんだとか言ってたような気がするんですが。
やっぱり、怪しいもんだ。
「てゐは…さっきボロボロだったし、他の誰かが連れてくるはずね」
「え、てゐがどうかしたんですか?」
「…少しね」
やっぱり目が笑っている。 もしかしたら、また何かあったのかもしれない。
「……遅くなりました」
……静かに出てきたのは凶悪なオーラを漂わせてた月の兎だった。
満身創痍と言うか何というか…ともかく、疲れているということはハッキリと分かる。
「…とりあえず、これでも飲みなさい。疲労回復くらいはするかもよ?」
と、素早く僕の持っていた薬を奪い取って鈴仙に渡した
「じゃあ、遠慮なく…」
鈴仙は疑う事もなくその薬を放り込んだ。

「…あの、永琳さん、本当に飲ませて大丈夫だったんですか?」
数分経っても、飲んだ彼女に変化は見られない。
かと言って、永琳さんの言った事も信用できないんだよな…
「大丈夫でしょ。 あなたが変な失敗をしてない限りは」
「それこそ大丈夫です。だってずっと隣で分量とか細かく計算したじゃないですか」
「師匠、結局これは何の薬なんですか?」
「いや、だから秘密なんだけどね」
思ったように効果が出ていない…ってところかな?
表情から予想するには。でも、効果が出ない方がきっといい。
僕はそんな予感がしていた。

だが、観察をして更に数分が経ってから…それは起こった。
「う、ん…」
「…どうかしたの、鈴仙!?」
「効果が出てきたみたいね」
「効果って…もしかして、あの薬の!?」
どうやら心拍は上がってるようだし、顔も赤い。
風邪とはまた違った症状みたいだけど…汗をかいているみたいだ。
「と言うよりも、僕に何の薬を作らせたんですか!?」
「…その状態で気付かないの?」
「熱…いよ」
弱っていると言うよりも、どことなく色っぽい雰囲気を出している鈴仙。
やっぱり、これって…
「あの、薬ですか?」
「えぇ、あの薬よ」
悪い予感的中。僕の勘は当たるようだ。当たっても嬉しくないけど。
「熱…い。脱い…で、いい?」
「待て待て待て!鈴仙!落ち着いて!脱ぐな、いや、脱がないで!」
ここで何か起きたら、間違いなく僕のリミッターが外れるような気がする。
これは予感じゃない。確信だ。
「ちょっと、永琳さん! どうにかして…って居ないし!」
いつの間にか、永琳さんの姿はどこにもなかった。
いや、それどころか、永遠亭中の気配がない。
「…れ、鈴仙さん?そう引っ付かれると、大変身動きが取れないのですが」
「だぁめ…汗かいたら、ちょっと…寒くなったの…」
ダメだ。僕はこのままだと、終わってしまう。
何かが終わる。

でも……きっと、またこの世界に帰って来れるだろう。
きっと…そして、また鈴仙と会えるように――



蛇足
いつもの永遠亭にいつもの日常が再び始まっていた。
あの日の僕の記憶はところどころ曖昧だが、
きっと、ロクな事になっていないのだろう。
鈴仙は花の異変を解決して戻ってきたばかりだ。
…まだ、季節外れの花が咲いているところを見ると、完全とは言えないみたいだけど。
「おはよう」
「…お疲れさま。昨日は鈴蘭を取りに行ったんだってね?」
「うん…おかげで色々疲れたわ」
まだ寝足りないのか、まぶたを擦る鈴仙。
「…眠ったら? まだ時間的には余裕があるでしょ?」
朝早くに永琳さんの持っている文献を読むのが、僕の日課である。
まぁ、鈴仙はこれにたまに付き合う程度だけど。
「……何かあったのかな?」
「え?」
自分じゃ気がついてないみたいだけど、目が赤い。
また泣いたのかな?あの時みたく。
「涙の線が残ってるしね」
「…っ!」
図星を指されたのか鈴仙は顔を隠すように僕の胸元に抱きついてきた。
多分、また泣いたんだろう。
「大丈夫、鈴仙は…優しいよ」
「私、自分勝手って言われたよ…?」
「…それでも、罪を認めて泣くことが出来るなら…僕は鈴仙と一緒にいたい」
「でも、でも…」
頭を撫でながら僕は出来る限り優しく言い聞かせる。
「幸せな時に罪は思い出さなくてもいいんだ。
勝手だけど…僕と一緒にいる間は、罪は忘れてくれないか?」
楽しく幸せに居たい、その想いだけを語りかける。
「私…あなたと一緒にいたい…居たいよ…!こんな罪、忘れたいよ…!」
「大丈夫だよ。僕が一生、鈴仙についてあげるから」
罪は裁かれなきゃならないなんて…そんな事はない。
どんな者でも幸福な時間を過ごす権利はあるはずだ。
だから、彼女を守っていきたい。この脆くて儚い少女を…


「ねえ」
「何だい?」
「…さっきのって、ぷ、プロポーズって事でいいのかな?」
「ぷ、プロポーズ!?」
「…違うの?」
「いや、そんなあからさまにがっかりしないでよ!いいって!プロポーズって事で!
嘘偽りないんだから!」
「本当?」
「うん、キミとなら、ずっと歩いていける…だから――」


蛇足の蛇足
「…れーせん!」
「あ、何?」
あの出来事から二日ほど経っていた。
また、あの妖怪兎の二匹が居たのだ。
あの時と同じようにひざまづく形で二匹を見る。
「…れーせん、――とずっと一緒?」
「いっしょ?」
またてゐ辺りに盗み見しろとでも言われたのか、
その妖怪兎は例の出来事を知っていた。
でも今度はあの時と違って、怒りなんてない。むしろ誇らしいくらいだ。
「うん、私にとって大事だし、一生懸命になってくれるのが…うれしいから」
「う?」
「彼とだったら、ずっと一緒に歩いていける…」
「きみとなら、ずっと歩いていける?」
あの時彼が言ってくれた言葉そのままだ。
その妖怪兎達の言葉に私は頷く。幸せになれるから。
「あなた達も、そういう人がいるんだよ?」
そう、私にとっての彼のように――

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1スレ目 >>322


長いSSやあまあま小話なんてかけないので
短くスパッとプロポーズしようと思う。

うどんげ!
そのうさ耳僕にも貸してください(*ノノ)

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1スレ目 >>370-372


 微エロ注意……かな?言葉よりも行動で。鈴仙ファンの方許して。

 がつん、と脳髄を直接殴られたかのような衝撃。
 視神経を焼きながら、電流が頭の中を駆け巡っていく。
 声を出すことさえ許さない激痛。
 「くっ…………あっ…………ぐっ…………あああっ!?」
 何だ? いったいなんでこんなことに?
 疑問符が頭の中で暴れているだけで、とても形にならない。
 苦しい。どうにもならないくらいに苦しい。
 今すぐこの頭蓋骨を包丁で叩き割って、煙を上げている脳を両手で掻き出して視神経をそのままずるずると引きずり出したいくらいの痛みが走る。
 俺は両目を押さえてうずくまった。目から激痛が頭に駆け上がってくる。
 呼吸ができない。喉が痙攣している。
 いったい、なんで…………
 逗留していた永遠亭の主、蓬莱山輝夜に頼まれて廊下の奥の奥、薬品の材料倉庫にまで誰かを呼びに行ったその先で………….
 「ぐっッ!がはぁっ!」
 唾液が飲み込めなくて俺は喉をかきむしって咳き込む。
 このまま、死ぬかもしれないと本気で思った。
 「――――!――――ってば!ねえ、しっかりして!」
 俺の名前を呼ぶ声が、かすかに耳に入った。
 肩に手らしきものが置かれて、上体をゆすぶられるのが分かる。
 やめてくれ、かえって頭が痛くなる。
 「――――!ねえ!ねえってば!お願いだからしっかりしてよぉ」
 震えながら閉じていた目を開ける。シュールレアリズムが具現したような歪んだ視界。
 「息を吸って。そして吐くの。ほら、深呼吸して」
 何か考えることもできず、その声に人形のように従った。
 息を吸って吐く。その単純な動作の繰り返しさえも忘れそうな激痛の中、ひたすらに同じ行為を反復していく。
 ようやく、乱れた視界が形を取り戻していく。
 俺の肩に手を置いて、こちらを心配そうに見つめているのは…………
 「れ、鈴仙…………」
 オモチャのような耳をした月の兎の少女。そのルビーよりも赤い瞳が、俺を見ていた。
 ざくりと、目から心臓までその瞳の赤が貫いたよう。
 「よかった……………………」
 俺は……何を……考えている?
 肩に置かれた手が、気になって仕方がない。
 「鈴仙…………」
 「なに?まだどこか痛むの?」
 顔と顔が、額と額が触れ合わんばかりに鈴仙の顔が近づく。
 「いや、もう……大丈夫だから……」
 必死に顔を背ける。頭は割れんばかりに痛むのに、胸の内は冷たくも深い炎が熱を放ち始めてきた。
 その白くてふかふかの兎の耳。
 柔らかそうな血色のよい頬。
 そして、長い髪から香る甘い香りが、
 頭の誰かを、狂ワセテイク。
 俺は……鈴仙を……
 今まで、こんなことは思いもしなかった。ただの月の兎だ。まだ少女だし、それに、人じゃない。
 いや、違う。前から、俺を見る鈴仙の目は異なり始めていた。
 俺と楽しそうに話していた鈴仙。風邪を引いたときは永琳さんを差し置いて看病してくれた鈴仙。俺にしか見せない顔で笑ってくれた鈴仙。
 俺は……鈴仙を……
 ははっ、なんて……馬鹿なことを。
 「じっとしていて。すぐ、誰かを呼んでくるから」
 肩から離れてしまう手。
 行ってほしくないと、心の底から思った。
 それと同時に、頭がこれ以上ないくらいに強く痛んで、
 俺はせっかく取り戻した意識をまた手放していた。
 手だけが勝手に動き、去ろうとする鈴仙の手首をつかんで
 床に、押し倒していた。
 俺は……鈴仙のことを……
 コワシテシマイソウダッタ。
 「きゃあっ!?」
 床に背中を打ち付けて、痛みと驚きの混じった声を上げる鈴仙。
 その声に、胸の中の暗い情念がさらに燃え盛っていく。
 何が起こっているのかわからずに反射的にもがく体を押さえつけ、両手首をつかんで頭の上で一つにする。
 「ひッ…………や、やめてっ!」
 怯えたような声が、かえって耳に心地よい。
 鈴仙の開いた脚の間に体を入れ、腹を押さえて動けないようにさせた。
 じっくりと眺める。
 これからこの玩具を、好きなようにできる。
 陰惨な喜びが、口元に勝手に笑みを作らせる。
 「やめてぇ、お願いだからやめて!正気に戻ってよ!」
 いくら叫んでも、ここは倉庫の奥まった場所。助けなど誰も来ないさ。
 さて、どうやって楽しもうか。
 腹に置いた手を上にやり、鈴仙の上着のボタンをはずして広げさせる。
 「こ…………こんなの、あなたは望んでない!こんなことするはずないもの。だから正気に戻って!」
 耳元で叫ばれたような気がする。
 必死に体をねじって抵抗しているが、力では俺のほうが上だ。
 正気、ね。
 たしかに、あの赤い瞳を見てから俺はこんな行為に及ぼうとしている。
 だがそれは鈴仙、お前が原因だろう。お前のその、赤い瞳が。
 ネクタイを首から無理やり取った。
 隅に放り投げたその手で、ワイシャツのボタンに指をかける。
 「い……やっ…………もう…………やめ……て…………」
 涙目で哀願する様は、俺の心の征服欲を満たそうとする。
 が、まだ満たされることはない。
 ならば、もっとこの兎を堪能すれば、少しはましになるだろうか。
 試してみるのも、悪くない。深くものが考えられず、自分の体のしていることが自分のしていることとは別のような気がする。
 ボタンを立て続けに半分ほどはずして、鈴仙の反応を見る。
 「もう…………お願い…………もどっ……て…………」
 さっきまで全力でもがいていたせいで疲れたのか、抵抗は鈍い。
 両手を頭の上で押さえられ、上着とワイシャツを半ば脱がされた姿。
 スカートは片方の脚が膝を折っているせいでまくれて、太ももまで見えている。
 そして、なおもこれ以上はやめて欲しいと懇願する顔。
 その、赤い瞳。
 鈴仙の瞳が、俺を狂わせていく。
 「こんなの……こんなのって…………ひどいよぉ…………」
 耳元で聞こえた声に、涙の気配が混じり始めていた。
 けれども。
 俺はそのまま、のしかかっていた全身を鈴仙に重ねた。
 すすり泣く声で、目が覚めた。
 赤にかすむ視界の中、左右を見回してその声の主を探す。
 すぐ隣にいた。
 鈴仙だった。
 顔を覆って泣いている。
 「俺は…………」
 何てことを、してしまったんだ。
 欲望のままに、俺は鈴仙に…………
 どんなに許しを願っても許されないことを、この女の子に。
 絶望と自己嫌悪が、鏃となって心を抉る。
 「鈴仙…………」
 何と言えばいいのか、何と謝ったらいいのか分からず、俺は名を呼ぶことしかできない。
 「ごめんなさい…………」
 だが、謝ったのは鈴仙の方だった。
 「どうして、君が謝るんだよ……」
 「ごめんなさい…………ごめんなさいごめんなさい。悪いのは全部私。あなたは何も悪くないから。全部、私の瞳のせい」
 「そんなことあるか。俺は確かに鈴仙の赤い目を見た。そのせいでおかしくはなった。でも、欲望を抑えられないで、鈴仙をはけ口にしたのは俺自身だ。俺は、俺を許せない…………」
 「違うの。そうじゃないのよ」
 鈴仙は泣きながらこっちを見る。
 初めて、何かがおかしいことに気づいた。
 鈴仙は服をきちんと着ている。ネクタイも歪んでいないし、上着にもしわはない。あれだけ無理やりひどいことをしたのに、長い髪にも白い肌にも乱れや傷はなかった。
 俺は、夢を見ていたんだろうか。だとしたら、どんなによかったか。
 でも、そんな希望に逃避することも許されない。目の前の鈴仙の涙が、俺の行為を現実のものだと告げている。
 なら、何が違うんだ。
 「お願い……怒らないで聞いて欲しいの。あなたは私の目をまともに見てしまって狂気に駆られた。衝動が現実化して、それで……その……こんなことに」
 「ああ…………全部、俺が悪い。鈴仙、もし何かあったらそのときは責任を……」
 「それが、その…………あなたが、ええと、その、色々した相手は私じゃないの」
 「はぁ?」
 「だから、あなたは私だと思ったみたいだけど、それは幻視。本当は私じゃなくて別の人なのよ。ここにいた」
 それで全てが繋がった。なぜ鈴仙が謝るのか。そして彼女が無事なこと。よかった、もう少しで俺は鈴仙に取り返しのつかないことをしてしまうところだった。
 イヤ、チョットマテ。
 ってことは、これはここにいた誰かを鈴仙と勘違いして襲いかかったのか?それは誰?誰なの?
 Aてゐ
 B永琳さん
 C輝夜様
 あああああ!!全員駄目だ!助けてめーりん――――(゚∀゚)――――!
 Aてゐの場合~「ね~ね~、私赤ちゃんができちゃったみたい。責任とってくれるよね?」←妊娠詐欺で一生強請られる
 B永琳さんの場合~「私がどれだけ痛い思いをしたか、分からせてあげるわ」←直径が俺の頭くらいある座薬挿入の刑。ひぎぃ!
 C輝夜様の場合~「死ね」←生身で大気圏突入の刑。灰も残らない
 OH MY GOD!どのルートでもBADENDは暴走特急。スティーブン・セガールでも止められない沈黙の要塞。アホ毛の神綺様でもヤマザナドゥ様もハード・トゥ・キル!
 俺は自分でも蒼白となっていると分かる顔を、泣いたせいでさらに赤くなってしまった瞳の鈴仙に向ける。
 もう耐性がついたのか、瞳を見てもなんともない。俺の根性は中古のヒューズか。いっそホムンクルスに殺されてしまえ。
 「俺…………誰に不埒なことをしちゃったわけ…………」
 鈴仙はあからさまなまでに視線をそらしつつ、指で俺の後ろを指す。
 それはあたかも呪いのように。
 見たくないと必死に頭の中に住んでいる俺の良心たん(推定7歳。好物はお好み焼き。ラッキーカラーはすみれ色)が叫んでも、脊髄はその絶叫を無視し体ごと振り返る。
 そこで、半裸で俺を待ち受けていたものは…………
 「彼、ここの薬品倉庫に資材を卸しに来ていたの。……あなたは彼を呼びに来たんでしょ?」
 そこにいたのは、満足げな色をメガネの奥の瞳に輝かせてこちらを熱く見つめる香霖堂の店主(♂)だった。

 ウホッ!いい店主!
 「(もう一回)やらないか……」

(フラグが立ちました。香霖ルートに移行します。もう変更できません。強制です。逃げても無駄です。追いかけます。諦めてください)


最終更新:2010年05月27日 00:47