妹紅7
新ろだ558
人里のある家屋。
幻想郷でも色んな意味で評判な二人が仲睦まじく過ごす愛の巣。
普段であれば壁越しにも桃色のオーラが立ち昇るそこは、今夜に限っては様相を異にしていた。
パチパチと爆ぜる火花。
轟轟と藁葺きの屋根で炎が踊る。
そしてその中から聞こえる男女の声。
「熱い、熱いよ妹紅。身を焦がすこの想い。これはもしかして。いや、もしかしなくとも――!」
「熱い、熱いね○○。富士の煙より高く立ち昇るこの狼煙。これはきっと。いや、絶対に――!」
騒ぎを聞いて駆けつけた、二人の友人である彼女。上白沢慧音はただ呆然と立ち尽くす。
音を上げて炎上するその中、どうやらまだ残っているらしい二人に向かって叫ぶ。
どーせ聞いちゃいねえだろうと、心の中で確信しつつ。
「これは、愛だよ!!」
「これは、愛だね!!」
「火事だこの大馬鹿者おおおおっ!!」
そんな不燃物の愛(周囲にのみ有害・混ざるぞ危険)が、またもひと騒動やらかすお話。
夜を照らしていた火は消え、代わって朝日が昇る。
ぷすりぷすりと煙を上げる元は愛の巣、今となっては灰とスス。
跡形も無く大全焼である。こうまでなるといっそ清清しい。
だが、消火の陣頭指揮を執っていた慧音の表情はこの上なく苦苦しい。
それもそのはず、中にいた二人がさっさと脱出すればもっと早くに消火できたのだから。
「だというのに、お前達ときたらっ!」
炎が燃え盛る中、サカってイチャついていたのである。
両名、猛省と書かれた半紙を額に貼り付け地面に正座。
当たり前のように火傷一つないのがまた憎たらしい。
先程しこたま慧音に頭突きを叩き込まれたのだが、その腫れももう引いている。
幸いにして消火に携わった者達に怪我はなかった。
人里の中でもポツリと離れて建てられた家であったため、飛び火もなく済んだのもまた僥倖であった。
何故距離を置かれたかは推して知るべし。
「申し訳ありません皆さん。妹紅への愛がヴォルケイノだったので……」
「ごめんね皆。○○との愛がインペリシャブルだったから……」
「もう喋るな頼むから」
反省の色が見えない。
いや、確かに頭を下げて二人なりに謝罪の意を表してはいるのだが。
色ボケの色が濃すぎて、その上に塗ったところで何の色だかわからないのだ。
「今日という今日は絶対に――」
「ま、まあまあ慧音先生。もうその辺で」
火消しに参加した中の一人が宥める。
見れば他の人々もこれ以上二人を責めるつもりはないらしい。
烈火のごとく説教を浴びせる慧音の迫力に気圧された、というのもある。
「しかし――」
「先生のお叱りもいただいたことですし。大事に至らずに済んでよかったじゃありませんか」
「そうそう、二人もすっかり懲りたって。次からは気をつけるだろうからさ」
「という訳で、私はそろそろ仕込みが……」
「自分は寝なおすことにしますんで、それではっ」
しかし何より、一刻も早くこの二人とそれが起こす騒動から離れたいというのが本心である。
遠くから眺める分にはそれすらも娯楽の一環なのだが、自分も巻き込まれるとなれば話は違う。
火事というのは対岸であるからこそ、かかる火の粉の心配をせずに済むのであって。
己の間近で上がる火の手など、小火も花火も危険なものでしかない。
そしてこのバカップル、アツさにかけては右にも左にも出たがる者がいないレベルなのだから。
皆がそそくさと退散する中、慧音は深深と溜め息を吐いた。
二人がおこした火の番は専ら彼女の仕事である。
「全く。今回限りだからな」
何だかんだで面倒見の良い慧音は、あくまで仕方なしといった風に焼け跡の前に立つ。
火事に至ったその原因、その歴史を食らわんと。
「ちょっと待ったー!」
「はぁ?」
しかしそこに○○のちょっと待ったコールがかかる。
妹紅もきょとんとした表情で隣の彼を見ていた。
いったい何が問題だというのか。
「この火事をなかったことにするつもりだというのなら、それはちょっと待って欲しい」
「ほう。その心は?」
「此度の原因は僕等の愛が故。例えそのせいで焼け落ち形をなくしたとしても、それは一つの愛の容なのだから!」
そういう訳なんで、なかったことにするのは勘弁してくれとのこと。
そんな虫歯になりそうな歴史こっちからも願い下げではあったから、慧音はその意を汲んでやることにした。
腹立たしいことに変わりはないので、抱き合う二人の向こう脛にエグい蹴りを入れはしたが。
「それじゃあ里の大工に仕事を頼んでくるか……」
それなら自分が、と腰を上げた○○を手で制する。
だったら自分も、と腰を上げた妹紅を目で制する。
「お前達が口を挟むと碌なことにならん。前もそうだっただろうが」
それはこの家が建てられたときの話。
記念すべき新居ということで張り切る二人。
大工に意向を尋ねられて、「テーマは愛。情熱系で」などとのたまったのを皮切りに。
それからも突飛な注文をつけ続け、頼みもしないのに現場を監督。
職人気質な大工たちもその空気に中てられて糖分過剰摂取で次々と倒れ行く有様。
まさに二人の愛の巣は多くの犠牲の上に成り立っていたのだ。
「手筈は私が整えてくるから、お前達は大人しくしてろよ」
そう言って立ち去る慧音。
途中振り向いて再び「いいか。じっとしてろよ。絶対だぞ?」と念を押しつつ。
そして残された二人。
どちらからともなく立ち上がり、常と同じようにぴたりと寄り添う。
「皆に大変な迷惑を掛けてしまったね、妹紅」
「これはいつか何らかの形でお詫びしなくちゃいけないよね、○○」
皆が何より恐れるのはまさしくそれなのだが。
お詫びだろうが迷惑だろうが、結局はバカップルという形を為す以上、大差は無いのである。
「しかし大人しくしてろといわれても……」
「全部慧音にお任せ、ってわけにはいかないものね」
何かと常識はずれな二人ではあるが、一般人レベルの思考は持ち合わせている。
今回もまた、責任の所在について正しく認識してはいるのだ。
「まずやらなきゃいけないことは、当面の衣食住の確保か」
「衣食はとりあえず置いておいて、住は誰かのところにご厄介になるしかないかな」
そして今回に限った話ではないが自分達は慧音に頼りすぎている。
加えてご近所にも多大な迷惑を掛けてしまった。
彼らなりに反省した結果、とるべき行動は一つ。
「幸い、立派な家に住む知り合いは多いしな」
「事情を説明すればきっと助けてくれるよ」
親類縁者も無く、近くの他人には頼れないとなれば。
普段は離れたところに住む知り合いを訪ねるしかあるまい、ということだ。
かくして、幻想郷を騒動の火種と火薬が一緒になって飛び回ることになる。
君子危うきに近寄らずとはいうが、危険そのものが近寄ってくるのだから全くもって手に負えない。
まず二人が訪ねたのは人里にある立派な構えの建物。
幻想郷でも伝統ある家系の一つ、稗田家のお屋敷である。
「あーっきゅーさーん」
「誰がとんち小僧ですか」
ゲンナリと対応するのは九代目阿礼乙女・稗田さん家の阿求さん。
彼女もまた二人とは面識があり、日頃から懇意にしている人物の一人だった。
「――と、まあ。かくかくしかじかでして」
「はあ。それはまたご愁傷様、とでも言っておきましょうか」
彼らの普段を知っている以上、その言葉は建前に過ぎない。
人並み以上に聡い彼女はその頭脳と日頃の経験をもって、大まかな事情を正確に把握した。
「それでウチに泊めて欲しい、と?」
「一部屋貸してくれるだけでいいから。頼めないかな」
頭を下げる二人に向かってにっこりと微笑む阿求。
これは色よい返事がもらえるかもしれないと、二人の顔も綻ぶ。
「お断りします」
「あれー?」
その期待はしかし、笑顔でばっさりと裏切られた。
会話の流れをぶった切ったその発言にずっこける○○。
「どうしてー。前にも一回泊めてくれたじゃない」
「どうして? どうしてと仰いましたか、その口が」
食い下がる妹紅に、フフフと暗い笑みを返す。
確かに、この二人の存在は阿求にとってそれなりに有用ではあった。
片や身一つで千年以上を行きぬいた少女、その記憶。片や外界からの来訪者、その見識。
それでいてやや人間側に寄った中立気味の立ち位置。
妹紅のお陰で幻想郷の中でも危険度が高いとされる場所や事象をより詳しく探ることが可能にもなった。
それは稗田特有の、また彼女自身の類稀なる好奇心を満たすという意味で、なかなかに都合が良かった。
前に二人を泊めたというのも、話を聞くのについつい夢中になってしまったことが原因である。
そしてその時は阿求も、遅くまで引き止めてしまったことを申し訳なく思いこそすれ、宿泊を渋りはしなかった。
「まさかあそこまで凶悪だとは思いも寄りませんでした……」
酒を勧めたのも阿求だった。
腹も膨れ、酒宴に酔えばまた違った話も聞けるだろうとの考えがあったから。
「そりゃあ、こっちだって少しは期待してましたよ。す、こ、し、は!」
前例の無い不死の夫婦、その暮らしぶりに興味が無いかといえば嘘になる。
そしてそれは、ややもすれば下世話とも取れる営みについても。
阿求が二人の馴れ初めについてちょいと話を振ったのも、そんな俗っぽい理由だった。
――それが、悪夢の始まりとも知らずに。
「ちょーっと話を聞かせてくれるだけでよかったんです。実践してくれなんて誰も頼んじゃいないんですよっ」
その後の二人はまさに、水を得た魚のようだった。
手ずから食べさせる、口移しで酒を飲ませるなど序の口。
後ろから抱くように。胡坐の上に横抱きに。向かい合って首の後ろに手を回す。エトセトラエトセトラ。
膝の上に相手をのせるという格好に、あれほどバリエーションがあるなど阿求は知らなかった。知りたくもなかった。
「意識してやってるのか無意識なのか知りませんが、いちいち姿勢とか空気とか際どいんです。ギリギリなんです!」
竜宮の使いによる判定はダウト。限りなく黒に近いピンク。
そんなものを夜通し見せ付けられた日には青息吐息必至である。
閻魔は目を白黒させた挙句、顔を真っ赤にして卒倒した。
その上。
「連想しちゃうじゃないですか。想像しちゃうじゃないですか。
こちとら知識人なんです、物知りなんです阿礼乙女なんです。
受け継いだ記憶の隅っこに、あーんなコトやこーんなコトがなんであるんですか! あっちゃダメですか!
幻想郷には年増の方もたくさんいやがりますがね、耳年増っぷりじゃ負けませんよ! 勝ちたくもないですよ!」
転生を繰り返してきた御阿礼の子だが、その短い生の中にも人としてやることはやっていたらしい。
本来失われていた筈のその記憶が、二人の濃厚なスキンシップにより関連付けられ掘り起こされてしまった。
阿求自身の経験はないため、あくまで「耳」年増に過ぎないが。
「まあまあ、落ち着いて耳長老」
「ほらほら、興奮しないで耳長老」
「耳長老とか言うなー!!」
あっきゅんご乱心。
仕方がないので二人は稗田家を後にした。
出されたお茶漬けをぺろりと平らげて。
その後、新しく編纂された幻想郷縁起に「バカップル」なるものが追記されることとなった。
[バカップル ~傍迷惑な男女~]
・危険度(糖度) 極高
・遭遇頻度 中
・多様性 低
・主な遭遇場所 どこまでも
・主な遭遇時間 いつまでも
次に二人が向かったのは湖の畔にある洋館。悪魔の棲む家、紅魔館。
広いエントランスに立つ男女、迎え撃つは十六夜咲夜。
「お招きに預かってたので参上してみましたー」
「お引き取りください」
にべもないパーフェクトメイド。そもそもこんな歩くA級糖度、招いた記憶などない。
火事云々に関しては一通り聞いたが、それでもこの館にとって二人を泊める理由にはならなかった。
「招かれてたっけ、○○?」
「妹紅と知り合う前に神社で遭った時に。そのうち遊びに来なさいね、ってレミリアさんが」
なんてコトをしてくださりやがったあのお嬢様……っ!
などと瀟洒な従者は欠片も思わない。
しかし主の招待に預かっていたとは計算外だった。
どうするか、下手に居座られでもしたら一大事。役立たずの妖精メイドにオー人事。
適当なことを言ってさっさとお帰り願うべく咲夜は考える。
「……嫌だな。なんかやだな、そういうの。私の知らないところで知らない約束。そういうの、ヤだな」
「ああ、ごめんよ妹紅。でも大丈夫、俺の一番大事な約束は、妹紅と交わしたアレとかコレだから!」
「……一本竹の、アレも?」
「勿論だ。湖のソレに誓ってもいい」
「○○!」
「妹紅!」
抱き合う二人はとりあえず放っておいて。
そもそもアレとかコレとかソレとかなんだ。
「……残念ながら、お嬢様は只今お休み中でして。また日を改めてお越しください」
「あー、夜に活動するんだっけ」
「それならお起きになるまで待ちますよ。主にご挨拶もなしで帰るのもどうかと思うし」
墓穴った。
彼女の頬を一筋の汗が伝う。その雫は多分甘い、ような気がした。
もうこの際だから実力行使に出ようかと機を見計らう咲夜を他所に、二人はお泊りムード全開ではしゃぎ続ける。
「へー、へー。中はこうなってたんだ。外から見たことはあったけど、何だろう。雰囲気が変わってる?」
「天井が高いから、かな。寝るときは布団じゃなくてベッドで、襦袢じゃなくてネグリジェだぞ」
「寝繰り襦? 殴る襦? パジャマは可愛いから好きだけど。あ、ここの妖精達が着てる服も可愛い」
「メイド妹紅……だと……?」
そのとき○○に電流走る――!
(メイド服の妹紅! その発想はなかった、盲点だった!
やはりフレンチか。いや、妹紅の生脚は見せない主義だからヴィクトリアンタイプか。
しかし細身の妹紅にはフリルをふんだんにあしらったものも似合うに違いない――!)
この間、わずかにゼロコンマ一秒。
「……妹紅、ちょっとご主人様って呼んでみて。こう、上目遣いで。縋るように」
「? えっと、ご主人様?」
「くっ……。も、もう一回。今度は甘えるように」
「ごしゅじんさまぁ」
「なんだい俺の可愛い妹紅ー!」
「やんっ。もう、○○ご主人様ったらー♪」
以下略、大回転バカップル『イメージプレイ・ご主人様とメイド篇』。
下手に触れると撃ち返しがくるので、対策としては放っておくしかない。
「もう、いっそ息を引き取りください」
胃からこみ上げる只只ダダ甘い何かを不屈のメイドスピリッツで押さえ込みつつ、毒づくことしか咲夜にはできなかった。
この際だ、メイド服の一着や二着はくれてやってもよい。その辺の妖精メイドから引っ剥がしてやる。
何より彼女が恐れること、それは無闇矢鱈に好奇心旺盛かつ傲岸不遜なお嬢様がこの二人に興味を示すことだ。
万が一そうなり、挙句の果てに客分として迎えたが最後、紅魔館は内側からジャムのように甘くどろりととろけて崩れるだろう。
なんとしてもこの二人をレミリアと遭わせるわけにはいかない──!
「咲夜ー! ○○が来たって本当? あー、ホントに来てるー!!」
「ああもうホント空気読まない……!」
これ以上に下はないというタイミング。
ドアを蹴破り現れた主に、従者は頭を抱えるしかなかった。
「よく来たね。さあ、いつぞや言ってたアレだかコレだかドレだかを聞かせ、な……さ……」
そしてレミリアは直視する。
今にも「どーもウチの自慢の家内です」と言わんばかりの○○と。
今にも「どーも主人の世話をするのは私一人で十分です」と吼えんばかりの妹紅を。
立ち昇る糖気の直撃を受けた、彼女は。
「──っぎゃー! 太陽より眩しい! ニンニクよりクサーい!」
「お嬢様ー!」
あたかも陽光を浴びたかのように仰け反り、ぶっ倒れ、ゴロゴロとその場で悶え転がった。
さもありなん、二人はいつでも能天気にして脳が天気。暑苦しさはフレアの如し。その甘言睦言は歯が浮くどころか鼻が曲がる。
耐性のないレミリアが大打撃を受けるのも仕方のないことだ。
結局、レミリアの体調が優れない(と受け取った)らしいので二人は館から去っていった。
餞別もしくは厄介払いにメイド服を入手して。
「うう……恐るべしバカップル。灰どころか砂糖になるかと思った。グラニューとか、そんな感じの」
「おいたわしゅう御座います、お嬢様」
終始このような感じで巡り歩いた二人だったが。
当然というべきか、その結果は芳しくはなく。
遂に全ての心当たりから門前払いを受けてしまった。
ある一つを残して。
最後の選択肢であるそれを前に、妹紅は複雑な顔をする。
その小さな肩を彼はそっと抱いて。
「巡り合せというものがある」
出会いというものは、時と場合によって様々な色をみせる。文字通り星の巡りというやつだ。
それが例えいかなる因縁奇縁に縛られたものであったとしても。
それが例え変わら不の人であったとしても。
廻り回って、違う面も見える。違う話も出来るだろう。
自分に出来るだろうかと呟いた彼女は、彼にとって、何よりも儚げで。
その為に自分がいるのだとふんぞり返る彼は、彼女にとって、誰よりも頼もしげで。
顔を合わせて微笑み合い、手に手を取り合い、二人は向かう。
いざ、迷いの竹林の最奥。永遠亭へと。
「というわけだから、泊めれ」
「ははっ、ほざいたよこいつ」
だがしかし、座敷に通された彼女は初っ端から喧嘩腰であった。
ばちりばちりと火花が散るかのような視線を一方的にぶっつける。
それに対して輝夜は涼しげな微笑こそ浮かべているものの、目がこれっぽっちも笑っていなかった。
そのまま挑発やら嘲笑やらの応酬を始めだす始末。
まあ、巡り云々を通り越して犬猿蛇蝎の相性というのもあるということ。
水と油は界面活性剤で混ざり合うが、火に油をくべれば大きく燃え盛るのもまた道理である。
同室には念のためにということで永琳と鈴仙が控えてはいた。
二人としてはこの場から一刻も早く立ち去りたい、というのが正直なところだったが。
「まったく、なんで姫もあんな歩く戦略核砂糖みたいなの入れたりしたのかしら」
「わ、私は言われた通りにしただけですよ?」
「あら、じゃあアレをどうにかしろと命じたらやってくれて?」
「……ごめんなさい。真っ平御免です」
彼女の仕事は荒事と狂気であるからにして、睦事惚気は専門外なのだから。
それもこれも輝夜が二人を入れるよう言い含めたせいだ。
「いったい何を考えてんでしょうねー」
「どーせ、碌でもなければ七面倒で、益体もないことに決まってるわ」
苦汁100パーセントの液体を飲み干したかのような顔を浮かべる二人。
そしてどうやら向こうでは、話し合い未満殴り合い未遂の結果が出たようだった。
「うん、いいわ。泊めてあげる」
「えー!」
この「えー」は永琳の「えー」。
一体全体、輝夜はどうしてしまったというのか。
永琳は目と耳と正気を全身全霊で疑った。勿論輝夜の。
──もしや、今あそこでふんぞり返りながら高らかに永遠亭の終局を宣言した輝夜は偽者なのでは?
いや、そうに違いない。そうである。永琳はそうと決めた。
早早に決断した彼女は瘴気を纏いながら、目の前の偽輝夜を誅すべく行動に出た。
懐から取り出した脱脂綿の塊に、胸元から取り出した極彩色の薬品を滲ませる。
途端にしゅうしゅうと音を立てて煙を上げるそれを、標的と、面倒だから妹紅にも嗅がせるか含ませるかしてしまおうと。
「ただし、条件がある」
「ぎゃー!」
ああ、よかった。彼女は本物の、モノホンの蓬莱山輝夜だ──。
その言葉に安堵した永琳は脱脂綿と薬品の入ったビンを後ろに放り投げた。
よってこの「ぎゃー」はその如何にもなヤクを頭から被りそうになった鈴仙の「ぎゃー」。うどんぎゃー。
「……何よ、条件て」
「○○」
ぴ、と一歩下がって成り行き全てを見守っていた彼を右手で指差して。
「彼だけなら私の部屋で泊めたげる。あんたは庭」
「よし、その喧嘩買った」
紅蓮の炎を宿らせて一歩踏み出す妹紅、しかしそれを左手で制す。
「まあ聞きなさい。あんたと彼は一心同体。そうよね?」
「え、うん。まあ、そうだけど……えへへ」
相手がなんであれ、仲の良さを言われると悪い気がしないのか。
唐突なその言葉に一瞬鼻白んだものの、いつもの調子でにやける。
そこで輝夜も我が意を得たりとばかりに両の手を胸の前で合わせて。
「つまり! 彼一人が私のところでイイ思いをすればあんたもついでに嬉しい、一石二鳥というわけ。
どうよ!」
「こうよ!」
返事は白熱化した炎弾。
最初から破綻してる交渉など、結局は起爆剤でしかない。
ノータイムで放たれたそれは寸分過たず、輝夜の満面の笑みに炸裂、爆発を起こした。
しかし相手もさるもの、爆煙が晴れたそこには服にも焦げ目一つ無い輝夜の姿が。
「ふ、ふふふ。やってくれるじゃない。人が下手に出てれば調子に乗ってくれちゃって……」
彼女の下手は下手投げ。
「そっちこそ、人が頭下げてるのにその態度は何よっ」
妹紅のそれはきっと頭突き。
「お前は死ねー!」
「お前が死ねー!」
そうして後は、いつも通り。血で血を洗うバーリ・トゥードな喧嘩だ。
制止も聞かず、正視に耐えず、生死を問うても答えは出ず。
起こるだろう被害の、後片付けやら何もかもを鈴仙に押し付けた永琳は、座ったままそっとにじり寄る。
部屋の中央で発生した暴行非道空域の範囲外にいつの間にか逃れてる、彼の隣へと。
止まない罵声やら爆発音やらに掻き消されないよう、少し大きめの声で話しかける。
「あそこで愛しの彼女が盛大に凄惨に繰り広げちゃってるけど、いいの?」
「闘う妹紅凛凛しいよ妹紅」
「なんでもいいのね、よーするに……」
悄然とした様子で肺腑に溜まった息を吐く。
彼に妹紅のことを尋ねても会話にならないのは判りきったことだった。
なので、本題の世間話を彼女は目論む。声が漏れないよう、顔を至近に寄せて耳打つように。
「調子、どうかしら」
「滞りなく、異変もなく」
「……そう。まだ、そう言えるのね」
「ええ。いつでも、こうとしか」
それはそれは、ご愁傷様。と、かける彼女に。
これはこれは、ありがとうございます。と、彼は返した。
永琳の判ずるところの彼はそう。流れず波立たぬ汚泥の中においてなお、寧ろその上を闊歩し挙句に泥遊びをする者。
何もかもが無価値に等しい世界で、本人が曰く何もかもを手に入れた。
言うなれば究極の俗物。刹那の享楽をまさしく永久に繰り返す。
終わりもしない、始まりもしない中、何がしかの目的ないし収束を目指しているとしか思えなかった。
それこそが天才たる永琳すら持て余す、自身にも関係する課題。
如何にして永遠と向き合い、付き合っていくのか。その果て無き果てに何を見るか。彼はその体現であると彼女は踏んでいた。
結果を言ってしまえば、それらは全て単なる買い被りに過ぎないのだが。
彼は愛しの彼女とイチャつければ他は本当になんでも、どうでもいいだけだ。
そうとは知らぬ永琳にしてみれば、彼女にとっても至上命題ともいえるその謎を解き明かさんと思うのは至極当然である。
よって。胡坐をかいた彼の腿の上に手を乗せそれをさわさわとくすぐるように動かしつつ、柔らかな乳房を腕に押し付けながら耳朶
に囁くこの行為も、彼女にとっては知的欲求が故であり、なんら下心あるものではない、かもしれない。
「ねぇ? 貴方さえよければなんだけ、ど──!」
艶然とした微笑を浮かべながらのそれはしかし、横合いから飛んできた二発の弾によって真横にズレた。こめかみに直撃弾。
「こらー! そこの腹黒闇医者、人の男に何してる!」
「えいりーん? 夜討ち朝駆けはいいけれど、抜け駆けはご法度よ? たった今から」
漁夫の利を許すほど容易くは無ければ容赦も無い。矛を収めずに切っ先を別に向けた少女が二名。
狙う頂は一つ。下から登るにせよ上から蹴落とすにせよ、そこに鳶は居てはならない。自分以外の奴は皆、泥棒猫であった。
弾の威力で直角に傾いだ首を元の角度に戻す永琳。
ポキリと小さくも生生しい音が漏れた。それに僅かに頬を染め「あら、失礼」と断っておく。無論目の前の彼だけに。
この所作すらも他二名は挑発もしくは示威行為と受け取った。あながち間違いではないのでタチが悪い。
そしてそちらに首を向けた永琳の笑顔、これは彼に向けたものとは一見同じでも温度が違った。ケルビンとセルシウスくらい。
「あなた達? 私はとっても高尚で大人の話をしているの。彼と。邪魔しないで下さる?」
「そんな性的没交渉は鼻紙に包んで捨てちゃいなさい。下品極まるったらありゃしない」
「そもそも○○は私の旦那様なんだからあんた達は引っ込んで埋まってなさいよ」
「……」
「……」
「……」
「上等ォッ!!」
そうして始まる三つ巴。
因みにココまでがほぼテンプレートに則ったやり取りである。
「いやあ、弾幕勝負を繰り広げる妹紅も綺麗だなあ。ねえ、鈴仙ちゃん?」
「ひぃい、ひぃい」
残った彼女はとばっちりを食わないよう隅で丸まっていることしか出来なかった。頭隠して耳隠さず。
結局。売り言葉に買い言葉、決め台詞に捨て台詞まで吐いた以上、もはやそこから去る他は無く。
威勢良く帰路についたところで漸く本題を思い出したが、全ては後の祭りであった。
既に日は落ちており、月明かりだけが照らす夜道を、傍目にもそうと判るほど肩を落とした妹紅がとぼとぼと半歩先を歩く。
「ごめんね、○○。私のせいで……」
「なに、気にすることはないよ」
あの条件ではもとより断るほかなかったのだから。そう言って彼女の頭をぽんぽんと軽く撫でる。
その感触に漸く、小さくではあるが笑みを浮かべる妹紅。ああ、やはり彼女は笑っていなければと、彼はつくづく思うのだ。
「それにだ、妹紅がいない家に居る気はさらさらないし、妹紅さえ居ればそこが即ち俺にとっての楽園なんだ。それだけでいい」
そこまで聞いてどうやら彼女も元の調子を取り戻したようだ。
頭から移って滑らかな髪の毛を弄び始めた彼の手を取り、自らの頬を擦りつける。
その指に耳の下から顎にかけてのラインを擽られて、子猫のような鳴き声を漏らした。
お返しとばかりにちょうど唇の前に来た親指を甘噛みするも、より深く挿入された指に舌を丹念に愛撫されてしまう。
咥えたまま、というよりはもはやしゃぶりながら、二割ほどの抗議を込めて上目遣いに彼を見る。残り八割は甘いものだが。
ふと、その視界の端っこに一筋の光が捉えられた。彼の顔の後ろ、夜空の中にあるそれは。
「あ、流れ星」
唾液に塗れた指を抜き取り振り返った○○も見つけた。
彼曰く、外界には流れ星は願いを叶えてくれるというジンクスがあるということは妹紅も聞き及んでいたので。
すぐさま二人して願い事を三回ずつ唱える。
「妹紅妹紅妹紅」
「○○○○○○」
この二人にとって、あらゆる願いも突き詰めれば互いそのものであるので。
よって相手の名前だけで祈るべき願いたり得るのだ。伏字ではない。断じて。
しかし、願いを聞き届けもはや消え去るのみかと思われた流れ星だが、どうやら様子がおかしい。
やけに長いこと燃え尽きずに走ると思えば、徐々にその速度が遅くなり遂にはピタリとその場に留まってしまった。
消えるどころか段々と輝きを増して、いや、大きくなっている。
「あれは何だ。鳥か、飛行機か! それとも新作か!」
「愛で空が落ちてくるー!」
それは轟轟と唸りを上げて落ちてくる隕石、でもなかった。
それには意思があった。怒りがあった。天から落ちつつも、地の底から這うような怨みの叫びを伴うそれは。
今の今まで、ぺんぺん草も巨大で甘い果実をつけそうな二人の通った跡を追いかけてきた。
上白沢慧音、その人であった。
「ぉぉお──まぁえたちぃ──!」
高高度から重力を伴いさらに加速。呆け面した二人の間を目がけて落下する。
あっというまに轟音を伴い地面に着陸。その際、猛禽の如く広げた両腕が、ラリアットよろしく二人の首を刈り取った。
腕を勢いのままに交差させた着地ポーズの慧音、半回転して頭から地面に叩きつけられるバカップル。
「くぉぉぉぉ、ノーロープノーマットでこの大技はキッツい……!」
「ほ、星が、一面の星が見えたよ○○……」
のたうち転げ回る二人の襟首をそれぞれ両手に引っつかんで起こす慧音。
そしてそのまま前後にがっくんがっくん。
「言ったよな。じっとしてろって私は言ったよなー!」
「あぅあぅあぅあぅ」
「うぁうぁうぁうぁ」
がくがくがくがく。
「いーったよなあー!!」
ががががががが。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「う゛う゛う゛う゛う゛う゛」
「ごめんなさい」
「もうしません」
「反省しろといってるんだ」
こっぴどく叱られた二人、またしても地面に正座。
流石に色ボケする余裕も無いくらいには懲りたらしい。
「慧音に迷惑かけすぎたと思って……」
「見えないところで騒ぎを起こされる方が迷惑だよ、全くもう……」
やれやれと首を振る慧音、もはや心境は諦めに近い。
仕方あるまい。この二人に付き合うと決めた以上、これくらいのことは。
「今度は私もついていくから、今日お騒がせした所にはお詫びしに行くんだぞ」
「うん、わかった」
「ありがとうね、慧音」
それじゃあ、と踵を返してしょんぼりした様子で二人は行こうとする。
その肩を掴んだ。何処へ行く気かと。
「家もないし、泊まるところもないから、野宿しようかと」
「お前はなにを言ってるんだ」
有無を言わせずに、今度は二人の後ろ襟を掴み、引き摺っていく。
この程度で済むなどと思っているあたり、本当にこの二人はど甘いことだ。
「まだまだ言い足りん、今夜は夜通し説教だ。ついでに冷や飯を食わせて熱湯に突っ込んでやる」
「えーっと……」
「それって……」
ぱあっと花咲くようにほころぶ雰囲気を背中でひしひしと感じながら。
しかしまた自身の甘さも相当なものであることを、彼女は自覚していた。
それが決して不快ではないあたり、全くもって重症であるということも。
「慧音の家にお泊り、久しぶり。楽しみ!」
「俺はお泊り初めて。超楽しみ!」
「ねー♪」「ねー♪」
「うるさいうるさい、黙ってしおらしく引き摺られてろ。反省!」
「はーい」
こうして、人妖お騒がせの元は漸く回収されることとなった。
とっぴんぱらりのぷう。
以下おまけ
一度は焼失した彼らの家であったが、再建されるのもまた速かった。
風の噂を聞きつけた天狗らが、二人が山に来るのを恐れたがゆえの超突貫建築である。
その際には魔法に霊力、陰陽五行七曜八卦から神の御業に至るまで、あらゆる技術を駆使することとなった。
そうして出来上がったのが完璧な耐火耐雷、防音を備えた彼らの新居である。全ては同じ過ちを繰り返さぬために。
「ここが俺達の新しいハウスね!」
「ハウス!」
しかし、その新居も程なくして再び崩壊の憂き目を見ることとなる。
不良天人による無自覚の上での誤爆、局所的大地震によって。
二人は落とし前をつけるべく、天上へと飛ぶのだった。
「我ら比翼の鳥、」
「我ら連理の枝、」
「以って欠けること能はざる也!」
「よくも愛し合う二人の家を破壊したな! 許せんっ!」
「ご存知、愛と愛とついでにLOVEの、評判な夫婦○○と妹紅! 愛に代わって介錯よ!」
並み居る強豪達からスルーされて、河を山を通り抜けて、犯人(初対面)の前へと現れたバカップル。
BGMはラスト戦闘前のアレ。
「なんなのこいつらーっ!?」
天人の少女も自業自得とはいえ、彼らのそれは些か業が深すぎた。
この戦いとも呼べない戦いの中、緋想の剣の力により彼らの気質、即ち惚気が斬られてしまう。
緋色の雲は桃色のそれとなり、幻想郷を惚気の天気(?)が包み込む。
例によって例の如く、二人の愛で幻想郷がヤバイ。
この異変を解決できるのは最早彼女しか居ない。他の誰もがやりたがらない。
「あいつらなんだな。またしても、やはりまたしてもあいつらなんだな──!」
往け、慧音。飛べ、慧音!
もののついでにと天界デートへ移行したバカップルに頭突き(6A)を叩き込むために!
東方緋想天アペンド「彼と彼女の破天候」に、続く……わけがない
どっとはらい
新ろだ936
「お疲れ様。今日はもうあがっていいぞ」
そんな慧音さんの何気無い一言から、この物語は始まる。
主人公は僭越ながらこの俺が勤めさせて戴くが、お暇な方は少々お付き合い戴きたく思う。
さて、唐突ではあるが今日この日が何の日であるか、諸兄はご存知だろうか。
そう。クリスマスイブである。
本来ならばイエス・キリストの誕生を祝う由緒正しき祝日の前日なのだが、何をどうとち狂ったのか知らないが、
カップル達が愛を囁き合う独り身にとって忌むべき日と成り下がっている。
俺がどちらに属するかは言わずもがな。この幻想郷に流れ着いて日の浅い内に外との文化の違いを知った俺はこの憂鬱な日を
回避できるのではと淡い期待を抱いていたのだが、どこの阿呆が持ち込んだのやら、窓の外を見ればカップル一色。
きっと慧音さんも良かれと思って言ったのだろう。しかし先ほども述べたように俺にそんな相手はいない。
「いや、慧音さんこそ早く帰った方が良いんじゃないですか?」
半分冗談のつもりで放った俺の言葉は彼女の頬をわずかに赤く染めた。どうやら彼女も歪んで伝わったこの記念日に踊らされる一人のようだ。
けれど俺は他のカップルと同様に彼女を蔑んだりしない。なぜなら彼女は外来人だった俺に住居と職をくれた恩人であり、
まがりなりにも寺子屋で教鞭をとる俺の尊敬すべき先輩先生だからである。
そんな大切な人に罵詈雑言を浴びせる程恩知らずには出来てない。
共に過ごす相手のいる彼女に遅くまで仕事をさせる位なら、帰ってもどうせ独りな俺が残った方が幾分ましというもの。
鍵の束を預かり、しかしだの何だのと渋る慧音さんを早々に帰らせると、机の上に散らばった書類と再び向き合った。
「……これで終わり、と」
机に座り続けで硬くなった体をほぐしつつ、時計を見ればもうすぐ日を跨ごうかという所だった。
戸締りをして寺子屋を出ると、白い景色が私を出迎える。どうやら知らない内に雪が降っていたようだ。
と言っても俺にとっては寒さを増長するモノ以外の何者でもなく、そそくさと家路につくべく足を出した所で聞き覚えのある声に呼び止められた。
「や。今終わりかい?」
月明かりに淡く輝く銀髪、いたる所にお札が張り付いたもんぺ。声の主は藤原妹紅だった。
雪が降る寒さの中、いつも通りの格好で立つ彼女を不思議に思ったが、よくよく見れば
背中に赤々と燃える翼が見えた。暖かそうで羨ましい限りだ。
「慧音は?」
「先に帰ったよ。こんな日に残業するのは独り身だけで十分さ」
「そか。それじゃあそんな良い人にご褒美だ」
親指で指した先を目で追うと、湯気を吐き出しながら暖かく光る屋台が視界に入った。
人の金で飲む酒は格別だ。ご相伴に預かろうじゃないか。
熱燗を一口啜ると、腹からじわじわと温もりが体全体に染み渡る。冷えた体にはこれ以上無いという位のご褒美だ。
しかし、と焼き鳥を齧りならがふと思った。隣で同じ様に焼き鳥に舌鼓をうつ妹紅には相手はいないのだろうか。
こんな所で俺と二人で酒をちびちびやっていて良いのだろうか。
そんな疑問を妹紅はそんな事かと笑って一蹴した。
「“降りしきる雪を見ながら、寄り添って愛を囁き合う”だなんて私のキャラじゃないよ」
「そうなのか?」
「そうさ。こうして焼き鳥を肴に一杯やる位がちょうど良いんだ」
随分と色気のないクリスマスだこと。しかし妹紅の言った光景を想像すると胸焼けがした。
俺にとってもこれくらいがちょうどいいのかもしれない。
不意に肩を小突かれた。隣を見ると、妹紅が徳利を構えてこちらを見ている。
「メリークリスマス」
徳利で乾杯しようとでも言いたげに中の酒を揺らしている。全く、ムードもへったくれもない。
「メリークリスマス」
同じデザインの徳利をぶつけると、妹紅は満足したのか持っていた徳利を煽った。
「女将、おかわり」
こうして夜は更けてゆく。
こんな聖夜も、悪くない。
最終更新:2010年08月06日 21:46