幽香3



5スレ目>>496


巧い文章の後はだし辛くても気にせずに書いてみる。
身の程知らずに妄想投下。


「また来たの?」

 彼女の第一声は大抵がこの一言である。
 花畑で初めて出会ったとき、風見幽香と彼女は名乗った。
 幽香はいつも通り、チェックのベストにお揃いのスカートに身を包み。
 手には可憐な日傘を持って、向日葵の葉のような綺麗な緑色の髪を揺らしている。

「妖怪とか怖くないのかしら」

 なんとなく不貞腐れたように言うので、俺はそうでもないと答えておいた。
 妖怪は怖い。しかし幽香だけは怖くない。

「それに、毎回苛められてもなんで来るのかしら、お馬鹿さん?」

 否定はしないが理由は在る。
 何故か苛々したように言う幽香を見つめながら曖昧な答えだけを返しておいた。

「人間が、妖怪に近づくなんて変よ」

 今日の幽香は少しおかしくて、遠くに感じた。
 その態度が、いつもの苛めより心に痛みを与えてくる。
 俺は幽香が好きだった。

「聞いてるの?花が好きだからって、私なんかがいる危険な花畑にわざわざ来なくていいじゃない」

 お前がいるから来るんだ、言ってやりたいが言うわけにもいかない。
 だから、黙って手土産の花を一輪渡す。
 庭先で育てた薔薇の一枝。感謝しながら身を削ってもらって受け取った綺麗な一枝。
 突然差し出された薔薇に、幽香は目を丸くしていた。それが可愛くて自然と笑みがこぼれてしまう。
 幽香は何故か顔を赤くしながら薔薇を見下ろして、上目使いで俺を見る。

「何よ、これ」

 お土産、そう答えると溜息を吐かれた。
 顔を赤くしたまま睨まれて、少し悲しかった。
 今日は機嫌が悪いのだろう、そう思って別れの挨拶をする。

「――あ」

 また来るよ。告げて、一度だけ髪に指を通す。
 幽香は撫でられるのが嫌いでいつも怒られるが、今日に限って何も言わない。
 調子に乗って何度か指を通して、名残惜しくも手を離す。

「……人の話聞いてないな」

 呟きを聞こえない振りをしながら、手を振って帰る。
 小さく手を振ってくれたから、また来てもいいんだろう。
 薔薇の花言葉くらい知ってそうだが、きっと彼女は気づかない。




 手を振って彼は行ってしまう。
 もう来るなって言ってるのに、聞きもしないで彼はまたきっと来る。
 気づかない内に、自分も手を振ってしまっている。

 彼の姿が見えなくなってから、手元に残された薔薇を見下ろした。
 彼は花を愛している、薔薇は切り取られて尚幸せそうだった。
 この子の花言葉をきっと彼は知らずに渡したのだろう。
 分かっているのに、私は変に意識してしまう。
 彼のせいで、なんだか胸がおかしくなる。

――好きだ。

 不意に、彼と同じ声が聞こえて、私は手に持った薔薇を見やる。
 込められた思いを、薔薇が歌うように語り掛けてきた。
 毎朝語りかけてくる彼が、私を好きだと言っていると薔薇が楽しそうに語っている。
 急に、喉元から熱が上がっていくのが分かった。きっと私の顔は赤くなっている。
 その様子をみて楽しそうにしている花達を睨みながら、彼を思い浮かべてしまう。
 しばらくは、この熱が引くことはなさそうだった。

「また、来てくれるのかな」

 私はその感情を薄々と気づいていて、それが怖くて遠ざけようとしていた。
 私は彼が好きだった。

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5スレ目>>626-627


 俺は花が好きだった。日々の営みに選択するほどに愛していた。
 彼女は花と共にあった。日々を花に囲まれて過ごす様は正に花だった。

 花売りにとって冬は少し寂しい季節だ。花を愛でる者にとっては更に寂しく思える。
 当然冬の花の美しさを愛しているが、春のように咲き乱れる様が俺は好きだったのだ。
 故に、とある山の中に広がった花畑を目にした時、感動と共に童心に帰ったとしても仕方が無いだろう。

「気持ち悪い人間ね」

 花畑に寝転がる俺の上に、人影が寄ってきた。
 チェックのベストにお揃いのスカート、手には可憐な日傘を持って綺麗な瞳で見下ろしている。
 整った可愛らしい顔つきは恐らく女性のものだろう。

「――ここはいい所だな」

 その言葉に答えるわけでもなく、誰かと問うわけでもなく、俺はそう口にした。
 向日葵の葉のような綺麗な緑色の髪を揺らして、彼女は驚きの表情を浮かべる。
 それが妙に可愛く見えて、俺は笑みを隠すことができなかった。

「こんなところで寝てると妖怪に食われるわよ」
「出るのか?」
「出ますの」

 そっか、と呟いて目を閉じる。
 こんな陽気の中、花たちに囲まれようともなれば眠る以外にすることはない。
 心地良いまどろみは、腹部へと鋭い勢いでぶつけられた日傘の一撃の下に掻き消された。

「――っ! なに……すんだよ」
「私が妖怪って可能性は考えないの?」

 不機嫌そうに俺を見下げて、彼女は日傘の先で突っついてくる。
 あぁ、そういえば最初に俺のことを人間とか言ってたな。

「ならもう逃げられないし、少しだけ眠らせてくれよ」
「だめよ」
「少しでいいんだ」
「却下」

 話の分からないお嬢さんだった。
 無視して眠ることにする、食いたきゃ食えばいい。人間の命なんて簡単に終わるものなのだから。
 瞼に影が落ちる。差し込む日を隠してくれて丁度いい。
 草花の匂いと、微かな太陽の香りがする。
 不意に、頭が浮いて、柔らかいものへと落ちる感覚を味わう。
 何をされてるんだ、俺。

「あら、もう起きるの?」
「何やってんの?」
「苛めていい?」
「やめてくれ」

 薄く目を開いた先に、少女の顔があった。
 花の香りが薄く香る膝の上に、俺は寝ている。
 その心地良さに、おれは問うのも忘れてもう一度瞼を下ろした。

 息苦しさに目を覚ました。
 なんだろう、鼻に何かを詰め込まれたような感覚。
 それは目を開いたときに分かった。
 鼻に花が差し込んである。
 それでも呼吸ができないほどではない、現に俺は今鼻から酸素を取り込んでいるのだ。
 原因は、視界を覆うチェック柄のベストに覆われた柔らかい物体X。別名:男の夢。
 先の少女が俺に被さるようにして寝息をたてていた。
 なんというか、人生の最後で凄い幸運だぞ、俺。

「……ん、あぁ起きたんだ」
「この花はなんだ」
「あなた怯えないからつまらないんだもの。だから少し苛めてみたわ」
「悪戯っていうんだよ、こういうのは」

 花を引き抜く。綺麗な花だった、もったいない。

「汚された」
「……は?」
「その花が言ってるのよ、嬉し恥ずかしそうに」
「なんだそりゃあ」

 手元の花を見下ろすと、確かに透明な粘液に汚されている。
 あぁ、可哀相な名も知らぬ花、こんな姿に誰がした。

「お前の仕業じゃん」
「貴方のせいよ」

 不機嫌そうに即答された。
 なんだか自分が悪いように思えてきて、手元の花に頭を下げる。
 ごめんなさい。

「で、なんで食べないの?」
「食べてほしいの?」
「俺は不味いぜ」
「不味そうだわ」

 だから食べません、目の前の自称妖怪は歌うように囁く。
 薄く花の香りがするその少女は可愛かった。

「それに、花の匂いが強すぎて食べる気もしないわ」
「お前も花の香りがして良い匂いだな」

 言ってみたら殴られた、日傘で。
 心なしか顔が赤い気がする。

「さて、そろそろお暇しようか」
「あら、帰るのね」
「暗くなったら妖怪が出るからな」
「出ますわ」

 名残惜しくも立ち上がり、伸びをする。花が香って良い気分だ。
 そこへ日傘で押される、バキンと背中が鳴った。この少女はサディストだ。

「っ痛……また来る」
「貴方って馬鹿なのね」
「私は馬鹿を応援しています」
「妖怪が出るから二度と来るな」

 茶化してみたものの、少女は笑みを崩さないでそう言った。
 しかし、こんな良い場所を見つけて来るなとは酷いものである。

「また来るし、お前にも会いに来る」
「なんでよ」
「面白いから?」
「愚かしいから」

 不満そうだった、可愛い。
 帰り際、手を振ったが見つめてくるだけで振り返してはもらえなかった。
 帰路の最中、俺は何故かあの少女のことだけを考えていた。
 その少女が、食う為ではなくただの暇潰しに人を殺す大妖怪。
 風見幽香と知るのは、もう暫く後の話である。


そして>>496へと続く。
ゆうかりんが書きたくなっただけだった。
よく見たらイチャイチャしてない。今は反省している。

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6スレ目>>170


俺漏れもー
ゆうかりん俺の故郷で一緒に向日葵農家をやr(開花

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6スレ目>>717


 ・ ・ ・ ・ ・

じめじめとした雨の続く水無月の頃。
こっそりと懐に一輪の花を忍ばせて、紫陽花の咲く園へ向かう。
多分彼女は、そこに居るから。
 ・ ・ ・ ・ ・
「…あら、こんにちは。また来たのね。…貴方も奇特な人間ね。
こんな妖怪が居るところなんて、誰も怖がって近づきやしないのに。」
「うーん…君が余り怖くないから、なんだろうね。
少なくとも僕に対しては、だけど。」
彼女は花や自己に危害を加えない限りは非常に紳士的な態度を取るし、
花に対しての心遣いのある人間には友好的ですらある。
「殆どの人間は…あー…私が笑うと、怖がって逃げるんだもの。」
拗ねた様な…いや、拗ねた顔をする彼女。
少し噴出してしまったが、彼女は気にする事も無く続けた。
「…それで、貴方はどうしてそんなにここに来るの?
私なんかが居る所に来て、何か特別な事があるわけでもないのに。」
「特別な事…か。 そういう理由が欲しいならいくつかあると思うよ。」
「へえ…それじゃ順を追ってお聞きしましょうか?」
鴉天狗が情報を聞き出すような口調が、
彼女の姿と妙にちぐはぐでまた少し噴出す。
「それじゃ、一つ目。
君が居るところはいつも花がとても綺麗だからね。
他のところにある花より何倍も。」
「それは私がそういうところを選んでるわけだから、
当然と言えば当然ね。他は?」
こうもずいずいと聞いてくる事が不安だったが、
この際だから勢いで答えてしまう事にした。
「君と話せるから、かな。
僕は見ての通り花のことばかり見てる優男だし、
周りには話の合う人も妖怪も居ない。
だから、君と話せる事はとてもうれしかったんだ。」
「…でも、私のことはこの紫陽花たちが教えてくれるはずよ?」
紫陽花の花言葉のうち一つ。
『美しいが、冷淡』
ある意味で彼女の自信過剰とも取れるこの言葉を、僕はある程度予期していた。
だから、この花を一輪だけ持ってきた。
「それでも、をつけて、僕の気持ちはこの花に代弁してもらう事にしてもいいかい?」
そっと梔子の花を渡す。
「…ええ。…ありがとう、と言っておくわね?」
「ええ、どういたしまして。」
それだけ言うと、彼女はその梔子の花を胸につける。
僕もそれに倣って、落ちた紫陽花の花弁を、数枚懐に入れておくことにした。

 ・ ・ ・ ・ ・

―梔子の花言葉のうち、ひとつ。
    『私はあまりにも幸せです』―


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6スレ目>>722



睦月も終わり、如月の初め。
そろそろ梅の咲き始める時期である。

そして、近場で梅の木が最も多い山の中腹。
恐らく彼女はここに居るはずである。
…自分にふさわしい花言葉の花が咲く場所に居る、
自信家で自惚れ屋な彼女の事だからして。

梅の花言葉は「気品」。
傍から見ていると花が好きなだけの普通の妖怪少女なのだが、
「溢れる気品が分からないの?」などとちょくちょくのたまっている以上恐らく違いない。
…そう思ってここに来たのだが…見当たらない。

まさか「自惚れ屋」と自覚して水仙の咲く所かと思ったが、そこにも居ない。

そういえば椿なら「素晴らしい魅力」等と言う、
ある意味で彼女に合う花言葉があるがこれも当てが外れた。

そうして色々歩き回っていると、ふと町外れに佇んでいる彼女を見つけた。
「…あら、やっと来たのね。折角探してあげたのに。」
「何を探してたんですか何を。
色々心当たり探してたのに、何だってこんなところに?」
「これ。」
短く言って彼女が指差した先には、妙に花弁の分厚い…
いや、まるで巾着のような花弁の奇妙な花。
「カルセオラリア…見たまま巾着草、とも言うわね。」
「…見たことないですね…僕は。」
「一応この時期の花なのだけれど、寒さに弱い花なの。
だから野に咲いていることは少ないのよ。」
「そうなんですか…」
「で、これを貴方に。」
何故か用意していた植木鉢にわざわざ植え替え、僕に突きつけてきた。
「…?」
「わざわざ私が手を汚したんだもの、尚更拒否権なんて無いわよ?」
「…えーと、何の事なんでしょう?」
「やれやれ、鈍いわねぇ。そんなに私から言わせたいの?」
「…あ。」
見たことが無いのは実際に、の話だ。
昔、図鑑で見たことならある。
…そして、その一角が鮮明にフラッシュバックする。
「やっと分かった?」
相変わらず飄々としている…と言うか、
こんなものを手渡しておいて欠片も照れる素振りを見せないのは流石だと思う。
「…全く、本当勝てませんね…」
両手を挙げて降参の意を示す。
「んふふ、ご褒美もあげましょうか♪」
そう言うと懐から何かを取り出す。白い…
「…押し花?」
「ええ。これを出すなら今しかないと思わなくて?」
…そう、それは…僕が彼女に以前渡した、梔子の花。
その花の成す意味の一つ・・・『あまりにも幸せです』。
「そうですね。…でも、今じゃ嫌ですよ?」
「…あら、どういうことかしら?」
「折角こんな花を貰っちゃったんですから。」
手に持った植木鉢を掲げて、言う。
「…少なくとも、僕が生きてる間位は、ずっと…と言うことで、お願いしますよ?」
「…ふふ、毎年梔子の花を足すくらいでお願いするわね?」

―カルセオラリア、別名巾着草。
  花言葉、『我が伴侶』―

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うpろだ271


「ねぇ○○。欲しい花はある?」

「欲しい花…ねぇ? 幽香の花なら何でも嬉しいけど。確かこの前はライラックだったっけ?」

「“紫の”ライラックよ。忘れたの?」(恋愛最初の感情・初恋の感激)

あぁ、いかんいかん。それで俺は紫のアスターを用意してきたんだ。 (恋の勝利・私の愛はあなたの愛よりも深い)
「忘れてないよ。ちょっとした確認だって。 だからコイツを用意してきたんだ」

「……本気?馬鹿ねぇ。私に勝つ気でいるなんて」

「ベターなのはドローだな」

「私に赤いクロッカスでも送って欲しいの?」(愛しすぎる心配)

「いやいや、むしろ俺が送りたいぜ。何ならレモンの花でも用意しようか?」(恋に忠実)

「そうねぇ、青い勿忘草でも送りあうなんてどう?」(誠の愛)

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うpろだ409



  向日葵畑で待ちましょう


  夕焼け空に染められて


  向日葵畑で待ちましょう


  貴方が来るまでもう少し


  向日葵畑で待ちましょう


  この喜びを永遠にと願いながら







  夕暮れ。
  昼と夜の境界に現れる、ほんの少しの時間。

  私はいつものように向日葵畑で彼を待っている。
  目の前には夕焼けで紅く染まった向日葵が一面に広がっている。
  そよ風が頬を撫でる。
  ひんやりとして気持ちが良い。
  少し、秋の気配を感じた。

「……遅い」

  来ない待ち人に一人愚痴る。
  けれど、それはいつものことだった。
  いつも私が先に来て、そして後から彼が来る。
  それがお決まりのパターンだった。

  でも、私の方が会いたがっているみたいで少し悔しい。

 「おっす」

  そうしていると後ろから声を掛けられる。
  振り向くと案の定、彼が立っていた。

 「遅いわよ」

 「いや~悪いね」

  謝ってくるも特に悪びれた様子はない。

  まぁ、時間は決めてないから、彼が謝る必要は無いのだけれど……

  それでも、待っていると色々と溜まってくるのだから仕方がない。

 「まぁ、そう怒るなって」

  言いながら、しわくちゃの手を私の頭に置く。
  そして、ポンポンと軽く叩くように撫でてくる。
  彼の手はとても温かくて気持ち良い。

  実はそんなに怒ってはいない。
  けれど、彼は私が怒っていると思うといつもこうしてくれるから、いつも何も言わないでいるのだった。

  気持ち良くて目を細める私を見て、彼は微笑む。

  その笑顔だけは昔のままだった。






  もうどれだけ経つだろう。

  この向日葵畑で初めて彼に出会って。

  何度も出会ってお互いを知って。

  夕暮れ時に待ち合わせるようになって。

  そして、彼に恋をして。






  向日葵以外誰もいないこの場所で、色々なことをした。

  その日あったことをお互い話したり。

  向日葵畑の中心で二人して寝転がったり。

  喧嘩をしたこともあったっけ。
  私の方が悪いのにいつも彼が先に謝って……本当、素直じゃない。




  その日も彼は、今日あった出来事を楽しそうに喋ってきた。

  やれ友人宅に遊びに行ったら孫が可愛かったやら、村の子供達が喧嘩してたやら。

  そんな些細なことを幸せそうに語る彼がとても愛しかった。







  ふと思う。

  彼との時間は、あとどれほど残っているのだろうかと。

  多分、あまり残ってはいないだろう。

  人間の寿命は短い。

  私達妖怪の寿命からすれば、ほんの一瞬だ。

  人間の生命は儚い。

  そう、今二人を紅く染めているこの夕焼けのように。







  彼と過ごす時間はしだいに短くなっていった。

  私は直感する、終わりが近いんだと。

  胸がざわついた。

  そんなのは嫌だ。

  彼と離れたくない。

  もっと一緒に居たい。 

  あの笑顔の傍に居たい。

  苦しい。 

  どうして彼は妖怪じゃなかったのだろう?

  悲しい。

  どうして私は人間じゃなかったのだろう?

  怖い。

  二人とも同じ種族だったのなら、こんな気持ちを味わなくても済んだのに。








  終わりは唐突にやってきた。








  私はいつものように夕焼けに染まる向日葵畑に向かう。

  いつも誰も居ない筈の向日葵畑には一人佇む彼が居た。

 「よっ」

  こっちに気づいた彼は、私を見て微笑む。

  いつもと変わらない筈なのに。

  何故か、胸騒ぎがした。

 「遅かったじゃねぇか」

  してやったりと言わんばかりに、にやりと笑う。
  彼の態度はいつもと同じ筈なのに、何故か胸騒ぎが止まらない。

 「珍しいじゃない、貴方が先に着くなんて」

  胸のざわつきを必死に抑えながら、表面上冷静に言う。

 「珍しいだろ?」

  嬉しそうに彼は笑う。
  が、その笑顔もすぐに消えた。

  そしてお互いに何も言わないまま時間だけが流れていく。

  得体の知れない胸のざわつきは一向に収まらない。

  紅く染まる景色の中で、先に口を開いたのは彼の方だった。

 「暫く此処に来れなくなった」

  その言葉に、胸のざわつきが止まる。

  ……ああ、やっぱり。

 「今日さ、此処に来るときに死神を名乗る女の子に会ったんだよ。彼女曰く、俺は今日死ぬみたいなんだ」

  彼は言う。

 「だから、明日から此処には来れなくなっちまった」

  自身の死など、気にもしていない風にあっさりと。

  涙が出そうになった。

  何故?

  何故貴方はそんなに冷静でいられるの?

  貴方、死んじゃうのよ?

  もう、一緒に居られないのよ?

 「そんな心配すんなって。すぐ戻ってくるからさ」

  私の心を読んだかのように。

  彼は笑った。

  その笑顔を見て私は俯く。
  歯を食いしばって、今にも泣き出しそうになる自分を必死で抑えた。

 「だ~いじょうぶだって! 心配すんな!」

  俯く私に、彼は明るく言う。

 「貴方が……」

 「ん?」

 「貴方が妖怪だったら良かったのに……」

  妖怪だったら、ずっと一緒に居られたのに。

 「そうか? 俺は人間で良かったと思うぞ?」

  私の叶わない願いを彼は笑って否定する。

 「どうして?」

  どうしてそんなことを言うの?

  妖怪だったら、こんな思いをしなくて済んだのに。

  予想外の答えに私は戸惑った。

  そして……

 「好きなヤツより先に死ねるだろ?」 

  突然の告白。 

  どうして?

  今までそんなこと一言だって言わなかったのに。

  どうして?

  どうしてこんな時にそんなこと言うの?

  ひどい。

  貴方は本当にひどい人。

  一番辛い時に。

  ずっと欲しかった言葉をくれるのだから。

  もう止められなかった。
  堰を切ったように溢れ出した涙が頬を濡らしていく。

  零れ落ちる滴は次々と地面に染み込んでいった。 

 「泣くなって」

  彼は私の頭に手を置く。
  そしていつものように軽く叩くように撫でてくる。

 「絶対戻ってくるからさ」

  子供をあやすような優しい声で、彼は私に語りかける。

  本当に?

  信じていいの?

  掌から伝わる彼の温度はその問いかけに答えるように、とても温かだった。  

 「心配すんな」

  だから、私は信じることにした。

  絶対戻ってくる。

  涙で言葉の出ない私は、その言葉にただ頷く。

  彼は笑って私の頭をくしゃくしゃと撫でた。










  花が咲くのを待ちましょう


  夕焼け空といつまでも


  花が咲くのを待ちましょう


  再び花咲くその日まで


  花が咲くのを待ちましょう


  そして再び花が咲いたその時は









  夕暮れ。
  昼と夜の境界に現れる、ほんの少しの時間。

  私はいつものように向日葵畑に居た。
  目の前には夕焼けで紅く染まった向日葵が一面に広がっている。
  そよ風が頬を撫でる。
  ひんやりとして気持ちが良い。
  少し、秋の気配を感じた。



  彼が死んで、もう一年が過ぎようとしていた。

  彼が居なくなってからも、私は毎日かかざずにこの向日葵畑に足を運んでいる。



 「まったく、どれだけ待たせるつもりなのかしら」

  向日葵達を眺めながら溜息を漏らす。

  そして彼の顔を思い浮かべた。  

  一瞬で彼の笑顔が鮮明に脳裏に浮かびあがる。
  さっきまでの陰気は瞬く間に霧散していき、それに代わって温かなものが自身を満たしていくのがわかる。

  少し、自分の頬が緩んだ気がした。

  数秒して惚けている自分に気づく。
  そして慌てて辺りを見回した。
  幸いにして誰も居なかったようだ。

  と言っても、此処には私と彼以外滅多に来客は無いのだが。

 「あら?」

  ふと、あるものに気づく。
  そして一つの向日葵に近づいた。

 「珍しいわね」

  珍しい向日葵だった。
  太陽の方に向かっている向日葵達の中で、その向日葵だけがこちらを向いているのだ。

 「貴方、かなりの変わり者ね」

  まるであの人みたい。

  あの人も相当の変わり者だった。

  人間の癖に私みたいな妖怪と一緒に居たのだから。

 「もしかして……貴方が彼だったりして」

  自分で言った言葉に思わず噴き出した。
  だとしたらあの人は、とんだ間抜け者だ。

  人間に転生するつもりが向日葵に転生だなんて。

  おかしくておかしくて笑っていると……

 「んなわけあるか」

  声を掛けられた。

  懐かしい声に私は驚く。

  いつも聞いていた……ずっと聞きたかったあの人の声。

  思わず身体が緊張する。

  私は硬くなった身体に必死に力を込めて振り向いた。

  振り向いた先には彼が。

  あの日、この向日葵畑で初めて出会った時の姿で。

  いつもの笑顔で。

 「よっ」

  昨日別れたかのように、彼は片手を挙げてこっちに歩み寄って来る。

  この男は……こっちがどれだけ恋焦がれながら待っていたかも知らないで。

 「……早かったわね」

 「まあな~。善行とやらを積んでたからじゃねぇか?」

  あっけらかんと彼は言う。

  変わらない彼に、嬉しくて泣きそうになった。

 「ま、それはともかく」

  彼はいつものように、私の頭に手を置く。
  そして軽く叩くように撫でた。

  ああ……会いたかった貴方だ。

  掌から伝わる変わらない温もりに思わず涙が零れた。

 「ただいま、幽香」

 「おかえりなさい、○○」

  彼の胸に飛び込む。

  温もりを確かめるように。

  彼の存在を確かめるように。

  強く。

  強く抱きしめる。

  もう、絶対離さない。












 おまけ ~転生が早かった理由~



 「ふぅ、今日の仕事はこれで終わりですね」

  帽子を脱ぎ、軽く姿勢を崩して一息つく。

  今日もお疲れ様でした。

 「ちょ、ちょっと待てって! お前の番はまだ先だ!」

  ん?何やら騒がしいですね。

  たちの悪い魂でも居るのかしら?

 「どうしたのです、こま……」

 「よっ」

 「あ、貴方は!」

  突然の闖入者に私は驚いた。

 「あ~すみません四季様、すぐに連れ戻しますんで」

  頭を下げる小町。

  しかし、今の私はそれどころではない。

 「貴方、死んだのですか!?」

 「おう」

 「何故……」

 「ま、寿命ってヤツだな」

 「寿命……そうですね、貴方は人間ですものね」

  そうだった。
  彼は只の人間だったのだ。    

  寿命がくれば死ぬのは当然のことだ。

  しかし……

 「四季様、この男をご存知で?」

  小町が不思議そうに聞いてくる。

  私より外に出ている貴女が、何故この男のことを知らないの……

  部下の無知っぷりに小一時間問いただしたい気持ちになるが、そこをぐっと我慢して質問に答えることにした。

 「花の妖怪は知ってるわね?」

 「はい。以前此処に来た、どえらい強い妖怪ですよね」 

 「彼はその妖怪の男です」

 「ども」

 「えーーーーーっ!?」

  驚く小町。

  それは驚くでしょうね。  
  私も初めて知った時は驚きましたから。

 「冗談ですよね?」

 「私が一度でも嘘をついたことがあったかしら?」

 「……無いです」

 「ならそういうことよ」

  しかし納得が行かないのか、小町は疑わしそうに彼を見つめている。  

  こらこら、失礼でしょ。

 「じゃ、いいか?」

  一段落したのを待って、彼は話を切り出してきた。

 「折り入って頼みがある」

 「何でしょう?」

 「出来るだけ早く転生したい」

 「何故?」

 「知ってるだろ?」

  彼は愚問とばかりに笑う。

  そりゃまあ知ってますけどね。

 「……まあ、いいでしょう」

 「サンキュー。で、どれくらいかかりそうだ?」

 「そうですね……早くしても十年くらいでしょうか?」

 「一年以内にしてくれ」

 「無理です!」

  無茶を言う。

  順番無視プラス、十年転生でも破格のサービスだというのに……

  いくら花の妖怪の男といえど、これ以上の特別扱いは出来ません。

 「あ~あ、そんなこと言っていいのかなぁ?」

  きっぱりと要望を拒否する私を見て、彼はにやりと笑う。

  ……何か嫌な予感がします。

 「何がですか?」

  努めて冷静に返す。

  しかし彼は不敵な笑みを崩さない。

 「俺と絡むようになってから、幽香はあんまり暴れなくなった」

 「それがどうかしましたか?」

  その意味を分かっていながら聞き返す。

  ええ、分かっています、分かっていますって。

 「今、俺は幽香の傍に居ない」

 「そうですね」

 「つまり、幽香の傍には止めるヤツが居ないってことだ」

 「それが何か?」

 「手綱を持つ者の居ない暴れ馬はどうなると思う?」

  質問を質問で返される。

  それは……

 「危険度・極高、友好度・最悪の大妖怪が所構わず暴れ放題……」

  代わりに小町が答える。
  呟く小町の顔色は気のせいではなく青ざめていた。

 「そういうこった」

  彼は頷く。

  まあ、そういうことになるでしょうね。

 「そんな幽香は俺も見たくない。つーわけで、一年以内で」

 「……むぅ」

  確かにそんな事態は喜ばしくない。

  しかし、一人の人間をこれ以上特別扱いする訳には……

 「小町、幽香が暴れ出したらお前も忙しくなるぞ? 良いのか?」

  悩む私に焦れたのか、彼は矛先を小町へと向けた。

  突然話を振られた小町は、意味が解っていないのか、彼の言葉を小声で反芻する。

  そして意味を理解した次の瞬間……

 「四季様! 世の為人の為そして私の為! 彼を一年以内で転生させましょう!」 

  必死の形相で懇願してきた。

  ……貴女、完璧に私情じゃない。

 「な~良いだろ~?」

 「四季様お願いします! 後生ですから!」

  一人でも手強い敵が増援を呼んで更に手強くなりました。

  二人は左右からぎゃーぎゃーと懇願、もとい攻撃してくる。
  ステレオ効果でとても五月蝿い。

 「ああ、もう! わかりました! 今回だけ特別に許可します!」

 「よっしゃ!」

 「やった~!」

  許可の言葉に彼は小町とハイタッチする。

  まったく、私も甘くなったものですね……

 「いや~助かったわ。サンキューな」

  彼は感謝の言葉を言いながら、私の頭に手を置く。

 「今回だけですからね? あと、頭に手を置かない」

 「細かいこと気にすんなって」 

  注意を聞かずに、ぽんぽんと軽く叩くように頭を撫でられる。

  ……むぅ。これは中々気持ち良いですね。

  なんというか、温かくてホッとするというか。

  …………彼女が落ちるのも仕方ない気がします。

 「許可ついでに、転生時の年齢は十代後半で頼むわ」

 「まだ要望があるんですか!?」

 「まあまあ、ついでついで」

  笑いながら頭を撫でてくる。

  ……むぅ。




  結局、彼からの要望は全て聞くことになってしまった。

  四季映姫、生涯で一番の不覚だと思う。 

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7スレ目997


幽香、このスレの残り…見渡す限りの向日葵と、俺たちの愛で埋めようぜ。

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8スレ目 >>318


幽香「あなたは私だけの花。私のために花を咲かして、私のために枯れるのよ」

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8スレ目 >>796


「幽香、俺とお前で、この幻想郷に『太陽の帝国』を築こう!」
と言って、黙々と向日葵の種を植えて生きたい・・・。

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10スレ目>>479


「○○、朝ごはんよ」
幽香は俺の耳元でそう呟くように言うと、花の蜜を口に含み、そして接吻をした。
幽香の口の中で、適度に薄められた蜜が、程よい甘さと暖かさを俺の口に伝えながら、喉へと流れてゆく。
蜜を飲み干すと、今度は幽香の口の中・・・と行きたかったが、あっという間に逃げられてしまった。
「ふふ・・・どうかしら?今まで育ててきた花に、逆に育てられるっていうのは」
幽香が意地悪な微笑みを浮かべながらそう言った。
「悪くないな・・・むしろ、もっとして欲しかった」
「そう言っていられるのも今の内よ」
今度は挑むような口調で幽香はそう言うと、ゆっくりと俺に近づいてくる。口の端から垂れた蜜がなんとも艶っぽい・・・。
俺が見とれている間に、目の前まで来た幽香はそっと俺の身体を抱きしめた。
心地よい感覚に包まれ、うっとりとしていた俺に幽香は一言
「何時まで耐えられるかしら?」
と言った。
意味を理解する前に、強力な力が俺を締め付ける。・・・息が出来ない!
「がっ・・・!」
どんどん力が強くなってゆく・・・もう、だめ・・だ・・・


「貴方はもう私のもの・・・死ぬまで苛め抜いてあげるわ」

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10スレ目>>531


サァァァァ・・・
蒼い空に日が登る。そして今日も花に水をやる。欠かせない日課だ。
一日水をやらないだけで、かなり弱ってしまう。花はとても弱いのだ。


「うふふ、こんにちは」
突然、後ろから羽交い絞めにされる。
「が、が、お、お、ば、え゙、ば・・・」
首を絞められているせいで声が上手く出せない。というか息が出来ない。
まずい、そろそろ意識が・・・
「誰がおば、ですって~?」
無情にも腕の力が緩められる事などなく、更なる非情さを増して俺の首に襲い掛かる。

あ、だめだこりゃ

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・

「だ、大丈夫?」

ん・・・この声は・・・

「幽・・・香・・・?」

目を開けると、不安げな幽香の顔があった。

「あ、よかった。大丈夫?」
「う、まぁなんとかな」
どうやら気を失っていたようだ。・・・げ、まだ首を絞められている感じがする。
      • 死ななかっただけ良かったと思わなくては。
「でも、あの程度で気絶するなんて・・・人間って弱いわね」
「何度目だと思ってるんだよ。そろそろ力加減を学んでk」
「あら、減らす口が叩ける程度には手加減したんだけどね、間違っていたかしら?」
今度は耳を引っ張られる。手加減は出来ているようで、耳が取れる程ではない。
だけど、すんごく痛い。
「あだだだだだだだだだだだ!い、痛い痛い!わかった、わかったから!」
「駄目よ。たっっぷり苛めてあげるから覚悟しなさい」



「ひぃ・・・酷い目に遭った」
耳がやけに温かく、ヒリヒリする。見えないが、きっと真っ赤に腫れあがっていることだろう。
「自業自得よ」
「それはあんまりだ」
そう答えると大袈裟に嘆息した後、幽香は呆れたような顔を向けてきた。
「人間って本当に馬鹿ね」
「な、なんだよ・・・」
幽香のこの顔が苦手だ。まるで自分の立っている場所が今にも崩れ落ちそうな感覚に襲われる。
俺の言葉は質問と言うよりもその顔で見つめ続けられる事に耐えられなかったからだ。
だがそんな俺に対し、幽香はこう呟いた。
「花は、本当はとても強いのよ」
「ただ、それに気付かない者が多いの」
そう語る幽香の顔は、少し寂しそうで・・・
俺は無意識に、抱きしめていた


はずだったのだが。
「甘いわね」
「くそぅ」
幽香がうまく身を引いたため、俺が抱きつく形になってしまった。
「ふふ、あなたは虫ね。甘い匂いに惹かれてきた哀れな虫」
そっと、幽香の手が俺の上に乗る。
「それじゃ、蜜を沢山貰ってくぜ」
「ふふ、本当に人間って馬鹿ね」
先ほどとは違い、今度はからかう様に優しく笑った。
「私はウツボカズラ。貴方を閉じ込めて、じわじわと溶かしてゆく」
「それじゃ、ちゃんと溶けきるまで面倒見てくれ」
「・・・ばか」
拗ねたように顔を背ける幽香が、とても可愛らしかった

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最終更新:2010年05月11日 16:29