鈴仙11



水鏡 -みずかがみ- Sanity Mirror(新ろだ579)




「お願いします、○○さん」

「……そっか。よしよし、わかった。僕に任せて」

僕はいつもその一言でどんな大変な仕事でも何でも引き受けてしまう、
そしてどんなに無茶をしても全てをやり遂げるようにしている。
そんな僕をみんなは信頼してくれる。僕を頼ってくれる。それがとても嬉しい。

実は仕事を頼んでくるのは、人間だけじゃなく、妖怪もいる。
例え妖怪でも人間である僕を頼ってくれる事実はとても嬉しい。
……さすがにそれは、大っぴらには言えないんだけど。

「すみません、いつも。
 本当にありがとうございます」

「期待してて。
 なんとかその通りにやり通してみせるから」

「……はいっ」

期待されると嬉しい。だから期待以上の結果を常に出す。
そしてみんなが喜んでくれるのがまた嬉しい。
そんな感じで僕はここ、幻想郷に来ても頑張っている。

……けれども、最近は仕事を引き受け過ぎて、僕が当たり前の様にできる限界を既に超えている。
疲労は気力で無理矢理抑え込んで、できるだけみんなに悟らせないようにはしているけど。
みんなの信頼を裏切るわけにはいかない……なんとしてもやり遂げないと。



でも、結局無理が祟って翌日朝、慧音さんの寺子屋の手伝いに行った時に僕は気を失って倒れてしまった。



夕方。竹林の中にある永遠亭に赤みが射す。
教室でいきなり倒れてしまった僕は永遠亭に担ぎ込まれた。
永琳さんの診断では……いや、診断してもらうまでもなく、過労が原因……しばらくは安静の身。

てゐちゃんの話では、鈴仙と慧音さんが血相変えて永琳さんの元に運んだらしい。
全く、大袈裟だな……ただの過労なのに。

今は永遠亭で僕用に宛がわれていて、生活している一室……いや回りくどいな、僕の部屋で安静にしている。
点滴を打っているため、左腕はあまり動かせない。

……この布団以外で倒れて、この布団で目を覚ましたのは二回目か。
今、隣で鈴仙が林檎の皮を剥いてくれている。手慣れた手つきにしばらく見惚れていた。
僕が意識を失っている間、初めて幻想郷に来た時と同じ様に、鈴仙はずっと僕の隣で看病していてくれたようだ。

永遠亭の雑務には家事も含まれる。そういった雑務は殆どを鈴仙がこなしている。
手が空いているときは永琳さんも、気まぐれで姫様やてゐちゃんが手伝ってくれる事もあるらしいけど。
……ああ勿論、僕も夕飯の支度をする時間の前に帰って来ていれば、鈴仙を手伝っているよ?

まぁ、そう考えると鈴仙が林檎の皮を剥くのが上手なのは当たり前と言えば当たり前か。
そんな事をぼんやりと考えていた。

「……あ」

鈴仙が不意に声をあげる。

「ん?」

「半分くらい剥いちゃってから聞くのもなんだけど……○○ってリンゴの皮ってついてた方が好きな方?」

「あー、そだね。別にそのまま剥いちゃって構わないよ。例え皮が好きだとしても、剥いた皮だけで食べれば良いから」

「あははっ、確かにそうだね。でも、比べたらどっちが好きなの?」

……なんか今、別の意図も聞かれてるような雰囲気も鈴仙から感じたが、今は気にしない方が利口だろう……多分。

「気分に拠るけど、普段は剥いてある方かな」

「そっか、よかった」

ニコッと微笑む鈴仙。
まぁ、常々思ってたけど可愛いよねこの娘は、色んな意味で。
……本当に色んな意味で。

…………いけない。
いけない(skmdy)的な雑念に完全に支配される処だった。
別の事を考える事にしよう。

……って、大事な事を失念していた!

「結局みんなにかなりの迷惑をかけてしまったな。
 ……不甲斐ない僕を里のみんなはひょっとしたら怒っているかもしれない」

自嘲気味に僕は呟いた。
けれども、鈴仙はその言葉を聞いても微笑みを崩さずに。

「えっと、さっき里に薬の補充しに行った帰りに慧音さんと話してたんだけどね」

鈴仙は慧音さんから聞いた、人里のみんなの反応やその他諸々を話し始めた。

まず、僕が色々な仕事に追われて疲労が限界に来ている事は鈴仙も慧音さんも、そして永琳さんも知っていた。
そして、里のみんなも薄々気付いていた。

それでも、嬉しそうに大変な仕事を引き受ける僕の顔を見ると何も言えなかった。
いつ倒れてしまうか判らない。そんな状況でみんな冷や冷やしていたという。
結局、最終的に僕は倒れてしまったと知った時は、みんな申し訳なさそうな顔をしていたらしい。

「あとね……」

寺子屋で鈴仙と慧音さんが僕の容態について話をしているとき、里人のひとりが訪ねてきて鈴仙に対して。

「○○さんに頼り切り、また○○さん甘えて頼り過ぎていた私達に落ち度があります。
 どうかまずご養生なすってくださいませ、とお伝え戴けませんか」

むしろ自分たち里人が悪いと言わんばかりの様子でそう言っていたと。

「……そんなに気にしてたんだ、僕の体の事、みんな」

鈴仙は林檎の皮を剥き終って、一息。

「うん、もちろん。
 私だって物凄く心配してたんだよ?
 永遠亭に帰ってくるとき、○○はいかにも平気そうな……。
 飄々としたって言うのかな、そんな顔してるけど」

さっきまで微笑んでいた鈴仙の顔が曇る。

「私の能力、知ってるでしょ?
 波長を見ればみんなわかってしまうの」

……そういえばそうだった。

「○○がみんなから色々な小さな仕事を引き受けて」

林檎は食べ易い大きさにする為、まず包丁で真っ二つにされた。

「みんなの役に立つ事ができるのが嬉しい。
 それは波長を見るまでもなく、私だってわかるよ。
 というか、私だってそうだもの」

置き薬の確認をしに行く時の事かな。
最近の鈴仙は里のみんなからも信頼されていて、よく里に顔を出すようになった。
見た目も可愛いし、性格も優しいので、老若男女問わず結構な人気があるらしい。

阿求ちゃんは幻想郷縁起の修正をしなくちゃいけませんねー、なんて笑いながら言っていたよ。
具体的には「人間友好度:高」、本当の性格や人当たりの良さについての加筆修正、添削と。
まぁ、人間、知らないものに対しては不安や恐怖を感じるものなのだから、認識が変わればまた書くべき事が在るのだろう。

鈴仙は林檎を四分の一の大きさにしながら続ける。

「○○の仕事は、大変だけどみんなのためだから……。
 ちょっと無理してまでやってるみたいだけど」

鈴仙の手が止まる。

「一つ一つは小さな仕事。でも積み重なればそれは大きな仕事」

鈴仙は顔を向けて僕の目を見る。
いくら僕が自身の能力のお陰で鈴仙の目を見ても平気だからって、そうじっと見つめられると困るんだけどな。

「そんな大きな仕事を抱えているのに、また小さな仕事を引き受けちゃう」

わかってるんだ、それは。

「そうしたらまたそれが積み重なって、別の大きな仕事になっちゃう」

悪循環になってしまっていたのはちゃんとわかって……居たんだけど。

「○○はみんなを大事にしてる。けど、私の……えーっと、私たちの、大事なものは大事にしてくれてない」

……え?

鈴仙に言われた事に動揺する僕。
僕は何かを見落としている?

……鈴仙やみんなが大事にしている物を僕は無下に扱っている?

じっと僕の目を見る鈴仙。何かを訴えかけているのはわかる。
けどそれが何なのか動揺している僕の頭では浮かんで来ない。

「……はぁ」

鈴仙は呆れた様に溜息を吐いて、林檎に目を戻した。

「リンゴ、四分の一が良い? それとももう一つ割る?」

「えっと……もう一つお願い」

「うん」

……鈴仙の感じからすると僕はやはり大事な事はまだ判って居ないらしい。

「はい、できたよ」

鈴仙は綺麗に八つ林檎を切り分けて、白い磁器の皿に放射状に並べた。

「綺麗に並べてみたよ」

クスクス笑いながら嬉しそうに切り分けた林檎の輪を僕に見せる。

「綺麗に並んでるから形を崩すのが勿体無いかも」
「じゃ、私が崩しちゃおうかな」

ひょい、とひとつ林檎を摘んで僕の口元に持ってくる。

「はい」

ニコニコと笑顔で僕の顔を見ている鈴仙。
僕が手で受け取ろうとすると、手を引っ込める。
……動物にやる意地悪とかじゃないんだから、素直に頂戴よ。

僕が手を下ろすと鈴仙は相変わらず楽しそうな笑顔で僕の口元に林檎を持ってくる。
意図を図りかねていると……いや、鈴仙がやろうとしてる事はなんとなく察しが付くけど。

「はい、あーん」

……恥ずかしいって!
もし窓の外に文ちゃんが居たらどうする気だろう鈴仙は。

「そしたら幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)で撃退しますよー?」

考えてる事を読まないでください。さとりさんじゃないんだから。

「そんなに窓の外や縁側の方を気にしてたら、波長読まなくてもわかるわよ。
 あの文が覗いてたらどうしようとか考えてたんでしょ?」

からかう鈴仙を無視して窓の外の確認をする。
縁側の確認をする。取り敢えずは居ない。

「……よしよし、烏天狗達の姿は見えない、と」

……と言っても動けないから見える範囲しかできないけど。

「……むー」

う。
流石に今のは意地悪過ぎたか。
恨めしそうな目で見る鈴仙。

「今の『よしよし』で思ったんだけどさ。
 ○○って、どんな人に何を言われても……。
 『よしよし』の一言で全部受け入れたり、引き受けちゃうんだよね」

今思うと確かに悪い癖かもしれない。

「さすがにちょっとお人好し過ぎるよ?」

ちょっと唇を尖らせて、拗ねたように言う鈴仙。
ちょっと可愛いかも。

「うん、それでも鈴仙の言うことも、また『よしよし』なんだよね。
 ああ、けど鈴仙のときは……別の意味の『よしよし』もあるかなー」

僕は鈴仙の目をまっすぐ見て、微笑んだ。

鈴仙の顔がちょっと赤くなる。
そして呆れたような感心した様な感じで微笑みながら言った。

「……もう。
 そんな事言われたら何も言えなくなっちゃうじゃない」

鈴仙のさっきから言いたい事はわかってはいる。
こんなだから体を壊してみんなを心配させてしまったのだろう。
こんなだから色々な事件に巻き込まれてしまうのだろう。

誰かの言うことを受け入れずに跳ね除ける。
またそれも一つの考え方ではある……したくはないけど。

柔軟な考え方をするには色々な人の言葉や考えを聞く。
自分の置かれている状況を常に把握しておく。
そしてそれを材料に自分でもしっかり考える事こそが重要なことなのだ。

自分を過信しない。
謂わば「自己管理」だ。
僕はそれが結局できていなかった、それだけだ。

……そのたったひとつの理由が致命的だったんだけど。

「もう、無理はしないでね?
 気を失ってる○○を見たとき私、血の気が引いたの。
 あと……仕事が手に余るようなら私は喜んで手伝うよ?」

いや、もう理由は一つあったね……もっと大事な事を失念していた。

「私、○○と一緒ならどんな事でも頑張るから!」

そっか。鈴仙にとってそしてみんなにとっても大事なものって……そういう事か。



<今は頼る相手が居るんだから、ひとりで抱え込まず、誰かに相談するといいよ>



これは随分前に僕が鈴仙に言った言葉だ。

「今は頼る相手が居るんだから、ひとりで抱え込まず、誰かに相談するといいよ、○○?」

その時のお返しとばかりにちょっと意地悪く、でも嬉しそうに笑う鈴仙。



<うん、そだね……ありがとう>



「そうだね……ありがとう」

「うん!」

前と同じ遣り取り。立場は逆だけど。



<あの、早速で悪いんだけど……ちょっと、いいかな>



「えーっと。早速で済まないんだけどさ。一つ…いや二つ仕事、頼まれてくれるかな」

「うん、どんな仕事?」

鈴仙は興味深々で僕の仕事内容を聞いてくれる。
こんな楽しそうな鈴仙、そうしょっちゅう見られるものじゃないな。

「一つ目はこの包みを依頼人に届けて欲しいんだ。
 場所は地図で印を付けとくから」

「了解であります! もうひとつの任務は何でしょうか隊長!」

脱走兵だった鈴仙なのにこんなノリができるのも、あの時、僕が相談に乗ってあげたからなのかな。

「妖怪の山のにとりちゃんに注文していた品が今日、完成するらしくてね」

「うん、にとりに何頼んだの?」

「香霖堂の眠れる式神を起こす装置、ってとこかな。
 まぁ、どういうものかはまた後で説明……」



どごーん!



「げほっげほっげほっ!」

砂煙の中から咳き込む声が……ひょっとしてこの声は。

「けほっけほっ」
「けほっけほっ」

砂埃のせいで同時に咳き込む僕と鈴仙。

「ちょっと、何! 妹紅の襲撃!?」

あ、姫様が出てきた。

「げほっ、げほっ、○○さん、長らくお待たせしました!
 注文の品がやっと完成したでありますよ!」

砂煙が晴れると、さっきの鈴仙みたいなノリの、敬礼しているにとりちゃんがそこにいた。

「○○さんが倒れたと文様から聞きまして。
 御無理をさせないよう配達に来ましたっ!」

「けほっ、だったら砂煙上がらない着地をして欲しいんだけどなぁ」

やっぱり超妖怪弾頭の二つ名は伊達じゃないな……色んな意味で。

「あら、貴女はこの間の……」

「輝夜さんお久しぶりです!
 にとり工務店改め、にとり電気店の配達です!」

「さっき○○が何か頼んでたとか聞いたけどそれ?」

姫様の発した言葉に鈴仙がビクッっと反応する。

「あ、あの……ひ、姫様、いつから聞いていたんです?」

鈴仙、そんな怯えなくても。いや、気持ちはわかるけどさ。

「半分くらい剥いちゃって――ってところからかしら。
 鈴仙、あなた意外と大胆よね~。
 あ~んって私も○○にしてみたいわぁ~」

なんか幽々子さんや紫さんを連想する様な雰囲気で鈴仙をいじる姫様。
ていうかそれって、一番最初の会話……。
……と言う事はずっとニヤニヤしながら今まで様子伺ってたっぽいね。

さっき妹紅さんの襲撃か!
とか勘違いしたって事は……隣の部屋で聞き耳でも立ててたのかな。
……まだ迂闊なことしてなくてよかった。

「いや、あのですね姫様、あれは、その……」

「私や永琳を差し置いて。
 自分だけ幸せになりそうなウサギさんは~……悔しいからこうよっ!」

「ひゃっ!?
 あははははははははは!
 姫様あはははは! やめてくだあははははは!」

あー、出たよ姫様お得意のくすぐりの刑。

「あー、えーと。止めた方がいいですかね? あれ」

呆然とくんずほぐれつしている鈴仙と姫様を見て困ったように、にとりちゃんは言った。

「気にしないで、うちではよくある光景だから」

半ば諦めが入ってる僕。

「ちょっと、○○っ、たすけてっ、あははははは!」

僕に助けを求める鈴仙。

「幸せそうで本気で妬ましいのよ!
 こちょこちょこちょこちょ!」

……はぁ、仕方ない。

「あー、姫様。
 一応僕、病人なんですが」

これで意図は察してくれるだろう。

「……あー、そういえばそうだったわね。
 イナバいぢりに夢中になっててうっかり忘れてたわ」

手を止める姫様。

「ひゅー……ひゅー……。
 助かったー……ありがと○○ー……。
 ……やっぱり本当に大好きー……」

息も切れ切れの鈴仙……。
……って今なんか物凄い爆弾を投下した音が聞こえたんだが。

「ちょっと、鈴仙!
 どさくさに紛れて何めっちゃ恥ずかしい告白してんのあんたはっ!」

便乗して姫様をからかう側に加勢しようか。

「……うん。僕も鈴仙の事、大好きだよ」

まぁ……想いの告白、と言うにはちょっと軽い感じがするけど。
今の僕と鈴仙にとっては、既にこんなもんだ。
当たり前の事、だから軽い感じでいいんだ。

でも多分、僕は今ちょっと顔赤い。
間違いない。
風邪かな……いや、とぼけても仕方ない。

「うー……姫様にやっと一矢報いましたよー……」

えーと、まぁ、何だ。

「…………」

ぽかーんとした表情で固まってる姫様。
徐々に表情が状況を理解した感じに変わって行く。
がくり。

「……やっぱりイナバに先越されたと言うのは……。
 この蓬莱山輝夜、本当に一生の不覚だわ……」

あ、くずおれた。

「○○ー……えへへぇ」

やっと復活した鈴仙が僕の「左腕」にしがみ付く……。
……って当たってる! 大きくてやわらかくて気持ちいいのが!
いやそれよりもそこ、点滴刺さってるんですけど!

「……あ、ごめん。痛かった?」

その事にすぐ気付く辺りは鈴仙は流石かな……。

「いや、刺さってる部分に直接触れては居ないから大丈夫だけど」

「じゃ、こっちからなら大丈夫だよね?」

点滴的には大丈夫だけど別の何かが大丈夫じゃないです。
……って何か言う前にしがみ付かれてる!

……やーらけー。

「やっぱり胸なのね? 鈴仙のその大きな胸なのね!」

くずおれた体勢のまま。
顔だけをギュンと物凄い勢いでこちらに向けて叫ぶ姫様。

……いや確かに大きめの胸は好きだけどさ。
ていうか、胸なら姫様もそこまで負けてはいないと思うんですが。
そもそも永琳さんや鈴仙ほどじゃないにしろ、姫様もそれなりに結構あった様な。

……いや、ごめんなさい、見ようとして見たんじゃないんですよ。
あれは事故だったんですよ。

「……いや、真面目に答えるとしたら。
 今まで一緒に過ごした時間の長さだと思います」

幻想郷に来て初めに逢ったのは鈴仙。
幻想郷を知る為に色々な所に出掛けた時も横に鈴仙が居た。

仕事を始めるようになってからは、一緒に過ごす時間は減ってしまったけれど。
僕たちの家……永遠亭に帰ってきたときはいつも鈴仙が出迎えてくれていた。
特別やることがない時に永遠亭に居るときだってそう。

いつの間にか僕は鈴仙と一緒に居るのが当たり前になっていたんだ。

「点滴で思い出した。僕、一応過労で倒れてる身だからさ、その鈴仙……」

「うん……ごめんね、無理させちゃって。
 それじゃ、○○のお使い行ってくるね」

荷物を持って出かけようとする鈴仙だが……。

「あ、忘れてた」

皿の上にある林檎の一欠けを僕の口元に持ってきた。
……恥ずかしいけど、まぁ、いいか。

「はい、あーん」

ぱくっ。
もぐもぐ……ごくん。

「あれ、素直に食べちゃった」

「今更でしょ、もう」

「ちぇ、恥ずかしがる○○が可愛かったのにー……」

それが狙いだったのか。
なるほど。

鈴仙は林檎の一欠けを一つ摘んで。
もぐもぐ。
ごくん。

「ん、おいしー。
 さて……と、ホントにそろそろ○○のお使い行ってくるね。
 あ、姫様とにとりちゃんと一緒に残ってるリンゴちゃんと食べてね」

そして頼んだ荷物を持って鈴仙は部屋を後にした。

「あのー、私、何をすればいいんでしょう……」

そういえばずっと、ひとりおいてけぼりのにとりちゃん。

「ああ、ごめん。とりあえずそれの使い方を聞こうかな」

「はいっ。あ、でも今○○さんを独占しちゃうと鈴仙さんが怒ったりしませんか?」

「大丈夫、もうそんな小さな事で怒る娘じゃないから、彼女は」

「『よしよし』、ですか。
 お互い物凄く信頼してるんですね」

「そういうこと」

「じゃ、発電機と蓄電機の使い方や調整とかの説明と相談ですねー」

病床でも話くらいは聞けるので、にとりちゃんの説明をのんびり聞く事にした。
姫様はツッコミ待ちなのか、さっきと同じ体勢のままじっとしてる。

……しばらくスルーしよう。
鈴仙にいぢわるしたオシオキってことで。



 -----



「○○も酷いなー……私もお師匠様も結局出番なかったし。
 姫様もくずおれっ放しだし。結局鈴仙しか目に入ってないねあれは」

「ちょっとてゐー、今ウドンゲに頼めないから手伝ってくれるー!」

「はいはい、今行きますよっと」



END



/*------------------------------------------------------------------------------------------------------
あとがき・おまけ☆かたりべえーりんのまめちしき

皆さんこんにちは、やごころえーりん☆永遠の17歳でーす!
……いえ、自分でも無理があるのはわかっているのよ。
でも心だけでも17歳で居たいわ。

これからかなり説明長い説明が続くのだけど、そこはちょっと我慢して。
読んでて気分が悪くなったら私がたっぷり愛情込めて看病してあげるから、こっちに来なさい。
それじゃ、始めるわね。



「水鏡(みずかがみ)」と言う言葉があります。
「みかがみ・すいきょう」とも読めますね。
まぁ、それらはどれでもいいんですけど。
大事なのはその文字が意味する内容です。

中国に……美鈴さんは関係ありませんよ?
中国の歴史書・もしくはそれを元にした創作小説、「三国志演義」には……。
水鏡(すいきょう)先生と言う方がいらっしゃいました。

その水鏡先生の口癖が「よしよし」だったそうです。
それでその事を奥さんに咎められたらしいのですが……。
「お前の言う事もまた『よしよし』」と、どんな意見でも真摯に受け止めて大事にすると言う彼の考え方は賢人らしいと私は思います。
作者はウドンゲと○○のやり取りの中で、似たような事をさせてみたかったらしいのですが。
果たして上手く行ったのかしら。



さて……彼の能力についての補足説明をしますね。

彼、○○の能力は東方風に言えばとりあえずば「正気に戻す程度の能力」と言えます。

この、タイトルにある「水鏡」とは「模範的な行動」の例えとして使われる事がある言葉です。
彼は、他人のずれてしまった道筋を正す能力に長けていたんですね。
能力自体は別に人妖などに限った話ではないのですが。

ずれたものを正す……それは「指導力」と言う形でも表に出ます。
彼の指導を受けた人妖は、皆、どういう経緯であれ結果的に正しい道を歩んで行きました。
結局最後まで彼自身はその事は知りませんでしたけどね。

彼が寺子屋の手伝いを、里の守り人である上白沢慧音さんに依頼されたのも。
皆が正しき道を真っ直ぐに進んで行ける様に慧音さんが願ったからなのでしょう。



彼はその「正気に戻す程度の能力」の影響で、正反対の能力を持っている鈴仙さんの狂気の瞳の効果を中和してしまいます。
だから、彼は鈴仙さんの目を直視しても何の影響も無く、正気を保つ事ができました。

彼女は過去を悩み、苦しんでいました。
そんな彼女に以前彼はちょっとした相談に乗ってあげました。

悩みを吐き出した事で気が楽になったのか。
それとも彼が何か良い方法を教えたのか。
あるいは彼が持つ能力が勝手に作用した結果なのかはわかりません。

でも、彼女は……鈴仙さんは間違いなく。
以前の様に悩み、苦しみ続ける様な事は殆どなくなりました。

ふと、心に思う事があったりはする様ですが……。
彼が傍にいて支えてくれている事で自分を責めてばかりの鈴仙さんは過去のものとなりました。
私の元に来て、気軽に相談しに来るようにもなりましたしね。

今回のお話は、そんな彼女を導いてくれた彼に、同じ様な形で彼女が恩返しする……そういう趣旨のお話でした。

そうそう、作中の「よしよし」が示す意味を推理してみると面白いかもしれませんよ?


新ろだ752



「鈴仙。」
突然○○に名前を呼ばれた。

彼は非常に寡黙な男性だ。文字通り必要最低限の事しか話さない。
そのせいで師匠からは「機械みたい」と評され、姫からは「彼と居ると空気が重くなる」と言われ、
てゐからは「悪戯しても反応が無いからつまらない」と言われるほど無口だった。
実際、私も彼と仕事をしている時しか話した事は無い。
その内容も「~を運び終わった。」とか「次は何をすれば良い?」といった、仕事に関するものだけだ。
だが、彼は寡黙だが心優しい人間だと言う事を私は知っている。
相手が妖怪だろうと何だろうと怪我人の治療を最優先し、怪我人を守る為なら自身を犠牲にできる程の人間だ。
私も彼に助けられた事がある。薬草集めをしていてに妖怪に襲われた時、彼は真っ先に妖怪に攻撃を加え私から興味を逸らした。
大怪我を負った彼が妖怪から逃げ切って永遠亭に着いた時にも、自分よりもまず私の心配をしてくれた。
そんな、言葉よりも行動で示すタイプの人間だ。
私は彼に次第に惹かれていった。だが彼は相変わらず無口で、話しかけようとしても早々に自分の部屋に戻ってしまう。
仕事の時に話しかけても一切返事はしない。いつも通り、仕事に関する事だけ話しかけてくる。

そんな彼が仕事以外で話しかけてきた。どうしたのか尋ねると、
「後で縁側に来てくれないか?」
彼が自分から話しかけ、私を呼び出した。意外すぎて呆気にとられてしまった。
ふと彼の手を見ると酒瓶があった。今日は何かあるのだろうか。

仕事を終わらせて彼に言われた通り、縁側へ出た。
彼は縁側に腰かけて月を眺めていた。私もつられて月を見る。
成程、今日は中秋の名月だったか。夜空に月が煌々と輝いている。
「鈴仙。」
彼が手招きをしている。私は彼の方へ歩き出し、隣に座った。
「今日は中秋の名月だ。だから酒でも飲まないか?」
単刀直入かつ単純明快な一言。私は○○の意外な発言や動作をもう少し見たくなって了承した。

「月が綺麗だな。」
唐突に彼が話す。
「月を見ているとあの日を思い出す。」
私が彼と出会った日も今日と同じ形の月だった。幻想郷に迷い込み、妖怪に襲われていたところを私が助けたのだ。
それ以来、彼は何かと私の仕事を手伝ったりしてくれた。
「あの日は本当にありがとう。鈴仙のおかげで助かった。非常に感謝している。」
彼と一緒に仕事をしているうちに、彼の声色で感情を読み取る技術が身に付いたようだ。
いつもの無感情な声ではなく感謝の念が籠った声だった。
「これを。」
彼が何かを差し出す。何かと思い見ると二つ折りになった紙だ。どうやら手紙らしい。
私はその紙を開いた。何か書いてあるので読んでみる。
『私、○○は鈴仙・優曇華院・イナバが好きだ。』
酒を噴きそうになった。文章の一行目から告白である。
彼の方を見たが、月を眺めているだけだった。だが耳がとても紅潮している。照れているようだ。
陰では「感情が無いのかも」だの、「もしかすると同性愛者なのかも」だのと言われていたが、やはり彼も普通の人間だ。
そんな彼を見て少し微笑ましくなった。
『私は貴女にとても感謝している。貴女が居なければ私はこの月を眺めていなかっただろう。
 何時からか、この感謝の念が貴女に対する恋慕の情に変わっていた。貴女と共に居るだけで心が落ち着くようになっていた。
 だが私は、面と向かって直接言うどころか、このような手段でしか想いを伝えられない臆病者だ。
 唐突で馬鹿げた事を書いているは分かっている。もしよければ、私と付き合って貰えないだろうか。
 それと、あの時の礼を改めて書きたい。本当にありがとう。』
文章はここで終わっている。
私は彼にここで少し待ってて欲しいと伝え、部屋に戻った。

しばらくして、彼の所へ戻った。そして先程貰った手紙を返す。
そして彼に、中を開いて読むように言った。
私は部屋に戻った時に、手紙の下の方の空いているスペースに返事を書いていたのだ。返事はもちろんOK。
そこに気付いた彼は嬉しそうな表情になっていた。
私は彼の肩にもたれかかり、彼は私の肩を抱いて二人で月を眺めた。

あの日と同じように煌々と輝く月を、その眼に焼き付けるように。











――――――――――――――――――――――<あとがきっぽいもの>――――――――――――――――――――――

月を眺めてたらAMSからうどんげへの愛が逆流してきたので書き上げたらなんかよく解らん物になってたでござるの巻
寝不足万歳

――――――――――――――――――――――<あとがきっぽいもの>――――――――――――――――――――――


新ろだ800



「鈴仙……」

 秋の寒空の下、公園のベンチに座り二度と会えないであろう人の名前を呟く。

「……寂しいな」

 自分から帰りたいと望んだわけではない。一ヶ月、幻想郷で過ごしてみてから決めろと永遠亭の皆からも言われた。
 その時、もしまだ帰りたいようならばしかるべき手段を取ってくれると、それまでは永遠亭で過ごせばいいと……

「もう二度と戻れないのかな」

 気がついたら元の世界へ戻ってきていた、幻想郷へ迷い込んだ当初帰りたいと思っていたこの世界はいざ帰ってくると、とても虚しく感じた。

「こうしていても仕方ない、帰るとするか」

 何かに引寄せられるようにこの公園まで来て約一時間、
 何かが起こることを期待していなかったわけでもないが何事も起こらず、
 日が落ちてきたことも相まって冷えてきたのでそろそろ帰ろうと思いベンチを後にした。






「○○、○○だよね」

 公園の出口へ向かって歩いているときかけられた声に咄嗟に反応することが出来なかった。それは二度と聞くことが出来ない筈の声だったから。

「鈴仙?本当に……本当に君なんだね」

 確かに聞こえた声は彼女の声、服装はこちらの世界でも違和感のない服装をしているが紅い瞳は確かに彼女であることを示している。

「無事に会えたみたいだね」
「本当にありがとうございました、大事なデートなのに……」

 彼は……そう、確か彼もこちらの世界から向こうに迷い込み住み着いた人間だった筈。

「それじゃあそろそろ行くとするよ。僕達が出来るのはここまで、後は鈴仙さんと○○さん次第だからね」
 そういうと彼等は突如現れた隙間に入り、いなくなってしまった。隙間妖怪、八雲紫にでも頼んでおいたのだろう。






「でもどうして外界に来ることができたんだ?」
「それはね……」

 鈴仙から聞いた話を要約すると八雲紫が寝ぼけて俺を間違って外の世界に送ってしまったらしい。
 その後、姫様と永琳さんが八雲紫のところへ掛け合い、丁度企画していた外界ツアーに便乗して、
 ツアーと同条件の神無月の間だけという条件で鈴仙をこちらへ送り出してくれた。
 そしてこちらの地理に通じていない鈴仙を心配して先ほどの彼が道案内を買って出てくれたという、
 自分の彼女とのデートがあるのにもかかわらず。

「……というわけなの」
「あの二人には感謝してもしきれないな」

 隙間があった方向を向きながら、心の中でありがとうと、また今度会ったときに直接御礼をしなければ。

「それでね、無理を行ってここに来たのはどうしても確認しなければならないことがあるからなの」
「そういえば、彼も後は俺達次第とか何とか言っていたけ……ど」

 振り向いた瞬間、口を塞がれた。目の前に見えるのは鈴仙の顔、ということは……

「○○、いえ○○さん。」
「はい」

 いろいろ聞きたいことはあったけど、鈴仙の瞳がとても真剣だった事もさながら、
 初めての経験に混乱していたこともあり返事をすることしか出来なかった。
 その表情は何の感情も出すまいと仮面をかぶっているようだった。

「私、鈴仙・優曇華院・イナバは○○さんをお慕い申しております」
「俺「最後まで聞いて、お願い」」

 そう俺の言葉を遮った彼女の顔は先ほどと同じ何の感情も宿っていない様に見えた、
 不安という感情を殺すことは出来ず、元々紅い眼を赤くして涙を湛えている点を除けばだが。

「私は、神無月の最後の日、外界ツアーに参加している人たちが帰る日に幻想郷に帰らなければなりません。
 もし○○さんが、こちらの、世界、に残り、たいので、あれ、ば……」

 最後のほうは泣き声で言葉になっていなかった。ただしなにを伝えたいのかは分かった、
 そしてそれが俺のことを思ってということも、だからこそ、それ以上は言わせない、言わせてはいけないと思った。

「もういい、わかった」
「えっ……」
「俺は、鈴仙、君が好きだ。こちらの世界に帰ってきても君のことを考えなかった日はない」
「私、こわかった○○に拒絶されたらどうしよう、こっちに残るって言われたらどうしようって」
「鈴仙……」
「それでも、これが最後の機会だから、もう辛い事から逃げるのはやめようって」

 彼女の目からはとめどなく涙が溢れ出てくる、もう限界だった。彼女を抱き寄せてもう一度気持ちを伝える。

「もう一度言う鈴仙、君が大好きだ、これが俺の気持ちだよ」

 これ以上彼女が泣いているのを見るのが辛かった、それも俺のためにここまで神経をすり減らして、自分の想いを偽ろうとして。
 うん、もうこちらの世界への未練はない。この少女と一緒に歩んでいこう。

「鈴仙、一緒に幻想郷へ、いや永遠亭へ帰ろう」



Megalith 2011/01/01


 今年は兎年。つまり、私たち兎角同盟の年。
 今年こそは兎鍋撲滅、そして兎権を人権よりも高く。
 というか私、鈴仙・優曇華院・イナバの権力を高く!
 なんて、そんな抱負をより強くした所で。

「○○ー?」

 と、私を慕ってくれるその子がいる確信を持って襖を開けると。

「……寝てる」

 しかもコタツで。
 昨日は「年越しまで起きてる」なんて言って姫様や私と一緒に起きていた。
 でも、○○は年を越す前に寝てしまって、部屋に連れていこうとしたけど、姫様に自分がやるから良いと言われてしまって。
 本来なら、それを断ってでも自分で運ぶべきだったのかもしれないけど、私も年を越した瞬間に眠くなって、あとは姫様に任せて部屋に戻ってしまったのだ。
 その姫様がここにいないって言う事は、この子を放って眠りに行っちゃったらしかった。
 姫様ひどいなぁ、なんて思いながら近付いて寝顔を眺める。

「このままだと寝正月になっちゃうよー?」

 と言いながら、可愛らしい頬をつんつん突っつく。
 起きない。身動ぎもしない。

「…………」

 愛らしい頬をむにむにしてみるけど起きない。
 師匠に変な薬でも飲まされちゃったのかな、なんて思ってしまうくらい、深く眠っているみたいだった。

「…………」

 波長と位相を見て、みんなの位置を探る。
 ……大丈夫、近くにいない。
 でも、やっぱり不安で、周りをキョロキョロと探ってしまう。
 本当に誰もいないのを確認した所で、○○の寝顔を眺める。
 深い寝息が聞こえる。
 逆に、私の心臓の間隔は浅くなる。
 少しずつ、顔を近づける。
 起きている時にこんな事しちゃったら、きっと○○が困っちゃうから。
 だから、寝ている時に――
 気付いたらもう視界は○○で一杯で。
 それでも止まらないまま、私は。

「ん……ちゅっ……」

 ○○の唇を奪ってしまった。それはきっと一大事。
 唇を押し付けるだけじゃ物足りなくて。
 起こさないように、静かに○○の唇を啄ばんだり、私の唇で挟んだり、舐めたりする。

「……っはぁ」

 これ以上やると流石に起こしちゃいそうだったから、○○から離れる。
 少しだけ頭がボーっとする。自分の顔が赤いのも分かる。
 ○○の顔が見れない。
 私の中で火がまだ燻っているようで、○○を見たらきっと何をするか分からない。
 申し訳ないけど、寝ている内に部屋を出て行ってしまおう。
 また、私が落ち着いたら見に行こう。その時にはきっとこの子も起きているはずだ。
 そう思って、立ち上がろうとした時だった。

「う、うどんげ……お姉ちゃん……?」
「……ぇ」

 声が聞こえて、そちらを見てみれば。
 ○○が眼を開けて、私を見ていた。
 あれ、だって、でも、さっきまで寝てて、あぁでもやっぱりさっきのは気付かれてたんじゃ、って今はそんな事考えてる場合じゃなくて。
 何か、なにか言わないと。

「ち、ちちちちちが、違うから! 今のはっ、そのっ、えっと、事故! そう事故なの!」
「……?」
「あのっ、○○が寝てたからちょっと寝顔見てたら可愛いな、なんて思って、もっとよく見たいなって思ってたら気付いてたら顔が近くなってそれで近付きすぎちゃったっていう事故なの!」

 自分でもひどい言い訳だと思う。でもそれでも何か言っておかないとやってられなかった。

「な、なにが……?」

 ○○は分かっていないようだった。
 嬉しいような、悲しいような。

「ぁ、い、今のなし! な、何でもないっ。何でもないからっ」
「あ、うん……」

 こたつに脚を入れて腰を落ち着けて、何度も深呼吸する。
 今度は別の意味で顔が赤いのが分かる。きっと今の私は自分の眼と同じくらい顔が赤い。
 新年早々、私は何をやってるんだろう。
 ○○は相変わらず分かってくれてないらしく、私を心配そうに見つめながら、こたつのみかんに手を伸ばした。
 そして、止めた。

「あ、そうだ。うどんげお姉ちゃん」

 呼ばれて、私は赤いままの顔を○○に向ける。
 そこにあったのは。

「あけましておめでとう!」

 眩しい笑顔だった。
 私は、この子の素直な所も好き。気を使ってくれる優しい所も好き。甘えてくれる所も好き。
 でも、やっぱりこの笑顔が、一番好き。
 それはきっと、私だけじゃなくて、姫様も、師匠も、てゐも同じ。
 そんな○○の笑顔を、年が明けてから一番最初に見れた私は、とっても幸せな兎なのかもしれない。
 でも、それでも、私は○○が大好きな事には変わらない。

「……うん、あけましておめでとう」

 そう言いながら、こたつを○○と同じ位置に入り直しながら、○○を抱き上げて私の膝の上に乗せる。
 ○○は困った顔をしていたけど、すぐに嬉しそうに私に身体を預けてくれる。
 やっぱり良い子。こんな良い子の寝込みに、キスをしていた自分がとても恥ずかしい。
 ごめんね、と心の中で謝りながら、私も○○を抱きしめて身体を預ける。

 ――今年は、○○とずっと一緒に居たいな。

 なんて、この部屋にくる前の抱負がいとも簡単に切り替わりながら。
 姫様達がやってくるまでの間、○○と二人きりで、このゆったりとした時間を過ごしたのだった。


Megalith 2011/07/21


 そろそろ日も沈もうかという夕暮れ時、高台にある公園のベンチに二人並んで座って、赤く染まる市街地をぼんやり見下ろしていた。
 ブレザーを着たウサ耳の少女が、俺に綺麗な赤い目を向けきた。じーっと見つめていると吸い込まれそうだ。
 彼女が黙って見つめてくるのに耐えきれずに俺は尋ねた。
「鈴仙……その、どうしたの?」
 彼女は黙って俺の手を握ると、そのままちょっとだけ肩を寄せてきた。
 鈴仙の重みと暖かさが押しつけられる。彼女に右手を押さえられたせいで抱き寄せることもできずに、俺はじっとしているしかなかった。
 ちらりと横目で見ると、鈴仙の大きな胸がブレザーの布地を窮屈そうに押し上げている。胸の谷間に赤いネクタイが隠れて……挟まって見えるぐらい大きい。
 そんなことを考えているとも知らずに、鈴仙は俺に身体を預けたままつぶやいた。
「夕日、綺麗だね……」
「うん……」
 彼女の丸いほっぺたは夕焼けに照らされて茜に染まり、
(ぷにぷにして……柔らかそうだな)
そんなことを考えてしまう。
 鈴仙がこっちを見ると、にっこりほほえんで、
(あっ……指、絡めて……)
手をぎゅっと握られた。心臓を直接鈴仙の細い指で抱きしめられたみたいで、どくんと鼓動が跳ね上がる。
 俺はこんなにドキドキしてるのに、鈴仙は澄んだ顔で俺を見ているのが何となく悲しい。ひとりだけ勝手に興奮しちゃってるみたいで……
「こうして、ふたりでいられるのが幸せだね……」
「そうだね……」
 鈴仙に見られるのが恥ずかしくて、半分沈んだ夕日に目を向けた。町がきらきら、まぶしい。雲は真っ赤に染まって、烏の影が北へと動いていく。
「でも、なんだか寂しいね……この景色も、あと10分ほどで消えちゃう……」
 当たり前のことだけど、妙にセンチな気分で、鈴仙の手をそっと握り返す。
 鈴仙は俺の手に両手を重ねると、首を振った。
「ううん。あなたがいるから、寂しくないよ……」
 ……それ、反則……
 鈴仙は俺の腕をぎゅっと抱きしめて……おおきな胸、当たってる……俺の耳元に口を寄せて囁いた。
「ずっと、一緒にいるから、ね」
「ああ……鈴仙……」
 顔を向けると鈴仙は目をつぶって、赤い唇をこちらに向けていた。
 ごくりと生唾を飲み込んで、本当に俺なんかでいいんだろうかとちょっとだけ考え……悩み……意を決して優しく重ねあわせる……ふにふにしてて、暖かい……
 しばらく唇の柔らかさを味わったあと、名残惜しそうに離れると鈴仙は目を開けてとろんとした表情で俺を見つめた。
 赤い瞳に再び魅入られ、俺は鈴仙を抱き寄せて、
「もう一回、いいかな……」
「うん……」
 もう一度くちづけを交わした。


いちゃいちゃする前の話だよね、これ



Megalith 2012/07/24



 仕事がなかなか終わらずイライラしていた○○の傍にいる鈴仙。

「ねぇー○○、なにしてるの?」
「……仕事だ」
「ふーん、また仕事してるんだ」
「……ああ」
「いつ終わる?」
「……さぁな」
「少し休憩しない?」
「……い・や・だ」
「なんでぇ?」
「あと数時間で仕上げなきゃいけないからだ」
「休憩しないと体に悪いよ?」
「……わかったからあっち行ってろ」
「ぶぅー○○がかまってくれない」
「………」
「何か手伝おうか?」
「……いい」
「飲み物は?」
「……いい」
「じゃあ何か作ってく「ああぁもう!少し黙れ!」」
「えっ…」
「少し仕事に集中したい」
「…うっ…うん」
「だからこの部屋から出ていけ!」
「……分か…った」

 バタン

「少しきつめに言い過ぎたかな」
「でも、あと少しだし気合い入れていくかな」
「しかしなんであんなにしつこかったんだろうな?」
「いつもは空気を読んでくれるのにな」

 ドアの向こう側

「…はぁ……○○、怒っちゃったなぁ」
「今日は私の誕生日なんだけどな…」
「毎年毎年いくら仕事が忙しくてもきちんとお祝いしてくれて…」
「笑顔で『おめでとう』って言ってくれて、そのあと一緒に食事して…」
「何か嫌なことでもあったのかな」
「でもいきなりに私に『出ていけ!』はないよね」
「少し凹んじゃうよ」
「…そういえば、私の誕生日を決めてくれたの○○だったなぁ…」
「てゐが私に誕生日がないってことをいじられていた時に○○が来て」
『じゃあ俺が決めてやるよ』
「って言ってくれて、三日くらいして決まったんだよね」
「その時の私は『こんな日を決めて意味があるのか』なーんて思っちゃったけど」
「誕生日が来るたびに、誠心誠意手作りのプレゼントを私に作ってくれるうちに惚れちゃったんだよね」
「……はぁ」
「○○は私に愛想尽きちゃったのかな」
「あ…れ…」
「ひっぐ、ぐすっ」
「なんで…涙が…で…でるんだろう」
「も…もしかして○○は私の…こ…と嫌い…に…なっちゃったの…か…な…」
「そんなの…や…だよ」
「兎は寂しいと…死んじゃうんだよ…」

 2時間くらいたった後のドアの向こう側じゃない方

「ふぅ、終わったー」
「さてと、三連休も終わりk…ん?」
「あっ!!今日って鈴仙の誕生日ジャマイカ!」
「あぁー成る程、だから鈴仙はあんなにかまってさんオーラ全開だったのか…」
「思い出してみれば随分酷いこと言っちまったな」
「もうちょっとしてからこれを渡そうと思ってたんだけど、あんなこと言ったんだしな」
「謝ってくっかな」

 そのあとすぐのドアの向こう側

「すぅ…んぅ…」
「おっと、寝ちゃったのか」
「……だよ」
「?」
「…まってよぉ○○ぅ、いっちゃヤダよう」
「ん、夢か?」
「私を一人にしないで○○ぅ、ずっと一緒にいてよ○○ぅ」
「私にはあなたが必要だよ」
「なんでも…なんでもするから、私を捨てないで…私に別れるなんて言わないでよ…」
「…おねがいだよ…」

 彼女の瞼の端には涙が玉の様に溜まっていた。

「…鈴仙」

 そっと手を握ってやる、そして耳のそばで

「ごめん、絶対に離さないからな」

 と囁く。

「…うん!、って本物の○○?」
「おはよ鈴仙、俺がいつ偽物になったよ」
「うぅ…なんでもないよ」
「その、さっきはごめんな鈴仙。俺も少し言葉に気を付けるべきだったよ」
「…私あなたに嫌われたかと思ったんだよ」
「すまん」
「他に何か忘れてない?○○」
「う~~む、分からん」
「…本当に?」
「ああ、本当に」
「……ぅ」

 鈴仙の瞳が大きくなった気がした。

「……えぅ」
「鈴…仙…?」

 俺は何か幻術をかけようとしたのかと思った、だが彼女の綺麗な瞳には大粒の涙がまた溜まっていた。

「毎年毎年どんなに忙しくても私の誕生日だけは忘れていなかったのに…今年は忘れてたんだね」
「……」
「毎年あなたがくれる手の込んだプレゼントが嬉しかった
でも今年はプレゼントらしいものを一個もくれなくて
 そして○○の態度も私に対して冷たくて、○○に何かしたかなって
もしかしたら愛想を尽かれたんじゃないかと思って
 このまま別れちゃうんじゃないかって」

 鈴仙が震えながら言っている

「…そしたらあなたは私の誕生日を覚えてくれていなかった」
「それh「言い訳しないでっ!!」」
「言い訳…な…んて言わな…いで」
 別れるなら…もっと前にし…てよ
 もう私にはあなたしかいないの
 あなたしか愛せないの
 自分勝手かもしれないけど
 あなたのすべてが愛おしいの
 でも…あなたが嫌いになったら
 わたしはどうしたらいいの?
 ねぇ教えてよ…ねぇ…
 うわぁぁぁぁん」

 泣かせてしまった。彼女を大事にするって決めたのに、泣かせないって約束したのに。
 俺は最低の大馬鹿野郎だ。この償いは…態度で示すしかないだろう。

「今日、お前を2回も泣かせちゃったな」
「なん…で…知ってる…のっ…」
「お前の瞳が赤かったからさ」
「…分からないくせに」
「俺は鈴仙のかわいい顔を一番近くで見てるから言ってるんだ」
「…ばか」
「鈴仙、ちょっとこっち来て」
「なあに」

 少しだけ震えている鈴仙をぎゅっと抱きしめた、そしてそっと唇にキスをした。

「っ/////」
「俺、鈴仙を大事にするって誓ったのにな」
「その愛しい人を泣かしちゃってる」
「おまえををこんなに心配させちゃったんだな」
「…そうだよ」
「じゃあ鈴仙を悲しませるようなことは一切いたしません」
「…うん」
「今後一切鈴仙に対して冷たい態度をとりません」
「うん」
「そして不肖○○、これから鈴仙を一生幸せに致します」
「えっ?それって」
「はいこれ、今年の誕生日プレゼント」
「これって…」
「俺と鈴仙の愛の証だよ」
「…開けてみてもいい?」
「もちろんさ」

 なかには緋色に輝くルビーをもった指輪が

「わぁ…」
「鈴仙の綺麗な瞳に似てたから買ったんだ」
「褒めても何も出ないよ」
「結婚しよう鈴仙!」
「!!!!」
「………ってあれ」
「……」

 れいせんはかたまってしまってうごけない!

「おーい」
「!!!ごっごごごごごごめんなさい!!」
「えっ…それって…」
「いやち違うの!!嬉しいんだけど、ほっ本当に、わっ私なんかで、いっいいのかなって!」
「…じゃあ俺が別の人の所に行ってもいいんだね」

 少し意地悪に言ってみる

「えっ…」
「そっ…それは絶対にイヤ!○○は私だけのものなんだからっ」
「大胆だなぁ」
「///」
「じゃあ誓いの口づけを」
「うん!」

「「俺(私)は鈴仙・優曇華院・イナバ(○○)のことを一生大切にしていくことを誓います」」

 そうして月明かりの下、一対の影がそっと重なり合った





「ねえ○○」
「どうした?」
「こっ…子供何人ほしい?」
「……」

 ○○はかたまってしまってうごけない!

「あれっ?○○?」
「……」
「おーい」
「……作ろう」
「…目が血走ってるよ?」
「今すぐ作ろう!さあ!Now!Right Now!」
「えっ、ちょっ、いやああああ(嬉)」

 今日も幻想郷は平和であった…


夜中のテンション怖い


うpろだ0037


春。それは出会いの季節。
春。それは別れの季節。
誰かと誰かが出合い、誰かと誰かが分かれ、誰かと誰かが愛し合う。
そして幻想郷でも、一つの出会いと、別れが起ころうとしていた...





  -春-





「うーーん! 今日のお仕事終了!
 さあて、帰ってごはんの用意しなくちゃね」

永遠亭に続く小道。月の兎である鈴仙・優曇華院・イナバは、師匠の永琳からの
仕事をこなし、今まさに、永遠亭に帰る途中である。
花の香りが心地よく、疲れた体を癒してくれる。空気がおいしい


「このごろ薬の注文が増えてるね...やっぱり春だから花粉症の薬ばっかり。
 まあ、こっちは売れるからいいんだけどね」

というのは、表向きの理由だった。売れてくれるのは嬉しい。だけどそれよりも、誰かの役に立っているというのが
嬉しかった。仕事が増えるのは大変だけど、その分やりがいもあった。
...てゐが来ないのは少し不満だが。

「...ま、いいか。今は今晩の献立を考えなきゃね
 確か昨日の残りがまだあったから.........!」



足が止まる。違和感が、というよりもこれは...人の気配。距離はここからだいたい......歩いて3分くらいだろうか。
でも、林の中。それにかなり微弱な気配だ。どうして気が付けたのだろう...?
人の気配は、動いていないみたいだ。ここは人里からは離れているし、妖怪も出ることが、ごくまれだがある。



「...もしかして、妖怪に襲われた? 気配は小さくて、動いてない。
 けがをして動けないと考えると...」

その可能性は十分にあり得ると思った。それにもしそうだとしなくても、鈴仙は気になっていた。
どうして気づけたのか、自分でも確認したかった。
けがだったら尚更だと、鈴仙は気配があった林の中を進むことにした。












「この辺りだと思ったんだけど...あ!」

林の中を進むこと約五分。草木をかき分け、鳥の鳴き声を聞きながら歩いていると、一人の男性を見つけた。
背が高い...190はあるのではないだろうか。前髪が長くて、目が隠れてしまっている。近づいてみてつむっていることが分かった。
ここまではいい。


問題なのは、男性の状態だった。


男性は、服がボロボロになっており、とてもやせ細っていた。それに、服がビショビショで顔色が良くない。
......これはまずい!
人と接するのは苦手だけど、そんなこと言ってられない!

「ちょっと! 大丈夫ですか!? 聞こえてますかぁ!? そうなら返事をしてください!」

呼びかけながら、男性の状態を確認する。よし脈はある! でもこのままじゃ危ない。すぐに永遠亭に行って治療しないと...
服の上からでも、傷の多さには気付くことができた。手や足には最近できたであろう傷が何か所もある。服には、血のにじみがたくさんできていた。
本当にまずい。早くしないと、取り返しのつかないことに...


「......う、んんっ...うう...あ...?」
「! 気がつきましたか! 体は大丈夫ですか?」


意識は戻ったみたいだ。目をつぶったままだが、そっちの方が私の能力を気にしなくてよくなるので、むしろ都合がいい

「...君は誰だ...あと、この状態で大丈夫だと思うなら...君は異常だ...うう...」
「私のことについては後でです! 立てそうですか? 駄目なら肩を貸すか、おぶっていきます!」
「なら、肩を貸してくれ...女の子におぶわせるようなことは、日本男児としてしたくはない...
 しかし肩ならば、恰好はつくだろう...」

なんかしゃべり方がおかしい。でもそんなことを気にしている暇はない。

「さて...どうにか立ち上がらなければ...」

男性がそう言いながら、目を開けた。

「...!!!???」

そして男性と目があい、とても驚いた様子を見せたかと思うと








「な、ななななななななななななな」
「ど、どうしたんですか...具合が悪かっt」
「何なんだ君のその姿はーーーーーーーーーー!!!!!????」






...物凄いリアクションを起こし、けが人とかのレベルじゃない動きで跳ね起きた。
たとえるなら...変態行動をレミリアに見られた咲夜さん...ってところかなぁ...




「え、ちょ、まってくだs」

「どうして兎の耳をつけているんだい!? コスプレをする人がこんな場所にいるとは思えないし、私生活でつけるとも思えない!
 いや待て私生活でこんなところに来るとも考えにくいしいや待て待て! 林に兎...シチュエーションを考えた行動ということか!?
 そう考えると、その紫の髪についてもつじつまが合ってくる! コスプレならば、オリジナリティー、個性を出すために髪の色をあえて奇抜にするのも
 一つの手段だ!!」

「き、奇抜とは失礼ですね! そう見えるかもしれないですけど、地毛なんですから文句とかは言われたくn」

「じ、地毛だって! そんなのありえない普通髪の色というのは遺伝子として受け継いでいくもので、親と同じ髪の色になるのがほとんどだ!
 そして君の話している言葉は日本語だそして「さしすせそ」の発音が「shi」のように空気を多く含むものではない! そう考えると日本人である可能性が高い
 そしてそして日本人の地毛は多いのが黒茶色の人もいるがほとんどが黒だ! そしてその中で紫などありえない!
 ......確認させてくれ!!」

「え!? いやそんなk「失礼!」ひゃうっ!」


男性は私の言葉をさえぎり、髪に触れてきた。それも頬の近くのを。
腰を曲げて手に触れ、まじまじと、興味しんしんに髪を見ている。は、恥ずかしい.........!!
それに、手が首筋や頬の下のほうに当たってくすぐったくなってしまい、思わず声を出してしまう。

「や、ちょっと! どこ触ってるんですかやめて下さひゃあっ!!」
「無論君の髪の毛だ! ...本当に...地毛なのか...!?」
「さっきそう言ったじゃないですか!! いいから話してくださいこの変態!」
「そうだ、この兎の耳も!」


駄目だ話を全く聞いてくれない。仕方ない力で眠ってもらって...


「うひゃあっっ!!!」

男性が腰を元に戻し、今度は耳を片方触ってきた。

「この耳、暖かい...それに君の今の反応...まさかこの耳、神経が通っているのか!? そんなバナナ!!」
「だから触らないでください! あと本物とは言いました!」
「いや、さっき君から聞いたのはこの奇抜な髪が地毛だということだ!」
「奇抜っていうなとも言いましたぁーーー!!」
「どうなっているんだこの耳は!?」


「――――――――――――――っ!!」


そう言いながら、今度は両手に1つづつ、私の耳を握ってきた


「い、いやぁぁぁぁーーーー!!!!!!」
「アジスアベバ!!」


思わず、思いっきり顔をひっぱたいてしまった。けが人だというのに。
ぶたれた男性は後方へ2メートル位吹っ飛んで、これまた思いっきり地面に倒れた。


「ハァ、ハァ......あ!」


まずい、やってしまった! これ以上はやばいとか言ったの自分なのに!
駆け寄って、安否を確認する。

「ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」             ......返事がない...!!!!


こ、これは本格的にまずい! 早く永遠亭に行かないと!
私は男性をおぶると、永遠亭に向けてできる限り速く飛行し始めた。













あーさー目ーが覚ーめたらもおーー昨日みたーいな日ー常はなーくてー
目が覚めたら、こんな歌が頭にながれてきた。なぜかって? そりゃあ...



「今この状態を完璧に表現しているからだろうな」



そんな独り言をつぶやいて、私、○○は目覚めた。
















「さてと、とりあえず現状把握がしたいところだが...」

辺りを見回すと、電気スタンドやテーブル、過敏に添えられた可憐な花など、いろいろなものが見える。

「しかし、このテーブルの形、ベッドがリクライニングする機能、そして極め付けが...」

自分の腕から伸びている、点滴の管。その存在が、ここは病院であると物語っていた。


            つまりここは病院である!


「と、普通なら思うだろうな。でもここは病院じゃない...いや少なくとも、」



           『日本に存在する病院ではない』





「あら、なかなか推理力があるのね。その分だと、どうやら助かったみたいね。
 よかったわ、鈴仙てば心配しすぎなのよ...」

パチパチという手をたたく音とともに、一人の女性が部屋に入ってきた。
赤と青を基調とした服に、銀色の長い髪を一本の三つ編み? にしている。

「とりあえず、いろいろと質問したいのだが...よろしいでしょうか?」
「あらあら、敬語なんて使わなくてもいいのに。
 鈴仙と喋ったときはそんな口調じゃなかったのでしょう?」
「鈴仙...とは」
「覚えていないのかしら?」

そういうと赤青女性は、頭の上で両手を耳のようにした。



「成程。その子がここに連れてきてくれたんですね」
「思い出してくれたみたいね。一応、あの子も私も、あなたの恩人ってことかしら」
「では、その恩人の名前を聞かせてくれないでしょうか?」
「おっとごめんなさい、まだ言ってなかったわね。では改めて」


「私の名前は八意永琳よ。よろしくね...えっと」
「○○です。すみません、こちらから名乗らずに」
「いいのよ気にしなくて......さて、○○。
 悪いけど、こちらからあなたに質問、および『この世界』の説明をさせてもらうわ」

そして私は、新しい世界を、幻想郷を


  兎の彼女、鈴仙・優曇華院・イナバを知ることとなった。













「...では、始めましょうか。二人ともいいかしら?」
「問題ない」
「大丈夫です、師匠」

居間に通された私は、鈴仙と再会した。あちらもいろいろと話したかったようだが、
永琳さんに「積もる話は説明を終えてから」と言われてしまい、また後でということになった。


「じゃあまず、○○に幻想郷や私たちについて説明しましょうか」
「よろしく、永琳さん」

そして、永琳さんからの説明が始まった。



「...と、いう訳」
「...成程。簡単にまとめると、ここは私が元いた世界とは違う場所で、私は迷い込んできた人だと。
 そして永琳さんは月の住人。鈴仙はへっぽこ兎であると」
「まあそんなところね」
「へっぽこは余計です! 師匠もナチュラルに肯定しないでください!」
「いや敵前逃亡とか...へっぽこにふさわしいと思うが」
「違うわ。それを言うなら敵前逃亡兎よ」
「さすがにそのまんますぎないか?」
「二人ともいい加減にしてください!!」

ちょっとからかいすぎたようだ。鈴仙は拳を握り締めて正座したまま、こっちを睨んでくる。
かわいらしいと思ったのだが、この状況でそんなこと言ったらそれこそ怒られてしまうだろう。やめておいた。

「ふふふ、ごめんなさいね鈴仙。ちょっと面白くて」
「もう...」
「しかし○○、あなたよく平然としていられるのね。普通の人だったら、ここまでかなり驚いていると思うわ。
「いや、驚いている。面に出していないだけだ」
「でも、鈴仙は「○○は驚きまくってた」って言ってたわよ?」
「そうですよ! 本当に怪我してたのか、不思議に思えましたよ...」
「すまない。あまりにもカルチャーなショックでな」
「まあ、そのあたりも含めて、今度は○○について教えてもらおうかしら」
「了解だ。では...」



私は、この世界とは違う場所で暮らしていた...ということになるのだろうな。日本って知っているか?
「いえ...少なくとも、私は知りません」
「えっと...ごめんなさい、私もよくわからないわ」
まあ、そこが私の暮らしてた場所で、そこからここに来たんだな。
「○○は、向こうで何をしていたの?」
......教授として、仕事...というか、研究をしていた。そこまで有名じゃなかったがな。
「へえ...教授かあ...先生みたいなことをしていたんですか?」
.........それは
「...鈴仙、それは今あまり関係ないわ。教授だった、だけで十分よ」
(...!)
(いいのよ、言いたくないんでしょ?)
(...すまない)
「○○、向こうでここに来たきっかけとか、原因とか...些細なことで良いの、教えてくれない?」
そうだな...えーと......あれ?
「どうしたの?」
「どうしたんですか?」

.................................忘れた。

「え! 忘れた!?」
「き、綺麗サッパリにですか!?」
ああ、綺麗サッパリにだ。言葉の使い方がうまいな鈴仙は。
「いえいえそんなkじゃなくてですね! 本当に覚えてないんですか!?
 どこかに行ったとか、何かしたとか!」
...全然?
「知りませんよそんなの! こっちが聞いてんですから!」
「落ち着きなさいな鈴仙...本当に覚えてないのね?」
ああ、まっっったくな。
「それなら仕方ないわね。これまでも、そう言った事例はあったもの、何とかなるでしょう。
 軽い記憶障害なら、すぐに向こうに戻るか、ここで思い出すかのどっちかね」
それなら良かった。
「大丈夫...でしょうか? 私のせいじゃ」
それはない。
「で、でも......」
もう一度言う、それはない。受けた本人が言うんだぞ、信じろ。
「だからってそんな...」
「鈴仙、彼が言ったのならそれでいいの。受け入れましょう」
「師匠...分かりました。そういうことにしておきます」
そうだな、そういうことにしといてくれ。
「じゃ、いったんお開きにしましょうか。もう夕方よ?」
「え、もうですか!? 夕飯の支度しないと...お先失礼します!」








鈴仙はそう言うと居間を出て、奥の部屋にきえていった。

「...さて○○、これからの事なんだけど...とりあえずここにいてもらうわ。
 患者を放っておくわけにもいかないし、鈴仙が迷惑かけてるしね」
「鈴仙は迷惑なんてかけていない、むしろ恩人だ。永琳さんも言ってただろ?」
「ふふふ、そうだったわね......あの子ね、人が苦手なの」
「? 唐突になんだ。しかし私が話してみて、そうは思えなかったのだが」


「............貴方だから......大丈夫なのかもね...」


「何か言ったか?」
「いいえ何も? じゃあ○○、リハビリもかねて鈴仙の手伝いをしてきてくれない?」
「そうするか。他にすることもないしな」
「よろしくねーー」

「少しの間でいいから、彼女のことも...ね」







「? ○○さん、何しに来たんですか?」

台所...というより、厨房のようなところで鈴仙を発見した。

「永琳さんに手伝ってこいと言われてな。それでここに来たんだが...」
「いいんですか? それなら、そこの食器棚からお皿を出してくれませんか?」
「分かった」

そんな感じで食事の用意は順調に進み、もうすぐで終わるというところだった。

「あの...○○さん」
「何だ鈴仙。言われた作業ならもう終わってるから心配するな」
「えと、そうじゃなくて...私が○○さんをひっぱたいちゃったことなんですけど...」
「...そのことなら気にするな。親父にはすでにぶたれてたからな」
「親父...?」
「すまん、分かるわけなかったよな。ていうか、謝るならこっちの方だ」
「え......」






「いやさ、私が謝ることならたくさんあるだろ?」

○○さんがそう言った後、少し考えてみて......納得してしまった。
確かに、普通の人ならば謝るべきところがたくさんある。さすがに自覚していたのだろう。

「そうですね...たっくさんありますね...でも、いいんです。
 私がやったことも許してもらったし、そういう気持ちがあるなら、私はいいです」
「いや、形だけでも謝らせてくれ、本当にすまなかった!」
「.........今のは聞こえなかったことにします!」
「...何故」

○○さんは不思議そうにしてるけど、答えは単純だった。

「私が謝ってないからです。だから、○○さんも謝らなくていいんです。
 今回のことは、お互いがただ許しあった。それでいいんです。
 だから......」

○○さんの正面に立って、顔を見上げる。表情はよくわからないけど、関係ない。
今考えたことを、○○さんに話すだけ。


「おあいこってことで......いいですか...?」


真っ直ぐに○○さんのことを見て、話すことができた。
そう思ったその時、○○さんの右手が、私の左頬に触れてきた。

「え! ま、○○さん!」
「もしかして、また私の髪がどうのこうのですか!? 何度も言いますがこれはj」
「いや、そうじゃなくて......」



  「可愛いなって、思ってさ」



「......か、かわわわわわわわわわ!!!???」

いきなりの言葉に、頭が混乱してしまう。うまく話せなくなっている。
お、落ち着くんだ私! 落ち着けぇー、落ち着けぇーー!!


「ま、○○しゃん! えっと、しょの! あn「おーい二人ともーー! まだできないのかしらー?」
「おっと、永琳さんが待ってるな。早く作るか」
「え、ええと...はい!」


どういうことか聞こうと思ったけど、聞けなかった。
でも、師匠が途中で話してなくても、いえたんだろうか...?



(『可愛い』だなんて...ああもう! どうしたらいいの...!?)



ご飯を食べてから寝るまでずっと考えてはいたが、結局わからないままだった。





 言い訳という名の謝罪

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
イチャついてないと思った方...おっしゃる通りです返す言葉もございません...
次の機会がありましたら、チャンスをください。
それでは


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年09月24日 23:00