鈴仙10



新ろだ205


 夕方ともなると、気温も下がり出し、炬燵が恋しくなってくる。
 炬燵でのんびりするのは大変心休まる一時ではあるのだが、大きな問題がある。
 出る気がしなくなることだ。





 週末の仕事を終え、永遠亭へとやってきた。
 姫様や八意先生への挨拶もそこそこに、炬燵へと直行する。
 人里から永遠亭までの道程を歩けば、体もすっかり冷え切ってしまう。
 炬燵はすっかり凍ってしまった俺の体をとろかせる。

「炬燵はいいねぇ…」
「いいよねぇ…」

 先に炬燵でくつろいでいたてゐと、互いにだらけきった表情で話す。

「○○、顔が溶けてるよ~?」
「凍ってたから溶けていいんだよ~」
「それもそうだね~」
「鈴仙は~?」
「まだ師匠の手伝いじゃないかな~」
「そっか~」

 俺はもぞもぞと炬燵から這い出し、鈴仙が居るであろう調合室に向かう。

「炬燵虫が動いた~」
「炬燵虫はてゐだろ…ってマジ寒い…」
「後ろの鴨居に掛かってるどてら使いなよ~」
「おう…サイズが少しきついけど…って、これ鈴仙のか?」
「よくわかったね~」
「匂いで」
「変態」
「俺は紳士だよ」
「変態という名の紳士か~」
「それは否定しない」
「しなさいよ~」

 馬鹿な会話を終えて廊下に出る。
 どてらが無かったら、即炬燵に駆け込んでいそうなほど冷え込んでいる。
 俺はとっとと調合室に向かった。


 日の当たらない北側に、調合室はある。
 薬の品質保持の為とはいえ、冬場は非常に寒い。
 早いところ鈴仙の仕事を片付けて、一緒に炬燵に入りたいところだ。

 調合室の前に着き、戸をノックする。

「はい、誰かしら?」
「俺」
「あっ、入って。
 今ちょっと手が離せないの」

 調合室に入ると、踏み台の上からさらに手を伸ばして、棚の上に荷物を載せようとている鈴仙が居た。

「なあ鈴仙」
「んー……な、なに?」
「少し浮けばいいんじゃ?」
「あ」

 可愛いなぁもう。





 材料の片付けと器具の洗浄、殺菌を手伝い、一緒に居間へと向かう。

「何か随分と寒いわ…」
「そりゃそうだろ、もう日もすっかり落ちてるし」

 俺は着ていたどてらを鈴仙に着せてやる。

「あっ、これ、私の…」
「居間にあったんで、ここまで借りてきたんだ」
「ん…○○の匂いがする…」
「変態」
「そうかも」
「てゐに言われたことを返しただけなんだが」
「何て答えたの?」
「俺は紳士だって」
「変態という名の?」
「否定はしない」
「似たもの同士ってことかしら」
「似たもの夫婦って言葉もあるぞ」
「プロポースはまだ?」
「準備中です」
「暖かい時期にしようね」
「そうだな」




 居間に戻ると、鍋と姫様、八意先生にてゐが待ちかねていた。

「やっと来たわね、おふたりさん」
「悪いわね、○○。
 今日はちょっと使った器具が多いの忘れてたのよ」
「ほら二人とも鍋そろそろ煮えるよ~」

 炬燵は4つの辺がある。

 一つに姫様、一つに八意先生、一つにてゐ。
 ならば俺と鈴仙の入る場所は。

「んしょっと」
「ん~、あったか~い」
「二人とも躊躇無く並んで入ったね~」
「なんか鈴仙、からかい甲斐がなくなっちゃったわねぇ」
「それはそうよ、毎度毎度輝夜にいじられてたら」
「ええ、もうすっかり慣れました。
 ね、○○♪」
「だな、鈴仙」

 鍋の中身はなんだろうかと考えつつ、俺と鈴仙は肩を寄せ合っていた。
 他の三人もこの光景には慣れたようで、ニヤニヤしながらも鍋の様子を伺っていた。

「さ、もういいわよ」

 鍋奉行の姫様が蓋を開けると、良い匂いが部屋に広がる。
 今日は鴨鍋だ。

「わぁ、美味しそう!」
「月曜日だったかしら、妹紅とやりあおうかっていう時に、編隊組んで飛んできたから二人で撃墜してきたのよ」
「で、どっちが勝った?」
「妹紅が四羽の私が六羽、圧勝よ!」
「さすが姫様ね~」
「えっへん」
「ほらほら、美味しいうちに食べましょう。
 お酒もあるわよ」

 週末恒例になっている、五人での食卓。
 鍋と酒で盛り上がりつつ、夜は更けていく。





 鍋も雑炊で締め、食後はのんびりと…

「ドロー3!」
「ドロー3!」
「ドロー3!」
「ドロー3!」
「ぎゃー!」

 ウノをやっていた。
 そして、俺の命運は永遠亭十二枚コンボで尽き果てていた。

「さ、○○。
 わかってるわね?」
「く、くそう…」

 外はついに雪がちらつきはじめている。

「負けた貴方が悪いのよ」
「くっ…」

 気温はまだ下がりつづけている。

「ほらほら、早く行った行った~」
「じ、慈悲を…」

 その距離、五十メートル。

「ごめんね、○○。
 でも、ルールだから、ね?」
「分かってるよ…ううっ」

 蜜柑の置いてある台所への果てしない旅路。




 ルールで走るの禁止…というか、既に寝ているイナバも居るので走れないのだが。
 すっかり冷え込んだ台所で、蜜柑を籠に山盛りにする。
 まだ閉じていなかった窓から、月明かりが差し込んでいる。
 ついでに窓を全て閉じ、炬燵のある居間へと戻る。
 既に手足の先は冷え、寒さは体を包み込んでいた。

「ただいまー!」
「おかえり、○○…っ!?」

 居間に戻り、蜜柑の入った籠を炬燵の上に置く。
 そしてすぐさま炬燵に潜り込み、鈴仙を思い切り抱きしめる。

「ま、○○!?」
「ん~鈴仙あったかい…」
「も、もう、仕方ないなぁ…」

 鈴仙も俺の背中に手を回し、抱き合う形になる。
 とても暖かい手が、冷え切った俺の背にじんわりと熱を与えてくれる。

 それを見ていた三人は、炬燵から這い出した。

「「「あっつ~……」」」

 それはそうだろう。
 俺ですら、既にのぼせているんだから。


新ろだ208



 幻想郷は十二月ともなると雪が降り積もる。
 犬は喜び庭駆け回り、猫は炬燵で丸くなる。
 そして兎は…

「なあ鈴仙」
「なぁに、○○」
「俺は今、年賀状を書いているんだ」
「御得意様とかに送るんだっけ?」
「そのとおりだ。
 それでだな鈴仙」
「うん」
「背中に張り付くな、書きづらいから」
「じゃあ、抱っこして」
「だから年賀状が書けないだろう…」
「○○、冷たい…」
「はいはい、終わってから存分に抱っこしてやるから」
「じゃあ、それで妥協するわ」

 そう言って鈴仙は俺の背中から離れる。
 背中から温もりが消え、体が一気に冷えていく。

「…これはこれで寒いな」
「でしょう?
 炬燵で書いた方がいいんじゃないかな。
 さっき火は入れてきたから」
「そうするか…」

 自分の部屋での年賀状書きを諦め、炬燵のある居間へと向かう。
 筆記用具一式を持ち、廊下に出る。
 …鈴仙は背中に再び張り付いてきた。
 動きづらくはあるが、暖かいのでまあ良しとする。




 炬燵はすっかり暖まっており、非常に快適だ。
 しかし、年賀状はやはり書きづらい。

「鈴仙、何故同じ場所に入る?」
「嫌?」
「普段なら俺から同じ場所に入るが、今に限れば嫌だな」
「ちぇ…」
「書き終わらないうちは抱っこもできそうにない」
「それは死活問題ね」

 そういって鈴仙は、俺の右側から、炬燵の反対側に移動した。
 鈴仙の側に置いてある火鉢の上では、鉄瓶がしゅんしゅんと湯気をたてている。
 鈴仙はその湯でお茶を淹れて、俺の傍に差し出してくれた。

「ありがとう、鈴仙」
「年賀状書きは大事だと思うんだけど、さすがに百五十枚一気に書くのはムリだと思うんだけど」
「うん…分かってはいたんだが、色々忙しすぎて先延ばしに…」
「そうねぇ…」
「…俺だって、鈴仙とくっついていたいけどさ、やることはやらないと」
「分かってる。
 分かってるけど…それでも、寂しくなるの」
「……ごめんな、俺がもうちょっと達筆で筆が早ければ良かったんだが…」
「え、あ、いや、ごめんなさい……そんなつもりじゃ…」
「ああ、分かってる。
 …向こうに居たときに、プリンターに頼り切ってた自分を恨んでるだけだ…」
「外の道具は本当に便利だものね。
 技術自体は月には及ばなくても、その用途と工夫は月とは比べ物にならないもの」
「発想の多彩さは間違いなく人間の強みだね。
 同じ用途で多種多様な製品を見ると、つくづく思うよ」
「短い命で何かを為そうとするなんて、最初は愚かに見えたわ。
 例え果てに辿り付いても、その頃には寿命だもの」
「だが人間は知を次の世代に語り継いだ。
 己の歩みをわずかな時間で歩ませ、その先へと導いた」
「…で、その結果が、○○のハマってたゲームってわけね」
「……ごめん」
「このあいだの神無月…確かに久々の里帰りだし、色々思う所もあったと思うけどさ…。
 買い込んだゲームに夢中で年賀状書くの忘れてたとか、ちょっと酷いと思わない!?」
「う……」
「私のこともほったらかしで…そんなにゲームが好きなら、その主人公のシャノアとでも結婚すればいいじゃない!」
「……分かった、鈴仙」
「え、あ、いや、冗談よ?」
「ゲーム全部粉々にする」
「あ、その、そこまでしなくても…」
「また相手しなくなるぞ?」
「いや、その、気にしなくていいから…」
「…鈴仙が寂しがってるのに、放っておくような奴が、将来、良き夫になれるとは思っちゃいないさ」
「えっと、その…」
「ごめんな、鈴仙。
 寂しい思いさせちゃって…」
「あーもう待って○○!
 ゲーム壊したりしなくていいから!」
「え……」
「確かに、夢中になっててちゃんと相手してくれないことはあったけど。
 何か目的を達成したときの嬉しそうな顔、私は好きなの。
 …その後も、上機嫌で私と話してくれるし、夜も、その、優しくしてくれるし…。
 それに、私の話を聞いてないわけじゃないもの。
 いつだったか、ゲームやってる○○に『耳が寒い』って話したら、次の週末には長い耳に合わせた毛糸の帽子を用意して…。
 夢中になってても、私のこと、忘れてないんでしょ?
 …さっきのは、ちょっと意地悪に言っただけだから…ね?」
「……鈴仙」
「ん…?」
「俺は右利きだから、左側ならその、入っていても年賀状は書けるぞ?」
「ふーん……ねぇ○○?」
「な、何だ?」
「もっと素直に言ってくれると嬉しいな?」
「……鈴仙、お前を感じていたいから、俺の左側に来てくれないか?」
「ふふ、喜んで」

 まあ、たとえ左側に居ても多少は書きづらいのだが。
 筆は多少遅くなるが、幸せな気持ちで年賀状は書き終えることが出来た。 



 犬は喜び庭駆け回り、猫は炬燵で丸くなる。
 そして兎は、俺とくっつき温まる。



新ろだ218


幻想郷でもクリスマスというものが広まっているらしく、ここ、永遠亭でもクリスマスパーティーが開かれている。
と言っても、参加者は永遠亭に住む者達だけだが。
クリスマスパーティー(という名目の、いつも通りの宴会)を開いて、皆で騒いでいた。


宴も終わりに近づいた頃、自分は酔いを醒ます為に縁側に出て風に当たっていた。
とは言うものの、今は師走。空気はとても冷たく、のんびりと当たっていられるものでは無い。
だが、そんな事が気にならない程酔っていた。
そのまましばらく当たっていて頭も冴え始めた頃、肩に何かを掛けられる感触がした。触ってみると上着のようだ。
誰が持ってきてくれたのか確認しようと立ち上がりかけた時、隣に誰かが腰を下ろした。
鈴仙・優曇華院・イナバ。月から逃げてきたという玉兎である。
「こんな所でボーッとしてたら風邪引くわよ?」
どうやら自分の事を心配してくれていたようである。
「でも、ここならすぐに酔いも醒めそうね。」
鈴仙に感謝の言葉を述べ、しばらく談笑した。


「そういえば、鈴仙に渡したい物があるんだ。」
「え?私に……?」
自分はこの日の為に、前日から鈴仙が喜びそうなものを探して里を練り歩いていた。
だが、なかなか良さそうなものが見つからず、結局買ったのは髪飾りである。
「ちょっと目を瞑っててくれ。」
「ん……」
鈴仙の髪にプレゼントを付けてあげる。
「これで良し、と。」
「もういい?」
「ああ、いいぞ。」
目を開けた鈴仙に手鏡を渡す。
「あっ……」
鈴仙が手鏡を覗き込むと、髪にウサギ型の髪飾りが付いていた。
「どうだ?気に入ってくれるかなと思って買ってきたんだが……」
「かわいい……ありがとう、○○。嬉しいなあ……」
どうやら気に入ってくれたようだ。非常に嬉しい。
「いやあ、中々鈴仙に似合いそうなものが無くてさ……気に入ってくれるかどうか心配だったんだ。」
「うん……ありがとう。こんなかわいい髪飾りをくれて……」
「気に入ってくれて嬉しいよ。でさ、俺……鈴仙に一つ、言いたい事があるんだ……」
「何?」
「あのさ、鈴仙……もし、良ければ……お、俺と……その……付き合って、くれないか……?」
「えっ……?私、と……?」
「ああ……嫌ならはっきり言ってくれて構わない。ただ、俺は鈴仙が好きなんだ。幻想郷に住む誰よりもお前を愛してる。」
幻想郷に迷い込んだ時、妖怪に襲われていた自分を助けてくれて、自分を永遠亭に住まわせる事を永琳さんや姫様に提案してくれた鈴仙には本当に感謝している。
その感謝の気持ちがいつしか、恋慕の情に変わっていた。
「あの……私からもプレゼントがあるんだけど……受け取って、くれる……?」
「え?ああ……いいよ。」
「じゃあ……目、瞑ってて……」
「わかった。」

ちゅっ……

唇に柔らかく、温かいものが当たる。
鈴仙にキスされたことに気付くのにそう時間は掛からなかった。
「鈴仙……?」
「あの……私からのプレゼント……気に入って、くれた……?」
「ああ……ということはもしかして……」
「うん……あの、私で良ければ……その……ふ、不束者ですが……宜しくお願いします……」
「ありがとう、鈴仙……」
「○○……」
ふと気が付くと、外は雪が降っていた。
粋な計らいをしてくれた神様に感謝しながら、自分達はもう一度キスをした。



新ろだ300


「鈴仙…できればこんなことはしたくない…」
「私もよ、○○…でも、仕方が無いの」

 互いにデザートイーグルの銃口を向け合い、隙をうかがう俺と鈴仙。

「そうだな…いずれはこうなる運命だったんだ」
「ええ、もう終わらせましょう…」

 互いの微かな動きを合図に、銃口から飛び出したそれは…

「……俺の勝ちだ、鈴仙……」
「……まさか耳を狙うなんてね…ヒットー…」

「よっしゃ!恵方巻き係は先生&鈴仙チームな!」
「うー…負けたー…」
「よくがんばったわよ、ウドンゲ…まあ、諦めて作るとしましょう」
「やるじゃない○○!
 まさか永琳と鈴仙に勝てるなんて思わなかったわ!」
「ふふふ、サバゲーなら幻想郷最強になれるぜ!」
「あら、それじゃあリアルサバイバルではどうかしら?」
「いやごめんなさい幽香さんカンベンしてください」












 今日は節分。
 普段は普通に豆まきをするのだが、数日前に姫様のお供で行った香霖堂でエアガンが見つかった。
 遊び方を説明したら、ものすっごい明るい顔して
「それじゃあ、節分はこれで豆合戦ね!」
 などと言い出したのだから…

 でも豆なんて普通飛ばせないですよ、なんて言ってたらスキマですよ。
 当日までにしっかり数を用意して、なおかつ大豆対応にしてくるんだから流石だ。
 そんなわけで、大勢の人妖を呼んでの豆まきサバイバルゲームと相成ったのだった。

 姫様チームと八意先生チームに分かれて、負けたほうが全員分の恵方巻きを用意するというルールで始めたのだが、これがまた凄かった。

 霖之助がゲームの開始に気付かないまま豆エアガンの考察に夢中になってるうちに第一の犠牲者になったり。
 神奈子様がオンバシラバリケードを作ったら、その中に諏訪子様がBB手榴弾をぶちこむわ。
 早苗ちゃんと射命丸が二人で風を起こして防御する後ろから、紫さんがスキマ開いてデリンジャーぶちこむわ。
 その後スキマからお尻だけ出てるのを発見して幽々子様がガトリングぶちこむわ。
 勇儀が萃香を盾に特攻したら、てゐが仕掛けてあったクレイモアをまともに喰らうわ。
 魔理沙が弾幕はパワーだぜって言いながら撃ってたら弾切れ起こして逆に総攻撃喰らったり。
 パルスィが俺を見ながら妬ましいわと言いながら見事なバリケードポジションでなかなか手が出せなかったり。
 八意先生がガン・カタばりの活躍を見せてたと思ったら、足元に散らばった豆で転んであっさり撃たれたり。
 姫様にダンボールかぶって近づいて奇襲をかけたレミリアが、その身を呈して姫様を守るイナバ達を本当に羨ましそうに見てたり。
 その隙に妹紅がPSG-1で姫様を打ち抜いて姫様がorzしてたり。
 幽香さんが両手にガトリングでダブルスパークしてたら、やっぱり弾切れで総攻撃喰らったり。
 俺と鈴仙以外で最後に残った衣玖さんが空気を読んでやられたり。

 他にも色々あったようだが、まあ俺が見た範囲ではこんなとこだった。






 負けたチームが恵方巻きを作り始めている。
 具材も色々と用意してあり、皆思い思いの恵方巻きを作っている。
 それを見ていた勝利チームも、結局「面白そうだから」と作り始めてしまった。
 結局、みんなで好き勝手に作りまくることとなり、勝敗など既にどこかへ行ってしまった。



 しばらくして、山のような恵方巻きが出来上がった。
 単純に人数で割れば、一人三本はありそうだ。
 まあ、たらふく食べる人…いや亡霊がいるから問題はないのだが。
 それでも余ったら土産にでもすればいいし。

「はい、○○。
 私の作ったやつよ」
「ありがとう鈴仙…って、これ人参多くない?」
「ふふふ、兎の人参好きを甘く見ちゃ駄目よ?」
「俺は人間だって…」
「まぁまぁ、食べれば分かるから♪」
「やれやれ…美味しくないってことはないだろうからいいけどね。
 それじゃ、最初の一本は皆で恵方を向いて食べようか」
「今年はどっちかしら?」
「東北東ですね、先生」
「これって、無言で食べるんだっけ?」
「うん」
「なんかシュールよね~、この人数だと~」
「確かに…」


「それじゃ…」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 みんな一斉に恵方巻きをほおばる。
 俺も人参たっぷりな恵方巻きをほおばる。
 ……おい。

もぐもぐ                            もぐもぐ
    もぐもぐ                    もぐもぐ
         もぐもぐ          もぐもぐ
              もぐもぐ もぐもぐ
                  ちゅ


「…鈴仙、何をしてるのかな?」
「人参たっぷりの恵方巻きを食べてたの」
「恵方向いてないよな?」
「○○が居る方向が私の恵方だからいいのよ」
「……鈴仙の分があるし、場所を入れ替えて食うか」
「うん♪」

 場所を入れ替えて、二本目を食べ始める俺と鈴仙。
 皆のニヤニヤした視線を感じるが、結局やってしまった。





「……大変、ここに恐ろしい鬼が居るわ!」
「ん、あたしのことかい、パルスィ」
「勇儀じゃないわ、もっと恐ろしい…そう、嫉妬を操る私なんて足元にも及ばない。
 嫉妬を生み出す鬼よ!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「……なるほど」」」」」」」」」」」」」」」」」
「……展開が読めてきた」
「ふぇ?」
「逃げるぞ、鈴仙!」
「えっ!?えっ!?」
「鬼は外よ、皆!
 あの妬ましい鬼に豆を撒くのよ!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「サー、イェッサー!」」」」」」」」」」」」」」」」」

 各々が得物を持ってこちらに襲い掛かろうとする中、俺と鈴仙は大慌てで竹林に逃げ出した。




 永遠亭からある程度離れたところで足を止め、呼吸を整える。

「鈴仙、たまには空気読もうぜ?」
「うん、さすがに気をつける」
「空気を読むのは大切なことですからね」
「「衣玖さんいつのまに!?」」
「ちなみに、今の空気を読みますと…」


          「鬼が居たぞーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


「といった具合になります♪」
「「ギャーイクサーン!」」



 結局、人里の薬局まで逃げることになった俺と鈴仙だった。

「嫉妬って怖いね、○○…」
「いや、あれ明らかに面白がってるだけだろ…」
「怖いからくっついてていいよね?」
「そうだな、怖いから今夜はくっついてようか」
「今日はもう遅いから、永遠亭に帰るのは明日にしよ?」
「そうだな、帰るのは明日でいいだろう」
「ねぇ、寒いから布団に入ろう?」
「そうだな、布団に入ろう」
「○○が好きだから、キスするね」
「そうだな、俺も鈴仙が好きだから、キスするよ」

 ちゅ

「おやすみ、○○」
「おやすみ、鈴仙」

 鬼ごっこの疲れもあって、そのまま俺と鈴仙は眠りに落ちた。
 お互いに冷えた身体を温めあいながら。






─────その頃永遠亭では─────

「ねぇねぇ、煽っておいて、あんたは追いかけないの?」
「追いかけっこは苦手なのよ。
 あ、そっちのでんぶ多いやつ頂戴」
「案外食べるのね~。
 もう七本目よ?」
「大丈夫よ、食べても太らない体質だから」
「むしろあんたが妬ましいわ~」


新ろだ518


○○「女の本音チェッカー、ねぇ・・・・・・」

永遠亭の一室で一人の男が呟く。彼の名は○○、色々あってこの永遠亭に居ついた外来人である。
そんな彼は、あてがわれた自室でパソコンを操作している・・・・・・
ここは幻想郷でありながら、えーりんの謎技術によって外の世界のインターネットを利用できるのだ。
これは娯楽の多い外の世界からやってきた○○にとって、とてもありがたいことだった。
何せ幻想郷には外と比べて娯楽が極端に少ない。そこで暇つぶしといえばもっぱら
インターネットなのだが・・・・・・そこでたまたま、「『女の本音』チェッカー」なるサイトを見つけたのだ。

○○「ま、試してみますか・・・・・・」

カタカタとキーボードを叩く音が部屋に響き、マウスのカチリ、という音がする。

○○「・・・・・・キモイ、って・・・・・・」

先ほどと別の名前を入力。すると今度は・・・

○○「全力で嫌い・・・・・・」

またもや別の名前、そして落胆のため息。それがもう一度繰り返された。

○○「う~む・・・・・・相性悪いのかねぇ・・・・・・」
永琳「○○~? ちょっときて~」
○○「あ、はい! ただいま!」

ここの薬師の声に呼ばれ、○○は部屋を出て行く・・・・・・パソコンの電源を消し忘れたまま。


ーー十分ほど後


鈴仙「お~い、○○~・・・・・・ってあれ? 居ないのか・・・・・・あ、電源つけっぱなしじゃないの。
   ・・・・・・うん? 女の本音チェッカー・・・・・・へぇ~、こんなの見るんだ、あいつ・・・・・・」


入れ違いになるようにして入ってきたウサ耳の少女がつけっぱなしのパソコンを覗き込む。
電源を消そうとしただけなのだが、そこに映っていた画面が彼女の興味を引いた。

鈴仙「ええと・・・・・・『○○』 『うどんげ』『鈴仙』『鈴仙・優曇華院・イナバ』って、どれも私じゃないの・・・・・・
  どれどれ結果は・・・・・・? うわ、これは酷い」

鈴仙「まったく・・・・・・こんなもの、真に受けるタイプじゃないと思うけどねぇ・・・・・・」

ーー数分後

○○「・・・・・・ん? しまった、電源を切り忘れてたか」

薬師の用事を済ませ○○が戻ってくると、パソコンがつきっぱなしであることに気付く。
そしてキーボードの上に見慣れない紙が一枚おいてあることにも。そこに書かれていたものは・・・・・・

『私 →[結構好きよ]→ ○○ 
P.S. こんなもん見てないで直接聞きに来なさい』

○○「こ、これは・・・・・・」
鈴仙「○○ー! 置き薬の集金に行くわよー! 電源切り忘れないようにねー!」
○○「れ、鈴仙! 人のパソコンを・・・・・・!」
鈴仙「消し忘れてたあんたが悪いのよ! 早くしないとおいてくわよー!」
○○「ああっ! ちょっとまって!」


永遠亭から一組の男女が出発する。その二人はとても仲良さげに竹林を里へと駆けていった。


最終更新:2010年06月16日 23:28