鈴仙2



1スレ目>>530-531,>>543,>>550,>>557


真夜中の永遠亭。
僕は竹林で倒れている所を、拾われて介抱してもらった。
幸いにも拾われた場所は人の住む場所だった。いや、妖怪なんかも住んでいたけど。
数日後には、すっかりと調子も良くなり僕はこの永遠亭で色々と手伝いをしていた。
一宿一飯の恩義…どころじゃなくて、すでに五宿十五飯もなっていれば手伝う気にもなる。
「永琳さん。これは何処に置けばいいですか?」
「あぁ、それはそっちの大き目の棚の方に入れておいて」
「はい」
と、まぁ…こんな感じで適当に日々を過ごしている。
永遠亭の人…妖怪達は普通に話すことは出来るんだけど、一人だけ僕と
全く会話をしない者がいた。
「あら、ウドンゲ…」
「あ、鈴仙」
「……」
そう、月の兎(らしい)である鈴仙=優曇華院=イナバだ。
彼女が率先して、僕を介抱してくれたらしいけど…。
僕が起きてからお礼を言ったきり、それだけしか会話がなかった。

『あ、キミが僕を…ありがとう』
『どういたしまして』
そんな感じだった。
事務的と言うか何と言うか…僕に警戒しているのかどうも刺々しい態度だった。

「…師匠、例の花の毒性についてなんですけど」
「あぁ、アレの事ね。アレは――」
見れば見るほど、不思議な感じだ。
見た目は僕みたいな人間と変わらない。でもその耳だけは兎の耳。
狂気を操るらしいけど…見たことはない。
「それじゃ、掃除に戻りますね」
永琳さんにそう言っておき、外に出て行く。
ちらりと鈴仙が僕の方を向いたけど、特に感情を持って僕を見ていると言うわけではない。
ただ淡々と僕を見る。
目が合うと…軽い立ち眩みがした。

そんな日々が続き、既に僕は居候扱いになっていた。
さすがの僕も掃除くらいは出来るし、ここについて色々学ぶのも意外に楽しくて
人間界になかった充実した日々を送っていた。
「ふぅ、あとは…風呂掃除か…」
相変わらず、ここを掃除するのが大変だ。
無意味に廊下は長いし他の妖怪兎が手伝ってくれなかったら
一日かかるだろうし、大浴場に近いこの風呂を掃除するのに
一時間はかかる事が容易に想像できる。
とりあえず必死になりながら風呂場をタワシで擦り始める。
洗剤なんてものがあるわけもなく、全てタワシだ。
「…何であの娘は、僕を避けるんだろう」
もちろん鈴仙の事だ。
鈴仙のことを考えると妙に気が高揚する。
多分、彼女の瞳を目が合うたびに見ているからだろう。
それよりもどうして僕は彼女の事ばかり考えるのか?
「まぁ、いいか…」
考え事をしている内に風呂掃除は既に大体終わっていた。
今日は永琳さんから借りた本を少し読もう。そうすればちょっとは
考えることもなくなるだろう。そう思い戸を開ける。

ガラガラ

「……あ」
「……」
戸を開くと、目の前に居たのは僕が悩んでいる張本人だった。
それだけなら特に問題はないんだろうけど、その張本人――
鈴仙は妙に露出度が高い服を着て…いや、彼女は脱衣所で服を
脱いでいたのだ。
つまり、僕が見ているものは……
思考がフリーズする前に、鈴仙の顔が真っ赤になっているのに気付いた。
口を金魚のようにパクパクさせて、『どうしてここに?』といった瞳で見ている。
「きっ…!」
叫ばれる!
そう感覚的に悟った僕は一瞬で鈴仙の口元を押さえた。
まるで犯罪者になった気分だった。
「…ごめん」
鈴仙の耳元で、僕はそう呟いた。
悪気があったわけじゃない…。謝って済む話じゃないのも分かっている。
「…本当に、ごめん」
口元の手を外して、僕はすぐさま浴場から出て行った。
「僕は…最低だな」
好かれるどころか、普通に嫌われた気がする。
…このままだと自己嫌悪に陥りそうだ。
今日は本も読まずに寝るとしよう。
それにしても、綺麗な肌だったなぁ…
とりあえず、明日は…


(選択肢)

(土下座するくらいの勢いで謝る)
(開き直る)

ーーーーーーーーー少女選択中...ーーーーーーーーー

  上・(脳内設定の一般的な)鈴仙ルート
  下・ツンデレの鈴仙ルート

  お好きな方をどうぞ。

ーーーーーーーーー少女選択中...ーーーーーーーーー

→(開き直る)

ピッ

結局、僕はあの記憶を無かったことにして、次の日を迎えることにした。
やっぱり女の子の柔肌を見るのも滅多にない経験だったから、妙な緊張が
残っていた。
「…よし、忘れた」
そう言う事にした。
僕は何も覚えていなくて、昨日の風呂場では何も起こらなかった。
と記憶を模造した。

「あぁ、ちょうど良かった」
朝一番、無意味に長い廊下で永琳さんに会った。
「ウドンゲがちょっと体調崩しちゃって…ちょっとお見舞いに行ってくれないかしら?」
「えーっと、何でですか?」
せっかく忘れようとしたことを、一瞬にして思い出してしまった。
柔らかそうな肌と…兎の耳、そして見る者を狂気に陥れるその瞳。
思い出したらまた軽い眩暈が起きる。
「…ウドンゲもそうだけど、貴方も大丈夫?」
「まぁ…一応、それで鈴仙はどうしたんですか?酷い病気か何か?」
「湯冷めしたみたいで、ちょっと風邪を拗らせてしまったみたいなの」
…多分、僕の所為だろう。
「貴方って、前からウドンゲの事を気にかけてたでしょ?だから頼もうと思って」
そう言って永琳さんは僕に風邪薬を差し出した。
「いや、僕じゃなくててゐにでも頼めば…」
「てゐは私の指示で栄養のあるものを取りに行かせたわ。私も薬の調合とかで忙しいし
よろしく頼むわ」
と一方的に決め付けると、永琳さんは僕の反論も聞かずに、さっさと廊下の奥に
消えていった。
「どうしよう…」
僕の手には永琳さんの風邪薬が握られたままだった。



僕は今、鈴仙の部屋の目の前に居る。
別に疚しい気持ちなんて…少しはあるけど…。とりあえず、部屋の前から
進めないでいた。
こんな時に足が震えて動けないから、逆に笑える。
それでも、この薬を渡さないとならないのも事実で…深呼吸をして、手に人という字を
書いて、飲み込む。
これで緊張は気休め程度になくなった…と思う。
戸の前に立ち、意を決してノックしようとした。
『さっきから居るんでしょ?入ったら?』
いきなり先制を取られた。
心臓はバクバクいっているが、一刻も早く薬を渡して去ろうと戸を開けた。
「やっぱり貴方だったの?」
呆れた様子で言う鈴仙。今度は下着姿じゃなかったけど…あの時の姿がフラッシュバックした。
ダメだ。平常心、平常心。
「それで、何の用?」
前よりは刺々しくなかったけど、それでも微妙な壁を感じた。
「永琳さんに頼まれて…風邪薬」
薬は普通の粉薬だった。僕が今まで見てきたのとは違って、それは漢方薬みたいなものだ。
それを受け取ると、薄く笑って
「ありがとう」
と言った。
「それじゃ…」
予定通り、僕は部屋を去ろうとした。
腕力でも頭脳でも勝つ自信はないけど、このままこの場所に居たら
頭がおかしくなりそうだった。
彼女があまりにも儚くて、抱きしめたい衝動に駆られるが…我慢する。
「待って」
「…何?」
まさか、彼女に止められるとは思わなかった。
「少し…話さない?」
そっぽを向いて、顔を赤らめながら彼女は言った。
「あ…うん」
僕はその誘惑には勝てなかった。



「それで、わたしは兎角同盟を作ろうと思ったの」
「そうなんだ」
こんな風に二人っきりで話すって事は考えられなかった。
むしろ、今まで淡白な反応ばかりだったので、普通に話すこっちの方が彼女の
素面なのかもしれない。
「それじゃ、僕も手伝うよ」
「うん、ありがとう」
この可憐な笑顔を見ると、庇護欲というものが出てくる。彼女を守りたい。
そんな考えも出てくる。
「あのね、わたしは――」
「鈴仙~居るー?」
鈴仙が何か言いかけたとき、戸の前から声が聞こえた。
この声…どうやら、てゐのようだ。どうやら、やっと戻ってきたらしい。
「あれ、貴方も居たんだ?」
「居ちゃ悪い?」
「いや、そんな事はないんだけど」
大体、てゐと一緒に行動すると大抵、騙されるし…あんまり一緒に居たくないんだよなぁ…。
色んな意味で、いい子なのは分かるけど。
「で、何を取ってきたんだ?」
「栄養のあるもの。とりあえず、そこら辺から取ってきたの」
「…騙し取って、とかじゃなくて?」
「あ、あはは」
この笑い方だと、間違いなく騙し取ったようだ。
「それじゃ、鈴仙。僕は部屋に戻るから」
「あ…うん」
とりあえず、僕は出て行くことにした。
『あれ、どうしたの鈴仙?そんな青筋立てて』
『どうしてだか分かるかしら?』
『え、ちょっ…待ってぐりぐりが!痛い痛い!』
僕が部屋から出て行くと、そんな会話が聞こえた。
…とりあえず、気にせずに逃げることにした。



それからと言うもの、誰かと居ると妙に視線を感じるようになった。
てゐと適当に雑談をしてても、永琳さんに本を借りたりしても、輝夜さんと
話しても、何処かしらでほぼ必ず、視線を感じるようになってしまった。
そんな折、僕と鈴仙は永琳さんの元に呼ばれた。
「…何の用なんだろう?」
「さぁ、師匠のことだし…分からないわ」
どうも鈴仙の機嫌も悪かった。
「あぁ二人とも、よく来たわね」
扉の外で永琳さんは待っていた。
「とりあえず、何の用ですか師匠?」
鈴仙の言葉に困ったような笑顔を浮かべる永琳さん。
「これから、出かけなきゃならないんだけど…薬に使える花が
今の季節じゃないと咲かないの。だから出来たら、二人で手分けして
探してくれないかしら?」
その言葉に鈴仙はちらりと僕の方を向く。
どうやら鈴仙の方は行くつもりらしいが、僕は…。
考えてみれば僕に拒否権なんてない。
そもそも居候の身だし。
「分かりました。それで、何を取ってくればいいんですか?」
「えぇ、簡単な絵を書いたメモがあるから、これを使って探してね」
そのメモを僕と鈴仙に渡すと、永琳さんは忙しそうに駆け出していった。
「それじゃ、気をつけてね」
「心配してくれるんだ」
「わたしはあなたの心配なんてしてないわよ!し、心配なんて…するわけないじゃない…」
最後の方は真っ赤になりながら小さい声でほとんど聞こえなかった。
僕が歩き出そうとすると、腕を引っ張ってそれを止め
「死なないでよ」
「死なないよ。…やっぱり、心配してくれてるじゃないか」
「か、勘違いしないの!わたしはあなたに死なれたら迷惑だし…
ほら…ほ、他の子も悲しむでしょ!」
確かに掃除とかは手伝ってくれるけど…あんまり好かれてる気がしないんだよなぁ。
悪い子はいないんだけど…。
僕と鈴仙はそんな他愛のない会話をしながら。入り口に着いた。
「それじゃ、鈴仙…後でね」
「うん。また」
鈴仙は空に飛んでいった。
僕に至っては歩くしか能がないので歩き始める。
紳士として、鈴仙が飛んでいる状態から上を見上げるなんて真似はしない。
上を見ないように…僕は素数を数えて落ち着いた。



そう、僕は鈴仙と分かれたことが文字通り命取りだった。
永琳さんに頼まれた目的の植物は手に入れたんだけど…。
目の前には、僕の体の三、四倍はあるであろう巨大な妖怪が居た。
僕を天然の人間と見るや否や、いきなり襲い掛かってきたのだ。
「…どうしようか」
相手の方は嗅覚が利きそうで、隠れても無駄だということが良く分かる。
だからと言って、戦うなんていうデンジャラスな選択肢は僕の中に存在しない。
やっぱり、二人できた方が良かったのかな。
鈴仙が居れば、狂気の瞳で逃げるチャンスくらいは出来たかもしれないのに…
それでも、多分…彼女はここに来るだろう。
何故か分からないけど、僕はそう確信していた。

お互いに動く事はない。
僕が動いたら、相手は即座に僕を食らおうとするだろう。
「鈴仙…」
口元から思わず、彼女の名前が出てきた。
自分から永遠亭の方に動く事で、鈴仙に会える可能性も増えるはずだ。
…傷を負ったとしても、鈴仙なら…何とかできると信じよう。
ポケットには野球ボールよりも小さい石が入っていた。
それを握り締めて、狙いすまして妖怪の鼻に当てた。
「ぐぎゃ!」
これでしばらくは眩暈くらいはするはずだ。
今が好機だろう、と僕は駆け出した。
それが、思えば間違いだったのかもしれない。
妖怪は意外に機敏な動きで、僕を追ってきた。鼻を打ってスピードが落ちているとは思えなかった。
それでも僕は必死に走る。

ザク

足が縺れた。背中に鈍痛が走った。
血を流しながら…僕は倒れた。倒れた拍子に木の根元に頭を打った。
それでもまだ、意識はある。
「ニンゲン…」
相手が近付いて来る。僕はこのまま食べられるんだろうか?
『死なないでよ』
…ゴメン、鈴仙。
謝れなくてゴメン。約束が守れそうもない…
「――波符『月面波紋(ルナウェーブ)』」
一瞬で視界が真っ赤に染まった。
そして、その聞き慣れ始めた声に、僕は少しだけ安心した。
「ボロボロじゃない。一体どうしたの?」
「…見ての通り、そこの妖怪さんにやられた」
プライドなんて欠片もない。我ながら情けないな。
「…お仕置き!」
その妖怪に次々に打ち込まれていく鈴仙の弾。
はっきり言って、蜂の巣だった。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
その断末魔を聞きながら、僕は頭がボーっとし始めた。
ちょっと血が出すぎたみたいだ。
「ふぅ…って、何で死にそうになってるのよ!」
「…ゴメン、血が出すぎた。眠い…」
実際、意識を保つのも辛い。
「寝ないでよ!今、寝ちゃったら死んじゃうのよ!起きて…起きてよぉ…!」
ゆっさゆっさ、揺り篭のように僕の身体は揺すられた。
泣きそうな鈴仙の声を聞きながら、僕は徐々に意識を失った。


エピローグ

目が覚めると、そこは永遠亭の僕の自室だった。
どうやら生きてはいるようだが…傷が痛む事には変わりない。
「目が覚めたようね」
すぐ傍にいたのか永琳さんが目覚め早々に僕に声をかけた。
「僕は…?」
「ウドンゲに感謝しなさい。生死の境を彷徨っていたあなたを
ずっと見ていたんだから」
「…やっぱり、死にかけたんだ」
「容態が安定してからも、ずっと看病を続けて、今はこうなってるけどね」
と、僕の横を指し示す。
そこには疲弊して眠る月の兎の姿があった。
「そうそう、貴方、ウドンゲの下着姿を見たそうね?」
「あ、あはは…」
バレてるよ。まぁ大方、鈴仙が話したんだろうけど。
「月の兎には面白い風習があってね…。それについてはウドンゲから聞くといいわ」
「…一体何なんですか?」
「秘密よ。とりあえず、痛み止めは置いておくわね」
錠剤を机の上に置かれる。
「お大事に」
軽く笑うと、永琳さんは外に出て行った。
「で、鈴仙、起きてるんだろ?」
「…起きてない」
狸寝入りかどうかは大体分かる。眠るのを偽ると不自然に感じるものだから。
「とりあえず、ありがとう鈴仙」
「…~っ、別に貴方を助ける為にあの場所にいたんじゃなくて!」
「それでも、だよ」
「…言っておくけど、ただ通りすがっただけだからね!」
「分かったよ」
彼女の耳は人よりも遥かに優れている。あの時の呟きがきっと聞こえていたのだろう。

「あ、ところで…永琳さんが言ってた事なんだけど…月の兎の風習って?」
その言葉を出すと、鈴仙は真っ赤になりながら俯いてしまった。
僕、何か悪いことでも言ったのかな?
「つ、月の兎は…」
「月の兎は?」
「は、初めて肌を晒した家族以外の異性に求婚をしなければならない」
…思考がフリーズした。
あの時の行動が…まさか、こんなに事になっていたなんて。
「あ…えっと、まぁ、わたしは別にいいの。しょ、正直…他の人よりもあなたなら
まだ…十分って言うか…」
「うん」
「ちょっ…」
鈴仙の華奢な身体をそっと抱きしめる。
これから守ろう。この素直じゃない兎の少女を――

ーーーーーーーーー少女選択中...ーーーーーーーーー

→(土下座するくらいの勢いで謝る)

ピッ


うん、やっぱり僕が悪いんだから、明日一番に謝ろう。
それにしても…
「やっぱり、女の子の肌って白いものなんだな…」
と改めて実感した。
まるっきり反省の色がない僕だった。
とにかく、明日は謝らないと…僕の気がすまない。
彼女を傷つけたのもあるけど…やっぱり、嫌われたくはないし。



朝の永遠亭。
目覚めは別段普通だった。
別に『新しいパンツを正月元旦の朝に穿いたような気分』でもない。
結局、普通の目覚め。気分は微妙に沈んでいる。

トントン

戸をノックする音が聞こえた。
こんな事をするのは永琳さんだろうか?
まず間違いなくてゐという意見は外れる。彼女の場合、居ようが居まいが勝手に入って
勝手に物を取っていくから。
輝夜さんという事もないだろう。第一、ここに来るような理由がない。
とりあえず、永琳さんということを仮定しておいて、戸に向かう。
「はいはい、何方ですか?」
と、戸を開くと、そこに立っていたのは一匹の月の兎だった。
ここの永遠亭には一匹しか月の兎はいないけど…。
「鈴仙…?」
「お、おはよう」
「えっと、何の用?」
思わぬお客の来訪に、僕は戸惑っていた。
こちらから出向こうと思っていたのに、まさかそっちから来るとは思っていなかった。
「し、師匠が貴方を呼んで来いって言ってて…その、迎えに」
「あ、うん…分かった。ちょっと、待ってて」
鈴仙の顔が赤い。きっと僕の顔も赤い。
やっぱり昨日のことを覚えているからだろう。
「あー、それじゃ…行こうか」
一応、着替え終わり僕は鈴仙と一緒に無駄に長い廊下を歩く。
歩いている間は互いに無言だった。
「えっと、鈴仙」
「は、はい?」
急に声をかけられて、驚いたように鈴仙はこちらを向いた。
すーっと息を吸い込む。
よし、準備オーケー覚悟完了!
嫌われる覚悟は出来てないけど、叩かれるくらいの覚悟は既に出来ているッ!
「昨日はごめんっ!」
「え、え、え?」
「本当に悪かった。今も反省している。殴っても構わない」
本気で土下座するくらいの勢いで謝った。
と言うか、土下座をした。
「えっと、別にいいんだけど」
顔を上げると、鈴仙がスカートを押さえながら、僕を見下ろしていた。
若干恥ずかしがっているのは分かるけど、何でスカートを押さえているんだろう?
「あ、後、早く立って…」
「いや、そうしないと謝れないんだけど」
「…その位置からだと…その、スカート…」
あぁ、そういう事か。この位置から普通に見るとスカートの中が見えるから
早く立ってくれと、言ってるのか。
「ともかく、ゴメン」
「もういいってば、別に減るものでも…ないし」
いや、色々と減ると思う。
気にしなくなったら、少なくとも羞恥心が消える。
「…別に、今のあなたなら見られても…その…」
最後の方はあまりにも小さな声だったので聞き取れなかった。


「あぁ、二人とも来たわね」
「えぇ、結局何の用なんですか?」
永琳さんの部屋(永遠亭住人曰く『八意研究室』)に入ると
明らかに生命に関わるような匂いと、その中で平然と立っている永琳さんが居た。
「えぇ、今日貴方達にここに来てもらったのは他でもないわ。
ちょっと私の作った新薬の実験を――」
『謹んでお断りします』
僕と鈴仙の声が見事に重なった。
永琳さんが新薬を作る、人を実験に使うイコール、死亡確認!
の方程式が簡単に頭を過ぎる。
多分鈴仙も同じ方程式が出たんだろう。
「残念ね。じゃあ、別の用件を話しましょう」
「…むしろそっちが本当の用件じゃ?」
「新薬はてゐにでも頼む事にするわ」
心の中でてゐに合掌する。
ごめん、僕達にはどうすることも出来なかった。
「鈴蘭畑に行って鈴蘭を取ってきてくれないかしら?」
「鈴蘭畑って…何処に?」
「それについては、ウドンゲが知っているから案内してくれるわよ、ね」
「あ、はい…鈴蘭畑かぁ…」
何か思うところがあるのか、考え事を始めた。
永琳さんの用件はそれだけだった。
僕達は早速、支度をして昼頃に鈴蘭畑に向かった。



「コンパロ、コンパロ、毒よ集まれー」
鈴蘭畑に着いて早々、僕たちが見たのは一体の人形だった。
鈴仙曰く、ここに住んでから毒を浴びて心を持った人形らしい。
「あ、お久し振りー」
「久し振りね」
一応顔馴染らしく、その人形と鈴仙は話を始めた。
僕はその間、鈴蘭畑をずっと見る。
こうまで同じ花があると、逆に気味の悪くなりそうな光景だった。
毒もあるらしいし…
「話は終わったわよ。さぁ取っていきましょう」
「またね」
「ありがとうございます」
とりあえず、その人形に礼を言って鈴蘭を摘みはじめる。
その人形も手伝ってくれたおかげで、それほど時間がかからず
話しながら一時間ほどで、持ち帰れる程度の量を手に入れた。
「それじゃ、帰ろうか、鈴仙」
「えぇ、行きましょう」
両手いっぱいの鈴蘭の花束。
これではどこかへ、お見舞いに行くような感じだ。
それにしても、鈴蘭畑に居た所為かどうか分からないが、
頭が痛い。ボーっとする。
「鈴仙はよくここに来るの?」
「うーん、来る時と来ない時があるんだけど…最近はあんまり来てなかったから」
人形の彼女とは、何でも花の異変の時で出会ったらしい。
季節を無視した花の一斉開花。
僕は見ていないけど、それは凄まじい異変だったらしい。
そんな異変なら、僕も一度見てみたいと思う。



「うん、これでいいわ。二人ともご苦労様」
夕暮れに永遠亭に戻り、永琳さんの労いの言葉を受けて、僕達は
部屋に戻ろうとした。
戻る時に庭先で倒れていたてゐが妙に印象的だった。
「ねえ、ちょっと外に出ない?」
「あ、うん…別にいいけど」
鈴仙が僕を外に誘ってきた。
今日は色々な鈴仙を見れた気がする。
それでも、真っ赤になった鈴仙が一番印象的で、一番可愛く思えた。
「今日は、いっぱい話せたね」
「まぁ、ね。…今まで鈴仙が話してくれなかったんだけどね」
「わたしは…貴方と話せなかったの」
「…話せなかった?何で?」
「貴方が、男の人って事もあったし…そう、恐かった」
鈴仙の言うことを黙って聞くことにした。
夕日に照らされる彼女は今まで以上に儚く感じた。
「今はそうでもないんだけど…恐かったの」
「だったら、聞きたいんだ…」
「えっと、何を?」
僕は、後ろから鈴仙を抱きしめた。
背中越しに明らかに戸惑っている事は分かる。
僕の顔が赤いのも何となく分かる。
「鈴仙は…僕が好き?」
「……」
鈴仙は答えない。
突然の告白に驚いているのか、彼女の動きでしか分からない。
「わたしは――」
僕は腕の力を抜いて、彼女を離した。
たとえ、どんな言葉を言われても僕の思いは伝えた。
…これで十分だった。

ぎゅっ

唇に柔らかい感触とともに、鈴仙は僕に抱きついた。
「わたしは――あなたが…好き。好きだよ」
時は夕闇に染まっていった。
「鈴仙」
「はい?」
「…幸せってこういう事を言うのかな?」
「少なくとも…わたしは幸せよ」
「そうか…。僕も幸せだ」
僕は鈴仙に口付けた。

その後、僕と鈴仙はてゐや永琳さんによって散々茶化されたりした。

ーーーーーーーーー少女選択中...ーーーーーーーーー

右左右左BA

ピッ


無敵コマンドを入力した。
これで何が起きるか僕にも分からない。
ついさっきあった二つの選択もしていないから、適当に行動するべきなのだろう。
誰が入力したのか分からないけど…。
僕にはそれは何かの導きのように感じた。
「…無敵コマンドの導きがあらん事を――」
電波的な言葉を言いながら、僕は瞳を閉じる。
どうか夢の中だけは幸せが見られますように…



翌朝の永遠亭。
いつもと同じように、食事を摂る。
目覚めは普通すぎるくらい普通。
それでも不思議な体の軽さと、朝から感じる違和感だけは、ここ――永遠亭に来てからも
感じた事が無かった。
鈴仙はご飯を食べている。
てゐも普通にご飯を食べている。
永琳さんは他のウサギ達と違って豪華な食事を食べている。
うん、いつもの光景だ。
そう、三人とも僕の方をちらちら見ながら、赤い顔をしていなければ。
「あ、あの…三人ともどうかしたの?」
『べ、別にっ』
目線があった途端、全員が全員顔を背ける。
…?
よく見ると、他の妖怪兎なんかも僕を見ていた。
別に朝に鏡を見たときは、何も無かった。
額に『肉』とも『骨』とも書かれていなかったし。
ズボンのチャックが開いているわけでもない。

顔が赤いのも気になる。
まさか全員が風邪を引いたとかそういう感じなのだろうか?
…それだとしても、おかしい。
鈴仙やてゐ、他の妖怪兎はともかくとしても、
一応、不老不死…病にかからない永琳さんが風邪を引くなんてありえない。
「それだと…僕だけが何もなっていないって事だよなぁ…」
まぁ、おかしいのは最初だけだろうと思っていた。


流石に二、三日経ってみるとその様子がおかしいと言う事に気付いた。
鈴仙には、念のために例の事故を謝った。
僕のその言葉には驚いたみたいだけど、ちゃんと許してくれた。
とりあえずその日の、日の高い内に、やっぱり永琳さんに呼び出された。
「よく来たわね」
「…永琳さんが呼び出したんでしょう」
やっぱり、顔が赤いのは治っていなかった。
「ここに呼んだのは他でもないわ」
そう言うと、永琳さんは扉に向かって閂を仕掛けた。
これで外からは誰も入って来れない。
あれ?
「そんなに重要な用事なんですか?」
「えぇ、重要な用事よ。まぁ、そこに腰掛けて」
何故かイスは無く、永琳さんはベッドを手で示した。
何となく変だという違和感に駆られながら、僕はベッドに腰掛けた。
その時、たった一瞬だけ体が自分のものでないような感覚に駆られた。

ドン

「え?」
気付いたら、永琳さんに押し倒されていた。
両手首を片手で押さえられて、永琳さんの顔が近かった。
「どうかしら?」
何でこんな状態になっているか、それを考えるのに十数秒要した。
「…永琳さん、病気か何かですか?」
「あら、どうして?」
「…貴女が、こんな事をするなんて考えられない」
「そう、もしかしたら病かもしれないわね」
艶っぽい表情を浮かべて、永琳さんは両手首を押さえながら
馬乗りになった。
「恋の病って言ったら信じるかしら?」
「…冗談じゃ――」
「冗談だったら、こんな事を言わないわ」
もがこうにも、手首は塞がれていて、暴れる事も出来はしない。
動く事が出来ないし、今の永琳さんには恐怖すら感じる。
「ふふっ」
妖艶な笑み。
僕はその表情に吸い込まれそうになる…。

その時だ。

ドカン!とまるで、何かが粉砕するかのような音が聞こえた。
あまりにも大きな音が戸の方から響いた。
そこに居たのは――
二匹の兎…いや、それはまるで兎の皮を被った鬼だった。
一匹の兎は手に木槌を持っており、恐らくそれによって閂があった扉を
粉砕したのだろう。
もう一匹の兎は、手に何故かリボルバーを持っていた。
言うまでも無い、鈴仙とてゐだった。
「師匠、その手を離してください!」
「あらあら、いけない弟子ね。こんな時に私の邪魔をしようだなんて」
そう言いながら近くにあった弓を手に取る。
拙い…この雰囲気は…互いに殺る気だ!

「六発です!六発以上生きていられた人はいません!」
そう言いながら鈴仙は引き金を絞った。
軽い音が響きながら、その弾は真っ直ぐ、何故か僕の方へ向かってくる。
――違う
その弾はまるで意志があるかのように、途中で曲がり永琳さんに向かって飛ぶ。
いや、そう感じさせる事すらトラップ、本当は最初から永琳さんに銃弾が飛んでいた。
ただ、惑わして僕に向かうように見せただけだ。
「くっ、その程度!」
すぐにバックステップで、永琳さんは距離を取って、その銃弾をかわした。
「もらったー!」
飛んだ先には木槌を構えたてゐが居た。
その木槌が振り下ろされる!
しかし、彼女もそれを予想していたのか、既に回避行動に移っていた。
それでも頬を掠って軽く血が飛ぶ。
「こっちへ、早く!」
鈴仙に導かれて、僕は急いでその部屋から出て行った。
何が起こっているんだろう?


「ここまで来れば…大丈夫よね」
永遠亭の外に出て、僕と鈴仙は深呼吸をした。
「鈴仙、一体…何があったんだ?何か…おかしいよ」
いつの間にか感じていた違和感。
それは一体何なのか、僕は鈴仙にそれを聞いていた。
「あなた、自分で気付いていないの?」
「…何を?」
「雰囲気が、その…」
「雰囲気…?」
言いにくそうにしている鈴仙の顔は真っ赤だった。
「その、格好良くなりすぎてる…って言うか」
「いや…意味が分からないよ」
「それで永琳師匠も、てゐも…皆も今のあなたが気に入っちゃったみたいで」
…まさか。
あの時選んだ。妙なコマンド?
「どうかしたの?」
「い、いや…何でも無い」
アレが本当に効いたとしたら、いや…今の状態から考えるとすると
それしかありえない。
「…とりあえず、今のあなたがどのくらい続くか分からないけど…守ってあげる」
「そう言えば、鈴仙は…みんなが受けてるような効果が無いみたいだけど?」
「わ、わたしは…その」
真っ赤になりながら、そっぽを向いた。
どうやら、聞いてほしくはないらしい。
「…それで、逃げ切ればいいのか?」
「命をかけた鬼ごっこね」
嫌な響きだ。
命までは取られないだろうけど…永琳さんの態度を見ると捕まったら
色々なものがなくなりそうだ。

「とにかく、竹林を越えて…里でもいいから逃げ込んで!」
そう言いながら、リボルバーを構える鈴仙。
「ところで…鈴仙、その銃は?」
「山猫って呼ばれてた人から貰ったの」
…どうやら、違う次元の人が紛れていたようだ。
その人はきっと『リロードがレボリューション』らしい。
「…鈴仙、頑張って。あと怪我させないようにね」
僕は、竹林に向かって走り出した。

「頑張れ、か…。うん、頑張ろう」



竹林には既に敵の兎部隊が、たくさん来ていた。
けど、突破できない程度ではない!
鈴仙のためにも…突破する!
「うわぁぁぁぁ!」
後ろを見ずに必死に走る。
敵の方が圧倒的に早い。さすがは鍛えられた兎だ。
「うさうさー!」
「うさー!」
数十、数百…これだけに追われている状態なんて人生史上にない経験だろう。
しかし、そんな事は考えてられない。
今は逃げ切らないとならない。
「うさー!」
僕は背後に、気配を感じながら必死に竹林を駆け抜けた。



竹林を抜けた頃には、僕の足はとっくに笑っていた。
動く事すらままならない。
二度と走りたいとも思わない。
木の根元で倒れていると、人の気配があった。
また妖怪兎か?
と警戒したところ、現れたのは見知った月の兎だった。
「大丈夫?」
「…鈴仙、まぁ大丈夫だよ」
よく見ると、彼女の服なんかも所々破れていた。
幸いにも肌に傷はないようだけど。
「…あのね。わたしは、あなたに言わないとならない事があるの」
「何?」
「…貴方がおかしくなった原因、わたしなの」
「え?」
「…前から、貴方はわたしの瞳を見ていたでしょ?あの時に、
簡単な幻惑――言うなれば狂気をかけたの」
「…どんな効果?」
「自分から、格好良くなろうとするような効果」
そんなのが掛けられていたのか?
いや、思い当たる節は結構あった。考えてみれば、いつも僕は彼女の
瞳を見ていた。それでは、そんな幻惑もかかるだろう。
自分から格好良くなる気はなかったけど…どこかしら、なっていたのかもしれない。
「それが、こんな結果か」
「…ごめんなさい」
「別にいいよ。ところで、どうしてそんな事を?」
「…から」
あまりにも小さな声だった。
「あなたが…好きだったから。もっと格好いい貴方が見たかったの」
でも結果は永遠亭の者がちょっと変になってしまった。
もしかしたら、あのコマンドを選んだのも鈴仙の影響だったのかもしれない。
「…格好いいか分からないけどさ…。僕は――」
「……」
「僕は、鈴仙が好きだ」
何だ。結構簡単に言えるじゃないか。
走った所為もあって、心臓がドキドキ言っているけど。


『永琳さま、突撃しますか?』
「いえ、もう終わりみたいね」
『どう言う事ですか?』
「彼は――ウドンゲとくっついたわね」
落胆と諦めの声が妖怪兎の方から聞こえた。
「これで、久し振りの恋も終わり、か」
永琳も気付いてはいない。
その恋の病というものは二つの狂気のようなものから成り立っているという事に。
一つの狂気は恋する『月の兎』の狂気。
もう一つは恋をしたかった『普通の人間』の狂気。
人の想いとは具現するようだ。それこそが彼の選んだ『コマンド』なのだ。

ちなみに数日後、その『コマンド』の狂気はあっという間に消えてしまっていた。
月の兎の恋と、恋をしたかった普通の人間の願いが叶ったかもしれない。



後書き。
ごめんなさい。
色々やりすぎました。ごめんなさい。
…こんな風に自分で首をしめてどうするんだろう?
とにかく、ごめんなさい。

補足。

コマンド入力=好感度がマックスになる。

鈴仙が(半分くらい)みんなの狂気を促しました。

てゐ。漁夫の利を狙っていたけど主人公を鈴仙に取られて失敗。

師匠。今回の多分一番の被害者。狂気に晒されてちょっとだけ、変になった。

注意点。

おかしい事が起こるので、出来る限りコマンドをあまり使わないようにしましょう。

何事もほどほどに(暴走すると手がつけられません)。

最後に、ごめんなさい。

とりあえず首吊ります。


1スレ目>>603>>610-611


603 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/22(土) 01:42:06 [ S8SIfbtc ]
  ここでちょっと無意味な質問。
  自分が風邪を引いたとして、東方キャラに看病してもらうとしたら誰がいい?
  そんな告白じゃないけどほのぼのなSS書いてみようかな……って思って。

610 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/22(土) 17:06:05 [ OCbEik9U ]
  >>603
  鈴仙。


  風邪で伏せってる男の看病を買って出るも、
  師匠から処方された座薬を入れる段になってから
  二人して顔真っ赤にしているという…

  しまった、ほのぼのどころかとんだ恥辱プレイじゃないか。

611 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/22(土) 17:14:12 [ ZlkrqM1c ]
  >>610
  そこで決め台詞ですよ

  「鈴仙、愛してる」


最終更新:2010年05月27日 01:05