文19



新ろだ149


 山道を歩く僕と射命丸。

 今日は大天狗様のところへ結婚の報告に行った帰りだったのだが、心なしか射命丸の顔が晴れない。理由は分かっているけれど。

「文、まだ気にしてる?」

「え? あ、……いえ、大丈夫ですよ」

 そう言って笑ってごまかすにも元気がない。やっぱりあの言葉は重かった。

『先に言っておくが、○○はお前よりも先に死ぬぞ。必ず。必ず遺される、その覚悟は持つのだぞ』

 普段気にしないだけに、いざ目の前に持ってこられるとなかなかに厳しいものがあるな、そう思う。

「○○さんは」

「ん?」

「○○さんはどう思ってるんですか?」

 射命丸が訊ねる。僕が先に死ぬことについて。

 僕はどこからどう見てもそっくりそのままただの人間で、寿命だってあと60年と少しくらいだろう。
それに比べて射命丸はカラス天狗で、妖怪で、寿命はそれ以上に長い。そう考えると、別れは必ずやって来る。
そして、彼女は僕が死んだ後も生きなければならないのだ。

「そうだな。うん。やっぱり今までどおりかな」

 のんきだけれど、それでいいんじゃないかと思う。

「○○さん、あなたが死んだ後、私はどうすればいいんですか……」

 見れば射命丸は涙目になって、こちらを見つめていた。

 二人で生きていく。そう誓ったけれど、必ず独りになるという結末を見せられる恐怖。孤独になる事を宣告されたようなものだ。

「大丈夫さ。文の周りには素敵な友人がたくさんいるだろ?」

「でも、でも……」

「それなら、さ」

 抱きしめて。ここにいると、証明させて。

「あかしをたくさん残そう。僕がここにいたっていう」

「あ……」

 しがみ付いて、腕の中で小さくしゃくりあげる一番大事な女の子。僕は一生かけて彼女を愛する事を改めて決意した。

「それって、……赤ちゃん?」

 みなまで言わないでください。それに

「それに、死が二つを分かつものでもないでしょ。この幻想郷では」

 死なば別れ。しかし、転生が待っている。

「でも、あなたが覚えていないかも……」

「絶対忘れないね」

 断言する。魂に刻んだ愛しい人は輪廻しても覚えている。

「『親子は一世、夫婦は二世』って言ってね、僕らはまた来世、出会えるのさ」

 確信的に言う。自信はあまりないけれど。

「ホントですか?」

「さあ? あの閻魔様に訊いて見るか、今度」

 なんですかそれ、と少し怒った様に言われたけれど、射命丸が元気になったようでよかった。

「あ、でもあんまり待たせると、ほかのひとを好きになっちゃいますよ?」

 悪戯っぽくそう言う射命丸。

「それは聞き捨てならないな」

 ぎゅ、と抱きしめる力を強めて、首筋に顔を寄せる。

「んぅ……ひぁッ!?」

 甘い声を挙げた射命丸に、思い切りつけてやった、赤いしるし。

「おし、『しるし』一個目ね」

 真っ赤になって口をぱくぱくさせる。

「あ、あ、ああなたって人は……」

 起こる声もどこか嬉しそうに、わなわなさせて、僕の首筋に反撃してきた。

「オゥフっ」

 なんだか変な声を上げてしまって恥ずかしかった。

「ふふ、変な声」

 満足げに笑いあう。僕の首筋にも赤いしるし。

「ねえ、さっきの話ですけど」

「うん? 夫婦は二世の話?」

 そう、と頷く射命丸。

「じゃあ、来世のあなたとまた夫婦になればまたその次のあなたと会えるんですよね?」

「んー……そうじゃないかな?」

 曖昧だけど、そういう事なのだろうと思う。

「じゃあ、ずーっと一緒ですね!」

 そう言って嬉しそうに笑う射命丸の笑顔は何より綺麗だった。

 そんな彼女の手を取る。夕焼け小焼け。立ち止まってしまったがそろそろ家へ帰らなければ。

「ああ、それなら、記憶を持ったまま転生したいな」

「え?」

「だって、記憶が違えば僕は僕でも別の僕だと思う。僕以外の奴が文と一緒になるなんて、考えたくないな」

「あやや、自分に嫉妬ですか? ふふ、うりうりー」

 指を絡めて、反対の手で僕の頬をつつきながらニコニコしている。

「結構深刻な悩みだよ? 自分だけど自分じゃないかもしれないっていうのは」

「○○さんとは違う○○さん……」

 そういわれて射命丸も考え込む。

「うん、やっぱり記憶を持ったまま転生できないとダメだな」

 彼女をもう一度抱きしめる。

「たとえ僕でも射命丸は渡せない」

「はい! じゃあ、絶対に離さないでくださいね? 私のことも、あなたの記憶も」

 そんな帰り道。来世の婚約まで済ませ、二人は幸せそうだった。

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新ろだ175


文「おさかながーつれましたー3枚にーおろーしましたー
みっつがそれぞれふくらんでーもとーのかーたちーになーりまーしたー」

○「(むくり)……今日その日なの?」

文「ええ。あ、ごめんなさいおこしちゃいました? 寝てていいですから」

○「……(ぱたん)」

文「三匹にーなったのでー3枚にーおろーしましたー
ここのつがそれぞれふくらんでーもとーのかーたちーになーりまーしたー」

○「(むくり)……今日誰と行くの?」

文「こまっちゃんとれみぃ。あ、ごめんなさいおこしちゃいました? 寝てていいですから」

○「……(ぱたん)」

文「九匹にーなったのでー3枚にーおろーしましたー
二十七つがそれぞれふくらんでーもとーのかーたちーになーりまーしたー」

○「……ーー」

文「二十七匹にーなったのでー3枚にーおろーしましたー
はちじゅういっつがそれぞれ……

○「……なー うーるさーいなー うーるさーいなー
寝てーていいーって寝られるか、おいっ(がばっ)」

文「あ、ごめんなさいおこしちゃいました? 寝てていいですから」

○「寝てていいじゃねえよ……あるか! そんな話!
……うわ、まだ夜中の三時じゃん」

文「『朝の』三時ですよ」

○「お前はそういう日だけ早起きなのな」

文「今起きないとまづめ時に間に合わないですから」

○「?」

文「まづめ時。日の出日の入りの時刻。魚は活発になってよくつれるんですよ~」

○「まじめ……ずき?」

文「まづめどき」

○「あつめすぎ」

文「まづめどき」

○「北勝鬨」

文「わざとやってるでしょ!」

○「寝ぼけてるんだよ……っふあぁ~って真っ暗で全然さわやかじゃねえ!」

文「え? いい朝じゃないですか」

○「そうかぁ? ほら見ろ、夜雀の屋台での式神が泣きながらゲロはいてる」

文「……あれ? サランラップどこでしたっけ?」

○「お弁当作ってるの? ぁーいいじゃん別に釣ったブラックバス葉っぱで包んで食えば」

文「そんな食べ方はできない……」

○「もう、(ベッドから出る)……(がちゃ)はい、ラップ、……アルミホイル」

文「細かぁい」

○「(ベッドに戻る)……なあ、やっぱりブラックバス釣りもさ、大会みたいなのってあるの?」

文「ええ、ありますよ」

○「へぇ、賞金でんの?」

文「出た金の話。……賞金だって出ますよ。この前は一番大きい魚釣った人が
魚の長さの分だけお金がもらえました」

○「へぇ、何センチ?」

文「たしか63.5センチ」

○「へぇ、六百三十五円か」

文「ううん、六千三百五十円」

○「え!? そんなにもらえるの? へぇ、じゃあ月イチで優勝すれば年収七万六千二百円だな」

文「計算速っ!」

○「へえ、案外食えるんだな……」

文「あ、やる気出てきました?」

○「……でも俺はやらない(ぱたん)」

文「いいじゃないですかやりましょうよ~」

○「やだよーだって俺魚苦手だもーん」

文「いつも私にヤツメウナギ買いにいかせるじゃないですか」

○「あれは蒲焼だからいいの。なんつーんだろ、あの、体中に鱗がこう、ぶちぶちぶちぶち……」

文「うん」

○「こう、死んだ目しててさ、くちとかぱっくぱっくしちゃってさ」

文「うん……w」

○「置いたら意外と置けたりするのね、で、腹とか白くてさ、
こううじゅうじゅうじゅうじゅ……バリバリバリバリ!」

文「!?」

○「(むくり)ア゙ア゙……ア゙ア゙……ア゙ア゙……ア゙ア゙……帝都ヲ破壊スルノダ」

文「そんなさかなはつれない」

○「ならなおさら行かない(ぱたん)」

文「(~~♪)あ、もしもしこまっちゃんー? もう準備できてるよ……ええ!?
……うんわかったぁ、じゃぁねえ、ぶぁいぶぁーい」

○「こまっちゃんどうしたの?」

文「おたふくかぜでいけないって」

○「まじで!? あいつ死神だろ……死神でも引くんだな……」

文「(~~♪)もしもしれみぃ? ちょっとこまっちゃんがさー……はあ!?
……うんわかったぁ、じゃぁねえ、ぶぁいぶぁーい」

○「れみぃどうした」

文「やっぱり行っちゃいけませんって咲夜さんが言うからいけないって」

○「まじで!? あいつ当主だろ……きっついなあ」

文「あーあ……せっかくおべんとうまでつくったのにさあ……(じぃー)」

○「……俺は行かないぞ!」

文「いいじゃないですか行きましょうよ~」

○「絶対嫌だ、こういう日はな、神様がいくなって言ってるんだよ」

文「なんですかそれ」

○「あー……何つうかアレだよ。ボートが沈んだりさ、おにぎりがこう……爆発したりとかするんだよ。
ブラックバスが襲い掛かってくるかもしれない」

文「そんなことないですよぅ」

○「雨が降るかもしれないし」

文「晴れてるじゃないですか!」

○「あーそういえば昨日天気予報で明日は世界中晴れのち……ブラックバスだって言ってたな」

文「そんなわけないですよぉ……」

○「いいじゃんここにいたって降って来るんだからわざわざ釣りに行かなくたって」

文「絶対降って来ないですよぉ……屋根ありますし」

○「いいから俺のいうこと聞いとけよ、お前は俺の恋人だろうが」

















文「……そうですけど」

○「だろ? ……来いよ」

文「もう、いっつもそうやって強引なんですから///(ベッドに入る)」

○「さ、これからが僕らの、まづめ時だ///」


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新ろだ222


○○「今日はクリスマス…だったか」

冬空の中、○○はボーッとしていた

○○「いつもと変わらない日常だったな…」

思えば幻想郷にはクリスマスという習慣がないのかもしれない
それなら当然の事か…と○○は溜め息をついた
そこへ射命丸文が飛んできた

文「どう?何かあった?今日はクリスマスだったけど」

射命丸はフレンドリーな口調で話しかけてくる
情報屋である以上、クリスマスが特な日だってのを知ってるのは当然か

○○「なーんにも、あきれるくらいいつも通りの日常だったよ」
文「…嫌な事件だったね」
○○「うるさいな」

そう言うと文は○○に身体をすり寄せ、少し寒いね、と呟いた

○○「…ま、こんなクリスマスもこれはこれでアリか」

きょとんとしている文を尻目に、○○は笑った

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新ろだ256


「――とまあ、そんなことがあったんだ」
「ふむふむ、なるほど」
 目の前の少女を眺めながらぽつりと呟く。
「……なあ、文」
「はい、何でしょう」
 目の前の――正確に言えば後頭部ぐらいしか見えない――少女を眺めながら。

「インタビューするのは……まあ、報酬代わりに、
 食料貰ってるからいいんだけどな?」
「ふむふむ」
「ちょっと待て、んな事まで書かなくていい。
 俺が言いたいのは、だ」

 一旦言葉を区切り、彼女の肩に手を置く。

「どうして毎度毎度のインタビューをするのに
 俺の膝の上を使うんだ」

「いいじゃないですかー、減るもんじゃないですし」
「主に俺の体力が減る」
「……駄目、ですか?」
 畜生、またこれか。
 溜息が漏れる。

「そろそろ二桁に到達しそうなインタビューではあるのだが、
 初回以降はずっとこの調子である。
 ちょっと膝上を陣取られていることを咎めると、
 途端にしゅんとした顔で俺を見上げてくる。
 計算かそうでないかはさておき、そんな目をされて
 断れるのはそうそういないだろう」
「あのー、○○さん?」
「なんだ」
 視線を下に戻せば苦笑いの鴉天狗。
「思いっきり聞こえてますけど」
「聞こえるように言ったからな」
 ヤケクソ半分、あてつけ半分で思ったことをそのまま口にしてみた。
「ということはいてもいい、と?」
「……好きにしろ」
 言って聞くような娘でないことは三回目あたりで理解済みである。

「えへへー、ありがとうございます」
 喜色を顔どころか全身に滲ませつつ、
 俺へ体重を預けてくる。

 可愛い娘にこういう事をされて悪い気はしないのだが、
 この娘はそれでいいのだろうか?
 他に好きな男でもいるならこんな光景見られでもしたら――
「何を考えているんだろうな、俺は」
「はい?」
「何でもない。ちょっと姿勢変えるぞ」
 胡坐の上に人を乗せるというのは地味にしんどいもので、
 実のところ先ほどから痺れ始めていた。
 彼女をゆらさないように腹に腕を回して持ち上げようと
「きゃっ!?」
「ちょ、こら、暴れ――」
 暴れるな、と言い切る前に後ろへと身体が見事に傾き始め、
 二人見事に倒れる。見事に後頭部が床にクリーンヒット。

「痛ったー……大丈夫か?文」
「ええ、大丈夫で……す」
 微妙に言いよどんだのが気になり、痛みで閉じていた目を開ける。

 理由は至極単純だった。
 文字通り目と鼻の先に、彼女の顔があったからである。
「あ、あややー」
 照れ隠しなのかどうか知らないが、突然に意味不明な事を呟く文。
 顔が真っ赤なのは先ほど腕を回した非礼のせいだろうか。
「どいてくれないかな。さすがに二人分を起こせるほど、腕力に自信はない」
 寝っぱなしもどうかと思うので言ってみたのだが、眼前の少女に動く気配はなく。
 ……むしろ眼が据わったような感じがする。
 す、と彼女は両手を俺の頭に回すと、眼を閉じ、
 ぐぐぐ、と効果音がしそうな勢いで顔を近づけてきた。

「ちょ、おい、これはマズいってばおい!」
 恋人でもない者同士がキスはいくらなんでもアウトだ。
 そう思って制止の声を上げたのだが――
「○○さんは、私の事……嫌いですか?」
 熱っぽく、そして潤んだ瞳で俺を見つめてきた。

 突然の展開に混乱しかけていた頭を何とか落ち着かせる。
 確かにこいつの事は嫌いじゃない。
 むしろ可愛いなとか思っていたりでどちらかと言えば
 好意を抱いている部類に入っている。むしろ好きだ。
 だからって俺なんかとが釣り合うとは微塵にも思っておらず、
 諦めていたのだが――

「――諦めなくても、いいんですよ」
 そう告げると、彼女はゆっくりと俺に口付けをした。
 何度も、何度も。




 元の姿勢――取材開始よりはやや密着した形――に戻った後のこと。
「畜生め、また考え事が駄々漏れだったか」
「ええ、ばっちり過ぎるくらいには」
 少し照れた顔で頬をかく腕の中の少女。

「こっちが積極的に動いているのに全く動じてくれなくて」
 ……膝の上での取材はその為だったか。
「そろそろ一勝負仕掛けようと思っていた所でしたから……
 ああ、日頃の行いが良いと神様も味方してくれるんですねー」
 しみじみと呟く。
「日頃の行い……よかったのか、あれで」
 こいつの出している新聞の数々を思い返す。
 褒められた出来ではないゴシップも多々あった気がするが……
「ゔ……いいんですよ、そういうことにしておいで下さいー」
 身体を反転させ、俺の身体に抱きつくような形になる。

「ったく……仕様の無い奴め」
 俺も彼女を優しく抱きしめる事にした。

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新ろだ265


 積もった雪を踏みしめ、我が家の前にたどり着く。

「ただいまー」

 風呂敷包みを小脇に抱えたまま、俺は家の戸を開けた。
 特に鍵などはかけていないため、するりと開く。
 別に中に誰がいようと、もしくはいまいと、関係なくただいまと口にするのが習慣になっている。

「あ、おかえりなさい○○さん」
「おじゃましてますー」

 留守の間に来ていたのだろう。
 部屋の中には文と椛が、丸火鉢を挟んで座っていた。
 ……なんだか妻と子の待つ家に帰ってきた夫のような気分だ。
 文はともかく、椛に悪いので口には出さないが。

「……ただいま」

 改めて言い直す。やはり、応えてくれる声がある方が嬉しい。
 上着を脱いで包みを置き、火鉢の側に腰を下ろす。
 冷えた手を火にかざすと、ようやく人心地がついた気がした。




「留守なら縁側の方に回ろうかと思っていたら、玄関も開いていましたのでそちらから」

 慧音さんの紹介で住まわせてもらったこの家は、狭いながらも一応縁側と、猫の額ほどもないような庭がある。
 玄関には一応鍵がついているのだが、ここのところあまり使ったことがない。
 垣根を越えるかくぐるか(元々壊れていたのをろくに直していないので、そう大変ではない)すれば縁側から入ることもできるので、
 そもそもあまり意味がないのだ。

「まあ最近は、全然鍵使わないなあ」

 ……だいたい、幻想郷で気にかけなければいけないものは、玄関の鍵で防げるようなレベルではないと言うし。
 外の世界で心配するような犯罪はあまりない代わりに、本当に何かあった時は破滅的なことになる、というのがもっぱらの噂だ。

「ここへ来て最初の頃は、妖精とか小さい妖怪とかが忍び込んだような跡もたまにはあったけど」

 この頃はそんなこともあまりなくなった。被害と言えばせいぜい茶菓子が少しなくなっている程度だったけれど。

「まあ、○○さんとのお付き合いを始めてから私がここにいることも多いですからね。
 私本人がいなくても、天狗の気配が残っているところに好き好んで入っては来ないんでしょう」

 番茶をすすりながら、文が答える。
 それを聞いた椛は、おもむろにくんくんと鼻をひくつかせていたが、

「そう言えば……○○さんの家って、文さんの匂いがしますね!」

 何が嬉しいのか笑顔でそんなことをのたまった。
 その言葉に文はむせ返り、俺は俺で火がついたかと思うほど顔が熱くなるのを感じた。
 ―椛、その表現は非常に「そこまでよ!」な雰囲気に満ちてるぞ。

「……こほっ。そ、そんなのは白狼天狗の貴女ぐらいよ!匂いじゃなくて気配!」

 まだ少しむせながら、顔を真っ赤にした文が叫ぶ。
 清く正しい(?)交際を続けてはいるけれど、
 それでも文がいたり文のものが置いてあったりする以上、鼻の利く椛には分かる程度に残り香なんかもあるんだろう。
 文が今持ってる湯呑みからして、専用のだったりするし。
 ……何となく、照れくさい。



「そろそろ炭足しましょうか」
「あ、お願い」

 立ち上がった文が、土間の隅から炭の入った籠を持ってきた。
 火箸で炭を追加し、火が移りやすいように置き直す。
 他所で使わなくなったのをもらってきた陶製の火鉢は、この人数で囲むのにちょうど良いくらいの大きさだ。
 使い方の加減に慣れると、見た目以上に暖かく過ごせる。

「ところで○○さん、さっきから訊こうと思ってたんですがその風呂敷包みは?」
「ああそうそう、これは……」

 外出先から持ってきていた包みを開く。

「……切り餅、ですか?」

 江戸時代の金包みではない。マッチ箱ぐらいの大きさで白く四角いそれは、さっき搗いてきたばかりの餅を切り分けたものだ。

「わ、おいしそうですねー」
「そうだろ、なんたって搗きたてだから。
 いや、寺子屋で餅搗きをするからって、慧音さんに手伝いを頼まれてさ。
 終わった後にお礼も兼ねておすそ分けってことでもらったんだ」

 くっつかないように粉をまぶした切り餅は、結構な量がある。
 あまりたくさんもらうのも悪い気がしたのだが、
 俺と同様手伝いに来ていた妹紅に「彼女が来るんだろうし、遠慮せずに持ってきなよ」と言われ、結局山ほど持たされた。

「早速食べようか?焼き網もあるし」
「いいですね。椛、お皿とお箸出してくれる?
 ―ああ、そこじゃなくて、お箸は一番上の引き出しよ。お皿は上の方に小皿があるから」
「……文さん自分の家みたいですね」

 椛が棚から食器を出している間に、文は五徳に網を載せて餅を並べ始めた。
 まだ固くなっていないので、程よく焼き色がつけばもう食べ頃だ。



「「「いただきます」」」

 順調に焼けつつある餅を前に、まずは挨拶を。

「はい○○さん、お箸どうぞ」
「ありがと……あっ」

 椛が差し出してくれた箸を受け取ろうとした俺の手は、
 上手くつかめずに箸を取り落としてしまった。
 見れば握ろうとした手が、かくかくと痙攣している。

「○○さん、その手は」
「……面目ない」

 運動不足が祟ったらしい。
 一度やってみるとわかるが、餅搗きというのは見た目よりはるかに重労働だ。
 搗く作業も大変だし、その前段階で蒸した餅米を潰す作業もかなりきつい。
 慣れない俺は、すぐに腕が痛くなってしまった。
 情けない話だが、後になるにつれて交代で作業をしていた妹紅に任せる割合が増えていたと思う。
 終わってしばらく経った今、さほど腕は痛くないのだが、一時的な筋肉の疲労か、手が上手く動かない。
 おそらく、普段握力が鍛えられていないのに杵を強く握り締めていたせいだろう。

「もう、仕方ないですね。私が代わりに取ってあげますよ」

 言いながらも文は、どことなく嬉しそうだ。
 ちょうど焼けた餅を自分の皿に取ると、一口サイズに箸でちぎり、

「はい○○さん、あーん」

 俺の前に差し出してきた。

「あーん」

 ためらうことなく、俺は口を開けて餅を食べさせてもらう。
 文も俺も、当たり前のようにこういった流れに持ち込めるようになってきた。
 呼吸が合ってきたというか、平気でこんなことできるほど関係が濃厚になったというか。
 ……椛が自分の餅を食べるのも忘れ、目を丸くして興味深げにこちらを見ているのは気にしない。

「熱っ、はふはふ……ん、旨い」
「むぐむぐ、そうですね、やっぱり搗きたてはおいしいです」

 よく蒸かした餅米の甘みと柔らかさに、三人とも思わず顔がほころぶ。
 自分で搗いたものだと、おいしさも感慨もひとしおだ。

「しかし、このぐらいで手を痛めてたらやっぱりまずいよなあ」

 手をゆらゆらと振ってみる。
 すぐに治るだろうが、また餅を搗く機会もあるだろうし、その度にこうなっていては情けないことこの上ない。

「少し、鍛えようかなあ」
「そうですねむぐむぐ、身体をむぐ鍛えるのはむぐむぐ、いいことですよむぐむぐ」
「……木刀で素振りとかどうかな、握力もつきそうだし。
 今度妖夢に会った時でも、基本の形とか教えてもらって―」
「むぐっ!?」

 口いっぱいに餅を頬張っていた文が、変な声を立てた。
 餅を飲み込み、お茶を飲んで一息つくと慌ててまくしたてる。

「駄目ですよ!基本とはいえ、剣術の稽古つけてもらうなんて手取り足取りじゃないですか!」
「そう?」
「そうです!それだったら私が指導してあげますから!もちろん手取り足取り」
「……文、剣なんか使えたんだ?」
「それは―使えませんけど。でもほら、確か外の世界にも、鴉天狗に剣の稽古をつけられた御曹司の話があったじゃないですか」

 鞍馬山の牛若丸の話か。まんが日本昔ば○しとかで見たような気がするな。
 でもあれって……

「あれって実戦本位で、殴られたくなかったらその前に勝てっていうんじゃなかったか」
「そうでしたっけ?」
「あの、剣だったら私が教えましょうか?」

 それまで黙々と餅を食べていた椛が口を開く。

「そういえば、椛は普段から仕事で剣持ってるんだよな」
「ええ、哨戒の仕事だし弾幕もあるので、実際使うことはまずないですけど」
「こら椛、○○さんに手取り足取り教えるのは私の仕事よ!」
「じゃあ私が文さんに教えるので、文さんが○○さんに教えるということで……」
「ああ、餅が焦げる……あつっ!」
「あっ、○○さんその手でひっくり返すのは無茶ですって!」

 ……こんなどたばたも、大事な日常の風景になりつつある。
 まあ、慣れようと慣れまいと、幸せであることに変わりはないけれど。





 冬は暗くなるのが早い。夏ならまだ明るい時間なのに、外はもう真っ暗だ。
 いつもならそろそろ夕飯の支度を始めるところだが、今日はついつい餅を食べすぎたので、まだしばらくいいことにする。

「それじゃ、失礼しますね」
「ああ、気をつけてな」

 文は泊まっていくそうだが、椛は山へ帰るという。
 気を遣わせてしまったのかもしれない。
 一応家主なので、文を残して玄関まで送っていった。
 夜空からは雪が降り始めている。

「―椛は、さ」
「はい?」

 文はちょうどこちらに背を向けて、火鉢にあたっている。
 前から少し気になっていたことを、文には聞こえないように訊いてみることにした。

「その、どうして俺と文に好意的に接してくれるの?」

 文も、椛も、他でもない天狗の社会の一員だ。
 風の噂に聞いた程度だけれど、天狗というのはあまり仲間が人間と接近しすぎるのを好まないという。
 それを聞いてからというもの、椛がこうして文と一緒に来てにこにこと笑っていてくれるのは、
 嬉しいけれど心のどこかでほんの少しだけ疑問と不安―本来なら受けられないような祝福を受けていることへの漠然とした不安を、
 感じさせる光景になっていたのだ。

「そうですねー」

 俺の問いかけに含まれたそういった意味合いを理解してくれたのかどうか、
 ちょっと考えてから椛は、何だか一生懸命答えてくれた。

「えっと、一言で言うと、私が文さんのこと好きだから、でしょうかね」

 変な意味じゃないですよ、と付け加えつつ言葉を継ぐ。

「文さん、お付き合いを始める前から私によく○○さんの話をしてくれてたんですよ。
 ○○さんのことが好きだって教えてくれたのは本当に付き合う直前のことで、「内緒ですよ」って言いながらだったんですけど、
 その前から○○さんのこと話す時の文さんはすごく幸せそうだったから、何を今更、っていう感じで」

 そう訥々と語る椛自身も、何だか幸せそうだ。

「○○さんも善い人そうで、何より○○さんも文さんのこと好きだって言ってくれて。
 私の大好きな文さんが幸せそうで、文さんを好きな○○さんが、文さんの『佳い人』で」

 ぐっと握った両手を上下に振りながら、椛は力説してくれる。

「―だから私も、側で見てるとすごく幸せな気持ちになれるんですよ」

 力のこもったまなざしでこちらを見つめる椛の姿を見ていると、俺は感謝の気持ちで胸がいっぱいになるのを感じた。
 ほんの少しではあったけれど、抱えていた不安が融けていくようだった。

「また文と一緒に、来てくれると嬉しいな」
「はい!これからも文さんのこと、よろしくお願いしますね!」

 ぺこりと一礼すると、椛は山の方へ飛んでいった。





「何話してたんですか?」
「いや、文のことよろしくってさ」

 椛がいた時よりも、心持ち文にくっついて座る。
 二人っきりになったことで、部屋の空気は甘さ80%増し、照れ20%増しといったところだ。

「そういえば○○さん、手はどうですか?」
「ん?あ、そういえばもう大丈夫みたいだな」

 わきわきと手を動かしてみる。もう痙攣はしない。

「あー、でもこれは明日筋肉痛かなあ」

 まだ、明後日筋肉痛になる年齢ではないと思う。……思いたい。

「○○さん、手を出してください」
「?」

 言われるままに右手を差し出すと、文はそこにふわりと両手を添えた。
 左右の小指を俺の親指と小指に引っ掛けて優しく反らすと、手のひらを親指で柔らかく押し始める。

「どうですか?」
「……ああ、気持ちいい」

 こぼれる吐息と一緒に、身体の疲れが抜けていくように思えた。

「良かった。……はい、反対の手も出してください」

 言われるままに出した左手も、右手同様文のしなやかな指に揉みほぐされていく。

「ありがとう、だいぶ楽になった気がする」
「ふふ、どういたしましてです」

 にこやかに笑う文。
 マッサージも気持ちよかったけれど、その笑顔を見ているだけでも元気が満ちてくる。

「ところで○○さん……火鉢だけだと寒くありませんか?」
「え?いや、使ってみたら意外とあったかいし、そんなに寒くはないよ」

 妙に力の入った表情で、唐突に文が訊いてきた。
 換気に気をつけないといけないけれど、密閉性がそんなに高くないこの家ではそう危ないこともないし、
 動き回るほど広くもないから火鉢でも十分暖が取れる。
 だからそう答えたのだが、何故か文は納得がいかないらしく、さらに力を込めて繰り返す。

「……火鉢だけだと寒いんじゃないですか?」
「いや、寒くないけど」
「…………火鉢だけだと寒いですよね?」
「別に…………うん、やっぱりちょっと寒いかな」

 やっと文の意図するところに気がつき、そう訂正する。

「そうですよね!」

 読み損ねた空気を読み直した俺の答えにぱっと活き活きした笑顔を見せて頷くと、文はいそいそと擦り寄ってきた。
 ぴったりと寄り添う文の肩に、腕を回して抱き寄せる。

「もう、それとなくくっつきたかったのに、○○さんったら鈍感なんですから」
「ごめんごめん」

 触れ合った部分から伝わってくる文の体温が、身体を優しく温めてくれる。
 それは、文の方でも同様のようだ。

「ああ、やっぱり○○さんにこうしてもらうのが一番あったかいですね」
「そうだな。文もあったかくて、いい匂いがして……こうしてるだけで、冬を乗り切れそうな気がする」
「えへへ。何だか幸せですね」

 文は目を閉じると、艶やかな黒髪を擦り付けるようにして、俺の胸に頭を預けてきた。

「……春が来て、夏が来ても、こんな風にしてくれると嬉しいです」
「また秋が来て、冬が来て、何度季節が変わっても、文とこんな風にしていたいな」
「……○○さん」

 抱きしめる腕に力を込める。
 お互いの鼓動が伝わるほど深く。
 言葉はなく、火鉢の炭だけがぱちぱちと爆ぜている。
 雪が降り積もる音が聞こえるかと思えるほど静かな、それでいて満ち足りた時間が過ぎていった。

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新ろだ276




グロ注意











いつもどうり里に働きに行っている元外界人○○、その途中文と出会った。
「あやや、どうもおはようございます○○さん」
空から降りながら話しかけてくる文。これから取材に行くところだろうか。
「ああ、おはよう、文。取材か?」
○○はいつもの無表情で文に返した。
(また無表情、私には笑ってくれないんですか?)
文は職業柄、様々な人の様々な部分を見る。その中には○○の笑顔も入っていた。
「いえいえ、通りがけに見かけたので声をかけただけですよ」
ネタがあるなら聞きますがね、と文は付け足し、そんなものは無いと○○は返す。
「じゃあ、俺は仕事があるんでな。働かざるもの食うべからず、byマッカーサー」
そう言って○○はまた歩き出した。
誰ですかそれと文が聞くと外界の偉人とだけ○○は答えた。
これが、あの惨劇が起きる直前、ごくごく日常だった、いつもどうりの朝・・・









夕方

夕焼けで紅く染まる道を○○は歩いていた。
「つ~きが闇を照らすとき、タナトスが呼んでる、と~おく~っと」
今日もいつもどうり里での仕事を終え、慧音さんが提供してくれた家に帰っていた。
ふと視界の端に何かが入った気がした。立ち止まり横を見る。
「・・・アタッシュケース?」
そこにあったのは幻想郷には無いはずのアタッシュケースだった。
また外から何か流れてきたのかと思い、拾って開けてみる。
「これっくらいの、アタッシュケースに、あの粉この粉ちょっと詰めてってこれはまずいか」
アタッシュケースは、頑丈で手が込んでいたが鍵はかかっていないようだった。
「ん?なんだこれ?」
中に入っていたのは青色の液体が二重螺旋の形に入った無針注射が二つ。
同じようなもので緑色の液体が入っているものが三つ入っていた。
○○はこれを見て、ある映画を思い出した。
「まさかな」
○○はそのままアタッシュケースを閉じ、元の場所の返し、帰っていった。
もう一つ青い無針注射が入っていたであろう空洞があったことも見なかったことにして。








深夜

○○はどこからか聞こえる呻き声のような声で目が覚めた。
どうやら外に誰かいるらしい。
「誰だ?こんな時間に」
○○の家は里から少し離れている。来れない距離ではないがこんな時間となると話は別だ。
○○は少し警戒しながら扉を開けた。
「・・・・!!!!」
そこには生気の無い濁った目をして、体から腐敗臭を垂れ流している人間・・・いや、ゾンビがいた。
それは○○に気づくとこちらに向かってきた。○○は慌てて扉を閉め、用心棒をした。
ダンダンと扉を叩く音がしている。おそらく長くは持たないだろう。
そう判断した○○は包丁を持って裏口からバレないように出た。
「なんなんだよあいつは」
とりあえず里に向かい走りながら○○は夕方見たアタッシュケースを思い出した。
「まさか・・・・」
そんな考え事をしていたことが祟ったのだろう。草むらから現れたゾンビへの対応が遅れてしまった。
「しまっ」
○○はとっさに持っていた包丁でゾンビを刺した。だが肩を噛まれてしまった。
○○は前蹴りでゾンビを引き離し、走った。
「う・・・」
ゾンビに噛まれた場所がうずく。○○はゾンビに噛まれた者がどうなるのか知っていた。
それと同時に対抗策も。





○○はあのアタッシュケースがあった場所に来ていた。
「ケースは・・・あった!」
○○はケースに駆け寄り、開けた。
「たしか、青がウイルス、緑が抗ウイルス剤!」
○○は緑色の液体の入った無針注射を腕に打った。
液体が全て体内に入ると同時にうずきが段々収まっていく。
「はあ・・・はあ・・・」
安心している余裕はなかったゾンビが三匹こちらに向かってくるのが見えた。
それを見て、○○は愕然とした。
そのゾンビは○○が働いている店の店長夫婦とその娘だったのだ。
(これ以上、あんなのになる奴を増やしてたまるか)
俺がもっと早くわかっていれば。俺は防げたはずなのに。俺が見て見ぬふりをしたせいで。
○○は立ち上がり、その三匹のゾンビを




                 殺した








○○はアタッシュケースを持って里に来ていた。
予想どうり、里にはゾンビがあふれていて、その中には○○の顔見知りもたくさんいた。。
だが、ここを通らねわけにはいかなかった。
里は○○の家から永遠亭への最短路なのだ。
○○はこれ以上犠牲を増やさないために、永遠亭の薬師にワクチンを渡そうと走っていた。
だが家からここまで走り続け、
さらに見知った「者」が見るもおぞましい「物」に成り果てていたことは○○の精神も削っていた。
持っていた武器がただの包丁ということもあり、○○はとうとう追い詰められ、囲まれてしまった。
「ここまで・・・か」
あんな物に食われるぐらいならいっそ。と○○が首に包丁を当てた瞬間。
「・・・え?」
ゾンビ達が風で吹き飛ばされた。
そして○○は空から来た誰かに腕を掴まれ、空に舞い上がった。
「大丈夫ですか!○○さん!?」
○○を助けたのは文だった。
「文・・・・」
○○は思考が止まったような状態で文を見た。
「あ、あややややややや!○○さん肩怪我してるじゃないですか!○○さん死んじゃいやですぅ!」
泣きながら抱きついてくる文
「大丈夫だ、大丈夫だって」
慌ててなだめる○○
「大丈夫なわけないじゃないですかぁ!」
ますます強く抱きしめる。
「大丈夫なんだよ、ワクチン打ったから」
パッと少し拘束を緩めた。
「それ、ホントですか?」
じっと○○の顔を見て言う。まだ少し涙目だ。
「ああ、それでワクチンを永遠亭に届けようとしてたんだ」
それを聞いた文は再び○○をぎゅっと抱きしめ
「わかりました、しっかり捕まっててくださいね」
全力で永遠亭を目指した。
「っ、ところで何であんなとこいたんだ?」
急な風圧に耐えながら○○が聞いた。
「今永遠亭には幻想郷の有力者が集まって守りながら薬師が治療に当たってます。
それで私は里の生存者を探しに来たんです」
文が前を向いたまま答える。
「○○さんこそどうしてワクチンなんか?」
また風圧が上がった気がする。文がスピードを上げたのだろう。
「・・・夕方、あいつらが来る前に見つけたんだよ。ウイルスと一緒にな」
○○が下を向きながら言う。
「え・・・?」
文が思わず○○を見る。
「その時はなんだかわからなかった。
いや、ウイルスかもしれないと思ったけどまさかと思って無視した。
それが一本足りないこともわかってたのにな」
○○は下を向いたまま言う。
「・・・○○さん」
少しスピードが落ちた気がする。
「その結果が、これだ。新聞でもなんでもすればいいさ。見出しは
幻想郷史上最悪の虐殺者 異変を防げたのに防がなかったってところか?」
自虐するような笑みを浮かべる○○
「・・・・」
それから二人は一言も話さず永遠亭までたどり着き、○○は永琳にワクチンを渡し、
肩の治療を受けた後すぐに寝てしまった。









「ん・・・知らない天井だ」
○○が起きたのは永遠亭の一室だった。何故か周りには花やら果物やらが大量に並んでいた。
「あ、○○さん起きました?」
文が花を持って入って来た。
「文?それは?」
文が持っている花を指差して聞く。
「里の人からのお見舞いですよ」
はい、と○○に手渡す。
「見舞い?俺にか?」
○○は花を手に持ったまま聞く。
「はい、これを見てください」
そう言って文が出したのは彼女が出している文々。新聞だった。その一面見出しには
「異変を解決した英雄 元外界人○○」と書かれていた。
「・・・へ?」
○○は新聞を持ったまま固まった。
「この新聞出してから3日たってますからね。もう幻想郷中に知れ渡ってますよ」
○○はまだ固まっている。
「おかげで今までで一番新聞が売れましたよ。このお見舞いの品はその結果です。
まあ、○○さんは面会謝絶なので私が受け取っておきましたが」
文が笑顔で言う。
「面会謝絶?」
○○が文を見ながら言う。
「はい、・・・○○さんが起きて一番に会いたかったですから、そうしてもらったんです。」
赤くなってもじもじしながら言う。
「あ、じゃあちょっと薬師呼んできますね!」
慌てて部屋から出て行こうとする。
「文」
そんな文を○○は呼び止める。
「な、なんですか」
首だけ振り向いて文が聞く。まだ少し顔が赤い。
「ありがとう」
笑いながら○○が言った。

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最終更新:2010年05月11日 19:00