輝夜3
うpろだ578
かなり面倒だったが里のじいさんからある事を頼まれどうせヒマでやることもなかったので永遠亭へ行く事になった。
しかし俺は当の永遠亭とやらへの行き方を知らない。
請け負ってしまった手前、簡単には帰れないのだが・・・・さてどうするか。
この竹林、一度迷えば抜け出すことができないほどの迷所らしい。
しかも入ればかなりの高確率で迷うときた。
「ここは意を決して入ってみるか・・・?」
「あ、○○。こんな所で何してんの?」
竹林の前で唸っていると妹紅がふいに現れた。
藤原妹紅。ひょんな事から(本当にひょんなことなのだ、話せば長いが)知り合いになった娘である。
よく竹林周辺で見かけるなと思ってはいたが、本当にここに縁があるな。
「ん?○○、その手に持ってるのは」
「言っとくけど食い物じゃないぞ」
「私が掠め取るような子に見える?」
いや、だって焼き鳥屋って自称してたし。
「いや、里のじいさんから頼まれ物。前に怪我したときに永遠亭って所で世話になったんだそうだ」
「それはお礼の品ってわけね。でも何でそのお爺さん、自分で行かないの」
「・・・それはまあ、アレだ。この竹林の怖さを身をもって知ったんだろうよ」
俺がヒマそうだったからどうせだし若いモンに押し付けとけ、みたいな感じでもあったが。
「ふーん・・・どうせ永遠亭への行き方なんて知らないんでしょ、私が案内してあげるよ」
「お、助かる。お前がいなけりゃ竹林の中で白骨死体になってたところだ」
「ま、この貸しは高くつくけどね」
慣れているのだろう、特に気負いする事もなく妹紅は竹林の中へ入っていった。
俺もそれに続く。
「なあ妹紅」
「なに?」
「輝夜さん、って知ってるか?なんか永遠亭に住んでる偉い人らしいんだが」
「・・・知らん。あんな悪女に用はない」
つまり知ってるのか。
このしかめっ面と無愛想な言葉からするとかなり嫌っていると見える。
「薬師さんだけじゃなくて、その人にも挨拶して来いって言われてさ。そこの主人なんだろ?その人」
「だから知らんと言ってる」
「仲悪いのか?」
びきり。
いや、比喩とかじゃなくて、本当にそんな音が聞こえたのだ。
…これは地雷を踏んだかな?
「・・・○○は本当にあのメス豚を知らないの!?」
「オイなんか急に変わったなオマエ!」
あとメス豚はいくらなんでも止めてやれ。
「はあ、嘘じゃねえよ・・・で、何だ?その輝夜さんとやらはそんなに悪名高いお人なのか?」
「悪名高いなんてものじゃない!あいつは私と殺しあう仲なんだっ!」
マジですか。
そこからの妹紅はすごかった。
まさかあんなに熱い一面を持ってるとは思わなかったよ。
今までのが彼女の双子の妹だった、って言われても信じられるくらいだ。
その輝夜さんのことについて一喜一憂しては顔を赤くしたり青くしたり拳を握り締めてそこいらの竹を張り倒したり。
…ちょっとイメージ変わったなー、俺。主にマイナス方向に。
妹紅の話によれば、その”輝夜さん”って人は世界中の悪女の頂点に立っていて、ただのぐーたらで、
千年間引きこもりしてて、人の話は聞かないわワガママ言うわ出したものは片付けないわ、おまけに一週間に一度しか風呂に入らないらしい。
顔だけはいいからそれを使って男を騙して貢がせて、彼女が通った後には男たちの屍累々・・・という感じだとか。
―――なんかもうよくわからないよな。
なんだそりゃ。
わけわからん。
あとちょっとばかり嘘混じってないか?どこぞの姫様らしいが一週間風呂なしはキツイぞ。
「ちなみに輝夜と書いて”てるよ”と読むから気をつけて。もしかぐやなんて口にした日には何よりもむごい殺し方をされるから」
てるよ?お前さっきまでかぐやって呼んでなかったか?
「かぐやは愛称。
とにかく!私が言いたかったのはあの女には気をつけろ、ってこと。
本当は行かせたくもないけど・・・まあ、○○なら興味わかないよね多分」
…何気に失礼じゃないか?
「じゃ、ここで別れよう」
「ん?永遠亭なんてまだどこにもないぞ?」
「ここまで来れば大丈夫、真っ直ぐ行けば無駄にでかい建物が出てくるから。
・・・それに今会ったら抑えきかなそうだし」
怖っ。
「じゃ、私は適当にこのあたりをうろついてるから・・・何かあったらすぐ呼ぶこと。いい?」
「何もないと思うけどな・・・」
「すぐ帰ってくるんだよ!」
そう何度も何度も忠告、もとい警告されて、俺はやっと永遠亭へと向かった。
「ごめんくださーい」
でかい建物の扉を叩いてみる。
だが一向に誰も出てくる気配がない。もう10分くらいこうしてるんだが。
…まさか誰もいないのか?確かに人気なんてまったくないが・・・・
…本当にてるよさんが怖い悪女だったらどうしようか。
俺は生きて帰れるんだろうか。
いまさら心配になってくる。
すると、扉がゆっくりと開き始めた。
「まったく、みんないないのかしら・・・・・はい、どちら様?」
中からは実に古風なお嬢さんが出てきた。
どう見ても不機嫌そうだ。
「あ、その・・・・てるよさん、っていらっしゃいますか?ここの主人て聞いてるんですけど。もしくはここの薬師さんとかでもいいんですけど」
「・・・・・・」
「悪い、あ、いや、すいません」
なんで俺は意味もなく謝ってるんだろうか。
地雷を踏んだという直感でもしたのか?
思わず目をそらしてしまったが、もう一度見るとやっぱり無言で俺を見ていた。
そしてようやっと、その子は口を開きかけたのだが・・・・・
「・・・・・・・」
なんか、心なしか視線が怒りから驚きへ変わっていってる気がする。
お嬢さんはぽかんとしながら、何かを言いかけた口を丸くさせていた。
なんか、俺をじっと見て軽く目を見開いたような・・・
何に驚いてるんだこの子は?
「・・・・・気にしなくていいわ。
それよりここに来れるなんて珍しい客人ね・・・・」
珍しい・・・やっぱり大抵の人はここに辿り着く以前に迷ってしまっていたようだ。
あのじいさん運が良かったんだな。
「いや、この前ウチの里のじいさんがお世話になったらしくて・・・
俺が代わりにお礼の品を届けに来たんですけど。薬師さんと主人にも挨拶しとけって」
「薬師は今出払ってるわ、主人は私だけど・・・」
なんと、本人。
この人がてるよさんだったか。
…怖い人には見えないんだが、妹紅。
「なんだ、丁度よかった。じゃ、これ。多分美味しいものでも入ってると思うから」
そして箱を渡す。
「じゃ、用は済んだしこれで」
さっさと妹紅のところに帰るとするか。かなり心配してたし。
と、いきなり腕を掴まれた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「・・・何ですか?」
「せっかくここまで来てくれたんだし、お茶くらい出すからゆっくりしていきなさい」
「はぁ・・・・」
曖昧な返事をすると、”てるよさん”とやらは俺の腕を掴んだままずんずんと進み始めた。
そして着いたのは綺麗な客間。
外から見ても壮大だったが、やっぱり中もかなり広い。
ぐーたらだとか言われていたが結構キレイだった。
「ここ座って」
てるよさんに言われ、椅子に座る。
「飲み物は何がいい?緑茶?紅茶?あ、お菓子もあるから食べていく?」
「・・・じゃ、緑茶で」
「それじゃ、ちょっと待ってなさい」
彼女はお茶をいれに行った。
…自分でいれるのか。姫だと聞いていたからそんなことしないと思ってた。
なんかどんどんイメージが変わっていく。
あれはいい人なんじゃないのか妹紅?
そういえば俺なんでこんな事してるんだっけ。
「はい、いれてきたわよ」
「どうも・・・・」
湯飲みを受け取ると、てるよさんも椅子に座った。
てるよさんは一口、緑茶を飲むとまた口を開いた。
「名前」
「は?」
「・・・・貴方の名前。なんていうの?」
ああ、俺の名前ね。
「○○だけど」
「そう・・・・○○ね」
でも名前なんか知ってどうするんだ?
まさか俺は気に入られてしまったのか?そして貢がされるのか?
…ありえない、と思いたい。
俺は何かしたのか?
名前を知らなきゃいけないほど俺は重要人物なのか?
今の所、何もしていないと思うが・・・多分。
じゃあ、なんだ・・・・?
「○○」
考え事をしているとふいに名前を呼ばれた。
「な、なんでしょう・・・・てるよさん」
「なんで急に敬語になるのよ。あと、私の事は呼び捨てでも構わないから」
言葉遣いとかは関係ないみたいだ。
「じゃあ、てるよで」
「・・・てるよじゃなくて、かぐやよ」
「・・・やっぱり?」
「何それ。まあ、私の事はかぐやと呼びなさい」
「じゃあ、輝夜」
「ええ、それでいいわ。
・・・・で、聞きたいことがあるんだけど○○。貴方は私の事知らなかったの?」
……なんだ、この知ってて当たり前だろみたいな質問は。
「ああ、知らなかった。今日知り合いに聞いて初めて知ったよ」
「そ、その知り合いになんて聞いたの・・・・!?」
「!?」
今、ちょっとびっくりしたよ。俺。
一瞬だけど輝夜の目がカッと開いたぞ。
つか、なんか焦ってないか?何故?
「あー・・・・なんか男を騙して貢がせる悪女で
ただの引きこもりで、お風呂には一週間に一度しか入らないようなぐーたら姫様だって聞いたけど・・・・って、聞いてるか?」
聞いてきたから説明したのにこの人自分の世界行ってるよ。
なんか、凹んでるような・・・?
そんなオーラが出てる気がする。
え、この子自分が周りにどう思われてるか知って凹んでんのか?
そりゃあ確かに最悪な人物像だけど、そう思われるのを覚悟の上で生きてきたんじゃないのか?
それともアレは妹紅の言い過ぎか?
確かにそう思ったけどもさ!
「おーい、大丈夫デスカ・・・?」
「・・・・・・」
「えーと、輝夜?」
「・・・大丈夫。何もないわ」
あ、なんか復活したっぽい。
「それならいいが・・・じゃ、そろそろ俺おいとまするよ。ごちそうさまでした」
そう言い、立ち上がると輝夜は勢いよく止めてきた。
「え、もう帰っちゃうの!?まだここにいてくれても構わないのよ!」
「俺、知り合いのところ早く行かなくちゃいけないし・・・」
なんで引き止めるんだ?
それにしても早く帰らねば。待たせては悪い。
「・・・そう。じゃあまた近いうちに遊びに来なさい」
「え・・・」
「来るわよね?来てくれるわよね?というか来てください」
お願いされたーーーーーーー!
「わ、わかった。それじゃ!」
そう言って俺は俊足でその場を離れ、竹林へ帰った。
俺が戻ったときの妹紅の表情はなんとも言えないものだった。
不安、心配、安心が入り交ざったような。
「すごい心配したんだよ!大丈夫!?何もされてない!?」
「ああ、まあ。でも、なんか引き止められて」
「引き止められた!?ひどいことされてないよね、あんな悪女のそばにいて・・・」
本当に無事!?と心底心配そうに俺を見上げる妹紅。
「いや、全くと言っていいほど怖くなかったけど」
「けど?」
「・・・・俺からの印象で言えば、」
かぐや姫は変な人。(怖い要素なんてひとつもありゃしない)
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うpろだ580
退屈ね・・・・。
一通りネット巡回を終えた私は私室でぼーっとしていた。
と、何か音が鳴っているのが聞こえた。
どんどん、どんどん。
「あー・・・えーりん、出といて。また怪我したじいさんとかだろうから」
寝そべりながら言う。
…だが、いくら待っても返事はない。
その間にも扉を叩く音は大きくなっていく。
「うるさいわね・・・」
インターフォンがついているのに気付いていないのだろうか。しかも最新式カメラつき。
本当に誰もいないみたい・・・仕方ないけど出るか。
扉を開けるとそこには背の高い男がいた。
しかも出会い頭にてるよなんて言ってきやがった。いい度胸してるわねコイツ。
「悪い。あ、いや、すいません」
そんな謝り方で済むと思って・・・・・
ってちょっと待って。
よく考えてみればコイツかなり運のいい男ね・・・珍しい、迷わずに来れた者なんて。
…それを言ったらあのじいさんもだけど。
「・・・気にしなくていいわ。
それよりここに来れるなんて珍しい客人ね・・・・」
わ、私は何を言ってるの?
あんな不躾な言葉を言われたんだからもうちょっと怒ってもいいはずなのに。
「薬師さんと主人にも挨拶しとけって」
しかも、私。
本人目の前にしてそんなこと聞くなんてこの人は私の事知らないのかしら。
彼に、私が主人だと言えば、箱を渡された。
お礼の品を渡すためにここまで来たのね。
「じゃ、用は済んだしこれで」
そう言って帰ろうとする彼を私は慌てて引き止めた。
「ちょ、ちょっと待って!」
私が止めると彼は少し驚いた顔をした。
私だって驚いてるわよ。
なんたって体の方が先に動いたんだから。
そして彼をお茶に誘い、客間まで連れてくることに成功。
彼に緑茶と紅茶どっちがいいか尋ね、二人分の緑茶を用意する。
入れ終わると片方を彼に渡し、私も椅子に座った。
そういえば私、この人の名前まだ知らないわね。
「名前」
そう一言言うと聞き返された。
言葉足らずだったかしら。
「・・・貴方の名前。なんていうの?」
そう聞けば分かってくれたみたいで答えてくれた。
「○○だけど」
○○って言うのね。
○○、○○、○○、○○○○○○○○・・・・・
よし!覚えた。もう忘れない。
もし忘れたりなんかしたら自分で自分を殺してやる。
「○○」
「な、なんでしょう・・・・てるよさん」
名前を呼べば敬語で返ってきた。
さっきは普通だったのに。
だから○○に敬語を止めてもらい、呼び捨てにするように言ってあの不名誉な名前も訂正した。
で、さっきから気になってたことを○○に聞く。
「○○、貴方は私の事知らなかったの?」
本当に知らなかったらこれから私のいい所をたくさん知ってもらおうっと。
「ああ、知らなかった。今日知り合いに聞いて初めて知ったよ」
なんですって!?
知り合いから私の事聞いたの!?
ちょっと、その人○○に変なこと言ってないわよね!?
「そ、その知り合いになんて聞いたの・・・・!?」
「!?」
あ、今○○の表情が強張った。
びっくりしたわよね。
大丈夫、私自身もびっくりしたから安心して。
「あー・・・なんか男を騙して貢がせる悪女で
ただの引きこもりで、お風呂には一週間に一度しか入らないようなぐーたら姫様だって聞いたけど・・・・って、聞いてるか?」
なんてことを!
貴方の知り合いはそんなこと言っていたの!?
私の印象絶対悪くなってるじゃないのよ!!
というか絶対それあの下賎な女、詳しく言えば藤原妹紅よね!?
ちょっと!殺すわよ!?
ダメダメ・・・そんなことしたら○○に嫌われちゃう。
私が黙り込んでしまったのを心配してか、○○は声をかけてきてくれた。
「おーい、大丈夫デスカ・・・・?」
ダメよ・・・・○○・・・・。貴方の声がだんだん遠く・・・・
「えーと、輝夜?」
○○に名前を呼ばれて私ははっとした。
いけないいけない。自分の世界に入り込むところだったわ。
そう、てる・・・じゃなくて輝夜ワールドに。
でも、もう大丈夫よ。
○○が名前を呼んでくれたから元気でたわ!
「・・・大丈夫。何もないわ」
「それならいいが・・・・
じゃ、そろそろ俺おいとまするよ。ごちそうさまでした」
「え、もう帰っちゃうの!?まだここにいてくれても構わないのよ!」
まだ○○とお話したいのに!
「俺、知り合いのところ早く行かなくちゃいけないし・・・」
私が止めると○○は少し困った顔をした。
それじゃあ、これ以上は止められないわね。
妹紅にはあとで仕返しするとして・・・・今は無理矢理しても○○に嫌われてしまうわよね。
そんなの嫌すぎる!
「・・・そう。じゃあまた近いうちに遊びに来なさい」
私がそう言うと○○は少し戸惑った。
だからまた来てくれるように頼んだら快く引き受けてくれた。
流石○○。優しいのね。
○○はよほど大切な用事があったのか、さよならの挨拶をすると急いで帰っていった。
「○○、か・・・・」
次はどんなお話をしようかしら?
「あら、姫。今日は機嫌がいいですね。何かいいことでも?」
「ああ、永琳。私はね、今日恋をしてしまったのよ」
「そう、なるほど恋を・・・・は!?」
かぐや姫恋をする。(貴方のことが頭から離れないわ!)
うpろだ582
「○○、今日の夜ちょっと時間あるかしら?」
「ああ、いたってヒマだが」
「じゃあ、今日の夜12時に私の部屋へ来て!」
某日。
月が綺麗な夜。
あの『ちょっと変な』輝夜に誘われ、永遠亭へ向かう。
最近は妹紅に頼まないでも一人で迷わずにここへ来れるようになった。
それもある意味必然というか、仕方ないのだが。
何故なら・・・・・
「・・・・またか」
狭い竹林の中には所狭しとカラフルな標識が掲げられていた。
『永遠亭はこっち』『おいでませ永遠亭、主に○○』『ここを右に曲がって左へターンよ』『○○、絶対に迷っちゃダメよ!』
最後の一つは俺へのメッセージだろどう見ても。
ここはみんなの竹林じゃなかったのか。
何回も止めろと言ったのだが・・・聞き入れてはもらえなかったようだ。
はっきり言って恥ずかしいんだよ!個人名書くのは止めてくれ!
「そういえば妹紅最近見ないなあ・・・・・」
修行してます。打倒てるよ。
そして到着(せざるを得なかった)、永遠亭。
さすがにお誘いを無視はできないからな・・・したらしたであっちから来そうだし。
俺はここ数週間輝夜と交流を持っているが、相変わらずよく分からない。
とりあえず分かるのはただ一つ。
あいつのイメージがどんどん変わっていってる事だけだ。いろんな意味で。
そしていつの間にか仲良くなった薬師のえーりんやらペットのうどんげやらてゐやらと挨拶を交わして中へ入れてもらう。
あいつらは俺が来るたびに哀れみの視線を向けてくる。
言いたいことは分かってるよ。『ああ、またか』『あんたも頑張ってるね』『ま、どんまい』
俺もそんなあいつらに生温い視線でもって答え、そしてかの姫に会いに行くのだ。
…輝夜も、悪いやつではないんだけどなあ。
コンコン。
「輝夜、入るぞ」
「あ、○○来てくれたのね!ありがとう!さ、早く入って!ここ座って!」
部屋に入れば、待ってましたと言わんばかりに輝夜に歓迎された。
そして、いつものように椅子へ座る。
「○○!今日何の日か知ってる?」
「月曜日」
そう即答すると輝夜は一気に落ち込んだ。
バックが黒いんだが・・・・!!
何故だ!?今日は月曜日だろう?
どうして凹む!?
「おい、輝夜・・・?」
「ふふ、そっかぁ・・・今日は何の日か知らないのね・・・まあ、月曜日ってのは合ってるけど・・・ボケにしても最悪よ・・・・
うん・・・・○○知らなかったのかぁ・・・・教えてないから仕方ないわよねぇ、ふ、ふふふ・・・・・」
怖いんだが・・・・・・!!
何か、ブツブツ言っている!!
「えーと、輝夜さんや。今日は一体何の日何ですかねぇ・・・・」
あまりにも凹んでるから今日は何の日か聞いてみた。
「え、知りたい!?○○知りたいの!?」
オイオイ。
今のは確実にウザいぞ、てるよ。
「あ、ああ」
「聞いて!今日はね!私の誕生日なのよ!」
誕生日?
「輝夜今日誕生日なのか!?」
「ええ!」
「そうだったのか・・・誕生日おめでとう」
「ありがとう○○!」
「でもなんで俺なんか誘ったんだ?しかもこんな夜中に」
ここにはたくさん輝夜の家族がいるっていうのに。
「それはやっぱり○○に一番に祝ってほしかったからよ。
もちろん永琳たちとも祝うけど、誕生日を迎える瞬間に○○にいてほしかったの!
・・・いつもは誕生日なんて重要じゃないから忘れてるんだけど、今年は、○○がいるから」
……お。
こいつでもこんな、普通の女の子らしい顔、できるんだな・・・・
「ま、付き合ってやるよ」
「ありがとう!今日はケーキとか色々用意してるのよ!食べていってね」
そう言って輝夜はケーキやら菓子類をこれでもかというくらい持ってきた。
おいおい、ちょっと待て。こんなに食べきれないぞ。
全部片付けようと思ったら朝までかかるんじゃなか?
「いっぱい食べてね」
「お、おう、ありがと・・・ってワンホール!?」
いっぱい食べてね、の言葉と一緒にホールケーキ丸々一個突き出されたぞ!?
「え、足りない?やっぱり男の人はよく食べるから一個は少なすぎよね」
「足ります足ります足りすぎます一個で十分です!」
こいつ一体何個ホールで持ってきてんだよ!
さらに二つ出してきたぞ!
「そう?よかったらこれも食べて」
「いや、いい・・・そんなに食ったら太るしな」
「○○男にしては全然細いじゃない。むしろもっと太りなさい」
「余計なお世話だ」
つーかそんなに甘いモン食ったら病気になるんだよ!!
本当に世間知らずな姫様だなオマエは!
それから色々あった。
輝夜がおもむろに蝋燭をどさっと袋で取り出して『年齢分飾るのよね』とか言って袋ひっくり返してケーキがロウまみれになったり。
クラッカーなるものを間違えて自分に向けて発射してしまい驚いて騒ぎまくったり。
何故か菓子袋の中にネズミ花火が紛れ込んでいてさらに何故か発火(お約束)、やっぱり大騒ぎになったり。
まあそんな感じで、ケーキを食べて(結局半分しか食べれなかった)、紅茶も飲んで、輝夜と色々話している間に数時間が過ぎた。
「あ、もうこんな時間ね。朝日が昇ってるじゃない」
「結局徹夜かよ・・・・・・」
「○○、もう帰る?それともこのまま残って一緒にみんなでお祝いする?」
「んー・・・今は寝たいんだが、まあ、いいか」
こんな日があってもいい。
というわけで残留コース決定。
「なあ輝夜、初めに祝ってもらう相手が俺で本当によかったのか?」
「もちろんよ!楽しかったわ、ありがとう。・・・これ、来てくれたお礼。よかったら貰ってくれる?」
輝夜に何か小さな包みを渡された。
開けてみると、そこには歪な形をした黒いクッキーが数枚、入っていた。
「・・・これは?」
「焼いてみたのよ、○○のために。
・・・失敗したんだけどね、上手くいかなかったわ。
―――こんなのじゃ、やっぱりお礼には釣り合わなかったわね。返しても、いいわよ」
…ったく、菓子なら最初に出しておけというに。
おかげでこんな雰囲気になっちまったじゃないか。
もう、菓子なんて食べ飽きて当分はゴメンだが―――
「・・・ん、美味いよ」
「!○○・・・・別に、お世辞はいいのに」
「そんなんじゃない・・・・ありがとな」
「あ・・・え、ええ・・・・・」
そんな顔されたら、こっちまでどうにかなってしまいそうじゃないか。
ったく・・・輝夜のやつ。
「今度何か礼するよ」
「じゃあ、今ちょっとお願いがあるんだけど・・・・」
「何だ?出来ることならするぞ?」
「・・・もう一度、おめでとうって言って」
「そんなのでいいのか?」
「うん」
「輝夜、誕生日おめでとう」
「ありがとう!」
かぐや姫の誕生日。(あれ?祝うつもりだったのに逆にプレゼントされたな・・・何故だ?)
うpろだ586
「○○、遊ぼー!」
「お、てゐか」
いつものように永遠亭で過ごしていると悪戯兎のてゐが話しかけてきた。
…いつものように、か。
俺もここにいるのが普通になってきたな・・・
それにしてもてゐがこうも素直に真正面から話しかけてくるとは珍しい。
普段はもっとこう、後ろから不意をついて転ばせるくらいなのに。
…これは何かあるな?
「よし、受けて立とう。これでも昔は里髄一のトラップマスターと恐れられたもんだ」
「ふふ・・・何のことかウサ?」
「お前がウサウサ言ってるときは絶対何かあるんだよ」
ここ最近ずっとここにいてこいつらと付き合ってきたので大体の性質は理解できる。
売り言葉に買い言葉ってやつで、こいつの罠をどう潜り抜けようか楽しんでる俺も俺だけどな。
てゐもそれを分かって俺に罠をちょこちょこ仕掛けてるみたいだし。
「で、今日は何だ?もう縄系の罠にはひっかからないぞ、前回で極めた」
「さすが・・・・この私の認めた男○○!
でも強気でいられるのも今のうち。なんたって今回はとっておきの――――「○○!」
構えていると急に輝夜が声をかけてきた。
「てゐと遊んでるの?」
「ああ」
「ふうん・・・・ま、てゐなら心配は要らない、わよね?ふふふふふ」
『心配は要らない』のところをやけに強調して、満面の笑みで輝夜が言う。
「!・・・・・そ、そうウサね・・・・
・・・○○っ!私は罠を練り直してくるウサ。だからゆっくりしててね・・・ウサウササ~」
逃げるようにてゐはどこかへ走っていった。
「・・・いくらなんでもウサ使いすぎだぞ・・・」
「あら、どうしたのかしらてゐってば」
多分お前が怖くてこの場にいれないんだと思うぞ。
「○○、何して遊ぶの?」
「さあ・・・まあ、てゐの罠に付き合ってやるくらいだよ」
「そう。怪我しないようにね!突き指とか気をつけるのよ」
「今までそんなことなかっただろ?俺、運動神経いい方だからそんなヘマはしないって」
「今回はあるかもしれないじゃない。○○の手はキレイなんだから、怪我したら台無しよ!」
「はは、心配どうも。じゃ、俺そろそろ行くな。また後で!」
そう言っててゐの行った方へと走る。
まさか、輝夜があんな心配するとは思ってなかった。
手がキレイ、とか男に言う言葉ではないが・・・・
ちょっと変わってるけどやっぱりいい奴だな。
その後はてゐとの罠合戦も乗り越え、永琳から差し入れも貰い、実に穏やかに永遠亭での日常は過ぎていった。
そして今。
「わーい!○○、悔しかったら捕まえてみなさいよー!!」
「言ったなコノヤロウ!」
まさにてゐとの追いかけっこなわけである。
そのやり取りは実に和やかに見えるが侮るなかれ。
二人とも結構全速力(特に俺がかなり疲弊している)。
…あんな子供に俺が本気を出すのもかなりアレだが、そうでもしないと追いつけないのだ。
一体何なんだあの兎っ娘は。
いや普通ではないことは分かっているけれども。
「よし、追いつきそうだ・・・・!」
てゐの耳が俺の目の前で揺れている。
耳でも何でもいい掴んだモン勝ちだっ!!
だが事態はそう甘くはなかった。
「てゐ、獲ったり・・・・っ、うお!?」
「うきゃあっ!」
後もう少しというところで直線上にいた誰かに激突してコケた。
「痛って・・・・」
「うわぁ!○○ごめんなさいっ!」
そこにいたのはうどんげだった。
彼女の方も尻もちをついてかなり慌てている。
「大丈夫、足痛くない!?」
「ああ、大丈夫」
「ほんとに!?真正面から当たっちゃったけど・・・・」
「ちょっと何そこで二人してコケてるの?」
てゐも様子を見にやってきた。
「うどんげこそ大丈夫か?」
「え!あ、私は平気。人間より丈夫だし・・・本当にごめんね」
「○○、念のために診てもらってきたら・・・?変に捻ってたりしたら大変よ」
てゐが指し示したのは永琳のいる治療室の方。
うどんげなんかもう泣きそうだ。
「うどんげは悪くないだろ、俺の前方不注意だ。それに足、痛くないから。気にするなよ」
「男らしいこと言うのね!ほら、うどんげも早く立って」
「うう・・・○○・・・!」
そんな会話を背にし、俺は永琳の所へと向かった。
「大丈夫、強く捻ったりしてないみたい。うまく転んだのね。これなら大丈夫よ。
あ、でも一応念のため足に負担のかかるようなことはしないようにね」
「ありがとう、永琳。それじゃ」
足に異常はないようだ。よかった。
それにしても、あんなところでコケるとは思ってなかったなあ・・・
うどんげが相手だったからだろうか。
あいつ、結構鈍くさいからな・・・
「○○っ!」
「か、輝夜!?」
うわ、びっくりした。
「今永琳の所から出てきたけど怪我!?」
「ああ、ちょっとコケて。うどんげと正面衝突しちまったんだよ」
「コケたの!?うどんげと当たって!?待っててうどんげすぐシメてく「やめてください」
何もそこまでしなくても。
お願いだから永遠亭で殺人を起こさないでくれ。
「本当に平気だから。何も心配しなくていいから!じゃ、俺戻るな」
「む、無理はしないようにね!」
「分かってる」
今日はコケたのを理由に一日中輝夜に心配された。
自主的に何か手伝いをしようと永琳の薬瓶を運んでいたときも。
「○○!そんなに重いもの持って平気!?足に負担かからない?私が持ちましょうか?」
「大丈夫、俺一人で行けるから。それよりお前も何か自分の仕事しろよ」
昼飯を食いに二階へ上っていたときも。
「○○、どこ行ってたの?」
「え、二階。あそこで弁当食うと竹林が見えていい景色だし」
「あの二階までの長い階段上ったの!?ダメじゃないのよ!!
足に負担かかるでしょ!?無理しちゃダメだって言ったのに!」
無理なんてしてないんだがな・・・
「ん、悪いな・・・」
「・・・私も言い過ぎたわ、ごめんなさい。
それより何で言ってくれなかったの、ご飯なら私が食べさせてあg「お前はまず自分の茶碗を片付けろ」
「○○、今日何か疲れてない?」
「あー、わかるかてゐ?今日やたらと輝夜に遭遇するんだよ」
「そ、そう・・・ウサウサ」
「・・・・・・・。
ちょっと俺トイレ行って来るよ」
「あ、うん、行ってらっしゃい」
そして廊下に出る。
「○○!」
「わっ!?お、驚いた・・・・」
急に現れるの止めてくれ・・・本気で驚く・・・・
「○○どこか行くの?」
「あ、ああ。ちょっとな」
「どこに行くの!?私も行くわ!」
それは勘弁してください。
「トイレだからついてこなくていい!なんで俺にいちいちついてこようとするんだよ・・・・」
「私、○○のことが心配で心配で仕方がないのよ!」
かぐや姫は心配性。(だからっていたる所に現れないでください)
うpろだ593
「そういえば、○○は薬師の端くれだって聞いたけど」
平和な永遠亭での昼下がり。
うどんげがいきなり口を開いたかと思えば、そんなことを言ってきた。
「ああ、そうだけど・・・お前知らなかったのか?」
「知ってるわけないでしょ、○○が言わなかったんだからっ」
この前里の方に薬を配りに行って、その時聞いたんだからね。
そんな感じにうどんげは頬をふくらませている。
…そこでなぜ怒るんだ?
「だって言うほどのことでもないと思ったしな」
「○○ってばここをどこだと思ってるの?天才と謳われる我らが師匠が居をかまえている所じゃない」
「ああ、永琳な。あの人はすごいと思う」
なんかこの時代の科学では作れないような薬とか持ってるし。
この前不老不死の薬とか言って変な薬持ち出してたけどあれ何だ。
「って、○○分かってるんじゃないの」
「あのな、俺も永琳の所行って色々見させてもらったりしてたんだっつの。
・・・でも薬師になる気はないけどな」
少し興味があっただけで、更にうちの家系に薬師が多かっただけのことだ。
基本的に頭の悪い俺にはあれは向いていない。
「えー、もったいない。私が教えてあげるからがんばろーよー」
「いい。めんどい」
「がびん」
俺は今のままの生活でいいんだ。
働いてないわけではないし、高望みするほどの勇気も持ち合わせちゃいない。
「むー・・・・ま、今はそれはいっか。
薬師つながりでね、姫が呼んでたわよ」
どういう繋がりだ。
それなら普通永琳じゃないのか。
「ま、いいか・・・じゃ、行ってくる」
「健闘を祈っとくねー」
コンコン。
「入っていいわよ」
「失礼する。輝夜、俺に何か用か?」
「○○っ!?来てくれたのね!ありがとう、私はとても嬉しいわ!!」
そんなに喜ぶことなのか。
「そ、そうか。ところで用って」
「まあ、ここ座りなさいよ」
輝夜に言われて椅子に座る。
「あのね、大した用じゃないんだけど・・・・○○、永琳に弟子入りしない?」
「は?永琳に?」
なんかいきなり目の前に百万円を持ってこられた気分だった。
それくらい突拍子もない話だったのだ。
「なんで俺なんか誘うんだ?どうせうどんげから聞いたんだろうが、俺は薬師でもなんでもないぞ」
「じゃあこれから頑張ればいいじゃない!○○、私は応援してるわ」
「いやだから俺は薬師の家系なだけでなりたいとか全然そんなんじゃ」
「それは○○だからどうでもいいのよ!ほら、私の専属薬師にしてあげるから!」
意味が分かりません。
それにそれだと永琳の立場がなくなるぞ。
「いきなり弟子入りはちょっとな・・・」
「どうして!?誰か他の人に弟子入りしてるの!?」
「いや、してないが・・・」
「じゃあいいじゃない!何事もやってみなくちゃ始まらないって言うし。○○、案外才能あるかもよ」
生まれてこの方そんな希望を持ったことなど一度もないが。
「じゃ、これに名前書いてサインしてね」
俺はまだいいなんて一言も言っt「はい、○○!筆よ」
…え、これにサイン・・・・?
「・・・・これに?」
「ええ、それに」
いやいや、こんなのサイン出来ませんがな。
「この、婚姻届に?」
「え!?私そんなの出してた!?ごめんなさい、間違えちゃったわ!まだ早すぎるわよね」
早すぎるって何が。
というか何でそんなもの持ってるんだ・・・・?
「ごめんなさいね。そしたらこっちにサインお願い」
今度はちゃんとした契約書(?)みたいなのを渡してきた。
しかしなあ、俺は薬師になる気なんて微塵もないからなあ・・・・。
才能も本人のやる気もないんじゃ、どうなるにしたって上手くはいかないと思うのだが。
「輝夜、悪いが俺はやっぱり無理だ」
「え、どうして!?なってくれないの!?」
「俺、薬師なんて向いてないだろうし・・・薬師がもう一人欲しいなら別に俺じゃなくても」
「私は○○がいいのよ!○○が好きだから!」
好き?俺を?
あ、なんか輝夜、言っちゃった・・・・!って顔してる。
別に人に好意を持たれるのは嫌じゃない。
でも輝夜に言われるとなんだかなあ・・・・
確かに綺麗だがちょっと変わってるし・・・・・。
「それは嬉しいんだが・・・やっぱり薬師になるっていうのは」
「ねえ、お願いなってよ!!」
「いやでも重ね重ね言うが俺にはこういう仕事は向いてないだろうし・・・
それに俺が弟子入りしたことで永琳が余計に大変になるんじゃないのか?」
「それでもいいから!!永琳には私が言っておくし○○に不自由はさせないわ!!」
粘りますね、輝夜さん。
「あーもう、というかお前はなんでそんなに俺を永琳に弟子入りさせたがるんだ?」
「何でって・・・・それは勿論弟子入りという理由にかこつけて○○に居候してもらうためじゃない!」
「それが本音かよ!!」
かぐや姫の勧誘。(はっ!言っちゃった!!)(それ弟子入りとか全然関係ありませんから)
最終更新:2010年05月29日 00:21