鈴仙6



11スレ目>>32>>96


「こら、誰だか知らないけど待ちなさい!!」
「・・・・・」

永琳は竹林の中をすごい速さで飛んでいた。何かを追うように。
しかしちっとも捕まらない。追いかけられているほうはは竹林の中を知り尽くしているかのように素早く確実に逃げていた。

「なんで逃げるのよ!」
「・・・・・・・・・あなたの顔が怖いからですよ」



なぜ永琳はこんなことをしているのか・・・
事の始まりは優曇華院の一言だった・・・・





最近、永遠亭を尋ねてくる人が多い。




永琳が人里からの治療依頼が終わって永遠亭に帰ってきたとき、優曇華院の第一声はおかえりなさいではなくこれだった。


「多い?」
「はい。今日で40人ぐらいは来ていたと思います」
「目的はあったの?」
「いや・・・・・・尋ねてきた人間全員に聞いてみたらどうやら竹林で迷って、さまよっていたらここにたどり着いたらしいんです。」
「そう。おかしいわね。迷いの竹林なのに・・・」

永遠亭は迷いの竹林の抜けた先にある。
適当にさまよっているだけでは永遠亭にたどり着くことなど不可能である。

「他に何か言っていなかったの?」
「うーん・・そうですね・・・・・全員、何かに導かれた気がする、とは言っていました。」
「てゐの仕業ではないでしょうね?」
「さっき聞きましたけどそういうことはしてないそうです。自分なら人里のほうへ返すと言っていました」

因幡てゐは竹林で迷った人間を導き、少し幸運を分けて人里に返すのが最近の仕事である。

「ということは・・・・竹林になにかいるのかしら?」
「さっき見てきましたけど特に何も・・・・」
「そう・・・まぁほっときましょ。これがまだ続くようなら今度調べに行くわ」

そういって永琳は自分の部屋に戻っていった。

「あ、師匠、待ってくださーい・・・」

優曇華院も永琳のあとについていった。






「今日の晩ご飯は魚2匹と鳥1羽だけか・・・」

迷いの竹林のなか、それもかなり奥のほうに1人の少年がいた。
といっても、年齢的にはかなり長生きしてるのだが・・・・・・見た目が少年にしか見えない。てゐの男verみたいなものか。

「この生活も飽きてきたなぁ・・・」

少年は、竹林で迷った人間を、竹林を抜けた先にある家―――すなわち永遠亭である―――に導く役をしていた。
役といっても、誰かに仰せつかったわけではなく、少年が親切でやっているだけなのだが。
ちなみに、少年はその家が永遠亭だということを知らないので、どこか近くの家、という認識でしかない。

「そろそろ場所移動しようかな・・・」

少年がなぜ竹林で暮らしているか・・・・




少年は元々人里に住んでいた。平凡な夫婦の、平凡な子としてこの幻想郷に生を受けた。
少年は心優しく、里でも人気があった。平凡に、幸せに暮らしていた。だが、ある歳を境に、少年は、全く外見が成長しなくなった。
なぜなら、少年は人間ではなく妖怪だったのである。というのは、母が半分妖怪の血液をもっていたのである。
それが強く遺伝したために、少年は妖怪として生まれてしまった。

そして、ある日、少年から羽が生えてしまった。

里の者は、少年が妖怪と知るやいなや、少年を精神的に追い詰め、里から追い出そうとした。
少年の両親は強く反対したが、村の長がこれを却下すると、少年の両親は村から追い出された。夜中の出来事である。

その翌朝、少年が目覚めると両親はいなかった。泣きながら里を駆け回っても両親はいない。
それどころか、里の人間がひとりもいなかった。もともと賢かった少年は瞬時に悟った。


この村は妖怪に襲われたのだと。自分は妖怪だったから襲われずに済んだのだと。


少年は走った。なにから逃げるまでもなく、ただ、ただ、走りたかった。何もかも忘れたかった。
どうしてこんなことになったんだろうと。なにが間違っていたのだろうと。そう考えながら、ひたすら走った。

気づけば少年は竹林の入り口にいた。入り口に人間が一人いたが、自分を見ると逃げていってしまった。


少年はこの竹林に隠れ住むことに決めた。不用意に外にいたら、人間を怖がらせてしまうという理由で。
心優しい妖怪も、いたものである。




そうして約2000年、少年は竹林で過ごしてきた。
時には妖怪と戦い、時には妖怪を退治しに来た人間から逃げながら。
竹林で迷ってしまった人間を、自分の姿を見せないように安全なところへ導きながら。

少年は、孤独ということ以外は平凡に暮らしていた。






「師匠、また人がきました」
「また?これで今日は30人目ぐらいかしら・・・・・やっぱり調べに行ったほうがいいかもね」
「お供しましょうか?」
「ウドンゲ、あなたはここで人の相手をしていなさい。めんどくさかったら波長を操って勝手に帰してもいいから」

そういい残して、永琳は竹林へ向かった。



竹林をしばらく歩くと、どこからか気配がする。

そして、優曇華院では気づかなかった違和感を、永琳は感じ取った。

「やっぱり何かいるわね・・・・どこなの?出てきなさい」

遠くで竹林を突っ切るような音がした。
それを確認すると、永琳は追うようにその音に飛んでいった。






「いい加減止まりなさい!悪いようにはしないから」
「・・・・」


かれこれ、2時間は追いかけっこが続いている。両方とも、人間の動体視力では捕らえきれないほど速い。


「しつこいなぁ・・・いい加減諦めて下さいよ・・・僕何もしてませんよ・・・」
「それはあなたの話次第よ!いいから止まりなさい!」

少年は気づかなかった。自分が竹林の出口へと向かっているのを。
そうして、少年は竹林から出てしまった。

「うッ!!」

太陽の日差しをまともに受けた少年は目が開けられなかった。少年はそのまま気を失って落ちていった。


竹林は日の光がさえぎられている。2000年も竹林に住んでいた少年は当然太陽の光の免疫が無かった。


「逃げる気ね・・・あら?」

永琳が竹林から出てくると、地面に倒れている少年を見つけた。

「もしかして・・・この子かしら」

羽が生えているし、竹林の葉っぱが何枚か服についている。
永琳はちょっと迷ったが、気絶していては話が聞けないので、永遠亭で休ませることにした。






「お帰りなさい、師匠。その子は・・・・妖怪?」
「わからないけど、人間をここに連れてきていたのは、多分この子よ」

そういって、少年をベッドに下ろした。





すこしたつと、少年は目覚めた。

「なんだか暖かいな・・・・・・・あれ?ここはどこ?」
「お目覚めのようね」
「!!」

少年は今話しかけたのがさっき自分のことを追いかけていた人間だとわかると、素早く部屋の隅に行った。

「ごめんなさい!僕食べてもおいしくないですから!見逃してください!食べないで下さい!」

土下座しながら言い始めた。
永琳は少年のことを少し叱ろうと思っていたが、そんな考えは吹っ飛んでしまった。

「クスクス・・・こら、誰が食べるだなんて言ったのよ」
「ええ!じゃあ飲むんですか!!?僕の血なんてまずいですよ!!」

なんだか勝手に考えが暴走しているようだ。

「こらこら、私は吸血鬼じゃないわ。私は聞きたいことがあるだけなの」
「え?」


少年はまさにポカーンという音が似合いそうな顔をしていた。


「そんなに意外?」
「いや・・・ごめんなさい。捕まったら本当に食べられると思ったんで」

そういって、少年は土下座の姿勢から正座のような姿勢になった。

「まぁいいわ、で、なんでこんなことをしていたの?」
「こんなことってなんですか・・・・・・僕悪いことしてませんよ」
「なんでここに人間を連れてきてたの?」
「え?ここあの家なんですか?」
「君がそう思うならそうね。で、なんでやってたの?」

少年は考え込んだ。理由なんかないから当然である。敢えて言うなら、親切である。

「理由なんて・・・ないですよ。僕は人間がかわいそうだから助けてあげようと思っただけで」
「人間・・・・って言い方をするってことは、あなた、やっぱり妖怪なのね」

少年はしまったという顔をしたが、永琳が逃げないのを見て、恐る恐る尋ねた。

「あの・・・怖くないんですか」
「あなたのことを?それなら、姫様のほうが別の意味で怖いわ」
「姫様・・・ですか」

状況がよくわからない少年は疑問が増えるばかりだった。
何故目の前の人は自分が怖くないのか。何故自分を助けてくれたのか。

「そんなことはいいわ。それで、あなたは何者なの?ここらへんじゃ見かけない顔だけど・・・」
「そりゃあそうです。今まで隠れてましたから」
「隠れる?なんでそんなことを」
「人間に・・・・・・見られないようにするためです」
「あなた、本当に妖怪なの?知り合いにもここまで人を想う妖怪なんていないわ」

―――この人には妖怪の知り合いがいるのか。どおりで、僕を見ても怖がらないわけだ。

少年がそんなことを考えていると、部屋に誰かが入ってきた。

「えーりん、さっきのやつ起きたの~?」

入ってきたのはてゐだった。

「あ、君は・・・」

少年はてゐに見覚えがあった。
ある日、少年がいつものように人間を導こうとすると、先に誰かに導かれるように行ってしまったのである。
不思議に思っていると、少年のような小さいウサギの妖怪が、人間を導いていた。
僕のような妖怪もいるんだなぁ、と、少年はすごく満足し、その人間を名前も知らない妖怪に託したのだった。

少年の反応を見て、永琳は聞いた。

「ん?知り合いなの?てゐ?」
「んー・・・なんかみたことある気がする」
「あれ、見られてたかな・・・僕は竹林に住んでたんだけど」

そういうと、てゐは急に何かを思い出したような顔をした。

「・・もしかして私の仕事を手伝ってくれてる人?」
「あれは、君の仕事だったのかな?取ってしまってごめんね」

「ううん。そんなことないよ!むしろ減ってラッキーって感じだから!」
「てゐ・・・・あとで私の部屋に来なさい」
「あう、いつもの嘘ですよ!嘘!」

そういって、てゐは逃げるように部屋から出て行った。

「珍しい妖怪ですね・・・・」
「あなたほどじゃないけどね・・・・・そういえば名前を聞いてなかったわね」

「僕の名前は・・・自分の名前を言うのも久しぶりだな・・・○○、といいます」
「なんだか悲惨な過去があるみたいね・・・あ、別にいいわ話さなくても」

少年が自分の過去を話そうとするのを、永琳は止めた。

「自分の過去なんてそう簡単に話すものではないの。まぁ、それは置いといて、私は八意 永琳。医者みたいなことをやっているわ」
「ええ、以後お見知りおきを・・・・・といっても、次はいつ会えるかどうかわかりませんけど」
「あら、どうして?」
「隠れてるの見つかっちゃったし、もっと静かなところに行こうと・・・」
「行くあてはあるの?」
「無い・・・ですけど、何とかなりますよ」
「だったら、ここに住みなさい。竹林ほどじゃないけど、まぁ割と静かなところだから・・ね」
「ええ!?」


少年は本当に驚いた。妖怪である自分に、住む場所を提供してくるなんて夢にも思わなかったからである。


「なんでそんなに僕のことを・・・」
「他人には見えないから・・かな。ここ、永遠亭はね、過去に何かあったやつが結構いるのよ。それに」

永琳は一呼吸置いて言った。

「妖怪もすでに住んでるしね。ここは」
「そうだったんですか・・・」
「それに・・・・ね、あなたがしてたことは人間にとっては助かったことだったでしょうが、私たちにとっては少々迷惑だったの」

そういうと、永琳はいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「その迷惑代として、ここで働きなさい。これは、命令ね」

少年は頭を抱えた。ここに住むついでに、働けといっているのだ。妖怪である自分に向かって。

「それは・・・強制ですか・・・」
「強制よ。ま、住む場所をあげるんだからありがたく思いなさい」


なにやらやっかいそうな人に捕まったな・・・そう少年は思った。


永琳は軽く咳払いした。



「ようこそ永遠亭へ、○○。永遠亭の代表として、歓迎するわ」
「はい・・これからよろしくお願いします。えーと・・・永琳さん・・・・と呼べばいいですか?」
「ええ」

―――やっかいそうだけど、多分優しい人なんだろうなと思った。根拠も無く、そう思った。
そして―――これから始まる新しい生活に―――少し期待を覚えた。





その日の夜、永琳によって、少年・○○が永遠亭に住むことになったことが永遠亭で発表された。
最初は誰もが驚いたが、永琳が事情を話すと、皆、快く少年を歓迎した。
とくにてゐは、自分と同じぐらいの身長で、しかも自分と同じくらいの歳(といっても2000歳ぐらいだが)の少年だったからか、喜びようがすごかった。
二人はその日の夜すぐ仲良くなり、二人ともいい遊び相手のように見えた。





「師匠、本当は他に理由があるんじゃないですか~?」
「そおねぇ~。強いて言うなら・・・・・実験で男のデータが欲しかったから、かな♪」


優曇華院は、○○に少し同情した。




Q.イチャイチャはどこですか?
ごめん、あらすじだけで本当にごめん
Q.カップリングは誰よ?
決めてません。永遠亭のみんな大好きだから。ハーレムになるかも




「おはようございます、鈴仙さん」
「おはよう、○○」

笑顔で挨拶してくれるのでこっちもできるだけ笑顔で挨拶を返す。

「朝ごはん出来てますので食べて下さいね」
「わかったわ。お先に失礼」



○○が永遠亭に住んでから早一年が経った。
○○は最初はどこかよそよそしさが残っていたものの、最近は減ったようだ。
最近は私と一緒に師匠の仕事を手伝ったり、一緒に里へ薬を売りに行ったりしている。
里では、彼は人気である。最初は自分が妖怪であることを心配していたが、どの里の人も彼を歓迎してくれた。
そうして、その日以来、彼はある天狗娘によって幻想郷では割と顔が知れている存在になった。


ちなみに、○○は永遠亭の料理を担当している。
○○が料理はできると言った瞬間、永遠亭全員から強制的に言い渡された。もちろん私も賛成した。


「おはよう○○~」
「おはよう、てゐ。」
「あとで賽銭活動するから一緒に来てね~」
「また?正直人を騙すのは気が引けるんだけどな」

廊下でてゐと○○がいつものやりとりをしている。断らないのが○○の優しさというかなんというか・・・。

「いいの。騙されるほうが悪いんだから」
「やれやれ・・・・」


二人は私から見ても本当に仲がいい友達以上の関係に見える。幼馴染みたいにも見える。
歳が大体同じだし、背も同じくらいだし。


でも恋人・・・というのにはちょっと違う気がする。
そう思うのは私が嫉妬してるからだろうか。


嫉妬・・・・か。私は○○のことが好きなのだろうか。確かに好印象はあるけど・・・・恋とはちょっとちがうような気がする。
ま、いいか。


「じゃ、竹林のいつものところに来てね~」
「はいはい」

てゐが駆け出した。

「あ、てゐ!朝ごはん先に食べてからだよ!」
「ご飯なんて食べなくてもいいじゃん。妖怪なんだし」
「ダメだよ。妖怪だっていつ何が起こるかわからないんだからね」
「頭固いね~」
「大きなお世話だよ。ほら、行くよ」

そういって、てゐの手を引っ張って食卓へ行ってしまった。
引っ張られてるてゐの顔はなんだか顔が赤い。○○は気づいてないのかな。

って、こんなこと考えてる場合じゃない。早く私も食卓に行かないと。




「おはよう、○○。よく眠れたかしら?」
「おかげさまで・・・危うく、永遠の眠りにつくところでした」
「大丈夫よ。そのときはとっておきの薬があるから」
「何事もなくてよかったです!」

食卓での師匠と○○のいつものやり取り。どうやら○○は師匠にいいようにこき使われてるらしい。
私が嫌だったらそういえばいいのにといっても、彼は嫌とはいわない。お人好しにもほどがある。


ちなみに姫様はまだ起きていない。いつも姫様は一番最後に起きてくる。何時に寝てるんだか。

「ウドンゲと○○。食べ終わったら、ちょっと私に付き合ってね。手伝ってもらいたいことがあるの」
「え?僕はちょっとこの後てゐとですね・・・」

師匠の動きが止まった。顔は笑っているが、心は笑っていない感じの表情である。


「あら、○○。私とてゐのどっちが大切かしら?」
「あの、そういうことを聞くのは反則だとおもい・・・」
「ど っ ち なのかしら?」

あ、師匠がちょっと怒ってる。

「あの・・・その・・・・永琳さん・・・・です」

ここでてゐと答えるやつがいたらそいつはよっぽど頭があっぱれに違いない。

「そうでしょう。わかったら二人ともこの後私の部屋に来てね」
「わかりました、師匠」
「ごめん、てゐ・・・・」



竹林での会話。

「・・・・というわけで、今日は無理だった」
「え~!!さっきついてきてくれるって言ったじゃない」
「仕方ないよ・・・・永琳さんは僕の恩人だし。・・・この埋め合わせはいつかするから、許してよ」
「ホント?今の言葉、嘘だったら許さないからね!」
「君がそのセリフを言うのかい」


「まぁいいわ、最近毎日つき合わせてたし。じゃ、またね」
「うん、ごめんね」






「はぁ・・・」

私は竹林を走っている。
いつもは今度は誰を騙そうかとワクワクしているところなのに、出るのは溜息ばかりだ。

「どうしたんだろ・・・私」

一人は慣れてる筈なのにな・・・・どうしてこんなにつまらなく感じるんだろう。


あれこれ考えながら、てゐはいつものように賽銭活動を始めた。
ただ、いつもの人たちが言うにはいつもより少々元気が無かったそうな。






「○○、ちょっとそこの取って~」
「これですかね?気をつけて持ってくださいよ~」


師匠の部屋で、私たちは薬を調合している。
師匠はなにか材料を取りに行ったらしく今は部屋にいない。
それにしても、○○は本当にすごい。
師匠の教えを、たった1年で完璧に理解し、私と同じ、またはそれ以上の薬の腕前になっている。
それに、○○はとても嬉しそうにに薬を作る。
以前、なにがそんなに楽しいのか聞いたことがある。そしたら、彼は言った。


「僕のような妖怪でも、人間を助けられるモノが作れるなんて、うれしくないわけがないですよ」

と、すごくいい笑顔で答えてくれた。本当に妖怪なのかな。

考え事をしていたのがいけなかったのか、うっかり試験管を落としてしまった。

パリーン!

見事に割れる。当然、入っていた薬品が飛び散る。でも、考え事をしていた私は気づかなかった。

次の瞬間、急に体が浮いて、その場から急速に動いた。なにが起こったのかわからないまま上を見ると、○○の顔があった。

「危ないじゃないですか!考え事なんてしてるから、落とすんですよ」

どうやら私はお姫様抱っこをされているらしい。当然、恥ずかしい。

「ちょ・・ちょっと!何してるの!」
「いや・・・だってあのままじゃ、直撃でしたし・・・・鈴仙さんも避ける仕草を見せなかったし・・・」

体が動かない。下りたいのに、なぜか金縛りにあったように体が動かない。

「・・・・」

顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。○○は、やっと気づいたようだった。

「すみません、心遣いが足りなくて・・・・」

○○が優曇華院を下ろそうとしたときだった。

「○○~ウドンゲ~調合は順調なの~?」


部屋に師匠が入ってきた。最悪のタイミングで来るもんだ・・・・。


「・・・」
「・・・」
「・・・」


部屋に入ってきた師匠が固まった。固まるのは今日2回目だ。


部屋には優曇華院をお姫様抱っこしている○○と、顔が赤い優曇華院。
君たちだったら、何を想像するだろうか?


「あんたたち・・・いったい何をやっているのかしら?」
「え!?えーと、これはその・・・・」

○○が弁解を始めるが師匠は全く聞いていない。
私は体も口も動かなかった。それより、足と体に回されている彼の腕が気になって仕方が無い。

「仕事中にイチャつくなんていい度胸ね・・・・○○、こっち来なさい」
「いや・・・だから・・・これは事故で・・・」

ようやく○○は私をおろした。次の瞬間、師匠と○○の姿が消えた。
普通の人には消えたように見えただろうが、私には見えた。すごい速さで、師匠が○○をどこかへ手を引っ張って連れて行ったのを。


取り残された私は、とりあえず壊れた試験管の後始末をすることにした。
薬の調合をつづけようと思ったが、集中できなかった。さっきの出来事をどうしても思い出してしまう・・・


「騒がしいわね・・・」

姫様が起きてきた。ちなみに今は14:00ぐらいである。

「おはようございます、姫様」
「おはよう、うどんげ。どうしたの?なんだか顔が赤いわよ」
「なんでもないです」

平静を装って答えた。

「それで、みんなは?」
「てゐは例の活動です。師匠と○○は・・・・・わかりません」
「どこか行ったの?」
「はい。でも師匠が連れて行ってしまったので、どこかはわかりません」
「そう、それよりもお腹が空いたわ。○○・・・は、いないんだっけ。うどんげ、なにか作ってちょうだい」
「自分で作って下さいよ・・・」
「やーよ。めんどくさい」







(怖い・・・怖いよ・・・・誰か、助けて・・・)

僕は博麗神社の縁で正座させられていた。向かいには永琳さんが黙って座っている。
なんで博麗神社なのか聞いたが、いい場所が見つからなかったそうである。

「・・・・」
「・・・・」

10分ぐらいこんな感じである。正直、いや、正直じゃなくてもすごく怖い。


それを、障子越しに見る影が二人。


「おい、あの二人何やっているんだ?」
「知らないわよ。帰ってきたら勝手にいたんだもの」
「さっきからどっちも動きが無いぜ・・・」
「おおかた、○○が何かやらかしたんでしょ」
「どうするんだ?あいつら」
「ほっときましょ。私が出ても意味ないだろうし」


障子から一つ、影が消えた。もう一つの影は、事態が気になるのか消える様子は無い。



「○○」

永琳さんがやっと口を開いた。

「はい・・・」
「あなた、私とウドンゲ、どっちが大切?」
「はい?」

言ってる意味がわからなかった。

「どうしてそんなこと聞くんです?」
「いいから、答えなさい」

声に凄みが増した。

怖い。これ選択肢ないよ・・・・

「・・・・永琳さんです」
「そうでしょう。わかったらこれからは、軽率な行動は避けること。」
「助けただけなんですけど・・・・・・・・・すみません!僕が悪かったです」

睨まれてしまった。怖い。怖すぎるよ。

「まったく、これだけ言ってもわからないのかしら・・・鈍感ね。この子は・・」
「あの・・・何か言いまし・・・・なんでもないです」

また睨まれた。これ、狂気の瞳よりよっぽど怖いよ。

「まぁいいわ、反省してるようだし、これからは気をつけてね。」
「さっきみたいなことしなければいいんですか?」
「そういうこと。でも私にだったら、遠慮しなくてもいいわよ」
「え?それはどういう・・・」

なんで鈴仙さんはダメで、永琳さんはいいのだろう・・・・

「・・・・修行が足りないわね。今日はこのまま博麗神社で修行していきなさい」
「え、何をですか?」
「色々と・・・・ね。あなたはもう少し他人の心を勉強すること。」
「????」

疑問が浮かぶばかりであった。そうこうしてるうちに、永琳さんは帰っていってしまった。

「・・・・・」

さて、どうしよう。今日はここで修行しろと言われたが、何をすればいいのか見当がつかない。
しかもここの巫女さんに許可取ってないし・・・・。


「よう、○○」
「ん?」


障子から誰か出てきた。いかにも魔法使いな格好をしているこの人は・・・


「魔理沙さん、こんにちは」
「さんはいらないといつも言っているだろう・・・」

しょうがない。これは癖みたいなものだ。

「厄介なことになってるみたいだな」
「はは・・・。いったい何が何なのかわからないけどね・・・」
「何を言われたんだ?」
「ここで修行しろだとさ。今日は永遠亭には帰れないらしい」
「何を修行するんだ?」
「それがよくわからないんだ・・・他人の心?を勉強するんだとかなんとか・・・」

「あら?さっきの話は終わったのかしら?」

また誰か出てきた。今度は巫女さんである。

「霊夢さん、お邪魔させてもらってます。」
「霊夢でいいわ。それで、さっきのは終わったの?」
「うん、さっきのは終わったけど・・・」
「?」

霊夢に、永琳さんが言っていたことを伝えた。

「心を勉強・・・か。たしかに、あなたは妖怪だし、そこらへんわからないかもね」
「何をすればいいんだろう・・・・」
「とりあえず、本を貸すわ。これでも読んでなさい。」

そう言って、渡されたのは、心理の本だった。

「今日は泊まっていきなさい。寝るところないんでしょ?」
「いいの?ごめんね、なんか僕が不甲斐ないせいで・・・よくわからないけど」
「○○、ここに泊まるのか?」
「うん、寝るとこないし。まぁ、いざとなったら、竹林でも寝れるけどね」
「じゃあ、私もここに泊まるぜ」
「はあ?」

霊夢が驚いた。

「ちょっと、なんであんたまで泊まる必要があるのよ」
「いいじゃないか、別に。一人ぐらい増えたって変わらないぜ」
「変わるわよ!主に食費が」

なんか二人とも言い争いを始めた。ひょっとして僕が原因?

「喧嘩しないでよ、二人とも・・。僕が出て行けばいいんでしょう?じゃ、霊夢、読み終わったらこの本返すね」
「「え?」」


二人の声がハモった。
そういって、○○は竹林に飛んでいってしまった。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

場を支配するのは沈黙。それはそうである。
二人とも、目的の人物(妖怪)がいなくなったのだから。


「・・・・・・・・・・で、あんた、泊まるの?」
「・・・・・やっぱりいい」

霊夢と魔理沙は理解した。○○は人の心を理解できていないのは本当だと。



果たして、○○がそれが自分に向けられた好意だと気づくのは、いつになるのやら。






その日の永遠亭の夜。



「あら?今日は○○が作ったご飯じゃないのね・・・残念だわ」

姫様がガックリと肩を下ろす。ちなみに今日作ったのは○○が来る前に料理を担当していた因幡ウサギ達である。
彼女(彼)らも報われないな。

「師匠、○○はどうしたんですか?」
「うふふ・・・ちょっと人の心を勉強させてるわ。心配しないの」
「どこでですか?」
「例の巫女がいるの神社よ。見たところ、あの子たちは○○に恋しちゃってるみたいだから、ね♪」

初耳だ。霊夢や魔理沙が○○のことを好きだなんて・・・・・・なぜか胸がチクリとした。

「師匠は・・・なんとも思わないんですか?」
「あら、どういう意味?」
「いや・・・だから・・・その・・・・なにか間違いが起きないのかなって・・・・」

言ってて顔が赤くなってきた。いったい何を言っているのだろう、私は。
師匠はクスクス笑うだけで何も言ってくれない。

なんだか妙に気恥ずかしさが来た私は逃げることにした。

「おやすみなさい!師匠、姫様!」

そういって、居間から飛び出て、自分の部屋に急いだ。

「あらあら・・・これは・・・・ややこしいことになってきたわね♪」

永琳が誰にも言うわけでなく楽しそうに呟いた。



「○○~早く帰ってきて~。私にご飯作ってよ~」

・・・・ダメなお姫様もいるものである。






「どうしたんだろ・・・私」

ベッドに横になっても頭に出てくるのは彼の笑顔、体に残っている彼の腕の感触ばかり。(なんかこの書き方、エロいな
これじゃとてもじゃないけど眠れない。

「散歩でもしようかな・・・・」

そう決めた私は、竹林で散歩することにした。





夜の竹林は不気味である。
もともと昼でも日の光が入らない竹林なので、夜は周りが全く見えない。
妖怪は、この暗さが心地よいらしいんだとか。

その竹林を、優曇華院が歩いていた。


「落ち着くわね・・・ここは。彼がここに住んだ理由もわかるかも」


散歩しても出てくるのはやっぱり彼のことだった。私は気づかないフリをしていた。


すると、向かいから何かが飛んでくる音が聞こえた。

「ん・・・・?誰かしら」
「やれやれ・・・・あの本どこに落としちゃったのかな・・・」

それは、聞き覚えがある声だった。

「○○・・・?」
「あれ・・・・鈴仙さん、こんなところで何やってるんです?」
「なんでここに・・・?」

それはこっちのセリフだったが、今は何故か彼に会えたことが嬉しかった。
私の顔が赤くなっているような気がするが、暗くて見えないだろう。

「博麗神社にいるんじゃなかったの?」
「そうだったんですけど・・・なんか二人が喧嘩しはじめちゃいましたからここにしました」
「そう・・・・」

今なら、彼女たちが喧嘩する理由が分かる気がした。

「じゃ、また朝会いましょう、鈴仙さん。今は永遠亭に帰れませんし。おやすみなさい」
「あ・・・・」

そう言って、飛んでいってしまった。

「おやすみ・・・・なさい」

彼が消えた後で言っても意味が無い。


もうわかった。今のでわかってしまった。



















私は――――――○○に恋をしていると――――――













変わってしまった。好意が、恋に。












それが、吉なのか、凶なのか・・・・・













今の私には、わからなかった。








Q.主人公はウドンゲなの?
A.なんか書いてたらウドンゲが主人公になっちゃいました。でもどうなるかわかりません。

Q.霊夢と魔理沙の扱いに全俺が泣いた。
A.彼女たちは今回はサブ・・・のつもりです。
でもひょっとしたらひょっとすると・・・かもしれません


11スレ目>>1000


ベタですまないが単刀直入に言わせてもらおう。


鈴仙、君が好きだ。愛している。


12スレ目>>56


鈴仙「○○~お汁粉できたよー」
○○「おぅ、ありがと。んー時間がたってもこの餅すごくやわらかくてうまいな」
鈴仙「餅つきは兎の専売特許ってね。あ、ほっぺにお餅ついてるよ」
○○「えっ、どこどこ?」
――ちゅっ
鈴仙「えへへ、○○のために特別につくったお汁粉だからすごく甘いね」
○○「――――(赤面)」


12スレ目>>656 うpろだ864


 ここは永遠亭のとある廊下の一角。
 耳に聞こえるはしんとした静寂のみ。
 俺は額に滴る冷や汗を拭いながら、その手にある銃床を握りしめる。

 そのとき、不意に何者かの足音が聞こえる。
 俺は廊下の角から、半身だけ乗り出して、その音が聞こえた方を見る。
 そこにいたのはブレザーに身を包んだ少女、鈴仙だ。
 彼女は、側にある部屋の中を覗き込んでおり、こちらに気づいた様子はない。

 しかけるなら今しかない。

 俺は素早く身を乗り出し、彼女の方へ銃身を向ける。
 そして、引き金を引こうとした。

 しかしその瞬間、向こうにいた彼女の姿は消え去り、その代わりに俺の目の前に彼女の顔があった。
 右手に握られた拳銃は、俺の眉間を零距離で狙っている。

 はめられた!

 彼女は自身の能力を使い、俺に幻を見せていたのだ。
 そう、波長を操作することによって。

 そこまで考えが及んだ時、彼女の口の端がつり上がる。

「さようなら」

 無慈悲に紡がれた言葉と共に、彼女はその引き金を引いた。































「痛ってーー! 零距離で撃つなんて、ふざけんな!」
「あははは、騙される○○の方が悪いんでしょ」

 眉間に打ち込まれた弾に、ひとしきり悶絶した後、俺は鈴仙に詰め寄った。
 だが、彼女は俺を指差し、けらけらと笑うだけである。

 何故、俺達がこんなことをしているのか。
 まずは、そこから話そう。
 まぁ、一言で言ってしまえば、姫様の気まぐれだ。
 二月三日、つまり今日は節分の日だ。
 せっかくだから豆まきをしよう。でも、普通じゃ面白くない。
 というわけで、豆を弾として発射できるように改造したエアガンでサバイバルゲームをすることになったわけだ
 しかも優勝者には景品があるうえに、今回は主催者なので姫様や永琳は参加していない。
 これなら、外の世界にいたときサバイバルゲームをやりまくった俺なら優勝できると思ったんだが……。
 結果は御覧の通り、最後の一騎打ちでこいつに負けちまった。
 あ、ついでに言うと、サバイバルゲームをするときは失明を防ぐためにも、ちゃんとゴーグルをつけるんだぞ。
 お兄さんとの約束だ☆

「○○……、何で明後日の方向いてニヤニヤしてんの?」
「な、何でもねぇよ!」
「ふぅん。それにしても……始まる前はあれだけ威勢が良かったのに全然強くなかったわね」
「ぐっ……!」
「あーあ、ホント期待外れね」

 優越感に満ちた目で俺の方を見る鈴仙。
 こ、この兎女、好き放題言いやがって……。
 何とかこいつに仕返しするには……。

 あ、この方法なら……。
 ふっふっふっ……目にもの見せてくれてやる。

「それじゃ、さっさと戻りましょ」

 そう言い、彼女は俺に背を向けた。
 その甘さが貴様の命取りだ!
 俺は豆を手に持てるだけ持った。
 そして、油断しきった彼女の後ろに素早く近づき、その大量の豆を背中から服の中に放り込んだ。

「ひゃん! い、一体何!?」

 突然の事態に慌てふためく鈴仙。
 あたふた手を伸ばし、自分の服の中に入った豆を必死に取ろうとする。

「ざまぁみろ、この兎娘が!」

 不敵に笑み、腕を組みながら叫ぶ俺。

「ちょ、これあなたの仕業!? さっさと取りなさいよ! このバカ!」
「はっはっはっ、俺がそんなことするわけねぇだろ」

 微妙に涙目で俺をにらみながら、背中に手を伸ばす彼女。
 どうやら、服の間に中途半端に引っ掛かり、思うように取れないらしい。
 そして、彼女は体をねじって取ろうとし始めた。

「ぶはっ!!」

 む、胸が……、胸が服に押しつけられて、すごいことになってる……。
 普段からそれなりにデカイとは思っていたが、まさかこれほどとは……。
 何ていうか……、すごく……エロいです。

「……な!? 何見てんのよ! このスケベ!」
「えっ、いやこれはその……」

 俺は彼女の顔を見る。
 その顔は、先程よりもさらに涙目で、かつ顔を真っ赤にして、かなり怒っていた。

「い、いやぁ……。これは、その、いわゆる一つの不可抗力で……」
「うるさい! あの世で私にわび続けろ!」

 鈴仙の座薬弾が、世の男性の急所と言われる箇所を打ち抜く。
 俺はその激痛に悶絶しながら、前のめりに倒れた。
 ぼやける視界の先に映っていたのは、聖域、すなわち彼女の純白の下着だった。
 ああ、わが人生に一片の悔いなし。
 俺は最高の気分に浸りながら、意識が飛んでいくのを感じた。


12スレ目>>746 うpろだ872


 竹薮の奥にひっそりと位置する永遠亭。その縁側で俺は寝っころがっていた。
 夏の木漏れ日は適度に暖かく寝やすいのだ。
「あー、またサボってる」
 不意に俺の上から声がした。眠い目を擦りつつ開くとそこには一人の少女がいた。
 色白の肌、色素の薄い髪、そして頭頂に生えるウサギの耳。月の兎の生き残り鈴仙・優曇華院・イナバ。森の奥で倒れている俺を拾って看病してくれたいわば命の恩人である。
「どうした、鈴仙? 俺は姫さんに付き合ってて疲れてるんだぜ」
「どーせ、夜中までゲームでもやってたんでしょ? ほら、てゐ探すの手伝って」
 またどっかいったのかあの兎は、と毒づきつつ俺は立ち上がる。ちなみに鈴仙が言ったことは図星であるため反論できない。昨夜はずっと姫さんと花映塚をやっていた。
「で、いつ消えたんだよてゐは」
「朝からね、でもあれじゃないこの前の前の日からいなくなったってのに比べれば――」
「阿呆、あの時は一日中森の中を走り回ってようやく見つけたんじゃね―か。 もうあんなのは御免だぜ」
「平気よ……きっと」
 鈴仙の言った「きっと」という言葉に不安を感じつつ俺たちは竹薮の中へとてゐを探しに出かけた。

 ○

 で、5時間後。
「……で、てゐはいたのか?」
「いないわね」
 竹薮の中、疲れ果てて地面に座り込む俺と鈴仙。あれからてゐは一向に見つからず、もはや日も暮れようとしていた。
 黄昏の闇が辺りを覆い、どこからかひぐらしの鳴き声が聞こえてくる。
「いったん戻るか、この前みたいに永遠亭に戻っているかもしれない。 鈴仙、帰り道は?」
 疲れた体に鞭打って立ち上がり、鈴仙に尋ねる。いつもなら彼女が率先して道を示してくれる。が。
「……ない……」
「へ?」
「わからない……ここ、来た事ないわ」
 ぶっちゃけた話、永遠亭を囲う竹薮は広い。鈴仙の知らない場所があってもおかしくはないのだ。
「……あーーーー……どうしよう?」
 へたりとその場に座り込み、虚空を見つめる。
「とりあえず下手に動くのは朝になってからにしましょう」
「それもそうだな」
 夜は様々な魑魅魍魎が跋扈し、人間である自分にとって激しく危険である。それにいくら俺より強い鈴仙といえど疲れた体では俺のことまで守れるかどうかわからない。
 幸いここらは竹がまばらで見通しもいい。交代で見張りをしておけば夜闇にまぎれた不意打ちは食らわないだろう。
 それより気になるのが今夜の姫さんの相手だ。いつもは俺がしているのだが今夜は永琳さん辺りが犠牲になるのだろう。ご愁傷様。
「はー、疲れた」
 何気なく横を見るとそこには鈴仙の瞳があった。血の様な真っ赤な瞳を見つめているとどんどん吸い込まれていき――。

「駄目っ!」

 鈴仙がいきなり大声をあげると顔を背けた。
「うおっ、どうした?」
「駄目……知ってるでしょ? 月の兎はその瞳に狂気を宿す……だからこんな風に目と目を合わせたら――」
 声のトーンを落とし、どこか自嘲気味に話す彼女の頭を鷲掴み、ぐいっと自分のほうに向けさせる。
「あ、それなら平気だ」
「へ?」
 呆ける鈴仙の瞳をじっと見据え、おそらく今までの人生で一番の勇気を振り絞り、言の葉をつむぐ。
「だって、俺は狂おしいほどにお前を愛してるんだから」

 沈黙。

 それがどのくらい、長かったか短かったかさえも分からない。その沈黙を先に破ったのは鈴仙だった。
「……ぷっ、あはははははははははははは! え、ちょっと待って、ねぇ○○、それって何?」
「笑うなよ、傷つくだろ。 これでも勇気出したんだぜ」
「……うん、ごめん」
 笑いつかれたのか、鈴仙は何回か深呼吸をした。そして再び俺に向き直り、にこりと微笑んだ。
「私も。 好きだよ、○○」
「それはよかった、勇気を出した甲斐があった」
「そうね、あなたはもう狂気に中てられたのかも」
「何でだよ?」
「だって兎に大真面目に告白する人間なんて聞いたことないわ」
「現にいるだろ―がお前の前に。 それに狂ってても狂ってなくても俺はお前が好きだぜ、鈴仙」
 そう言って鈴仙の体を抱き寄せる。そして自らの唇を鈴仙の唇に押し当てる。
「んっ……」
 目を瞑り、俺の唇を受け入れる鈴仙。今回ばかりはてゐに感謝せざるを得ないな……

 ○

 二人のいるところから少し離れた竹の影から一部始終を彼女は見ていた。
「まーったく、鈴仙も○○も奥手なんだから。 わざわざ鈴仙が分からないように竹薮の形をかえるの苦労したんだから」
 くせっけの強い黒髪、頭に生える兎の耳、そして毛玉のようなかわいらしい兎の尻尾。今回の騒動の原因でもある因幡てゐである。
「ま、少しくらいは幸せの兎っぽく幸せを運ばないとね。ごちそうさまでしたお二人さん」
 そう言い残すとてゐは藪の奥へとその姿を消した。


最終更新:2010年05月27日 23:07