文24



○○の奇妙な一日(前)(新ろだ2-277)



【7:00】

布団の中に違和感を覚える
窓を開け、明かりを取り入れると案の定、文が入っていた

「あ、〇〇さん。おはようございます」
「……状況説明求む」
「昨日ミスティアさんの店で酔いつぶれましたよね? それから私がここまで連れてきました」
「で、何で布団に?」
「〇〇さんのぬくもりが欲しくて」
「……」
「あ、もしかして起ちました?」
「どジャアァァァ~~~ん」

ちょっとイラッときたので、おもいっきり布団で挟んでやった
ああ、こいつこのまま別次元にポイしたい



【7:30】

炊き立ての飯、熱い味噌汁、油の乗った魚
朝食の見本と言ってもいいほどの模範的朝食だ

「それでも、飯は美味いんだよなぁ」
「それはそうですよ。愛情たっぷりですから」
「じゃあこの味噌汁、愛情の変わりに卵入れてくれ」
「愛情は抜けません」
「しかしネギの味噌汁には卵がディ・モールト・ベネだろ」
「じゃあ、これから私たちで励んで生みましょう。もちろん有精卵を」
「なあ文、俺の能力見たくないか?」
「は?」
「能力は遠い地の像をフィルムに写す「念写」! のような気がする
 ブッたたいていちいち三万円もするカメラをブッ壊さなくちゃあならんがなッ!」
「今 気がする って言いましたよね!? ああちょっと私のカメラを叩かないで下さい!」

惜しい
今だったら吸血鬼でも写せるような気がしたのに
レミリアとかフランとかだが



【8:30】

ここに来る前は雑誌記者だったが、ここでも俺は勤め人だ
実は昔の仕事を生かしてこの村独自に会報誌を作ってたんだが、その書き方が面白いってんで口コミになり
今では発売は不定期なものの、小規模だが週刊誌のような物を作るようになった
村人に記事の書き方や取材のいろはを教え、一応編集長のような事をやっている
まあそんな事をしていたせいで、こいつと知り合ったわけだが

「そんじゃ、仕事行ってくるか」
「はい。あなた、お弁当です」
「帰りは遅くなるぞ」
「そんな……今日は結婚記念日じゃないですか。早く帰れないんですか?」
「無理だ」
「ううっ、結婚前は君を大切にするってあんなに言ってくれたのに……」
「聞き分けろ。仕事もできない男に家庭を守れるはずが無い ってさだ〇さしも歌ってただろ」
「知りません」
「だろうな。しかしこの茶番はいつまでやるんだ? そろそろ飽きたぞ」
「いえ、このままなし崩し的に結婚したってことにならないかな って思いまして」
「理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能……」
「理解不能ですか? それなら簡単に言います。〇〇さん、結婚してください」
「あっ 理解「可」能」
「鈍感ですね、ほんと。私はいままでこんなにアプローチしてきたのに〇〇さんは……(省略)
 でもでも、そんなところが可愛いというか私の心の琴線にビンビンに触れるって言うか……(中略)
 それで、結婚式は洋風がよくって、それをあなたの雑誌と私の新聞で大々的に発表して……(後略)
 ですよね、〇〇さんっ!」

…………

「って、いなくなってるー!?」



【9:00】

編集長が最後に到着とはさまにならない。明日からはもっと早く出よう
妙なのが来なければの話だが

「「「おはようございます」」」
「おー、おはよう」

部下は俺が育てた村人が三人
俺が雇えるのはこれが限度だ
けっこう購読者がいるとは言っても、幻想郷では紙や印刷代が外に比べて異様に高い
機械を使った大量生産体制、なんて物とは無縁の世界だから当たり前だが

「編集長、今回の見出しはこれでどうでしょうか?」
「どれどれ……『紅魔館当主は元人間!? 壁にかけられた石仮面の謎』か。しかしこれはさすがにデマだろ」

個人的には非常に惹かれるが

「では、僕の原稿を読んでください」
「『白玉楼庭師、あの刀は生きていた』 これってもしかして、一度戦った相手には絶対に負けない、とか書くのか?」
「え、どうして分かったんですか?」
「……」

まあ、ちょっとうっかりヌケてるところはそれで説明がつくけど

「じゃあ、自分はこの原稿で」
「『永遠亭の月人たち。そのルーツと如何にしてこの世界を訪れたか』ふむふむ
  内容も……なかなか興味をそそられる文章だ。いいぞ、これを今回の見出しにする。さっそく清書してくれ」
「はい」

「おかしいな」
「……なぁ」
「おかしいのはお前らの頭だ。何だあの記事は」
「いえ、編集長はああいった記事に食いつく、と聞いたんですが」
「はぁ? 誰がそんな事を?」
「奥様がそう言ってました」

「〇〇さーん! お弁当忘れてますよー!」

「あ、噂をすれば奥様」
「今日もお熱いですね」
「……お前ら、今日手当て無し残業」
「「ええ!?」」



【12:00】

午前中、仕事は部下に任せっきりにして俺はひたすら文を叱ってた気がする
しかも当人はそれを全く気にしてない
糠に釘を打ってももう少しましな手ごたえが返ってくるだろうに

「〇〇さん、お弁当ですよー。トスカーナのサラミは美味しいですよー」
「ワギャァァァアアーーッ アギャギャギャ--ッ クレェーーーッ
 って、何をやらせんだコラ」
「今日もノリノリですね」
「誰のせいだ誰の
 ……うん、たしかにこのサラミサンドイッチは美味いな。悔しいが非がつけられん」
「このローストビーフのサンドイッチも自信作です。どんどん食べてください」
「ムカつかせるように、肉だけ食ってパン残すのが礼儀だっけ?」
「木に吊るしますよ」
「すまんね」

「あれで奥さんじゃないって言ってもなぁ……」
「説得力無いよね」
「しかしさっきもずいぶんキツイこと言ってたぜ」
「ばっか、仲がいいからこそあんな事言えるんだろうが」
「そうそう。よっぽど心が通じ合った恋人か夫婦でも無きゃ、あんな事は言えないって」
「でもさ、たまには優しい言葉の一つもかけてあげればいいのに。そう思わない?」
「それは同感だな」
「EXACTLY(そのとおりでございます)」

ひそひそ話なら別の場所でやれ。丸聞こえだ。
いや、わざと聞かせてるんだろうか
……まあ、確かに文の飯は美味いし、たまにはそんなのもいいかもしれないな

「あー……文」
「なんですか?」
「ディ・モールト・グラッツェ」
「ええ?」
「いつもいつも美味い飯だよな。これでも、本当に感謝してるんだぜ」

ベネ と向こうから呟きがもれ聞こえる

「嬉しいこと言ってくれますね。でも気にしないでください。私が好きでやってるんですから」
「そういうわけにもいかんだろ」
「それじゃあ……ちょっとした質問に答えてくれますか?」
「ああ、そんなことでいいならかまわんぞ」

そう言うと、目の前に紙が広げられる
そこに書いてあったのは……まあ、ほら、おしべとめしべ連結48通りと言うか……

「〇〇さんはどれが好みですか?」
「……それを聞いてどうする」
「とっても重要な事なんですよ。りっぱな子供を生むための始まりですから」
「生まれてすぐに母体を吸い尽くしてくれる極悪なベイビイなら歓迎するんだがな」

いつもならここで思いっきりツッコミを入れるんだが、優しくした手前そうはいかない
もう二度と優しくなんてするもんか その誓いとともに、俺は性癖を暴露するハメになったのだった

「うわぁ……ベリッシモいいです……〇〇さんはそんな性癖があったんですか。ちゃんと練習しておきますね」
「なぁ、腰の入れ方や手首のスナップで間違いなく健康状態が良好と分かるビンタ一発くり出していいか?」



【14:00】

やっと文が帰った
昼休みは、結局俺が恥をさらして終わった
部下の視線に、若干の蔑みが混じってるような気がする
色々と言いにくい事もさんざん話すハメに陥ったからなぁ 虫さされフェチとか

「そういえば昨日、取材に出ている間に慧音様が訪ねてましたよ。いないと言ったら、暇ができたら来てくれって」
「ここを? 何の用だって?」
「さあ、編集長に直接話すといってましたので、僕からはなんとも」
「わかった。俺の分の原稿はもう手を入れたから、今ちょっと行ってくるわ」
「もし店出してたら、ミスティアさんの焼き八ツ目鰻おみやげにお願いします」
「あ、自分も食べたいです」
「同じく」
「編集長をアゴで使うな。まあいいけど」
「あと酒もよろしく」
「調子に乗るな」

そんなわけで、寺子屋脇にある慧音先生のおうちにやってきたのだ
ふと見ると、ちょうど先生が子供達と出てきたところだった
ウホッ いい女!

「まるで私の家が風紀的にいかがわしい場所のような言われかただな。しかも男方面に」
「現代では男と社会はかなりズレた価値観になってきましたからね」
「そうなの?」
「へー、そうなんだー」
「子供に妙な事を教えるな」
「でも真の勝利の道には男の価値が必要なんです」
「だから、黙ってろ」

すっ と先生の頭が反ったと思ったとき、風を切る音とともに俺の顔面に叩きつけられた
必殺の顔面頭突き。今までコレで何人マットに沈んだことか

「ようこそ……『男の世界』へ……」
「私は女だ」

まだ仕事がある。寺子屋入って待ってろ、と倒れた俺をほっといてさっさと家に戻る先生
ううっ、夏の日差しが熱いというより痛い



【14:30】

「待たせたな。今日お前を呼んだのは……なあ、子供達は何歌っているんだ? ゾラゾラレラレラモッツァレラって」
「チーズの歌です」
「また妙なものを教えて……」

そう露骨に嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないか
どうも俺は文のせいでツッコミ体質のため、ボケは慣れない
ボケなきゃいいじゃないか と思うだろうがそう言う問題じゃないのだ

「それで何の用だったんです?」
「ああ、お前ももういい歳だろ。お見合いしないか?」
「いやいや、いい歳ってまだ20代ですよ。ついに後半に入っちゃいましたけど」
「でも今まで相手はいなかったろ? 顔を見ればわかるさ」
「そうですね。俺の顔を見ればわかりますよね。あっはっはっは」
「はははは」
「死にたくなった」
「本体の自殺にひきずり込む程度の能力はやめろ」

バレたか

「それで、相手は?」
「紅魔館門番の紅 美鈴。いじめられ体質だが気立てはいい娘だぞ」
「妖怪じゃないですか」
「気になるか?」
「いえ、別に」
「普通は気にするものなんだがな……まぁそんなお前だから紹介したんだが」
「相手は人間でもいいって言ってるんですか?」
「ああ、お前だから言うが、実は先方の上司はお前をご指名なんだ」
「俺を? 会った事もないのに」
「あっちも宴会で一度見かけただけらしいんだがな、人間妖怪相手にまるで態度を変えないお前を見て
 こいつなら美鈴を大事にしてくれると思ったらしい。もともと扱いが不憫な娘だからな」
「そう思うならまずは上司が大事にしてあげればいいのに」
「ところが、そう思ってもついついいじめてしまうらしい」
「ツンデレってやつですね」

違うような気もするが

「日取りはこっちで決めていいか?」
「いいですよ。締め切りのド修羅場日だけは駄目ですけど」
「ああ、外からでもゴゴゴゴゴゴ ドドドドドド とかの擬音が見える日だな」
「最悪に筆が進まない時なんて、ペンが原稿に着く前に先のインクが乾くような気がします」
「……で、ここまで話しておいて何だが、一つ聞いておきたいことがあるんだ」
「スリーサイズ以外だったら何でも話しますよ」
「知りたくもない。聞きたいのは文のことだ。お前達、付き合ってるのか?」
「え」

質問が意外すぎた
しかし、思い当たる節はありすぎて困る
部下にまで奥さん扱いされてるし、知人は皆そう思ってるだろう

「別に責めてるわけじゃない。ただ付き合ってるなら、断りの知らせを届けなきゃいけないからな」
「どう……なんでしょうねぇ……」
「答えは出そうか?」
「あしたでいいです?」

わからない
文と付き合ってるか? と聞かれればNONONONO……なのは間違いない
しかし、嫌いか? と聞かれてもNONONONO……だ
好きこのんで嫌いな奴と一緒にバカやったり、飯食ったり、遊んだりはしないだろ
それに、いつも文は俺に対して剛速球ド真中直球ストレートのような愛情を見せる
方法や言動はともかく、可愛い女性にああまで愛されて嬉しくないわけがない
じゃあ俺は文が好きなのか? と聞かれれば
……? だ
YES NO だけの読心術であった場合、答えは多分相手も分からない

「逆に聞いていいです?」
「なんだ」
「付き合ってる って、どういうことを言うんですか?」

鳩が豆鉄砲を食らったような顔 っていうのはこういうのだろう
先生の表情があっけに取られ、笑って、あきれ顔になった

「それは私にもちょっとわからないな。もっと他からも聞いて見聞を深めてみろ。ただし、答えは明日までにな」
「正直、答えが出るかは分からないですけど」
「まあ頑張って来い、応援してるぞ」
「スカして言えば、自分の心探し ですか」

そう話して、先生は自宅に戻っていった
たぶん、俺の後ろで起こってたことを見たら、また頭突きが飛んできたんだろう

「すこしいいがんこうになった! しかしおまえはまだ[たいおうしゃ]にすぎない!」
「きめるのはおまえじゃねえ! おたがいあとにはひけねえ!」

俺が教えたゴムボールと銀弾鉄砲での『正当なる防衛』ごっこ
よく先生が家に戻るまで大声を控えていてくれた
よくやった子供たち。今度キャラメル買ってやるからな


まあ、後日当たり前のようにばれて、下半身が地面にめり込むほど強烈なのを一発もらう事になるんだけど



○○の奇妙な一日(後)(新ろだ2-284)



【15:00】

正直、どうやったら今の疑問が氷解するのかわからない
しかし、昔の偉い人はこう言っていた
[わからなかったら人に聞けばよかろうなのだァァァッ!]
……些細な違いは流そう。性格はともかく一応偉い者には違いないし

そんなわけで、暇な巫女の住む博麗神社にやってきたのだ

「何か用? 今日も19:00から宴会があるからあんまり相手していられないんだけど
 あと、前にあんたの彼女が穴あけていった障子の代金払ってくれない?」
「迷える子羊が来たというのになんという言い草だろね」

いきなり追い出されそうになるが、いつものこと過ぎて困る
そして文の起こした修理費請求をなぜか俺が受けるが、これもいつものこと過ぎて困る

「なあ霊夢、知ってるか?
 マフィアはひとつしか持たない者からは何もとらない
 しかし、『2つ以上』何かを持っている者からは必ず、どちらかをとるんだ」
「へえ。で、あなたは何を持ってるの?」
「『金』か? 『女』か?」
「女はいらないからお金をもらうわ」
「HOLY SHIT! 先手を取られた!」

作戦変更

「悩みを聞いてくれたらこの金貨をやるぞッ! 顔が映るほどピカピカの金貨だ!」
「バクシーシ! バクシーシ!」

作戦成功
他愛なさすぎて怖い

「(かくかくしかじか)…ってわけでな」
「むしろあれで付き合ってると思ってなかったのがびっくりね。けれど、それは簡単なこと
 〇〇、あなたは好きな人っている?」
「う~む。友人なら多いんだけど、特定の好きなのって言われても…」
「じゃあ、そう文に言いなさい。あなたがハッキリしないと、いくらあの文だってかわいそうよ」
「気にしてるようには見えないが」
「私もそう見えるわ。それでも、よ。いちおう文だって女の子なんだし」
「……アドバイスには礼を言うよ。しかし、もう少し考えてみるわ」
「さっきも言ったけど、夜にはここで宴会があるから来てみなさい。いろんな意見が聞けると思うわよ」
「ああ、来させてもらうよ。ディ・モールト・グラッツェ」

金貨をそこに置く
聞き料としては破格のような気がしなくもないが、宴会代を兼ねてると思おう

「あら、足りないわね」
「なに?」
「聞き料が金貨一枚。宴会の料金が入ってないわ」
「別会計かよ。金がないから肝臓や金歯やDISKでもいいか?」
「人を取立人みたいに言うのはやめて」

結局金貨3枚もとられた いやしんぼめ
霊夢はこれで食材も買えて宴会が盛り上がると喜んでいるが、俺の懐は寂しい
こりゃ集金が入るまでは汁と米だけの飯になりそうだ




【15:40】

「そういった悩みなら、恋の魔法使いである私にお任せだぜ」
「ああ。でも火力はべつにいらないからな
 パワー:C スピード:C 射程距離:C 持続力:B 精密動作性:A 成長性:A って感じの意見を求む」
「はぁ…だから〇〇は駄目なんだ」

何がどう駄目なのかとっくり聞いてみたい
近場の魔理沙の家に来たんだが、どうも相談相手を間違えた感がある

「好きなら好き、嫌いなら嫌いって言う。それだけで万事解決だぜ」
「だから好きなのか嫌いなのか自分の気持ちがわからないんだ、って言っただろ」
「でもな、お前と文の話を聞く限り、どう聞いても嫌いって答えはないと思うけど」
「………まぁ、そりゃあ」
「じゃあ好きか? 嫌いか?」
「………好き、かな」
「じゃあ万事解決だな。つまり嫌いじゃないってことは好きってことだ」
「何でお前の答えは二者択一しかないんだ」

ちょっと的を射てるかもしれない、と思ってしまった自分が嫌だ

「これならアリスに聞いたほうがよかったか」
「それは聞き捨てならないぜ」
「だって駆け引きならアリスのほうが上だろ
 あの人形たちは、アリスとのゲームの駆け引きと勝負に負けた魂が入ってるから自立行動ができるんだぞ」
「そ、そうなのか?」
「ああ、間違いない」
「へぇ、それは私も知らなかったわ。じゃあ勝負しましょうか」

ちなみに最後のは俺の言葉じゃない
魔理沙でもない

「言い忘れてたが、アリスが奥の部屋で私の魔道書を読んでるからな。新しいスペカ作りのためらしいぜ」
「……」
「〇〇、何をしてるのかしら?」
「腕時計の秒針を戻したら時が6秒戻らないかなって」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄だぜ」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ね」

油の切れた人形のようにゆっくり振り返る
アリスが、にっこり笑って俺を見ている
その笑顔だけなら、男は簡単に惚れてしまうくらいの魅力的な笑顔だ
しかし、左まぶたの眼輪筋がピグピグしてるのは、ちょっと暴力的な気分になってプッツンしかけてるんだろうなぁ

「あ、アリス。〇〇もきっと冗談のつもりだったんだと思うぜ…」

あの魔理沙がフォローに入るくらいだから、横にいるだけでものすごいプレッシャーを浴びてるのがわかる

「……アリス、君との勝負は『F-MEGA』で対戦を希望したいが」
「NONONONONONONONO……」
「じゃあ、『THATS A BASEBALL』……?」
「NONONONONONONONO……」
「だ、弾幕ごっこですかあああ~~」
「YESYESYESYESYESYES……」
「もしかして、新作スペルカードの実験台ですかーッ!?」
「YES! YES! YES!」
「OH MY GOD!」


――少女弾幕中………


「うん。申し分ないのができた。ありがと〇〇、あなたが必死で避けてくれたから応用がきいたわ」
「……………」
「返事できる状況じゃなさそうだぜ」
「それじゃ、上海たちに村まで運ばせるわ」




【17:00】

村に戻るころにはすっかり傷も癒えていたため、もっとまともな人に相談に向かう
なに、そんな軽症だったかって? ああ、せいぜいアバラが6本ほど逝ったくらい
しかし俺は、『次のページになったらいつの間にか傷が消えてる程度の能力』を持ってるのだ
まあ世界には、メスで刺されたり喉からカミソリやハサミや針、頭からカミソリが飛び出しても
翌日の夜にはほとんど治ってたりするやつもいるんだ。この程度驚くような能力じゃない。たぶん


そんなわけで、そこそこ真面目に話を聞いてくれそうな人の住む永遠亭にやってきたのだ


「これは恋の病ね」
「師匠、それって治るんですか?」
「無理よ、患部がわからないもの」
「患部は体温の低い部分です。きっと俺の体に火を放てば治りますよ」
「覚悟はあるの?」
「俺はアポロ11号ですから」
「ああ、確かにそんなの来ましたね」

前言撤回。俺含めて誰も真面目にやってねぇ

「でもね、あなたは付き合うってことがどういうことかわからないと言うけれど、私はわからなくてもいいと思う」
「どういうことです?」
「今のあなたたちこそが自然体だもの。無理に変える必要はないと思うわ」
「でも、○○さんは文さんのことは嫌いじゃないんですよね?」
「ああ」
「だったら私は付き合うべきかと。関係はそのままでも、名目があるだけで二人とも幸せになれると思います」
「若いわねぇ」
「………」

一転して、ボケをはさむ余地がないくらい真面目な話に
月人の思考回路の切り替わりの速さは凄い

「○○、ちょっと想像してみなさい。今から20年後、ずっと文があなたの横にいたら、どう思うのか」
「○○さんと結婚してもう20年、ずっと一緒に過ごしていたら、どうなるのか」
「………」



《想像1》

文「お弁当もって来ましたよ」
○○「いつもすまんな。で、これ何だ?」
文「ティエンチーです」
○○「守屋神社の小さい神様が激怒しそうな料理だな」
文「まあまあ。昨日いっぱい降ってきたから作ってみたんですよ」
○○「……待て、降ってきた?」
文「はい」
○○「OK、先に食ってみろ」
文「? はい」

パクッ

文「うわあああああああああ!!!」
○○「赤黒いカエルなんでまさかと思ったが、やっぱりヤドクガエルか」
文「わかってたなら教えてください!」
○○「むしろ得体の知れないカエルを焼こうとか考えるな」



《想像2》

文「○○さん、赤ちゃんとか欲しくないですか?」
○○「いや別に」
文「そうですよね。やっぱり夫婦になって20年もするのに子供がいなくちゃ寂しいですもんね!」
○○「人の話聞け」
文「でも、赤ちゃんってどうやって作るんですか?」
○○「そこからかよ。まず俺の血液を特殊な機械に入れる。次に出てきたものを母体に移す。最後に母親が吸われてオギャー」
文「……本当ですか?」
○○「本当だって。ちなみにその機械はにとりに頼めば1週間で作ってくれるぞ」
文「わかりました、行ってきます!」


○○「これで今夜は……くつろいで熟睡できるな」



《想像3》

文「○○さんは、どんな暮らしを求めてるんですか?」
○○「激しい喜びはいらない。そのかわり深い絶望もない、植物の心のような人生かな」
文「そんな枯れたこと言ってちゃ駄目ですよ。人生は楽しまなくっちゃ」
○○「40の半ばを過ぎるとどうもな。寝る前に暖かいミルクを飲み20分のストレッチで体をほぐしてから
   夜11時には床につき必ず八時間は睡眠をとるようにしなくちゃ体が持たん
   それでも赤ん坊のように疲労やストレスを残さず目を覚ませないんだ。健康診断でも胃に穴が開いてると言われたよ」
文「どうしてでしょうね?」
○○「本気で言ってるのか?」
文「? はい」
○○「つまり文…君は私の睡眠を妨げる『トラブル』というわけさ。また何かやらかす前に…君を仕置きさせてもらう」
文「別れる とは言わないんですね」
○○「言ってほしいか?」
文「二人そろってヤンデレスレにお引越しします?」
○○「質問を質問で返すなーッ! ………まぁ、お前なんかもらってやるお人よしも俺くらいだろうし
   俺なんかもらってくれる変わり者もお前くらいだろうしな」
文「変わり者同士ってことで、いいじゃないですか」
○○「だな」
文「でも変わり者ってだけじゃ嫌ですね。ねえ○○さん、私のどこが好きなんですか?」
○○「手首」




想像終了

「何にも変わんないですね」
「本当に? 何にも?」
「ええ」
「それじゃあ付き合ってもいいじゃない。あなたもハッピー、彼女もハッピーよ」
「それとも、○○さんは結婚生活が失敗に終わると思いますか?」
「失敗というのは……真の失敗とはッ! 開拓の心を忘れ! 困難に挑戦することに無縁のところにいる者たちのことを言うのだッ!」
「じゃあ頑張って成功者になりなさい」
「応援してますよ」
「………」

一流プロモーターみたいなことを言ったら〆られてしまった

「それで、診療代替わりにちょっと○○にお願いがあるんだけど」
「何です?」
「あなたの血を少し欲しいの」
「……それは、喉か頭に指を突き刺して吸うってことですか?」

そうまでして若返りたいのかこの年齢不詳

「違うわよ。あなたの回復力を薬に応用できないかしらって思ったの。あなた一時間ちょっと前に
 アリスに弾幕食らったって言ってたけど、普通じゃそんな風に動けるはずがないのよ。その能力の秘密を知りたいの」
「まあ、そんなことなら」
「じゃあ採血するわよ」

ズキュン ズキュン ズキュン ズキュン

「……何ですか、この音」
「気にしないで」

無茶言うな




【18:00】

「………ということで、今回のお話は無かったことに」
「仕方ないわね」
「美鈴なら、私も良縁かと思ったのですが」

紅魔館の当主室
俺は、お見合いをお断りする旨を伝えるためここに来ていた
ついでに入る前に、コオオオオオオオオオ……と息をしたら、レミリアにおもいっきり頭を張られた。いてえ

「まあ私も文とのことを知らないわけじゃなかったけど、やっぱり付き合うことになったのね」
「私も、そんな気がしてました」
「まだ文には言ってないんですけどね」

宴会の席でそれを言うつもりだ、とは言わなかった
どうせこの二人も来るんだろうし、それまでは内緒にしておこう

「あ、これつまらないものですけど、お土産です」
「なにこれ?」
「自分の血でして。永遠亭で一パック積めてもらいました」
「……どういうお土産よ」
「永遠亭で、ちょっと変わった血らしいって言われたんで、お土産にと思って」

血の中から ロオオオオオーーーード ロオオ ロオオオーー  ロオオオオオオオーーーード
とか聞こえるみたいだが、新鮮な証拠だ、たぶん



「あ、私の夫になるかもしれなかった○○さん。お帰りですか?」
「ああ、帰る。俺の妻になるかもしれなかった美鈴さん」

別に皮肉じゃないのはお互いわかってる。動き出してるお見合いをつぶすとか、正直俺のほうは

「オーーーノォーーー! 信じらんねェーッ なに考えてんだこの○○!」

とか言われても文句が言えない立場なのに、彼女の声は優しいからだ

「気にしないでください。私も、やっぱり運命の人は自分で見つけたいですから」
「運命の人 ってのが見つかったら、どうするんだ?」
「そうですね、その人に気に入ってもらえるように一生懸命頑張ります」
「そっ か」

そういえば、文と出会ったばっかりのころは、いくらなんでもあそこまでハイテンションなやつじゃなかった気がする
あんなに料理も美味くなかった気がする
ネタにもついて来れなかったような気がする

それって、つまり、もしかして?

「ありがとう。何かが分かった気がする
 まるで新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のようにスゲーッ爽やかな気分だ」
「品の無い答えですねぇ。それで、文さんにはどう言って告白するんですか?」
「そうだな…………君は引力を信じるか?」
「意味不明です」
「ぼくらはやはりふたりでひとりだったのかもしれないな。奇妙な友情すら感じるよ……」
「こ、こいつ………死んでいる。って不吉すぎます!」
「興奮してきた! 早く乗っかれ! 「圧迫祭り」だッ!」
「えっちなのはいけないとおもいます!」
「……わがままだな」
「常識の範囲内でお願いします。はぁ……お見合いが流れてちょっとホッとしましたよ
 このテンションに毎日ついていける気がしませんので」





【18:45】

19:00からといっても、時間前に来るやつなんてまれである
たいがい時間になったら集まるが、今いるのはせいぜい早いとこ酒を飲みたいやつ、主催者、あとは取材者くらいだ
まあ最後のは、俺と文くらいなもんだが

「○○さん、今日は宴会に出るんですね」
「ああ。それに、ちょっと文に話と渡すものがあったからな」
「もらえるものは病気以外ならなんでもイタダきますよ。○○さんのくれるものなら特にね~~~~。ニョホ」
「しかしその前に話だ。二つでいいか?」
「ええ~~ッ! やだあああああ もオオオッとォォォ」
「うそだよ! 五個話してやろう! 五個ちゃんと聞いてられるかな? 寝ちゃだめだぞ」
「うん!うん!うん!うん!うんうんうんうんうん」

やっぱり、こういった掛け合いを文としているのは楽しい、とあらためて思う

「その奇妙な寸劇、宴会前には終わらせてよね」

すげえ嫌そうな目で霊夢に見られる
早くも飲んでる萃香はむしろかわいそうな人を見る目だ
そう、まるで養豚場の豚に対して「かわいそうだけどあしたの朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのね」ってかんじの!
しかし気にしたら負けだ
俺は、これからもっと恥ずかしいことを言おうとしてるんだから


「伝えておくことが5つある。まずはLESSON1だ」
「『回転』ですね」
「いやそうじゃなくて。あー……その、今までさんざんキツイこと言ってきたが
 俺は、文と一緒にバカやってきたこの日常が嫌いじゃないってことを言いたくてな」
「へ? それって……」
「あー! わー! 質問は禁止だ! お口チャック……じゃなくてお口ジッパーで黙ってくれ!」

「よっぽど恥ずかしいのね」
「でも、チャックとジッパーって言い換える意味はあったのかな?」

巫女と鬼も黙っててくれ
あとチャックじゃなくジッパーと言うのは常識だろ、幹部的に考えて


「次、LESSON2!」
「『筋肉には悟られるな』」
「そのとおりだが違う! 俺は、今のこの暮らしがずっと続いてほしいって言いたいんだ!」
「奇妙な○○さんですね、続いて行くに決まってます
 だって、私は○○さんから絶対に…絶対に絶対に絶っ~~~~~~~対に!離れなあああああいィィィ ですから」
「どうしてだ?」
「○○さんが好きだからですよ」
「よし文! そこでLESSON3だ!」
「『回転は無限の力』!」
「ちょっと黙れ
 俺が言いたいのは、俺も文が嫌いじゃない………じゃなくて、好きだってこと!」
「えっ?」

時は止まる―――
階段を数段下りさせる程度の能力が発動したようだ

「うわぁ……こっ恥ずかしいことを人の神社の境内で叫んでくれちゃって」
「甘ったるいねぇ。こんな話題酒の肴になりゃしないよ」

外野は黙ってろ
俺たちの世界に入門してくんな

「あの~ ○○さん、もしかして舌に何か張り付いたりしてませんよね? 嘘しかつけなくなるような類の」
「そんなのがついてたらさっさと舌を切り取って新しいのを作る」
「じゃあもしかして、あなたは○○さんの偽者?」
「疑うなら言っとくが、俺はタバコ五本口に入れてジュース飲めるぞ」
「…………………」
「…………………」
「冗談でした、は通りませんよ」
「大人はウソつきではないのです。まちがいをするだけなのです……は?」
「……」
「わあ、泣くな泣くな! さっき言ったのは全部本心だ! 嘘偽り間違い混じりっけなしのな!」

そしてその涙をナイフみたいに持とうとするのはやめてくれ
できないのはわかってるが、万一出来てそれで切られるのは絶対に遠慮したい
涙の乗車券は痛い酷いってレベルじゃねえ


「それで……LESSON4なんだが」
「『9対16比の黄金長方形軌道で回せ』」
「そのボケも後には引けなくなっちまったな
 で、そこで物は相談なんだが……俺は文が好きで、今の暮らしが続いて欲しいと願ってる。だから……
 俺でよかったら、結婚しないか?」
「…………」
「安物だけど、ここに来る前に村で指輪も買ってきたんだ
 もしもいらなかったら、俺の喉や心臓に引っ掛けるなり、ワニに投げつけるなりしてくれ
 これなんだが……って、あれ? 箱に入ってない!? あのオヤジ、入れ忘れやがったか!?」
「探し物は、これですか?」

見ると、文の左手の薬指に、俺が買い求めた銀の指輪が光っていた

「それだ。って、どうやった?」
「幻想郷最速を嘗めないでください。気づかれずにテーブルの五枚のカードを全部すりかえるのだって朝飯前です」
「そこはブラフで押し切ろうぜ」





【19:00】

見知った顔が、ぞろぞろと集まってくる
宴の始まりの時刻だ

「なんだか、どんどん宴会客が集まってきちゃいましたね
 最後のLESSON5 『一番の近道は遠回り』は帰ってからですか?」
「違う。集まってくるから、いいんじゃないか……」
「え?」

そうこうしているうちに、俺が回ってきたところの人たちが俺に声をかけてくる

「紅魔館に行ってくれたらしいな。そういったことは私がやるはずなんだが、手間が省けた。礼をしたいんだが」
「そういえば、あなたの金三枚役に立ったわよ。あれが無かったら、今日は塩とお酒しか出ないところだったから」
「○○、あなたを実験台にしたスペカ、すごい高性能よ。魔理沙にだって勝っちゃったわ。何か欲しいものはあるかしら?」
「あなたの血から回復薬が作れたわ。本当に妙なもの飼ってるみたいだけど、それがよかったのね。報酬は出すわよ」
「○○、あなたの血がもう少し欲しいんだけど。一口飲んで美味しかったんだけど、フランにとられちゃって。血代はいくら?」

いっぺんに言われても普段なら困る
しかし、今はちょうどいい

「実は、LESSON5は文宛てじゃない。みんなに頼むことだ」
「それってどういう……」

文の言葉を待たず、俺はポーズを決め、境内の皆に言い放った



「祝福しろ 結婚にはそれが必要だ」





Megalith 2010/11/11



寒い朝。
空気がいつにも増してピンと張りつめている。
そして、窓から射す光が、妙に白く、明るい。

「おっ、昨日の予報通りだ」

○○は心の中で小さくガッツポーズをして、朝餉の支度にとりかかった。
外は、一面の銀世界。今年の初雪、ってやつだ。

昔は都会暮らしだった○○にとって、子どものころからの性分なのか
雪の朝は、なんとなくわくわくするものだ。

しかし、今日のわくわくは、いつもとは違う。
この初雪は、○○がずっと温めてきた計画を、
実行するチャンスの到来を意味していたから…。


―――


彼女を連れて、公園に向かった。
「うわー、きれいな雪ですねー。早速…」というなり、
カメラを片手に公園じゅうを飛びまわり、取材を始めた。

そうしている間に、私はあるものを探していた。
「たしか、このあたりにあったような…、よし、ここだ!」
木の机。ベンチ。そして、程よい量の積雪。

ひとしきり撮り終えて満足げな彼女に、○○は軽く手招きをした。
黒くてつややかな羽が、一面の銀世界の中ではそのつややかさを増している。

「雪だるまでも作りませんか? 文さん」
「う、うん…」


―――


たまたま取材に応じたことで意気投合し、
仕事面でも、プライベート面でも色々支え合う仲になって、
もう半年は過ぎた。
お互いに、『言うべきこと』や『したいこと』があるのは気づいていた。
周りの連中も(特に黒白や紅白あたりが)、『何だ、まだなのか(呆』と時々冷やかしてくる。

いわゆる、告白、そしてキス、ってやつだ。

でも、何か『きっかけ』が欲しいなあ。
ぼんやりと、そう感じながらチャンネルを回していたところ、
先日、○○の目にある『ドラマ』が止まった。


…これだ! これならいける!


○○はその日以来、ずっと雪を待っていた。


―――


「クスッ…」

彼女が笑う。

「どうしたの? 文さん」
「初雪の日に雪だるまって、子供みたいだな、って」
「…駄目かい?」
「いや、そんなことないですって!」

頑張って彼女がフォローしている。
まるで、雪だるま作りを止めてもらっちゃ困る、といわんばかりに。

「じゃ、じゃあ、一緒に雪を集めましょう! 私、スコップ調達してきま…」
「いや、いいんです。」

○○が遮る。彼女はきょとんとした顔をしている。

「これくらいのを1つずつ、2人で作ろうかなー、ってね」
「あ、分かりました!夫婦茶碗みたいな感じですね?」

二人は顔を見合わせる。彼女も、自分で惚けた割には
随分顔を赤くしていた。


―――


30分くらいして、ほどなく完成した。

「できましたね、○○さん!」
「でも、なんか手作り感満載だなあ…」

たしかに、お互い手先はそんなに器用なほうじゃない。
まあでも、そんなことはいい。

○○は、2つの雪だるまを向い合せにした。
そして、右手に持った自分の雪だるまを、
彼女の作った雪だるまの唇にちょこんと当てる…





…はずだった。








ぐしゃっ。








あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ。
『彼女の作った雪だるまに、強烈な右ストレートがお見舞いされている』
な、何を(ry


彼女の雪だるまは、粉々に崩壊している。
彼女の涙線も、もはや崩壊寸前だ。


でも、それより先に、○○の思考回路が、崩壊した。

「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああ」

いわゆる発狂ってやつだ。


叫び終えて平穏を取り戻したかに見えた○○の思考回路はしかし、この後再び崩壊の危機を迎える。

彼女がすっと○○の背中に駆け寄った。
爪を○○の首筋につきたてて、こう言った。

「せっかく作ったのに……。妖怪の私を怒らせてしまった○○さん、ユルサナイ…」


「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああ」






チュッ






彼の思考回路は、3度目の崩壊を迎えた。思わぬ形で、かつ、最大級の衝撃で。


「…え?」


「んもー、幻想郷いちの情報通の私が、○○さんの「演出」に気づかないとでも?」
はにかむ彼女。

「幻想郷の熟j…いえ、お姉様方の間で流行っているテレビドラマも、チェック済みです!」
えっへん!とでも言いたげなその顔。

「そして、雪の日にそんな恰好して「雪だるま作ろう」だなんて言われたら…」
なるほど、○○は確かに、主人公よろしく、物置から引っ張り出した茶色いコートを着ている。
さすがに伊達眼鏡はかけてないけどね。

「でも、…○○さんから、じゃなくて、私から、言いたかったから…」

彼女の語気が弱まる。それに比例して、顔が紅潮しているのがわか、○○にもわかった。

「好きです、○○さんのことが。これからも、ずーっと。」
「文さん…大好きです。」

抱擁、そしてキス。それはそれは、雪をも融かしてしまわんばかりに。


―――


「それにしても、いくら自分が主導権握りたいからって、
せっかく作った雪だるまをあんなに激しく壊すことはなかったんじゃないの?」

「あれは、…行きがかり上そうなっただけです。
一瞬強い妖力を出すので、場合によっては、○○さんを傷つけることにもなるし、
若干気がひけたんですけど…ええい!みたいな」

「場合によっては、ってなあ…」

しれっとそう言いきる彼女。
あの涙線崩壊は演技、雪だるま崩壊は妖力だったってのか…!?
○○からすれば、
怪我しなくてよかったと思う半面、ある意味、「怪我」してよかったとも感じていた。


「じゃあもしかして、文さんは、そういう『激しい』のが好きなの?(笑)」
「もぅ! ○○さんってばあ!(笑)」
「…」
「…」


話題を変え、軽くからかうつもりで訊いたはずの○○の顔が、みるみる紅潮している。
笑っていなす彼女もそんなところだ。
お互い、相手の顔の色なんて見ていられないくらい、ドキドキしている。

「帰ろっか?」
「はい、○○さん♪」

この後、彼の家じゅうの雪が、一瞬で融けたとか、融けないとか。

おしまい。



すんなり純愛にしたくなくて、あれこれ考えてたら、
少し長くなってしまった。

うぶな○○と
文の可愛さに免じて、
許してあげてください。


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最終更新:2011年12月03日 23:25