文21

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新ろだ498

  私があの人と出会ったのは只の偶然。

  偶々休憩がてらに止まった木の下に、偶々此処で一休みしている彼が居た。

  ただそれだけ。

  狙ったワケでもなく、探していたワケでもない。

  嘘偽り無く只の偶然だった。

  それもそうだ。

  この時、私は彼の存在を知ってすらいなかったのだから。

  それは彼もそう。

  何故なら彼は私と出会う数十分前まで違う世界に居たのだから。

  だから出会ったのは本当に偶然。

  何処かの隙間妖怪の気まぐれか、もしくは故意かは分からないけれど。

  私は彼に出会ってしまった。







 「さっきから煙たいのは貴方のせいですか!」

 「おっ! かわいこちゃん発見!」

 「何をしているか分かりませんが、煙たいですから止めて頂きたいのですが?」

 「こんな処で可愛い子に会えるなんて、俺ってばラッキー!」

 「人の話を聞いて下さい!」

 「うひょーっ! いただきまーすっ!」

 「えっ、ちょ!? ぅきゃーーーーーっ!!」







  ……偶に思う。

  出会わなければ良かったかもしれない、と。




















  今日も今日とてネタを探しに幻想郷中を西へ東へ駆け巡る。

  本日のネタ採集場所は博麗神社。

  記事の題目は『博麗の巫女の腋は時価いくら!?』

  ……自分で決めててなんだが、意味が良くわからない題目である。

  自分でも良く分からないのだから、変更しても良いと思う。

  だが変更はしない。

  何故なら、面白そうだから。

  そう、面白そう。

  それは記事を書いている者にとっても、そうでない者にとっても大切なことだ。

  面白い、面白くない。

  この違いは生きる上で、とても大事なことなのだ。

  面白くないことばかりが書いてある記事、人生など、誰が喜んで読もうか生きようか。

  楽しくなくて何が新聞、何が人生か。

  面白いからこそ、生者は生を満喫するのである。

  ……まあ、若干亡者も含まれたりもするが。

  つまるところ、人生を楽しむために最も必要なモノは娯楽なのである。

  それに優先される事柄など無いのである。

  だから私は新聞を書くのだ。

  面白可笑しい新聞を。

  そのためにネタが必要なのだ。

  誰が読んでも面白いと思って貰える様な、弄くり甲斐のあるネタが。

  だから霊夢さん、面白いネタを下さいね?

  そう心の中で期待しつつ、私は飛ぶ速度を速めた。

  目指すは博麗神社に住む巫女、博麗霊夢。

 「射命丸文、いっきまーす!」

  声高々に叫びながら私は空を駆ける。

  晴天の空に一迅の旋風を巻き起こしながら。

  そして私は気付かなかった。

  否、気付きたくなかっただけかもしれない。

  一抹の不安を。

  無意識のうちにポジティブシンキングを無理矢理ひっぱり出して、ひた隠しにしていただけなのかもしれない。

  思い出すだけで頭が痛くなる不安要素を。

  もしかしたら、と思いたくなかっただけなのかもしれない。

  自身に襲い掛かってくる魔の手。

  己が耳に響く高らかな笑い声。

  今まで何度も我が身に降りかかってきたソレが……目的の場所にまた居るかもしれないということを。




















  そんなこんなで数分後。

  目的地である博麗神社に着いた私は、目的の人物である霊夢さんを探していた。

  辺りを見回すも、それらしい人影は無い。

  珍しいですねぇ……この時間でしたら、掃除してると思ったんですが。

  中に居るんでしょうか?

  そう思い、縁側の方に歩を進める。

 「……!?」

 「……! ……!?」

  縁側に近づくにつれ、部屋の中から話し声らしきモノが聞こえてくる。

  なんだ、やっぱり中に居たんですか。

  どうやら霊夢さん以外に誰か居るみたいですね。

  声からすると魔理沙さんでしょうか?

  なにやら少し騒がしいですけど……もしかして、ネタゲットのチャンスですか!?

  思いがけず舞い降りてきたチャッターチャンスに胸が弾む。

  気付けば、何時の間にかカメラを取り出していた。

  落ち着くのよ文、まずは冷静になるの。

  そうだ、此処で気付かれてしまっては、折角のチャンスを逃すことになってしまう。

  まずは冷静になることが大事だ。

  弾む心を無理矢理落ち着かせ、そしてカメラを握り締めた。

  回路を切り替えろ。

  滾る鼓動を沈静化させ、精神を統一する。

  シャッターを切る、それだけに己が意識を集中させる。

  ものの数秒もしない内に気持ちは切り替わった。

 「……、……!」

 「……、……っ!」

  部屋の中はまだ騒がしい。

  気持ち、声が大きくなった印象さえ伺える。

  これは好機ですね。

  静かに、手に持ったカメラを目線の高さまで上げる。

  さてさて、それではそのネタを拝見させて頂きましょう!

  静かな精神の内に高揚を滲ませながら、障子に手をかけた。

  ゆっくり、ほんの少しづつ障子を動かしていく。

  焦るな私……ゆっくり、ゆっくりよ。

  精密性を極限まで要求される動作のためか、指先が微かに震えている。

  それでも手は障子から離れない。

  離すことなど出来はしない。

  この好機を逃すワケにはいかない。

  あと、もう少し……

  あと、ほんの少しの隙間があれば撮影が可能。

  指先に強く力を入れたい衝動を抑えて、微力の力を送る。

  そして隙間は開いた。

  ……よし!
 
  歓喜するが声は出さず。

  心の中でガッツポーズを決める。

  その間にも、身体は迅雷の速さを以ってカメラのレンズを隙間に捻じ込み、ファインダーを覗く。

  ファインダーを覗いた先には……







  そして私は、自分が間違った選択をしてしまったということに気付いた。

  何故、すぐにファインダーを覗いてしまったのか。

  何故、まずは自分の眼で様子を確認しなかったのか。

  何故……

  二人の様子から、他に『誰か』居るかもしれないということを察しなかったのか。






  
  そして私の耳に、高らかな歓喜の声が響いた。







 「うっひょーーーーーーっ!!」

  喜びに満ち溢れた声。

  その聞き慣れた、聞き慣れたくなかった声を聞いた瞬間。

  その見慣れた、見慣れたくなかった姿を目視してしまった瞬間。

  私の身体はファインダーを覗いた姿勢のまま、石の様に固まってしまった。

 「ちょ、ちょっと、止めなさいって!」

 「お、おいこら、止めろってば!」

  続いて耳に飛び込んできたのは、抗議を挙げる二人の声。

  照れた様な、焦る様な声色はある人物に向けられたモノだ。

  二人は顔を真っ赤にして、その人物の魔の手から逃れようとじたばたともがいていた。

 「照れんなって~。いつものことだろ~?」

  二人を手中に収めながら、その人は顔に喜色を浮かべ笑う。

  そして逃がさないと言わんばかりに、もがく二人をより一層強く抱き締めた。

 「うきゃっ!」

 「あうっ!」

  両腕で挟み込むように抱き締められ、彼女達はもがくことさえ出来なくなってしまう。

  もう逃げられない。

  突きつけられた現実に、お二人の紅く染まった顔に困惑と諦めが浮かんだ。

  そして数秒の後、其処には。







 「あっ、いや、やだっ! い、いやああああっ、あああああっ!!」

 「ちょっ、やめ、やめろってば! うぁ、くぅっ! あああああんっ!!」







  先程までの抗議の声はなりを潜め。

  代わりに嬌声とも悲鳴ともつかない叫びを上げて。

  その人物のされるがままとなっている二人の姿があった。

 「うっひょ~~~~~い!!」

  歓声が耳に響く。

  発信源であるその人は、狂相ともいえる笑みを浮かべながら、彼女達の肢体を無遠慮に弄っていた。

  彼の両腕が、両手が蠢く度。

  その度にそれから逃れようと彼女達は身体をくねらす。

  だが結局は逃れられず、少女達はあられもない声を上げて悶えた。

  後はそれの繰り返し。

  その光景を、私は只呆然としながら見つめていた。

  ……ああ、やっぱり。

  空洞になった頭の中、浮かぶ言葉はその一つだけ。

  やっぱり、恐れていた事態が起こってしまった。

  いや、本当は予想済みだったのかもしれない。

  只、そう思いたくなかっただけなのかもしれない。

  だって、いつものことじゃないか。

  そう、いつものことだ。

  でも、否定はしたかった。

  それ位の希望は持っていたかった。

  ……たった今、脆くも崩れ去ってしまったけど。

  けど、一つ幸運なことはあった。

  私はまだ見つかっていない。

  今目の前に居るあの人は、二人に夢中だ。

  まだ救いは残されている。

  そうだ、今の自分に出来ることは一つ。

  それは一刻も早く、この場から離脱する、それだけ。

  二人には申し訳無いが、囮になって貰うしかない。

  情けないことだけど、私にあの人の魔の手から二人を助け出す力は無い。

  霊夢さん、魔理沙さん、無力な私を許してください……

  魔の手中に収められた二人に対し、心の中で謝罪をする。

  そして固まった身体をなんとか動かそうとしたその瞬間。

  かしゃ、という音を引き金に。







  悲劇は、起こった。







 「……え?」

  手元から発せられた予期せぬ機械音に、全身から血の気が引くのを実感する。

  さっきの音、何ですか!?

  突然のハプニングに動揺しつつ音源に眼をやれば、其処には自身の愛用するカメラ。

  私は理解する。

  先程の音はカメラのシャッターを切った音だ、と。

  おそらく無意識の内の行動だろう。

  何時如何なる時にもベストの記事を志す、プロの記者にはよくあることだ。

  しかし、この時ばかりは自身の記者根性を呪いたくなった。

  そして、その音が意味すること。

  それを理解する間も与えられず……







 「誰じゃ~~~い?」







  目の前の障子が勢い良く開かれた。

  障子を開けたのは当然ながら、私が今最も会いたくない人物。

  瞬間、目の前が真っ暗になったような錯覚を私は覚えた。

  暗く歪んだ視界の中、私の心を絶望が覆う。

  出た。

  出会ってしまった。

  なんてこと。

  最悪の事態だけは、是が非でも避けたかったのに……っ!

 「お? なんだ、かわいこちゃんじゃねえか!」

  障子の先に居た人物を私と認識した彼は、嬉しそうに口元を歪ませた。

  その笑みに、私は今すぐ逃げ出したい衝動に駆られた。

  落ち着け、落ち着くのよ私。

  見つかったとはいえ、まだ逃げるチャンスはある筈。

  今は場を波立たせないことを優先させるのよ。

 「……ど、どうも」

  衝動を押さえ込みながら、笑みを浮かべて挨拶を返す。

  口元が引き攣っているのは自分でも分かっていた。

 「今日も取材か? ご苦労なこったな~」

 「え、ええ、そうなんですよ~」

  笑顔でそう言う彼に対し、こちらも笑顔でそう返す。

  言葉を返しながら、逃げる体勢を整えるため、屈んだ身体を起こす。

  まだだ、まだ行動を起こすには早い……

 「なんか良いネタはあったんかい?」

 「い、いえ、今日はまだ一つもなんです……」

 「ふ~ん、そいつは困りモンだな……」

  なんの変哲も無い会話をする。

  会話だけならごく普通の内容だが、話しているこちらとしては心臓を鷲掴みにされている気分だ。

 「そうですね~、何処かに良いネタが無いでしょうかねぇ?」

 「う~ん、そうだなぁ……」

  聞きながら、さりげなく二歩三歩距離を置く。

  ……よし、逃走準備完了。

  あとは逃げるだけだ。

  この後は、また今度会った時にでも聞かせて下さいね、とでも言いつつこの場を去れば良い。

  幸いにも彼は良いネタが無いものかと考えている最中だ。

  う~んと首を捻って天井を見上げる彼。

  今だっ!

  チャンスとばかりに、折りたたんでいた翼を勢い良く広げる。

  後はさっき考えた台詞を言って此処を去るのみ。

  そして去り際の台詞を言おうとしたその時。

  がしり、と右肩を強く掴まれた。







  ……まあ、今までのことを良く考えれば分かる話だったのだ。

  だってそうでしょう?

  私は今まで……

  彼から一度も逃げられたことなどないのだから。







 「あったぞ、良いネタ」

  後ろから聞こえる、喜びを隠すような声。

  悪魔の囁きにも似たそれが、鼓膜から脳裏に響く。

 「ど……」

  どんなネタですかと言う前に、左肩も掴まれた。

  ずしんと、何か重りを乗せられたかのように身体が重くなった。

  両手足は、鎖が巻き付いているかのように動かせない。

  まるでそれは私を逃がさないと言わんばかりに。

  これから始まることを滞りなく始めれるように。

  どんなネタですか?

  ええ、本当は聞かなくても分かってます。

  分かっていますとも。

  貴方と出会った。

  それだけで何が起こるのかなんて充分ですよね。

  ええ、分かってました、はい。

  でも、一応……

  一応聞かせてください。

 「ど、どんなネタですか……?」

  後ろから私の両肩を押さえている彼に対して、震える声で訪ねた。

  勿論のことながら、答えは分かっています。

  その問いに彼はくつくつと笑って。

 「そりゃあ勿論……」

  私の右肩に置いた手を外して、両膝の裏に添え、そして……

  所謂お姫様だっこという形で、私を抱え挙げた。

  私の目の前には凶悪な笑顔を見せる彼の顔。

  突然の出来事に声も出せない私に向かって彼は……







 「かわいこちゃん、可愛がりの記事じゃーーーーっ!」







  そう叫んで私を部屋の中へと連れ込んだ。

 「やっぱりですかーーーーーーーーーーーーーっ!?」

  予想通りの、けれど予想したくなかった回答。

  それに対し、同じ位の声量を以って返すも彼は全くの無視。

  ああ、結局こうなるんですよね……

  幾度と無く繰り返される悲劇に対し、既に精神は諦めの境地に達しかけていた。

  そして今日もまた……







 「ちょっ!? そこはだめですってば! ちょ、いやあああああああああああああああああああ!!」







  私の悲痛と悲惨を交えた悲鳴が、幻想郷中に木霊するのであった。




















  それから十数分。

  自身にとっては気が遠くなるような時間が過ぎた後。

  私は博麗神社の一室に居た。

  一緒に居るのは、霊夢さんと魔理沙さんと、プラスあと一人。

  部屋の雰囲気は微妙の一言に尽きる程だった。

  正しくは、各人が微妙な気分なだけなのですが。

  まあ、かくいう私も、現在果てしなく微妙な気分なのでありまして……

 「え、えらい目にあいました……」

  卓袱台に額をつけたままの姿勢で呟く。

  つい先程まで受けていた、とある拷問(と呼んでも差し支えないだろう)により、私は激しく疲弊していた。

  どれくらいかと問われれば、気を抜けば口から霊魂が出そうな程である。

  ぶっちゃけて言うならば、とてつもなくしんどいのだ。

  それはもう、いますぐにでも横になって休みたい位に。

  それ程までに、私の心と身体は疲れ果てていた。

 「あぅ~……しんどいです~……」

  意図せず口から情けない声が漏れ出る。

 「アンタも大変ねぇ……」

 「まあ、私達も大変だったんだけどな……」

  そんな私に同情するかのように、霊夢さんと魔理沙さんが声を掛けてくれた。

  同情するのも当然、私の前はこの二人が標的となっていたのだから。

 「まあ、疲れが取れるまで、ゆっくりしていきなさい」

 「すみません、霊夢さんも疲れてるのに……」

 「気にすんなって、お互い様だぜ……」

  魔理沙さんが労いの言葉を掛けてくれる。

  本人もやはり疲れているのか、声に若干の疲れが見えた。

 「そうそう」

  魔理沙さんの言葉に同意するように、霊夢さんが気だるげに頷いた。

  うぅ……すみません霊夢さん、魔理沙さん。

  お二人を置いて逃げようとした私を許してください~。

  心の中で謝罪をしておいた。

  何故言わないのかって?

  実際に言えば、しばかれるのが目に見えてるからじゃないですか。

  触らぬ巫女と魔女に祟り無し、です。

  良いじゃないですか。

  知らぬが仏ですよ、知らぬが仏。

  言わぬが花とも言いますが……

  ……にしても。

  卓袱台につけていた額を上げて、ある方向に目線を向ける。

  視線を向けた先に居る人物は、こっちの様子などお構いなしと言った風にお茶を啜っていた。

 「ふぃ~~~、お茶が美味いわ~」

  満足そうな声を吐き出して湯呑みを卓袱台の上に置く。

  すっきり爽やかといった顔は、テカテカと光っていた。

  ……少し腹が立った。

  全く、誰のお陰でこうなってると思ってるんでしょうか。

  こっちの様子を見て、少しは反省とかしないんでしょうかね?

  そう思いながら、恨みがましい視線を彼に送る。







  この暢気にお茶を啜っている人物。

  名前は○○さんという。

  数ヶ月前に外界から此処、幻想郷に迷い込んだ、所謂外来人である。

  性格は暢気、脳天気、楽天家と誰に聞いてもそのような類の言葉しか返ってこない性格だ。

  まあ、表面上は概ねそれで合っていると思います……表面上は。

  彼は外来人なので、本来なら隙間妖怪、もしくは博麗の巫女の力で外界へと帰る筈だったのですが……

  とある事情……もとい目的により、此処に永住することを決意したらしく、現在は里の空き家を間借り中。

  現状は寺子屋の手伝いや里の雑用をこなして、日々の生活の糧にしているとのこと。

  嗜好品は煙草という紙巻草(あの煙が出る筒でしょうか?)

  しかし、こちらでは販売されていないため、現在強制的に禁煙中。

  まあ本人曰く『他に良いモン見つけたから全然オッケー!』とのことで、全く問題無いらしい。

  良いモンとは何でしょうか?

  ……はい、実は知ってます、知りたくなかったですけども。

  っとまあ、ここまではギリギリセーフで何の問題も無い人格評であると思いたいのです……が、しかし。

  彼には一つ、とんでもない癖(もしくは持病?)があったのです。

  それはもう、ブッ飛んでいるとしか言いようの無い程の。

  それは何か、ですか?

  それはですね……







  私の視線に気付いたのか、彼はこちらに顔を向けた。

 「なんだ、かわいこちゃん? 何か言いたいことでもあるのか?」

  彼は不思議そうな顔でそう聞いてきた。

  言いたいことでもあるのかって……ええ、それはもう山程ありますけどね。

  少しは反省してください、とか。

  なんであんなことするんですか、とか。

  ちゃんと名前で呼んで下さい、とか。

  その他にも、言いたいことは山程ありますよ、ええ。

  けれど言いません。

  その内の殆どは言っても無駄なことって分かってますので。

  黙ったままでいる私を見て、彼はニヤリと何か閃いた様な顔をする。

  ニヤケ顔で彼は言った。

 「ああ、もしかして、『可愛がり』が足りなかったのか?」

  言葉の意味を理解する。

  思い出されるは、ほんの少し前に起こった出来事。

  自身の身体を蠢く魔の手、全身に纏わり付く熱い吐息、心中に囁かれる甘言。

  瞬く間に顔が熱くなるのを実感した。

  あれをまた……ですって?

  動悸が早くなるのを感じる。

 「じょ、冗談じゃないです! そう何回もやられて堪りますか!」

  熱くなった頭のまま、大声で否定する。

  声を荒げてしまったが気にしない。

  またやられるとか……全く以って冗談じゃありませんっ!

 「はっはっはっ! 何言ってんだ、いつものことじゃねえか! そう照れるなってかわいこちゃん!」

 「照れてなんかいませんっ!」

 「いや~、あんなに喜ばれると、こっちも嬉しくなるってモンだ!」

 「誰がですか! アレは嫌がってたんです!」

  楽しげに笑う彼に対し、私は精一杯の抗議をした。







  そう、彼には特殊な癖、もとい持病があったのです。

  彼個人が持っている異常と呼んでも差し支えの無い癖、病気、性分。

  それは、自分が可愛いと思った子に対して、猛烈なアクション(本人曰く可愛がりとのこと)を行うというもの。

  それはもう、物凄く過激且つ濃厚な。

  喩えるなら、ペットに行き過ぎた愛情表現をする飼い主。

  喩えるなら、気に入ったおもちゃを手加減無しに扱う幼子。

  全身くまなく撫で回され、余すところ無く弄繰り回され、そしてキツく抱き締められ……

  もう激しいのなんの。

  そしてやったことに対して反省の色は全く無し。

  最後のは道徳的にどうかと思います。

  お願いですから少しは反省して下さい。

  とまあ、コレだけでも彼の特殊さは理解して頂けるとは思うのですが……

  問題は更にあるんです。

  彼、里の人には手を出したことが無いんです。

  え? それの何処が問題だって?

  問題どころじゃなくて、大問題ですよ。

  良いですか?

  彼は里の人間に手を出したことが無いんです。

  でしたら、どうしてその病気が発覚したかってことになりませんか?

  なりますよね?

  要するに彼は……







 「またまた~。そんな嘘付かなくても良いって~」

 「嘘じゃないですって!」

  私の抗議も照れ隠しと見たのか、○○さんは笑顔でスルーする。

 「分かってる分かってる! お兄さんはちゃんと分かってるからな~」

 「それ絶対分かってないですよね!?」

 「分かってるって~」

  満面の笑みを浮かべてこちらを見つめてくる○○さん。

  駄目だ、このままじゃ拉致が明かない。

  何か突破口になる様なモノは……

  視線を動かすと、先程からぐったりとしたままの霊夢さんと魔理沙さんの姿が眼に止まった。

  二人を見た途端、頭に閃く言葉。

  それは協力プレイという素晴らしい合体技。

  丁度良い、彼女達も被害者だ。

  きっと彼女達も同じ思いの筈。

  此処は被害者同士、協力しましょう。

  そう決めた私は、彼女達に声を掛けた。

  同じ想いの筈。

  その言葉に、何処か引っ掛かりを感じながら。

 「霊夢さんも、魔理沙さんも、あんなことされるの嫌ですよね!?」

 「……え?」

 「……あ?」

  突然話題を振られたためか、お二人は呆けた顔でこちらを見てきた。

  暫くの間、そのまま呆けた顔でいる。

  と、質問の意味を理解したのか、お二人の顔が紅く染まった。

  その様子を見て私は勝機を得たり、と思った。

  ふむ、やっぱりお二人とも私と同じ意見で間違い無いようですね。

  顔が紅いのは、さっきの辱めを思い出して悔しい証拠の筈!

  これで私の優勢になりましたね。

  内心で勝利を確信する。

  さあ、後はお二人の口から勝利確定の言葉を発するだけです!

  早く早くと彼女達に目線を送る。

  ふと、○○さんがにやけ顔でこちらをみているのに気が付いた。

 「……な、なんですか?」

 「いんや~? べっつに~?」

  ニヤニヤとした顔のまま、私の方を見つめてくる。

  ……む、嫌な感じですね。

  この状況においてもこの余裕。

  何か秘策でもあるのでしょうか?

  いや、策を弄しようもない筈です。

  何故なら彼女達は、私と同じ想いの筈。

  ならこちらの優勢は確定に決まっています。

  お二人が口を開いた瞬間、私の勝利は決定するのです!

  優越感に浸っていると、ふと気付いた。

  ……同じ想い?

  なんでしょう、何か引っかかります。

  何か見落としているような……

 「わ、私は……」

 「えっとだな……」

  そんなことを思っていると、お二人が口を開いた。

  おおっ! 遂に私の勝利ですねっ!?

  目前の勝利に考えていたことを放り出し、紡がれる言葉に耳を傾ける。

  一言一句、聞き逃しの無いように。

  ありのままの事実をこの人に叩きつけるために。

  そして、発せられた言葉は……







 「私は別に……嫌ってワケじゃないけど……」

 「私は嫌だとは思って無いぜ……?」






  ……はい?

  思いも寄らない発言に、自身の耳を疑った。

  お二人とも、今、なんと言いました?

  え、何?

  意味が良く分からないんですけど?

  呆然とした思考のまま、霊夢さんに視線を向ける。

  恥ずかしいのか何なのか、霊夢さんは私と視線を合わすことも無く横を向いた。

  ちょっと霊夢さん、何でそっぽ向いてるんですか。

  思いつつ視線を送っても彼女はこちらを見向きもしない。

  仕方無いので、今度は魔理沙さんの方に眼を向ける。  

  しかし、向けた先の魔理沙さんは、唾の広い帽子を目深に下げていた。

  ……あれ?

  ちょっと待って下さい?

  なんですか、この状況?

  私の確定していた勝利は?

  呆けた脳を活動させても答えは出ない。

  茫然自失とでもいうのだろうか。

  何が何だか分からない。

  今の私は現状が全く理解出来ていなかった。

  そして。

  そんな状況に追い討ちをかけるように……

 「ほらな?」

  彼は楽しそうにそう言った。

  腕を組んで、顔に笑顔を浮かべている。

  まるでこの結果は当たり前だと言わんばかりだった。

  しかし、私はその結果に納得が行かない。

  なんで?

  お二人とも、あんなことされて嫌じゃないんですか?

  おかしいとは思わないんですか?

  ぐるぐると思考が巡るが答えは出ない。

  分からない。

  彼女達は私と同じ想いの筈なのに……

  ……あ。

  そこでようやく私は自分のミスに気が付いた。

  しまった。

  取り返しの付かない、覆しようも無いミス。

  隠していても意味が無い……其処にあるだけで意味を成すという、ある感情。

  お二人は私と同じ想い。

  そうだ、そうだったのだ。

  私と同じ想いということはすなわち……

 「やっぱそうだよな~」

 「ひゃっ!?」

  気が付けば、私は彼に持ち上げられていた。

  後ろから両脇に通された手によって体が浮き上がっている。

 「ちょ、ちょっと、なんですか急に!?」

 「だってよ~」

  私の言葉を無視して、○○さんは霊夢さんと魔理沙さんの方へと歩を進める。

  歩く度に、ぷらぷらと自分の身体が揺れた。

  ……何か、借りてきた猫みたいですね。

  そうどうでもいい感想を抱いていると、目的の場所に着いたらしく揺れが収まった。

 「きゃっ!」

 「えっ!?」

 「うわっ!?」

  すとん、という軽やかな音と一緒に、座っていたお二人の間に私は降ろされる。

  彼自身もその後ろに腰を下ろしたようだ。

 「な、なによ急に……?」

 「な、なんなんだ、一体……?」

  紅く染まったままの顔で、お二人から疑問の声が上がる。

  いや私に聞かれましても、さっぱりなんですが……

  でも、なんとなく予想は付きます。

  そうなんとなくですが……多分、間違っていないと思います。

  これも熟練経験者の勘ってヤツでしょうかねぇ?

  いや、あんまり嬉しくないんですけどね。

 「俺の『可愛がり』ってば……」

  不思議がる彼女達に答えるように、後ろから声が上がる。

  私を含めた三人は、揃って振り向いた。

  振り向いた先、其処にはにんまりと笑う彼の顔が。

  その笑顔を見て、両隣に居るお二人もこれから起こることを理解したのでしょう。

  顔が引き攣る音が両側から聞こえました。

  分かってます。

  左側には引き攣った顔で、弱々しく首を横に振る霊夢さん。

  決して嫌なワケじゃないんですよね?

  彼女の瞳には涙が滲んでいた。

  でも、今は嫌なんですよね?

  右側には同じく引き攣った顔で、身体を強張らせている魔理沙さん。

  だって、先程やられたばかりですから。

  こちらの目尻にも涙が溜まっている。

  正直言って、今やられるのはキツいんですよね?

  両者の心は共に、逃げ出したい気持ちで一杯であろう。

  けど、逃げれないんですよね?

  しかし既に私達は彼のテリトリーの中に居る。

  だからこれは仕方の無いことなんです。

  そう、だからこれは仕方の無いこと。

  逃れようの無いことなんです。

  だから……

  わかってます。

  勿論です。

  やられる時は、一緒です。

  そして、諦めと絶望の境地に達した私達を意に介さず、彼は始まりの咆哮を上げた。







 「お前等への愛情たっぷりなんだからさ~~~~~っ!! ヒャッフーーーーーーーーーーーっ!!」







  そうして、彼は私達に襲いかかってきた。

  満面の笑み。

  牙を剥き出しにして私達に迫る彼を眺めながら、思う。

  はい、そうですね。

  私が間違っていました。

  私と同じ想い。

  そう、同じ想いなのでしたら。

  そもそも嫌とか思うワケないですよね。

  だって。

  だって、彼の『可愛がり』って……







  自分が凄く愛されてるって思えるんですから。







 「うきゃあっ! ちょ、そこは止めっ!、ちょ! ぃやああああぁぁあぁぁああっ!!」

 「ちょ、ちょっと待ってくれっ! それは駄目だぜっ! だ、だから、駄目! 駄目だってばあああっ!!」

 「止めてください、無理です無理です! む、りっ! くぁっ! いや、んっ! ふぁ、ぁぁぁぁぁあああああああっ!!」







  そうして私達三人は、彼の『可愛がり』という……

  ある意味拷問で、またある意味では幸せな時間を再び体感することとなってしまったのでした。








  あ~、もう私が言いたいことは分かりましたよね?

  そうなんです。

  何故か彼は、私達、つまり人外や異能力者の女の子にしか病気が発症しないのです。

  それの何処が大問題なんだ、ですって?

  確かに、対象となる人外が湖の氷精や夜雀レベルなら、何の問題もありませんでしたけどね……

  いやまあ、そのレベルでも普通の人には致命的な戦力差ですが。

  え~っと……博麗神社、魔法の森、紅魔館、白玉楼、マヨイガ、永遠亭、三途の裁判所、妖怪の山、守矢神社、あと地霊殿ですか。

  以上ですね。

  あ、補足を忘れてました。

  湖の氷精、その他の低級妖怪は勿論言外に含まれます。

  え、何ですかって?

  だから、彼が『可愛がり』行為に乗り込んだ場所ですよ。

  ちなみに彼は、その場所に居る主要人物全員に『可愛がり』を行いました。

  文字通り全員に、です。

  情報に嘘偽りはありません。

  私がその場で確認したのですから。

  その光景を最初眼にした時は、本当に驚きましたよ。

  場所は紅魔館なんですが、門番さんから始まり、パチュリーさんに小悪魔さん、咲夜さんに、主であるレミリアさん。

  そして最後はレミリアさんの妹のフランドールさん。

  それらの方々を、あっという間に陥落させていきましたから。

  あの時はもう、呆然とするしかなかったです。

  只の人間が、幻想郷トップクラスの方々を問答無用に蹂躙していくのですから。

  呆けた頭が元に戻った時、眼に飛び込んだ光景は見たときは、これ現実ですか、って思いましたよ。

  なんたって、あのカリスマ吸血鬼が彼の膝の上で顔を真っ赤にしながら座って、大人しく頭を撫でられてたんですから。

  それも結構満更ではない風に。

  威厳を保つために、顔を真っ赤にしながら平素を装うレミリアさんの様子……今思い出しても苦笑いになってしまいます。

  周りには手篭めにされたと思われる、従者の方々がその様子を羨ましそうに見つめていましたし……

  妹のフランドールさんなんて、我慢出来ずにレミリアさんに襲い掛かっていましたからね~。

  いや本当、恐ろしい光景でした……

  そのことで調子に乗ったのか、彼は他の場所でも片っ端から制覇させて行きました。

  全制覇に要した期間は、二週間。

  もう何も言えませんよね。

  それ以降は気まぐれに色々な場所を回っては『可愛がり』を行うというのが彼の日常というワケです。

  ちなみに、最近まとめた資料によると、二番目に多く『可愛がり』を受けているのは霊夢さんと魔理沙さんですね。

  ふむ、そういうと確かに……え? 

  一番多いのは誰か、ですか?

  それはその…………私です。

  だって、仕方無いじゃないですか。

  大抵取材に行った先に○○さんが居るんですから。

  見掛けた瞬間、当たり前のように襲ってきますし……まあ、今にして思えば役得の様な気もしますが。

  ま、まあまあ、その話は置いておいて。

  此処で誰もが疑問に思うことがあると思うんですよ。

  何故、彼は殺されないのか?

  そうですよね、普通ならそう思いますよね。

  これはですね、別に彼女達の気まぐれとか、彼自身が強いとかそういうのでは無いんです。

  ……まあ、強いというのはある意味本当ですけど。

  う~、あんまり言いたくないのですが……

  分かりました、素直になります。

  つい先程、自分に正直になっちゃたワケですし、言っちゃいます。

  そのですね、彼、○○さんの『可愛がり』って……







  凄く、気持ち良いんです。







  あ~、こうハッキリ言うのって、結構恥ずかしいですねぇ。

  あ、別にそっちの意味では無いんですよ?

  なんというかですね、痒いところに手が届くというか、技術が凄いというか。

  う~ん、そう、自分でも知らないツボを見つけるのが凄く上手いんですよ。

  それはもう半端無い位に。

  自分の弱い所を的確に突いてくるものですから、生半可な気力じゃ抵抗出来ないんですよね。

  それに、凄く気持ち(本人曰く愛情とのこと)が篭っているのが分かって、とても気持ち良いんです。

  あれは何回して貰っても良いものだと思います、はい。

  多分、他の皆さんも同じ気持ちじゃないでしょうか?

  だから殺さないんでしょうね、もう一度『可愛がって』貰うために。

  だって、本当に気持ち良いんですよ?

  癖になっても仕方無いと思います。

  ……初めの内は、何をやられたのかさっぱり分からなかったので、凄い複雑な気分でしたが。

  いやまあ、最初やられた時に、失神したのが原因なんですけどね。

  でもアレはある意味で、人外殺しですよねぇ。

  上手く使えば、幻想郷を征服することなんて、朝飯前なんじゃないでしょうか?

  って、彼はそんなこと考えないですか。

  彼曰く『可愛い子を可愛がるのは俺の生き甲斐じゃい! ヤッフーーーッ!』とのことですので。

  本当、変な人ですよね。

  でもそんなところを皆さん、気に入っていると思うのですが。

  勿論私も、ですけど。







  それにしても……はぁ。







  自身に襲い掛かる衝撃かつ恍惚、そして心地良い感覚を、何の抵抗も無く受け止める。

  意識は当の昔に半分夢の中へと落ちかけていた。

  あれからどれ位の時間が経ったのだろう?

  思い出そうとするも、記憶は朧で手繰り寄せようにも触ることさえ出来ない。

  別に気にする必要も無いですけどね。

  のろのろと目線を動かす。

  動かした先。

  其処には、少し前(といっても本当に少しかは定かではないが)から霊夢さんと魔理沙さんが倒れている。

  お二人の身体は小刻みに痙攣していた。

  露出した肌には珠の様な汗が出ている。

  頬、というよりも顔一面は夕焼けの様に真っ赤。

  迸る鼓動を抑えるかの様に、口からは荒い息を吐いていた。

  疲労困憊という言葉が、今のお二人に適切な表現だと思うのは浅はかだと私は思います。

  そう決める前に、まずはお二人の顔を覗いてみましょう。

  ほら、確かに疲れた顔をしていますが、凄く満足気でしょう?

  そうなんです、凄く疲れるけど、凄く気持ちが良い。

  気持ち良さの分だけ疲れるという、正に諸刃の剣。

  それが○○さんの『可愛がり』なんです。

  ああ、実に恐ろしい。

  何度見てもこの光景には、色々な意味で背筋が凍ります。

  怖いけど嬉しい、嬉しいけど怖い。

  一体どうすれば良いんでしょうか?

  とまあ、余裕っぽく言ってる私なんですが……

  正直言って限界です。

  先程言いましたが、既に半分くらい落ちかけてるんです。

  だって仕方が無いじゃないですか。

  ほぼ連続に近いんですから。

  一回だけでも、かなりの体力を消耗する○○さんの『可愛がり』をですよ?

  今まで自我を保っていただけでも賞賛に値する位ですよ、本当。

  良く頑張りましたって、自分で自分を褒めてあげたいです……っ!?

  あ~、そろそろ本当に限界みたいですね……

  というワケで、それでは。

  射命丸文! いってきまーーーーすっ!!

  ワケのわからないノリのまま、私は自身を覆う大きな人に身を委ねた。

  精巧な硝子を扱うかの様に優しく、猛る獣の様に荒々しく、自分を抱き締めてくる両腕。

  精錬された巧の業の如く精密に、如才迸る革命家の策動の如く大胆に、己が身の弱みを攻める両の手。

  幻想郷の大地の様に広く温かく、星の煌く夜空の様に静かに、私を何処までも深く包み込む、貴方の身体を感じつつ。

  私は緩やかに意識を手放した。

  意識を手放す瞬間、私は気付いた。

  それはいつものこと。

  もうお約束のように決まっている出来事。

  別に良いのだ。

  なんだかんだ言っても、彼に『可愛がられる』のは好きなのだから。

  でも、それでも言わずには居られない。

  あ~あ……







  結局今回もネタは無し、ですか。




















  今日も私は空を飛ぶ。

  漆黒の翼をはためかせ、風を嵐を巻き起こし。

  右手に掴むは愛用のカメラ。

  それが写すは誰もが望む様な特大のネタ。

  左手に握るは文花帖。

  それが記すは見る者を驚きと感動の渦に呑み込む極上の種。

  晴天の空を駆けながら私は今日のことを考える。

  さあ、今日は何処へ行きましょうか。

  行き先を考えるも、直ぐに答えは出る。

  何のことはない。

  目的地は自慢である記者の勘が答えてくれる。

  己が身は只それに従えば良いだけだ。

  さあ行こう。

  ネタの匂いを嗅ぎ付けて。

  さあ飛ぼう。

  誰よりも迅く。

  胸に滾るは記者魂。

  狙うは明日の一面記事。

  誰もが驚き、誰もを魅了させるそんなネタを探しに……

 「射命丸文! 今日もいっきまーーーーーーっす!」

  そして私は広大な空を駆けていった。







  ……その胸の奥底に秘めた想いが一つだけ。

  願わくば、彼に出会えますように。







 「ひゃっふーーーーーーーいっ!!」

 「ちょ、まっ! きゃあああああああああああっ!!」







  ……訂正。

  やっぱり、あんまり出会わなくて良いです。

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最終更新:2011年02月26日 22:00