文14



うpろだ1446


○○:主人公らしい。しがない物書き。

射命丸:ご存知風神少女。「文文。新聞」の記者。「風を操る程度の能力」を持っているとか。

 射命丸といると楽しい。次から次へと最新ニュースがやってくる。
 他愛もないことがほとんどだけど、それを楽しそうに話す彼女を見ているのが何よりも幸せなんだ。


 朝と言うには少し遅く、昼と言うにはまだ早いくらいの時間。
 射命丸宅前。とりあえず呼び鈴のようなものがないので大声で呼ぶしかない。
「射命丸~手伝いに来たよ~」
「あ、勝手に上がってください~」
 家の中から声が聞こえた。手が離せないのかな。引き戸を開ける。鍵はかかっていなかった。
「ほいじゃ、お邪魔しま~す」
 中に入る。上がって、彼女のいつもの仕事スペースへ向かう。
「ようさ射命丸。なんか面白いことあったかね?」
「いいえまだ、これを書き終わったら取材にいこうと思っていたところですよ」
 にこやかに答えるデスクに座って原稿を書いている少女。
 この家の主でもある彼女の名前は射命丸 文。「文文。新聞」の記者だ。
「そか。ほれ、頼まれてた原稿。推敲は済んでる筈だけど一応確認しといてくれ」
 そう言って彼女の頭に持ってきた封筒をぽす、と載せる。
「あ、ありがとうございます~」
 ぱっと輝く彼女の顔に、俺は満足げに頷いた。
 俺は○○。しがない物書きだ。



「あ、今回のお礼です」
 封筒を渡される。
「別にいいのに……」
「いえいえ、これは仕事ですので。ちゃんと依頼したんですから報酬を取るのは当たり前ですよ」
「まぁ、な。でも大丈夫か? そっちの財政だってあるだろうし」
「あはは。でも○○さんのコラム、結構人気で購読者も増えてきたんですよ?」
「それは僥倖」
 ありふれた会話をしながらこうして二人並んで茶を啜る。
 俺の数少ない至福のひとときだ。
「ああ、それと……いいかげん名前で呼んでくれませんか?」
「それは出来ない相談だ、恥ずかしい」
「むー……」
 ふくれる射命丸も可愛いとは言わないでおこう。きっと真っ赤になって怒るだろうから。
「ああ、ところで今日はどこに行くんだい?」
「はぐらかしましたね……もう、えっとですねー」
 射命丸が手帳をめくる。
「紅魔館に最近男の人が通っているらしいんですよ、それの真相確認と、
人里に下りたのに全く悪い事をする様子もなく慧音さんのところに入り浸っている半獣とか、
ああ、そうそう、この前椛がカレシ作ったって言ってたんですよ~……」
「色恋ばっかだなおい」
 幻想郷もずいぶんとフレンドリー(?)になったもんだ。
「人妖相容れず、とは昔の話か……」
「そうですね、だって」
 そういって射命丸の顔が近づいてくる……。

ちゅ……

「……私とあなたも、ですしね」
 唇に重なる、くちづけ。
「そうだな……」
 そういって射命丸を抱きしめながら頭を撫ぜる。綺麗な濡れ羽色で、手触りもすばらしい。
 撫ぜられる彼女は気持ちよさげに目を細める。抱きつく腕に力が入る。
「好きだよ、射命丸……」
「私もです……○○さん」
 幻想郷に来て、もう2年。
 射命丸とこうして付き合うようになって半年か。早いものだな。
「○○さん……」
「ん……?」
「○○さんは、どこにも行きませんよね……?」
「ああ。俺はずっと射命丸のそばにいる……約束する」
 しばらくそんな幸せな時間が過ぎていく。
 好きな人がそばにいる。抱きしめられる。キスが出来る。愛を囁き合える。
 この幸福な時間が、俺は一番好きだ。






 気づけばもう昼過ぎにも差し掛かるような時間。
「さて、そろそろ他人様の色恋を取材してらっしゃいな」
 にやにやしながら彼女に告げる。
「はっ! もうこんな時間ですか!」
 幸せな時間ってのはあっという間に過ぎるのだよ、小林君。
「小林君って誰ですかっ」
「地の文に突っ込まない」
 あわただしく出かけていく彼女を見送る。
「3時間くらいで戻りますね、危ないから帰ってくるまで家を出ないでくださいね」
「あいよ、がんばってらっさい」
 もう小粒くらいになってしまった彼女に軽く手を振る。

 戸締りをして彼女の仕事場へ。さっきまで射命丸の座っていた椅子に座る。
 すげえふかふかする。いい椅子使ってやがるな……。
「これはいい、座り心地もいいしもう一本書くか?」
 そうすれば執筆ペースに余裕が出来る。いいことだ。
「前回の医療ネタ好評だったみたいだな」
 前回のコラム『本当は怖い蓬莱の医学』については投書でいくつか印象的な評価を受けていた。
 曰く、「人権なき人体実験断固反対!」(永遠亭在住・匿名希望さん)とか
 曰く、「だから座薬って言うな!」(職業弟子・匿名希望さん)とか
 曰く、「科学ノ発展ニハ犠牲ハツキモノデース(職業博士・匿名希望)」とか。
「今回も医療ネタで行くか……?」
 そんな事を考えながら俺はふかふかの椅子で眠ってしまった。
 これはだめだ、気持ちよすぎ。






人妖相容れず、昔からの言葉。
そこに愛が芽生えたとて、種としての敵対が絶えることはない。

 その妖怪は天狗だった。新聞記者だった。
 その人間はただの人だった。物書きだった。
 二人が仲良くするのを誰も阻むことはなかったが、それでも人と妖怪は敵対しなければならないのだ。
 『群れ』として『捕食者』と『被捕食者』の関係である限り。





 その天狗は男がその天狗の家へ入るのを忌々しげに見ていた。

「……………………………………………………………………………………………………」
 何かをしきりに呟いている。

 しばらくするとその天狗のみが出てきた。男が出てくる気配はない。
「………………………ね………………………もう……………………………………………」
 辺りを見回し、少女が見えなくなるのを確認する。

「……に………………ね………………………もう………………………………からね……」
 家に近づく。近づくにつれてその言葉ははっきりとしていった。





「人間に誑かされたんだね、可哀想な文……もうすぐ目を覚まさせてあげるからね……」













どんどんどん

          どんどんどん

 ぬふー、つい気持ちがよくて眠ってしまったぜ。
 原稿進んでないでやんの。これは射命丸の椅子が悪い。きっとそうだ。
 あとで文句言ってやろう。文句ついでに料理でも作ってやろうか。
「っと、来客か……俺が出るべきなんだろうか?」
「ごめんください! ○○さんいらっしゃいますか!?」
「あれ? 俺がいるのを知ってるのか」
 とりあえず開ける。いたのは天狗の男性だった。何か切羽詰ったような口調だ。
「たいへんなんです! 文が妖怪に襲われて大怪我を!」
「え……!?」
 言葉を認識して、頭が真っ白になる。嘘だろ、信じられない、そんな否定の気持ちの中に現れる暗く、寒い想像。
「すまない、案内してくれ」
 一刻も早く行かなければ。その一念しか俺にはなかった。
「はい、こっちです!」
 何の疑いもなく走り出す。






 もう少し冷静になれば、もっと違う考え方も出来るというのに。
 例えば、ここに俺がいるのを何故知っていたかとか、
 走っている方角が明らかに何もない森の方角だったとか。


 人と妖怪は本質的には敵対している事、だとか。











「今日も特ダネがとれましたね~」
 文花帳を見返しながら一人ごちました。
 やっぱり付き合っていたんだ、あの二人……。うふふ、いい記事が書けそうです。

 そんなことを考えているうちに家に着きました。が、異変に気づきます。
「あれ? ドアが開いてる……?」
 ○○さんならそんなことはしないはず。誰かに連れ去られるにしても家が壊された様子がありません。
 わけもわからず私は家に入りました。しかし中は家を出たときと何も変わっていませんでした。
「○○さん?」
 寝室、台所、私の仕事部屋。どこにも彼はいませんでした。仕事部屋に彼の原稿があったきりです。
「もう……どこにいるんですか……○○さん……」
 私の声はひどく震えていました。不安がどんどん私の中で大きくなっていきます。

 とにかく探しにいこう。

 そう思った私の耳に、どこか遠くから、あの人の声が聞こえた気がしました。












 気づいたらずいぶん山奥まで来てしまった。
 ここに射命丸がいるというのか? 何か変な感じがする。
 大怪我しているなら自慢の翼で永遠亭へでも連れて行けばいい。なぜこっちにくる必要がある?
「あー……」

 ここにきて、俺はようやく気づいた。もう、かなりまずいことに。

「だまされた、か」
「ご名答ッ!」

がつっ!

 不意に背後から蹴り飛ばされる。
 唐突の出来事に何の対応もできないまま体が吹き飛ぶ。
「がはぁっ!」
 吹き飛びながらも体勢を立て直し、相手を見やる。後ろには誰もいない
「どこを見ている」
 すでに後ろに回りこまれていた。さすがは天狗、疾い。

ずどっ!

 再び蹴り。とっさに身体を捻って防御姿勢をとった左足からごきりといやな音が聞こえた。
「っああああああああ!!!」

 地面にたたきつけられる。奴がニヤニヤしながら近づいてきた。

 結局のところ、やりあえば人間である俺には天狗にかなうわけがないのだ。
 そうなれば後は、時間稼ぎしかない。
 時間稼ぎをしてなんになる? なるさ。きっと。彼女は「風を操る」んだぜ?

めきっ

 思い切り胸の辺りを蹴られる。あばらが悲鳴を上げる。一気に息が搾り出される感覚。

 また転がる俺。手加減ないな、本当に……。
「がはっ! ごほっ! ごほっ!」

 息が出来ない。必死に呼吸を整える。

「クカカ、どうした人間、これで終わりか」
 勝ち誇って様な天狗の声。

 しかし朦朧とする意識の中で、一つの疑問だけが渦巻いていた。

 搾り出すように、言葉にする。
「すまない……俺が……襲われる、理由がわからな」
「まーだそんな事言ってるのかぁぁぁあ!?」
 だめだ聞く耳もたねえ……

 天狗が自らの爪を顕わにした。ああ、止めを刺すのか。
 俺にはそれが夢の出来事のように思えた。爪があまりに禍々しく、悪夢のようだ。
 困ったなあ……。怪我が嘘ならそろそろ射命丸が帰ってきてるじゃないか。
 心配してるだろうなあ。悪いなあ。ん……? 腕が振り下ろされるのが見える。
 まっすぐに、腹へ。





ざざざざざぐっ






「――――――ッ!!」

 五指の爪が腹部から胸にかけて突き刺さる。
 叫び声は出なかった。


「まぁ、ちょうど良い、最期だし教えておいてやるよ」
 ここまで致命傷を与えておいてスッキリしたのか得意げに喋りだす天狗。

「オレはな、ずっと、ずっと文の事を見てきたんだよ。子供のときからずっとな。
一目見たときからオレは彼女の虜だった。大好きな文のことが知りたかった。
俺と文は常に一緒だった。何をするときも。どんなときも。
毎日一緒の道を歩いて、何をしてるか逐一チェックして。
何を持っているかとか趣味や普段何を考えているかとか調べて。
帰りも一緒の道を歩いて」

 もはや何を言っているのかわからない。奴は俺を見てはいなかった。

「オレは彼女のことを何だって知っているぞ!何だって知っているんだ!
彼女の身長体重血液型スリーサイズ足のサイズ好きな食べ物好きな場所起きる時間寝る時間
風呂の時どこから洗うか月経周期彼女の食べたもの捨てたもの冷蔵庫の中身どこでいつ誰と会ったか!」

 奴の吐露は続く。

「オレは文を愛しているんだ! ずっと大切に思ってきたんだ! 
それこそお前の何倍何十倍何百千万億兆倍も! それなのに!」

 ああ……なんだ。簡単な話だった……。

「なぜだ! なぜ百年想い続けてきたオレが報われずッ!」

 それは……ただの、嫉妬……じゃないか。

 ぐじゅり、と爪がひねられ、内臓が混ぜられる。

「――――――……」

 もう痛いってレベルじゃなくなってきたってのに聴覚も視覚も大丈夫な辺り、神様って意地悪だよなあ。

「現われてたった2年やそこらの駄人間風情に文を取られなければならないッ!?」

 最期の方は殆ど嗚咽に近かった。
 しかし不意にこちらに目をやり落ち着いた微笑すら浮かべて言う。

「だがもう大丈夫だ。お前はいなくなり、文はまたオレだけの文になる……」

 なる訳ないだろ……と、言いたかったが、あいにく口からあふれ出す血液が喋らせてくれなかった。
 だが目の端に浮かぶ黒い粒を見たとき、俺もようやく哂う事ができた。

「何がおかしいっ!? そんなになってもまだオレ……を……?」
 しかしそこまで言って、奴もそれに気づいたようだ。
 まったく、何でも知ってる?莫迦げているな。大事なことが分かっちゃいねえ。
 文が好きなのは……俺なんだよ。
 俺はお前の何京何垓禾弟穣溝澗正戴極倍も、文を愛してるんだよ。

「――!!」

 遠くから聞こえてくる愛しい女の声。まったく、遅かったな。
 だが、あの気持ち悪い吐露を聞かせずに済んだのは良かったと思える。
 ああくそ、でも俺が死んだらやっぱり射命丸が泣くじゃねえか。バカだな、俺。糞……。

「――○○さんッ!?」

 声が、聞こえる――あれ、何だ、視界がぼやけて来た。

――あー……死にたく、ねえなあ……








 遡ること数刻。

――っあああああ!!
「え……!?」
 風に乗った悲鳴が私に響きました。
 それは愛しいあの人の声。
 そして、とても悲しい、認めたくないような予感。

「○○さんッ!?」
 飛翔。一瞬にして最大速度まで加速、声の方向へ。
 距離にして凡そ十数キロ。

「○○さんっ、○○さんっ! ○○さんっ!!」
 最大速度でももどかしい。焦れば焦るほどスピードが落ちる。
「なんっでっ……!?」
 私は自分の身の動かし方まで分からなくなるほど、混乱していました。
 嫌な予感だけが私の頭の中を支配しています。

 声が消える。それはまるで……。
「違うッ!」
 私は頭の中のその考えを否定します。
 もう少し、もう少しで着く、そう自分に言い聞かせながら幻想郷の空を疾走します。

「――いたっ!」
 森の切れ目。そこに見えたあの人と、一人の天狗。
 あの人は倒れ、木にもたれかかっていました。
 天狗が腕を振り上げています。その手には、禍々しい爪。
「や……」
 それを見た瞬間、頭から血の気が引いていくのがわかりました。





 全速力で近づく。振り下ろされ、突き刺さる腕。

「いやあああああああああ!!!!!!」

 最速で飛ぶ。叫び声は聞こえなかった。彼の服が赤く染まっていく……。

「○○さんッ!?」

 すぐ近くまで来て彼の名を呼ぶ。彼は相手も見ずに私を見て、笑っていた。
 声に気づいてこちらを向いた天狗が飛びのく。

「あ、文ッ!?」

 天狗が私の名前を呼ぶ。そんなことはどうでもいい。
 私は彼の元へ降り、ボロボロになった身体を抱き起こした。

「なぜ……何故なんですか……?」
 何故、勝手に家を出たりなんかしたんですか。外は危ないって、あれほど言ったのに。
「本当に酷い人……」
 こんな身体じゃ怒れないじゃないですか。
「ずっと一緒にいるって言ってくれたじゃないですか……」
 嘘つきはいけないんですよ。嘘にしないでくださいよ……。
「私を置いて逝かないでくだざいよぉ……」
 涙が止まらない。
 いや、そんな事をしている場合じゃない。一刻も早く、治療を。


「あ、文……」
 さっきの天狗が話しかけてくる。
「……誰? あなた」
 目だけで見遣る。こいつが。
「誰って……オレが判らないのかい? ずっと見ていたのに!」
「そんなこと知らない。あなたなんて見たことも無い」
「君はその男に誑かされているんだ!」
「違う! あなたが、あなたが○○さんを!」
「だから、オレは文の事を想って」





「……消えて。気持ち悪い」
「あ……」

 天狗の顔が絶望に染まる。自分の存在の完全な否定。
 口が大きく開き、魂の叫びとも取れるほどの大音響がした。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああ!!!!」
 後に残ったのはおびただしい血の跡と、一羽の呆けた烏天狗。
















「あっのっこっはっ太ッ陽ーっのっ」
「小町っ」
「「えーんじぇー!!」」
「あほな事やってないで早く戻りなさい!」(スパーン




「アホちゃうわっ」
 一気に目が覚めた。白い天井とベッド、永遠亭か。
「!? ま、○○さんッ!」
 横を見ると射命丸がいた。目の下に少しくまが出来ている。
「おう、射命丸、おはy」
「何言ってるんですかっ!」
 不意に抱きつかれる。見ると彼女は泣いていた
「え? あ、ど、どうした射命丸、どこか痛くしたか?」
 慌てて聞いてみるが彼女の涙はどんどん溢れていく。
「っく、だって……ぇっく、ホントに……っく、……死んじゃったかと思ったんですもんっ」
 正直、自分でも死んだと思ってた。三途の川が見えた気がするもの。
「○○さん、……っく、5日も、目を開けなかったんですよ?」
 涙混じりにそう言われる。またボロボロと涙をこぼして。綺麗な顔が台無しじゃないか。
 俺は射命丸に手招きする。そろそろと近づいてくる射命丸を抱きしめた。
 アバラが痛いけどそんなことはどうでもいい。5日おそらく付きっ切りで看病してくれたんだろう。
 その彼女に比べたら、この痛みくらいなんて事はない。
「悪かったって、ゴメンな、悪い、すまない、許してくれ」
「そんなに謝らなくていいです……」
 しゃくりあげながら射命丸。震える彼女を強く抱きしめる。
 駄目だな。俺。こんなに心配かけて。
「……なぁ」
「はい……?」
「ずっと看病しててくれたのか?」
「ええ、当然です」
「そか……ありがとうな」
「はい……」
 ぎゅ、と腕の力が少し強くなった。
「……なぁ」
「はい……?」
「これから、もうしばらく世話になるけどさ」
「はい……」
「……退院したら一緒に暮らさないか?」
「……!! そ、それって……」
 射命丸が顔を上げる。涙に濡れた顔がびっくりしている。
「ああ、……結婚、してくれないか」
「……~~ッ! はい! ふつつかものですが、よろしくお願いします!」
 満面の笑みで答える射命丸。その腕は更に強く俺を抱きしm

ごきり

 あ、あばら逝っt
「ッたたたたたた! がふぁっ」
「あああ! ごめんなさいごめんなさい!」
 えーりんえーりんたすけてえーりん……
 そんな事を思いながら俺の意識がもっかい暗いほうへ落ちた。


後日談

「……甘い話はもう沢山、骨はくっつけたから早いところ退院してね、
つか可及的速やかに出ていきなさいこの砂糖菓子が」
「ひでえ……」
 えーりん先生に窘められた。怪我の原因とか色々話してたら惚気になってしまったようだ。
 とりあえずあのあと俺はアバラが数本肺に刺さった上身体のあちこちがヒビいりの状態でえーりん・ラボ入りし、
色んな薬に漬かりながら一命を取り留めたらしい。ナイスファイト俺の身体。
「でもえーりん先生なら男の一人や二人、すぐでしょうに。なんでそういう浮いた話がないんですかね」
「簡単に言ってくれるわね……」
 青筋ぴくぴく。何かまずい事を言っただろうか。反語。
「蓬莱人だからって愛することに臆病になっちゃだめですよ、俺だって……」
 考えないようにしているが、あくまで俺と射命丸は人と妖怪。圧倒的な「持ち時間の差」がある。
 それでも、それを理由に身を引く気は毛頭ないし、愛したことに後悔なんてない。
「そうね、じゃあ、あなたがもらってくれるかしら?」
「……へ?」

 ずずい、と身を乗り出してくるえーりん先生。うーわ目がマジだぁ……。
「え、と……冗談ですよね?」
「冗談でこんなことしないわ」
 さらに身を乗り出すえーりん先生。身体が密着する。上気した頬とみずみずしそうな唇が、
っていやちょっと勘弁してくださいって俺には射命丸が
「そこまでです!」

ずばんっ

 司書の科白さながらに病室の戸を開け現れた、我らがブン屋、射命丸。タイミングまでばっちしだ。
「いいところだったのにぃ」
「はぁ、私の彼を取らないでくださいよ……」
「冗談よ冗談、ごちそうさまなことで」
 ニヤニヤ笑いながら部屋の外へ。よく分からないが腕は確かなんだよなあ。
「それじゃ、ごゆっくり~。3時間ぐらい人払いしておくわね~」
 一言余計だけれども。というか射命丸も顔赤くしないで!? あ、俺もか。
「まったく、○○さんは隙を見せすぎです! そのうち本当に誰かにとられちゃいそうですよ……」
 射命丸にしょんぼり怒られた。
「ごめんごめん、でも誰がちょっかいかけてきても、俺は」
 抱きしめる。俺よりも幾分小柄な彼女の身体がすっぽりと収まる。
 鬼と同等の力をもつだとか、烏天狗だとか、そんなことはどうでもいいんだ。
「君を愛し続けるから」
「○○さん……」
 頤を上げ、目が合い、そしてどちらともなく口付ける。
 お互いに求め、与え合い、愛を交わす。
 愛することは、与えること。与えて、奪うこと。奪って、分け合うこと。
「ん……ふぅ……ちゅっ……んふ…………ふぁっ……ちゅっ……」
 気持ちが満ち、高ぶっていく。愛している。その言葉だけでは足りなくなる。

「ちゅっ……」
 唇が離れる。二人ともはにかんだ笑顔で笑いあった。
「これからもよろしくな、射命丸」
「あ、その呼び方はもう駄目ですよ」
「恥ずかしいんだって」
「それでもです。だって、私の姓、変わるでしょう?」
「う”……わかった。わかったよ、……文」
「はい、あ・な・た」
 ああもう、どうしてそう可愛いかなあ。
「きゃっ」
 体勢を崩し、文をベッドに引き込み、抱きしめる。
「あと二時間以上人来ないんだよねぇ……」
 体調はほぼ万全。体力の有り余る男の子は溜まるものなのだ。
「え、あの、ま、○○さん? ひゃっ」
「文が可愛すぎて我慢できない」
「そんな、あんっ……」

 秋真っ只中、彼らの春は始まったばかり。
 人払いも済んだようですし、魔女が邪魔しないように、この辺で。












@おまけ
 気だるげに目を開ける。つい居眠りをしてしまったようだ。
 書斎の机には半分くらい埋まった原稿用紙。よだれはなかった。
「~~♪」
 かすかに子守唄が聞こえる。
 コーヒーでも入れようか。俺は席を立つ。
「~~~~♪」
 声のする方へ。そこにいるのは少女と赤ん坊。
「あ、あなた、おはようございます」
「ああ、おはよう。文」
 少女の名前は射命丸文。俺の妻で、産休を取ってはいるが、新聞記者だ。
 かつて幻想郷一と騒がれたその翼は今、赤子を育てる慈母であった。
「△△は?」
「ん、今寝たところです」
 安らかな寝息を立てる可愛らしい赤子。俺と文の愛の結晶。名前は文と一緒に決めた。
「そか、お疲れ様、文」
「いえいえ……ちゅ」
 軽く口付ける。
「コーヒー淹れようと思ったけど、何か飲む?」
「あ、じゃあ……私も同じので」
「了解」
 とっておきを淹れようか。いいグアテマラが入ったんだ。


「お待たせー……って、あら」
「すぅ……すぅ……」
 コーヒー両手に戻ると、眠る母子がいた。二人とも安らかな寝息を立てている。
「コレはいらないな……」
 俺はコーヒーを置くと寝室からタオルケットを持ってきて掛けてあげた。
「むう、もう一仕事するか」
 誰にともなく一人ごちると二杯のコーヒーを手に書斎へ歩いていった。

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うpろだ1448


「さて、今日も月が綺麗だな、っと」
 まだ宵の口だが月はもう煌々と輝いていた。
 今日は俗に言う「十三夜」だ、まぁ、「豆名月」とか「栗名月」とも呼ばれるが。
 縁側には酒瓶、そして杯が二つにつまみが少々。俺は、ある一人を待っていた。
「さあ、て。忘れてるんじゃないだろうな」
 鳥め、いや烏め。片月見は縁起が悪いんだぞ。
「失敬な! ちゃんと覚えてますよっ」
「うわぉ」
 背後から声。振り返ると彼女はいた。
「忘れるわけないじゃないですか。あなたとの約束、私がすっぽかしたことがありましたか?」
「ああ……言われてみればないな、文」
「そういうことですよ」
 満足げに頷く少女。山伏姿にミニスカート、背中に黒い翼を持つ彼女の名前は射命丸文。
幻想郷にいる誰よりも速い、新聞記者のカラス天狗だ。
 こっちに居着く外来人は珍しいらしく、直撃取材を受けたのが馴れ初めだ。
 当時は周りの援助無しには生活がなり行かなかったので、こちらからできることは
何でもやっていこうといろいろ話すうちに親交が深まって、今ではいい酒飲み仲間だ。
「はい、お土産ですよ」
 差出された包みを受け取る。
「すまないね、……お、こりゃ団子か、風流だねぃ」
 包みの中には串団子。しょうゆだれが月の光をてらてらと反射して、とても美味しそうだ。
「月見ですからね。お団子かな、と思いまして」
 そういえば前回のお月見も酒呑んでただけでそういうお供えとかしていなかったなぁ。
「うむうむ。風情があるのは結構なことだ。ところで射命丸君、
俺の世界には羽二重団子というものがあってだね……」

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中略
~羽二重団子は文人達にも大人気だぞ!
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 月を肴に酒を呑む。満月はなおも輝き、縁側を、二人を照らす。
「というわけなのだよ」
 手には杯。俺は彼女の杯を満たす。
「ぜひ賞味してみたいですね。そんなに美味しいのですか……」
 ぐいっとあおる射命丸。見ていて気持ちのいい呑みっぷりだ。
「美味しいさ。美味しいとも。普通の丸い団子ではなくて平べったい団子なのさ。
味はしょうゆとこしあんだったか。出来立てが食べられるから店まで行っていた」
 今度は俺に酌をしてくれる。それを俺はやっぱりぐいとあおる。喉を焼いていく感覚。
今日何の酒だったか。まぁいい。酒は酒だ。
「○○さんがそこまで入れ込むほどならさぞかし美味なのでしょうけど、そんなに団子が好きでした?」
 今日はなんとなく限界まで射命丸とペースをあわせてみようと思ったが。やはり天狗は凄い。
こちらがもうぐらぐらしているのに向こうはほんのり顔を赤らめるくらいだ。
「いいや。読んでいた小説で近場が舞台だったりすると、行ってみたくなるのさ。
今日読んでいたのは……そうだ、『吾輩は猫である』」
 ほんの少しのつまみも消えて、団子を肴に団子の話を咲かす。
「ああ、あなたの持ち込んだ本の中にありましたね」
 射命丸がまたくい、と杯を空ける。
 俺は団子をほおばりながら答える。この団子も美味い。ふっくらもちもちの食感に、しょうゆだれが良く絡んでいる。
「ああ、ええと確か『行きませう。上野にしますか。芋坂へ行って團子を食いましょうか。
先生あすこの團子を食ったことがありますか。奥さん一辺行って食って御覧。
柔らかくて安いです。酒も飲ませます』ってな」
「何の話ですか……」
 苦笑する彼女。酒を煽る。やはり美味い。
 こうやって彼女と一緒に酒を飲むこと、それが美味さの秘訣なんだと思った。
 酒が入って饒舌になってしまったか。いつもより1割増で喋っている気がする。
「ちょっと呑みすぎですよ、天狗の私とペースが同じなんて人間で耐えられるはずがありませんって」
「ははは、気にするな。それで何の話だったか」
「もう、羽二重団子の話でしたよ」
「ああ、そうだそうだ。根岸の芋坂、あそこの隼人稲荷の向かい側になあ、あるんだよ」
 言いながらフラッシュバックする光景。懐かしい風景、笑いあった仲間、親の顔。
 なんだかだんだん悲しくなってきた。郷愁? そんなもの感じたことがなかったのに。
「……帰りたいですか?」
 脳裏に去来する光景はとまらない。子供のころ遊んだ公園、初恋の人、恩師の姿。
 帰りたい? いや、そんなはずは。
「……いいや。帰りたいと思ったことなんて」
 しかしこの悲しいと感じるものは何なんだ?
「でも、泣いてますよ?」
「え? ……あ」
 言われるまでまったく気づかなかった。
 俺は涙を流している。そんなばかな。団子の話で涙するなんて。いや、
「向こうが懐かしくなっちゃったんですね……」
 心の中にひびが入った気がした。
「……っ もう、いいのさ、あっちは」
 袖で涙を擦る。言いようのない寂しさと悔しさ、それに文に涙を見られたという恥ずかしさから、
顔を上げることが出来ない。
 ふと、その俺の身体に何か暖かい感触。
「さびしいときは我慢しちゃダメですよ……」
 文に、頭を抱きしめられていた。優しい言葉に、こころの何かが溢れてしまいそうだ。
「そ、か……ッ……ちょっと、胸、貸してもらって、いいか?」
「はい、私でよければ、どうぞ」
 溢れる。せき止められていた何かが流れ出す。
「~~~~ッ!!」
 そしてしばらく、声もなく泣いた。どうしようもなくどうしようもないものがあとからあとから噴き出してきた。
 その間中、射命丸は何も言わず、ずっと俺の背中をさすり続けてくれた。その手はとても優しくて暖かかった。


――青年号泣中……



「落ち着きましたか?」
「ああ……ありがとな」
 泣き腫らした目がかっこ悪くて、まともにあやの顔を見れない。酔いもすっかり醒めてしまった。
 だけど気分はすっかり晴れて、とても気持ちがいい。重いものを下ろした後のようだ。
「で、何が原因だったんですか?」
「さあ? わからん」
「わからんって……」
「人肌恋しかったのかもな。そういう意味では文のあれは凄くあったかくて気持ちよかったぞ」
 射命丸のほうへ向き直りながら軽口を叩く。ぼふっと一気に射命丸の顔が赤くなった。
「へ、ヘヘヘ変な事を言わないでくださいよっ」
「いいや、たぶんそれなりに至って素面にまじめだ」
 ぐいっと杯を空ける。酔いが醒めてしまったから、呑みなおしだ。同じように射命丸もくいっと飲み干す。
「どうして、ここまでしてくれたんだ?」
 射命丸の杯に注ぎながら訊ねる。
「それは……」
「それは?」
 酒を飲む手が止まった。数瞬の迷い、そして
「○○さんの辛そうな姿を見ていたら、そうしなきゃって、思ったんです」
「そっか。文……ありがとな」
 胸が一杯になった、見上げると少し月が滲んで見えた。




 静かに杯を空ける。明らかに自分の限界を超えて飲んでいるが全然潰れる気配がない。
 空を見上げると、明るい月がもう真上のあたりまで来ていた。
「やっぱり綺麗だな」
「幻想的ですよね」
 幻想郷の月はもといた世界のものより大きい気がする。それは人口の明かりが少ないからなのか、
はたまた本当に人が住んでいるらしいし、本当に大きいのかもしれない。
「文」
 月を肴に酒を呑む。
 まったく、本当に綺麗な満月だ。
「はい?」
 射命丸がこちらを向く。月の光が差し込んで彼女の顔をより美しく見せている。
「こんなときにいうのも変かもしれんが」

「好きだ」
 ようやく言えた言葉。友達とその先のスキマを埋めるもの。
「……その言葉を待ってました」
 にこりと笑ってはにかむ彼女が眩しく見える。
「いつからかはわからねえがな、酒飲み友達になっちゃったから、言う機会がなかった」
「もう、待たせすぎですよ」
「そうだな。遅かったか?」
「いいえ、ギリギリセーフ、です」
「それはよかった、ダメだったらどうしようかと思ったぞ」
「ふふ、あら、お酒が」
「ん? ああ、空、か」
 二人の周りには既に横になった一升瓶が十数本転がっていた。


 月を肴に美味い酒を呑む。きっと美味いのは彼女が隣にいるからなんだ。
 好きな人と風情を感じながら美味い酒を呑む。これほど幸せなこともない。
 多分このまま素敵な日々がずっと続くのだろう。
 秋風が薫る。酒で火照った二人の肌を心地よく冷ましてくれる。

「どうする、泊まってく?」
「そうですね、お願いします。酔ってて今日は飛べそうにありません♪」
「元気じゃねえか……」

 やばい、急激に眠くなってきた。

「……すまん、客間に布団あるから使ってくれ、おやすm」
 自分の布団に転がり込む。まぶたの落ちるのと意識が落ちるの、どちらがが早かっただろうか。








 意識が闇から浮き上がってくる。体の感覚が戻っていく。腕に何か違和感。身体に触れる柔らかいもの。
「んぅ……?」
 うっすらと目をあけると障子に木の枝鳥の影。もう朝みたいだ。
 人間あんまりびっくりすると声が出ないものだな。
「……すぅ……すぅ」
 横で俺の腕を枕に眠る、女の子、つか射命丸文。烏天狗の少女。
「……おおう」
(落ち着け俺。まずは素数を……2・3・5・7・11……4903……5987……)
「んぅ……」
 もぞもぞ。射命丸がこちらに擦り寄ってくる。寝顔が無防備で可愛らしい。
(7789……7951……8111……9419……9973……)
 鼓動が早くなる。うん、我慢は良くないな。
 ゆっくりと彼女の髪の毛に触れてみる。つややかな黒髪がさらさらと指を通り、気持ちいい。
「ん……あ、………………○○さん?」
 目が覚めたみたいだ。それも一気にばっちり。ものっそい勢いで起き上がる。
「え? あ、な、何で私、○○さんとッ!?」
「正直俺が問いたいくらいだが時に落ち着いてくれ文そんな言い方だと少し傷つく」
 そんなに引かなくても良いじゃないか。なあ?

 お酒は人を素直にします。
 お酒は人を駄目にします。
 お酒はいい飲み物です。

「あ、あやややや……///」
 真っ赤っかになって恥ずかしがるこの少女が可愛くてたまらなくなり、抱きしめた。
「おはよう、文」
「……おはようございます、○○さん」
 赤面しながらもほやっという柔らかい笑顔で挨拶。
 顔が熱い。鏡は見ていないがきっと俺も赤いんだろう。
「それにしてもアレだけ飲んで平然としているなんて、凄いですね」
「お前ほどじゃないさ。『酒に強い程度の能力』とか?」
「それもいいですね、○○さんと美味しいお酒が一杯呑めます」
 屈託のない笑顔でそう言ってのける。

 他愛のない幸せな会話。こころが繋がる喜び。これが恋なのか。
「とりあえず朝飯にしようか」
「はい、手伝いますねッ」

 台所へ向かう二人の距離は、昨日よりも少し、縮んでいた。





@おまけ
○○「すきまのひとー」
ブチャラt…紫「『スティキー・フィンガー』ッ!(ジィィィーー)何かしら?」
○○「なにかちからがほしいよー」
紫「持ってるじゃない」
○○「そーなのかー?」
紫「呑んだり打ったり買ったりする程度の能力」
○○「だめにんげんじゃないかよー」
紫「じゃあ呑む特化にしてあげる」
○○「わーいありがとー」


○○「……という夢を見てだね」
文「ホントですか!?」
○○「特化しても天狗や鬼には敵わないってさ」
文「なるほど、ところで犠牲にした打つ、買うの力は?」
○○「あれから博打事に滅法弱くなってなあ。買うは……」
文「買うは?」
○○「……だって幻想郷に女郎宿ないs「不潔ですッ」(スパコーン)……じゃあ聞くなよ……(がくり」

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最終更新:2010年05月11日 18:44