文16
新うpろだ38
「秋の夕日~に~照~る山~椛~(セリフ:ワタシ、人形じゃありません!)♪」
「呼んだか?」
「いんや?」
紅葉狩りに来てみたら白狼天狗に出くわした。
「こんにちわ、犬走さん、射命丸は?」
「こんにちわ。あちこち取材へ行ってらっしゃるのでどこにいるやら……」
ですよねー。まぁいいや。
「山の一人歩きもあれだから付き合ってくれないか?」
「ああ、かまわない、丁度暇をもてあましていたところだ」
そう言ってにこりと笑った。控えめな笑い方をするんだな。
山道を二人で歩いていく。傍らにいる天狗は特に気にする様子もなく、自分はというと、
あちこちの鮮やかな木々にきょろきょろとせわしなく目を移らせていた。
「凄く綺麗だなぁ」
「そうだな。今年の紅葉は色づきがいい」
二人して大きなイチョウの木を眺める。自分のいた世界では感じることが出来なかった、
風情を、こちらに来てから強く感じることが出来るようになった。
冗談抜きで一句詠みたくなってくる。
「銀杏散る……」
「うん? 俳句か」
良く分かったな。一言で。
「銀杏散る……地の葉眺めて、実を拾い」
「君と往く この秋の道 鮮やかに」
正直、すまなかった。慣れないことはするものじゃないな。
しかも犬走さんうめえ。見たら勝ち誇った目をされていた。笑いあう。
さくさくと軽い音をさせて、山道を進む。色とりどりの山道は疲れを感じさせない面白さがあった。
「ん? いま何か通った?」
不意に何かの気配を感じた。
「ああ、猪だな、おお、子連れだ」
千里眼って便利だな。風呂覗きって出来るのかって聞こうと思ったが聞かないでおいた。
自分だって命は惜しい。
「この辺でいいかな」
「何をするんだ?」
「落ち葉拾い」
言いながら適当な葉を捜し始める。
赤い葉、黄色い葉、茶色い葉。色鮮やかな紅葉は拾うのも楽しい。
手ごろな大きさで形が綺麗な椛の葉と、銀杏の葉、イタヤカエデ、カツラの葉も。
「うっし、こんなもんか」
持って来た袋に入れて満足げにうなずいた。
「何をするんだ?」
「大したことじゃないさ」
不思議そうな顔をする彼女にそう答えた。
帰る途中に寄り道。そこには機械文明臭のする家がある。
インターホンを鳴らすと、ほどなくしてドアが開いた。
「やあ人間。いらっしゃい」
河童が出迎えてくれる。
「やあにとり、『アレ』、貸してもらっていいかな?」
お土産に持ってきた朝もぎのきゅうりの包みを渡して訊ねる。
「ああ、『アレ』ね、いいけど、シートはみつけたのかい?」
中身が分かっているのか彼女は上機嫌だった。
「うん、だから素材も取ってたんだ」
袋の中身を見せながらにやりと笑う。河童も頷いて
「いいよ、活用されるのを見てみたいし」
「ありがとう。電源、借りるよ」
言うより先に差し込んでいる。
スイッチを入れるとランプが点灯する。とりあえずこっちは準備を進める。
準備してきた紙片に拾ってきた葉をあてがい、大きさを確かめていく。
サイズが合うのを見つけると、紙に載せそれを持ってきた素材ではさむ。
「さて、いい頃合かな」
こちらの準備は大丈夫だ。『アレ』も正常に動いている。
「どうなるかわくわくだね、人間」
「発言が⑨みたいになってるぞ、にとり」
そして、作業を開始した。
「ふぅ、ただいまー」
まぁ一人暮らしでも言ってしまうんだよな。
時々射命丸が勝手に入ってきててびっくりするけど。
彼女曰く、「鍵をかけないほうが悪い」のだそうで。
まぁ、取られて困るのはあそこにある秘密のコレクションくらいか。
あー、鍵、作ってもらおうかな。
そんな事を考えながら居間に上がると真っ暗な部屋に赤い目が!
「うぉあ!」
おもわず後ずさる。
今日ほど家に鍵をかけなかった事を後悔した日もあるまい。
「……お帰りなさい」
明かりをつけたら射命丸だった。びっくりさせて、もう。
「あ、ああ、射命丸だったのか。ただいま、でも電気くらいつけろよ」
なんだか凄く変な感じだ。何だろう、彼女の元気がないと言うか、怒っているというか。
「ご飯食べた? 俺まだだから食べてないなら」
「今日、何してました?」
「一緒に、……って、へ?」
「今日、何してました? って、聞いたんです」
相変わらず顔は険しいまま。
「えーと、今日は、紅葉狩り行って」
「……誰と」
更に険しい表情になる。
「一人で行ったけど途中から犬走さんがついてきてくれたよ」
「……それから」
「それから河童のところへちょっと寄り道してたな」
「……なにをしに?」
もう爆発寸前と言う顔。どうしたっていうんだ。
「これをプレゼントしようと思ってね」
取り出したのは数枚の栞。
「これは……?」
「ほら、いつも射命丸、あちこち取材してるし、文花帖持ってたからさ、栞をプレゼントしようと思って。
ただの栞はいやだったから、自分で落ち葉を拾いに行って、それをラミネート加工したんだ」
さまざまな葉をはさんだ栞。下に敷いた紙片一枚一枚に木の説明があって、手作りだと分かる。
見た目は小さなスペルカード。角にリボンが通りしてある。
「香霖堂でラミネート紙を見つけてさ、いても立ってもいられなかったんだ」
険しかった彼女の顔が驚きに変わり、そして困惑。
「じゃあ、椛と楽しそうに歩いてたのは?」
「一緒に来てもらうんだから会話くらいするだろ?」
「河童の家へ行ったのは?」
「ラミネート機を直してもらったんだよ。そしたらどうやって使うのか見てみたいってさ」
「でも、でも」
「なんだ、見てたのか?」
「うぅ、だって話しかけようとしたら、椛が出てきて……楽しそうに話してたものだから」
「浮気とか考えたのか」
「だって、だって、○○は皆に優しすぎます! 疑っちゃうじゃないですか!」
「人当たりがいいのは俺の性だ、それに」
涙を流して気持ちをぶつけてくる射命丸を抱きしめる。力一杯に抱きしめる。
「俺はお前の恋人だろう」
「……っく……えぐっ……はい」
抱き返してきた射命丸の頭を優しく撫でてやる。
「心配なんです。○○がだれかに取られちゃうんじゃないかと」
「じゃあいい言葉を二つ教えてあげよう」
ユーゴー曰く、愛することは、ほとんど信じることである。
トルストイ曰く、愛とは,大勢のなかからたった一人の男なり女なりを選んで、ほかのものを決して顧みないことである。
小さな声で、耳元に囁く。
「俺は、射命丸を、愛している」
「ぐすっ、私も、○○のこと、愛してます」
「信じたか?」
「はい……」
見上げた彼女の瞳がゆっくりと近づいてくる。
慰めでも、ごまかしでもない。愛を与え合う、そんな接吻。
静かに時だけが流れていった。
「でも何故栞だったんです?」
「ほら、射命丸いつも文花帖持っているじゃない、だから使ってくれたら一緒にいられるな、って思ってさ」
「ッ! うう……もう、○○はどうしてそうなんですか!」
抱きつかれて胸に顔をうずめられる。抱きしめ返すくらいしか出来ないが、喜んでくれたんだろう。
「ずっと、ずっと大事にしますから」
「ああ、でも壊れたらまた作ればいいさ」
いいえ、はじめてもらった栞だから、と彼女は顔を上げてすこし涙の溜まった目で笑った。
抱き合いながら呟く。二人にしか聞こえない。
「絶対誰にも渡しませんよ、全部私だけの○○です」
「俺だって射命丸を誰にも渡す気はないさ。俺だけの射命丸」
愛の表現は惜しみなく与えるだろう。
しかし、愛の本体は惜しみなく奪うものだ。
有島武郎
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新ろだ60
最近幻想郷では、神無月限定の外界ツアーが流行っている。
特に外来人の恋人がいる者が多く申し込んでおり、何組ものカップルが旅行を楽しんでいる。
俺にとっても里帰りの機会だが、まだ行っていないし、多分これからも行かないだろう。
俺の恋人である文は主催者側で広報などに携わっており、企画の周知はほとんど彼女が行った。
それだけでは終わらず、月が変わったら文々。新聞で大々的に特集を組む予定がある。
今も帰ってきた旅行者の話をまとめて、記事の原案を作っている最中だ。
忙しいことこの上なく、とてもプライベートで旅行に行っている暇などない。
そんな文を置いて一人で外へ行くつもりは毛頭ないわけで、
俺は作業中滞りがちな家事などを担当し、文のサポートに回っている。
「文ー、少し休憩してお茶にしないか?」
「―そうですね、もうちょっとできりのいいところまで出来ますので」
ならもうちょっとかかるか。先にお茶を淹れておこう。
鉄瓶に沸かしておいたお湯を急須に注ぐ。
さてお茶請けを、と。
外界からの土産は月明けの宴会で交換し合う予定だが、個人的にはもういくつかもらっている。
「懐かしいだろうから」と、皆色々くれたのだが、戸棚の中にしまってあるのもその内の一つだ。
「おーい、文?お茶請け、外土産の『ひよ子』でいい?」
……あれ、返事がないな。
仕方ないので湯呑みを出しながら待っていると、足音がした。
「○○さん」
「ん、どうしたあ、や―」
振り向くと、そこには文が立っていた。
なんだか蒼白な顔をしている。
「あれほど鶏肉は食べないでと言ったのに……」
とりにく?
「しかも外界土産とはいえ、いたいけなヒヨコを……それは、私に対する絶縁宣言ですか?」
ブラウスの裾をぎゅっと握り締め、震えている文。目には涙が浮かび始めている。
ちょっと待て、何か盛大な勘違いが―
「もう……もう、私に愛想を尽かしたって言うんですか?」
「わーっ!誤解、誤解だー!!」
「饅頭なら饅頭と言ってくださいよ……」
「いや、だからそういう名前の饅頭なんだって」
二人で『ひよ子』を食べながら座ってお茶を飲む。
現物を見せることで、無事誤解は解けた。
「しかし、我ながらちょっと取り乱しすぎました。
根を詰めるのも程々にした方がいいですかね」
ふう、とため息をつきながら文が言う。
「少し休んだ方がいいんじゃないか?
仮眠を取るとか、気分転換するとか。ずっと忙しそうだったし」
「……そうですね。それでは、後でミスティアさんのところに行きましょうか」
「お、いいね」
「何だか、外からのお土産をヒントに新メニューを開発したそうですよ。
まあ、まだ開店までは時間がありますし、仮眠を取ることにしますね」
そう言うと文は側に寄ってきて、俺の膝に頭を乗せて横になった。
……えーっと。
「あの、文さん?」
「こうするのが、一番元気になれそうですから。
しばらく、貸してもらってもいいですよね?」
「……ああ、いいよ」
優しく髪を撫でてやると、文は間もなくうとうとし始めた。
やはりここ数日で、疲れがたまっていたんだろう。
やがて、小さな寝息が聞こえてきた。
ちなみに、みすちーの屋台の新商品『夜雀のお菓子 八目鰻パイ』は―
まあ、なんというか、美味しかったけど外のあれとは全く違ったものだった。
ただ体力増進効果は抜群で、残りの原稿作業が大いにはかどりそうではある。
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最終更新:2010年05月11日 18:50