文12
うpろだ1178
文「おおお起きてますか○○さん~」
○○「お~うこっちはもう終わるぞ~」
何の因果かは知らないが文々。新聞を手伝うことになってしまった
しかも大会の締め切りが明日ということで、今日は文の家で徹夜の作業なのである
文「そ~ですか~こっちはzあともう……zzすこs……」
○○「寝るな文!寝たらダメなんだぞ!」
文「zzz……はっ!わ、私寝てました!?」
○○「少しな、さぁコーヒー淹れてやるからもう少しがんばろう」
文「ありがとうございます~」
○○「うん、ブラックなら文も目が覚めるだろう」
○○「文、コーヒー淹れてきたz」
文「すー……すー……」
○○「あちゃあ、まったく寝るなといったのに、大体お前が手伝わせてきたのが問題で……」
文「むー……すー……」
○○「はぁ、とりあえず埒が明かないな、どうすれば……」
こうやって見ると文の寝顔も可愛いものである
むしろ襲ってしまいたいくらいにだ
○○「……これしかないか」
そういって俺は口にコーヒーを含み、そのまま文に口移しした
文「むぐ……げほっげほ、に、苦い!!!!」
○○「起きたか文、さぁ作業に戻るぞ」
文「その前に!一体何をしたんですか!?」
○○「んなもん恥ずかしくて言えるか!」
文「ま、まさか……」
自分の姿を見てみる
さっき感じた苦味はコーヒーの苦味だと思う
そして彼の口元にそのコーヒーがついているのが見えた
文「あ、え、そ、その……」
○○「ほら、座った座った」
文「あ、は、はい」
○○「し、仕方なくやったんだからな!ファーストとかそんなの関係ないからな」
文「そ、それは私もです!は、初めては好きな人って決めてるんです!」
○○「っ……///」
文「……///」
○○「と、とりあえず終わらせようぜ」
文「そ、そうですね」
文「終わったーー!!」
○○「ご苦労様」
文「とりあえず寝ましょうー!」
○○「じゃあ布団引いてくるから待ってろよ」
○○「なんだよ文の家、布団一組しかないじゃないか」
○○「おーい文、布団がー」
文「zzz……」
○○「……今度はゆっくり寝かせてやろう」
俺は文をお姫様抱っこし、布団にゆっくりと寝かせてやった
その近くで文の寝顔を見ながら床に寝ることにした
○○「ん、俺は……あれ?」
文「起きましたか○○さん」
○○「あれ……文?大会は……?」
文「ふっふっふー、大丈夫です。○○さんのおかげで締め切りには間に合いましたよー!」
○○「そうか……俺は文の役に立てたんだな……」
文「な、何泣いてるんですか○○さん!」
○○「いやな、昨日一日考えたんだ、俺は文のことが好きだって、だから昨日口移しが出来たんだ」
文「そ、それは……私もです!私も○○さんのことが好きです!○○さんじゃなきゃイヤでした!」
○○「そうか……ありがとう文」
文「いえいえ、お礼を言うのはこっちのほうですよ」
ぐ~
○○「……あははは、お腹すいたな」
文「もう夕刻ですよ、夜ご飯にしましょう!」
まぁ結局大会では優勝できなかったんだが俺は大事なものを見つけることが出来た
これからはその大事なものを守って生きたいと思う
???「お……て……さ……い」
○○「ん……」
文「起きてください!!」
○○「はうあ!」
文「まったくもう……今日は検診の日であなたも行かなくちゃいけないんですから」
○○「あっ、ああ、そうだったな」
文「一体どんな夢を見てたんですか?寝ながら笑ってましたよ」
○○「ああ、初めて文のことが好きだって言った日のことだよ」
文「そうですか……あの日からだいぶ経ちましたね……」
○○「それでも変わらない思いもあるのさ、文、好きだぞ」
文「もちろん私も好きですよ、あなた」
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新ろだ11
文がいささか過剰にぺたぺたしてくるので、ちょっと抗議してみた。
「いいじゃないですか。私は○○さんが好きだし、○○さんだって私のこと好きでしょう?」
あっさり返されたので、ほんとに軽い冗談で、
「『いいえ』って言ったらどうするの?」
と、言ってみた。
……瞬間、後悔した。
思い込みかもしれないが、直感的に、地雷とはいわないまでもまずいスイッチを踏んだ気がする。
とりあえず予想される反応は、
1.泣く
2.怒る
3.何故そんなことを言ったのか問い詰められる
……複合ケースもありうるか。ひどく長く思える一瞬の沈黙の後、
「言うんですか?」
「―いや、言うわけないだろ」
「じゃ、問題ないですね」
予想に反して何事もなかった。特に変わった様子もなく、文は引き続き密着してくる。
「……言いませんよね?」
不意に囁かれる、消え入りそうな声。
「ああ、絶対、言わない」
文をそっと抱き寄せる。
「……ごめんな」
あまりくっつきすぎるのもよくないかな、とは思うのだけれど、
今はこの細い肩の震えが止まるまで、しっかりと寄り添っていようと思った。
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新ろだ14
雨の日は憂鬱だ。朝から雨が降っていたので今日は家でじっとしていることにした。
雨脚は強く、外にいればたちまちびしょぬれになってしまうだろう。
そんないつ止むかも分からない雨を眺めていたら夜になっていた。
寝るかな、とか思ったら扉を叩く音が聞こえた。
「酷い雨でしたよ~」
全身びしょぬれのカラス、じゃなかった射命丸だった。
とりあえずそのままではあれなので玄関先にバスタオルを持って行き、水が滴り落ちない程度には拭く。
髪の毛をぬぐってあげるとなんとなくドキッとした。
「あう……すいません」
とりあえず上がるより先に風呂に入れてあげることにした。
バスタオルと男物のYシャツくらいしかないのでそれを渡して、風呂場へ行かせる。
「お風呂ご馳走様でした~」
風呂から上がった射命丸は髪の毛をバスタオルで包み、男物のYシャツからすらりと足が覗いて見え、
なんとも言えない色っぽさがあった。
湯上り美人って言うのだろうか。
ドキドキするのでそっぽを向いて寝床を貸すことにした。どのみちこの雨だし、服も乾いていない。
自分はとりあえずその辺のタオルケットをかぶってソファに寝転がろうとする。
その目の前にYシャツ、おみ足。おおう。
「だ、だめですよ、それじゃ○○さんが風邪引いちゃいます!」
そういって射命丸が促す先は、僕が彼女に貸し与えたベッドだった。
じゃあどこに君は寝るんだと訊ねたら、
「貸してくれたじゃないですか、ベッド」
とのたまう。あれですか、一緒に寝るとかそういう奴ですか。
「わ、私は別に、全然かまわないですよ……? 二人で寝たほうがあったかいですし……」
とかごにょごにょ言っていたのが可愛かった。
ただ、この雨で寒くなるのは間違いなかったので、ありがたくベッドに入らせてもらった。
「えへへ」
とかはにかむ射命丸がすぐそばにいるとか大変ですよ奥さん。ロケットがロックしちゃいますよ。
毛布をかぶって射命丸に背を向ける。わがの滾りを気づかれるわけにはいかない。
背中に暖かい感触。彼女がぴったりとくっ付いてきていた。
「背中、広いですね……」
ぽそっとそんな事をおっしゃる射命丸さん。
あれですか。もう、なんというか、あれですか。
「……女の子がこれだけやってるんですよ? ○○さん」
据え膳でしたか。それは失礼。
僕は彼女に向き直って――――
朝起きたら雨は止んでいた。窓から朝日が差し込んでくる。雀の鳴く声が聞こえる。
「おはようございます、○○さん」
腕枕した隣の彼女に返事を返す。清清しく幸せな朝だ。
おきてからしばらく毛布の中でイチャイチャしていたが腹も減ってきたので起きて飯にしよう。
「あ、服乾かしてない……」
先にベッドを出ると後ろで彼女のそんな言葉が聞こえた。
外はすっかり晴れたけれど、彼女の服が乾くまではこの幸せを二人だけのものにしておこうと思った。
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うpろだ1296
文「最近暑いですね~」
○○「……そうだな」
文「こうも暑いと何人か溶けちゃうんじゃないんですか~」
○○「そう言いつつなぜ俺の布団に入ってくる?」
文「あややや、ばれてましたか。いや逆転の発想で暑いならもっと暑くすればいいじゃないと思いまして」
○○「はぁ……先に寝るからな」
文「ありゃ、つれないですね~それなら私は自分の布団に戻りますね」
○○「……しょうがないな。いいぞ入ってきても。でも変なことはナシな」
文「……ありがとうございます○○さん」
○○「はぁ、これからは暑いからって布団の中に入ってくるなよ?」
文「えへへ~○○さんの布団暖かいです」
○○「……聞いちゃいねえ……」
朝方
○○「ふわああぁぁぁ、よく寝た……あれ?なんで隣で文が……??」
文「すーすー……」
○○「ま、まさか超えてはいけない一線を超えてしまったとか!?」
文「う、うーん」
○○「ま、まずいっ!この状況をどう説明すれば!?」
文「……ありゃ、起きてましたか。お早うございます○○さん」
○○「あ、文?き、昨日、お、俺なんか変なことしなかったか!?」
文「……昨日は激しかったですねぇ」
○○「ぐおおおおぉぉ、やっぱり超えてしまったのか!!」
文「……ぷっ、あはははははは!」
○○「あ、文?」
文「冗談ですよ○○さん、昨日は私が○○さんの布団の中に入って寝てただけですよ。何にも変なことはなかったです」
○○「あ、よ、良かった……」
文「私的には既成事実をつくるいいチャンスだったんですけどねぇ」
○○「ちょ、文!?」
文「私は本気ですよ、○○さんのこと好きですし」
○○「うっ……そういう台詞って普通男が言うもんなんじゃ」
文「なら今度は正式に私に言ってくれますか?」
○○「……ずるくないか文」
文「ふふ、そうでもないですよ?それよりも今の状況を誰かに見られることのほうがマズイのでは……」
椛「お早うございます、文さん今日の仕事……は……?」
○○&文「「あっ」」
椛「あ、え、えっとその……は、ははははは破廉恥ですぅ!!」
文「……行っちゃいましたね……○○さんどうしたんですか頭なんて抱えて」
○○「また誤解の種が……」
文「あ~、とりあえず朝ごはんにしましょうか」
○○「……そうだね」
その日、○○と文はいつ結婚するのかとか子供は何人とかの質問攻めにあったのであった
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うpろだ1396
起――ことのおこり、またはそれに付するもの。
「こんにちわ~、文文。新聞です~」
玄関先に声が響いた。朝から元気だな。いつもながら。
「はいはー、ちっとまってー」
味噌汁を作っていた僕は一旦火を止め、玄関へ向かう。いつものように。
「おはよう、射命丸。配達いつもお疲れ様だね」
僕は玄関先に来た少女に挨拶すると彼女は少しはにかんだように笑う。これもお約束。
「○○さんは数少ない購読者ですからね~」
「そんなの気にすることじゃないさ」
「気にしますよ~。読まれない新聞はただの紙くずですから」
そりゃそうだ。それにしたって
「わざわざ射命丸が直接手渡してくれるのが嬉しいな」
誰かが来ることすら珍しいからな。ここ。
じゃあ何で住んでるのかと聞かれれば、まぁ、いろいろだ。
「え、あの、その」
何か顔が赤くなったぞ。大丈夫かな。
「あ、は、配達が残っているので失礼しますッ」
ばひゅんと突風を残して飛んでいく彼女。速え速え。
「さて、味噌汁途中だったな……」
まずは朝ごはんを食べようか。文文。新聞でも読みながら。
「へー、ゆゆこさんが大食い記録に挑戦か。無駄に米蔵潰すのやめればいいのにな……」
朝ごはんを食べ終わる頃にもう一度声がした。
――ごめんくださーい
食後の緑茶をすすりながら新聞を読んでいたけれど、今日は来客が多いな。
「はいはー、どなたさまー……って射命丸か」
玄関先にはさっきの少女、射命丸文が立っていた。さっき持っていた新聞の束がないところを見ると配達帰りのようだ。
「はい、通り道だったので寄らせていただきました」
「そかそか。お疲れ様。上がってって。お茶でも淹れるよ」
射命丸とはお茶呑み友達だ。ここに来た当時に取材を受けたり(外界人はこちらではやはり珍しいものらしい)、ここの事を色々と教えてもらったりしているうちに懇意にしてもらうようになった。
「はい、ではおじゃましま……」
きゅぅ~
かわいらしい音が鳴った。たぶん、おそらく、可能性の一つとして彼女のお腹の方向から。
「……茶より、先に飯だな」
「すいません……」
後ろを向いていたので見ていないが彼女の顔は真っ赤に違いない。ああ、僕には分かるとも。
――風神少女食事中……
「おいしい?」
「はい!すごくおいしいです」
用意したのは僕の朝食兼昼食(予定だった)のご飯と焼き塩鯖、菜っ葉の和え物、茄子と油揚げのお味噌汁。
うん。さようなら僕の昼食。久々に香霖堂でも行こうかなあ。
どうやら彼女、ギリギリまで記事の推敲をしていたらしく、それから印刷・配達まで自分でしているため朝ごはんどころか一昨日の夕飯から食べてなかったとか。
……つか
「それって僕が食べさせてからまた食べてないってことじゃあ……」
「すいません……取材が忙しくて、ご飯を食べる時間が惜しくて」
そういいながら彼女は本当においしそうにご飯を食べる。見ていてこっちも幸せになってくるくらいだ。
だが、こうなるまでご飯を食べないのはやっぱりいけない。
「そうはいうけどね、記者は身体が資本なんだから、体調管理もしないとダメだよ」
「はい……」
注意したら少ししょんぼりしてしまった。まあそれだけこの仕事が楽しいんだろう。
でもほっといたら絶対倒れるなあ、そう心配した僕は、
「なんならいっそ食べにおいで。言ってくれれば用意くらいするからさ」
思い切って提案してみた。
これも初めてのことではないし、これだけおいしそうにご飯を食べてくれるならこちらも作り甲斐があるというものだ。
「!! いえいえ、そんなお手数をかけるわけにはいきませんよ! 気持ちは確かにありがたいですけれど」
ところが彼女は顔を真っ赤にしてぶんぶんと横にふっている。
「それにそれってまるでぷ、ぷ、ぷろ」
「でも、一人でご飯食べるのも寂しいからさ、一緒に食べてくれると嬉しいかなー、なんて」
正直なところ、この家を訪ねてくる人は彼女と白黒、子鬼くらいなものだろう。
こちらから出向くことはあってもあまり家に来ることはない。
そういわれると彼女は真っ赤なまま黙ってしまって、
「えぅー……ええと、じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」
と上目遣いで言われた。
「当然。僕がお願いしたようなものだしね」
「ふふ、そうですね」
まぁ、二人分の食料が減るから家計にダメージが来るのは間違いないけれどね。
承――それからどした。
「こんばんわ~」
「いらっしゃい」
その夜。射命丸がやってきた。
「お仕事お疲れ様、もうご飯出来てるから」
「ありがとうございます~」
僕が夕食に誘っただけなのだけれど。
――風神少女&青年食事中
「そういえば、夜に来るのって初めてだね」
「そうですねー」
夕食は蒲焼にした。タレをつけてじりじり焼いたから香ばしくておいしい。
彼女も喜んでくれているようで、よかった。
「射命丸って食事のときも文花帳手放さないんだね」
「ええ、ネタはいつやってくるかわかりませんからっ」
胸を張る射命丸。見上げた記者魂だ。ううむ、
個人的には少々物足りない気もするが。何がとは聞くな。
「む?なにか今へんなこと考えませんでした?」
「いやいや全く全然そんなことは。あ、そうだ、夜も遅いから、今日泊まってく?」
「なんか目がやらしーですよ……」
「いやいやいやいや」
ひかれた。そんなにいやらしい目だったかな……?
飯も食べ終わって雑談に花を咲かせていたとき、
「……○○さんって、料理上手ですよね」
不意に彼女が尋ねてきた。食卓の上には湯気の上がる湯飲みが二つ。
「ん?大したことはできないよ。紅魔館の冥土長じゃあるまいし」
なんとなしに答え、茶をすする。ああ、誰かとする食事って久しぶりだなあ。
「……あの」
見ると射命丸がうつむいている。何かごにょごにょ言っている気がするが。
「……は……ですか?」
「ん?」
聞き返すとこちらを上目遣いで見ながら
「……料理の苦手な女の子って、どう思います?」
と訊いてきた。
へぇ、彼女もそんな事を考えるんだな。新聞命で一生懸命な子だと思っていたけれど。
そこでティンときた。彼女は恋をしているんだ。
こんな子に想われる奴は相当な幸せ者だ。うん。
「料理を教えてあげたいね」
僕はそう答える。ここは一つ、彼女の事を応援してあげるとしよう。
「え?」
驚いたような顔。そんなにびっくりすることもないのにな。
「苦手なだけなら何とかなるさ。誰だって最初から得意なわけじゃない。
出来る人間は出来ない人間を助けてはじめて価値を持つんだぜ」
そういうものですかと聞かれたのでそういうものだよ、と答えた。
「じゃあ」
と、彼女は続けた。
「私に料理を教えてもらえませんか?」
「当然」
快諾。ここで助けねば友人じゃないさ。
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~閑話休題
がんばれ射命丸!○○の料理は魔法だッ!
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――と、そんなやり取りがあって十数日。
玄関先から声がする。行ってみれば、彼女がいた。
「こんにちわ、○○さん」
「こんにちわ、射命丸」
ここのところ射命丸はほぼ毎日のように訪ねて来る。理由は簡単だ。僕が言ったことだし。
「今日は何を教えてくれますか?」
「そうだなあ、今日は美味しいチーズリゾットあたりでも。それより、宿題が先か」
あれから射命丸との関係は友人だったり、先生と生徒だったりしている。
僕は彼女に料理を教えてあげていた。
実際彼女のもの覚えはすばらしく良い。最近の文文。新聞にも料理コラムができるくらいだ。
そして教えた料理を作ってきてもらったりして宿題としてごはんにしているのさ。
安い授業料だと思わないかい?
ちなみに今日はちらし寿司を作ってもらった。酢飯がうまく出来ているかが大きなポイント。
「……もぐもぐ」
「……どうでしょう、先生」
神妙な顔つきで訪ねてくる。先生って……ノリがいいなぁ、射命丸は。
しかし寿司飯も具もしっかり味がついており丁度良い塩梅だ。文句のつけようがない。
「うん、おいしいよ。僕のよりおいしいんじゃないかな」
率直な感想を述べる。きっと苦手というより新聞にばかり心血を注いでいて料理をしてこなかったんだろうなぁとも思う。
「そ、そうですか!? えへへ、ありがとうございます!」
素直に喜んで照れる射命丸が可愛くて、こっちが少しこそばゆい。
「これで今度のコラムのテーマは寿司ネタ、かな?」
ごまかす為に別の話題を振る。彼女は僕が教えた料理なんかを写真付きで解説したりレシピを載せたりしている。
……文文。新聞は主婦の友なのか?
「そうかもしれませんね~」
こら、地の文を……あれ?いや、どっちでもいいか。喜んでくれたんだし。
「先にご飯にしようか」
正直一人で食べるのもどうかとおもう。時間も丁度いいし。
「そうですね。いただきます」
そうして、早めの夕食と相成った。
本日の夕食、ちらし寿司、冷奴、わかめとあぶらげの味噌汁、漬物数種。
にんにくスライスをオリーブオイルで炒める。
いい匂いが立ち上がるが、食後の僕らには少々きつい。
「先に作るべきだったかな? はは……」
「そ、そうですねー……」
射命丸も「正直、お腹一杯ですよ」というような微妙な苦笑いで受ける。
色づいたにんにくを取り出し、バターを溶かす。
「そういえば○○さんって向こうの世界では先生やってたんでしたっけ」
毎度の事ながら射命丸は訊ねてくる。何でもネタにしようとする記者魂は見上げたものだ。
とけきったところに玉ねぎを入れ、炒める。
「先生というか何というか、まぁ、料理教室の講師だね」
ううむ、僕のこともいいのだが、レシピは頭に入っているのだろうか。
「……なにか思い入れでも?」
「ん~、特にないかな。しいて言えば料理が好きだったから」
「料理が好き、ですか」
玉ねぎがいい色になったので米を入れる。リゾットっぽくする為にさっと水を通した程度だ。
「だってほら、食べた人が美味しそうに食べて、ご馳走様、って言ってくれたら嬉しいじゃないか」
「そうですね。私も、さっき褒められて嬉しかったです」
思い出して微笑む射命丸。つられてこちらまで嬉しくなる笑顔だ。
彼女に想われている男は本当に幸せ者だな。憎らしいくらい。
これは是非とも幸せになってもらわなければ。
僕は誰にともなく、そう誓うのだった。
「ああ、そういえばリゾットって作り置きには微妙だな」
「そうですねー」
どうしよう、これ。
転――それは、あくまできっかけ。
それは、彼女が料理コラムを載せた辺りからよくある質問だったらしい。
――誰に料理を習ったのか?
――どこへ行けば食べられるのか?
――むしろ俺の為に毎日味噌汁を作ってくれないか?
彼女としては珍しく、僕のことについてはほとんど触れず、「ある人物」とだけ書かれていた。
自分の料理修行すらネタにするとは、さすがとしか言いようがないな。
それがこの間、白黒に飯を食わせているときにぽろっと言ってしまった辺りからばっさり広がった。
当然、人外みたいなのばかりやって来るわけだが。
――曰く、凄腕の料理人らしい。
――曰く、料理を教えてくれるらしい。
――曰く、里から少し離れた森に住んでいるらしい。
そんなほんとと嘘がない交ぜになった噂を受けてか僕の家に色々な人が来るようになった。
以前から来ていた白黒、子鬼はともかく、わざわざ遠くからやって来る人もいるほどだった。
目的はやっぱり、料理。食べる為に来るものもいれば、教わる為に来るものもいる。
持ち帰る人もいる。できればすぐに食べて欲しいのだが。
紅魔館とかいうなんだかせっかくだから選んでしまいそうな館からスカウトが来たが、
手作りクッキーの袋を渡して丁重に断っておいた。あれから時々お菓子の注文が来るが。
博麗の巫女が来たときにはびびった。
どうやら彼氏に作ってあげる料理のレパートリーを増やしたいらしい。健気な事で。
そうして、最近ではお土産に持ってきていただいた食材で生活が出来るほどになっていた。
むう、料理教室で生計が立てられるかも。
しかし、生活は賑やかになったが少しさびしくもあった。
射命丸が来ないのだ。いつも来ていただけにいなくなるとどうもしっくりこない。
数日前までは当たり前だった光景がめまぐるしく変わる。その変化は喜ぶべきなのか、どうなのか。
新聞は手渡されることは無く、いつの間にかポストに入っていた。
お菓子の宿題で出しておいた、プリンは、まだ提出されない。
そして僕はこうも思った。
「射命丸は想い人への告白は出来たのかなあ……」
「どうかしました?」
「うひゃあ」
「うひゃあ、じゃなくて手が止まってますよ」
ああ、考え事をしていて手が止まっていた。
今日は山の向こうのそのまた向こう。博麗神社とはまた別の神社の巫女さんが来ていた。
「ああ、すみません、考え事をしていたもので」
射命丸が来なくなって最近は彼女が一番来ているのではないだろうか。
東風谷早苗さん。人外多きこの幻想郷の例に漏れず人間に見えるこの少女は
話によれば現人神なのだとか。奇跡を操るだとか言っている。
家族同然に神様と住んでいるだとか、ものっそいゲーマーだとか、話題は尽きない。
今日の彼女の注文は『夏バテ解消できるような料理』だった。
どうやら引っ越してきたのはいいが家族が夏バテ気味だそうで、困っているらしい。
何がいいかなあ……。
頭の中のレシピブック(人呼んで『○○ノオト』)をめくる。
「こう暑いと諏訪子様も神奈子様もバテてしまって……」
「暑いときは食欲がなくなったりしますし、汗からビタミンが逃げていきます。
体温調節に余計な体力を使いますし。ビタミン不足とスタミナアップにはビタミンやたんぱく質がある……」
そういった料理で、彼女が知らなそうな料理か……だとすると、ああ、この間貰ってきたあの食材にしよう。
「うん。ゴーヤの肉詰めなんてどうでしょう」
「はい、よくわかりませんがお願いします」
と言うわけでレシピを紙に書いていく。こうすれば帰ってから忘れても思い出せる。
書き終わったら今度は作りながら説明する。
「ゴーヤ食べたことあります?」
「あー……ないですね」
香霖さんも珍しがってたからなあ、この食材は。
てなわけで。
「まずこれがゴーヤです」
「うわぁ……」
うわ、ヒかれた。確かにいぼいぼで長いけどさ。ナニかって?ゴーヤだよ。
とりあえずそんな彼女を無視して料理の説明を始める。
「ゴーヤはニガウリとも呼ばれていてお茶にもなるんだよ」
「へえ、そうなんですか」
無駄話をしながら、ゴーヤの両端を切り落とす。
「ビタミンCも豊富だし、苦味成分は胃にいいんだよ」
中のわたをかき出す。これでよし。
「次にタネをつくります」
「ハンバーグみたいなものですか?」
「ですです。玉ねぎとかはお好みですね」
丁寧にこねていく。
「……○○さんはどうして料理をするんですか?」
彼女が訊ねてきた。前も同じような質問をされた気がするなあ。
「……誰かに喜んでもらうため、かな」
粘り気が出てきたところでやめる。
くりぬいたゴーヤの内側に小麦粉をまぶしていく。
あとはこれを詰めて輪切りにして焼くだけだ。
「僕はね、これしか出来なかったから」
「……」
「なんてね。かっこつけてみたかっただけです。後はこれを詰めて」
手際よく作業を進める。心の内を悟られないように。
「詰める際は少しぎゅうぎゅうに入れないとお肉が縮んで隙間が出来ちゃうのでここ注意ですよ」
「あ、はい」
作業再開。あと肉詰めゴーヤを輪切りにして両面こんがり焼くだけだ。
「……というわけで完成です」
「わぁ、美味しそうですね~」
「美味しいんだってば。一つどう?」
菜箸で一つをつまみ、彼女の口元へ。
「え、あのっ、え、あ、う」
真っ赤になってわたわたしている。彼女の口へ一つ、放り込んだ。
「……どう?」
「……凄いおいしいです」
笑顔になった彼女を見て、こちらも幸せな気持ちになる。
だけどやはり、隙間があるような感覚だった。
「よかった、僕なんてこれしか能が無いからさ」
「そんなことないですよ」
「いやいや、ほんとにこれも駄目だったらただの」
「そんなことないですよ!」
「っ!?」
手が止まる。自然と言葉を強くした彼女の方へ目が行く。
「え、えーと……東風谷さん?」
彼女の顔も真っ赤だった。目が、合う。
「あなたは、凄く魅力的です。私にとっては、凄く、魅力的なんです」
目が離せない。心の臓がばくばくいってるのがわかる。彼女が僕にもたれかかる。
「私は……」
顔が、近づいて……。
かたん
「「!?」」
小さな物音だが、僕らしかいないこの厨房で、その音はやけに耳に大きく響いた。
そちらに目を向ける。そこには、
「お久し――ぶりです」
烏天狗の少女が立っていた。
笑っているのかな泣いているのかわからない表情。
「あ……」
その表情に何か、言い様の無い罪悪感がこみ上げてくる。
「あの、え、えへへ、私、お邪魔……でしたね?」
静かに、無理矢理作った笑顔で一言、一言。
「しゃ、射命丸、これは」
「それじゃっ!」
外へと走って出て行く射命丸。僕も追うように外へ――
「まってっ」
袖を、掴まれる。彼女が僕をまっすぐ見据えた。
「……離してくれないか」
「もう少し、このままで」
少し、握る手に力がこめられる。
「いや、追わなきゃ……」
「……行ってどうなるというのですか」
俯いた彼女からは表情を窺い知ることは出来ない。
「……いや、わからない」
全くだ。追う理由すらわからないのか? 否。
「……私は、あなたが……好きなのに」
声が震える。
「何で……私じゃないんですか……」
「……すまない」
友愛と、愛。一字の違いは、果てし無く大きい。
しがみ付く彼女をやんわりと離す。彼女の想いには、応えられない。
「○○さん……」
出て行こうとする僕に彼女が声をかける。
「妖怪と、人間の愛なんて、成立しないですよ」
「そんなもの本人にしかわからないさ」
「あなたはそれでも」
「ああ、わかっている」
ここでとまるわけには行かない。
僕が出て数瞬。
主のいなくなった厨房の中に、一人の泣き声だけが、響いていた。
古今、人妖の恋物語は悲劇を迎える。
例えば、月に帰ってしまったり。
例えば、正体を知って拒絶してしまったり。
例えば、羽衣を見つけてしまったり。
――それは、戒め。
――人と妖、その決定的な寿命の差は、たとえ相思相愛でも悲劇を生む。
――悲劇を繰り返さぬよう、悲しい運命の恋人達を、これ以上増やさぬよう。
それでも、それでも僕は。
「射命丸ーッ! 射命丸ーッ!?」
走る。元々里から少し離れているが更に離れる方向へ。大声を上げながら、走る。
見当なんかつかなかった。もう暗い。足元だっておぼつかない森の中だ。
何度も転んだ。体中ドロだらけだ。それでも走る。
その広大な森の中から一人の少女を探す。その気持ちだけだった。
彼女があの場から逃げ出した瞬間、僕の中で何かが繋がった。
気づいた。彼女の恋を応援すると言う形で隠した自分が目を背けた気持ち。
気づけなかった。彼女が記者の仕事を減らしてまで毎日料理を習いに来た理由。
気づいてしまった。彼女が来なくなって初めて感じた寂しさ。
気づかざるを得なかった。彼女があんなに悲しそうだった理由。
「ああ、もう、僕のバカッ!」
自分に悪態をつく。気づいたときは、大抵遅い。だがまだ遅くない、そう信じたかった。
――いた!
「射命丸ッ!」
この辺の森の中でも一番大きな木の根元。そこに彼女はいた。
少し開けたところ。月明かりが差し込んでいる。
そこに座り込んでいた彼女は僕の呼びかけにびくりと肩を震わせたが、それだけだった。
見つけたと思った瞬間、安堵とともに一気に疲れが襲ってきた。
荒れた息を整える。呼吸の音だけが聞こえ、静寂。
不意に、彼女が口を開いた。
「……どうして、来たんですか?」
その言葉は、何よりも重く、僕にのしかかってくる。
何故? 何故僕はここまで来た? そんなものは決まっている。
「それは射命丸、君のことが「嫌っ」!!」
彼女が頭を抱える。何事をも拒絶するように。
「嘘……」
「嘘じゃない」
彼女が顔を上げる。いくらかやつれた様にも見える。
「私のいない間に、東風谷さんと……」
「射命丸……あれは、違うんだ」
「いいえ、違いません。東風谷さんはあなたの事を想っていますから」
きっぱりと言う。実際にそうなのだろう。
「……それは記者としての意見か?」
「ええ、取材したのは私ですし、結局記事にはしませんでしたけど」
あくまで無表情、いや、少し笑っているかもしれない。ただ、そこには僕の知っている少女の笑顔は無かった。
「なんで、来なくなったんだ?」
「……仕事が忙しかったんですよ」
前まで仕事詰めてまで来ていたのに?
「僕は、寂しかったよ」
彼女に近づく。暗がりの中、彼女は僕をにらみ続けている。
「来ないで」
拒絶。それでも歩みは止まらない。ここで引くならここまで追いかけては来ないさ。
「来なくなってから、ずっと考えてた。今日も来ないんだな、って」
「……」
歩みはゆっくり、止まらない。
「私も、寂しかったですよ」
不意に彼女の声が震えた。
「久しぶりに会えると思って、プリンも作って……」
手提げの籐籠。それを撫でる射命丸。
「私、馬鹿みたいですね。浮かれちゃって……」
泣いているような、笑っているような、心が折れそうな顔。
「……好きだったんですよ? あなたのこと」
少しづつ近づく。そうしないと心が遠ざかってしまいそうで。
「僕だって、君のことが「じゃあ、何であの女に抱きつかれていたんですか!?」
悲鳴のような、嗚咽のような、声。
それは紛れも無い事実。射命丸が来なくなって入れ違いに彼女が来る回数は増えていた。
「所詮は人妖ということですよね」
「違う」
駄目だ。
「お似合いでしたよ? あなた達」
「違うんだ」
これ以上、言わせてはいけない。
「だからニンゲンはニンゲン同士で」
「違うッ!」
目の前にまで来ていた射命丸を抱きしめる。射命丸の肩がまたびくりと震えた。
「何するんですか、やめてくだ「嫌だ」」
彼女が暴れる。僕は抱きしめる力を強くする。
抱きしめてはじめて分かる、彼女の華奢さ。震えた身体で、震えた声で、拒絶を繰り返す。
そこにいるのは、悲しいほどにボロボロな、一人の女の子だった。
「や……」
「ちゃんと聞いてくれ、射命丸」
「……っ」
彼女は泣いていた。
「僕が好きなのは、射命丸、君なんだ」
「嘘……」
かぶりをふる射命丸。僕は続ける。
「最初は射命丸の意中の人間との恋の橋渡しをしてあげようと思って君に料理を教えた。
でも、だんだん料理を教えるうちに、君のことが好きになってしまっていた」
「嘘……」
「人がたくさん来るようになった。でも、射命丸が来なくなって寂しかった」
「嘘……」
「射命丸が逃げた瞬間、漸く自分の気持ちに気づいたんだ。馬鹿だよな、僕」
改めて射命丸の目を見る。まっすぐに、見る。
「射命丸、僕は君を、愛している」
「ウソぉ……」
「本当だ。結婚してほしいくらいだ」
「ウソだぁ……」
僕の胸に顔をうずめる。
「嘘じゃない。……どうすれば信じてくれる?」
射命丸はこちらを向く。
「っく……じゃあ」
「っと」
僕は懐からハンカチを出し、
ちーんっ
射命丸に鼻をかませる。いや、鼻水出てたからさ。
「えっぐ、すんっ……じゃあ、名前、呼んでください」
「うん、文……」
「もっと言ってください……」
「文……文……」
抱きしめる力を強くする。
「まだ……足りません」
震える声。けれどももうそこには悲しみは感じられなかった。
「ん」
「それと、キス、してください」
顔を上げ、自然と目が合う。潤んで、少し疲れたような彼女の顔。
僕は何も言わず、ゆっくりと顔を近づけていき……
――重なった影が、一つになった。
結――めでたし、めでたし。
「じゃあ、この『シェフの気まぐれサラダ風何か』ってのをもらえるかな」
「はい~」
煮える鍋、踊るフライパン、高速回転するボウルの中身。
その横でコックコートを着た男が、出来上がった料理を盛り付けたりしている。
男は黙々と料理の皿を完成させていく。
正に料理は魔法だった。
あの後僕は料理教室兼定食屋を開くことにした。自宅を改装したので場所は変わらず。
小さいけれど経過は上々。料理教室のせいもあり、わりと盛況していた。
幻想に触れすぎたのか、身の回りの調理器具を操ることができるようになっていた。
白玉楼とかいうところからスカウトがきた気がしたけどやっぱり断った。
そのかわり@がついたフシギな感じの女性が常連になった。
その人も先ほど満足して帰られて、今店内には香霖さんと霊夢と●●と魔理沙だけ。
●●は僕よりも後に幻想郷へやってきた男で、今は霊夢と暮らしているとか。
「いい加減、香霖さん見習って代金置いてってくれよ……」
「あら、ツケといてってお願いしたはずだけど」と、紅白の巫女。
「すまないね~」と●●。
「ああ、私もツケておいてくれ」と、白黒の魔法使い。
ぜんぜん払われる気配がないのは気のせいではないだろう。
「ところで●●よ、そういえば最近どうなんだい? こっちのほうは」
にやにやしながら拳を握り、中指と人差し指の間から親指を出してみせる。
とたんに真っ赤になる●●と霊夢。
「あ、ええ、まあ、そこそこです」
と曖昧な返事を返す●●。
「もっと詳しい話が聞いてみたいものだが」
下世話な話だが香霖さんも乗ってきた。
「まったく、もう甘いものはしばらくいいてのに」
とは白黒。てめえさっきあんみつあれだけ食っといて何言ってるんだ。
「そうかそうかはっはっは、子供の顔が早く見たごめんなさい霊夢さん勘弁してください」
真っ赤な霊夢がスペルカード片手に轟き叫びそうだったのですかさず謝る。
「そんなこといったらあなたと射命丸だってどうなのよ」
霊夢がすかさず反撃してくる。だがそれは反撃じゃないと思うぞ。
「そうかそうか、そんなに聞きたいか、僕らのラブラブっぷりごめんなさいごめんなさい」
聞いてきたのは霊夢なのに首筋に針を突きつけられた。何がしたいんだ。
「さて、そろそろお暇しようか。代金はここに置いておくから」
「あ、はい」
「あ、じゃあ私も」
「じゃ、俺も」
「私も行くぜ」
「……そのうち強制執行しに行ってやる」
呆れ交じりの悪態も彼女らには届かないだろう。もう香霖さんだけが友達だ。
三人が立ち上がる。僕は彼らを店先まで送る。
「美味しかったわ、ご馳走様」
笑顔の紅白が宙に浮く。
「今度ちゃんと払いますから、ご馳走様でした」
紅白と一緒に空を飛ぶ●●。手ぇ繋いでるよ。
「ごちそうさま、また来るぜ」
白黒はいたずらっ子のような笑顔でそういうと箒にまたがった
「ご馳走様、またこっちにも寄ってってくれ」
と、香霖さんは徒歩か。お気をつけて。
三者三様の言葉に僕は笑顔で応える。
「はい、お粗末さまでした。またお越しくださいな」
この笑顔を見るために、僕は料理を作っているんだから。
三人を見送って、一息つく。そうだ、お茶でも入れようか。
店の中へ。3人の食器を片付け、厨房へ戻る。
洗い場に食器を下げ、手を洗い、ケトルを火に掛ける。
「○○さん、ただいま戻りました~」
勝手口から声がした。
扉から顔をのぞかせたのはかわいらしい天狗の少女。
「お帰り、文。ちょうどお茶を入れようと思っていたんだよ」
「わぁ、それはナイスタイミングですね」
とととと、と笑顔で走り寄ってくる彼女を抱きとめる。
「ぎゅー、えへへ」
幸せそうに胸に頭をうずめる。その頭を優しく撫でる。さらさらの髪が気持ちよかった。
「あ」
「ん? どうした?」
「お帰りなさいのちゅー」
「それはねえよ」
言いながら頤を上向かせる。すぐそこに、愛しい人の顔。
「『お帰りなさい』じゃなくて『大好きだよ』のキスならあるけどね」
口づける。それはどんな料理よりも美味だった。
ピィィィィー!!
「うわぅ」
「きゃっ」
驚いて離れる。音の主は真っ赤なケトルだった。
忘れてた。沸かしっぱなしだったか。
「……お茶にしようか」
「……はい」
気恥ずかしさを隠す為に手早く紅茶を淹れる準備をする。
二人とも真っ赤っ赤。でも幸せで胸は一杯だ。
「今朝良い紅茶が入ったんだよ」
では、最愛の人の笑顔のために最高の一杯を淹れてあげよう。
了
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最終更新:2011年02月26日 21:48