妹紅4



13スレ目>>498 うpろだ1000


(慧音 うpろだ989~の派生)

「ありゃ?・・・おかしいな」
釣竿が無い
確かにここにおいてたはずなんだが
あー・・・もしかして
頭の中には、一人の人物と、ある場所
自信を持って、その場所へと出向く事にした


やはり、いた
そこは以前一緒に釣をした場所
そこは、彼女と
「もーこうっ」
「ひゃぁぁっ!?」
ふざけ半分で、後ろから抱きついた
まぁ俺としては慧音ほどは無いとは言え妹紅の幼さを残して成長を止めてしまった禁断の果実の方が好みな訳でして
あわよくば、いやいや、あくまで事故ですよ?ははは、そんな後ろから鷲掴みとか、焼かれちゃいますって
「だーれだ」
「え、あ、○、○○!?って手の位置が違うでしょ!」
「ははは、ついうっかり(棒読み」
「い、いつまで触ってんのよ!ばかっ!」
俺は潔く手を離した
恐らくこれ以上からかえば、レアな焼死体が・・・
「勝手に釣道具を持ち出した仕返しだ」
「それは、いや、でも」
「それは、今の胸の分でチャラ、と言う事で」
妹紅は顔を真っ赤にして、そっぽ向いてしまった
「ざ、残念だったね、慧音ほど無くってさ・・・」
ぐはぁ
こ、これはなんと言う威力の高さ
個人的な意見だが
胸が小さいから好きなわけではなくて
胸が小さい事を気にしているところがまたストライクなのではないかと
しかもそれが普段は気の強い感じだと更に!
「そ、そうか・・・俺はお前ぐらいのほうがいいかと」
「・・・な、なんだ、ちっさい方が好いって?変態かよ」
「おいおい、そんなこと言ったらお前は変態にしか需要がないことになるぞ」
何でこんな話をしてるんだ
真っ昼間からこんな所で
しかしフォローのつもりが変態扱いかよ、酷いじゃ無いか妹紅
「こ、この話はここまで!なんか変な方向に行きそうだからっ」
「同意、変な方向に行きそうだ」
危うく違う板の話になる所だった


「それで・・・釣れたのか?」
「・・・餌とか、結び方とか」
要するに何にもわからないってことか
俺に声掛けりゃいいものを・・・
「オーケーオーケー、じゃあまず仕掛けの作り方から説明しよう」

~かくかく、しかじか~


「結び方はこの二つ憶えておけばいい、重りはウキにあわせて、後は・・・」
妹紅は熱心に話を聴いている
だから俺も、この機会に色々と教えておく事にした
「餌は?」
俺は朽ち木をひっくり返して、その下に居たミミズを釣り針に引っ掛けた
「こういうのでもいいし、川に入って蟲を取るでもいいし、まぁ蟲なら何でも食べるだろうから」
そういえばこいつには伸べ竿しか教えてないなぁ
でも俺もこれ使うしな・・・
ああ、そういえば向こう岸は竹林じゃ無いか
リュックから鉈とナイフを取り出して
「今教えたとおりに釣ってみろ、俺はちょっと向こう岸に行ってくる」


「結構、あるなぁ」
なんともでかい竹林
鋸があれば楽だろうに、鉈じゃ面倒だが・・・まぁいい
自分の腰ぐらいの高さの所を鉈で、何度も打ちつけた
十や二十では断てない
反対側に回って鉈を打ちつけた
それから数分
半分以上切れて、今にも倒れそうだ
「最後はーかっこよくー」
鉈を地面においた
少しだけ距離をとって、蹴った
めきめき、がさがさがさ
葉音を立てて、竹は折れた
「さて、上の方の葉をおとさにゃ」
がさごそがさごそ


「よう妹紅、釣れたか」
「○○・・・何とか一匹」
バケツにはいいサイズの魚が泳いでいる
「おお、やったな」
「それ何?」
「ん?ああ、お前の釣竿だ」
「えー、この竿の方がいい」
「おま、初心者は竹竿と相場が決まってるんだよ、ってかそれは俺の竿だ」
まだ乾燥させたり先っぽを変えたりはせなんが、まぁこのままで釣れなくも無い
「・・・幻想郷って言うくせに棲んでる魚は外と変わらないのな」
「へぇ、そうなんだ」
住んでる人はこうも違うのに
自然ってのは変わりようが無いのかね
「仕掛けの作り方も憶えたし、自分の竿もできた、これで一人でも釣が出来るな」
「え・・・うん、そう、だね」
「・・・日が、暮れてきたな」
俺がそういうと、妹紅はバケツを川にひっくり返し、魚を逃がした
「よかったのか?」
「うん、だって最低3匹は釣らないと・・・一匹じゃしょうがないでしょ」
「・・・帰るか」
道具を片付けて、帰路につくことにした
夕日が、沈もうとしている


里を歩く、もうすぐ家に着く
そうすれば慧音が迎えてくれて、温かい夕食、一人ではない―
「ああっ、あんた!そこの家の人だよね!?」
「え?俺?」
面識の無い・・・いや、確か
「ああ、お向かいさん」
「いやぁ最近姿を見ないと思ってたんだけどねぇ・・・これ、あんたのだろ?」
彼が差し出したのは、俺の財布
「外の物みたいだけど里に落ちてるのはおかしいなって思ってね、そういえばあんたは外から着たんだったなって思い出してね」
「あ、ありがとうございますっ!」
嗚呼、俺の財布
中身を見ると、家の鍵も、全財産もまったく無事だった
何か礼を、と言うと
お向かいさんだしね、袖振り合うのがなんとやら
と言って家に帰ってしまった
俺も妹紅もぽかーんと固まっていた
俺は固まったままだったが、妹紅に服の端を引っ張られて、我に帰った
「ねぇ○○・・・今日は、帰ろうよ」
「・・・そう、だな、慧音にも報告しないといけないし」



「そうか・・・よかったな○○」
「本当に・・・世話になった、ありがとう」
慧音に事の成り行きを説明しつつ、最後の晩餐を、味わっていた
また明日から一人の食卓になるかと思うと、寂しかったが、元に戻るだけだと思うことにした
「寂しくなるな・・・たまには遊びに来てくれ、いつでも歓迎する」
「ああ、寂しくなったら遊びに来るよ」
嘘だ、俺はもうここには来ないだろう
たぶん、この機会にきっぱりと、分かれてしまわないと
俺には、ここは暖かすぎるよ
居心地がよすぎて、駄目になってしまう
「嫌だ」
「・・・え?も、妹紅?」
「○○は、ここにいて欲しい、よ」
ずっと黙っていた妹紅が、消え入るような、だが確かにそう言った
「!?ごめん、私、○○・・・ごめん」
勢いよく飛び出していった、いったい何処へ行こうというのか
「・・・すまないな○○、あの子はお前のことを」
「解ってる・・・こういう時、追いかけなきゃならんのだろうな、男だし」
「ああ、行ってこい」
俺も、家を飛び出した

彼女の姿は、すぐそこにあった
遠くに行って無くてよかったと、思った
「妹紅」
俺の声に身体を震わせて、振り返った
「○○・・・頭冷やしたよ、もう大丈夫・・・大丈夫」
タバコを、吸っていた
そういえば俺が来てからは一度も吸ってなかったな、なんて思い出した
俺はそのタバコを取って、靴で火を消した
「なっ、なにす「強がんなよ、ほれ」
俺の胸に飛び込んできなマイハニーといった感じで両手を広げて
だが妹紅は来なかった
「ば、か・・そんな優しく、しないで」
ぽろぽろと、涙が、零れていた
俺と妹紅の距離、一歩でも歩けばぶつかるほど近いのに
だから、俺が、その一歩を踏み出した
「なぁ妹紅、俺はお前のこと大好きだ、お前は、どうだ?」
「ばか、私のほうが、ぜったい大好き」
「・・・いや、俺の大好きは半端無いぞ?」
「私の好きはこれ以上がないもん」
「ああ、それなら互角だな、俺の負けはなさそうだな・・・勝ちもなさそうだ」
より強く、抱きしめた
この腕の中の少女が、あまりに愛おしくて
すると、彼女の方から抱き返してきた
細い腕が、俺の背中に回されて
「ねぇ○○・・・愛してる」
「ん、おれも、愛してる」
俺たちは、初めてのキスをした
甘酸っぱいとかレモンとか、そういうのは全然解らなかったが
すごく、暖かい気持ちになることが、できた





end


13スレ目>>626


「まぁ、俺は永遠には生きられないけど、亡霊になってでもお前を想い続けるよ」


うpろだ1129


 人里の寺子屋。
 上白沢慧音は今日も今日とて子供らを前に教鞭を振るっていた。
 しかしどうしたことか生徒たちの様子がおかしい。
 そわそわとしてまるで落ち着きが足りないのだ。
 普段であればすぐに慧音の頭突きなりなんなりが飛ぶのだろうが、それもない。
 何故か? 彼女自身もその理由をよく判っているがために。
 そして『それ』はここ暫くの恒例であり、不可避のものであるからだ。

「……一旦ここまでとする。昼食を摂ったら続きを――」

 『それ』は定期的に訪れるものではないが、予兆は存在する。
 今回の例でいえばそれは――
 新しく居を構えたある家屋の扉が今朝方、轟音とともに吹っ飛ばされたことだったり。
 その家に住むことになった若者の名前を罵る少女の怒声だったり。
 竹林に向かって飛んでいく火の鳥などがそうだった。

「うわーーーーん! けーねーーーーーー!!」

 まさに天災。
 人知を超えた理不尽な暴力。
 『それ』、その名を夫婦喧嘩という。

 そしてその片割れ藤原妹紅、堂々の襲来である。
 その瞬間を持って平和な昼下がりは消し炭と成り果てた。




「……ああ妹紅すまないが今私は授業中だ忙しい。帰れ」
「休憩って言った。それより○○が非道いんだ!」

 待ち構えてやがったのか。

 そのまま二人分の昼食を取り出す妹紅。
 逃がす気はさらさら無いようだ。
 慧音は溜め息を深々とつき、仕方なしに茶を用意した。
 思いっきり渋く。そして熱く。
 酒があれば一番よいのだが、生憎と真昼間なので断念。
 素面で愚痴や惚気に付き合うのはまさしく苦行であり、それが両方同時ともなれば拷問に近いというのに。

「で、今度は何事だ。また味噌汁のダシを変えたのに気づかなかったか」
「そんなんじゃないってば!」

 味噌汁のダシ云々は前々回の痴話喧嘩の理由だ。
 その騒動は幻想郷を局所的に巻き込み、ついには「出汁事変」として博麗の巫女すら首を突っ込まざるを
えない状況になったが割愛する。
 それを指して「そんなん」とは、すわ一大事かといえばそうではない。
 本人らにしてみれば一過性のものに過ぎないのだ。
 たとえ周囲の被害がどれだけ酷く、尾を引くものだったとしても。

「……あれから暫くは、味噌汁が甘ったるく感じたぜよ」

 生徒の一人が苦々しく呟いた。
 部屋にいる生徒は半分ほど。
 我先にと避難した者と、怖いもの見たさに残る者。
 好奇心で猫が死ぬなら野次馬根性で人死にがでても可笑しくはない筈だが、物好きなことである。

「もう駄目だ、今度ばかりは私たちお終いかもしれないっ」

 よよよ、と泣き崩れる妹紅。
 しかしこれも毎度のことだ。
 演技ではなく本気でやってるのも毎度のことだ。

 慧音はそうかそうかと適当に相槌を打ちながら、出された握り飯の包みをほどく。
 丸い塩むすび、所々に具のついたそれはどうやら人の顔を模しているようだ。

「本当は○○に渡そうと思ってたんだけど……。もう、あんなヤツのお昼ご飯なんて知らないんだからっ」

 限定してるのは無意識なのか否か。
 間抜け面の顔むすびに慧音は怨嗟を込めて齧り付く。
 鼻にあたるだろう部分を上に、半分ほどを一口で頬張る。
 あー、と残念そうに声をもらす妹紅。

 どうしろってんだ。

「ん、コホン。話は今日の朝までさかのぼるわ」




 早朝、人里の端っこにある○○の家の中。
 小鳥の囀りに目を覚ました妹紅は、甲斐甲斐しく朝食を用意するべく布団を出た。
 ――ここで、愛しい人の温もりに溢れた布団と腕枕の抗い難い魅力を身振り手振りつきで力説されるが省略。
 朝餉を作り昼食の弁当を包み終え、いざ○○を起こそうとしたところでふと思いつく。
 今日は少しお洒落をして朝から驚かせてやろうと。
 どんな反応をするものか、期待に胸を膨らませ目尻をだらしなく下げながら猫撫で声で朝を告げた。
 しかし揺り起こされた○○は習慣となった朝の挨拶を返すだけ。
 ――この朝の挨拶「おはよう、愛しい妹紅」を物真似で再現されるが、浸りすぎの為か全く似てなかった。
 何か気づかないかと匂わせてみても寝ぼけ顔で呆けるばかり。
 10秒で期待は落胆に、落胆は憤怒に変わった。

「○○のっ、バカーーーーっ!!」

 罵声とともに繰り出されるは少女の怒りを乗せた一撃。
 季節は春、紅葉が舞うには早すぎる。
 因ってパーではなくグー。
 乙女心の右拳が盛大に炸裂した。




「……と、いうわけなの」

 慧音はそーなのかーと適当に聞き流しつつ、胃から込み上げてくる何かを茶で流し込む。
 火傷しそうな程に熱かった筈のそれはすでに飲み頃に冷めていた。

「それで朝に家を飛び出して……今まで何をしていたんだ?」
「輝夜んトコで暴れてきた」

 長きに渡る因縁がもはやただの八つ当たりとは。
 対象が眼中に入ってない分、輪をかけて非生産的だ。
 そんなことしてるから輝夜は○○にちょっかいを出すのだろうか。

「ちなみに、そのお洒落というのは……」
「見て判らない? リボンを増やしてみたんだけど」

 なるほど、彼女の長い髪先にアクセントとしてつけられているリボン。
 それが一つ? 増えていた、らしい。
 とはいっても容姿が劇的に変化するわけでもなし。
 そもそも結わえるのなら一つで十分、二つ目に意味など特にないのだから幾つにしたところで言わずもがな。
 この場にいる全員が言われたところでサッパリだった。
 たとえ気が付いたところでどんな感想を抱くにも至らないだろうが。

「他には?」
「それだけだよ」

 判るか、そんなモン



「私、○○に嫌われちゃったかな……」

 先程までとはうってかわってしおらしく呟く。
 自分の無茶苦茶っぷりに気づいた、訳ではない。
 張本人に一発、輝夜相手にスペカを6枚ほど、そして慧音に愚痴(惚気)を聞かせたこの時点で鬱憤が綺麗さっ
ぱり晴れただけのこと。
 出すだけ出してしまったあとは、平時であれば四六時中べったりな○○がいなくて寂しくなっただけだ。
 しかし自分から会いに行こうとはしない。
 何故ならば、今この状況も、そしてこの後の展開も、全て予定調和に過ぎないのだから。
 彼女にしてみればそれは王道。
 周囲にしてみればとんだ茶番。

「妹紅ぉおおおーーーーーー!!」

 この状況を作り出した原因にして、この場を収束させうる唯一無二の登場人物。
 足音も高く、○○。堂々の見参である。

 ああ、しかし心せよ。
 物事が好転するわけでは決してない。
 昼下がりの愛憎劇、『憎』が消えたらどうなるか?
 ひたすらのラブシーン、致死量の『愛』がばら撒かれるのだ。



「探したぞ妹紅っ、こんな所にいたのか」

 探すも何も妹紅の駆け込み先などたかが知れている。
 慧音相手に泣きつくのが大半で、自然と寺子屋もしくは彼女の自宅に高確率で行き着く。
 探しているというのは建前で、彼女の機嫌が落ち着くまで時間を潰しているというのが本当のところではない
かと思われるが、何分この二人のことだからわからない。
 妹紅曰く「二人の思い出の場所」とやらを巡って一人で気分を盛り上げていたとしても可笑しくはない。

「っ……何よ、今さら来てどういうつもりっ」

 口調だけなら勇ましい。
 しかし○○に背を向けた妹紅、頬がぴくぴくしている。
 いい感じで心細くなってきたところに図ったように現れた想い想われ人、内心は嬉しさヴォルケイノなのだ。

「私の……気づかなかった○○なんて、もう知らないんだからっ」

 語尾に八分音符が付きそうなぐらい跳ね上がっていた。
 もう媚び媚び大喜びだ。

「わかっていたさ! リボンが増えていたことなんて、一目でわかった!」

 気づいてたんかい。

 この女にしてこの男ありというほかない。
 お互いにのみ発揮される観察眼には脱帽である。

「じゃあ、どうして!」

 と、妹紅は切羽詰った風に言ったつもりらしい。
 だが実際には、間延びした猫撫で声で「じゃーあー、どおしてぇー?」と頬に両手をあてていやんいやんと上
半身をくねらせての発言だ。

「それは、いつもと違う妹紅に……。いつもより可憐で美しい妹紅に心奪われてしまっていたから!」

 どうやら気づかなかった訳ではなく、気づいたうえで見惚れて放心したとのこと。
 そういうからにはそれが真実なのであろう。
 たとえそれがどんなに馬鹿馬鹿しく白白しいものだったとしても。
 こいつらは二人揃えば予想と常識の斜め上を平気で飛び越えるのだ。 

「……っ、○○!」
「妹紅!」

 感極まって振り向き、走り出す妹紅。
 ゲートが開くのを待ち構えていた競走馬のようだ。
 そしてそれを抱き留めた○○。
 二人は抱き合いながら部屋の中央でクルクルと回りだす。

 学び舎であったはずのそこは酷い有様となっていた。
 見物を決め込んだ生徒は机に突っ伏している。
 逃げ出した生徒の内、頃合を見計らい損ねた者は部屋の入り口付近で折り重なって倒れている。
 いつから覗いていたのか、かの妖怪はスキマから上半身だけをだらりと垂らしてぴくりとも動かない。
 正気を保っているのは慧音だけだ。
 そんな地獄絵図のなかで幸せそうに笑いあう二人組。

「ぶっちゃってごめんね? 痛かったでしょ」「もう平気だよ。それに妹紅の受けた痛みに比べればこんなもの、
なんでもない」「ううん、いいの。だって○○のこと信じてたから」「俺も信じてたよ。またこうして抱き合える
ってね」「○○ったら……ほら、ほっぺた見せて、消毒してあげるから。――んっ」「っはは。くすぐったいよ妹
紅。よし、お返しだ」「んっ、ゃん。私はぶたれてないってば――あんっ」「泣かせてしまったな。いつか約束し
ただろう? 妹紅の涙は全て拭い去るって」「違うよ、これは嬉し涙だ。○○が迎えに来てくれたのが嬉しかった
の」「たとえそうであってもだ。妹紅の涙は綺麗だから、全て俺のものにしたい」「んっ、酷いな。私の全てはと
っくに○○のものなのに」

 ……とかなんとか。
 愛の弾幕はハート型弾自機狙い、脅威の128WAY。
 一歩でも動けば即被弾間違いなしの超高密度。
 本体を止めなければ時間無制限でばら撒かれ続けるのだ。

 そのままちゅっちゅくちゅっちゅく乳繰り合っていたが、いよいよのっぴきならなくなってきたらしい。
 頬への口付けから今にも本格的な接吻に移りそうである。
 それだけは、というかその先は未然に防がねばならない。
 そしてそれが出来るのは今となっては彼女だけ。

「貴様ら……」

 痺れた脚に力を込め、ゆらりと立ち上がるその様は幽鬼のよう。
 振りかぶられた手には空の湯飲み、書かれた文字は色即是空。

「いい加減にせんか、この⑨ップルがーーーーッ!!」

 上白沢慧音、渾身の一投。
 狙うは色ボケ結界唯一の当たり判定。
 今まさに一つになろうとしている口腔粘膜接触部。

「ぉぷす!」ピピチューン

 どちらが上げたか間抜けな悲鳴とともに倒れる二人。
 荒く息をつく慧音。
 死屍累々の教室。
 午三つの鐘が鳴らされる。
 ここに此度の痴話喧嘩騒動は終結を迎えた。




「……しかしこれで終わったと思うな……いつか第二、第三の素敵な二人が……」
「うるさいうるさいダマレダマレ」


うpろだ1305


幻想郷に迷い込んで早一年。すっかりこちらの生活にも慣れた。

今の生活は、竹林でぶっ倒れていた所を妹紅に助けられたことから始まる。
気がついてから里へ連れて行かれて、妹紅の友人である慧音さんから
幻想郷について色々な事を教えられた。
こちらに残ることを決めたオレに、慧音さんは職と住む場所を与えてくれた。
のちに慧音さんから教えてもらった外来人に対するルールを考えれば、
自分はとても運が良い部類に入るんじゃないだろうか。
命があり、五体満足なのだから。


幻想郷の暮らしは外の世界から来た自分には大変なものだけど、
充実した生活を送れている。
ただ、元々自分は幻想郷の人間ではないので最初は周囲から警戒されて
なかなか街の人達の中にとけ込めなかったけど、慧音さんの計らいで
歓迎会兼親睦会を開いてもらい、思ったより早く馴染むことができた。

そして、たまに妹紅が尋ねてきてくれて他愛無い世間話をできたことが、
まだ里に馴染む前の自分にとっては本当に助けになった。
その事について妹紅に礼を言うと、拾ってきたのは自分だし、
少しくらい面倒を見るのは当然だ。気にするな、とそっぽ向いてしまうが、
その気遣いが嬉しくて、やっぱり「ありがとう」と礼を言ってしまう。

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外はすっかり日が落ち、木枯らしが吹いている。まさに冬である。
元々幻想郷の住人ではない自分にとっては、この季節は外の世界で
使っていた数々の暖房器具が恋しくて仕方がない。
無い物ねだりな思考のまま炬燵に手足を突っ込みつつ、天板の上に顎を乗せる。

今日は珍しく妹紅が夕食を作ってくれるというのでのんびり待っているのだが、
正直ちょっと不安だったりする。何故って、妹紅の料理スキルが如何程なのか
まったく知らないのだ……
さっきから野菜を切る音と、何やらガチャガチャと音が聞こえてくるのだが、
主に後者の音の発生源が不安でならない。

「お~い、妹紅~」

つい、不安になって声をかけてしまう。
少しすると音が止み、台所の入り口から妹紅が半身を覗かせて「どうしたの?」と
聞いてくる。

「すっかり聞きそびれてたんだが、今日の夕飯って何?」

「あれ……? 言ってなかったっけ?」

どうやら、妹紅は言ったつもりになっていたらしい……
聞いてないことを伝えると、何やら満面の笑みになってこう切り出してきた。

「今日は鍋だ。この間○○が言っていた『もつ鍋』っていうのをやってみようと思うんだ」

料理くらいなら懐かしいものを食べてみたいだろ?と妹紅は続けた。

そういえば、本格的に寒くなる前に慧音さんと3人で鍋をした際に、外の世界にいたとき
好きだった『もつ鍋』について話してたことを思い出した。

「もつ鍋のこと良く覚えてたな……。覚えていてくれてありがとな、妹紅」

「っ! …そ、そんなの当たり前だろ。お前が好きなもの位覚えていてやるよ」

妹紅が覚えていてくれた事が堪らなく嬉しくて、自然と綻んでしまった顔で礼をしたのだが、
なんだか妹紅の反応がいつもと違う。…なんでさ?






《side Mokou》

あのタイミングで微笑むのは、ちょっと反則だろ?

流石というか、○○は今日のことを不思議に思っていない。
これなら、私の計画も予定通り遂行できる……
今日は慧音も里の寄合でしばらく帰ってこない。計画通り○○と二人きりだ。
これで、誰にも邪魔されない。


台所に戻り、○○が河童に作ってもらった『冷蔵庫』という入れ物から、
○○が大好きな『もつ』と取り出す。
もつ鍋は牛か豚の腸を使うって○○は言ってたけど……鶏の内臓を入れても良いよね。


ねぇ、○○。何があっても私達ずっと一緒だよね?


うpろだ1333


 今朝起きると敷き布団のシーツが破れていて、苔色の麻地が縦に裂けて中から花柄の下地が見えていた。
 裁縫なんか生涯としてまともにやったことがないので、はてどうしたものやらと朝飯のお茶漬けを食べながら思案していたところ。
 何故かその裂け目が剥き身の蟹肉に見えてしかたがなくなってきた。

「とどのつまり、何が言いたいんだ? その話は」
「蟹が食べたい。蟹をくれ」
「起きたまま寝言いってんじゃない」

 ピシャリ
 乾いた音は、はたかれた頬だったか、閉ざされた戸口だったか。たぶん両方だ。


「要は繕えばいいんだろう? その破れ目さえどうにかすれば、寝ぼけて不届きなことを言う口は永劫に閉まるってことだ」

 早朝の竹林は物の怪の喧騒もほどなく、哲学すら閃きそうな静謐に満ち満ちていた。薮から差し込むわずかな朝日が体を舐めてゆく。
 妹紅は欠伸を押し殺そうともせずに、もんぺに片手を突っ込んで俺の前を歩く。空いた手には裁縫道具と思しき木箱を携えて。

「朝早い時分になんだと思えば―――全く……」

 思えば寝ぼけていたのかしらん。
 実際、妹紅の宅を訪ねたのに大した意味はない。ないが、俺が彼女の家を訪ねる場合、意味を伴うことは少ない。
 何となく訪れ、そこでお茶をしたり、外界の見聞を披露したり、碁を興じたり、本を貸し合ったり、永遠亭のお姫様とやらとの一騎打ちに巻き込まれたりが常だ。
 それに安息を感じる己にはとうの昔に気がついていた。対する彼女も、言行は荒いが特別に迷惑がる様子もないので、俺の竹林に向かう足は止まない。
 妹紅は、良い友人だった。

 俺の住居は人里から幾らか離れた低平な土地にある。
 あまり人好きのする性分ではないので、こうした遠すぎず近すぎずな位置は非常に気に入っている。
 妹紅は畳の上に胡坐をかきながら、甲斐甲斐しくシーツを繕っていた。

「意外だな」

 卓の上に、たくあんと緑茶を置く。

「何だい。私に家事が出来ると変てか」
「とんでもない。意外とそういう格好が似合うな、って思っただけさ。どこの嫁に行ってても不思議ない」

 さっそく湯のみに手をつけていた妹紅が、にわかに吹き出した。

「おいおい」
「おいおいはお前だ。変なこと言いやがって」

 やにわに妹紅の顔がみるみる赤くなってきたので、俺は慌てて布巾を取り出しつつ謝罪した。

「何だかわからんが済まん」
「全く。……」

 妹紅は俺から受け取った布巾で口と零した茶を拭った。しかし顔は赤いままだ。恐らくさっきの言葉の中で、何か失礼なことを言ってしまったことに違いない。
 時として俺は、こうして何事か妹紅を赤くさせることがしばしばある。
 いくら考えても俺の言行のいずこに角が立ったのか判然としないこともある。そういう時に俺は自身の口下手を自覚する。
 何となく、気まずい雰囲気が流れた。




「っつ」
「どうした」

 妹紅が指を傷つけたのは多分必然のことだった。先ほどから見るからに手の動きがたどたどしくなっていたからだ。
 薬指に赤い球体が膨らんで行き、つうと指を伝って流れ落ちてゆく。

「絆創膏、持ってくるかい」
「いや――平気」

 俺が席を立ちかけた次の瞬間には、出血は止まり、流れた赤い雫だけが残るのみとなっていた。
 不死身。
 普段顔を付き合わしている分には、ただの気安い女性なので、たびたび俺はそのことを失念する。
 しかし、痛みはあるのだ。流れ落ちた血を見ていると、不意に申し訳ない気持ちが一杯に押し寄せてきた。

「妹紅」
「なんだよ……」
「やはり見ていられない。俺が何か悪いことを言ったんだろう? はっきりと謝らせてほしい」
「そんなんじゃ――ないさ」

 妹紅はばつが悪そうにそっぽを向いた。
 繕い終わったらしい布団のシーツを敷き布団に被せなおしている。
 その背中が、気丈に振舞う普段の姿よりもめっきりと縮こまって見えた。俺はこのことが、このまま捨て置いてはいけないことに思えてならなくなった。

「誰ぞの嫁……と言ったのが気に障ったのか」

 後ろ背中に声をかけると、はっきりと妹紅の動きが止まった。

「嫁……嫁か」

 そう上の空に呟くと、再びこちらに向き直って胡坐をかいてくる。
 その目は沈んでいる。

「○○、私が蓬莱の秘薬を飲み、不老不死の身になっていること、話して久しいよな」
「ああ」
「私、さ」




「千と……数百年。昔は自分が、その歳月を過ごすことに、今ほどの恐れも持ち合わせてなかったよ……。
 でも、だんだん、だんだんだ。気付いてゆき、気付かれていくのさ。世間と自分の決定的な隔絶が。
 私は一つところに留まって生きるということが出来なくなっていた。
 おおくの人間には排斥され、親しくなったわずかな者たちには先立たれる。それはそれは、暗いかめの水底のような心地だ。
 巡り巡って、今私を支えている唯一の生き甲斐が、同じ蓬莱の者――私をこんな体にした、輝夜との殺し合い。
 最も憎むべき相手にのみ生かされている自分が、芥も残らぬほど焼き尽くしたくなる」

 妹紅の瞳が、話の中の暗いかめの水底になるのを、俺は黙って見つめている。
 俺が口を差し挟まないのを見ると、妹紅は静かに言葉を連ねた。

「私は誰とも具せない……」

「そんな私にずけずけと入り込んでくるのがお前だ、○○。
 どうせお前も、いずれ私を恐れるかくたばるかして、私の前からいなくなってしまうのだろう?
 陳腐な話だが、私は何かを失う辛さより、持たざる孤独に慣れた人間さ。そしてそれに慣れようと考えている。そうでなければ生きて行かれない。
 私が奪い奪われる関係は、同じ不老不死のあいつだけでいい。お前みたいな普通の人間が、こうして私にかまけていると、ろくでもないことになる」

「そう、ろくでもないんだ。お前といると、調子が狂う。
 ○○が平凡に暮らしているように、私も暮らせるような気がしてくる。○○が言うと、冷たかった人の言の葉が、色味を帯びて熱くなる」

「もう、止してくれ……。私の蓬莱人としての覚悟には……堪らないことだ」


 気がつくと、窓から差し込む陽光はすっかり明るくなっていた。
 湯のみから上がっていた湯気は消えている。


「俺は」

「謝りたいと言ったけど、折角だが謝らないことにした」


「俺はさあ、おつむは良かないし、気の利いたことも何一つできない、冴えない普通の人間だよ。
 そんな普通の人間からすると、その、妹紅が、俺みたいに暢気に暮らしちゃいけない理由がわからないんだ。
 なあ、生きてるって、そんな、つまらないもんじゃないよ。そんな風にずっと考えていたら、いずれ心を亡くしてしまうよ。
 ただ臓物が脈を打ってるだけで、死んじまってるようなものさ……。お前がもしそうなっちまったら、悲しむ人間がいるんじゃないか。
 妹紅、お前は人間なんだよ。確かにちょっと強かったり頑丈だったりするけれど、俺が見るところじゃ可愛くて綺麗な娘さんだ。
 そんなお前が、人間を止めて生きてゆく覚悟をしている。
 俺は……それが悲しくてならねえんだよ。藤原妹紅のあんたに、生きていてほしいんだよ」




 俺の家は、これほどまでに静かだったろうか。
 いつも蔵にある糊をつついて騒がしい小鳥の声すら、今は絶え果てている。馬小屋からもいびきがさっぱり聴こえない。
 そういう風に気が散っていたのは、余りに沈黙が長かったからだ。
 妹紅は俺の話を聞くと、さっきとは比べ物にならないほど真っ赤になって俯いていた。
 弱った。もしかしてまた俺は変なことを言ってしまったのか。

 と慌て始めた矢先に、妹紅がいきなり俺に抱きついてきた。


「もう知らないぞ、○○! そんな、そんなこと言うんだったら、とことん私に付き合ってもらうぞ!
 お前がよぼよぼのじじいになってくたばるまでだ! 嫌だって言ったってきかないからな!」

 妹紅は俺の胸の中で、ぐしゃぐしゃになって泣いている。
 突然の事態に、慣れない長い話をして熱過労を起こしつつある俺の脳味噌は、更なるオーバーヒートを迎えた。

「ちょ、ちょっと、妹紅、落ち着け。羊を数えて落ち着くんだ。あれ? なんか違う……」
「ここここれが落ち着いてられるもんか! 羊が一匹二匹よんひき!」

 まるで計ったかのように、元通りに敷かれた敷布団の上に俺は押し倒された。
 そんでもって―――。






 結局、シーツはまた破けた。

 俺達は、真昼ぐらいになってやっと、ほったらかしにしていたお茶とたくあんを食べた。

 冷めていたはずだけど。
 なんだか熱い気がした。



「今度、何かもっとうまいものを食べに行こうか」
「そうだな―――」

『蟹とか?』

 なんで俺達が、同じことを思いついたのかは知れない。


うpろだ1361


――いつもどおり、今日も夜の竹林を歩いていたところだった。

迷ってる人間などを里に帰してやるのをいつもの日課としていた。

急病で永遠亭に向かうという人間の護衛も終わり、だんだんと夜も更けてきた今、そろそろ引き返して休もうとしていたところだ。

闇夜に光る歪な半月も、傾いている。

「…少し休むか」

私は目の前にあった大きい切り株に腰掛ける。

空を見上げたまま、しばし体を休めていた。


カサッ

「…?」

…足音?

今確かに枯れ葉を踏む音が聞こえた。

自分の音じゃない…

それに、かすかに人間とは違うにおいがする。

軽く身構えると、音の生まれた場所を凝視した。

――ガサッ

――ガサッ

…近い。

座ったまま、少量の気を右手にためる。

――カササッ

葉が揺れる。

…来る。


ガサンッ

「のわっ」

影が深緑の景色の中から飛び出てきた。

「ぐへぅ」

ドサン。

緑の中から現れたのは、

10代半ばの体つきをしている、"人間"の男だった。

「…っつぅ」

男はゆっくりと体を起こすと、服についた土を枯れ葉をたたき落とした。

たたき終えたところで、ようやく私の存在に気づく。

暗闇の中で目が合い、私と男は少しの沈黙に包まれる。

「…大丈夫か?」

私が座ったまま問いかける。

「…あ、あぁ」

鳩が豆鉄砲食らったような驚いた顔をしながら、男は少し笑った。


それがこいつに出会った最初だった。





「…迷い人か?」

「ん、…まぁそんなものかもしれん」

男は私の隣に座り、一緒に半月を見上げていた。

「私は迷い人を里に帰すのが日課だ。送って行くぞ」

腰をたたき、少しついた汚れを落としながら立ち上がる。

「ん?…別にいいさ。迷ってるわけじゃなければ里の人間でもない」

「…?」

私はよく意味がわからず、また切り株に腰掛けた。

「どういう意味だ?」

「ん?そのままの意味だ」

「ふむ…」

埒が明かないと感じた私は、それ以上の追及をやめた。

この男が送って行けというなら里に送るし、大丈夫だというなら私は少し休んでから戻るだけだ。

「…あんた、名前は?」

男が不意に問いかけてきた。

「…自分はただの健康マニアの焼鳥屋だ」

そういうと男はプッと軽く吹き出して

「なんだよそれ…」

と笑った。

「そういうお前はどうなんだ?」

と、逆に問いかけた。

「ん?俺、か…しがない占い師だ」

占い師、か。

「いつも大きいローブにくるまりながら、人の手を見てそいつの人生を占っている」

「へぇ」

私は少し感心したように、男の話を聞いた。

今まで何人占ったか、どんな人間がいたか、どういう町を歩んできたか。

「人の手を見ながらいろいろな街を歩んでいく…か、面白そうな職業だな」

「ん…そうでもないさ」

男は少し空を見上げる。

「最初にそういうことができるって気づいたときはうれしかった。それを使えばお金だって儲けられるし、夢見てた旅も実現できるってな」

男は続ける。

「でも、毎日毎日同じことの繰り返し、新しい進展もなければ戻ることもできない場所まで離れた」

「…」

私は男の話を聞いている。

男はいったん話を区切ると、ポケットの中から煙草を取り出した。

「…煙草は体に悪いぞ」

「ん…いいさ」

男は煙草を口に咥えると、またポケットを探り始めた。

「んー…おっかしいな…ライター…」

「…」

私は軽く指を鳴らすと、煙草の先端に火をつけてやった。

「…!」

男が一瞬驚愕の顔をしてから、ゆっくりを笑顔になった。

「あんた、すごいな…どういう手品だ?」

「極まった健康マニアならできるのさ」

私は少し得意げになって、空を見上げた。

「今回だけだぞ」

私は後から付け足した。

「ありがとう」

そういうと男は、煙草を吸い始めた。

「そういえば、お前家族は?そんな歳でこんな時間まで出歩いて、両親が心配しないのか?」

男は、煙草を咥えたまま、ずっと歪な半月を見ていた。

「両親は…物心ついたときにはいなかったな」

「…。そうか、すまなかったな」

私は失言を悔やんで謝罪をした。

「謝んなさんな、気にしてない」

男は煙を口から吐き出しながらいう。

「あんたはどうなんだ?」

「…自分は健康マニアの焼鳥屋だ」

「…ちぇっ」

自分のことは黙秘にしていることにやっと気づいたのか、男はそれから追及することはなくなった。

「だったら、左手貸してみ?少し占ってやろう」

男が右手を差し出してきた。

私は占いに多少の関心を持ち始めていたので、左手を右手に乗せた。

…暖かい人の肌の感触だ。

男はすでに手慣れているのか私が女でも気にしてないらしい。

…本当に久しぶりの人の肌に、もしかしたら顔が赤くなってるかも知れない。

「…ふむ」

男がまじまじと左手を食い入るように見つめる。

「今いる大切な人を、大事にしてやったほうがいい。いるだろう?」

「…すごいな」

この男がいったのは、多分慧音のことだろう。

「なんでもわかるのか?」

「左手っていうのは、その人間の人生…生きた証、歩み方をそのまま表す」

左手のしわにあわせて、男は指をなぞらせる。くすぐったい。

「健康運はばっちりだな…まぁさすが健康マニアといったところか…」

そういうと男は笑った。

「これからも病気は少ないが…多少運が悪い時期があるかも知れん」

…輝夜の襲来に用心しとくか…。

「最後に生命運だな…」

男はまた指でしわをなぞる。

「どれどれ…」

男は生命運とやらのしわを見つけると、また食い入るようにみつめる。

「…?」

男はなぜか何度も何度も繰り返し見る。

「…おかしいな」

…?

「あんた…何回死んで、いや」



「何年生きてる?」


「…!…すごいな、そんなことまでわかるのか」

私は本当に占いに驚いた。

そこまでわかるものなのか。

「…ここのしわでわかるんだが…圧縮されすぎてあんたの歩みが見えん。この分だと軽く千や二千は年を越してるだろう…?」

「…お前はすごいな」

「まぁな…まぁきかんでおこう。どうせ健康マニアの焼き鳥屋だろう?」

「わかってるじゃないか」

そういうと、私と男は二人で笑い出した。



そろそろ明け方、空に明るみが出てきたころだ。

「今日は楽しかった、今までいろんな人間を見てきたが、あんたみたいな人間ははじめてだ」

「私もだ。まさか私の経歴がわかるほどすごい人間がいるとはなぁ…」

里への道を歩きながら、二人で会話をしていた。

「里への道まで教えてもらって悪いな」

「気にするな、日課だからな」

「そうか、ありがとう」

男は感謝をいうと、私も少し微笑んでやった。

「…またきてもいいか?」

「きてもいいが、見かけても私からは声をかけないぞ?」

「いいさ、自分であんたのこと見つけ出す」

男は空を見上げながら、そんなことを言い出すもんだから少し照れくさくなってしまった。

「…ここからずっとまっすぐに歩いていけばもう里だ」

「そうか」

私は立ち止まり、男だけが先に歩いていく。

「今日は本当にいい日だった。また夜に会いにくるよ」

「見つけられればいいな」

そういうと男は苦笑いをする。それを見て、私は少し笑った。

「んじゃ、"また"な、妹紅」

「あぁまた…?!」

今、私の名前を…

「名前ぐらい、しわで簡単なんだぜ?ふふん」

男はそうとだけいうと、里に向かって歩き始める。

「…一本とられたな」

私はそういうと、久しく名前を呼ばれたからか、暖かい心を持ちながら竹林に戻っていった。


最終更新:2010年05月29日 02:20