幽香5



うpろだ1215



「幽香…お前が好きだ…」
 オレはぎゅっと幽香を抱き締めた。
「……バカ…そんな事…言わないでよ…」
 幽香もオレの体に手を回してぎゅっと引き寄せてきた。
「これ以上…私をおかしくさせないで…」
「…幽香」
 幽香の瞳から涙が零れた。
「私があなたの事を好きになったらどうするつもりよ…」
「たとえ嫌われていても、この気持ちに変わりはない」
「あなた人間よ…?…私よりも早く死んじゃうじゃない」
「幽香…?」
「あなたがいなくなっちゃったら…私…」
 ここで、とん、と幽香は軽くオレを突き離した。
「もう、ここには来ないで」
 そういった幽香の笑顔は、どこか寂しくて、
 それでいてオレに有無を言わせないような気迫があった。
「今度ここに来たら…殺すから」


 それから数日間天候は雨だった。『梅雨入り』したのだ。
 オレは雨は好きだ、心が落ち着く。
 そして今日も雨。
 だが雨好きにオレには珍しく、今日まで続いてる雨が鬱陶しいと感じていた。
「…アイツ、どうしてるかな…」
「あんた、最近そればっかね」
 オレの傍にいる巫女がそう呟く。
「わざわざ神社にまで来て…雨の日くらい自分の家でじっとしてたら?」
「まぁそう言ってくれるな。雨の日は外出するに限るね、特に神社なんか落ち着くんだ」
「…つくづく山の神と気が合いそうね、一回参拝してきたらどう?」
「妖怪の山までわざわざ行く道理は無いぜ、ってかそれ巫女が言うセリフじゃないだろ」
 何だかんだ言っても霊夢はオレとこうやって過ごしてくれる。根は優しいのだろう、だから皆に好かれるのだ。
「…幻想郷最強クラスの妖怪に恋してるあんたに言われてもね…」
「…ごもっとも、じゃあ山行ってくるかな…」
「おっす霊夢ー!遊びに来てやったぜー!」
 ずぶ濡れで突然登場してきた魔法使い、霧雨魔理沙だ。
「…別に呼んでないけど」
「まぁそう言わずに、タオル貸してくれ」
「まったく魔理沙は…はい」
 相変わらず豪快に身体を拭く。見ていて気持ちがいいくらいだ。
 ここ数日、オレは紅魔館へ行ったり森へ行ったり竹林で迷ったりと、雨の中ふらふらとさまよっていた。
 紅魔館当主とはちょっとした仲なのでお咎め無く入ることができる。
 お目当ては図書館だが、雨の日は湿気のせいか本が読みにくい。
 森では人形使いの家、竹林で迷ったときは妹紅に隠れ家へ案内して貰ったり、とそれなりに色んな場所をまわったが
 結局、居場所は神社に落ち着いた。神社に長らくいてわかったことだが、魔理沙は雨の日でもほぼ毎日神社に来るようだ。
 ちなみにあれから向日葵畑には行ってない。
「おう、○○、また悩んでたのか?」
「…まぁな」
「なぁ、行かないのか?向日葵畑にさ」
「…確かに雨の日の向日葵もそれはそれでオツなものだが…」
「…待ってるかもしれないぜ?」
 ドキッとした。まるで何かに心をえぐられたようだ。
「…んな訳…ねーだろ…」
「どうせ暇なんだろ?散歩がてら行ってこいよ」
「………」
 オレは何かに突き動かされるかのように神社をあとにした。


 向日葵畑とオレとの距離が縮まるに比例しれ、オレの心臓は痛くなってきた。
 まさか、とは思う。アイツが雨の日に外に出てるとは思えない。
 むしろ雨だから姿を見なくて済むかもしれない。そう自分の中でごまかそうとしても心臓の痛みは薄れなかった。
 いる訳がない。そんな事はわかりきってたハズなのに…
 ―――独り佇む影がそこにはあった。
「……いた…いやがった…」
 オレの心臓が激しい痛みを伴う程に脈打った。その影は傘をさしながらきょろきょろと、まるで何かを探しているかのように辺りを見回してるようで…
 ………オレと目があった。
「…どうしてあなたがここにいるの?」
「…オレの勝手だ」
 オレは吸えない息を必死に吸いながら、平静を装って話した。
「なんでお前は外に出てるんだよ…雨だぞ」
「それはお互い様ね…雨の日でも花の管理はしっかりするわ」
 しばらく流れる沈黙、雨の静かな音だけが流れる。
「次来たら殺すって言ったわよね…早く帰って、見なかったことにするから…」


 オレは


 引き下がるわけには


 いかなかった


「ここに来た時点で死ぬ覚悟はとうにできている」
 オレは一歩足を前に踏み出した。
「…やめて、笑わせないで」
「もっと言えば、オレはずっと前からその覚悟はしてきた」
 また一歩前へ進む。
「お願い、もう、やめて」
 幽香がこの世のモノとは思えない雰囲気で凄む。空気が、肌が、痛い。
 だがオレはもう止められなかった。
「オレは…オレは…お前を初めて見たときから…覚悟を決めたんだ」
 刹那、風を切る音が聞こえたのと同時にオレは大樹に叩きつけられていた。
 幽香はオレの胸ぐらを掴み、そのまま大樹に押し付ける。
「愚かね…せっかく忠告したのに…後悔しなさい」
 喉が熱い、焼けそうだ、が、オレは声を絞り出す。
「後…悔なん…て…してな…いさ…」
「あなたなんていなくなっちゃえばいいのよ」
 幽香の腕に力が入る。痛い、死と隣り合ったときの恐怖、
 本能的な恐怖、生きたいという感情と、いっそ早く殺してくれという感情が入り混じる。
 脊髄反射で涙が零れ落ちる、もう涙なのか血なのか雨なのかはわからない。
 こんな状況なのにも関わらず何故かオレの心の奥底は落ち着いていた。
「お前…が…………好…き…だ…」
「……! ………この期に及んでまだそんな事言うの…?」
 次第に痛みが無くなってきた、感覚が、思考が、何もかもが無くなってきた。
 ただオレは己の最期まで意識を保ってやることに専念した。
「……殺せ…よ……」
「……あなたなんて最初からいなければよかったのに…」
 幽香はもう片方の手を振りかざした。
「…最初からいなければよかったのに…」


 無くなっていく感覚の中で
 微かに風を切る音だけが聞こえた。



「……がはっ!」
 オレは足りない酸素を体内に取り込もうと雨の中大きく息を吸った。
 喉が、肺が、身体の様々な部分が痛い。一気に痛覚を取り戻した、生きている実感をした。
 さっきまでオレが背中を預けていた大樹は倒れていて、
 オレの頭があったであろう部分のすぐ隣には穴がぽっかりと空いている。
 幽香はその場にへたり込んでいた。
「嫌よ…嫌よ…」
 オレは死の淵から這い上がってきた回復したての身体で、必死に五感をフルに使って幽香の姿を見定めた。
「こんなの嫌…あなたが傷つく姿も苦しむ姿も見たくない…殺すこともできない…私の負けね…」
 幽香に話しかけてやりたいのに、咳が、涙が止まらない。
「こんなの…卑怯よ…あなたを生かしておくと絶対あとで悲しい思いをすることはわかってるのに……殺すこともできないなんて……」
 もう我慢ができなかった、まだ思うように動かない身体で幽香を抱き締めた。
「あ、あのね…嘘ついてごめん…本当はずっとあなたを待っていたの…」
「…ああ、わかってる…」
「痛かったでしょ…苦しかったでしょ…ごめんね、ごめんね」
「このくらいどうってことない」
「私…私………」
「もういい、何も言うな」
 幽香の肩が震えている。オレは優しく抱き締めて、大きく息を吸って言ってやった。





「生きている間は、ずっと一緒にいるから」


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うpろだ1290


ピカッ!!
幽香「………」
○○「…どうした幽香…怖いのか?」
幽香「こ、怖い訳無いでしょ? 私のマスタースパークの方が遥かに…」

ドォオオオオオオオオオン

幽香(びくっ)
○○「うっわぁ…今のはかなり近かったな…耳が痛ぇ…」
幽香「………」
○○「ゆ、ゆうか?」
幽香「…こっ…こわいわけじゃ…ないの…ただ…雷っておへそが…」

ガッシャアアアアアアアアアアアン

○○「ううおおおおお!?こ、こええええ…やべぇ…今のはやべえ…心臓が…」
幽香「……………」
○○「直撃しそうな勢いだったな……幽香?大丈夫か?」
幽香「おへそがね…おへそが…ふぇえ……」
○○「幽香!?しっかりしろ!…オラァ雷ィ!てめぇ幽香を泣かしてんじゃねぇぞコラァ!」
幽香「…ぐす……ぐす…」
○○「もう雷はオレが追い払ったから、オレが幽香を守るから、な? 泣き止んでくれよ…」
幽香(ふるふる…)
○○「ど、どうした幽香?」
幽香「私が○○を守らなきゃ…」
○○「ああもう!二人一緒になれば怖くないさ!」

ぎゅ~~~~っ

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うpろだ1385


気がついたときには、一面の向日葵畑だった。



何故ここにたどり着いたかは覚えていない。
車にはねられた。ナイフで刺した。飛び降りた。
全てが正解で、多分どれ一つあってない。

つまり、定義できない。

土の感触なんて、小学生の時以来だ。
倒れていた私は、起き上がると傷が無いようだと感じた。
まるで他人事のようだ。この思考も。

「あら、こんなところに人間なんて。珍しいわね」

瞬間、全ての向日葵がまるで処刑人を指し示すように此方を見た。
花なのに、「見る」とはいかがなものだろうか?

「その格好…どうやら外の人間のようね?名は?」
「…」
「ちょっと、聞いてるの?」

どうやら間をつくってしまったらしい。
しまった、ボケッとしてしまった。

でも、そんなことはどうでもよくて。
驚いた。
彼女が一瞬で私の目の前に現れたから。

ふっ、と彼女の日傘の影に入る。
そして『むにっ』っと私の頬をつねった。

「…○○、だったと思います」
「『だったと思います』って、自分の名前でしょ」

ぱっと手を離して、クスクスと笑い出した。

「まるで他人事のようね」
「…ええ、実際他人事ですから」
「なにすっとぼけてるのよ。ああ、私幽香。妖怪なの」

一瞬何を言われたか分からずに、ハっとした。

「風見幽香。この向日葵畑の主。そして、」

後ろを向いて、数歩離れて、彼女は言った。



「人に恐れられている、多分一番危険な妖怪なの」



日傘から、その綺麗な顔を覗かせて。

「驚かないのね。まぁ、最近は私も大人しいとはいえ、無反応は困るわ」
「ええ。今まで妖怪に本当にあったことが無かったもので」
「そりゃそうよね。外の世界の人間だもん」
「あと貴女に殺されても、何も出来ないから」
「…その「どーでもいい」って返答、やめたら?」

彼女は日傘を畳むと、片手の指を順番に握り締めていった。
『ポン』という音とともに、向日葵が現れた。

「ま、アンタをいじめるかその他の処置をとるかは後で決めるとして
 とりあえず、こっち来たら?」




どうやら彼女の家らしい。
彼女の家は、綺麗だった。
調度品が煌びやかなわけではない、その配置が美しいように思えた。
品がある人…妖怪だっけか。自分にはこんな完成は存在し得ない。

「ようこそ、我が家へ」
「…よく人を招待なさるのですか」
「いいえ、ほぼ0に近いわね。特に人間だと生きて出た奴は…」

そういいながら風見さんは紅茶を出してくれた。

「…まぁ、記憶に残ってないわね」
「そうですか」
「ちったあビビリなさいよ。
 とりあえず人形にしゃべってる気がするけど、アンタに教えてあげるわ」

そう言って彼女は私に必要なことを教えてくれた。
大結界、幻想郷、妖怪、スペルカードルール、神隠しの原理。
新しい固有名詞が、スッと私の頭に入っていった。

「…と、いうわけ」
「すみません、どうやら結構トンデモないことをしているみたいですね」
「そうね、私の機嫌が悪かったらどうなっていたか」
「…」
「大抵外の人間は驚くらしいわね、この世界では」
「…そうですか?」
「貴女は驚かないの?」

彼女はティーカップを置いた。

「ええ…多分私がズレた人間だから」
「言っとくけど、妖怪ってのは恐怖の対象。
 人が人である限り、逃れられぬアヤカシ」
「私は、風見さんの…」
「幽香」
「…幽香さんの話を聞いて、この世界っていいなって思いました」
「何で?外の人間なら、外の方がよくないかしら?」
「…普通なら、ね」

私は彼女のほうを見ないで、カップのそこの液体を弄んでいた。
「脅威が見えるから。妖怪と人の構図が美しいと感じたから」

ああ、そうだ。思い出した。

小学生くらいまでは良かったんだ。
私は社交的で、まだ何も違和感に気がつかないでいた。
でも中学、高校、その他と年を経ていくうちに、

「私は自分の歪さ、自分が外の例外であることに気がついたから」
「外の例外」
「…おかしいんですよ。人として」

自分が人間なのか、疑わしくなった。
周りは私から急速に遠のいていった。

『なんでそんな無駄なことをするの?』
『なんでそんな面白くないことをするの?』

周囲から向けられる視線は、多分冷たかったのだろう。
それすらもわからない。
理解不能。
何もかもが見えて、何も見えない世界。
この、幻想郷とは違う…

「たぶん私は、人間なんかじゃない。劣化種なんだ」
「…そうなんでしょうね、アンタがそう言うなら」

だから、思考を停止した。

私の思考にノイズが混じるんじゃない。
私の思考が、ノイズだったから。

「境界が、見えるんですよ。何重と重ねられた、向こう側の見えない」
「あなたは多分、生きながらにして化け物になってしまったのね」
「ええ、そうだと思います」

そう思ったら、自分の口から鉄のにおいがした。

「ちょっと、○○!!何突然死に掛かってるのよ!!」

急速に意識が遠のいていく。多分思い出したから…なんだろうか。
そこらの因果関係はどうでも良かった。
多分、これは是非の彼岸を越えた単純な事象なんだろうから。
でも、かすれゆく意識の中で思ったのは。

「ええい!面…な!!博麗…ス…永…………」

この人、綺麗だな。




「気がついた?」
目を開けると、なにやら特徴的な…巫女服?を着た少女がいた。
ここは…
「ここは博麗神社。アンタはこの世界で一番の医者に見てもらって助けられた」
ガサゴソとカバンの音をするほうを見ると、銀色の神をした綺麗なお姉さんがいた。
「…久々に焦ったわね」
「あら?珍しいわね」
「まぁ、何とか私も覚えていたから対処できたわ」

そういうと、その人は和室から出て行こうとした。

「あの、」
「お代はいいわ。また何かの縁があればね、○○君」
「どうして私の」
「私はこの神社に用事があってね。
 隠れ家から突然『か、風見幽香が高速で攻めてきました!!』なんて連絡が入ってくるから何事かと思ったら、あなたを抱えているじゃないの」

彼女はふすまを空けると、手を当てておかしそうに笑った。

「そしたら、「医者をすぐに出せ!!」ってかなり切羽詰って言ってきたらしいわ。
 今私がここにいることを伝えたら、
 私が戻るっていう前にこっちにすっ飛んできたのよ。
 幸い道具は持ってたけど、私が手ぶらだったらどうする気だったのかしらね?」

それじゃあね、といって彼女は飛んでいってしまった。
…本当に飛べるんだな、ここの人間。
人間なのだろうか、今の人?
まぁ、いいか。

「さて、○○」

そういうと彼女は話を切り出した。

「あなたは奇跡の人ね」
「奇跡の…人?」
「まぁ、山の上の神社は関係ないとして、色々信じられないわ」
「そう、ですね」
「で、どうするの?」

スキマとかいう妖怪に元に戻させてもよし。
人の里にて暮らすのも、良し。

「まぁ、こっちの暮らしは外よりも文明は遅れてるとかなんとか。
 そんなことを誰かが言ってた気がするわ。
 つまり、暮らしにくいって、ことよね」

私は…




私は…
何をやっていたのだろう。
人間嫌いのはずなのに、珍しく人間なんかに関わっちゃったりして。
でも、そうか。
多分、彼にはどこか、私に似ていると思わせるものがあったのだろう。
ここの世界でも「関わり」はあって。
どこにいっても、逃れられなくて。

「さて…うん?」
また侵入者のようね。
追い出さないと。




「…で?」
「すみません。反対はされたのですが」
「どうやってここまできたの?」
「スペルカードで。基礎原理をみせてもらって、飛ぶくらいは」
「…あんたの外の世界での反応が、何か分かった気がするわ」

「どうか、私を居候させていただけませんか」
「反対されたでしょ猛烈に。ならそれが真理よ」
「でも、他に場所が無いんです。ここが多分最適なんです」
「何に?」
「居場所に。だって」

 化け物、だから。

…やられた。てか、こういうときまで無表情!

「こき使われるわよ」
「ええ」
「生きてすごせる保障も無いわよ」
「ええ」
「…本当にわかってるの?」

そういうと彼は、私に手をゆっくりと伸ばそうとした。

「…生意気ね」

でもなんだか悔しかったので、私から先に彼に触れた。
まず頬に、次に手を。
ぎゅっと、握り締めて。
その手を、離した。


きっと、まともじゃない。
でも、意味のあることなんだろう。

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うpろだ1481


「いらっしゃいませー」
「こんにちは、忙しそうですね」
客の気配を感じ、適当に声をかけた
しかし返ってきた声に聞き覚えがあった、振り向くと、そこには彼女が居た


「どうぞ、ゆっくりしてってください」
彼女のためにと、少し見栄を張って購入した紅茶
俺はあまり飲まなかったが彼女の影響もあり、紅茶好きになった
「わざわざ有難う・・・忙しそうなのにごめんなさいね」
「いえいえ、風見さんはお得意さんですから、遠慮せずに」
そう声をかけると、彼女は優しく微笑んで、紅茶を口に含んだ

商品を棚に並べたり運んだりとしながら、横目でこそっと彼女を眺めた
商品を手にとっては興味深そうに眺め、元に戻す
俺は彼女が恐ろしい妖怪には、見えない
側から見ていれば見かけどおりの少女にしか見えない
しかし周りの人間は恐ろしい妖怪だと
「・・・あの・・・あまり見ないでくれるかしら?その・・・恥ずかしいじゃない」
顔を赤くしてそっぽ向いてしまった
「え、あ、す、すいません!」
そんなところも、可愛いと思うし人間くさいと思う

彼女との始めての出会いは、外からやってきた俺のことを見物しに来たときだったか
外の話を聞きたがったのでいろいろと詳しく教えた
彼女はその話を驚きながら、そしてとても楽しそうに、聞いてくれた
もしかしたら俺がまともに話をしたのは、この世界では彼女が一番初めなのかもしれない
俺もそう長く生きているわけではない、話すことはなくなった、けど彼女はまだ、俺の元を訪れてくれる
「風見さんは・・・俺のとこに来て楽しいですか?」
「・・・ええ、楽しいわよ」
彼女はこう言う、最初は外の話しを聞きたくて、そしていつの間にか、ただ話してるだけで楽しくなった、と
俺はこれを聞いてから、変に彼女を意識してしまい、今に至るわけだ

「おっじゃまー、あ、やっぱり貴女ね」
休憩ついでに彼女とお茶をしていると、紅白の巫女さんが現れた
「あ、博麗さん、いらっしゃいませ」
「あら、久しぶりね、どう?こっちの生活には・・・なじんでるみたいね」
店の中を見渡して、そう言った
「ええ、博麗さんや風見さんのおかげでなんとか」
しかし、巫女さんが来るなんて珍しいな
何かあったのだろうか?
「最近里で頻繁に妖怪を見かけるからって事で来たんだけど・・・やっぱり幽香の事だったのね」
風見さんは不機嫌そうに巫女さんをにらむと
「何よ、私がここに居ちゃ悪い?」
どこかトゲのある、というかむっとした様子である
「別に・・・どこの妖怪が何か企んでるのかと思って見に来ただけよ」
実際は違ったけどね、と言うと先ほど出した紅茶を一口
そして、たまには紅茶も悪くないわね、と言っていた

「じゃあ帰るわ、お邪魔したわね」
茶を飲み干して席を立つ
風見さんは終始ご機嫌斜めだったので俺としては居心地の悪い感じだった、博麗さんは気にしてない感じだったが
「里の連中にはちゃんと言っとくから、あの妖怪は恋煩いでそれどころじゃないって」
「え?それってどう―」
俺がどういう意味かと聞き返そうとすると
ガタッ
いすが倒れるかと思うほど勢いよく立ち上がり
「ッ!霊夢・・・今度覚えときなさい」
振り返らず、ひらひらと手を振って帰っていった
そして、なんとなく会話がなくて
「お、お茶入れてきますね!」
「あ、も、もう帰るから・・・その」
それじゃあ、と言って彼女は帰ろうと
「幽香さん!」
びくりと、彼女は身を固め、振り返った
「え、今・・・」
「また、また明日・・・」
彼女は驚いたように、しかし微笑んで
「ええ、また明日、ね」
そういうと彼女は歩き出して、俺はその後姿を、ずっと見送っていた


「毎度思うけど・・・こんな商売でよく生活できるわね」
「商売目的でやってるわけじゃありませんから」
「道楽?そんな余裕」
「幽香さんがきてくれるから・・・ここは年中無休です」
俺はせみの中の小さなテーブルを指差して、そう言った
すると彼女は
「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない」
「まぁ、半分は幽香さんと会うためにしてるような店ですから」
「あら、半分なの?」
意地悪そうに、じろりとこちらをにらむ
「まぁ一応、そう言っとかないと」
「・・・私がここに来る理由はね」
彼女は俺に近いづいて、耳元で
「あなたに会うため」
なんて言ってくれちゃったり
真っ赤になった俺をからかう彼女
幸せすぎて、ここにきてよかったと思えるそれは
幻想郷に、風見幽香に、心からの感謝を

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新ろだ71


ーー某銀行

 神無月の外界ツアー、あのスキマ妖怪も、色々妙なことを考えるものだ。
 しかし、外の世界の花を見るまたとない機会でもあるため、折角だからと参加したのだが・・・・・・

「○○、一体どれだけ待てばいいのかしら?」
「そ、そういわれましても・・・・・・こればかりはどうしようも・・・・・・もうすぐでしょうから、辛抱してくださいよ、幽香さん」
「まったく、面倒な話ね」

 ○○・・・・・・私のペットのようなもので、虐めがいのある外来人だ。
 外の世界に詳しいものの同伴が条件だったため、案内として連れてきている。

「やれやれ、外の世界というのは、どこもこんなに待たされるものなのかしら?」
「多分、植物園はそこまで混んでは居ないと思いますが・・・・・・」
「そう、つまりあなたのせいで、私は無駄な時間を浪費しているというわけね?」
「い、いやその、持ち合わせが無いのはお互い様では・・・・・・」
「何か言った?」
「な・・・・・・なんでもありません」

 外の世界では、幻想郷の通貨は流通していないらしい。そこで、外の世界出身の○○の金を使おうと、
この銀行、というところに来たのだが・・・・・・行方不明扱いだったという○○が金を取り出すには、色々と手続きが必要らしい。
 私は気の長い方だが、花も無いこんな所で、待ち続けるのは嫌になる。


『○○様、8番の窓口まで・・・・・・』

「あ、終わったみたいです。いってきますね」
「はいはい、さっさと済ませなさい」

 ようやく、この退屈な空間ともおさらばだ、やっと目当ての植物園というところに行ける。
 なんでも、四季折々、世界各地の花があるという。外の世界でも、花を愛でる心が失われていないのは嬉しいことだ。
 私は○○を急かし、それに応えて○○が、椅子から立つと・・・・・・

『動くな! 金を出せ!』

 覆面をした二人組みの男が、突如店内で大声を上げた。手には何やら、黒い物を持っている。
 確か、拳銃とか言う物だ。以前に半妖の雑貨屋で見かけたことがある、外の世界の弾幕用道具で、高速の単発弾を撃つための道具だったか。

「きゃああー!」 「け、拳銃だ!!」 


「・・・・・・○○、何? あの下品な男達は」
「何って・・・・・・強盗ですよ! まさかこんな時に・・・・・・」
「強盗? あの白黒みたいなものかしらね」
「あれより、よっぽどたちが悪いです・・・・・・」
「まあ良いわ、○○、片付けてきなさい」
「む、無茶な・・・・・・! 相手は拳銃を持ってるんですよ!?」
「その拳銃とやらと私と、どっちが怖いのかしら? ただでさえ時間を食ってるのに、これ以上待たされるのは御免よ」
「~~~・・・・・・わ、わかりましたよ・・・・・・」

 そう言うと○○は、覆面のうち一人へ近づいていく。こうやって、○○を最初にけしかけるのが、最近のマイブームだ。
 大抵あっさりやられて、涙目で助けを求めてくるのだが、その表情が中々良い。
 そんなことを考えていると、○○が覆面の一人に飛び掛った。

「なんだてめえ!? 離せ!」

 上手く武器を持った手を押さえている、だがやはりまだまだだ、もう一人の存在に気が行ってない。
 あっさりもう一人に引き剥がされ、投げ飛ばされる。
 つかみ掛かられていたほうは、何やら叫びながら、手に持っていた物を○○に向けた。
 乾いた音が2,3度響き、○○の体が跳ねる。なるほど、確かに随分な高速弾だ。
 だがまあ、ここまでは予定調和、またいつものように、涙目で助けを求めてくるだろう。


「・・・・・・あら?」

 ○○は動かない。いつもピチュったときは、そろそろ起きてくるのだが・・・・・・

「へっ、馬鹿が、命を無駄にしやがって」

 命を? 何を言っているのだろう? 弾幕勝負で、死ぬことなどまずない。
 そう思い、○○に目を凝らす。その格好は先ほどまでと変わらないが、胸が赤く染まり、床には赤い血が・・・・・・?

「・・・・・・血?」

 何故血が出ている? 弾幕勝負では、服が破れるか、せいぜい擦り傷程度だ。あんな流血はありえない。
 あんなに血が出ては死んでしまう。そんなことになれば、幻想郷のバランスが・・・・・・


 幻想郷。


 そうだ、ここは幻想郷じゃない。ここは・・・・・・

「○○っ!!」

 叫ぶと同時に、二人組みへと駆ける。手にした日傘で、一人目を貫き、
 もう一人を振り向く間も与えず、葬り去る。物言わぬ肉塊になった二人には目もくれず、私は○○に駆け寄った。

「○○! ○○!」
「あ・・・・・・幽・・・香さん・・・・・・」

 抱き起こした手に、ぬるりとした生暖かい感触が広がる。それと引き換えるように、○○の顔からはどんどん血の気が失せていく。

「幽・・・香さん・・・・・・すいません・・・・・・最後まで・・・・・情けない・・・格好で・・・・・・」
「○○、しっかりなさい! あなたには、外の案内を命令したわよ!?」
「ごめんなさ・・・・・・も・・・案内・・・・・無理そうで・・・・・・外でくらい・・・・・・幽香さんの・・・・・・役にっ・・・・・・」
「駄目・・・・・・駄目よ・・・・・・許さないわよ、勝手に死ぬなんて・・・・・・」
「ごめん・・・・なさ・・・・・・」
「・・・・・・○○? ○○ー!」

 私はなんて愚かだったんだ、○○は人間なのに、○○は無茶だと言ったのに、ここは幻想郷ではないというのに。
 私が幻想郷の常識を持ち込んだせいで、○○が死んでしまう。何が妖怪最強だ、人間一人、守れやしないじゃないか。
 死にゆく○○に、私は何もしてやることが出来ない。何も・・・・・・

 いや、ある。私の花を操る程度の能力、これをフルに使えば・・・・・・



ーー幻想郷、○○の家

 あの後、私は自分の能力を使い、広範囲の植物の花を、無差別に咲かせた。時期も何もかも無視した開花に、
色ボケしたとは言え、流石にスキマ妖怪も気付き、ワープで様子を見に来たのだ。
 最初は怒り顔だったが、倒れた○○を見ると、すぐに永遠亭の医者を連れてきて、○○を治療してくれた。
 お陰で○○は助かったものの、流石に目立ちすぎたということで、私達の外界旅行は中止、
先に幻想郷へと戻されていた。だがそれでも構わない、○○が生きているだけで充分だ。

「あの、幽香さん・・・・・・」

 看病をしていると、布団の上で療養中の○○が話しかけてくる。
 もう傷は治っているらしいが、体力が落ちているため、念を入れて休ませているのだ。

「何かしら?」
「その、すいません、私のために、折角の外界旅行が・・・・・・」
「そうね。とても残念だわ」
「はい・・・・・・」

 ○○がしゅんとした顔を見せる。相変わらず、虐めがいのある相手だ。

「これはそう簡単には許せることじゃないわね、罰として・・・・・・」
「な、なんでしょう・・・・・・?」
「・・・・・・そうね、私の所有物になってもらうわ」
「しょ、所有物・・・・・・ですか・・・・・・?」
「そう、所有物なんだから、私の傍を許可無く離れては駄目、許可無く死ぬのも駄目、私以外の女と付き合うのも駄目、いいわね?」
「・・・・・・あの、それって・・・・・・もしやプロ」

 そこまで言いかけた○○を、肘鉄で黙らせる。

「~~~~~!!」
「あくまで、所有物宣言よ、わかった?」
「は、はひ・・・・・・」
「よろしい、それじゃあ・・・・・・今日からあなたは私の物よ?」
「ええ・・・・・・幽香さんになら」
「ふふ、じゃあ、私の物という印をつけないとね・・・・・・」

 そう言うと、○○ににじり寄り、馬乗りになって、口付けをする。ひとしきりお互いを味わい、そして


ーー博麗神社 宴会場

「はーい! ここから先は『そこまでよ!』に引っかかるから上映不可よー!」
「えー!」
「何だよー!」
「見せろー!」


 皆が帰ってきて、報告会とお土産の品評会を兼ねた宴会・・・・・・そこで、あろうことか、旅行中のカップルの、
イチャイチャっぷりを発表する映像が放映されていた。それは私と○○も例外ではなく・・・・・・

「いや~しかし、あのゆうかりんが涙目なんて、中々見れるもんじゃないな~」
「献身的な看病も、ポイント高いよね~」
「でもやっぱり、基本攻めみたいね。あの後どうなったことやら」
「おいおい、あんまり下世話な話をするんじゃないぞ」

 ・・・・・・後でこいつら全員虐め倒そう。そう心に誓ったのだった。

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うpろだ1505


向日葵畑に珍しく来客があった。
恐ろしい大妖怪がいると専らの評判のそこにやってきたのは、一人の少年。
まだ幼いとも言えるその少年の蛮勇に敬意を評し、風見幽香は彼の前に姿を現した。
「あなたが、風見幽香?」
「ええ」
人間離れした美貌……まあ実際人間ではないが、……に微笑を湛える幽香。
「僕は○○と言います。初めまして」
少年は礼儀正しく初対面の挨拶をしたあと、
「……そして、さようなら」
突然懐から刃物を取りだし斬りかかる。
「ずいぶんなご挨拶ね」
「……なっ!?」
しかし突き出された刃は空を切り、簡単に後ろを取られる。
「それで、用件はなにかしら?」
「……くっ!」
そして振り向くより先に、羽交い締めにされた。
妖怪の腕力は○○が逃げることを許さない。
「女性に刃を向けるなんて、冗談にしてもやりすぎだと思うわ」
「……ぐっ」
ギリギリと、強い力で○○の腕を引く幽香。
「くそっ、冗談でも何でもない! 僕はお前を殺しに来たんだ!」
その言葉を聞いて、幽香はニヤリと口の端を吊り上げる。
「あらあら、それは恐ろしい。危険の芽は早めに摘み取ってしまわないと……」
「…っ!」
……殺される!
ビクリと○○の体が震えた。
「そんなに震えて、怖いのかしら?」
「……こ、怖くなんてない!」
「……へえ」
体の向きをかえ、三白眼で○○を見つめると、幽香はクスクスと笑いだした。
「あなた、面白いわね」
しなやかな指が○○の首に伸ばされる。
「こ、殺すなら殺せ!」
「……ふふ」
片手で○○を押さえつつ、指を首筋に這わせる幽香。
指が首筋をなぞるたびに硬直する○○。
「口調は勇ましいけど、怖がっているのが見え見えよ」
「う、うるさい!」
「……このままさんざんにいたぶってあげようかしら。あなたが死にたくなるまで」
幽香の手が○○の頬に触れた。
固い唾を飲み込む○○。
「……楽しませて貰うわね」
口の端から覗いた赤い舌に戦慄する○○。
幽香の顔が近付いてくる。
離れようにも両頬を押さえ付けられ、身動きすらできない。
……食べられる!
恐怖に思わず目をつぶる○○。
「……ふふ、可愛いわね、あなた」
「……なっ、バカに…むっ!?」
言い返そうと開いた○○の口を、何かがふさぐ。
「む~っ!?」
目を開けるとそこに映ったのは、幽香の瞳。
口をふさいでいたのは、幽香の舌だった。
「……んっ! むぐっ!」
この行為の意味も知らない少年の口内を、幽香はさんざんに蹂躙する。
舌を吸い上げ、歯や頬の裏側まで自らの唾液をまぶし、舐め回す。
粘液が絡み合う音を響かせたかと思えば、舌を引きずり出し、強く吸い上げる。
息もつかせないとは、まさにこのことか。
○○の口回りはべとべとに汚され、顎からも唾液がしたたっている。
……どのくらいそうしていただろう。
口の中どころか、胃の腑まで幽香の唾液に染められ、ようやく○○は解放された。
「……はぁ、……はぁ」
腰が抜けたのか、荒い息とともにへたりこんでしまう○○。
「……何を、したんだ?」
「妖怪の呪いをかけてあげたの」
「……なっ!?」
驚きと恐怖の入り交じった声をあげる○○。
「わたしを退治しないと解けない、呪いをね」
「ううっ……」
「呪いが完全に回りきるまでに、私を倒せるといいわね。また会いましょう」
必死に立ち上がろうとする○○を尻目に、幽香は向日葵畑へと消えていった。
「……ふうっ」
幽香が去ってからしばらく、○○はようやく立ち上がることができた。
気持ちを落ち着けようとして、深く息を吸い目を閉じる。
「……くっ!?」
その瞬間、先程の出来事がフラッシュバックする。
ゾッとする程美しい瞳
何度も擦られた舌の感触。
耳に響く、口の中をねぶり回される音。
……体が熱い、頭がぼーっとしてくる。
……これが、呪いか?
「……くっ」
足が震える。
心臓が早鐘のようにのたうつ。
「……お、おのれ」
恐怖と屈辱に涙目になりながら、○○は叫んだ
「おのれ、風見幽香! 覚えてろーーーーー!」
向日葵畑に響き渡るその叫びが、幽香を愉しませているとも知らずに。
「……ふふ、次はどうやっていじめてあげようかしら」

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新ろだ184


 月も師走に入り、永遠亭の薬師が走り回っている今日この頃。
 最近の寒さですっかり風邪をひいてしまい、布団の住人になっている俺。

「……あーあ、優しい彼女が看病にでも来てくれないかねー」

 天井を見つめながらぼやく。
 まあ当然彼女とかいないんですがね。
 幻想郷に世間一般的なクリスマスが無いのはありがたい。
 性なる夜とか氏ねばいいのに。

「…………」

 ……自分で言ってて悲しくなってきたな。心なしか体調も悪化した気がする。
 病は気からとはこの事か。……不貞寝しよう。
 とかなんとか考えてたら

――こん、こん。

 控えめなノックの音が聞こえてきた。
 誰だ……?
 声を上げて誰か確認したい所だが、生憎そんな元気は無い。
 仕方なくのそのそと布団から這い出て、玄関へ向かう。
 ……結構しんどいな。この程度できつさを感じるとは、意外と俺の体調はやばいらしい。
 全身が鉛みたいに重く、更に起き上がることで身体の節々が軋むが、かといって居留守するのも悪いしなあ……。

――ガンガンガンガン!

 俺がちんたら玄関に向かっていると、さきほどから一転、凄まじいまでの威力のノックにドアが悲鳴を上げた。
 今にもぶち破らんばかりの勢いだ。短気すぎる。
 はいはい、そんなにしなくても今空けますよ……。
 激しい音に反応して痛み出した頭を意図的に無視しながら鍵を開ける。

――ガチャリ。

「遅いわよ! 一回目で出なさいよね。危うく玄関ごと消し飛ばす所だったわ」
「……幽香か」

 風見さん家の幽香さんでした。
 おお神よ。病床に喘ぐ俺に更なる試練を与えようというのですか……?

「ご足労の所悪いが帰ってくれ……」
「折角遊びに来てやったっていうのにそれはご挨拶じゃない? ……ってどうしたのよ○○。酷い顔じゃない」
「……」

 何の因果で顔あわせていきなり顔が悪いとか言われなきゃいかんのだ。泣くぞ。

「酷い顔で悪かったな……生憎と生まれつきだよ……」
「そう、そんな事どうでもいいから今すぐ私の前でそんな辛気臭い顔は止めなさい。見てて苛々してくるわ」
「病人に酷な事を仰る……」
「病人? ……あの○○がかかる病気って……まさか死の病!? ……そう、ならいっそ最期は私の手で!」

 悲壮な顔で勝手に納得してずずいと俺に詰め寄るシリアルキラー。いやもうほんと勘弁してください。
 それに“あの○○がかかる”って……お前人をなんだと思ってやがる。
 ていうかこんな馬鹿やってる余裕ないんだよ。いよいよ本気で辛いんだ。

「ただの風邪だから……。頼むから静かに休ませてくれ……」
「なんだ風邪……って風邪なら静かに寝てなきゃ駄目じゃない。ほらほら、歩き回ってたら良くなるのも良くならないわよ」
「…………」

 自分が来訪した事が原因なわけだが、そんな事億尾にも出さずに家に上がりこんで俺を布団に寝かしつける幽香。
 そうだな、お前はそういう奴だったよ……。

「で? 体調はどうなのよ。薬は飲んだ? お腹は空いてない?」
「いっぺんに聞くな……頭に響く」
「んもう、めんどくさいわね。で? 答えは?」
「……体調は最悪。薬は飲んでない。腹は減ってる」

 息も絶え絶えに答える。
 こんな事なら先に薬買っとけばよかった……。



 …………。



 ぺちぺちと顔を叩かれた。
 その刺激に目を開ければ、そこにいたのはウェーブのかかった緑髪の女性。 

「……すまん。いつの間にか寝ちまってた」
「気にしなくていいわよ。薬貰ってきたけど、食後に飲むように言われたからちょっと台所借りたわよ」

 薬?
 貰ってきた?
 台所?
 料理?
 誰が?

「……え? ギャグ?」
「何馬鹿な事言ってんのよ。……おかゆ、食べれる? 起こす前に少し冷ましたから熱くはないと思うわ」
「……」

 不安気に蓮華を俺に差し出す幽香。向けられるままに口にしたが、生憎味は分からなかった。
 どうしたんだよお前、という言葉を飲み込みこれがどういう事か理解する。

 ……ああそうか、これは夢なのか。

 夢じゃなかったらあの幽香が甲斐甲斐しく俺の世話なんか焼いてくれる筈がない。
 むしろ嬉々として弱った俺を虐める位はやってくれるだろう。
 そっか夢か。悪い気はしないな。いやはっきり言って嬉しい。

「……幽香」
「どうしたの? やっぱり食べれない? ……すりりんごとかの方が良かったかしら」
「寒い。……一緒に布団入って暖めてくれ」
「んなっ!?」

 夢なら何言っても大丈夫だろ。

「で、出来るわけないでしょ!」
「なんだよケチケチするなよ。最強の妖怪らしく、ドバーっといこうぜどばーっと」
「ちょ、○○、どうしたの?」

 幽香が何か言ってるが知らない。
 喉が、頭が焼けるように痛むが知らない。
 だってこれは夢なんだろ?

――熱が思考を犯す。

「はは、はははははははっ! 楽しいなあおい! ういばっちこーい!」
「きゃっ!?」

 いきなりハイになった俺を不信に思い近づいてきた幽香を思いっきり抱きしめ、布団に無理矢理引きずり込む。
 可愛らしい悲鳴は無視。本来なら即嬲り殺しにされそうな行為だが関係ない。ほらだって夢だし。
 女性らしい柔らかい感触と温かさ、そして向日葵とお日様のいい匂いが俺を包みこみ、母に抱かれた幼き過去を想起させる。
 そしてそこが限界。
 熱暴走でいい感じにイカレた頭と、それに伴いかつてないテンション陥った俺の意識はいよいよ限界を突破し、即座に闇に落ちた。

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最終更新:2011年02月26日 21:45