輝夜6



新ろだ15,18,21,45、108


ある満月の夜

輝夜「…………」
永琳「どうかしましたか?」
輝夜「昔のことを思い出していたの」
永琳「昔……というと月にいたころですか?」
輝夜「1300年くらい前よ」
永琳「外の世界にいたころですね。今でいう飛鳥・奈良時代あたりですか」

しばらく沈黙が続く

輝夜「知ってる?」
永琳「?」
輝夜「私ね、後悔していることがあるの」
永琳「……心当たりが多すぎて特定できませんが」
輝夜「ある人間に私が幻想郷入りすることを伝えたかった……でもできなかった……」
永琳「姫に想い人ですか。是非その話、聞きたいですね♪」
輝夜「そ、そんなんじゃないわよっ!!」
永琳「違いましたかー♪でも私が地上に来る前の話には興味あります」
輝夜「うぅ……わかったわよ……」


 -1300年前-


竹取の翁の小屋……
そこはかぐや姫の噂を聞きつけて足を運ぶ男は後を絶たない。
今宵満月の夜も例外ではなかった。

男「いときよらなり……」
輝夜「……次」

こんなやりとりが何十回も続いていた。
この男はかぐや姫こと輝夜に求婚している。
しかしどんな言葉を投げかけようが宝物を貢ごうが拒み続けている。

輝夜(何でこんなおじさんの相手をしないとならないのよ。
   もう今夜は打ち切ろうかな……)

次に入ってきた男は今までと違って10代半ばの少年であった。
おまけに同じくらいの年齢の少女を連れている。

少年「かぐや姫……?」
輝夜「いかにも」

少年「……こんなものか」

この言葉によって小屋どころか後ろの列まで沈黙が支配した。
そして当の本人である輝夜は目が点になっている。

少女「ば、バカ!何てこと言うんだ!!」
少年「あ……か、帰るか」

輝夜「今日の面会はこれで終わりにするわ……」

後ろに並んでいる貴族は色々な思いを抱いていた。
ある者はこれでライバルが一人減った、ある者はあのガキのせいで会えなかったなどなど……

輝夜「おじいさん、四半刻ほど時間をもらうわ」

と言って返事を聞かずに小屋から出て行く。

 -小屋からやや離れた場所-

少女「アホか!ヘタすると晒し首だぞ!」
少年「けどさ、いくら美しいといっても妹紅と比べたら大差ないし……」
少女「え……」

少女の顔が少し紅くなったのは気のせいではないだろう。

少年「それよりさぁ、かぐや姫はどうだった?」
妹紅「おかげで助かったよ。これも○○が協力してくれたおかげね」
○○「少しばかり興味があったからお礼を言われるほどのことじゃないって」
妹紅「それでもおかげで顔を見れたのは事実なんだし。だけどかぐや姫って年は私とあまり変わらないように見える」
○○「母上になっても傍から見れば姉妹だな」

こんな風に駄弁っているところに彼女は現われた。

輝夜「よかった。まだいたのね」

妹紅「おいおい、あれって……」
○○「かぐや姫っ!?」
輝夜「何よ、妖怪でも見た顔をして」
妹紅「い、い……」
○○「いかで……」
輝夜「無理してそういう言葉使わなくていいわよ。聞いている私まで疲れるわ」
○○「……けど姫がこういう言葉を使っていいものなの?」
妹紅「お前だって貴族のご子息様なのに普通に使っているじゃないか」
○○「妹紅と違って普段はご子息様やって固い言葉を使っているんだよ」
妹紅「私だって普段は貴族の娘をやっているんだ。○〇の前くらい楽させてもらってもいいだろ」
輝夜「私もああいう言葉はあまり好きじゃないわ。あんなのしゃべっていると頭まで固くなりそう」
妹紅「それは言えるかもね」
○○「頭だけじゃなくウンk…ぐえっ」
妹紅「それ以上言うな、バカ」
輝夜「ふふっ、仲がいいのね」

輝夜はこの二人が羨ましかった。
月から追い出された身ゆえ、地上には友人と呼べるのはいないのだから……

妹紅「こんなやつの友人やっている自分が信じられないよ」
○○「それ結構傷つくんだけど」
妹紅「娯楽としては十二分だから一緒にいて楽しいけどね」
○○「フォローしているつもり?」
妹紅「さあね、その蜘蛛の巣だらけの脳味噌で考えたら?」
輝夜「……二人ともいい友人なのね」
○○「三人」
輝夜「三人?」
妹紅「……ああ、三人だね」
輝夜「私も……いいの?」
○○「断る理由はないだろ?」
妹紅「そういうこと」
輝夜「本当に……ぐすっ……ぅ……」
妹紅「うわっ、泣き出したぞ。私じゃないからな」
○○「と、とにかく落ち着いて、かぐや姫」
輝夜「輝夜…っ…」
妹紅「姫……?」
輝夜「姫……らない……か…や……って呼ん……」
○○「輝夜、ほら泣かないで。きれいな顔が台無しだよ」
妹紅「……私は綺麗じゃないの」
○○「見た目は五分と五分だけど性格は……」
妹紅「死ね!○○なんか消えろ!富士山の火口で蒸発しろ!!」
輝夜「ごめん…私のせいで……」
○○「いつものことだから気にしなくていいって。それよりもう戻ったほうがいいんじゃない?」
輝夜「また…来てね?」
○○「約束するよな、妹紅」
妹紅「勝手にすれば。私たちも帰るよ」
輝夜「ほんとだ。何だかんだいって仲がいいのね。待っているわ。」


 -現代-


永琳「当時は妹紅とも仲が良かったのですね」
輝夜「今思うとあんな奴と仲良くして自分が嫌になるけど」
永琳「続き、聞かせてくれます?」
輝夜「気が向いたらね」
永琳「では気が向くまで待っています♪」



───────

永琳「失礼します」
輝夜「永琳?研究はいいの?」
永琳「はい、あとは時間を待つだけですから。ところで続きを聞かせてもらえますか?」
輝夜「……何のことかしら」
永琳「姫の初恋の話です」
輝夜「だーかーらーそうじゃないって!」
永琳「覚えているのですね。聞かせてもらえます?」
輝夜「………………」


 -1300年前-


竹取の翁の小屋にて三人で団欒をしている

○○「勝手に上がっていいの?」
輝夜「おじいさんは竹を取りに行っているし今は私が主だからいいの」
妹紅「父上は人様の小屋を自分のもののように振舞う娘に求婚していたのか……」
輝夜「へー、あの中に妹紅のお父様がいたんだ。○○も求婚しに来たの?」
○○「いや、それがさぁ……」
妹紅「うわぁっ!頼むから言わないでくれ!」
○○「言っても減るようなものじゃないだろ」
妹紅「恥ずかしくて死んじゃう!!」
○○「黙っていてもバレるんだから今言っても同じだって」
輝夜「そんなに恥ずかしい話?余計聞きたくなったわ」
○○「さっき妹紅の父上が輝夜に求婚しに行ったっていうのは聞いたろ」
輝夜「うんうん」
○○「もし輝夜が妹紅の父上に嫁入りしたら妹紅の母君になる」
輝夜「そうね」
○○「だから自分の母君になるかもしれない相手を見たいからって誘われたんだ」
輝夜「それだったら○○が一緒に来る必要ないんじゃない?」
○○「そうそう、そうなんだけど妹紅ったら……」
妹紅「言うな!言うなぁ!」
○○「女が一人でかぐや姫に会うのはおかしいから……」
妹紅「……もう好きにしてくれ」
○○「僕がかぐや姫に求婚し、妹紅はその付き添いという形にしてほしいって言われたんだ」
妹紅「………………」

三人の表情を天気に例えるなら
○○は快晴、妹紅は豪雨、輝夜は雪である。

輝夜「別に恥ずかしいことじゃないんじゃない?」
○○「だよね」
輝夜「どんな人物か気になるのはごく自然だし、男の中に一人で女が混じるのも変な光景だし」
○○「ところで相手は決まった?」
輝夜「何の相手?」
○○「この話で"相手"と言ったら一つしかないって。そうだろ、妹紅」
妹紅「……あっ、そうね。誰の申し出を受け入れるの?」
輝夜「決まっていないわ」

○○と妹紅は開いた口が塞がらなかった。

妹紅「あれだけいれば一人くらいは……」
輝夜「いないの」

○○「んじゃあどうやって決めるんだ?」
輝夜「どうやって決めようかなー」

呆れてものも言えない二人である。

○○「だけど輝夜は羨ましいな。各地から名のある貴族からモテモテで」
輝夜「私は○○と妹紅の方が羨ましいわ」
妹紅「嘘!?どうして!?」
輝夜「私は一日に何十何百もの男を相手にしないといけないの。
   それに引き換え二人はこうして自由に外に出られる……」
妹紅「私は貴族の娘だって公にされていないからできることよ。
   それにこいつは変わり者で有名だから外に出ても当たり前に見られるだけ」
○○「変わり者なら妹紅に負けるけどな」
妹紅「わけない!」
○○「ほー、屋敷の塀を乗り越えて僕の屋敷に侵入して藤原氏にこっ酷く叱られたのは誰だったかな?」
妹紅「あれ一回だけだろ!それ以降は普通に門から入っているじゃないか」
○○「普通に貴族の屋敷の門を素通りできる時点でおかしい」

輝夜「………………」

妹紅「どうかした?」
輝夜「私も町を普通に歩いてみたいなって」
○○「んじゃ歩くか」
妹紅「はぁ、本気で言っているの?」
輝夜「無理とわかって言ったことだから気にしないでいいのよ」
○○「輝夜ってバレなければ歩けるんだろ?」
妹紅「そうだけどそれができれば苦労しない」
○○「変装すればいいじゃないか」
輝夜「変装?」
○○「別人になりすますこと」
妹紅「どうやってやるんだ?」
○○「三人で考えれば一つくらい案が浮かぶはず」

輝夜「くすっ……」
妹紅「ふっ……」
輝夜「くっ…ふふふふふっ」
妹紅「ははははははっ!○○らしい」
○○「やるんだろ?」
妹紅「ああ、そのバカげた案に乗ってやる」
輝夜「ふふっ、できるの?変装」
○○「三人そろえば文殊の知恵って言葉があるからなんとかなるさ」


 -現代-


永琳「くすくすっ、バカですね」
輝夜「バカ!?」
永琳「違いますよ、その○○という貴族です。まさか手段を考えずに結論を出すなんて……」
輝夜「あの思考には笑わずに入られなかったわ。……これが始まりだったのかも」
永琳「何か言いました?」
輝夜「な、何でもない!今日はここまで!」
永琳「では明日以降続きを楽しみにしていますよ」
輝夜「……期待しないでよ」

──────────

永琳「姫」
輝夜「はいはい、わかっているわよ」
鈴仙「どうしたんですか?」
輝夜「永琳が続きを聞きたいんだって」
鈴仙「続きですか?」
永琳「姫の婚約者の話よ」
輝夜「初恋の人ッ!!」
永琳「初恋の人って認めてくれたのですね。ウドンゲも聞きたいでしょう?」
鈴仙「わ、私は……」
永琳「ウドンゲも興味があるみたいです」
輝夜「もう好きにして……」
鈴仙「恐れ入りますが、私は古語はよくわからないので現代語でお願いします」


 -1300年前-


輝夜を町案内する作戦についての会議は毎日のように行われた。
初めに竹取の翁の小屋で変装する案が出たが、これでは翁に迷惑がかかるということで輝夜に反対される。
そうすると藤原家か○○の屋敷に絞られるのだが、妹紅の父親である庫持皇子に見つかったらとんでもないことになる。
結果○○の屋敷で行うことになった。

そして決行の日
○○と妹紅のおかげで輝夜は○○の屋敷の前までたどり着くことができた。

輝夜「大きい屋敷ね」
○○「妹紅の屋敷はこれより大きいぞ」
妹紅「んなこと言っているとすぐに夜になるよ。早く中に入らないと」
○○「じゃあ僕は見張りを引き付けておくから妹紅は輝夜を例の方法で敷地内に入れて」
妹紅「了解。輝夜はこっちね」

○○は門から屋敷の敷地内へ入っていった。

輝夜「どうやって入るの?」
妹紅「私が○○の屋敷に入って父上に叱られたって話覚えてる?」
輝夜「まさか……」
妹紅「そのまさかだよ。よっと」

妹紅は塀に軽々と登った。

輝夜「……確かにこれじゃあ貴族の娘だと言っても信じないでしょうね」
妹紅「悪かったね、貴族の娘に見えなくて」
輝夜「私にもそれをやれって?」
妹紅「そう決めたでしょ。手伝ってあげるから」

輝夜は妹紅の手助けにより屋敷に入ることに成功した。

妹紅「後は○○の部屋まで行ければ第一段階は終了ね」
輝夜「また妹紅のお父様に叱られるんじゃない?」
妹紅「バレてないから大丈夫。もしバレていてもその時はその時ね」
輝夜「くすっ……その言い方○○に影響された?」
妹紅「かもね」

二人は笑いながら○○の部屋へ行った。

○○「よかった。二人とも無事だったか」
輝夜「おかげさまで」
○○「次は輝夜を変身させる方だね。化粧だけでも行けると思うけど一応代えの着物も用意しておいたから」
輝夜「ありがとう。私のために……」
○○「ありがとうは全てが上手くいって後に聞かせて欲しい」
妹紅「そうそう、まだ半分しか成功してないからね。始めるから○○は外に出て」
○○「?」
妹紅「着替え中に誰か入ってきたらまずいでしょ。それとも生着替えを覗く趣味でもあるの?」
○○「あー、はいはい」

○○は部屋の外に出て行った

妹紅「どれを着る?」
輝夜「結構多いわね。この国になさそうなものまであるわ」
妹紅「○○の家は貿易商と繋がっているから異国の着物が結構あるんだよ」
輝夜「あっ、これなんかよくない?」
妹紅「上は桃色で月の刺繍……下は赤色で竹や楓とか……変なの」
輝夜「着てみないとわからないわよ。私はこれにするわ」
妹紅「変わった趣味ね。まあこれくらいの方がバレなくていいか」

 -部屋の外-

臣下「○○様?」
○○「どうしました?」
臣下「何故○○様が廊下に?」
○○「藤原の娘が着替えておられます。嫁入り前の女子の裸体を見るわけにはいきません」
臣下「○○様、おなごに足元を見られるようなことは決して……」
○○「わかっています。しかし今日のところは多めに見ていただけないでしょうか」
臣下「○○様のことでしょうからお情けをかけたのでしょう。失礼しました」

 -部屋の中-

輝夜「○○って妹紅に劣らず貴族っぽくない貴族ね」
妹紅「私に劣らずっていうのが気に入らないね。けど前にも言ったけど変わり者で有名だし」
輝夜「私に会いに来ていた貴族は使用人を奴隷のような目で見ていたわ。
   それに引き換え○○は臣下にも丁寧に接しているのよ」
妹紅「○○の父上のように放任主義じゃなかったら叱られているだろうね。それでも貴族かって。
   だけどあのような態度のおかげで臣下の忠誠心もかなりのものだとか」
輝夜「妹紅に聞きたいことがあるの。ちょうど女同士だし」
妹紅「何?」
輝夜「○○のこと……どう思っている?」
妹紅「どうって……バカでお調子者で……だけど一緒にいないと寂しいかな。かけがえのない親友ね」
輝夜「じゃあ私が○○に娶ってもらっても文句ない?」
妹紅「な、何ッ!?」
輝夜「そんな大きな声出すと見つかるわ」
妹紅「悪かった……けど本気で言っているのか?」
輝夜「冗談よ。あくまでも例えばの話」
妹紅「じゃあ輝夜はどう思っているの?」
輝夜「私?だいたいは妹紅と同じよ。違うのは会ってからまだ日が浅いくらいかな」
妹紅「そう。○○が私が着替え中って言ったから念のために私も着替えておくか」
輝夜「妹紅は何にするの?」
妹紅「上はこの白いやつ、下は……この赤い変なものでいいか」
輝夜「下のものって男が着るようなものじゃない?」
妹紅「まっ、いいじゃないか」
輝夜「私のこと変わった趣味って言ったけど妹紅も人の事言えないわよ」

部屋の外と中でこんなやり取りが四半刻ほど続いて着替えも化粧も終わった

妹紅「もう入ってきていいよ」
○○「やっとか」

ふすまを開けると現代と々服装の輝夜と妹紅の姿だった。
ただし輝夜は化粧をしているのを除いて。

○○「これはまたすごいな」
輝夜「どう、似合う?」
○○「とても似合っているよ」
妹紅「最初はどうかと思ったけど着てみれば何とかなるものね」
○○「さすがにこんな化粧をして着物を着ていればかぐや姫だとは思わないだろう」
妹紅「それって私の化粧のウデがヘタってこと?」
○○「違う違う、一目見て輝夜だとわからないくらい上出来っていう意味。
   あれ、妹紅も着替えたのか」
妹紅「もし誰かが来たときのためだよ。私はどうかな」
○○「妹紅、男になってみるか?」
輝夜「ほら言われた」
臣下「失礼します」

突然さっきの臣下が部屋に入ってきた。

臣下「○○様……そちらの方は?」
○○「先ほど申した藤原の方と……」
輝夜「蓬莱山と申します」
臣下「蓬莱山様ですか」
妹紅「……そうそう、この方は京から参られた方よ」
臣下「京……それは大変だったでしょう。○○様のことをよろしくお願いします」

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妹紅「ふぅ……」
○○「ごまかせたぁ。だけど蓬莱山って変わった姓だね」
輝夜「だってさっきとって付けたようなものだし」
○○「取って付けた?」
妹紅「姓があるのは貴族だけで、庶民は名前だけしかないの。それくらい知っているでしょ?」
○○「そっか、輝夜はあの翁と嫗のとこだったか。だけどたいそうな名前だよ、蓬莱山って」
輝夜「着物と化粧でこんなに効果があるのね」
妹紅「ただ輝夜のことを知らないだけかもしれないけどね」
○○「いいじゃないか。これで外に出られるんだから」
妹紅「そのことなんだけどさ、私は屋敷に戻らないといけないんだ」
輝夜「どうして?」
妹紅「父上が話したいことがあると言っていたの」
○○「それなら仕方がないか。輝夜は僕が案内するよ」
妹紅「ごめん、二人とも……」
輝夜「謝らなくていいわ。もともとは私のわがままなんだし……」
妹紅「あっ、もう一度さっきの着物に着替えないと」
輝夜「というわけで○○は外に出てね」

妹紅が着替え、屋敷から出て行った。

○○「それでは姫、私○○が案内させていただきます」
輝夜「喜んでお供させていただきます、○○様」
○○「………………」
輝夜「………………」
○○「…………ぷっ」
輝夜「……ふふっ」
○○「あははははっ」
輝夜「ふふふふっ」
○○「やっぱりこういうのは性に合わないや。行こう、輝夜」
輝夜「私も普通に話している○○の方がいいわ。よろしくね」

こうして輝夜と○○は町へ行く。

輝夜「とっても賑やか、これが地上の町……」
○○「地上の?」
輝夜「違う違う、この地の町よ」
○○「輝夜って他の町を見たことあるのかい?」
輝夜「それは……ないんだけど。それよりさ、勝手に着物を持ってきてよかったの?
   ○○のお父様のものなんでしょ?」
○○「大丈夫、少しくらい消えたって気付かないよ」
輝夜「性格悪いわよ」
○○「国の男全員が狙っているというのを知りながら町に出たいという誰かよりはいいと思う」
輝夜「むー」

輝夜は顔を膨らせている。

○○「別に輝夜の事とは言ってないよ」
輝夜「じゃあ私のことを言っているの?」
○○「当たり」
輝夜「はっきり言うのね」
○○「ウソをついても意味がないからね」
輝夜「ひーどーいー」
○○「いいじゃん、性格の悪さは互角なんだから」
輝夜「……そういうわけね」
○○「どうかした?」
輝夜「妹紅が○○の屋敷に入り浸りになる理由がわかった気がするの」
○○「それは是非聞きたいね」
輝夜「その常に前向きな考えとバカさ加減」
○○「かわいい顔してなかなか毒舌なこと」
輝夜「か、かわ…………」

輝夜の顔がほんのり赤みを帯びた。

○○「色々な人に言われているんだから今更だろ?」
輝夜「………………」
○○「……輝夜?」
輝夜「えっ、ごめん何?」
○○「美しいとか貴族たちにさんざん言われているでしょ?」
輝夜「そ、そうだけど……」
○○「はっはーん、意識してる?」
輝夜「わけないわ、バッカじゃない?」
○○「うわー、姫が面と向かって『バカ』って言葉使ったぞ」
輝夜「今に始まったことじゃないわ。それに○○や妹紅だって使っているし」
○○「僕はそんな言葉は使いません」
輝夜「ウソなんでしょ」
○○「はい、ウソでございます」
輝夜「……ふふっ、私○○のそういうところが好き」
○○「それはどうも。僕も輝夜のこういう冗談に付き合ってくれるところが好き」

こうして町案内は特に問題が起こらず終わったのである。

輝夜「ところでさ、この着物もらってもいいかな」
○○「さっき言ったはずだよ。なくなっても問題ない代物だって」
輝夜「なくなっても気付かれないの間違いでしょ。遠慮なくいただくわ
   ○○、今日は私のわがままに付き合ってくれてありがとう。
   ○○と妹紅が協力してくれなければこんな事できなかったわ」
○○「どういたしまして。成功したことを妹紅に伝えたら喜ぶと思うよ」

輝夜「○○……さっき私のこと好きって言ってくれたこと……」
○○「んっ、何か言った?」
輝夜「な、何にも……?そろそろ小屋に戻らないとお客さんが来ちゃうわ
   また会うのを楽しみにしているわ」


 -現代-


永琳「あらあら、さすがの姫も恋には臆病なのですか」
輝夜「私はいつでもおしとやかよ」
永琳「と姫は言うけれどウドンゲはどう思う?」
鈴仙「その……姫は……」
永琳「おてんばと言いたいみたいですよ」
輝夜「イーーナーーバーー」
鈴仙「それは師匠の考えじゃないですか!」
永琳「あら、私はウドンゲの気持ちを代弁してあげただけよ」
輝夜「イナバは今日の晩ご飯抜きね」
鈴仙「姫、師匠……酷いですよ」



───────


輝夜「やっぱり今日も聞くんでしょ?」
永琳「もちろんです。女はいくつになっても恋の話には興味がありますから」
輝夜「もう永琳は億単位なのに……」
永琳「そうれは姫も同じでしょう」
鈴仙「町でデートした後はどうなったんですか?」
永琳「ウドンゲも積極的に聞くようになったわねぇ」
鈴仙「あっ、いや……そのぉ……」

さすがに昨日晩ご飯抜きにされたのが答えたのだろう。

輝夜「今までどおり昼間に会って三人で話していたわ」
永琳「では五つの難題を出した時はそのことを○○に伝えたのですか?」
輝夜「私が伝えなくとも妹紅から伝わっていたわ。もちろん全員失敗に終わったことも」


 -1300年前-


○○「輝夜……」
輝夜「言わなくていいわ。妹紅は来ないんでしょ?」
○○「ああ……最近は僕の屋敷に来る回数まで減った」
輝夜「ごめんなさい……」
○○「……帰るよ、僕も輝夜も今はまともに話せそうじゃないから」
輝夜「ごめんなさい……」

五つの難題によって輝夜、妹紅、○○の関係は崩れるのは予想していたことだが
現実に起こるとやはり三人には辛かった。
それから数日後も○○が翁の小屋にやってきた。もちろん一人で……

○○「聞かせて欲しい。なぜ求婚を断り続けるのか」
輝夜「………………」
○○「帝にも求婚されたのに断ったらしいね」
輝夜「………………」

輝夜(私は月の民だから、近いうちに蓬莱の薬の罪が許されて月に帰る日が来てしまうから)

言えなかった。
こんな事を言ったら○○ともう会えなくなる
それなら帰るその日までこのことは黙っていてそれまで○○話したい
そう輝夜は考えていた。

輝夜「ごめんなさい……今は言えないの」
○○「そう……」


こうして3年の時が経ち……


夜になると輝夜は外の月を眺めることが多くなった。

翁「かぐや姫、近頃月をよくご覧になられますな」

輝夜(そろそろここともお別れ……か)

輝夜「う……う゛ぅ……」
翁「かぐや姫!?」

地上で親しくなった人たちと別れなければならない。
そう思うと輝夜は泣き出してしまった。

そして8月の満月の日に月と地上の道ができ、月から輝夜を迎えに使者が来る
そう翁に伝えた。

翁「まさか……」

帝が輝夜を無理矢理都に連れ帰ろうとしたときに
輝夜は姿を消し、地上の人間でないことを見せた。
そのため帝の求婚を断ることができたのだった。

輝夜(……これで○○や妹紅ともう会えないのね)

翁は自分の娘のようにかわいがっていた輝夜を手放すのは辛かった。
結果このことを帝に知らせ、当日の夜には軍隊が翁の小屋に配備されたのだった。


 -現代-


永琳「そこからは私も知っています」
輝夜「じゃあ終わりね」
鈴仙「ちょっと待ってくださいよ。○○さんとはどうなったのですか?」
永琳「ウドンゲも言うようになったじゃない。私も是非聞きたいです」
輝夜「わかったわよ。あと少しだから最後まで話すわよ」


 -1300年前-


使者の一人である永琳の手によって月の使節団は消えた。
輝夜が月に帰るのを拒んだためである。
帝に蓬莱の薬等を送り、輝夜は月に帰ったことにしてもらった。

永琳「姫、ここにいてはまた使者が送られてきます」
輝夜「そうなの?」
永琳「はい、ここから離れましょう」
輝夜「ま、待って!明日じゃ無理?」
永琳「月が私の裏切りを知ればすぐにでも追手を送り込みます
   そんなに時間はありません」
輝夜「じゃあ半刻……いいえ四半刻でいいから時間をちょうだい」
永琳「何をなされるんですか?」
輝夜「歌を書いてある人に渡すの」
永琳「その程度なら……まあ大丈夫でしょう」



 -さらに3年前 五つの難題を出す前-


輝夜「そういえばさ、○○は誰かに求婚とかしないの?」
○○「そうだね、父上も誰かに歌を送れとか言っていたよ」
輝夜「歌を送る?」
○○「そう、5・7・5・7・7の文字で一つの歌が完成する」
輝夜「面倒な制限ね」
○○「だけど5文字と7文字は聞こえがいいでしょ」
輝夜「~~~、確かにそうね。歌で恋文を書くの?」
○○「残念、それだけだと半分不正解」
輝夜「後の半分は何なのよ」
○○「文字通り半分だよ。上句である5・7・5で求婚する。
   そして下句の7・7で返事を書く」
輝夜「それだとおかしな歌になるんじゃない?」
○○「だから上句と下句で筋が通っていれば承諾、
   通っていなければ拒否、そんなところだよ」
輝夜「本当にそんなことやるのか怪しいけどなかなか面白い方法ね。
   あれ、じゃあ私のときは……」
○○「これは貴族同士での求婚方法なんだ。
   輝夜はおじいさんのところの娘だから当てはまらなかったんだよ」
輝夜「じゃあ例えば私から○○に送るっていうのはあり?」
○○「いやいや、基本的に男から女に送るものだからそれはちょっと……
   それにこれは僕個人のやり方だし……」
輝夜「じゃあ普通の貴族は?」
○○「歌を歌で返す、それが一般的だよ」


 -3年後-


輝夜はすずりと筆を取り、しばらく考える。
そしていい句が浮かんだのか書き出す。

永琳「書けたようですね。どんな歌ですか?」
輝夜「だめ!見ないでよ!」

こんなムキになる輝夜を見て永琳は微笑んだ。

永琳(とても大事なことなのね)

歌を書き終えると二人は翁と嫗、そして帝にお礼を言って小屋を後にした。

輝夜「永琳、少しだけ寄り道させて」
永琳「重要なことですか?」
輝夜「私にとっては重要なことよ」
永琳「わかりました」

寄った先は○○の屋敷である。
永琳を含む使者が来たのは今で言う午後11時。
あれからいくらか時間がたっているので見張りを除けば寝ている。

永琳「この屋敷に入るのですか?」
輝夜「そうよ。1分経たずに終わらせるわ」

輝夜は空から敷地内に進入し、○○の部屋の外まで来た。
そして先ほど書いた歌を窓から部屋の中に入れた。

輝夜(もう二度と会えないのよね……
   本当は歌じゃなくて口で気持ちを伝えたかった。
   こんな歌送られても返す相手がいないなんて○○はどう思うんだろう。
   最低よね、私……)

輝夜は屋敷から出て永琳とともにこの地を去った。


 -現代-


永琳「結局片思いか両思いはわからずじまいですか……」
輝夜「せっかく話してあげたのにそれはないでしょ」
永琳「いいえ、聞いていて楽しかったですよ。姫の初恋の話」
鈴仙「○○さんはどうなったんですか?」
輝夜「知らないわよ。あれから一度も会わないでここに来たんだから」
永琳「もしかしたら転生していて、案外近くにいたりするかもしれませんね」
鈴仙「ところで姫、どんな歌を作ったんですか?」
輝夜「それは私と○○の間だけの秘密よ」
永琳「大丈夫ですよ。17文字で表現できるのには限りがありますから」
輝夜「永琳にだって教えないんだから」
永琳「姫様ぁ~お願いしますよぉ~」
輝夜「いーや。そんな駄々こねたような言い方しても教えない」



──────


鈴仙「では行ってきます」
永琳「ナンパされてもホイホイついて行かないようにね」
鈴仙「ついてきません! それにナンパなんて……」
輝夜「何? 私をハブいて楽しいおしゃべり?」
鈴仙「姫、聞いてくださいよー
   師匠ったら薬を売ったのはいいけど
   私がナンパされてそのまま男人の部屋に行っちゃうなんて言うんですよ」
輝夜「へぇー、イナバなら騙されやすそうだし十二分にありえるんじゃない?」
鈴仙「ありえないです!!」
輝夜「そうそう、イナバはどこへ行くつもり?」
鈴仙「人里へ薬を売りにですよ」
輝夜「なら私も一緒に行くわ。外に出ないと体が鈍っちゃって妹紅に殺されるし」
永琳「あらあら、姫が自ら外出なんて珍しいでね」
輝夜「何よ、私がインドア派だって言うの?」
永琳「今までの経験からだと姫はインドア派ですね」
輝夜「永琳ひどーい」

今日の永遠亭もにぎやかである

輝夜「私は外に出るからね。アウトドア派だっていう証明にもなるし」
永琳「それなら私もお供します。さすがに二人であれば妹紅も手を出しにくくなるでしょうし
   だからウドンゲはお留守番お願いね」
鈴仙「は、はぁ……」

こうして輝夜と永琳は永遠亭を後にし、人里で薬を売りに行った

永琳「症状がかなり悪化しているわ。もう少し治療が遅ければ命にかかわっていたかもしれないわね」
輝夜「治療代は1000万ね。ビタ一文まけられない」
永琳「姫……」
輝夜「わかってるわよ、ジョークジョーク」

また、多少の医療行為もしたのであった。

薬も完売した後は、二人で里を散歩していた
そして慧音が教えている寺子屋の前まで来たところ……

輝夜「………………」

輝夜は立ち止まって一点を見ている

永琳「どうかしましたか?」

輝夜は無言のまま右手で指をさした
その先には……

慧音「ご苦労、やはり男がいると荷物運びが楽になるな」
少年「たしか慧音さんって半分獣ですよね。人間の僕よりも力があるn…」
慧音「そんな失礼な言葉を生み出す脳みそを頭突きで揺らしてやろうか?」
少年「け、結構です……」
慧音「まったく…… だが午前の授業はこれで終わりだしお昼にするか
   ……おい、●●どうした?」
●●「こっちを見ている人が二人いるのですが」
慧音「んっ?確か……」


永琳「姫、あの二人がどうかしましたか?」
輝夜「似てる……」
永琳「?」

輝夜が二人の方向へ歩き出した
それにつられて永琳も輝夜の後をついていった

慧音「ここにある消毒薬とかは前回受け取ったはずだが」
永琳「そうみたいね。私も今日は寺子屋には寄ることはないと思っていたんだけど……」

輝夜は●●をじーっと見つめている

●●「あの…どうかしましたか?」
輝夜「ほーんとそっくりね」
●●「失礼ですがどなたでしょうか。僕はここで慧音さんのお手伝いをしている●●と申します」
輝夜「●●…… 私は輝夜。今日は薬を売りに来たの」
●●「輝夜さんですか」
輝夜「輝夜でいいわ。それにタメ口で話して」
●●「しかし初対面の方相手ですから、敬語は当然として敬称くらいは付けるべきでしょう」
輝夜「私がいいって言ったからいいの。それにあなたにさん付けされると気持ち悪いし」
●●「わかった。これでいい?」
輝夜「うん、やっぱり●●とはこっちの方がいいわ」

慧音「輝夜、お前の話にはちんぷんかんぷんなことが多くないか?」
永琳「同感♪」
輝夜「私、変な事言った?」
永琳「まるで●●のことを知っているかのようですね」
慧音「●●は輝夜のことを知らないみたいだけどな」
輝夜「永琳、この前話したアレよ」
慧音「アレ?」
永琳「アレ…ですか? ああ、竹取物語ですか。
   慧音、いろいろ説明することがあるからどこか座れるところない?」
慧音「まあいいだろう。空き部屋があるからそこにするか」
永琳「では姫、後でゆーっくり聞かせてくださいね♪」

慧音は永琳を空き部屋に案内しに行く
と同時に輝夜は「また今夜も話すことになるのか」とため息をついた

輝夜「●●、私たちものんびりできるところへ案内してくれる」
●●「んっ、いいけど」

と、こちらの二人も別の部屋へと向かった

●●「悪いね、お茶も出せなくて」
輝夜「別にいいわ。お茶を飲みにきたわけじゃないから」
●●「ところであの薬師さんが言っていたように、輝夜は僕を知っているの?」
輝夜「半分正解半分不正解。1000年と少し前に●●と似たような人がいたのよ」
●●「僕に似た人、ねぇ…… 1000年!?1000年って言った?輝夜って何さ…うぎゃっ!」

輝夜のビンタが炸裂

輝夜「淑女に年齢を聞くようなものじゃないわよ」
●●「いきなり張り手をするような人が淑女だとはとても思えない……」
輝夜「う、うるさいわよ!!●●が変なこと聞かなければ何もなかったんだから!」
●●「何か納得いかない」
輝夜「こんなバカなことを言うところまでソックリよ……●●と○○は」
●●「ところでその人と輝夜は何だったの?」
輝夜「えっ? そ、それは……だからぁ……」

輝夜は顔を赤くして動揺していた
まさか初恋の人に似ているからここまで上がりこんだなんて言えるわけがなかった

●●「はっはーん、輝夜はその○○って人にホの字だったっでわけか」
輝夜「わー!わー!わーっ!それはっ!!」

肯定はしていないが否定はしていない
そんな輝夜の態度から図星だと●●は確信した
優越感に浸っている●●の様子を見て輝夜はもう諦めたようだ

輝夜「……ところでよく私の惚れた人の名前わかったわね」
●●「さ っ き 言 っ て い た か ら」
輝夜「言った?」
●●「言わなかったら当てられないよ」
輝夜「もしかして○○のこと知っているからじゃない?」
●●「1000年も前の人のことを知っているわけないよ」
輝夜「そう…よね……」

輝夜はやや落ち込んだ表情をしている

●●「だけど不思議なんだよね。今日初めて会ったはずなのにすごく懐かしい感じがする。
   一緒に出かけたりとかさ。あと誰か一人と三人でつるんでいたような」
輝夜「──ッ!?」

輝夜は驚いている
当然であろう、まさにかぐや姫として地上で過ごしていた頃をずばり言っているからだ

輝夜「●…●…… 和歌って知っている?」
●●「5・7・5・7・7で季語を入れて一句作るやつ?」
輝夜「わかっているじゃない。これには……そう、面白い遊び方があるの」
●●「面白い遊び方?」
輝夜「そうよ、ある人に教えてもらったの。最初に上句を歌い、相手が下句で返す」
●●「それだとめちゃくちゃな歌ができない?」
輝夜「文句なら考案者に言って。私が上句を歌うから●●は下句を歌って」


望月の
  つれなく見えし
        別れより


●●はボーっとしている

輝夜「変な歌だった?結構自信あったんだけど」
●●「いいや、人の求婚手段を勝手に面白い遊びにされているのに呆れてね」
輝夜「求婚手段?」
●●「知っているはず、これは僕専用の方法だって輝夜に言っただろ?」
輝夜「●●……?」
●●「●●でもいいけど輝夜はそれでいいのかい?もっとふさわしい呼び方があるはずだけど」
輝夜「……○○」
●●「そうそう、久しぶりにその名前で呼ばれたよ」
輝夜「本当…に、○…○……?」
○○「信じられない?じゃあさっきの歌に抜けている箇所を教えようか
   最後に名前である『蓬莱山』が抜けている」
輝夜「○○!!」

輝夜は●●、つまり○○に飛びついてきた
そしてしばらく○○の腕の中で泣いていた


輝夜「だけど何で私のこと覚えているの?人間なら死んでいるはずよ」
○○「ああ、僕は死んだ。おそらく転生したんだろうね」
輝夜「でも転生するときに過去の記憶は消されるって聞いたけど……」
○○「完全に消えていなかったってことかな。閻魔様にでも聞けばわかると思うけど」
輝夜「聞いたところ閻魔様は説教好きだから会いたくない」
○○「僕も説教はごめんだね」
輝夜「……くすっ」
○○「だけど酷いよなー。人が寝ている間に勝手に歌を置いて蒸発しちゃうなんてさ」
輝夜「だ、だって……」
○○「でも月に帰ったんじゃなかったけ?」
輝夜「表向きはね。けど私はここにいるわ」
○○「確かにあの時のまんまだよ。何一つ変わっていない」
輝夜「で、さぁ…… 下句なんだけど……」
○○「ほーんと輝夜って酷いなー。せっかく下句を作ったのに伝えるべき相手がいないなんて」
輝夜「わかったわよ。悪かったわよ、でもそれ以外の方法はなかったの!」
○○「そっか…… 下句聞きたいかい?」
輝夜「むーっ、わかっているのに言わせる気?」
○○「はいはい、では初披露でもしますか」


宵月ばかり
    憂きものはなし


輝夜「意味は……」
○○「上句にぴったりの下句だろ」
輝夜「意味…繋がってる……」
○○「だから輝夜は酷いって言ったんだよ。せっかく求婚に答えているのに勝手にいなくなるなんて」
輝夜「今、なんて……」
○○「輝夜が二番目によく知っているはず。このやり取りにどんな意味があるかは」
輝夜「一番は?」
○○「考案者以外に誰が?」

輝夜は座り直してまっすぐ○○を見つめている

輝夜「不束者ですが、こんな私を娶ってもらえないでしょうか」

○○はにっこり笑って輝夜の手を取る

○○「さて、返事はどのような方法がお望みかな?」

○○は輝夜を引き寄せる。輝夜も抵抗するどころか○○の首に手を回した
そして○○は輝夜に口づけをした……


○○「さて、もう言えない理由を教えてくれるよね?」
輝夜「言えない理由って何よ」
○○「帝たちの求婚を断った理由。本人たちはもういないのだから大丈夫だろ?」
輝夜「ああ、そっちね。帝は関係ないわ。あれは私自身に問題があるの」
○○「と、言うと?」
輝夜「私は月のお姫様、永遠を生きる者、それから……」
○○「月の人っていうのは本当なのか。それから?」
輝夜「……言わなくてもわかるでしょ」
○○「99.9%合っているとは思うけど、0.1%で間違っている可能性もあるからね
   だから聞かせてもらうよ」
輝夜「性格悪いわよ」
○○「昔からわかっているさ」
輝夜「……でもそんな○○が好きッ… 1000年前からずっと好きなのッ! これでいいでしょ?」
○○「十分すぎるよ。これで勝手に消えたのは帳消しだ」


●●もとい、○○は永遠亭に移り住むこととなった
○○は寺子屋の手伝いの心配していたが、慧音は

「一人で永遠亭と里を行き来できるまでは停職だ」

と言った
もちろん普通の人間である○○には一人で竹林を歩けるほど強くはない
事実上○○は寺子屋の手伝いをやめるよう宣告されたのである


 -数ヵ週間後-


鈴仙「師匠ーっ」
永琳「どうしたの、○○に恋しちゃった?
   ダメよ、○○は姫専用なのだから」
鈴仙「違います! 姫と○○さんの歌の意味って何ですか?」
永琳「本人に直接聞いてみるのが一番じゃないかしら」
鈴仙「そうなんですけどね……」

鈴仙の顔が赤くなっていく……

永琳「見てはいけないものを見てしまって、とても聞けるような状態ではなかったと」
鈴仙「は、はい……」
永琳「仕方ないわね、教えてあげるわ。この歌はね……」


 -輝夜の部屋-


輝夜「満月も○○も冷たく思えたあの別れ以降……」
○○「……夜、月が出ている時ほどつらい時間はない

   だけど冷たいのはむしろ輝夜じゃないか?」
輝夜「いいじゃない、今こうして同じ屋根の下で暮らしているんだから
   私が○○に出した難題覚えているよね?」
○○「『私を永遠に幸せにする』……」
輝夜「蓬莱人になった○○でも絶対に解けない難題よ。
   99%の次は99.9%、その次は99.99%と決して100%にはならないの」
○○「でも限りなく100%に近づけることはできる」
輝夜「○○……」


望月の つれなく見えし 別れより
            蓬莱山 輝夜

宵月ばかり 憂きものはなし
            ○○

○○が永遠亭に来てからの満月は
二人にとっては"憂きもの"から"あはれなるもの"となっていた
今夜も月の明かりが二人を照らすであろう



最終更新:2010年05月29日 00:54