屈訴(くっそ)とは何か、この由来を求め今日は出間符集(でまふしゅう)という一冊の本を紐解こう
屈訴の言葉は干支和(えとわ)元年ごろ本都之(もとどのいたる ほんとこれとも読まれる)が執筆した出間符(でまふ)に登場している
これは彼が趣味としていた市中やそこに住む人々の日常を観察記録し歌を添えたものであり、出間符集は彼の死後に一冊の本に編纂しなおしたものである
出間符集は当時の文化風習をうかがい知る事の出来る歴史的資料と言えるだろう、ではその屈訴に由来する逸話を紹介していこう

ある日之は趣味としていた市中観察のために輿を用意させ追田(ついた)の地に出た、その地の市場にさしかかる頃、通りに何かを訴える男の大声が響いた
之は輿を止めさせ物陰から様子をうかがうと、どうやらひとりの男が薬効名高い薬を求め薬種問屋で主人を前に薬を後払いで売ってくれと屈し訴えていた
飯井根(いいね)と李堆(りつい)を原料とするその薬は材料の調達と製法の難しさが原因で安価ではない、だがそれが必要ということは相応の事情があるのだろう
之は哀れに思い供の者に金子(きんす)を渡し使い走らせようとした時、男はなだめる主人に対してこう吐き捨てた

『たのめども聞かず助なく腹立たし(こんなに頼んでるのに聞いてくれないし助けてもくれない、腹が立つ)』
『金よりおぼえ、なればただに売れ(お金より評判でしょう、だからタダで売れ)』

あまりの身勝手な理屈に呆気に取られた之と足を止めた供の者を前に、とうとう男は店の者が呼んだ役人に引っ立てられていった
之は憤りを感じ『屈しておきながら行われる身勝手な主張』を『屈訴』と名付け、この様子を記録すると輿を出させたという
なおこの出間符には歌が添えられていない、子供が農作業を手伝っていて微笑ましい等の些細な事でも必ず歌を添えていた之だけにその心中は察するべきだろう
最終更新:2020年03月09日 18:28