文6



避難所>>8


「ふぅ、よっこらせっと……」
手に持ち、背中にも背負った荷物を降ろす。重量からの開放感は清清しい。
袋に詰め込んであるそれらは全て食料だ。
一応ある程度の自給自足はできているが、御数はともかく主食はその限りではない。
なので定期的に人里へと買出しに行かなければならないわけだ。
「慧音さんには感謝しなきゃな。今日は南瓜まで貰ったし」
あの半獣さんは人里に住んでいない俺のような人間に対しても親身になって接してくれる。
彼女の口添えがあるからこそ、財布の中身が南極並みの俺でも食料が安く買えるというものだ。
貰った南瓜は後で煮付けにでもして頂くとして、次会うときは日頃の御礼でも持っていくべきか。
「今度、新鮮な魚でも釣っていくかな」
そんなことを考えながら裏の倉庫に食料を運び込み、ようやく一仕事終えた気分で玄関に戻る。

「ただいまー、って誰に言ってるんだ俺は。……ん?」
居間に入ると何故か客がいた。
窓を破って進入したらしいそいつは、机に突っ伏して微動だにしなかった。
「文か」
どうしたんだ、と呼びかけてみるも返事は無い。
奇妙に思い近づいてみると、
「……すぅ…」
「……寝てるのか」
文は机の上に新聞の原稿のようなものを広げたまま寝ていた。
書いている途中で寝てしまったのだろう。この日溜りの中では無理も無い。が、
「自分の家ですればいいのにな」
わざわざ進入してまで他人の家でする必要性が感じられない。というか不法侵入はいかんだろ。

仕方なく窓を直しに向かおうとしたところで、とあるものに目が留まった。
文が置きっぱなしにしている、和風に装飾されたそれを手にとってみる。
文花帖。記事になりそうなネタを集めた天狗の手帖、だったような気がする。
手癖の悪い人物(普通の魔法使い等)が多い昨今、こんな大切な物をこうも簡単に放置しておくとは……
「…………」
思い直して椅子に座り、無防備な文の寝顔を眺める。

天狗は排他的な妖怪だ。天狗内での仲間意識こそ強いが、それ以外の種族との関係となるとそうでもない
彼女も新聞記者という仕事柄、人脈(というのは不適当であるが)は豊富にあるのだろうが、
それは広く浅い関係だ。仲間内のような狭く深い関係ではない。
更には他の種族(河童以外か)からしても天狗は余り好かれてはいない。盗撮、捏造、といった行動がその原因だ。
出来るだけ関わり合いにならないほうが良いというのが共通見解だろう。つまりは倦厭される。
当然例外はあるだろうが、排他的であるが故に、取材や宴会の席でなければ他の種族と関わることは少ない。

考えを目の前に戻す。
そんな種族の少女が現在進行形で寝ている。思いっきり他種族の家で。
信頼、しているというのだろうか。人間である俺を。

「……何考えてんだか」
自分は信頼されている、と断言できるなど自惚れもいいとこだ。
我ながら無駄に難しく考えたものだが、単にまだ帰ってこないと思っていただけ、というのが正解だろう。
「さっきまで考えてたことは無しだな」
手に持った文花帖を元の場所に戻す。中の内容がどんなものにせよ、これは文の努力の結晶だ。
今見なくても購読しているのだからいつかは新聞で読めるだろう。それまで待てばいい。

再び文を眺めつつ、これからどうするかを考える。
取り合えず窓を直すという手もあるが、ここで少し悪戯心が芽生えた。

思い立ったが吉日、ということで即実行に移す。
文の頭に手を当てて、その烏羽色の髪を丁寧に撫でてみた。
手先にサラサラとした感触が伝わってくる。許可があれば暫く撫で続けていたいくらいだ。
「……うーん…」
「む、悪い、起こしちまったか」 
「…………え……?」
文は寝惚け眼で暫く俺を眺めた後、
「えぇぇぇええええ!?」
椅子を蹴り飛ばすほどの勢いで壁際まで飛び下がった。木製の椅子が壊れた窓枠ごと外に吹き飛んでいく。
……こいつは俺の家の物を壊すのが趣味なのだろうか。だとしたら即刻やめてもらいたい。
「ぇぁ、な……!? なんでいるんですか!?」
「ここは俺の家だからいるのは当然だろう」
「いやまぁ、そうですけど!」
珍しく慌てているのか、所々でどもりながら口を開く。
慌てる文の姿は貴重だ。しっかりと目に焼き付けておこう。
「え、えーと……見ちゃいました?」
「主語がないから判らんが……新聞の原稿なら読んでないぞ?」
「それじゃなくてですね!」
「じゃあ文花帖か。安心しろ、覗いてなんかいないから」
「それでもなくて……」
「他になにかあったか?」
文はここで何故か口篭る。だが俺には心当りが無かった。

少しして、普段ならありえないような小声で呟いた。
「その……寝顔…」
「寝顔? ああそれか。当人が目の前で寝てれば見るなというほうが無理だろう」
「うわぁ……!」
妙な感嘆の声を上げると急に顔を俯かせる。よく見ると顔が赤く……あれ?
赤面する文なんて見るのは初めてだ。貴重を通り越して驚きである。
「○○さんに見られてしまうなんて……この射命丸文、一生の不覚です……」
「俺は変態か。つーか寝顔なんて見られて減るもんでもないだろ」
「私は恥ずかしいんです!」
むきになる文を見ていると、急にからかいたくなる衝動が湧き上がってきた。ここは本能に従おう。
「そう言うな。可愛かったぞ、寝顔」
「ふぇっ……!?」
「あとは髪かな。サラサラしてて気持ちよかった」
「…………!!?」
不意打ちを連続でくらったからか、最早声にもならない声を上げる文。何処ぞの館と張り合える程に真っ赤っ赤だ。
「そうだな他には……OK、判った。もう言わないから天狗烈風弾はやめろ!」
突然扇子を振り上げたられたので、からかいを中断して必死の叫びを上げる。
むぅーっ、と怒りながらも文は扇子を下ろしてくれた。危ねぇ……

一先ず窓を直すのは後回しにしてお茶を入れることにしたが、湯を沸かしているときから感じられる文の視線が痛い。
居心地の悪さを解消するためにもお茶を差し出す。
「まあ取り合えずこれでも飲んで落ち着け」
「落ち着けませんよっ。あんなにからかわれたのにそう簡単に許せますか!」
「そいつに関してはすまないと思うが、お前のほうこそ家主がいないのに無断進入して原稿を書く、っていったいどういう了見だ」
「いいじゃないですか! 何と無くそんな気分だったんですよ!」
「その何と無くで窓を割られる俺の気持ちにもなれ……」
というか進入したくなる気持ちってなんだ。そんなものはあの白黒魔法使いだけで十分だ。
「それにしても可愛いと言われて怒るなんてな。なんて言われれば嬉しいんだ?」
「からかいで、しかも寝顔に言われても嬉しくないですっ。もっと普通の場で言ってくださいよ」
頬を膨らませてそっぽを向く文に対して、やれやれと溜息をつきながら答える。

「お前は普段から可愛いから、ああいう状況じゃないと言う機会が無いんだよ」
「え……?」
「二度は言わん」

暫くポカーンとしていた文だったが、唐突に我に返ると一気に捲くし立てた。
「そ、そんなこと言って、購読料を安くしようたってそうはいきませんよ!?」
「そんなこと考えてもいないが……」
「おおっと、そういえばこれから取材の用件が入ってたんでした! それでは私はこの辺でっ!!」
そう言って机の上の私物を瞬息の手付で片付けると、こちらが何か言う暇も無い内に帰り支度を済ませる。
最早枠すら残っていない窓の跡に足をかけたところでこちらを振り返り、
「どうせ嘘でしょうからねっ、信じませんよ!」
そのまま晴天の空へと飛び上がった。一瞬の内に米粒のような影となり、見えなくなる。
後に残るのは暫しの沈黙。
「……本当に落ち着きのない奴だな」
椅子に座ったまま、文が飛び出していった空を見上げる。
寝顔に関してはからかいであったけれど、普段から可愛いと思ってるのは事実なんだがな。
……俺の言葉って嘘っぽく聞こえるのかね。どっかの素兎よりかはマシだと思ってたんだがなぁ。
「まあいいさ」
彼女が俺のことをどう思っていようが、自分の気持ちに変化が出るわけではない。
俺は文と一緒にいて楽しいんだ。今はそれでいいじゃないか。
そこまで考えて納得し、文が飲み掛けのまま放置したお茶を静かに飲み干した。

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7スレ目>>166


「ほら、豚角煮行くぞ――あーん」
「あ、あー……むぐ。……なんか、複雑です」
「雛鳥になった気分か?まあ仕方ないさ。
 ――卵から離れちゃ駄目なんだろ?」
「もうちょっとしたら自分で出て来られる時期に入るんですけどねー。
 ――元気に育ちなさいねー(こんこん)」

(ゆっさゆっさ)

「あ!動いた!」
「おお、本当だ!――って文面だと人間とあんま変わらないな」
「確かにこれじゃ記事栄えしませんねー……」
「って、まさか新聞で連載する気か!?」
「当たり前です――私の可愛い子供の成長記ですからっ」


やっべえ和み過ぎ。ちょっと文のたまご倶楽部予約してくる。

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7スレ目>>226-227


  「文~! 今日の俺の特ダネ写真、どうだった?」
  「全然駄目ですね。もっと被写体に近づいて、もっときわどいとこまで撮って、
   弾幕浴びせられつつ、颯爽と去る。
   これが文屋と言うものです。
   まだ解らないんですか?」
  「・・・orz」

227 :名前が無い程度の能力:2007/04/21(土) 20:52:01 ID:E3/OOF7w0
  >>226から幻視

  「まったく仕方がないですね。お手本を見せてあげますよ。よく見ていてください」
  「ああ、ありがとう……ってどうして俺に近づいてくるんだ?」
  「だからさっきも言ったじゃないですか。もっと被写体に近づいて、もっときわどいとこまで撮る……と」
  「い、いやそうは言っても近すぎるだろ!顔!顔近いってー!」
  「これでこそ特ダネが撮れるというものですよ……そうだ、明日の一面はこうしましょうか」
  「な、なんだい……?」
  「『文屋に熱愛発覚!真昼の路上でキスシーン!?』に……」
  「ええ!?いや、あの、んん!」
  「んっ……ほら、大人しくしてくださいよ……ピントがずれるじゃないですか」
  「ご、ごめ……うぁぁ」
  「うふふ……○○さんかわいいですよ……ちゅ……」
  「んむ……」
  「……ぷぁ……これぐらいでいいですかね」
  「はぁはぁ……」
  「では、最後は弾幕浴びせられつつ、颯爽と去る、ですね」
  「へ?」
  「風神一扇!」
  「うぎゃー」
  「……それでは、明日の新聞を楽しみにしていてくださいねー」
  「…………この場合、弾幕を浴びせられるのはあっちじゃないのか……ガクッ」

  次の日の新聞の一面は『真昼の惨劇!幸せそうな変死体の謎!』になったとかならないとか

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7スレ目>>651


<射命丸 文 参戦決定!>

「……文、これが今度の号外か」
「ええ、そうですよ」
「文って美人だったんd――OK落ち着こうビール瓶は止めてくれ」
「ぐすっ、

 ――誰の為に女磨いたと思ってるんです(よよよよよ)」

「……いや、悪かった。すまん」
「……ほんとに悪いと、思ってます?」
「二言は無いよ。出来る事なら何でもする。
 そうだ、紅魔館から良いワインが入ったんだ。飲むか?」

(トクトクトク……)

「そう、ですねぇ……」
「む、擦り寄ってくるなよ、零れるって」
「あは、これは失礼を――(すっく)」

「お子胤を、下さいませ」

(どぼどぼどぼどぼどぼ)

「――おーけいおーけい文落ち着けまずは素数を数えろ待て」
「どれくらい待ちますか?」
「……まず、服がワイン染めになる前に、これを片しておきたい」
「あら、これはいけない――お手伝いしましょう」
「ふー、……っておい待て何処に屈んでる其処はいい着替える自分で拭――」


「きゃーっち」
「ァッ―――!?」

(久々に省略されました。続きを読むためにはドアノッカーと蒼いランタンを用意してToten sie!)

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うpろだ330


「○○さん、今日も取材に来ました。
昨日は好きな献立を聞きましたね。今日は…」

私がこの人間に、取材を口実に会いに来る様になってからもう一ヶ月になる。
名前は○○。身長、年齢、趣味嗜好、果ては家族構成や病歴まで聞いてしまった。
正直言ってもうこれ以上は何を聞けばいいのか解らない。
一番聞きたい事はあるにはあるが、もし自分の望む答えで無かった場合、ここに来る理由が無くなってしまう。
いや、本当は薄々分かっている。○○さんは私に興味なんて無いのかもしれない。
なにしろいつも私が一方的に質問して○○さんはそれに答えるだけ、という関係だった。
あちらから質問されたのは数えるほど。
「此処は何処?」

「君は誰?」
の二つのみ。
今日は無難に仕事の調子でも聞こうか…と思っていると、なんと○○さんの方から質問してきた!

「君はいつも記事になりそうも無いことばかり聞いているけど、
そんなことで新聞を作れるのか?」

作れる訳無いじゃないですか。
と、危うく本音を言いそうになるほど驚いた。
思えば会話が途切れそうになる度、私の方からなんだかんだと喋っていた。
所謂、ずっと私のターン!○○さんが質問なんて出来る筈が無い。
思い出すと顔が熱くなる。
でも、少しだけ勇気が湧いてきた。
質問してきた、ということは私に対して無関心ではない、ということだ。
思い切って、なおかつ逃げ道も確保しながら慎重に答えを返した。

「それは秘密です。
とはいえ○○さんは賢い方ですので、私の気持ちにも気づいて頂けると思いますが。」

これならどう転んでも○○さんへの「取材」を継続できる…筈。

目が合った。見つめられてる。顔が近づいてきた!
なんという急展開、予想していたステップを3段くらい飛ばしてきた。
どうすることも出来ず、ただ目を閉じた。

まだ来ない

まだ来ない

まd



キス…された…

目を明けるともう○○さんの顔は遠くに行ってしまっていた。
心配そうに見ている。

「その、すまない、イヤだったか?」

その一言で正気に返った。

「イヤじゃないです!」

ある意味まだ惚けたままなのかもしれない。叫ぶ、という行為をしたのは本当に珍しい。
しまった。○○さんが引いている。
急に彼の前に居るのが恥ずかしくなり、

「その、今日はもう帰りますっ、ま、また明日っ」

そう言って逃げる様に帰ろうとすると、

「待ってるから」

と後ろから声を掛けられた。

「はい、必ず!」

顔も見れずに返事を返し、そのまま自己(幻想郷)新記録のペースで家路についた。





まるで夢の様な一日だった。
キス=○○さんの気持ち=愛!!!
いくら一ヶ月間進展無しだったとはいえ、たった一日でこれほど急接近してしまっていいものだろうか。
いや、きっとせっせと与えた愛情が一気に実ったのだ。よくあること…たぶん
それより、明日はどうしよう。
今日あんな帰り方をしたのはやはり不味かったのではないか。
せっかくいい仲になれたのに、こんなことで気まずくなるのは絶対に避けたい。
なんとしてでも名誉挽回しなければ。
さて、どうしようか。とりあえず全ての生き物(一部亡き者)に大事なのは食事だと思う。
幸い○○さんの嗜好は全て記憶済み、○○さんが仕事に出た後に台所を借りて作ることにしましょう。
うーん、これだけじゃ足りないような。
そうだ、○○さんは普通の人間だから、妖怪に襲われたらひとたまりもない!
なんてこと…こんなことにいまさら気づくなんて…!!
急いでお守りしに行かないと!!!




………朝…ですね…
徹夜で見張ってましたが結局誰も来ませんでした。
まぁ、私に恐れを為して近寄れなかったのでしょう。
おっと、○○さんが出勤ですね。妖怪に襲われない様にこっそり後を尾けないと。



人間のメス、一人撮影
コメント
私の○○さんに声を掛けながら肩を撫で回した



人間のオスとメス、合わせて三人撮影
コメント
私の○○さんと一緒にご飯を食べた



人間のメス、一人撮影
コメント
私の○○さんと好色そうな顔で会話し、あまつさえ釣銭を渡す際に手を握った!!!



私、勘違いしてました。真に危険なのは妖怪なんかじゃなかった!
本当に邪魔なのは友好なフリをして近づく人間そのもの!!
許さない許さない、絶対に許さない!!!
○○さんの目を覚まさせなきゃ……

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9スレ目>>148


(↑の救済編) *削除しました


 私の人生は外からやって来た一人の人間の男性によって鮮やかに煌き、その果ての些細な誤解から崩壊へと転がっていきました。
 “嫉妬”は“狂気”を生み、それが私の中に眠っていた“獣性”を呼び覚ましたのです。
 醜い感情に囚われた私は、償いようの無い罪を犯しました。
 だから私は彼に迷惑を掛けたくない一心で、己の罪を清算するべく“妖怪退治屋”の手によって死のうと思いました。
 でも死の直前に溢れんばかりの彼の想いが、死んでしまったはずの“生への執着”を呼び覚まし、涙で濡れたその顔が悟ったはずの“死への恐怖”を呼び覚ましたのです。
 死にたくない もっと彼と一緒に居たい
 罪に塗れたこの身体には、もはや彼と共に在る資格なんて無いのかもしれません。
 それでも、私はまだ死にたくありませんでした。
 悲しい程に現実は無常に流れていくものです。
 叶わない願い。
 分かっていても、私は願わずにはいられませんでした。
 だって、私は彼の事を本当に愛していたのですから。

「ならば生きなさい。 罪ならば一緒に背負ってくれる人がいるでしょう?」

「・・・・・・う」
 意識が暗闇の底から浮上する。
 ゆっくりと、まだぼやけているけど徐々に視界が明瞭になってくる。
「え・・・? あ、ぐ・・・!!」
 起き上がろうとした途端、身体中に激痛が走って私は呻き声を上げた。
 何とか片手をついて上体を起こす。
「あれ・・・?」
 周囲を一通り見渡して気が付いた。
 此処は彼の家だ。
 何よりも・・・
「私・・・ 生きてる?」
 あの時、確かに霊夢さんの攻撃を直撃して私は死んだはずだ。
 まさか彼女が手加減をしたとでも言うのだろうか。
 いや、アレだけの霊力では加減しようにも出来ないだろう。
 ならば、なぜ?
「あ・・・や・・・・・・?」
 急に扉の開く音がしたのでそちらの方を見やると、そこには彼が立っていた。
「えっと・・・ おはようございます、○○さん」
 状況がよく飲み込めないので、とりあえず挨拶しておく事にした。
「あやっ!!」
「うわぷっ!」
 気が付けば私は抱き締められていた。
「あ、あぅ・・・ あ、あの○○さん?」
 近くに感じる彼の匂いと温もりが、何だかとても懐かしい。
「文・・・ 良かった・・・良かった・・・・・・」
 まるで私がここにいる事を確かめるかの様に、痛いぐらいに抱き寄せられる。
「○○さん・・・」
「何で・・・あんな事したんだよ・・・・・・」
 咎める様な彼の言葉。
 その言葉に、私は自分が犯した罪を思い出した。
「私は・・・人を殺してしまったんです・・・・・・ 悪い妖怪は、退治されるものですよ・・・」
「馬鹿!! それでも文には後悔する気持ちがあったじゃないか!!」
「!!」
 初めて聞く彼の怒声。
 でもその表情は怒りよりも悲しみの方が色濃かった。
「死なんかじゃ何も償えない! それはただの逃避でしかないんだ!!」
 そうだ、私は逃げていたのかもしれない。
 自分で犯してしまった罪から。
何よりも現実から。
「何よりも、お前は置いて逝かれる俺の気持ちを考えていなかった!!」
「っ!」
 脳裏に過ぎる最期の瞬間。
 その最期の風景に写っていた彼は泣いていた。
 私が、泣かせてしまったのだ。
「罪ならば俺も一緒に背負う! だから、頼むからもうあんな事はしないでくれ・・・!!」
 目の前の彼が泣いている。
 ボロボロと大粒の涙を流している。
 その表情が最期の瞬間に見た表情とダブった。
「ごめん・・・なさい」
 彼の想いがじんわりと心に染み渡っていく。
 そして私は自分がとんでもない事をやらかしたのだ、と言う事に気が付いた。
 危うく、私は身勝手な贖罪で全てを失うところだったのだ。
「ごめんなさいぃ・・・・・・・・・」
 気が付けば私もまた涙を流していた。
 生きているという喜びと酷い事をしてしまったという悲しみを、暖かい透明な雫に中に乗せて。

 彼曰く、私はあの後永遠亭に運び込まれ集中治療を受けたのだそうです。
 それでも処置には限界があって完全に立ち直す事は出来なかったらしく、後は私の体力次第となったらしい。
 幸い私は妖怪ですから体力は申し分が無く、割と順調に回復していったとの事でした。
 ただ身体は殆ど完治に向かっているにも関わらず意識が戻る気配が全く無く、昏睡状態がおよそ4日間続いたのだそうです。
「随分と泣かれてしまいましたよ」
「ふぅん」
 隣に座った霊夢さんは、特に興味も無さそうに答えました。
「ま、そりゃあ当然だろうな」
 同じように縁側に腰掛けた魔理沙さんがお団子を口にしながら言いました。
 一頻りお団子を咀嚼してから彼女は続けました。
「妖怪はどうだか知らないが、普通は大切な奴が自殺まがいな事をすりゃ悲しむぜ?」
 自殺。
 その言葉が胸に刺ささります。
「そうですね・・・」
 私だって、彼がそんな事をすれば悲しいです。
 いや、私は彼にそんな事など絶対させないでしょうけど。
 思えば本当に自分勝手な事をしたものですね。
 つくづく自分が嫌になります。
「ま、これに懲りたら二度と死のうとするなよ? あいつお前が目を覚ますまで、ほぼ徹夜で看病していたらしいからな」
「え・・・?」
 それは初耳でした。
 でも良く考えれば、涙に濡れた彼の顔はどこかやつれていたような気がします。
「○○さん・・・」
「ったく愛されてるなー!! 私もアイツみたいな彼氏が欲しいもんだぜ!」
「魔理沙の愛情表現は歪んでるから、当分は無理そうね」
「失敬な、私はだって恋する乙女だぜ?」
 外野が何やら騒いでいますが、私の耳にはそんなやりとりは一切入ってきませんでした。
 きっと今も自宅でのんびりと過ごしているであろう彼の事が、愛おしく思えてしょうがなかったのです。
 軽い音を響かせて、私は漆黒の翼を広げました。
「私そろそろ行きますね?」
「翼、平気なの?」
 霊夢さんの言う通り、私の翼は完全には治癒していません。
 “飛ぶ”と言う行為自体に支障は無いのですが、幻想郷最速と言われていたあの頃の様なスピードは出せないのです。
「ああ、ご心配なく。 もう随分良くなったので」
 完治の見込みは立っていません。
 最悪、この翼は一生不完全なままになる可能性も十分に考えられるのです。
 彼女が珍しく他人の心配なんてしているのは、そう言った理由もあるからでしょうね。
「それに」
 私はあまり気にしてなんていないのです。
 何せ・・・
「今の私には、翼の代わりになってくる人がいますから」

 看病の疲れが祟ったのか、俺はここ数日体調が優れなかった。
 まぁ、今はしっかりと休養を取ったので殆ど全快していて問題はないのだが。
「ふぅ・・・」
 淹れ立てのコーヒーに口をつけながら、色々と思い返す。
 自分が妖怪に恋をした事。
 自分の不注意から誤解を招き、恋人に罪を負わせてしまった事。
 恋人が罪を償う為に進んで殺されに行った事。
 そして、死に掛けていた恋人がようやく目を覚ました事。
「俺がしっかりしていれば、或いは・・・」
 俺がもっとしっかりとしていれば彼女は誤解などしなかっただろう。
 罪を犯す事も無く、死の淵に立つ事も無かっただろう。
「俺がしっかりしなくちゃな」
 二度とこんな悲劇は繰り返さない。
 俺は強く心に誓った。
「ただいまです、○○さん」
 ふいにドアを開けて、俺の恋人が帰ってきた。
「おかえり、文」
 俺の笑みに、彼女も応えて微笑んでくれる。
「準備は出来ていますか?」
「ああ、文が帰ってくるのを待っていた所だよ」
「そうですか」
 この笑顔だけは失わせはしない。
 罪を負った以上、それを背負う俺達には幾多の困難が待っているのだろう。
 だがそれも二人でならば越えて行けるはずだ。
 俺如きが折れてしまった彼女の翼の代わりになれるかは分からない。
 それでもこの身体が朽ちるまで、俺は精一杯彼女の翼を支えよう。
「では行きましょうか」
「ああ、そうだね」
 今日は二人が付き合い始めてから2年目の記念日。
 同時に俺達が罪を負った日だった。

 突き抜けるような青色の空にはちぎれ雲が所々に浮かび、白い太陽が燦々と照りつけている。
 優しい風が肌に心地良い。
 私達は村外れにある小さな墓地に立っていました。
 数ある墓の中の一つ。
 比較的こじんまりしたその墓の前で、私達は手を合わせていました。
 この墓は私の罪の証。
 私が殺めてしまった女性の墓。
「お久しぶり・・・ですね」
 彼女の葬儀に私は参加しませんでした。
 元々人間の葬儀に妖怪が参列する事自体が忌避される上、私は彼女を殺した張本人なのですから当然の事とも言えます。
 なお、その葬儀は非常に手早く済んだそうです。
 ・・・当然ですよね。
 何せ現場に残ったのは骨と皮と毛髪ぐらいだったのですから。
 こうしてここに来るだけでも、途方も無い自責の念で胸が一杯なります。
「ごめんなさい、で済むとは思っていません」
 赦される罪なんて数える程しかありません。
 如何に誰かが赦そうとも、罪を犯した過去は消えないのですから。
「でも死んで償うつもりもありません」
 それは逃避だ。
 そう彼がそう教えてくれました。
 「死」と言う状態に至る事は第三者から見れば贖罪に見えるかも知れない。
 しかしそんな事で死者は蘇えりませんし、何よりも死者は何も語りません。
 要は私がしようとした事はただの自己満足でしかなかったのです。
「だから、生きます。 貴女の命を奪ったと言う罪を背負って、この身体が朽ち果てるまで生き続けます」
 ふいに彼の腕が私の肩に置かれました。
 ああ、いけないいけない。
「・・・訂正です。 貴女の命を奪ったと言う罪を“彼と共に”背負って生きて続けます」
 言い切ってから、彼の方を見やると満足そうな微笑みが返ってきました。
 そう、これがきっと正しい償い方なのです。
 もっとも、罪人が“幸せ”を味わって良いのかは一種の命題なのですが。
 それでもきっと私達は互いの顔を見る度に“彼女”の事を思い出し続けるでしょう。
 私達は一生涯、幸せの中に罪を見つめながら生きていくのです。
「だから、ごめんなさい・・・ 本当に・・・ごめんなざい・・・・・・」
 やっぱり駄目ですね、私は。
 赦されないと分かっていても、言葉と涙が抑え切れません。
 私は思わず土下座をしていました。
 そうでもしないと気が狂ってしまいそうだったのです。
「よせ、文」
 耳に入った彼の声。
 次いで感じる浮遊感。
 彼が私の腕を掴んで立ち上がらせていました。
「・・・約束しただろう」
「っく・・・うぅ・・・ぐすっ・・・・・・」
 そうだ、ここに来る時に二人で決めたのだった。
 例えどんなに辛くても決して涙は流さない、と。
 私は急いで涙を拭い去り、乱れた心を落ち着けました。
「・・・怨んでくれても構いません」
 小さな墓場に彼の声が凛と響きました。
「まだ未来のある貴女の命を奪ったのは俺達の罪です。 その罪は償えないのは分かっています」
 真っ直ぐに、もうここにはいない“彼女”に告げる彼の横顔は男の顔でした。
「だから、俺達は貴女の分まで幸せになります。 例えそれが自己満足と言われようとも」
 私の肩をしっかりと抱いて。
 彼ははっきりと宣言しました。
「俺は文と生きます。 彼女と共に幸せになります」
「○○さん・・・ それって・・・・・・」
 もしかして、いやもしかしなくても・・・
「本当はもっと雰囲気の良い場所で言いたかったんだけどね」
 申し訳無さそうな彼の顔。
 懐から取り出された小さな箱。
「罪の象徴の前でのプロポーズ。 “彼女”にも申し訳無いけど・・・」
 バツが悪そうな笑顔。
 何て人だ。
 こんな状況で、こんな場所でぷ、プロポーズしてくるなんて!!
 本当ならば怒りますよ?
 幾ら恋人だからって、こんな所で言ってくるなんて許しませんよ?
 でも・・・
「その・・・ 受けてくれるか?」
 そんな真剣な眼差しで言われたら、
「はい、喜んで・・・」
 断れる訳無いじゃないですか・・・・・・



 斯くて片翼は双翼へとなりにけり。





A ト書き
 ヤンデレは本来の範疇ではありません。
そーいう訳で今回この様な作品を書いた次第です。
墓場で告白とか前代未聞ですね。
馬鹿ですね自分。
馬鹿ですか、そうですか、スイマセンorz
色々と文章も乱雑かもしれません。
本当にスイマセンorz
後、みなさん某星屑ネタを知り過ぎていて笑いました。
実際書いていた時に聴いていたのがあれだったんです。
影響されやすいね、自分。
では今回はこの辺で失礼致します。
あと下にはちょっとしたおまけがあります。
グレイゾーンなので嫌いな人はご注意を。
















































~おまけ~

 とは言っても式は即日で挙げられるものではありません。
 何よりも、まだ私達が犯してしまった真新しい罪を前にして挙式は躊躇われます。
 そういう訳で、今しばらくは「現状維持」と言うのが私達共通の見解でした。
 なお彼はその時、
「俺は文と一緒にいれれば幸せだから」
 などと恥ずかしげも無く言ってくれました。
 ちなみに今は夕食を終えて、一緒に彼の部屋で寛いでいる所です。
 本当なら私はこの時間帯に新聞作成に着手している時間なのですが、先程の事もあって身が入らなかったので今日は断念する事にしました。
 彼は相変わらず読書(外界の物だそうです)を楽しんでいます。
「何を読んでいるんですか?」
 何となく興味が湧いた私はそう言って彼の元へ歩み寄りました。
「ん? ああ、ちょっとした小説だよ」
「へぇ、見せて下さいよ」
 彼の椅子の後ろから覗き込むと、何やら小難しい文章が書かれていました。
 比較的幻想郷でも使われている文字が多いのですが、時折意味不明な単語が出てくる辺りはやはり外界の書物だなと思えます。
「そう言えば○○さんて、こんな本ばっかり読んでますよね。 他の本は読まないんですか?」
「ジャンルの事? いや、大体こんなのばっかりだと思うけど」
「え」
 そう言えば彼の家で雑誌を見かけた事は殆ど無い。
 おまけに読んでいる本はこんな堅い内容の物ばっかり。
 だとしたら、もしかして彼って。
「あ、貴方本当に健康な青年なんですか・・・?」
「え、どう見ても健康だけど?」
「だって・・・その、年頃の男性と言えば・・・・・・」
「・・・と言えば?」
 繰り返して首を傾げてくる。
 ああ、何で普段はこんなに鈍いんですかね!
 女の子にこんな言葉言わせないでもらいたいものです!!
 で、でも言わないと理解してくれないでしょうし・・・
「そ、その・・・ 春画・・・・・・とか・・・見るでしょう?」
 あうう、言ってしまった。
 我ながら恥ずかしい。
 きっと今、私顔面真っ赤になっていますよ。
「春画って・・・」
 復唱してから初めて言葉の意味を理解したのか、彼の顔が真っ赤になりました。
「そ、そそそ、そんなもの見るわけないだろっ!!」
 よほど動揺しているのか呂律が偉い事になっています。
「だだ、だ、第一幻想郷にはそんなもの売っていないだろ!」
 普段の大人びた感じが一転、まるで子供の様に慌てだす彼。
 そのギャップが新鮮で何だが可愛らしいです。
「・・・○○さん顔真っ赤です」
「ううう、うるさいなっ!」
 ちょっと指摘してみると、相変わらずの調子で返してくる。
 本当可愛いですね。
 そんな彼がとても愛おしく思えて、私はそっと彼の事を抱きしめました。
「あ、文!?」
「ねぇ、○○さん・・・・・・」
 一瞬、ビクッと彼の身体が硬直しましたが構わずに彼の頭に頬を寄せます。
「本ばっかり構うなんて酷いですよ」
 誘うように唇を寄せる。
 いきなりの事に驚いたようですが、やがて彼も応じてくれました。
 程無くして互いに息が上がり、頬が紅潮してきた頃に私は言いました。

「もっと、私を見て下さい」

 見せるからには全てを。
 包み隠す事無く、ありのままで。
 翼を小さく羽ばたかせて、愛しい貴方を抱く。

「よく見えるよ」

「本当ですか?」

 秘める様に囁きあう。
 触れ合った肌の温もりが心地良い。

「・・・ならば確認して下さい」

「ん、分かった」

 絆と共に、現在(イマ)を確かめ合う。

「んっ・・・・・・ もう、離しませんよ」

「それはこっちの台詞だ」

 明日へ向かって羽ばたく為に。

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最終更新:2010年05月11日 17:51