文15
うpろだ1458
up1396の後日談的な話らしきもの。
でもちょっとも繋がっていない気がする。
○○ :おそらく主人公。個人経営の料理人。料理は魔法と言い張る。
射命丸が大好き。
射命丸:幻想郷のブン屋。新聞記者の烏天狗。前回の話で料理は苦手ではなくなっている。という設定。
○○が大好き。
霊夢 :博麗の巫女。主に空を飛ぶ。料理は才能と言うと思うだのだが。●●が大好き。
●● :博麗神社の居候? 空は飛べる。料理はからっきし。霊夢が大好き。
テーマ「どっちのほうがラブラブか?」霊夢vs射命丸
起――何が原因か
彼女は思いつめた表情でこう言った。
「――誰にも負けない料理が作りたいんです」
「……は?」
いきなりそんな事を言われても、僕はどうしたらいいか分からない。
「だから、するんですよ。料理勝負」
そーなのかー、で、誰と?
「あの紅白の巫女とです」
あー……なんでまた?
そう訊ねると彼女はコホンと一つ咳払いして語り始めた。
それはまた、女のプライドをかける勝負なのだとか。
正午、博麗神社
「ふんふん、それでは昨日はずっと一緒にいたと」
「そうだよ、特にすることも無かったし、宴会も無かったからね~」
「なるほど、ではそのときの霊夢さんの様子をば、もう少し詳しくお聞かせ願えないでしょうか?」
「ん~そうか~そうだな~……コタツで並んでお茶飲んでたらさ、肩に頭をちょこんと載せてきて
『あのね、こうやってずっと一緒にいられたr』「チェストオオオオオ!」ぶべらっ!」
ズザァァァァッ
見事な、それはもう見事なフライングクロスチョップ。そしてクリーンヒット。
境内の向こう側へ転がっていく●●さん。南無です……。
「またあなたね……」
その人はため息混じりにこちらを半眼でみつめています。
ミ○・マスカラスの如きフライングクロスチョップを決めた主、博麗霊夢の攻撃により
私の取材は中断せざるを得ませんでした。
しかしここで挫けるやわなあややではありません! ここは霊夢さんにも話を!
「はい、少しお聞きしたいのですけど」
「何? 惚気話はするのもされるのも嫌よ」
手厳しい、いやいや、まずは外堀を埋めなければ。
「そういえば、今日はご飯は何を?」
妥当な、当たり障りの無い話題から。基礎中の基礎ですよね。
「ええと、鯖が手に入ったから味噌煮にして、お味噌汁と炊き込みご飯、それに漬物とデザートに」
「ちょ……やけに豪華ですね」
博麗神社の経済状況は良くなったのだろうか。
「だって、彼、凄く美味しそうに食べるだもの。こっちだって気合が入るわよ」
穏やかな微笑と少しばかり紅がさした様な頬、見つめる目はどこか遠く……
ってその彼アンタが吹っ飛ばしたんじゃ。
惚気云々はなんだったんでしょうか……。
「それでね、彼ったら『霊夢の作る料理は本当にどれも美味しいね』って」
「あ、はぁ……」
「やっぱりああいうときに女としての幸せを感じるのよねぇ……」
聞いてないことまでどんどん喋る。暴走モード? 確変? パターン紅白? 巫女襲来?
「そういえばあなたは?」
「へ?」
何故かこちらに質問が飛んできた。
「だから、彼に何か作ってあげたりするの?」
「う……」
そう言われると、言葉に詰まる。私は彼と一緒に暮らすようになってもあくまで
新聞記者として活動していたので、相変わらず食事に無頓着でした。
○○さんの作ってくれたご飯が美味しいし、彼も満足そうだったので、全く考えたことが無かったのですが。
そう思った途端に顔が熱くなるのを感じる。
「あら、何もしてあげてないんだ」
「え、えーとですね……あはは」
私は愛想笑でごまかすことしかできなかった。我ながら情けないです。
「ふぅ~ん♪」
勝ち誇ったような顔で下から見下される。何か悔しい。
そうだ、今日は○○さんに何か作ってあげよう。
「あら、あなた料理できたの?」
地の文を読まれた気がしますが、まぁそれはこの際置いておいて、聞き捨てなら無いセリフです。
「失礼なっ、これでも○○さんから直接指導をしてもらってるんですよっ」
「練習しても成果を出さなければ何にもならないわ」
「ぐぅっ」
痛いところを突かれました。知っていても料理は作らなければ食べられないです。
「仕方ないわ、私達のほうが愛しあっているもの」
うっとりとつぶやく霊夢さん。む、意味は分かりませんがこれも聞き捨てなりません。
「いえいえ、○○さんと私達のほうが深く愛しあっていますよ?」
「へえ、それならどちらの愛が深いか勝負しましょう」
「いいですね、やりましょうか」
私と○○さんのコンビが負けるわけがありません。
「というわけです」
「どういう訳かはわかったが……ずいぶんと不利な戦いを受けたものだな」
料理勝負。毎日●●のために食事を作っている霊夢に僕からいくらか指導を受けたとはいえ
実戦経験の少ない文は場数的な意味で圧倒的不利。
普通にやったんじゃ負けるな。
「僕は手伝えないのかな?」
「いいえ、これは女の戦いです。それに●●さんと○○さんは審査員ですよ」
そーなのかー、それじゃどうしようもないな。
「どうしてくれようか」
「だから負けないような料理を」
「残念ながらそんなものはないよ」
「うぅ~……」
料理人が料理勝負で負けないためには数多くの料理を、調味を、技術を習得し、
食べる人が最も喜ぶメニュー、味付けを経験からチョイスして提供するからだ。
それは、一朝一夕でできることではない。
「そうだ、テーマとかはないのかい?」
「テーマ?」
「料理勝負ならテーマがあるはずだろう?」
「それが、直前に籤で選ぶらしくて……」
ああ、それも料理勝負の王道だな。まいったなぁ。
「あ、そういえばいつだっけ? 勝負」
「えっと、明日でs「あきらめよう」早ッ!?」
無理だ。いや、無理以前の問題かもしれない。
「仕方ない。じゃあ、とりあえず今日の夕飯を文に作ってもらおうか」
「わ、分かりましたっ」
これまで文に教えたのは主にご飯ものとデザート、焼き物くらいだ。
蒸し物煮物は殆ど教えていない。時間が掛かるからだけど。
「とりあえず得意なものが来ることを願うだけだなぁ」
鳥料理だけは来るなよ……。
そう願わずにはいられなかった。
承――物事は流転する。展開する。
夕方くらい。もうお日様は森の中なので見えない。
真っ暗な森だがその店からは明かりが漏れていた。
「できましたっ」
文が料理を運んでくる。いいにおいがさっきからしていたが、何を作ったのだろうか。
「おお、美味しそうだね。これは」
彼女が作ったのは中華、海月皮(つまりクラゲの前菜)、糖醋非骨(いわゆる豚ロースの酢豚)、麻婆豆腐、卵のスープ。
「き、気合入ってるなぁ」
「はいっ! 久々なのでがんばっちゃいましたっ」
割烹着姿の文がころころと笑う。ううむ、もう立派な奥さんじゃないか……。
というかこれだけ作れれば十分だとも思うが、霊夢は一体どんなものを作るんだ……?
「ま、とりあえず賞味賞味show me~」
「…………」
「「いただきます」」
ガチ無視はないと思うんだ、うん。
とりあえず夕食になった。幾分文の表情が消えているのが寂しい。
まずは前菜。うん、コリっとぷりっと瑞々しい。
クラゲがしゃっきりぽんと舌の上で(以下略)
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~閑話休題
料理は勝負! 勝つためには容赦しないぜ○○は! カカカカカカカカカカ―――!
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「「ごちそうさまでした」」
空になった皿達と、二つの湯のみ。
正直料理は凄くおいしかった。一応和洋中作れると自負してはいるが本格中華
「いつの間に中華なんか?」
教えた覚えがなかったので訊いてみる。
「中華かどうかは知らないですけど、親が家で作ってくれてたんですよ」
「へぇ、家庭の味なんだ」
「はい、○○さんのおかげで基礎は出来るようになりましたから」
基礎ってレベルじゃねーぞ常識的に考えて……。
でも、なんかいいな、こういうの。
「奥さんみたいでいいなぁ、こういうの」
「えへへ、また作ってあげますね」
真っ赤になる文が可愛かったので頭を撫でてみた。
顔を赤くしながら目を細めて気持ちよさそうにする文。
「……明日、勝てますかね?」
撫でられながら文が訊いてきたので
「勝てても勝てなくても僕は文が一等好きだよ」
と答えた。
「その返し方はずるいです……」
そう言ってふくれる文の顔は満更でもなさそうだった。
ううむ、勝負の必要がないと思うんだけどなあ。
結局一日ではどうにもならないので、とりあえず体力温存で寝る方が良いと判断した。
「……寝ようか」
「……そうですね」
まだ不安そうだったので、
「ふあっ」
後ろを向いた彼女に抱きついた。ぎゅー。いいにおいがする。
「ま、○○さん?」
うろたえる彼女の頬に口付ける、軽いキス。
「大丈夫。なんとかなるさ」
「……はい」
いくらか安心した顔になってくれた。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい……」
そして、次の日を迎える。特段何も準備をしていないが、まぁ、なるようになるだろう。
翌日、ところかわって永遠亭中庭。
「はてさてやってまいりました」
「第一回、突撃!どっちのばんごはん!」
「混じってる混じってる」
実況席には幽々子さんと妖夢さんだ。妖夢さんが早速疲れた顔している。
それにしてもこの幽霊少女、ノリノリである。
「さて、今回は2組の愛の深さを確かめるべく、料理勝負と相成りました!」
「一体どちらが勝つんでしょうかね、正直なところどちらでもいいですが」
「さあ、両選手の入場です!(ぎゅぅぅ)」
「いひゃい、いひゃいでふぅぅぅ……」
あー……伸びてる伸びてる、痛そうだなぁ。
ばしゅん!
スモークが焚かれる。
ステージ両脇に作られた赤と青のゲート。中央にはキッチンセットが二つ。
そこいら中に食材の山、山、山。本当に酔狂なイベント一つにこんなに本気になる必要があるのかとつくづく思う。
赤のゲートのカーテンが開き出てきたのはいつもの巫女服に割烹着の巫女。
「赤ぁコーナー! 155センチぃ! @@パウンドぉ!
博麗ぃぃぃぃぃい! 霊ぃぃぃぃぃいい夢ぅぅぅうううう!!!」
ものっそい歓声が上がる。てかこのコール誰してるの?
とか思っていると青のゲートのカーテンが開き飛び出してきた、コックコートの少女。
……あれ? あれ僕のコックコートじゃね?
「青ぉコーナー! 157センチぃ! @@パウンドぉ!
射命丸ぅぅぅぅぅううう! あぁぁぁぁやぁぁぁぁあああ!!!」
こちらも同じくらいの歓声が上がる。声の方を見遣ると一体幻想郷のどこに
コレだけの人がいたのかというほど観客席には人がいた。半分くらい兎だけど。
なんか焼き鳥とかビール売ってる夜雀がいたけど突っ込まない。
なんか熱気が凄いので机にあった水差しから水を飲む。見ると●●も同じ事をしている。
「いやはや、お互い大変ですね」
「ははは、まったく」
「「僕らはそんなことしなくても好きなのは変わらないって言ってるのに」」
声がかぶってしまった。親友になれそうだと思った。
ステージ中央の奈落から誰かせり上がってくるのが見える。
「そしてレフェリー兼リングアナウンサーの霖之助です」
アンタかよ!
二人が並ぶ。握手を交わす二人は穏やかに見えた。
「よろしくね」
「よろしくお願いします」
……穏やかに終わるといいなぁ。
「では、この方に御題の籤を引いていただきましょう、どうぞ」
またスモークが吹き上がる。演出凝ってるなぁ。
「任されたぜ」
白黒じゃねえか。ああ、もう箱をさごそやってるし……。
ドラムロールが鳴る中、白黒が箱の中をごそごそやっている。
「よしっ、コレだぜ!」
ぺかーっ、と取り出した球にはこう書いてあった。
「なになに……『シチュ;彼氏が風邪を引きました』」
「オーダーはいりました『彼氏が重篤』!」
へ?呆然とする僕と●●。シチュって何だ。つかオーダー間違ってるぞ!
……あれ? 頭が重……?
「言ったでしょう、『お題』って――」
僕が意識を落とす寸前に聞いたのはそんな八意先生の声だった。
転――そして事態は思わぬ方へ。
「「!? これは!?」」
私と霊夢さんの声が重なる。お題を聞いた途端に倒れ、担架で座敷へ搬送される○○さんと●●さん。
お題は「彼氏が風邪を引きました」だった。コレは一体……?
「さて、これはこちらから改めて説明させていただきましょう」
いつの間にか横に立っていた八意先生。マイクで小指が立っている。もう片手には液体の入った小さなビン。
「先ほど○○君と●●君にはこの『えーりん特製・看病ドリームV』を投与させていただきました」
「どういうことです!?」
思わず語気が荒くなる。
「現在あなた達の彼は、かなり酷い風邪をひいている状態になっているわ。
体力は落ち、全身に倦怠感や寒気、発熱の症状が出る。薬の影響なので粘膜系には影響は無いけどね」
「意味が分からないわ。早く治して頂戴」
霊夢さんも怒っている。
「それがあなた達に出された『お題』だって言っているでしょう?」
一旦言葉を切って、天才薬師が高らかに宣言をした。
「今日はあなた達にちょっと(彼への)尽くし合いをしてもらいます!」
そうか、そういう事か。彼らの風邪も含めて『お題』なのか。
それより一瞬どこかの映画監督の幻影が見えた気がした。気のせいだと思いますが。
「薬の効果は強力よ。下手すると死ぬかもしれないわ」
「「そんな……」」
そんな事を言いながら彼女は不適に笑う。
「あなた達には彼らを看病してもらいます、大丈夫。正しく看病すれば明日にはよくなるわ」
あまりに理不尽だ。でも、これも私達の愛を試している……?
「どうする? やってみる? 私が助けてもいいけど」
ニヤニヤされる。あの人に任せたら今度はどうなるか分かったものじゃありません。
「「……やります」」
結局、私達に選択肢は無いということですね。
風邪にいいもの、それは身体を温めるもの、消化のいいもの、免疫活動を活発化させるもの
が良いとされるけれど……。
そんなもの分からないです。
まずは彼の様子を見に行くことにしました。
布団に寝かされている○○さん。苦しそうな寝息をしています。
額に手を触れてみる。
「熱っ」
凄い熱でした。まず料理よりも氷まくらが必要です。
会場の氷室から氷を砕いて袋に詰めていく。ついでに桶に水を汲んで手ぬぐいを浸す。
見ると霊夢さんも同じ事をしている。向こうの彼も同じ状況なんですね。
相変わらず苦しげな彼の頭を上げて、間に水枕を差し込む。すると、彼の目がうっすらと開きました。
「ん……? あれ? 僕、どうなって……文……?」
「あ、○○さんっ」
「うぐ、く、くるしい……」
思わず抱きしめてしまいました。危ない危ない。
搾った手ぬぐいを乗せると、いくらか楽そうになりました。
「ふぅうぅ……つめたくて気持ちいい……」
「今何か食べるもの作ってきますから」
「うー……食欲ないー……」
「だめです。食べないと治るものも治りませんよ」
「うー……」
「いま何か作りますから、待っててくださいね」
唸る彼は心配ですけど、何か作らないと。
とはいっても病人に食べさせるものなんてお粥くらいしか知らないです。
「やっぱりお粥、ですかね」
定番ですよね。王道に勝るものなしってやつです。
カップに少しのお米を採り、そのカップのままで洗う。土鍋を火にかけ昆布でだしをとる。
「あ、○○さん……」
だしをとるまで時間があるので○○さんのところへ。
○○さんは先ほどよりも楽そうな寝息になっていました。
手ぬぐいがぬるくなっていたので冷やしなおす。
「んぅ……」
少し身じろぎをする○○さん。汗で気持ち悪いのでしょうか? もう少し我慢していてくださいね。
「んー…………ゃ……」
「え?」
「ぁゃ……すぅ……」
彼の呟きを聞いて元気がふつふつ沸いてきました。
待っていてくださいね! 絶対に元気にして見せますから!
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~閑話休題
うどんって実はそこまで消化にいいわけじゃないゾ!
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「さあてはじまりました、『第一回、出没!どっちの料理天国!』」
相変わらずハイテンションな亡霊少女と、
「タイトル違……まぁいいです、いきなり外来人のお二人、酷い目にあいましたね」
冷静に被害者の心配をする半霊少女。
「水差しに入ってたみたいよ、薬」
「うわぁ、えげつない……」
本当にえげつなかった。
「それでも何とかなるんですねえ、多分」
テンポよく掛け合う解説席の二人。会場各所に設けられたスキマビジョン(隠しカメラ、とも言う)
により、二人の動向は完全に丸見え。
現在モニターには一生懸命料理する烏天狗と博麗の巫女が映っている。
「さあ、博麗の巫女は現在なんでしょうかねあれ? 何か飲み物でしょうか……?
え? ウィスキー? ウィスキーなのかぁっ!? ウィスキー入ったぁぁああ!」
「あーあれは玉子酒ですね、エッグノック。永琳氏の薬に風邪薬の成分が入っていない事を祈るばかりです」
「対する烏天狗はぁ、おおっと定番中の定番、王道の中の王道、キングフォアサウザンドイヤーズ!」
それにしてもこの幽々子ノリノリである。うぃーあーきんぐおぶみりおんてぃあーず。
「最後違いますし、まぁ、定番のおかゆですね」
幽々子とは対照的に冷静に解説する妖夢。ボケと突っ込みのバランスの取れたMCだった。
病室が写されたモニタには二人の男が映っている。
一人は●●。博麗の巫女の恋人にして外来人。
一人は○○。カラス天狗の恋人にして外来人。
二人とも説明も似ているが状況も大体同じである。顔が赤く、呼吸が荒く、不規則。
軽く人生の瀬戸際感が滲み出ている。全くこんな状況に誰がした。
「唯の勝負じゃ面白くなかったのは確かだけどね」
不意に解説席に永琳が乱入してきた。
「あら永琳」
「だってあのままだと結果は分かりきっていたもの」
当たり前のことのように言い切る永琳。だが実際にそうなのだろう。
「まぁ、十中八九の九分九厘間違いないわね~」
永琳の指摘に同意する幽々子。やはり誰から見ても、らしい。
「だから『主催者』の意図でね、少し土俵を整えてみたわ」
にやりと笑ってみせる。
「整えられた土俵側はたまったものじゃありませんね……」
呆れ顔の妖夢。そしてふと気にかかったこと。
主催者の意図? 永遠亭主催じゃないのだろうか?
「あれ? 輝夜さんが主催じゃないんですか? 主催は」
すると、永琳は何も言わずにあさっての方向に指を向ける。
そこにあった看板(御大層に『第一回、輝け!国民的どっちの料理ショー!』と書かれている)
には、こう書かれていた。
『主催:(財)スキマ産業株式会社』
「「…………」」
まぁ、多分さっきから登場してそうでして無いあの人なんだろうが……。
去来する思いは皆一緒だったとか。
約30分ほど経過。
米の柔らかさを見る。うん、丁度良いです。
「できましたっ」
火を消し、土鍋に蓋をする。濡れ布巾を使い、鍋を持ち上げる。
中身は白粥。調味料は昆布だしプラス愛情、それだけのシンプルなもの。
消化器官がやられているときはこれくらいのほうがいい、はず。
早くもって行きましょう。あの薬師の薬ですから○○さんが心配です。
私は焦る気持ちを抑えながら彼の部屋へ向かいました。
……で。
「……いや、一人で食べられるから」
「駄目です、病人は大人しくしててください」
さっきからもう5分ほどこの問答は続いています。
原因は白粥。些細ですけど、重要なことです。
簡単に言うと
「私が食べさせてあげますっ」
「一人で食べれるってば……」
顔を真っ赤に――風邪の所為かもしれないが――しながら、自分で食べる事を主張する○○さん。
むう、このままじゃ埒が明きません。強攻策です。
「はい、あーん♪」
レンゲですくって彼の口の前へ。
「や、一人で……」
「あーん♪」
羞恥に染まる彼の顔がとっても可愛く見えました。
「~~……ッ、わかった、食べる、食べるから」
「えへへ、はい、じゃあ改めて、あ~ん♪」
「あ、あーん……んむ……んー」
あけた口にゆっくりと入っていく。ゆっくりと咀嚼し、嚥下する。
「ど、どうでしょうか?」
大丈夫かな、味付け間違っていなかったかな……? 何度も確認したはずなのに心配になってきます。
「ぐう、せっかく文が作ってくれたのに味が分からない……」
がっくりとうなだれる○○さん。
「でも、文が作ってくれたんだと思うと心があったかくなって元気が出てくるよ」
こういう事を真面目に言っちゃうんですよね、○○さんは……。
私のほうが赤くなっちゃうじゃないですか。
「それでは、もう一口どうぞ」
レンゲでもうひとさじ掬い、熱を冷ます。
「ふー、ふー……はい、あーん」
「あーむ……んむむー」
もうやぶれかぶれなのか反抗せずに食べる○○さん。赤くなっちゃってかわいいです。
そうやってゆっくり食べさせても、そんなにたくさん作っていたわけではなかったので
土鍋はあっという間にあと一口になってしまいました。
そこで私は一つイタズラを思いつきました。
「これで最後ですよ」
「ああ」
すくったおかゆを私の口へ。やっぱり最後の一口って熱が抜けてしまっています。
よかった、味は大丈夫みたいでした。
「ん? 文?」
○○さんがきょとんとこちらを見ています。
私はそのまま彼の頭を抑えて彼に口付けます。
「え、ちょんむっ……!?」
彼に口の中のおかゆを送り込む。わけもわからずあたふたするのが舌でわかって面白いです。
悪戯心に彼の舌に絡めてみる。体勢を立て直した○○さんの舌が絡み付いてきました。
「ん……ふぅっ……ちゅ……」
気づけば私達はおかゆそっちのけでお互いの舌を味わいあっていました。
「ちゅ……はぁ……」
どちらからとも無く離れる。二人の間に銀の橋が架かり、切れました。
イタズラのつもりが本気になっちゃいました。顔が熱いです。
「……ご馳走様でした」
「……はい、お粗末様です」
彼の顔に少し生気が戻ったように見えます。真っ赤なだけかもしれませんが。
この様子なら明日には治っちゃうかもしれませんね。
「あ、そうだ。汗かきましたよね?」
彼の前に濡れタオルと乾いたタオルを用意する。
「ん? ああ、そういえばそうだね」
というか凄い汗ですよ、○○さん。
「身体拭きますよ~」
「ああ、よろしく頼むよ」
汗で濡れた上着とシャツを脱がせる。この様子だと○○さんは全身汗だくです。
ぬれタオルで○○さんを拭いていく。汗で気持ち悪そうだった○○さんが気持ちよさそうです。
「ああ、気持ちいいよ、文、うん、もっとそこを重点的に……そうそう、上手……」
なんかどきどきする事を言わないでください。また顔が熱くなってきますから。
乾いたタオルで更に拭いてすっきりしたところに新しいシャツ。
すっかりすっきりした感じの○○さん。
「安静にしててくださいね、熱も下がりましたしゆっくり休めば後は大丈夫だと思います」
「そか。ありがとな、文」
○○さんが手を伸ばしてきたので、それを握る。
「なんか、こうしてもらうと、安心する……」
「あの……なんなら添い寝、しましょうか?」
「ん……」
彼が少しずれる。それを肯定の意として私も彼の布団へ滑り込みました。
言葉はもう、要りませんよね?
(一方その頃会場)
「おおっとこぼした、しかし、ああっと、そのこぼした液体を舐め取っているぅうう!?」
「いったかどうか、はいったあぁあああああ!!!」
『おおおおお!!!』
会場はかつて無いほどのボルテージだった。
会場には巨大なモニター(通称スキマモニター)があり、そこに二組の恋人が映されている。
そして各モニタにははかりのようなものがついており勘亭流文字で
『糖 度 計』
と、書かれていた。
その目盛りは既に両者一杯一杯である。
「さあ両者熱くなってまいりました! なんというか羨ましいッ!」
「ぶっちゃけましたね幽々子さま……」
射命丸と○○も熱かったが霊夢と●●も同じくらいに熱かった。
○○より起きるのが辛そうな●●を霊夢は抱き起こし、自ら口移しでエッグノックを飲ませていく。
こぼれたものは霊夢が舌でちろちろと舐めとっていく。そのこぼれた場所があまりに危険だったため
途中で何か突き動かされるものを感じ因果関係を確かめるべく会場にやってきたコンバットなバチュリーにskmdyされるほどであった。
しかし奇遇にも最終的に両者が取った看病は同じになる。
両者添い寝となり、布団の中でごそごそ始めたところで
ぼん
と音を立て振り切った糖度計が壊れてしまい、両方同時にモニターが消えてしまった。
「こ、コレは……!?」
「どうやら『甘すぎた』ようね、文字通り」
「おーのー」
困惑する妖夢に冷静につっこむ幽々子。やる気の無い悲鳴をあげながら現れた紫。
「……これは、続行不能ですね」
こめかみを押さえながら妖夢は言う。
審査することが出来ない以上、これ以上の継続は不可能である。
「そうね、機器が壊れてしまったのだもの」
「そもそもどこから仕入れたんですかこんなもの……」
糖度計。言われて見れば「なんだそれは」なトンデモ計測器である。
メカニズム以前の問題のような気もするが。
そういった疑問を
「乙女のヒ・ミ・ツ」
と、語尾に(はぁと)をつけるように言い放つスキマ妖怪。
時々思う。このスキマ妖怪なら「伝説の蒼狸」とも繋がりがあるのではないかと。
――運営本部より残念なお知らせです。ただいま計器が壊されてしまい、
競技の継続が不可能となってしまいました。真に残念ではありますが、これにて
『第一回、痛快!毎日料理ショー!』閉幕とさせていただきます。お疲れ様でした。
『第一回、魁(さきがけ)!どっちの料理塾』
△博麗 霊夢 - 射命丸 文△
(3時間15分22秒 計器故障によりノーゲーム)
結――すべての結末が必ずしも綺麗に終わるとは限らない。
突如現れたスキマに決定事項を告げられ二人はその事を知り、驚きの表情を浮かべた。
観客席は空になっていて、残っていたのはニヤニヤ笑う主催者ならびに関係者。
一部始終を見ていた一同はずっとニヤニヤしているし、二人は当然のごとく説明を求めた。
「……というわけでノーコンテスト」
「「んなっ!?」」
さらっと告げる主催者に真っ赤になって絶句する二人。
というより彼女達を赤くしていたのは風景を「スキマモニター」にてしっかり覗き見されていたことを知ったからだろう。
自分達がやっていた看病を振り返って茹でダコのように赤くなる二人と、いまだぐったりしている男子両名。
「まぁ、熱は下がったようだし、あとは各自一晩ぐっすり休めば治るわよ」
からからと笑う薬師に
「「そういう事でなくて……」」
と、食い下がるも
「勝負には審査が必要でしょう? それとも、密室での出来事を見ずに審査しろとでも?
それ以前に事前に知っていたなら『よそ行きの看病』になっちゃうじゃない」
「「う”」」
そういわれると反論の仕様が無かった。
「いやー、どちらも甲乙付けがたい熱々っぷりだったぜ」
にやにやしながら白黒に茶化されると元々勝負だといっていた事自体がばかばかしくなってきた。
「ほら、これに懲りたら変に対抗意識燃やして勝負とかしてないで人知れずいちゃいちゃしてなさい」
永琳にそう言われてまた赤くなる二人。ぐったりしたままの両名。本当に大丈夫なのか?
「ほらほら病人連れて帰った帰った」
看護する気はない、とばかりに二人の少女の背中を押す。
「なんだか、色々ご迷惑をおかけしました」
天狗少女は会釈をし、青年を抱えて飛び立ち、
「いや、でもこれをうちでやればお賽銭が……」
となにやらぶつぶつ言いながら巫女も家へ帰っていった。
「大変でしたね」
「でもある程度の成果はあったんじゃないかしら」
「そうですか?」
「二度と対決しようなんて思わないでしょ」
「ああ……そうですね」
「計算どおりだな」
「いい暇つぶしだったぜ」
「新薬のデータが取れてよかったわ」
幽々子と妖夢、それと香霖に魔理沙に永琳。彼女らの顔は満更でもなかったようだ、が
「あ”ー……なんか微妙だったわ」
スキマ妖怪的には不満だったらしい。
とりあえず夕焼け空を帰っていく二組のカップルを眺めながら、結局全員ため息しかでなかったのは間違いないだろう。
「う……ん……?」
目が覚める。まだ真っ暗だ。自分は布団をかぶっている。嗅ぎなれた匂い。
確か、永遠亭から出たのは覚えている。ということはここは僕の家か。
さっきまでの倦怠感や頭痛はきれいさっぱり消え失せていた。
ついでに変に寝ていたせいで目が醒めてしまったようだ。
「くぅ……くぅ……」
と、横を見るとベッドにもたれかかるようにして射命丸がかわいい寝息を立てていた。
「疲れてしまったんだろうな。今日は本当にお疲れ様……」
毛布を彼女に掛けて上げ、ようとしてやめる。
起こさないようにゆっくり彼女を持ち上げ、ベッドに寝かせる。
時計を見るとまだ夜中の2時を少し回ったくらい。
病み上がりは寝るに限る。僕ももう一眠りしよう。
「おやすみ、文……」
僕は彼女を寝かせた布団に潜り込み、再び目を閉じた。
たくさん寝たはずだけれど、再び意識が落ちるのに時間がかからなかったのは、
隣にいる彼女のおかげかもしれない。
起きたら彼女にお礼を言おう。自分の事をこれだけ大切に思ってくれる彼女に。
「う……ん……○○さん……むにゃ」
「むぅ……あや……ぐぅ……」
抱き合うように、寄り添うように。
一緒に生きていこう、そう改めて思った。
@おまけ
○○「カラス天狗のつくるおかゆの作り方ぁー」
文 「はーい、今回私が作った奴ですね」
○○「そそ。材料は昆布と米と水。以上」
文 「適当ですね……」
○○「食欲ない人向けの病人食だからねえ」
文 「あ、なるほど」
○○「まず土鍋で昆布だしをとる。やりすぎると昆布味強くなって病人に辛くなるから注意ね」
文 「はい。米はカップに入れたまま洗っちゃっていいですよね? 量も少ないし」
○○「おっけ。一合のカップに6分の1くらいでいいと思う。それに対し水はたくさん」
文 「たくさんって……時間が30分くらいといってますがホントにそれくらいで作れるんですか?」
○○「まぁ、何とかなると思うぞ。水に浸さなくてもおかゆは作れるからね」
文 「はい、昆布でだしを取ったら取り出して土鍋に米入れて中火です。
炊くじゃなくて煮る感覚です。煮ている間、鍋底に米がつかないようかき混ぜます」
○○「ちなみに水に浸しているならこの作業はいらない。ただ30分って言ってるように水に浸してない
前提でやっているぞ」
文 「はい。ある程度吸水してきたらかき混ぜる必要がなくなるのでちょろ火にしてずらして隙間を作って蓋をします。
あとはご飯の匂いがするまで待ちます」
○○「見るだけじゃない、聞いて、嗅いで感じるんだ」
文 「なんかかっこいいですね」
○○「まぁね///……この間になんかもう一品、箸休めでも作るといいのだが、面倒、省略」
文 「ひどっ、まぁ、梅干とかでもいいですよね」
○○「だね。ともかくおかゆのコツは米をやわらかく『煮る』感覚、これ重要」
文 「はい。でも柔らかさは人それぞれですよね、というわけでその辺は各人のさじ加減です」
○○「こればっかりは経験で覚えるしかないしな。柔らかさが足りないなら水を足してもいいぞ」
文 「焦がすと台無しなので柔らかさと水野了には細心の注意を払いましょう。
丁度良い柔らかさになったら木べらでおかゆを動かしながら水分を好みの割合まで水分を飛ばします」
○○「米の粒を潰さないようにな。ゆっくり動かしていってね!」
文 「余熱があるので丁度いい少し前くらいで火を止めます。蓋をして出来上がりです」
○○「あ、大事なこと忘れてるぞ」
文 「なんですか?」
○○「料理に一番重要なのは作ってあげる人への愛情、これが最高の調味料なのさ。
……文のお粥、美味しかったよ」
文 「あややや……////」
○○「てなわけで、○○」
文 「あややの」
二人「お料理教室でしたー」
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うpろだ1462
いつもは多少のざわつきガあるものの今日は静かなその部屋。
「はいそれじゃあ、この問題の分かる者」
『はーい!』
まぁ寺子屋なんだがな。
そわそわしながらその様子を見ていた俺達。
「ああっ! △△が手を上げましたよ!」
「落ち着け文、まだ当てられたわけじゃない」
△△も大きくなってきたので寺子屋に通わせてみた。
授業参観があるというので夫婦で参加だ。カメラ常備の我が妻、射命丸文にとって
この日は決戦ともいえた。
「(カシャカシャ)ううん素敵ッ、△△の考えてる時の顔って(カシャカシャ)お父さんそっくりなんですからッ」
「おちつけ文、△△の邪魔になるし、まわりの目も痛い……」
勿論、授業参観に参加しているのは俺達だけではない。
「この辺に置けばいいかしら……?」「そこだとちょっとあからさま過ぎないかなあ」
向こうで教室の隅にさりげなく募金箱を設置しているのは神社の巫女さんだし、その隣にいるのは神主だ。
「いけー××! 答えはパワーdもごもご」「すいませんすいません」
大声で応援している白黒魔法使いもいるし。旦那さん大変そうだなあ。
「ううう……心配だわ」「シャンハーイ」「ホラーイ」「大丈夫だアリス、◇◇ならやってくれるさ」
心底心配してる人形遣いが人形と旦那に励まされていたり。
というか、皆暇なのか、親馬鹿なのか。
……親馬鹿なんだな。
「はい、じゃあ……ッ!?」
上白沢先生が当てようとすると親から無言の圧力がかかる。
(うちの子うちの子うちの子うちの子うちの子……)
(うちの子うちの子うちの子うちのk……)
(うちの子うちの子うちの子うちn……)
あらら、さすがにこれだけのプレッシャーだ、滝汗がすごい。
それでもなんとかよく通る声で名指しした。
「じゃ、じゃあ練習問題の問一から五問、博麗、霧雨、__、マーガトロイド、それと……射命丸」
指名が来たようだ。ここに来て文もいよいよ興奮気味である。
「○○さん、きましたよっ!? あ、あやややや、当てられて間違えたりなんかしたらどうしましょう!?」
「落ち着くんだ文。俺と文との自慢の子だ。風のごとく解いてくれるさ」
あくまで冷静に。俺は彼女の手をぎゅうと握った。
「~~~~です」
「正解、博麗、よく出来たな」
「えへへ」「よくやったわ$$!」「うちの子はやはり天才だぁ!」
ああはなりたくないものだ……。うん、我慢しよう。
「じゃあ、次は霧雨」
「おう! @@の&&だぜ!」
「おお、せいk「コラ××! そんな口の利き方、かーさん教えた覚えはないぜ!」」
突っ込んでいいものか迷ったがあえて突っ込まなかった。誰だって八卦炉は怖いものな。
しばらく、親子喧嘩が続いて、二人揃って廊下に立たされた。なんか上白沢先生は凄い人だと思った。
「……つぎ、__」
普通に答える。誰も騒いでなかったので誰が親かは判らなかったが、これがあるべき姿なんだろうな。
「よく出来たな」「ありがとうございます」
よく出来た子だ。誰の子だろうか。
「じゃあ、次はマーガトロイド」
「ひゃ、ひゃい! え、えと、****だと思います!」
「うん、正解だ。難しい問題だが、よく答えた」
頭を撫でられて嬉しそうにする◇◇。
「あああ、髪の毛が、かわいい◇◇の整った髪の毛がぁぁぁ」「落ち着けアリス、褒められてるんだ、誇れることだよ」
「…………」
向こうも向こうで大変だな。ああ、上白沢先生が怒りそうだ、大丈夫か?
「では……射命丸、最後の問題だ」
「はい、えっと、++++です」
△△が答えを口にする。上白沢先生が口をゆっくりと開く。その口は少し微笑んで、
「うん、正解だ」
その言葉を聴いた瞬間、何かが切れた。
「あr「いょおおおおおおおおおおおおし! よくやったぞ△△うううぅ!!」」
「(カシャカシャカシャ)やっぱり天才ね! この瞬間を切り取って」
「やはり俺と文の自慢の息子だ! ようし、今夜はごちs」
「お・ま・え・ら・は……うるさあああああああああい!!!」
ウルトラ強烈な頭突きをもらった。意識が飛びそうだった。
帰り道。
「まったくもー、父さんも母さんもはしゃぎ過ぎなんだよぅ」
「「……」」
左右に俺と文。真ん中に△△。手を繋いで家路を歩く。
ちょっとしょんぼりしていたのは息子のせいではなくて自分達のせいで笑われてしまったからだろう。
「ごめんね、お父さんもお母さんもあなたのことになると見境つかなくなっちゃうのよ」
「我慢できなくなった、すまんな、△△」
「むー……」
息子が機嫌を直してくれない。困ったもんだ。
どうしたものか。ああ、いい事を思いついた。
「そうだ、お父さんなんでも好きなもの買ってあげよう」
「え? ホント? なんでも?」
「ああ、なんでもだ」
「(ちょっと、そんな約束しちゃっていいんですか?)」
「(そろそろ△△の誕生日なんだし、いいじゃないか)」
「うーん……あ!」
しばらく考え込んでいるようだったが、何かひらめいたように息子は手をぽん、と叩いた。
「何かほしいものあったか?」
「うん、僕、弟がほしい!」
妻と一緒に盛大に吹いた。
「お、弟、か……」
「うん!」
文と顔を見合わせる。真っ赤になっていた。
「(あなた)」
「(ん?)」
「(なんなら今夜からでも)」
「(……さいですか)」
うん、がんばろう。
少なくとも、もう一人家族増えても大丈夫なくらいには稼ごう。
そう決意した。
@おまけ
「頭がいいな、__は、さすがは稗田の家の子だ」
「お母さんの手伝いをするんです。まだまだ足りませんよ」
「私もです」
「双子で揃って親思いで、ほんとに幸せ者だな、お前達の母親は」
そんな裏会話。
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最終更新:2011年02月26日 21:51